エンパイアウォー⑩~怪奇・鉄甲船ぬらぬら
●超巨大鉄甲船・船上
瀬戸内の豊かな海に城塞を思わせる大船が浮かんでいた。
大悪災・日野富子が莫大な財力を用いて建造した、超巨大鉄甲船である。
「速度そのまま、よーそろー」
操船を担うのは、戦国の世にこの地を席巻した海賊衆、村上水軍の亡霊だ。
大悪災により呼び出された彼等は、死して尚、金と恐怖に縛られているのだが、
「ねえ兄貴……あいつらほんとに護衛なんスか……」
「俺にもよくわからん」
青白く揺らめく怨霊兄貴が首を振った。
船の中央、村上水軍旗が掲げられた帆柱に、ぬるぬるとした触手が絡みつく。
いや船上のあちこちに奇怪なオブリビオンが這いずり回っているのだ。
甲板にぬたりと滑り落ち、吸盤をうねうね動かすそれらはまさに、
「タコっすよね、あれ」
「ああ、タコだな」
どこからどう見てもタコだった。
巨大鉄甲船の船上をタコが這い回っているのである。
そのあんまりな光景を前に、疲れたように脱力する亡霊船員たち。
『疲れてるならお前らもほぐすタコ?』
「タコがしゃべった……!?」
「おれたちゃ亡霊だ。いまさら何されても効かねーんだよ」
『そうなのかタコ……可哀想タコ……』
タコに同情される亡霊というアレな状況の中、船は幕府軍を待ち構えるのだった。
●グリモアベースにて
「タコって言っても衣蛸という妖怪みたいで……その、とってもキケンな存在です」
瀬戸内の海をバックに、化野・那由他が両指を意味深にうじゅらうじゅらさせた。
大悪災『日野富子』の暗躍によって、南海道の海にはいま、超巨大鉄甲船の大船団がひしめいてる。放置すれば南海道の海路を征く幕府軍船舶が壊滅的打撃を被るだろう。
「日野富子は、戦国の世の大海賊――村上水軍の亡霊を呼び出して、船員としているようです。船も亡霊の船員も、攻撃はおろかユーベルコードさえ受け付けませんが……」
帆柱に掲げられた村上水軍の旗を奪取できれば、亡霊は大人しく消滅するという。
「帆柱は船の真ん中あたりに立てられていて、水軍旗にはこんな模様が記されています」
那由他が示したのは、○の中に上と書かれている旗の絵だ。
それから紙芝居のように画用紙をスライドさせる那由他。
いきなりタコの絵があらわれた。
「そしてこちらが護衛の衣蛸です」
10体くらいいるらしい。
「皆さんを見つけると妨害してきます。それも、口には出来ないような方法で……」
おそろしや……と慄く那由他。
ともあれ船に乗り込んだ後は、まず妨害してくる衣蛸どもを倒すべきだ。そして水軍旗を引きずりおろすことができれば、亡霊は消滅し、船も停止を余儀なくされる。
船は亡霊が宿っている限りは攻撃を受けても即座に修復されるが、亡霊が消えた後は如何様にも沈めることができるだろう。
船に乗り込む方法を工夫し、衣蛸との戦い方を考え、水軍旗を奪う手段を練る。
然る後に船を沈め、脱出を。
思案すべきはそんなところだが、
「この衣蛸、なぜか寄ってたかって全身を揉みほぐしたり骨抜きにしてくるみたいなので……気をつけてくださいね。本当に気をつけてくださいね」
真剣な顔で念を押すと、那由他はグリモアを輝かせた。
相馬燈
※このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
なんてお誂え向きなタコが……!
敵の超巨大鉄甲船が瀬戸内の海で幕府軍を待ち構えています。
工夫して船に乗り込み、妨害してくる衣蛸を倒し、帆柱に掲げられた村上水軍旗を奪取しましょう。旗を奪うことができれば、船を動かしている亡霊が消滅し、船の超絶修復能力も失われます。後は適当に船を沈めて脱出あるのみです。
●超巨大鉄甲船
鉄の船の上に城塞が作られているという、わりとトンデモなシロモノです。
規模は全長200m、全幅30mほど。
中央付近に帆柱があり、そこに村上水軍の旗が掲げられています。
以上です。
皆様のご参加をお待ちしております。タコにはくれぐれもご注意を……!
