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エンパイアウォー⑲～その罪の名を『傲慢』と呼ぶ

作者：七転 十五起

　一人の武士が慌ててオブリビオンの前に跪く。
　それを見たオブリビオンは、視線を合わせずに言葉を漏らした。
「……何だ？　戦況になど、私は何の興味も無いぞ」
「で、ですが！　猟兵を抱えた徳川軍は破竹の勢いで此処まで迫っておりますぞ！？」
　その後も武士は旗色の悪さを訴えるも、厳島神社の鳥居の上にて、巨大な竜の背に跨る壮年男性のオブリビオンは、報告にやってきた幕府に叛意を持つ長州藩の毛利一族の武将の言葉を一蹴。そしてその武将を即刻生贄送りにしてしまうと、興味なさげに瀬戸内海を眺めていた。
「全く、使えん奴らだ……。私が以前訪れた国の民は、お前等に比べればマシだったぞ」
　壮年のオブリビオンの名を侵略渡来人『コルテス』と言った。
　信長軍の魔軍将の一角である。

「なにあのドＳイケおじ、あたいの超好みなんだけど……っ！」
　予知を見た蛇塚・レモン（黄金に輝く白き蛇神オロチヒメの愛娘・f05152）の第一声。
　このグリモア猟兵は渋カッコいい30代後半から50代前半の『イケおじ』に弱かった。
　その証拠にレモンの口元から涎が垂れている。
「（じゅるり……）えっと、みんなには、このイケおじ様こと魔軍将の侵略渡来人『コルテス』の討伐に向かってもらうよっ！」
　妙にテンションの高いレモンは、コルテスの戦い方について解説を始めた。
「簡単に言うと、コルテスおじ様は『戦闘の仕方を忘れて』いるよっ！　なぜなら、コルテスおじ様が自分の力で直接戦ったのは、侵略を開始した最初の数回のみ！　以降は『侵略して滅ぼした世界の戦力』を利用して、安全圏から楽しく侵略と虐殺を繰り返してきたからなんだよっ！　……って、こいつめっちゃ悪い人じゃん、サイテー！！」
　いや、もとより最低だよコイツはね？
　富士山を噴火させようとしていた悪逆非道だからね？？
　そんなツッコミでレモンをなだめる猟兵たち。
「……コホン。つまり、コルテスおじ様は『自分が直接攻撃される事を想像もしていない』んだよねっ！　だから予想できないようなユーベルコードの攻撃に対しては、ほぼ一方的に猟兵が圧倒できちゃうよっ！！」
　なんだか今までの魔軍将と違って楽勝だな、なんて猟兵の考えにレモンは首を横に振る。
「そこっ！　油断大敵だよっ！！　流石に無策で真正面から殴りかかったり、他の猟兵が先に使用した同系統のユーベルコードに対しては、猛烈な反撃で押し返されちゃうからねっ！？」
　なるほど、無策での突貫や単純な攻撃の禁止と他の猟兵と攻撃を被らないように細心の注意を払いさえすれば、充分に勝てる相手なわけか。
　……いやいやいや、大勢いる猟兵でそれを示し合わせるのって至難の業だぞ？？
「そういうことだよ……っ！　だから、普段は使わないようなユーベルコードを、このときばかりは活用してみる良い機会だと思うよっ？」
　確かに。勝利のためには、そのほうが無難かもしれない。
「という事で！　慢心せずにキッチリやっつけちゃってねっ！」
　レモンの頭上のグリモアが輝く。
　サムライエンパイアの厳島神社へ、転送開始だ！

第1章 ボス戦 『侵略渡来人『コルテス』』

POW   :    古典的騎乗術 予め【大昔にやった騎馬突撃を思い出す 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。 SPD   :    マスケット銃撃ち 【10秒間の弾籠め 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【マスケット銃】で攻撃する。 WIZ   :    奴隷神使い 【ケツァルコアトルの噛みつき 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 イラスト：シャル 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

