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エンパイアウォー⑧~永き禍殃

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●品治村付近
 いつもの夏の日であった。
 惨禍は突然に訪れる。
 蝉の声がぴたりと止んでいたことに気付き、おりんは不思議に思った。
「まって」
 声を掛ける。
 川魚釣りへ向かった子供たちのなかで、おりんは一番の年上であった。
 陽が高くなり、蜻蛉が飛び始めたら帰る時間。帰って家の手伝いをして、暗くなる前に夕餉をとる。
 そんないつもの日となるはずであった。
 その時、聞いたことの無い――とても酷い悲鳴が聞こえ、子供たちは震えあがった。
「こっちに……!」
 茂みへと身を潜めるように言い、おりんだけは這うようにして村へと向かった。
 大人たちの複数の悲鳴、獣のような唸り声、悲痛な叫びの一つが突然に途絶える。
「ヒイッ」
『ガアアアアアァァッ!!』
「――!」
 目に入ったのは化け物が村の者を襲っている光景。
 複数の化け物が村の者を追う。
 腰が抜けて立てぬ者は容赦なく喰い殺され、動ける者は化け物のいない方へと逃げていく――。


「魔空安土城へ向かう幕府軍は、最大の難所である関ヶ原に集結。
 関ヶ原で幕府軍を待ち受ける織田勢を突破し、さらに山陽道、山陰道、南海道の三手に別れて進軍することになるわね」
 ざっと、現在の状況を説明するポノ・エトランゼ(エルフのアーチャー・f00385)。
 中山道、東海道道中を襲う苦難は払いのけた。今はそれに付随し起こった戦いへ、たくさんの猟兵たちが向かっている。
 次から次へと戦場を渡り歩く猟兵たち。
「現在、山陰道の防御指揮官である安倍晴明は、奪った鳥取城を拠点として、猟兵と幕府軍を壊滅させる準備を行っているわ――鳥取城餓え殺しを、皆さんは知っているかしら?」
 戦国の世に行われた、凄惨さで知られる籠城戦だ。
「……この城に、近隣住民を集めた上で閉じ込めて、飢え死にさせることで、奥羽の戦いで使用した『水晶屍人』の十倍以上の戦闘力を発揮させる強化型の量産――それが安倍晴明の狙いみたい」
 鳥取城は、有名な『鳥取城餓え殺し』が行われた場所であり、恨みの念が強く残っている。
 この強化型『水晶屍人』量産が叶えば、山陰道を通る幕府軍と猟兵全てを殺し尽くしても、ありあまる戦力となることが分かった。
「安倍晴明に造り出された動く屍、か」
 一人の猟兵が呟いた。恐らくは、鳥取城餓え殺しの際に果てた者たちなのだろう。
 物資の搬入ルートが断たれ、包囲され兵糧が尽き、仲間の死体を食い、食われた者たち。
 言葉をなくす猟兵たちに、しかしポノは頷くこともなく、淡々と説明を進める。
「……完全に撃破していかないと、取りこぼしたら後々が脅威ね。
 今回皆さんに向かってもらいたいのは、品治村付近。十体ほどが出現しているわ」
 数で攻めてきた奥羽よりも数は少ないが、超強化されている水晶屍人。
 敵たちは村人を鳥取城へと追い立てるようにして、襲っているのだとポノは言った。
「一人でも多くの人を助け、そして一体一体の確実な撃破をお願いするわ。
 どうか、気を付けて」
 そう言ってポノは猟兵たちを送り出すのだった。


ねこあじ
 ねこあじです。

『このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります』

 水晶屍人は鳥取城へと追い立てるように、村人を襲っています。
 村の内外にいますので、手分けしての撃破となります。
 彼らの向かう方向と、子供たちのいる場所は逆方向となります。恐らくは、そのまま身を潜めていることでしょう。

 人数によりますが、採用不採用が出てくると思います。
 なるべく頑張りますが、ご了承ください。
 プレイングがある程度きていたら、14日(水)午前中いっぱいでの締め切りとなります。

 それでは、よろしくお願い致します。
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第1章 集団戦 『水晶屍人』

POW   :    屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月夜・玲
安倍晴明……か
稀代の陰陽師がこんな外道な事をするとはね、全く気分が悪いよ
しかも前のやつより強化されてる、厄介な相手だね
ま、どんな相手だろうとやる事は変わらない……かな
さあ、お仕事お仕事

まずは村の中にいる水晶屍人を処理しよう
村の中を探索しながら、村人の助けを呼ぶ声が聞こえるようならそこへ急行だね
大丈夫?噛まれてない?
ここは私が何とかするから、早く逃げて
私が来た方向なら、敵は居ないはずだしね

●戦闘
水晶屍人が見えたら【高速演算】を使用
遠距離からの斬撃による衝撃波でまずは一撃を加えるよ
その後村人が居れば近づいて、間に割って入るね
村人を逃した後は、少し距離を取りながら衝撃波で連続攻撃!
一気に決めよう!