第1章 集団戦
『骨抜き妖怪『衣蛸』』
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POW : 随分と凝ってるタコ~。俺たちのようにほぐすタコ!
【タコの保護色能力で全身を迷彩して接近し】【筋肉の塊である8本の触手で相手を捕まえ、】【マッサージで弱らせてからの絞めつけ攻撃】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : カッピングもやってますタコ~。血流良くなるタコ!
【タコの保護色能力で全身を迷彩して接近し】【非常に強力な吸盤で相手を捕まえて、】【カッピングで生気を吸い取り弱らせる攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 運動不足じゃないかタコ~?ヨガは身体に良いタコ!
【再生能力を活かして非常にしぶとく接近して】から【筋肉の塊の触手と強力吸盤で相手へ捕縛攻撃】を放ち、【操り人形のように強制的にヨガをさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:まめのきなこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
御倉・ウカノ
アドリブ・連携歓迎
判定:WIZ
蛸だ…。相手があいつだけなら締めて酒のつまみにでもするんだが、今はただただ厄介な存在だね。
さっさと軍旗を奪いたいところだけど蛸は妨害してくるだろうし何より帆柱の上にあるから真正面から行くのは難しいだろうね。ここは古事記に倣って海を越えて帆柱の上までたどり着こうじゃないか。UC『飯綱』で管狐を召喚し、それを足場にして帆柱の上まで移動し軍旗の奪取を狙うよ。余った管狐は他猟兵の移動の補助をさせておこうかな。途中邪魔してくるであろう蛸たちは、飯綱を囮にしつつ蛸の眉間に刀を突きさして1体ずつ確実に排除していこうか。
「気分は因幡の白兎だね。…足蹴にされてる管狐達にゃ悪いがね」
鞍馬・景正
蛸の按摩――怖ろしいような、愛嬌のあるような。
されど天下の大事に疲れを感じる暇は無し。
按摩はいずれの機会に。
◆
小舟で鉄甲船に乗り込み、海軍旗を奪いに。
進路の死角に潜り込み、鉤縄を用いて侵入しましょう。
甲板では【視力】を活かして周囲を観察し、這いずる粘液の轍が向かってくれば、迷彩を施した蛸が接近中と判断。
他、空気の湿りや異臭、物音などから触手との距離を【見切り】、太刀打ちの間合に入れば【羅刹の太刀】を抜刀。
【怪力】を込めた斬撃の【衝撃波】を放ち、その【範囲攻撃】で触手ごと蛸を両断して参ります。
しかし十体もいれば容易に突破も出来ますまい。
旗の奪取は任せ、私は蛸どもを引き付ける役に徹しましょう。
緋薙・冬香
「タコ…不思議ね、危険な香りがするわ」
こんな時は健全なセクシー担当(?)しているのが仇となる
でもやることやらないとね
乗り込む手段は小舟で少し沖合に出てからスカイステッパーで!
ジャンプの技能も上手く使って高く長く飛ぶわ
タコは頑張って排除しましょう
でもある程度は覚悟(?)してる
「ちょ、まっ、ひゃんっ?!」
↓
「くっ、なんか本当に肌艶が良くなった気がする!」
なんか悔しいわ!八つ当たりするしかないわ!
「お礼に美味しいお刺身にしてあげる」
指定UC発動
本来は闇に潜み、人を殺める術だけど
タコの刺身も作れるはず
ベシュトラーフング(鋼糸)で斬り刻んであげる!
☆アドリブ共闘OK
お色気は健全セクシー程度でお願いします
シュデラ・テノーフォン
乗り込むなら翼で飛んで…あァでも
空中で狙われないようひと手間しよう
先に氷の精霊弾を船近くの海上に放つ
兎に角大きな氷の塊を落として海を揺らすんだ
大量の水飛沫が出たらソレも利用できるかな
船員の注意を逸らして、反対側から船に降り立つよ
タコ君はマッサージ得意なの?
俺店の仕事とかで手や目がこってて…後脚もかなァ
出来たらリンパ流しも…できるの?
君達商売出来るんじゃない?
