エンパイアウォー~⑧蛍呼び
●此方の水は
喰らえ、喰らえ、喰らえ。
「もし? そこのお方、大丈夫でしょうか?」
肉を喰らえ、骨を喰らえ。
髄を喰らえ。飢えを満たせ。
「流れ者かい? 近頃ここいらも物騒だ。お前さんも大変だったろう」
輩を喰らえ。同胞を喰らえ。
それでもまだ、この飢えは満たされない。
「ほら、被っている襤褸をお取りになって。怪我をしているのなら手当をして差し上げましょう」
喰らえ喰らえ喰らえ。満たせ満たせ満たせ。
「……おや、お前さん、この傷は……水晶?」
飢えを、渇きを。血潮で満たせ。
「ぎゃあぁあ!」
「こいつ、手を食いちぎっちまいやがった!」
「化け物ッ、化け物だッ!!」
「おい、向こうからも来たぞっ!」
草の根を喰い、壁の藁を喰い。
屍肉を喰い、生き血を啜り。
「足がぁ! 私の足がッ!」
「こっちだ、こっちに逃げろ! 男衆は出てこい、怪我人女子供を先に逃がすんだ!」
追い縋れ、追い縋れ。
その行く先は、餓鬼の道。
ーー共に堕ちようぞ。地獄の果てまで。
●彼方の水は
「飢え死にって、やつは、どれだけ惨いもんなんだろうな」
心底胸糞悪い。そんな表情で四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は話を切り出した。
「鳥取城飢え殺し。かつて豊臣秀吉が実際に鳥取城で行った戦いの名だ。周囲の村の住人ごと巻き添えて城に籠城させる。確実な戦法っていやぁそうだが、その惨状は酷いものだったらしい」
その怨霊を利用しようとしたのが安倍晴明である。
彼は水晶屍人を用いてその城に住人を追い立て、閉じ込め、同じことを行おうとしている。
つまり、飢えさせ、渇かせ、殺すのだ。
そうすることで城に残る恨みの念をより深く、より濃いものへと育て上げるのだ。
「増幅された恨みの念は水晶屍人の力を大きく増大させる。これが完成しちまったら猟兵ですら歯が立たねェ……山陰道の幕府軍はあっという間に全滅だ」
けれど、まだ術式は完成していない。止めるなら今だ。
「お前さん達がどうやって急いでも、辿り着くのは村が水晶屍人に襲われた直後にな」
つまり、襲撃自体は防ぐことはできない。
「ヤツらの目的は虐殺じゃねぇ。村人の拉致だ。恐怖に駆られた住民たちを追い立てることによって、鳥取城に追い立てるつもりさ」
しかし、幸いと言って良いものか、敵の知性を持たない。
屍人は村人を優先して追いかけるが、上手く誘導すれば敵の注意を村人から猟兵達へ向けることは可能だろう。
「敵の数はそう多くはねぇ。しかし、安倍晴明さんとやら、相当なご趣味の様でな。選りすぐりの『材料』に、念には念を入れた術で超強化されていやがる。今までのヤツらと同じとかかってみれば、痛い目を見るのはこっちだぜ」
力の強さは10体程度で猟兵一人と渡り合えるほど。それが徒党を組んで波のように村に雪崩れてくる。
「死の冒涜云々、なんざ言わねェよ。……ただ、徹頭徹尾、胸糞悪いだけさ。だから、そんな陰謀、蹴散らしてやんな」
お前さん達なら出来るって、信じてるぜ。
タブレットからグリモアを起動し、鏡は不敵な笑みを浮かべて見送った。
天雨酒
●注意事項●
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
お初の方はお初に御目文字仕ります。
何度目かの方はこんにちは。
四度目のシナリオはエンパイアウォーの戦争シナリオからご案内となります。
情け容赦無用の純戦闘を目指します。派手な描写や一部暴力的、残酷的な表現がぽろりと出てきてしまうかもしれません。ご容赦下さい。
