エンパイアウォー⑲~唯一無二
●戦い方の話をしましょう
「敗れし一柱、葦に還りて大いなる苦しみとならん」
書の一節を諳んじて少年は地図を広げた。
「信長軍の魔軍将の一人、侵略渡来人『コルテス』の居場所が判明致しました」
「海に浮かぶ赤い大鳥居」
鳥居の上、隷属させた嘗ての神『ケツァルコアトル』に騎乗したコルテスは高みの見物をしている。コルテス本人は戦争の行末には一切興味がなく、己の欲望を満たすためだけに動いているようだ。ケツァルコアトルには「隷属の呪い」と「コルテスが死ぬと自身も死ぬ呪い」が掛かっている。
「幾つもの国を滅ぼし渡り歩く侵略者。残酷な野心家。乱世の奸雄。不遜なるコルテスとの戦いでございます」
ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は困った様子で眉を寄せ、説明した。
「此度の戦で必要とされるのは、被らない戦術でございます」
コルテスが自分の力で直接戦ったのは、侵略を開始した最初の数回のみ。以降は『侵略して滅ぼした世界の戦力』を利用して、安全圏から楽しく侵略と虐殺を繰り返してきたのだ。
コルテスは『戦闘の仕方を忘れて』いる。その為、予想できないようなユーベルコードの攻撃に対しては、一方的に攻撃される。だが、真正面から切りかかるとかわかりやすい正拳突きのような、予想が出来る攻撃、或いは『先に戦った他猟兵から似たような攻撃方法を既に受けている』場合は、「その攻撃は、既に思い出した」といって、激烈な反撃を行ってくる。
「戦い方のお話をしましょう。僕達にはその話が他の何よりも大切で、優先すべきことだと、僕は思うのでございます」
ルベルはそう説明し、魔導式天球儀で映像を壁に投影した。
「これより先の映像はシミュレーション映像でございます。前提として、ユーベルコードはそれを命中させるための工夫・前行動ののちに放つものとしましょう。1人目が『人狼咆哮』を使います」
声と共に立体映像が範囲無差別攻撃を放つ。
「1人目のユーベルコードはコルテスを一方的に攻撃できます」
ルベルは2人目のシミュレーション映像に切り替えた。
「2人目が『人狼咆哮』を使います」
声と共に立体映像が範囲無差別攻撃を放つ。
「コルテスは「その攻撃は、既に思い出した」と言うでしょう」
ルベルは3人目のシミュレーション映像に切り替えた。
「3人目はコルテスの近くに『ダメージを受けると爆発する』罠を用意し、『人狼咆哮』を罠を破壊するために使用します。
声と共に立体映像が罠攻撃を放つ。
「3人目は一方的にコルテスを攻撃することができます」
「以上のことから、今回は、普段よりも厳しい戦いとなるかもしれません」
ルベルはそう言って猟兵に頭を下げる。
「僕は準備が出来た方から順に戦場へ転送します。遅れればその分、攻撃方法は被りやすくなることでしょう。故に、貴方様の攻撃方法が他猟兵と被らぬアイディアを誇れるものであるという自信が持てない場合は、他のグリモア猟兵の作戦にてそのお力を揮われることをおすすめします」
●『コルテス』
海は穏やかに波打っていた。
「下等生物が犇めいているな、騒々しい事だ」
髭の男はそう言ってクスノキに唾を吐く。
「つまらない国だ。私が以前訪れた国はもっとマシだったぞ」
男の眸は宝を吟味していた。海に浮かぶ鳥居などは羽休めだ。エンパイア中の『マシな』宝を捜し、奪おうと考えているのだ。
戦況になど、何の興味もなかった。
ケツァルコアトルがゆらりと幽気を揺らして眼を開ける。円なる光の眼からは一切の情が窺えぬ。
「ほら、ケツァルコアトル。わが乗騎になれた事を感謝して、また子を作れ。お前の子でも送っとけば、邪魔をする馬鹿も減るだろう」
男はそう言い、奴隷神の羽を戯れに毟り取り海へと棄てた。
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
OPでグリモア猟兵が説明していますが、「他の人と被らない戦い方」がとても大切なシナリオです。シナリオ難易度は「普通」ですが、失敗や苦戦になりやすい戦いです。参加の際はご了承の上で臨んでください。
プレイングは送信頂いた順に採用・執筆してまいります。早ければ早いほど安全に攻撃することができます。「失敗や苦戦になる場合は不採用にしてほしい」という方は、プレイングに記載いただければそのように致します。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『侵略渡来人『コルテス』』
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POW : 古典的騎乗術
予め【大昔にやった騎馬突撃を思い出す 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : マスケット銃撃ち
【10秒間の弾籠め 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【マスケット銃】で攻撃する。
WIZ : 奴隷神使い
【ケツァルコアトルの噛みつき 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:シャル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヨナルデ・パズトーリ
貴様も又、奴と同じくこうも神を辱めるか・・・
そ奴の世界の妾に代わって云おう・・・疾く滅びよ下郎!
