エンパイアウォー⑨~熱波と飢餓と
夏の暑さに加えての湿度、毎日が真夏日と言えるこの状況下でも安土城を目指す幕府の行軍は止まらず。
されど敵も手をこまねいているわけもなく、進軍を阻む手を既に打っていたのである。
ここは山陽道、整備された街道とその脇に生い茂る木々が視界を遮る遮蔽物となり、また足場も悪くところどころに出張った木の根や窪みが邪魔をする。
うだる暑さに誰もが顔を顰めかねないこの状況、だがこの山陽道を通らねば目的地にはたどり着けぬのだ。
されど、敵の進路を断ち戦力を目的地へ届けないこと、それは戦争において敵軍を倒しているのと同義となる。
アテにした戦力が予定日に到着しない、それは全員戦死して存在しないのとほぼ同義。
如何に膨大な数の将兵を集めたとしてそれらが予定通りに展開できねば無意味なのだから。
加えてこの山陽道は単なる封鎖ではなく、幕府軍を追い詰めるべく侵略渡来人・コルテスが張り巡らせた計略が進行中。
それはこの気温を更に上げ、50度まで引き上げることによる軍勢の茹で殺し。
進軍途中に跳ね上がる気温に加え、更には南米独特の高温にて蔓延する風土病まで撒き散らし、足止めどころか殲滅を目的としていたのだ。
幕府軍を待ち受けるオブリビオン、それらは叛意を持った武士の協力にて数を揃え、手にした霊玉を掲げ儀式を行う。
地獄より呼び出された餓鬼たちが熱波によって幕府軍を茹で殺し、いくら食べても満たされぬその食欲、わかりきってはいるものの喰い散らかした衝動に突き動かされ、儀式は粛々と進んでいた。
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「あ゛あ゛あ゛~……なんとも暑苦しい状況ですぅ~」
現在の気温に加えて予知した結末、50度オーバーの殺人的熱波を見ちゃったのがよっぽど堪えたのかノクス・フォルトゥナ(強化人間のマジックナイト・f17760)が冷感マットの上でのた打ち回っていた。
明らかにその動きで余計に暑くなっているのだが突っ込むとめんどくさそうなので猟兵達はその動きはスルーして説明を促していく。
「あぁ、そうですねぇ~。どーやら街道に伏兵置いてぇ、軍勢が入ってそこそこ進んだら熱波を出してボンッ、とやる気みたいなんですよぉ~。
変な儀式をして、気温を一気に上げる準備をしてるオブリビオンがぁ、街道、その周辺の森に潜んでましてぇ。
これをほっとくと、高温となーんか暑い場所で流行する病気が蔓延してぇ、幕府軍が壊滅するみたいなんですよぉ」
大まかな流れをのた打ち回りつつ説明するノクス、大雑把になにが起こってるかはわかる様に言っているようではあるが、微妙に何か抜けている気がする。
「あぁ、言い忘れてましたぁ。儀式をしてるオブリビオンは、ピカピカ光ってる噴火エネルギー溜め込んだ霊玉を持ってますねぇ。
殲滅したら、これをぶっ壊すといいですよぉ、それでお仕事終了ですぅ」
儀式の詳細はわからないが、とりあえず大事なパーツは霊玉らしい、という事だけは判明している模様。
となれば猟兵のやるべき事は山陽道に先行、街道や周囲の森に潜むオブリビオンを早期に発見し殲滅、その後に霊玉を破壊するという事だろう。
「この霊玉キープが一番の目的みたいですね~。
壊されないように、全員が一つのボールに殺到するサッカーチームみたいに群れそうですからぁ、霊玉さえ見つければ隠れてる敵の捜索は、そこまでしなくていいですよぉ。
それじゃ、暑苦しいですし、パパッと終わらせて冷房の効いた場所に帰りましょうかねぇ~」
もんどりうってるだけでは暑さの解消は出来ない。
冷感マットだけでは限界だ、ならば早く目的を果たして冷房の効いた場所に行きたいと欲望をダダ漏れさせてノクスは説明を終了。
グリモアを起動させ、猟兵達を戦いの場へと誘うのであった。
紅葉茉莉
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
こんにちは、紅葉茉莉です。
今回も戦争シナリオ、サムライエンパイアで発生した事件の解決を目的としたシナリオになります。
熱波によって茹で殺すべく、護衛に生み出されたのは多くの餓鬼。
集団戦故に個々の力量は高くはありませんが食い尽くす、という目的で統率され、集団を狙うべく無意識の連携をとると思われます。
