エンパイアウォー⑧~飢えよ食らえよ
●終わらぬ飢餓
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
どうにかしてあの屍どもから逃げないと。
城だ。城まで逃げれば、きっとお上が助けてくれる。
捕まったら最後、自分も食われてしまうだろう。
ああ、最初に捕まった子は、ばりばりと骨まで噛み砕れていたっけ――。
村人の思考は、此処で途切れる。
無我夢中で逃げ続けて、運悪く足を取られて転んで。
水晶屍人に喉笛を食い千切られる刹那、最期に彼が見たものは。
屍の肩から生えた水晶に映る、絶望しきった己の顔であった。
●終わらせるため
「鳥取城餓え殺しについて、聴いたことはあるか?」
グリモア猟兵の火神・五劫(f14941)が、仲間たちへと問いかける。
鳥取城餓え殺しは戦国の世の合戦のひとつ、第二次鳥取城攻めの別称である。
一言で言ってしまえば兵糧攻めであるが、それによって生み出された状況は凄惨にすぎるものであった。
食料も、牛や馬も、食えるもの全てが底を尽き。
追い詰められた人々は、遂には生きるために餓死者の肉を食らうようになったという。
「鳥取城には今もなお、恨みの念が渦巻いている。そこに目を付けたのが」
山陰道の防御指揮を担う魔軍将、陰陽師『安倍晴明』である。
男、曰く。
安倍晴明は配下の『水晶屍人』を操り、鳥取城に近隣の民を集めているという。
「晴明の目的は、鳥取城餓え殺しの再現――集めた民を飢え死にさせることで、より強き水晶屍人を生み出すことにある」
この強化型水晶屍人を量産する目論見が為されてしまえば、信長軍は山陰道を通る幕府軍と猟兵全てを殺し尽くしても、ありあまる戦力を得てしまうことになる。
「だが、今ならまだどうにか止められる。水晶屍人が民を襲っている現場のひとつに向かってもらえないだろうか」
現場は小さな農村。
10体程の水晶屍人が民の一部を食い殺し、怯えた者を鳥取城に追い立てるように動いている。
「そこに割って入り、水晶屍人を殲滅。民を救ってやってくれ」
水晶屍人には噛み付いた者を同族へと変える特性があるが、幸いにも猟兵には効果が及ばない。
しかし、今回の件の水晶屍人は、奥羽の戦いで駆り出されていたものよりも遥かに強い個体であるという。
「心して掛かってくれ。奴らは……彼らは、鳥取城餓え殺しの犠牲者。その怨霊を利用して生み出された存在だ。どうか、今を生きる民を守り抜いて」
無念のうちに果てた魂に、安らかな眠りをと。
五劫は仲間たちに全てを託し、戦場への道を開くのであった。
藤影有
お世話になっております。藤影有です。
民を守り、終わらぬ飢餓を終わらせるべく、猟兵の皆様の力をお貸しいただけますと幸いです。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
8月20日までに必要成功数を達成できなかった場合、山陰道を侵攻する幕府軍が壊滅し、3万人が犠牲になります。
●プレイングについて
接敵シーンより開始します。
民を逃がし、敵の注意を引き付ける工夫があるとスムーズに戦えるやもしれません。
また、今回の件の水晶屍人には、相応の強化が施されています。
数こそ少なめですが、油断はなされませぬよう。
それでは、皆様のプレイング楽しみにお待ちしております。
第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ファルシェ・ユヴェール
水晶は魔術との親和性が最も高い石、と言われますが
その分、負の力も溜め込み易いのでしょう
正負問わず、人の感情が強さを齎すのは頷けるところですが、
苦しみを、怨嗟を、無念を強制的に作り出そうとは
…戦に於いての策略、まして世を壊す為に居る者に人道を説いても無駄なのでしょうけれど
襲われる者を見つけたなら
咄嗟に己の衣装から水晶一粒、毟り取り屍人と村人の間に投げ入れる
UCにて「水晶の騎士」のイメージを顕現
――我が騎士よ、彼を守って下さい
村人の守護を我が騎士に任せ、私は攻撃に移ります
高威力の攻撃は脅威ですが、隙は作るもの
鋭い攻撃を仕込み杖で受けられたなら
カウンターで刃を抜く
その爪を斬り落とす気概で参りましょう
鈴木・志乃
これから行うのは、ただのエゴだ
その怨念すら救われて欲しいと願う私の
……
※オーラ防御常時発動※
念動力で村人を強制退去させつつ光の鎖を操り割って入る
攻撃受ける覚悟で接近
攻撃の気配を第六感で見切り、光の鎖を噛ませ腕は縛り上げる(武器受け)
可能なら足払いで転倒も狙う
抱きしめる(手をつなぐ)
UC発動
祈り、破魔、呪詛耐性に全力魔法も籠めた聖光で
安倍晴明の邪法、屍人の怨念の一切合切を消し飛ばす(衝撃波、なぎ払い)
一瞬でもいい 思い出してほしい
貴方が幸せだった頃の想いを
もう誰かを呪わなくていい
食べなくていい
動き続けなくて良いんです
……こんなことしか出来なくてごめん
どうか、どうか安らかに
……。
ヘンペル・トリックボックス
──ここにも、ですか。どれだけ無辜の命を不当に奪えば気が済むんでしょうねぇ、あの男は。これ以上増やすわけにもいきません、参ります──!