海に囲まれた鳥居という『地形を利用』し『迷彩』により『目立たない』様にした上で『水泳』の技術を用いて『暗殺』の要領で隠匿
隙を伺う
敵の隙を『野生の勘』と『第六感』を駆使して『見切り』『高速詠唱』により
煙の『属性攻撃』を『範囲攻撃』の『全力魔法』を『目潰し』として放つ
『先制攻撃』
UCを発動
高速飛行による『空中戦』で肉薄し『怪力』で振るわれる『呪詛』の籠った
斧による『鎧無視攻撃』の『二回攻撃』を『傷をえぐる』様に叩き込む
攻撃は『野生の勘』で『見切り』『残像』で回避
当ったら『オーラ防御』と『激痛耐性』で対処
●始まり
――貴様か、と。
ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)は誰よりも疾く戦場へ跳び、敵を視た。女神ヨナルデの踏みしめる大地は嘗ての故郷とは違う。
足先が水に着く。
音もなくヨナルデは海中に身を潜めた。目立たぬよう、泳ぐ背側には海と同化するような色彩を纏っている。全身に穏やかな波を感じる。時折全身を沈め、時折岩陰に身を顰め、少しずつ接近したヨナルデは、やがて大鳥居の真下に泳ぎ着いた。ほんの僅か殺気が漏れれば即座に気取られる――敵の隙を窺わなければならない。
頭上に、特別な名を持つ隷属神がいる。
(妾の好敵手、妾の兄、妾の伴侶と同じ名を持つ者と、その子を、よくも)
目蓋が熱を持つ。ぎり、と奥歯が噛みしめられた。だが、殺気は決して漏らさない。
頭上の男は、無防備だった。戦う者の纏う気配がない。罠だろうかと疑ってしまうほどに、悠々として無警戒だった。何故だ。――脅威が存在しないと思っているからだ。
(ならば!)
胸の中に蜷局を巻く灼熱に突き動かされるようにヨナルデは煙を吐く。眼尻が熱い。夜よ来い、ヨナルデは詠唱する。敵が静まるなら斧が切り落としてやろうではないか。煙は自然の霧のように周囲にじわりじわりと充満した。
「……ほう」
男の低い声がした。
「これは自然のものではないな」
視界を奪われながら男は嘗ての航海を想い目を細めた。まさか今、足元で自身に戦いを挑もうとしている者がいるとは全く想像もしなかった。
ぎり、と殺気と神気を抑え込みヨナルデは全力で詠唱していた。
「力を貸して貰うぞ、妾と対なす者、戦友にして好敵手にして兄妹だった者」
神気が密やかに海面に満ちる。まだ敵は気付かない。もっと速く――ヨナルデは思った。この速度では、足りない。だからヨナルデはもう一度集中しなおし、速度をあげた。
「神である事に囚われ壊れ妾が過去へと送った伴侶! ――翼ある蛇よ!」
新緑の幼姿にスルリと翼が生える。鱗が肌を覆う。浮上する刹那、別れを惜しむように海水がちゃぷりと音を立てた。音に男が、コルテスが視線を向ける。軽く眉を上げるのが見えた。
(――もう遅い!)
「カカ、カカカカカカカ!」
爆発的な速度でヨナルデは巨大な斧を振る。戦己は黒曜を青空に煌めかせ、ブンと空気を唸らせた。幼い神姿が操る黒斧は完全に油断しきっていた『コルテス』の肩口から胸にかけて深々と斬り裂いた。
「――ガッ、……!?」
驚愕に目を見開く男。
其れは全く思いがけない出来事だったのだと目が物語る。ヨナルデには、其れもまた腹立たしい事であった。
「妾、テスカトリポカの前で世界は異なれどケツァルコアトルを、その子を、よくもよくもよくも!! 貴様にはやらぬ、何ひとつやらぬ! ――滅びよ、滅びよ!」
幼い声が烈しい怒りを吐き、海が大きく波をあげた。
――猟兵達の奇襲作戦は、こうして幕を開けたのである。
成功
🔵🔵🔴
天御鏡・百々
神を隷属させるのも
日輪の力を利用するのも
許せることではないな
(百々の本体の神鏡は日輪の神の神器)
我が破魔の光を受けてみよ!
破魔69を乗せた『天鏡破魔光』を奴の顔目掛けて放つことで
ダメージを与えると共に目潰し5だ!