　厳島神社の赤鳥居の上に、侵略渡来人『コルテス』が騎乗するケツァルコアトルが横たわっていた。
　コルテスは尊大な態度で鳥居に居座る姿は、まさに神をも恐れぬと言ったところか。
　そこへ猟兵たちが続々と集結してくる。
「ケッ、人に下等だなんだってレッテル貼ってる野郎が偉そうにしてんじゃねぇ！　そこらの傲慢な人間と大して変わらねぇじゃねぇか！」
　仙城・蒼汰郎（迅蜘蛛・f06062）が転送直後に鳥居に向かって怒鳴り散らした。
　だが、コルテスは全く聞く耳すら持ちやしない。
　仙城の怒声に対して、振り返ってその存在すら目視しようとしない有様だ。
「ムカツクぜ、コイツ！　おいコルテス！　聞いてやがんのか！？」
　しかし、コルテスは瀬戸内海を眺めたっきりで完全に無反応だった。
　そんな無関心ぶりに、転送されてきたビードット・ワイワイ（根源的破滅招来者・f02622）が嘲笑う。
「見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり。傲慢なりし考えで持ちし体は衰えて、忘れし思考は身を腐らせた。されど考え改めぬが吉。それは苦しみ長引かせる。ここが汝の破滅なり」
　ウォーマシンの言葉に、コルテスは視線だけ猟兵たちへ向ける。
　だが声は掛けない。赤鳥居の上から、ゴミを見付けたような嫌悪の視線を投げ付けていた。
　それに反応するのがシズホ・トヒソズマ（因果応報マスクドM・f04564）だった。
　ぴっちりタイトな全身スーツに身を包み、蔑みの視線にドM心を刺激され、悶えた。
「あっ、ダメ、戦いに来たのにあの、私を人と思ってないモノを見る視線を、全身に感じて！　いけない、体を少しでも隠さないと！」
　シズホはおもむろに自分の体を器用にマスクドＭストリングス――つまり彼女が人形操作に使用する特殊糸を自分の身体に巻き付け始めた！
　更に幅広の高速ベルトでその上から自縄自縛。
　この猟兵、縛られ慣れすぎである。
「ンンー！　やはりこの動けないくらいのきつさが堪らない！」
　恍惚の表情を浮かべて身を捩らせるシズホに、猟兵のみならずコルテスも嫌悪感を露わにしていた。
「ああ！　まさかの逆ベルト効果っっ♪　味方と敵からの双方の蔑みの視線が！　だめ！　もっと見て！」
「猟兵とは、理解に苦しむ存在だな」
　此処でようやくコルテスが口を開いた。
　完全に自分と相容れぬ存在だと認識したコルテスは、完全に無防備のままだ。
　そこを仙城は見逃さなかった。
「ああ、そうかよ！　本当に天上人みたいに偉ぶってんだな！！　……でだ、その偉ぇ存在のテメェはロープ使いに会った事があるかよ！？」
　仙城の身体が一瞬で姿を消す。
　元鳶職の男の身体はあっという間に赤鳥居まで跳躍し、空中からユーベルコードを叩き込む！
　シズホに注目が言っている今、彼の攻撃はほぼ不意打ちに近い形で成就する！
「それ以上行かせるかよッ！　ロープワーク・ボーラインノット！」
　複数の作業用剛性ワイヤーロープを立体的に多方向から同時投擲！
　類まれなるロープワークは、赤鳥居を蜘蛛の巣めいて絡み合い、敵を逃げも反撃も数舜出来ないように絡め取り縛る！
「捕まえたぜ！　振り切れると思うな、俺の怪力は伊達じゃねぇ！！」
「なんだと……！？」
　驚愕するコルテス！
　一瞬で身体の自由を奪われたことが信じられないのか、呆然とされるがままケツァルコアトルごと捕縛されてしまった。
「ここだ！　全員叩き込めェ！！」
　仙城のファインプレー！
　これにビードットが続く！
「空より来るは彼方の国にありし兵器。その姿はまさにシャーク。進化を繰り返し防御力を高め襲いかかるはその騎乗物、喰らいて育てよ永遠と」
　ビードットの言葉に、異空間から異形のメカが召喚された。
「ロードルーイン、これは復讐。科学の粋を集めた超生物。されどそのコントロールは不十分。常に暴走の危険有り。かくして彼らは滅んだ」
