エンパイアウォー⑧~餓え殺しの悪夢を止めろ
●生が死を喰らい、死が生を喰らう
幕府軍の行軍は順調に進んでいたが、織田軍もまた、着実に力を蓄え、幕府軍を壊滅させんとしていた。
魔軍将が一人、安倍晴明。鳥取城を奪い、目論むのは。
「ひぇぇえええっっ!! なんじゃああああ!?」
「ウウ……アアァァ……」
体から謎の水晶が生えた屍――水晶屍人が現れたのは、鳥取城近隣の農村だった。田畑を耕し、細々と農民が暮らす原風景が一転、地獄絵図へと変貌を遂げた。
水晶屍人の動きは緩慢。よく手入れが行き届いた柔らかい土にずぶり、と二本の足を沈み込ませて、重心の定まらない体でふらつきながらも一歩、また一歩と農民達を追い詰めていく。
しっかり走れば逃げ切ることも叶っただろう。だが、農民の心をどす黒く塗り潰した恐怖が筋肉を強張らせる。普段は歩き慣れた畦道も、覚束ない足取りの前ではほんの数センチの雑草が足を取る天然の罠となった。
「来っ……来ないでくれえぇぇ!!」
必死の懇願も水晶屍人には届かない。腐敗し、肉が零れ落ちる腕にがしっと肩を掴まれ、命の輝きを失った白い目に捕らえられて。
「ぎゃああああ!! あ……ぁ……」
筋張った首に噛みつき、薄い肉を喰いちぎった。火花のように迸る鮮血に目もくれず、水晶屍人はひたすらに肉を求める。痩身が見る見るうちに白骨を晒し、食い散らかされる様は他の農民達へ更なる恐怖を植え付ける。
生まれたての小鹿の状態になりながらも少しでも遠くへと、農民達は這いつくばりながら水晶屍人から離れようとする。人を食い殺すのが目的ならその後を追いそうなものだが、獲物を手にした水晶屍人はひたすら肉を食い続けた。
それは水晶屍人と化す前の、まだ人の形を保っていた時の、生への執着の残滓。闇の中に閉じ込められ、食料も与えられず、ただ命の火が消えるのを待つ。火を絶やさぬためには、喰らうしかない。
より強く火を保てた者が、消えた者の体を喰らう。それが暗黒の世界の摂理となった。
十人になった。五人になった。一人になった。独り占め。甘美な響きではない。
そして、暗黒の世界においても有限という絶対法則は付きまとった。時という終わりの見えない有限の前に、火は消えた。
残ったのは、全ての人間が世界の中に堆積させた怨念のみ。
水晶屍人は追う。安倍晴明の計略において水晶屍人が人を喰らう必要はないが……多少は経費として目を瞑ってもいいだろう。
肝要なのは、人々を鳥取城へと向かわせること。
水晶屍人の包囲は、着実に農民達の退路を断っていた。
最後の一筋、鳥取城までの死道を除いて。
●生を救え
「敵の攻撃も熾烈になってきましたね……」
ロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)がグリモアベースに帰還する。一つ敵の拠点を討つ任務を終わらせたが、休む間はない。
「参加された方々、ありがとうございます。次の作戦の準備ができましたので、ご案内しますね」
幕府軍は魔空安土城へ向け行軍を続けているが、その道には更なる苦難が待ち受ける。それを排除しなければ、首塚の呪詛の発動は実現しない。
「今度の場所は、安倍晴明が拠点としている鳥取城……その近くの農村になります。そこを水晶屍人が襲う『悪夢』を見てしまったので……これは、絶対に阻止しなければなりません」
ロザリアの金色の瞳に力が籠る。