可能であれば神社の建物に隠れて近づき
奇襲として行いたいところだな
角度的に直撃させづらいのであれば
念動力10で操った普通の鏡を経由して
光の軌道を変えるのも良いだろう
そして目潰しで隙が出来たところで
側面または背面に回って
真朱神楽(武器:薙刀)で防御の隙間を縫って切り裂いてくれようぞ
(鎧無視攻撃5)
●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎
●失敗や苦戦になる場合は不採用で
鞍馬・景正
ただの剣術では通じぬ恐れがあろう。
ならば【倫魁不羈】による奇手でお相手致す。
得物として選ぶのは、御公儀より特別に借り受けた国崩し二門。
その筒先をコルテス卿──ではなく、我が背後に。
そして同時に発射し、その反動を推進力として彼の懐に飛び込ませて頂く。
砲撃の煙幕でケツァルコアトルの目を潰している間に国崩しの砲身二刀流でコルテス卿を【怪力】の限りに殴打。
怯ませれば【2回攻撃】で追撃殴打!
ついでに【早業】でおまけの殴打!!
知的生物と認めない?
結構、エンパイアの武士など京の公家たちから何百年間、その何兆倍と粗野であることを謗られてきた。
今更そんな安い罵倒は通じぬ。
※戦法が通じそうに無い場合、出撃を自重。
●連撃
清雅なる竜胆色が潮風にはためく。陣羽織に咲く至誠の花は常に一輪。幽夜が風孕み鞍馬が嫡男が戦に臨めば百戦危うからず。
「御公儀より特別に借り受けし国崩し、活用させて頂く」
小さな女神が煙を吐くと同時に、鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)が背後に国崩し二門の筒先を向けて発射する。
爆音は大地揺らがし波高く鳴りて朱の鳥居を揺らすほど。天雷无妄、鞍馬羅刹の真骨頂をしかと見よ――濤景一文字を空に抜き、景正が砲撃の反動を推進力として空を疾風の如く跳ぶ。
共に戦場に到着していた『童女』はそっと物陰に潜みながらその光景を視た。若き剣豪が、砲撃の反動で空を飛ぶ。
――冗談のような光景だ。だが、これぞ。
『童女』はふわりと微笑んだ。そして真剣な表情となる。
(あの面妖な男、コルテスは非常に強力なオブリビオンではあるのだが……その慢心が付けいる隙だな)
「貴奴はこれまで、『侵略して滅ぼした世界の戦力』を利用して、安全圏から楽しく侵略と虐殺を繰り返してきた。よって自分が直接攻撃される事を想像もしておらぬ」
呟く声は密やかに。
「慢心を突けば必ず勝利出来るはずだ」
――其れは、予知に似て。
『童女』の見守る世界で、猟兵が初撃を成功させ、続く猟兵が名乗りをあげている。
「徳川家旗本、鞍馬の景正が推参と知れ!」
若武者が一声は青々とした海に朗々と響く。青空と海とを背に凛々しい青年剣豪が空を往く。
「――勝負!!」
味方の煙幕と景正の砲撃の煙幕が相乗効果を為して敵の視界を大きく制限している。
景正が空中で大きく両脚を突き出した。前へ。両腕では国崩し二問を天へ突き上げ。
「破ッ!!」
裂帛。腹に力を入れてぐっと突き出した両脚を下に下ろし、同時に両腕を振り下ろす。全身を縦に廻る独楽の如く、景正は『コルテス』に国崩しを振り下ろした。羅刹の尋常ならざる膂力は極めて鈍重な音を響かせ、味方に続く痛撃を加えることに成功したのである。
「何だ!? 一体……っ」
コルテスが痛撃に表情を歪ませつつ、ケツァルコアトルの手綱を繰り体勢を整えようと身構える。全く寝耳に水もよいところであった。コルテスは、下等生物犇めくこの世界でただ悠々と観戦をしていたのだ。彼に攻撃を仕掛ける者がいるとはついぞ思ってはいなかった。下等生物だと思っていたのだ。仕掛ける者がいたとしても――間合いに接近し、その身に傷をつける牙を持っているなどとは露ほども思っていなかったのだ。
「お前らは何をしているのだ。下等生物風情が、誰に牙を剥いているか分からないのか、私は」
「――侵略者! コルテスよ!」
そこに、間髪入れず閃光が走る。
神気帯びし鏡が虚空に浮いて光を敵へと導く。
――なんと眩き清光だろう、なんと清らかな眩光だろう。エンパイアの人々が此処にいればその神々しい光に心震わせ膝をついたに違いなかった。
「我が破魔の光を受けてみよ!」
あどけない声が海に響く。
「お味方か。――頼もしい!」
クスノキの上にすたりと着地し国崩しを構え直していた景正が場所を探れば、可愛らしい童女が赤いクスノキの陰にちょこん、と身を潜ませていた。愛らしい姫姿はしかし、紛れもない神気を周囲に漂わせている。
