エンパイアウォー⑥~ファランクスを越えて
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ザッザッザッ。
音を鳴らして男たちが道を進む。
身を包む着物からするとただの農民に見えるが、その手に持った男たちには不釣り合いな長槍と大盾が、彼らの異常性を表していた。
横に十六、縦に十六。総勢二百を超える内の誰一人としてその瞳には何も映しておらず、虚ろな表情でただひたすらに一糸乱れぬ行進を続けている。
そんな男たちが織り成す陣の中央で、一人の女がつまらなそうな表情で男たちを眺めていた。
『弱い奴らを操って、弱い奴らをぶっ倒す……くだらねぇ』
溜め息混じりに口にしたのは彼女が一端を担っている作戦への不満、とはいえ、それは操られた者達に同情しての言葉ではない。
操られたのは男たちが弱いからだ、それにやられるのもまた弱いから。
そんな弱者の群れになど興味はない。自分の技の実験台にすらならぬなら、どうぞ勝手に死んでいてくれと。
彼女が好むのは正々堂々の戦い、そして何よりも、彼女の心を奮い立たせてくれるような強者。
操った弱者に囲まれ、弱者を蹴散らすなど彼女にとって面白いことは一つもない。
『とはいえ、あの人は強ぇしなぁ……強いヤツからの命令なら、従ってやるか』
自分に言い聞かせるようにぼやき、再度周りの男達を見渡し。
『はぁぁぁぁぁ……』
もう一度、大きく溜め息を吐く。
強いヤツでも挑んで来ないかな、などと思いつつ。
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「みんなお疲れ様っ! まずは第一段階突破だねっ!」
エスペラ・アルベール(元気爆発笑顔の少女・f00095)は、猟兵達へ元気よく労いの言葉をかける。
各所での奮闘の結果、初めに予知されていた幕府軍を襲う苦難は全て阻止された。
魔軍将も次々とその居場所が判明しつつあり、ここまでは一先ず順調と言っていいだろう。
「けれど、新たに幕府軍を襲う苦難も予知されている、こっちも防がないと織田信長には手が届かない……」
今回の作戦目的は、その新たな苦難の一つ。
関ヶ原にて陣を展開している、ファランクス部隊の攻略である。
「ファランクスっていうのは、右手で長槍を構え、左手の盾で自分の左隣の仲間を守る陣形による戦術のことだね」
盾ごとぶつかり相手を弾いて槍で刺す。
言葉にすれば単純だが、それを成すには当然ながら相当な練度が必要だ。
そうなると、相手は信長軍の精鋭達なのだろうか。
そんな問いかけにエスペラは首を横に振り。
「この陣を組んでいるのは農民達……ただの一般人だよ」
表情を固くしての言葉に、経験豊富な猟兵達は即座に一つの可能性に思い当たる。
その推測通り、彼らの精神は魔軍将の一人、大帝剣『弥助アレキサンダー』によって操られているのだ。
更には別の魔軍将、日野富子の金銭によって用意された長槍と大盾も業物揃い、幕府軍で相手取るには難しい。
「けれど隙はある、精神操作は指揮官となっているオブリビオンを中継する形でかけられているみたいなんだ」
ならば、狙うべきは決まっている。
「ファランクスをなんとか突破して、オブリビオンの撃破を目指してほしい、そうすれば操られた人達を相手にする必要はなくなるはず」
彼らは一般人だ、なるべくならば殺さずに制してほしい。
「ここを突破できれば、魔空安土城まではほんの少し……絶対に、みんなを守ろうっ!」
芳乃桜花
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
後半戦のスタート! 芳乃桜花ですっ!
今回の状況をざっと説明し直すと、操られた農民によるファランクス陣形を突破し、陣の中央で指揮を取っているオブリビオンを撃破する、という形になります。
ファランクス部隊は結局のところ一般人に過ぎませんので、彼らの攻撃はよほど無茶をしない限り猟兵を傷つけることはないかと思われます。
加えて本シナリオのオブリビオンは強い相手へ興味を持つ戦闘狂なので、彼女の前に辿り着きさえすれば横槍が入ったりは無いでしょう。
それでは、皆様のプレイングお待ちしておりますっ!
第1章 ボス戦
『四華衆『剛勇拳刃の摩訶曼荼羅』』
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POW : さぁ受けてみな!鬼の全力の拳だぜ!
