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強欲王は摩天楼に潜む

#UDCアース

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#UDCアース


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●某所にて
 都市の発する人工的な光がガラスの向こうで瞬いた。暗闇の中で煌めくそれは、星の代わりに夜を彩る。
 摩天楼の景色を横目に捉えながら、椅子に座した銀髪の男は頬杖を突く。細微かつ豪勢な意匠が施されたその椅子は、どこか古風でもあった。
 不機嫌そうな男を訝しんで、同室にいた配下の人間がおそるおそる声をかけた。声の震えは隠し切れていなかった。
「ど、どうかなされましたか?」
「悪寒がする」
「へ?」
 間の抜けた返事を無視し、男は続ける。
「敵意を感じるのだ。我を討ち果たさんとする者たちの敵意が」
 すっと立ち上がると、男は配下へと歩み寄った。柔らかなベージュの外套がはためき、内側の紋様が照明の光を受けて輝いた。
「警戒を怠るな。十分な『マガツアリス』の頭数を用意しろ」
「畏まりました……!」
 焦ったように部屋を出ていく配下の後ろ姿を見送ってから、男は椅子に深々と座り直しす。気を紛らわせようと、ガラス張りの壁面へと向いた。ガラスには薄くなった自分の影が映り、奥で都市が眠らずに輝いていた。
「復活を邪魔するものは許さん……」
 それが成されさえすれば、この光景もすべて我が物。
 男は夜景を鋭く睨みつけた。

●グリモアベース
「みなさん、ビッグニュースです!」
 テレポートでグリモアベースへと飛んできた瞬間に、木鳩・基(完成途上・f01075)は大声で叫んだ。集っていた猟兵たちの何人かがそれを振り返った。
「UDCアースで活動している邪神教団の拠点が判明しました! 準備が整い次第、急襲を仕掛けます……なるはやで!」
 概要をぱぱっと言い終え、基は何枚かの写真と紙を鞄から取り出す。
 まずは近くにいた猟兵に写真を手渡した。様々な角度から高層ビル群が撮られており、共通する一つのビルに赤マルが振られている。ガラス張りの、現代地球ではごく普通の建築物だ。上空からの写真では階の途中に庭園が備えられているのが見え、ビル群の中では抜きん出て目立っていた。
「場所は日本の地方中枢都市、ちょうどオフィスビルが立ち並んでいるエリアです。このビルの上層階に、何かの事務所か企業だと偽って教団が入り込んでいるみたいですね」
 教団とは関係ない各階にいる人々はどうするの? という質問が一人の猟兵から基に投げられる。それに対して、基はぐっと親指を立てた。
「大丈夫ですよ。ビルのほかの階にいる人たちはUDC組織が退避させます。民間人の進入規制とか、あとはユーベルコードを持たない教団員たちの抑制とかもやってくれます。なので、みなさんはオブリビオンとの戦闘に集中してください」
 基は紙を差し出す。紙上には、鉛筆で描かれた男の顔があった。その端正な顔立ちの下方に、プレート状の装飾具が並んでいる。ある猟兵は、古代王国を連想した。
「『イネブ・ヘジの狂える王』といって、この拠点の頭です。古代の下エジプトで国王だった人物で、つまりはもう死んでるはずなんですが……復活しようと動き回ってるみたいですね」
 UDC組織から得た情報を、基は話し始める。彼は、これまでに起こった祭具奪取事件や邪神召喚事件の一部を裏で操っていた可能性がある。復活の方法を模索しているためでもあるが、甦った後の戦力を欲しているためでもあるようだ。生前から自らの利潤のためなら多くの犠牲を厭わない人柄であり、事実、多数の生贄をUDCに捧げて莫大な富を得たという記録がある。
「話が逸れましたね」
 彼女は手を叩いて音を鳴らすと、作戦についての説明を再開した。
「ボスの人は最上階にいるようですが、各階には護衛のオブリビオンもいます。できるだけ早く排除して、階を上るのが吉ってもんですね」
 邪神に関する資料が配られる。
 対峙することになる『マガツアリス』は、捧げられた生贄に邪神「第零の蟻」が憑依したものだ。一個体でも戦闘は可能だが、集団戦で真価を発揮するようだ。残念ながら、贄となってしまった人々を救い出すことはできないが、それならば早々に解放してやるべきでもある。
「わたしが予知で見た感じだと、対猟兵のための『マガツアリス』の準備が間に合ってないみたいです。それでも居るには居るでしょうけど……突っ込むタイミングとしては、なかなかバッチリだと思いますよ」
 ただ、と彼女は付け加える。
「戦う場所はオフィスビルです。儀式場や集会所などの開けた部屋を選ばず、デスクとか本棚とか、物陰のある部屋に潜んで奇襲を仕掛けてくるかもしれません。あと、廊下や階段といった狭いスペースで鉢合わせないよう注意ですね」
 ほかに言うべきことがないかを顎に手を添えて考え始める。あっ、と単発を挟んでから基は人差し指を上へ向けて立てた。
「そうそう、高層ビルだから、階自体は高所にあるんですよ。ガラスを破って外に放り出されたら、飛べない人はひとたまりもないはずです。気をつけてくださいね」
 そこまで話し終えると、基は胸の前で拳を握った。
「これはチャンスです! これまでの事件に巻き込まれた人たちの分まで、全力でいきましょう!」
 握りしめた拳の片方を、彼女は天高く掲げた。


堀戸珈琲
 どうも、堀戸珈琲です。
 今回は高層ビル内の邪神教団拠点を壊滅させるシナリオをご用意しました。

●最終目標
 邪神教団拠点の壊滅。

●第一章について
 敵は『マガツアリス』。集団戦です。
 オフィスビルでの戦闘となりますので、工夫を凝らしてみるといいかもしれません。
 また、場所は高所でもあります。外壁はガラス張りなので、いろいろと想定してみてくださいね。

 基本的な突入の流れとしては、ビルの前にテレポートし、そこから組織と合流して階段移動(もしくはエスカレーターでの移動)だと考えてください。
 しかし、ここに関しても自由にしていただいて結構です。

●その他
 第三章にて、『高層ビル内の空中庭園で過ごす』という日常の章を予定しています。
 都会の夜景が望める他、散策や設置物や生物の観察ができます。
 また、散歩しながらゆっくりと過去を振り返ったり、これからについて語り合ったりするのもいいでしょう。
 話し相手や雑務には、基を使っていただいても構いません。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『マガツアリス』

POW   :    古き神々の意志
【邪神「第零の蟻」】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
SPD   :    呪われし鉤爪
【異様に膨れた両腕の鉤爪】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    軍隊蟻の行進
いま戦っている対象に有効な【悍ましき妖虫】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●突入
 自動ドアが開く。正面に立っていた受付嬢は、我が身に降りかかった状況を理解できなかった。
 侵入してきたのは小型の缶だった。カーペットの上で何度か弾み、数秒置いて静止する。
 直後、缶は白煙を噴射した。
「突入!」
 張りのある声とともに、武装した集団が一斉に駆け出した。UDC組織所属の機動部隊だ。統率の取れた動きで進み、能力を持たない教団員たちのオフィスを次々と制圧してゆく。このフロアだけでなく、各階でも攻略は同様に進行中だ。
 初動は上々。だが、作戦行動は途端に阻まれることとなる。
 白煙の向こう側からイナゴのような怪虫群が飛来し、部隊隊員の装備に纏わりついた。怪虫は装備に歯を立て、常軌を逸した速度で貪りはじめる。恐怖に顔を引きつらせながらも大急ぎで振り払い、隊員たちはなんとか難を逃れた。
 だんだんと煙幕が晴れる。隊員の一人が、邪神を視界の端に捉えた。
 『マガツアリス』。生贄にへばりついたその外殻をしかと見た。既にどこかへと身を潜めてしまったようだが、確実にこのフロア内には存在している。
 この先は自分たちの役割ではないし、使命は果たした。教団員のほとんどはガスにより鎮圧済みだし、もし別経路で逃走する者がいたとしても地上班が確保してくれるだろう。倒れた教団員たちを引きずりつつ、部隊は撤退する。
「あとは任せました!」
 部隊長が後方で控えていた猟兵に声をかける。
 猟兵は頷き、オフィスへと足を踏み入れた。
富波・壱子
UDC組織の人たち、協力してくれてどうもありがとう!それじゃ、ここからは私達に任せて!皆の分も、きっと思い知らせてあげるから!

組織の人達に笑顔で手を振ってから首のチョーカーに手を触れ戦闘行動用の冷徹な人格に切り替えます。

状況開始。不意打ちを防げるわたしが先行しましょう。
突入と同時にユーベルコードを発動。未来予知によって不意打ちを察知し、逆に飛び出してきた相手へと両手に持った拳銃によるカウンターの零距離射撃で迎撃します。
乱戦となった場合は前衛を他の方に任せて自身は後ろへ下がり、後方からの援護射撃によって支援していきます。

元が人間であろうと今は倒すべき敵。この人格のわたしは躊躇なく殺します。



●知っている
「協力してくれてありがとう! みんなの分も、きっと思い知らせてあげるから!」
 撤退する機動部隊に、富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は手を振った。隊員たちが階下へと降りていくのを見届けてから彼女は前を向き、革製のチョーカーに触れた。
 状況開始。自動拳銃『ブレッサー』とその同型銃器『ビーチェ』を手に、武器を構える仲間たちを壱子は引き留めた。
「ここはわたしが先行します」
 壱子は氷のように冷え切った表情で言う。先ほどまで隊員たちに向けていた笑顔はどこにもない。スイッチとなる行動を取ったことで、彼女は人格を戦闘時のものに切り替えたのだった。
 悠然と、オフィスルームへと進入する。デスクや仕切りパネルなどの事務用品で占められている部屋を、彼女は一望した。
 瞬間、壱子の脳で映像が再生される。攻撃の予知だ。敵は初撃に奇襲を選び、一人を屠ろうとするようだ。
 壱子は目を瞑って予知を記憶すると、再度オフィスを眺める。進行ルートの一つとして選ばれそうな通路を見つけてから、ただ前だけを見て歩き出す。歩調は緩めず、視線も全く動かさない。二丁の拳銃は床へ向けられており、まるで散歩しているかのようにも見えた。
 ちょうど、自身の左にあるコピー機を通り過ぎたときだった。コピー機の向こうから一体のマガツアリスが飛び出し、背後から鉤爪で斬りかかった。
 襲いかかったのはその個体だけではない。左奥のデスク、右隣にある仕切りパネルの裏、そして天井を突き破って四体が彼女に迫る。
 それでもなお、彼女は一切表情を変えなかった。
「知っているんですよ、もう既に」
 くるりと背後に向き直る。マガツアリスに二丁拳銃を突きつけ、彼女は無感情に引き金を引いた。弾丸はマガツアリスの眉間と左胸に命中し、マガツアリスは彼女の足元に倒れた。彼女が一瞥すると、敵はぴくぴくと痙攣を起こしていた。
 それを皮切りに、壱子は連続した迎撃行動へと移る。バックステップを踏んで僅かに距離を取ると、奇襲を仕掛けた個体群を至近距離で射撃した。カウンターに反応できないマガツアリスたちは外殻を撃ち抜かれ、灰色の体液を流出させた。
 戦闘時人格の彼女は、敵が元人間であるという事実に影響されることはない。未だ困惑しているマガツアリスを前に、壱子は容赦なく弾丸を放つ。脚から頭へと撫でるような銃撃を受け、残った三体も床へと崩れた。
 奇襲の失敗を感じ取り、物陰に隠れていたマガツアリスがぞろぞろと現れる。
「殲滅しなくてはなりませんね」
 部屋の外で待機していた仲間に、壱子はハンドサインで「進入」を示した。

