エンパイアウォー⑩~タコ妖怪のおもてなし~
●タコ妖怪は献身的
瀬戸内海、淡路島近傍。
西日本の重要な海上交通路であるそこに、何十隻もの巨大な要塞のような船が、波を裂くように水上を走っていた。
船上で櫂を漕ぐ水夫も、見張りをしている船員も、皆が皆足元がぼやけていたり、炎に包まれていたり。
全員、日野富子によって召喚された村上水軍の怨霊たちである。
「日和よし、波穏やか、船を出すにはいい日だなぁ、お頭」
「あぁ、これでいつでも幕府軍の連中を迎え撃てるってもんよ」
甲板の上で舵を取るお頭の怨霊が、傍に立つ怨霊ににやりと笑みを返した。
そこから視線を正面に戻すと、甲板の上には。
「ほらそこの漕ぎ手さん、そろそろ交代の時間タコ!肩を解してやるからこっち来るタコ!」
「あ゛ぁぁタコちゃんそこもっと優しくあいででででで!!」
「頑張りすぎタコー、胸筋もこんなに張って!カッピングするタコ、脱ぐタコ!」
「ぬぉぉぉぉぉ吸われるぅぅぅぅぅ!?」
巨大なタコの妖怪が、漕ぎ手の水夫たちを念入りにマッサージしては、骨抜きのぐでんぐでんにしていた。
「……」
「お頭、あいつら本当に護衛なんですよね?按摩士じゃなくて?」
「分からん……俺にも分からんようになってきた……」
額を抑えるお頭の頭上で、丸に上と書かれた村上水軍旗が、潮風を受けてぱたぱたとはためいた。
●グリモア猟兵も献身的
「いやぁ、腕のいい按摩士ならタコでもいいですけれど、骨抜きにまでされるのは勘弁願いたいですねぇ」
阿瀬川・泰史(酒と杯さえあればよし・f02245)がなんとも言い難い面持ちで、指先にぐい呑み型のグリモアを浮かべながらそう告げた。
関ヶ原へ辿り着き、そこから部隊を三つに分けて進む幕府軍。そのうち最も南のルート、瀬戸内海を進んでいく軍勢を待ち構えるのは、日野富子の配下である村上怨霊水軍だ。
有り余る財力で超巨大鉄甲船を建造した日野富子は、その船員として戦国時代に瀬戸内海を席巻した大海賊・村上水軍の怨霊を呼び出した。
瀬戸内の海を知り尽くした船員と、巨大で頑強な船。最強の水軍であることは想像に難くない。
このまま放置していれば、海路を進む幕府軍の船は悉く沈められてしまうだろう。
「鉄甲船の中に転移できればよかったんですが、さすがに敵の懐に入り込むことは出来ませんで……近くの小島に転移するのが精一杯でした。
なので皆さんには、何かしらの方法で海を渡って鉄甲船に乗り込んでいただく必要があります」
船を使うのでも、泳ぐのでも、空を飛ぶのでも構わない。何とかして船に乗り込んでからが戦闘だ。
船の上には多数の村上水軍の怨霊が待ち構えているが、いずれも戦闘に加わる気はない。ただ愚直に船を動かすだけだ。
どうも日野富子に金と恐怖で支配されているようで、主人を恐れている怨霊と金に目がくらんで盲目的に付き従っている怨霊とがいるらしい。
猟兵たちを相手取るのは、護衛の骨抜き妖怪『衣蛸』である。
文字通り、タコである。しかもおもてなしの精神を持ってマッサージしてくるタコである。それが八匹、甲板に陣取っている。
マッサージしてくるだけならいいのだが、骨抜きになった相手を絞め殺してくる恐ろしい妖怪だ。水軍の水夫には骨抜きにするだけで留めているようだが。
触手で相手を捕まえてマッサージしてからの締め付け攻撃、吸盤で相手を捕まえてカッピングで老廃物と一緒に生気を吸い取る攻撃、触手と吸盤で相手を捕縛し、無理やりにヨガをさせることで動きを封じる攻撃を使ってくる。
さらにタコなので、保護色能力で身体の色を変えることが出来る。気付かれない内に接近されないよう、注意が必要だ。
「護衛のタコを倒しても、船は止まりません。甲板の帆柱に掲げられた村上水軍旗を引きずり降ろして奪うことで、初めて無効化できます。
水軍旗を奪ったら怨霊は消滅、船は見る間に沈んでいきますので、手早く脱出してくださいねぇ」
そこまで話して、泰史は転移のポータルを開いた。その向こうに広がるのは青々とした瀬戸内の海、そこに点在する小島だ。
「さぁ皆さん、お仕事ですよぉ。しっかりこなして、無事に帰ってきてくださいねぇ」
屋守保英
こんにちは、屋守保英です。
サムライエンパイアの戦争も中盤戦ですね。
頑張りましょう、皆さん。
●目標
・骨抜き妖怪『衣蛸』×8体の撃破。
●特記事項
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
猟兵が乗り込む『超巨大鉄鋼船』は、村上水軍の怨霊の力が宿っている限り、すぐに復元されてしまいます。