【全生命力を懸けた渾身の拳】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 脚は拳の三倍強いらしいぜ?知ってたか?
【目にも留まらぬ脚捌きからの上段回し蹴り】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : やるなら全力で楽しまねぇとなぁ!?
予め【拳と拳を合わせ気を練る】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
イラスト:抹茶もち
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「花盛・乙女」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ニレッド・アロウン
へぇへぇ……なんだか、面白い戦いがありそうですね!いっちょやりましょうか!
農民たち相手には槍が届かない中距離から、風の魔力を纏わせた鋏での【属性攻撃】で、武器だけを【吹き飛ばし】ていきましょうか。業物を扱えど、持っているのが一般人。筋力はそこまでないですし、武器がないなら気絶は簡単です。
それでお前がボス格ですか?んじゃ、始めましょうか!
鋏を双剣状にし、【二回攻撃】を行えるようにしながら行動です。左片刃で細かく攻撃しつつ、敵の攻撃は左片刃で【武器受け】で防ぎます。
敵が思いっきり攻撃しそうな、最適なタイミングを【第六感】で察知し、拍子合わせて『無敵城塞』発動です!んで敵の拳を砕いてやりましょうか!
リアナ・トラヴェリア
…よし、じゃあ空からお邪魔しちゃおう
こんにちは、あなたに会いに来たよ
暇なら一つお相手してもらうよ!
一発一発の攻撃が重い、受けたら終わりだから上手く避けないと
もし相手がユーベルコードによる攻撃をしてきたらそれが狙い
掴み取る魔術師の手で相手の体を捉えるよ!
相手を捕まえたらそのまま上空へ飛んで振り回すよ!
そしてファランクスの外へ投げ捨てちゃう!
これで他の猟兵が戦い易くなるはず。私も追撃して追いかけるよ。
あなたの手足がどんなに強くても武器の間合いには勝てないよ!
剣道三倍段…だっけ
距離を取れる状況なら私達は負けない!
そして貴女が近づくこともお見通し!
もう一度相手を掴んで上空に投げ捨てるよ!
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「へぇへぇ……なんだか、面白い戦いがありそうですね! いっちょやりましょうか!」
陣形を乱すことなく前進を続ける農民達の前に、一人の女性が立ち塞がった。
ニレッド・アロウン(水晶鋏の似非天使・f09465)はニヤリと笑みを浮かべ、巨大な水晶鋏を構えると、その刃に風を纏わせる。
「いくら業物と言えど、使い手が一般人では!」
気合と共に鋏を一振り。
刃から解放された風は暴風となって農民達を襲い、その手から武具を吹き飛ばす。
上等な武具を用意し、精神を操ろうとも身体は一般人のまま、猟兵の技に抗えるはずもなく、素手となってしまえば最早かかしも同然。
組み付いてでも止めようとしてくる相手に当身で返しつつ、大した苦労もないままオブリビオンの前へと辿り着いた。
「お前がボス格ですか?」
水晶鋏をバラして双剣とし、片一方を突きつけ問いかける。
部隊を軽く蹴散らし武器を構えるニレッドへと、オブリビオンが浮かべるのは獰猛な笑み。
『いいね、お前等。相当強そうだ』
「それはどうも―――お前、等?」
なぜ複数形。
首を傾げる彼女の隣へと、上空から降りてきたのはリアナ・トラヴェリア(ドラゴニアンの黒騎士・f04463)。
「こんにちは、あなたに会いに来たよ」
黒剣を構えつつオブリビオンと向き合うリアナの横で、ニレッドは彼女がやってきた方向に眼帯の奥に隠れた瞳を向けていた。
空から。なるほど、一般人は飛べない。飛べなければ幾ら槍が長かろうと自在に空を駆ける者を落とせるはずもない。
そういう手もあったかと、そんな思考を頭の隅へと追いやり改めてオブリビオンへ向き直り。
「さて、こちらは二人がかりということになってしまいますが……」
『構わねぇよ、お前ら猟兵は連携も上手いんだろ? だったら全部ぶつけてきな!』
「ほんと、聞いてた以上の戦闘狂だね」
