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エンパイアウォー⑲~傲慢への報い~

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #コルテス

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●その男、エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロ
「戦になんぞ、興味はない。私が欲しいのは贈り物だ。何やら磯臭い場所だが、それなりに歴史ある建物なのだろう、ここは。ならばアンティークな物品も宝殿には山程あるに違いない。それはもう略奪するしかあるまいね」
 戦況を伝えようとする伝令の言葉を遮るようにして、その男は嘯いた。
「幾らその姿形が我らコンキスタドールに似通っていようと、エンパイアの連中なんぞ野蛮で下等な猿に過ぎんのだよ。愚かな猿が私たち知的生物に勝てると思うか? いやいや、それはナンセンスだと言わざるを得ない……!」
「ああ、大いなる神よ。偉大なる王よ。そして麗しの姫君よ。心躍らせるような宝物をご用意しよう。……貴公らの喜ぶ顔を見るのが今から楽しみだ。それは私に得も言われぬ歓喜と、そして新たな栄誉を授けてくれる事だろう……!!」

●グリモアベースにて
「……皆、聞いてほしい。魔軍将の一角、侵略渡来人コルテスの居場所がわかった」
 形代・九十九(抜けば魂散る氷の刃・f18421)は集まった猟兵たちを前に、常通りの無表情のまま手にした赤い天狗の面を虚空に翳す。どうやらこの面こそが彼のグリモアとしての力を宿す器物らしかった。
「これも日々、戦い続ける皆の活躍のおかげだ。これで奴に決戦を挑むことができる」
 そんな言葉に続いて天狗の双眸がぼう、と緑色に燃え上がる。何もない虚空に、天狗の双眸が浮かび上がらせたのは青く広がる海面に厳かに立つ朱色の大鳥居。よくよく注視すれば鳥居のその頂には両脚をぶらりと垂らして行儀悪く腰掛けた髭面の男が、手にした先込め式の長銃(マスケット)を手入れしている姿が見て取れた。その傍らには翼を備えた巨大な蛇がまるで傅くように寄り添い、鳥居にその長い胴体で絡みついていた。

「……これがコルテス。そして傍らの巨大な蛇はその乗騎、ケツァルコアトルだな。奴は侵略して滅した文明の神を自分の乗り物として使役しているのだ。奴らは今、安芸国のにあるこの厳島神社を占拠している。故に今回は大鳥居の奥、陸地側に控える本殿周辺が主戦場となるかも知れない」
 厳島神社は平家に由来を持つ由緒ある立派な施設だ。そこを戦場にしなければならない事に対する苦悩が、無表情ながらも九十九の声音を微かに沈ませる。彼自身、ヤドリガミであるが故に、歴史ある遺物に対しては畏敬の念を常々深く抱いてしまうのである。
「コルテスは自分と、自分が媚びを売る相手、それ以外は殺戮と略奪の対象程度にしか思わず見下すような男だ。そんな豺狼のように酷薄で無慈悲な心根を持つ上に、魔軍将の一角に居座っているだけあって、強敵には違いないだろう」
「……しかし、だ」
 虚空に浮かび上がる髭面の男の映像から視線を外した九十九は静かに続ける。

「奴は自分を安全圏に退避した上で滅ぼした世界の戦力を利用した一方的な侵略と殺戮の愉悦を長らく繰り返している。直接敵地に攻め込み、自分の力で侵略対象たちと戦ったのはせいぜい侵略を開始した頃の数回程度だろう。ついでに奴は、おれたちを下等生物と断じ、すっかり慢心し切っている。……だからこそその油断に付け入る隙がある。……ましてや、奴は戦い方を殆ど忘れているのだ。自分で戦うような状況とは長らく無縁のため、戦いのイロハを忘れて宝物探しに浮かれているのだ。……簡単に予想のつくような、真正面から馬鹿正直に突っ込むような戦い方をしない限りは奴を翻弄出来る筈だ」
 つまりは、此方からコルテスを奇襲し、侵略し返してやるのだ、と。
「……無闇な暴威を振るう者は、いつか自分がその側に廻る事を心せねばならない。……それを忘れた男に、因果の報いが巡って来るときが来た」
 ……おまえたちまでをも、無闇な暴威を振るうもの、と言うつもりはもちろんないのだが。もし気に障ってしまったらすまないと小さく付け加えて九十九は天狗の面を静かに被る。元々無表情であるが、どこか憂いを帯びていたその顔は鼻の長い天狗の面で覆い隠されてしまった。
「だが、心せよ。コルテスは戦い方を忘れてはいるが……それでも魔軍の将たる男だ。その残忍で無慈悲な精神性は無論のこと――……戦いが長引けば、奴は身体に染み付いた昔の戦い方を思い出していく事だろう。短い間隔で似たような攻撃を繰り返せばそれにも対応してくるかも知れないな。そうなれば、相手の体勢は途端に整い……状況はひっくり返される可能性がある。嘗て奴に侵略されたアステカ文明も強大な力を誇っていたが、それでも文明は滅ぼされ、神であるケツァルコアトルも屈服させられたのだ」

 天狗の双眸が緑色に眩く輝き、其処から迸る二条の光が虚空の一点で重なり、空間を歪ませながら、其処に大きな切れ目を走らせ、じわじわと拡げていく。『向こう側』の景色がぼんやりと浮かび上がり、それは静かに鮮明さを帯びていく。やがて、はっきりとした形で此方と彼方を繋げる門(ゲート)が開かれた。

「さて、門が開かれたな。おれに出来ることは送り迎えだけだが、どうか無事に戻ってきてほしい。最後に付け加えておくが……ケツァルコアトルは自身の守護する民を殺し尽くされ、文明も無惨に打ち砕かれ、自身もまた奴に隷属させられ使役される哀れな神だ。……だが、彼に過分な同情や慈悲を向ける事をおれは推奨しない。ケツァルコアトルは文字通りにその命を賭けてコルテスの為に最後まで戦おうとする事だろう」


毒島やすみ
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 初めまして、あるいは二回目ありがとうございます!
 某ソシャゲのおかげでコロンブスに対するイメージが180度変わりました、毒島やすみです。
 お盆休みが始まりましたね。世間はもうひとつのコミックマーケットという戦争も始まっておりますが、ここ何年かそういうイベントとは全く縁のない毒島です。
 どこにも行けなさそうな悲しみをキーボードを叩く指に込める力に変えて、皆様のお盆休みを盛り上げる楽しみの一つになれたらと思います。

 暑い日が続きますが、どうか熱中症には気をつけて。水分と塩分の補給はこまめにしましょう。
 ついつい欲しくなってしまいますが、冷たいものばかり食べるのも(おなかに)危ないですよ!
 それでは楽しいイェーガーライフを!
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第1章 ボス戦 『侵略渡来人『コルテス』』

POW   :    古典的騎乗術
予め【大昔にやった騎馬突撃を思い出す 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    マスケット銃撃ち
【10秒間の弾籠め 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【マスケット銃】で攻撃する。
WIZ   :    奴隷神使い
【ケツァルコアトルの噛みつき 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:シャル

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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 門より猟兵達が姿を表す―― コルテスは悠々と沖の鳥居を渡り、乗騎の背より降りれば、己が二本の脚にて宝物庫の物色に向かう所であった。
 大鳥居を潜るようにしてこの地に次々と来たる猟兵たちの気配を背後に感じたか、静かにその歩みが止まる。