あァオブリビオンだもんね、残念だなァ
タッピングも気になるけど全部受けると封じられちゃうからねソノ前にヤろうか
風の精霊弾を込めた銃をUCで複製
操作して風の刃を放ち纏めてタコの刺身にしてあげるよ
後は船員君も強風で牽制
風の間を通り旗獲りに行こうか
パウル・ブラフマン
【SPD】
【迷彩】装甲にした愛機Glanzを
水陸両用モードに変形させて
手甲船に乗りつけに往くよ!
ども、エイリアンツアーズでっす☆
移動手段にお困りでしたら、後部座席へどうぞ♪
衣蛸に遭遇したら
猟兵仲間が動きやすいように囮役を。
…タコ?オレもタコだよー!お仲間~♪(キャッキャ)
持ち前の【コミュ力】をフル活用しつつ触手うねうね。
でも残念だね。オレは猟兵…キミ達のライバルなんだ。
UC発動、行くよGlanz!
オレの自慢の【運転】テクで魅せちゃうぞ♪
積荷もマストもオレにとっては発射台。
【野生の勘】否、タコ同士の勘で接近を躱し
【カウンター】の要領で展開したKrakeで狙撃していくね!
※絡み&同乗&アドリブ歓迎
●それぞれの突入
鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)は小舟で沖に漕ぎ出していた。
凪の内海は、舟を操るにはもってこいだ。
船尾の艪を漕ぎながら、徐々に近付く巨大鉄甲船に目を細める。
「蛸の按摩――怖ろしいような、愛嬌のあるような」
護衛の任に就いているという妖怪变化について考え、景正は微苦笑した。
「あれは……」
と、舟を操りながら、高速で飛翔する猟兵を見上げる。
「このまま一気に飛んで……あァでも、その前にひと手間しておこうかな」
それは白き翼を羽ばたかせて空を疾駆するシュデラ・テノーフォン(天狼パラフォニア・f13408)だった。
鉄甲船めがけて翔けながら、シュデラは愛用の銃を抜いた。硝子細工の精緻な装飾が施された白の大型拳銃には、精霊の力を秘めた透明弾が装填されている。
「注意を逸らせるといいんだけどね」
シュデラが引き金を引くや、透明な精霊弾が銃口から飛び出した。
透明弾は鉄甲船の左舷の海上で炸裂。
氷精の力が大気中の水分を急速に凍結させ、巨大な氷の塊と化して激しく着水した。
盛大に水柱が立ち、鉄甲船も波に揺さぶられる。
「何か落ちたぞ!」
「襲撃じゃないか!?」
左舷に集まる亡霊船員達を見つつ、シュデラは悠々と右舷に回り込んだ。
「派手なもんだ。あたしも反対側から近づこうかね」
腰に提げていた徳利を煽ると、御倉・ウカノ(酔いどれ剣豪狐・f01251)が口を拭って宙に身を躍らせた。
海上である。酔顔に見えるウカノだが、確りとした足運びで柔らかな足場に体重を預けた。足を乗せたのは、何と寄り集まった管狐である。
召喚された管狐達が数匹で一塊になり、連なって鉄甲船への道を作っているのだ。
「気分は因幡の白兎だね。……足蹴にされてる管狐達にゃ悪いがね」
無論、使役するのは欺瞞に怒れる和邇ではなく――管狐は着実に主を敵船へと導く。
その直下を凄まじい勢いでバイクが疾走していた。
「あれが鉄甲船かー。聞いてたとおりでっかいね♪」
波飛沫を立てて海上を疾走するのは白銀の愛機を駆るパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。
船の後方から急接近したパウルはウィリーさせるように前輪を持ち上げた。ブースターが火を噴き、蒼の光線を帯びたGlanzが宙を飛ぶ。回転数を上げるタコメーター。戦闘機エンジンを搭載した宇宙バイクだ、鉄甲船に乗り付けることなど造作もない。
「ども、エイリアンツアーズでっす☆」
船尾甲板に着地したパウルが指二本でシュピッと敬礼。
慌てて道を開けた亡霊船員の間を走り抜けていく。
「乗り込むなら今ね」
小舟で鉄甲船の付近まで辿り着いた緋薙・冬香は、舟床を蹴って軽やかに跳んだ。
スカイステッパー。
スカイダンサーと呼ぶに相応しい身のこなしで、冬香は空中を蹴って更に高く跳び上がる。跳躍可能な回数は現状、28回が限度だが、それだけあれば鉄の城さながらの船にも十分到達できた。
黒髪をなびかせ、しゅたっと右舷に着地する冬香。
「フシュシュシュ……堂々と飛び込んでくるなんていい度胸タコ」
