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エンパイアウォー⑨~涙する炎霊

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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 消えない――。
 灼熱の中、幽霊は顔を覆って泣き声を漏らす。
 禊の炎が、まだ足りないのか――。
 濁り穢れた遺恨はいつまでも胸を焼き続ける。
 でも、これで生きているものを燃やし尽くせるなら――。
 それはそれで、ステキねと。
 顔を覆う指の隙間からは、ニィと嗤う口角が覗いた。


「あっついあっつい、うらめしや!」
 エンパイアウォーも半ばに差し掛かる頃、進軍経路のひとつである山陽道が暑くて大変な事になっていると、メリーアールイー(リメイクドール・f00481)は猟兵達に招集をかけた。
「敵の軍勢に、侵略渡来人『コルテス』ってのがいるだろ? そいつの手下が山陽道で幕府軍を待ち構えて、厄介な儀式を始めとるんだ」
 仕事だから一応ね、と。メリーは今回の依頼内容を記した資料を配る。
「長いから、読み飛ばしちまっても構わないからねっ」

 手渡された資料によると。
 コルテスの作戦は『山陽道周辺の気温を極限まで上昇させ、進軍してくる幕府軍を、熱波によって茹で殺す』という非道なもの。
 その為に、手駒とした幕府に叛意を持つ長州藩の毛利一族を生贄にして、骸の海からオブリビオンを呼び寄せたのだ。オブリビオン達は『富士の噴火のエネルギーを蓄えた霊玉』を使って儀式を行っている最中である。
 今現在、山陽道の平均気温は夜間でも三十五度を超えている。このまま、コルテスの儀式が進めば、平均気温が五十度を超える殺人的な暑さとなる事が予測されるだろう。
 また、コルテスの策略は熱波だけではない。同時に死をもたらす『南米原産の風土病』も蔓延させるつもりなのだ。だが、この風土病のウィルスは、極度の高温でなければ死滅する種類だ。『熱波を生み出しているオブリビオン』を撃破すれば、風土病も阻止出来るはずだ。

「要するに『猛暑の戦場で悪い儀式をしているオブリビオンをとっちめて、儀式の要となる霊玉を砕いて来て欲しい』って話さ」

 依頼内容を簡潔にまとめたメリーは、続けて敵対するオブリビオンの説明に移る。
「あたしが予知夢で見た敵は『残滓』……過去の人間の未練や後悔を集めた怨念の集合体だよ。生きているもの、特に強い思いを持つ相手を殺して取り込もうとするらしい」
 幾ら未練や後悔を抱えて涙しようとも、他者の命を奪っていい理由にはならない。
 泣こうが喚こうが、残さず殲滅しとくれ、と。厳しい口調で猟兵達に仕事を託した。

 メリーのボタン型のグリモアがクルクルと周り、準備が整った者から光に包んでいく。
「それじゃあ、熱中症にならんように気を付けて行っといで! よろしゅうにーっ」


葉桜
 OPをご覧いただきありがとうございます。葉桜です。
 エンパイアウォーでは、初シナリオとなります。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 猛暑の戦場とありますが、対策がないから不利になるという事はありません。
 勿論対策があれば描写致しますが、フレーバー程度に考えて下さい。
 また、敵は霊玉を守るように戦うので、破壊は最後の描写となります。

 OP公開と同時に募集を開始致します。
 今回はなるべく早めにお返ししていく予定です。
 ご参加お待ちしております。
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第1章 集団戦 『残滓』

POW   :    神気のニゴリ
【怨念】【悔恨】【後悔】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD   :    ミソギの火
【視線】を向けた対象に、【地面を裂いて飛びだす火柱】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    ケガレ乱歩
【分身】の霊を召喚する。これは【瘴気】や【毒】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:オペラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可

あーもうマジでアイツ厄介な事しかしねぇな
テメェら…何の恨みがあるか知らねぇが、アイツに加担した時点で俺の怒りはマックス振り切ってるぜ!