 侵略渡来人エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロ。
 そして、彼を討ち果たさんとする猟兵たちの邂逅した瞬間であった。

「……何かと思えば、野蛮で下等な猿どもか。私の邪魔をしに来たか?それにしてもTPOというものを弁えてほしいものだよ。私は見ての通り、忙しいんだ。これだから常識を知らぬ奴は嫌いなんだ……。ああ、いや……分かる筈もないか。どうせおまえたちは下等で無知なケダモノだ」

 言いながら、髭面の男は傍らに付き従う大蛇の背に手をかける。
「……さあ、ケツァルコアトルよ。その命が惜しければ、せいぜい私のために勇ましく戦うのだな」
落浜・語
何て言うかまぁ…どこまでも見下してくれてまぁ……
その慢心と傲慢さ、へし折ってやりたいな。徹底的に。

UC『白雪姫の贈り物』を使用。少しばかり癪だが【礼儀作法】でもってへりくだった態度を【演技】し、かたる。
「この神社を作った一族をご存じで?偉大なるコルテス将軍には下等な者の歴史などご興味ないでしょうが、少々お耳を拝借。この国の権力を手に入れた一族が、繁栄を願いこの社殿を作った。ですが、傲れるものも久しからず。最後は滅亡した。お前がこれから辿る道だ」

どのタイミングでも意識を向けたらこっちのもの。
どこまでも見下しやがってふざけんな。焼けた靴で死ぬで踊れっ!

アドリブ、連携歓迎


ンァルマ・カーンジャール
コルテスさん!
私の最高のお料理でお相手させて頂きますっ!
今回は「ポークソテーのシェリーソース添え」
あなたの故郷のお味を再現して参ります!

UC発動!!
炎の精霊さん!強火で一気にお願いします!
まずは小麦粉をまぶした豚のロース肉を旨味を強火で焼きますよー
表面を焼いたお肉を一度火から離し中まで熱を通します
お次は玉ねぎとニンニクを風の精霊さんにお願いし微塵切りに
再び炎の精霊さんにお願いし中火で炒めます
玉ねぎがきつね色になったらシェリー酒と塩・胡椒を加え
とろみが出てきた所にお肉を戻し馴染ませ完成ですっ!
お口いっぱいの幸せをお届けです!

仕上げは精霊魔法で大地の腕を作り背後から攻撃です!
お粗末様でしたーーっ!


館野・敬輔
【WIZ】
アドリブ連携可
※成功数過多になるなら却下可

さすが侵略渡来人、と言ったところか
侵略先の人間を見下し、モノとしか見ない
…どこぞのヴァンパイアと同じだな(※ダークセイヴァー出身)

徹底的に斬り刻んで
見下したツケを払わせてやるよ

UC使用の前準備として
黒剣の中の魂を呼び出し身に纏う

「地形の利用、目立たない、忍び足」で柱に身を隠しつつコルテスの背後に移動
「先制攻撃、2回攻撃、怪力、吹き飛ばし」で背後から奇襲を仕掛ける

こちらのUCを警戒して奴隷神使いを使って来たら「第六感、残像、見切り、武器受け」で回避か防御
UCを黒剣の中の魂が記憶したら【魂魄記憶】発動、そのままそっくりお返しする




「……何て言うかまぁ……どこまでも見下してくれてまぁ……」
 その慢心と傲慢さはどうにも鼻につく。そもそも、相手は不埒な侵略者なのだ。何を気兼ねする必要があろうものか。
 徹底的にその鼻っ柱は叩き折ってやるべきだと、落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)は思っていた。
「さすが侵略渡来人、と言ったところか。侵略先の人間を見下し、モノとしか見ない。……どこぞのヴァンパイアと同じだな」
 その呟きに同調するかのように、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)も頷いた。
 ダークセイヴァー世界の出である彼もまた、その世界での支配階級たる吸血鬼どもの暴虐を幾度も目の当たりにしていた。
 だからこそに、それらを彷彿とさせるようなコルテスの有り様に対して不快感と憤りを覚えずには居られなかったのだ。

「それなら、私にひとつお任せを」
 ンァルマ・カーンジャール(大地と共に・f07553)は二人のやり取りを聞いてにっこりと笑い、そのまま悠々とコルテスの前に歩み出た。
 
「コルテスさん!長旅どうもお疲れさまです!よろしければ私の最高のお料理でおもてなしをさせてくださいませんか!」
 あどけない少女のそんな言葉に、髭面の男は一瞬目を瞬かせたが、すぐにその自慢の髭を指先で整えながら不敵に微笑を浮かべて見せるのだ。
「……ふぅん、下等生物の小娘にしてはえらく気が利くではないか。だが、私は見ての通りのハイソな男、なかなか舌が肥えていてね。好みには煩いのだが、果たして君のような下等生物ごときに私の舌を満足させることが出来るかな?」

「うーわ、こいつマジでイラつく……」
「……気持ちは分かるが抑えて抑えて」
苛立つ語と敬輔のふたりを他所に、ンァルマはさしたる不快感を表す事もなく、あどけなく微笑んで見せた。

「ええ、もちろん! あなたの故郷のお味を再現してご覧に入れましょう!」
「ほう、それは楽しみだ。……して、メニューは一体何かね、お嬢さん」
「はい! 今回は『ポークソテーのシェリーソース添え』を作ろうと思っています!」
「……宜しい! さあ、早く用意してくれたまえ」

 偉そうな口調とは裏腹に、コルテスは料理という言葉に大いに興味を抱いたようだった。
 しかし、それは無理もない事である。侵略先では容赦なく搾取し略奪する彼らだが、その本能には長く厳しい航海の間、味気ない保存食で飢えを凌いだ記憶が深く刻み込まれているのだ。長らく安易に勝利し続けたが故に、戦いの術を忘れてしまった彼とて、手間のかかった作りたての温かい料理にはつい心惹かれてしまうのも致し方のない事であっただろう。

 楽しみの余りに、ついソワソワしながら口元の髭を摘んで熱心に整えるコルテスを尻目に、ンァルマはユーベルコードを発動する。
「炎の精霊さん! 強火で一気にお願いします!」
 
 何時の間にか用意されていた調理台。
 小麦粉をまぶされ、フライパンに載せられた豚ロースの表面を炎の精霊が強火で焼き固め、その旨味成分を外に流れないようにしっかりと閉じ込めていく。
 ジュウ~…… という肉の焼ける音と漂う匂いが食欲をそそる。思わず込み上げてくる唾液を飲み込んでしまったのは決してコルテス一人だけではあるまい。
 そのまま丁寧に中まで熱を通した肉の準備と並行で呼び出した風の精霊が、サクサクと小気味良く玉ねぎとニンニクを細かい微塵切りにし、続けてそれを炎の精霊がもう一つのフライパンでじっくりと中火で炒めていく。

 食欲という誘惑を振り払いながら、敬輔は己の振るう黒剣に宿る魂を呼び出し、静かに己の身に纏う。
(徹底的に刻んで俺たちを見下したツケを払わせてやる……!!)
 幾多の異端を殺し、その血と命を啜った剣に宿るものが自分と重なる事で、敵を切り刻まんと望む己の衝動をより強く掻き立てていくのを感じる。
 侵略者へと向けた復讐心に逸る想いに飲み込まれぬよう、然しその憤りを確かな力に変えるよう―― 敬輔は強く剣の柄を握り締めてその時を待つ。