話はシンプルイズベスト、村人を襲う水晶屍人達を蹴散らして下さい。
●村について
村は山沿いにあるひっそりとした、けれども穏やかなところです。街道が近く、時折行商人や旅人が訪れます。その為、村人達は外の人に寛容、でした。
戦闘に於いて立地は影響は出ませんので自由に戦って下さい。
●敵について
OPにある通りです。何もしなければ水晶屍人は村人を優先して襲います。上手く注意をひきつけて下さい。
●受付について
期日もありますので、頂いたものから着手させて頂きます。送って頂いたものは全て採用させて頂く心積もりですが、達成優先でお返ししてしまうこともあるやもしれません。
それでは皆様、此度も宜しくお願い致します。
第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●蛍来い
そこはすでに、地獄の先触れと化していた。
「早く、早く逃げるんだ!」
「坊や、坊やァ!」
血を流し逃げ惑う人々。親とはぐれながらも必死に駆ける子供。
その後ろを追っていく屍達。その口には、手は、まだ新しい血で濡れていた。
逃げる村人の内、一体何人が気付けただろうか。
自分たちが誘導されていることに。
その先に繋がるのは、さらなる地獄ということに。
「私達、どうなってしまうの……」
「諦めるなッ、街道まで出ればきっと助けを呼べる。生き抜くことを考えろ」
喰らえや喰らえ。
満たせや満たせ。
お前も、貴方も。
男も女も、童も翁も。
おいでおいで、此方へおいで。
止まって喰われて死ぬか、生きて餓えて死ぬか。
此方の苦さか、彼方の酸いか。
地獄の窯で、踊ろうぞ。
向坂・要
お世辞にもいい趣味たぁ言えねぇなぁ
UCによりその身を白銀の大狼と変化させ
村人と屍人ついでに城へのルートを隔てる様に大地とトゲのルーンを生かした属性/範囲攻撃
ついでに念動力も使ってメインはあちらさんの足止め
可能なら世界知識を元に村人が城の方向にいかねぇように誘導を試みますぜ
まぁでかい狼がやってくりゃ多少はびびって進路変更してくれるんじゃねぇかなとも
あとは夜華にも頑張ってもらう方向でひとつ
後は風と大地の精霊の加護を纏って屍人達を引きつけるためにも派手に暴れましょうかぃ
本体が無事ならなんてこたありやせん
第六感で俯瞰的に致命傷は見切りつつ逆に毒のルーンで攻撃してきた相手を毒なら麻痺ならさせてやりまさ
アルゲディ・シュタインボック
悪趣味(きっぱり)
和風アンデッドなんて見ると思わなかったわ。
敵は…まぁ顔色で解るわよね。
セクンダ、行くわよ? と、杖の水晶に眠る光霊に声をかけてから。
襲われてる村人さんと敵に間に割って入り、杖の先より破魔の力籠めた衝撃波を放って引き離し。そして大声で叫んでやるわ。
皆、この村は襲われてるわ! 逃げて!
襲撃方向と反対側に逃げるよう示し、敵も声で私に注目してくれたら。
慈悲の炎は死者には特効だってご存じ?
十字の炎を放って近付くのから火葬して差しあげるわよ。
貴方達も犠牲者なんでしょうけど、まずはお眠りなさい。
その呪縛から解き放ってあげる――そんな祈りを胸に連続全力で炎で攻撃。
あ、距離は離れて。キモいし。
●白光の使徒
恐怖に怯え、逃げ惑う村人達。
その中で、一人の少女が転んだ。小石に足を取られたのだ。
丁度良いというように水晶屍人が少女の足を掴む。宙吊りにする形で持ち上げて、その胴体に喰いつかんとする。
親と思しき女が慌てて駆け戻るも、屍人の歯が少女の肉に届く方が早い。
少女の瞳が恐怖で見開かれる。
――その時。
ドンッ!!