村上水軍の怨霊は、帆柱に掲げられた村上水軍旗(〇の中に上と書かれている旗)を引きずり降ろすことで消滅します。
それ以外の手段では、ダメージを与えることはできません。
●戦場・場面
(第1章)
瀬戸内海、淡路島近辺の海上です。
鉄甲船が運航している付近の小島に転移するため、鉄甲船まで海上を移動し、乗り込む必要があります。
甲板では怨霊の護衛として骨抜き妖怪『衣蛸』が待ち構えています。
集団敵以外の船員は、富子が呼び出した亡霊なので、戦闘には加わらず、船を動かし続けます。
亡霊たちには、富子を恐れている亡霊と、大金で雇われたので喜んで協力している亡霊が混在しているようです。
それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『骨抜き妖怪『衣蛸』』
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POW : 随分と凝ってるタコ~。俺たちのようにほぐすタコ!
【タコの保護色能力で全身を迷彩して接近し】【筋肉の塊である8本の触手で相手を捕まえ、】【マッサージで弱らせてからの絞めつけ攻撃】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : カッピングもやってますタコ~。血流良くなるタコ!
【タコの保護色能力で全身を迷彩して接近し】【非常に強力な吸盤で相手を捕まえて、】【カッピングで生気を吸い取り弱らせる攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 運動不足じゃないかタコ~?ヨガは身体に良いタコ!
【再生能力を活かして非常にしぶとく接近して】から【筋肉の塊の触手と強力吸盤で相手へ捕縛攻撃】を放ち、【操り人形のように強制的にヨガをさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:まめのきなこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可
【POW】判定
船に接近/離脱する時は【フルスピード・スカイドライブ】で空飛べばいいな。
敵はタコか。周囲の景色に溶け込んで接近されると対策が難しいな…。だが絡み付いてのマッサージには対策があるぜ、何せ俺は【サイボーグ】だからな!
タコが絡み付いて来たら落ち着いて【シューティングギャラクシィ】フォームに変身!
後は絡み付いてるタコを【怪力】で引き剥がした所に【ギャラクシィ・ブレイク】を叩き込んでやるぜ!
柔軟なのもいいが、メカニカルなのもいいもんだぜ。その身でたっぷりと味わいな!
ルベル・ノウフィル
アドリブ連携歓迎
わんこ姿
「タコさんではございませんか
僕のもふもふアタックを見よ、でございますぞ、わぅわぅ?」
早業を活用し
トンネル掘りにて僕は地面の中にどんどん穴を掘って逃げちゃいます
「タコさんこちら、尻尾ふりふり
僕は簡単には捕まってあげませんぞ」
UC:花焔乱舞
敵だけを対象に燃やしてしまいます
暑い中火遊びもどうかと思ったのですが、花火もまた佳きもの
そうだ、炎に包んだのちは念動力で空に打ち上げてさしあげましょう
たーまやー
白い毛並みが土にまみれて泥だらけ
ごろんごろんしながら人間姿に戻りましょう
「ちょっとあちこち汚し過ぎてしまいました、大人げなかったですね」
でも、服を汚して帰っても怒る人もいませんから
●タコの命は刹那的
瀬戸内海を望む名も無き小島から、その船は殊更によく見えた。
全長200メートル超、全幅30メートル余り、高さ10メートル程度。その側面はびっしりと鉄板で覆われている。
よくもまあ、サムライエンパイアという世界において、あれだけの巨大船舶を大量生産したものである。金の力とはかくも恐ろしい。
その船を視界に収めながら、アーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)は額に片手を翳して遠くを見た。
「こうして見ると圧巻だな。あれをこんな内海で動かすというのも恐ろしい話だが」
「確かに、あれはなんとかしないと幕府軍の船じゃひとたまりもありませんねー。わぅっ」
アーサーの横には、白い毛並みに赤い瞳をしたわんこが一匹、人語を喋りながら尻尾を振っている。どこの妖怪かと思うなかれ、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)である。
わんこ姿でも猟兵は猟兵、しっかり戦えることに疑問を挟む余地はない。