手持ちの霊符にありったけの【破魔】の気を籠めてからUCを発動、霊符を無数の桜吹雪に変えて戦闘開始です。
基本的な運用は【破魔】の【属性攻撃】による【範囲攻撃】ですが、しつこく村人を追う個体に対しては足止め用の障壁としても転用。ある程度弱った個体には、UCに手持ちの火行符を加えて速やかにトドメを刺します。さしずめ『紅蓮桜』とでも言ったところでしょうかね。
漸くあの男の居場所も掴めましたし、このまま鳥取城へ足を運ぶとしましょう。逃しはしませんとも、えぇ。紳士的に……!
紬雁・紅葉
死を撒く
黄泉を広げる
巫女として許せる筈も無し!
羅刹紋を顕わに戦笑み
神楽鈴を打ち鳴らし戦場へ躍り出る(存在感+誘き寄せ)
華々しく舞って敵の注意を引き付ける
【空の魔力】を攻撃
【闇の魔力】を防御
に割り振り
九曜、巴、鳳翔を適宜使い分け
正面からゆるゆると接敵
射程に入り次第破魔雷属性衝撃波UCを以て回数に任せ範囲を薙ぎ払う
敵の攻撃は躱せるかを見切り
躱せるならUC効果+残像などで躱し
そうでなければUC+破魔衝撃波オーラ防御武器受け等で受ける
いずれもカウンター属性衝撃波UCを狙う
窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃
下る比良坂黄泉の案内
剣の巫女が仕る
去り罷りませい!
※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※
笹塚・彦星
【POW】
一番足が届いて、一番襲われそうな民と敵の間に割って入る様にUC使用。
UCの分身と一緒に敵を惹き付けられたらさっさと逃げるように叫ぶ。【残像】、【凪ぎ払い】を使ってできるだけ逃げる民を追わせない。
「さてはて、死合うとするさね。」
晴明も蠱毒みてぇなことしやがって。ムカつきはするがとりあえず、目の前の奴さんに集中すっか。
(アドリブ、他の方との絡み大歓迎です)
プロメテ・アールステット
アステル(f04598)と
こんな事を頼む資格なんてないと分かっているが…
この世界を、人々を守りたい
けれど私の力だけでは足りない
だから…
頼むアステル、力を貸してくれ
瞳を真っ直ぐ見つめて頼み込む
溜息には固まるが、受けてくれた事実にほっとする
彼に礼を述べ、敵へと向かおう
【ブレイズフレイム】で鉄塊剣に炎を纏わせる
『戦闘知識』『地形の利用』を活かし
『範囲攻撃』で敵を『なぎ払い』
炎の『属性攻撃』『鎧砕き』で一体一体確実に倒す
敵からの攻撃には『武器受け』
傷は『激痛耐性』で堪え、一人でも多く守り切る
「過去」の貴方達に私ができることは何もないけれど…
二度と悲劇を繰り返さない
その為に、全力を尽くし最後まで戦い抜く
アステル・サダルスウド
プロメテ(f12927)と
彼女の事は「君」
初めて名前を呼ばれて
金の瞳が逃げずにこちらを見て
驚きすぎて言葉を一瞬失ってしまうほど
跳ねのけたっていいけれど…
でも、優しい友人の瞳を思い出しちゃったから
溜息ひとつ
「…しょうがないなぁ。今回だけだよ?」
僕が敵を引きつけて皆を逃がすから
君は守る為に力を振るえばいい
その役目だって、僕じゃできないんだからさ
ぶっきらぼうに告げて【ライオンライド】発動
『動物と話す』『動物使い』『おびき寄せ』でライオン君と一緒に敵を引き寄せるよ
逃げる人が狙われたら、敵をStaccato Rainで『マヒ攻撃』
敵の攻撃は『見切り』
逃げる皆へ『鼓舞』を
「大丈夫、必ず僕等が守るから!」
●
村に満ちるは恐怖と、死。
其処かしこには見せしめとなった民の残骸が転がっている。
僅かながらに腹を満たした水晶屍人の群れは、ただ命じられたままに動き続けるのみ。
また、誰かの悲鳴が上がる。
されどそれは、未だ救える者がいることの証左。
●
化け物どもが蔵の扉をしつこく叩き続けている。
動くわけにはいかない。
自分の後ろには怯えた女や子供、老人らがいる、何としても護らねば――。
青年の願いもむなしく扉が破られ、まさに水晶屍人が牙を剥いたその時。
青年と屍人の間に投げ入れられた“何か”が、光を放ち姿を変える。
「――我が騎士よ、彼らを守って下さい」
ファルシェ・ユヴェール(f21045)の強き願いに応えて屍人の牙を阻むは、彼の衣装の一部であった水晶から創造された騎士。
村人たちを背に庇い、騎士は一歩たりとも蔵の前から動かない。
割って入った邪魔者を退かさんと、わらわらと屍人どもが群がるが。
「零の式……来たれ」
紬雁・紅葉(f03588)がそれを許さない。
