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エンパイアウォー⑩~灘に翻る水軍旗

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●伝説の海賊衆、再び
 ――村上水軍。
 かつて、瀬戸内の海にその名を轟かせた海賊衆。
 その水軍旗が、今再び、瀬戸内の海に翻る。

「サムライエンパイアの戦争の話は聞いているかな? 幕府軍は最大の難所とされる関ヶ原に、一切の被害なく、無事に集結したところだ」
 ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)が、グリモアベースに集まった猟兵達に戦況を告げる。
 此処までは順調。
 この後は、関ヶ原に展開する信長軍との戦い。それを突破した後は、山陽道、山陰道、南海道の3手に別れて進軍する事になっている。
「ま、敵もすんなり通してくれない。山陽道も山陰道も南海道も、それぞれ別の魔軍将の軍勢が展開されている」
 この後も新たな苦難が続くわけだ。
 それぞれ一つ一つ、対処して潰して行くしか無い。
「さて、ここからが本題だ。南海道、というか瀬戸内海に行って欲しい」
 京都の花の御所を制圧した魔軍将、大悪災『日野富子』は、そのありあまる財力で『超巨大鉄甲船』の大船団を建造していた。
 船と言うのは大きければ大きいほど、動かすのに人手がいるものだ。
 一朝一夕で、船員が用意できる筈もない。
 普通の手段なら。
「過去の時代に、瀬戸内海を席巻した『村上水軍』という海賊衆がいたらしいのだけどね。富子は、その亡霊に目を付けて喚び出した」
 そうして出来上がったのが、鉄甲船の大海賊団である。
「現在のエンパイアで最強の水軍、と言っていい。幕府軍の水軍に勝ち目はない。悉く沈められ、海の藻屑と消えてしまうだろうと予知されている」
 ならばその予知、覆さなければなるまい。

 超巨大鉄甲船は、その名の通り海に浮かぶ鉄の堅城のようなものだ。
「堅い上に、村上水軍の怨霊の力が船に自動復元能力を与えている。村上水軍の怨霊の力がある限り、外からの攻撃で沈めるのは不可能なんだ」
 怨霊の力を支えているのは、帆柱に掲げられた『◯に上』と書かれた村上水軍旗。
「水軍旗を引きずり降ろす事で、怨霊は消滅する。というより、その方法でしか彼らは消滅しえない。ユーベルコードも効かないんだ」
 どんな召喚しやがったのか、とルシルは肩を竦める。
 とは言え、こうなると手は一つだ。
「もう判ってるって顔だね。うん。船に乗り込むしかない」
 当然、敵もそう来ることは織り込み済み。雪女見習いというオブリビオンが数体、船の護衛として配置されている。
 尤も今回に限れば、オブリビオンは全滅させる必要はない。
 誰か一人でも水軍旗に手が届けばいいのだから。
 むしろ、問題は他にあった。
「超巨大鉄甲船に転移させることは流石に出来なくてね。申し訳ないけど、どうにかして自力で乗り移って欲しい」
 まさかの丸投げ。
 苦笑こそ浮かべながら、ルシルはしれっと告げる。
 まあ、言うしかないのだが。
「現地の協力は取り付けておいたよ。転移先は燧島。少し前に、別の事件を解決して貰った瀬戸内海の島だ」
 貿易拠点として栄えている島である。
 現状の軍力は自衛が精々で戦闘には加われないが、敵船に乗り移る為に必要なものがあれば提供して貰えるとの事だ。
「私に出来るのは此処まで。後は任せるよ」


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。
 村上水軍、やっぱ来たか! という感じです。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 村上怨霊水軍、です。
 8月20日までに必要成功数を達成できなかった場合、南海道を侵攻する幕府軍が壊滅し、3万人が犠牲になります。

 という事ですので、早めに8/12~13くらいで執筆する予定です。

 海上の敵船に何とか乗り込む→集団戦オブリビオンを突破する→帆柱の村上水軍旗奪って脱出。
 という流れになります。

 超巨大鉄甲船は、全長200m、全幅30mくらいです。
 OPの通り、外から攻撃しても沈められません。
 敵船は海上に居るので、今回はオブリビオンと戦う以外に、海を渡る方法や、巨大船に乗り込む方法などがプレイングにあると良いです。

 なお、当シナリオのみ、現地人の物資支援ありとします。
 船は出して貰えます。エンパイアにあるものなら、道具も貸して貰えます。
 とはいえ、船の性能差は圧倒的に敵の方が上です。頼んだだけで敵の超巨大鉄甲船に乗り移れる、という事にはなりません。
 シナリオの成否に影響する要素ではありませんが、船や道具を得られる理由付け、くらいに考えて下さい。
 現地支援を頼らず持ち込みで何とかするのも、OKです。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 集団戦 『雪女見習い』

POW   :    ふぅふぅしてみる
【くいくいと対象を引っ張る動作】が命中した対象に対し、高威力高命中の【凍てつく氷の吐息】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    とにかくふぶいてみる
【全力で吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    みようみまねのゆうわく
予め【足を魅せる等の誘惑行動をとって赤面する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

峰谷・恵
「海を抑えられたなら空から抑え返すだけ」

他の猟兵と連携を取る。
最高速度時速4800kmの空在渾で飛行して超巨大鉄甲船上空まで移動、対空攻撃は可能な限り回避(空中戦)。
そのまま上空からMCフォートとアームドフォートの乱れ打ち(範囲攻撃+鎧砕き+2回攻撃)で敵船甲板上を撹乱しつつ熱線銃連射(誘導弾)で雪女見習いを一体ずつ狙い撃ちにする。
雪女見習いが旗を離れれば近寄って旗を下げる…素振りを見せることで敵の注意をこちらに集中させ、後続の猟兵たちが超巨大鉄甲船に乗り込みやすい状況を作る。
敵の対空攻撃は可能な限り避け、避けきれないものはダークミストシールドで防ぎ、可能な限り長く敵の注意を引きつけ続ける