不可視の衝撃波が屍人にぶち当たり、その身体が大きく傾いだ。
衝撃波は一度では終わらない。宙吊りにされた少女の身体を一切傷つけることなく、たて続けに何度も。たまらず屍人の手から少女の足が外れた。
宙へ投げ出される少女。
このままでは地面にぶつかる。涙を一杯に浮かべた瞳がぎゅっと閉じられた。
そこに躍り出たのは、白い獣だった。
少女くらいなら軽くひと呑みにしてしまえそうな白狼が、少女と地面の間に滑り込む。柔らかな毛並みが少女を受け止めた。
「さ、早く逃げなせぇ」
呆然とする少女を下ろしてやると、鼻づらでその小さな背中を押す。はっとしたように少女は駆けていった。先程まで走っていた方向とは、逆の方角に。
「皆、この村は襲われているわ! 逃げて!」
先程放った衝撃波の主、アルゲディ・シュタインボック(白金の癒杖・f03929)の上げる声が高らかに響く。その手に持つ【聖霊の護杖】が示す方向は、村人達が逃げている方向と逆のものだ。
村人達の間で困惑の雰囲気が漂った。そちらに行けば喰われてしまう、との声もある。
彼らは知らない。屍人に追われるままに向かえば、その先で待ち受けているのはさらに惨たらしい死で在ることを。
見かねた大白狼に変じていた向坂・要(黄昏通り雨・f08973)が地を蹴った。
彼が大地を踏むたび、刻まれたルーンが発動する。大地が隆起し、壁を、敵を刺し貫く棘を作り上げる。
簡易的ではあるが、村人と屍人を隔てる防壁だ。時間稼ぎ程度にしかならないが、今はそれで充分。
ダメ押しと言わんばかりに村人達の背後に回って咆哮を一つ。
村人達にとって、巨大な狼というのも恐るべき存在だ。訳の分からないまま、防壁に沿って走り出した。
「ま、こんなもんですかねぇ」
村人達を見送った要がアルゲディの隣に立つ。彼女は不快そうに、目の前に広がる屍人の海を睨んでいた。
「悪趣味。和風アンデットなんて見ると思わなかったわ」
きっぱりと言い捨てる。彼女が先程上げた声により、屍人の注意はこちらに向いているようだ。防壁の向こうになぞ目もくれず、屍人はゆらりと迫ってくる。
「まったくだ。お世辞にもいい趣味たぁ言えねぇなぁ」
狼に変じたまま、くつくつと要が笑う。
「それじゃあ一つ、派手に暴れましょうかねぇ」
「ええ、喜んで」
「村人と屍人、とり違えちゃあいけませんぜ」
「そんなの、顔色で解るわよ」
そりゃそうか。なんて要がまた一つ笑って、その巨体を屍の群れへと躍らせた。
軽口はここまで。ここからは――殲滅の時間だ。
屍人が狼に殺到する。
狼の爪が屍人の腕を引きちぎる。巨大な顎がその頭を食い潰す。
耳障りな呻き声が上がった。踏まれて這い蹲っていた屍人が、狼の脚に喰らいついた。
みちりと、繊維が引きちぎれる感覚がする。腐った死体とは思えない強靭な顎が狼の肉を引き裂き、骨を噛み砕く。白い毛並みがみるみる内に赤く染まっていく。
しかし狼の、要の目に動揺は見られない。
「残念。本体が無事なら、なんてこたありやせんもんで」
お返しとばかりに、白い尾が鞭のようにしなり、屍人を吹き飛ばした。
対するアルゲディにも、屍人の群れが集中していた。
「セクンダ、行くわよ?」
杖の水晶で眠る相棒へと声をかける。目覚めた光霊が応えるように、水晶が仄かに輝いた。
水晶屍人の肩が発光する。正確にはそこに埋められた水晶が。
眩い光が目を焼く――その前に、アルゲディが杖の先をそれに向けた。
破魔の力を伴った衝撃波が水晶を打ち砕く。飛び散った破片を後方に跳んで避け、今度は杖を頭上へ。
「慈悲の炎は死者には特効だって、ご存じ?」
