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エンパイアウォー⑧~いのりつもれど

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●喰らい、喰らわれ
 ――それは目を覆いたくなるような惨憺たる光景だった。

 ひとが喰らわれる。皮膚が破れ、血が零れ、臓腑がぼろぼろとまろび出る。喉が裂かれ、骨が砕かれ、こびり付いた肉片までも啜られる。
 獣の所業なれど、それをなすのは獣ではない。――醜く崩れた肌、零れ落ちた眼球。その双肩に輝く水晶に操られし、人であったものたちだ。
 悲鳴が上がる。うちの妻が、あたしのいい人が。寝たきりの爺さまが、かわいい坊やが。恐れ慄きながら、それにも勝る人の情を以て助けに戻ろうとする者たちを、村人たちはこれも情を以て引き留める。
 ありゃあもう助からん、おまえさんだけでも逃げるんだ。逃げるってどこへ、ああこっちも奴らがいる。城だ、城に逃げ込むしかない――。
 絶望と混乱の坩堝の中にある村人たちの目に、唯一、救いと見えたもの。命からがら辿り着いた城は、ただひと時も彼らを安らがせる場所にはなり得なかった。

 そこで喰らい、喰らわれるのは、昨日まで共に笑っていた者同士。
 縒り合された悲嘆と怨嗟に強度を増す『術』が、この国に重苦しい災いを生みなしていく。

●届かぬ祈りのために
 ジナ・ラクスパー(空色・f13458)は、ぎゅっと強く握った拳をようやく解いた。
 こんな酷いことはない。こんなことが許されていい訳がない。噴き出しそうな感情を胸裏に留めて唇を開く。
 サムライエンパイア、山陰道にある小さな集落を襲う水晶屍人らの群れは、十体程度のもの。だが、奥羽の軍勢に見られたような弱々しい個体ではない。その十倍もの戦闘力を振い、一部の村人を喰い殺す様を見せ付け、恐慌に陥った者たちを鳥取城へ追い立てるのだという。
 かつて戦いのさなか、『鳥取城飢え殺し』と名付けられた兵糧攻めが行われたこの場所には、強い恨みの思念が怨霊として焼き付いている。その力を利用し、さらに追い込んだ人々を飢餓の果てに殺すことで、村を襲った者たちと同じ、強力な水晶屍人を生み出そうという企て。
 量産を許せば、山陰道を通る幕府軍と猟兵、その全てを殺し尽くして余りある戦力となるだろう。
 でも、とジナは顔を上げる。
「大丈夫、これはまだ起こっていない事態なのです。これから皆様を村までお送りいたします。どうか、水晶屍人たちの襲撃から村を守ってくださいませ」
 猟兵たちと屍人との戦いが始まれば、村人たちは逃げるに任せて構わない、と話は続く。
「辺りを把握しないまま指示を出すより、その方が安全な筈です。村の方々には土地勘がありますから。皆様は屍人の討伐に注力してくださいませね」
 それとて易い戦いではない。人肉を食い破り、骨を噛み砕く強靭さを持つ敵だ。それもかつてはひとりの人であったものだが、今は理性なく、倒したところで命は返らない。――祈りが届くことは、ないのだ。
 それでも、手の届く命ならあるからと、もう一度拳を握り締める。
「……心ない行いの責めを負っていただくべきひとの名は、魔軍将、陰陽師『安倍晴明』。ここで相対することはできません。でも、こうしてひとつずつ策を潰していくことが、確実にそのひとを追い詰めることになる筈ですから」
 共に発ちたい気持ちを抑え、笑う。再び開いた掌に、グリモアの光が溢れた。
「どうか気をつけて行ってらっしゃいませ。――皆様にご武運がありますように!」


五月町
●ご一読ください
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●ご参加について
 冒頭部の追加はありません。公開直後からプレイングを受付します。
 プレイング採用の最低ラインは4名様、判定次第ではもう少し増える可能性もありますが、少人数運営となります。不採用がいつもより多くなる可能性が高いです。ご了承の上ご参加ください。
 マスターページ及びTwitter(@satsuki_tw6)にて受付終了をお報せしますので、送信前に一度ご確認をお願いします。

