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教団員は誰だ

#UDCアース

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#UDCアース


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●依頼人
 グリモアベースの一角で猟兵達を呼ぶ声がした。
 抑揚のない機械音声じみた声色に導かれるように、集まった猟兵が目を向ければ声の主らしいその男は何かを持つように手のひらを差し出している。
 空に浮かんだ薄ぼんやりと光る立方体を見て猟兵のうち何人かはそれが「グリモア」と呼ばれるエネルギー体であることが分かった。
 同時に声の主がグリモアを出現させることができる、所謂グリモア猟兵と呼ばれる予知や世界間テレポートの行える能力を有した人物であることも。
 立っている男は帽子を目深に被っており、湾曲した帽子のつばに隠されているせいか表情は窺えない。
 影の差した目元は不気味で、一見置物と見間違ってしまいそうな生気が欠けた印象すらあった。
 佇まいもどことなく人間味を失って、得体の知れない物々しさだけが男の足元を渦巻いている。
 此方を品定めして見透かすように猟兵ひとりひとりを見渡して、男は小さな声でぽつりと猟兵に告げた。
「仕事を頼みたい」

●教団員を探せ
 帽子の男――自らを違法論・マガル(f00XXX)と名乗るブラックタールの探索者が提示したのは、UDCアースと呼ばれる世界で起きる事件だった。
「今回の目的は、端的に言えば邪神復活のために儀式を行おうとする教団の目論みを阻止することだ」
 邪神を信奉する教団が邪神復活のため秘密裏に動いているのだとマガルは語る。
 寂れた街の一角にある、これまた寂れている小さな博物館。
 そこ儀式の場所に据えたらしい邪神教団は教団員を潜伏させて儀式の準備を着々と進めているようだ。
「人目のつかない閑散とした場所だ。儀式にはうってつけとも言えるが、おそらく奴らがこの場所に目を付けた一番の理由は別にある」
 博物館が所有する祭具が儀式の鍵になるだろうとマガルは言った。
 展示物の中には大昔の呪術的・宗教的な儀礼に使われるような祭具がいくつかあり、その中の一つが邪神をより完全な形で召喚するのに必要な物品らしい。
 最初から祭具を奪ってしまえば良いのでは、という猟兵達の尤もな疑問にマガルは口をへの字に曲げたまま無念そうに首を横に振る。残念ながら予知だけでは祭具の特定には至らなかったからだ。
「潜伏した教団員のあぶり出し、それと儀式に必要な祭具に関する情報収集も必要だろう。怪しい連中はリスト化して人物像をざっと洗っておいた。誰が教団員かを推理してくれ」
 猟兵達はマガルが提示した人物の写真を覗き込む。
 小さな博物と言うだけあってか、教団との繋がりが疑われる人物として列挙されたのはたったの五名だった。
 博物館の館長、石宮竜二。閑古鳥が鳴く小さな博物館をせっせと切り盛りする初老の男性は、写真の向こうでまなじりに皺を寄せながら微笑んでおり柔和な表情から人の好さそうな雰囲気が感じ取れた。
 対して館長秘書の西森みゆきからは生真面目そうな顔つきのせいか、やや冷徹な印象を受ける。
 また博物館の案内を行う職員は現在二人おり、白井さやかと鈴木千紘は学生時代からの親友で仲が良いようだった。肩を並べてピースサインを作っている写真から、どちらの女性からも溌溂そうで明るい女性であることが窺える。
 もう一人、博物館の警備員である奥村隆介は前述の二人に比べて大人しそうな好青年にしか見えない。
 一見怪しい箇所が見受けられない博物館の主立った人物に、猟兵達はいよいよ眉をひそめる。
 マガルも確証が得られず、あとは現場に行ってみなければ分からないと告げた。
「おそらく潜伏している教団員は二人。よしんば話しかけた人物が教団員ではなかったとしても祭具の情報が聞ければ御の字だ。積極的に探りを入れてみてくれ」
 ふむ、と顎に手を当ててマガルはいくつかの案を思い浮かべる。
「そうだな……各々が得意な手段を取ってくれて構わない。例えば怪しいと思った奴に物理的に脅しを入れるのは有りだろう。俗にいう痛い目ってのを見せてやってもいい。もしくは足を生かして周囲の物的証拠を探して当たりをつけられるかもしれない。聞き込みから得た会話をもとに教団員を特定するのも有効そうだな。方法は皆に任せる」
 あくまでマガルが出した案は一例だ。聡い猟兵であればさらに有効な手段を思いつく者もいるだろう。
 懐に写真を仕舞いこむとマガルは話をまとめた。
「概要としてはそんなところだ。気を付けて向かってくれ」
 そこで一端言葉を切って、熱心に話を聞いていた猟兵達を一瞥する。
「……危険が伴う仕事だが、さほど心配はしていない」
 今ここにいる猟兵は仕事に真摯だ、上手く遂行してくれるだろう。
 帽子のつばを手持ち無沙汰に触りながらマガルはそう言ってのける。
 注視しなければ判別できないほど微かにだが、微動だにしなかったはずの口角が上がった。


山田
●マスター挨拶
 初めまして、山田と申します。
 第六猟兵の世界でこれから始まる皆様の物語を、少しでもお手伝いできれば幸いです。
 宜しくお願い致します。

●場所に関して
 展示物をじっくりと見なければ15分程度で館内を一周できそうなくらい小さい、二階建ての博物館です。
 UDCアース世界には猟兵の支援者として人類防衛組織「UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)」がいる為、周囲や一般人への被害・避難誘導等は特に気にしなくても大丈夫です。
 博物館には展示物を見に来た入館者もまばらに居る為、彼らから話を聞くことも可能です。

●プレイングに関して
「探りを入れたい人物一名」と「その人物へのアプローチ方法」を記入してみてください。
 アプローチ方法はオープニングで出した例以外の別の方法でも全く構いません。
 また教団との繋がりが疑われる人物達は館内では別々の場所に居る為、いっぺんに二人に近づくことは不可能です。

 ・石宮竜二(博物館の館長。優しそうな初老の男性)
 ・西森みゆき(館長秘書。生真面目そうな女性)
 ・白井さやか(博物館の職員。溌溂そうな女性で鈴木千紘とは友人関係)
 ・鈴木千紘は(博物館の職員。溌溂そうな女性で白井さやかとは友人関係)
 ・奥村隆介(博物館の警備員。大人しそうな好青年)

●グリモア猟兵
 違法論・マガル(f03955)
 探偵を生業とするブラックタールの不愛想な青年です。
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第1章 冒険 『教団員を探せ』

POW   :    自分が怪しいと思った相手に力を見せつける

SPD   :    容疑者の情報や証拠から教団員を特定する

WIZ   :    会話して得られた情報から教団員を推理する

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナーシャ・シャワーズ
【Wiz】

なるほど、木の葉を隠すなら森の中。
博物館となればそういう怪しい祭具を隠すにはうってつけというわけね。
まあ、価値がありそうならいただくのも…
ッと、それは過去の話か。

さて、探るなら…そうね、警備員…
当人がクロって可能性は低かろうが
その仕事上違和感は見つけやすそうだ。

問うならば…
そうだな、おすすめの展示物、辺りを聞いてみようか。
専門家じゃないからこそ他の職員の動きに気付けるかもしれない。
特に職員が日ごろ気にしている展示物
あるいはもっとストレートに警備を強化しているものがあれば
その線から辿れるんじゃあないだろうか。


アール・ダファディル
儀礼に使われるような祭具……か。見当もつかんな。
だが当人にとって大切だ。故に相応の扱いをしているのではないか。
俺は館長『石宮竜二』に声を掛けるとしよう。
閑古鳥鳴きながらも切り盛りする謂れが知りたいからな。
子ども…らしい、という容姿を最大限に生かすか。……忌々しい。
愛想よくにこやかに。立場相応を弁えない子どものフリを徹底して。

