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エンパイアウォー⑥〜合戦場の禍花

作者：水見

●今に蘇る合戦場
　関ケ原―――山裾に広がる平野にはかつての戦を彷彿とさせる光景が広がっていた。
　違いがあるとすれば、多種多様な役目を負った兵を運用するため様々な陣形を描くはずの軍が、一糸乱れぬ密集陣形『ファランクス』を組んでいる事だろうか。
　しかもそれを成しているのが鍛え上げられた戦士ではなく本来なら畑を耕し工具を握りそろばんを弾くような農民や町人ばかり。
　対する幕府軍とは異なるファランクス戦術用に誂えられた武具に身を包む彼等の目には自我というものが感じられずそれがより一層異様だった。
「操られ役目を強いられ望まぬままに命を落とす……哀れなこと」
　『弥助アレキサンダー』が持つ『大帝の剣』の力で洗脳され、操られるままに戦場に集まった群れを中性的な容姿のオブリビオンが見下ろしていた。
　かつては人を救うために用いられたはずが、怨霊、怨念を溜め込み浄化しきれず墜ちてしまった成れの果て―――『憑坐絡繰『白花』』は一個の『群れ』となったものに命令を下す。
「征きなさい、逝きなさい。すべてを道連れに」

●ぶち抜けファランクス！
「みんな毎日お疲れさま！新しいお仕事だよ！」
　お疲れ様と労いながら仕事を斡旋するキャロ・エレフセレリア（たーのしー！・f12156）のタブレットには、新たな戦場の情報をまとめたデータが入力済だった。
　『エンパイア・ウォー』は順調に勝ち進んでいる。しかし『第六天魔王』織田信長の居城、魔空安土城に向かう途上には最大の難関『関ケ原』がある。
「弥助アレキサンダーが大帝の剣で洗脳した人たちが集まって軍を形成してるの。それもごく普通の村人Ａとか町人Ｂって一般の人達が中心で」
　中には戦場を経験した農兵のような人もいるだろうが、ほとんどは本来なら武器もろくに握った事がないような人々だ。
「でも洗脳されたせいなのかガッチリと『ファランクス』を組んでて、幕府軍相手なら十分勝てるくらいの戦力はあるみたい」
　もちろん猟兵の力があれば彼等を力尽くで蹴散らす事は簡単だろう。しかし、洗脳されただけの人々を無差別に殺してしまうような事態は避けたい。
「だから洗脳された人達を避けて、洗脳の中継役をしている指揮官のオブリビオンを倒すのが一番いい方法だと思う」
　オブリビオンの名は『憑坐絡繰『白花』』―――陣形の中央にいる白花さえ倒してしまえば洗脳は解け、人々は解放されるはず。
「ファランクスをどう攻略するかがポイント。白花は周りの人がいくら死んでも気にしないから攻撃に巻き込む事もためらわないし、周りの人も洗脳されてるから自分達がら巻き込まれても気にしないからね。とにかく作戦が大事！」
　みんな頑張って！そう言ってキャロは猟兵達を送り出した。　

