9
エンパイアウォー⑲~暗き夜の指揮者

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #コルテス

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー
🔒
#魔軍将
🔒
#コルテス


0




●境界場の侵略者
 黒髪に、僅か白いものが混じっていた。重ねた年月かーー否、その頭部に目立つ角が故か。マヌケット銃を担いだ男は、深き緑を思わせる外套を揺らし三度目の問いかけに面を上げた。
「……何だ?」
 瞳が光を帯びたのは単純な苛立ちによるものだ。戦略など、と戦場にあって男は言う。
「私は何の興味も無いぞ。何度も言っているが、お前らエンパイア人は、たまたま私達コンキスタドールに姿が似ているだけの下等生物」
 何の理由を以って口を開き、何の理由を以って問いかけることができるというのか。
「麗しの姫君にお聞かせできる程の声があるなど、最初から思いもしてはいないが。囀り程の価値もないお前らが、何の理由があって私の前にやってくる」
 息を落とし、男ーー侵略渡来人『コルテス』は告げた。
「お前らが下等である証拠をこれ以上晒し、その相手を私にしろというのか?」
 優先すべき、などと言う言葉では無い。常識で考えて、捧げ物を吟味している今、どうしてお前たちの小競り合いに耳を貸す必要などあるのか。
 三度目に落ちた息は、怒りより呆れを滲ませていた。使えん奴らだ、とコルテスは告げる。
「何処までも使えん奴らだ」
 鋭き眼光は、射抜くような色彩へと変じケツァルコアトルの背に乗り直した男は告げる。
「私が以前訪れた国の民は、お前等に比べればマシだったぞ」
 この戦況を些事に過ぎぬと、断罪した果てに。

●暗き夜の指揮者
「また、随分と分かりやすい性格をしているようですね」
 静かに、声を一つ落としたのは六翼をみせるオラトリオの青年であった。ブリーフィングですよ、と告げたルカ・アンビエント(マグノリア・f14895)は集まった猟兵たちを真っ直ぐに見た。
「まずは、多くの戦場での戦いに感謝を。お陰で、侵略渡来人『コルテス』の所在を掴むことができました」
 侵略渡来人『コルテス』は、ケツァルコアトルを隷属し乗騎としている男だ。今まで所在を掴めなかった以上、強敵である事には間違い無い。
「立ち回りが上手かった、ってことでしょうね。まぁ、そのお陰でこっちもつけ込む隙が生まれました」
 小さく笑い、ルカは猟兵たちを見た。
「コルテスは、自分が直接攻撃されるという事態を想像していなかったようです。ま、そのあたりはこちらが上手く立ち回ったのもありますが、あと一つ、事情があります」
 コルテスが自分の力で直接戦ったのは、侵略を開始した最初の数回のみだというのだ。
「それ以降は『侵略して滅ぼした世界の戦力』を利用して、自分は安全圏から楽しく侵略と虐殺を繰り返してきたそうで」
 戦場の熱も、命の取り合いも。
 流れる血でさえ、コルテスにはすでに遠いのだ。
「ま、面倒な指揮官に有り勝ちな形ですけどね。それができる程に、コルテスは優秀ではあったのでしょう」
 ですが、とルカは告げる。
「所在は掴めました。コルテス本人に、戦いを仕掛けられる、ということです」
 コルテスは『戦闘の仕方を忘れて』いる。
 それが故に、予想できないようなユーベルコードの攻撃に対しては、一方的に攻撃されるだろう。
「ですが、単純な、軌道の予測しやすそうな攻撃や、他の猟兵がすでに行った攻撃であれば、コルテスは戦い方を思い出し、反撃をしてくるでしょう」
 激烈な反撃を、だ。
 戦い方によっては、ただ相手に打ち崩されるだけのこともあるだろう。どれ程の防御手段を用意しても、だ。
「苦戦となることもあるでしょう。相手は強敵です。油断しているとはいえ」
 だからこそ、こちらも油断なく撃つべきです。そう言ってルカは集まった猟兵たちを見た。
「戦場となるのは厳島神社。神社の建物で、どうにも高みの見物をしているようですよ」
 転送すれば、ケツァルコアトルに騎乗したその姿を見ることができるだろう。
「あぁ、それと。ケツァルコアトルですが、「隷属の呪い」と「コルテスが死ぬと自身も死ぬ呪い」が掛かっているので全力で戦ってきます」
 仲間にすることもでき無い。
「終わらせるのが、せめてでしょう。俺たちは、コルテスの所在を掴み、その性質を知り戦うことができるのですから」
 水上の神社は、戦闘で崩れ落ちるということは無いだろう。戦いに集中して、そうしてーー勝つのだ。
「慢心しているというのであれば存分に利用させてもらいましょう。じゃぁ、仕事の時間です」
 微笑んで、ルカは無事を。と短く告げる。淡く輝く光が、猟兵たちを見送った。


秋月諒
 戦争シナリオとなります。
 どうぞよろしくお願い致します。

=============================
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================

 オープニングが公開されたタイミングでプレイング受付となります。冒頭の追加はありません。

●特殊ルール
 コルテスは『戦闘の仕方を忘れて』います。
 その為、予想できないようなユーベルコードの攻撃に対しては、一方的に攻撃されてしまいます。
 反面、予測しやすい攻撃、分かりやすい攻撃。また、シナリオ中に既に同じ戦法を利用されていた場合は、強烈な反撃を繰り出してきます。戦闘では不利となることでしょう。

 以上。
 それでは皆様、ご武運を。
166




第1章 ボス戦 『侵略渡来人『コルテス』』

POW   :    古典的騎乗術
予め【大昔にやった騎馬突撃を思い出す 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    マスケット銃撃ち
【10秒間の弾籠め 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【マスケット銃】で攻撃する。
WIZ   :    奴隷神使い
【ケツァルコアトルの噛みつき 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:シャル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラックラ・ラウンズ
なるほど!つまり相手は頭の悪いオウガなのですね!

『揺蕩いの杖』から召喚した武装や神社周辺にある古の物を纏い、巨盾と巨砲を核としたロボになりましょうか。
さて、そのまま巨砲で攻撃です!とはいえそのままでは軌跡も読まれてしまうでしょう……なので『魔法の種』を仕込んだ砲弾を放ち、内部から生えた蔦で周囲の地形に【ロープワーク】で引っ掛けて軌道を変更し予測しづらくし、命中させていきましょうか。

相手も突撃や発砲はするでしょう、なので巨盾で【シールドバッシュ】して獣や弾丸の方向を少しずらして致命傷を防ぎつつ、【早業】で砲弾を詰めて即発射を繰り返して思い出す時間を削っていきましょうか!