冬香の目前に這いずってきた衣蛸が擬態を解く。
「タコ……不思議ね、危険な香りがするわ」
若干嫌な予感を感じながらも、冬香は覚悟を決めて敵と対峙するのだった。
●羅刹の剣
「此処までは上々ですね」
鉤縄を駆使して城塞めいた船壁を上りきった景正は、右舷に降り立つと、一息。
辺りに目を配りながら敢えて堂々と歩を進めた。
亡霊の多くは甲板の下で巨大な艪を動かす任に当たっているらしく、右舷側は手薄だった。勿論、亡霊に限っての話である。
「追ってきていますね……」
景正は気付かぬ素振りで右舷から船首甲板へ向けて歩いていく。
十分な広さがある船首の中ほどに着くと、そこで足を止めた。
周囲に伸びる粘液の轍。
触手をのたくらせる怪音。
そして異臭と、隠せぬ敵意。
「気配までは消し切れませんか。それでは海の忍の名が廃りましょう」
半身に構えた景正が左右を視線で刺しながら刀の柄に手をかけた。
三体の衣蛸が擬態を解いて奇怪な姿を露にする。
「バレていたかタコ」
「見たところお疲れのようタコ」
「すぐに骨抜きにしてやるタコ」
間の抜けた衣蛸の言に口角を上げた景正が、満身から剣気を放つ。
「確かに連戦。されど天下の大事に疲れを感じる暇は無し。按摩はいずれの機会に」
衣蛸が恐るべき速さで伸ばした触手が、円を描く剣閃に纏めて両断される。
濤景一文字――濤乱刃の見事な秋水が、抜刀と同時に巨大なる野太刀に変化したのだ。羅刹の操るが如き巨剣は実に十二尺余。
斬撃と共に生じた衝撃波により、舞った触手が雨のように落ちてくる。
「とんでもない実力者タコ……油断するなタコ!」
強靭な海の妖、衣蛸は残った足をうねくらせて間合いを詰める。
唐竹割りが眼前の衣蛸を断ち割り、余りに強力な斬撃により船首甲板が激しく損傷。
降り注ぐ破片の中に身を躍らせた景正が振り向いて横に一閃、衣蛸はおろか鉄の物見櫓にさえ深い斬撃を刻む。
「旗の奪取は任せましたよ」
最も多くの敵を引きつけながら、景正は呟いた。
●挟撃
「へえ、タコ君はマッサージ得意なの?」
帆柱の直下でシュデラはニ体の衣蛸に挟撃されていた。
窮地にも見えるが、その輝ける瞳には些かの動揺もない。
「お試しコースがご希望タコ?」
「絶対に後悔はさせないタコ!」
妙に自信満々なタコ達である。
「いいかもね。俺、店の仕事とかで手や目がこってて……あと脚もかなァ」
こめかみを押さえて、腿の付け根あたりをさするシュデラ。
硝子工房にバーを併設した店を営む身として、疲れが溜まっていないと言えば嘘になる。深夜ニ時まで営業しているとなれば尚更のことだ。
……なので、タコのマッサージはちょっとだけ魅力的ではあった。
「出来たらリンパ流しも……」
「任せておけタコ」
「え、できるの?」
二本の触手を掲げて、自慢気に目を細める衣蛸達。
「オイルマッサージも整体もカッピングもお手のものタコ」
「……。君達、商売出来るんじゃない?」
店を経営する者として見逃せない多芸っぷりだった。
「悪くない話に思えるが所詮は相容れぬタコ」
「猟兵は骨抜きにして海にポイするだけタコ」
「あァ君達オブリビオンだもんね……」
言った直後、ニ体の衣蛸の頭に複数の銃口が突きつけられた。
「残念だなァ。まあ、分かってたんだけどね」
「ヒッ……!?」
会話に興じる振りをしながら、シュデラはCenerentolaを複製、敵の背後から音もなく忍び寄らせていたのだ。挟み撃ちされていたのは衣蛸の方だった。
念力で自在に操られた左右二十三丁、合計四十六丁の銃のトリガーが見えざる指でゆっくり引かれる。
「纏めてタコの刺身にしてあげるよ」
妖しく笑んだテノーフォンの左右で風を宿した精霊弾が炸裂。
荒れ狂う風の刃が衣蛸の触手を切り飛ばし、空に舞い上げた。
●のたくる触手の脅威
「やることはやらないとね……」
海風に黒髪を靡かせながら冬香が目前の衣蛸と対峙する。
赤縁眼鏡の奥の目が不気味にうねくる敵を鋭く見据えていた。
今のところ、一体だけ。これなら……。
「ふへへ、もう逃げられないタコ」
「俺達の触手の餌食になるタコ!」
「へ……?」
不意に背後から聞こえた声に思わず口元をひくつかせる冬香。
なんで後ろからも声が聞こえるの――?