水晶から十字の光が生まれた。光は聖火を呼び、彼女に近づくものを燃やし尽くす。
本来なら殺めることのない慈悲深い炎は、しかしその慈悲故に。命の理から外れたモノを浄化し、あるべき姿へと変えていく。
「貴方達も犠牲者なんでしょうけど。まずはお眠りなさい」
その呪縛から解き放ってあげる。祈りは胸に秘めたまま、屍の群れを一瞬で炎の海へと変えていった。
と、浄化の炎に焼かれ、苦しみ悶えながら屍人の一人がアルゲディへと近づいた。覚束ない足取りで覆いかぶさってくる。
その様はまるで、苦しみの中、赦しを請うかのようで。慈悲と浄化を司る彼女はうっすらと微笑むと――。
「あ、距離は離れて。キモイし」
情け容赦など無く、杖で屍人を殴り、距離をとったのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鹿村・トーゴ
普通に生きてる村人巻き込みやがって…
直に殺すのも大概だが集めて干し殺しなんてェのは鬼畜
その怨霊を使うなんざ外道も外れてやがんな
駒の屍人も訳アリだろうが…それはソレ
今は敢えて無視だ
UC降魔化身法
代償の流血は敢えて拭わず
フード被ったまま血塗れの村人を装い屍人の気を引く
四肢を囮に嚙付かれ少々肉を削がれる事になっても【激痛耐性】で耐え村人への気を逸らせ
攻撃に転じ強化した身体や拳、クナイで屍人を砕く【暗殺/傷口をえぐる】
返り血や臓物なんか気にならねーな
まー元が粗暴な鬼の子なんでね
はは、昂揚するって事は無い
怒りが降り切れたら却って冷たく自分を視るモンだとさ
…あんがと頭領
冷静に殺す鍛錬も偶には役立つねェ?
◎
アゼリア・リーンフィールド
私の力は豊穣に繋がる力。飢え死になんてさせません!植物に連なる神の名にかけて!
到着したらすぐにユーベルコードを使用、敵さんだけを迷路の中へ封じて村人さんと分断させます。
そして敵さんには迷子になって頂きます。十体で私一人分なら、一体で十分の一人分です。なるべく集団がバラバラになってくれれば一番ですね。あえて音を立てて誘導してもいいかもしれません。
私は迷路の角で潜んで、出会い頭にお花の入ったバスケットで頭を狙います!
生垣の棘に思いっきり敵さんをぶつけられる角度を心がけましょう!
出口は一箇所ですが外へは出さないように、私には敵さんの場所も迷路の構造も分かるので、先回りを意識して動きます。
●茨の迷宮にて
アゼリア・リーンフィールド(空に爆ぜた星の花弁・f19275)と鹿村・トーゴ(鄙村の忍者見習い・f14519)、そして水晶屍人達は茨の迷路の中にいた。鋭い棘を持つ白薔薇によって織られたそれは、もちろん自然のものではない。
アゼリアのユーべルコード、【雫滴る薔薇の迷宮】に寄るものだ。
彼女は村に到着早々、この迷宮を展開。水晶屍人と自分たちだけを招き入れることによって村人との分断に成功していた。
獲物を探すように、一人の屍人が通路を徘徊している。
ぱんぱん、と屍人の先の影で手を打ち合わせる音がした。音に誘導されるように、屍人が歩みを進める。
角に差し掛かった時、影に潜んでいたアゼリアが飛び出した。
「えいっ」
出会い頭にバスケットを振りかぶり、屍人を殴打する。彼女の動作に合わせて、花籠に入った花弁がふわりと舞った。
完全な不意打ちをくらった屍人はよろめき、薔薇の生垣へとぶつかる。鋭い棘に覆われた、茨の生垣へ。
ぐげ、と奇妙な声があがり、それきり屍人は動かなくなる。見ればその喉元から赤く濡れた棘が顔を覗かせていた。倒れた際に、ひときわ大きな棘が項へと刺さり、貫通した様だった。