※・連携・ロボの形状お任せ



●世界の果てに咲く花
 潮騒と共に、一度強い風がついた。潮の混じった風が頬に触れ、魔法使いめいた帽子を少しばかり揺らしていた。
「此処ですか」
 とん、と降り立つ足音はコツン、と響いた。愉快な仲間のひとり、案山子のラックラ・ラウンズ(愉快口調の荒れ案山子・f19363)は、ぽむり、と手を打った。
「なるほど! つまり相手は頭の悪いオウガなのですね!」
「ーー今、なんと」
 高みの見物と洒落込んでいた男が、視線を向けた。流石に、踏み込まれた事実は理解しているのか。今の今まで、表立つこと無く、事をなしてきた侵略渡来人『コルテス』は視線をこちらへと向けた。
「今、なんと吠えた。下等生物」
 向けられた視線は正しく敵意であろう。射抜く程の強さは、見下すようですらあった。宿らぬ殺意は、その必要性を感じていない為か。落とした息には嘲笑う程の色も残さずに、ただ、今、とコルテスは告げる。
「なんと吠えた、下等生物。私は此の地を見て周り姫君への捧げる宝物について思考を巡らせていたというのに」
 なんと、と三度目の声が、怒号へと変わるそのタイミングで、ラックラが神社の柱に触れた。
「まだ役に立てると叫んでいる物がいる。ならばその力、貸してくれないだろうか?」
 瞬間、柱が震えた。脈動するように、朱塗りの回廊が『呼応する』
「なんだ、この揺れは……?」
 眉を寄せたコルテスを視界に、ラックラの姿が変ずる。指先に染まる赤は、この地にあった朱であろう。巨盾にはこの地に嘗て掲げられた紋章。巨砲を肩に担ぎ、額に帽子の代わりに額当てを古の物たちから受け取ると、ラックラは自身の身長の2倍のロボへと変身した。
「変形だと……!?」
「このまま巨砲で攻撃です!」
 僅か、息を飲んだコルテスに、杖から召喚した武装を手にしたラックラは、だん、と神域へと踏み込んだ。砲塔を向ければ、コルテスの視線がこちらに向く。そうだろう。このままでは、軌跡も読まれてしまう。
(「なので……!」)
 魔法の種を仕込んだ砲弾を巨砲からーー放つ。
ゴォン、と空を震わせる程の砲撃が、コルテスへと向かった。打撃は僅か、庇うようにあげられた腕に阻まれ、周囲に散乱する。
「ふん。この程度、私が相手をする程のものでも……っなんだ、この蔦は。このようなもの……!?」
 ケツァルコアトル、とコルテスは叫ぶ。怒声に近いそれに、ケツァルコアトルが面をあげる。甲高く響く声が、だが頑丈な蔦はすぐには砕けない。
「……それは」
 あるアリスの遺品であった植物の種だ。ラックラが受け取った、預かったようなこの種は、どんな環境でも芽を出す。
「ハロー!」
 迷うことなく、ラックラは二度目の砲撃を放った。神社の柱という柱に蔦をかけてしまえば、当たり前に砲撃の軌道は予測しづらくなる。
「ーーっぐ、ぁあああ!?」
 そして、力はーー届いた。
「何故、何故、この私が……!?」
 蔦を穿ち、その奥、未だこの襲撃が強襲であると気がつかぬコルテスをラックラの砲撃が撃ち抜いたのだ。ぐら、と体が揺れ、ばたばたと血が落ちる。
「この、私が……!?」
 叫ぶ声は怒声に塗れ、だが、長く戦場に立っていなかった侵略渡来人『コルテス』は、見たことも無く、工夫された攻撃を前に反撃の方法さえ思い出せぬまま、怒声ばかりを響かせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
【SPD】
どもー!エイリアンツアーズでっす☆
水陸両用仕様の愛機Glanzに【騎乗】しながら
掟破りの海上から登場しちゃうぞ♪

行くよGlanz、【迷彩】モード!
これで視認し辛いっしょ?
日頃鍛えた【運転】テクを駆使して狙撃を【見切り】たいな。

Herz握り締めUC発動!
オジサンのハジメテ頂いちまうぜ、Bring the beat!!

Yo-Check it out!
エンパイアのsteelo 渋々steal?
Disってばっか Like a アロンソ・キハーノ
論争してる間も時はNo wait
アンタの姫様 ご存命?What i mean?

指を立て挑発を。
現実受け止めな、亡霊。

※絡み&同乗&アドリブ大歓迎!



●空前絶後のビートバトル
 送り出された先が、厳島神社とは言え海上を移動手段に選ぶことはできる。最も、随分と遠回りになったのは事実だ。水陸両用仕様の愛機Glanzに騎乗しながらパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)はひとつ、息をついて見せた。
「多少の無茶の分、流石に気がつかれたか。んじゃ、日頃鍛えた運転テクの見せ所っしょ?」
「ーー痴れ者が」
 海上から攻められてくること自体は、侵略渡来人『コルテス』にとっても予想の範疇ではあったのか。波が不可解に立つ。
「地に足が付く場所ばかりが戦場では無い。下等生物。私の思考を邪魔するだけの意義がお前に存在すると?」
 見下ろす男の視線は殺意よりは敵意に濡れ。は、と吐き出した息と共に来た波を、だが、パウルはハンドルを強く握った。ガウン、と唸った愛機と共に狙撃を見切る。腕に擦りはしたがーーだが、それだけだ。派手な水しぶきと共に、パウルは社殿へと乗り込む。
「此の期に及んで、まだ私の邪魔をするというのか。下等生物が……」
「オジサンのハジメテ頂いちまうぜ、Bring the beat!!」
「ーーは?」
 ぽかん、と一瞬。確かにコルテスは瞬いた。何の話だと言いたげに。その隙を逃さず、心臓を握りしめるとパウルは紡ぎ出す。
「Bring the beat!Break Your Neck!!」
 フルスロットルで捲し立てる超絶技巧RAPを。
「Yo-Check it out!
エンパイアのsteelo 渋々steal?
Disってばっか Like a アロンソ・キハーノ
論争してる間も時はNo wait
アンタの姫様 ご存命? What i mean?」
 踊る様に響くパウルの言の葉に、眉を寄せていたコルテスが、だが、赤く染まり出した指先に気がつく。
「何を捲し立て……、これは……? 私にお前と同等の言葉を紡げと」
 舌戦だとでもいうのか、と苛立ちを零す男の前、パウルは指を立て挑発を叩き込む。
「現実受け止めな、亡霊」
「……お前、この私を亡霊と? 誰の許可を得てその名を紡いだ。偉大なる王、麗しの姫君の名を」
 声は低く這う様に、担ぐばかりであったマヌケット銃をパウルへと向けた。
「お前等如きが口にして良い名ではないぞ」
「ーーっと」
 銃弾はーー流石に避けるには早すぎるか。弾を籠めていた時間があったとしても、流石、戦い方を思い出したコルテスの動きは早い。
「早々に倒れ、私の邪魔をするな。お前等がここで私を煩わせることそのものが、下等生物の証であろうに」
 二度目の銃撃。飛ぶ様に避け、ざ、と血に滑る指先で床を抑えると、パウルは顔を上げた。
「言ったっしょ? 現実受け止めな」
 舌戦、と奴が告げた一撃は通った。その気も十分に引き付けた。その身に既に傷を受けながらも、猟兵達を下等生物と罵るばかりで状況に気がつかぬコルテスはまだーー真実には辿りついていないのだ。ひとつひとつ、つけたその傷が。戦いの方法を己が「思い出す程」の事態にーー自ら戦わねばならぬ事態に「なった」意味に。
 そしてその、慢心こそが狙うべき一角だと誰もが知っていた。だからこそ選んだ挑発。背後に動く猟兵達の気配を感じながら、パウルは、ふ、と口の端を上げて笑った。
「じゃ、もうちょっとやるっしょ?」