 転移され、到着した猟兵たちの耳に届いた悲鳴は複数。
 一刻を争う事態であった。
 既に短い打ち合わせは終えていて、皆が、やるべきことをやりに散開する。
 家屋同士が離れた村。
 時間帯は村民が野山や田畑から帰路に着く頃。
 悲鳴の上がった一方向へ急行するのは月夜・玲(頂の探究者・f01605)だ。
 坂上から駆け下り、茂みを飛び越える。眼下に見えるは、轍の跡がそのまま細道となった場所。
「やっ、やだああ……!」
 力が抜けそうなのか、ふらふらと走ってくる若い女。その後ろ――数メートル後ろに、武器を持った水晶屍人が追ってきている。
「I.S.T起動。サポートモード、敵行動予測開始」
 起動したSystem[Imitation sacred treasure]が敵の動きを捉え、斬撃による衝撃波を放つ。
 衝撃波が到達する直前に細道へと駆け下りた玲は、女と水晶屍人の間に降り立った。
「大丈夫? 噛まれてない?」
 敵から目を離さずに問えば、
「……っ、ええ」
 ようやくといったように出された女の声は震えていた。
「ここは私が何とかするから、早く逃げて」
「でも……!」
「私が来た方向なら、敵は居ないから――近くには私の仲間がいるし、大丈夫だよ」
 玲は自身が来た道を指差し、次に坂上へと向けた。
「わ、分かったわ。あなたも、はやく逃げてね……!」
 凛と告げる玲に感化されたのか、ややしっかりとした声になった女が言い、去っていく。
 その時、
『ハ、……ア、ガ、ウウウ』
 武器を振り回しながら此方へと向かってくる水晶屍人。距離を詰められる前にと玲は衝撃波を放つ。
 斬撃の軌道は細く青の弧を時に描き、水晶屍人へと到達する。刻まれる刃傷は敵の屍肉を飛散させた。
 腐臭が広がる。
「安倍晴明……か」
 彼我の距離を保ちつつ、後退しながら衝撃波を放つ玲が呟く。
「稀代の陰陽師がこんな外道な事をするとはね、全く気分が悪いよ」
 赤の目を細めて。
 連続して放てば、交差した衝撃の刃が敵の胴に十字を刻んだ。――硬い。
「しかも前のやつより強化されてる、厄介な相手だね」
『ガアアアアア!!』
 跳躍するように、前傾した水晶屍人が二、三歩と踏みこみ、武器を大きく振り被った。
 同時に玲。
 下段から斬り上げるが如く、鋭い衝撃波がボロボロになった敵胴を真っ二つに――両肩の水晶がごとりと地に落ちた。
『ア、ガ』
 ガリガリと地に爪をたて、削る動き――足掻くかのように。
 玲が上へと腕を上げれば、風刃が次々と敵の体を斬り刻む。動かなくなるまで与え続ければ、残ったのはミンチとなった屍肉と砕けた水晶。
「……ま、どんな相手だろうと、やる事は変わらない……かな」

成功 🔵​🔵​🔴​

アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可

奥羽で見た奴らよりも力が強化されているようだが…
例え理性を無くした亡者だとしても、子供たちの未来を脅かす奴は…この俺が絶゛対゛に゛許゛さ゛ん゛!゛

今回は【シューティングギャラクシィ】フォームで参戦。
【フルスピード・スカイドライブ】で上空に飛び立ち、空から水晶屍人を探し出すぜ。
探すのは簡単さ、肩の水晶は光を当てると目立つだろ! 俺の武器のレイシューターは光の砲弾を撃ち出す武装、この砲弾の散乱光で水晶が反応するはずだぜ!
水晶の反応を上空から【視力】を使って観察し、見つけ次第上空からマッハ4のスピードで突っ込んでぶっ飛ばしていくぜ!




 到着と共になすべきことをなすべく、散開する猟兵たち。
「奥羽で見た奴らよりも力が強化されているようだが……」
 アーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)は駆けた。
 家屋が離れた村は、合間に田畑だったり林であったり。時間帯としては村人がまだ外にいる時間だ。
 悲鳴が上がった方へ向かう猟兵。子供たちの方へと駆けて行った猟兵。
「例え理性を無くした亡者だとしても、子供たちの未来を脅かす奴は……この俺が絶゛対゛に゛許゛さ゛ん゛!゛」
 大喝するアーサー。
 ドーンブレイカー・シューティングギャラクシィ形体となったアーサーがライズツールを手にし、サンドライバーにかざすと――Select…FLYING ACTION!!
「行くぜ、ライドラン! 大空でも宇宙でも、どこまでも飛んで行くぜえええ!!」
 ドラゴンのヘッド、大型のバイクが蒸気を発し、アーサーは空へと飛翔した。
 バシュッと噴出する蒸気がアーサーの全身を覆えば、力がみなぎってくる。
 田畑や見晴らしの良い場所の水晶屍人は仲間の猟兵に任せよう。
 アーサーはアーサーで、探索力を駆使する。
 ソーラーパワーを砲弾にする大型の射撃武器・レイシューターを掲げるアーサー。
 陽光をレイシューターに入射し――力を溜める。
 限界まで、今にも強き砲弾を放たんとするまで耐えると、レイシューターは射出口から強い光を放つ。
 太陽よりも鋭い白光。
 ライドランに騎乗し、空駆けるアーサーが林間へとそれを向けた。
 地が映すは影ではなく、光だ。照射されたが如く、影は潜み、そしてキラッとした虹色の輝きをアーサーは捉えた。
「そこだ!」
 急旋回し、降下するアーサーが推進に任せレイシューターを構える。
 彼我の距離を視認するのは一瞬。照準合わせからの判断は一弾指であった。砲身のオブジェが獲物を捉え――先端をが屍肉を穿った時、溜めに溜めた強き陽光の砲弾を撃つ。
 零距離で叩きこまれた攻撃に、水晶屍人は木々をなぎ倒し吹き飛ばされた。
『グ、グ、……グ』
「これで終わりだ!」
 強化された水晶屍人はまだ蠢くように――トドメとばかりにライドランが駆け、敵を轢き潰すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