周囲からは他の猟兵達も姿を見せ、一斉奇襲に打って出ている。先駆けの女神と同様、猟兵達が続々と参戦しているのだ――驕れる侵略者から世界エンパイアを守護するために。
咲き乱れる花の如き絢爛の神衣を潮風満ちる青景色に靡かせて聲の主、愛らしい童女姿の天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)が大きな瞳をぱっちりと見開いて敵を見つめている。やわらかな黒髪が風に揺れれば、あわせ舞うように髪飾りが可憐に躍る。神明翡翠玉が陽光を反射させて煌いた。
百々の本体たる破魔の神鏡は常以上の輝きを放ち、敵に反応する暇すら許さず目を晦ませた。
「神を隷属させるのも日輪の力を利用するのも許せることではないな」
百々がそう言ってクスノキからぴょこんと跳ねた。童女は羽のようにふわりと風に乗り、くるりと子猫のように宙でその身を廻転させる。真朱神楽がクスノキに直角に交えるようにして振られ、敵の堅角をキンッと軽やかな音立てて斬り落とす。海へと落ちていく角がキラキラと銀色に輝いた。
「知的生物と認めない? 結構、エンパイアの武士など京の公家たちから何百年間、その何兆倍と粗野であることを謗られてきた」
おまけとばかりにもう殴打を加えながら景正が苛烈な眸を敵に剥く。
「今更そんな安い罵倒は通じぬ」
表情を崩さぬ剣豪の眼で藍の彩が静かな闘志に燃えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジャハル・アルムリフ
物覚えが良いのは見習わねばなるまいが
奴の態度は気に食わぬ
奴も覚えのない一手…か否かは解らぬが
脳裏を過ぎるは叱責の声
…ああ、人に向けるなという話だったな
黒剣を真っ直ぐに構え突撃姿勢
けして逃さまいと中央に見据え
発動は【竜追】
最速、最短の直線距離にてコルテスの身体を穿たんと
<部位破壊>により
腕、否――指の一本でも居り砕いてやれぬものか
たとえ交錯は一瞬とて
奴なら反撃も容易かろうが躊躇いはしない
黒剣には<呪詛>を乗せておき、奴を蝕めと命ず
この一撃も奴の経験に重ねられるのだとしても
続く猟兵らへの足しになれば良い
●激突
時を同じくして長身のドラゴニアンが飛び出していた。
(物覚えが良いのは見習わねばなるまいが奴の態度は気に食わぬ)
手には誓いの黒剣を携えて。真っ直ぐに構え。風がひゅんひゅんと唸り、全身を包む。名を竜追という。
飛翔するジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は落ちる銀角と入れ替わるように大鳥居の上へと猛進した。地上より放たれた黒き風が刹那想うは師父の叱責。
「……、」
呟く。
声が風に溶けていく。
後ろに流れて、世界のどこかに飛んでいく。
ジャハルの黒き瞳は敵を捕捉して静かながらも猛き戦意を燃え上がらせた。
(けして逃がさまい)
ひたりと中央に見据えた敵は哀れなる奴隷神を叱咤して鳥居を離れ空へ昇ろうとしていた。
「――また来たか!」
目が合った。ジャハルはそう思った。
最速最短、直線距離にて真っ直ぐにコルテスを穿たんとするジャハルへとコルテスが眼を怒らせた。
「思い出した、お前のように真っ直ぐに向かってくる男をな!」
手綱を操り、コルテスがケツァルコアトルを奔らせる。
「駆けよ駆けよ我が乗騎! 夜の嘆きを哀しきを怒りに変えて!」
奴隷神が嘶き空を駆ける。嘗て騎乗術を駆使して突撃したのだとコルテスは思い出し、突撃するドラゴニアン・ジャハルを迎え撃つべく自らも奴隷神を駆り空を奔る。
「上等だ」
赤き鳥居のすぐ上にて2つの影が交差する。
熱烈に交差する2者に他が介入する隙はなかった。海と空の青が見守る中を高速で接近する2つの影は一瞬すれ違い――、
「くっ……!!」
抑えた声が零れる。
コルテスの腕が大きく斬り裂かれ、鮮やかな血花を噴かせていた。
(腕を持っていきたかったが)
自身も浅い傷を負いながらジャハルは呪詛を発動させる。
「奴を蝕め」
――この一撃も奴の経験に重ねられるのだとしても続く猟兵らへの足しになれば良い。
赤きクスノキが血に濡れる。風がふわりと吹いてその生あたたかい匂いを潮に乗せた。
「……ああ、人に向けるなという話だったな」
ジャハルの脳裏には、その時やはり師父の叱責の声こそが蘇っていたのであった。
苦戦
🔵🔴🔴
須藤・莉亜
「びっくりするような攻撃すれば良い良いって話?」
なんとか神様の血だけでも飲みたいもんだね。
伝承顕現【首なし騎士】のUCを発動し、デュラハン化して戦う。
敵さんにある程度近づくまでは普通の騎士に見えるように、悪魔の見えざる手に頼んで胴体に乗せた首を支えといてもらっとこうか。