●集団戦:『水晶屍人』
 強化水晶屍人の群れ。猟兵一人につき一、二体を相手取る戦いとなります。
 敵が村に入り込む直前に到着できます。村人の避難誘導プレイングは今回は不要です。
 技能を羅列するプレイングはお勧めしません。キャラクターが技能をどう生かして戦うか、どんな気持ちで戦うかをプレイングに込めていただけましたら幸いです(判定はしっかりと行いますが、心情寄りのリプレイになると思われます)。

 それでは、どなたにも好い道行きを。
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第1章 集団戦 『水晶屍人』

POW   :    屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィオリーナ・フォルトナータ
現地に到着次第、村の方達との間に割り入るように動きます
大丈夫です、ここはわたくし達にお任せくださいね
屍人は強敵とのこと、元は村の方と思えば揺らぐ心地もありますが
救うことが叶わないのであれば、為すべきことはひとつ
これ以上の災厄が、悲しみが広がらないよう、ここで終わらせましょう

薙ぎ払うように剣を振るい、間合いに踏み込まれない位置取りを心がけながら
牙や爪は盾で受けつつ、隙があればカウンターをお見舞いします
例え身体を食い破られようと動けるのならば構いません
機械の…こちらの世界ではからくりというのでしたか、味は如何ですか?
機が熟したなら守りを捨てて屍人の懐へ
全ての力を込めた聖煌ノ剣の一撃で、終わらせます



 大丈夫です――と。恐ろしい災魔の前に立ち塞がった娘の声は澄んで、華奢なその背に守られ逃れる村人たちに、微笑みすら感じさせた。
「ここはわたくし達にお任せくださいね」
 金を編み上げた柄、曲げることなき信念にも似た美しい剣。翻す一閃に待ち構える水晶屍人はいかにも恐ろしく、醜く――けれどフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)の胸を灼いたものは、そんなうわべの齎す安い畏怖ではなかった。
(「……彼らも、元は」)
 そう――何処かの郷に長閑な暮らしを営む、村人であった筈のものだ。腐り果て、異臭を放ち、その装いのほかに面影を残していないとしても、確かに。
 破魔の力に澄んだ煌めきを宿す一閃を振り下ろせば、屍人は牙を剝きその腕に喰らいつく。
 飢えによって殺されたものの怨念を宿すというそれの前には、すべてのものが等しく糧だった。執着の齎す手酷い痛みにも、フィオリーナは微かに眉を寄せただけ。それを見る者がもしあれば、確かに――彼女が自ら評するように、剣を振るうことしかできない人形とも映っただろう。
 けれど、フィオリーナには心がある。死してなお玩ばれるものに、傷より深い痛みを感じる心。迷いなく屍人を切り裂く傍らで、なすすべはなかったかと揺れる心。そして、
「救うことが叶わないのであれば、為すべきことはひとつです」
 自身の痛みを在るままに、為すべきひとつへ向かうしなやかで強き心も、確かに。
「……――オ、ア……ァ!」
 しゃにむに襲い来る凶爪を盾で受け止め、全力を以て衝き返す。ぐらりと揺れた体躯に剣を振り下ろせば、腐肉のこびりついた腕の骨がごとりと落ちた。けれど、動きを止めるには至らない。
「いいえ、まだ――、……!」
 ずぐ、と肩を穿つ痛みがあった。振り払いざまに見舞った剣戟に吹き飛びながらも、新たな屍人は咀嚼を止めない。死してさえ満たされぬ渇望を、眼球を失った空の眼窩が訴えている。
 ええどうぞ、と許す代わりの一尖が、聖なる光に屍人を灼き焦がす。
「機械の…こちらの世界ではからくりというのでしたか、味は如何ですか? ――骸の海へ持ち返るに足りたでしょうか」
 痛ましさに止める足など持たない。オルゴールの音色に首傾げるのと同じように、鏡の上を滑るように踊るのと同じように。たとえ食い破られようと動ける限り、心ある限り、剣をとり戦うことがフィオリーナの本質。――人形として、ひととして。
 落とされた腕を自ら喰らい、残る片腕に次の糧を掴み取ろうとするものへ、終わらせましょうと盾を突きつける。肉を求めて藻掻く爪の圧は強く、防げるのは僅かの間。
 それで構わない。空色に染まる瞳が、剣を伝いゆく白光を映す。これが最後と強く断じる心の耀きが、眼前の災厄と悲しみを決して広げはすまいと強まっていく。
 盾を薙ぎ払い、喰らいつく牙。我が身を差し出したかに見えた腕が、輝く一閃に屍人を穿つ。あるべき終わりへ還していく。
「せめて悲しみも飢えも忘れて眠れますよう。――断つべき罪は、貴方にはないのですから」
 力を失った顎をそっと追いやり、柔らかに微笑んだ声は、はじまりに村人達に向けた言葉と同じ響きを抱いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎

殺して…更に利用するってか?
趣味が悪いにも程があるだろ
人を的確に苦しめるそのやり口が
かつての仇を思い出させる
…んなもん、ここで終わらせてやる

【望みを叶える呪い歌】を『歌い』速度をあげる
あげた速さで攻撃を『見切り』回避
飢える苦しさはよく知っている
だからと言ってお前らに食わせてやる気はねぇんだ
それじゃなんもおわんねぇ
悪いな
小さく呟いてまっすぐ見据える
…その代わり、『全力』の炎で送ってやる
バックステップで下がり
距離をとって『力を溜める』
敵が振りかぶったその瞬間を狙って炎の『属性』をまとった斬撃を真っ直ぐに
剣を『2回』煌めかせ
これ以上、なんの苦しみも味わわなくて済むように一瞬で
…静かに眠れ




 ――……♪
 屍を迎えたのは、命あるものに星の花の燦めきを思わせる歌声だった。
 何処で見ているかも知れぬ卑怯者、不愉快な術の担い手の、悪意に満ちる大地を塗り替えるかのように。セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は歌声に、いつにない熱を絡ませる。震える喉が奏でる音がいつもより強く響いたのも、無理からぬことだ。
 纏うは根源の魔力、希うはひとときも損なわず終わらせる速さ。歌の加護が躱させた鍬の一撃が地に穴穿ったのを横目に、セリオスはち、と舌打ちをする。
 不快は隠さない。隠せなかった。似ているのだ、術者のやり口が――故郷と友を盾に、セリオスを的確に苦しめた母の仇と。
 殺してさらに利用する、死してなお苦しめる。自分たちと同じ身の上であったと察せられるものを、村人達に恐れさせる。
「――ふざけんな、趣味が悪いにも程があるだろ……!」
 自分なら耐えられた。その先に輝く星の光があったから。けれど、それが誰の先にも輝くものではないと知っている。――輝いたところで、耐えられない者の方が、この世界には多いのだということも。
「――ウ……ア、ァ……!」
 嘆きか、呻きか。セリオスの喉には発しようもない、濁った響き。それと共に繰り出された第二撃は、飛び退いたセリオスの頬を掠める。
 屍人にではない、その肩に咲く水晶の向こう側に。冷えきった怒りの炎を胸に揺らめかせ、それでも体は心から切り離されたように、揺らぐことなく為すべき手順を行動に移していく。
 突き放した距離は長くは保たない。だから決して視線は逸らさずに、動き回りながら魔力を溜める。属性は『炎』――この怒りを映して燃える、全力の赤。
「苦しいか? そうだよな、聞くまでもねぇ」
 嘗ての自分は頷きはしないだろう。けれど敢えて訊くのだから、自分も確かにそう感じていたのかもしれない。暴れ狂う鍬を避け、剣戟を返し、時に蹴り飛ばして軌道を変えながら。セリオスは屍人を真正面から見つめ返す。
 飢えの苦しみをよく知っている。けれど、
「だからと言って、お前らに食わせてやる気はねぇんだ。それじゃなんもおわんねぇ」
 次を生まぬ為に。悲劇を繰り返さない為に。自分は今、全ての力で送ってみせるから。
 悪いな、と。囁いた声のさやかさに反して、青星の剣には鮮やかな熱が燃え上がる。狙うは一瞬、振り上げた鍬が落ちる前に。
 叩き付けた剣戟にもう一閃重ねれば、炎の中に屍人は爆ぜる。あの姿になって尚、痛苦を感じていたかは分からない。分からないけれど、
「なあ、きっとよく眠れるぜ。もうこれ以上、なんの苦しみも味わわなくて済む」
 ――だから、静かに眠れ。
 塵一つ残さず燃え尽きたものを見送って、それでもまだ、セリオスの眸に宿る炎は冷めゆこうとはしなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