黒鵺・瑞樹
アレンジ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

UC空翔で飛び移れる距離まででいいので船を出して貰おう。
もし向こうからの攻撃の可能性があるのであれば、さらに手前まででいい。
UCは繰り返し使えるのだから。
飛び移る時は、一気に【存在感】を消し【目立たない】ように一気にUC空翔で飛び移る。

そのままオブリビオンに【先制攻撃】で【奇襲】【暗殺】の攻撃。
さらに動きの制限【マヒ攻撃】、かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
相手の物理攻撃は【第六感】【見切り】で回避。
回避しきれなものは黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】【氷結耐性】でこらえる。


ソフィア・リューカン
行くわよ、ゴリアテ!

召喚した蒸気機構人形たちを合体!ゴリアテになった巨大な人形に【世界知識】で使えそうな道具を見繕って、【武器改造】で蒸気ジェットエンジンを搭載!ゴリアテに乗り込んで、海を越えて船に乗り込むわよ!操作はどうするかって?この子は人形よ、きっとちゃんと操作できるはずよ!

乗り込んだ先のオブリビオンの吹雪に対しては、ゴリアテを一旦横たわらせて蒸気機関を一気に活性化させて暑い蒸気を吹き出して、吹雪を中和する防御拠点として活用するわ!
そこから隠れるようにジェファーソンとレイニーを動かして、『星縫い』を【投擲】、オブリビオンを【暗殺】して数を減らすように行動するわ!

旗は……他の人に任せるわ!


トリテレイア・ゼロナイン
村上水軍……早急に対処しなければ今後の戦争の趨勢を左右しかねませんね
被害が幕府軍に及ぶ前になんとか対処しなければ

騎士としては色々と邪道ですが…
●防具改造で脚部にフロート(浮き)とスクリューを装備
海上を●スライディングするかのように高速で移動しつつ鉄甲船に接近

船からの攻撃を格納銃器の●スナイパー技能を活かした撃ち落としで迎撃しつつ取りつき、ワイヤーアンカーでの●ロープワークで乗り込みます

船内では軍旗の奪取よりも、オブリビオンへの攻撃を優先
●怪力で振るう剣や●シールドバッシュ、UCによる格納銃器の乱射で派手に立ち回ることでオブリビオンの注意を引き付けることで、軍旗を狙いに動いている猟兵の行動を援護


御堂・茜
あの村上水軍とも手合わせ願えるとは…!
かくなる上はUCで船と合体する他ございませんね!

変・身!
ジャスティスミドウカイザー・水陸両用船フォーム!
多少なら人も乗れますわ!
島で調達した丈夫な縄梯子を積みいざ出港です!

縄梯子をかけたらアームを出し
【気合い】と【怪力】で昇りましょう!
旗取りの大役は味方にお任せし
掃討に専念致します

ただの動く船と侮るなかれ
ロボですので近代兵器も搭載しております!
雪女様には火計が効果覿面かと!
大砲から砲弾の雨を降らせ船上を火の海にし
混乱に導いて差し上げます!
くいくいは鋼の体で防御し
タックルで火中へ【吹き飛ばし】ます!

細かい事は全て【気合い】でカバーです
皆で勝鬨を上げましょう!


木元・杏
【かんさつにっき】
村上の○に上字の旗
織田方の鉄甲船には似合わない
奪い返す

燧島の皆にご挨拶
これ、黄金のお菓子
わたしも家で作ってみた
味はまだ本家には負けるけど

島も、世界も、絶対守る

巨大な船は機動力に劣るから
小早舟で近付けばいい?
舟と頑丈な縄貸してほしい

砲撃対応で舟をオーラ防御
?何まつり…(着せられ
□●×!!(速さに戦く
な、縄を伝い船に乗り込む

UCで透明の狼10体
先行して敵が引っ張る前に体当たりで弾き飛ばし、旗印への道を開いて

大剣の灯る陽光でオーラ防御
邪魔な敵だけ斬り払い
一直線に旗印に向かい、引き抜く

村上水軍
貴方達は親王の護衛を行う村上の祖に集った
誇り高き瀬戸内海賊衆
富子や織田なんかに利用されないで


木元・祭莉
【かんさつにっき】!

やほー姫様、ご無沙汰ー♪(お土産の戦争地図)
あ、風早屋さん! ココで一番足の速い舟、どれー?(めっちゃなちゅらるにねだる)

さて。おいらは舵取り兼流れ弾対応!(棒を構えて舳先へ)
コダちゃんが綱を繋いでくれたら。いざ、出陣!
アンちゃん、救命胴着ちゃんと着た?(赤い羽織をぴっと)
子猿のように綱を昇り、船に乗り込んだら、大声で名乗り!

雪女ちゃん、初陣の素人さんだよね?
飛び跳ね歌って耳目を引き、村上旗とは逆の方向へ引き付けて。
寛永の今牛若とは、おいらのコトだ!(遠距離から扇を散らし、目晦まし爆破ぽんぽん)

旗を奪ったら、低い姿勢で甲板を転がり、海へ逃亡!
燧島までヨロシク……(きゅう)


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

ふふ、島の皆元気にしてるかな
また会えて嬉しい
協力のお礼言わなきゃね
あともし可能なら
腹拵えに茸と筍のご飯もあったらいいな、なんて

■乗船
調達した長く軽く丈夫な縄を矢に繋ぎ
白雨のUCで敵船の船首へ飛ばし引っ掛けて
乗船の足掛かりとする
燧島も祭莉んと杏の住んでる村も
私にとって大切な場所
サムライエンパイアのこの世界
絶対に護ってみせるから!