近づけたら自分の首を敵さんにぶん投げて、首だけ【吸血】アタック。
それで隙ができれば、衝撃波込みで大鎌でぶった斬るのもありだね。
首の回収は悪魔の見えざる手にお願いしよう。
【見切り】や【第六感】、それと【武器受け】で防御するのも忘れずに。
「君も首だけになってみたら?案外面白いよ?」
●『投擲首』
「びっくりするような攻撃すれば良い良いって話?」
その日、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は戦場にいた。自由人である莉亜はのんびりと戦いを観ていた。
(ちょっとくらいの味見は良いよね)
ダンピールの紫水晶めいた瞳は敵影に向けられる。さらり、と長い髪が背に流れる。
「まあ、その前にやられないように気をつけて程々に頑張らないとね」
どこかぼんやりとした声がそう言い、ユーベルコードを発動させる。『伝承顕現【首なし騎士】』は術者である莉亜の痩身をデュラハンの鎧で包んでくれる。首なしの名に違わず、胴体から上には莉亜の首が見当たらない。寿命を一秒ごとに減らしながらの技だが青年に其れを気にする様子はなかった。
首のない騎士鎧姿になった莉亜の身体を首が見上げる。デュラハン化した拍子にちょっと落ちてしまったのだ。
「敵さんにある程度近づくまでは普通の騎士に見えるようにしないとね」
契約した悪魔の視えざる手に命じれば、透明な両腕が大切そうに莉亜の首を抱え上げて胴体に乗せ、支えてくれる。
「普通の騎士に見えるかな?」
さらり、繊細な髪が風に靡く。悪魔の視えざる手がしっかりと首を支えてくれているのを感じながら、莉亜は敵に近づいていった。
「また一人、新手が来たか」
コルテスが地上を睥睨する。その身は奇襲に傷を負い、幾多の猟兵に囲まれていた。だが、嘗て勇猛な指導者と言われた男は凄まじい圧を周囲に放っていた。
「下等生物がたまたま私に傷を負わせたからと調子に乗りよって。お前らなど私の相手になるものか」
――戦い方さえ思い出せば。
コルテスはその言葉を飲み込んだ。
瞳には、未だ油断がある。
「お前は何をしてくる? 騎士のように見えるな。剣か。槍か。騎士との戦いを思い出せ……」
後半は己に言い聞かせるようであった。
そんなコルテスへと莉亜は峻烈に駆けた。
「むうっ!」
敵が身構える。そして目を疑った。
「!?」
――向かってくる騎士の腕が自分の首を突如鷲掴み、コルテスに向けてぶん投げたのだ!
麗しい青年の白皙が飛来して迫り、紫の眸が爛々として口が開けば真珠の如き牙を剥く。
『未知の攻撃』。
それはコルテスの未知であった。
否。コルテスだけではない。このエンパイア中の民に聞いて回ってもこの『首投げの飛翔』を知る者はそういまい。
投擲された莉亜の首が無防備なコルテスのうなじに辿り着き、獰猛に牙を突き立てた。
「アアアアアアアアアッ!!?」
『吸われる』。
吸血もまた未知であった。
莉亜はどくりどくり脈打つ熱き血潮に舌鼓を打ち、一通り愉しんだのち悪魔の見えざる手により首を回収させた。
居合わせた誰も、一連の攻勢に介入する事は出来なかった。
それは衝撃的な戦いであった。
「君も首だけになってみたら?案外面白いよ?」
ただ、のんびりとした声だけが戦場に残された。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
【連携改変歓迎】
「一発勝負か……遊びはなしで行かないとね」
宝探しならときめくけど、強奪は好みじゃない。
おじ様には退場を願わねばならない。
・戦闘方針
蒸気バイクで距離を詰めアサルトライフルで射撃する。危険なのはマスケット銃。【野生の勘、情報収集、戦闘知識】でタイミングを読んで、銃を投げ捨てて斜めに構えた【紋章板】で受け流しを狙う。
そのままバイクを乗り捨てでぶつけつつ、【忍び足】で背後を狙い【封印を解く】で【真の姿】からのUCを狙う。【グラップル、怪力、属性攻撃、鎧無視攻撃、二回攻撃、部位破壊、マヒ攻撃】で斬撃如き一瞬の複合関節技を仕掛け、即座に外して地面に沈める打撃の連携につなげたい。
●翻弄
一瞬の静寂を打ち破りしは、才堂・紅葉(お嬢・f08859)であった。
「一発勝負か……遊びはなしで行かないとね」
(宝探しならときめくけど、強奪は好みじゃない。おじ様には退場を願わねばならない)
紅葉はほんの少しだけ調べたおじ様の情報に眉を寄せた。侵略した先での文化に対する無理解、現地女性に対しての侵略者達の振舞い、国滅ぼしたのちしばらくの歴史書は侵略者を英雄と讃え、野蛮の一言で踏みつけられ消された大切なものたち。