「皆さんが現場へ到着するのは、丁度水晶屍人が農村の人達に襲い掛かるところだと思います。まだ手をかけられているわけではないので、攻撃して引き離すとか、何らかの対処をすれば助け出すことは可能ですね。助けた後は、皆さんの力で水晶屍人を倒しちゃってください。数は十体程度のようですが、十体程度でも皆さんと戦えるくらいには強化された個体のようですから、注意が必要です」
また、水晶屍人は農民達を確実に鳥取城へ導くべく、ある程度互いに距離を置いて逃げ道をうまく封じているようだ。複数を纏めて攻撃する場合には、敵の配置なども考えて行う必要があるかもしれない。
「大変な時期ですが、ここで私達が諦めてしまったら、世界は滅んでしまいます。そうならないためにも、どうかよろしくお願いします」
疲労の色も見え始めてくる頃だが、ロザリアはこれまでと同じく元気に振る舞い、猟兵達を送り出すのだった。
沙雪海都
●このシナリオについて
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
沙雪海都(さゆきかいと)です。
無理のない範囲で戦争のお役に立てればと。
よろしくお願い致します。
●概要
『水晶屍人』との集団戦です。
農民に襲い掛かろうとしていますので、助け出して水晶屍人を倒しましょう。
水晶屍人は農民への包囲(ただし鳥取城までの道だけは開けている)を半分以上完成させ、間もなく捕まりそうな農民が何人かいるようです。
固まって動いているわけではないので、局所的な範囲攻撃は単体攻撃と同等の効果しか出ない可能性があります。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鈴木・志乃
一人残らず拾い上げる
……たとえそれが自己満足でも
無茶なんて分かってる
それでもこれは
※オーラ防御常時発動
念動力で周囲の器物を巻き上げ、屍人の進路を塞ぎ割って入る
そのまま光の鎖で足払いからの転倒狙い
可能なら口に鎖を食ませ、腕を捕縛
切断受ける覚悟で懐に潜り込む
第六感で怨念の塊である屍人の動きを見切り鎖で武器受け
抱き締める(手を繋ぐ)
UC発動
祈り、破魔、呪詛耐性を乗せた全力魔法の衝撃波で
安倍晴明の術、屍人の怨念、呪詛、力の源を一切合切昇天させる(なぎ払い)
もう誰かを呪わなくていい
食べなくていい
苦しまなくていい
一瞬でいい
どうか幸せを思い出して
その餓えから解放されて
どうか
……。
●祈りは全ての意志のために
(一人残らず拾い上げる……たとえそれが自己満足でも。無茶なんて分かってる。それでも、これは――)
鈴木・志乃(オレンジ・f12101)が見つめる農民と水晶屍人。無辜の民と異形の怪物――いや、それ以前に、志乃にとっては、どちらもサムライエンパイアに生きる、意志ある存在。
志乃をオーラが薄く包む。そのまま駆け出し、逃げ惑う農民が取り落とした農具を念動力で巻き上げると、水晶屍人の進路を塞ぐように農民との間に割って入った。飛来した農具が体を掠め、水晶屍人ののろのろとした動きが止まった。
『光の鎖』を足元目掛けて放ち、絡めとる。淡い光を帯びた鎖が土気色の細い足首を掬い上げ、水晶屍人の体勢が崩れる。片足立ちのまま倒れそうになるのを、手にした鍬を新たな足として体を反らしながら堪えている。
志乃の登場により恐怖の呪縛が解けた農民は、尺取虫のように地を這いながらもその場を離れていく。
――まずは片方。
動けるようになれば、農民は逃げ延びるだろう。もう片方も拾い上げなければ。
拾い上げるために、手を伸ばさねば。
水晶屍人の足を払った鎖が宙で鎌首を作った。空を裂き、しなった鎖が粘液の垂れる水晶屍人の口元に飛ぶ。反射的に噛みついたことで水晶屍人の口が封じられ、その部分を視点に鎖は円を描いて水晶屍人の周囲を回る。