■戦闘
乗船後は仲間を援護
スナイパーの腕の見せ所よね
オーラ防御展開の上
なるべく高所から戦場全体を見渡して
旗への適したルートを声がけ
仲間が素早く到達出来る様に
邪魔する個体を射って或いは斬って援護する

旗と勝利を手にし
骸の海へと消えゆく霊達の
穏やかな航海を願うよ


アヤネ・ラグランジェ
UDCエージェントは潜入任務が得意だ
鉤爪、ロープを現地調達
シロイルカに颯爽と乗り込む
タピオカが美味い

でかいネ
第二次世界大戦の戦艦クラスだ
UC発動
シロイルカ飛んで!
触手を絡みつけて船腹に取り付く
敵に気づかれないよう登る

さて海の大名の実力や如何に?
Scythe of Ouroborosを袖口から滑るように取り出し
雪女見習い?
いや、誘惑とか通じないから
最近よいおみ足を見てしまってネ
ゴメン、先を急ぐ
邪魔する相手を薙ぎ払い

帆柱を目指す
鉤爪を付けたロープを投げ
触手も併用しつつ素早く帆柱を登る

旗を引きずり下ろす
村上水軍討ち取ったり!


真守・有栖
でっっっかいおふねじゃないの!
わぐわぐ。もぐもぐ。
おさかなとおかしを平らげ、ぽんぽんいっぱい!やる気もわっふり!

えぇ、満ちた狼のきらきらのぴっかぴかをご覧あれ……!

――月喰

風早屋の船にて
刃に込めるは“煌”の一意
迸る烈光が遥か先の鉄船へと延びて、船上の敵に喰らい尽く。がぶり!よっ
えぇ、先に向かった皆の援狼は私にお任せあれっ

皆が船に乗り移ったのを確認してから海へどぶん!
月喰を咥えて縄梯子を背に雅狼たる華麗ないぬかk……狼かきで!
狼の姿でわふわふと敵船を目指すわ!

…………

ぜぇ…っ…よ、ようやく辿りついたわね!?
ふふん!この助狼たる私の出番のようねっ
旗を目指す面々を光閃のきらぴかでずばっと援護するわ!


メルノ・ネッケル
安全なところまででええ、船出して奴らの近くまで運んで貰えるか?
後、この『キツネビサイクル』が助走出来るくらいの場所空けといて貰えると助かる。

【騎乗】の腕、見せたるで……フルスロットルで行く!助走を付け……大ジャンプと共に鉄甲船に乱入やっ!

バイクで突破しつつ無理矢理帆柱登り……はキツいし、旗の確保は任せるで。
その分、露払いは存分にやったるでな!

女狐相手に見様見真似の誘惑が通じるとは思わんことやな……そら、『フォックスファイア』!来ぃや、四十五の狐火!
今回は雪女を倒すんが目的やない、足止めで充分。
四十五の狐火、そして二丁の銃。こいつを旗取りを邪魔する連中らに撃ち込み続ける!無粋な真似はさせへんで!




 燧島。嘗てオブリビオンに乗っ取られかけていた所を、猟兵によって解放された地。
「やほー姫様、ご無沙汰ー♪」
「おお、祭莉ではないか!」
 その港に再び訪れた木元・祭莉(サムシングライクテンダネスハーフ・f16554)の姿に気づいて、燧島当主代行である朔八姫が手を振り返す。
「久しぶり……これ、黄金のお菓子。わたしも家で作ってみた」
 木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)が開いた風呂敷包みの中には、製法がこの島に眠っていた黄金色の生地のふわふわの蒸し菓子があった。
 ところで、ぷろでゅーさーって何があった?
「味はまだ本家には負けるけど」
「そう? 杏の作るのも美味しいわよ」
 謙遜する杏の手元を覗き込みながら後ろから声をかけた鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は、顔を上げ朔八姫に微笑みかける。
「姫様も、島の皆も元気そうね。また会えて嬉しいわ」
「杏も小太刀も来てくれたのだな! 皆も食べていくか?」
「「「も?」」」
 朔八姫の物言いに引っかかることを覚えて、3人が首を傾げる。確かに他の猟兵も来ているが――食べていくか、とは?
 3人に見覚えのある身なりの良い男が黙ってある方向を指す。
 ふりふり揺れる、見覚えのある銀の尾。
「うん! 相変わらず美味しいおさかななのだわ!」
 いつの間にか、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)が、わぐわぐもぐもぐ、おさかなとごはんを頂いていた。
 腹が減っては戦ができぬというしね。