「これだけ大きな仕事はそうなくない? 相手、コルテスよ、花の女子高生に何をやらせるのかしらね、本当……」
追加料金の交渉を考えつつ、お仕事お仕事と紅葉は蒸気バイクに跨った。
「おじ様、『蒸気バイク見たことある?』」
「何っ」
花の女子高生が鳥居を蒸気バイクで登っていく。
「――ないでしょ、『あっても忘れてるでしょう!』」
明るい色の瞳が勝気に笑みを浮かべた。長い髪が後ろに流れて揺れている。手に携えたアサルトライフルを器用に撃てば、ケツァルコアトルが短い悲鳴をあげた。コルテスが咄嗟に盾にしたのだ。
「こんの! 最低おじ!」
紅葉(は銃を投げ捨て、斜めに構えた紋章板を構えてバイクで体当たりをするように突進した。紋章板は108枚重ね術式をなす。特殊鋼製に煌めく蒼色は高度に発達した文明の産物にて強固なる盾となる。
「くっ、騎乗と同じものだと思えば――!!」
バイクの体当たりに似たものを想起しようとしつつコルテスがケツァルコアトルに退避を命じようとし、舌打ちをした。
「愚図が!」
負傷したケツァルコアトルの動きが眼に見えて鈍っていた――『避けるには余りに遅い』!
「こんの、クズおじっ!」
紅葉がバイクを衝突させる。凄まじい衝撃がケツァルコアトルと騎乗者であるコルテスを襲い。けれど紅葉の攻勢はここからが本番であった。
「こんなもんじゃないでしょう、あなた。でもね、倒せる時に倒させてもらうわ」
どこか高貴さ、気高さを感じさせる声だった。コルテスの感性、記憶で言えば『王族』や『貴族』が近い。その娘猟兵の声は、気配は――背後に廻り込んでいた。
振り返ったコルテスは一瞬状況を忘れて固まった。娘が『姿を変えていた』。真の姿へと変じていたのだ。
猟兵は姿を変じる事が出来る。
「『見るの、はじめて?』」
鮮やかな紅色の双眼が間近で微笑んだ。背に流れる髪もまた同じ色に染まり、風にふわりと舞い上がる様がとても鮮やかで美しい。
一瞬。斬撃の如き高速の『複合関節技』が仕掛けられ、そうと認識する暇さえなく外されてコルテスは鳥居の上に大きく身を打ち沈められていた。
怒涛の未知の波が押し寄せ、「おじ様」は娘一人に翻弄されるのみであった。
大成功
🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
要するに、他の人と攻撃方法が被らない様にしろって話だよな
相談なしのぶっつけ本番だとちょっと厳しい条件な気もするが……
まぁ、やるだけやってみるか
◆SPD
まず戦闘に入る前に、【錬成カミヤドリ】で複製した宝珠を
【迷彩】技能で周囲の景色に溶け込ませておく
仕込みが終わったら戦闘開始だ
敵の攻撃は【見切り】【残像】【武器受け】で回避
【忍び足】+【目立たない】技能で常に敵の死角へ移動を繰り返し
【早業】で手裏剣を【投擲】するか、魔導蒸気式旋棍で殴る
その間、上記の複製宝珠をコルテスの周囲に移動させておく
後は向こうが隙を見せれば、それらを一斉に打ち込んでやるだけだ
それで倒せなければ、破砕錨・天墜もおまけに付けてやる
●錬成カミヤドリ
「要するに、他の人と攻撃方法が被らない様にしろって話だよな」
月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が帽子のつばを軽く下げ、その下の眸を煌めかせた。
「相談なしのぶっつけ本番だとちょっと厳しい条件な気もするが……」
少年は正しく状況を理解していた。先駆けする猟兵がどんな戦法かがわからないブラックボックスは、同時に多人数が参加する戦場ほど危険が増す性質を有している。
「まぁ、やるだけやってみるか」
――思い付いたから。
ハルマは普段通りに素早く策を練り上げた。ヤドリガミの化身忍者の少年にとっては容易い事だ。ハルマは慣れていた。
はぁ、と男が息を吐く。熱い吐息に交じり頬を一筋の汗が伝い流れた。その事実にコルテスが愕然とする。それは、何時以来の衝撃であろうか。未知なる攻撃から逃れようと距離を取り――、
ヒュ、と風が鳴いた。
「ッ!?」
びくりとケツァルコアトルが全身を跳ねさせ、悲痛な声をあげる。傷を負ったのであろう。コルテスは、自身の首元を狙い飛来した其れを辛うじて銃身で防ぐことに成功していた。カラリと硬い音を立てて落ちる破片のようなテツクズを視れば、四つ芳香に渦を巻き刃を尖らせるような奇妙な形をしている。次いでヒュ、ヒュ、ヒュンと風が鳴り次々とそれが飛んでくる。
コルテスは幾つかを身に受けながら恐ろしい事に気付いた。死角から次々と飛ぶ其れ。同じ敵が放っているはずの其れは四方から驟雨の如く襲い来る。誰が放ち、何処から飛んでくるのかが、わからない。それほどの、隠密。それほどの早業。