鍬を持つ右腕を巻き込み、水晶屍人を捕縛した。志乃は覚悟を決め、一気に水晶屍人の懐へ飛び込んでいく。
まだ自由のある左腕が視界の片隅に映りこむ。爪の薙ぎ払い。切断されるべき場所に志乃は居る。
逃げ場の吟味はしていない。何となくそこがいい気がして頭を下げたその真上を、血液の錆がこびりついた継ぎ接ぎの布が撫でていく。
握りこんでいたもう一方の鎖の端を飛ばし、がっちりと左腕も繋ぐ。両腕の自由を奪われ、立ち尽くす水晶屍人に。
――もう誰かを呪わなくていい。
――食べなくていい。
――苦しまなくていい。
水晶屍人、その存在を世界へ縛り付ける呪縛。貪られ、朽ちた体を中途半端に引き戻され、己もまた喰らう者の因子を埋め込まれた。存在の意味を体現するままに、人を襲い、喰らおうとする。
ただの傀儡だ。
志乃は断つ。水晶屍人を水晶屍人たらしめる術。核となった怨念。肉体と思念を繋ぐ呪詛。
力の源を、断つ。
水晶屍人の体から浮いていた鎖を握り、力任せに引き寄せた。水晶屍人の肉を締め上げた鎖はそのまま脆い体を引き裂く。数多の刃に薙ぎ払われたかのように、水晶屍人の体が千切れていく。
白目が虚空を掴む。ぽっかりと開いた口。重力に引かれるままに崩れゆく体を、志乃は一思いに抱きしめた。
「一瞬でいい。どうか幸せを思い出して。その餓えから解放されて。どうか……」
水晶屍人も、その風体は農民と大差ない。水晶屍人が水晶屍人である前の、世界に歓迎されるべき住人としての幸せを、何か一つ。
餓えた苦しみも、今はもう必要ない。呪縛は解けた。もう何も喰らわずに済むのだから。
志乃の腕の中で水晶屍人は崩れ落ちていった。ただひたすらに上を向き続けた双眸は、やはり白いままだった。
成功
🔵🔵🔴
エンティ・シェア
弱肉強食とは言うけど、強制されるもんじゃねーわな
しかも結局死ぬしか無いとか最悪だな
けどまぁ、怨念に同情はしねぇ
俺はあんたらを排除することしか、考えねーぞ
餌時でありったけの雪豹を召喚
まずは村人の保護を優先に、傍に駆けつけさせる
多少蹴散らされても数で押せば数体と俺自身が傍に行くぐらいはできるだろ
纏まってるほうが庇いやすい。どこにでもうろついてくれるなよ
雪豹は十体程を村人の盾代わりに配置、残りは一纏めに
それである程度渡り合える強度になりゃいいが
俺自身も隙を見て獣奏器で攻撃してく
せめて包囲を崩せるよう、確実に一体ずつ仕留めていく形で応戦
連続攻撃はできれば回避したいが…村人に向くぐらいなら、受けてやるよ
レナータ・バルダーヌ
餓え殺しなんてひどいです……!
わたしの故郷でも聞いたことがないですよ!
飢えが怨念の一端でしたら、美味しいものを食べたら成仏してくださらないでしょうか?
ここではゴボウ食も一般的と聞いて、お料理はリサーチ済みです。
定番料理を食べやすくアレンジした『きんぴらごぼうの肉巻き』を作ってきたので、農民さんをサイキック【オーラで防御】しつつ【愉快なゴボウさんディナー!】です!
この世界の方々は言わずもがな、他の猟兵さんも世界を渡り歩いているのでたぶん食べられるでしょう。
屍人さんがお料理を楽しめなければ戦況は有利になります。
もし楽しむ心が残っていれば、成仏までいかずとも怨念を弱めるくらいはできるかもしれません。
ルナ・ステラ
水晶屍人...怖いですが、助けないとですね!
まず、捕まりそうな農民さんたちを箒に跨って上空から探しましょうか。
そして、助けに入りましょう!