第1章 ボス戦 『憑坐絡繰『白花』』

POW   :    鳥獣偽牙 戦闘用の、自身と同じ強さの【怨霊獣】と【怨霊鳥】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。 SPD   :    禍鳥降霊 【取り憑かれた獣の力を解放】事で【巨大な禍鳥】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 WIZ   :    禍神虚戯 自身の装備武器を無数の【瘴気を纏ったウツギ】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。 イラスト：まっちょす 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「オブリビオンの打倒だけを目的とするのならば、周りの兵ごと広範囲攻撃で仕留めるのがベターな戦術です」
　デナイル・ヒステリカル（架空存在の電脳魔術士・f03357）が持つ各種のプログラムは平野に陣取る『ファランクス』の冷徹な答えを出していたが、デナイルにその方法を選ぶつもりはない。
「陣形を組むのはオブリビオンに操られているだけの人々。あまり大味な攻撃は使えませんね……」
　洗脳の中継をしている指揮官さえ倒せば洗脳は解ける。
「幸いなことに、洗脳された人々の戦闘能力は猟兵に及びません。いくら陣形を組もうとも、人としての限界を越え得ない以上、感電による麻痺で動けなくなるのは必然」
　デナイルは『雷霆万鉤システム（セルフ・オーバークロック）』によって青白く瞬く稲妻をまとい、高速移動でファランクスに接近する。ダメージを調整した雷撃が、ファランクスの最前列にいた兵士を打ち倒す。
「猟兵がきましたか」
　ファランクスを率いる指揮官、オブリビオン『憑坐絡繰『白花』』はデナイルに気付くと雷撃を避けるために取り憑かれた獣の力を開放し、巨大な禍鳥に変身する。
「優先順位変更。ぶっ飛べ……！」
　白花を追ってデナイルの稲妻が更に激しく瞬く。地面を抉り跳躍したデナイルの雷撃が白花を捕らえた。
　翼に雷撃を受けた白花は落下こそ避けたが反撃の余裕はなく大きく旋回してデナイルを振り払う。
「押し潰しなさい」
　そこにファランクスから槍が突き出された。
　兵士達の槍衾がデナイルを貫こうと突き出され―――その一部が突然転倒し、陣形に隙間が生まれる。兵士達の足には突然地面から生えてきた植物の蔦や根が絡みついていた。
「あたしの体が変われるのは、動物だけとは限らないんだよねぇ」
　ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード（混沌獣・f07620）は無事槍衾から逃れたデナイルの姿を確認する。
　その足元から地面に向かって伸びているのはファランクスを転倒させた『埋根伏蔦（クリーピング・プラント）』だ。
「ゾンビだの洗脳だのと、どうにも趣味が悪い連中だねえ。ま、なるべく人が死なないように、やってみようか」
　植物の根や蔦を見付からないように地面の中を掘り進ませ、ファランクスの足元を狙って絡みつかせる作戦は成功した。更にファランクスの動きを止めた蔦を上空に伸ばし白花の足に絡ませる。
「捕まえ―――おっと」
　蔦を絡めぶん投げようとしたペトニアロトゥシカだったが、白花が召喚した『怨霊獣』と『怨霊鳥』が襲い掛かって来るのを見て『蛮族の戦斧』を構える。
　空から襲い掛かって来る怨霊鳥の腹を無骨な巨大斧で断ち、返す刃で怨霊獣の額を叩き割る。
　大きなダメージを受けた二体の獣はそれでもペトニアロトゥシカを警戒して離れようとはしない。
（あたしを警戒してるみたいだけど……）
　獣と対峙しながらペトニアロトゥシカはニッと笑う。白花の直接的な守りの一つをここに釘付けにできた。
「では私も撹乱と囮を行いますか」
　戦況を見ていたリステル・クローズエデン（なんか青いの・f06520）が動く。隠密行動用のスーツ『グレイラット』に身を包み、更にユーベルコードの力で改造して行く。
「鎧装変換……斬刃の翼、断空の鎧」
　全身を闇刃の翼が覆い、敵を斬る意思に比例して戦闘能力が増強される。闇刃の翼は飛翔能力も与え、リステルは空に舞い上がる。
　ファランクスの上空まで到達して取り出したのはリステルの技術と知識を詰め込んで作った『サプライズ・ボム』。用途に応じて中身を変える時限式の爆弾だが、今回は兵士たちの殺傷を避けるために威力を抑えつつ爆発時に内容物がより広く散布するようにしてある。
　投下してすぐにファランクスの頭上で爆発。掲げた盾の上で爆発した薬剤は風に乗って盾の下まで届き、まともに吸い込んだ兵士たちの体は麻痺し、酷い者は気絶する。
「空を飛んでくるとは面倒な……」
　兵士たちより高い位置にいた白花は爆発の難を逃れていた。
　上空から強襲を仕掛けるリステルの攻撃を受け止めるが、頑強な鎧も砕く怪力を殺しきれずに空中でバランスを崩す。
「取った！」
　冷たい冷気を纏う『呪刀・消銘』の刃が白花の首に迫る。
「私を守りなさい」