　ユーベルコード『実行仮想破滅・某国の逆襲（アクセス・イマジナリールーイン・リメンバーミー）』！
　宇宙に逃亡した某国が復讐の為に開発したフライングトライヘッドメタルアンデッドシャークがビードットの前に姿を現せば、騎乗には騎乗だと言わんばかりに召喚者をその背に乗せて攻撃を開始。
　機械サメの口の中に仕込まれたアンカー型武器と鉄屑を組み合わせて射出！
　ケツァルコアトルの身体に命中！
　更にワイヤーを巻き上げることで、加速し、雁字搦めのコルテスへシャークの巨体を叩き付けた！
「ぐっ……！？」
　鈍重な質量の衝突は、流石にコルテスに苦悶の表情を浮かび上がらせた。
「これだけにあらず。シャークは常に進化し、自己強化を促す」
　ビードットの言葉通り、シャークは大口を開けてケツァルコアトルごとコルテスに齧りついた！
　鎧など意味を成さない鮫の歯が傷口を抉り、コルテスの生命力を吸ってその姿を凶悪に変貌してゆくではないか。
「やめろ、この下等存在が、鬱陶しい……！」
　だが、それでも反撃をコルテスは行わない。
「無駄だ、猟兵とやら。お前らは私を殺せるわけがない」
　油断、慢心、自身の力の絶対的優位の信頼性。
　それらがコルテスに反撃の意思と記憶を奪い去っていた。
　そこへシズホが満を持して飛ぶ！
　……文字通り、拘束されたまま！
「アアーッ！　もう我慢できない！　私の動けない程のベルト拘束による被虐快楽度に比例した戦闘力増強！　そして最大マッハ4.5の飛翔能力！　縛られたまま空が飛べますか？　何もおかしくありませんよね！？」
「お前は一体何を言ってるんだ？」
「突撃です！」
「グワーッ！？」
　シズホがマッハの速度でコルテスへ突貫！
　高速ベルトが何故かユーベルコードの効果で鋭利な爪に形状を変えてコルテスを引き裂いた！
　これがコルテスの初めての悲鳴となる！
　静穂は何度も往復し、拘束ベルトの爪や突撃槍で突っ込んで連続攻撃！
「イヤーッ！」
「グワーッ！」
「イヤーッ！」
「グワーッ！」
「イヤーッ！」
「グワーッ！」
　そんなやり取りを数往復終え、スッキリした表情でシズエは地面に降り立った。
「ふう、色んな意味で満足しました♪」
　コルテスは赤鳥居から吹き飛ばされ、瀬戸内海へ叩き込まれた！
　畳み込むなら、今だ！！

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

　海の中へ吹っ飛ばされたコルテスが再起するまでの間に、猟兵たちが続々と転送されてきた。
　クトゥルティア・ドラグノフ（無垢なる月光・f14438）は友人のルク・フッシー（ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346）とレパル・リオン（魔法猟兵イェーガー・レパル・f15574）と共に参戦。
「こんな外道、私の故郷を滅ぼしたあの人を思い出して……許せない！　絶対倒さないと、行こうフッシー君、レパルちゃん！」
「侵略怪人コルテス！　１番ムカつく奴だわ！　コイツに負けてたらノブナガは倒せない！　サムライエンパイアの人も救えない！　……行くわよ、クーちゃん！　ルクちゃん！」
「……コルテス……すごく、強いそうですね……何より、残虐無比……！　こ、こわ……くない。こわく……ない……！」
　臆病なルクは海から起き上がるコルテスの姿を見ただけで全身が竦んでしまっていた。
　それでも、今は心強い仲間がいる。
　ルクは勇気を振り絞って２人に告げた
「……頑張りましょう、クトゥルティアさん、レパルさん！」
　起き上がったコルテスは、ずぶ濡れになった身体を嘆いていた。
「何だ、この匂いは？　随分と生臭い……ほら起きろ、ケツァルコアトル。私をその背に早く乗せろ。足元が冷えてきた」
「うわ……太陽の竜神様を顎で使うとかボク信じられないや」
　レイ・キャスケット（一家に一台便利なレイちゃん・f09183）も、目の前の敵の傲慢さに思わず閉口してしまう。
