エンパイアウォー⑨~汗跡辿る灼熱の山陽
エンパイアウォーはこちらが優勢に見えた。
幹部の数に減りが見え始め、徳川幕府軍は猟兵たちが切り開いたルートを歩んで合流した。一見順調、勝利の道も見えなくもない。という風に思えるだろう。
「敵の妨害が多過ぎる」
戦況を冷静に見て、ヘクター・ラファーガ(風切りの剣・f10966)は苦言を漏らした。
現在徳川幕府軍は三手に分隊しており、山陽道、山陰道、南海道の三つのルートに沿って進軍している。
関ヶ原では魔軍将の一人、軍神『上杉謙信』と大帝剣『弥助アレキサンダー』その配下らが待ち構えていたが、さらにこの先にも魔軍将が存在している。
山陽道には、侵略渡来人『コルテス』。
山陰道には、陰陽師『安倍晴明』。
南海道には、大悪災『日野富子』。
各ルートに一人魔軍将。幹部クラスのオブリビオンが配下を引き連れ、各々の力で進軍を妨害していた。
「俺が予知したのは山陽道。コルテスが配属された備中と安芸の間に、『灼熱地獄』が展開されているみたいだ」
水墨画のエンパイアの地図、その南。UDCアースの日本地図で言うならば"広島"の辺り。
そこの気温は異常な程に上昇していた。
常夏。否、エンパイアの住民にとっては灼熱。エンパイアの夏はUDCアースの夏には程遠いほど暑くない、はずなのだ。
最低気温35℃。最高気温──65℃。ちなみに最低気温は夜間の記録である。
「……ほっといたら死ぬわこれ」
コルテスは山陽道に恐ろしい策略を施していた。
配下のオブリビオンを元に熱波を発生させ、備中と安芸の一帯を灼熱地獄に変えていた。平均気温50℃。アツアツの温泉でも大きくて45℃だ。それが5℃上、どこへ逃げて涼もうともサウナの中。数秒で熱中症を起こすほどの地獄。
これだけでも恐ろしい策略。だがコルテスはさらに念を入れていた。
『南米原産の風土病』。高温において活発する感染症である。もしこの灼熱地獄を突破する術を持っていても、止めなければいずれ死に至る。
止めようとすれば進軍は遅れ。止めず強行突破すれば死。
「コルテス以外にも、晴明や富子も似たような戦術で妨害しに来てる。幹部を倒しても妨害が残るようなこの流れ。むしろ凶星がチラついてるように俺は思う」
"敵の妨害が多過ぎる"とは、このことだったのだ。
猟兵たちの殆どは幹部のオブリビオンに力を注いでいる。徳川幕府軍では勝ち目がないからだ。
かといって、配下のオブリビオンに徳川幕府軍は勝てるかと言われれば、先ほどのような策略が徳川幕府軍の力を削り、進軍を阻害する。やはりこちらも猟兵の力無しには進軍できない。
──この戦争の原因、織田信長はこの流れに持ち込むために魔将軍を各地へ設置したのだろう。
「だから、アンタたちには一刻も早くこの妨害を取り除いてほしい」
魔将軍を止められるのは猟兵だけ。そして、この『灼熱地獄』もそう。ただ勝つためだけでなく、"勝たせるため"にも猟兵は動かなければならない。
ヘクターはモニターに一枚の写真を映す。安芸の海岸、瀬戸内海が見える街の中心に、両手を広げ狂気の眼差しで術式を展開する女忍がいた。
「『灼熱地獄』の原因はコイツだ。『魍魎に憑りつかれし女忍』。コルテスが召喚した魑魅魍魎に寄生されて、熱波発生装置にされている」
女忍は元々長州藩士だった。コルテスの策略を止めようと先攻して戦ったが、敗北した結果がこの写真の姿なのだろう。触手にまみれ、痛々しく血を流しながら魔術を維持している。