玖・珂
よくも惨たらしい行いばかり思い付くものだ
やはり大元を滅さねば、水晶屍人の被害は潰えぬのだな

農具という事は怨霊の元は農民か……なれば武器捌きは大振りであろう
藍の花にて高速移動を可能に
視力を凝らし、死角には第六感も張り巡らせて
複数が相手であろうと敵の攻撃を回避、防御してみせよう

攻撃の中止が出来ぬのなら相討ちとなるよう
誘導を図ろうかとも思うたが……

攻撃が単調な軌道に、或いは速度が緩んだ時に
農具へ早業で糸雨を巻き付け武器を曳き吹き飛ばそう

私は幸いにも飢えで苦しんだ事はない
飢餓は体を、心を狂わせ、遺骸さえも奪い合わせたという

死してまで同士討ちをさせる訳にはゆかぬ
鋼糸より斬撃を放ち、屍人の首を落とすぞ




(「農具――という事は、怨霊の元は農民か」)
 推察に胸を塞ぎゆこうとする感情よりも今は、この戦に利する事実のみを。玖・珂(モノトーン・f07438)の眼は、鍬振り翳す水晶屍人の直線的な動きを注視していた。
 戦慣れたる武人の覚えがその身に染み付いていないとすれば、武器捌きは大振りであろう。だが、腹立たしいほど澄んだ耀きを帯びる肩の水晶が、それを補って余りある速さを屍人に与えている。
 右目に開くは藍の花。自らの命を惜しみなく対価に差し出して、玖珂は力任せに振り下ちる鍬を翔ぶように回避する。己を糧として咲く花に、まだだ、と力巡らせて、
(「足りぬ。もっと疾く――一撃でも多くを躱してみせる」)
 黒爪より放たれる鋼の糸は即座に編まれ、思いがけず速く翻った鍬の一撃を防ぎ止める。
 視界の端に、油断なく澄ませた第六感に掛かったものに振り向けば、鋤を手にしたもう一体が。知れたことと唇は微かに笑い、胴へ衝き込まれる一撃を蹴り飛ばす。
 ――躱す、と。常ならば身に傷受けるも厭わぬだろう玖珂の心根をそう強く思わせたものは、この憐れなる屍人らの堰とならんとする強き意志。
 喰らわれれば堰は破られる。破られればまた犠牲は増える。なれば一口とて、安易に喰らわせてやる訳にはいかない。
「よくも斯様に酷たらしい行いばかり思いつくものだ」
 よほど精根捩れ果てていることだろうと、高みの見物を決め込んでいるのだろう術者への軽蔑に心は冷える。編まれた糸の守りに爪食い込ませ、強引に叩き込んでくる鍬の軌道には、と瞠目する。
 振り上げた得物を止めることも知らず、単調なる軌道で己に敵意向けるものたちなれば――身を逸らし相打ちを狙うことも叶った。だが、玖珂はそれをしない。
 手許を強かに打ち、ごく僅かに鍬の軌道を逸らす。瞬時に鋭き一線へ編み変えた鋼糸に、全力で傾けた自重を以て飛び込ませる。
「オォ……――、ア」
 上下に切り離された胴がごとり、落ちた瞬間、背後よりの衝撃が玖珂の胴を打った。避ければ倒れた屍人を薙ぎ払ったはずの一撃だ。甘んじて受けたそれに動じることはせず、風切り奔らせた一端で鋤を絡げる。曳き斬られた柄がばらりと落ちる、その隙に渾身の一撃で吹き飛ばす。
 彼らの生は豊かではなかったかもしれない。だが、慎ましやかな生き甲斐を、幸いを耕した筈の農具を用い、死してまで同士討ちをさせる訳にはいかない――させるものか。
 放つ糸が喉を締め上げる。ウ、と濁った呻きが耳を打った。玖珂の瞳がそれに揺れることはない。
 幸いにも飢え知らぬ身が、その極みを知るものを斃すのだ。欠片ほどの胸の痛苦を受け容れずして何としようか。
「――やはり大元を滅さねば、水晶屍人の被害は潰えぬのだな」
 黒く澄んだ眼差しは、屍人の終わりを――そして今は彼方にある、真に倒すべきものを見据えている。
 転がった首がそれ以上の苦しみを吐き出すことは、もう、ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・スノーバー
敵の進軍を阻むには、ぼくは小さい身ではあるんだけど…
こんなの悲し過ぎるもん、敵の歩みを止める事なら出来るつもりだよ?