「んじゃ、始めましょうか!」
ニレッドの声を合図に、三者が一斉に走り出す。
オブリビオンが手甲に付けられた刃を振るい、ニレッドが左の手にした水晶刃でそれを受け流し。
二人が正面からぶつかった瞬間、リアナは一瞬翼を広げると相手の頭上を越え、降下の勢いも乗せてその背を斬りつける。
決して浅くはない一撃、しかし。
『っらあ!』
「っ!?」
微かに感じた嫌な気配を信じてその場に屈むと、そのすぐ頭上をオブリビオンの拳が振り抜かれる。
空振ったその隙をついてニレッドが続けざまに二太刀叩き込むが、そちらへもすぐさま蹴りによる反撃が向かい、慌てて身をかわし。
「痛みを感じていないの?」
『はっ、痛ぇぐらいで一々止まるかよ!』
「メチャクチャな相手ですね、まったく!」
生半可な攻撃では一瞬たりとも動きを止められない、逆にこちらは相手の豪腕が一発でも当たれば決して無視できないダメージとなるだろう。
ならば長期戦は不利、そう判断した二人は視線を交わすと一端間合いを取り、ニレッドが右の水晶刃を大きく振りかぶりながら迫る。
「真正面から……行かせてもらいます!」
『上等!』
それを心から愉しげな表情で迎え、オブリビオンも拳を大きく引き絞り。
『さぁ受けてみな! 鬼の全力の拳だぜ!』
30cm―――オブリビオンの射程距離へと入ったその瞬間、ニレッドの顔面へと生命力を上乗せされた全力の拳が炸裂、周囲へと血液が飛び散った。
衝撃だけで周囲の農民達がたたらを踏んで転げる程の威力、並の相手……否、相当の実力者だろうとも一撃で粉砕するであろうその拳を受け、しかしニレッドの身体はピクリとも動いていない。
「宣言通り真正面から行きましたが、攻撃するとは言っておりませんよ?」
『おもしれぇ……!』
血が流れているのはオブリビオンの砕けた右拳、ニレッドには一切のダメージが通っていない。
彼女が書き換えた理は、他の行動をできなくする代わりにその身を無敵の城塞と成す物。
いかにオブリビオンの振るうユーベルコードの破壊力が高かろうと、物理的なダメージのみで突破できる代物ではない。
「リアナさん!」
「任せて!」
そして当然、受けるだけで終わりではない。
ニレッドのすぐ後ろから飛び出したリアナがオブリビオンの拳を掴むと、勢い良く空中へと飛び上がる。
『ちっ、離せ―――!?』
すぐにその手を振り払おうとした表情が、驚愕に変わった。
生命力をも賭けた一撃の直後とはいえ、自身の剛力を持ってしても少女の細腕はびくともしない。
「いっ―――けぇ!」
『うぉぉぉぉぉ!?』
そのまま空中で振り回されれば上下の感覚さえもわからなくなっていき、打開策を見出すよりも先に地面へと投げ飛ばされ。
全身が伝えてくる痛みを無視して立ち上がれば、そこはファランクス陣の外。
指揮官を中心に陣を組まねばと動こうとする農民達を、邪魔するなと視線で止める。
『ああくそ、愉しい、愉しいじゃねぇか! いいぞ猟兵! お前らみたいなのを待ってたんだ!!』
「……拳、本当に砕けてますよね?」
「呆れる体力だね、でも、自由に間合いを取れる状況なら武器持ちのこっちが有利だよ!」
追いかけてきたニレッドと共に呆れた表情を浮かべつつ、リアナは自身の黒剣を構えてオブリビオンへ宣告する。
剣道三倍段という言葉がある。素手で剣に勝つには、或いは剣で槍に勝つには段位にして相手の三倍以上の技量が必要だ、と。
それほどまでに間合いの差というのは大きい、農民達によって周囲を囲まれていた先程までなら兎も角、今の状況なら―――。
『ますますもって、おもしれぇ!!』
「更にやる気が上がるんですか……っと!」
際限なくテンションが上がっていく相手に最早呆れすらも通り過ぎ。
変わらぬ速度で間合いを詰めて振るわれる刃をニレッドは冷静に受け流し、すぐ後ろのリアナへと送る。
「さあ、もう一度行くよ!」
『あ、間合いがどうこうとか関係ねぇのかよ!』
流れた上体を掴んで上空へと飛び立ち、文句を言う相手に取り合わず投げ落とす。
単純だからこそ対策の取りようがないその攻撃に、オブリビオンは落下しながらも笑っていた。
『私はまだやられねぇぞ! まだまだやり合おうぜ猟兵共!!』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シル・ウィンディア
人は、道具じゃ…操り人形じゃないっ!!