はずなのだが。
わんこらしく口を開けてはっはっと息をするルベルに、アーサーは感情の籠もらない視線を向けた。
「ところでだ、ルベル。お前はどうやって船に乗り込むか、考えて来たのか?」
「……あっ」
その言葉に、ルベルがハッとしてアーサーを見た。
しばしの沈黙。
そしてルベルがこてんと首を傾げる。
「……てへっ☆」
「ハァ……仕方ない、抱えて飛ぶからじっとしてろ」
ゆるゆると首を振ると、アーサーはバトルスーツを展開、ドーンブレイカーへと変身してみせる。
その変身を目の当たりにしてテンションが上がり始めたルベルの腰に手を回すと、一気に地を蹴って空へと飛び立った。
蒸気で包まれたアーサーが、まるで流星のように空を駆けては、鉄甲船の看板へと一直線。こちらを指さして、何やら船員が喚いているが、一顧だにする必要もない。
しかして、流星と化したアーサーは混乱の只中にある鉄甲船の甲板へとダイレクトにダイブ。ダイブの衝撃でアーサーの腕の中から放り出された白い毛玉が、甲板の上にぽてっと転がる。
ぶるるっと頭を振ったルベルが、しっかと甲板の木床を四本の足で踏みしめた。
「わふーっ、どうなることかと思いました。でもこれで、タコさんに僕のもふもふアタックを喰らわせられますね!」
「柔軟なのもいいが、メカニカルなのもいいもんだぜ。その身でたっぷりと味わいな!」
「なにーっ、まさかこんな乱暴な方法で猟兵が乗り込んでくるとは予想外タコ!
しかし野良犬だろうと絡繰りだろうと、ぼくたちが揉み解してやるタコ!覚悟するタコー!」
「護衛が仕事を始めたぞ!下がれ下がれ!船を漕げ!」
触手をぬるりと動かしながら、二匹の衣蛸がアーサーとルベルの前に進み出る。周囲の怨霊たちは戦闘に加わる様子を見せず、船の外周部に集まっては櫂を手に手に船を動かし続ける。どうやら、戦闘に加わるそぶりを見せないのは本当らしい。
ともあれ、甲板の中央で始まる一人と一匹と二匹の戦い。
衣蛸の大きく太い足がしゅるりと動いては、ちょこまかと動くルベルの身体を吸盤で吸い付き捕らえようと動き回っていた。
「えぇいちょこまかと!待つタコー!」
「タコさんこちら、尻尾ふりふり。僕は簡単には捕まってあげませんぞ」
逃げて逃げて、足の間を掻い潜って動き回るルベル。その小さな身体を追いかけていた衣蛸の足が、アーサーの身体を捉えた。
「なっ!?」
「むっ、捕まえたタコ!先にこっちを片づけるタコ!」
「タコー!」
すぐさまにもう一匹の衣蛸もアーサーに絡み付いた。合計十六本の触手がアーサーの身体の隅々にまで絡み付いては、その筋肉を解そうと力を籠める。
が。
「この絡繰り身体がガッチガチタコ!?」
「解せないタコー!凝りすぎタコー!」
「ふっふっふ……お前らに俺を解すことは出来まい。なにせ俺はただの絡繰りではない、サイボーグだからな!」
そう力強く宣言したアーサーが、身体に巻き付く足を掴んでぐっと力を籠めると。
ぎぎぎぎ、と音を立てながら衣蛸の太い足がアーサーから離れていくではないか。
「タ、タコー!?」
「……これで決める、うおりゃあああああああ!!!」
そして裂帛の気合と共に、振り抜かれるアーサーの足。無理やり引き剥がされた衣蛸二体にクリーンヒット、その身体を宙へと舞い上げていく。
「あっ、アーサー殿ナイス!そのまま燃やしてしまいますね!」
と、すっかり自由になっていたルベルが舞い上がっていくタコを見つめた。すぐさまに炎がその身体を包み、燃え上がっていく衣蛸。
「暑い中火遊びもどうかと思ったのですが、花火もまた佳きもの……たーまやー」
「「タコー!!」」
悲し気な悲鳴と共に、哀れなタコ二匹は爆発して海の藻屑と消えていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アガト・シレスティアル
水陸両用シャーくんカーでレーヴェにゃんと一緒に鉄甲船へ向かうにゃ
ふに……見えるにゃ『しゃん?』
レーヴェにゃんがカッピングでユベコ封印されて無効化できずに骨抜きにされる姿が見えるにゃ。にゃーが防ぐにゃ
車内でレーヴェにゃんにユベコの練習を提案して
練習中に猫の毛づくろい、ペロペロ舐められて脱力できずに摩擦抵抗が極限まで減らすのが二倍になるかもにゃ
にゃー自身もペロペロ舐めて捕まらないようにしておくにゃ。ツルっていくはずにゃ
そして武器改造でシャーくんに飛行できるようブースターと火炎放射器をつけて
にゃーがうふーんあはーんと誘ってるうちに、シャーくんガブガブモードが蛸を焼き蛸にしてガブガブにゃ!
