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エンパイアウォー⑲～攻撃的退去勧告

作者：相良飛蔓

「しッかし…他での話とかも聞いてるとなァ…こいつ、言うほど強ェのか？」
　グリモア猟兵、我妻・惇を片眉を吊り上げて不信の表情を作って見せる。確かに強いのかもしれないが、すんなりと倒されている個体も散見されるのだ。
「ッと…いけねェいけねェ。油断大敵ッて奴だよなァ。気ィ引き締めて行くぜェ」
　いかにも、油断は身を滅ぼす。

「とりあえずまァ、基本情報からだな。敵は『第六天魔軍将』の一人、侵略渡来人『コルテス』、俺らの事を虫ケラか何かだと思ッてやがる」
　多くの世界を侵略し、蹂躙してきた彼にとって、サムライエンパイアの人間は『自分たちに姿が似ているだけの下等生物』であり、交渉の余地や命の価値などは見出せるはずもない存在であるらしい。そしてそんな下等生物たちに興味などもなく、戦いにおいて彼は永らく自らの手を用いていない。
「ンなわけで、コルテスは戦い方も忘れてやがるし、もう一つおまけにアホみてェに油断してやがる」
　戦い方だけでなく危機感すらもどこかに置いてきてしまったらしい。そもそも自分が直接攻撃を受けることなど、予想もしていなかったのである。
「もうナメてるとかそォ言う次元の話じゃねェよな。アホだアホ、ただのアホ」
　この場にいないオブリビオンを嘲り笑うグリモア猟兵に、冷ややかな視線。気付くと男は咳払いして。
「…とまァ同じよォに油断してやる必要もねェ。全力で叩き潰してやろォぜ」

　実際彼は弱くはない。予想できないようなユーベルコードの攻撃を行えば、対応できず一方的に攻撃することができるが、かといって頭が悪いわけでも力が弱いわけでもなく『分かりやすい攻撃』、あるいは『その戦闘中に既に受けたものと似た攻撃』など、『予想が出来る攻撃』に対しては、きちんと対策して激烈な反撃を行ってくる。油断できる相手ではないだろう。きちんと対策を練って、確実に裏をかいてやる必要があるだろう。

「大概しつけェみてェだが、できるだけ早めに神サマの家から叩きだしてやらねェとな」
　戦場は厳島神社、罰当たりにも程があるというものだろう。なるだけ早期の解決を頼み、惇は猟兵たちを送り出す。

第1章 ボス戦 『侵略渡来人『コルテス』』

POW   :    古典的騎乗術 予め【大昔にやった騎馬突撃を思い出す 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。 SPD   :    マスケット銃撃ち 【10秒間の弾籠め 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【マスケット銃】で攻撃する。 WIZ   :    奴隷神使い 【ケツァルコアトルの噛みつき 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 イラスト：シャル 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「安全な場所から侵略や殺戮を楽しむとは……外道め！　必ずや、討ち果たしてやる！」
　鋭く射るような視線でコルテスを睨みつけ、ウィルヘルム・スマラクトヴァルト（緑の騎士・f15865）はその手のバスタードソードの切先を差し向けながら高らかに宣言する。
「ほう…？　生きた宝石か…贈答品としてはまぁ、手ではあるか…」
　言葉は耳に届いていないようだ。緑の騎士のその姿を覗き込むように見ながら、蓄えた顎髭を指でつまんで撫でながら、自身の考え事に熱中している。

　しかし相手に言うことを取り合わないのは猟兵も同様である。対峙するのは世界にとっての侵略者、人を人とも思わぬ外道である。その思想と行動を改めぬ限り、共に歩むなどあり得ない。
　ウィルヘルムの全身が輝くオーラを纏い、その能力を飛躍的に向上させる。守護者としての強い意志を糧として、自らの力を増強するユーベルコードである。そうして高速でコルテスの背後に回り込み、剛力でもって羽交い絞めにて抱え上げ、猟兵は強く彼の乗騎の背を蹴った。
「何をしている、こんな下らない遊びに付き合っている暇はないんだ、離さんか」
　コルテスはそういって怒鳴りつけるが、そんな言葉を聞き入れる者は声の届く範囲には絶対に居ない。背後の青年の耳にだって、届いていない。彼の心にあるのは人々を救う絶対的な意思。あるいは救わねばならぬ使命感と強迫観念。真直ぐ上に飛び上がった二人は、みるみるうちに天へと昇り、1200メートルの高空へ。
「この世界も……そこに住まう人々も……私が護るんだ！」
　そんな誓いの言葉とともに、猟兵はくるりと折り返し、その高さから地上に向けて、頭を下に超高速で飛び出した。自由落下の五倍の速度で石畳へと激突する。神の槌とはよく言うが、槌と対象物を兼務させることは稀であろう。ウィルヘルムが油断なく離れれば、埃を撒いて血を流しつつ、頭を振りつつオブリビオンが起き上がる。
　憎々しげに睨む目は、健在なるを如実にするが、揺れる瞳は小さくはないそのダメージを物語っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　コルテスは、眼前の少女然とした下等生物を見る。華奢な矮躯、これを侮るなという方が無理ではないだろうか。
「貴様も…あ？」
　おかしい。自らの喉を震わせた声が高い。そして逆に視点が低い。思えば相対している矮躯との距離が、騎乗しているとは思えぬほどに近い。
「ツァルたん×コルたんの下剋上キタコレ♪」
　先の下等生物の言葉は聞き流してはいたものの、聞けば理解することができたが、今度は全く意味も分からない。本当に謎の言語を操っているのだろうか。とりあえず息荒く興奮した様子なので、多少なりとも備えるべきなのだろうか――