　しかし刃が首に届く前に白花が呼び戻した怨霊鳥の爪がリステルに襲い掛かって来た。
　リステルは強引な追撃はせずに怨霊鳥の攻撃を武器で受け止め、攻撃よりも防御と回避で時間を稼ぐ。
「ファランクス、ですか。ええ、どことなく懐かしさを覚える陣形です」
　貴族として生まれ様々な英才教育を受け、革命を担った経験もあるヴィヴィアン・ランナーウェイ（走れ悪役令嬢・f19488）は、形成されて行くファランクスに向けて走る。
「私の歩むこの道こそが、私を形づくる全て。さあ、覚悟はよろしくて？」
　ヴィヴィアン―――『悪役令嬢は思い出す』。忘れてしまった過去の経験、大切にしたい現在の経験、もしかしたら辿るかもしれない未来の経験、その全てを宿し、自身を強化する。
「言葉通り、全身全霊お相手しますわ」
　強力な力を宿す代償として体が蝕まれて行く感覚を覚えるが、ヴィヴィアンは躊躇わずファランクスへと突っ込む。
　兵士が一斉に向き直り、槍を振り下ろす。長い槍の柄に叩きつけられる前に、ヴィヴィアンは一人の兵士に肉薄して掲げられた盾を踏みつけた。
　ファランクス用の大きな盾がひしゃげるほどの脚力でもって跳躍し『アリスランス・烈火』での刺突。ずぶりと穂先が潜り込む感触と血飛沫が散ったが、それは白花を庇う怨霊鳥のものだった。
（想定内です！）
　槍は囮。本命は細身の剣の一閃。
「羽虫の次はトビケラ……猟兵はどこまで邪魔をするのか……」
　白花は切り裂かれた衣を掻き寄せ、消えた怨霊鳥を再召喚する。その時怨霊獣も共に現れ、やはり倒されていたのかと苦々しく思う。
　地面で蠢いているファランクスの兵士達に改めて命令を下した。
「倒れた者は捨ておきなさい。邪魔なら盾に、踏み台にしなさい。死ぬまで戦いなさい。それがあなた達の役目でしょう」
　その声は山梨・玄信（ドワーフの破戒僧・f06912）にも聞こえていた。
「織田軍の奴らは一般人を巻き込むのが大好きなようじゃのう。天下を取れなかったのも道理じゃ」
　年寄り臭い口調ではあるがまだ13歳の玄信から見ても、織田軍のやり方はメチャクチャだ。
「その命令は邪魔させてもらうぞい！」
　玄信の叫びと共にカッ！と光が発生し、白花は思わず目を庇う。
　その光は玄信の全身を覆う『ヌギカル☆玄信』の強烈な光―――露出度と脱ぎ力に比例して増強する戦闘力を示すものだった。
「わしの真の力を見るがいい！」
　脱ぎ力を得るために褌一丁になった玄信が空を飛ぶ。
　ヌギカル☆玄信によって得られるのは戦闘能力だけでなく飛行能力も与え、玄信は空からファランクスに攻撃を仕掛ける。
　放たれた衝撃波は兵士たちのすぐそばを掠めて地面に衝突。その余波で吹き飛ばされた兵士が他の兵士にぶつかりあちこちで将棋倒しが起きていた。
「これで他の猟兵も道を開けやすくなるじゃろう」
　最後の一手が決まるのももうすぐ。玄信はその一手を確実にするために白花が再召喚した怨霊鳥と怨霊獣に向かって飛び、光を生むほどに強化された気を練り上げて放出する。
　兵士たちを傷付けないようにあえて外した攻撃とはものが違う。全身から放出された気に押されて怨霊鳥と怨霊獣が怯んだ。
　そこに最後の一手が来る。
　黒鵺・瑞樹（辰星月影写す・f17491）は存在感を消し、目立たないように白花に接近していた。
（陣形の弱点は盾と槍を持つ故の方向転換といった行動の難しさ）
　猟兵達が着目していた機動力と、洗脳されているだけの一般人と言う能力に瑞樹も着目し、他の仲間達が派手に攻める中、そちらに気を取られている兵士達の意識を縫うように一気に駆け抜けたのだ。
「俺達猟兵への対策をしていなかったのがまずかったな」
　いざとなったら一般人を盾にするか諸共攻撃するかと考えていたのかもしれないが、猟兵達の徹底した兵士の無力化によってファランクスはもはや成立しない。
　瑞樹は他の猟兵達と上空で戦っている白花一人を狙えばいい。
　右手に打ち刀の『胡』を、左手に瑞樹の本体でもある黒いナイフ『黒鵺』を構えて足に力を集中する。
「よっと！」
　空中を蹴り、怨霊鳥と怨霊獣に気付かれる前に奇襲を仕掛ける。
　白花は召喚したものを操っている間自身が動けないだけに周囲を警戒していたが、白花が察知するよりも瑞樹の攻撃が決まるのが先だった。
　刃は深く傷口を抉り、白花の体に麻痺を残す。
「くっ……役立たずどもめ」
　ファランクスを動かそうにも役に立つとは思えず、白花は毒づいて消えた怨霊鳥と怨霊獣をもう一度召喚する。
「お前も役目を果たさず終わる事になる」
　白花の最後の反撃となった怨霊鳥と怨霊獣の攻撃を黒鵺で受け止め、生まれた隙を突いて振るった胡の刃が白花の胴を薙いだ。
　真っ二つになり落ちて行く白花が地面に叩きつけられる前に、塵のように粉々に散って消え去る。同時に兵士たちが糸の切れた人形のように倒れて行った。
　白花が倒された事で洗脳が解けたのだろう。洗脳された兵士から元の農民に戻った人々は多少の傷を負っているものの、死者は一人もいなかった。猟兵達の大勝利である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月16日