「やはり一人一人なら、倒すのは簡単なようですね」
彼女の作り上げた迷宮は、村人との隔離だけではない。迷宮の通路は狭く、複数人が横並びになるスペースなどない。一対多数に於いての戦いになる今回では、これ程好条件の戦場は無いのである。
十体でアゼリア一人分なら、一体で十分の一人分。
敵が数で攻めるなら、数を置けない環境にしてしまえばいい。
そして一対一の暗殺なら、トーゴの得意分野でもあった。
「相乗りさせてもらって悪いね」
「いいえ、とんでも。……あちらから、一人、来ます。進んで右に曲がったところに、さらに二人」
アゼリア自身が作り出した迷宮だからだろう。視界の外にいても、彼女は常に迷宮内の敵の位置を把握していた。これなら、先回りは容易い。
「サンキュ。……俺が行く」
「では、わたしは出口の方へ向かいます。外に出られては意味がありませんから」
互いに顔を見合わせて頷き、二人は別々の方角へ向かっていった。
フードを深く被りながら、トーゴはこみあげてくる感情を抑えきれなかった。
それは、首謀者である晴明への怒り。
「普通に生きてる村人巻き込みやがって……」
何の罪のない彼らを巻き込む。それだけでも許せることではない。
直に殺すだけでも大概であるが、それを集めて干し殺しにするなど、鬼畜の所業だ。さらにそれを怨霊の糧とするのだから、外道も極まっている。
怒りの感情はそのままに、けれど激高することは決してせず。
その身に妖、鬼、幽鬼、あらゆる魔を宿し、トーゴはふらりと屍人の前へと姿を晒す。
代償で流れる血は敢えて拭わない。その匂いで屍の惹けるならよし。怪我をして弱っている村人と間違えてくれるのなら御の字だ。
目論み通り、屍人はトーゴの姿を見ると一直線に襲ってくる。手に持った鍬を滅茶苦茶に振り回してくるが、魔を宿した今の彼にはその軌道がはっきりと見えていた。
恐怖はない。怒りは頭を冴えさせている。片腕で振り下ろされた鍬の柄を受け止める。外側に強引に押しやれば、胴体ががら空きだった。
クナイを握りしめ、叩き込み、引き裂く。
腐った血が、臓腑が零れ落ちて酷い異臭が立つ。ただでさえ赤く染まったフードがより、どす黒い色を宿していく。
「まー、元が粗暴な鬼の子なんでね」
気にした様子もなくトーゴは通路を駆けていく。言われた通り角を右へ曲がると、揺らめく二人の屍が。
出合い頭にクナイを投げる。片方の額と刺さったが、浅い。突き出された鋤がフードを掠った。
ならばと引き戻される前に鋤を掴み、力いっぱい引き寄せる。強化した状態なら、力はこちらが上だ。屍人の身体が前のめりになり、トーゴへ向けて倒れかかる。その額へ、突き刺さったクナイへ向けて、掌底を叩き込んだ。貫通したクナイが頭蓋を突き破り、脳髄をかき回した。
相手が動かなくなるのを確認する前に、もう一人に向けて回し蹴り。茨の棘に絡めとられた所に、腹へ追撃を叩き込んで止めを刺した。
「……あんがと頭領。冷静に殺す鍛錬も偶には役立つねェ?」
怒りが降り切れたら、返って冷たく自分を視るものだ。
何処までも凪いだ心で、何処かで聞いた言葉を思い出しながら、トーゴは次の屍人を探して走り出した。
白薔薇の迷宮は、一人の神と鬼子によって赤く、赤く、染めあげられる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
グルクトゥラ・ウォータンク
【アドリブ共闘歓迎】
はっ、なかなか利く手を使うもんじゃな。戦力は現地調達、一手間かければ強度も上がる。だがその手、咬み千切らせてもらう。