憑りつかれた女忍の数は数百を超える。彼女らを解放し、そして備中と安芸も『灼熱地獄』から解放させなければならない。
「コルテスブッ殺したい気持ちはよくわかるが、目先ばかり見て足元を掬われちゃあ奴らの思うつぼだ。だから完膚なきまでに奴らの策略を潰す」
グリモアが開かれる。
向かう先は地獄から煉獄へと変わりつつある安芸の街へ。ブリーフィングルームに熱波が流れ込むほど──そこは陽炎で歪んでいた。
天味
=============================
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================
天味です。
エンパイアウォーの夏。浴衣コンテストが開かれる夏。いかがお過ごしでしょうか。
今回は夏の風物詩とも言える"暑さ"。それが元となったような予知、集団戦『山陽道熱波地獄』のシナリオとなります。
山陽道を覆う暑さ。平均気温50℃の原因である、熱波を発生させるオブリビオンらをなぎ倒す。というのが今回の内容です。
それでは、山陽道に風を送ってくださる方をお待ちしております。
第1章 集団戦
『魍魎に憑かれし女忍』
|
POW : 魍魎呪術・狂化
【魍魎に狂わされて狂戦士】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 魍魎呪術・降魔化身法【偽】
【魍魎におぞましき呪いを流し込まれ】【全身の傷口から血を噴き苦しみ悶えながら】【恐るべき力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 魍魎呪術・殺戮変化
【魍魎によって強制的に高速殺戮形態】に変形し、自身の【只でさえ消耗しきっている気力・体力】を代償に、自身の【攻撃力と敏捷性即ち殺戮効率】を強化する。
イラスト:すねいる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
峰谷・恵
「宇宙空間でも生身で動けるよう改造してるから、50℃だろうと75℃だろうと大気中ならボクは問題なくてね」
空間活動用改造ナノマシンで改造しているので50℃でも汗一つかかず行動可能。
敵が狂化で耐久力を上げる前に接近、可能な限り多くの敵を巻き込んで全射撃武器によるフルバースト・マキシマムを発動、一掃する。
その後はMCフォートとアームドフォートの砲撃乱射(2回攻撃+範囲攻撃+鎧無視攻撃+誘導弾)で敵の数を減らしながら霊玉を持つ敵を探し、見つけ次第熱線銃で攻撃。
敵の攻撃は極力回避、かわせないものはダークミストシールド(怪力+盾受け)、盾で受けきれない分は4重防具(オーラ防御)で防ぎおそすぎた収穫期で反撃
灼熱地獄。それは纏わりつく気温39℃の領域。
エンパイアの住民はもちろん、徳川幕府軍も、猟兵さえも蒸し殺すような暑さ。早めの予知によって予想された平均気温にはまだ達していないが、それでも熱い。日刺しは針のように肌を突き刺し、高い湿度によってどこにも逃げ場はなく、熱中症と脱水症状の二重苦が襲い掛かる。
そんな安芸の街の中で、峰谷・恵(神葬騎・f03180)は涼し気に辺りを見渡していた。
「どこだろ」
実はコルテスの配下討伐がこれで二回目になる彼女には、ある秘訣があった。
宇宙空間でも生身で動けるよう、ナノマシンで改造されたダンピール。それが彼女、恵の体質だ。50℃だろうと、75℃だろうと関係なく、彼女はこの灼熱地獄に立つ。
「はぁ……はぁ……ッ、ぐ……ううう!」
