11
エンパイアウォー⑩~青と黒と赤

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー


0




●黒鉄の船
 穏やかな波を、鋼の異相が割り進む。
 それはさながら、海に浮かぶ呪いの鉄城だ。
 真夏の陽光に黒々と耀き、熱され、澱と怨嗟を滔々と垂れ流す。
 其れは村上水軍旗が掲げられた船。巨大な鉄の船。怨霊たちが操る、希望を打ち砕く黒き船。

●海原一幕
 『第六天魔王』織田信長の居城、魔空安土城へ向かう幕府軍は、最大の難所である関ヶ原に集結した。
 ここからは関ヶ原で幕府軍を待ち受ける信長軍を突破し、さらに陽道、山陰道、南海道の3手に別れて進軍することになる。
 そのうち南海道では、大悪災『日野富子』が建造した『超巨大鉄甲船』の大船団が待ち受ける――と常とは変わらぬ軽やかな口ぶりで連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)はさらりと猟兵たちへ告げた。
「お金の力って凄いよね、超巨大な船をさくっと作れてしまうんだよ。ああ、オレはお金に踊らされる人間にはならないようにしよう……って、そうじゃなくてね。日野富子はガワだけじゃなく、船員まで用意しちゃったもんだからさぁ……」
 ふぅ、と希夜はわざとらしく重い溜め息を吐く。
 いや『厄介』なのは事実だ。
 金にモノを言わせて船を造れたとしても、自在に操る者がいなければ、ご立派な超巨大鉄甲船もハリボテの城と大差ない。が、日野富子は戦国時代瀬戸内海を席巻した大海賊『村上水軍』の怨霊を呼び出し、鉄甲船の大船団を大規模海戦にも耐えられる、最強の水軍に仕立て上げたのだ。
「つまり、今のままじゃ南海道の海路を進む幕府軍の船は海の藻屑確定。そうなる前に、皆には村上水軍の怨霊が宿った鉄甲船を沈めて欲しいんだ」
 とは言え、『超巨大鉄鋼船』は村上水軍の怨霊の力が宿っている限り、すぐに復元されてしまう。
 沈める為の手段はただ一つ。帆柱に掲げられた村上水軍旗を引き摺り下ろすこと。
「丸の上の字の、アレ。あの旗をビーチフラッグよろしく奪取しちゃえば、船は村上水軍の怨霊ごと消滅してくれる。ありがたい限りだよね」
 明らかに演技な沈鬱貌をぽいと捨て、希望をみつけたように宇宙を内包するかの如き紫眸を煌めかせ、ついでに「皆なら簡単でしょう?」と希夜はニカリと笑う。
「あ、でもね。オレが転移させられるのは船の最寄りの島までだからさ。そこからは、みんな頑張って自力で船まで渡って欲しいんだ。ぽーんと飛び移れる距離じゃないけど、距離的には百メートルかそこらだと思うから。きっとなんとかなるって。そうそう、船の上には酔っぱらった大蛇が十匹くらいうじゃうじゃ這いずってるけど、これも皆ならなんとかなる!」
 勿論、唯の大蛇ではない。れっきとしたオブリビオンだ。それでも希夜は、猟兵たちならば、と信じている。決して、聞えの良い台詞を調子よく紡いでいるわけではないのだ。
「巨大鉄甲船は、全長200m、全幅30mくらい。大暴れするには十分な広さだね。あと船を動かしてる亡霊たちも戦闘に加わることはないから、無視してくれていい」
 海を渡る手段と、巨大船に乗り込む手段。そして大蛇たちへの対策。
 分かりやすく指折り数えて要を希夜は語ると、「あとは任せたね」と猟兵たちを陽光眩しい海原へと送り込む。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 サムライエンパイア戦争に参戦させて頂きます。

●シナリオの流れ
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●シナリオ傾向
 智略を活かしつつのスピード戦。
 『カッコよい』を目指します。

●その他
 プレイングはOP公開時点から募集開始致します。
 受付締め切りタイミングはマスターページとTwitterでお報せします。
 参加人数次第ではありますが、プレイングの全採用はお約束できません。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
257