成功 🔵​🔵​🔴​

ザザ・クライスト
神羽・リオン(f02043)と参加

【POW】長射程からの狙撃

厄介なのはコルテス本人だ
慢心して高みの見物してるならオレ達からも見える道理

「なら狙わない手はないよなァ」

Ghostで最適な狙撃ポイントを【情報収集】
配置後は気配を周囲に溶け込ませる【迷彩】

「フラウ神羽は普通に狙ってくれればイイさ。あとはオレのほうで合わせる」

煙草に火を点ける
【ドーピング】で研ぎ澄まされた感覚が、弾道を正確に知覚できる超感覚を引き出す

「見えるなら殺せる、神であってもだ」

【ブラッド・ガイスト】使用

合図をカウント
3
2
1
トリガーを引く
フラウの狙撃に重ねる二段構えの【スナイパー】
【呪殺弾】はコルテスを貫くシルバーバレットだ


神羽・リオン
ザザ・クライスト(f07677)と参加
呼称:ザザさん

長射程からの狙撃

戦闘の仕方を忘れているですって!?
自分は血を流さず……まるでゲームでもしているつもりかしら?
思い出させてあげるわ。本物の戦場というものを――
敵へ向ける視線は嫌悪感に満ちて

普段は敵に対しては直情型。けれど今回は違う
狙撃手だもの、努めて冷静に
KBN18‐00Diabolosを手に、攻撃力重視のUC【風の魔力】を這わせて固定砲台へと変形させていく
【メカニック・情報収集・属性攻撃】

「コルテスは任せたわよ、ザザさん。私はケツァルコアトルを狙うわ」
「さあ、死へのカウントダウンよ」
自分がしてきた事は何なのか――その身をもって思い知ればいい



●二人の狙撃手
 潮騒の届く戦場に、怒号と爆風が上がっていた。吹き抜ける風が一瞬にして煙を散らし、飛び込んだ猟兵達の姿が「此処」からも見える。
「厄介なのはコルテス本人だ」
 声ひとつ、落としたのは赤い瞳を持つ青年であった。ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は人狼の瞳にコルテスの姿を捉えながら息を潜める。厳島神社のその作りの関係上、狙撃ポイントこそ見つかったがーー此処が、見つかりにくいかと言えば、恐らくそうでも無いのだろう。足元は海。陸上からの狙撃は行えず、回廊は長く続く。
「風は……問題ないか。結果としては随分と目立つ場所にはなったが」
 何せ、狙撃ポイントは屋根の上、だ。コルテスを見下ろす場所。山の形をした屋根の上だ。気配を周囲には溶け込ませてはいるが、恐らく一撃が勝負。
 だが、その勝負は「できる」のだ。事実この場所は奴に感づかれてもいない。ザザ達の狙撃ポイントが的確であったのもあるが、それにしてもーーだ。
「なら狙わない手はないよなァ」
 元よりスナイパーは一撃、放てば居場所がバレるものだ。十分だろう、とも思う。届けば、傷をつける。あの慢心の塊に。
「戦闘の仕方を忘れているですって!? 自分は血を流さず……まるでゲームでもしているつもりかしら?」
 そんなザザの隣、嫌悪感を隠さず、眉を吊り上げたのは神羽・リオン(OLIM・f02043)であった。対オブリビオン兵器開発会社の社長令嬢であるリオンは、戦場というものを己の肌で知っている。自社の武器を実践しようしているのもあるが、戦い、時に傷を受けようとも、その身を用い、敵を倒し、何かを守ると言うことを知っている。
「思い出させてあげるわ。本物の戦場というものを――」
 普段こそ、敵に対して直情型のリオンではあったがーー今回は違う。狙撃手、というものをリオンは理解している。片手銃ーーKBN18‐00Diabolosを手にすれば、機械の羽を広げた固定砲台へと変形する。ふわり、と一瞬、風がリオンの髪を揺らす。風の魔力による強化だ。
「コルテスは任せたわよ、ザザさん。私はケツァルコアトルを狙うわ」
 すぅ、と息を吸い、静かにリオンは告げる。感情を落とし込み、努めて冷静に響くその声に常と変わらぬ様子でザザは軽く笑った。
「フラウ神羽は普通に狙ってくれればイイさ。あとはオレのほうで合わせる」
 煙草に、火を点ける。吐き出した紫煙が、感覚を『引き上げる』感覚が研ぎ澄まされ、瞳が一瞬、狼のそれに変ずる。弾丸を正確に知覚できる超感覚。引き出したそれは狙撃手であるザザの力。
「見えるなら殺せる、神であってもだ」
 構えたのはKBN-XA18 Allerberger。試作型の狙撃銃だがーーいかなる神話生物にも傷を与える事ができる。指先を噛み、血の一滴をザザは狙撃銃に落とした。
「3」
 斯くして、武器の力は解放される。
「2」
 カウントは静かに。風を読み、空間を捉え、二人の狙撃手は侵略渡来人『コルテス』へ一撃をーー。
「1」
 撃ち込んだ。

●サイレントキラー
 それは、侵略渡来人『コルテス』の視覚から放たれた。ヒュン、と音は小さく、高くーーだが、衝撃が、先に来る。
「……ッキィイイイ!?」
「ケツァルコアトル、どうした?」
 ガウン、と重く。足元が揺らぐ。騎乗していたケツァルコアトルがいきなり身を揺らしたのだ。その衝撃に、姿なき衝撃にコルテスが二度目の何故を紡ぐより先にそれは届く。
「ックァアア!?」
 その身を貫く弾丸。
 魔を払う、シルバーバレット。
「……っ狙撃手か。下等生物が、よくもこの私に……」
 低く、這う様な声と共に、コルテスはケツァルコアトルを叩いた。獲物だ、と男は叫ぶ。血濡れの肩口をそのままに、ぐん、と瞳は一角を見据えた。

「ーー来た」
 告げるザザの声と同時に足元が崩れた。ゴォオ、と衝撃と共に足元ーー屋根の一角が崩れる。
「降りろ。私を見下ろす許可などお前達に存在し得ると思うのか」
 騎馬突撃。
 ケツァルコアトルに跨り、一気にコルテスが突撃を仕掛けてきたのだ。屋根が崩れ、そのままの勢いで飛び込んできたケツァルコアトルの羽が風を生む。切られたか、と落とすのは息だけに。同じ様に腕を赤く染めたリオンが、迷うことなく武器を持ち直し、告げた。
「さあ、死へのカウントダウンよ」
 狙撃は届いている。反撃こそ受けたが、奴の体には傷がつきーーそうして、自分達は生きている。立っている。まだ、戦える。
「自分がしてきた事は何なのか――その身をもって思い知りなさい」
「ま、そういうことだ」
 屋根が崩れたが足場は残った。破片を飛び越え、二人は撃鉄を引いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

