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エンパイアウォー⑦~かつての式神

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●用兵の妙
 軍神――かつて、そう呼ばれた武将がいた。
 そのものは魔軍将となった今でも同じ字を冠し、その名に恥じぬ陣を張って西を目指す徳川軍の前に立ちはだかっていた。

「さて、次は関ヶ原へ行って貰いたい」
 集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は此度の転移先を早々に切り出した。
 状況を整理すると、幕府軍は最大の難所とされる関ヶ原に、一切の被害なく到達することが出来た。この後は3手に別れて進軍する事になっている。
「とは言え、まずは関ヶ原にいる敵をどうにかしないと、下手したら此処で徳川軍が数を大きく減らしてしまいかねない」
 そうならない為には、猟兵が尽力するしか無いのだ。
「敵は軍神・上杉謙信率いる上杉軍精鋭部隊が一角だ」
 上杉軍は『軍神車懸かりの陣』なる布陣で、幕府軍を蹂躙しようとしている。
「車懸りの陣というのは、上杉謙信を中心として円陣を組んだオブリビオンの部隊が交代で最前線に出ると言うものだ」
 最前線の兵が目まぐるしく代わる事で、敵は常に万全の兵と戦う事になり、自軍には充分な補給を受ける余裕が生まれるのである。
 全軍が風車の如く回転させる、上杉謙信のずば抜けた統率力を以て初めて可能な攻めと守りを兼ね備えた「超防御型攻撃陣形」と言えよう。
「一般の兵でも厄介そうな布陣なのに、敵はオブリビオン。おまけに上杉謙信の力で最前線のオブリビオンは防御と自己治癒能力が高まった状態になっていてね」
 生半可な火力では、耐えられた上にすぐに回復されてしまう。
 耐えきれない程の高火力で一撃で仕留めるのが理想。そうでなければ、回復の暇を与えず連携攻撃で畳み掛けるか――だろうか。
「厄介な陣形だけど、崩すしかないんだ。車懸りの陣は、上杉謙信の復活時間を稼ぐ為の場にもなっているからね」
 つまり、車懸りの陣を崩さないと上杉謙信を倒すことは出来ないという事だ。

「皆には『暴走する式』が最前線に来た時と担当して貰うよ」
 かつて陰陽師が打った式が暴走し、制御を離れた末に魑魅魍魎と化した成れの果てと言われているオブリビオン。
「数は少ないけど、分裂したり、無機物に憑依したりする能力を持っているらしい。防御と治癒能力向上との相性は良さそうだよね――生憎なことに」
 それは猟兵にとっては、全く嬉しくない組み合わせ。
「ああ、でも朗報もある。そろそろ車懸りの陣も崩れそうなんだ。あと一息の筈だから、何とか頼むよ」


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。
 上杉軍、蹴散らしましょう。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
 つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。

 こちらは軍神車懸かりの陣のシナリオです。
 上杉謙信に直接は触れません。

 敵は『暴走する式』。
 数は3~4体と少なめですが、防御力アップ&自動回復(特大)という、反則じみたバフを受けた、最高のコンディションとなっております。

 OPにも記載しましたが、大ダメージを一気に与えたり、連携で回復させずに撃破するような作戦があると良いのではないでしょうか。

 ※採用人数についてですが、20日までの本数が重要、ということもあり、今回は成功度到達したらそこで締め切る形にさせていただく予定です。全員採用は確約しません。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 集団戦 『暴走する式』

POW   :    魔弾呪式
【幾つもの呪力弾】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    分裂呪式
レベル×1体の、【一つ目の中】に1と刻印された戦闘用【自身と同じ姿の暴力する式】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    憑依呪式
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【武器や殺傷力のあるもの】と合体した時に最大の効果を発揮する。

イラスト:灰色月夜

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セシル・バーナード
野生化した式ね。飼い主にはもっと責任を持って欲しいなあ。

さてと、典型的な数の暴力で押し込んでくる手合いだね。それなら、空間裁断で一網打尽に切り刻む。
敵陣を動揺させて切り込む隙が見えたら、空間断裂で敵陣中央までの道を切り開き単身そこまで駆け込んで、奏鳴楽団を召喚してから「歌唱」「全力魔法」「範囲攻撃」で破壊律動を歌い全周攻撃。
不意打ちは「見切り」で回避し、まずそうなら次元装甲で一時防御。これは即解除して破壊律動を再開する。
破壊律動と併用出来れば、空間断裂や黄金魔眼も織り交ぜて攻撃。

数で蹂躙出来るほどぼくは甘くないよ。さあ、これからが最高潮だ!