依神・零奈
……ヒトの業は神にも計り知れないね
……ま、いいか
現世を乱す者からヒトを護る、それが私の務め……それだけの事

敵は謂わば小数精鋭といったところ……ね
なら、各個撃破が理想的だけれど……
村人を追い立てているというのならその屍人の背後を
取ってしまえばいい

屍人のうち一体の背後から迫り【破魔】の力を宿した
無銘刀で首を狙って攻撃する
仕留めたら辺り一帯に【破魔】の力を展開して
敵の弱体化を狙ってみる
その後はUCを発動して禍言による【呪詛】で
敵を蝕みながら刀による攻撃を仕掛けていくよ
交戦中に他の屍人からの攻撃にも気を向けておいて
奇襲されたら【カウンター】で切り抜ける

「キミの運命は確定した」
「強大な恨みは己を蝕む」




 到着とともに、依神・零奈(忘れ去られた信仰・f16925)は茂みの中へと身を躍らせた。
 村中から一気に突っ切るように、途中まで同行した猟兵と分かれ、踵を返す。
 既に狙いはつけていた。
(「村人を追い立てているというのなら、その屍人の背後を取ってしまえばいい」)
 水晶屍人の足取りは無差別ながら、統制がとれている。鶴翼のように村全体で包囲を行っているのか、視認できた敵は一体だ。
 呼気を抑え、敵背後から彼我の距離をつめる零奈。
 無銘刀を抜き様に一刀。
 斬り上げる軌道――強い破魔の力が宿っている――本来ならば、奥羽の屍人の強さであったのなら、その一刀のもとに敵首は飛んでいた。
 刃が入った瞬間、咄嗟にやや角度を変えて零奈は刀を振り抜く。
 硬い。
「帰依の御霊、倦む惰性を絶て」
 ユーベルコード・一の太刀「殯の掃持ち」――対屍人において、清めに優れた破魔の力が展開されゆく。
 守護神霊と変じた零奈の言霊が、舞いのような足捌きが、手から刃へと流れる破魔の力が、汚れを祓うように凛とした空気を生み出す。
 されど、敵を襲うは禍言による呪詛。
 肉薄し、その硬い屍肉を削ぐ――。
『ウウ……アアアァァ』
 水晶屍人の呻きに応じ降霊がなされていくのが、零奈には分かった。
 水晶が眩い閃光を放ち、零奈の目を灼こうとする――のだが、周囲に展開された破魔の力がそれらを抑えた。
「キミの運命は確定した」
 敵懐へと踏みこみ胴を捉えた零奈が横一文字に薙げば、地に差す陽光が反射し、銀の軌道を描く。
 呪詛に蝕まれた屍肉が肩の水晶から剥がれ落ちるように。
 地に崩れ落ちた屍人は、その指で地を削る。足掻けと。耐えろと。かの命はその者の人心を殺した。
「強大な恨みは己を蝕む」
 転がる水晶に刃を立て告げた零奈の声。
 バキンと水晶は砕け、敵の指から力が抜けていく――動かなくなった屍人――。
 ふと、零奈は鳥取城のある方向へと目を向ける。怨念が渦巻いているだろう、城を見据えるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月舘・夜彦
【華禱】

第六感より人の念を強く感じます
戦に勝つ為には時に手段をも選ばない
人の残酷さ故に……そして、今回も
ですが彼等が命を奪われる理由にはならない
助けに行きましょう

倫太郎殿は村人を守るように戦ってくださる
ならば私は敵の数が多い方へ向かいましょう
ダッシュにて接近、早業・先制攻撃にて抜刀術『陣風』
2回攻撃併せなぎ払いにて一体でも多くの敵を斬り刻む
倒し切れない敵へは衝撃波を与え、村人から遠ざけます

攻撃は残像・見切りより躱してカウンター
村人が危険ならば庇って守りましょう
そして倫太郎殿も

彼等に貴方を喰わせる訳にはいきません
己が身を犠牲にする程余裕が無いのならば、私の傍に居なさい
……倫太郎殿、いいですね?


篝・倫太郎
【華禱】
んっと、ロクでもねぇな

射程に入った視認できる総ての敵を拘束術で先制攻撃
同時に「村人に一番近い敵」へ
ダッシュで接近して華焔刀でなぎ払い
刃先返して2回攻撃
攻撃には全て衝撃波を乗せてく

以降は基本、夜彦の立ち回りを気付かせないよう
派手に敵を引き付け陽動
常に夜彦の場所や状況は把握し必要なら拘束術でフォロー

敵の攻撃は残像と見切りで回避
回避が間に合わない場合はオーラ防御で防ぎ
カウンターからの咄嗟の一撃

防ぎ切れねぇ場合は左手犠牲にしてでも受け流してやる
右手が無事なら何とでもなっからな

あ、嘘、嘘デス
気ぃ付けっから……怒んなってば

保険ってな掛けとくモンだろ?