終夜・嵐吾
戦い方を忘れた強者か…
では一撃、ぶち込んでやろか
高みの見物決めこんどるのを引きずり下ろすのは――楽しかろ

こんなええ舞台で汝は舞いもせんと見える、もったいないの
海の上の社にて、宝物にしか興味ないとは情緒が乏しい様じゃ
この場こそ宝であろうに

友からの贈物の扇持ち駆ける
その、どこぞの神は炎と風を扱うと見える、わしも炎を扱うのでな
少しばかり興じてもらおうか

と、いいつつ攻撃は扇に虚を招いて、茨を伸ばし絡め、絞めあげる
炎を扱うとは言うたが、今とは言うてないからの

虚は何を言わんでもわかってくれとる
果てるならわしらもどこまでも一緒じゃが――その隷属とは違う
そうせねば、何も繋げられぬ汝はつまらん男じゃな



●灰と荊
 潮騒の、長く柔らかな髪が揺れていた。淡い影をひとつ落とし、随分と荒れた社殿へと男は目をやる。その奥、己が立つ床を僅かに赤に染めながらも侵略渡来人『コルテス』は悠然とこちらを見下ろしていた。
 最も、騎乗した一つ分だけだ。
 コルテスにとって此処まで攻め込まれたことそれ事態が予想外であったとしても、己が敗北するなどと言うことは想像もしていないのだろう。
「傷のひとつも、であろうな」
 ほう、と落とす息ひとつ、終夜・嵐吾(灰青・f05366)はそう言うと、晒す琥珀の瞳を細めた。
「戦い方を忘れた強者か……。では一撃、ぶち込んでやろか」
 ゆるり、と柔く笑った嵐吾の口の端が、上がる。柔らかな笑みと共に纏っていた空気が消え、さわり、と揺れる灰青の毛と共に低く笑うような声が落ちた。
「高みの見物決めこんどるのを引きずり下ろすのは――楽しかろ」
「ーーまた、下等生物が邪魔をしにきたというのか」
 嵐吾の踏み込みに、そこで漸くコルテスが反応を見せた。ケツァルコアトルにかけた鞭を叩き、面を向けた男に嵐吾は息をついて見せた。
「こんなええ舞台で汝は舞いもせんと見える、もったいないの」
「舞だと……? 何故、私がお前等の文化に呼応する必要がある」
 なに、と嵐吾は告げる。ケツァルコアトルの爪が神社の床に突き刺さる。ぐん、と僅か身を低めた姿に、来るか、と思いながら、落ちた柱を飛び越える。先の戦闘で崩れたものだろう。
「来る、か。お前等は私の邪魔をする程の権利を有していると思って……」
「海の上の社にて、宝物にしか興味ないとは情緒が乏しい様じゃ」
 いるのか、という言葉は、嵐吾のその一言に砕かれる。
「この場こそ宝であろうに」
 懐から、夜色の扇を手にする。桜の嵐吹く雅な扇をひらけば潮騒の中、花の香りが舞った。
「乏しい……乏しいだと。この私が?」
「そうさな」
 口の端に笑みを乗せ、残る距離を嵐吾は一気に詰める。だん、と強い踏み込み。身を前に倒すようにして行けば、その一歩は加速する。た、とコルテスの間合いへと飛び込んだ男は柔い笑みを浮かべーーだが、口元のそれだけは質を変えて告げた。
「その、どこぞの神は炎と風を扱うと見える、わしも炎を扱うのでな」
 少しばかり興じてもらおうか。
 踏み込んだその先、たん、と止めた足と共に扇で薙ぐ。ふわりと瞬間、舞い踊った花の香りはーーだが、潮風と共に消えとろり、と何かが溢れた。
「な……?」
 眉を寄せたのはコルテスの方だ。瞬きを見せた侵略の徒に嵐吾は静かに笑う。微笑は、何処か穏やかな色彩で扇の上に招いたものをーーその黒を見ていた。
「ええよ、おいで。好きに坐せ」
 招いたのは虚の主。
 右目の洞にて眠りにあったもの。
 その力をひとつ借りれば、薙ぎ払う扇は地を変動させる。差し込む日差しに逆らうように影が伸びる。地を這い向かうそれがしゅるり、とコルテスの腕をケツァルコアトルの足を捉えていた。
「キィイイイイ……!」
「ち……っ茨だと!? ケツァルコアトル! さっさと振りほどけ」
 警戒の声が甲高く響き、コルテスが鞭を引く。暴れるようにケツァルコアトルが身を振るえば、当たり前のように騎乗している男も腕も締め上げられていた。
「ならばせめて役立て。ケツァルコアトル。戦い方であれば思い出しただろう」
 ぐん、とコルテスが腕を振るう。銃を持つ腕に力を込めてか。不可解な風が舞い上がったと思った瞬間、ぐん、とケツァルコアトルが来た。
「キィイイ!」
「ーー」
 噛みつきに、瞬間、嵐吾は腕を振り上げる。友からの贈り物を持つのとは違うーーもう片方の手で。奴隷神の一撃を受け止め、骨の軋む音を聴きながら嵐吾は静かに笑う。
「そんな顔をしてくれるな虚ろ」
 それは苦笑に似ていただろうか。
 ぐん、と噛み付かれたままの腕を引き抜き、ひら、と舞うように扇を振るう。拘束は、まだ僅かに奴らを捉えている。反撃こそ受けたがーー立っている。こちらの一撃も通った。
「虚は何を言わんでもわかってくれとる。果てるならわしらもどこまでも一緒じゃが――」
 その隷属とは違う。
 囁き告げ、キン、と暴れ黒茨から脱したケツァルコアトルと、コルテスを見た。
「そうせねば、何も繋げられぬ汝はつまらん男じゃな」
「なんだと……」
 低く、這うように響く声に嵐吾は笑う。扇で口元をそ、と隠し、じくじくと痛む腕を今は置いて。己が受けた傷さえ甘く見ている男を見据えながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
どうしてそんなにも慢心出来るのか、
是非に教えて頂きたい物だな
慢心する事を覚えられたなら、きっと
僕でも盲目的に自著を誇れるだろうしね

敵の攻撃は《見切り/第六感》で避け、
避け切れない物は《オーラ防御》で凌ぎ乍ら
最初は魔導書を手にし、
《属性攻撃》で氷刃を放ち対応
隙を見て氷刃に混ぜる様にして、
魔導書に挟む栞を確実に《投擲》する

……全く、貴方には呆れてしまうな
猟兵を前に、余り『慢心しない』方が良いよ

――何て、気取られない様に
会話にルールを混ぜ乍ら、
自身は慢心を誘う様に振る舞おう
心掛けるだけなら、『簡単』な筈だろう?
(事実追い詰められても、好機として)