絶゛対゛に゛許゛さ゛ん゛!゛

怒りと共に【シューティングギャラクシィ】フォームに変身。
オブリビオンに対して【レイシューター・フルバースト】による光の砲弾でダイナミック除霊だぜ! 敵は負のエネルギーを宿して超強化してるみてぇだが…今の俺は奴らに負けねぇ位に怒りのエネルギーが沸き上がってるぜ! 【範囲攻撃】で周囲のオブリビオンをまとめてぶっ飛ばした後は【ギャラクシィ・ブレイク】を発動し、キックで銀河の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!!


塩崎・曲人
まじかよオブリビオン最低だな
ただでさえ今クッソ暑いのによー
「ぶち殺す理由が2個に増えた。じゃあ早速やっちまうか」
(暑いのでジャケットを脱ぎ捨てつつ)

【喧嘩殺法】で怨霊共を殴り散らしていくぜ
普通幽霊に物理は効かんが、オレが気合い入れて殴るとなんか魔力とか帯びて効くらしい
びっくりだな?
「まぁ、なんでもいいけどよ!オラ、次来いや!こっちは暑ぃからさっさと済ませて帰りてぇんだ!」

――アア?怨み?無念?ンなもん知るかコラ
こちとら生きるのに忙しいんだ
「一緒にメソメソする仲間が欲しいなら他所当たんな!」

【アドリブ歓迎】




 侵略渡来人『コルテス』の非道な策略、そしてその駒であるオブリビオン『残滓』の予知。グリモアベースで得た情報は、どれも胸糞悪くなる話ばかりだった。
「まじかよオブリビオン最低だな。ただでさえ今クッソ暑いのによー」
「あーもうマジでアイツ厄介な事しかしねぇな」
  塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)の苛つく声に、同じく怒りの台詞を重ねるのはアーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)だ。アイツ、とはコルテスの事だろう。嘗て滅ぼした世界の力を使って安全圏から楽しく侵略と虐殺を繰り返してきた男……ホントに碌でもねぇ奴だと拳を握る。
「ぶち殺す理由が二個に増えた。じゃあ早速やっちまうか」
「おお!!」
 既に三十五度を優に超える炎天下だ。曲人は暑くて着ていられなくなったジャケットを脱ぎ捨て、額に浮かんだ汗を腕で乱暴に拭う。戦友に背を預けた二人の男は、それぞれの前に群がる敵集団に狙いを定めた。

「テメェら…何の恨みがあるか知らねぇが、アイツに加担した時点で俺の怒りはマックス振り切ってるぜ!」
 絶 ゛対゛ に゛ 許゛ さ゛ ん゛ !゛
 怒号を合図に、アーサーはドーンブレイカー『シューティングギャラクシィ』フォームに変身を遂げた。スペースシップワールドの力を得た形態である銀色のボディが太陽光を照り返す。そして取り出す愛用の大型射撃武器『レイシューター』。この灼熱の太陽の力を存分に利用させてもらおうではないか。ソーラーパワーが今までにないほどチャージされていく。
「【Select……BURST ACTION!】フルパワーで……ぶちかますぜ!!」
 鷲のオブジェが睨む砲身から放たれた、肉眼では眩しすぎて捉えられない激しい閃光――。『レイシューター・フルバースト』は前方の残滓の幽霊を飲み込み、そして消滅させた。
「ようし、効いたな! ダイナミック除霊だぜ!」
「ああ、うらめしい……憎い、憎いわ。光が、光を力に変えて、生きているアナタが……!」
 戦場に残された残滓達は、眩い光を己の手で閉ざしながら、涙と共に怨み事を零した。怨念・悔恨・後悔――どろどろと渦巻いていた感情を呪いとして自らを縛る事で、幽霊の周りに闇が広がり、濁った力が増幅されていく。