 やがて玉葱がきつね色になった頃。
 酒と塩胡椒を加えられ、更に火を掛けて水分を飛ばし、とろみのついた特製ソースの中に、程よく焼けた肉が投下され、よく馴染ませるように掻き混ぜられれば、ンァルマ自慢の腕を奮った精霊☆料理(エレメンタル・クッキング)がついに完成した。
『お口い~っぱいの幸せ!召し上がれ~!』
 白い皿に盛り付けられたポークソテーを前に、コルテスは思わず唸り声を小さく漏らす。
 野蛮な下等生物と少々侮っていたかも知れん。素直に認めるのはプライドが許さないので、決して声には出さないが。
 
「どれ、それでは頂くとしよう」
 用意されたテーブルに就き、服が汚れないように紙ナプキンを襟元に挟む。
 コルテスはフォークを手にするとよくソースの絡んだソテー肉を一口頬張り――そのまま大きく目を見開くと、数秒の沈黙の後、おもむろに席を立った。

 悪鬼外道、無慈悲の侵略者の口元が微かに蠢く。
「――……Delicioso(美味い)」
 そんなコルテスの足元では、同様に用意された更に盛られたポークソテーの余りの美味に耐えられず、ケツァルコアトルがその巨体をのたうたせて悶えていた。

「……そいつぁ何よりですよ、コルテス将軍」
 ああ良かったな……。散々ひっぱりやがってこの野郎。
 そう怒鳴り散らして殴りつけてやりたい気持ちを抑えながら、語は引きつりそうな表情を無理やりにこやかな笑顔のそれに固定した。こいつにはこれから散々な目に遭う未来が待っている。
「この神社を作った一族をご存じで?偉大なるコルテス将軍には下等な者の歴史などご興味ないでしょうが、少々お耳を拝借させて頂きたく」
「うん?……うん。久々に私は機嫌がいい。下等生物の歴史に興味などこれっぽっちもないが、聞いてやらんでもないかな」
 機嫌が良くとも一々癇に障る男だ。そう思いながらも、語はこの後のカタルシスを思い描けばなんとかその不快感を堪えることが出来た。
 自然と舌の滑りも軽くなる。高座に立つ噺家の。嘗て彼が高座扇子であった頃、その主が紡いだそれとは違った語り口ながらも、慇懃に淡々と紡がれるその言葉には確かな自信が溢れていく。
「この国の権力を手に入れた一族が、繁栄を願いこの社殿を作った。……ですが、傲れるものも久しからず。最後は滅亡した」「ははは、それはなかなか愉快な話だな。実に愚かな連中だ」
「……だろうね。で、それはお前がこれから辿る道だ」

 その言葉とほぼ同時に、語がコルテスへと仕掛けたユーベルコードがその効力を発動していた。
 その両足を元の靴の上から覆うようにして現れる赤熱化した鉄の靴が覆い隠してそのまま焼き消す。
 剥き出しの裸足を責め苛む焼けた鉄の容赦ない熱。口に出すのも憚られるような人の肉の焼ける音が響き、コルテスは思わず地団駄を踏むようにして、滑稽な踊りを舞う――。テーブルセットを乱暴に叩き壊し、残骸の散らばる中でタップダンスを繰り返す。一層の苦痛を生み出し、さらなる悲鳴と共に無様により激しく踊らせる一種の永久機関じみた光景だ。

「なっ、なんだこれは! 私の足が! 熱い! 焼ける! 貴様私に何をしたァァァァァ!!」
「ちょっとしたプレゼントだよ。……良いから、そのまま死ぬまで上手に踊っててくれよ。その焼けた鉄の靴でな……!」

 ユーベルコード『白雪姫の贈り物(シラユキヒメノフクシュウ)』
 自分を殺そうとした継母である王妃へと白雪姫が送ったそれを履かされ、彼女は結婚披露宴の席で踊り狂って死ぬ様を見世物にされたという。コルテスもまた、苦悶の呻きと共に無様に踊っていたが、直ぐ側には海がある。
 あれに飛び込みさえすれば火は消せる――。一縷の望みを抱いて、乗騎を呼ぼうとした彼の背後に迫る―― 黒い鎧。
 それまで遮蔽物に身を隠し、目立たぬようにじわじわと接近していた敬輔がこの絶好の機会を見逃すはずもなく。
 本来はユーベルコードへの備えとして蓄えていた力をそっくりそのまま攻撃のリソースへと転化し、一陣の颶風となりて地の上を這うように疾駆する。

「……ツケの一部を返してやる。まだまだ足りない分を、死ぬまで払い続けろ!!」
「おのれェ!下等な猿どもが、この私を謀りおってェェェェ……! ぐぉぉぉぉぉっ!!!」
 膨れ上がる殺気と共に、回り込んだ背後、その大きな死角より振り上げた黒剣の刃が侵略者の背中を袈裟に深々と斬り裂いていく。
 バランスを崩してつんのめり、倒れ込みそうになりながらも辛うじて堪えたコルテスはよろよろと虚空を泳ぐように数歩逃れるも、その先にはンァルマが大地の精霊に呼びかけて作り上げた巨大な腕が地面から生えて待ち構えていた。

「ま、待て……!?」
 お粗末様でした!そんな宣言と共に頭上から振り抜かれる巨大な拳で打ち据えられ、為す術もなく吹き飛ぶコルテスを追うように地を蹴り、黒い風の如き加速を得て飛び出す敬輔。
「……もう一発だ、遠慮せずに貰っておけ!!こんなものではまだまだ足りないがな!!」
 そのまま追いつき、追い越し―― 振り返り様に身体を翻し、勢いを載せて叩きつけるように振り抜く黒剣!
「おごォォォッ……!!」
 衝撃に堪らず身体をくの字に折り曲げて勢いよく吹き飛ぶコルテスはそのまま叩きつけられた地面の上をバウンドし、無様に喘ぎながら転がった。その情けない姿を追うように、乗騎たる翼備えた蛇が弾丸の如く空を掛け、彼の傍らにまで辿り着けば、その身を庇うように巨体を蠢かせて、その尾にて盾と為す。
 
 こうして、猟兵たちの奇襲により、早くも満身創痍の姿を晒すコルテス。
 しかしながら、彼もまた魔軍将の一角。その生命力が続く限り、決して油断の出来ない相手である事に変わりはない。

「……なかなか似合ってるじゃないか、その靴。気に入ってくれたかよ?」
「囀るんじゃない、下等生物ども。絶対に許してなどやらんぞ……!」

 そう吠えるコルテスではあるが―――
(いかん……! 突撃の仕方も銃の撃ち方もさっぱり思い出せん)

 そんな内心の同様を気取られないように必死で表情を誤魔化していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イフェイオン・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

遠路はるばるお越しいただいた方に何も渡せないとはウォーグレイヴ家の家名に傷がついちゃいます。
ここは自称下等生物代表の私が直々に贈り物をさしあげませんといけませんね。

戦いは他の猟兵にお任せし、私は『目立たない』よう影に徹します。死角からの『暗殺』、所謂サプライズプレゼントです。
10秒も待ってくれるとは尊大な言葉とは裏腹に私の刃を貰ってくれる準備は万端の様ですね。
『毒使い』として失望されたくありません。心の込めた毒の刃をお身体にたんと刺しあげますよ。生の喜びと死の苦しみ二重に味わえる贅沢な品です。私の気持ち受け取ってください。
コステロさんに自慢の毒が気に入ってもらえると嬉しいです!