アドリブ歓迎
レーヴェ・ナハトシッフ
カッピングにマッサージか……(ごくり)
昔のバイト先の心得でどうにかするか
アガトの水陸両用シャーくんカーに乗って鉄甲船へ
車内で練習として手を出されてからヤれを発動して
脱力する練習を……ひにゃっ……アガト、急に舐めるな
着てきたバイト用のボンテージ服で、捕まったらお客様が決定的な事をするまでは完全に脱力するよう心構えで戦闘
近づかれないようダガーを投擲(摩擦抵抗で武器が持てなければオイルレスリングっぽく)
蛸が見えなくなったら野生の勘で位置を把握、気づてないふりをしながら力を抜いて手を出されてからヤれを発動
言葉だけは抵抗し、身体は完全に任せて
無効化出来たら好き放題触ってくる敵へお返しする
アドリブ歓迎
●猫の舌は蠱惑的
船の上空で真っ赤な花火が二発上がる中。
水陸両用シャーくんに乗り込んだアガト・シレスティアル(この抱いた思いは忘れない・f03547)とレーヴェ・ナハトシッフ(風を纏う傭兵獅子・f04940)は水上を走りながら互いにきゅっと口を結んでいた。
この先の戦場に待ち構える敵のことを考えながら、レーヴェの瞳がすぅと細められる。
「(カッピングにマッサージか……昔のバイト先の心得でどうにかするか……出来ると、いいんだがなぁ)」
過去の経験を思い出してちょっとナーバスになっていると、不意にアガトがぽつりと口を開いた。
「ふに……見えるにゃ」
「しゃん?」
「ん?」
親友の唐突な独り言に、レーヴェがそちらを向くと。アガトはハンドルを握り、前を見つめたままで口を開いた。
「レーヴェにゃんがカッピングでユベコ封印されて無効化できずに骨抜きにされる姿が見えるにゃ」
「おい」
あんまりにもあんまりな未来予測に、思わずツッコミを入れるレーヴェ。
ちなみにレーヴェの今の服装は、身体にぴっちり密着するボンテージスーツだ。ポールダンサーとして活動していた当時の衣装である。それ以外は身に付けていない。
想像してみてほしい、身長190センチ超えのイケメンなライオン獣人が、ぴっちりしたボンテージスーツのみを身に付けている光景を。
場所が場所なら御禁制である。
と、鉄甲船から死角になるような岩陰にて。アガトはシャーくんカーを停めた。
「レーヴェにゃん、突入する前にユベコの練習するにゃ?」
「あぁ……そうだな、ちゃんと出来るか、確認しておきたい」
そのまま、レーヴェがユーベルコードを発動して脱力を始めた、次の瞬間。
「にゃ」
「ひにゃっ」
傍に寄ったアガトがレーヴェの首筋をぺろっと一舐め。その突然の感触に小さく跳ね上がるレーヴェの身体だ。
何を言うでもない、脱力に失敗している様子だが、レーヴェがじとっとアガトを睨みつけた。
「……アガト、急に舐めるな」
「にゃー?でも敵さんは待ってくれないにゃ。それに、摩擦抵抗を減らすのが二倍になってないにゃ?」
そう、この時点でアガトも猫の毛づくろいを発動させていた。
ペロペロ舐めれば、摩擦抵抗が極限まで減らせる。巻き付いてもカッピングされても、摩擦抵抗が減らされていればつるっと滑って解せないはずだ。
そうこうする間に二人ともが両手両足とお尻以外はぺろぺろして、アガトが再びシャーくんカーのアクセルを踏んだ。
「それじゃ改めて、行くにゃ!」
「……ああ」
一気にアクセル全開、エンジン音と共にシャーくんは飛び出した。轟音を立てて鉄甲船へと接近するシャーくんカー。
「お頭!なんかまたすごい速さで近づいてきます!」
「なにぃ!?」