「あ、いたいた」
街の中心。そこに片膝をつき両腕を上げ、オレンジ色の魔法陣を展開ししている半裸の女性がいた。その体は傷だらけで、傷口から出入りする触手が彼女の体を無理やり動かしているようにも見える。
アレが目標の『魍魎に憑かれし女忍』の一体だろう。他に女忍は見当たらないが、早速恵は攻撃の準備をした。
「よいしょっと」
右腕に主砲の"アームドフォート"、左肩に第二主砲である"MC(マシンキャノン)フォート"を装備し、恵は女忍に向かって飛び出した。
「やめ、ろ……私は……な、ッ!?」
主砲から三メートルまで近づいた時、女忍に変化が起きる。先ほどまで魔法陣を維持していた女忍の両腕が垂れさがり、魔法陣を消した。触手は彼女の四肢に巻き付つき衣服のようにぴっちりと赤色に覆うと、本人の意思に関係なく恵へと飛び出した。
「動いた?けど関係ないね!」
恵が放つは最大出力の"全武装一斉発射"。腰にある"熱線銃(ブラスター)"、マント裏にあるタトゥーシール、そして宝石が輝く時、二つの主砲と持ち有る武器の全てが自律的に砲口を女忍に向けられた。
──容赦ない一撃。『フルバースト・マキシマム』が放たれる。
「待て、んぐむ──!!」
「霊宝の場所を、吐けッッ!!」
女忍の体が四肢だけでなく、全身が赤い触手に覆われ毛糸のような姿に変わる。だが、恵の一撃はそれすらも貫通する。
あらゆる全てを破壊する、無慈悲な砲撃。防御しようと体表に現れた寄生獣は、皮肉にも女忍を守る形で放たれた弾丸全てを受け止めた。
轟音、そして立ちこめる土煙。そこから何か黒いものが飛び出す。傷口から千切れて弱った触手を露出させた女忍だ。
土煙が晴れた時、恵はどこかスッキリしたような様子で、しかし何か物足りないような様子で辺りを見渡していた。
「うーん、アレ気絶してるよね……聞く前に撃っちゃった」
──彼女が言った霊宝とは、この作戦の前に行った灼熱地獄のキーになっていたオブジェクトのことである。
そして今回の灼熱地獄では、女忍が出していた魔法陣がキーになっていることに気づくのは、まだ先の話。
成功
🔵🔵🔴
セルマ・エンフィールド
魔空安土城とやらを築き、大々的に何事かを始めようとするくらいです。こちらへの妨害の手は前もって用意していたのでしょう。周到なことです。
代償によって弱るのを待つのも手ですが、数が多い。それに……見ていられません。力業といきましょう。
【絶対氷域】を発動、周囲52mを氷の世界に変え、敵を凍てつかせます。多少気温が上がったところで絶対零度の冷気を抑えることはかないません。
超強化により絶対氷域の中でも動く敵や半径52mの外から手裏剣等で攻撃される場合は2丁のデリンジャーで迎撃、飛来する物体を「武器落とし」して防ぎます。
元がなんだろうと……スコープの向こうにいるのは獲物だけです。
時は同じくして、安芸の街の一画。
元々人々が行きかう交易の場だったのだろう。暖簾や看板が並ぶ商店街だったが、そこには誰もいない。いるのは、オレンジ色の魔法陣を展開し熱波を発生させている女忍二人のみ。
街の人々は皆、女忍たちと異常気象に恐れ山奥へと逃げて行ったのだ。
「……閑散としていますね」
その商店街に訪れる影が一つ。40℃に近づこうとしている猛暑の中、長袖でライフルを抱える少女、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は数十メートル先で跪く女忍らに狙いを定めた。
「この暑さ、女忍たちも耐えられないはずなのに……見ていられませんね」