　下半身が神話上の怪獣のようなバイオモンスターのステラ・テルキーネス（バイオモンスターのミュータントヒーロー・f19520）もまた、コルテスのあり方に対して思わず眉間にシワを寄せてしまう。
「なんだろう。この人は根性ある慢心家というべきなのか、それとも馬鹿なのでしょうか……。でも強敵であるには違いないです」
　油断をしているからこそ、今こそ攻撃を畳み掛ける絶好の好機なのだ！
　更に、龍ヶ崎・紅音（天真爛漫竜娘・f08944）は完全に猟兵たちを眼中に入れていないコルテスに対して、憤怒の感情を突き付けた。
「あなた……今まで、いくつ世界を滅ぼしてきたの……！？　しかも、自分は安全圏から高見の見物……！？　許さない！！」
　戦闘開始は唐突だった。
　堪えきれない龍ヶ崎が爆速でコルテスとの間合いを詰めると、胸の中央に刻まれた黒龍焔の呪印から偃月刀型黒焔竜剣弐式「黒龍焔月刀」を具現化すると、横一文字にコルテスをなぎ払う！
　しかし、単純な攻撃はコルテスに戦い方を思い出させるきっかけになる。
「その単調な攻撃、今思い出した。ゆくぞ、ケツァルコアトル」
　コルテスは従属させている竜神の手綱を操り、大昔にやった騎馬特攻を思い出して再現してみせた。
　龍ヶ崎へ目掛けてとんでもない質量が突っ込んでくる！
「でもその行動は、読めていたよ！」
　龍ヶ崎は騎馬特攻の軌道を気合と武器受け、そして己の怪力で無理矢理に逸らすと、すれ違いざまにケツァルコアトルもろともコルテスを一閃！
　鱗を裂かれたケツァルコアトルが泣き叫ぶ！
　同時にコルテスも苦悶の表情を露わにしていた。
「ケツァルコアトル、しっかりしろ！　私とお前は呪縛で一心同体。私が死ねばお前が死ぬ。だがお前が死ねば私が死ぬのだ。これ以上の傷を負わせることは許さないぞ……！」
「残念だけど、もっと傷付いてもらうからね！」
　龍ヶ崎はコルテスの背後から黒焔の鎖を放って雁字搦めに拘束してしまう！
「ぐっ！？　は、放せ、下等存在が！」
「さて、少し動きを封じさせてもらうね。ホムラ！　みんな！　今だよっ！」
　龍ヶ崎の相棒の仔竜ホムラの姿が、本来の槍の姿へ戻って自動攻撃を開始。
　コルテスの腹を抉って血飛沫を上げさせた！
　更にステラも攻撃を開始する。
「普段使わないユーベルコードや戦法かぁ……？　よーし。無い知恵振り絞って考えました。ステラ・テルキーネス突貫します！」
　すると、怪獣の下半身が全てジェットエネルギーに変換させると、ステラは空中へ高速飛翔！
　これはまさに――！
「ボク自身が弾丸になるー！」
　ユーベルコード『ジェットミューテーション』！
　空中から爆撃機の如くコルテスの周囲を無差別で急降下突撃と急上昇を繰り返すステラ！
　見掛けは非常に派手だが、本人は涙目だった。
「初めてだから弾道が安定しないぃぃぃ！　そして止まらないぃぃぃ！？」
　完全に暴走状態に陥ったステラを見て、レイはユーベルコードで援護を試みる。
「普通のエレメンタルファンタジアと違ってボクのトリニティ・オブ・フェノメナは３つの現象と属性を掛け合わせるもの。さらに予想がつかない攻撃にするために属性攻撃と現象の変換工程を簡略化して高速詠唱でランダム性を上げるよ。まぁ、その分、暴走しやすいんだけど、そこも含めて予想がつかない攻撃ってことで！」
「それ、制御できるのぉぉっ？」
　ステラの心配の声似、レイは首を傾げたあとに答えた。
「分からないから試しにやってみよう！　揃えて併せてその身で顕せ！　『三魔一体の法（トリニティ・オブ・フェノメナ）』！」
「え、えええええ！？」
　まさかのぶっつけ本番！
　厳島神社全域に雹が降り注ぎ、竜巻が吹き荒れ、稲光がほとばしる！
「あ、ごめん！　暴走しちゃった！　制御ムリムリ！」
「嘘おおおおおお！？」
　レイが両手を合わせてステラに詫日ていた。
　一方、ステラは暴風に煽られて加速し、雷にジェットエネルギーが流れ込んでなんやかんやでプラズマが発生するわで大騒ぎ！