華吹雪で草履を縫い止めるかのように、鍬を磁石のように吸い寄せるかのように
地面をさらさらと、吹雪かせて先ずは動きを鈍らせるね。
寒さで留めるのは厳しそうだから、今度は敵の視野を奪うように吹雪かせてから距離を詰めて一撃を当てていくよ。
水晶に当たろうとも、倒さなきゃいけないから
震える衝撃も、ちゃんと奪うことなんだって判ってるから
あるべき姿に戻さなきゃ、なんだよー。
挟まれると厄介だから、敵の動きをしっかり見て
同士討ち状態で隙を作るのも視野に入れて動くようにするねっ。
怖い時間はもうおしまいっ




 起ころうとしている悲劇には、不似合いなほど晴れた空だった。
 逃れようとする村人達の声を背に、水晶屍人を待ち構えるユキ・スノーバー(しろくま・f06201)の体を、陽の光がじりじりと灼く。けれど、雪の地を故郷に持つ彼が涼しげにしていられたのは――この熱の中に幻想的な雪を広げる、華吹雪のお陰。
(「元、村の人なんだよね。敵の進軍を阻むには、ぼくは小さい身ではあるんだけど……」)
 それでも、どうしても止めたかったのだ。――だってこんなの、悲しすぎるから。
 さらさら、さらさらと雪が降る。草履履きの足を凍りつかせ縫い止めるように、振り上げる鍬に氷を纏わせて重く地に吸い寄せるように。そうして歩みを止めることなら、小さなユキの体でもできるのだと、懸命に。
 それでも、
「……グ、ア、アアァッ……!」
「ひゃあーっ!?」
 屍人は嗅覚鋭くユキを見つけ出す。襲い掛かった凶爪は、ころりと転がり直撃を避けようとしたユキを軽々と吹き飛ばした。
「うーん、動きは少し鈍くなったけど……寒さでこの場に留めるのは厳しそうなんだよ」
 諦めない。しゅぱっと立ち上がり、ユキはもう一度華吹雪を喚び起こす。
 怨霊による強化のためか、理性を失ってはいても、屍人の感覚は研ぎ澄まされているようだ。方向感覚を奪う雪景色も、ユキの気配を完全に消してはくれない。
(「でも、狙いを逸らす助けにはなるはずっ。一撃を当てる一瞬だけなら、きっと」)
 身を震わせたのは勿論寒さのためではなく、恐れ――ない訳でもないけれど、それだけでもない。武者震いーっと愛用の得物を突き上げ、ユキは雪景色の中へ飛び込んだ。
「怖い時間はもうおしまい! 覚悟ーっ!」
「グ……ウ、ゥ!」
 元気よく振るう一撃が、がつん! と左肩の水晶に弾き飛ばされる。位置を掴んだ屍人の牙が飛び掛かってくる。貫かれた痛みをぶんぶんと突き放し、もう一度挑みかかる。
 幾度弾かれても、倒さなければいけない。衝撃に手が痺れても、諦められない。
(「手が震えてる……でもでも、これも『ちゃんと奪うこと』なんだって判ってるから」)
 こんな在り方は、生きているうちに入らない。きちんと終わらせてももらえない屍人たちは――なんだかとても、ユキの胸を詰まらせるのだ。
(「だいじょうぶ、やるっ。あるべき姿に戻さなきゃ、なんだよー」)
 立ち上がる。自在に作り出す吹雪の中、届く匂いは相手も自分も同じ。それならと風上から近づいて、敵の動きをしっかり見て――跳んだ。
「今度こそっ、てやーっ!」
 屍人は、悲しい。けれど、その悲しみに飲み込まれない強さをユキは持っている。
 その一撃を、水晶は弾かなかった。命を貫く感触がユキの手に伝わる。掠れた怒声が大きな耳に届く。
 ――これが奪うことだ。
 呪わしい声を吹雪が吸い込んでいく。禍々しい気配が遠のいていく。もう、飛び掛かってくる気配はない。
 身構えた武器を下ろして吹雪を止めれば、夏の気配が蘇った。溶けていく雪の中に亡骸を見つけて、ユキはととっと近づいた。震えはいつしか止まっていた。
「――もう、だいじょうぶなんだよ。おやすみなさい」
 祈りが失われた命を取り戻すことはないけれど、幸せな夢を祈ることならできるのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェレス・エルラーブンダ
やさしくしてくれたやつが、かなしむのは、いやだ
……だから、