振り返るや否、物見櫓の壁に擬態していたもう一匹が床に落ちてその姿を露にした。
「しまっ――!?」
「捕まえたタコ!」
あっという間にぬめぬめした触手に両足と腰を縛られてしまう冬香。ぬるぬるした触手が糸を引き、硬く、それでいて弾力のある筋肉でできた蛸足が全身に絡みつこうとする。首と両肩にも触手が蠢き、動けなくなった冬香を揉みほぐし始めた。
「ちょ、まっ、ひゃんっ?!」
「骨抜きにしてやるタコ」
「二度と忘れられなくしてやるタコ」
妙にいい声で囁く衣蛸。
「っ、やめっ……そんな……ぁんっ……」
まさに絶体絶命の窮地。
ひくつく吸盤が冬香の肌をカッピングしようと迫った、その瞬間。
「タコ――?」
不意に失くなった前脚を見て二匹の衣蛸が一斉に「あれ?」みたいな声をあげた。
それだけではない。
脚と腰に絡みついていた触手もまた同様に断たれ、床を跳ね回っているではないか。
「……っ、覚悟はできているかしら?」
もう動けまいと両腕を封じなかったことが、衣蛸達の致命的な失策だった。
ベシュトラーフング――私刑の名を冠するカーボン製の黒糸が、冬香の十指に操られて荒れ狂い、さしもの強靭な触手をも容易く断ち切っていたのである。
「くっ、なんか本当に肌艶が良くなった気がする! あと凝りも!」
血行が良くなったのか、ほんのり頬を紅潮させる冬香。
「お礼に美味しいお刺身にしてあげる……!」
涙目になりながらも舞い踊るように両指の黒糸を操ると、衣蛸の悲鳴が響き渡り、綺麗に輪切りにされた蛸足が雨あられと落ちてくる。
「おーい、誰か醤油もってこい醤油」
「そんなもんないっすよ兄貴」
それを見た亡霊達が惜しそうに言い合う。
「はあ、はあ……大変な目に遭ったわ……」
瞬く間に二匹を倒した冬香が、よろよろしながら旗の翻る帆柱を見上げた。
●タコと走り屋
「なんだあの飛ばし屋はタコ! 取っ捕まえろタコ!」
鉄甲船の後部に突っ込んだパウルは、右舷から船首の方向へ爆走していた。
迷彩を解いて道を遮るように降ってきたのは二匹の衣蛸だ。
「……タコ? オレもタコだよー! お仲間~♪」
突っ走りながら、透き通るような青の触手をうねくらせてケラケラ笑うパウルくん。Glanzが空気抵抗の少ない流線型に変形し、エンジンを唸らせて猛突進をかけた。
「ぎゃああぁぁタコーー!?」
ドリフトの要領でブレーキをかけ、高速回転しながらGlanzの車体で衣蛸を薙ぎ倒すパウル。スピンしながらも立て直すと、今度は左舷に向けて突っ走る。
「狙ってるの分かるよー! タコ同志のカンってヤツでね☆」
砦っぽい建物の屋根の上で監視していた衣蛸が体を広げて上空から飛来。
パウルだけを引きずり降ろそうと触手を伸ばしたところへ、
「でも残念だね。オレは猟兵……キミ達のライバルなんだ」
パウルの足の青い触手が蠢いた。触手表面に装着した固定砲台が落ちてくる衣蛸に照準を合わせ、容赦なく砲弾を一斉射。命中弾が衣蛸の体を木っ端微塵に爆砕する。
尚も走りながら、パウルは帆柱の天辺にある旗を奪おうとする猟兵を見上げた。
「と、アレちょっと手助けした方がよさそうだ! 行くよGlanz!」
速度を上げたパウルが、左舷の長い通路と階段状の積み荷を利用して高らかに飛んだ。