羅刹紋を顕わにして手にした薙刀を振るい、屍人の群れを蔵から離すように後方へと突き飛ばす。
たたらを踏んで留まらんとした一体に刀を振り下ろすは、笹塚・彦星(f00884)だ。
「魂だって斬り捨ててやるよ」
強い踏み込みに乗せ――壱、弐、参。
斬撃の乱舞はオブリビオンの右腕を、左腕を。遂には首をも切り落とす。
「晴明も蠱毒みてぇなことしやがって。ムカつきはするが……」
まずは目の前の敵に集中をと、残る敵へと向き直った彦星の目に映る屍人は、三体。
いずれも斬撃の余波を受けてはいるが、その傷をものともしない様子で唸り声を上げている。
「死を撒く、黄泉を広げる。巫女として許せる筈も無し!」
紅葉は神楽鈴の音を戦場に響かせ、笑む。
それは剣の巫女としての在り方によるものか、それとも羅刹の性であろうか。
「苦しみを、怨嗟を、無念を強制的に作り出そうとは……」
呟いたファルシェの杖を握る手に、自然と力が入る。
世を壊す為に居る者に、人道を説いても無駄なのだろう。
されど。
民を背に、猟兵たちは屍人を迎え撃つ。
繰り広げられる所業を見過ごせる者は、此の場に誰一人としていない。
屍人が、動く。
爪が、牙が狙うは、紅葉ひとり。
どうやら強化は知能までは至っていないらしい。
誘き寄せるための彼女の策とも気づかず、一直線に飛び込んでくる。
間合いに入った頃合いで――紅葉が得物を大きく薙いだ。
雷の属性を乗せた一撃に、屍人の動きが束の間止まる。
そこに踏み込むは、彦星とファルシェだ。
「道開けてもらうぜ。村の奴らの生きる、な」
残像を残す程の速さで彦星が抜いた刃は、オブリビオンの胴を真っ二つに切り裂いた。
一方、ファルシェの杖での打撃のみでは屍人はゆるがない。
強化の程を確認し、青年がひとり頷いたところで、敵が獣の如く腕を振るう。
「水晶は魔術との親和性が最も高い石、と言われますが」
鋭い爪に裂かれるより先に、杖に仕込んだ刃で手首より先を切り落として。
「その分、負の力も溜め込み易いのでしょう」
返す刃で喉を突けば、屍人はびくりと震えて――そのまま膝を付き、動かなくなった。
残る一体に引導を渡すは、戦巫女の破魔の一撃。
「下る比良坂黄泉の案内、剣の巫女が仕る――去り罷りませい!」
転がった屍人の濁った瞳も、その身体の水晶も。
何も映さず、何も語らない。
静まり返った戦場に、水晶の騎士が守り抜いた蔵の奥より、赤子の泣く声が届いた。
●
幼子の手を引いて、女は振り返らず走り続ける。
しかし、自分の命運は尽きたらしい。
転んで捻った足首では、もう立ち上がることはできないだろう。
「お城へ向かって逃げなさい! 母さんは後から行くから、早く!」
嫌だと縋る我が子だけでもと思ったが――ああ、もう駄目だ。
すぐ近くまで、屍が。
「大丈夫、必ず僕等が守るから!」
おどろおどろしい化け物どもの前に立ち塞がるように。
親子を庇うは巨大な獅子を駆るアステル・サダルスウド(f04598)だ。
力強い言葉に女の表情が和らいだのを見て取って、少年は敵へと向き直る。
お預けを食らった獣のように、手にした得物を振るって突っ込んでくる屍人どもへ。
「僕等が相手だよ、オブリビオン!」
送るは獅子の咆哮と、ぽろりと弾く弓の音。
雨霰と降り注ぐ矢に射抜かれようとも、屍人どもは足を止めない。
だが、あちこちの腱を傷付けられ、その動きはだいぶ鈍っている。
あとは、強固な身体を砕くだけの力を叩き込むことができれば。
「その為に――守る為に力を振るえばいい。君にできることをすればいいさ」
呟くアステルの、翠の瞳の視線の先。
牙を剥く屍人どもの背後で、巨大な剣に纏われた金の炎が揺らめいている。
その色と光の強さは、剣を構えるプロメテ・アールステット(f12927)の瞳のそれによく似ていた。
炎に薙がれた屍人が焼かれる嫌な臭いが立ち込める傍で。
(「“過去”の貴方達に私ができることは、何もないけれど……」)
プロメテは軽く黙とうを捧げ、二度と悲劇を繰り返さないと誓う。
親子の無事を確かめたアステルは、その様子を静かに見つめることしかできなかった。
いったい何があったというのか、未だ驚きが冷めやらなかったゆえだ。
彼女が真っすぐ自分と目を合わせる日が来るなんて。
力を貸して欲しいと頭を下げて頼み込んでくるなんて。
「アステル」と、初めて名前で呼んでくれたなんて。
この世界を守りたい。
プロメテはアステルにそう言った。
何がそう言わせるまでに彼女を変えたのか、彼には想像も付かなかった。
跳ねのけても良かったのに、答えてしまった。
――しょうがないなぁ。今回だけだよ?