「館長さん、ボク、どの展示もとっても格好良くって気に入っちゃった!
このすごーい博物館で館長さんがいっちばん気に入ってるのはどれ?」
あれはどんなもの?これはどんなもの?と、手当たり次第に。
不審がられない程度に怪しい品々を自由気ままに聞きまわってみるか。


田中・ストロベリー
奥村隆介に探りを入れるね。

ストロベリーはオカルト好きな学生って体で博物館に行くよ。オカルト大好きで、オカルトなものに関わる人たちの小説を書いているって設定にしようかな。取材って形で、色々聞いていくね。
奥村さんはいつからここで勤めているのかな?なんでこの街の、この博物館に勤めることになったのかな?この博物館にいる人たちは皆この街出身の人?博物館は何時から何時まで開いていて、どの職員さんが何時頃までいるのかな?祭具の中に、最近よく研究とか他の理由で展示ケースから出されているものはないかな?
奥村さんの着ている服や持っているものもよく観察して、嘘や変なところがないか、それとなく探っていくよ。


笹鳴・硝子
正直、誰が怪しいなんて写真だけじゃわからない。博物館の、およそ中心地点だろう場所で、媒介道具である水晶のダウジングペンデュラムを使って、件の祭具の在り処を――或いは教団員が誰かを探ってみる。反応があれば良し、職員の誰かが不振がって近づいてくれば、その人に話を聞いてみるも良し。(誰も現れなければ館長に聞きに行く)
【wiz】訊きたいのは、「蒐集物に触れる事ができるのは誰か」
手に取り、使えなければ儀式も何もないのだから。


秋稲・霖
こーゆーのって、優しかったり大人しそーな人ほど実は、って感じするよな?
ってわけで、石宮竜二に探りを入れてみるぜ!
方法はひたすら聞き込みして推理!

こういうとこって詳しくないから、この博物館でやってることとかに興味があるって伝えて、一から話が聞ければいいなって感じ。
俺もこの世界のこと詳しく知れそうな気がするし、一石二鳥だな。
失礼に思われたり、怪しまれないように気をつけまっす!



金髪碧眼の見目麗しい女性が品定めをするように腕を組んでいる。
 彼女の名前はナーシャ・シャワーズ(f00252)。
 その隣ではオカルト好きな学生を装った田中・ストロベリー(f00373)が立っていた。ちらりと金髪碧眼の女性と、彼女の見据える人物に目を向けている。
 元宇宙海賊として観賞眼の磨かれているナーシャ、そして探索経験の多いストロベリーの見込みは当たっていたと言えるだろう。
 ガラスケース越しに展示物を見る、ナーシャの青い瞳が何かを見定めるようにまっすぐ一人の人物を映した。
 奥村隆介と呼ばれる青年が美しい風貌のナーシャと可愛らしい少女のストロベリー、タイプの異なる二人の美女に気づき口元を綻ばせる。
「やあ、お客さんかい? こんな辺鄙な博物館にようこそ」
「確かに人はまばらにしか居ないね」
「はは、寂れた博物館なんてこんなものだよ」
 奥村隆介は警備員という仕事柄、一定の場所を見回ることが多く余りその場から動くことはない。入館者のことを人一倍見られる立場にあったのは間違いなく彼だろう。
「えっと、ストロベリー達は今オカルトなものに関わる方々の小説を書こうと思っていて。もしよければ取材させてください。いろいろとお話を伺いたいです!」
 ストロベリーがそう切り出せば奥村隆介は心得たという風に頷いてみせた。
「そういうことならお安い御用さ。ここは確かに大昔の呪術的・宗教的な儀礼に使う展示物が多いからね。そういうことに興味のある来館者さんも多いんだ。何から聞きたいんだい?」
「博物館の職員の方について聞きたいです。勤務歴であるとか、間柄であるとか」
「そうだなあ……僕自身の勤務歴は三年かそこらだよ。女性の職員が二人いるけど彼女らと同期だね。なにせ小さな博物館だから受付と案内に一人ずつ割けば事足りるんだ。警備員だって僕一人だしね」
 ストロベリーが話を聞く間、ナーシャは注意深く奥村隆介を観察した。
 受け答えをする彼には別段言葉に詰まるようなこともなく、嘘を言っているようにも見えない。
 ナーシャの見込み通り彼自身が教団員であるということはなさそうだった。ただ代わりに彼は祭具に関わる重要な情報を持ち得ていた。
「勤務時間は夕方の五時までだねえ。僕らはそこで定時上がり。あ、でも館長の石宮さんと秘書の西森さんは博物館を閉めた後も残って仕事をしているみたいだよ。あとは白井さんが閉館後の館内を掃除しているみたいだ」
「へえ。そいつはまた随分と勤勉だね」
「お仕事熱心なんですね!」
「西森さんはキッチリしてる人だし、特に館長はこの博物館に対する思い入れが人一倍強いみたいだからね。言われてみれば最近は白井さんもやけに熱心だなあ」
 ナーシャとストロベリーの言葉に奥村隆介は頷いた。
「取材は大丈夫そうかい?」
「うん!」
 頷いたストロベリーにナーシャは微笑んで、奥村隆介に向き直る。
「それじゃ、私達はそろそろ展示物を見て周るとしよう。警備員さん、この博物館で何か見ておくべき展示物は?」
 その言葉に奥村隆介はぽつぽつと頭に展示物をいくつか思い浮かべ、ある一つの物品に至った。
「二階の一番奥、通路の突き当りに展示されている指輪がこの博物館で一番価値が高いと思う。貴重な品だって館長がとても大事に話していたのを見たことがあるよ。あそこだけやけに警備が厳重だから。なんでも雨乞いの儀式に実際に使われたものなんだそうだ」
 その言葉に二人の猟兵はぴくりと反応した。指輪、とストロベリーが小さくつぶやく。
 ナーシャが奥村隆介に見えぬよう、一度だけストロベリーとアイコンタクトを行った。
「管理が大変そうですね」
「そうだね。展示物は基本的に秘書の西森さんが管理しているんだけどあそこの鍵は館長しか持っていないんだ。信頼のおける秘書にさえ触らせないってよっぽど大事なものなんだろうね」
 ナーシャの冴えた湖畔のような目が石を投げ込まれたかのように小さく揺らめいた。
「それはどうも。せっかくならそれを見に行くか。手間を取らせたね」
「貴重なお話ありがとうございました」
「とんでもない。では良い一日を」
 奥村隆介は帽子を取って会釈するとまた警備の仕事に戻っていった。
 速足で歩くナーシャに同じ速度で歩くストロベリーが耳打ちする
「ナーシャさん、さっきの話……」
「ああ、可能性は一気に高まった」
 指輪だろうね、と零した彼女の言葉にストロベリーが強く頷いた。

 ところ同じくして、博物館二階。
 笹鳴・硝子(f01239)が手に持った水晶のペンデュラムはある一方向に彼女を導いていく。
 通路突き当りの奥に強い反応を示したそれは一度だけ彼女の細腕をクンと引っ張って、それきり地面を指したままだ。
「指輪……?」
 硝子がガラスケースを覗き込む。
 一見ただの銀製の指輪にしか見えないそれは、照明できらきらと輝くばかりで別段可笑しなところは見当たらなかった。
「楽しんで頂けていますか?」
「はい。どの展示物も興味深いです。この指輪もとても素敵ですね」
「ええ、それはもう貴重な学術的価値の高い指輪ですよ」
 親し気に話しかけてきたのは案内職員の白井さやかではなかったか、と硝子は頭の中でグリモアベースで見た写真と照らし合わせた。
 明るく染められた髪と快活な笑顔に思い当たり、彼女を注意深く観察する。
 やや警戒を滲ませているのは、先ほどまで動かなかったペンデュラムが硝子に何かを伝えるかのように彼女を指していたからだ。
「この指輪、一体どういった展示物なんですか?」
「干ばつが酷かった昔に雨乞いに使われたものですよ。これを指に嵌めて祈祷師達が、雨が降るよう天へと祈ったそうです」
「そうなのですか……展示物は普段誰が手入れを?」
「館長自身が行っております」
 白井さやかが一歩近づく。硝子は同じようにして一歩後ずさった。
「気になりますか?」
「ええ、とても」
 笑顔の裏に何かある。硝子の疑いは時間が経つにつれて確信へと姿を変えていった。
 彼女もまた硝子を観察しているのだ。指輪に興味を持った硝子に対していっそ不躾なまでの舐めるような視線で観察している。
 二階には誰も入館者が居ないのを確認して硝子は生唾をこくりと飲み干した。
 すう、とひとつ深呼吸して白井さやかに真っ向から相対する。
 膠着状態を切り崩すべく、ある種の確信をもって硝子は決定的な一言を以て白井さやかに問いかけた。
「あなたが教団員ではありませんか?」
 そのたった一言が、白井さやかの顔面に張り付けられた笑顔を脆く崩した。
 瞳から明かりが消えて口角がいやらしく上がる。
 身構えた硝子の前で白井さやかは先程とは違うニタニタとした気味の悪い笑みを浮かべながら硝子に歯を見せて笑った。
「流石ですね、一目で看破されると思いませんでしたよ」
「否定はしないのですね」
「あなた相手にしても意味はなさそうですから」