現着即UC、ボールズを三部隊に分ける。一部隊を引き連れ村人の逃走経路上に陣取り、野戦築城構築。材料は『ランドメイカー』から出した鋼材や周辺の木材等。村人を逃がす通路は使用後即崩せるように。
一部隊は屍人の群れに、【罠使い】【スナイパー】で罠や狙撃により足を潰し、要所要所に淀みを作って方向と速度を制御。
残りは延焼を防ぐため【破壊工作】で木を切りに。
屍人の濁流を受け止めたなら、着火。徹底的に足を潰し逃がさず焼き殺す。
ここが地獄の釜底よ。一滴残らず蒸発するがいい。
セルマ・エンフィールド
◎
進むも地獄、留まるも地獄、と。
まぁ、地獄の鬼だろうと撃ち抜いて見せますが。
目立たずこっそりならばともかく、ひきつけるのは得意ではないのですが……やれることからやりましょうか。
水晶屍人と村人の間に2丁デリンジャーで【アイスリンク・バレット】を撃ち込み、水晶屍人のほうへ残ります。
凍った地面で転んだ相手は氷の『属性攻撃』の弾丸で撃ち抜き、倒していきます。
ここを通りたければ、私を倒してからどうぞ。
戦闘は地面にアイスリンク・バレットを撃ち込み敵の移動を制限して囲まれないように。手や武器にもアイスリンク・バレットを撃ち込み『武器落とし』し、隙ができたところを氷の弾丸で仕留めます。
●紅蓮と焦熱
これまでの猟兵達の働きにより、村を襲ってきた屍人のおよそ半数が殲滅されていた。
しかしまだ、正しい経路への避難が及んでいない部分も多い。個々の誘導は可能ではあるが、団体として纏めるには手が足りていないのだ。
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は二丁のデリンジャーを構えながら、その事実を痛感していた。
村人の誰もが必死だ。安全な避難経路を探し、助け合う余裕など無い。
「進むも地獄、留まるも地獄……」
追われるがままに逃げれば飢え殺し。無謀にも足を止めれば生きながらに喰われて死ぬ。
「まぁ、地獄の鬼だろうと打ち抜いて見せますが」
八方塞がりの状況を打破すべく、セルマは戦場を走る。
本来なら彼女の得手とする立ち位置は狙撃手である。目立たず、こっそりと行動することは多くても、敵を惹きつけながら戦う、といった行為は得意ではないのだが……場合が場合だ。仕方がない。
「やれることから、やりましょうか」
デリンジャーから閃光が走った。
村人と屍人の間に、セルマの撃った弾丸が撃ち込まれる。込めた弾丸は、【アイスリンク・バレット】。
凍結の性質を持つそれは、着弾と同時に地面をみるみる凍り付かせ、摩擦抵抗を限界まで減らした鏡面と化す。
摩擦が無いということは、静止が出来ないということ。静止が出来ないということは、つまり、そこに足を踏み入れた者は、必ず滑るということ。
狙い通り、村人を追いかけようとしていた屍人が足を取られる。そこに追撃するように、続けて二発。氷の弾丸は屍人が起き上がることを許さず地面へと射止めた。
村人を守るようにセルマは屍人の前に立つ。自分の足元に境界線を引くように、凍結の弾丸を打ち込んだ。
「ここを通りたければ、私を倒してからどうぞ」
氷の結界を作り上げたセルマは、いまだ硝煙があがるデリンジャーの銃口を屍人に向け、宣言した。
村人の避難は自分にはできない。ならばせめて、確実に逃げてもらうことを優先しよう。
そんな覚悟を決めて、照準を絞った。
――その時。
「いやはや、その気概や良し」
セルマの背後から、弾幕の嵐が屍人に撃ち込まれた。
セルマは驚いたように振り返る。そこには、多数のガシェット、ボールズを従えたグルクトゥラ・ウォータンク(サイバー×スチーム×ファンタジー・f07586)の姿があった。