第1章 集団戦 『うわばみ』

POW   :    噛みつく
【鋭い牙】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    巻きつく
【素早い行動】から【巻きつき攻撃】を放ち、【締めつけ】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    炎を吐く
【体内のアルコールを燃焼した炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:塚原脱兎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴィルジール・エグマリヌ
船と馴染みが深い世界で育ったものとして
人に害をなす幽霊船の類は赦せないな

敵船へ抱く嫌悪感の侭に頸無し騎士を召喚
そのうちの1つの馬に相乗りさせて貰おうかな
……それじゃ、あの船を追っておくれ
追尾能力に優れたお前たちなら
此の広い海を駆け、大きな船体にも乗り込める筈だ

――さて、死神のお通りだ
お前達の魂を貰い受けに来たよ

甲板に乗り込めば蛇の対処を
然し大きいな……少年心を擽られつつ
頸無し騎士達を敵へ広範囲に嗾けよう

私は彼等が討ち漏らした蛇を、一体ずつ仕留めて行こうか
傷口をえぐるように剣を振るって、氷属性攻撃を
アルコールの炎は剣で武器受けするか
手近な敵を盾にすることで防ごう

さあ、お前達が眠るべき海へお還り



●青い浪漫
 す、と。腕を横に一閃。展開していた仮想ディスプレイの実体化を解いたヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)は、現実(こちら)と電子の海を繋ぐ真鍮製のモノクルを懐に仕舞い、青い海原に浮かぶ黒鉄の船を冴えた眼差しで見遣った。
 海と宙海。航る場所は異なれど、ヴィルジールが育ったのは船に馴染みが深い世界。
 だからこそヴィルジールは人に害をなす幽霊船もどきに、赦しがたい嫌悪感を抱く。
 そうしてその『嫌悪感』こそ、ヴィルジールの武器。
「告解の刻は来た。――心の準備は良いね?」
 唱える音色は、凪いで平らに。途端、闇を纏う頸無しの騎士達が戦馬に跨り眩い真昼に現れる。
「……それじゃ、あの船を追っておくれ」
 自らを招いた主の求めに、騎士に否があるはずはなく。うち一人の後ろをヴィルジールは拝借すると、騎士団と共に『嫌悪感』の根源を目指し颯爽と空を翔け出す。
 青い世界が、潮の香りが、瞬く間に流れゆく。幼心に抱いたものに酷似する光景に、知らずヴィルジールの心は弾む。
 同時に、ヴィルジールの戦意は静かに高揚する。
「――さて、死神のお通りだ」
 癖のない長い藍色の髪を靡かせて船へ至ったヴィルジールは、率いる騎士団と共に黒鉄の壁を垂直に駆け上がった。
「お前達の魂を貰い受けに来たよ」
 そうして立った焼ける甲板で、ヴィルジールは緑の瞳に少年心を煌めかせる。
「然し大きいな」
 害される気配を察し這いずり寄る赤は、人を丸呑みにしそうなほどの大きさだ。絵物語にでも記せば、子供たちがさぞ喜ぶことだろう。だが、これは敵。
 蠢く大蛇を騎士達が迎え撃つ。その狭間を抜ける個体と、ヴィルジールは距離を詰める。
 ぐびり。巨大な顎が首からかけた瓢箪の中身を煽った。
 ――来る。
 吐かれる炎を予測し、ヴィルジールは鋒を潰した処刑用の大剣に僅かに氷の属性を付与すると、盾代わりに掲げる。
 全ての熱は防ぎきれない。
 しかし軽減できるだけで十分。
「さあ、お前達が眠るべき海へお還り」
 体表をじりと焙られながらもヴィルジールは炎の中を突き進み、ぬらりと輝く眼めがけて剣を突き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
船までどうやって行くか…
決まってるだろう!凍らせて走っていけばすぐだ!

『トリニティ・エンハンス』の水の魔力で、状態異常力を最重視して強化し
氷の【属性攻撃】の凍結力を高められるだけ高める

そして海の水を【属性攻撃】で凍らせ
自分が渡れるくらいの広さの氷の道を作る
完全に凍らせるのには無理があるだろうから
渡れるうちに走って渡っちゃうぞ!

