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エンパイアウォー⑩～亡霊水軍を叩け！

作者：洗井落雲

●海に亡霊は浮かぶ
　猟兵たちの援護を受け、徳川幕府軍は関ヶ原への集結に成功した。
　幕府軍は、ここ関ヶ原の戦いを突破し、さらに山陽道、山陰道、南海道に分かれて進軍することとなるのである。
　だが、首尾よく関ケ原の戦いを突破できたとしても、その先に懸念が残るのであった。

　南海道、その海路。
　いま、海には無数の鉄甲船による大船団が浮かんでいる。
　その船が掲げる軍旗は、戦国時代に瀬戸内海を席巻した大海賊である『村上水軍』のものだ。そう、大悪災『日野富子』、己の財力を結集して作り上げた巨大鉄甲船団の操縦士として、村上水軍の怨霊を召喚、使役しているのである！
「我らは確かに無念残りし怨霊……だが、天下の村上水軍が、ただ命令に従う事しかできぬとは……」
　とある、一隻の鉄甲船、その船上にて、怨霊船長は無念気にうめいた。
　日野富子が使役していると言っても、怨霊たちの動機は様々であった。多くは金を積まれたが故に協力しているか、あるいは日野富子が恐ろしいが故に協力しているものが多い。
　この船の船員は、後者である。
「何か言ったか、亡者ごときが」
　それを咎めるように、唸るような声をあげるのは、その身に魍魎を宿し、狂戦士と化したくノ一たちである。
　彼女らはオブリビオン……船の護衛と、怨霊たちの監視のために送り込まれた存在であった。
　その凶悪な眼光に、怨霊たちはすごすごと、己が業務を果たし始める。
「くそ……天下の旗が泣くぜ……」
　ぼやき、怨霊が見上げるその先には、村上水軍の軍旗がはためいていた。

●鉄甲船を叩け！
「そう言うわけで、皆にはこの船に突撃し、軍旗を奪取してほしいわけであるな」
　と、マイン・ラクーンは、集まった猟兵たちへと、そう告げた。
　南海道の海に浮かぶ、日野富子の鉄甲船団。これを排除しなければ、関ヶ原を突破した徳川幕府軍が襲撃され、その数を大きく減じてしまう事が予測されている。
　そのため、猟兵たちには、この船団をせん滅してほしい……というわけだ。
「この船を動かすためには、村上水軍の怨霊が必須……この怨霊たちをこの世にとどめているのが、船の帆柱に掲げられた村上水軍の軍旗である。こいつを奪い取ってしまえば、怨霊たちはたちまち姿を消す。怨霊たちがいなくなれば、船は動かせず、ただ海に漂っているだけのでくのぼーになるのである」
　怨霊たちは戦闘には参加してこないが、もちろん、護衛戦力が存在しないわけではない。
　猟兵たちが今回向かう船には、『魍魎に憑かれし女忍』たち総勢１０名が、護衛として同乗している。軍旗を奪い取るには、このくノ一たちすべてを撃退しなければ、難しいだろう。
「それから、直接船の中に転送はできぬ故、どうやって船に乗り移るか、その辺も重要であるぞ。下手に近づいては船から迎撃されかねぬのでな」
　と、マインは両手をむにむにこすり合わせながら、言った。
　全体の流れとしては、目標の鉄甲船に何らかの手段で乗り移り、内部に潜む護衛のくノ一すべてを排除。そして村上水軍の軍旗を奪い取り、脱出する……という事になる。
「後続の幕府軍のためにも、何とか作戦を成功させてほしい。それでは、レッツでゴーである、猟兵たちよ」
　そう言って、マインは猟兵たちを送り出したのであった。

第1章 集団戦 『魍魎に憑かれし女忍』

POW   :    魍魎呪術・狂化 【魍魎に狂わされて狂戦士】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。 SPD   :    魍魎呪術・降魔化身法【偽】 【魍魎におぞましき呪いを流し込まれ】【全身の傷口から血を噴き苦しみ悶えながら】【恐るべき力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。 WIZ   :    魍魎呪術・殺戮変化 【魍魎によって強制的に高速殺戮形態】に変形し、自身の【只でさえ消耗しきっている気力・体力】を代償に、自身の【攻撃力と敏捷性即ち殺戮効率】を強化する。 イラスト：すねいる 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●突入、鉄甲船！
　南海道、海上。
　そこには今、無数の鉄甲船が浮かび、幕府軍の到着の時を待っている。
　さあ、猟兵たちの目標は、その内の一隻だ。
　見事海を渡り、鉄甲船へと乗り込み、軍旗を奪い取れ！