「やあ、ようこそ博物館へ」
「館長さん、ボク、どの展示もとっても格好良くって気に入っちゃった!」
 小さいながらも綺麗に掃除の行き届いた博物館で、初老の男はアール・ダファディル(f00052)に微笑んだ。
 グリモアベースではどちらかといえば可愛らしい容姿に見合わず子供らしさは鳴りを潜めていたアールの身の変わりように、同行していた秋稲・霖(f00119)が目をぱちくりと瞬かせる。
 不自然のないように霖はアールの言葉に続けた。
「俺、こういうとこってあんまり詳しくないから話聞けるの嬉しいっす!」
 そんな様子に館長である石宮竜二は嬉しそうに顔をほころばせた。
「ありがとう。二人も若い子が博物館に興味を持ってくれるのは嬉しいなあ」
「えへへ、このすごーい博物館で館長さんがいっちばん気に入ってるのはどれ?」
 仕事でなければこんな風にわざとらしい演技をすることもなかっただろうとアールは内心で毒づきながら容姿を生かして、石宮竜二の警戒心を見事に解いてみせる。
 愛想の良く、文字通りぬいぐるみのように可愛らしいアールが問いかければ石宮竜二はそっと懐から鍵を取り出して二階を仰ぎ見た。
「指輪かな、私はあれを目当てにこの博物館を開こうと思ったくらいでね」
「指輪?」
「ああ。二階にある展示物だよ」
 霖の目が細められた。見据えたその視線の先には石宮竜二の持つ鍵のがある。
 形状からしておそらくガラスケースのものだろう。
 アールもそれを確認しながら指輪と石宮竜二を交互に見遣って、そのままの口調で先を促す。
 やけに大事そうに鍵の表面を指でなぞりながら石宮は恍惚とした表情で語った。
「その指輪、大事なものなの?」
「とても大事だよ」
「どれくらい?」
「命に代えてもいいくらいさ。他の展示物とは比べ物にならない程に」
「……?」
 博物館の館長を務める男がたった一つの展示物にここまで執着するだろうか、霖は自問する。
 ちら、と霖が思案しながら見上げると男の瞳がまっすぐとアールを見つめていた。
 深く暗い底冷えするような目だと、見つめられているアールは直感的に感じた。それを端から見ている霖も同じように背筋に冷たいものが伝う。
 柔和な表情は跡形もなくどこぞへと消え失せているようにすら見える。
「あれは私のものだよ、誰に渡してなるものか」
「館長さん?」
 不安げに見つめるアールに気づいたのだろう、石宮竜二は慌てて表情を隠した。
「ああ、可笑しな話を聞かせてしまったね。すまない」
「ううん、大丈夫」
 霖はアールに目配せをした。埒が明かないと目だけで訴えかける霖にアールも同じ思いだったのだろう、同様に目だけで同意を返す。
 アールはひとつ賭けに出ることにした。
 相手の反応を見たかったのと、自分と霖の疑惑を確固たるものにしたかった為だ。
 瞬きの後にアールは愛らしい顔つきのまま先程と打って変わった固い口調で話しかける。
「良いだろう、下手な問答は無用だ。そうだろう教団員」
「……」
 石宮竜二の顔が瞬時に色を失くした。
 紙のように白くなり、強張った相貌に焦燥と諦めと困惑と、様々なが混じり入った。
 やがてそれは謎めいた笑みを浮かべた薄気味の悪いものに変わっていく。
「君は演技が上手いね」
「そいつはどうも。光栄だな」
「やっぱり館長が教団員か!」
 一触即発の空気のなか、石宮竜二の手元で鍵がぎらりと怪しく光った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『祭具争奪戦』

POW   :    祭具を強奪する、教団員を物理的に排除する

SPD   :    乗り物を用意する、所有者と一緒に逃げる

WIZ   :    交渉で祭具を入手する、偽情報で敵を惑わす

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

田中・ストロベリー
【SPD】
ストロベリーはそのまま2階の指輪のところに向かい…たいところだけど、指輪を確保したあと、元凶の教団をどうにかしないとなんだよね。教団員達は他のメンバーがなんとかしてくれるって信じて、UDC組織に連絡をして救急車を2台手配して貰うよ。必要なら気絶なりなんなりした教団員達を周りの人たちに不審がられることなく外に連れ出せるしね。
中で本格的な戦闘になったとしたら、「ガスが漏れていて危険!外に出て!」って叫ぶよ。救急車が本当に来たことで信頼して貰えないかな。その時は奥村隆介にも無理ない程度に関係ない人達の避難を手伝ってもらえるよう、お願いするよ。



ナーシャと二手に分かれてストロベリーは安全確保に乗り出した。
 UDC組織へ連絡すると2コールと待たずに応答が聞こえて来る。
「……ええ、伺っていますよ。貴方達をここに派遣した探偵から連絡を受けています」
「助かります! 説得力を持たせたいので救急車でカモフラージュしてもらえませんか?」
「ではそのように手配致します」
 電話越しにUDCアースにおける猟兵達の支援者、人類防衛組織「UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)」のエージェントらしい女性の声が聞こえた。
 グリモア猟兵のマガルが既に連絡済みだった為かストロベリーの案は上手くいったようだ。
 元々まばらにしか居なかった入館者達は救急車が鳴らすサイレンに何事かと驚き、慌ただしく促されるまま外へ誘導されていく。
 その中には奥村隆介や館長秘書の西森みゆき、受付を担当していたらしい鈴木千紘の姿もあった。
「良かった……」
 ストロベリーがほっと安心から息をついていると、待機させている救急車から一人の女性が降車した。
「入館者と職員は二人を除いて全員退避しました。どうかご武運を、可愛らしいお嬢さん」
 声色は電話越しのものと一致して、ストロベリーはUDCエージェントの女性に向かって強く頷き返す。
 残り二名、石宮竜二を除いてどうやらもう一人の教団員は白井さやかだと察したストロベリーは、中で猟兵が交戦状態になるだろうことを見越して再び博物館へと足を踏み入れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナーシャ・シャワーズ
おや、意外とあっさり正体を現したものだ。
カギを盗み取って…といければ楽なもんだが
あいにくその辺りのテクニックは錆び付いていてね。

が、我が相棒のスピードはどうやら衰えてはいないようだ。
少なくとも人の足で追いつけるほどのろまじゃあない。

指輪という事ははめて行なわにゃあならんのだろうし…
この地から遠く離れた場所にでも捨ててしまえば儀式は出来まい。
海賊らしく、いただいていこうか!