使うのは愛用のライフル、"フィンブルヴェト"の先端に取り付けられた銃剣"バヨネット"。氷属性を得意とする彼女は、バヨネットの刀身にすっと指先を当て、そこに冷気を纏わせる。
サムライエンパイアは日本列島とそれを囲む海のみの世界。霧の向こうにはユーラシア大陸やアメリカ大陸等があるかは不明。そもそも惑星であるかもわからない一種の箱庭世界だ。そのため、地球における"地軸"の中心、北極や南極はない可能性が高い。
ならばこの剣を地軸に見立て、ここを極地とする。
この領域は全てが凍る。熱を纏う分子を停止させ、固着。これがコルテスが作り上げた灼熱地獄ならば、こちらも真逆の領域を展開し相殺する。
「──逃がしません」
バヨネットが地面に突き立てられた瞬間、『絶対氷域』が安芸の街を覆った。
氷点下(マイナス)23℃の世界。セルマを中心に半径52メートル圏内と狭いが、熱波さえも凍り付かせ、湿気が全て霜に変化する世界が生まれた。
「くぅ、ぁ……!?」
「な、に……ぅ」
急激に変化する気温、そして襲い掛かる冷気。極低温の世界に、女忍二人は巻き込まれていた。体が急に凍り付き、傷口から顔を覗かせていた触手はたちまち宿主の危機を察知しラバースーツのように全身を覆い始めた。魔法陣など展開させている場合ではない。この温度は危険だ。噴き出す血を抑え、なんとしてでも宿主を生かし魔法陣を再展開させる手段を考える。
だが、それが裏目となる。
「手を下す必要もありませんか」
ここはもう灼熱地獄ではない。第一の頞部陀──まだ地獄の入り口でしかない。
体表に出たのが最後。寄生獣はパキパキと体を覆う霜によって肉体が壊死し始め、乾燥しひび割れた大地のように崩れてゆく。
氷点下22℃は、人という程よい体温の生物無しに生きていけない寄生獣に罰を与えてゆく。
──誕生し、女忍らに寄生した罪。
閻魔が下した罰は、死あるのみ。万華鏡の先にあるのは、霜が降り白くなった世界だけだった。
大成功
🔵🔵🔵
ラックラ・ラウンズ
ハロー!ハロー!……ところでこの解放って、文字通りの意味でも大丈夫か?
相手も素面じゃない、高速で此方を攻撃して来るはずだ。だからこそ巨盾を構え、相手が攻撃するタイミングで【シールドバッシュ】による【カウンター】を狙おうか。狙う部位は頭部、相手を気絶するようにするぞ。
相手が動かなくなったら、UCで女忍を治癒する。これでもクレリックだ。生憎祈祷には詳しくないが、誰かを救う【優しさ】くらいは持っている。
それに、だ。オウガはこの魑魅魍魎だろう?こいつを殺せば、この女忍たちは此方に協力してくれるはずだ。
女忍が気絶して動けない時、呪術が暴走しない内に巨砲の【零距離射撃】で正確に魑魅魍魎だけを吹っ飛ばす!
アリス・フェアリィハート
アドリブや連携も歓迎です
コルテスさん…裏で
こんな策略を
なさってたとは…
それに
女忍さんまで
利用するなんて…
『このままじゃ、大変な事に…それにしても暑いです…』
敵に囲まれない様に戦闘
自身の剣
『ヴォーパルソード』に
【破魔】を込めて
【属性攻撃】や【なぎ払い】
【鎧無視攻撃】等の剣戟や
剣から放つ【衝撃波】【誘導弾】等の遠距離攻撃を
【2回攻撃】での
時間差・多角攻撃とも
組み合わせ攻撃
纏めてダメージを与える際は
UC使用
(味方を巻き込まない様に)
敵の攻撃は
【第六感】【見切り】【残像】【オーラ防御】で
回避・防御