成功 🔵​🔵​🔴​

五條・桜花
軍隊蟻のせん滅を行います

虫が苦手とまではいきませんが群れると正直気分のいいものではありませんね
さあ我が花の前に朽ち果てなさい

物が多いと邪魔そうですがそこは物事破壊するのは平気かしら
邪魔にならないくらい粉砕すればきっと大丈夫なはずだといいかな、と
それが厳しいのならばそうですね、敵が出る方向だけでも絞れるように動きましょう
仮に壁ごと飛ばされてもオラトリオの私には羽がありますからそのまま落下とはなりませんよ
もしも落下しそうな人はなんとか一人くらいならフォローできるかな

いざ参りましょう


叶・雪月
古き神々の意志に挑む

さてと御神刀とまつられたことがある身としちゃ、神と神の戦いとも言えるのか?
まあどんなヤツでもとりあえずシンプルにぶった切るさ
階段駆け上がりつつ一気に行くぞ
借り物の力で俺に勝てると思うなよ

しかしガラスかってことは鏡的にも使えるってことだよな
んじゃシンプルに水晶玉か鏡でも使って火を出すか
さすがにそうなれば意識もいくだろうし
勿論消火準備はしておくけどな

しかし庭園で会おうとかいって先に駆け出された俺は追いつけるのか不安だができる限りは頑張るか



●桜が散れば月が光る
 一体のマガツアリスの甲羅がぱっくりと割れた。
「硬いけど、斬れないってことはないな」
 刀に付着した体液を払いながら、叶・雪月(六花舞う夜に煌めく月の刃・f03400)はさっとオフィスを見渡した。 
 せわしなく目を動かす雪月に、一体のマガツアリスが飛びかかる。
「そこか!」
 雪月は焦りで顔をしかめつつも、感じ取った殺気を頼りに刀を盾にした。太い鉤爪と刀とがかち合い、刃音が響く。仕留め切れないと悟ったマガツアリスは、押し返しの余勢を利用して距離を取る。その後、身を屈めてデスクの間の通路へと戻っていった。
 もう一度、雪月は敵の姿を探した。勢いで斬りにいくのは難しいな、と彼は頭の隅で考える。
 やはり、敷き詰められた事務用家具が邪魔だ。移動スペースは確保されているが、上下の空間や視野が制限されるのが厳しい。そのうえ、敵は隙間から活発に飛び出してくる。索敵の必要がなく、カウンターで対処できるのは幸いだ。けれど、緊張の糸を常に張っていなければならないというのが、ゆっくりと精神を追い詰めるに違いなかった。
 冷や汗を垂らしながら見回す雪月の視界に、一人のオラトリオが差し込まれる。
 五條・桜花(六花の元に咲く桜・f03321)だ。彼女はふわりとデスクの上に降り立つと、一冊の書物を差し出すような格好で胸の前に掲げた。
「咲き誇れ、我が分身よ」
 言葉をぽつりと零すと、『Cerise lapin』――彼女のための魔導書の端が桜の花びらに変わり、ひらり飛び散った。それはくるくると、彼女の周りを回しはじめた。
 魔導書は次々と花びらに変化し、周回に加わっていく。漂う桃色の花の数は増え続け、次第に桜吹雪を形成した。渦の範囲は時間の経過とともに拡張され、一部の猟兵やマガツアリスをも飲み込んだ。
 桜吹雪の成長を認めると、桜花はにこりと笑顔をつくった。
「散らかっているので、綺麗にしてしまいますね」
 巨大な流れとなった花びらは、部屋を埋める事務用家具を抉るように砕く。桜の奔流に耐えられないデスクやキャスター椅子はただの瓦礫に格落ちし、自立性を喪失した。
 桜花を危険視したマガツアリスが、一斉に彼女に向かって走り出す。
 視界は広く、動きを妨げていた物体のほとんどは粉々だ。地形の不利は、この時点で取り除かれていた。
 マガツアリスの意識の外にいた雪月が、そのうちの一体の胴に刀を当てた。
 柄を握り締める。ヤドリガミの力が刃先へと伝導されていき、自身の器物である『雪月』の刃が光った。
「斬るッ!」
 胴を刀が走り、マガツアリスの体は二つに分断された。上体は宙へ飛び、下体が床に伏してからしばらくして地面に落ちた。
「適当に貸し与えた力だけで、俺に勝てると思うなよ!」
 威勢よく叫び、雪月は連続して一群に斬りかかる。一連は刹那のうちに行われ、敵が反応することを許さなかった。各部位に傷を受けたマガツアリスの軍団はきっと雪月を睨みつけると、残っている力を振り絞るようにして彼へと向かっていった。
 そこを桜吹雪が生き物のように飲み込んだ。場に留まった渦がよそへ移ると、床には全身に擦り傷を受けたマガツアリスたちが転がっていた。
「虫が苦手なわけではないですが……こうも群れられると、気分の良いものではありませんね」
 彼女は部屋の奥に居るマガツアリスたちに目をやった。周囲には、華やかな花びらが舞っていた。
「さあ、我が花の前に朽ち果てなさい」
 桜のドームを纏って、桜花は緩やかに接近する。
 敵の総数は減少し、残りは僅かとなった。このフロアが猟兵によって制圧されるのに、時間はかからないだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木霊・ウタ
心情
生贄が核になってるとは知らなかったぜ
糞が

まずは基の言う通りだ
マガツアリスを還してやらなきゃな

手段
物陰に注意しつつ階段で最上階へ向かう

狭い場所は要注意だけど
場合によっちゃ一対一で対峙したり
仲間と背中合わせになって互いを守ったりできるから
そこは上手く立ち回りたいぜ

Bフレイムも重ねた、炎を纏わせた焔摩天を振るって滅するぜ
甲羅を砕いたり
甲羅ごと焼き溶かしながら纏めて薙ぎ払う
;鎧砕き&薙ぎ払い&属性攻撃&破魔

こうなる前に救えず間に合わなくて悪ぃ
せめて送らせてくれ

延焼して火事にならないよう注意するな

鉤爪や妖虫は焔摩天で受けつつ炙るぜ
;武器受け&属性攻撃&破魔

あんたらの無念
俺達が受け取ったぜ
安らかにな


塩崎・曲人
よし、こういう屋内戦は曲人君得意だぜ
階段ダッシュして速攻、切り込んでいく

狭い場所で戦うのも苦にならんから、
他の奴らのために率先してクリアリングに行きますかね
遮蔽の多い部屋とかは一通り見て回って机とか蹴倒すし
廊下も、ダッと走り抜けてサッと周囲を見渡そう
武器は……長モノはダメだな、握りこんで使える奴を探すか
無きゃ無いで殴れば良いし

敵と遭遇したら
発見を仲間に知らせつつ速攻で潰しに行く
【喧嘩殺法】で懐に飛び込み拳とか叩き込む
相手の爪はデカすぎて、至近距離では逆に振りにくいだろよ
「お前の無念も聞かせてみろよ。残ってりゃ、だがな!」