 閑話休題。
「話は聞いておる。あの鉄の船、妾達ではどうにもできぬ。支援は惜しまぬ故、よろしくお頼み申す」
「安全なところまででええ、船出して奴らの近くまで運んで貰えるか?」
「船である程度まで近づければ、あとは飛び移るなりしますので」
 頭を下げる朔八姫に、メルノ・ネッケル(火器狐・f09332)と黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)が船を要求する。
「うむ。風早」
「風早屋さん! ココで一番足の速い舟、頼むよー!」
 促す姫に便乗する形で、祭莉にナチュラルに船をねだられ、身なりの良い男――廻船問屋・風早屋がため息交じりに港を指さした。
「安宅、関、小早。各種取り揃えてございますので、好きな船をどうぞ」
 いずれも木造だが、かつて村上水軍も使ったという船である。
「でっっっかいおふねじゃないの!」
「うん。いい船じゃない。ありがと、風早さん」
「速さならやっぱり小早かな?」
 風早屋と面識のある有栖と小太刀と杏が遠慮なく船を物色し始めたのに倣い、他の猟兵たちも船を選び始める。
 そんな中。
「ボクはいいよ。空から行くから」
 峰谷・恵(神葬騎・f03180)はそう告げると、白と黒が混ざり合ったオーラを全身に纏って、ふわりと上昇する。
「先に行って、位置を確かめておくね」
 恵は更に高く上昇してから、白と黒の光の尾を引いて一気に飛び出していった。
「私も船はいいわ」
 港の先端に立って沖合の海を眺めていたソフィア・リューカン(ダメダメ見習い人形遣い・f09410)も、そう告げる。
「私はこれで行くから。みんな! 合体の時間よ!」
 ソフィアが発した言葉は、号令だった。
 右手甲部に数字が刻まれた蒸気機構人形、35体。召喚されたその全てが一斉に分裂し、形を変えて、別々に組み合わさっていく。
「最終合体――ゴリアテ!」
 手甲に35と刻まれたその掌は、ソフィアが余裕で乗り込める大きさとなっていた
 とある世界の神話に謳われる巨人と同じ名に恥じぬサイズである。
「「「…………」」」
 空飛ぶは、人形は巨大化するは。
 燧島の皆さんは、早くも言葉を失っている。
「ロ……ロボですわー!!!!!!!!!」
 そんな中でゴリアテの威容に、御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)が興奮した様子で声を上げていた。
 茜がサイボーグサムライプリンセス化した影響の一つが、別の世界の『特撮』と分類されるジャンルである。
 それを彷彿とさせる合体巨人人形に、興奮しない筈がない。
「これは御堂も負けていられません!!!」
 茜の拳に力がこもる。
「あの村上水軍とも手合わせ願えることですし……かくなる上は、御堂は船と合体する他ございませんね!」
 茜は港に並んでいる船の一つに乗り込むと、ジャスティスミドウセイバーをすらりと抜いて船に突き立てた。
「変・身! 起動せよ、ジャスティスミドウカイザー!!」
 説明しよう。
 茜は無機物と合体することで、ロボに変形できるのだ。わざわざジャスティスミドウセイバーを抜いてみせたのは、ジャスティスミドウセイバーも巻き込んだ合体が最も強くなるからである。
 今回は、ジャスティスミドウセイバーと船を巻き込んで合体した。つまり――。
「ジャスティスミドウカイザー・水陸両用船フォーム! ですわ!」
 肩とか足先とか頭部に船っぽさがあるロボに、茜は変形していた。
「こうなれば、多少なら人も乗れますわ!」
 さらに船そのものに戻る形で再変形し、海の上に着水。
 昨今、別の世界では船が擬人化されるケースはありふれているというが、人が船に変形するのは中々ないのではなかろうか。
「そりゃええ。乗せてもらおかな」
「俺も頼めるかな?」
 メルノと瑞樹は平然と茜の船モードに乗り込んでいく。
「「「…………」」」
「な――な――な――」
 燧島の皆さんはますます言葉を失い、風早屋なんか、文字通り開いた口が塞がらない状態になっている。
「いやはや。これはすごい。私も、騎士道として邪道だとは言っていられませんな」
 巨大ロボを立て続けに見せつけられ、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)も迷いを払って脚部装甲の改造に取り掛かった。
「いやあ、色々なユーベルコードがあるものだネ」
 余裕でタピオカ飲んでいたアヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)もロボを楽しく見ていた笑顔のまま、ヒョウと口笛を鳴らす。
「シロイルカ!」
 水面を滑るように走ってきたのはシロイルカを思わせるシルエットの宇宙バイク。
「それじゃ鉤爪と縄、借りていくネ」
 村の漁師から所望した道具を受け取ると、アヤネはシロイルカに颯爽と飛び乗る。そのまま波を立てずに静かに飛んでいった。
「こんなものだな」
 同時に改造を終えたトリテレイアも桟橋から飛び降りて――海の上に立った。浮いているだけではなく、そのまま進みだす。
 トリテレイアが脚部の改造で付けたのはフロートとスクリュー。足の裏にホバークラフトが付いているようなものだろう。
 港の中で軽く動いて、トリテレイアは水の上に立って滑る感覚を確かめてから、海へと進み出ていった。
「皆、準備万端。まつりん、ごー!」
「舵取りはおいらにお任せ!」
 杏に頷いて、祭莉が櫂をつかんで負けじと船を漕ぎ出す。
「姫様」
 動き出した船の上から、ぽかーんとしている朔八姫に小太刀が声をかける。
「戻ってくるから。腹拵えに茸と筍のご飯があるといいな」
「ま……任せるのじゃ!」
 その声に背中を押され、猟兵たちは大海原へ漕ぎ出した。

●海戦
 四方八方から波音が聞こえる、海の上。
 波を潰すように掻き分け海原を行く鉄の塊――超巨大鉄甲船。
「でかいネ。第二次世界大戦の戦艦クラスだ」
 近づくにつれてはっきりと見えてきたその威容に、シロイルカの上でアヤネが思わず息を呑む。
 猟兵達から鉄甲船が見えているという事は、向こうからも見えているという事だ。
『なにかくるよー』
『いろいろくるよー』
『おもかじー』
『つぶしちゃえー』
 雪女見習いの指示の元、村上水軍亡霊体が操る巨大な船は海上でそのサイズに見合わぬ旋回運動をしてのける。
 更に――鉄甲船から、何か丸いものが放物線を描いて飛んできた。