こうして敵中で混乱を起こすから、他の皆も連携よろしく。


杜鬼・カイト
※アドリブ歓迎

え、防御力が高くて回復までするとか卑怯じゃない?
卑怯だよね?
よし、回復する前に一気に壊しちゃおう

なぎなたに【破魔】の力を込める
【衝撃波】で中距離から攻撃
攻撃後に【ダッシュ】で駆けて、距離を詰めて追撃【2回攻撃】
回復する隙を与えなければ、こんなヤツらすぐにぶっ壊せるでしょ!

……と意気込んでみたものの、オレの火力だとちょっと心もとないから誰かと協力できればいいんだけど
協力してくれるなら【永遠の愛を誓え】で敵の動きを封じておく
敵が動かないほうが、こっちの攻撃が当たりやすくなるだろうし


エル・クーゴー
●POW



オーダー_極大火力殲滅戦
躯体番号L-95、作戦を開始します

コール、ジャイアントマネギ
(招き猫みたいな巨大デブ猫型兵器が降臨)

このマネギはアームドフォートを初めとした当機同様の火器の他、電脳ゴーグルの巨大版も搭載武装として有します
この電脳ゴーグルは巨大なので、平時の当機を凌駕する処理能力――【ハッキング】能力を有します

電脳世界、展開
敵呪式群の構成概念へハック
改竄対象は「敵味方識別能力」
敵が放つ呪力弾に同士討ちを強制し、敵攻撃機会も与ダメージ機会として転用します

事前準備完了
これより火力戦にシフトします

(マネギに搭乗し、確実に一体を潰すよう、共にフォートから主砲群を畳み掛ける【2回攻撃】)


ヴィクティム・ウィンターミュート
──車懸かりの陣、ぶち破ってやる
謙信の企みの横っ腹に、でっけえ風穴を空けてやるのさ

なるほどな?ロボに変形と来たか…やるねぇ
でもいいのかよ?俺を相手にしてさ…
【ハッキング】が得手の相手に、ロボを持ち出すなんざ…愚かだぜ
エンパイアじゃ中々使う機会ねえなと思ったが、僥倖だ
ハイテクノロジーなら、何だって掌握してやる
さて、コアたるオブリビオン本体がいるはずだ
【情報収集】で探って…あぁ、いたいた

【ハッキング】で最後動きを止めて、UC発動
支援攻撃要請──世界指定、座標指定──発射
世界の壁を超える衛星レーザー兵器が火を噴くぜ
狙うは当然コア、ロボを切り裂くようにレーザーが走り、コアを破壊し尽くすだろうさ


木元・杏
皆と連携し戦う

……目だけは可愛くない
それにもふもふじゃない、
もふもふぷろでゅーさー的に推せない
……丸いのはいいことだけど

【うさみみメイドさんΩ】
ん、暴走する式(本体)へ行って
他の猟兵の攻撃補助でちょこまか動いて本体の気を惹き付け
回復する暇を無くして?

わたしはメイドさん(本体)と分裂体対応
槍型の灯る陽光でリーチ取り、第六感働かせ分裂体が迫る方向に素早く反応
早業で槍の一突きで目潰し
近接する個体はメイドさんで殴り飛ばし自分のリーチ維持

魔弾呪式が来る時は跳返の符とオーラ防御で凌ぐ

分裂体が半分片付けばメイドさん、本体へ向かって
それを合図に50体+本体のうさみみメイドさんで息を合わせた強烈な一撃をお見舞い


木元・祭莉
防御陣なのかー。
なんかこう、万華鏡みたいな動きだよね。
ぐるぐる……いや、ぜんぶ見るからダメなんだ、目ん玉だけ睨んでたらいけるー!(アホの子理論)

式、だったっけ。
よし、隙を見せておびき寄せ、騙し打ちにしよう!
ほら、おいらカワイイでしょー♪(尾っぽふさふさっとお尻振って見せ)
ダンスパフォーマンスの存在感で、一つ目の注意を釘付け!