(遠路はるばるお越しいただいた方に何も渡せないとはウォーグレイヴ家の家名に傷がついちゃいます……。ここは自称、下等生物代表の私が直々に贈り物をさしあげませんといけませんね……)
 何処か謙遜や卑下をしているようでありながらも、イフェイオンの中には強い自負がある。毒使い、暗殺者としての己の技量と経験則に対しての深い自信がある。
 そんな彼は、コルテスが赤い靴を履き踊り狂っている間に抜け目なくその気配を消し、まるで影そのものに成り切るかのように隠密行動に徹していた。暗殺の刃というとっておきのサプライズプレゼントを傲慢な侵略者へとくれてやるその瞬間を迎えるために。

 極限まで自身の殺気を抑え、木々や建築物、或いは他の猟兵などと言った遮蔽物の陰から陰へと流れるように迅速に滑り抜けて行きながら、手にしたナイフの柄を静かに握り直す。……その刃には自慢の毒をたっぷりと心を込めて塗り込めている。ナイフの銘もずばり『毒婦』とブラックな洒落が効いたものである。
 赤熱化の収まった鉄靴の戒めから開放されたコルテスの死角に回り込むようにじわじわと距離を詰める。柱の陰を通って、髭面男を追い越す間際―― 何やら考え込んだ様子のコルテスが、愛用の先込め式長銃を弄り回しているのが、イフェイオンの目に映る。
(……何をもたもたしているのやら。……弾込めかな?あんな手付きじゃ、どう頑張っても後10秒くらいは掛かりそうだ)
 ……慎重に忍び寄って、毒の刃を叩き込むにはギリギリ間に合うタイミングだ。尊大にして不遜なる侵略渡来人にこのままたっぷりと贈り物を寄越してやろう。彼我の距離がゆっくりと0に近付いていく。さあ、仕掛ける頃合いだ―――

 イフェイオンはその背後より静かに毒の刃を彼の背に振り下ろし―――
「……そう来ると、思っていた」
 その手首を振り向き様に掴み止め、寸でのところで毒刃を押し留めながら、コルテスはニヤリと不遜に笑った。
「……気付いて、いたのですか……!」
「いいや、勘だな……。貴様も下等な生物の割にはやるものだが、先に背中から思い切り斬られたお陰で私も少し冴えてきた。……だいたい、こういう時に『来る……』という経験則を、何となく思い出したのだよ……。だからわざとのろのろと弾込めをして見せて、貴様を釣ろうと誘わせてもらった……。わざわざ下等生物相手にこんな事をするのはとても屈辱なのだがな……。せっかくの一張羅も台無しだ。それに先程焼かれた私の靴が一体幾らすると思っている?」
 そんな問答の合間もイフェイオンは、掴まれた腕を振りほどこうと試みてはいるが、コルテスの剛力による戒めは思いの外協力で思い通りには行かない。
「……さて、おしゃべりも良いが……まずは仕留めさせてもらおう。漸くカンが戻ってきたんだ、このまま調子を上げていかねばなァ」
 言いながら、弾込めを終えていたマスケット銃を静かに持ち上げようとしてコルテスは、ほんの一瞬……気を緩めた。
 それをイフェイオンが見逃す筈はなく。

「…………あれあれ。もしかしてナイフが一本だけだと思っていました? やっぱりマトモな命のやり取りから遠ざかった分のボケはまだまだ抜け切っていないみたいですねえ」
 そんな言葉と同時にコルテスの首筋に奔る赤い一筋。其処から一拍遅れて鮮血が噴き出した。
「……っ、きさま……!」
 掴まれた右腕とは反対の、左腕―― 其処に握られたもう一振りの、取り立てて特徴に乏しいありふれた造形のナイフ。
 その名を、『淑女』と言う。

「おのれェ!!」
 吠えるコルテスが咄嗟に突きつけた銃口から、身を捩りつつ強引に掴まれた右腕を振りほどく。
 耳を劈くような銃声が響き、顔の直ぐ側を通り過ぎる衝撃と熱。頬に感じる痛みをゆっくりと実感する余裕もないままに、イフェイオンは振りほどいた右腕をそのまま無造作に振り抜いた。
 手にしたナイフがコルテスの銃を握る腕を掠め―― 確かに裂く。
 浅いが、『入った』。

 たちまちにその腕を中心として起こる激痛に、思わずマスケットを取り落しながらコルテスは数歩後退る。そんな姿をおろおろとしながら、行動に窮した大蛇が見守るのを他所に、強かにイフェイオンは身を離し、距離を取って退いていく。
 暗殺者は引き際も肝心なのだ。

「貴様、私の腕に何をした!? ええい、ケツァルコアトル…… 使えん奴だ、貴様何をやっているぅ!!」
「心を込めた料理に、素敵な靴…… 僕からは自慢の毒を差し上げましょう。 生の喜び、死の苦しみ。これらの織り成す二重の贅沢を、どうか心ゆくまで楽しんでください」

「毒、だと…… ぐおァォォォォォ……!?」
「気に入っていただけたようで、何よりです。けれども、贈り物はまだまだ沢山ありますよ」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

政木・朱鞠
抗う術の無い人達を蔑み悦に入るなんて…咎人殺しとして見過ごせない獲物だね…。
上から目線で生きてきた貴方は自分が犯した罪を数える気はないだろうから…不粋な質問とかすっ飛ばして仕掛けさせてもらうよ。
お痛をした咎の責任はキッチリと取って、骸の海にお帰りして貰うんだからね…下等な者の足掻きを受けるお覚悟よろしくって?

戦闘【SPD】
不意を突く味方のサポートとして自分の攻撃は視線誘導を狙い『咎力封じ』を使用して動きを阻害する攻撃していきたいね。
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いコルテスの体に鎖を絡めつつ【傷口をえぐる】で絞め潰すダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎


龍泉寺・雷華

此度の相手は神を使役する者と聞きましたが……
鋭き刃も怠惰に錆付き、かつての輝きは失われた様ですね
これ以上堕ちる前に、終わりにしてあげましょう!

風、氷、雷の連続魔術で一気に勝負を決めさせてもらいますよ!
三節の詠唱にはそれなりに時間が掛かりますが、我は武器術も一流(のつもり)です!
雷冥剣を片手に、近接戦で詠唱の時間稼ぎを行いましょう!

詠唱が完了した後はこちらの手番です!
第一に放つは風の刃! 空を駆ける翼を斬り裂き、その身を地へと堕とすがいい!
続いてお見せするのは極冷の氷槍! 堕ちたその身を貫き、完全に動きを縛ってあげましょう!
そして最後は天より下る雷! 躱す事など出来ません……これで終わりです!


月代・十六夜
アリス・レヴェリー(f02153)と連携。

ふむ、10秒必要な遠距離攻撃…これ撃たせたらダメなやつだな了解了解。
よっしゃアリス嬢もといムート、翔ぶか!!

転移直後に構える相方の後ろに移動。
全速力の疾走からの低空【ジャンプ】!
からのー、速度を全部乗せた【韋駄天足・裏】ドロップキック!!
宙を翔ぶ大型クジラ(魔法障壁付き)とか見たことがあるわけねぇよなぁ!
いやぁ質量弾はでかいに限るな!!
追撃は適当に任せるぜアリス嬢!

あとはまだ動くようならアリス嬢回収して小脇に抱えて撤退だ!
アレ食らってまともに反撃してくるようなの相手にしていられるか!