到着すればあとはこっちのもの
蛇は寒さに弱い、なら…
牙で襲いかかろうとする蛇の攻撃を【第六感】で察知し
【ジャンプ】で飛びかかり、《スノードーム》を突き刺す
そして、そのまま蛇の身体に冷気を注入してやる!

次々来る蛇を剣で突き刺して、そこから冷気を注入していけば
きっと効果覿面だ!


尭海・有珠
村上水軍も敵じゃなければ心強いんだけどなぁ

海を渡る際には剥片の戯で厚手の氷を並べて作り出し、走って渡る
高速詠唱と2回攻撃による先の足場の用意、全力魔法・属性攻撃で足場となる刃の強化を行う
出来なければ泳いで渡る
泳ぎは得意だ、百メートル程度どうということはない

海面から船を上がる際は
船の壁面に階段状に氷の刃を刺し、駆け上がる
船の上に出れればこんなに肉体労働せずに済んだのに!

体力を消費させられた腹いせは勿論お前にさせて貰うぞ
くっそ、お前の炎…というか吐く息が酒臭いな
それで良く酔っ払って絡まったりしないものだ
炎も息もご遠慮願いたい、その喉元狙って氷の刃を叩きこんでやる
ついでに水軍旗の綱も切り落としてやる



●氷上輪舞
 ――船までどうやって行くか。
「決まってるだろ! 凍らせて走っていけばすぐだ!」
 逡巡の間さえ惜しむよう、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)は小島の断崖から海めがけて飛び降りた。
 着水までの時間は僅か。
 けれどその一瞬にヴァーリャは己が爪先へ水の魔力を集約すると、海面に触れた刹那に効果を発揮させる。
 水と水。
 同属は互いを打ち消し合うことなく、存在を柔らかく受け止めた。そこへヴァーリャは氷の魔力を一気に迸らせる。
 太陽がぎらつく真夏の海に、氷の橋が真っ直ぐ伸びた。
 消費魔力を最小限に抑える為に、凍り付かせる幅は僅か。でも、それでヴァーリャにとっては充分。
「さぁ、渡れるうちに渡っちゃうぞ!」
 雪娘が履く靴は、流し込まれた魔力によってブレードを帯びて。ヴァーリャは局地的な冬景色の中を黒鉄の船めがけて滑り征く。

「なるほど、スケート」
 風と駆けた少女の背を眺めた尭海・有珠(殲蒼・f06286)は短くひとりごちると、自分は自分と高らかに唱える。
「来たれ、世界の滴。群れよ、奔れ――『剥片の戯』」
 天を突く仕込み杖が頂く海の宝珠が、目映く輝く。そうして発言した魔術――UCは氷の属性を纏う無数の薄刃を成し。それらは有珠の意のままに、海上にきちんと整列した。
 出来上がった仮初めの足場を有珠は走り出す。
 たかだか百メートルかそこらだ。
 泳ぎが得手な有珠ならば、水中を往くことも可能だった。
 しかし体力の消費量を思えば、こちらの方が俄然楽。
「村上水軍も敵じゃなければ心強いんだけどなぁ」
 嘆息の声さえ置き去りにする全力の疾走に、ぐんぐんと黒鉄の壁が迫る。海から生えたように聳える壁は、僅かに曲線を描きこそすれほぼ垂直。
「船の上に出れればこんなに肉体労働せずに済んだのに!」
 先行した少女は勢いのままに滑り昇った壁へ氷の刃を突き刺し足をかけると、有珠は苛立ちを紛らわせるような台詞とは裏腹な軽やかさで跳躍してゆく。
 とは言え、強いられた労への苛立ちが霧散したわけではない。
「さぁて、覚悟はいいか?」
 胸の裡の猛りで戦意を研ぎ、有珠は冷えた視線で熱砂の如き甲板を這いずる大蛇たちを睨みつけた。
「腹いせはお前たちにさせて貰うぞ」
 大人の男を頭から齧って呑んでもまだ余りありそうな敵めがけ、有珠は再びユーベルコードを発動する。
 だが刃の顕現し終えるより、存外素早い大蛇が有珠に肉薄する方が僅かに早い。
 ぶわり、と吐かれた炎が有珠の白い肌を灼く。
「、っ」
 されど有珠を不快で蝕んだのは、熱ではなく――。
「くっそ、お前の炎……というか吐く息が酒臭いぞ」
 酔っ払いなら、仲間同士で絡み合って動けなくなってしまえば良いものを!
 じりと焦がされる痛みを片手でいなし、有珠は「まずはその口を封じてやる」と氷の薄刃を大蛇の喉元目掛けて迸らせる。
 無数の直撃に、次に大蛇の口が発したのは苦痛の咆哮。その音色に有珠は僅かに留飲を下げ、けれど攻撃の手は加速させた。