『貴方がたも…こんな形で、ですけど…せめて、私達の手で…魍魎さんの呪縛から、解き放って差し上げますから…』
一方、備中の山奥。そこにある街でも、例の女忍が三人ほど、魔法陣を囲い跪いていた。
現在の気温は50℃。最悪の事態は既に起き始めていた。
「あつつ!自然発火しそうだ!」
──案山子が叫んだ通り、本来夜中に点火される篝火が自然発火を起こしていた。
ラックラ・ラウンズ(愉快口調の荒れ案山子・f19363)は火傷するほど熱がこもった騎士盾を手にし、肩部にある砲塔を降ろす。
相手は三人、そしてその相手は女忍だ。しかしその実態は、体中に絡みつく触手──寄生獣が元凶。アレを切除すれば女忍は解放され、ここで展開されている術式を解除することができる。
非常に厭らしいオウガだ。仏顔の面を歪ませるほど、ラックラは口元をへの字に曲げる。
「あの……私が、一人ずつおびき寄せましょうか?」
そんなラックラの隣に、ポタポタと汗を流し今にも息絶えそうな少女が立つ。
オラトリオの少女、アリス・フェアリィハート(不思議の国の天使姫アリス・f01939)は、この灼熱地獄の中でもラックラの考えを汲み取る。
「このままじゃ、私たちも、女忍さんも……大変なことになっちゃいます……」
「同意見ですねぇ!いやぁ、暑い。マジで暑いぜ……頼んでもいいですかね?」
こくんとアリスは頷くと、マラカイトの刀身を持つ大剣、"ヴォーパルソード"を両手に持ち、暑そうにしていた雰囲気を一瞬にして消し飛ばす。
今から行うは厄災を振り払う儀式。
『フラワリーズ・フェイトストーム』、それは全てを歪ませる混沌の鈴蘭の花びらを捧げる、新たなる世界を築く魔法。
「──もの言う花たちの噂話は、あらゆる世界に広まっていくのです……」
ヴォーパルソードを掲揚し剣先を空へ向けた時、孔雀水晶の刀身はパズルのピースのようにばらばらに散り、それは鈴蘭の花びらになって宙を舞う。
花びらの一枚一枚に込められたのは、"説明不要の殺意"。これはヴォーパルソード本来の力であり、ユーベルコードで効果が増幅され殺意の対象が生物以外にも適応された証。
つまり──今この場に漂う鈴蘭の花びらには、世界にさえも傷を与える力が込められている。
「さあ、いきますよ!」
刀身がなくなったヴォーパルソードを両手に、花びらと共にアリスは三人の女忍へ向かって走る。
「ぅ、ぅ……あ!」
魔法陣を囲む女忍のうちの一人が気づく。
アリスもまたそれに気づき、すぐさま花びらを彼女に向けて放った。花びらは軌道上に"切れ目"を入れながら、女忍の体に纏わりつくもの、触手に刃を向ける。
「あああああああああ!!」
女忍に変化が起きる。纏わりつく触手が液体のように変化し、全身をラバースーツのようにぴっちりと包んだ。安芸の街で撃破した寄生獣が使った高速化のユーベルコードだろう。変化してしまった女忍は魔法陣から飛び出し、花びらを超えて超高速でアリスに接近する。
そこに、割り込む者がいた。
「うらァッ!」
勢いよく触手の刃を向けてきた女忍に対し騎士盾で"いなす"。ラックラは盾を両手に、肩部に砲塔を構えアリスの前に立った。
盾による攻撃の受け流しは、一撃が重いほど効果がある。例えば高速化し尋常じゃないスピードで動き回るものは、あらゆる行動に速度が乗るため、攻撃するときの重さもまた桁違いに増す。
盾でいなされた女忍は、空中でバランスを崩し地面に落ちようとしていた。
「その苦しみに、救いあらんことをッ!」
隙を掴んだラックラは、砲塔の先端を女忍の腹部へ密着させる。そこから放つは、無慈悲な一撃。だがそれは寄生獣に対して。