「タコ?」
鉄甲船の見張りが声を張るや否や、ブースターをオンにして大ジャンプしたシャーくんカーが甲板の上へと飛び込んできた。
そこから飛び降り、シャーくんを元の鮫剣に戻したアガトと、ボンテージスーツ姿でしっかと仁王立ちするレーヴェが衣蛸を睨みつける。
「お前が護衛のオブリビオンにゃね!覚悟するにゃ!」
「がるるしゃーん」
「なんか涎垂らされているタコ!?」
「この鮫のことなら気を付けろよ、オブリビオンだって平気で食うからな」
「タコー!?」
シャーくんがオブリビオンを食材として見ることについては、最早何を言うこともないだろう。焦げていなければなんでも食べる健康優良剣だ。
さて、アガトとレーヴェの二人を取り囲むように三匹の衣蛸が陣取った。レーヴェが牽制で投擲するダガーによっていくらか接近を防げているが、その包囲網はどんどん狭まっている。
そしてその三匹のタコが、それぞれ同時に姿を消した。
「消えたにゃ!?」
「落ち着け、保護色だ……!」
困惑するアガトを庇うように立ちながら、レーヴェが周囲に視線を巡らせる。
と。
しゅる、という音と共にレーヴェの身体が棒立ちになる。
「くぁっ……!」
「レーヴェにゃん!?」
姿の見えない敵に縛られているように、両手をびしりと身体にくっつけて棒立ちになったまま、苦悶の表情を浮かべるレーヴェ。
そしてじわじわと色が戻るようにして、二匹のタコがレーヴェに吸盤を吸いつけたその姿を露にする。
「ふっふっふ、捕まえたタコ。お客さんどこが凝ってますタコ~?」
「この辺とかガチガチタコ~、老廃物溜まっているタコ~」
「っ……いけません……そんなことされたら……」
口に出して抵抗の意志を見せるレーヴェだが、衣蛸は気が付かない。レーヴェがだらりと脱力していることを。
そしてタコの吸盤の最も大きいものが、レーヴェの腹筋に吸い付いた瞬間だ。
「そこが一番疲弊しているタコ!吸うタコ!」
「タコー!」
「……!!」
レーヴェの両手がタコの顔面を掴み、その頭部を弾き飛ばした。その拍子に絡み付いていた身体が放され、強く吹き飛ばされていく。
そう、レーヴェのユーベルコードの目的はここにあったのだ。アガトの猫の毛づくろいによって体表の摩擦係数を減らしていたことも奏功した。
そしてもう一方では。
「うふーん、あはーん」
「おのれ、小さい身体でちょこまかと……!」
ポージングをしながらタコの束縛から逃げるアガト。その身体に触手が伸びようかというところで。
自律飛行して空を駆けるガブガブモードのシャーくんが、衣蛸の頭に力強く噛みついた。
「ぐっ、げ……!」
「しゃーん!」
「やるにゃシャーくん!さぁ、レーヴェにゃん、あと一息にゃ!」
「ああ……!」
短く言葉を交わしながら、アガトとレーヴェはそれぞれが目標に定めた衣蛸へと向かって行く。
二人がそれぞれの衣蛸を海の中へと叩き込むまで、時間はかからなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
月代・十六夜
何枚か現地で木の板を借りて、【韋駄天足】で海に浮かべて足場に【スカイステッパー】で【空中戦】の要領で距離を稼ぎながら接近。
首尾よくたどり着いたら音の結晶と【指鳴】で【聞き耳】ソナーを行い、相手の位置を確認。
富子依頼で使用した余りのペンキをぶちまけて保護色を無効化する。
あとは触手に捕まらないように甲板に【ジグザグフィールド】でワイヤー陣を貼って相手の邪魔をしながら【時間稼ぎ】だ!