近くに居る仲間のフォローも行い、確実に殲滅




 転移され、到着した猟兵たちの耳に届いた悲鳴は複数。
 遠くの声に急行する猟兵、なすべきことをすべく駆ける猟兵――場に留まる一人、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)が水晶屍人四体を視認し、拘束術を展開する。
 災いを縛る見えない鎖が倫太郎から放たれる間も、彼は止まらない。
「守りの猟兵がいる! まずはそっちに」
 近くの村人へと駆け、彼を背に声掛け華焔刀を振るう。
 水晶屍人へと吸い込まれるように入っていった刃は、しかし、敵胴の驚異な硬さと弾力に軌道が揺らぐ。
 だが同時に起こった衝撃波が敵を後退へと導いた。
 長柄を捌き、続く突攻撃には存分に体重を乗せた。
 衝撃波がドッ! と穿つ音を立て敵を吹き飛ばす。屍肉が刃先へと付着し、華焔刀を払えば飛散する腐臭。
「んっと、ロクでもねぇな」
 呟きはどこか苦々しい。
『ググググ……』
 強化された水晶屍人が立つ。
『ガアアア!!』
 前傾姿勢で駆ける敵が、跳躍し倫太郎へと飛びかかった。鋭い爪、ぐっと瞬間的に伸びてくる頭。距離をとりつつ、倫太郎が華焔刀でいなす。
 力を相当にこめて。

 敵数多い方角へと駆けた月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は、間合いに入ると同時に夜禱へと手を掛けた。
 刹那。
 振り抜かれた刀が無数の斬撃を放つ。
 目にもとまらぬ速さの抜刀術『陣風』――その起点となる夜禱が風となる。
 疾風の如き一刀は止まることなく、横薙ぎ斬り上げと旋回の流れを見せた。踏みこみは敵一体を狙ったものであり、入る刃の勢いは一番に強い。
 怒涛の連撃に斬り刻まれていく。
 しかしながら敵も負けてはいない。
 痛覚の無い体は常に前進の意を告げている。
『オオオオ……!!』
 威嚇の声をあげ、鋭い爪の一撃が剣戟となった。強化され、水晶まじりの爪を持つ水晶屍人。
 ギン! と高らかな音は、余波に衝撃波を放ち、別方向から襲い来ようとしていた敵を弾く。
「夜彦!」
 倫太郎の拘束術が強まり、一瞬、動きを止めた敵胴を夜禱が貫いた。刃が、脆くなり始めた水晶を削る。亀裂を走らせながら屍人の肩から剥がれ落ちる水晶。その上へと屍肉が崩れ落ちていく。
 ようやく一体。
 踵を返し、次敵へと夜彦は構えた。

 逆手、順手と長柄の持ち手を変えながら応戦する倫太郎。
 迫りくる牙を回避するべく、敵の喉へと長柄を打つ。――加重してくる敵の力は強い。
『ガアアアア!』
 振り回す爪が倫太郎を傷つける。
 このまま敵首を抑える長柄を回し、いっそ刎ね、除けたいものだが。
 ぎりぎりとした鍔迫り合いなるものに、
「防ぎ切れねぇ場合は左手犠牲にしてでも受け流してやる」
 柄を握る左手を緩く開く――攻防を掌に任せ、
「右手が無事なら何とでもなっからな」
 そう言葉にした瞬間、一陣の風。
 強く薙がれた一刀が敵肩から片水晶を切り離す。ここぞとばかりに、長柄を立て一気に回す倫太郎。
 刎ねた敵首が三拍ののち、ぼとっと地面に落ちた。
 ――音は聞こえた。
 だが目で追えなかった。
 心なしかゆっくりと、振り返る――……彼が何かを言う前にと、倫太郎は口を開いた。
「あ、嘘、嘘デス。気ぃ付けっから……怒んなってば」
 と、どこかごまかすような声に、夜彦は目を細めた。
「彼等に貴方を喰わせる訳にはいきません。己が身を犠牲にする程余裕が無いのならば、私の傍に居なさい」
「や、ほら、保険ってな、掛けとくモンだろ?」
 往生際が悪い、そんな自覚を持ちつつもさらに倫太郎が言えば、一時的に鞘へおさめる夜禱の音が彼の耳朶を打った。
「……倫太郎殿、いいですね?」
「……ハイ」
 どう応じたものか、と思った倫太郎であったが、結局は頷くしかないのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アヤネ・ラグランジェ
【ソヨゴf00669と】
カニバリズムという奴だネ
子が親を食べ
弟が兄を食べたといわれる
珍しくはっきりと不快を表情に出す

敵はそれを利用しようというのか
込み上げてくる怒りを何とか鎮めて

作戦は
ソヨゴが前衛で敵を引きつけて
僕がSilver Bulletでとどめを刺す
お互いの距離はあまり空けず
UCで銃身を固定して立ちながら撃つ
装弾数は五発
一発で仕留められれば理想的
敵の数から僕らで三体は倒したい
もし弾が尽きたら大鎌に持ち替える