彼女を受け入れた時と同じく、彼は小さくため息ひとつ。
ただ、思い出してしまったから。
彼女の――プロメテの金の瞳を見た時に。
友達の、同じ色をした優しい瞳を。
●
捕らわれた男の表情は、絶望に染まっていた。
瞳には、自分を掴んでいるのとは別の屍人が近づく様が映っている。
だがもう、男にとっては何の意味も無い。
数分と経たぬうちに、奴らの腹に収まる未来しか、ない。
男の喉に、腐りきった唇の触れる感覚がした刹那。
――ぐい、と屍人の頭が後ろに引かれ、大きく傾いた。
間に合った。
光の鎖を操って屍人を男から離しつつ、鈴木・志乃(f12101)は一先ず安堵する。
少女が念動力で男を、爪や牙の届かぬところまで運ぶ間に。
群れと男の間に割り込ませる形で、ヘンペル・トリックボックス(f00441)が桜吹雪を解き放つ。
「──ここにも、ですか」
目の当たりにした村の惨状に、ヘンペルの口からため息が零れる。
どれだけ無辜の命を不当に奪えば気が済むというのだろう。
あの男――魔軍将・安倍晴明は。
紳士の思考を現へと戻したのは、桜吹雪の中で蠢く屍人どもの気配であった。
どうやら破魔の気が込められた花弁に身が抉られるのも厭わず、腹を満たすべく歩み続けているらしい。
「永久のホリデイにご招待いたしましょう――どうか、安らかに」
長引かせる意味も無い。
帽子のつばで目元を隠し、ヘンペルは火行の符を一枚、桜吹雪へと加えた。
たちまち、桜が紅蓮に燃え広がっていく。
天へと煙が立ち昇る中、蠢いていたオブリビオンどもはぐずぐずと崩れ落ち――やがて、動かなくなった。
この付近に集った敵は、これで全部だろうか。
否、煙の向こうから一体だけ、まだ形を残した屍人が姿を現す。
その身を焦がしてなお、その歩みは――渇望は止まらない。
引導を渡そうとしたヘンペルを、志乃が制して進み出る。
「これから行うのは、ただのエゴだ。その怨念すら救われて欲しいと願う、私の」
「……これ以上は危険と判断したら、止めに入りますよ」
淡々と、しかし強い意志を込めて少女が紡いだ言葉。
紳士は頷いて、傍で見届けることにした。
何処かの誰かだったものを、少女は優しく抱きしめる。
反射的に食らいつこうとする屍人だが、既に牙に込めるほどの力すら残っていない。
抱きしめたまま伝えるは、込められるだけの祈り。
一瞬でもいい、思い出してほしい。
「もう誰かを呪わなくていい、食べなくていい。動き続けなくて良いんです」
幸せに生きていた頃の想いを。
「……こんなことしか出来なくてごめん」
天を仰いだ屍人は、何も答えぬままに。
少女の腕の中で斃れ、瞼を閉じて動きを止めた。
どうか、どうか安らかに。
志乃が祈り続ける傍で、ヘンペルが帽子のつばを上げる。
鋭い視線の先、遥か遠くには鳥取城。
逃しはしない。
逃してはならない。
怨嗟を繰り返すあの男を、けして。
*****
過去は無かったことにはならない。
しかし、繰り返さぬことならばできる。
此処で守り抜ける全てを、猟兵たちは守り抜いた。
繰り返されるはずだった怨嗟のひとつを、確かに止めたのだ。
大成功
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