 正直、暑さと熱さと炎はヴァーリャの苦手分野だ。
 しかも船上の戦場は三拍子の揃い踏み。しかしひっくり返せば、炎を繰る大蛇にとって氷の精が如きヴァーリャは、天敵同然。
「蛇は寒さに弱い――」
 甲板に到着し、更なる自由を味方につけた少女は、うねる赤の隙間を縦横無尽に走る。
「なら」
 身体を撓らせ伸び襲い来た首を、ヴァーリャは跳ねて躱し、中空でくるりと身を捻った。
 重力に引かれ往く先は、牙を剥く顎。されどあんぐりと喰らわれる前に、刀身にちらちらと雪が舞う剣をヴァーリャは真下へ構え――大蛇へ突き立てた。
 我が身を貫く冷たさに、濡れた眼が飛び出さんばかりに見開かれる。だがヴァーリャの本気はここからだ。
「もう一つ、プレゼントだ!」
 八重歯を覗かせ天真爛漫に笑い、ヴァーリャは繰る冷気を剣を伝わせ、大蛇の身に注入する。
 内側から凍らされる感覚に、オブリビオンの動きが鈍った。
 案の定の効果覿面ぶりに、ヴァーリャはありったけの魔力を赤い大蛇へ叩きつける。
 身体の大きさゆえか、そう簡単には骸の海へは還りはしない。然し決定的な瞬間は、空で湧き立つ雲が形を変えるより早く訪れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
海、か
櫻は連れてこれないな……泳げないから

僕一人、うまくできるといいんだけど
……離れてても
君の故郷のため、君のため
歌うよ

旗を、とってくればいいんだね
海は泳いでいってしまえばいい
船にはこっそり、乗るよ
わぁ蛇が、たくさん
巻き付かれないようゆらり飛んで
オーラ防御の水泡で攻撃を防ぐ
それでも防げなかったら、僕へ向かう炎や牙はきっと――「戀櫻ノ守り歌」、君が守ってくれるはず

自分に鼓舞を、歌唱にこめるのは蛇蕩かす誘惑の調べ
櫻の大事な故郷の大事な海だ、荒らさせはしないから
近づき過ぎないよう距離とり
「春の歌」で蛇をおくろう
桜の海で眠れるなんていいだろう?

僕だってちゃんと出来るんだからな!

旗は、下ろさせてもらう!