うゎっと。(魔弾を勘で避け)
……ダメ?(かわゆく)
しかたないなあー。ふーっと息を吐いて。

一転、ダッシュジャンプで飛び込み、空中一回転、すちゃっと馬乗りに。
至近距離から、一つ目覗き込み。
式って、舞扇に似てるねー。思ったより、軽いかんじ!

至近距離から、灰燼拳を連打!
どーだっ!



●軍神車懸りの陣の力
「あれが車懸かりの陣か」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が向けた視線の先には、尾を引き漂う三体の赤黒い球体。
 その中心に輝く紅い球体が輝いては――瞳だろうか、心臓だろうか。
 それとも、その両方だろうか。
「丸いのはいいことだけど……目だけは可愛くない」
 巨大な1つ目のオタマジャクシ。そんな感じの式を見つめていた木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)の発した第一声は、そんな厳しい一言。
「それにもふもふじゃない。もふもふぷろでゅーさー的に推せない」
 ぷんすこと、杏の頬が膨らむ。
 式はお気に召さなかったようだ。
「制御を離れた式ね。飼い主にはもっと責任を持って欲しいなあ」
 とっくにお亡くなりになっているであろう何処かの術士に向けた愚痴を零し、セシル・バーナード(セイレーン・f01207)は肩を竦める。
 野生化しただけならまだしも、こうして魔軍将に利用されているのだ。
 愚痴の一つくらい、零しても許されるだろう。
『………』
 尤も当の式たちは、猟兵達の言葉が判っているのかいないのか、無言である。

「こいつら、防御力が高くなって回復までするようになってるんだよね?」
 式に掛かっている上杉謙信の陣による強化の力。
「え? 卑怯じゃない? 卑怯だよね?」
 それを改めて上げた杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)は、その内容に思わず目を瞬かせる。
 とは言え、どの程度のものか――。
「よし、回復する前に一気に壊しちゃおう」
 それが出来るか確かめる為にも、カイトは刃を地に向ける形で薙刀を構え、その刃に破魔の力を纏わせる。
「ふっ!」
 僅かに踏み込みながらカイトが振り上げた薙刀から、衝撃波が放たれた。
 僅かに遅れて、カイト自身も飛び出す。
 自ら放った衝撃波を追ってカイトは関ヶ原の地を駆け――追いつきそうになったところで、強く地を蹴って跳び上がった。
 衝撃波の着弾に合わせて、セーラー服の黒いスカート翻し掲げた薙刀を振り下ろす。
 ガキン。
 返ってきたのは、カイトの予想よりも固い手応え。
「……え、マジ? ほとんど効いてないね? っと」
 驚くカイトを、別の式が突き飛ばす。
 ――回復する隙を与えなければ、すぐにぶっ壊せるでしょ!
 そんな風に思っていたカイトは、後ろに下がった式に付けた斬傷がシュゥゥと煙を上げて勝手に治っていくのを見やり、思わず青と赤の瞳を丸くした。

「万華鏡みたいな動きだね」
 ダメージを分散させるような式の動きを、木元・祭莉(サムシングライクテンダネスハーフ・f16554)はそんな感想を抱いていた。
「ぐるぐる……いや、ぜんぶ見るからダメなんだ」
 前に出てきた祭莉が式をキッと睨みつければ、式がまた並びを変える。
「目ん玉だけ睨んでたらいけるー!」
 ぐるぐるまわる大きな赤い瞳だけを注力してみた。
 怪しい赤い光が、祭莉の視界の中でぐーるぐる。
「目が回った……」
 きゅうとふらつく祭莉を、杏が無言で支えていた。