●狭所攻略
 別フロアにおいても、着々と攻略は進行している。
 廊下を歩く木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は自分たちが曲がり角に出たことを知ると、壁から身を乗り出して行く先を眺め見た。
「見た感じ、敵はいない……?」
 曲がり角の先の廊下は、突き当りで右に道が続いていた。左手はガラス張りの壁が広がるばかり。右手も同様に白塗りの壁が奥まで続くが、途中に窪みがある。扉のない小部屋のようなものがあるのだろうか。
 同行している塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)もそれを把握すると、ウタに問いかける。
「あそこ、怪しくねぇか? ささっと見てきた方がいいかね?」
「ああ、頼んだ。敵を見つけたら報告してくれ」
「了解」
 簡素な返事を返すと、曲人は素早く駆け出し、すれ違いざまに小部屋を覗き込んだ。中に在ったものから考えるに、給湯室のようだ。急ブレーキをかけて止まり、耳を澄ませてみるが、特に中から物音はしない。
 ウタに安全を伝える合図を出してから、今度は突き当りの前まで一気に進む。到着すると、半身だけを出して慎重に様子を伺ってみる。
 曲人の視界に、マガツアリスの一群が映った。気づいていないらしく、背中を曲人に晒している状態だ。
 くいっと、曲人はウタを手招きした。ウタは頷くと、静かに走り寄ろうとした。
 ちょうど給湯室の前まで行ったところで、ウタの耳が物音を捉えた。それが危機感に直結した彼は、後方を振り返った。
 天井を突き破って、別のマガツアリスの一群が目線の先で降下していた。
「罠か!」
 ウタは即座に自身の巨大剣『焔摩天』を構え、一群へと向ける。焔摩天を意味する梵字が彫られた刃が照明を浴び、敵の姿を映した。
「おい、ウタ!」
 背後から曲人の声が聞こえた。一瞬だけ後ろを見る。駆け寄る曲人の奥に、こちらに気づいていなかったはずのマガツアリスが居た。
 曲人は敵群を警戒しながら、ウタの背後にぴたりと着いた。
「最初から泳がせて挟み撃ちにするつもりだったらしいぜ。どうするよ?」
「とにかく、突破するしかないな。後ろは任せたぞ!」
「了解ィ!」
 素手で立ち向かおうとした曲人だったが、彼はふと給湯室の中を見た。きらりと目を光らせると、横っ跳びでそこへ飛び込んだ。
 数秒経たずして廊下へと戻り、マガツアリスへと駆けていく。大振りな鉤爪の攻撃が届く前に、スライディングで先頭の個体の懐に潜り込んだ。そのまま跳び上がるようにして、握り込んだ武器で思い切り頭を殴りつける。
「こんなもんでも、殴るには十分ってなぁ!」
 曲人はステンレスポットの底を手でさすると、ぐらついた敵の胴をハイキックで蹴り飛ばした。後方に倒れる個体から数体がドミノ倒しに巻き込まれる。
 敵も人間サイズであるなら、狭い場所では一斉には襲ってこない。ならば、このまま勢いで圧倒してしまえばなんてことはない。挟み撃ちまではよかったが、「猟兵が混乱に陥らなかった場合」を敵は考えていなかったらしい。曲人は歯を引ん剥いて笑った。
「邪神くん、お前が操ってる人間の無念を何十回でも教えてやるぜ!」
 曲人の声を聞きながら、ウタは『焔摩天』に炎を灯す。熱を感じながら接近すると、炎を纏った刃で敵を横に薙ぎ払った。硬い甲羅を砕き、マガツアリスは絶叫とともに分断される。ウタの掌から発生した地獄の炎と『焔摩天』の軌跡に生じた炎が、邪神の支配を焼き払った。
「こうなる前に救えなくて、間に合わなくて悪い。……せめて送らせてくれ」
 マガツアリスの核について胸糞悪い心情を浮かべながらも、目の前にいる敵を焼き払う。現在を侵す過去への怒りの炎により、犠牲者と過去の復讐者らを冥土へと導く。さながら、地獄の主が踊るように。
 時折後衛が妖虫を飛ばしてくるが、ウタには関係ない。前衛の抵抗と纏めて大剣で受け止め、炙る。蟻に似た虫たちはなす術もなく塵となった。
 最後の一体を前にして、ウタはしみじみと呟いた。
「あんたらの無念、受け取ったぜ。安らかにな」
 ウタはマガツアリスへ剣を突き立てた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャレム・アルカード
フハハハハ!我、降臨!
ふむ、イネブ・ヘジの狂える王、だったか。
死者でありながら、他者を食い物にしてまでも見苦しく生き足掻こうとは、仮にも王を名乗りながらなんたる無様!

これは我が直々に道を正し、冥府へ叩き返してやらねばなるまい。

場はオフィスビルとの事だが、壁やデスクやらは破壊しても構わんのか事前確認はとるぞ。重要書類がズタズタにされる悲しみは我もわかるし。

許可が取れれば壁をパイルバンカーで破壊し、デスクを盾に銃撃戦と行こうではないか!

万一外に放り出されても、『ナグルファル』で反重力を展開、ブースターで即座に戻れる磐石ぶりよ!

フハハハ!我の武装収容棺『ヘカトンケイル』の威力を存分に味わうがいい!



●高笑いの殲滅戦
 清潔感溢れるオフィスの白壁が爆発によりぶち破られた。部屋に潜んでいたマガツアリスが頭を覗かせ、壁に開いた大穴へ注意を払う。火薬の煙ではっきりとは見えないが、影が穴の中心に浮かんでいる。
「フハハハ! 我、降臨!」
 高笑いと同時に放たれたのは、弾丸の雨だ。頭を出していたマガツアリスの何体かが撃ち抜かれ、床に倒れた。乾いた音は連続し、しばらくは止まなかった。
 灰色の煙が薄くなるのと音が止むのはほぼ同時だった。そのとき、小柄な老人が自身が開けた穴から侵入する。
 排熱を浴びながら、シャレム・アルカード(小さな暴君・f09897)は顎に手を添えて首を傾けた。フルに暴れられることの証左である、真紅の瞳が輝いていた。
「ふむ……破壊許可は得ているが、それにしてもやりすぎたか?」
 改めて、シャレムはオフィスを一望する。デスクはハチの巣になり、機械類は目に見えて起動しなさそうだ。
 今回はとにかく拠点の制圧が最優先事項らしく、極端な事例を除き、破壊活動自体は認められている。だから、最初から派手にいってみた。今のでこのオフィスルームの敵が殲滅されているならいいが、それはそれで張り合いがない。
 そうちょっぴり寂しさを覚えたところで、何体かのマガツアリスがまた頭を出した。
 輝かしい笑顔が彼の顔に舞い降りた。
「フハハ! そうでなくてはな!」
 シャレムは損傷がデスクを見つけると陰に滑り込み、凄まじい改造の施された棺――武装収容棺『ヘカトンケイル』を掲げた。物陰で独りほくそ笑むと、彼は棺の操作盤に触れた。
「諸君、銃撃戦へと洒落込もうではないか!」
 快活な声を合図に、棺の両側から二門の11センチ連装砲『オルトロス』を展開し、目についた個体を大雑把に狙って射撃していく。安易に身体を出そうものなら、弾丸が全身を砕く。
 相手も反撃として羽蟻のような虫を放つ。が、シャレムはとにかく撃ち落とす。弾丸を掻い潜る虫もいるが、プロペラのように運搬用鉄鎖『タイタン』を回してさえいれば、勝手に巻き込まれて死滅してしまう。
 戦局はシャレムが圧倒しているように見えたが、時間が経つにつれ、彼は奇妙な感覚を覚えるようになった。
 敵が出てこようとしなくなった。打つ手が無くなったのか、それとも弾切れを待っているのか。後者であるならば厄介だ。いくら『ヘカトンケイル』に多重な改造を加えていようと、弾丸が切れれば遠距離への攻撃手段はなくなる。
 別に近接武器が弱いわけではないが、ただ手応えなく撃ち続けるのはこちらも退屈だ。
 シャレムはデスクの陰から飛び出すと、外壁のガラスに向かって走り出した。『ヘカトンケイル』から再度パイルバンカー『カズィクル・ベイ』を展開し、情け容赦も遠慮もなく叩き割った。破壊音と爆発音が響き渡り、音の渋滞が発生する。
 マガツアリスが攻撃を兼ねて物陰から飛び出したとき、シャレムは『ヘカトンケイル』を抱いて窓から落下した。顛末を見ようと、彼らはガラスの破片が残る窓際に歩み寄った。
 群れでマガツアリスが窓際に寄る。シャレムはそれを狙っていた。
 彼が反重力発生装置『ナグルファル』を展開すると、棺は空中に留まった。そこへさらに加速推進装置『イダテン』の機能により、棺は上昇する。
 ちょうど元の階層まで戻ると、困惑を隠し切れていないマガツアリスに向けて、シャレムは棺の内蔵武装をまたしても展開した。
「フハハハ! 我の武装収容棺『ヘカトンケイル』の威力を存分に味わうがいい!」
 展開された武装は、多連装ミサイルランチャー『ヒュドラ』。もはや、屋外に出たシャレムはこの武装のリスクについて考える必要がなかった。
 直後、このルームのマガツアリス殲滅が完了したのはいうまでもない。

成功 🔵​🔵​🔴​

空廼・柩
わ、すっごい眺め
邪神教団の拠点にするには勿体無くない?
――邪神に美しい空なんて、似合わないからね

フロアに着いたら眼鏡を外して息を殺し、気配を窺う
狭い場所で遭遇したら大変だ
『目立たない』や『第六感』を用いて物陰にも注意を払いつつ極力広い場所で戦闘
硝子窓付近にも立たぬよう注意
割れたら周囲に被害が及ぶ可能性もある
ならば拷問具で拘束して敵が吹っ飛ぶのを防止
その際、危険な鉤爪も両手ぐるぐる巻きにしてやる
ざっくり裂かれるのは勘弁願いたいからね
勿論味方が飛ばされかけた時も拘束具で救助
…悪いけれど、飛ばされないだけマシだと思って

戦うべき敵が罪のない生贄だとしても
殺さなければ、救えない
…後で弔う位はしてあげるさ



●青い光
「わ、すっごい眺め」
 最上階に到達した空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は、無意識にそう口を動かした。
 広いエレベーターホールの向こうでは、黒い夜にぽつりぽつりと光が飛び散っている。赤、橙、黄、そして青。それぞれの色が役割を担って都市を照らす。光は多様で、眩く光るものもあれば、点滅するものもあった。
 ゆっくりと眺めていたいところだが、同時に排除すべき相手も目に入る。マガツアリスの一群が、エレベーターホールにたむろしている。「ボスは最上階にいる」という基の話から考えると、拠点の頭を護衛するために散開せずに留まっているようだ。
 邪神教団の拠点にしておくには勿体ない。邪な執念を積み重ねて築かれた場所に、美しい眺望はあまりにも不似合いだ。
 柩は眼鏡を外すと、階段のそばにあった観葉植物の陰に身を隠した。気づかれている様子はない。傍らに棺を構えて気配を殺し、機を伺う。
 触手と床が擦れて生じた不快な音が、だんだんとこちらに迫る。ただただ、時を待つ。
 ぬちゃりという音が耳元で聞こえたとき、柩はばっと姿を現し、マガツアリスの胴へ棺を叩き込んだ。
「ご退場願おうか」
 万歳の姿勢でぐらりと揺れるマガツアリスへ、柩は手枷と縄をかける。鉤爪をぐるぐる巻きにして固定してやると、もう殺傷性は失われてしまった。続けて胴と脚へも縄を回し、勢いよく引っ張った。締められ、マガツアリスは声を上げた。
 仲間がやられたことを感じ取り、他のマガツアリスもこちらへと寄ってくる。視界の端でそれを認めた柩は、ロープの端を長く持ち、体を後方へねじった。
「あまりスマートじゃないが……あんたら全員を相手してられないんでな!」
 遠心力を使って、柩は簀巻きにしたマガツアリスを振り回した。敵の方向に向かうようなタイミングを狙ってから、ぱっと手を離した。
 放り投げられたマガツアリスを、その仲間は避け切れなかった。最初にぶつかった個体からバタバタと折り重なっていき、互いの重みにより多くが動きを制限される。
 柩はそこを見逃さない。駆け出して距離を詰めると、マガツアリスの山に被せるように棺を繰り出す。
「すまない、死んでくれ」
 振り下ろされた一撃は重く、敵群は簡単に叩き潰される。上の個体がクッションになって致命傷を回避した個体も、繰り返された攻撃により息の根を止められる。情けなど存在してはいなかった。
 彼も弔う心くらいは持ち合わせてはいる。だが、殺さなければ救うこともできないのを同様に理解していた。
 右目の「彩」で、柩は残されたマガツアリスたちを見返した。憐みの籠った青は、夜に取り残された光と重なるものがあった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『イネブ・ヘジの狂える王』

POW   :    アーマーンの大顎
自身の身体部位ひとつを【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    カイトスの三魔槍
【メンカルの血槍】【ディフダの怨槍】【カファルジドマの戒槍】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    ネクロポリスの狂嵐
【腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・綺里枝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャレム・アルカード
ほう、いい眺めではないか。これほどの絶景、過去の亡霊にくれてやるには惜しいな。

我は武装収容棺『ヘカトンケイル』の内蔵武装たる『カズィクル・ベイ』にて接近戦を仕掛けるぞ!
『イダテン』のブースターも使用し、接近や離脱に役立てるのだ!