UCで狼さんたちの力を借りましょう。
一匹は農民さんの護衛に、もう一匹は屍人と共に戦うのに。
振り回し攻撃は早いですが、一度やり出すと止まれないみたいです!最初は回避に専念してください!
その間にわたしは、【罠使い】でルーンカードのソーン(停滞)を仕掛けておきましょうか。
終わったら、狼さんに罠まで誘導してもらって、足止めできれば、スターダストショットの【一斉発射】で倒しましょう!
うまく倒せたら、「皆で」一緒に安全なところに行きましょう!
※アドリブ&絡み等OKです
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「こらー!お百姓さんをいじめるなー!」
何も悪くないお百姓さんに襲い掛かる水晶屍人なんて許さないぞ!ボクがやっつけてやる!
【ライオンライド】で呼び出した体長40cmほどの子ライオンくんに「騎乗」して駆けつけるよ!
農民を追いかけられないようにまずは足元を狙った集中攻撃だ!
「動物と話す」「動物使い」の技能も使ってライオンくんにも足に噛み付いてもらうぞ☆
敵の【屍人乱撃】は「見切り」とライオンくんの機動力を使って初撃を回避!
見当違いの場所に振り回し攻撃を続けてる敵の真後ろに回りこんでライオンくんと一緒に「捨て身の一撃」を叩き込んじゃうぞ☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●生還
畑の中を獣が疾駆する。多数の雪豹が放たれ、その後ろを追うのはエンティ・シェア(欠片・f00526)。
「弱肉強食とは言うけど、強制されるもんじゃねーわな。しかも結局死ぬしか無いとか最悪だな」
苦虫を嚙み潰したような表情で吐き捨てる。
捻じ曲がった自然の理が、人の理を喰い潰す。そうして生き永らえたとしても、待つのは喰われた者と同じ末路。
オブリビオンを生み出すほどの強烈な怨念が残るのも納得はできるが。
「けどまぁ、怨念に同情はしねぇ。排除以外の選択肢は考えねーぞ」
今を脅かす者に容赦はしない、とエンティは前方に睨みを利かせる。
「いました! あそこです!」
偉大な魔法使いが使用していたという箒『ファイアボルト』に跨り、上空から水晶屍人に捕まりそうな農民を探していたルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)が地上へ向けて声を張り上げた。ルナが指差す先には農民達が腰砕けの状態で震えていた。
ルナは地上へ素早く降りると、
『誇り高き銀色の狼さん、美しき月白の狼さん、わたしに協力してください!』
【狼王・女王狼召喚(レジェンダリーウルブズ)】で二匹の狼を召喚し、そのうちの一匹、灰色の狼を農民達の元へ送り出した。柔らかい土を物ともせず力強く風を切って駆け抜け、エンティが召喚した雪豹に合流する。
「水晶屍人……怖いですが、農民さんたちを助けないとですね!」
「助けたら、ボクが水晶屍人をやっつけてやる! 何も悪くないお百姓さんに襲い掛かるなんて許さないぞ!」
ルナの足元近くに、これまた小さな獣がフェアリーを乗せて駆けていた。黄金のライオンに騎乗するのはティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)。ぶんぶん腕を振り回し、元気も気合も十分だ。
「餓え殺しなんてひどいです……! わたしの故郷でも聞いたことがないですよ!」
片翼のオラトリオ、レナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は怒りを露にしていた。
餓えさせ殺す――死に至るまでの苦しみは長く、生きるために人を喰らわねばならぬ極限状態は精神崩壊を引き起こすほどに人々を蝕んだことだろう。