アリス・レヴェリー
月代・十六夜(韋駄天足・f10620)と連携
とぶ……翔ぶ……あれをやるのね!よくってよ!

【友なる白鯨、悠然の調べ】であらゆる場所を泳ぎ、魔法を操る白鯨の幻獣、ムートを召喚するわ!彼のサイズはシロナガスクジラの最大である34mと大体同じくらい

全身を得意の魔法障壁で覆った状態で、十六夜さんのドロップキックを受けた瞬間砲弾のようにコルテスに向かっていくムート。更に衝突と共に放たれる、普段の9倍の密度の魔法弾幕

わたしはそのサポートとして、【刻命の懐中時計】の12枚の結界でケツァルコアトルだけを少しの間でも閉じ込めて分断するわ

一通り暴れたらわたしは十六夜さんに抱えてもらって撤退!
ムートは地中から合流よ!


バルディート・ラーガ
真っ向勝負なンざ、元より頼まれてもやりたかねエや。
奇策一発勝負といきやしょ。

敵が向かって来たら、長い尻尾で「かばう」よに身体を守りやす。
噛みつかれて捕縛されたら即座に自切、尻尾を切り離して離脱。
トカゲの尻尾切り戦法なんざ、流石にそうは見ますまい。

さアて、UCの防御が成りやしたらコッチの手番。
【掏摸の大一番】。テメエのUCの構成要素は勿論、その神サン。
ちょいとお借りして、そのままガブリッとひと噛みさして頂きやす。

慈悲?いーえいえ。あっしはそちらサンを使い潰すのみ。
ただ、居丈高ヤローがご自分の手駒に牙を剥かれるってエのは
なかなか面白エ見世物じゃアねえかと思いやすが。ヒッヒヒ!


ウィルバー・グリーズマン
僕もアナタには興味はありませんけど、そのケツァルコアトルの方には興味津々ですよ
倒しても良い神ですよね?
なら、殺ってしまいましょうか

似た様な攻撃は避けた方がいいと言う事は、要は変な攻撃方法をしろって事ですよね
じゃあ【魔本を振り回す】事にしますか

中距離からの魔本の攻撃なのですが、これで物理攻撃をすると言うよりも、これを敵の側まで寄らせてから、至近距離で魔術ならぬ魔法を放ちます
爆発や闇と光系は何となく他の方々も使いそうなので、ここは敵の内部から壊死させる魔法を使いましょう。多分被らないと思います

被ったらすぐに戦法変えて、紐でコルテス狙って縛り首にします

悪魔としては偶には神を滅したいですからね
お覚悟を


才堂・紅葉
「間抜けな話と言うべきではないわね」
慢心と言うは容易いが、裏付けとなる実力あってこそだ。
底知れぬ相手は一撃で仕留めねばならない。

【情報収集、地形の利用、迷彩、忍び足】を駆使し接近する。カバーマントで上手く忍びながらギリギリまで近づき隙をうかがう。
限界もしくは勝機で攻勢に出る。【野生の勘、見切り、気合、激痛体制】で斜めにした【紋章板】で銃撃を凌ぎたい。

後はガジェットブーツで大跳躍し、毒霧で【目潰し】。
怯んだ瞬間に【マヒ攻撃、鎧無視攻撃】の前蹴りを重ね、【二回攻撃、グラップル、怪力、気合、属性攻撃、部位破壊】で瞬間に決める複合関節技を決めつつ、地面への叩きつけを狙いたい。

「墜天っ!!」




「ふむ、10秒必要な遠距離攻撃……これ撃たせたら駄目なやつだな。了解了解」
 わざとゆっくり弾込めをして見せた―― そう言ってはいたが、其処は恐らくブラフだろう。
 視界の先では、腕の激痛に悶えながらも取り落した長銃を拾おうと屈んで腕を伸ばし悪戦苦闘しているコルテスの姿。
 ゲートを潜るなり、ちょうど同じくして前線より下がったイフェイオンからマスケット銃の準備時間について聞いた月代・十六夜(韋駄天足・f10620)は傍らの相方に振り返って告げる。
「……よっしゃ、アリス嬢もといムート。……翔ぶか!」
「とぶ……翔ぶ……あれをやるのね!よくってよ!」
 十六夜の言葉を聞いたアリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)はほんの少し考え込んで、すぐにその意図を理解し、大きく頷いて見せた。
 そんな二人のやり取りを聞いていた龍泉寺・雷華(覇天超級の究極魔術師・f21050)。
「おふたりとも、何か……作戦があるんですか? よかったら、我も一枚噛ませて欲しいかなー……って」
 わざわざ断る理由はない。そしてふたりの意図を知り、雷華は大きく頷いて見せた。

「……オーライ、そんじゃあ…… いくぜェ! 頼んだアリス嬢!」
助走を付けるため、大きく後ろに下がった十六夜の声とほぼ同時、アリスは一歩踏み出しながら空に向けて大きく両腕を翳す。

『揺蕩う勇魚、優しき王よ、微睡み歌う、わたしの友よ!』
 助力を求める少女の言葉に答えるが如く、青い海を割り、巻き起こる水飛沫を散らして少女の友たる巨大な白い鯨が大きく跳躍する。
 その影に太陽は一瞬覆い隠され、それを見上げる侵略者は思わずその目を大きく見開き、抑え切れぬ驚愕の声を漏らした。
 そこから一拍遅れて降り注ぐ海水の雨に撃たれながら、滞空する34mにも及ぶ巨大な影を睨み据える。
「……白い、鯨が空を飛んでいる……!?」

『友なる白鯨、悠然の調べ(カーム・オブ・ムート)』
 あらゆる場所を自在に泳ぎ、魔法さえをも操る巨大な鯨を呼び出すアリスのユーベルコード。
 白鯨が低い唸り声を漏らし、戦場の空気をびりびりと震わせる―― 同時に、その巨体を覆うように彼の操る魔力で編まれた障壁が形成され―― 

「どうだ、コルテス! 宙を翔ぶ大型クジラとか見たことがあるわけねぇよなぁ!」

 そう吼えた十六夜は空を舞っている。胸にぶら下げた首飾りが、慣性に引っ張られながらも眩く煌めく。
 思い切り助走をつけて、飛び上がり―― 両脚を揃えた姿勢はドロップキックのそれだ。
 存分に加速と勢いをつけた十六夜は、例えるならば銃の撃鉄。

 それが叩いて撃ち出すもの。すなわちムート。この白鯨そのものが、超巨大質量の弾丸である。

 質量弾はデカいに限る。障壁を張った分、遠慮無用とばかりに十六夜はムートの尻を思い切りよく蹴りつけた。
 其処に宿る加護が、ムートを包む魔力障壁を一層眩く輝かせた。

 十六夜の『韋駄天足・裏』
 発動中、加速して放った彼の攻撃を受けた味方の攻撃に多大な補強を行うと同時に、寿命に負荷を掛けるというデメリットを味方を攻撃する事で相殺する合理性の高いユーベルコードである。しかも、今この時に至っては蹴りつけるムートを障壁で保護することにより、完璧なまでにデメリットは消え去っていた。……いや、多少はムートも痛がるかも知れないが。

「なん―――……だとォォォォッ!?」

 視界そのものを覆う巨大な質量が頭上より降ってくる。如何に歴戦の侵略者たるコルテスとて、これは初めて出くわす光景に間違いない。迫るムートの纏う障壁前面に更に収束していく高密度の魔力。