敵のユーベルコードに合わせて【霧化】を使用する。
当たったと思ったか?ふふん、残念ながら無傷だ。

色々理由を並べ立てたが、一番は貴様の口調が我と微妙に被ってるのが気にくわん!故に倒す!



●似た者同士の差異
 みしっという予兆の後、両開きの戸は粉砕された。しかし、今もなお、廊下を見通すことはできない。塵の蔓延により、入口付近は白く煙っている。
 『イネブ・ヘジの狂える王』は驚嘆せず、舞う塵の一つ一つを冷たく見つめていた。沿うように立っていたガラス張りの壁の際から部屋の中央に移ろうと、彼は脚を動かした。浅黒い顔には呆れ果てたような表情が現れる。
 煙る景色の中、巨大な鉄杭が頭を出す。
「そこか!」
 シャレム・アルカード(小さな暴君・f09897)は短く発すると、床を蹴って宙へと躍り出る。
 直後、『イダテン』を作動させる。激しい振動と一緒に生じたエネルギーが棺とそれを掴むシャレムを相手の上空へと押しやった。
「既に亡き者であるにも拘わらず、他者を食い物にして生き足掻こうとするか!」
 迎撃準備が完了していないだろう狂王を捉えつつ、シャレムは空中で『カズィクル・ベイ』を起動する。
「王としての矜持を欠いているぞ、イネブ・ヘジ王よ!」
 加速分の速度も纏い、パイルバンカーは射出される。鉄杭は、イネブ王の頭めがけて打ち下ろされた。
「忌々しい」
 金属を引っ掻く音が聞こえた。同時に、シャレムは杭の停止を感じ取った。
 大鰐の口が、『カズィクル・ベイ』を挟み込んでいた。鰐はイネブ・ヘジ王の右腕と切れ目なく接続し、手の端に行くにつれ濃くなる鱗が光を照り返していた。
「嫌いだ。我が最も嫌悪する類いの者だ、貴様は」
 明確な殺意が含まれた声だった。
 シャレムを固定したまま、イネブ王は左腕を肩の高さで掲げる。すると、彼の背後に三本の槍が現れた。黄金の穂先を有する、星々の名を冠した魔槍。それらは微動だにせず、空間に貼りついていた。
 的としては秀逸かもしれないな、と彼なりに焦燥を覚えながら、シャレムは口許を緩めた。
「フハハ! お気に召したようで幸いだ!」
 『イダテン』を起動する。噛み合った状態から振動でズレが生まれる。そのズレを利用して杭を素早く外し、また『イダテン』を吹かして急発進により離脱する。ひゅん、と風が耳を通り過ぎていくのを聞いた。
 シャレムはイネブ王を見返した。
「いろいろ御託は並べたが、我が貴様を討ちたい一番の理由はな――」
 再度、『イダテン』を作動させる。シャレムは空中を駆けた。
「口調が我と微妙に被っているのが気に食わんからだ! よりにもよって、貴様のような奴と!」
「黙れ!」
 イネブ王は左手を突き出し、正面のシャレムを三魔槍で迎え撃つ。槍は回転を重ね、魔力を帯びた空気の渦を形成して向かって来る。
 三本の魔槍は、すべてシャレムの肉体を貫いた。
 貫いて、そのまま後方へと飛んでいってしまった。イネブ王は幻を見たかのように体を強張らせた。
 事実、幻のようなものだった。
「当たったと思ったか?」
 得意そうに、シャレムは笑う。霧に変化させていた彼の肉体が、実体を取り戻していく。
 霧になると体が分化され、指一本でも動かせない状態に陥る。しかし、それは工夫でどうにかできる話。エネルギーの余力があれば、移動は可能だ。
 流れるように『カズィクル・ベイ』を起動。慌てて我に返ったイネブ王の防御が間に合うはずもなかった。
 鉄杭が腹に打ち込まれ、その不完全な肉体を貫通する。脱出を図る時間を与えず、爆炎がイネブ王を包む。爆発音が空気を揺らした。
 衝撃により、両者はそれぞれ吹き飛ばされる。シャレムがくるりと弧を描いて着地する一方、イネブ王は壁へと叩きつけられた。
「もう千年待たなくてはならんのか? 偉大なるエジプト王よ」
 最後に、彼は高笑いをした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
古代埃及王とは正に蘇った過去ってワケか
命を虫けらのように扱う奴に未来を渡すかよ
狩らせてもらうぜ

手段
ワイルドウィンドを奏で歌い
皆を鼓舞しつつ聖なる調べで狂王の力を削ぐぜ
;コミュ&パフォ&演奏&歌唱&手をつなぐ&勇気&優しさ&破魔

サウンドOPだ
命を
未来を守るという想いを込めて歌いあげるぜ

今を生きる人達が未来を創っていく
未来は人の命の重みなんだ
命と未来を守る俺達の力
味わいやがれ

破魔の焔を纏う焔摩天で攻撃
;鎧砕き&薙ぎ払い&属性攻撃&破魔

敵防御を弱めながら
破魔の焔が蝕んでくって寸法だ

ダンスを踊ってもらおうぜ
相手は地獄の焔摩だ

顎や槍、旋風は剣で防御し破魔の焔で炙る
:武器受け&属性攻撃&武器受け&破魔


五條・桜花
雪月(f03400)と合流できたので同行です
関係性のイメージは祖父と孫

真の姿は真っ白な翼が生え、ダイヤモンドダストのような、煌めきをまといます

追いついてくるとはさすがですね、雪月
じゃあ、奴を倒すのも参りましょう
私は遠距離で魔導書で攻撃ですね
……物理じゃないですからね?!この角でたたけば1D6くらいのダメージはありそうですけど

遠隔攻撃しつつ癒し手として動きます
相手は治癒手段っているのならば長期戦も考えられます
私は奴にその攻撃をされないようにしつつ癒しに回ります

我が桜よ、どうか傷を癒せ
呪詛など我が桜で打ち消して差し上げます!


叶・雪月
桜花(f03321)に追いつけたので同行です
関係性のイメージは祖父と孫

真の姿:名の通り雪を思わせる白い輝きをまとっている

後でって追いかけさせるのは卑怯だろ、とはいえ、デカブツ前に合流できたのは行幸っと

こいつの攻撃って実にいやらしいのな
接近が吸収回復で遠隔は行動制限系か
まだ近接系のが分があるな
とはいえ。じり貧になるのもまずい
出来れば長期戦にはしたくないがさせてくれるか
とにかく当たらないようにするのが一番だ

その上で俺は奴をぶった切る
いくら俺から吸い取ろうがその本質はもっていかせない
我が刃の前に塵となれ!