何も考えずに突っ込むと手痛い反撃もありえますので、無為無策の突撃ではなく何をどうやって駆使して戦うか、という部分があれば良い結果に繋がりやすいと思います。
道での戦いは視界が良いでしょうが、すこし脇に逸れてしまえばそこは木々の生い茂る悪路、獣道が時折ある程度で尚且つ視界不良といった中。
逃げ込まれれば探索は面倒、ですが裏を返せば自分達が潜み仲間が気を引く最中に裏を取ることも可能ではあります。
単純な武器だけでなく地形や物品の活用など、取れる手段をいろいろ試すのも良いかもしれません。
では、ここまで長文をご覧頂きありがとうございました。
ご縁がありましたら、よろしくお願いします。
第1章 集団戦
『餓鬼』
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POW : 共喰い
戦闘中に食べた【弱った仲間の身体の一部】の量と質に応じて【自身の傷が癒え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 飢餓の極地
【究極の飢餓状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ : 満たされぬ満腹感
予め【腹を空かせておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
イラスト:猫背
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エウトティア・ナトゥア
※連携・アドリブ歓迎
『餓鬼』をできるだけ引き付けて後続の行動が楽になるように支援するのじゃ。
まずは【巨狼マニトゥ】に【騎乗】し、事前に持ち込んだ【料理】をばら撒きながら駆け回り『餓鬼』をおびき寄せるかの。
『餓鬼』のおびき寄せに成功したら、囲まれないよう距離に気をつけ【野生の勘】を研ぎ澄ませて【回避行動】を取り適度に引き付けるのじゃ。
『餓鬼』の「飢餓の極地(SPD)」に対しては、【風属性】をまとわせた【誘導】する矢を多数飛び回らせたり、風の精霊を呼び出して【ルビーチョコレート詰合せ】を飛び交わせたりして気を引くとするか。
ほれほれ、わしの秘蔵のチョコレートじゃ。食べたくば頑張ってついて来るがよい
ソフィア・リューカン
なるほどね!なら私は陽動役を買って出るわ!
まず大量に人形を召喚するわ!今回は陽動だから、頑丈なジェファーソンを多くするわ!
次に相手の目に留まるように人形を動かしていくわね!相手もそれを捉えようとしたり、食べようとしたりするだろうから、【念動力】でしっかり正確に操作して仲間に殴り掛かる様にしたり、食べるように仕向けるわ!そのうち究極の飢餓状態になる様なら、更に素早く精密に動かして誘導し、味方が攻撃しやすいよう集団にして身動きが取りにくいよう【時間稼ぎ】を行っておくわ!
一応、私と手持ちの人形でも対応できるよう、【罠使い】の知識で大きな落とし穴を仕掛けておくわ!味方がいなさそうなら、ここまで誘導ね!
桜雨・カイ
連携アドリブ歓迎
速く動くとこちらを狙ってくるようですね。
それならば、あえてこちらを狙ってくるように動きましょう
錬成カミヤドリ発動
同じ姿なのを利用し数体の錬成体を一度に動かします。
あちこちに瞬時に移動しているようにみせて囮にしましょう
鬼さんこちら。…他の人を食べてはいけませんよ
ある程度一カ所にまとめたところで、残りの錬成体を発動
【鎧無視攻撃】で集中攻撃します(可能なら他の人とも連携)
これなら耐久力が高くても攻撃がとどくかな。
イフェイオン・ウォーグレイヴ
私みたいなのは皮と骨で美味しくないですよ。
その代わりこの竜をどうぞ。産地直送、腐りかけが一番美味しいってどこかで聞いた覚えがありますしおススメですよ。
ブラックドラゴンを召喚し、できる限り派手に暴れてもらいましょう。
敵の視線を引き付けているうちに私は脇道から敵集団の背後へと迫ります。
『目立たないよう』『忍び足』で奇襲すればそれなりに混乱するでしょうか。
霊玉を持っている敵が大きく動いてもらえれば分かりやすいのですが高望みしすぎかな?もし確認できれば追跡し屠っちゃいましょう!