敵の攻撃に対抗して
電脳ゴーグルを使用
敵の姿が見えたら温度感知などに切り替えて
光学的な妨害を予め遮断する

民間人の救助については
僕はその場で銃を構える
ソヨゴが敵を止めたら
予定通りに戦闘する


城島・冬青
【アヤネさん(f00432)と】
飢餓の極限状態からカニバリズムが発生する…という事例は幾つかあったりしますが、まぁ悪趣味ですよね
止めましょう、絶対

UC【廃園の鬼】を発動させ
屍人達の前に躍り出ます
【残像】と【ダッシュ】を駆使して敵をこちらに惹きつけアヤネさんと協力し一体ずつ確実に倒していきます
複数の屍人に囲まれてしまった場合は【衝撃波】で吹き飛ばし一旦距離を取ります

屍人爪牙は【第六感】で事前に発動を察知して回避
食らわないように努めますよ
切断なんて御免ですからね!

もしも襲われている民間人を発見したら
【ダッシュ】で駆けつけ民間人と屍人の間に【武器受け】で割って入ります
ここは私達に任せて早く逃げて!!




 時は少し戻り。
「カニバリズムという奴だネ……子が親を食べ、弟が兄を食べたといわれる」
 アヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)の声は、静かであった。
 それでいて、彼女にしては珍しく、表情にははっきりとした不快の色。
(「敵はそれを利用しようというのか」)
 熱い。
 底から込み上げてくる自身の怒りを感じとったアヤネは目を閉じた。
「飢餓の極限状態から、カニバリズムが発生する……という事例は幾つかあったりしますが、……まぁ悪趣味ですよね」
 城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)が頷く。緩やかに、ぎこちなく。
 餓えは苦しい死に方だ。
 それでいてその極限の状態から生き延びようと思えば、隣人を、仲間を喰わなければ生きていけない。
『そういった者』でない限り、我が人心を殺す行為だ。生き延びたとしても、尊厳など潰えているだろう――歩みの先は見える。
「止めましょう、絶対」
「――ん」
 冬青の言葉に頷き、そこでようやく、アヤネは目を開いた。
 熱を持ちそうだった緑の瞳は、今は凪いでいる。
 転移され、到着したサムライエンパイア。
 二人の耳を劈いたのは人の悲鳴であった。

 遠くの声に急行する猟兵、なすべきことをすべく駆ける猟兵――仲間の猟兵と左右に分かれるように、冬青は駆けた。
『グアアアァァ!!』
 威嚇する水晶屍人に「ヒッ」と息をのんだ村人が、足をもつれさせる。
 受け身など取れるはずがない。ドッと倒れ、迫る水晶屍人に力をなくした腕で這い逃げようとする。
 そんな村人と、水晶屍人の間に割り込む冬青。鋭い爪と、既に漆黒の吸血武器となった花髑髏との鋭い剣戟音。
「――まさか、水晶――?」
 電脳ゴーグル越しにアヤネが呟く。組立てたSilver Bulletを手に、自身の影を蠢かせながら。
 爪は水晶混じり、そして敵胴は――硬い――敵の弾力ある手応えに、冬青が力をこめて刀を振り抜いた。
 殺傷力の増した花髑髏が敵胴を刻む。
「ここは私達に任せて早く逃げて!!」
 柄で一度、二度と叩きこみ、そしてなぎ払い、力任せに敵を後退へと促す冬青が声を張った。
 痛覚を感じない水晶屍人は衝撃で後退する、二歩。さらに踏みこみ、冬青が一刀を放つ。
「あっちに、守ってくれる子がいるから!」
「は、はいっ!」
 オーラで村人を守るために動く猟兵の元へ行くよう促した。
『ガア!』
「っ!」
 鋭い爪でのなぎ払いを避けた冬青が返す刀で衝撃波を放てば、衝撃波に吹き飛ぶ水晶屍人。
 ぐぐっと立ち上がる姿を捉え、二重螺旋のウロボロス――異界の触手で銃身を固定したアヤネが、恐らくは水晶が交差しているであろう敵真胴を避け、引鉄へと指を掛けた。
 装填されたUDC細胞炸裂弾が放たれ、屍肉へと着弾する。衝撃にぐらついた自身の体は、影が支えに入った。
『ウ、ア、アアッ!』
 その時、降霊がなされたのだろうか、水晶からの眩い閃光にゴーグルを温度感知へと切り替えたアヤネ――水晶屍人は地熱を取り込んでいるのか、仄かな暖色。
「頑丈だ……」
 動きから察するのは容易だったので、二発目を撃った。
 初発の侵食が進んだ屍肉は、今度は衝撃に弾け飛ぶ。ばたばたと飛散した屍肉が落ち、腐臭が漂い――切り離された片腕がぴくりと動き、足掻き地を削る。
『ウ……ウゥ』
 蠢いていた水晶屍人であったが、侵食が水晶内部にまで届きばきんと壊れた刹那に、動かなくなった。
「アヤネさん、二体目がきま、す!」
 言葉後半、やや動きの速い水晶屍人と接敵した冬青がアヤネを呼ぶ。
 上段から叩きつけられるような攻撃ののち、そのまま体重をのせてくる水晶屍人。ぐぐっと下へと押し込まれていく冬青。
「ソヨゴ!」
 花髑髏の刃を立てれば、腕半ばまでの深い傷。かちあった水晶混じりの骨を押し退けるように斬り払った。
『アアアアア!』
「食らわないように努めますよ。切断なんて御免ですからね!」
 名を呼んだアヤネへ、冬青が応えた。
 屈伸した脚をばねのように使い、間合いを飛び出すと同時に衝撃波。
 一体ずつ、確実に仕留めようと二人が動く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