「砲撃でしょうか? 取り敢えず、撃ち落としましょう」
 トリテレイアの頭部の騎士兜から、機銃の銃口がぬっと顔を出す。
 ダダダダッ!
 兜から銃火が立て続けに閃いて――ズドォンッと空中に爆炎が広がった。
「手榴弾のようなものですか。確かに早急に対処しなければ今後の戦争の趨勢を左右しかねませんね」
 広がる爆炎を掻き分け、トリテレイアは滑るように鉄甲船から少し距離を取る。此処までの移動で、フロートとスクリューのコツは完全に掴んでいた。
「炮烙火矢、かな?」
 鉄甲船の反対側では、祭莉が漕ぐ小早船の舳先で、杏が広げたオーラで受け流すようにして爆発する前に海に落としている。
 亡霊が投げているのか、オブリビオンが投げているのか定かではないが、これはかつての村上水軍が使ったという爆弾の一種で間違いないだろう。
「これじゃ狙いにくい!」
 黒漆塗の和弓を手にした小太刀が、小さく舌を打つ。
 あれだけ巨大な標的だ。当てるだけなら、多少動かれたところで問題にならない。
 だが、小太刀が狙っている矢は、それ自体は攻撃のためではない。
 その後を考えれば、今はまだ、射てない。
 他の猟兵も、船に乗り移る為の手を中々打てずにいた。
 猟兵達を簡単に乗り移らせない操船技術は、さすが村上水軍の亡霊が宿っているだけの事はある、と褒めるべきか。
 だが――猟兵達が持つ業の中には、村上水軍の亡霊も知らぬであろうものがある。

「空から見ても大した操船技術。でも、海を抑えられたなら空から抑え返すだけ」

 とっくに上空から超巨大鉄甲船を確認していた恵が、他の猟兵が海から攻めあぐねているのに気づいて急降下を始めた。
 左右の手に構えるのは、それぞれ別の携行型砲台。
「さて、ご自慢の耐久力を見せて貰うよ」
 恵は構えたMCフォートとアームドフォートの引き金を引き続け、上空から巨大船目掛けて砲撃を雨と浴びせかけた。
 ズドドドドンッ!
「成程。これだけ撃ち込んでも、本当にすぐに再生するんだ」
 鉄甲船を揺らす程の砲撃が、外壁に一瞬穴を開けた。だが、恵が次を放つよりも早く、その穴がふさがっていく。
「でもまあ、当たらないとかじゃないなら」
 攻撃が届かないわけではない。当たるけど効かないだけなら。
 恵は再び両手の砲口を向けると、先以上の砲撃を鉄甲船に浴びせかけた。
 ズドドドドンッ!
 爆発の圧で鉄甲船が一瞬沈み込み、周りの海が大きく波立つ。
『そらから?』
『どこ? どこに?』
 雪女見習い達も上からの攻撃と気づいて顔を覗かせるが――【空在渾】を発動した恵の最高飛行速度は、音速を軽く越えている。
 まさに目にも映らぬ速さ。
 雪女見習いには、恵が纏う白と黒の混ざった光の軌跡を目にするのが精一杯。
 そして、雪女見習いの一部の目が空に向いた、その隙を他の猟兵が逃す筈がない。

「行くわよ、ゴリアテ!」
 ソフィアが張り上げた声に反応し、合体蒸気機構人形ゴリアテの背中から凄まじい量の蒸気が噴出した。
 合体の際、ソフィアが手を加えて蒸気ジェットエンジンを仕込んでおいたのだ。
 飛行機雲の様に蒸気の尾を引いて、海面を飛ぶゴリアテが鉄甲船に迫る。
『ナンカキター!?』
 鉄甲船内でそれを見た亡霊の一部は、驚きを隠しきれていなかった。
 如何に村上水軍とて、海上で巨大な人形兵器と戦った事など――ある筈もない。
 ゴォォォンッ!
 鈍い音を立ててゴリアテが鉄甲船に突っ込んだ。
 上からの攻撃で沈んだ反動で浮かびかけていた鉄甲船の船体は、そこに横からの衝撃を受けて完全に浮き上がった。
 この一瞬――鉄甲船の動きは完全に止まっていたのだ。
 とは言え、それはほんの僅かな時間。如何に猟兵でも、飛び移るには足りない。

「――月喰」

 だが、光なら別だ。
 遥か遠くから迸った光が、鉄甲船の縁に獣の様に喰らいついた。
 猟兵の一番後ろ。一人、別の船に乗った有栖がやや小ぶりの刀を構えて、そこから光の刃を放っていた。
「おさかなとおかしで、ぽんぽんいっぱい! やる気もわっふり! 満ちた狼のきらきらのぴっかぴかをご覧あれ……!」
 刀身から伸びて鉄甲船に喰らいついた光の刃は、有栖が込めた"煌"の念を受けて、煌めいている。さながら光の錨。
「皆! ここは援狼の私にお任せあれっ!」
 光刃を維持したまま、有栖は船の上から他の猟兵へ叫んだ。
 とは言え、この膠着はそう長くは持つまい。有栖の小舟は風早のものだが、鉄甲船とのサイズの差は歴然なのだから。それを有栖一人の力で、いつまで支えられるか。
 一人なら――だ。
「シロイルカ飛んで!」
 喰らいつく光を見たアヤネが、白い機体を波を使って浮き上がらせた。
 降り注ぐ陽光が、海面に影を作る。
「UDC形式名称――ウロボロス。術式起動。かの者の自由を奪え」
 アヤネの影が蠢き、飛び出したのは蛇に似た異界の触手。大量の触手が、鉄甲船に絡みついていく。
 光と影が、鉄甲船を一時的にせよ完全に停止させた。