どちらにしろ私のする事には変わりはありません。早く涼しい場所へ避難するべく、敵を斬って切って解体尽くしちゃいます。
エルシー・ナイン
ワタシは耐熱性能がありますのでこの程度の暑さでオーバーヒートすることはありませんが、兵士の皆さんにとっては大変な問題ですね。手早くオブリビオンを片付け、霊玉を破壊するとしましょう。
森に潜み、森の中から『スナイパー』としての能力を活用して【クイックドロウ】で餓鬼を一体一体狙い撃ちますよ。もちろん撃った後は即座に移動して位置を特定させません。
もし道で戦っている猟兵がいるようでしたら、『援護射撃』で支援しましょう。
飢餓の極地に至れば同士討ちが始まるはず。そうなったら弱った相手から確実に止めを刺すことにしましょう。もちろん自分が攻撃対象にならないように、見つからないこと、ゆっくり動くことを心がけます。
霧島・絶奈
◆心情
餓鬼ですか…
こう言った文化圏だと時節とも言えるのでしょうか?
まあ、私には関係のない事です
敵である以上は殲滅するだけです
◆行動
『暗キ獣』を使用
街道に沿う様に布陣させ、包囲と共に逃走を警戒
屍兵は槍衾による圧力と迎撃、屍獣は屍兵の穴を埋める様に遊撃させます
私は【目立たない】事を活かし軍勢に紛れ行動
こう言った乱戦こそ【罠使い】の腕の見せ所です
逃走した敵の殲滅を目的とした罠を、街道沿いや森の中に無数に仕掛けます
罠を仕掛け終わるか、敵が私に向かってくるならば【二回攻撃】する【範囲攻撃】で【マヒ攻撃】
罠と併せて【恐怖を与える】事で【精神攻撃】としましょう
負傷は【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復
南中の空に燦々と太陽が輝き大地を照らし、気温の上昇と共にむせ返る湿度が不快指数を跳ね上げる山陽道。
街道は日差しを受けて乾ききり、風が吹けば砂埃を巻き上げるが脇に逸れれば数多の樹木や下草が生い茂り、繁茂した植物から発せられる湿り気と臭いが鼻腔をくすぐる。
本来ならば出歩きたくもない気温と湿度、その為街道を行きかう人影は無く静まり返ったその場所に異変が起こるのは、少しずつ太陽が西の空へと動き始めた頃だった。
「オォォオオオ……」
うめき声と共に街道に沿って長槍構えた兵士の行列が姿を見せる。
その姿が通常と違うのは、全ての者が生ける者ではなく命を落とした屍者のみで構成されている事であろう。
更にその兵隊の隙間を縫うように、こちらも死より蘇った数多の屍獣が荒い息遣いで駆け回り、縦列に綻び生じてもすぐさま押さえ込める様に遊撃していた。
「グルルル、シャァアアアア!!」
続けて響く咆哮、それは展開された屍者の一部をも糧として呼び出された強大な黒竜。
既に一度、命を落としたその竜は使役者の命ずるままに暴れ狂い、敵対者を探し地響き立てて動き出す。
屍の軍勢と獣、そして竜。
命を落とした者が再び生得て進む様は不吉なものを感じさせるがこれは猟兵の生み出した存在である。
「申し訳ありません、少し其方の兵士を使ってしまって」
「いえ、多少の犠牲は前提ですので気になさらず。派手に引き付けて下さればそれで十分です」
イフェイオン・ウォーグレイヴ(濡鴉の死霊術士・f19683)が小さく頭を下げれば、それに応じるのは既に人の体より変貌、体を覆う燐光の靄にて細やかな部位が見えぬ霧島・絶奈(暗き獣・f20096)の二人がやり取り。
言葉からわかるように、黒竜を呼び出したのはイフォイオン、屍の軍勢を用いるのが絶奈。