「はっ、敵ながらなかなか利く手を使うもんじゃな。戦力は現地調達、一手間かければ強度も上がる」
だが、その手、咬み千切らせてもらう。
豪快な笑みを浮かべるグルクトゥラではあったが、屍人へ向ける眼差しは険しい。
「村人達のことは安心せぃ。今頃わしのホールズ達の分隊が、村外れの野戦築城へ案内しておる筈じゃ。命を張って守ってくれたお前さんのお蔭じゃな」
グルクトゥラの言葉通り、彼が召喚したガシェットホールズの分隊は村人達の避難誘導、及び避難場所の確保を引き受けていた。ホールズには実体をも格納できるハードディスク、『ランドメイカー』を持たせている。周りの木材も併せて、今頃村人を守る陣地を作っている所だろう。
良かった、とセルマはそっと安堵の息を漏らした。逃がすことに成功は出来ても、そのまま鳥取城へと向かってしまえば意味が敵の思惑通りだ。
「さて、あとはこいつらの始末なんじゃが……」
「この数です。少々厄介ではあるかと」
「そこで、悪いが少し付き合うてくれぬか? 頼みたいことがある」
どうやら一つ、策があるらしい。
強面の顔に浮かぶ策士の表情に、セルマは一つ頷いた。
グルクトゥラの頼みとは、至極簡単なことであった。
村の外れの斜面での、敵群の動きの扇動と制御。及び時間稼ぎ。
デリンジャーに弾丸を込めながら、視界の端に映る彼のガシェット達を見る。
彼らは周辺の木を切っていた。被害を最小限に抑える為だと、彼は言っていた。
扇動組に入ったホールズ達は各所に罠を張り巡らし、群れが散り散りにならないように抑えている。
罠を乗り越えてきた屍人に対し、今度はセルマが発砲。着弾、凍結。氷に足を取られて転倒した屍人は、後続の敵の障害物となる。
敵の足止めと行動の制御なら、彼女の凍結弾が最も活きるところだ。
ホールズに殴りかかろうとしていた屍人の手に向けて弾丸を打ち込む。武器が滑り、取り落した隙を狙ってさらに発砲、無力化する。
その後も順調に屍人の足止めを行いつつ、分散を防ぐ。個体自体は大きく減らせはしないものの、目の前の群体はより大きく、固まり始めたことをセルマも感じていた。
あとは、機を待つだけだ。
「準備は整った! 引けっ!」
そして合図の声があがる。
弾倉の【アイスリンク・バレット】を前方に全弾掃射。最後の足止めにと銀盤の床を作り上げ、セルマはグルクトゥラの元へと戻った。
同時に、ホールズの武装から延焼を目的とした爆弾が次々と投下された。屍人に着弾するとそれは瞬く間に火柱を上げ――あたり一面が火の海となる。
炎は屍人の足を舐め、彼らから移動する手段を潰す。耐えきれず膝をついたところで、今度はその身体を灰燼へと変えていく。
それはまさに地獄の様相。
「ーーここが地獄の釜底よ。一滴残らず蒸発するがいい」
赤い柱が空へと昇る様を見届けながら、グルクトゥラは静かに告げたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴木・志乃
……。
※オーラ防御常時発動
初手念動力で周囲の器物を巻き上げ、村人と屍人の間に落とし壁とする
そのまま割って入り交戦
怨念の塊である屍人の動きを第六感で見切り、光の鎖を早業念動力で操り足払いによる転倒を狙う
口に鎖を食ませ、腕も縛り上げたい
できれば、可能なら
抱き締める(手をつなぐ)
UC発動
至近距離から祈り、破魔、呪詛耐性を乗せた全力魔法の衝撃波で
安倍晴明の術式、呪詛、怨念、彼らの力の源の一切合切をなぎ払う
もう誰かを呪わなくていい
傷つけなくていい