祭具の入手は猟兵諸君の活躍に期待する、と言いたいところだが
ただ待つのも風情がない。
サイコキャノンにはこういう…目潰しという手もあるんでね!
射撃の速さには自信があるんだ。援護するよ。


アール・ダファディル
ふむ、意思が堅いならば嘘を混ぜつつ交渉を試みるか。
物理的手段は最期までとって置きたいからな。
「単刀直入に言おう。俺は賊が狙う指輪の護衛に来た」
真の悪を潰しに来た、と法螺を吹く。いいや此方は嘘ではないか。
「ソイツはお前の命ごと指輪を、名誉を、寵愛すらも得ようとしているぞ」
出方を伺い言を選び、逆効果と判断したら即座に交渉は打ち切る。
判断を鈍らせる事が出来たら上々。

効果を見つつ「警告だ」と念押す。
「邪悪を正す為、指輪を囮に敵を討ちたい」
その為に指輪を借り受けたい旨を伝える
不審がる様には誠実に努め見据えて
「指輪は決して見捨てない」
もし見捨てるつもりなら俺は愛い少年の儘でいたさ

まあ、見捨てるんだけどな


秋稲・霖
POW

いつものひらめきが当たっちゃった、俺ってやっぱラッキー?
その指輪マジに本物なのって聞いて揺さぶりたかったけど、そんなに大事ってことは本物かねえ
文字通り逃げも隠れも出来なさそうなんで排除させてもらっちまいましょーじゃんっと

「行くぜ式神!『紫』色の炎で燃やしてちょーだい!」

あ、余計なとこに延焼しないようにはするぜ!大騒ぎにはなりたくねえからな


笹鳴・硝子
今、猟兵で一番この指輪に近いのは私だ
最低限、指輪は奪取したい
できたら、教団員を拘束して教団に関しての情報を引き出したいところ
「邪神など、完全に復活させてどうするんですか。御せもしないものを」
白井さやかが交渉可能なら交渉を
邪神復活に拘り人の命の犠牲も厭わないようであれば、力ずくで指輪を奪取
器物破損できる得物がないので、ペンデュラムでUDCを召喚してケースを壊します(ユーベルコードの使用は白井さやかの強さに因る。必要であれば)
交渉にせよ、戦うにせよ、気心が知れた仲間が側にいるのを知っているのは心強いことだった
いざとなったらただ呼べばいい
「みゃー!」(f00134)


三岐・未夜
「だから誰が猫か。狐。……たっく、」

硝子(f01239)の呼ぶ声にぼやく陰気な黒狐。
フォックスファイアを操縦して教団員をガラスケースから引き離そう。硝子が指輪を掴んだら、即座に立ち位置を入れ替えるように狐火を自分達の周囲へ。

「硝子、走れ!」

瞬くように明滅するそれで教団員に催眠効果めいた目くらましを掛けつつ、硝子を先に走らせるよ。
戦闘手段に乏しい彼女の守りに狐火を半分預ける。もうひとりの教団員が万が一来ても、彼女と指輪だけは守れるように。
外に出れば、灯人(f00902)が待ってる。
僕の仕事は、硝子が指輪を持って逃げ切るまでの此奴の足止めだ。


浅沼・灯人
【乗り物を用意する、所有者と一緒に逃げる】

ったく、いきなり呼びつけられたと思ったら「足の用意」だ?
あの猫狐(f00134)、貸しにしとくからな

連絡によれば硝子(f01239)が出てくるのを待ってりゃいいらしい
バイクと近隣の地図を用意して、入り口の見える場所に潜んでおく
人影が見えるまでは地図でルート確認をしつつ、エンジンを暖めておこう

……ってうおっ!
てめぇら何やってんだよ急げ!
おい猫狐ぇ!てめぇも来るんだよ!
二人分増えた程度で俺の相棒がすっトロくなるはずねぇからな!
今日くらいノーヘルでもいいただろ!

可能なら逃げるときにブレイズフレイムを使う
目眩ましにゃちょうどいいだろうよ



「いつものひらめきが当たっちゃった。俺ってやっぱラッキー?」
「やれやれ、勘が良いのも考え物だな」
「それは言わないお約束! さあてどうする、簡単にはいかなそうだぜ?」
 聞こえないよう小声でやり取りをしつつも警戒態勢を崩さない霖とアールの前から、鍵を握りしめたまま石宮竜二は動こうとしない。
 教団員のうち一名はもう目の前の彼だと判明した。おそらくは今回の儀式に必要である祭具の在処も。
 その祭具を手に入れる為には、目の前の鍵が必要不可欠であることも。
 さあどうするのだと問いかける霖にアールは瞬時に考えを巡らせて、揺さぶりをかける手段を思いついた。
「鎌でもかけるか」
「鎌? 話術で何とかするってこと?」
「見たところ相手は意思が固い。物理的手段は最後まで取っておくべきだ」
 もちろんこのまま交渉が決裂して物理的手段に訴えかける場合は分かるだろう、と言葉には出さず言外に含めてアールは仄めかせた。
 霖はそんな提案を正確に読み取ってアールに石宮竜二の処遇を一任する。
 もちろん彼の身に危険が迫ればいつでも戦闘態勢にスムーズに入るべく、用心深く懐の霊符へ指を沿わせながら。
「そんじゃ、お手並み拝見と洒落こませてもらおう!」
「ああ」
 アールが石宮竜二――邪神教団の教団員であろう人物に改めて向き直る。
「単刀直入に言おう。俺は賊が狙う指輪の護衛に来た」
「どういう意味かな?」
「そのままの意味だ。外部からその指輪を狙う連中がいる」
 ぴくりと眉を動かして石宮竜二は如実に動揺を見せた。
 教団員達は儀式に邪魔が入ることなど想定外だったはずだ。
 この場合本当に儀式の邪魔立てを目論んでいるのは猟兵達ではあるのだが、アールが提示したのは架空の第三者だった為に石宮竜二は焦りを滲ませている。
 得体の知れない敵がもうひとついるかもしれない、その可能性が石宮竜二の脳を鈍らせた。
(しめた)
(効いてるな、やるじゃん)
 霖が一歩引いたところで始まった嘘交じりの問答はまるで北風と太陽のそれだ。
 甘言に誑かされたか石宮竜二は確かに反応を示している。
「ソイツはお前の命ごと指輪を、名誉を、邪神からの寵愛すらも得ようとしている。このままでは儀式は失敗するだろうな」
「ではどうしろと」
「指輪をこちらに譲り受けたい。指輪を囮に賊を討つ」
「……」
 石宮竜二の心の中には今や迷いが生まれていた。
 すっかり騙されていることを欠片も考えぬままに鍵を握る手に汗が伝っている。
 邪神を呼び起こす儀式の失敗は何としても避けたいが、目の前の少年に命よりも大事にしている指輪をみすみす渡してもいいものか。
 指輪を守るため、今一番取るべき手段は。
「本当でしょうね」
「本当だとも」
 若干の戸惑いを残しながらも、石宮竜二はついに鍵をアールに手渡した。
 隣でヒュウ、と口笛を吹きそうになった霖はなんとか空気を喉の直前で押しとどめていたが、これが教団員の前でなかったら賞賛の言葉と共にアールの肩を叩いていただろう。
 アールはそのまま鍵を霖へと手渡す。
「二階の突き当りのガラスケースです。もし変な気を起こしたら……」
「指輪は決して見捨てない、約束は守ろう」