パリングから放たれた一撃で、女忍を蝕むものを破壊する。
「ラックラさん!?」
アリスが叫んだが、心配はいらない。
寄生獣は宿主のエネルギーを使い生き、支配しようとする。が、同時に宿主無しには生きられない。『魍魎』として生まれた定めのようなものだろう。
宿主を乱雑に扱いつつも生かそうとする、この矛盾は安芸の街で戦った女忍たちからも見受けられたものだ。
彼はそこに目をつけ、寄生獣が女忍の体を包み高速化した時に確信した。「あの状態であれば寄生したオウガだけを殴れる」と。
「あいにく祈祷には詳しくないが、このまま放置はしない……アリスさん、少しだけ待っていただけますか」
殆どが砲撃によって蒸発し、瀕死になった寄生獣は女忍の傷口から触手だけを出し、僅かに残ったエネルギーを吸い取っていた。
それをおもむろに掴み、引きずり出しながら空いた手で光を彼女に当てる。彼女を解放したいという祈りを光にする『遺術・聖者進行』は、女忍の蝕まれた魂を正しい方向へと導きつつ、寄生獣を物理的に、そして魂ごと亡き者にした。
「…………」
アリスはその光景を見て、ふと思った。女忍の救うにはどうするべきだったかを。
思いついたのは残酷な形ばかり。救うことはできない──そんな風に思っていた。せめて自分たち猟兵の手で呪縛から解き放とうと。寄生獣ごと抉り、蝕まれる苦しみから解放する。単純だが確実、そして残酷な手で実行しようとしていた。
しかし今見ているのは、まさに自分が真にやりたかったこと。
苦しみを和らげる。その上で呪縛から解き放つ。これこそ、猟兵のなすべきことではないか。
「……ふぅ、終わりました。あとは彼女が目覚めるのを……アリスさん?」
「ラックラさん」
アリスは静かに、刀身がなくなったヴォーパルソードを両手に構え直し、ユーベルコードを再発動する。
やり方を変えよう。ユーベルコードの花びらは世界を斬り裂く刃の群れになっている。が、この真の力は、万象も斬り落とすことができる。
──"女忍を蝕むもの"だけを斬る花びらを作りだす。
「今度は私に任せてください」
肉体が密接関係にあろうとも、時空を歪め望んだ結果だけを引きずり出す。今舞い散る花びらは、女忍を一切傷つけることなく寄生獣のみを抉り斬り裂く刃。
わざわざ犠牲を出すように仕向けた、こんな非人道的な策略を裏で行っていたコルテスを許さない。
その思いも、策略も、全て断ち切る。
──備中の気温が、少しずつ下がり始めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御門・セツ
アドリブ・連携可
【POW】
あっついー、上着脱いじゃおうかな。
さてさて、相手は味方だったみたいだしどうしたものかな。
とりあえずは、死なないぐらいの攻撃に押さえたほうがいい気はするけど……久しぶりだし余裕があるか心配。
屠龍戟を持って、ずんずんと敵前へ進む。
一応攻撃する際は平打ちか柄での打撃で対応、無理なら仕方ない。
囲まれた場合はUC「グラウンドクラッシャー」を地面に当てて後方へ引く
「相手には困らないけど、対応に困るね……この数」
安芸の港町。のちに呉と呼ばれるようになるそこで、御門・セツ(狂い華・f02799)は一人ターゲットを探し回っていた。
「あっついー……上着脱いじゃおうかな」
今の気温は48℃。なんと、ようやく下がり始めたのである。
元から露出が高く羅刹として生まれたセツは暑さに対し少し耐性はある。さらに50℃だった平均気温が猟兵の活躍により下がり始めたことで、涼しくはなった。