「絶好の機会でございます! 御二方も御準備を!」
「俺はいつでもいいぜ」
「うちも準備万端や!」
 船状態のまま海を駆ける茜の声に、瑞樹とメルノが同時に返す。
「参ります!」
 ざっぱん!
 茜は気合で波に乗り上げ、船となった自らを斜めに傾けた。
「タイミングばっちりや! フルスロットルで行く! お先にな!」
 メルノが跨る炎を纏った狐の様な機体に、狐火が吸い込まれていく。
「うちの騎乗の腕の見せ所やな!」
 動力に変えた狐火を気筒から吹いて、宇宙二輪『キツネビサイクル』は傾いた甲板を発射台代わりに猛然と駆け抜ける。
 狐火が赤い尾を引いて、メルノを乗せた『キツネビサイクル』は鉄甲船の甲板を見下ろす程にまで飛び上がった。
「じゃあ俺も。また向こうで」
 言うが早いか、瑞樹の姿が消える。
「よっと!」
 空翔――そらがけ。
 何もない空を足場と蹴って、瑞樹は悠々と船に飛び込んでいく。
「っし、到着や!」
 ギッギギィッと『キツネビサイクル』の車輪を擦らせ、メルノが着艦する。
 その数秒後、瑞樹も静かに船に降り立った。
 『キツネビサイクル』に積まれていた縄梯子が、船から海に降ろされた。
「お見事でございます、御二方!」
 ロボ型に戻った茜が、アームを伸ばして縄梯子をスイスイと登っていく。
『船ガ変形シター!?』
 船内でそれを見ていた亡霊の皆さんが、また驚いていた。
 如何に村上水軍とて、船に変形出来るロボと戦った事など――ある筈もない。

「コダちゃん!」
「わかってるわ!」
 祭莉の声にそちらを振り向かずに返し、小太刀が和弓に矢を番える。
(「燧島も祭莉んと杏の住んでる村も、私にとって大切な場所――この世界、絶対に護ってみせるから!」)
 サムライエンパイアを護る。
 その想いを、かつてこの海に散った誰かの分まで掬い上げ、凝集し、小太刀は一つの真白な矢として具現化する。
「白き矢よ、射貫け!」
 和弓から放たれた白く輝く破魔矢は、ぐんぐん飛んで鉄の船首に引っかかった。
「よし、かかった!」
 小太刀が放った破魔矢には、縄を結びつけてあった。縄の先は、この船である。乗り移る為の、縄の道。
「ん。早く行こう」
「その前に、アンちゃん」
 縄を引っ張って感触を確かめ早速飛び乗ろうとした杏を、祭莉が呼び止める。
「? 何、まつり――」
「救命胴着ちゃんと着ようね? コダちゃんも」
 振り向いた杏に、祭莉が赤い羽織をぴっと素早く着せる。同じものは、小太刀にも手渡された。これでもし縄から落ちても安心。
「いざ出陣!」
 言うが早いか、縄に飛び乗った祭莉は猿もかくやと縄を駆け上がっていく。
「□●×!!」
「野生児……」
 気づけば鉄甲船の上から手を降っている祭莉に、杏と小太刀も驚くしかなかった。

●がんばれ
「皆、乗り込んだみたいね!」
 有栖の視線の先で、白銀の甲冑姿が船体をよじ登って乗り込んでいく。
 他の猟兵を船へ送る。援狼としての有栖の目的は達せられた。
「私も行くわよ!」
 手元から伸びていた光がふっと消え、有栖は月喰を鞘に納める。
 鞘を腰から外して咥え――迷わず海に飛び込んだ。
 ドボンっと水音が鳴って有栖の姿が海に沈み――浮かび上がって来たのは、刀を咥えた白銀の狼。
 何故か狼に姿を変えた有栖は、犬かきならぬ狼かきで、わっふわっふと波を掻き分け瀬戸内の海を泳いで進んでいくのだった。
 光の錨がなくなって、徐々に動き出した鉄甲船を追いかけて。

●暗殺者
 打刀と漆黒のナイフ。
 長さも作りも違うふたつの刃を左右の手にそれぞれ構え、瑞樹は足音を立てずに鉄の船の中を歩いていた。
 その片方。漆黒の刃こそがヤドリガミである瑞樹の本体。
 かつて、別の世界でとある元暗殺者が愛用していた刃だと言う。
 それ故にか、瑞樹の戦い方も暗殺のそれであった。
『しんにゅーしゃ、どこー?』
 通路の先に、雪女見習い。
 気配を限りなく薄くした瑞樹には、まだ気づいていない。
 一歩。二歩。足音を消して近づいて。一足で、一気に間合いを詰める。
『え?』
 雪女見習いが気づいた時には、漆黒の刃が白い和服の上から突き刺さっていた。
『っ!?』
「おっと」
 ヒュォウ!
 鉄の船の中で、冷たい風が吹く。
 だがそれが吹雪になる前に、閃いた打刀の刃が雪女見習いの細く血の気のない首を、ストンと斬り落とす。
「術の類はカウンターしにくいから、先手を取るに限るな」
 淡々と呟いて、瑞樹はまた足音を立てずに歩き出した。

●騎士道
「乗り込んでしまえば、案外、静かなものですね」
 鉄甲船に引っ掛けてよじ登ったワイヤ―アンカーを収納し、トリテレイアが鉄甲船の内部に踏み込む。フロートは空気を抜いて、スクリューも畳んである。
「本当に、亡霊はこちらを襲ってこないのですね」
 高感度マルチセンサーに感じる殆ど動かない多数の反応は、亡霊だろうか。
「ですが、こちらは別ですか」
 センサーを使うでもなく、目の前の通路をかけてくる白い和服の少女。
 血の気がまったくない青い肌に冷気を纏った、雪女見習い。
『ここからさきはいかせない、の……?』
 食い止めようとトリテレイアに迫る雪女見習いの足が止まり、表情も呆然と固まる。
 トリテレイアの頭部から、肩から。隠蔽されていた格納銃器が露わになって銃口を向けているのに気づいたからだ。
「騎士道を鑑みれば、銃を使い、まして少女に向けるなど言語道断なのですが」
 己は騎士の紛い物に過ぎないと、トリテレイアは自覚している。故に、それに足る理由があるなら、騎士道に反する戦法も躊躇いはしない。
「この船は危険過ぎますので!」
 炮烙火矢も悉く撃ち落とした銃撃が、鉄甲船の中で放たれた。
『ひゃわぁぁぁぁっ!?』
 浴びせられる銃撃に、雪女見習いはくいくいする動作をする暇もなく慌てて回避するしかなかった。
『こうなったら……え?』
 とにかく吹雪こうとした雪女見習いの前に、白銀の騎士剣『義護剣ブリッジェシー』を掲げたトリテレイアが立っていた。銃撃は、囮だ。
「終わりです!」
 振り下ろされた白銀の刃が、雪女見習いを両断した。