●桜のドームと二本の刃
「追いついてくるとはさすがですね、雪月」
「褒めてんだよな、それ」
「もちろんです」
 五條・桜花(六花の元に咲く桜・f03321)がそう言って笑いかけると、叶・雪月(六花舞う夜に煌めく月の刃・f03400)は目を線のようにして押し黙った。
「……まぁ、強敵前で合流できてよかったよ」
「そうですね」
 彼女はこくんと頷くと、前を見据えた。
 視線の先では、壊れた人形の如く、イネブ王が壁にもたれていた。しかし、彼は膝を立てると、すっと立ち上がった。脇腹に開いた大穴を気にかけてはいるが、動く力はまだまだ残っているらしい。
 やはり、表情は無感情そのものだった。
「古代エジプト王ってのは、まさに甦った過去ってわけか」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)もその姿を目に捉え、ぽつりと呟く。
 インカムを軽く叩いて外れないのを確認すると、ギターの弦を弾く。
「多少は弱ってるみたいだな……一気に行こう!」
 ウタは音を奏ではじめる。詞に乗せるは、未来を奪わんとする過去への抵抗の意思。
 過去の存在――それも、人命を虫のように扱う冷酷な者――に未来を明け渡すつもりはない。強欲に憑りつかれた彼を滅却し、眠りにつかせてやるのが猟兵の使命だ。
 内なる思いは増幅し、外へも伝播する。ボルテージが上がり、自身の気分が高揚するのを知った桜花は、ふふっと不敵に微笑んだ。
「では、私たちも出し惜しみなしで行きましょう」
 ぐっと手を握って胸元へ添える。すると、玉のような光の粒が拳に集合し、彼女の内側に吸い込まれていく。次第に、種族として持ち合わせている翼がより清く、より大きなものへ成長する。吸収した光が溢れたのか、ちらちらと細かな輝きが周囲を舞った。
 抜刀して構えを取った雪月もまた、刀身へと力を送り込む。彼も同様に、玉に似た光の粒が集まり、音もなく消える。だんだんと、彼は月光に照らされた雪の野のような白い輝きを纏った。
 『真の姿』に変貌した二人は言葉も交わさずに意思疎通を果たすと、雪月だけが駆け出してイネブ王へ肉薄する。ウタの演奏を受け、活力は常時より増していた。
 敵の接近を認めたイネブ王は三魔槍から『カファルジドマの戒槍』を手許に召喚し、自ら掴んだ。
 腕を狙って、『雪月』が振り下ろされる。斜めに構えられた魔槍がそれを受け止めた。刀と木製の柄との打ち合いであるため、刃音は響かない。静かなせめぎ合いだった。
「俺も神だった時代があるんだぜ? 崇めなくていいのか、狂信王さんよ」
「抜かせ!」
 剣撃は振り払われる。しかし、雪月は間合いを詰めたままだ。
 揺さぶるように下段と上段への攻撃を繰り返す。バランスを崩すのを期待したが、武芸もなかなかの手練れのようだ。槍を巧みに回転させて防御すると、イネブ王は膝蹴りを仕掛けた。
 彼の膝は見る見るうちに鰐の頭部へと変形する。突然の噛みつきを察知した雪月は後ろへ飛び退く。寸でのところでの回避だった。
 見上げ、また接近しようと体勢を立て直したとき、彼の視界をけばけばしい色彩が包んだ。
「砂に還れ……視界に入れたくもない」
 左腕を掲げたまま、イネブ王は言葉を発した。
 彼の周囲に砂嵐のドームが生じ、それは拡大していく。一粒一粒が異なる色から構成されている砂塵の全体像は、露骨なまでの派手さに満ちていた。
 ドームの床に目を移すと、相応の年月が経ったかのように朽ち果てているのがわかった。真新しいこの建物で本来それはあり得ない。腐食性を持つ旋風だと判断するのに時間はかからなかった。
 また距離を取ろうしたところで、雪月は目の前までドームが迫っているのを知覚する。スピードが上昇しているのだろうか。なんにせよ、回避行動は間に合わない――。
 そのとき、雪月の前に影が飛び込んだ。
 巨大剣が床に突き刺さり、前方からの風除けとなる。横方向からの風が来るというとき、剣から炎が現れ、焔色のドームを形成した。
「焼き尽せば塵だ。たとえ砂でも、付与された作用は消せる」
 雪月を見ず、ウタは呟く。ぱらぱらと、足元にただの砂粒が散らばっていた。
 しかし、砂嵐に囲まれていてはどうすることもできない。おまけに、炎の隙間を掻い潜った砂が微かに彼らを傷つける。危機的状況は未だ脱していない。
 さて、どうするか。後ろ向きには考えずに、嵐の中で敵を見つめるウタの頬を、ゆっくりと血が流れた。
 砂の擦り傷だろう。何気なく拭ってやると、傷はもう癒えていた。付着するはずだった血の代わりに、桜の花びらがあった。砂を受けてボロボロになっていたが、ほんのりと優しい暖かさが手に伝わった。
「ウタさん、雪月、無事ですね?」
 当然そうであるというような口振りの、桜花の声が聞こえた。
 桜花も桜吹雪のドームにより、砂塵を防いでいた。これまで他の味方の治療に専念していたために疲弊しているようだったが、それでもまだまだ万全の状態には変わりない。
「呪詛など、我が桜が打ち消して差し上げます!」
 彼女は桜吹雪を自由に操ると、砂塵の中を泳がせるようにしてウタと雪月の地点まで到達させる。彼らを包みこむだけの花びらはすぐに送り込まれる。視界を覆わないようにだけ注意して、桜花は彼らのドームを形成した。
 彼女の意図するところは、説明がなくとも十分に伝わった。
 床からウタの大剣が抜かれる。砂嵐に姿を晒すが、桜のドームに守られた彼らには関係がない。速度を揃え、砂塵の中を駆けていく。
「我が刃の前に塵となれ!」
「踊ってもらうぜ、地獄の焔摩とな!」
 一方では清い光にくるまれた日本刀が、また一方では地獄の炎が灯った剣が襲いかかる。
 二本の刃は、古の王の体を深く切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

空廼・柩
悪い王様は民に裁かれるものだろう?
遠い昔に死んだ奴が、未来にまで出しゃばってくるなっての
――さあ、私刑執行と行こうじゃないか

俺が使うのは【咎力封じ】
まあ、腐っても相手は今回の親玉オブリビオンだ
只でさえ強敵だろうに此方の攻撃まで制限されたら堪らないっての
可能な限り攻撃力減少を図り、叶うならば三魔槍を封じる位の心意気で
勿論その前に俺の攻撃が封じられる可能性だってある
寧ろ他の猟兵に向いた三魔槍を庇っていくよ
俺の攻撃が封じられようが、皆を守る位は出来るからね

王の攻撃は極力見切り、武器で受けて直撃を避ける
攻撃された際は、序でにカウンターも試みよう
共に戦う者在れば互いの隙を埋めるよう行動

――御命、頂戴する



●侮るなかれ
 イネブ・ヘジの王は一人の猟兵に狙いを定めると、左手を掲げた。喚び出された三本の魔槍が捻りを伴って飛来する。余裕がないのか、速度は先ほどよりも増していた。
 回避が遅れ、猟兵は身構えた。
 そのとき、棺が射線を塞いだ。
「無事か?」
 衝撃を感じながら、空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は振り返った。盾にした棺には三本の柄が長く伸びている。穴が開いたな、と八つ当たりのような思いで敵を睨んだ。
 会話相手が応答の声を短く発する。柩は頷き、それからばっと棺から飛び出した。横目で槍の柄を見やり、まだ敵の武器がそこにあるのを確認する。柄に線のような傷が走っていた、まだ真新しかった。
「小賢しい」
 イネブ王が再び左手を掲げようとする。
「そこだ!」
 柩は素早く物体を投擲した。
 投げられたのは、一方の輪に縄が括りつけられた手枷だ。
 それはイネブ王の左手首に掛かる。冷たい金属の感触が、冷え切った死人の肌に染み入った。
「遠い昔に死んだ奴が、未来にまで出しゃばってくるなっての」
 当の本人が反応するよりも早く、縄の端を持った柩がぐいっと引っ張った。左腕は所定の高さまで上がらず、魔槍の再召喚を封じた。
 これまでの戦闘から、柩は二つの仮説を推測していた。
 一つ、敵は一部ユーベルコードの使用に左手を用いているという仮説。そしてもう一つは、残念ながらこの状況には相応しくなさそうなものだった。
 前者はどうやら的中したらしい。柩は繰り返し、縄を強く引いた。
 だが、イネブ王は腰を僅かに落とすばかりだ。バランスを崩して大きな隙を生じさせるなどはあまり期待できそうにない。
 長くは持たないだろうな、と柩は直感する。自分が相手取っているのは、腐っても親玉のオブリビオンだ。集団に対し、一人で戦える存在。それを一人で奴を押さえるのは、到底不可能な話だ。
「こんなもので……こんなもので我を封じられると思ったか!」
 相手の引く力が強くなる。先ほどから、次第に抵抗は増していた。激情するイネブ王の声を聞き、これまでだな、と柩は悟る。
 柩は敢えて、縄を緩く握った。
「侮ったな、猟兵よ!」
 イネブ王の左手が胸元まで上がり切る。棺に突き刺さっていた魔槍が消え、王の背後に出現する。次の瞬間には、それらは縄を掴む柩へと一直線に向かっていった。
 自身に迫る三本の槍を見て、柩の口許は緩んだ。彼は縄を完全に手放した。
「果たして、侮ったのはどちらだ?」
 一本を見切って射線から退くと、柩は残る二本を目に捉えた。
 拘束用の縄を取り出して射線の斜め下へと移り、空中にその端を放つ。直後、縄を投げた方向へ彼自身が滑り込むと、ちょうど縄は円を描いた。
 柩は、縄の両端を力任せに引いた。蛙の舌に絡めとられた虫のように、二本の槍は横方向に引っ張らた。
 もう一つの仮説――それは、出現する槍は同一のものであり、出現と回収を繰り返して用いているというものだ。猟兵により受けた傷が残っていたのを見て、それはほぼ真実だと確信した。ならば、それを役立たずにしてしまうのは、少なくともこの場では効果があった。
 回収されないうちに、柩は空中で槍を縄でぐるぐると巻いてしまった。穂先を中心として厚く巻かれているため、もう本来の機能は失われている。取り外そうとするなら隙を晒すことになるだろう。ごろんと一つにまとめられた棒が床に転がった。
「さて、私刑執行と行こうじゃないか」
 悪しき王は民衆によって裁かれる。それは昔々からの伝承のフォーマットでありながら、現代の通説でもある。制裁を受ける王は、大抵は高慢だ。
「御命、頂戴する」

成功 🔵​🔵​🔴​

アンテロ・ヴィルスカ
これはこれは…王の貫禄たっぷりだね?
贄さえ手に入れれば勝手に崇めてくれるなんて、オブリビオンの王は楽で結構だ

先ずはユーベルコードはなし
小手調べといこう

事前に外套と、マガツアリスから抜き取ったコード状の部位に【迷彩】を使用

外套で目眩ししつつ、一定の距離を保ちながら双剣でヒットアンドアウェイの攻撃を

俺は空を飛ぶ術は持たない
なるべくフィールド中央を陣取るが、もしもの場合にはマガツアリスのコードを綱代わりに使うよ

ヤドリガミなんで簡単に死にはしないだろうが、また登って来るのは面倒だ


塩崎・曲人
ハッ、投げ槍なんかでオレを捉えられるかよ
懐に飛び込んでフルボッコにしてやらぁ

【喧嘩殺法】で接近戦を挑むぜ
「時代遅れの王様よう、悪いがもうアンタの居場所は世界のどこにもねぇんだな。大人しく棺桶に戻りな!」
拳が届くような距離なら槍を飛ばすこともできんだろうよ
逆にこっちは殴る蹴る目潰し何でもありだ

仲間と連携できるなら、それ用に動きをちょいと考える
具体的には密着しっぱなしじゃなくて、ヒットアンドアウェイで牽制をメインにしよう
攻撃は足を狙い、文字通りの足止めをするぜ
「偉い王様もよぉ、部下が居なけりゃ裸同然!囲まれたらなにもできねぇっってな!」