が、それでも暑いことには変わりない。肌から滴る汗は止まらず、シャワー無しにびしょ濡れ状態だった。
「相手は味方だったみたいだいし──どうしたものかな」
ふらふらと気怠そうに歩いていたが、一瞬にして足取りが慎重なものに変わる。
見つけた。数は三体、例の女忍たちだ。
相手側も必死なのか、報告にあった魔法陣は少し大きくなっており、その出力も増しているように見える。
瀕死の女忍に寄生し、そのエネルギーを全てこの『灼熱地獄』の展開に利用しているのだ。早く止めなければ、自身よりも先に女忍が衰弱してしまう。
「まーいっか。こういう時は……っ!」
戟剣──三叉の槍、"屠龍戟"を携え、セツは走りだす。
シンプルに正面突破し、殴り倒せばいい。当然手加減をしながら。
「はぁ……っ、はぁ……あ、ああああ!!」
「だれ、か……ひっ!いぁ、ああっ!」
真っ向から走って来る存在に女忍たちも気づき、そして寄生獣もまた動き出す。支配力を高め僅かに残る理性を溶かし、女忍たちに強引に忍刀とクナイを持たせる。
相手は二人。もう一人は魔法陣の維持に力を注いでいるようだ。
「分かった。ちゃんと助けてやるよ」
女忍らもまた、真正面から突撃してくる。
屠龍戟を回し二本のクナイを弾き、先に目の前に立った女忍が忍刀でこちらの首を斬ろうとする。回転方向と斬りつけてくる方向は同じ。これならばガードできないと思ったのだろう。
だがセツは羅刹であり、バーバリアン。
「おっと」
「!?」
右手を手放し、重むろに忍刀を掴む。刃が食い込もうと関係ない。これで止められるからだ。
さらに背後から。もう一度忍刀が首を狙おうと振るわれる。もう片方の女忍は、背後から詰め寄り挟み撃ちを考えていた。
「困るね……二対一じゃ」
だが、これも通らない。左手に、逆手に持った屠龍戟。腕の間から伸びた三叉状の刃が、忍刀を噛み動きを止めていた。
「でも、相手には困らない」
直後にクナイが、先ほどまで頭があった場所に振るわれた。
素早く腰を落としするりと二人の間を抜け距離を取ると、セツは腰に下げたバトルアックスを手にする。
やっぱり面倒になった。
「そこのあんたもまとめて、ぶっ飛んじまえよッ!!」
二対一。否、最初から三対一でまとめて潰せば早かったのだ。
セツは斧を思い切り振り上げ、地面に叩きつけた。『グランドクラッシャー』。それは港町の地面に蜘蛛の巣状の亀裂を入れ、破壊する。
「うぁ!?」
「きゃぁぁぁ!?」
理性を失った女忍二人も、魔法陣を維持していた彼女も、まとめて割れた地面と流れ込んできた海水へ。
最初からこうして、魔法陣を破壊すればよかったのだと、セツは気づいた。
──気温が、元に戻りつつある。
成功
🔵🔵🔴
久遠・翔
完全に生贄じゃないっすか…絶対許せないっす
見切り・第六感・地形の利用・残像で相手の攻撃を回避しつつ大声で呼びかけ正気を保立てます
俺には回復手段がないっすけど…UC起動させて女忍を使役獣に変換し、魍魎を引き剥がします
出てきた魍魎に対して暗殺・2回攻撃で斬り込み使役獣化した女忍を抱きかかえその場から離れます
気休めかもしれないっすけど、回復効果のある薬草や綺麗な布地を渡し今はつらいけどこれで耐えてくださいと叫び再び戦場へ行き同じことを繰り返していきます
可能な限り助けてみせる…その信念で体を動かし相手を撃破していきます
人を物扱いにするような相手の計略に負けてたまるものか!
命を冒涜するな下衆共が!