対農民
【空中浮遊】で空に舞い【スナイパー】と【第六感】で動きを先読みして
精霊電磁砲の【誘導弾】で敵の進軍速度を遅めるよ
当てないのは難しいけど、傷つけるわけにはいかないしね
乱れたら【空中戦】【残像】【フェイント】を駆使して
敵指揮官を見つけたら一気に飛んで行きますっ!
接敵時は、【全力魔法】でいつもより限界突破の
ヘキサドライブ・ブーストを使用して、急速接近っ!
接近したらヒット&アウェイを心がけて
二刀流の光刃剣で【二回攻撃】
【属性攻撃】は風を付与
動きを封じつつ攻撃っ!
回避は【第六感】で感じて【見切り】で回避
被弾時は【盾受け】と【オーラ防御】で軽減するよ
ルパート・ブラックスミス
下手な小細工は農民を傷つけかねん。向こうの土俵に乗り込むとしよう。
青く燃える鉛の翼展開。
盾を踏むように蹴り飛ばし、槍は大剣で【武器受け】【なぎ払い】。
農民たちを必要以上に傷つけないよう手加減しつつ、真っ向から部隊の上を翔けるように【空中浮遊】しつつ【ダッシュ】。
すべては敵への【挑発】。陣を真っ向から突破し目の前に躍り出る。
黒騎士ルパート、推参。いざ、尋常に勝負。
ここまで振るってきた大剣を掲げ、突撃。
【フェイント】だ。大剣の間合いを掻い潜るべく敵が踏み込むタイミングを【見切り】、大剣を離す。
UC【炎抱きて白熱せし鋼肢】起動。【カウンター】で拳打による爆撃を叩き込む。
【共闘・アドリブ歓迎】
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先陣を切った猟兵によって崩されたファランクス部隊だったが、指揮官から「邪魔するな」という命令が出たこともあり、一先ず自分たちだけで陣形を組み直していた。
既に行われている戦いに手を出すわけにはいかないが、新たな敵を妨害するぐらいはやるべきだろう。虚ろな精神で辛うじてその結論を出し。
「撃ちます!」
新たな人影を発見したと思ったその時には、目の前に着弾した砲撃によって再び陣が崩れだした。
シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)とルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)の二人は、シルの放った砲撃によってできた穴へと突撃をかける。
「ルパートさん!」
「ああ、先程の戦闘音……別の猟兵が既に辿り着いているようだ」
オブリビオンの位置は中央と聞いていたが、二人の耳に届いた戦闘音の箇所はそれとはズレた方向。
何らかの理由で戦場が移ったのだろう、二人は認識をあわせると、同時に地を蹴りシルは飛行魔法を、ルパートは青く燃える鉛の翼を展開して空へと舞い上がる。
二度目となる空からの突破をなんとか阻止せんと、農民達が武器を掲げて障害を作り出すが、それらはルパートが手にした大剣で切り払い、それでも伸びる手を盾ごしに踏み蹴って突破する。ファランクス陣形を維持していなければ、一般人が武器を振りかざしたところで猟兵達にとって足止めにすらなりはしない。
そのまま戦闘音を頼りに進んで行けば、全身に傷を負いながらも闘志の萎える気配を微塵も感じさせないオブリビオンの姿。
「見つけた……! 代わります!」
シルの声に、戦い続けて消耗の激しくなった猟兵達が戦線を後退。入れ替わる形で二人がオブリビオンと対峙する。
「黒騎士ルパート、推参」
『はん! いいねいいね、お前らも十分強そうだ!』
「いざ、尋常に勝負」
名乗りを上げ大剣を掲げての突撃、それは実に解りやすい真っ向勝負の誘い。
そんな誘いにこのオブリビオンが乗らないはずもなく、砕けたのとは逆の拳を握り、強く引き絞る。
互いの間合いまで後3歩、2歩、1歩―――。
『受けてみなぁ!』
二度目となる全力の拳、先程はユーベルコードの相性負けという結果になったが、そうでなければ当たれば必殺の威力を持っていることは違わない。
そして、ルパートが使おうとしているそれは自らの身を守る類の物ではなく、故に。
「悪いが、断る」
『なぁっ!?』
思い切り振り抜かれた拳が炸裂したのは、ルパートが手放した大剣のみ。