「いかん――……」
 傍らのケツァルコアトルの腹を蹴り、其処に飛び乗ろうとするコルテス――
 しかし、その爪先は空を切る。視界の先では、アリスの手にした【刻命の懐中時計】から展開される12枚の結界が、文字盤にはめ込まれた結晶を次々と粉砕しつつ効力を発揮していた。本来強固な護りの結界を生み出すそれは、今や脱出困難な牢獄としてその機能を十二分に活かし、翼ある蛇を拘束する。
「ケツァルコアトル、貴様ァ――」
 先程から何をやっている―― 開きかけたその口がその言葉を紡ぐより先に、コルテスの身体を衝撃が揺さぶり貫いた。
 乗騎より引き離されたコルテスは、そのまま落下するムートの質量に跳ね飛ばされ、同時に炸裂する高密度の魔力弾幕にもみくちゃにされながら、遥か後方まで吹き飛び転がった。

「……あらら、まだ生きてやがるよ。……さあて、アリス嬢…… 引き上げるぜ!」
「よくってよ! 好き勝手に暴れたし、頃合いかしら! あ、でももうちょっと丁寧に持ってくださる!?」
 ゆっくりと立ち上がろうと藻掻くコルテスを尻目に、十六夜は後頭部をぼりぼり掻き回すと、そのままひょいと無造作にアリスをその小脇に抱えて回収、躊躇なく踵を返せばその俊足を生かして距離を取る。
 同時に、ムートは地面へと吸い込まれるようにその巨体を跡形もなく消し去った。彼はどんな場所でも泳ぐ事のできる魔法の鯨だ。悠々と引き上げ、安全な後方にてアリスたちと合流するのであろう。

「……待て、逃さん……!!」
 離れゆく鯨と二人を追うように、よろめきながら腕を伸ばす―― その眼前に立ち塞がったのは雷華だった。
「おふたりには手を出させません。……神をも使役する者と聞きましたが、鋭き刃も怠惰に錆びつき、かつての輝きも失われた様子―― これ以上堕ちる前に終わりにしてあげましょう!」

「……お陰様で錆落としをさせてもらっている最中だとも。甚だ不快だがなァァ!!下等生物如きが、このエルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロを散々に愚弄しおって……!!」
「なんだか舌を噛みそうな長い名前を! それももしかして攻撃ですか!」
「小娘がァァァァッ!!!!」

 最初の余裕は最早どこにも残っては居ない。
 湧き上がる憤怒の感情に染め上げられたコルテスは、燃え盛る激情のままに掴んだマスケットを振りかぶって雷華へと殴りかかる。
「……第一に放つは風の刃! 空を駆ける翼を斬り裂き、その身を地へと堕とすがいい!」
 地力の差はあろうが、此処に至るまでにコルテスの負ったダメージは甚大だ。
 ましてや、嘗ての身のこなしを忘れかけた男のそれに、心身共に十全の状態で居る今の雷華が遅れを取るはずもない。
 左目を閉ざし、魔力詠唱を始めるその片手間でありつつも、コルテスに振るわれる一撃を落ち着いて見定め、翻弄するような足取りでその攻撃を次々と往なし、すり抜けていく。
一節を唱え終え、その左目の裏に蓄えられていく魔力の熱。
「このォォォ!!」
「すみませんね、我は武器術も一流なのです!」
 力任せに振るわれる長銃に向けて、身体強化の魔術によって軽々と振るわれるは鞘より抜き放った愛用の雷冥剣。
 自分で名付けた格好いいネーミング相応に、その剣が刻む太刀筋は軽やかにして鮮やかだ。
「続いてお見せするのは極冷の氷槍! 堕ちたその身を貫き、完全に動きを縛ってあげましょう……!」
 振り下ろされたマスケットを容易く払い除け、返し様に振るった逆袈裟へと掬い上げるような一太刀が、コルテスの頭部左側面を掠め――― 二節目を唱え終えると同時に其処に生えた立派な角を叩き切っていた。
 切り落とされた角が、からんと乾いた音を立てて地面に転がる。

「ぐぬぅぅぅ……!!」
「やはり、今のあなたは驕りに塗れて堕した半端者! 恐れる要素は微塵もありません――!!」
「えぇい、戦い方を思い出せば貴様ごとき……!!」

「……だとしても、もう手遅れですよ。最後は天より下る雷! 躱す事など出来ません……これで終わりです!」
 悔しさと怒りに歯噛みするコルテスに下される無慈悲な宣告。そして紡がれる三節目。雷華の魔術詠唱が遂に完成したのだ。

『魔の理は我が手の内に! 連なる魔術が奏でるは破滅の協奏曲! 汝の敗北を告げる我が瞳を、見よ!』
 宣言と共に開かれる左目。其処に蓄えられた魔力が展開される術式によって形を得ていく。
 雷華の放つ【多重魔術・連魔唱(マルチスペル・コンビネーションマジック)】が唸りを上げる。

 一つは風の刃。荒れ狂う風がいくつもの刃を生み出し、コルテスの身体を容赦なく切り刻んでいく。
 二つは絶対零度の凍気に砥がれた鋭い氷槍の雨。それは無惨に焼けただれたコルテスの脚を貫き、その身体を地面に縫い付け封じ込む。
 そして三つ目。最早身動きの取れぬコルテスの頭上に迸る雷光。轟音とともに眩い光が大地に叩き付けられ、強烈な電撃がコルテスの全身を容赦なく焼き焦がした。

「お、ぉぉ…… のぉぉ…… れぇぇぇぇ……!!」
 全身を焼き焦がされ、白煙を噴き上げながらもコルテスはまだ倒れない。
 地面に縫い付けられた脚を強引に引き剥がしながら、銃身が溶けかけたマスケットを杖代わりに身体を支える。

「成る程、その往生際の悪さだけは褒めて差し上げましょう……。然し、繰り返しますが最早あなたに勝機はなし!」

 見なさい―― そう告げながら雷華の指し示す方向。

 引き離されたケツァルコアトルと相対する二人の猟兵の姿を見て、コルテスは駆け出そうとする―― が、それを留めるように不意に手首に絡みつく鎖――― ずっしりとした重量と冷たい感触に思わずコルテスは顔を顰める。
 そして、腕に食い込む鎖に仕掛けられた無数のスパイクが腕に噛みつき、血を啜る激痛に恥も外聞もなく叫ぶのだ。

「なんなのだ、貴様らはァァァァァァァァ!!!!!」
「……決まっているじゃない、猟兵よ。そして私は咎人殺し」
コルテスの腕を責め苛む拷問具『荊野鎖』を放った張本人、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)が妖艶に微笑しながらそう嘯く。
「抗う術の無い人達を蔑み悦に入るなんて…咎人殺しとして見過ごせない獲物だね……。上から目線で生きてきた貴方は自分が犯した罪を数える気はないだろうから…不粋な質問とかすっ飛ばして仕掛けさせてもらうよ」
 じりじりと距離を詰めるように歩み寄る咎人殺し、朱鞠を前にコルテスは思わず尻餅を搗くようにへたり込む。
 そして、子供がイヤイヤをするように、首を左右に振りながら後退りを始めるのだ。
「や、やめろ……。やめてくれ……! それ以上されたら、私が死んでしまうじゃないか……!」
「……それは聞けない相談だ。お痛をした咎の責任はキッチリと取って、骸の海にお帰りして貰うんだからね。……下等な者の足掻きを受けるお覚悟はよろしくって?」
 コルテスは、此処に至り―― 今までに自分のしてきた略奪行為における罪の重みを思い知った。
 もちろん悔いたりはしない。悔いるような感性があれば、とっくの昔に悔悛しているはずだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!」