互いに用いる者は違えども、呼び出した存在を利用し立ち回る点は共通している。
「それにしても餓鬼ですか……こう言った文化圏だと時節とも言えるのでしょうか?」
「どうでしょう? では後は皆様の誘い出し次第、私たちも仕込みに入りましょう」
絶奈とイフェイオンが言葉を交わせば、絶奈は軍勢に紛れて脛程度の落とし穴、トラバサミといった罠の設置を開始。
イフェイオンは茂みに紛れ、足音を消して他の猟兵が敵を誘い出した時、的確に切り込めるルートを確認しつつ移動。
そんな召喚能力を持つ二人が動き出したとき、別の伏兵も既に茂みに潜んでいた。
「この程度の暑さでオーバーヒートすることはありませんが、兵士の皆さんにとっては大変な問題ですね」
日差しを遮る茂みの中、上昇する体表温度にも関わらず涼しい顔をしていたエルシー・ナイン(微笑の破壊兵器・f04299)が小さく呟く。
耐熱処理を施された彼女のボディならば既に40度に迫る気温であろうと問題ないが、時間をかける必要性などどこにもない。
生み出された軍勢、設置された罠、仲間の動きに気を配り、誘い出されるその時を彼女は静かに待っていた。
同刻、街道から外れた茂みの、木々の、獣道のその奥で。
3名の猟兵が各々の手段で此度の敵となる餓鬼を探し、釣り出し街道へ引きずり出す算段を行っていた。
「数を出してこちらに気付かせ、街道まで誘導しましょう」
「なるほどね! なら私も用意するけど、一応落とし穴を用意しておくわ」
己の姿と瓜二つ、本体である人形、自分自身の複製を大量に生み出した桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)と愛用の二種の人形、ちょっと諦めたような表情の青髪人形ジェファーソンを複製し、操るソフィア・リューカン(ダメダメ見習い人形遣い・f09410)が言葉を交わす。
互いに数を用いての敵誘導、だが両者のスタイルは違う形。
カイはそれぞれを木々の影に隠し、適時姿を見せる事で高速移動をしているが如き錯覚をさせるのが目的。
ソフィアはその物量を活かしてのかく乱と友軍、罠への誘導を狙うスタイル。
餓鬼が姿を見せれば二段構えの陽動に動きを阻まれ、そして街道へ釣り出す形となっていたのだ。
そんな二人が誘い出す準備を終えた時、最速で餓鬼を見つけ戦いを始めたものが居た。
「ほれほれ、わしの秘蔵のチョコレートじゃ。食べたくば頑張ってついて来るがよい」
余裕を見せて荒れた山道駆け抜ける巨狼にまたがるエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)が、手元でピンク色のルビーチョコレートを弄び。
先にばら撒いた多彩な、そしてチョコには見た目の劣る料理に釣られ、姿を見せた餓鬼を挑発。
秘蔵のチョコが食べたいならば自分を捕らえてみせよと嘲笑い、巨狼マニトゥを操り木々の合間を駆け抜けていた。
「ウオアアアアア」
言葉にならない呻きと叫び、餓鬼が空腹満たそうとエウトティアを追い立てる。
あと一歩で彼女の衣服を、尻尾に届きそう。そんな距離まで迫る餓鬼だが次の瞬間、マニトゥは飛び上がり、木の幹蹴って方向転換。
急激な切り返しに餓鬼は反応しきれずに伸ばした手は宙をきり、何も掴めていなかった。
「マニトゥ、次はあっちじゃ。ちと忙しいがもう少しじゃぞ」
騎乗したまま方向を指し示し、即座に応じるマニトゥが荒れた地面を駆け抜けて、逃がしてなるかと餓鬼たちも追いすがる。