飢えに苦しまなくていいんだ
どうか一瞬でも思い出して
貴方の幸せな記憶とその想いを
無茶苦茶なんて分かってるよ
それでも私、は
本当は助けたくて
でも、
……。
●甘露の導
聖火に赦され、狼に喰い裂かれ。
迷宮の薔薇を赤く染め、炎の海に焼かれて。
雪崩のように押し寄せてきていた水晶屍人はその数を大幅に減らしていた。
逃げ惑う村人の姿ももう見えない。全員が無事に逃げ切れたようだ。
残る屍人の数も、もはや疎らだ。
そんな戦場の中を、鈴木・志乃(オレンジ・f12101)は無言で歩いていた。
そうしている間にも、一人、また一人とその姿は倒れていく。掃討されるのも時間の問題だろう。
この戦いに於いての彼女の目的は一つ。
『全ての意思、願いを守る為』。
戦いで襲われる無辜の民を。そして、既に犠牲となった目の前の屍人も。
彼女にとっては、等しき守るべき対象であった。
「……」
無言で半ば炭と化している巨木を念動力で持ち上げた。それを、近くの屍人の一人へ向けて放る。
それだけでは大きなダメージにはならなかったが、気を惹くにはそれで充分。
数少ない標的を見つけた屍人がこちらに向かってくる。
志乃の手に持つのは淡く輝く光の鎖。それは世界を照らす為に。生命を守るために。
誰かの幸福と笑顔の、願いの為に。
鎖が走る。走ってくる屍人の足を絡めとり、その場に転倒させた。起き上がる前に押さえつけ、開かれていた口に鎖を噛ませる。後ろに回して腕も縛り上げた。
そうして完全に屍人を無力化して。
何を思ったのか、志乃は腐りかけた彼を抱きしめた。屍人は志乃に喰いつかんを暴れる。縛り上げた光の鎖が軋んだ。
それでも志乃は離れなかった。
彼らには何の罪もない。ただ、晴明に利用されただけだ。
もう誰かを呪わなくていい。
もう傷つけなくていい。
飢えに苦しむ必要だって……もう無いのだ。
彼女の手から光が溢れ出す。それは、全ての呪縛を解き放ち、失われた想いを呼び戻す奇跡。
迷える者に手を差し伸べて、昇らせる導きの手。
たとえ神などいなくとも、彼女は手を差し伸べることを諦めない。
どうか一瞬でも、思い出して欲しい。何処かに在った筈の、幸せな記憶とその想いを。
飢えも渇きも彼らにはもう必要無いのだから。
晴明の呪縛に支配された屍人の力が緩んだ。
何処からか声が聴こえた気がした。
苦しかった。――そうだね。
つらかった。――うん。
悲しかった。――もう、いいんだよ。
それが屍人のかつての声なのか、知る術はない。もしかしたらこの場で犠牲になった誰かの声なのかもしれない。
それでも、彼女は等しくそれを掬い上げる。
ーー志乃自身、それが無理な望みであることは分かっていた。
屍人の全てを救うことなど出来はしない。
彼らは所詮過去の産物だ。助ける術などある訳もないし、全てを救うにしては彼女はあまりにも小さすぎる。
けれど、けれど。
本当は助けたい。
その思いばかりが先走って。
でも、それは敵わないから。
「踏み躙られたその願い――私が聞き届けた」
光が止み、腕の中の屍人が塵と消えるまで。
志乃はずっと、それを抱きしめていたのだった。
間もなくして、村を襲った水晶屍人の群れは猟兵達の手で殲滅される。
村人達全てを救うことは叶わなかったが、村自体の大打撃となる被害は免れ、醜悪な儀式の贄となることもなくなった。晴明の目論見を一つ、潰すことに成功したのだ。
そして、そこにはもう一つの小さな救いも――あったのかも知れない。
大成功
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