「まあ、見捨てるんだけどな」
「!?」
 アールが石宮竜二に安心させるようなことを言った次の瞬間、真逆の言葉を吐く。
 その言葉が聞こえ途端、霖が心得たといわんばかりに思いっきり振りかぶって鍵を投げた。
 狙いはもちろん、指輪を得ようと二階へ向かわんとしていたナーシャに向けてだ。
「よし来た! ヘイ、パス! よろしく頼むっす!」
「おいおい、いつからこの博物館は野球場になったんだ!」
 ナーシャはそう軽口を言いながらもすっ飛んできた鍵を難なく手のひらで受け止めて見せる。
 上手いな、と隣でアールが感心したように洩らした。
「で、一体なんの鍵だいこれは!」
「ガラスケースの鍵っすよ!」
「ガラスケース?」
 首をかしげながらまじまじとナーシャは鍵を観察する。
 確かに家や車の形状ではなく小物類を開錠するためのものに見えた。
「今回の祭具、指輪なんすよ。そこの保管場所!」
「今回の祭具は指輪みたいだが、もしかしてそれの鍵か?」
 霖の言葉とナーシャの言葉が被って、二人は瞬きの後に笑顔を交わしあった。
「そっちも情報は掴んでたってわけだね」
「うっす! それじゃあとはよろしく! 俺は――……」
 こっちの相手をしなきゃならないんで、と踵を返して、激昂しているらしい石宮竜二とアールの間に割って入る。
 いつの間にかすっかり戦闘態勢を整えたアールが、霖と背中合わせになるように立った。
 ここから先は猟兵の独壇場だ。
「良い投擲だった」
「そりゃどうも!」
 わなわなと震える石宮竜二は、グリモアベースで見た写真とは似ても似つかぬ鬼のような形相を浮かべて二人を睨みつけている。
「許さない……指輪を返してもらいましょう!」
「やなこった! さて、それじゃ行くぜ式神! 『紫』色の炎で燃やしてちょーだい!」
 霖が手を掲げれば霊符が何枚も散って展開されていく。
 最大限周りに気を使った炎を纏う霊符は、火移りすることもなくけたたましく燃えながら石宮竜二に向かいまっすぐに飛んだ。

 硝子はガラスケースをちらりと見遣ったが、どうにも頑丈に施錠されていることが確認できた。
 ケースを破壊するにも手元に今あるのはペンデュラムのみ。
 ペンデュラムを使ってUDCを召喚することは可能だが指輪を奪取するには目の前の教団員が必ず邪魔をするだろう、どうするか。
(今、猟兵で一番この指輪――祭具に近いのは私だ。最低限、指輪は奪取したい)
 白井さやかに交渉が可能か確かめるため、硝子は意を決して口を開いた。
「邪神など、完全に復活させてどうするんですか。御せもしないものを」
「分からないでしょうね、分からないでしょうとも。私達の崇高な儀式がどれほど重要であるかなんて。必ず我々の教団は邪神を降ろしてその寵愛を受けるのです」
 白井さやかは聞く耳を全く持たない。
 会話が通じているかも怪しく、これはケースを破壊するかと覚悟を決めて身構えた。
 交戦は必至、たったひとりで目の前の教団員に立ち向かわねばならない。
 だが、硝子は知っている。
 この博物館には自分以外にもまだ、信頼のおける手練れの猟兵達がいることを。
「交渉にせよ、戦うにせよ、気心が知れた仲間が側にいるのを知っているのは心強いことですね」
「仲間? 一体何の話を……」
「みゃー!」
 硝子がなんの脈絡なく上げた猫の鳴き真似に白井さやかが怪訝な顔をした直後、ぼやく男の声が聞こえた。
「だから誰が猫か。狐。……たっく、相変わらずだな」
 その声が白井さやかよりも先に耳に届いた硝子は黒い瞳を向けて、こちらに駆けてくる仲間の姿を視界に収める。
 そして驚く白井さやかに鈴を転がすような声で囁いた。
「一体何の話か、でしたか。私が信頼している仲間の話ですよ」
 この場に助太刀に現れたのは妖狐のUDCエージェント、三岐・未夜(f00134)だった。

 硝子を守るようにして未夜が立てば、白井さやかは露骨に舌打ちをする。
「新手ですか、分が悪いですね……」
「お生憎様、こっちは仲間を一人で戦わせるようなマネはしない」
 言いながら未夜の放ったフォックスファイアが狭い通路を明るく照らしていく。
「ああ、言い忘れていたけれど増援はなにも僕だけじゃない」
「ハッタリでしょう?」
「いいや?」
「ハッタリなんかじゃないさ! よう、待たせたね!」
「!?」
 もう一人猟兵が通路に現れた。
 突如聞こえた硝子でも未夜でもない声に白井さやかが目を見開く。
 奪い取ることにまんまと成功した二人から鍵を受け取って、階段を駆け上ってきたナーシャだ。
 二階の突き当りと伝えてくれた霖の言葉通り、そこには白井さやかと相対する硝子、そして新に助太刀に現れた未夜の姿があった。
「言っただろう、仲間を一人で戦わせるようなマネはしないって」
「よくも図りましたね」
「人聞きの悪い、戦略の内だ」
 ナーシャは素早く近づくと、硝子にアールと霖から受け取った鍵を手渡した。
「これは?」
「目の前のガラスケースを鍵らしい。下に居た二人が館長からこっちに回してくれたんだ、使いな。突破口は私達が開く」
 手筈を整えたらあとは指輪を外へと持ちだしてしまうのだとナーシャが伝えれば硝子も頷いて、決意の表れか鍵をぎゅっと握りしめた。
「では、私も海賊の流儀に則って、宝を頂戴してしまいましょうか」
「そいつはいい、乗った!」
「女は度胸ですから」
「硝子、走れ!」
 ニッと歯を見せて快活に笑うナーシャと声をかけてくれた未夜に硝子はすべてを任せ、白井さやかを迂回するようにしてガラスケースに向かって駆け出す。
 白井さやかはそれを押しとどめようとしたが、見逃してくれるナーシャと未夜ではない。
 ナーシャはサイコキャノンで威嚇射撃を行い、思わず足の止まった白井さやかを妨害するように割り入る。
 その隙間を利用するようにして向かって伸ばされた腕を未夜が掴んだ。
 ナーシャが不敵に笑った。
「指一本だって触れさせないよ」
「くっ……!」
 白井さやかが憎々しげに顔を歪ませる中、硝子が鍵の奪取に成功した。
 怪しく輝いていた指輪――儀式に必要な祭具は、ついに猟兵達の連携により教団サイドから此方の手へと移ったのだ。
「でかした!」
「ああ、もう行こう」
 未夜が指輪を確認して白井さやかを突き放して走り出すと同時に、硝子とナーシャもすぐさま後を追う。
「よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、よくも……やってくれましたね」
 通路の壁へと強かに背中を打ち付けたせいか、崩れ落ちた白井さやかは遠ざかる三人の猟兵の背中をじっと見ていた。

「祭具が手に入りました」
「こっちも粗方片付いた!」
「こちらが二人だけとはいえ少しばかり手こずったが、見ての通りだ」
 指輪の確保に成功した三人の猟兵が一階へと降りてくると、完全に伸びている石宮竜二を拘束しているアールと霖が出迎えた。
 がらんとした博物館にそういえば人が居ないと三人があたりを見渡せばアールが思い出したようにつぶやく。
「入館者と他の職員か? 避難誘導はUDC組織のエージェントに協力を仰いで、ストロベリー嬢が上手く行ってくれたようだな」
「館内にいるのは俺達と教団員だけみたい」
「それはなにより。ところでその縄はどこで?」
 ナーシャが聞けば博物館の備品らしいロープを見つけたのだと霖が得意げに答える。
 縛られている教団員の石宮竜二を見て、硝子が二階を見上げた。
「私達も二階の彼女を拘束しておくべきでしょうか……」
「時間がない。指輪を博物館からまず遠ざけるのが先だ。外に足を用意してある」
「足?」
 未夜が博物館入り口を指させばストロベリーと、そして彼女の傍らに立つ猟兵がいた。
「無事だったんだね、ああ良かった!」
「足とはなんだ、人の事を小間使い扱いしやがって」
 ストロベリーの弾むような喜びの声とは対照的に、不機嫌を滲ませた声をかけてきたのは浅沼・灯人(f00902)。
 灯人は面倒そうに頭を掻きながらぎろりと未夜を睨む。
「ったく、いきなり呼びつけられたと思ったら足の用意だ? 猫狐、貸しにしとくからな」
 猫狐とは未夜のことを指しているが、彼は恨み言もどこ吹く風のようで、のんきに欠伸を零している。
「じゃあ指輪のこと頼んでも良いか? よろしく!」
「俺達は博物館に異常がないか見張るとしよう」
「ストロベリーも協力するね!」
 アール、霖、ストロベリーに見送られ残りの四人は博物館の外に出た。
「僕も博物館に残ろう。眠いし」
「おい猫狐ぇ! てめぇも来るんだよ!」
 未夜を逃がすまいと灯人が阻止するのを見たナーシャが盛大に声を上げて笑った。