暫しの追撃、熱波に茹だる山林に響くうめき声と木々をかきわけ、擦れ合う音が響くその最中。
餓鬼の内の一体が異変に気付き、視線を変えればそこに居たのは木に半身を隠しつつこちらを伺うカイの姿。
追いつけぬエウトティアに苛立っていた餓鬼はこれ幸いと標的変更、カイ目掛けて走り出すがすぐに体を隠されて、数秒すれば別の離れた場所から自分を見るカイが姿を見せる。
そんな馬鹿な、あの僅かな間に移動したのかと困惑し、餓鬼が足止め姿を見せたカイへと走る。
だがまたしてもそのカイは木々に隠れ、また別の場所からカイが姿を見せる状況に混乱。追いついた仲間と共に顔を見合わせ逡巡するがその思考を妨害する挑発が。
「鬼さんこちら。……他の人を食べてはいけませんよ」
まるで言い聞かせるように言葉を発したカイに激昂、3体の餓鬼が何としても食いついてやろうと飛び跳ねながら移動する。
しかしカイはまたしても姿をくらまし、また別の場所から姿を見せるを繰り返す。
そう、これは同一の姿をした分身を利用しての巧みな誘導。
バラバラに出現しているように見せかけて、彼は徐々に餓鬼たちを街道側に向かう様、配置した分身を操っていく。
「ほらほら、どうしたの!? もうちょっとで捕まるわよ!」
カイの誘導とほぼ同時、エウトティアに釣られた餓鬼の数体が木々の合間を飛び交う青髪人形に気を取られていた。
その人形を扱うのはソフィア、あと少しで届きそう、そんな位置取りを意識して餓鬼の眼前を飛び回らせて、徐々に街道側まで引き寄せる。
彼女の思惑通り、餓鬼たちは追いつけぬエウトティアではなく眼前、自ら飛び込んできた人形狙い行動変更。
こちらの一群も、そして後方から追いすがる霊玉を抱えた者とそれを護衛する者も、全ての餓鬼が猟兵の狙い通りに街道側へと呼び寄せられる結果となっていたのだ。
「おっと危ない、私みたいなのは皮と骨で美味しくないですよ。
その代わりこの竜をどうぞ。産地直送、腐りかけが一番美味しいってどこかで聞いた覚えがありますしおススメですよ」
知らぬ間に街道付近へ誘い出された餓鬼の一団、その数体と思わぬ接触をしてしまったイフェイオン。
一体を蹴り飛ばし、クイッと指を動かせば彼の命令に従って街道を進む黒竜が向きを変え、彼と餓鬼を隠す木々をなぎ倒しつつ突っ込んできた。
大地を揺るがす地響き、そして空気震わす咆哮を持って餓鬼の気を引く黒竜。
その間に素早くイフェイオンは茂みの中へと姿を隠し、黒竜がその巨体を活かしての体当たり。そして弾き飛ばされた餓鬼を狙って鋭い爪を繰り出していた。
だが餓鬼を止めるのは何も彼の黒竜だけではない。
「動きが隙だらけですね。手早く済ませましょう」
茂みの中から声がすれば、それは狙い定めたエルシーのもの。
大型熱線銃の銃口だけが突き出たその茂み、スコープのレンズが煌けば放たれるのは隙を晒した餓鬼の背部を焼き焦がす強力な熱線であった。
あまりの痛みに叫びを上げて、倒れのたうつ餓鬼、そして仲間を狙撃した敵を探し、熱線放たれた方向へ走り出す餓鬼。
だが既にその場にエルシーは存在せず、射撃と同時に移動を開始。
狙撃者を探す餓鬼の動きはまったくの無意味になっていたのである。
「ふむ、ここまで引きつければ十分じゃな。では少しあばれるとするかの」
街道に展開していた猟兵、その攻撃が始まったのを確認し方針を変更したエウトティア。
餓鬼たちを引き寄せ駆けていたマニトゥを反転、手にした弓に矢を番え自身を追い立ててきた餓鬼たち狙い引き絞る。
「ここまで着いてこれた褒美じゃ、凌ぎきればこれをやろうぞ」