(今だ)
忍びながら手裏剣を投擲していたハルマは機を悟る。無言のままに念を送れば錬成カミヤドリにて予め複製し、迷彩を纏わせて空に溶け込ませていた46個の宝珠が一斉にコルテスめがけて打ち込まれた。
「これは!?」
何が起きているのか、それがどんな技なのかも理解できぬままケツァルコアトルの上で身を折り衝撃に耐えていたコルテスの背に忍者の破砕錨・天墜が渾身をもって打ち振るわれた。
「おまけ」
短い言葉がかけられた。見ると、黒い瞳の少年がニッと笑い、次の瞬間には大きく間合いから飛びのいて白昼夢のように跡形もなく姿を隠してしまった。
「これは……エンパイアのシノビとやらか」
その少年、隠密に長じて疾き事風の如し。柔軟なる様は水に似て苛烈なる様は雷鳴の如し。
大成功
🔵🔵🔵
矢来・夕立
わざと真正面から行きます。
【嗤躱身】。カウンターで式紙を撒く忍術です。
それ自体はよくある戦法ですが、やるコトは少し違います。
目潰しを狙っている…ように見せかけるだけです。
この手裏剣は《だまし討ち》。《忍び足》で退避するための目くらましです。
さて――勝手に動く紙を見たコト、あります?ないなら重畳。
本命はこれからです。
『幸守』、『禍喰』。《暗殺》しろ。
二手目が通じない以上、一発勝負です。暗殺に二回目はないので、いつも通りと言えばその通りですけれど。
自分より矮小で愚鈍な生き物に殺される可能性なんか幾らでもあります。
想像の余地くらい残しておいたらどうですか?
間抜けな死因で笑われたくなければ。
●矢来・夕立の予知
「さっきの」
ふいに声がした。
見ると、先ほどとは異なる少年がいる。
眼鏡の奥で血色の眸が戦場を観ていた。名を、矢来・夕立(影・f14904)。夕立は姿を隠すこともなく敵に無表情に告げる。
「さっきの手裏剣と言うのですが、放ったのオレですよ」
嘘である。先ほどの手裏剣は味方のハルマが放っていたのだ。特に理由はない。息を吸って吐いた拍子になんとなく口から出た。それだけだった。
「ほら」
手裏剣を実際に取り出してみせれば説得力が増した。
「まあ、嘘ですけどね」
「!?」
敵が固まっている。思考が追い付いていないのか。涼しい顔をしながら夕立は手裏剣を投擲して戦う気配を見せた。
「手裏剣、か。その攻撃は二度目だ」
(そうです)
夕立は密やかに目を細めた。
――攻撃してくれないと困る。夕立が用意した術は反撃型だ。先に攻撃をしてもらわないと反撃は発動しない。
だが、この敵は戦い方を忘れているといい、奇襲により一方的に蹂躙せよという。
「はあ……」
思いが溜息になって零れると敵にとっては「攻撃が二度目だと言われて困っている」ように見えたようだった。
「数が多いと思ったが、所詮は烏合の衆ということか。ふん、所詮は下等生物だな」
コルテスがマスケット銃を撃つ。撃った瞬間、目を狙って手裏剣が飛んできた。
「相討ち狙いか?」
コルテスは眉を寄せて回避し、気付いた――猟兵がいない。
(ただの目くらましですけど)
視界から姿を晦ませ潜んだ夕立は条件を満たしたユーベルコードを発動させる。
『嗤躱身(ワライカワセミ)』。
奇襲向きではないこの反撃タイプの技は、「奇襲をして敵に反撃を許さず一方的に攻撃することを目指す」作戦には不向きだ。だが、その分被る可能性も低かった。あとは、誰かが攻撃したであろう攻撃をすればよい。
――そんな作戦だ。
「さて――勝手に動く紙を見たコト、あります?」
少年の聲が風に乗りコルテスに届く。
「紙、だと?」
「ないなら重畳。本命はこれからです」
夕立は式神に命を出す。
「『幸守』、『禍喰』。《暗殺》しろ」
折り紙が空を舞う。黒き蝙蝠の式神、『幸守』と『禍喰』が術者に従い敵に襲い掛かれば、『未知』の攻撃にコルテスは一方的に打ち据えられた。
「――迂闊なんだよ」
少年の聲が氷のように耳を刺す。
――いつも通りだ。
夕立は静かに『結果』を見る。暗殺は常に一発勝負、紙一重で生き死にが決まる。覆水盆に返らず誅されてのち二度はない。
「自分より矮小で愚鈍な生き物に殺される可能性なんか幾らでもあります。想像の余地くらい残しておいたらどうですか?」
ケツァルコアトルからずり落ちて蹲るコルテスへと冷ややかな声が降る。
「間抜けな死因で笑われたくなければ」
紡がれる言の葉に導かれるように最後の猟兵がやってくる。
――言葉は予知に似て。
成功
🔵🔵🔴
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
スケート…あの敵は知ってるのか?