 博物館の脇にはすっかりエンジンのあたためられた灯人のバイク、そしてナーシャ愛用の宇宙バイクであるスペースサーファーが停めてある。
 UDCエージェントからの情報によればここからほど近い場所に海があるようだ。
 地図で前もって確認していた灯人も頷く。
「三人で乗れって?」
「二人分増えた程度で俺の相棒がすっトロくなるはずねぇからな」
「一応聞きますが、ヘルメットは」
「有るわけないだろうが」
「……」
「……」
 押し黙った二人に今日くらいノーヘルでもいいただろうと灯人がまくし立てた。
 そんな三人とバイクを見たナーシャがスペースサーファーに乗りながら、灯人へ声をかける。
 彼女が持ちかけたのはスピード勝負だ。
「良いバイクだね。けど、我が相棒のスピードはどうやら衰えてはいないようだ。相棒とどっちが速いか勝負しようか?」
「そいつはいい、望むところだ」
「安全運転でお願いします」
「レース禁止」
 乗り気な灯人に間髪入れずに硝子と未夜が止めに入った。

「教団員の二人から辿って邪神教団を探して、UDC機関が再発防止してくれるんだって!」
 指輪を遠ざける事、ひいては儀式の阻止に成功した猟兵達は今後の事を話し合っていた。
 ストロベリーの言葉にアールと霖が頷く。
「儀式の阻止は成功、仕事の大部分はつつがなく終わったな」
「そうだな。俺達の残りの仕事は二階の教団員を拘束することくらいか」
「用心して行こう!」
 三人は念のため白井さやかを拘束しようとロープを持って二階に上がる。
 だが、事は上手く運ばなかった。
 通路に向かおうとした霖の耳が不穏な声をとらえたからだ。
「何か聞こえる……?」
 よくも、と聞こえてくるそれはおぞましいこの世の者とは思えぬ声をしていた。
 よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、よくも。
 よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、よくも。
 よくも、よくも、よくも、よくも、よくも、よくも。
 どう考えても人間が発することのできない声色と声域に変わっていく。
 次の瞬間、駆け付けた猟兵達の視界に飛び込んできたのは。
 猟兵達への恨みをつらねた結果。人の身に過ぎた力を得ようとした白井さやかの変わり果てた姿だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『膨らむ頭の人間』

POW   :    異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:猫背

👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●迫りくる危機
「……まずいな、戦闘になる」
 マガルが持つ光り輝く立方体、予知をするのに使うグリモアが強く瞬いている。
 マガルの予知に映る白木さやかの異形への変貌。
 頭が異様に膨らんだそれはもはや人間と呼べるものではない。常軌を逸したものだった。
 通常、高位の教団員が多くの生贄と禁断の儀式により、邪神の力をその身に宿した姿であるはずのそれ。
 儀式の発動は猟兵達の尽力によって砕かれた。邪神は呼び起こされておらず、儀式に必要な祭具も持ちだされて最早遥か彼方だ。
 彼らは考えられる結果の中の最善の選択肢をことごとく選び取った。今ある結果より良いものはないだろう。
 それなのに、どうして。
 白木さやかがどうしようもなく狂ってしまった結果、その脳髄は破壊され、精神は邪神そのものに変化した。
 元の教団員の意識のせいか、生前の邪悪な計画を邪神の力で無理やり遂行しようとしている。
 オブリビオンと化してしまう白井さやか――この予知を猟兵達は知り得ないのだ。
 危険が迫っていることを今すぐ伝える手段が今のマガルには存在しない。
 今からUDC組織への連絡を取ったとしても、彼らはおそらく既に、白井さやかであった『膨らむ頭の人間』と会敵している。
「信じて待つしか、ないのか」
 苦々しく呟いたマガルの言葉はグリモアベースに反響して、やがてとけるように消えた。
田中・ストロベリー
完全な召喚じゃないなら、まだ勝機はあるはず。…それにきっと大丈夫。仲間が助けに来てくれるって、ストロベリー信じてるから。

最初からユーベルコードを出し惜しみなく使っていくよ。
【上着】と【靴】を脱ぎ捨てて、スピードを確保。
スピード勝負に持ち込んで、厄介そうな教典を持つ手を狙うよ。
取り落としてくれるなら上々、そうでなくても、教典を使った攻撃の妨げくらいにならないかな。
よく分かんないけど、今日はいつものストロベリーよりずっと強いんだから!(真の姿効果)

白井さん、今のあなたにストロベリーの声が届くか分からないけど。
あなたの願いは、あなたの命よりも、鈴木さんとの友情よりも、本当に大切な願いだったのかな…?


アール・ダファディル
【SPD】
随分と美しいナリじゃないか。
その方が心に良く似合ってる。
此方も良心の呵責が無く大いに結構だ。

俺は傀儡のような落とし子を相手取ろう。
先ずは本体から引き離すとしよう。
尤も、初めから本気など出さないがな。
畏怖する様とわざと癖のある動きで攻撃し気を引く。
苦戦を装い、囮になりながら敵の情報を集めよう。
誘導先は…そうだな、
本体視界から影になる位置がいい。

手を見極めてから反撃もとい不意打といこう。
「いこうか、Echo。ボクたちの舞台だ」
【錬成カミヤドリ】で己の分身を複製。
テディベアたちを操り、
四方八方から突撃させよう。
本懐たる攻撃が分からぬよう目眩しだ。
「さあ、繰り糸に吊られて堕ちるがいい」


秋稲・霖
ちょ、こんなん出てくるなんて聞いてないんすけど!?
この世界ではこんなことになっちゃうわけ。…うっわあ、人の感情ってめっちゃ怖いね!

あんまり効かなかったら厄介だけど、たまには俺の力も見せなきゃねっつー感じで…狐の鬼火はこう使うんだ、しっかり見てろよ!

せめて安らかに…ってわけにもいかないだろうけど、その醜い感情だけでも焼き払って清めてやる
来いよ化け物、俺らが相手だ



「ちょ、こんなん出てくるなんて聞いてないんすけど!?」
 霖が慌てて下がるが、膨らむ頭の人間はそれより先に感づいたか雄叫びを上げながら通路の向こうから走ってくる。
 無数の邪神の落とし子を、所持していたらしい教典から呼び出しながら。その数およそ六匹ほどか。
 アールは変わり果てた人間だった彼女を幼さの残る瞳でまっすぐに見つめた。
 アイロニカルなものの言い方でその姿について感想を述べる。
「随分と美しいナリじゃないか。その方が心に良く似合ってる」
「おいおい、結構余裕じゃん!」
「倒すべき敵が明確になったからな。此方も良心の呵責が無く大いに結構だ」
「二人とも、来てるよ!」
 ストロベリーの言葉にアールと霖は返事より先に思い切り博物館の床を蹴って飛びあがった。
 二人が先程まで居た場所の地面に邪神の落とし子が飛びついている。
 間一髪避けた二人は体勢を立て直し、アールが臨戦態勢に入った。
「いいだろう、こちらは俺が相手取る。奴の手を見極めてから反撃もとい不意打と行こう」
「了解」
 アールは邪神の落とし子に苦戦を装い、囮になりながら敵の情報を集める魂胆だ。
 耳打ちしてきた作戦にストロベリーと霖が頷いて同意を示す。
「じゃあ、ストロベリー達はそれまで白井さんの足止めだね」
「ストロベリー、増援来そうか?」
「距離的に五分五分だと思う。ストロベリー達がなんとかしなくちゃ! 完全な召喚じゃないなら、まだ勝機はあるはず」
 それにきっと大丈夫。仲間が助けに来てくれるって、ストロベリー信じてるから。
 そう言って安心させるように笑う彼女に霖も笑い返して、二人とも互いに『膨らむ頭の人間』に武器を構えた。
「あんまり効かなかったら厄介だけど、たまには俺の力も見せなきゃねっつー感じで……狐の鬼火はこう使うんだ、しっかり見てろよ!」
 ばち、と何かが弾けるような音がして霖の周囲に狐火がいくつも生まれた。
 的確に撃ち込まれる炎に『膨らむ頭の人間』は見悶えてはいるようだが、決定打とはならない。
「効いてはいるけどこんなもんか。まあ仕留めるつもりは無かったから陽動としてはまずまずって感じ」
「うん、この調子で行こう!」
 上着と靴を脱ぎ捨てて身軽になったストロベリーが通路で助走を取る。
 タン、と軽やかな足で踏み込んだストロベリーが一気に距離を詰め、『膨らむ頭の人間』の懐に潜り込んだ。
 炎で怯まされていた『膨らむ頭の人間』は避け切れず、ストロベリーが放ったダガーによる刃閃を食らう。
 教典の表紙に傷がついた。
「白井さん、今のあなたにストロベリーの声が届くか分からないけど。あなたの願いは、あなたの命よりも、鈴木さんとの友情よりも、本当に大切な願いだったのかな……?」
 だが『膨らむ頭の人間』はストロベリーの呼びかけには反応を示さなかった。
 残念ながら精神が完全に邪神そのものになってしまった今、説得を通すことはできないようだ。
「だめ、聞こえてないみたい……」
「みたいだな。まあ、せめて安らかに……ってわけにもいかないだろうけど、その醜い感情だけでも焼き払って清めてやる。来いよ化け物、俺らが相手だ」