●高慢の報い
 凹みのできたステンレスポットが、柔らかな絹衣に打ち込まれた。
 一撃を受け、イネブ王はふらりと後方によろけた。
「そこを殴られたのは初めてだったみてぇだな」
 その様を眺め、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)がにやりと笑みを浮かべる。
 残りの一本となった槍を強く握り、イネブ王は杖代わりに踏みとどまった。戦闘開始時から打って変わって、顔は苦しそうに歪んでいた。
「なぜだ……? なぜかつて下エジプトを支配した我が追い詰められている……?」
「もう独りだからだろ」
 その独白に、曲人が荒っぽく言葉を被せた。
「ここにいた部下どもは掃除済み。あとはあんただけなんだぜ、時代遅れの王様よう」
 くくくっと笑い声を立て、ポットの側面を摩る。
「悪いが、あんたの居場所は世界のどこにもねぇんだな。大人しく棺桶に戻りな!」
 ポットを持つ手を腰元に構えて臨戦態勢を取ると、曲人は脚を踏み出して距離を詰めはじめた。
「小癪な!」
 右腕に力を込める。浅黒い肌を鱗が覆い、そこは大鰐の頭部へと変貌していく。
 イネブ王が迎え撃とうと腕を振り上げる。すると、ぴたりと曲人の動きが止まった。
「あ、言い忘れてたけど――」
 手品のネタを教えるような口調だった。
「足元注意な」
 曲人の言葉に釣られ、イネブ王は目だけで下を見た。
 彼の視界一面で品質の良さそうな布が翻り、波打った。布の正体が上質な外套で、それによって視界を塞がれたと知覚するには時間を要した。
 刃が彼の胴に一筋の線を描いた。続けざまにその上へもう一筋が刻まれ、一点で交わった。鮮血は、時間を置いてから堰を切ったように溢れ出た。
 反撃を受けないうちに、彼は間合いから脱する。部屋の床に似た色の迷彩を施された外套が、ふわりと風に吹かれてはためいた。
「言葉に影響されて、警戒を怠るべきじゃなかったね」
 アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)はイネブ王を顧た。手には十字架を模したような双剣があった。黒い刀身から赤い血が滴り落ちていた。
「それにしても君さ」
 改めて、相手の全身を眺める。
 あちこちに傷を負い、とうに威厳は失われていた。
「そんな状態でも貫禄はたっぷりみたいだけど……崇めてくれる配下がいないと大したことないのかい?」
 のらりくらり、飄々とした調子で相手を突き放す。煽りながら足先を向けると、次第にアンテロは走り出す。
「支配っていうのも、恐怖とお金で押さえつけただけだろう? そんな統治なら、王は随分と楽だろうね。カリスマとか要らないしさ」
「おのれ……言わせておけば!」
 向かってくるアンテロに対し、怒りで肩を震わせながらイネブ王は槍を構えた。
「だから、そういうとこだろ」
 声に反応してはっとなるが、もう遅い。横方向から脚にローキックが直撃し、立て続けに腰から下を狙った打撃が命中する。
「わかってねぇ奴」
 呆れ声を出しながら、曲人は連撃を続行する。蹴り上げてから腰を殴りつけると、ぐらりとイネブ王の体が揺れた。肉体と精神の両面が削られ、着実に弱っていた。
 双剣を携えたアンテロが突っ込んできたのはそのときだった。回転を交え、流れる水のように王の体へと傷を刻む。槍を持つ手を中心に切られたイネブ王は、握っていた得物を取り落とした。
 回転の最後、彼を通り過ぎたアンテロは紐のようなものを放つ。イネブ王の首に引っかけ、彼の背後の床に落ちた紐の端を妨害されぬよう素早く拾い上げる。
 照明と同じ色に塗り直されたそれは、マガツアリスから採取したコード状の部位だった。
「これはオマケだよ」
 イネブ王の背後でアンテロは一歩踏み出すと、彼の片方の脚を縦に切り裂く。同時に、掛かったコードを強く後方に引いた。
 首を絞められたイネブ王のえずくような声が聞こえた。悲痛だが、余計な情けはかけない。十字を描くように、また脚を剣が裂く。本体であるロザリオの性質が影響したのか、彼の冷徹な部分が思い切り表出していた。
 耐えられなくなったイネブ王は、とうとう仰向けに倒れた。
 体勢の崩れた彼に、待ってましたとばかりに曲人が飛びかかった。ポットを掲げながら、彼は口角を吊り上げた。
「偉い王様もよぉ、部下が居なけりゃ裸同然! 囲まれたらなにもできねぇってな!」
 持ち手を強く握り、顔面めがけて躊躇なく振り下ろす。銀色のポットの面に、歪なイネブ王の顔が映った。それは不吉な暗示のようでもあった。
 直後、鈍い音が響いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リカルド・マスケラス
ボス戦のいいところで、仮面をつけた謎の猟兵が颯爽と登場!
「正義のヒーロー登場っすよ!」
肉体は無力化された教団員かマガツアリスの骸を利用。
槍が無力化されたとは言え、どういう攻撃をしてくるかわからないっすから、隠し玉を警戒しつつダガー(もしくは刃物状な爪?)で攻撃。
大ダメージのチャンスが見えたら、服を脱ぐ(外郭をパージ)なりして身軽になり、急所に刃を突き立てる
「あんたが散々利用してきた相手に、攻撃される気分はどうっすか?あんたに食い物にされてきた犠牲者の恨みと無念をその身に味わうがいいっすよ!」


空廼・柩
腐っても、それは確かに王だったもの
命を奪うからには、並大抵の覚悟じゃ返り討ちに遭うだけだ
ならば真の姿を解放、更に【霄化】で戦闘力を底上げ
獣の力を持って、臓腑まで引き裂いてやる
…さあ、あんたは何処までぐちゃぐちゃにすれば死ぬかな?

寿命削り、理性削り
正気を保たんと咆哮を上げ、爪で引き裂く
鰐の頭部に喰われようが構うものか
激痛耐性で耐えてみせるし、何よりその間は隙にが出来る筈
回復しても、それよりも多くダメージを与えたら良い
傷口を抉る様に何度も何度も裂いて、潰す
――遠慮等不要だろう?

他の猟兵へ攻撃が向かぬよう、庇うように攻撃を肩代わり
…こいつを倒すのは俺だけじゃない
俺が途中で倒れようと何とかしてくれるさ



●謀反
「あんたも例に漏れずしぶといんだな」
 空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は呆れたように肩を竦め、棺を持ち直した。
 向かいでは、イネブ・ヘジの王が息を切らして猟兵の軍勢を睨んでいた。
「当然だ……我は王だぞ……!」
 槍に寄りかかって立つその体は、もう満身創痍だ。損傷の多い衣服の至るところには、焦げた赤が円をつくっていた。
 語気も弱く、虚勢であるのがすぐにわかった。しかし、こんな状態になってまで威張ろうとするとは、よほどプライドが高いのだろう。
「腐っても王、か」
 緊迫した空気のなかで柩は虚ろに呟くと、構えていた棺を放った。
「じゃあ、遠慮は要らないな」
 拳を握り、自身に在る力を高めていく。目を閉じ、視覚情報を頭から締め出した。
「自ら武器を捨てるとは、血迷ったか!」
 声を張り上げ、イネブ王は槍を柩へ向けた。声には震えが含まれていた。言葉とは裏腹に、猟兵の行動に対する恐怖にも駆られた彼はそのまま柩へ迫る。
 影がイネブ王に降りかかる照明の光を妨げた。影は空中で蹴りのポーズを取った。
 攻撃を認識したイネブ王が咄嗟に腕を交差させると、次の瞬間にはヒールの先端が彼の腕に突き刺さった。
 反撃を許さぬうちにヒールを引き抜き、押し返される力を利用して離脱する。くるくると空中で回ってから影はイネブ王と柩の間に着地した。
 影の正体は、無力化されたはずの教団の受付嬢だった。一瞬、イネブ王の表情が固まる。非戦闘員が参入していること、猟兵側に加わり自身に歯向かっていることなど感情の理由にはいろいろあった。だが一番は、彼女の顔が奇妙なマスクに覆われていたことに戸惑っていた。
 彼女の顔を覆うマスクの口が動く。
「出遅れご免! 正義のヒーロー、登場っすよ!」
 彼女を操るリカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)がちゃらついた口調で言う。彼の意思により、受付嬢はぐっと親指を立ててから自分を指した。片方の手にはダガーが握られていた。
 リカルドは即座に攻撃へと移る。距離を詰め、服の血溜まりを狙ってダガーを振り回す。目を見開くと、イネブ王はバックステップを踏んだ。僅か数センチ前を光沢を持つ刃が掠めた。
「どうっすか? あんたが散々利用してきた相手に攻撃される気分は!」
 時折鋭いヒールによる蹴りも混ざり、リカルドの連撃は続く。
 しかし、なかなか攻撃が命中しない。ダガーは虚しく空を切るばかりだ。
 それもそのはず、この肉体はあくまで非戦闘員のもの。損傷の激しいマガツアリスの骸の代用とはいえ、やはり能力は劣る。普段ならそれでも間に合うだろうが、相手にしているのは極限状態のオブリビオンだ。
「なるほど、こりゃヤバいっすね……!」
 焦りが生まれ、リカルドは冷や汗を垂らす。
 一時止まって様子を見ようとする彼を、イネブ王が追撃する。
「我を苛立たせてくれるなよ!」
 右腕を大鰐の頭に変形させ、リカルドを貪ろうとその口を開いた。
 リカルドが身を翻すと、口の奥へ毛深い拳が飛び込んだ。拳を砕こうとしてみるが、鰐の顎はまるで動かない。
「……なんだ、それは」
 正面を捉えたまま、イネブ王は零した。
 かつて自身が供物を捧げていたような、輪郭のはっきりした怪物の姿が目の前にあった。狼男の怪物――空廼・柩の『真の姿』は歯を軋ませ、咆哮を上げた。命と理性が削られる痛みへの誤魔化しと相手への殺意が含まれていた。
「化け物め……!」
 もはやどちらが化け物なのかは、どうでもよくなっていた。
 左腕で、槍を変貌した柩の肉体へと突き刺す。深々と槍が突き刺さるが、柩は微動だにしない。躱すより攻撃の手段を奪うために自ら身を差し出したのかもしれなかった。
 柩は爪を立てると、胴部の傷をえぐるようになぞった。凝固しはじめていた傷口がさらに開き、流出する血の総量が増加する。
 右腕にかけた技を解き、イネブ王はふらふらと後方へ踊るように後退した。
 それでも、反骨の精神は絶えていないらしい。
「来るなら来い、化け物!」
 けれども、柩は動かない。槍の痛みが今になって響いたのだろうか。
 彼はそれを好機と捉えると、再び右腕を変形させた。
「勝負あったなあ!」
 声高に絶叫すると、イネブ王は鰐の頭を振り上げた。
 ちょうどそのとき、狼男の影から女性が飛び出した。
 ヒールと上着を脱いで身軽になったリカルドはさっと彼の懐に飛び込む。握られたダガーが体へと向かう。不意を突かれたイネブ王は反応できず、間抜けな表情で成り行きを見守る他なかった。
 ダガーはイネブ王の左胸を突き刺した。失意に溢れた彼は膝から崩れ落ちた。
 ただの人間に、ただの刃で刺されて終わり。謀反劇の一幕のようでもあった。
「あんたに食い物にされてきた犠牲者の恨みと無念、その身に味わうがいいっすよ」
 きらきらと眩い光を放ち、イネブ王の不完全な肉体は崩壊する。光は一見綺麗だったが、果てしない欲望にまみれた薄汚いものとそれぞれが看破できるものだった。
 かくして、強欲王は摩天楼に沈んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『空中庭園』