残る女忍はあと一人。瀬戸内海に位置する安芸の孤島郡、厳島から東南東にある大きな島、能美島の港町に彼女はいた。
『灼熱地獄』の術式はもう彼女しか展開していない。
天候、今回は気温の操作だが、これだけの大規模な術式を保つほどの魔力を、彼女は当然持ち合わせていない。一般の魔術師でも数秒で魔力が枯渇するほどの量を必要とするからだ。それでも魔力を維持し、エネルギーを注ぎ続けられているのは、彼女に寄生している触手のおかげだろう。
宿主を強制的に生かし、半永久的な魔力注入エンジンとして。それはまさに、生きたまま装置にするという所業。いかにもコルテスが考え付くような"効率的"なやり方だった。
「……完全に生贄じゃないっすか」
久遠・翔(性別迷子・f00042)は忌々しげに呟く。
海が見える場所で。半径十メートルにも及ぶ巨大な魔法陣を広げ、その中心に女忍はいた。
苦しむ様子はなく、ただただ命を消費しエネルギーを捧げている。しかし死ぬことはなく、体を蝕み続ける寄生獣が強制的に彼女を生かし続ける。
これを生贄以外になんと表現するか。
れっきとした手順による魔術ならともかく、完全に人を材料か何かと勘違いしている。これに、翔は憤慨せずにはいられなかった。
「お願いだから、落ち着いてくれッ!」
おもむろに魔法陣の中へと飛び込み、翔は女忍へ向かって走る。
女忍の反応はない。が、寄生獣は自身の一部である触手を鋭利な槍に変え、彼に向けて突きを放つ。
しかし触手が突いたのは陽炎。翔のスピードは、触手の突きの速度を超えている。
「しっかり!意識を集中させるんだ!」
ククリナイフを両手に、翔は大きく町中に響くほどの声で叫ぶ。
今の彼女は意識がない。本来ある生命力を維持するのに手一杯なのだろう。それでもあきらめず、懸命に声をかけた。
それが無意識に、ユーベルコードを発動するキーであることを彼は知らない。
彼は精神と魂だけは立派な"男性"であるにもかかわらず、肉体は女性である。戦闘衣である"夜の帳"で少しばかり気痩せているようには見えるが、本来は本当の女性も羨むようなワガママボディ。そこから発せられるのは──フェロモンである。
ボンッ!と、煙と共に触手が孤立した。
触手──寄生獣は驚愕する。先ほどまで宿にし魔術の維持のために侵食していた女がどこにもいない。全身の血管や臓器に根を生やし一体化までしていたはずが、気が付くと解除されウミグモのような本来の自分の姿を晒している。
一体何が起きたというのか。
「……もう大丈夫っす。ちょっと、待っててくださいよ」
寄生獣は見た。翔が魔法陣から離れた場所で、赤ん坊のようなものを抱えているのを。
否、その赤ん坊こそが寄生していた母体。極上の肢体を持つ女忍が、体躯の小さい翔の腕の中で抱えられるほど、小さく変化していた。
『無自覚の使役術(リンカーネーション)』。それは誘惑したものを翔の使役獣に変えてしまう、ユーベルコード。
「──覚悟は、できてんだろうな」
彼が立ちあがった時、寄生獣は死を覚悟した。
魔法陣はエネルギーを失い効力が薄れ始め、気温もまた下がり山陽道に元の夏が帰って来る。
しかし、それではダメなのだ。主人(コルテス)は絶対にそれを許さない。召喚されたその意味、手駒として女忍を支給された分の奉仕が、まだ終わっていない。
──ここで死に至り失敗するなど、冗談ではなかった。
「人を物扱いするようなヤツの計略に使われて、哀れだよな。けどよ」
──こんな命を冒涜するような下衆に情を込めるなど、冗談じゃない。
寄生獣もまた利用されたとしても、この行為も許すわけにはいかない。徳川幕府軍だけでなく、エンパイアの住民まで危険に及ぼした罪を、ここで清算させるのみ。
残像はいらない。ククリナイフさえも。
瞬時に接近し、素手でおもむろに寄生獣の核たる房を掴み、翔は無表情で握りつぶした。
気温は28℃。これが本来の山陽道の気温であり、戦国時代における平均的な夏の暑さである。
これが数十年ほど先になると、今度は30℃から36℃辺りへと変化してゆくが、その未来を観測できるかは、この戦争に掛かっている。
──数多ある策略、妨害の一つを取り除いたに過ぎない。しかし、確実な勝利への一歩が、今踏み出せた。汗の雫を垂らし、陽炎の中へ溶け込ませながら。
大成功
🔵🔵🔵