 適度に攻撃を避けながらストロベリーと霖が時間を稼ぐ間、アールは邪神の落とし子を一匹ずつ確実に屠っていく。
 ある程度手加減している為に邪神の落とし子はアールを倒す算段をつけ、彼にのみ狙いを絞っている。
 最後の一匹を倒す頃には丁度『膨らむ頭の人間』の真後ろに位置する場所に回っていた。狭い通路ではあるが二人が陽動として動いたために上手く攻撃をかいくぐれたようだ。
「あれは、祭具か?」
 アールが『膨らむ頭の人間』の後頭部の一点に気づく。
 まるで埋め込まれるようにして膨らんだ頭の裏側、そこに埋没しているのは確かに指輪だった。
 綺麗な円形ではない歪な形をしてはいるものの、材質がつい先ほど猟兵達によって遠くへと持ち運ばれた祭具のそれと同じであることにアールは感づいた。
「祭具は元から二つあったのか? いや、違うな。儀式に必要不可欠であった指輪もなしに無理に儀式を遂行するため、自ら生み出した産物か」
 アールが弱点は後頭部にあると告げればストロベリーと霖が『膨らむ頭の人間』に改めて攻撃を行うために身構えた。
 アールもまた己の分身を複製してテディベアたちを操り、四方八方から突撃させようとしている。
 後頭部へ一撃を加えるために、相手へ本懐たる攻撃が悟られぬように。テディベアへアールが優しく声を掛ける。
「いこうか、Echo。ボクたちの舞台だ」
「さあ、ここからが正念場だね!」
「ああ! あとはコイツを倒すだけ!」
 邪神教団の陰謀を打ち砕く事は果たしてできるのか、猟兵達による最後の戦いの火蓋が切られた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

笹鳴・硝子
指輪はできればUDC組織内で保管・研究して欲しいので、組織に持ち込みたい

「……なんか、腑に落ちない」
白井さやかは狂信者と言って良い状態だった
こちらは彼女の意識を奪ったり、肉体的に無力化してきたわけでもない
にも拘わらず、博物館にいた時でさえ『彼女は追ってこなかった』
――胸騒ぎがする
「トモ(f00902)!ナーシャさん!停めて!」
何人か、戻った方が良い――そう提案しようと決めた


ナーシャ・シャワーズ
ほう、邪神の力って奴か!
ま、歪んだ心って奴にはお似合いなのかもしれんがね。
そうら、それを映す影さえおぞましい形をしているじゃないかい。

確かに私は銃を愛しているし、信頼もしている。
G.O.Dもソウル・ガンもだ。
だがそれだけに頼ってるようじゃあ一流とは言えないね。

近づけば簡単だ、とでも思ったかい?
この身体は華奢に見えるかもしれないが
大岩の一つくらい容易く砕けるパワーはもっているのさ。

邪神の力って奴を使うあんたにゃあわからないかもしれないが
この力は正真正銘私自身が鍛え上げたものだ。
それ以上に信じられるものってあるのかね?


アール・ダファディル
「狙いは後頭部。確実に倒す為に一手たりとも無駄にはさせん」
複製たちを操り、その個体が尽きるまで囮として突撃させ続ける。
刃を仕込んだ個体は執拗に攻撃を、頑丈な個体は盾として防御を。
戦況を見つつ、連携し隙見て俺が後頭部付近へと操り糸を張る。

敵増援の際は【ライオンライド】で騎乗。
駆け翻弄して仕込んだ策が最良に生かせる時を作り出そうか。

ぬいぐるみなど無害な玩具にしか見えなかっただろう。
その油断が命取りだ。俺の一手は既に済んでいる。
「Echo、出ておいで」
繰り糸を引けば、かくれんぼはもうお仕舞だ。
お転婆で悪戯っ子。不意打ちが得意な≪彼女≫。
刃で本を引き裂いたって。指輪を砕いたって。
誰もキミを怒らない。


田中・ストロベリー
本当は…この技は使いたくないんだけど…そんなこと、言ってる場合じゃないよね。
ユーベルコード、魔力解放を使うよ!

本懐の後頭部を狙う仲間がいるなら、【風の刃】を飛ばして援護を。立ち回りとしては、敵に張り付いてゼロタイムで刃を着弾させていくよ。
目線はあくまで敵の顔。目線で狙いがバレたら、元も子もないしね。
ついでに、説得を諦めていない振りをしようかな。お願い、正気に戻ってって。…本当に、戻ってくれたらいいのにね。

もし、援護に回ってくれるって言うなら…ストロベリーの最大火力、敵の後頭部に叩き込んであげる!
美少女の命を削った一撃、受けられるもんなら受けてみなよ!



動いていないはずのペンデュラムが彼女の腕を引いたような気がした。
「……なんか、腑に落ちない」
 硝子が小さく呟く。
 指輪を博物館からなるべく遠ざけるべく、海へと移動していた一行。
 もう十分に遠く離れた。ちょうど海と博物館の折り返し地点、比較的安全運転で指輪を運んでいた四人は硝子のそんな言葉にやや速度を緩める。
 硝子と共にバイクの三人乗りをしていた残り二人が不思議そうに眉間にしわを寄せた。
「腑に落ちない?」
「……」
 違和感が硝子の胸の奥底で渦巻いている。
 何かがおかしい、それが何かは言及できないけれど、言い表せない違和感だけがこびりついている。
(白井さやかは狂信者と言って良い状態だった。こちらは彼女の意識を奪ったり、肉体的に無力化してきたわけでもない)
 では、なぜ動ける状態であるはずの彼女は。
「白井さやかのことについてです」
「教団員の一人か」
「指輪がこちらにある以上、あの博物館で邪神召喚の儀式が成立する条件はもうありません。ですが……」
 拘束していたわけでもない、ただ身体を打っただけなのに。
 なぜ、彼女は追ってこなかったのだろう。
 膨れ上がった胸騒ぎはそのまま肺を巡って口の先から零れ出る。
 思わず口を開いて叫んでいた。
「トモ! ナーシャさん! 停めて!」
 その言葉を言うが早いが手前を先導していたナーシャがブレーキを思い切り踏み込んで、スペースサーファーを停止させる。
 もうもうとタイヤを空回りさせて白い煙を上げながら止まったスペースサーファーは、数秒の後再び嘶くような声をあげてエンジン音と共に博物館へと大きくUターンした。
「奇遇だね、私も何か違和感があった! 戻ろう!」
「はい!」
 硝子がバイクを飛び降りてナーシャの運転するスペースサーファーに飛び乗った。
 出発寸前、手のひらから銀の指輪を投げ渡して。
「トモ、このままこの指輪をUDCエージェントの人に届けて」
「分かった、UDC組織とは海で落ち合うことにする。お前らはこのまま戻れ! 猫狐はこっちだ!」
「指図しないでくれるかな。……硝子、無茶はするなよ」
「分かってる」
 二人と別れて今度こそナーシャと硝子は博物館を目指して猛スピードで進みだした。
「さっきの言葉取り消します。安全運転撤回、アクセル全開で!」
「よし来た! 行くよ、しっかり掴まってな」