「ヒャッハー!ブッ込み行くぜオラァ!」
 そんな重苦しい空気など物ともせずに、曲人はそこら辺に落ちていた廃木材を木刀のように振り回し、幽霊達を殴り散らしていく。しかし、物理攻撃の『喧嘩殺法』が何故幽霊に届いたのだろうか。
「オレが気合い入れて殴るとなんか魔力とか帯びて効くらしい。びっくりだな?」
 アルダワ魔法学園魔法科コースを履修済みの曲人は、自分の戦闘スタイルに合わせてそんな魔力の使い方も覚えていたらしい。
「まぁ、なんでもいいけどよ! オラ、次来いや! こっちは暑ぃからさっさと済ませて帰りてぇんだ!」
 敵集団の中、曲人は汗を散らしながら、白装束の胴体を薙ぎ、幽霊の頭をかち割って除霊していく。そうして近接戦闘を続ける彼を、間近にいた幽霊が手の隙間から呪いの視線で睨みつけた――。
 ガン飛ばされた――チリリとした視線を感じた直後、曲人は考えるよりも先に、視線の元である幽霊の頭を乱暴に掴み、瞬時に足元の地面へとメリ込ませる。
「ざけんな! てめぇが食らえや!」
「ギャアアアアアッ」
 地面から噴出した禊の火柱を顔面から受けた幽霊は、激しく浄火されたのだった。

 一方で、アーサーの方でも怨念を強化させた幽霊が火柱を上げていた。時に飛んで避け、時に火炎耐性のある装甲でオーラ防御を行いながら、攻撃の手は休めない。
「負のエネルギーを宿して超強化してるみてぇだが……今の俺は負けねぇ位に怒りのエネルギーが沸き上がってるぜ!」
 アーサーの怒りと連動するように火力を上げるレイシューターの砲弾は、広範囲を光で満たし、幽霊をまとめて除霊していく。
「うう……この怨みを無かった事にされるのは嫌よ。この無念、晴らさせてよぉ!」
 泣き叫ぶ幽霊の顔の側面に激突し視線を反らさせたのは、曲人がぶん投げた廃木材だ。
「――アア? 怨み? 無念? ンなもん知るかコラ」
「【Select……FINAL ACTION!!】……これで決める、うおりゃあああああああ!!!」
 追撃するようにアーサーの『ギャラクシィ・ブレイク』が発動する。レイシューターから放たれた光の追尾弾が幽霊を捕らえた。そして突撃形態に変形すると、必殺キックが炸裂する――。
「銀河の果てまでぶっ飛べええーーっ!!」
 猛烈な勢いで空に蹴り飛ばされた幽霊は、太陽に飲み込まれるように消えて行った。
 戦闘開始時に放り投げたジャケットを回収した曲人は、適当に埃を払って肩にかける。
「こちとら生きるのに忙しいんだ。一緒にメソメソする仲間が欲しいなら他所当たんな!」
 生きる光に満ちた彼等に太刀打ち出来る怨みの残滓など、ここにはいなかったようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
恨みつらみも諸共に、もう一度死に絶えるが良い

破天で掃討
高速詠唱と2回攻撃で限りなく間隔を無とし、全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化
爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
2回攻撃の一回分は常時射出し、残る一回分は全て統合した巨大な魔弾として放ち確実に始末

周囲一帯を纏めて吹き飛ばし回避の余地を与えず、攻撃の密度速度で反撃の機を与えず

纏う原理――顕理輝光『再帰』で一連の手順を循環させ一切の中断無しに攻撃を継続
必要な魔力は『超克』にて“外”から汲み上げ供給

敵群の動きや無理矢理に向けられる攻撃は『天光』にて見切り諸共に攻撃で飲み込んで対処

攻撃の物量で全て圧殺する




 幽霊の嘆き声が響く灼熱の戦場でも、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は普段と変わらぬ冷静な面持ちで敵を見据えていた。
「恨みつらみも諸共に、もう一度死に絶えるが良い」
 猟兵と対峙した此処が、オブリビオンにとっての――。

「行き止まりだ」

 詠唱は鼓動。派手な動作も長い口唱も必要としない、青く輝く『死』の魔弾が天を破って降り注ぐ。アルトリウスは、世界が構成される前の法則『原理』を扱う異能者だ。彼が操る『死の原理』は肉体のない幽霊であろうと、その存在根源を直に砕き浄化していく。

「ああ、止めて、止めてよ。私の未練はまだ残されたままなの……っ」
 未練の数だけ幽霊は分身を作り、新たに生まれた穢れが乱歩する。巻き散らす怨念の瘴気は毒として生きる者を蝕んでいくのだ。
 しかし、その瘴気の流れも、万象を見通す瞳となる全知の原理『天光』が照らし示していた。魔弾の雨『破天』が弾幕となって瘴気を防ぐ。
「攻撃は最大の防御だ。攻撃の物量で全て圧殺する」