●猫、降臨
「……オレの火力だと、この硬さと回復力を抜くのはちょっと心許ないな」
「オーダー。極大火力殲滅戦。躯体番号L-95、作戦を開始します」
 一旦、式から大きく距離を取ったカイトの言葉に、エル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)がゴーグルを明滅させながら淡々と返した。
「砲撃陣地を敷設します。コール、ジャイアントマネギ」
 エルの隣に、何やら丸い影が生まれる。
 ドッシンッ!
 重たい音を鳴らして空から降ってきたのは、羽生えた巨大なデブ猫だった。
「砲撃陣地、設営完了」
 真っ白なボディにポッテリの腹回り。大福か鏡餅を連想させるもちもちボディだが、抱えている小判からして、招き猫モチーフだろうか。
 その巨大デブ猫の顔を、サイズ以外はエルのものと同じ電脳ゴーグルが覆う。
 機械兵器『マネギ』は、エルの持つ武装の巨大版を搭載している。それは何も火器に限った事ではない。
「電脳世界、展開――これよりハッキングを開始します」
 マネギとリンクしたエルは、式の中に巡る術式へと侵入を始めた。
『!?』
「敵呪式群の構成概念へハック――抵抗を確認」
 エルとマネギのゴーグルが、激しく明滅する。
「少し時間が掛かりそうですが、無駄なことです。この巨大な電脳ゴーグルは、平時の当機を凌駕する処理能力――ハッキング能力を有します」
 予想外の抵抗にあっても、エルは焦り一つ見せなかった。
 ハッキング出来ないとは微塵も考えていなかったから。

●式との攻防
「時間稼げばいい? 隙を見せておびき寄せ、騙し打ちにしよう!」
 言うなり答えを待たずに式の前に飛び出した祭莉は、自慢のふさふさ尻尾を見せつけるように、くるんと一回転。
「ほら、おいらカワイイでしょー♪」
 さらに尾っぽふさふさっと、お尻振って揺らしてみせる。
 まるでダンスだが、実際、ダンスパフォーマンスのつもりである。祭莉は式の目を釘付けにしてみようとしているのだ。
『――!』
「うゎっと」
 だが、返ってきたのは、紅い明滅から放たれた呪力弾。
「……ダメ?」
 ギリギリ避けた祭莉が上目遣いで首を傾げてみせるが、式からは容赦なく呪力弾が立て続けに向けられるばかり。
「ダメかあー」
 ほとんど勘だけで呪力弾を避けた祭莉が残念そうに呟く。

 それを見ていたセシルが、式に向けて片手を掲げ指を向けた。
「砕け散れ」
 セシルが告げたその一言は、空間を壊す言葉。
 何の前触れもなく。
 一切の音もなく。
 式の周りの空間が幾重にも断裂し砕け散った。その断裂自体、セシル以外には視る事も敵わない不可視無音の空間攻撃。
「えっ!?」
 だが、それをまともに浴びた筈の式は、紅い瞳を怪しく輝かせていた。
「……へぇ。空間裁断に、耐えるんだ」
 良く見れば式の真っ黒な身体には、セシルだけに視えていた空間の疵と同じ傷が――残っていたが、セシルの目の前で消えていく。
「おまけに不可視の攻撃にも、動揺しないみたいだね。意識なんてものないのかな」
「いえ。表に出ないだけで、動揺はしたようです」
 セシルが零した呟きに、エルが反応した。
「攻撃概念領域確認――改竄対象、敵味方識別能力――完了」
 完了、とエルは告げると同時に、式の赤い瞳がまた赤く輝き出す。
 溢れる呪力の輝きが、いくつもの呪力弾となって放たれ――その大半が『ぐんっ』と曲がって、別の式へと殺到した。
「同士討ちを確認。事前準備完了」
 一体の式に侵入し書き換え、同士討ちの状況を作る。敵の攻撃が敵に向けば、それだけ畳み掛けやすくなる。
 だが、それはエルの本命ではない。
「これより火力戦にシフトします」
 マネギの背に乗ったエルが専用の携行型固定砲台を構える。
 すると、マネギの肉球がカパっと開いて、やはりサイズ違いの携行型固定砲台がにゅぅっと突き出てきた。