花剣・耀子
なんとかなると言われたなら、なんとかしましょう。

他に船はあるかしら。
動かせそうなら借りて鉄鋼船まで向かい、
無理そうなら船の上を跳ねてなるべく近くへと。
駄目ならなんとか泳いでゆくわ。なんとか。

鋼糸を張って鉄鋼船へ上がるわ。
的にならないよう、壁を蹴ったら機械剣のエンジンを全開に。
一気に駆け上がって踏み込みましょう。

……、……蛇は好かないのよ。
使える手は全部使って、斬り果たしてやる。

加速は最大、最速で。
蛇に巻かれるよりも先に斬りにゆくわ。
同時に鋼糸を張って遮蔽に。
他の蛇の行く手を阻み、止まった間隙を見逃さない。

気を惹いて、動きを留めて、叩っ斬る。
むかしむかしから、蛇への対処は決まっているのよ。



●泳ぎ征かば
 リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の恋人は、泳ぎが苦手だ。
「海、か」
 敵は洋上。しかも歩いて船まで渡る手段はない。つまり、そう容易く恋人を伴うわけにはいかず。
 片割れが傍にいない心細さは、連れるペンギンの式神を抱きしめることで宥め、リルは静かな海へと泳ぎ出る。
 月光ヴェールの尾鰭を持つリルは人魚のキマイラだ。しかも水没都市にも縁深い。だから海を超えることなど造作もない。
 されど黒鉄の異相に近づく程に、沈めた筈の不安が首をもたげる。
(「僕一人、うまくできるといいんだけど」)
 前衛は恋人へ任せ、リルは支援に回ることが多い。しかし今日は、リルを守る背はなく、導き駆ける足音も聞こえず、襲い来る敵を次々に斬り伏せる剣閃もない。
 でも、でも、でも。
(「……離れてても」)
 此処は、恋人の故郷。
(「君のために、僕は歌うよ」)
 寂しがり屋の人魚は、ありったけの勇気を振り絞り。泡沫に溶けた人魚姫にはならぬよう、辿り着いた船の外壁に添いゆっくりと、そしてこっそりと空中を浮遊し上昇する。

 なんとかなると言われたのだ。
 ならば「なんとかする」のが花剣・耀子(Tempest・f12822)の性質。
 とは言え、立ち塞がる難題を耀子は冷えた眼差しで見据えた。
 攻撃対象までは凡そ100メートル。陸上ならば数秒で走り抜けられる距離だ。だが耀子の目の前に広がるのは、海。
 手近に動かせそうな小舟があれば良かったが、生憎見当たらず。遮那王と呼ばれた稚児が長じて成したとされる八艘飛びよろしく船を渡り飛びたく思うものの、目的の超巨大鉄鋼船と耀子の間に足場になるものもない。
 そうする隙にも、華奢な人魚が船へと泳いでいった。
 ――ここで、手をこまねくわけにはいかない。
 伊達や酔狂で、花を散らす嵐の具現と称されているわけではない。逡巡は刹那で彼方へ飛ばし、耀子は海に身を浸し、泳ぎ始める。
 纏った衣服が水を含めば、当然重い。まとわりつくそれらが動きを制限しもする。されど耀子は対UDC組織で育った身。不慣れな舟を漕ぐより余程早く、黒鉄の居城へ辿り着く。
 さすればそこから先は、あっという間。
 放った鋼糸のフックを適当に引っ掻け、壁を蹴った勢いを味方につけて甲板まで跳ね上がる。中空に身を置く僅かの間、ちらと見れば先に泳いでいった人魚がちょうど甲板にたどりつく処なのが見て取れた。
 そして群がろうとする赤、赤、赤。
「……、……蛇は好かないのよ」
 抑揚なく云い棄て、耀子は機械剣のエンジンを全開にする。
 刃が唸り出すのと耀子が船に着地したのはほぼ同時。然して耀子は、滴る雫を吹き飛ばす勢いで敵の最中へ真っ直ぐに斬りこむ。
 加速は最大。最速を得た少女は、黒曜の髪に尾を引かせ。気付いた大蛇が振り返る間もなく、最初の一刀を叩き込む。
 蛇が獲物を巻いて仕留めるならば、巻かれる前に斬って捨てるのみ。
 赤い鱗に、耀子のものではない赤い飛沫が散る。じゃりじゃりと暴れる手応えを捻じ伏せ、耀子はそのまま大蛇を縦に裂いた。
 大きく開いた顎から、苦痛を訴えるように赤い舌がちらちら覗く。
「さすがに一撃では無理ね――なら」
 鋼糸で編んだ網で敵を戒め、更に一刀。脅威を察して迫る新手へも、異なる鋼糸を罠として放りゆく手を阻む。
 気を惹いて、動きを留めて、叩っ斬る。
「むかしむかしの、むかしから。蛇への対処は決まっているのよ」