 追い詰められた男の上げる悲鳴を耳障りそうに顔を顰めていた朱鞠が―― 腕を戒めていた『荊野鎖』を解くと同時、虚空にもう片手を静かに翳す。
「……ああもう、観念しなさいな!」
 翳す手に収束していく輝き。それを矢継ぎ早に、コルテス目掛けて朱鞠は三度投げ付ける。
 一投目は手枷へと変わり、コルテスの両腕をがちりと捕えて離さない。
 二投目は男の髭面を取り巻き、そのまましゅるしゅると絡みついてはギャグボール付きの猿轡の形を為した。
 そして三投目。まるで蛇のように男の体に絡まる輝きは、光が掻き消えると同時に強靭なロープへと変わり、容赦なくコルテスの身体を締め付け苛み、その力を奪い去っていく。
 ユーベルコード【咎力封じ】。オーソドックスながらも、追い詰めた敵を無力化するにあたってこれほど効果的なユーベルコードは他にない。
「むぐっ、むががっ……もが、もががーっ!」
「はは、何を言っているのか全くわからない。けれどもまあ、聞く価値もない事だろうけれど――」
 朱鞠はサディスティックな笑みを浮かべると、再び手にした『荊野鎖』を振り上げた。
「けれど……その時が来るまで、じっくりとあなたの罪の重さをわたしが教えてあげる」
 びゅん、と空を裂く鎖の音が響き、それに遅れて身を揺さぶるように叩き付けられる鎖の重厚な衝撃。
 それが断続的に続き、コルテスの身体を揺さぶり、そしてスパイクが無惨に肉を引き裂き、その血を吸い上げていく。
 かつてコルテス自身が略奪し虐殺した奴隷を同じ責め苦を、朱鞠は再現してみせているのだ。
 どうせ殺せば骸の海に沈んで、殺し尽くすまでは蘇り続ける存在―― この責め苦のことも、次のコルテスは忘れてしまうのだろう。
 ……しかし、だからと言って許す道理はなかった。因果応報という言葉がある。
 咎人殺しは、その因果の報いを咎人に与えるためにこそ、存在する。……全ては、声を上げられぬ力なき人々のため。
「さあ、次はこんなふうにするのはどうかしら……?」
 生き物のように蠢く鎖が、コルテスの胴体に絡みついて、螺旋を描くように巻き付いていく。
 鎖の蛇が絡むたび、更に血の花が咲いて、重々しく巻き付く鎖が骨肉を軋ませる。

 もう沢山だ。私が何をした。おお、神よ。私にどうか救いを。
 ……悔いる事もない、驕り高ぶった身勝手な侵略者の祈りはどこにも届かない。泣き声をあげる権利すら、朱鞠は許してやる気はなかった。


 男のくぐもった悲鳴が響き渡る中、その騎獣たる翼ある蛇にも終焉が訪れようとしていた。

 エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロ。
 翼ある蛇、ケツァルコアトルにとっては己の守護する国を、民を、そして文明そのものを滅ぼした憎むべき仇であるが、同時に彼の施した悪辣な呪いによって隷属を強いられている限り、自分はあの男の為に戦わねばならない。
 どれだけ屈辱に身を窶しても、生き延びれば何時か彼の支配を抜け出し、自分の国を、民を、取り戻せるかも知れない。
 そんな淡いささやかな期待を支えに、彼は在り続けた。
 ……その願いに、重大な瑕疵があることに気付いていて、それでいて気付かないフリをしていたのかも知れない。
 民たちは、神の無様に堕した姿など、求めてはいなかっただろう。

「あっちのお兄さんはもう哀れなくらいにボロボロでありやすねェ……」
「まあ、僕も元々あっちにはあんまり興味がありませんので丁度いいと言えば良いのかも知れませんけど」
 バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)とウィルバー・グリーズマン(入れ替わった者・f18719)の両者は、世間話にでも興じるかのような常の調子で口々に言う。
 目の前ののたうつ蛇を拘束していた12枚の結界は今や解けようとしている。
 せっかくコルテスを追い詰めているというのに、わざわざその相方を主人と合流させる理由はない。
「ン、違ぇねェ。あっしもどっちかと言やァ、こっちの相手してる方が良い」
「僕も興味津々なんですよ。だってバルディートさん、アレは倒していい神様なんでしょう? 僕はさっきから、アレを殺っちゃいたくてウズウズしてるんです」

 「おお、おお……ウィルバーさんったら、時々おっかねェ事を言いなさる」
 軽口っぽく言いながらにバルディートもまた限界を迎え、消失していく結界の残滓を抉じ開けて身をせり出す蛇神を見据える。その所作に油断はない。拘束されていても神は神。それが今解き放たれようとしている―― 気を緩められる筈もない。
(こりゃね、別に同情とも慈悲とも違いやすよ。……あのおっさんが気に入らねェから、手駒使い潰してざまァ見ろって悦に浸りてェだけなんですわ。……まあ、あの神サンには見た目的なシンパシーが無い訳じゃねェんですけど)

 そう、バルディートが胸中で呟くと同時に、神を戒め押し留めていた結界の最後の力が砕け散る。

「来やすぜ、ウィルバーさん……! 最初はあっしに任せてくんなせェよ!」
 わかりました、お任せしますと後ろに下がるウィルバーを庇うように前に出るバルディート。
 身の自由を取り戻し、空を泳ぐ大蛇神。艶かしくその長大な巨体をうねらせながら大きな顎を開き、迫るケツァルコアトルを前に、バルディートは自身の尾をまるで身体を庇う盾のように前面へと差し出した。
「……っ、グゥ……! 流石にこりゃあ痛ぇなァ!」
 まるで巨大な鋸歯のようにびっしりと生え揃った鋭い刃が深々とバルディートの長い尾に食い込み、鱗は突き破られ、肉はじわじわと裂けていく。さしものバルディートも苦悶の声を漏らしはするが、わざわざこうすると決めたのならば躊躇はしない。
 次の瞬間には自切―― つまり、自分で自分の尾を切り離したのだ。これにはさすがのケツァルコアトルも呆気にとられたらしく、口の中に残る千切れた尾を咀嚼するでもなく持て余すようにぼとりと取り落し、咄嗟の身動きを忘れてしまうように佇んだ―― 
「ええ……? 大丈夫なんですかこれェ……!」
「ヒッヒヒ……! 心配御無用でありやすよ! そら、やっこさんも気ぃ取られてンだ、今のうちですぜ」

言葉通り、自切によりダメージは最小限に留めたバルディート―― 無論、ただウィルバーと蛇神の度肝を抜く為だけにこんな事をした訳ではない。
「こりゃア面白い。ちょいとばかし、お借りしても?」
そう、問いながらにバルディートは受けた痛みを介して、ただ一度きり模倣できるユーベルコードとして、その牙を己のみに刻み込んだ。
『掏摸の大一番(ユーベル・ピッキング)』
 相手のユーベルコードを模倣するユーベルコード。防御せねばならないという難点を、己の尾を自切して賄うという発想は、見事に功を奏したらしく―― そして同時に。