　未知の状況への理解と対処に苦心するコルテス『少年』を前に、アリス・セカンドカラー（不可思議な腐敗の魔少女・f05202）はにまにまと笑っていた。彼女のユーベルコードは、自らの想像…というか妄想を現実に反映し、その中に対象を取り込むというものである。その効果をもってすれば、オブリビオンの肉体ですら変質させることができるようだ。
　そんなわけで、彼女の毒牙に掛かったコルテスは少年の姿へと変貌させられ、特徴的な衣装を誂えられている。カテゴライズとしては『和パンクロリータファッション』というものになる。さらにご丁寧なことに、乗騎であるケツァルコアトルも同様の処置を施され、今は少年の姿をとってコルテスの尻に敷かれて潰されている。

　彼がそんな状況を理解するためには、小さな手を見て、髭のない顔を触り、竜の姿に驚き、なんやかやでしばらくの時間を要した。その間アリスはずっと楽しげに眺めていた。残念ながら彼女の望んだ『下剋上』とやらは、ケツァルコアトルに施された隷属の呪いの為に成就しなかったが、その範疇を踏み出さない程度には被さってじゃれついている。高い声で抵抗を続けるも、少年の細腕のために満足に跳ね除けられないコルテスは歯痒い事であろうし、それを娯楽とされていることは腹立たしいことであろう。妙な因果応報もあったものである。

「あ、キモチヨクなれるオクスリも注入☆」
　威厳も尊厳もへったくれもなく、アリスの嗜虐心を存分にくすぐる叫び声をあげて、もうしばらくコルテスへの精神攻撃は続いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

（ずいぶんと他人の事を見下しているようですね。では、こんな手はどうでしょう）
エルシー・ナイン（微笑の破壊兵器・f04299）は一計を案じる。

「コルテス様、これを」
　高い身長を小さく見せるよう姿勢を低く、恭しく。頭を下げて傅くようにしながら、彼女は竜の背で息を整えるコルテスへと手を伸べる。そこには大きく美しい宝石が乗せられており、侵略者の目は僅かに輝きを帯びた。
「ほう、多少は知恵のついた奴もおるらしいな」
「ぜひお納めくださいませ」
　礼も労いも勿論なく、当然のようにエルシーの手から奪い去ると、それを自身の目の前で翳したり回したり、矯めつ眇めつ興味深げに眺め回す。猟兵が向けた優雅な笑みに一瞥もくれず、一礼して下がる俯いた顔にて隠れて笑うその表情にも当然気付くことはなく。
「悪くない、これならアレにくれてやっても…」
　と、ここで起爆。

「どうです？あなたの国にはこんな精巧なダミーを作れる技術はないでしょう？」
　顔のすぐ前で覗き込んでいたものだから、まったく無防備にその爆発を受け止めて、髭を焦がしたコルテスに向けてエルシーが種を明かしてやる。と言ってもすぐそばで響いた轟音に、聴覚が生きているかは疑問であるが。
　彼女が渡したのは銀河帝国製試作兵器。今回は大型の美しい宝石に擬態した強力な爆弾という仕様のものである。多くの宝石と触れ合い、その造形も深いであろうコルテスを騙す程のディテールのそれを、惜しみなく容赦なく爆発させたのである。