いや、知っていてもきっと、俺がスケートで攻撃するなんて思わないかもしれない
つまり、俺の自慢の戦い方こそが予想できない戦い方だ!
まずは自分の剣たちだけで敵と対峙
【第六感】で敵の攻撃がどこを狙っているかを察知し
【ジャンプ】で攻撃を躱すことを試みる
敵の追撃が来る前に、≪トゥーフリ・スネグラチカ≫で氷のスケートブレードを靴裏に精製し
ここで【雪娘の靴】を発動させる!
凍らせた地面を全速力で滑りつつ
トリプルアクセル【ジャンプ】を応用した素早い回転蹴りで【2回攻撃】だ!
おじさん、俺が今何で攻撃したかわかるか?
これはな、スケートだ
人類が生み出したスポーツであり、素晴らしい芸術だ!
●スケートは剣より
夕立の言葉に導かれるようにしてヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)が敵に向かっていく。陽光に照らされて頭のゴーグルがきらきら輝いた。
「く、」
コルテスがよろめきながらケツァルコアトルに騎乗し直した。
(スケート……あの敵は知ってるのか? いや、知っていてもきっと、俺がスケートで攻撃するなんて思わないかもしれない
つまり、俺の自慢の戦い方こそが予想できない戦い方だ!)
みじかい薄氷の髪が青空を背に爽涼にさらりと流れる。少女の花菫色の目がぱちりと瞬き、キリリと前を向く。
空を背負い駆けるヴァーリャが勇ましく振るうのは氷の精霊属性が宿った剣だ。スノードームの刀身に雪が幻想めいてチラチラ舞い、身一つを刃と化したように突きの型にて突進すれば、敵が「剣か、その攻撃はもう思い出しているぞ」と侮るようだった。
「ケツァルコアトル!」
噛み付け、とコルテスが命じようとしたその時、ヴァーリャは第六感の導くままに高く跳び、特殊な魔力機構を持つ靴『トゥーフリ・スネグラチカ』に魔力を流す。すると、瞬時に靴裏に氷のブレードが精製された。
「ほらほら、こっちだぞ!」
すたりと身軽に着地し、天真爛漫な少女が明るい声をあげる。剣に反撃されそうになったことなどもう空の彼方に飛んでいくぐらいの快活な声は、愛らしくコルテスを呼んだ。
「!?」
コルテスがぎょっとする。
ヴァーリャが発動させた本命のユーベルコードは、スケート靴形態となったトゥーフリ・スネグラチカが鳥居の上を舞い踊るにつれてクスノキを凍らせ細い銀盤を創り上げてしまう。それは不思議な光景だった。空と海の狭間、朱色を凍らせて雪娘が可憐に滑り舞い、心の底から楽しそうな微笑みを浮かべる。
「おじさん!」
少女が元気いっぱいにコルテスを呼びながら全速力でクスノキスケートコースを滑走し、十分に助走して片足で踏み切り華麗に跳んだ!
キュッ!
気持ちの良い踏み切りと音にヴァーリャが眼を輝かせる。躰の動きは染みこんでいる。柔軟でしなやかな躰がしっかりとした体幹に支えられ、
シュッ!
ジャンプに氷が削られて白く清涼な飛沫をあげている。高さは十分にあった。くるくると高速で回転する少女は、そのまま着地すればトリプルアクセルを成功させていた。だが、今は単にスケートを魅せるだけではなくおじさんを倒さなければならない……!
ガスッ!
「グフッ!?」
ヴァーリャはおじさんの顔面に着地してあげた。綺麗な着地であった。審査員がいれば皆拍手したことだろう。
「おじさん、俺が今何で攻撃したかわかるか? これはな、スケートだ。人類が生み出したスポーツであり、素晴らしい芸術だ!」
剣よりスケートだったな、うんうん、と頷きながらヴァーリャはおじさんにトドメを刺したのであった。
――『間抜けな死因で笑われたくなければ』。
意識が途絶える間際、おじさんの脳裏には夕立の声が蘇っていたという。
ともあれ、こうして戦いは幕を閉じたのであった。
成功
🔵🔵🔴