援護は必要に応じて快く、
《かばう》事も可能な限り対応を



●クイーンズ・ロー
 潮の香りに、血の匂いが混じっていた。柱の壊された社殿は、それでも崩れることは無く。踏みとどまった床を飛び越えれば、は、と息を吐き捨てる男の姿があった。
「何度も私の邪魔をするだけの傲慢さが、お前等にあるとはな」
 吐き捨てた侵略渡来人『コルテス』の前、コン、と足音を立てライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は身を晒す。
「どうしてそんなにも慢心出来るのか、是非に教えて頂きたい物だな」
 柔らかな白い髪が揺れ、眼鏡の奥から覗く瞳が緩く、弧を描く。
「慢心する事を覚えられたなら、きっと。僕でも盲目的に自著を誇れるだろうしね」
「は。お前等下等生物には理解などできん。そも、私に話しかけて良いなどと誰が許した」
 ケツァルコアトル、とコルテスが声をあげた。ぐん、と顔を跳ね上げた奴隷神が、引き寄せる手綱に合わせて大口を開けた。
「キィイイイイイ!」
 甲高く、響く声が空を震わせた。あれは威嚇か。手にした魔道書のページをめくるように、ライラックは指先を滑らせる。
「ーーさて?」
 笑う、ライラックの魔導書が冷気を帯びた。降り立つは冬の女王。吐息で触れたように、指先が向けた先へと氷刃が飛んだ。ひゅん、と空を穿ち飛ぶ刃は二連、三連と重なり。最初の一撃を羽で砕き、続く刃を気にせずケツァルコアトルへと受け止めさせれば、僅か羽が散る。傷としては浅いのか。は、とコルテスが笑った。
「この程度で、私の前に立ったと? 猟兵も愚かなものだな」
「……」
 その言葉に、言の葉を返しはせずにライラックは手だけを振るう。物語を紡ぎ出す作家の指先。光の灯る指先が放った「もの」は流れるようにコルテスの腕へと触れた。
(「ーー届いた」)
 それは魔導書に挟む栞。
 トランプを模した金の栞は、ただ魔導書の中に腰掛けていた存在ではない。
「……全く、貴方には呆れてしまうな」
 肩を竦め、ライラックは言葉を作る。言の葉を紡ぎ出す。
「猟兵を前に、余り『慢心しない』方が良いよ」
 気取らぬように、会話の中にルールを混ぜる。それは、金の栞が届いたことから始まる物語。理不尽な裁判。この制約こそが、ライラックの紡ぐ力。
「慢心だと……? は、私の前にひれ伏ししかないお前等が何を紡ぐかと思えば」
「容易い相手だと。此処まで攻め込まれ、一人きりだというのに呑気なことだね」
 先の刃は届かずとも、とライラックは告げる。慢心を誘う様に。
「この傷ひとつひとつが、いずれあなたを追い詰めるというのに」
 言の葉を紡ぎ、世界を綴る。
 は、と笑うコルテスが笑う。愚かな、と唇に乗せ、肩に構えたままの猟銃を構える様子も見せないままに。
「お前等相手に、私が本気を出す必要など何処にも無い。同じ舞台にあることを誉に思いながら、自ら死をえらーー……!?」
 ごほ、と口元、せり上がってきた何かをコルテスが吐き出す。赤い、血。二度目の咳込みはなくーー代わりに肩口が、腹が赤く染まっていく。
「これは……!?」
 これこそ制約の結果。
 会話に混ぜられたルールと、破った者に訪れる結論。
 全てはライラックが仕掛けたことだ。
「心掛けるだけなら、『簡単』な筈だろう?」
 ライラックのその言葉で、漸くコルテスはこれが目の前の男からの攻撃だと理解する。その衝撃に、反撃さえ見失ったまま、ぎり、と唇を噛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グレ・オルジャン
猟兵との連携は密に
宣告するルールは『油断するな』…なんて皮肉が効いてていいんじゃないか?
隙見てデュエリスト・ロウの手袋叩きつけ
存分に破りなよ、指揮官殿

あたしも手数は多くない
仲間の攻撃注視し同技は避け
やむを得なければタイミングや立ち回り、武器に差を
敵ごと砕くグラウンドクラッシャーは戦斧で正面・背面から降るように
藍銀の風の起点は投擲する号火の一撃
狙い読まれないよう目線は散らす
あんたが無理矢理従わせてるそいつとは訳が違う
声も視線もなくとも、可愛い兄弟には通じるさ

あんたが慢心に滅ぼうが、あたしには『何の興味もない』
ただね…そこの神様だけは
驕りに飼われる屈辱から開放するつもりさ
生かすことは叶わなくてもね



●彼方より風が来たりて
 剣戟の間、花が舞っていた。轟音と共に崩れた柱を飛び越え、水柱を目の端にだけ納めてグレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)は戦斧を手にした。
「まだ来るというのか、猟兵」
「ーーあぁ、来るさ」
 悪いがね、と一つ笑うと、ぐん、と強く踏み込んだ。瞬発の加速。飛ぶように出た先、侵略渡来人『コルテス』の正面へとグレは飛び込んだ。
「あんたの予定なんぞ関係なしに、ね……!」
 最後の距離を詰める瞬間、上に飛ぶ。振り上げた斧が鈍く光れば、コルテスの舌打ちが耳に届いた。
「役に立て、ケツァルコアトル」
 嘴をあげた奴隷神が斧に触れてくる。だが、振り下ろす勢いはグレの方がーー早い。ガウン、と叩きつけた一撃と同時に神社が揺れた。軋む音と共に、跳ね上がった波しぶきが肩を濡らす。
「お前等は邪魔をする才ばかりに恵まれたのか、下等生物が……」
 低く、唸るようなコルテスの声と共に、キィイイ、とケツァルコアトルが鳴いた、威嚇の声と共にぐわり、と開けられた嘴に、たん、とグレは間合いを取り直す。
(「あたしも手数は多くない。よく、見て動くべきだろうね……」)
 ひとまず、手袋を叩きつけるのは無理だそうだ。小さく笑い、ばさりと翼を広げたケツァルコアトルに身を横に飛ばす。きゅ、と床を鳴らし、足を止めたグレは仕込み棍へと手を伸ばす。狙いを読まれぬように目線を逸らし、嘲笑う男へとーー放つ。
「餌食にするか、されるかだ。そら、生き繋ぐよ兄弟たち!」
 それは投擲する号火の一撃。
 は、と顔をあげたコルテスが猟銃を向けるが一撃の方がーー早い。ギン、と鈍い音がした。
「っち、下等生物が……!?」
 仕込み根の一撃は銃で払ったか。相対する以上、距離があれば来るとは思っていたコルテスが驚愕の声をあげた。
「これは……っ」
「ルォォオオオオオオンン」
 そこに生じたのは銀色の狼の群れ。グルゥウウウ、と唸り声と共にケツァルコアトルを蹴り上げた狼がコルテスに噛み付いた。
「離せ……っくそ、このようなこと……!?」
 腕を振るえば、吹き飛ばされるより先に狼たちは身を飛ばす。欄干を蹴り、唸り声をあげながら銀色の狼はコルテスを囲んでいた。
「あんたが無理矢理従わせてるそいつとは訳が違う」
 それは、己に赤金の獣と二つ名を持つグレの矜持。
「声も視線もなくとも、可愛い兄弟には通じるさ」 
 獣たちを野の兄弟と親しむ彼女の元、生き繋いだもの達こそ、銀色の狼の群れであったのだ。
「……ならばその主を失えば散り散りになるだけのこと。お前が倒れれば貰ってやろう。ケツァルコアトル!」
 手綱を引かれ、キィイイイ、と声をあげたケツァルコアトルと共にコルテスが飛び込んでくる。突撃か。残った戦斧を手に、衝撃を受け止めたグレは、は、と息を吐きーーだが、真っ直ぐにコルテスの目を見て言った。
「あんたが慢心に滅ぼうが、あたしには『何の興味もない』」
 吐き捨てた言葉。払い上げる一撃で、次の突撃の力を逃せば、じくり、と腕が痛む。
 だがーー一撃は届いた。反撃こそ受けたが、立っているのだ。ならば言いたいことはあと一つだけ。
「ただね……そこの神様だけは、驕りに飼われる屈辱から開放するつもりさ」
 救うことはできない、と言われた。コルテスとの契約がケツァルコアトルを絡め取っているのだと。倒すことだけが唯一、と聞いた話を思い出し、グレは唇を引き結ぶ。
「解放するだと? は、これはわが乗騎になれた事を感謝したのだ。お前等よりは随分と役立つ」
 忌々しく息を吐き、腕に、肩に残った噛み跡から溢れる血をコルテスが払う。その深さに、未だ気がつききれずにいるままに。
「それを解放するとはな」
「ーーあぁ、そうさ」
 嘲笑う男に、慢心を露わにーーだが、確かに強者であるコルテスへとグレは言った。
「生かすことは叶わなくてもね」
 覚悟を込めて。決意を込めて。
 叩きつけた言葉と共に、駆け出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ザハール・ルゥナー
永遠に侵略を続けねばならぬのも哀れだな。
さて、掃除を始めるか。