萬・バンジ
※アドリブ連携オール歓迎
あー嫌や嫌や
敵の成り立ちやら知ってしまうと魔術が鈍るねん
考えるのやめやめ、切り替えてこ

茂みなり木の上なり《目立たない》とこに潜伏
『天上天下』で、水晶屍人の上に雨降らす
恵みの雨やで。キミらだけ蕩かす「酸」の「雨」やけど
グズグズに溶けて動けんようになってまえ
後は《全力魔法》で追撃します。雷の《属性攻撃》
雨に濡れた体ならよう効くやろ
人助けは嫌いやけど、キミらはもう人やない
だから助けたるよ。はよお帰り
んで来世は腹いっぱい食って生きろ

……クッソ、考えんようにしよ思ったのに、てんでダメやん


泉宮・瑠碧
…呪術や呪詛は
人為的にそう作る物もあると聞いた事はある
…だが、そんな惨い話を繰り返させる訳にはいかない
…水晶屍人達だって、もう休んでも良い筈だ

村の中の人手は足りるなら
僕は村の外へ回ろう
念の為
子供達の場所やおりんに一番近い屍人を探す

主に弓を手に精霊羽翼
空中浮遊で飛翔しながら索敵
攻撃には破魔を乗せて、屍人の浄化を願おう

牙や爪の切断に振り回しも空中には届かないだろうが
飛び道具が来れば風を纏って軌道を逸らす

閃光には
闇の精霊へ願い
ヴェールの様に目の前に遮光の幕を張って光を抑え
水晶の霊が一体ならば遮光の闇で包む

鎖骨の中央や水晶と肩の接点をスナイパーで狙い
水晶を狙う際は部位破壊

…どうか
もう苦しまず、おやすみ


木元・杏
まつりん(f16554)と

村人守ること優先
そして確実に屍人を撃破

他の皆とも示し合わせ、手落ちの無いように村の内外に分散
襲撃受ける村人に最優先で庇いに入る
ん、もう大丈夫
村人を1ヶ所に集め、オーラ防御を施し背に守る

うさみみメイドさん、行って
屍人に飛び込ませ

わたしは屍人の動きをじっと観察
【絶望の福音】に第六感も合わせて屍人乱撃を見切り、メイドさんを回避させ
小さな体を活かしジャンプやフェイントもかけ翻弄

ん、そのまままつりんの方へ誘導して

屍人…ううん、鳥取城の人達
後でお城においもお供えにいく
皆が飢えないように
だから、安心して休んで

戦闘が終わればいつものまつりん
でも
(ふわっと耳を撫でて)
セイメイ、倒そうね


木元・祭莉
双子の妹の杏と。

元は領民だった屍人。
……静かに眠らせておいてあげなよ。無粋だね、セイメイとかいう奴。
(耳と尾をぴんと立たせて)

さてと。行こう!
敵は城に向かって進んでる。
城外の村落の位置を把握し、襲撃先を推測。
街道に潜伏して、待ち伏せ。

迅速に、容赦なく。
脚を狙い、機動力を奪って。
喉笛を砕き、声を出せなくして。
追い込み、懐に踏み込み、背骨を折って。
完膚なきまでに、粉々にして、骸の海に返す。

……これが、狼の狩りだから。思い知った?

おりんちゃんたち、無事だったー?
迎えに来たよー!
もう大丈夫だけど……大人たちが疲れていたら、慰めてあげて。
おいらたちが萎れてたら、夢も希望もなくなっちゃうからね!

頑張ろっ♪




 サムライエンパイアに降り立った猟兵たちの耳に、近くから、遠くから、悲鳴が聞こえる。
 家屋の離れた村は広く、今は野山や田畑にまだ村民がいる時間帯だ。
 遠くの声に急行する猟兵、空を行く猟兵――仲間の猟兵たちが散開する。
 木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)は近くの猟兵に誘導され、駆けてきた村人の守りへと入った。
「守りの猟兵がいる! まずはそっちに」
「ここは私達に任せて早く逃げて!!」
 視認できる水晶屍人は四体。既に、仲間が攻撃を仕掛けている。
 杏は駆け、二人の村人を背に庇う。
「ん、もう大丈夫」
 灯る陽光をかざせば、同じ光が場一体を包みこむ。夏の強い陽射しを遠ざけ、疲弊した村人がほうっと息を吐く。
「ありがとな、嬢ちゃん」
 男の声に、こくりと頷く杏。
 更に誘導されてくる村人。若い女であった。
 水晶屍人の足取りは無差別ながら、統制がとれている。鶴翼のように村全体で包囲を行っているのか、視認できた敵はこの場の四体。頑丈で力に任せた敵の動きを杏は観察する。
 この間に更に二人。
 すでに林間へ逃げた者も多く――そちらには双子の兄が向かっている。
「……少し、移動。もう少しがんばって」
 そう言った杏は井戸のある場所へと村人五人を連れて、水の補給をさせる。
「ここから逃げられたら、主さまに教えねば――」
「おじさん。鳥取城は、だめ」
 村人の会話に、杏は口を挟んだ。鳥取城への誘導が敵の狙いであることを告げる。
「確実に屍人を倒すから、待ってて。――うさみみメイドさん、行って」
 うさみみメイドさんを水晶屍人の元へ飛びこませる杏。
 糸で操られるうさ耳付きメイドさん人形は、ひらりと舞い水晶屍人を翻弄しつつ、仲間の動きを助けていく。
 まるで10秒先の未来を見てきたかのように、猟兵へ助力し、敵の挙動を阻害するうさみみメイドさん。
 その時、お嬢ちゃんと声を掛けられ、杏は振り向いた。
「不味い。足の速い奴がもう向かっているらしい……」