　鉄甲船団――その上空を、一機のグライダーが飛んでいた。
　太陽の逆光の中を進むそれは、船団からはよく見えない。そのため、監視の目から逃れることができていた。
「お中元さ」
　グライダーの主、四王天・燦は、『カウントダウン』と名付けられた爆弾を放る――その名の通り、数秒のカウントダウンを行いながら、爆弾は船上へと落着。
　まず、爆弾が落下した重い音。その音に女忍たちが警戒した瞬間、大音量と共に、それは爆発した！　巻き起こる爆風に、一瞬、戦場が混乱する。
「お邪魔するよー！」
　その隙をついて、緋月・透乃は上空より急降下を行う！　事前に食べていた大量の食べ物、その満腹感と良い香りを身に纏い、最高速で一気に突入！
　一方、海上では、サリー・オーガスティンの駆る宇宙バイク『ジェイク』が、水の上に軌跡を描き、疾走する。
「首尾よし、だ」
　呟き、エンジンを回せば、バイクは一気に最高速へとシフトする。そのままの勢いで、突撃するように戦場へと乗り上げた！
「敵襲か！？」
　女忍たちがようやく事態を飲み込む。その視線の先に、機械仕掛けの天使たちが――ナターシャ・フォーサイスたちが、ふわりと降り立った。
「オブリビオンのあなた達も、怨霊となり、従わねばならぬあなた達も」
　ナターシャが言う。
「どちらも我々が導くべき哀れな魂……ならば、救わぬ道理などないわ」
　穏やかに微笑むナターシャ。だが、それに女忍たちの返事は無い。
「おのれ……！　全員、奴らを血祭りに上げろ！」
　それは、女忍の言葉か、彼女たちの身に下した魍魎たちの言葉か。
　いずれにせよ、倒すことでしか、彼女たちを止めることはできないだろう。
　女忍たちが、一斉に猟兵たちへ襲い掛かる。
　その荒々しく、激しい戦い方は、戦場の上にあってなお健在であった。
　床板をぶち抜く一撃を回避し、燦はくすりと笑う。
「酷い闘法だ……それではアタシ達には勝てないぜ」
　燦はすぅ、と息を吸うと、
「魂の奥底に宿りし魔の者よ。オブリビオンの呪縛より解かれ、この身を依り代に顕現せよ。リリース・ピュアリィハート！」
　ユーベルコードを発動し、その身にアルラウネの魂をおろした。刹那に混ざり合う『彼女』。その感覚すら楽しみながら、『彼女』は女忍へと、縮地のごとき速度で接近。
　一気に斬撃を振るい、致命打を与える。女忍が悲鳴を上げ消える刹那、燦は『四王稲荷符』を女忍へと貼り付けた。それは破魔の力を持つという。
「骸の海まで苦痛を背負って逝くことない」
　その言葉を聞きながら、女忍は骸の海へと還っていった。
　猟兵たちの戦いは続いていく。透乃もまた、女忍の圧倒的な破壊力にさらされていた。
「わわっ、と！」
　暴力的に振るわれる拳を、その自慢のスピードで回避して見せる。敵は反射的に、高速で動く物体へと襲い掛かってくる。透乃はあえて飛行し、敵の攻撃を自身へと誘導した。飛行する透乃へと攻撃するため、敵は直線的な移動をせざるを得なくなる……！
「今だ！　たぁぁぁぁっ！」
　叫び、振るわれる戦斧が、迫る女忍へ、カウンターをお見舞いした。クリティカルヒットをお見舞いされた女忍が、激しい勢いで海へと落下する！
「骸の海へ還る前に、普通の海で泳いでからにしたら？」
　ウインク一つ。透乃は笑って、襲い掛かる別の女忍への対処を開始する。
　女忍たちの攻撃は驚異的ではあったが、猟兵たちは確実に、敵を撃退していく。
「うおおおっ！」
　巨大ロボ――サリーがその戦闘能力をフルに発揮し、女忍とがっぷり、正面からぶつかり合う。
　女忍たちが超威力の攻撃を振るうのであれば、超装甲で防御し、同様に高威力の攻撃で反撃を行う。周囲の仲間たちの様子を見ながら、動く司令塔のような戦いを行うのが、サリーの戦術である。
「残り２体だ！」
　サリーが叫び、拳が女忍を殴り飛ばした。それが骸の海に還れば、残る女忍の数は２体。
　その２体は、飛行するナターシャと機械天使たちを狙っている。ナターシャは、サリーの声に頷き、
「では、私たちが、彼女たちを導きましょう」
　機械天使たちを向かわせる。機械天使たちが、２体の女忍とぶつかり合う。一対一なら、女忍に分があっただろう。だが、機械天使たちの群れに囲まれては、さすがに多勢に無勢と言った所だ。
「――良き導きを」
　ナターシャは、機械天使たちの合間を縫って、女忍たちへと接敵した。振りかざす刃――『聖祓鎌「シャングリラ」』が女忍たちの罪を祓った。そして、骸の海へと導くのだ。
　すべての女忍たちを倒したナターシャが、その翼をはためかせ、船の帆柱へと向かった。
　翻る村上水軍の軍旗を、ナターシャが手に取ると、途端に線上に蠢く怨霊たちは姿を消し、船には静寂が戻った。
「旗は、ここに」
　ナターシャが言うのへ、サリーは頷いた。
「長居は無用だよ。脱出だ！」
「了解だよ！」
　透乃が頷き、
「うーん、良い船だから、貰いたかったけれど……さすがにそんな余裕はないか」
　悔し気に笑いながら、燦。
　かくして、猟兵たちは船上より離脱した。
　後には、操る者なく、ただ静寂だけが支配する幽霊船だけが残ったのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月14日