●蒸気と氷
『ななななな、なにそれ!?』
「ゴリアテよ!」
 見上げるほど巨大なゴリアテに、ソフィアの前に出てきた雪女見習いは、狼狽を全く隠せていなかった。
『と、とにかくふぶけばきっと凍らせられる!』
「ゴリアテ、蒸気最大出力!」
 雪女見習いが吹雪を放つと同時に、ソフィアの指示でゴリアテが蒸気エンジンを全力で吹かした。
 立ち込める蒸気と吹雪がぶつかり、ブワッと冷たい霧になって広がった。
『なにこれ、なにもみえない!?』
 突然の霧に、慌てふためく雪女見習い。
 その声を聞きながら、ソフィアは静かに片手を上げる。
 ソフィアと雪女見習いの差は、予想していたか、そうでないか。
 ソフィアが掲げた手で操るのは、愛用している青髪のジェファーソンと白髪のレイニーの2体の人形。
 2体の手がソフィアをトレースするように動いて、鋭い針――星縫いが放たれる。
 星縫いは、小さな流星のように霧を裂いて雪女見習いに突き刺さった。

●掴みどころのない正義
『…………』
「正義の象徴たる御堂の姿に声もないようですね!」
 鉄甲船の内部の一角で、茜と雪女見習いが対峙していた。
 茜と言うか、船と合体したジャスティスミドウカイザーと言うか。
『はっ!? てきだった!』
 我に返った雪女見習いは、茜を凍らせるべく、とてててっと駆け寄り――。
 細い手を伸ばしたところで、固まった。
 何処をくいくいしろと。
「この鋼の身体、そう簡単にくいくいさせるつもりはないございます!」
 詰め寄る茜に、たじたじで後ずさる雪女見習い。
「てい!」
 茜が鋼の身体を押し当てれば、雪女見習いの小柄な身体が吹っ飛ばされた。
『うう……こうなったら他の雪女見習いも呼んで……え、なにそれ?』
 身を起こした雪女見習いが見たのは、向けられる砲塔。
「ロボですので近代兵器も搭載しております! 雪女様には火計が効果覿面かと!」
 次の瞬間。
 爆音が鉄甲船の中で何度か響き渡り、正義の爆炎が雪女見習いを溶かしていた。

●ある意味、女の戦い
「そら『フォックスファイア』! 来ぃや、四十五の狐火!」
 響いたメルノの声が告げた数の通り、四十五のも登る狐火が群れとなって追っているのは、小さな白い影。雪女見習いである。
「旗取りの邪魔なんて、無粋な真似はさせへんで!」
 大量の狐火と二丁の拳銃で、メルノは雪女見習いを追い立てる。

 アヤネの袖口からするりと何かが滑り出る。掌に収まった直後、それは2メートルもあるウロボロスの大鎌に姿を変えた。
 閃いた大鎌が、亡霊の肩をかすめる。それでも、亡霊達は船を動かす行動をやめようとはしなかった。
「海の大名の実力を見たかったけど、お預けみたいネ」
 まるで反応がない。船を操ることしかしていないのか――出来ないのか。
 だが、反応ないのは亡霊だけ。
『ひゃぁぁぁ!』
 鉄も吹雪も斬り裂く大鎌に戦いて、雪女見習いはアヤネの前から逃げ出した。

 そして、追い立てられた雪女見習い達が、一室でかち合った。
『『あ』』
 それぞれ雪女見習いを追ってきたメルノとアヤネも、そこで顔を見合わせる。
『こうなったら、あれやろう』
『あれだね』
 逃げ場がないと悟ったか。雪女見習いは頷きあい――。
『ちら』
『……』
 頬を染めつつ和服の裾をそれなりに大胆にめくり、足をちらちらと見せてきた。
 だが所詮は、お子様な雪女見習いである。
 特定の性癖をお持ちの方になら、刺さったかも知れない。
「「……」」
 メルノもアヤネも呆れに近い感覚で一瞬、固まりはしたものの誘惑される筈もない。
「女狐相手に見様見真似の誘惑が通じるとは、思わんことやな。10年早いわ」
 余裕で誘惑を受け流し、メルノは狐火を殺到させる。
「いや、残念。最近よいおみ足を見てしまってネ――誘惑とか無理」
 半ば溶けた雪女見習いを、アヤネもウロボロスの大鎌が纏めて斬り捨てた。