刃嵐で風を纏う。
銃に捕らわれぬよう高速移動を続け、ケツァルコアトルを中心に狙う。
時折銃を混ぜ、調子を狂わせる。
戦いを忘れているなら効くだろう。

あちらの攻撃は巧く見切れればいいが、全くの無傷とはいかぬだろう。
己の負傷に頓着せず、挑発なども挟みつつ誘き寄せ。
会話をする気もないだろうが、喧しいのは邪魔だろう?
好機を得たら、速度を生かしコルテスに叩き込む。
十秒の装填で、私は幾度仕掛けられるか――いざ勝負。

ところで貴殿は単身で侵略を果たしたか?
猟兵たちの抗いに、昔ながらの侵略が叶うと思うな。
貴殿に安住の地などあるまい――骸の海の底にさえ。



●絶空に在りて
 轟音と共に波が上がっていた。欄干に打ち付ける波が床を濡らし、崩れた天井の名残を流していく。引っかかった木片を飛び越え、軋む壁より先を行く。長く、伸びた銀の髪が追うように揺れた。
「ーーまたか」
 濡れた足場に眉を寄せた男は、こちらの視線に気がつくとひどく呆れたように息をついた。
「どれほど私の邪魔をすれば気が済むのか。お前等下等生物に、私の前に姿を見せるだけの権利があった思っているのか」
 同じ舞台に立つ権利が。
 低く告げた男ーー侵略渡来人『コルテス』が手綱を引く。キィイイイイ、と威嚇するようにケツァルコアトルが口を開いた。向ける敵意さえ見下す色の方が強いコルテスに比べ、ケツァルコアトルの視線はまっすぐにザハール・ルゥナー(赫月・f14896)を刺し貫く強さを持っていた。
「永遠に侵略を続けねばならぬのも哀れだな」
 落とす、息が潮風に攫われた。哀れだと、と低くコルテスの声が届く。猟兵たちとの斬り合いの狭間、存外に男はこちらの声を聞くようになったようだ。
「は、下等生物が哀れみなど口にするとはな」
 尤も、コルテスの理論の中で、ではあったが。
 肩口に腕、腹ーー騎乗するケツァルコアトルを含め、多くの傷を受けながらもコルテスは立っている。少なくは無い傷だ。それでも、変わらずああしているのはーー確かに強者の印ではるのだろう。
(「若しくは、頑丈か、だが……」)
 何にしろ、とザハールは思う。此処は戦場で。倒すべき敵があれであるのならば。
「さて、掃除を始めるか」
 たん、と踏み込む瞬間、ぶわり、と風を纏った。銀の髪が揺れ、二歩目で飛び込んだ先、ぶつかるように来た波がーー裂けた。
「キィイイイ!」
 威嚇するように大口を開けた奴隷神に、騎乗するコルテスが眉を寄せる。だが、落とす息は戦場にあった『嘗て』を男に思い出させたか。
「痴れ者が」
 手綱を強く引く。ぐん、と向けられたケツァルコアトルの嘴に、ザハールはそのまま斬り込んだ。手にした刃で、ではない。その身に纏う、触れれば斬れる風の力。対価にナイフのヤドリガミたる男の寿命さえ削り取る刃の嵐だ。
「ケツァルコアトル」
「キィイイイ!」
 コルテスの言葉に、奴隷神が翼を広げる。僅か、身を浮かせた奴隷神がコルテスを乗せたまま、ざ、と後ろに飛んだ。距離を得たつもりか。
「容易いものだな」
 肩に、担いでいたマスケット銃をコルテスが手にする。間合いひとつ、取ったと見下ろす男にザハールは腰の銃を向けた。
「な……!?」
「そうか?」
 白銀の短銃。素早く手にしたそれは、威力こそ高くは無いが、取り回しを優先とした暗殺用の銃だ。即ち、この手の場にはーー役立つ。
「小賢しいことを」
 吐き捨てた言葉と共に、コルテスの手が銃弾を手にした。装填にかかるのは10秒。ならば、攻めるのであればーー今だ。
「ところで貴殿は単身で侵略を果たしたか?」
 口に乗せた挑発。肩口、奴隷神の爪がかかる。暴れただけのそれだ。深くは無い。会話の気など奴には無いのか。口の端だけをあげ、装填を続けるコルテスにザハールは笑った。そう、会話などしなくともーー視線ひとつこちらにあれば。
(「喧しいのは邪魔だろう?」)
 浮かべた笑みひとつ。身を低める。波と血で濡れた床を蹴る。
(「十秒の装填で、私は幾度仕掛けられるか――いざ勝負」)
 それは事実、命をかけた勝負であった。だからこそ、ザハールは笑みを零す。口の端に、迫合いから知らず溢れた息は弧を描き、獣のような素早さで、飛び込んだ。
「キィイイイ!」
「ーー」
 叫ぶケツァルコアトルの嘴を躱すより踏み込む。神の名を持とうが、生きているであればナイフは届く。纏う風は刃に代わり、舌を打つコルテスを前にケツァルコアトルの首を蹴って、ザハールは踏み込んだ。
「勝負」
「は、痴れ者が。私と同じ場所に立つなど、死にたいのか」
 銃口が向く。払うには遅くーーだが、踏み込むには刃を届けるには十分だ。
「いや」
 ガウンとコルテスの銃口が火を吹く。衝撃がザハールを貫きーーだが。
「な……っお前」
「……っは」
 浅く、笑う。肩口吹き飛んだそれを置いて、ザハールは奴隷神の上から飛び退いた。
「私に刃を……!」
 刃は、届いていた。
 あの時、銃口を肩口つけるように飛び込んだだけのこと。流石に風の刃で奴の銃を壊すには足りずーーだが、刃は前へと貫通された。
「猟兵たちの抗いに、昔ながらの侵略が叶うと思うな」
 口の中、せり上がってきた血を吐き出す。残った腕で銃を持ち直し、ザハールは告げた。
「貴殿に安住の地などあるまい――骸の海の底にさえ」
 今日、この日で終わるのだと。

成功 🔵​🔵​🔴​

早乙女・翼
空飛ぶ敵なんて相手にしたことあるかねぇ、あいつ。
どっちにせよ高みの見物か、文字通り。

サーベルを手に、真っ直ぐ奴に向かって猛速度で飛んで迫る。
空中戦ならお手の物だ。奴が感覚忘れてグズグズしている合間にガツンと一撃入れてやるさね。
すれ違いざまにサーベルで一撃。まぁ読まれて受けられるのは計算のうち。
奴の横を抜けたら即座に身を翻して腕を伸ばし戒めの鎖炎を弧を描き放つ。
浄化と破魔の炎と共に縛り付け、焼き尽くそう。