地を這う怨嗟の声
鼻がもげるような腐敗臭
『死』が、やってきた
そう思った

身体中に仕込んだ刃を奔らせ前線に躍り出る
棘檻、二回攻撃を駆使
仕込んだ刃を放ち尽くしたなら
ぼろ布を脱ぎ捨てシーブズ・ギャンビット
より弱っている個体を優先して攻撃

いつだっておそろしいのは『生きているにんげん』のはず
蠢めくしかばねの虚ろな目と目が合う
瞬間、本能が逃げろと警鐘を鳴らす
肌が粟立つ、毛が逆立つ
こわい、こわい、こわい
――でも、でも――!

喉笛を刃で貫いた
それ以上の怨み、恐れを吐かせたくなくて

……こんどは、誰にも起こされないようにしてやる
だから……もう、あばれなくて、いい




 ただびとよりはよく利く鼻を持つものを、灼熱の下を訪い来るものの匂いが強烈に刺した。
 ――『死』がやってきた、と心震わせる暇もなく。腰に佩く二つの『牙』の重みを確かめ、全身に仕込んだ暗器を油断なく尖らせて、フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)は振り下ろされる水晶屍人の凶爪を迎え撃つ。
「――……ウウ!」
「……ッ」
 纏うぼろ布ごと引き裂かれた肌に、熱が走った。
 硬く鋭く、警告された通りの強さを以て、力任せに次の一撃を繰り出そうとする爪に、フェレスの纏う暗器、『棘』のひとつが突き刺さる。屍人の動きが止まった一瞬を見逃さず、棘のすべてに意志を行き渡らせた。
「近寄るな」
 ただ一言。それを体現する暗器の群れは、刃の嵐を巻き起こす。鈍色の光が自在に駆け、屍人を切り裂く、自ら光を手に取って、擲つ、蹴り放つ。――確かに自分の意思でそうしているというのに、フェレスの胸には言い知れぬ感情の波が、これも嵐を引き起こしていた。
 フェレスの世界に恐怖を呼ぶものは、いつだって『生きている人間』だった。今だってそれは変わりない。怖くないやつもいる、優しくしてくれるやつもいる。けれど、そうでないやつだって確かに――いる。
 だから、こんな感覚は初めてだった。屍人の眼と、眼が合う。確かに相手はこちらを見ている。敵意を向けている。
 それなのに、濁った眼球は何処も捉えていないようで。右の眼窩は空のまま、深い闇がそこから覗いている。
(「――こわい」)
 呼吸が震える。肌が粟立つ。短い毛が逆立つようだ。どくどく血が騒いで、がんがん頭が鳴って、逃げろと全身で叫んでいる。
(「こわい、こわい、こわい――でも」)
「グ……アアアアアッ!!」
 裂けた口に牙を剥き出しに飛び掛かってくる、人であったもの。人でなきもの。頸を庇った腕に喰らいつかれる痛みを最後の棘で切り離し、フェレスは気づく。
 地を這う怨嗟の声は悲しみか怒りか、情を持たないただの雄叫びかもしれない。だが、聞く度に胸を衝く、違う痛みがある。
 二振りの牙を躍らせて振り払う。自分に優しくしてくれるやつらは、きっとこの存在を悲しむだろう。励ますように手を取り送ってくれたやつも、悲しむだろう。それが嫌だから、戦う理由はそれだけだった。
 でも、今は。
「もう……うらみは、はくな」
 ――止めてやりたい。胸の痛みの正体はそれだった。一度終わったのだから、終わったままでいい筈だ。
「ゥ――ガ、……ッ!」
 脱ぎ捨てたぼろ布を牙に噛ませる。軽くなった足で地を蹴り、懐に飛び込む。押し当てたふたつでひとつの牙が、屍人の喉に食い込んで――声と共に、命を絶つ。
「これでもう、誰にも起こされない。だから……もう、あばれなくて、いい」
 崩れ落ちた屍人の瞼に、手を伸ばす。恐怖はまだ拭えない。指先が震える、それでも。
 腐敗した柔らかな皮膚は、触れれば崩れそうだった。注意深く閉じさせて、小さく息を吐いた――そのとき。
「……?」
 自分の頬を伝い落ちた熱の雫が、弔いのように亡骸の頬を濡らした。