 自分と年齢は変わらなそうな少女が、大蛇の血を頭から浴びて果敢に戦っている。
 凄惨とも言える光景を前に、しかし覚悟を決めたリルは怯まない。
 容赦なく陽光が降り注ぐ黒鉄の甲板は、フライパンの上に乗せられているように熱い。だが弱音を吐くことさえせず、リルは優美に游いで絡みついてこようとする大蛇から逃れる。
 吐き出された酒気帯びる炎は、水泡が弾けるオーラの守りで辛うじて勢いを殺す。
 防ぎきれなかった火炎が、リルの肌を焙った。焦げた匂いが、リルの鼻をつく。それでも、リルはきっと濡れた眼を睨みつけた。
(「櫻――僕に力を貸して」)
「愛しきあたしの王子様。あなたは誰にも傷つけさせないわ。あなたはあたしが、守ってみせる」
 歌い上げる詩は、リルの言葉にして、リルのものに非ざるもの。聞き慣れた声を旋律で再現し、桜吹雪と共に現れた櫻の木龍の幻影が斬風を吹かすことでリルは炎を相殺する。
 ――僕だって、ちゃんと出来る。
 己を鼓舞し、背筋を伸ばし。リルはありったけを込めて、次なる歌を戦場へ柔らかく響かせる。
「心に咲く薄紅を風に委ねて散らせよう」
 ――櫻の大事な故郷の大事な海を。
「麗らかな春風と巡り躍り、幾度でも花咲く夢見草――揺蕩い惑うも花咲く僕を」
 ――荒らさせはしない。
「どうか君よ、忘れないで」
 固い決意を秘めた旋律は、蛇を蕩かす誘惑の調べ。
「――桜の海で眠れるなんていいだろう?」
 先に吹かせた櫻の残滓に抱かれるよう蛇が酩酊する様に、リルは勇ましく微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
…うみへび、とは違うのか
蛇退治には酒だと聞いたが
生憎そこまでは用意できぬ

一先ず船へと翼で飛翔
澄み切った青い海が美しい、が
見惚れている訳にはゆかぬ
甲板へと辿り着いたら一旦停止し
蛇どもの目を確と見据え
――この夏積んだ修練は伊達ではないぞ
来い、まとめて蒲焼きにしてくれる

【怨鎖】を手に一匹の鎌首を捕らえ
誘き寄せながら蛇どもの頭を胴を
縦横に踏みつけ跳び越え、偶に羽搏き逃れ
これしきで目など回さぬ
頃合いを見て怪力にて一気に鎖を引く
うまく絡めば、そら
九つ首龍の出来上がりだ
巻くと回るばかりはお手の物――何故か