●死ぬまで離さない
『『ざ…………ざざっざざざ』』
 それ自体がなにか呪文の類だろうか。
 敵味方の識別能力をまだ保っている2体の式が、揃って同じ音を発する。
 直後、式達が――分裂した。
 分裂した式を前に出し、本体が猟兵から遠ざかろうとする。

「みんな、みーんな、オレのもの」
 それを見たカイトが、左手を掲げた。
 薬指に嵌めた指輪から、緑碧の光を放つ。
 光は星型の葉を持つアイビーの蔦となった。アイビーの蔦は一つではなくいくつも現れて、式達に絡みついていく。
「しばらくは押さえてみせる」
 言っている間にも、カイトの指輪からはアイビーの蔦が幾重にも伸び続けていて、次々と式本体に絡みついていった。
 式に対して蔦はあまりにも細くみえたが、蔦は千切れる気配も見せはしない。
 その秘密の一端は、名前にあったのかも知れない。
 アイビーの花言葉――死んでも離れない。
 式に絡みついた蔦は、花言葉の体現そのものの様に強固な束縛を齎している。
 それもその筈。
 永遠の愛を誓え――カイトが使っているユーベルコードの読みは、アイビーの花言葉そのものなのだから。

●世界を壊す音
 増殖した式前に、黄金の尾をゆらりと揺らしセシルが踏み込む。
「Come On, My Orchestra!」
 バイオリン、チェロ、トランペット。エレキギターにドラム。はては鼓や筝まで。
 和洋問わずの手足を持つ擬人楽器の集団――奏鳴楽団が、セシルの周囲に現れる。
「数で蹂躙出来るほど、ぼくは甘くないよ。さあ、これからが最高潮だ!」
 パチンとセシルが音を鳴らせば、奏鳴楽団の楽器一つ一つが、自らの手足で美しくも激しい音を奏で鳴らし始めた。
 そこに、セシルが歌声を重ね始めた。
「Disbeat, Disrupt! 世界よ、自ら崩れ連鎖せよ!」
 打ち負かせ、破壊せよ。
 貴族的なセシルの外見からは想像し難い、楽器の音に負けないハードボイス。
 楽器の音と歌声が重なる。
 それは計算された不協和音。
 世界が崩落するが如き激しく重厚なる音の暴力――死の絶唱(デスメタル)。
 空間を砕いた以上の音の衝撃が、式の分身の大半を一気に消し飛ばし、さらされた式本体の身体にも、ビシリと亀裂が入れる。
 そこをエルとマネギが放った2条の光が撃ち抜かれ、式は無言で消えていった。

●うさみみメイドと狼拳
「数には数――いってらっしゃい」
 杏が、50体に増やしたうさみみメイドさんを一気に本体へ向かわせる。
 べしべし、ぽかぽか。
 殺到したうさみみメイドさん分隊は式に取り付いて、そんな感じで叩きまくる。防御を抜けないかも知れないが、式の目を逸らす為なら一先ずは充分だろう。
 その間に、杏はうさみみメイドさんの本体と共に式の分身体の方へ向かっていた。
「合体する前に、倒す」
 杏の掌から白銀の光が生まれる。
 光は真っ直ぐ伸びていき――光の槍となって杏の手に収まった。
「ん。よっ、ほっ」
 回り込もうとする式の動きを遮る様に杏は光の槍を振るい、突き込む。白銀に輝く光が閃く度に、暖陽の彩が花びらと舞い散り、式の黒を貫いていく。
「――!」
 槍を掻い潜って突っ込んでくる式は、うさみみメイドさんがすかさず殴り飛ばす。
 自分の間合いを保ち、杏は式の分身体を駆逐していく。
「分身、粗方片付いた」
 ダンッ!
 聞こえた足音に杏がちらりと本体の方を視ると、くるんと空中で回転した祭莉が、式の紅い瞳のある胴体の上に着地したところだった。
「まつりん。乗り心地、どう?」
「うーん、変な感触! 舞扇に似てるねー。思ったより、軽い感じ!」
 尋ねる杏にそう返して、祭莉は式の上にふぅーっと大きく息を吐いた。
 大きく空気を吸い込んで、もう一度吐く。顔を上げた祭莉の両目には、狼のようなギラリとした輝きが宿っていた。
「よし。アンちゃん!」
「全メイドさん、本体へ、ごー」
 祭莉に呼ばれた意図を察して、杏がうさみみメイドさんの本体を50体の分身と合わせて式の本体にけしかける。
「至近距離なら……どーだ!」
 式から飛び降りた祭莉の拳に宿る輝きは、まだ薄い琥珀色。
 うさみみメイド51の息のあった突撃と、至近距離からの全身のバネで放つ狼拳。
 式の前と後ろから同時に叩き込まれた二つの衝撃が、式の中でぶつかりあう。行き場をなくした衝撃が、式の身体を空気の入れすぎた風船の様に破裂させた。