余裕綽々、餓鬼たちを見下しながら彼女が呟けば、呼び出された風の精霊が景品はこれだとばかりにルビーチョコレートをふわふわと空中に浮遊させ餓鬼の気を引き、その間にエウトティアは矢を放つ。
通常の矢ならば直線的な動き、横っ飛びにて避けた餓鬼には命中するはずもない攻撃だったがこの矢には風の魔力が宿っている。
相手の動きに合わせて鏃の向きが大きく変わり、転がりながら逃げる餓鬼目掛け一直線に飛翔、驚愕の表情浮かべた餓鬼の腕を刺し貫いていたのである。
そして、誘導してきた彼女が反転、攻勢に移ったという事は完全にここは猟兵の仕掛けた戦場。
「ここまできましたか。では殲滅するだけです」
小さく呟く絶奈、そして彼女に付き従う屍者と屍獣の軍勢が街道まで誘い出された餓鬼達を包囲するよう動き出す。
その圧倒的な数を前にして失敗悟り、傷負い動きの鈍った仲間を見捨て一時後退を狙う餓鬼たち。
だがその撤退を許さぬ猟兵は既に手を打っていたのだ。
「ジェファーソン、逃がさないでね! こっちを行き止まりにするのよ!」
逃げだした餓鬼たちに飛び掛る数多の人形、それはソフィアの操る青髪人形ジェファーソン。
頑丈に、そして丁寧に修繕されたその耐久力を活かしての足止めタックル、幾つかのジェファーソンは捕まる事になってしまったがその数を活かしての攻撃を餓鬼は凌ぎきること出来ず、逃げる事は適わない。
その間に距離を詰めた絶奈が翳した剣と槍が餓鬼の背中を切り裂き、貫き。
一体目の駆逐を完了すれば、バラバラに動くと潰される、霊玉を守らねばと餓鬼たちは一箇所に固まる様に動き始めていた。
しかし街道周辺は既に絶奈の仕掛けた罠の宝庫というもの、思わぬ穴に足を取られ、またトラバサミに挟まれて動きを止め、無理矢理外したり転がりながら這い出れば生じた時間が命取り。
「背中を見せる相手は狙いやすいですね、こちらを探すより早く合流、といったところでしょうか」
逃げ惑う餓鬼、その背中へと容赦なく狙い定めた熱線を照射するエルシーが呟きながら射撃と同時に移動を継続。
既に彼女を探す余裕はなさそうに見えるが、延々と同じ場所に篭って狙撃するのは射撃機会を失う事も伴う。
存在地点を気取られぬ様に、そして射撃機会を失わぬ様に彼女は素早く、かつ身を屈めながら木々の陰に隠れつつ移動、位置情報を相手に把握させぬように努めていたのだ。
猛攻に追い立てられ、一箇所に集められていく餓鬼たち。
その体には遠距離攻撃にて生じた火傷や切り傷、刺し傷が次々と刻まれて、逃げ場を塞ぐように展開する軍勢とその中から迫る巨体、黒竜の存在感が遊撃する猟兵の動きを餓鬼たちから隠していた。
だが、相手もこのまま倒され霊玉を破壊されてなるものかと反撃開始。
「ウォアアアアア!」
雄叫びと共に遠距離攻撃で倒れた仲間の肉体喰らい、己が力を高める者。
仲間の捕食が出来ず、しかしこのまま倒れてなるかと飢餓状態が進み暴走する者。
山岳に潜み、食事を控えてきた時間、その空腹感を力に変えた者。
様々な強化方法で自身を高め、包囲を破ろうと餓鬼達が走り出す。
「ちょ、危ないわね! 無理矢理突破する気?」
「私が受け止めます、時間を稼ぎましょう」
手近な場所を飛び回る人形、ジェファーソンに暴走した餓鬼が飛び掛り、思わず言葉を漏らしたソフィア。
そんな彼女に応じる絶奈が自身の体にオーラを纏い、守りを固めて餓鬼の攻撃を手にした剣にて受け止めていく。
「おっと、同士討ちまで始めましたね。では弱った相手から狙いましょう」