さあ、我が手は旗に届くだろうか
師に良き報告をせねばならぬ故な


泉宮・瑠碧
…大蛇は巻き込まれの気もするが…
妨害ならば、討つ

僕は主に弓で風鳥飛行の騎乗
移動と乗り移りは飛行なので大蛇の対処か

射る際は頭付近を狙いスナイパー
水の矢に冷気を纏わせた属性攻撃
攻守に第六感でタイミングを計る

最初は杖を手に、水を撒く様に這う床を濡らし
次いで弓に変え
誘導しつつ大蛇がその上を這う際に
冷気を纏う水矢を分散させて範囲攻撃
床に縫い付ける様に凍らせていく

噛み付きの警戒でも距離を取って立ち回る
火炎耐性として水の精霊による水を纏っておこう

巻き付きの回避は見切りで
大蛇が頭を上げた位置より上へ垂直に一気に飛ぶ

旗を留める物があれば撃ち
掴めたら引き摺り下ろす

…うわばみ達も、怨霊達も、どうか静かに眠れます様に



●空を翔く
「先に征く」
 鉤爪を持つ翼と、刃を連なり編んだが如き竜尾を靡かせて。瞬く間へ黒鉄の船へと翔け征ったジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)を追いかけるように、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は風が一時的に姿を変えた鳥の背に乗り、大悪災の思惑が形を成したものを目指す。
 日野富子の手により召喚された村上水軍の亡霊たちとは性質を異にする大蛇たちは、戦に巻き込まれただけな気がしないではない。
 しかし赤き獣は、オブリビオン。放置は即ち、新たな悲劇の発端。ならばせめてうわばみたちへも、深き眠りより無理やり呼び起こされた怨霊たちへも、安らかな眠りが訪れますようにと瑠碧は敵陣上空へと至る。
 目に痛いほどの陽光に焼かれた甲板では、ジャハルだけではなく、幾人もの猟兵がオブリビオンと切り結んでいた。
 決して瑠碧が後れをとったわけではない。
 それだけ猟兵たちの士気と志が高いのだ。
 そして瑠碧は戦場を俯瞰する位置で、全体の動きを余さず注視し、さらに先の動きを読む。
 荒ぶる海風が、清水を思わす淡い色の髪を好き勝手に泳がせる。それを視界の邪魔にならぬよう瑠碧は一纏めにし背中へ流すと、涼やかな杖を天へと掲げた。
 戴く宝珠より溢れ出した水が、とろりと甲板に細い流れを作る。熱された黒鉄の甲板に、それらが蒸発しきってしまうまでは僅か。されど増した湿度と、蛇にとっては心地よい水気が、大蛇の気を誘う。
 瑠碧の誘いに乗ったのは、今にも誰かを巻き取ろうとしていた一体だった。
 猟兵と大蛇の間合いが広がる――そこへ瑠碧は、空から冷気を纏わせた水の矢を射た。
 激しい雨のように降り注ぐ矢が、大蛇を甲板へと縫い留める。自由を奪われた大蛇が、全身を波のように戦慄かせて抗う。
 骸の海から呼び戻されたものとは言え、瑠碧にとってはオブリビオンもまた『命』だ。率先して悪事を働くのでないなら、胸に兆す想いは少なくない。
 だが、それでも。
「――凍れ」
 男を思わす固い口ぶりに、哀惜を秘し。瑠碧は渾身の水矢を撃ち放つ。
 狙いすましたそれは炎の化身を思わす赤の頭を射抜き、静かに偽りの命に終焉を齎した。

 瑠碧が放った矢が、一帯の熱を冷まし、じりりと灼けた甲板を所々霜走らせる。
 刹那の涼しさに目を細めたジャハルは、血で織り成した黒鎖を握る手に力を込めた。
 師の色を思い出させる空は、実に美しいものであった。瞬く間の飛翔の終わりを、惜しみたくなる程に。
 さりとて、見惚れる隙も、余剰な羽搏きを愉しむ暇もない。
「蛇退治には酒と聞いたが。生憎そこまで用意できぬ故な」
 どこか詫びるような言葉運びでありながら、口調はあくまで尊大に。恵まれた体格を活かし、黒き男は赤き蛇を全身で威嚇して。視線勝負で勝利した――つまりは、蛇のお株を奪う睨みで竦ませた――大蛇を鎖で絡め取り、おもむろに黒鉄の地面を蹴った。
 重い体躯だ。そう易々とは引き摺られない。されどここぞと発揮された怪力が、大蛇の重量を圧倒する。
 ずり、と。巨躯が動く。直後、大蛇は宙に浮いていた。
 そのままジャハルは縦横無尽に疾駆する。時にのさばる大蛇を踏みつけ、時に撓り来る尾の一撃を寸での羽搏きで躱し。そうしながら、錘――捉えた大蛇――を遠心力に任せて振り回す。
 御しがたき質量に、ジャハル自身の軸もぶれる。踏ん張りの効きにくい足元に、視線の焦点さえ回り始める。
 しかし。
「――この夏積んだ修練は伊達ではないぞ」
 ひと夏。たったひと夏の経験が、ジャハルを今まで以上に強くした。具体的に言うと、巻くと回るはすっかり十八番。修練内容や原因への言及は、今は避けるが。ともあれ過酷なあれそれが、ジャハルを一回りも二回りも大きくしたのだ。ジャハル本人は、得心いっていたい部分があるようだが!
 然してジャハルは鎖した大蛇にぶぅんぶぅんと風を切らせ、また一体、そして一体と錘を増やし――つまりは大蛇を絡め取ってゆく。
 目指すはやはり九つ首。
 伝承にも登場する大蛇を仕留めたとあれば、師にも胸を張って成果を報せることが出来るだろう。が、他の猟兵たちの仕事ぶりもすさまじく。
「……ふむ、三分の一か。少々足らぬが、良しとしよう」
 うねうねと蠢く三体の大蛇をジャハルはまとめて天へと放り上げると、重力の加速も借りて灼熱の甲板へと叩きつける。
「まとめて蒲焼にしてくれる」
 ――じゅう、と。
 物理的にだけではなく、ジャハルのユーベルコードの威力も乗った一撃に、命の飛沫が焼け焦げた。
 果たして骸の海まで還ったかは分からない。けれど動かなくなったうみへびとは異なるらしい大蛇たちから鎖を解き、ジャハルは翻る村上水軍旗を振り仰ぐ。

 その時、一人の青年の影がジャハルらの頭上を飛び越えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
旗をとればいいんだね
どうしよう、およいでもいいけど時間かかっちゃうよね

なにか出ないかなとガジェットショータイム
出てきた大きな筒に首をかしげて
筒をのぞき込むように中に入ったら
どかんと打ち上げられる人間大砲

わあっ
すごいすごい、飛んでるみたいっ
あれ?飛んでるのかな?