 アルトリウスの宣言通り、『破天』が止む気配はない。。
 体内を規則正しく巡る調べは留まる事を知らず、それは高速詠唱と二回攻撃を常に回転させて、限りなく間隔を無としているに等しい。魔弾の嵐で蹂躙する圧倒的面制圧飽和攻撃――それを可能としているのは、アルトリウスの顕理輝光の紋章『超克』と『再帰』の原理によるものだ。
 これらの攻撃の為に消費しているのは、アルトリウスが元から持つ魔力だけではない。漂う淡青の光は、世界を超えた『外』より力を導く最古の理『創世の原理』。そして、その絶えない力を無限に巡らせる『循環の原理』。
 彼は多様な原理を操る事で、一切の中断を無くした永久機関を生み出していたのだ。

 また、そのルーティンも芸術的な流れで作られていた。二回攻撃の一回分は常時射出、その初弾を逃れたとしても、残る一回分は全てを統合させて巨大な魔弾として、残された敵を確実に仕留めていく。回避の余地も反撃の機も与えずに、延々と――。
 青色は、そうして怨霊の残留思念も赦さずに、全てを躯の海へと流し還していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

花凪・陽
アドリブ連携歓迎

コルテス本人も酷い奴だけど、作戦も酷いものばかりだね……
暑さも過酷だけど風土病の被害も考えたくないよ……
……絶対防がないと

戦場は暑いけど気合いで頑張ろう
私は【属性攻撃】を乗せた【フォックスファイア】で攻撃していくね
でも呼び出した狐火全てを残滓への攻撃には使わない
ある程度の狐火は分身が呼び出された時に攻撃させたり、仲間への【援護射撃】に使うね
毒や瘴気は怖いから距離を取り続けることを意識しよう

……あなたは未練の塊なんだね
こんなことをしてもあなたの気持ちは晴れないよ
むしろずっと辛いだけだと思う……
だから骸の海で安らかに眠っていて欲しい
そんな思いを【祈り】として狐火に乗せたいよ


ルパート・ブラックスミス
…いつかの桜花祭の首無し妖狐たちを思い出す。
さぁ、亡霊騎士が迎えに来たぞ。

敵の注意を【挑発】するように突撃。繰り出される火柱は【火炎耐性】で凌ぎ強行突破。
UC【命を虚ろにせし亡撃】を載せた短剣で【投擲】攻撃しつつ【生命力吸収】。
行動の自由、力の源、遺恨に苦しむ心をも封じつつ霊体を霧散させる。

貴様らの過去など知らんが、きっとその心は生前から大きく歪んだ有様なのだ。
きっと今の貴様らの姿は、かつての貴様らすら望んでいない有様なのだ。
未練、後悔、怨嗟。すべてこの鎧に刻もう。故に、もう何も感じることなく逝け。


…そうだ。きっと死して残滓だけの独り歩きなど、生前の己は望んでいないのだ。

【共闘・アドリブ歓迎】




 戦場に浮かぶ残滓も後僅かとなったが、未だに嘆きの声は絶えず、寧ろ猟兵に祓われた仲間の未練も拾い上げたのか、抱く怨念は色の濃さを増したように見受けられる。
「コルテス本人も酷い奴だけど、作戦も酷いものばかりだね……暑さも過酷だけど風土病の被害も考えたくないよ……」
 花凪・陽(春告け狐・f11916)の春を彷彿とさせる桃色の瞳は優しく、普段は事件の察知や後始末を中心に働く事が多いけれど、こんな悪事を野放しにしておくわけにはいかない。最後まで戦い抜き、絶対に被害を防がなければならない、と。真夏の暑さを気合で振り払って戦闘態勢をとった。

「おいで、狐火……上手に動こうね」
 召喚した三十弱の『フォックスファイア』を背後に溜めて、まずはそのうちの幾つかを残滓に向けて解き放つ。
「うらめしい、そんな穏やかな瞳でいられるなんて、ずるいわ……っ」
 悔恨に満ちた醜い己の顔を覆いながら、残滓は穢れた分身を増やして盾にする。狐火に焼かれた分身は姿を消滅させると同時に、毒性のある瘴気を巻き散らした。