そんな非人道極まりない方法を、どうして実行に移せるのか。レナータには想像できるはずもなく、やりきれない思いが募る。
まずは農民の安全を。雪豹が盾となって農民達の前に並び、灰色の狼も農民達の姿を隠すようにして水晶屍人を威嚇する。低い唸り声で牽制し、他に近づく水晶屍人がいれば一跳びでその前に躍り出て寄せ付けない。
雪豹達は灰色の狼をリーダーとするかのように合わせて動き、個々は弱いながらも十全な防御陣形を敷いていた。雪豹と狼の混成部隊が機能し、猟兵達が到着するまでの時間を稼いだ。
「この辺はゴボウ食も一般的と聞いて、お料理はリサーチ済みです。定番料理を食べやすくアレンジした『きんぴらごぼうの肉巻き』を作ってきたので、愉快なゴボウさんディナーといきましょう!」
『愉快なゴボウさん』――それは、ゴボウだった。しかし目と口と手と足がある、謎のゴボウ生物の亜種。ちょんと残った茎がモヒカンのようでイカしたゴボウだ。
レナータは愉快なゴボウさん達と共にきんぴらごぼうの肉巻きを配り回る。
「おい、なんでこんな時にそんなもんを――」
「いいから、食べてみて下さい!」
半ば押し付けられる形できんぴらごぼうの肉巻きを受け取ったエンティは、しぶしぶ口に放り込む。
「……うまいな」
まさに家庭料理と言えるような優しい味だった。
「皆さんもどうぞ」
「ありがとう……ございます」
「やったー! ありがとー☆」
ルナとティエル、そして農民に獣達、果ては水晶屍人にまで給仕を行っていた。ティエルには愉快なゴボウさんが踊りながらきんぴらごぼうの肉巻きを渡し、水晶屍人には下手に近づくと危ないので半開きの口に直接放り込んでいた。
おいしい料理に農民達も少し元気が出たようだ。合わせてレナータはサイキックオーラの防御を施し、万が一の事態に備えていた。
料理を楽しむ中で、変化が現れたのは水晶屍人達。それまでも大して機敏な動きではなかったが、目に見えてのろのろと遅くなっていた。
ゴボウ料理を楽しめない者の行動速度を落とす。それが【愉快なゴボウさんディナー!】の真の力だ。
味を楽しむ味覚、料理を楽しむ心。水晶屍人はどちらも持ち合わせていない。屍人故、それらは全く意味を成さないのだ。
餓え殺された怨念が少しでも弱まれば、と期待もしていたレナータは少し残念そうな表情を見せていたが、楽しめないようであれば、それはそれで味方の助けになる、と気持ちを切り替えて給仕を続ける。
レナータの給仕が続く限り、水晶屍人の動きは封じられたも同然だ。
「行け!」
エンティは雪豹の残りを全て合体させ、水晶屍人にけしかけた。合体したことで強化された雪豹が水晶屍人の剥き出しの肋骨目掛けて飛び掛かり、体当たりして弾き飛ばす。脆い骨が粉々に砕け、生えた水晶が地面に引っかかりぶちっと根元が千切れた。起き上がろうとするもやはり動作はスローモーション。反撃に出られる前にエンティは『獣奏器』を手に詰め寄り、下から強く振り上げて水晶屍人の顔を砕いた。
一体ずつ確実に仕留めていけば、包囲を崩せる。エンティは目の前の水晶屍人が動かないのを確認し、別の水晶屍人を追っていく。
ルナは白色の狼を連れて水晶屍人と戦っていた。
「最初は回避に専念してください!」
狼に指示を出し、水晶屍人の相手を任せる。狼を敵と認識した水晶屍人は鍬を振り回して攻撃してきたが、超高速連続攻撃もレナータのユーベルコードの影響でおよそ通常攻撃と同じ程度まで速度が落ちていた。
一度攻撃を繰り出すと最後まで止まれないのは変わらない。狼は初撃を軽やかに跳んで回避すると、距離を取って安全に立ち回っている。
その間、ルナは『マジックルーンカード』のソーンを周囲へ巧妙に隠し、罠とした。