「我は願う、力を翼と成し、我が意と共に在ることを」
 精霊の力を借りて、幻の翼を得んとすべく願う泉宮・瑠碧(月白・f04280)。
「……力を貸して」
 清涼な風が吹き、霧のような柔らかな水気が彼女を包みこみ、翼と変じた。
 鶴翼後方へ向かって飛翔する瑠碧、その眼差しは地上へと注がれている。点在する水晶屍人の歩みは刻一刻と変化している。
 恐らくは子供たちがいるであろう場所を目指す。
 青々とした背高――ススキだろう。その時、未だ葉鞘におさまっているススキが不自然に掻き分けられた。
 子供が一心不乱に走っている。おりんだ。きっと子供たちに合流しようと駆けている。
 ならば、と旋回するように、瑠碧は周囲を索敵した。
 ススキ野原に再び、動き。水晶屍人が一体。
 幻の翼が広がり、精霊たちは風を生みだす――安定した滞空の場を得た瑠碧は、精霊弓の弦を引き水の矢を生成する。
(「……呪術や呪詛は、人為的にそう作る物もあると聞いた事はある」)
 だが、と瑠碧は思う。
(「そんな惨い話を繰り返させる訳にはいかない……水晶屍人達だって、もう休んでも良い筈だ」)
 我が人心を失い、怨霊となり、禍殃に永く蝕まれ。
 よく狙い――、一射。狙ったのは敵鎖骨の中央だ。二の矢もまた同じ部位に当たり――そこは水晶屍人の急所であった。屍人と、水晶。繋ぎ目は、屍人への数多の霊の干渉を阻害する。
 苦しげに動く屍人。
 嵐の前のような風を感じ、瑠碧は件の水晶に降霊の気配を見て取った。
 眩い閃光が放たれる前に、闇の精霊へと願う。
 影が遮光の幕を張って光を抑え――重ね、重ねて、柔らかな闇絹は水晶屍人をくるりと包みこんだ。
「……どうか――もう苦しまず、おやすみ」
 水の矢が音もなく、屍人を射貫く。安らかな闇に包まれたまま、屍人は深い深い、眠りへと。

「あー嫌や嫌や」
 しばらく色々と考えていたのか、萬・バンジ(萬万事・f21037)が手を振るう。パパッと、何かを打ち消すしぐさ。
 同道するように駆けていた木元・祭莉(サムシングライクテンダネスハーフ・f16554)が顔を上げた。
 二人は、先回りをする組だ。好き勝手動いているように見えて統制がとれている水晶屍人の歩みを、鶴翼と捉え、先んじて逃げ出した村人が使うであろう鳥取城への道を確保する。
「何が嫌なの?」
 どこかあどけなく尋ねる祭莉の声に、顔を顰めていたバンジは笑おうとして失敗した。呼気を鋭く吐き出し、
「敵の成り立ちやら知ってしまうと魔術が鈍るねん」
「あー……無粋だよね、セイメイとかいう奴」
 ……静かに眠らせておいてあげなよ、って思うよね――耳と尾をぴんと立たせながら、呟く祭莉。
 餓えは苦しい死に方だ。隣人を、仲間を喰わねば生きていけない飢餓。どれほどのものだろう。
 生き延びたとしても、尊厳の潰えた人の果てなど知れたものだ。
 心は真に人道に戻れるか? 否だ、とバンジは思う。心が訴える罪過に殺されてしまう。
「考えるのやめやめ、切り替えてこ。な?」
「――うん!」
 祭莉は木々の間にある茂みに。
 バンジは木の上に。二人とも潜伏して待っていると、村の男が後ろを振り返りつつ逃げてくる。
「おじちゃーん」
 がさがさと茂みから出てくる祭莉に、ヒッと怯えの声をあげた男――おじちゃんは祭莉を見て安堵の息を吐いた。
「な、なんだ、子供か」
「おじちゃん、鳥取城に向かってるの?」
「ああ! 主さまにお伝えせねばいかんと――」
「あー、やめときなやめときな」
 今度は上から降ってきたバンジの声に、またもやヒッと飛び退くおじちゃん。
 鳥取城が今危険なことを伝えると、おじちゃんは途方に暮れた顔をした。
 祭莉が地面に地図を描いて、猟兵たちが向かっていて安全な場所を教える。広い場所に出れば、飛翔し索敵中の瑠碧が安全なルート詳細を教えてくれるだろう。
 が、散り散りに逃げ出した村人が既にいて、この道を通るらしい――おじちゃんは他の者へ教えるべく近くの山小屋にしばらくいると去っていった。
 見送り再び潜伏する二人。
 しばらく待っていると、男の通った道を二体の水晶屍人が呻き声をあげながらやってくる。
「…………。万物一切、神の随に」
 バンジが告げれば。
 さあ、と雨が降ってくる――現状、ただの雨と認識した水晶屍人の歩みは止まらない。
「恵みの雨やで。キミらだけ蕩かす「酸」の「雨」やけど」
 木の枝に座り、話しかけるように、どこか優しく、どこか突き放すようなバンジの声。
「グズグズに溶けて動けんようになってまえ」