●かんさつにっき
「村上水軍」
 船を動かすことしかしていない亡霊たちに、杏が呼びかける。
「貴方達は親王の護衛を行う村上の祖に集った、誇り高き瀬戸内海賊衆。富子や織田なんかに利用されないで」
 ぴくんと反応を見せた個体もいるにはいたが、船を動かす手は止まらない。
『むだよ。とみこさまがそうしたの』
『はたがあるかぎり、ぼうれいは、ふねをうごかしつづけるの』
 無駄と告げる雪女見習い達。
 その血の気のない顔に、鮮やかな舞扇が当たる。
『いたっ』
『なに!』
「――♪ ~~♪」
 驚く雪女見習いたちの目を引くように、祭莉が舞扇を両手に飛んで跳ねて、扇を投げながら唄い舞う。
 祭莉の動きに、雪女見習いたちの目が船首側へと向く。
 即ち、水軍旗のある帆柱の方を背にして。
「おいらは祭莉! 寛永の今牛若とは、おいらのコトだ!」
 大仰に名乗りを上げた祭莉が両手から扇を放った瞬間、全ての扇がぽん、ぽん、ぽんっと爆発した。
『ひゃわぁぁっ!?』
「旗印への道を開いて」
 爆発の中から雪女見習い達の驚く声が上がるのを聞きながら、杏がなにかにお願いするように小さく呟く。
『ふぎゅ』
 目に見えない獣――杏が船に乗り込んだ直後に喚び出していた透明な狼達が、雪女見習いを押さえつけていた。
「まつりん、先行くね」
 開けた道を、杏が駆け出す。
 ストン、ストン、ストン。数本の矢が、杏の前に突き立った。高所に陣取った小太刀からの道案内のメッセージ。
『行かせな――!?』
 起き上がった雪女見習いが杏を追おうとするが、動けない。
 遮那王の刻印。
 祭莉が投げた舞扇は幻影。その爆破にさらされた者は、オトナには見えない夢色の絆で繋がれる。
「雪女ちゃん、初陣の素人さんでしょ? 隙だらけだったよ――コダちゃん」
 扇を手に笑う祭莉の合図で、雪女見習いに小太刀の矢が放たれた。

●水軍旗
 ズドンッ、ズドンッ。
 恵が上空から散発的に撃ち込む光が、鉄甲船に降り注ぐ。
「その旗がこの船の力の源なのは、判ってるんだよ」
 隙があれば旗を狙うと言外に告げながら射撃を続けるのは、恵の意志である。
『させないんだから!』
 それが本気か冗談か、雪女見習いには見抜ける程の経験がない。
 故に雪女見習いの一体は、恵を警戒して甲板に釘付けにされていた。
 そこに、音もなく迫る影一つ。
 瑞樹の刃が、砲撃に気を取られていた雪女見習いの首を斬り落とす。
「これで全部みたいだな?」
 終わったと、瑞樹が上に手を振れば、恵も糸に気づいて砲撃をやめた。
 そこに、船首側の扉が開いて、杏が甲板に飛び込んできた。
「おや? 片付いてるのかな?」
「乗り込んでみたら、拍子抜けやなぁ」
 船尾側からは、アヤネとメルノが姿をみせる。
 全滅させる必要は無いと聞いていたが、他の誰かが旗を取りやすいようにと動いた猟兵が多かった結果、雪女見習いは駆逐されていたようだ。
 あとは、水軍旗を降ろすだけである。
「織田方の鉄甲船には似合わない」
「村上水軍討ち取ったり!」
 柱を登った杏とアヤネの手が、丸の中に上と描かれた旗をしっかりと握って、帆柱から引きずり降ろされた。

●がんばった
「ぜぇ……っ……ぜぇ……っ……よ、ようやく辿りついたわね!?」
 狼かきで泳ぎきり、かけっぱなしだった縄梯子をわっふわっふと登って、有栖がやっと鉄甲船の上に辿り着いた。
「この助狼たる私の出番のようねっ」
 直後に、旗が引きずり降ろされたのだった。

●帰投
 ――ォォォォォォ。
 鉄甲船から解放された村上水軍の亡霊達の呻き声が、海風に流れていく。
『いやあ、助かった助かった』
『見事な船捌きだったぞ。生前の儂等を見ているようだ』
『小船で大船を落とすのは、やはり良いのう』
 中には正気に戻れたようで、猟兵達を称賛しながら消えていく亡霊もいた。
(「あなた達も、どうか穏やかな航海を」)
 ――ガシャーン!
 胸中で亡霊たちの黄泉路を願う小太刀の意識を引き戻したのは、船の何処かで何かが崩れる音だった。
 村上水軍亡霊が消えた事で、鉄甲船の再生能力もなくなった筈である。
 派手に戦ったガタが、既に出始めているのかも知れない。
「長居は無用という事ですな」
 甲板を蹴って跳んだトリテレイアは、空中でフロートに空気を入れ直し、バシャンと水音を立てながら着水。
 バッシャーン!
 その隣に、船が落ちてきた。
「勝鬨は、少しお預けでございますね」
 否。再び船に変形した茜だ。
「また頼めるかな?」
「うちも頼むわ」
 その上に、瑞樹とメルノが再び乗り込んだ。
「……その……乗ってきた船、置いてきちゃったのだわ」
 尻尾をしゅんと下げた有栖が3人目として加わった。
「ゴリアテ、帰るわよ!」
 ゴォォォッと吹き出す蒸気の音を響かせて、ソフィアが乗り込んだゴリアテも船から離れて飛んでいく。
「よし。まだ矢はしっかり掛かってる。いけるわ」
 船首に戻ったかんさつにっきの3人も、矢の具合を確かめた小太刀を先頭に、まだ掛かっていた縄を滑り降りて小早船に再び乗り込む。
「燧島までヨロシク……」
 船に戻るになり、祭莉がきゅうと崩れ落ちる。流石に疲れたのだろうか。まあ、スクリューだったり蒸気動力だったり、謎の推進力だったりに、人力で船漕いで着いてきてたのだから、無理もない事である。
「まつりん、もうちょっとがんばろ」
 その背中をぽんと叩いて、杏が櫂を掴んだ。
「おかあさんたち、昔、瀬戸内海泳いだって言ってたし」
「……そう言えばそんな話も……」
 漕ぎ出した杏の言葉に、まだくたっとしたまま祭莉が頷く。
 結局、帰りは3人で交代しながら船を漕いで、茸と筍のご飯が待つ燧島へゆっくりと戻っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月13日


挿絵イラスト