攻撃しなくてもくっそ邪魔だろ?
あ、たこ焼きに使えそうなら触手の一本や二本持っていくか?
ブリッツ・エレクトロダンス
なんだよマッサージタコって…
タコの*ヤーン*なウキヨエを描いた絵師『ホクサイ・カツシカ』もビックリのヤベー奴だ…
ともかく、ちゃちゃっとしばいてやるか…!
疾風神雷による衣服全損速度高速突撃でそのまま甲板上のタコまで突貫先制攻撃!
その後は…くそ、見失っ…!(*ああっと* *にゃーん* *にゃーん*)
ユーベルコードが封印されようが、まだこいつがあるッ!
(ピューマ8045Fを抜き、タコの眼に雑に狙いをつけて発砲)
後は軍旗を引きずりおろしたら…泳いで脱出だッ!
●水面を駆ける二人は迅速的
そして、他方では。
「そっち、足場置くぞ!」
「助かる!」
月代・十六夜(韋駄天足・f10620)とブリッツ・エレクトロダンス(限定★4:真夏のクロヒョウ・f01017)の二人が、凄まじい速度で海上を『駆けていた』。
比喩でも何でもない。文字通りに駆けていた。
十六夜は接触したものをコンマ数秒単位で蹴り出し、自らを前進させるユーベルコードで。
ブリッツは服装のほぼ一切を排して、風と雷を纏った超高速突撃を行うユーベルコードで。
見るものが見たら二人の所業を、忍者の如くと称したであろう。
そしてすぐさまに鉄甲船の傍まで寄ると、足場として持ち込んだ板切れを海面に置いて、上方向に飛び出す二人。
瞬時に甲板へと同時に降り立つと。
「行くぞッ!」
「おうッ!」
同時に甲板を蹴って、残り三匹の衣蛸へと突貫した。
「タコッ!?」
「新手タコ!速いタコ!」
突撃を受けて吹き飛ばされる衣蛸二匹。しかし甲板から落ちることは済んでのところで留まって、態勢を整えたところで二匹は見た。
甲板の上、目に見えないくらいに細い糸が縦横無尽に張り巡らされている。
それは十六夜の持ち込んだワイヤーだった。甲板の上を縦横無尽に動き回りながら、細いワイヤーを張り巡らせて衣蛸の行動範囲を狭めているのだ。
そしてそのワイヤーの間をすり抜けるように、ブリッツが床を蹴っては衣蛸に拳を撃ち込んでいく。
問題が一つあるとすれば、ブリッツの行動範囲にもワイヤーが被ってしまうことであって。
「くそっ、ここは塞がれちまったか!戻ってルートの再構築を……」
「よくもやってくれたなタコー!」
「あっちょっ、この、やめっ、にゃーん!?」
どん詰まりに自らを追い込んでしまったブリッツが、満身創痍となった衣蛸の吸盤に捕らわれてにゃーんしている間に、十六夜はワイヤーを繰ってタコの足を切り刻んでいた。
「あ、たこ焼きに使えそうなら触手の一本や二本持っていくか?」
「タコー!?食おうとするなんてひどいタコー!」
「勘弁するタコー!」
ズタズタに切り裂かれながら消滅していく衣蛸たち。十六夜はちゃっかり確保したタコの足を二本ほど、懐に収めていた。
そしてようやくタコの吸盤から抜け出したブリッツが、身体のあちこちに赤い斑点を作りながらもその手に一丁の自動拳銃を握る。
「攻撃を封じられても……まだこいつがあるっ!」
「タコッ……!?」
雑に狙いを付けて、発射した弾丸は衣蛸の瞳へ。目を潰されたタコはそのまま力なく消滅していく。
これで全ての護衛は排除した。すぐさまにブリッツが帆柱へと上っていく。カッピングされて身体の老廃物を出してもらったから、面白いようにぐいぐいと上っていけた。
そして帆の先端、丸に上と書かれた村上水軍旗を掴むと、解くのも面倒とばかりに引きちぎる。
「取った!ずらかるぞ!」
ブリッツが声を張るや、二人はすぐさま海中へ。
亡霊が消滅し、ぶくぶくと泡を立てながら沈んでいく鉄甲船を背に、十六夜とブリッツは一心不乱に、グリモア猟兵の待つ小島へと泳いだのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