●天光穿つ
 ガシャン、ガシャン、ガシャガシャッ。
 戦場に残る鎧兜、刀、弓。
 あらゆる兵器の残骸が集まって、最後に残った式を覆い隠していく。
「なるほどな? ロボに変形と来たか……やるねぇ」
 無機物と合体し式が巨大な式ロボと変化していくのを、しかしヴィクティムは余裕の笑みを浮かべて眺めていた。
「でもいいのかよ? 俺を相手にしてさ」
 そうは言っても、式が知るはずもない。
 ヴィクティムがどういう猟兵であるかなど。
「ハッキングが得手の相手に、ロボを持ち出すなんざ……愚かだぜ」
 ヴィクティムが、電脳接続デバイス『ICE Breaker』をその両目にかける。
 それに、式ロボが反応した。
 合わさった無機物の表面に、数多の呪文が浮かび上がる。
 別の式が何らかの侵入をされた事を、式なりに見ていたのだろう。
 観察した結果の、対抗。
 だが。
「ほー。そう来るかぁ。見ていたのは、そっちだけじゃねぇんだよ!」
 ヴィクティムもまた、式がハッキングされるのを見ていた。
 その時の抵抗の術式も。
 電脳と陰陽。体系は違えども、言語を元にした式であるという点は同じだ。猟兵達のハッキング技術で解析し、侵入出来ない筈がない。
「エンパイアじゃ中々使う機会ねえと思ったが、僥倖だ。てめぇを掌握してやる」
 瞳の網膜の『ヒラドリウス』。
 右腕の『フェアライト・チャリオット』、左腕の『トランシス・アヴァロン』。
 ――そして大脳に埋め込んだ『ウィンターミュート』。
 ヴィクティムが体内にこれほどの電脳デバイスを埋め込んでいて、恐ろしい速度で侵入してくるなどと、式ロボが知り得る筈もない。
「さて、上手く隠れたみたいだが、コアの式は消えてねぇ筈だ」
 広がった術式を、ヴィクティムは片っ端から調べて本体の式の位置を探っていく。
「あぁ、いたいた――よし、止まっとけ」
 見つけた部分の周囲の術式を引っ剥がし、ヴィクティムは無機物の集合体の中で式が動かぬように強引に固定。
 更に新たに絡みつくカイトのアイビーの蔦が、式ロボ自体の動きを止める。
「支援攻撃要請──世界指定、座標指定」
 ヴィクティムがアクセスし制御し始めたのは、遥か空の彼方。
 SS級秘匿破壊兵器『ANNIHILATOR』――根絶の意の名を持つ衛星兵器。己は端役たれとするヴィクティムにとっては、似合わないと自負する強力な火力。
 だが――必要なら、使う事を躊躇いはしない。
「ターゲッティング終了。攻撃範囲が大味過ぎるが、殲滅力は折り紙つきだ。静かになるまで、ぶちかませ!」
 ヴィクティムの指示で、天から一条の光が降り注ぐ。
 世界の壁をも超える光が、式ロボの胴体中央やや左よりを撃ち抜き――上半身のほぼ半分を構成していた武具ごとそこにいた式を跡形もなく消滅させていた。
「ま、謙信の企みの横っ腹に、でっけえ風穴を空けてやるには丁度良かったな」

 軍神車懸りの陣――その一角は、完全に撃破された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月15日


挿絵イラスト