太陽神たる竜、ケツァルコアトル。
我が主の信徒が貴方達を邪神と成した事詫びよう。
喩えこの声届かずとも、死をもって貴方を呪いより解き放つ。

さぁ、レコンキスタ(再侵略)開始だ。聖地厳島、返して貰おう。



●神鳴の舞台
 潮騒が、唸る風音と共に厳島神社を揺らしていた。柱に残る傷は戦いによるものだろう。一位部、壊れた屋根の間から銃弾が抜ける。侵略渡来人『コルテス』のものだ。
「どれ程、どれ程自惚れればお前等は私の邪魔をしようなどと思えるのか。下等生物に過ぎぬお前等が……!」
 怒号と共に荒く、血を拭う。腕は既に赤く染まりーーだが、まだ確かに男は立っていた。ダメージは入っている筈だ。だが、立っているからこそ、動けているからこそ奴は今の状況を認識できないのかーーそれとも、それこそが奴が戦い方を忘れている証か。
「空飛ぶ敵なんて相手にしたことあるかねぇ、あいつ」
 背の羽を広げ、早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は息を吐く。回廊をひとつ、飛んで超えて来た青年は荒れた戦場に柘榴紅の瞳を向ける。
「どっちにせよ高みの見物か、文字通り」
「ーーなんだと」
 声が、返ったのは既に多くの猟兵たちが切り込んでいたからだろう。襲撃を受けている、その事実は認識したコルテスの視線がこちらを向きーー分かりやすく眉がつり上がった。
「なぜ、私の上にいる」
「そうさね」
 軽く笑い、羽ばたきをひとつするとーー翼は一気に身を落とす。直下の落下。崩れかけの柱を足場に、悪いさね、と手でだけ触れて一気にーー飛んだ。真っ直ぐにコルテスへと向かい、羽で海の風を叩く。
「っち、動け。ケツァルコアトル。あの愚か者を叩き落とせ」
「キィイイイイ!」
 手綱を引かれれば、ケツァルコアトルの威嚇が響く渡る。ぶわり、と広げられた翼に、だが、赤の羽が舞う。血のように赤く染まった翼が、加速する男の体を前へと飛ばした。
「コルテス」
 すれ違い様、薙ぎ払うサーベルはーーだが、ギン、と鈍い音と共にマスケット銃に受け止められた。
「は、この程度で、私の上に立つとはな」
「そうさね」
 息をつき、翼は笑う。ガン、と跳ね上げられたマスケット銃が翼のサーベルを弾く。真っ直ぐに向かっていったのだ。読まれる程度、計算のうちだ。だからこそ、翼は弾き上げられた勢いのまま身を飛ばす。コルテスの横を抜け、僅か、男の視線より下にたどり着いた所で即座に身を翻した。
「主よ」
 告げる、言の葉と共に腕を伸ばす。手首の傷跡よりこぼれ落ちた炎がぶわりと舞い上がり鎖となる。淡く、翼の彼岸花が光を受けた。舞い上がる炎は、海辺の戦場にあっても決して消えない。
「罪深き者に裁きと戒めの業火を」
 炎の鎖だ。
「……っなんだと」
 背後から穿たれた鎖が、コルテスの腕を捉えた。瞬間、ゴォオオオと炎が上がる。紅蓮の炎には身を捩った程度では消えはしない。
「っく、ケツァルコアトル!」
「キィイイイイ!」
 浄化の破魔の炎は、コルテス達を焼きつくすほどの熱を有していた。紅蓮の柱に、コルテスどの怒号が響く。引き寄せた手綱と共にケツァルコアトルがぐん、と顔を跳ね上げた。
「キィイイイイイイイアアアア!」
「ーーっ」
 来る、と思った瞬間、飛ぶような突撃が来た。騎馬突撃。コルテスが嘗て行なっていたという戦術のひとつ。それを思い出しての行使だ。
「は、この下等生物などこの程度だ」
「……っそう、さね?」
 その突撃をサーベルで受け止める。流石に、逃がしきれなかった衝撃が翼の頬を、首を、胴を裂く。ばたばたと落ちる血に、だが、唇を引き結び翼は言った。
「太陽神たる竜、ケツァルコアトル」
 サーベルを跳ね上げる。三歩分、間合いを取り、背の羽を広げる。
「我が主の信徒が貴方達を邪神と成した事詫びよう。ーー喩えこの声届かずとも、死をもって貴方を呪いより解き放つ」
 サーベルに伝い落ちる血を、一度払う。赤き翼を模した光の刀身が淡く光る。
「さぁ、レコンキスタ開始だ。聖地厳島、返して貰おう」
 即ち、今こそ再侵略の時だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アララギ・イチイ
アハハハハァ、折角苦労してこの神様を呼び出しただから楽しく遊びましょうぉ
アステカ時代の復讐戦の始まり、始まりぃ

心臓を抉り(アステカの生贄儀式)、血肉を捧げて【選択UC】使用
テスカトリポカを呼び出して戦闘開始

夜の風の神性を利用して飛行(【空中戦】技能で補正)
黒曜石の鏡の能力、未来予知とその結果を知る力で相手の動きを【見切り】、【早業・ダッシュ】で移動して(敵の攻撃回避にも併用)、死角から【暗殺・捨て身の一撃】の奇襲攻撃(短期決戦狙い)、スペイン人の首に牙で攻撃

装備品も活用、奇襲後(失敗成功問わず)
思考の耳飾り+煙管の武器庫を全開放、自分ごと【一斉発射】の【範囲攻撃】で至近距離爆撃

攻撃完了後は離脱



●煙を吐く鏡、或いは夜の風
 吹き抜ける風と共に、波が柱に打ち付けられていた。ザァアアン、と響く音と共に剣戟が耳に届く。下等生物が、と吐き捨てるコルテスの声が歩き向かう少女の耳にも届いていた。
「どれ程自惚れれば、私の前に姿を現わせる。私を煩わせる?」
 肩口が赤く染まり、腹も布地を切り裂いた刃が貫いた痕があった。それでも、己が優位を疑わずにあるのか侵略渡来人『コルテス』は、一度こちらを見ると、またか、と息を落とした。
「お前等はどうして私を煩わせる。私と同じ場に立つ権利さえも有さぬお前等が……!」
 低く唸るような声にアハハハハァ、と少女は笑う。長く伸びた髪を揺らし、コツ、と残す足とが羽織と共に揺れた。
「折角苦労してこの神様を呼び出しただから楽しく遊びましょうぉ」
 口にするのは誘い。されどアララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)の指先は、己の胸へと向けられていた。一礼でもするかのように触れーーだが、ずぷり、と爪が沈む。人差し指が埋もれ、中指が沈む。みちみちと胸を裂き、骨の間を縫うように手が沈んでいく。
「なんだ……?」
 眉を寄せたコルテスの前、アララギの五指が胸に沈みーー心臓を、抉る。
「アステカ時代の復讐戦の始まり、始まりぃ」
 は、と零す笑みと共に少女は笑いーー捧げられた血肉が、足元に陣を描いた。空を滑るように円を描き、この地に残る太陽のように紋様を描きあげーー。
「後で復活可能とはいえ、色々と面倒な召喚方法だわねぇ」
 神話にある神の一柱。
 テスカトリポカは召喚される。
「な、あれは……!?」
「キィイイイイ!」
 驚愕の声を上げるコルテスの元、ケツァルコアトルが警戒の声をあげた。威嚇する嘴が開き、翼を広げたケツァルコアトルへと、真っ直ぐにテスカトリポカは駆ける。飛び込む波を跳躍で躱しーー空を、蹴る。
「空中をだと……! ケツァルコアトル!」
「キィイイ!」
 僅か、目を見張ったコルテスが手綱をひく。嘴をあげ、ぐん、とケツァルコアトルが距離を取る。ーー否、取った筈だった。
「キィイイイイ!」
 警戒の声はケツァルコアトルから。一足、テスカトリポカの飛び込みの方が早かったのだ。それは黒曜石の鏡の能力。ジャガーの姿をしたテスカトリポカが神たる所以。敵の動きを見切り、仕掛けられた瞬発の加速がコルテスたちへと迫らせていたのだ。
「くそ、こんな獣に……!」
「それは、テスカトリポカでしょお」
 ごぽり、とせり上がってきた血を拭い、アララギは笑う。己の胸に、再生こそ可能であるが穴を空けながら。神を召喚して見せた少女は飛び込むテスカトリポカを真っ直ぐに見た。
「グルァアアアア……!」
 それは獣の声であったか。暴風であったのか。
 恐らく正しく聞き取れるものがあるとすれば、ケツァルコアトルだけであっただろう。羽を踏まれ、足場とされたケツァルコアトルの頭上、テスカトリポカはコルテスの首へと食らいついていた。
「っぐ、ァアアアアアア!? っお前、お前は……!」
 ぐん、と向けられた視線に、アララギは煙管を振るう。ひとさし、舞でも舞うように。だが、笑う少女の前、展開されたのは思考の耳飾りを含む大量の武器だ。
「な……!?」
 轟音が響きわたる。爆炎と振動が社殿を揺らし、コルテスの怒号が響く。
「ありえん。私が、お前等、下等生物にこのような……っ」
 何処だ、と叫ぶ男の声を耳にアララギは後ろに飛ぶ。流石に胸に穴が空いた身だ。離脱を選ぼうとする少女の耳にコルテスの怒号が響きわたっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玖・珂
予想できぬ……騙し討ちのようなものだろうか
不得手な戦法だ
が、己に出来る事を為し
美しき海上の社を戦に巻き込んだこと、後悔させてやろう