「狙いは後頭部。確実に倒す為に一手たりとも無駄にはさせん」
 アールが複製たちを操り、その個体が尽きるまで囮として突撃させ続けることで状況はかなり優位になっている。
 攻撃用として刃を仕込んだ個体は攻撃を徹底させ、頑丈な個体は盾として防御に使い分ける事で『膨らむ頭の人間』をなんとか押しとどめていた。
 だがそのうち『膨らむ頭の人間』は再び邪神の落とし子を呼び寄せて物量戦だけではあと一歩が届かない。
 無意識に弱点を守りだしたか、片手で後頭部を覆い隠してしまう。
 儀式を遂行させるという狂気的なまでの執念から産み落とされたらしい、本物の祭具ではない紛い物。
 自らの妄想の産物を手のひらに閉じ込めて、『膨らむ頭の人間』は既に顔とすら認識するのが難しいほどぶくぶくに膨れ上がった顔を嘲笑で歪ませる。
「本当は……この技は使いたくないんだけど……そんなこと、言ってる場合じゃないよね」
 じわ、と通路に先程とは比較にならない程の魔力が弾け飛ぶ。
 ぴりぴりと肌に感じるほど痛いそれをアールと霖がざわついた空気から察知した。
「ストロベリー……?」
「ふむ、まあ待ったほうが良い。時を見計らうべきだ。好機がすぐそこまで来ている」
 最大限の威力の攻撃準備に入ったストロベリーにアールが待ったをかけた。
 アールの言う好機とは、ストロベリー自身が邪神を前にして放った言葉にある。

 それにきっと大丈夫。仲間が助けに来てくれるって、ストロベリー信じてるから。

「好機って、一体どういう……」
「! 伏せろ!」
 その言葉にストロベリーとアールが素早く身を屈める。
 霖の耳にいち早く届いたのは救世の音だった。
 ガラスを突き破る劈くような音、そして力強いエンジン音。
 粉々にガラスが吹き飛ばされきらきらと日の光を浴びながら、ダイアモンドダストのように散っていく。
 通路に入ってきたのは破片を浴びようとも傷一つなく輝くスペースサーファー、そしてそれに跨るナーシャと彼女の後部座席で若干酔ったのか顔を青くしている硝子の姿だった。
「どうだ、なかなかのスピードだったろう?」
「次は安全運転でお願いします……」

「形勢逆転、反撃と行こうか」
 アールの言葉に全員が頷く。猟兵の数は増援のおかげで確実に押し切れる数になった。
 猟兵達が力を合わせればたとえ邪神の力を得ている教団員だとしても撃破は容易いだろう。
「好機ってこういうことだったんだね! うん、そうだった。ストロベリーは信じてたんだ!」
「ああ。あの言葉がなければ俺も思い出せなかった。さて、これ以上ない良い折だ。そろそろ決めようか」
「それじゃ、とどめはそっちに任せるかね」
 ナーシャはストロベリーが安全に弱点へと回れるように攻撃を開始する。
 大きな声で敵を挑発するようなナーシャの言動に『膨らむ頭の人間』はまんまと誘導された。
「ほう、邪神の力って奴か! ま、歪んだ心って奴にはお似合いなのかもしれんがね」
 そうら、それを映す影さえおぞましい形をしているじゃないかい。
 ナーシャの言葉通り『膨らむ頭の人間』の足元からはおぞましい輪郭の影が通路に浮き出ていた。
 膨らんだ頭とそっくりそのまま同じ長さまである等身の影は、やがて自立するようにして浮き出ると構えている硝子と霖に目を付ける。
 ナーシャはそんなおぞましい輪郭の影に二発ほど撃ち込んで牽制した。
「確かに私は銃を愛しているし、信頼もしている。G.O.Dもソウル・ガンもだ。だがそれだけに頼ってるようじゃあ一流とは言えないね」
 一見彼女の非力で華奢に見える手から生み出される弾丸は、驚異的な威力をもって一体分増えたはずの敵勢力と見事に拮抗していた。
「へえ、やるじゃないか!」
「ストロベリー、今の内にそっちへ!」
「わかった! ありがとう!」
 硝子の言葉に促されたストロベリー駆け寄り、アールと背中合わせになるように立った。
 『膨らむ頭の人間』はナーシャに釘付けになったまま、後ろの様子には気づいていない。
「邪神の力って奴を使うあんたにゃあ、わからないかもしれないが。この力は正真正銘私自身が鍛え上げたものだ。それ以上に信じられるものってあるのかね?」
 言葉通り、邪神の力も持たぬ自身のの身の丈よりもよほど小さく可憐な女性から手も足も出ない程攻撃されたせいか『膨らむ頭の人間』は激昂しているようだ。
 咆哮とも似つかぬ猛り狂った声が膨れてもうどこにあるかもわからない声から発せられる。
「おうおう、そう怒りなさんな。ご清聴ありがとう教団員諸君。さて背中がガラ空きだよ?」

 その言葉に『膨らむ頭の人間』は振り返った。否、振り返ろうとしたができなかった。
 アールによって繰り糸でいつの間にか外されていた後頭部を覆う手は、天井に縫い付けられたように吊り上がって動かない。
 ギチギチと音を立てようとしながら手を下げるのをアールの冷静な声が止める。
「無理に引けば千切れる、やめておいたほうがいい」
 ――俺の一手は既に済んでいる。
 ナーシャによって生み出された隙に完全に油断していたのだろう、『膨らむ頭の人間』はアールの切り札に欠片も気づくことはなかった。
「だがその油断が命取りだったというわけだ。操られたぬいぐるみなど無害な玩具にしか見えなかっただろう」
 一呼吸おいてアールは至極優しい声で自らの足元へ隠れる≪彼女≫へと話しかける。
 それこそ、この博物館で一番最初に館長の石宮竜二に対して見せた、甘く無垢な子供の笑顔を浮かべて。
「Echo、出ておいで」
 繰り糸に導かれるまま、可愛らしい彼の片割れが足元から踊り出る。
 お転婆で悪戯っ子。不意打ちが得意な≪彼女≫。
「刃で本を引き裂いたって、指輪を砕いたって。誰もキミを怒らない」
 そしてアールは柔らかな笑みを崩さぬままストロベリーに向き直ると、まっすぐに『膨らむ頭の人間』の後頭部を指さした。
「機は熟した」
「うん……ストロベリーの最大火力、敵の後頭部に叩き込んであげる!」
 すう、と深呼吸を一つして気持ちを落ち着けてからストロベリーがユーベルコードを発動した。
 周囲に再び膨大な量の魔力が迸る。
「ただ只管の沈黙。私の古い悲しみ。夜明けの薄明すらも届かぬ深淵の王よ。すべては過ぎ逝くものなればこそ――約定に従いて、我に風の加護を」
 決壊してしまったダムのような魔力の奔流はやがて一つに収束すると、無数の乱気流として彼女の背に翻る風となる。
 マントのようにたなびく薫風を背負った彼女は、アールの操る≪彼女≫と共に地面を蹴りまっすぐに、ただまっすぐに一点を見据えて飛び立った。


 ぱきん、と陶器かあるいは銀製の小さな何かが割れる音がして、それきり辺りは強い風の音に飲まれて何も聞こえなくなる。
 風の収まったあとには猟兵達の勝鬨と、彼らの知恵と機転と奮励によって保たれた、平和な街の喧騒だけがあたりにこだましていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月17日


挿絵イラスト