POW   :    散策する

SPD   :    観察する

WIZ   :    景色を見る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ビル群の隙間で
「えー、みなさま、お疲れさまでした」
 戦闘を終えた猟兵たちをUDC組織の重役らしき男が労った。彼自身も奔走していたのか、顔には疲労の色が見えた。
「これにて任務は完了です。ですが、少々お願いがありまして。我々が撤収するまでこのビルに留まっていてほしいんです」
 詳しく理由を伺うと、組織はこの後も教団内部の捜査を行うらしい。万一のことを考え、すぐに駆け付けられる場所にいてほしいそうだ。
 といっても、これ以上の事件の発生は予知されていない。事実、目の前の人物も一件落着して肩の力を抜いていた。ただそこにいてもらうだけで、組織の人々の心の支えになるのだろう。
「あ、ここからは我々の仕事ですから、業務には加わらなくて結構です。……遠慮でなくて、その、沽券に関わりますので」
 控え目に言いながらも突き放すと、彼は人差し指を立てる。
「そういえばこのビルには空中庭園があるそうです。そこで時間を潰してもらうのがいいでしょう」
 猟兵たちに見取り図が手渡される。見てみると、かなりの面積を持ったスペースが確保されているようだ。
「夜でもナイターの照明があって明るいはずです。たしか彫像とか、花壇とかもあった気がしますね。もちろん、夜景も一級品です。なかなか見られたものじゃないですよ、この高さからの風景は」
 庭園のゆったりした雰囲気は何かを語るのにぴったりかもしれないし、ただ漠然と時間が過ぎるのを待つのにもいいかもしれない。
 都会のオアシスとはいかほどのものなのか。それを確かめるだけでも価値はあるだろう。
シャレム・アルカード
【WIZ】
ふむ、夜であるというのにこれほど明るいとはな……眺めも良い、まるで地上に星空が広がっているようだ。いささか雑多すぎるきらいはあるが、なるほど確かにこの夜景は一級品と言っても過言ではあるまい。
少なくとも我は嫌いではない!むしろ気に入った!フハハハ!
(グラスに注いだトマトジュースを優雅にぐびぐび)

それにしても……王、か。
(一転して険しい顔でイネブ王ではなく別の存在(宿敵)に思いを馳せる。)
ふん……いずれ機会は訪れよう、その時には、必ず。
(決着を付ける、と言葉にはせず、そのまま夜景を眺め続ける)



●大公の休息
 夜風が体を通り過ぎていく。本来なら肌寒いと感じるだろう風も、戦闘の後では心地よい。
 設置されたパイン材の椅子に座り、シャレム・アルカード(小さな暴君・f09897)は風に逆らうようにして景色を望む。背後には今日の仕事を終えた『ヘカトンケイル』が威圧感を放って置かれている。
「ふむ、夜であるのにこれほど明るいとはな……」
 光が暗闇に沈んだ大地に点々と散りばめられ、花畑の如く展開している。
 まるで地上に星空が広がっているようだ、とシャレムはしばらく感嘆していた。
 代わりに本来の星空は失われている。そのうえ、都市が織り成した光はいささか雑多すぎるきらいもある。
 だが、なるほど確かにこの夜景は一級品といっても過言ではないかもしれない。
「少なくとも、我は嫌いではないな」
 近くのテーブルへ手を伸ばすと、真っ赤な液体が注がれたワイングラスを手に取った。
「むしろ気に入った! フハハハ!」
 光の群れに高揚感を誘われ、静まり返った夜の空に笑い声が響く。満足気に顔を緩ませるとグラスを口につけ、一気に傾ける。甘味と酸味が同時に口いっぱいに広がり、それらはぐびぐびと喉を伝う。――トマトジュースだ。
 一口分を飲んで気分が落ち着き、彼は軽く息を吐いた。ゆっくりと背中を伸ばし、今日の任務について回想する。イネブ・ヘジの王も我ら猟兵の敵ではなかったなとほくそ笑みながら、そのワードは彼の過去を想起させた。
「それにしても……王、か」
 緩んだ表情から一転、シャレムの顔つきは真剣なものへと変わる。正面に夜の都市を見据えるが、焦点は定まらない。
 彼の宿敵とも呼べる存在。それもまた、王であった。因縁深い相手が実体を持って現れたかのように、シャレムは闇を見つめ続けた。
「ふん……いずれ機会は訪れよう、そのときには、必ず」
 また一口、トマトジュースを流し込む。次に逢うときが、相手か自分の死に目だろう。視線をずらさず、彼はグラスを置いた。
 グラスは都市の光を反射し、赤い池の縁にキャンドルのような輝きを灯していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンテロ・ヴィルスカ
追いかけて来たらしい碧海君(f04532)と散策を

鎧を解いてフォーマルな普段着姿へ
休息がてら屋上を見て回ろう
なんだ、随分といい景色の中で戦っていたのだね

ふと後ろを振り返えれば何度か見かけたお嬢さん
お疲れ様、落ちていたら君がその細腕で助けてくれたのかい?
命綱代わりに失敬したコードは随分役に立ってくれた、と笑って

どれにも強く惹きつけられる訳ではないが…
油断すると口をついてでる独り言

この彫像は英雄か何かだろうか?
そこに花壇もあるね
こんなに高い人口の建物の上で花を見るなんて、面白いものだよ…

鳥の子のように続く物好きな彼女には視線もくれず、また一つ独り言

君の頭の花はここにはないか…それは何の花だい?


碧海・紗
SPD・アンテロさん(f03396)と行動

お見かけして急いで追いかけてみたけれど…
もう終わってしまったようですね

控えめに、彼に声を掛けて。

随分高い場所での戦い…景色がいいけれど
もし、落ちてしまったら一体どうする気だったんですか?

ご一緒すべく彼の後ろを数歩離れてついていきましょう
目に入る全てが珍しくて
ついつい足が止まっては凝視
気づいたら遠い彼を足早に追いかける、の繰り返し

ひとつの像の前で疑問の声を聞きながら
その造りの細部まで興味津々
像になる程です、きっとお強い方なのでしょうね?

空に咲く花、なんだか親近感がわきます。
私の花は、クレマチス…知ってます?



●英雄と空に咲く花
「なんだ、随分といい景色の中で戦っていたんだね」
 きらきらと瞬く光の粒を、アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)は遠巻きに眺めた。
 ナイター照明により、すらりとした影が地面に伸びる。戦闘を終え、彼はフォーマルな普段着姿になっていた。
 その円に似た照明の輪のなかに、また一つ影が加わる。影は周りを物珍しそうに見回してから、アンテロとの距離を詰める。
「お疲れさまでした。もう終わってしまったようですね」
 碧海・紗(闇雲・f04532)は控えめにアンテロに声をかける。黒い羽が白い灯りに照らされ、灰がかった色になる。
「見惚れちゃうくらい、ここは高所ですね。……あの、もし落ちてしまっていたら、一体どうする気だったんですか?」 
 声に気づき、アンテロはお疲れさま、と振り向き際に会釈を返した。
「落ちていたら、君がその細腕で助けてくれたのかい?」
 ついでに問いにも答えると、紗は急に自分が話題に出たことに驚き、体が少しだけ震えた。反応が面白くて、思わず彼の口許は緩む。
「命綱に似たコードを敵から頂戴していて、万が一はそれで凌ぐつもりだったよ。別のところで役立ってくれたけどね」
 上手くいってよかった、と微笑みながら、アンテロは庭園の舗装路を歩き出す。
 アンテロの足音に、紗の足音が遅れて続いた。
 いくつか、前衛的な彫刻たちをアンテロは通り過ぎた。一つ一つに差し掛かる度に、彼の背後の足音が止んだ。それから少々経って、ペースを早めた音が連続して鳴った。
 うち一つを過ぎたとき、彼はくるっと後ろを向いた。
 紗が彫刻の前に立ち止まり、じぃっと穴が開きそうなほどに見つめていた。彼女の熱心な眼差しを見て、気が緩む。
「どれにも強く惹きつけられる訳ではないが……」
「えっ、あっ、すみません……どれも見たことがないものばかりでしたから、気になってしまって……」
 僅かに赤面しながら、紗は俯いた。

 散策を続けていると、円形のスペースに出た。
 空間の中心には騎馬像が陣取り、周囲を花が取り囲んでいた。
「この彫像は、英雄か何かだろうか?」
「像になる程です。きっとお強い方なのでしょうね」
 じろじろと隅々まで観察しようとする紗をよそに、アンテロは花壇へと近寄った。これがどういった種のものかはわからない。けれども、彩に溢れる花はライトアップされて魅力を増し、彼の目を奪った。
「こんなに高い人工の建物の上で花を見るなんて、面白いものだよ……」
「空に咲く花、ですか。なんだか親近感が湧きます」
 彼の独り言を聞き、紗が隣へとやってくる。紗の頭に咲いた花の花びらが、振動に合わせ揺れ動いた。
 何気なく、花壇の中にそれを探してみる。だが、目の前には見当たらない。
「君の頭の花は……ここにはないか。そういえば、それは何の花だい?」
「私の花は、クレマチスです。知ってます?」
 アンテロは首を横に振った。
「名前は『ツル』に由来するそうで、花言葉には『旅人の喜び』なんてものがあったりするそうですよ」
「……『旅人の喜び』、か」
 世界から世界へと渡る猟兵。それが旅人という言葉と重なるような気がした。
「もうちょっと探してみようか。実物が見たくなった」
「私もお手伝いします。出会えたら、縁起が良さそうですし」
 彼らは再び、クレマチスを探し始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

叶・雪月
桜花(f03321)と同行
関係性のイメージは祖父と孫

景色でも眺めるかな
しかし、お前、とっとと合流できたからいいが庭園で会いましょうと先に行くのはどうなんだ

まったくお前はまず走り出すからな……頭脳労働派と言っていながら
まあ、結果よければいいか、って……説教してもお前変わらないだろうしな

俺のしかめっ面の大部分はお前由来だから……ってこんな景色の前で説教するのは野暮だな

確かに感慨深いな
俺が意識を持った頃なんて灯りひとつとっても貴重だったからな
こうやって夜景なんてもの楽しめるなんて文明だなー
花火でもないのに色とりどりだろう、不思議なもんだ