ソーン――停滞。はまれば二重の行動阻害となる。
「狼さん! こちらへ誘導をお願いします」
敵としてターゲットされた狼がルナの元に戻ってくると、追って水晶屍人が近づいてくる。水晶屍人が罠にかかるのを待つ間、ルナは『ティンクルスターダストショット』に力を送り、発射の準備を整えた。星屑の煌めきが増していく。
ついに水晶屍人がルーンの罠に触れ、完全に停止した。
「いきます!」
星屑はすでに一つの銀河を作り上げていた。その一つ一つが一筋のレーザーと化す。放たれた光の筋が無数に重なり、大きな大きな流れとなった。
水晶屍人の体は削り取られ、粒子となって散っていく。光に流され、一斉発射が終わる頃には跡形もなく消えていた。
「ソーンの罠も効きましたし、これで大丈夫そうですね! 残りの屍人も倒していきましょう!」
ルナは狼を撫でて活躍を褒めると、残りの水晶屍人に狼をまた向かわせた。
「こらー! お百姓さんをいじめるなー!」
ティエルは体の小ささを生かして水晶屍人の足元を駆け回り、集中攻撃を仕掛けていた。
「ライオンくん! ボクの攻撃に合わせて噛みついて!」
ティエルの声にライオンは跳躍し、水晶屍人の脛を目掛けて牙を光らせた。同時にティエルがライオンの背中から跳び、水晶屍人の膝へレイピアを向ける。
ガブリ! とライオンがその体を牙で空中に支えてしまうほど強く噛みつき、ティエルの刃がその上をざっくりと斬り裂いた。
「ウ……ウゥ……」
かすかな呻き声が聞こえてきた。噛みついたライオンを振り払おうとしても、動きが遅く勢いがつかない。ライオンはさらに牙を食い込ませ、ティエルも空中で何度も反転しズバズバ足を斬りつけていた。
度重なる攻撃に強度を失った足が折れ曲がり、水晶屍人の体が落ちていく。ライオンはここでようやく足を離し、着地したところにティエルが降りて再騎乗した。
足をめった斬りにされ、反撃をしようにもティエルを捉えられない。もはやうずくまるだけの水晶屍人の後ろへライオンを走らせると、
「ライオンくん、全速力でゴー!」
がら空きの背中へ、ライオンに突進の指示を出した。ライオンは応え、黄金の風となった。四足をフル回転させ、最後に地を蹴って跳び上がると、ティエルがレイピアをぎゅっと握りしめて、
「いっくぞー! ボク達の全力を受けてみろー!」
衝突の瞬間、レイピアを思いきり突き出した。抵抗を受けたのは一瞬。ティエルの捨て身の一撃は水晶屍人の体をいとも簡単に砕き、ライオンの通り道を体のど真ん中に開けた。
水晶屍人が倒れる。重力に引かれた動きは早回しに見えた。
猟兵達が水晶屍人を倒していくことで、農民達の退路も広がる。恐怖から解放され我に返った農民達が一人、また一人と戦場から逃げ出していく。
「これで……終わりです!」
星屑を放ち、ルナが最後の水晶屍人を消し去った。
「あ、全部倒したんですね」
レナータの給仕もようやく終わりを迎える。直接的な攻撃は行っていなかったが、他の猟兵が立ち回りやすくなるように、今までずっときんぴらごぼうの肉巻きを振舞い続けていたのだ。仲間を助けた功績は、他の猟兵の活躍にも引けを取らない。
「これでもう、お百姓さんをいじめるやつはいないね♪」
「排除完了か」
「ゴボウはポリフェノールと食物繊維がたっぷりで、やっぱり偉大でした!」
「では、皆で一緒に安全なところまで行きましょう!」
猟兵達と、雪豹と二匹の狼と、最後に残った農民達は、ようやく死への一本道を抜け出した。
今は一時の休息を。
猟兵はこの戦争を終わらせるまで、戦い続けなければならぬのだから。
大成功
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