●旗をこの手に
「さて、あたしも行くとしようか」
密集した管狐による足場は、帆柱の天辺へと続くきざはしだ。
ウカノは眼下の戦いを一瞥すると、腰に提げた酒瓶を揺らしながら危うげのない足取りで足場から足場へ跳び移る。広がる帆の後方から迫り、すぐ旗を奪取するかと見えたが、
「蛸だ……締めて酒のつまみにでもしたいところだが」
帆柱に張り付いた敵の擬態を見切り、ウカノが背負った黒鞘から大太刀を抜刀。
「残念、いるのは分かってんだよ!」
目の前の空間を感覚で斬ると、手応えと共にタコ足が切り飛ばされる。
「飛んで火に入る夏の虫タコ。行かせないタコ!」
直後、擬態を解いた衣蛸が姿を現して尚も触手を伸ばしてきた。
「この状況だと流石に厄介だね……」
四尺もある大太刀『伊吹』で襲い来る蛸足を斬り捨てるウカノ。
ぶんぶん振り回される触手は別々の生き物のように動き回り、ウカノが足場としている管狐にも襲いかかった。
「しまった……!」
管狐はダメージを受けると一瞬で消える。
あっという間に蹴散らされ、ウカノの片足に触手が絡みついた。
「お前はここまでタコ!」
「しつこいんだよっ!」
強い力で引き寄せられるウカノ。
だがその勢いを利用して、衣蛸の眉間に大太刀の切っ先を突き立てた。
タコの急所は目と目の間にあり、活き締めする時にはここを狙う。
一撃必殺の刺突を受けて全身を真っ白に変色させながら落ちていく衣蛸。
同じく落下するウカノを、残る管狐が総出で受け止めていた。
もう階段を作れる数は残っていない。
どうしたものか――取り敢えず酒を煽って思案に迷った、まさにその時だった。
「エイリアンツアーズでっす☆ 移動手段にお困りでしたら、後部座席へどうぞ♪」
ウカノの眼前にパウルと彼の駆る宇宙バイクが滑り込んできた。
「良いところに来たもんだね。ああ、天辺まで頼むよ」
「りょーかい! しっかり捕まっててね☆」
アクセル全開で猛加速するGlanz。
帆柱とほぼ平行に天高く駆け上がる鋼鉄の奔馬。
「貰った……!」
ウカノが助手席から手を伸ばし――遂に水軍旗を掴み、奪い取った。
●決着
「旗、取れたみたいだね」
手をかざして言ったシュデラの足元には、三体分の衣蛸の触手が散乱していた。帆柱に擬態していたのは一体だけではなく――その内の一体を、風の精霊弾が生じさせた空気の刃で屠っていたのだ。
「お見事です。これでこの船も無力化されましょう」
景正が頭上を走る宇宙バイクを仰ぎ、微笑する。鋼鉄の馬に、酒――研ぎ澄まされた視力が粋な味方の猟兵を確りと目にしていた。この後、船を沈めることも、羅刹の太刀ならば可能だろう。
「あなたたちの負けよ」
冬香が言うと、頭目であったらしい亡霊が吹っ切れたように快活に笑った。
「こりゃあ文句なんぞねぇやなぁ」
「相手が悪かったっすよね、兄貴」
亡霊達が続々と昇天し、船が完全に動きを止める。
これでこの巨大鉄甲船が幕府軍に被害を与えることはなくなった。
天に昇る亡霊達を、冬香は赤縁の眼鏡越しに見上げていた。
大成功
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