成功 🔵​🔵​🔴​

鞍馬・景正
鳥取城――その凄惨さはよくよく伝え聞いております。
それこそ八王子城の悲劇にも並ぶもの、と。

……人は天地の清きより生まれ来て、元の住処に帰るもの。
その理を捻じ曲げる外法、断ち切らせて貰う。

◆戦闘
屍人たちに立ち塞がり、【羅刹の太刀】で相手を。
接近を許さず、遠間から【怪力】を込めた剣撃の【衝撃波】を浴びせさせて頂く。

掻い潜られれば素早く刃を返しての【2回攻撃】で薙ぎ払い、間合を意識して立ち回ろう。

――豊公の行った飢え殺しは、その天才が有り余ったが故の知略のひとつではあったろう。

だが屍を蘇らせ尖兵にするなど、余りに陋劣。
斬り抜いても勝利の陶酔もありはせぬ。

この忸怩たる痛み、いずれ必ず術客本人に還す。




 羅刹の怪力を込めた衝撃波にも、屍とは思えぬ力強さで接近する水晶屍人の歩みが止まることはない。
「ウ――……ガ、アァ!!」
 飛び散る肉片に涼やかな顔を歪めることもなく、鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)は己の振るう太刀の如くあった。
 鞘の内にあっては静謐、放たれては怒濤――天衝く如く威容を高め、見上げるほどの大太刀に変化した士刀『濤景一文字』。籠めた力の重みを反動に、辿り着いた凶爪を薙ぎ払うも、屍人の反応は速い。もはや痛みも苦しみも得られぬのだろう体は、水晶の動力尽きるまで動き続けるに相違なかった。
 胴に喰らいついた牙が赤い染みをつくる。布もろともに喰らわんとする首を柄で叩き落とし、景正は即座に間合いを取った。
(「――……豊公の行った飢え殺しは、その天才が有り余ったが故の知略のひとつではあったろう」)
 鳥取城の兵糧攻め。物資を断ち、飢えた口を増やし、耐えるものの心を砕く、ある意味歴史に名高き戦。
 戦いに勝ったものこそが全てと、天下を統べるべく繰り広げられた戦の時代の中、それは勝つための戦略のひとつでしかなかったろう。そして景正自身もまた、戦を担う側に近しいものとして、その戦いを理解はできる。――できてしまう。だが、
(「……斯様に、報われぬ」)
 反撃の刺突に一体を地に縫い止めれば、彼方より差し迫る一体が。刻々と身を削りゆく力を余さず注いだ大太刀を引き抜き、待ち受けながら、景正は歯噛みせずにいられない。
 果てに怨霊として染み付いたばかりか、その怨嗟、無念をこうして玩ばれ、こうして新たな屍人の糧となされ。その陋劣なる所業に憤せずにおれるほど、心なき士ではない。
 突き放さんとした屍人の爪が、しぶとく袖に絡み付く。びりりと裂けた袖の下に現れた肌に、がぶりと、飢えたその口が喰らいつく。
 景正は吼えた。痛みにではない。静かに血を滾らせる心の熱に。真に斬り払うべき元凶が、ここにないことに。
 返す刃が敵を斬り剥がす、翻してもう一閃、叩き斬る。哀れな尖兵をいかに斬り抜き勝利を得たところで、酔い痴れるべき味もあろう筈がない。
 起き上がろうとする屍人を、得物の尺だけ衝き放す。自らを裂く刃にすら喰らいつくさまは、生前の飢餓を見せつけるようだ。けれど、景正は眼を逸らさない。
「人は天地の清きより生まれ来て、元の住処に帰るもの。その理を捻じ曲げる外法――断ち切らせて貰う」
 頸を突いた刃を素早く翻す。皮一枚で繋がった首でなお、飢えを凌ごうと噛みかかる牙に肘を喰らわせて、景正は大太刀を振り抜いた。痩せさらばえた胴を両断する一閃に、上体がずるりと落ちる。
 肘を振り払い、首を転がせば、屍人より亡骸へと還ったそれは動くことはなく。敵には二度と訪れぬ苦痛に代わり、景正の胸裏を衝く痛みがある。
 元の姿へ返った刀を袖で拭い、鞘に収める。甘んじて、と景正は彼方の城を仰いだ。
 ――この忸怩たる痛み、いずれ必ず術客本人へ還さずにはおるまい、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月16日


挿絵イラスト