剣こそそのまま遠く弾き飛ばされたものの、拳を握る彼を前にして大振り直後のオブリビオンは動くことができない。
「我が鉛鋼の輝きは暗く……」
『がぁ!』
鎧の内に詰まる青く燃える流動鉛、その炎によって白熱化した拳がオブリビオンの腹部へと突き刺さり。
「されど今は眩く!」
『うぉぉぉ!?』
更には殴りつけた箇所が爆ぜるように、青き劫火が吹き出し身を焼き尽くさんと踊り狂う。
攻撃直後に放たれたカウンター気味の一撃、流石にこれは堪えたか、遂に膝を折り荒く息を繰り返す。
『……は、はは』
「む……」
それでも。
『はははははは! いい! いいなぁ猟兵共!! こんなに強い奴らは滅多にいねぇ!』
最早残された体力は少ないだろうに、オブリビオンは心の奥底から楽しそうに笑い、砕けた拳を握り、焼けた腹を払い、その歩を止めようとしない。
『こんな雑魚どもを操ってのお人形ごっこなんざつまらなくて仕方なかったんだ! 感謝するぜ!』
「……狂人め」
とても付き合いきれぬと、鎧内に格納していた短剣を引き抜き構えるルパートを追い越し、一人の少女が敵の眼前へと歩み出る。
「―――ねぇ」
『あ?』
「貴方は、なんとも思わないの? なんの罪も無い、争いを望んでいない人達を操って戦争の道具にすることに!」
シルの怒号が響く、大の大人だろうと真正面からぶつけられれば気圧され兼ねないだろう程の怒気を、10を過ぎたばかりの少女が放っている。
相手が行っている作戦が、どれだけの外道かという事だ。何故彼女がここまでの怒りを抱いているのか、理解できない者はきっと少数だろう。
そして、彼女が怒りをぶつけている相手は、その少数の内の一人。
『何言ってやがる、雑魚どもがどうなろうが知ったこっちゃねぇっての』
「―――ヘキサドライブ・ブースト!」
盛り上がっていたところを邪魔しやがって、とでも言いたげだったオブリビオンの表情が変わる。
ヘキサドライブ・ブーストは、シルが己の魔力を暴走させることで強引に戦闘能力を跳ね上げる魔法だ。今回、彼女はその魔法自体を強化して使用した。
それによって、彼女の戦闘能力は通常とは比べ物にならぬレベルとなっているが―――。
思わぬ強者に笑みを浮かべながら構えるオブリビオンへと、シルが二振りの光刃を携え斬りかかり。
手甲の刃で受けようとすれば纏った風が腕ごと弾き上げ、空いた脇腹をもう一刀が斬り裂き、傷を厭わず放たれた蹴りが届く頃には既に間合いの外へと離れている。
『はっ……マジか』
「人は、道具じゃ……操り人形じゃないっ!!」
このオブリビオンをもってしても背筋を震わせる速度、怒りを原動力とし、シルは一方的に攻勢へと立っている。
しかし。
(……マズイな)
その様子を見て、ルパートは駆ける。アレを放っておいてはいけないと。
恐らく、通常ならば多少のダメージこそ入るが大きな問題とまではならない類の魔法なのだろう。
しかし怒りに任せ、限界以上の力を引き出してしまったあの戦いを長引かせれば、まだ幼いその身体にどれほどの影響が残るのか。
この状況で止めろと言って止まる筈もない、ならば取るべきは、早急なオブリビオンの撃破。
シルの光刃に身を裂かれながら、尚もその動きを見切ってやろうと目を見開くオブリビオンの背後へと周り、声を上げる。
「合わせろ」
同時に投げ放った短剣は、上げた声によって看破されてしまい手甲に弾かれ。
不可解な行動に疑問の表情を浮かべる相手の背中へと、弾かれた筈の短剣が意思を持ったかのように動いて突き刺さる。
『な……!』
「やぁぁぁぁぁ!!」
予期せぬダメージは致命的な隙を生み出し。
シルがその隙を見逃す筈もなく、光刃が遂にオブリビオンを両断する。
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中継地点となっていた指揮官を失った農民たちはすぐに自我を取り戻し、猟兵達に礼を言いながら幕府軍へと投降していった。
今回の作戦の原因となった弥助アレキサンダーは未だその所在を掴ませていない。
外道を働く相手への怒りを今は胸に秘め、猟兵達は帰路につく。
大成功
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