「……それじゃあ、お言葉に甘えまして」
 言いながらウィルバーが取り出すのは縄で縛りくくって吊るした魔本。
 それを大きく振りかぶり――
「ほーら、凄いでしょう! 見てくださいよバルディートさん、僕って物理も魔法も出来るんですよ!」
 勢いよく振り回す本―― 収集家から見れば悪夢のような光景。本が傷むだろう、という指摘はきっと真っ当なものだ。
 だが、そうやって本を傷ませれば傷ませる程にそのダメージを媒介にして、爆発的に魔力が高められていく。
 これぞウィルバーの『魔本を振り回す(アルゴ・スタリオン・スペシャルアタック)』
 本を振り回して繰り出す打撃と同時に魔法を連射し叩き込む、物理と魔法の二重奏。
 ただの魔術師とウィルバーを侮るものは叩き付けられる本か魔法のどちらかで頭をかち割られる事となる……。

「……お覚悟!」
 出鱈目に振り回される本が刻む変幻自在の軌跡にて、哀れな蛇神は顔面を容赦なくタコ殴りにされ―― 同時に、其処から流し込まれる魔力が、じわじわと神の身体を蝕んでいく。彼が選んだのは敵を内部から壊死させる魔法だ。神を殺したい。先の宣言に違わぬ殺意たっぷりのチョイスにて、内側より身を蝕まれていくケツァルコアトルは苦悶の唸りを漏らしながらのたうち――― そして、やがて地響きを立てて崩れ落ちるその巨体―― ケツァルコアトルはそれきり身動きを止める。
「いやあ、遠慮なく神を殺していいだなんて、テンション上がりましたね。スッキリしましたよ」

(……大事ニ 使ッテクレ)
 巨大な蛇神その瞳から命の光が消えていく間際、バルディートはそんな声を聞いた気がした。
 それは気のせいかも知れない―― が。

「……言われるまでも、ねェ」
 言いながらに、バルディートは身に刻んだその痛みを『再現』する。
 その身体に蘇る『神』のちからの一端を感じながら、バルディートは姿勢を落とし、地を低く這うように駆ける。……即ち蛇さながらに。



 ケツァルコアトルの断末魔を遠巻きに見届け、いよいよコルテスは絶望した。
 とうとう自分一人になってしまった事に。普段、自分の手を汚さずに安全地帯から敵を甚振り続けたことで、彼はもう戦士でも兵士でもなくなっていた。戦いの中で、嘗ての自分を取り戻す事さえ出来なかった。
 ケツァルコアトルを倒したドラゴニアンが静かに迫る―― いやだ、死にたくない。
 
 最後の力を振り絞り、コルテスは足掻いた。神よ、わたしに力を―― 果たして、神はその思いを汲んだのか。
 或いは単純に朱鞠が飽きて拘束を自ら解いたのか。
 悲壮な思いと共に立ち上がり逃げ出そうとするコルテスをしかし、最後に立ちふさがるものがその行く手を阻む。
 燃えるような赤い髪。強さを湛えた真っ直ぐな視線が、静かに死に体の略奪者を射抜く。
 同時に、コルテスの頭の中でそれまでおぼろげだった記憶のピースが今、漸く嵌まり込んだ。

「間抜けな話と言うべきではないわね」
 慢心と言うは容易いが、裏付けとなる実力あってこそだ。確かにこの男は強かった筈だ。
 才堂・紅葉(お嬢・f08859)はその事実を冷静に思いながら、目の前で狼狽するように立ち尽くすコルテスを静かに見据える。
 慢心せずに最初から全盛の力を発揮すれば、まさしく恐ろしい敵であっただろう。それでもコルテスはその強さを発揮できぬ程に戦いの必死さを忘れて驕り、愉悦のみに溺れてしまった。

「思い、出したぞ…… 突撃の仕方だ。そうだ、おまえをぶっ飛ばしてやる……! 私はコンキスタドール、コルテスだぞ! おまえら下等な猿に遅れなど取るものか……!」
 目を見開き、ニタニタと笑うコルテスが、誇らしげに叫びながら、ズタボロになった腕を高く掲げる。
「……来い、ケツァルコアトル!!」
「お生憎でありやすが――……ボケていらっしゃるようで……?」
「……へ?」

 そっちはもう先に死にやしたぜ、と言う呟きを漏らすよりも前にバルディートは一時的に大きく広がったその顎で、力強くコルテスの肩口を噛み砕いては、蛇さながらに長く伸びたその身体を絡ませ、身動きを封じ込む。ぎりぎりと締め上げ、その骨肉を再びめりめりと軋ませながら、血まみれの歯をぎらつかせて囁く。
「なかなか面白エ見世物じゃアねえですか。居丈高ヤローが、最後の最後でテメェの駒にまで牙剥かれるなんてよォ」
ま、それも自業自得でありやすが―― 離れ際にその手足の関節を一際キツく締め上げ、砕いていきながら、バルディートはゆっくりと身を離す。
「がぁぁぁぁぁ!! 畜生、ケツァルコアトルめ! 使えん蛇だ! この期に及んで私の脚を引っ張るとは……わざわざ拾ってやった音を忘れたのかァ!!」
 借り物のユーベルコードによる負荷が、その身を微かに軋ませる。こんな相手の為に、寿命を無駄遣いするのもバカらしい―――。解除と同時に、ケツァルコアトルの力が今度こそ静かに無へと還っていく。

「……くそ、くそ……!漸く思い出したんだ……。私の身体がこんなに傷付いてさえいなければ…… おまえらごとき……」
「言いたいことは、それだけか。あんたの余命…… ジャスト5秒ね」

 言うが早いか、地を蹴る紅葉。最早身動きもままならず、空高くから襲いかかる少女を恨めしげに見やるばかり。その視界も噴き付けられる毒霧によって無慈悲に潰され、真っ暗闇の世界の中で子供のように喚き散らす。
「私は、コルテス……! 誉れ高きコンキスタドール、エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロだ! それが、それが、こんな奴らにぃ……!!」
 相手を蹴散らす術を思い出しても、それを実現できる手段はとっくに失っている。深い絶望の中、紅葉の繰り出す前蹴りがコルテスの体勢を大きく崩し、そのまま強引に伸ばした腕で掴んで引き寄せれば瞬時にアドレナリンを賦活させて湧き上がる膂力の限りに、相手を放り投げ―― 大地を陥没させるほどの踏み込みで跳躍しながら再びその四肢を捕えてしまえば、頭上で逆さにひっくり返した相手の両腿を左右の手で掴み、そのまま相手の首を自分の肩口で支え―― 

「……墜天っ!!!!!」
「が、はッ―――……」

 大砲の弾が着弾するような轟音と共に、神社全域を揺るがすような地響きが唸りを上げる。空中から尻餅をつくように着地したその大地がクレーター状に陥没してしまったほどの衝撃は、藻掻くことすら出来なかったコルテスの身体の各所を容赦なく責め苛む。ほぼ同時に極められた首折り、背骨折り、股裂きのダメージは彼の命を容赦なく刈り取った。
 ごぼり―― 口からどろどろとした粘度の強い血の塊を吐き溢しつつ、侵略渡来人エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロの傲慢なる魂は、骸の海へと還っていく。哀れなケツァルコアトルの魂をも伴って――。

 ――……彼らに完璧な滅びが訪れる時はまだ遠いのかも知れない。
 けれども着実に、それは終わりに近づいている筈だ。
 猟兵達が居る限り、彼らの野望は幾度でも打ち砕かれるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月11日


挿絵イラスト