さて、では夜景散歩を楽しみましょうか


五條・桜花
雪月(f03400)と同行
関係性のイメージは祖父と孫

景色をのんびり見ようと思ってます

綺麗ですねー
本当にのんびりできて良かったです

雪月とも早めに合流できましたし、結果良ければすべてよしですよ

ほらほら、そんなしかめっ面しないで夜景でも見ましょう
こんな高いところからのんびり眺められる時間が持てるのは貴重でしょう

この灯りが人の営みを表していると思えば感慨深いものです
なんて、そんな難しいこと考えずにただ綺麗だーって楽しみましょう
ほら、あのあたりすごく明るいですよね、何あるのかしら
あ、あそこ、色とりどり、何があるんでしょうね



●夜景散歩
「綺麗ですねぇ」
 アクリルガラスの柵にもたれ掛かり、五條・桜花(六花の元に咲く桜・f03321)は一面の夜景を吸い込むように眺めた。
「本当に、のんびりできて良かったです」
 彼女はぐっと腕を伸ばし、ぶるぶると肩を震わせた。
 リラックスしている桜花を、隣で叶・雪月(六花舞う夜に煌めく月の刃・f03400)が見下ろす。眉間にはしわが寄り、不機嫌そうに口をへの字にしていた。
「しかしお前、とっとと合流できたからいいが、庭園で会いましょうって先に行くのはどうなんだ……?」
「早めに合流できましたし、結果良ければすべて良しですよ」
 素っ気ない回答が返ってきた。
 最初の共闘以降、桜花は途端に走り出してビルの機構の中に消えてしまった。向こう見ずな性格に気が気でないのは日常茶飯事だが、一向に慣れることはできない。
 頭脳労働派を称しながら、目を離すとすぐに走り出してしまう。孫娘に振り回される祖父のような気持ちを抱え、雪月は後ろ頭を掻いた。
「……説教しても、お前は変わらないしな」
「ほらほら、そんなしかめっ面しないで夜景でも見ましょう。こんな高いところからまったり眺められる時間が持てるなんて、あまりないでしょう?」
「俺のしかめっ面の大部分はお前が原因だろ……ま、この景色の前でぐちぐち言うのも野暮か」
 素知らぬ顔で、桜花は指で情景を示した。
 弱くとも眩い光が夜のあちこちに点在している。決して優しい光の集合ではなかったが、ぼかしの多い絵画に似て幻想的ではあった。
「この灯り、人の営みを表しているんですよね」
 彼女にしては珍しい一言に、雪月の思考が引っ張られる。
「確かに、感慨深い」
 目を細め、彼は回想する。自分が意識を持った頃など、灯り一つとっても貴重だった。松明の火の輝きが脳裏にすっと蘇る。光の下には、人々の暮らしがある。当然だが、忘れかけていた感覚だった。
 それを思うと、こうして光でいっぱいな世界というのが奇妙に感じられた。夜景を楽しめるというこの一幕も、考え直すと凄まじい時の流れがあってこそだ。
 特別行事の花火でもないのに、黒一色のはずの夜を多様な色が埋めている。不思議なものだ。
「なーんちゃって」
 どことなくしんみりとした空気は、発端である桜花によって崩された。彼女はおどけたように手を広げて雪月の前を通ると、別の方向を眺めた。
「ほらあのあたり、すごく明るいですよね。何があるんでしょう? あ、あそこも色とりどりです」
 難しいことは考えない。ただ視界に広がる光景を目に収め、感じたままに心を揺さぶられればいい。のんびり楽しむとはそういうことだ。
 桜花は気になる場所を見つけては指を指し、雪月へ呼びかける。
 取り残された雪月を、彼女は手招きした。
「雪月、早く来てください。こっちもすごくいい眺めですよ!」
 それだけいうと、彼女はまた前を向いて進んでいく。立ち止まっていては、距離はどんどん離されてしまいそうだ。
 思えば自分も爺っぽくなったものだと息を吐き、彼もまた足を踏み出す。
「そうやってまた、すぐに駆け出すんだよな」
 雪月はいつものように、桜花の後を追った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

空廼・柩
【SPD】
え、俺は教団内部の調査を続行しろとか言いませんよね?
…え、マジで仕事しなくて良いんすか?
英気を養ってろ?本当に?

急な休暇に困惑しつつも空中庭園へ
空を仰ぎ、地上を見下ろす
眠らぬ都市――煌々と煌く地上の星をぼんやり眺めたのも暫しの間
手持ち無沙汰にぶらぶら敷地内を歩いていると、設置されているという彫像や花壇の傍へ歩み寄る
彫像は一体誰の作品だろう?
花壇に咲く花に何か奇妙な点がないだろうか?
邪神に繋がる何らかの手掛りが残されてはいないだろうか?
そんな事を考えながらじいっと観察しまうのは、完全に仕事に毒されているかも知れない
…うん、決めた
今度ちゃんと休暇を取ろう――そうしよう
そう、心に決めながら



●職業病診断
 空虚な天を仰ぐ。埃のような小さな星が、ところどころで自分を主張していた。
「いきなり休めってのもなかなか困るな……」
 ぼやきながら、空廼・柩(からのひつぎ・f00796)はその場に立ち尽くす。
 重役の彼に聞き返したが、追加説明は「英気を養え」の一言のみ。流されるままに、空中庭園を訪れていた。
 視線は眼下に広がる都市に移る。眠らず、活力が巡り続ける様が見て取れた。それを外側から無感情に眺め、数分が経過する。
「……せっかくだし、何かしないと」
 久々の休暇だ。これまで仕事に切迫されていた分まで、くつろがねば。
 とはいえ、具体的に何をするかはいつまで経っても思いつかない。焦りが生じると、自然と体は前へ傾く。どこへ向かうでもなく、手持ち無沙汰気味に脚は動いた。
 彼を覗き込むように、一つの彫像が現れる。男とも女とも取れる、どろりと溶解したような像だった。
「素材は……銅か。損傷は少ないな。誰の作品だろう?」
 ぶつぶつと呟き、一歩近づいてみる。よく探しても作品解説らしきものはなく、結局最後の疑問はわからずじまいだ。
 一旦彫像を無視し、先へと進む。
 今度は整えられた植物のトンネルが道を囲む。茎はアーチ状のフェンスに巻き付き、白い花が柩の頭の高さで咲いていた。
 トンネルに進入し、つんと花を指でつつく。
「異常なし。怪しいところも特にはないけど――」
 そのまま行こうとしたところで、柩は違和感を感じ取った。
 こんなに何もないということがあるのだろうか。疑念が脳を過ぎる。
「この庭園にも邪神に繋がる手掛かりが残されているかも――」
 そんな言葉を口にしていたのに気づき、柩は硬直した。そこから、一気に力が抜ける。
「ダメだ、完全に仕事に毒されてるなぁ……」
 科学的な視点からの観察。当たり前を疑う精神。仕事の上では大切だが、確実に職業病の域に達していた。
 ため息をついた柩は、結論を下す。
 今度、ちゃんとした休暇を取ろう。そうしよう。
 届け出は受理されるだろうかと不安に思いつつ、それを心に決めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

塩崎・曲人
終わった終わった
後は帰って寝るだけだ、っと
「……そういや、一人で手持ち無沙汰になるのは久しぶりだな」

下の階で自販機を探し、買った缶コーヒーをちびちび飲みながら物思いに耽る
旅団のアタマを張ってからこちら、いつも誰かが騒いでるような有様だったからなぁ
騒々しい連中に付き合って、ねぐらに戻っても疲れてすぐ寝ちまうし
こうして静かに物事を振り返る機会は貴重かもしれねぇ
「当面はアイツらのヘッドとして気張ってないとだからなぁ。情けないカッコは見せらんねぇよな」
リーダーに相応しいだけの働きは出来ているだろうか
頼りなくは思われてないだろうか
そうではないと思いたいが、さて
「とりあえず、明日からまた頑張りますかね」



●物静かなコーヒーブレイク
 耳を澄ませてみても、音は届かない。
 ここに庭園が設けられた理由がわかったような気がした。喧噪から身を切り離すには十分な距離が必要だ。高層ビルの一角は頓智に似たやり方で要件を満たす場所だった。
 そんなことを考えながら、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は待ちぼうけを食らったかのようにベンチに腰掛けていた。手でホットコーヒーの缶を包む。熱を発する缶が、じんじんと彼の手先を暖める。
 目の前には、天地逆転したような位置関係の光群が見える。ぼーっとそれを眺めながら、曲人はコーヒーの缶を口へと運ぶ。苦味が体の奥へ流れるが、思考が冴えることに意味はなかった。
 この感覚を、曲人は懐かしく思った。
「……そういや、一人で手持ち無沙汰になるのは久しぶりだな」
 いつ振りだろう、音のないところで独り過ごすのは。
 旅団の頭を張ってからというもの、周囲は常に喧しく、賑やかだった。いつも誰かが騒いでいるような有様で、当然それは落ち着いた環境ではなかった。寝床に戻ればすぐに眠ってしまう程に毎日疲れていたし、ゆっくりとした時間は存在しなかった。
 そのため、今の彼にとって、こうした状況は滅多にないことだ。過去の物事が記憶の底から蒸気みたいにせり上がってきた。
 腕だけは動かし、また少量のコーヒーを飲んだ。
「当面は、アイツらのヘッドとして気張ってないとだからなぁ。情けないカッコは見せらんねぇよな」
 内省へと意識は傾いていく。
 旅団のリーダーとして、相応しいだけの働きはできていただろうか。頼りないと思われてはいないだろうか。溜まっていたらしい不安がぽこぽこと湧く。
 こればかりはそうでないと思うしかない。どちらにせよ、役割を放棄することはできないのだ。
 そのとき、UDC組織が撤収を告げた。出入口から代表者の声が響いた。
 ぐっとコーヒーを飲み干す。どさくさ紛れに不安を苦味で押し殺した。缶をほぼ垂直に立てて最後の一滴を舌で受けると、曲人は立ち上がった。
「とりあえず、明日からまた頑張りますかね」
 自身の吐息が聞こえた。曲人は缶を持たぬ手をポケットに入れ、庭園を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月21日


挿絵イラスト