先駆けた者と同じ手は通じぬか
ダッシュやジャンプで回廊や高欄へ退き
間合いを計りつつ敵に隙は無いか窺おう

侵略者など反吐が出る
挑発されれば乗ってしまうやもしれぬな

攻め辛い相手だが
――将を射んと欲すればまず馬を射よ
此の儘では埒が明かぬと
囚われし神の腹部へ滑り込み黒爪で抉る2回攻撃

反撃がきたなら其の力を利用して己の身を海へ吹き飛ばそう
僅かでも衝撃を逃し、激痛耐性でひと時意識を保てればいい
敵に隙が見えたなら

此処に血は似合わぬ
飛散した血を緋い刃へ変え、コルテスの背後に突き立てよう



●暗き夜の指揮者
 剣戟と怒号が、戦場となったこの地に響き渡っていた。風が強く吹いたのか。舞い上がった波に柱が軋む。崩れる事は無いだろうがーーと、玖・珂(モノトーン・f07438)は息を落とす。
(「予想できぬ……騙し討ちのようなものだろうか。不得手な戦法だ」)
 コルテスの性質。
 戦いを忘れているーーと言われた男も今やある程度は思い出しているのだろう。だがそれでも、真正面から挑まず、上手く狙えば攻撃そのものを届かせることができる。
 あれは、慢心していなければ強者なのだというのだから。
 ならば、己に出来ることを為すのみ。
「美しき海上の社を戦に巻き込んだこと、後悔させてやろう」
 たん、と玖珂は前に出た。接近、という程強くは無い。多少の間合いを得る為だ。だが踏み込めば、既に地濡れの男が気がつく。
「またか。また、まだ下等生物が私を煩わせるというのか」
 侵略渡来人『コルテス』の這うような声共に、ぶん、とマスケット銃が振るわれる、撃ち出すというよりは、間合いを得る為のものか。た、と右に身を振れば、キィイイイイ! と警戒の声と共にケツァルコアトルが嘴を開いた。
「キィイィイイァアアア!」
「ーー」
 ビリビリ、と空気を振るわせるほどの鳴き声に、玖珂は飛ぶように高欄へと退いた。
「ちょこまかと。無駄によく動く」
「ーー侵略者など反吐が出る」
 見下す男の言葉に、低く玖珂は声を落とす。侵略者は奪うものだ。奪い、盗み、破壊する。嘗て玖珂の郷を襲った賊徒たちのように。
「全て……」
「は、お前等、下等生物は目をかけられることこそ感謝すべきだろうに。私はお前らを知的生物に定義していない。その程度の……」
「ーー」
 ものに、と落ちた声が届くより先に、体が動いていた。コルテスのそれが、正しく挑発であったかは分からずーーだが、玖珂のやわい部分に振れたのは事実だ。
 その程度、など。
 感謝など。
「後悔してもらおう」
 二歩目から一気に、飛ぶように距離を詰める。間合いを自ら潰し、己のものとする。だん、と三歩目で床を掴み、ぐん、と玖珂は黒の瞳で真っ直ぐに敵を見た
(「――将を射んと欲すればまず馬を射よ」)
 ケツァルコアトルの腹へと滑り込み、指先までを覆う五指を覆う鐵の装甲を突き立てた。
「キィイイイイイイ!」
 暴れるようにケツァルコアトルが身を振るう。ぐん、と来た嘴を空いた手の黒爪で防ぎ、抜き払った腕をそのまま、薙ぐように振るう。
「キィイイアアアアア!?」
 喉元を切り裂かれた囚われの神が叫ぶ。暴れるように羽を開きーーだが、死に切れぬケツァルコアトルをコルテスが手綱でひく。
「ケツァルコアトル、この痴れ者を喰らえ」
「キィァアアアア!」
 殺意に満ちた鳴き声と共に、大口を開いたケツァルコアトルが玖珂へと飛び込んできた。
「ーー……っ」
 片腕が切り裂かれ、白の衣が染まる。肩口から血がし吹き、ガウン、と重い衝撃が玖珂の体を浮かした。
「ーー」
 ーー今だ。
 その衝撃を利用して、玖珂は身を海へと吹き飛ばす。ふわり、体が浮いた感覚と共に囚われの神の追撃が空を切ったのを知る。
「は! あぁ、それで良い。ケツァルコアトル。私の前にあの下等生物を見せるな。この私に、傷をつけるなど、どれ程の権利があって……」
 嘲笑う事さえなく、血濡れの己の体を、偶然に過ぎぬと吐き捨てたコルテスは早々に背を向けた。確認する必要などないと。何故己がそれをする必要があるのかと言いたげに。
「此処に血は似合わぬ」
 だが、それこそが玖珂の狙っていたもの。
 ひと時、そうひと時意識を保っていれば、海上へと吹き飛ばしたこの身は、弧を描く血を『変える』ことができる。
「――おやすみ」
 それこそ血で作り上げた夥しい花弁の緋い刃。
 緋の力は真っ直ぐに玖珂の示す先へと向かいーーコルテスの背へと突き刺さった。
「ーーな……!?」
 驚愕に、見開いた男が振り返る。その背を貫き、胸をも貫いた緋い刃がコルテスの核を砕いていた。
「な、私が、こん、な……っ」
 手にした、銃が落ちる。手綱が指先からこぼれ落ちる。ぐらり、とコルテスはケツァルコアトルの上から転がり落ちた。

●空言の褥
 海上へと落ちる玖珂の体が転移の光に包まれる。保った意識は、確かに驚愕に目を見開いたコルテスが地に落ちるのを見ていた。
「私が、下等生物など、このような、ことありえな……っ」
 起き上がる為についた膝が崩れ落ちる。血に濡れた体に、持ち上がらぬ腕にコルテスは漸く理解する。
「私が、敗北するなど、私が……!」
 怒号が這うように響き、どさり、と侵略渡来人『コルテス』は崩れ落ちる。見送る者一人いない戦場で血に塗れながらーー消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月16日


挿絵イラスト