ソフィアと絶奈が作った時間、その間に理性の失った餓鬼が仲間に食いつく地獄絵図。
同士討ちが始まったその瞬間を逃さず動くエルシーが弱り、倒れた餓鬼を狙って熱線発射。
的確に餓鬼の数を減らす狙撃を続け、一体、また一体と餓鬼の数が減少し、減った分を補おうと共食いを始める餓鬼たち。
だが、少数が近しい場所に固まることは一層される危険を孕む行為でもある。
「一気に攻めます、援護をお願いします」
そう言葉が上がるや否や、20を超える分身したカイがなぎなた掲げ一気に突撃。
ある者が餓鬼を凪げば、ある者は逆に反撃で投げ飛ばされと物量と物量のぶつかり合い、だが数で勝るカイの集団が優位なのは間違いなく。
一気に四方八方から刃を突き立てられ、餓鬼が斬られ倒れれば反撃しようと動く者へはエウトティアの放った矢がその眉間を貫いて動きを止める。
完全に猟兵による殲滅状態、だがそれでも強化された餓鬼たちは囲いを破って逃走しようと試みる。
「面倒じゃな、手こずらせおるわ」
「いえ、計画通りです。ジェファーソンの囲みを破ったようですけど、あの先には……」
イラッとしたエウトティアが呟きつつ、青髪人形ジェファーソンを振り払う霊玉持ちの餓鬼を見る。
だが、そんな彼女に対しふふん、と自信満々でソフィアが言えばその直後。
「オァアアア!?」
間抜けな叫び、それと共に落とし穴に落下する生き残りの餓鬼たち。
それは事前にソフィアの仕掛けたトラップ、包囲しつつも彼女はその落とし穴への守りを薄くしておくことで餓鬼たちの動きを誘導していたのだ。
こうなれば転落した餓鬼たちに逃走する事は不可能。
「いやあ、霊玉持ちはわかりやすかったですね。早く涼しい場所へ避難したいので、解体し尽くされて下さい」
霊玉持ちの餓鬼を狙い、斬りかかる機会をうかがっていたイフェイオンが真っ先に転落した餓鬼の群れへと突撃、霊玉守ろうとした餓鬼の手を避け標的へ一気に肉薄。
左右の手に持つナイフを翳し、木漏れ日に煌く刀身。
その刃から逃れようと身をよじった相手へ容赦なく伸びるナイフは腕を、肩を、足を、そして首筋と次々と切り刻み、バラバラに解体すればごろりと頭部が転げ落ち。
それと同時に霊玉も地に落ちれば、別の餓鬼が何とか守ろうと手を伸ばすもそこへ飛来するエルシーの熱線。
「残念、それは今から壊しますので」
冷たく言い放たれると同時に餓鬼の腕は熱線受けて焼け焦げ、叫びを上げて転げ回る。
最早護衛は不可能、次々と他の猟兵が倒れる餓鬼へと飛び掛り全ての餓鬼を倒すまで2分もたたず。
最後の餓鬼が倒れると同時にカイがなぎなたの石突を霊玉に打ち付ければ、その衝撃で霊玉は木っ端微塵に砕け散り。
街道と森を舞台とした戦いに終止符が打たれていた。
一つの霊玉、それを打ち砕くことで熱波による茹で殺し、その一角を破壊する事に成功した猟兵たち。
だが、コルテスの仕掛けたこの策は他のおびただしい場所にも同様の霊玉を配置、その多くを砕かねば防ぐことの出来ない代物。
この一箇所を破壊しただけでは小さな一歩、しかし積み重なる事で非道な策を止めることに繋がる。
戦いは激しさを増し、計略が成されるまでの時間は迫るが焦らず一つずつ事を成せば苦難の排除は不可能ではない。
今はまず、この熱波にやられた体を癒す涼しい世界へ帰還し、次なる戦いに備えよう。
自分たちを追い込みすぎれば逆効果、休息も戦う者には必要な事なのだから。
大成功
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