船の真上にきたら
咄嗟に進行方向と逆に斧を振って蒸気を噴出
船の上に落下できるように

着地と同時に大蛇に一撃
えーいっ
相手の攻撃は武器受けで防いで
たとえ巻きつかれたとしてもシュネーがいる
指が動かせればへいきだから
外側から大蛇を強襲
シュネーのキックはつよいんだよっ

シュネー、このまま旗をとりにいこうっ
道中の大蛇を薙ぎ払いながら
旗を下ろしに走っていくよ



●It's Showtime!!
「旗をとればいいんだね」
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は訊いた言葉を繰り返し唱え、洋上に浮かぶ黒鉄の船を手を翳して見遣った。
 ぽーんと跳んで届く距離ではない。
 かと言って、泳いでいくと時間がかかってしまいそう。あと、いつも一緒の白くて綺麗な人形――シュネーを海に浸してしまうのは、ちょっと申し訳ない。
 どうしよう、どうしよう、どうするのがいいのかな?
 くるりくるりと仔猫の瞳を煌めかせオズは首を傾げ、頭を抱え。はっと顔を上げると、運を天に任せてガジェットを召喚した。
「……え?」
 けれど出てきたのは、大きな筒のようなもの。
 果たしてこれのどこが役にたつのだろうか? 蒸気駆動の舟でも出てきてくれたら大助かりだったのに――なんて考えながら、オズはほぼほぼ45度に傾く筒を高い方から覗きこみ。更に詳しく確認しようと、ずりずりと中に入り込んだ。
 ら、ば!
 前触れもなく、どかんと爆発が起きた。
 衝撃は筒に収まったオズを巻き込み、あっという間に空へと打ち出す。つまりは人間大砲の完成だ。
「わあっ」
 砲弾と化したオズは、驚きよりも歓喜に心を躍らせる。
「すごいすごい、飛んでるみたいっ。あれ? 飛んでるのかな?」
 放物線を描きながら、オズは青空に溶けた。いつもより近い空はキラキラで、それを映す海面も眩い。
 今なら雲にだって手が届きそうだ――と、思った時。オズは周りに海鳥の姿がないのに気付く。
「そうだね」
 ――ここは、戦場。血生臭さと異質に怯えた生き物は、近寄らない場所。
「いこう、シュネー」
 然してオズは、ガジェットの斧を振り被ると、進行方向とは真逆に蒸気を噴出させた。
 殺された速度に、オズは推進力を失い真っ逆さまに落下する。けれどそこは超巨大鉄鋼船の真上。降り立つ先は当然、黒鉄の甲板。
 そうして軽やかに敵の直中に降り立ったオズは、道を切り拓く為に今一度、斧を振るう。
 既に少なくない猟兵たちが戦っている。蠢く敵の数も、減っていた。だからオズに肉薄する大蛇は一体のみ。
 巨体に似合わぬ早い動きは躱しきれないし、撓る尾が瞬く間にオズへと巻き付き、ぎりりと締め上げてくる――けど。
「シュネー、旗を!」
 どれだけ動きを封じられようと、指さえ動けばシュネーは走れる。
 放たれた小さな淑女が、甲板をとととっと駆けて、駆けて、するすると帆柱を垂直に駆け上がってゆく。
 邪魔をしようとする大蛇は、猟兵たちが尽く叩き伏せ、斬り伏せる。
 そしてついに、小さな手が丸に水の字の旗へと伸び、結わえ紐をぐいっと引き千切った。

 勝利のマントを背に負うように、シュネーが甲板へと降りて来る。
 それは『怨霊』たちが、大悪災の支配から解き放たれた事を意味し。
 洋上要塞の如き黒鉄の船は、逃げ水のように揺らぎ、ゆっくりと消え去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月13日


挿絵イラスト