「さぁ、亡霊騎士が迎えに来たぞ」
 敵を挑発しながら陽を庇って前へ出たのは、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)だ。ルパートが巨大化させた鉛滴る大剣を、怪力でスイングして大胆に扇げば風向きが変わり、瘴気は猟兵と反対の方向へと流れて行く。
「我望むは命満ちる未来。されど我示すは命尽きる末路」
 ルパートは怨霊と化した残滓を確実に終わらせる為、彼の身体の一部でもあるブラックスミスの短剣に亡霊騎士の呪いを込めた。
「邪魔しないでよ。この怨みが晴れないなら……みんな道連れにしてやるの」
 残滓はルパートを指の隙間から睨みつけ、今度は火柱を呼んだ。しかし、地面から噴き出す火柱に焼かれても、ルパートが倒れる事はない。常日頃から鎧の中で青い流動鉛が燃え続けているルパートにとって、その程度の炎など生温い。

「ルパートさん、援護するね」
 それでも、火柱がルパートの歩みの邪魔となっているのは確かだ。陽はフォックスファイアを残滓の顔に命中させて、ルパートから視線を外させる。
「ああ、感謝する。陽殿」
 火柱が鎮まり視界が開けたルパートは、呪いを乗せた短剣を残滓に投擲した。
 まずは霊体の行動の自由を封じる第一撃。彼の一部でもある短剣は方向転換して、動けなくなった敵を続けて狙う。力の源を封じる第二撃により炎も瘴気も失い、そして最後に――。
「貴様らの過去など知らんが、きっとその心は生前から大きく歪んだ有様なのだ。きっと今の貴様らの姿は、かつての貴様らすら望んでいない有様なのだ」
 第三撃で封じたのは、遺恨に苦しむその心。三つの呪いは、霊体を繋ぎ止める全てのものを封じる事で、逆に残滓を解き放ち、霧散させたのだ。
「未練、後悔、怨嗟。すべてこの鎧に刻もう。故に、もう何も感じることなく逝け」
 焼かれた鎧は生命力を吸収し、再生する。しかし、鎧に刻まれる記憶はもう失われる事はないのだ。

「ああ、また終わらされてしまうわ……いやよ、いや……どうして……っ」
 残ったひとりの幽霊が泣き叫び蹲る。
 陽は憐憫の瞳を向けて、狐火に祈りを込めた。
「……あなたは未練の塊なんだね。こんなことをしてもあなたの気持ちは晴れないよ。むしろずっと辛いだけだと思う……」
 だから、骸の海で安らかに眠っていて欲しいと願う。
 陽の願いが小さな狐火を集めて温かい大きな炎となり、残滓を優しく包み込んだ。
 胸を焼く未練が晴れる事はない。でも、もう、自由になっていいのだ。
 あなたの怨念、悔恨、後悔を燃やそう。
 真の禊の炎を受けた残滓は、漸く現世に別れを告げられたのだった。

 二人は残滓達を弔うように、祈りを捧げた。
 ルパートは、いつかの桜花祭の首無し妖狐達を思い出していた。
 あの時は泣く事も出来ない狐を哀れと思ったが、泣けても抱える憎しみが軽くなるわけではなかったようだ。命を落としてもそこで終われずに、負の感情に振り回されながら、悪しき存在として暴走してしまった事が、彼等の不幸だったのだ。
「……そうだ。きっと死して残滓だけの独り歩きなど、生前の己は望んでいないのだ」
 それでも亡霊騎士は歩き続ける。
 肉体も記憶も栄光も亡くしても、なお遺る炎が此処に在るから。


 猟兵達は、守るものがいなくなった霊玉に一撃を加えて砕いた。
 身を焦がすような熱が、心なしか和らいだような気もする。しかし、これはコルテスが幾つも用意した儀式の内のひとつに過ぎないのだ。
 今は暫し身体を休め、他の戦場に挑む仲間の健闘を祈るとしよう。
 戦争はまだまだ続くのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月13日


挿絵イラスト