　そのうえで、彼女は更に容赦がなかった。その腰部に装備したマルチプルミサイルポッドに装填されたすべての誘導弾を、コルテス目掛けて吐き出した。煙が晴れても未だ閃光に目を眩ませた敵を、すぐさま再び煙に巻く。
「アナタを見ているとどことなく銀河皇帝陛下を思い出すんですよ。アナタにもあの方と同じ末路を辿って頂きます！」
　今なお尊称を付けるのは感傷ゆえか。見えずとも聞こえずとも、そうと知りつつも言葉を掛けるは、覚悟と意志の現れ、感情の発露には外なるまい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「うわぁ、すっげぇボロボロ……どんだけボケてんのさこのオッサン」
　油断のあまりに多大な損害を被りながらも、なおも油断しつづけるコルテスへ、数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）は呆れた視線を送る。鼻を鳴らして一笑に付す彼を、彼女は意に介す様子もない。
「まぁいいや、そのマスケット銃だっけ？　そいつの射撃の腕、見てやるから撃ってみなよ」
　不遜な男へさらに上から不遜に要求を行う多喜に、もちろんコルテスも良い顔はしない。なだめてすかして褒めそやし、何とか動かそうと試みるが。
「くだらん、時間の無駄だ」
　取り付く島もない。そして猟兵はぽつりと。
「なんだい、ビビってんならしょうがないね」
　侵略者の眉が小さくぴくりと跳ねる。掛かった。多喜は背を向けて、表情を隠しながらほくそ笑んだ。今度は猟兵が話を聞かない番だ。何を言われようと言い訳と断じて一笑に付し、優しい言葉で貶める、ネガティブなコミュ力が猛威を揮った。ついにはコルテスが銃を構え、それを察した彼女はすぐさま向き直る。
「おっそいねぇ」
　男のマスケット銃の装填には十秒の時間を要する。
「いつまで待たせるんだ？」
　焦る時、怒る時、十秒というのは意外に長い。
「オッサン、シニアグラス掛けんの忘れてないかい？」
　それでももうすぐ準備は終わる、そうすれば
『で、今なんどきだい？』
　無防備な精神に、時縛る糸はするりと絡み付いた。コルテスが奪われたのは三文どころの話ではなく、文字通りに『時』を奪われたのだ。呆けたように動きを止める竜の背に座す男の手から、装填途中のマスケットを念動力で抜き取ると、手際よくそれを完了させて無造作にそれを発射させた。体感時間の止まったオブリビオンは、衝撃を受け表情も変えずに身体を揺らし、乗騎の上で仰向けになった。
　多喜はその銃を返却することなく、奪ったままに肩に担いで踵を返し、その対面を後にする。そして一分弱の後、男の低い呻き声が上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「わ、わたし、虫なんかじゃないもん」
　シル・ウィンディア（光刃の精霊術士・f03964）は怒っているのか怯えているのか判断の難しい表情で、抗議の声を上げる。彼女は、虫が大の苦手なのである。
「貴様らは虫より喧しい、始末に負えん」
　心底から迷惑そうな表情で言いながら、コルテスは縮れた髭を気にして撫でている。虫呼ばわりは撤回されても侮る言葉はさらに増えて、少女は重ねてむっとする。
「言ったなぁっ？」
　重い音を立てながら、折り畳まれた武装を展開する。長砲身のレールキャノン、精霊電磁砲である。素早く魔力砲弾を装填し、一気呵成に撃ちまくるが、それらは敵の足元に刺さるばかりで命中する弾は見受けられず。オブリビオンは冷たく笑い、狙いの粗さを嘲り見下し、その姿は煙に包まれて見えなくなった。しかしそれこそがシルの狙いである。
　彼女は素早く回り込み、煙に紛れたコルテスの背後を狙い、煙幕の中へ飛び込んだ。声もなく音もなく、光の槍を振りかぶり、いざ討ち取らんと躍り出れば――
「その攻撃は、既に思い出した」
　詰まらなそうな侵略者の目と、大きく開かれたケツァルコアトルの口が出迎えた。

　煙に紛れた攻撃を、先の猟兵との戦闘で警戒するに至ったコルテスは、わずかな音や気配を頼りに、迎撃を成功させたのである。騎竜は少女の小さな体に容赦なく噛み付き、傷を負わせる。ビームスピアを口腔内に突き立てて、より大きな被害を阻みながら、愉悦を見せる男を睨む。
「下等生物の一つ覚えよなあ」
　その表情すら侵略者にとっては一つの娯楽に過ぎない。だからこそ、油断に拍車を掛けることとなり、つい先程は注意深く聞いていた音声にも、露とも耳を傾けず。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ…」
　圧迫を受け、絞り出すような声で、しかし確実に詠唱を紡ぎ。
「我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ！！」
　瞬間、眩い光が傲慢なるオブリビオンの目に飛び込んだ。竜の口内にて爆裂した強力な魔力の砲撃は、その頭蓋を突き破り、その先のコルテスの頭部を呑み込み、恐るべき長時間の照射を以て、当該部位を消失させた。追いかけるようにして身体も掻き消え、続けて消えた乗騎から離され、シルの身体はどさりと落ちた。それから彼女は身じろぎ一つ、ころんと仰向けに転がって、休憩がてらに大きく一つ息を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2019年08月12日