 雨が降る。
 濡れた屍人をバンジの放った雷撃が襲う。
「雨に濡れた体ならよう効くやろ」
 細い閃光が躰全体を走れば、徐々に屍肉がほろほろとほどけていく。
「人助けは嫌いやけど、キミらはもう人やない」
 何度も何度も駆ける雷が、敵を穿つ。
「だから助けたるよ。はよお帰り」
『ア、ア、……ウ』
 地に倒れた水晶屍人ががりがりと指で地を削る。その身にだけ効く酸の水は指先をも溶かしていく。
 天地ともに雨水が屍人を溶かしていく。
「んで来世は腹いっぱい食って生きろ」
 そう呟いて――呟きは思わずだったのだろう、チッとバンジは舌打つ。
「……クッソ、考えんようにしよ思ったのに、てんでダメやん」

 雨が降る。
 ざん! と茂みから飛び出し駆けた祭莉の音は、静かな獣の咆哮のようだった。
 迅速に、容赦なく。
 脚を狙い灰燼拳を放てば、地面から跳ねた水飛沫に脆くなっていた敵脚は瓦解した。
『ガアアアァァ……!!』
 つんのめる水晶屍人が口を大きく開け、牙を剥きだしに、祭莉の上へと降ってくる。
 その喉笛をアンバーナックルを打ち出した祭莉が、潰す。
 痛覚の無い屍人も、直接潰されれば声を失った。
 胸倉を掴み、敵を地面へと叩きつけた祭莉。頑丈であり脆い屍肉が飛散し、水晶混じりの胸骨と背骨が垣間見える。
 銀の瞳が鋭くなった。父によく似た瞳であった。垂直に繰り出した拳が水晶を砕けば、瞳に破片の青が差した。
 杏が村の男と一緒に走ってくる。
 ゴッと水晶を打ち砕いた琥珀のナックルリングからぱらぱらと破片が落ちた。
「……これが、狼の狩りだから。思い知った?」
 怨霊に、否、水晶に話しかけるように、祭莉は言った。
 じっと。
 待てば、双子の兄が振り向き「アンちゃーん!」と片手を振ってくる。
 戦いが終わればいつもの祭莉だ。
 知っているけれど、だけど、と杏は傍に寄る。
 ふわふわの耳を、ふわっと撫でて。
「セイメイ、倒そうね」
「……。――ん、頑張ろっ♪」


「おりんちゃんたち、無事だったー? 迎えに来たよー!」
 祭莉と瑠碧が、子供たちの迎えへと赴いた。
 ぱっと顔を上げたおりん――少女は、地上から瑠碧を見たのだろう、安堵したように頷く。
「だいじょうぶ……! みんな無事よ」
 応えれば、にぱっと笑む祭莉。
「もう大丈夫だけど……大人たちが疲れていたら、慰めてあげて。
 おいらたちが萎れてたら、夢も希望もなくなっちゃうからね!」
 うん。と素直に頷くおりん。
 村へと戻れば、親子の再会が待っていた。我が子を抱きしめ泣く母親と父親、緊張がほどけ泣き叫ぶ子供。
 男たちは安否確認に走っている。
「散り散りになってしまった村の者は、飛翔し、僕が探してこよう」
 祈りを捧げたのちに瑠碧が言い、「お願いするね」と杏は送り出す。
 水晶屍人の撃破確認を終え、そのままおじちゃんと男が山小屋で身を隠しながら、逃げてくる村の者へ事の説明にあたることとなった。
 ふらりと杏が歩き、動かない屍人の元へ――まだ消えない体。
 しゃがみ、大事なものを見せるように何かを持つ。バンジと祭莉が後を追えば、
「屍人……ううん、鳥取城の人達、後でお城においも、お供えにいく」
 少女の手にあったのは芋であった。
「皆が飢えないように。だから、安心して休んで」
 声に応じたのか、否か。
 骸の海に還ったのか、否か。
「……消えたやん」
 分からないが、バンジは水晶屍人が消える瞬間を目の当たりにした。

 鳥取城。
 永く、強く、恨みの念が残る城。
 怨念を利用し、更に餓え殺しを再び行おうとしている安倍晴明。
 彼の所在は知るところとなった――様々な思いを胸に顔を上げ、鳥取城の方を見る猟兵たちであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月15日


挿絵イラスト