「そ、そうだ！　髪の毛の形状を操作して、軌道を修正すれば止まるかも！？」
　バイオモンスターであるステラ・テルキーネスは自分の長い髪の毛を自在に操れるのだ。
　ステラは髪の毛を螺旋状に変化させた。
「バネの原理で着地の衝撃を抑えるよ！」
　頭から地面に突っ込むステラの苦肉の策だ。
　しかし、ジェットエネルギーがステラの身体を高速スピンさせる！
　更にレイの竜巻も回転数を上げる要因となった。
　螺旋状の髪の毛はコルクオープナーめいてケツァルコアトルに突き刺さると、斜め130度の角度から掘削するように尻尾を穿ち、串刺し！
　そして再び上空へ飛翔！
「ひき逃げごめんなさあああい！」
　レイの勢いは衰えることなく、そのままエンパイアの空の彼方へ消えていった。
「下等存在が喚くな、図に乗るな……！　いくら私を拘束しようが、この身を穿とうが、勝てない相手に戦いを挑むからお前たちは愚かなのだ」
「うるさいのはそっちだよ！　私はこの槍で、貴方を倒して見せる！」
　クトゥルティアの見え透いた攻撃の意思、陽動の構え。
　しかし、コルテスはそれすら気付くことはない。
「槍、か。その攻撃なら今思い出した。槍といえば騎馬特攻だからな。ケツァルコアトルで蹂躙して……」
「自分が縛られていることも忘れてるなんて哀れだね！」
　龍ヶ崎の黒焔の鎖は、なおも効力を有していた。
「ちょっと思い知らせてあげるからね！？　おりゃあーッ！！」
　竜人の怪力が、ケツァルコアトルの巨体ごとコルテスを鎖で一本釣り！
　そのまま背負投げの要領で、黒焔の鎖を振り回すと、遠浅の海底にコルテスを全力で叩き付けた！
　コルテスが衝撃で白目を剥いた！
「さぁ！　早く、今のうちに！」
　龍ヶ崎の声にクトゥルティアが答える。
　クトゥルティアの手には、サイキックオーラで出来た投げ槍が生成される！
「鋭槍月光（ピアッシング・ムーンライト）！　ブルズアイ！　なんてね！？　レパルちゃん！！」
　ゴタゴタの最中にレパルが、いつの間にかコルテスの背後かつクトゥルティアの対角線上に移動していた！
　投げ槍がまっすぐレパルへ向かって飛んでゆく！
　レパルもすかさず行動を開始。
「このイェーガー・レパルには覚悟があるわ！　仲間を信じて、悪者を倒すという気高い覚悟がこの胸にある！　この作戦を成功させるのはあたしに掛かってる！！　だから！！　変・身！！」
　誰もが内に秘める生命誕生のパワーに覚醒したレパルの姿が、ライオンをモチーフにした魔法少女へ大変身！
　そして飛来するサイキック投げ槍をキャッチ！
　次の瞬間にサイキック投げ槍が起爆！
「うわああああぁぁッ！？」
　レパルの悲鳴！！
　そしてユーベルコードの効果でサイキックオーラで出来た茨の鎖でクトゥルティアとレパルの両者が連結！
「レパルちゃん！？」
「レパルさん……！？」
　作戦の仕上げを担当するルクはまだ動けない。
　故に２人の行動を見守る他なかった。
　だが、爆煙の中からレパルが飛び出してきた！
「爆発に耐えるための変身ってわけよッ！　そのための激痛耐性と覚悟よ！」
　そのままレパルはコルテスの周囲を反時計回りにダッシュ！
　変身の効果で周回速度も加速している！
　クトゥルティアも時計回りで周回を開始すれば、コルテスをサイキック茨で完全に拘束してしまった！
「これで動きは大分しづらいはず！　刺が食い込んでダメージも多少はあるよね？　最後は任せたよ、フッシー君！　いけぇ！！」
「は……はいっ！！」
　ルクは特大の絵筆を抱えてコルテスを見遣る。
　敵は拘束されている。反撃される心配もない。
　なのに、どうして、足が進まない……！？
「こ、怖い……」
「ルクちゃん、頑張って！！」
　レパルの声援を受けて、一歩、また一歩とコルテスに近付くルク。
　そして、コルテスと目が合った。
「猟兵め……私を虚仮にしていい気になるなら後悔するぞ……！？」
「ヒィ……！？」
　完全に身体が硬直してしまうルク！
　作戦は失敗か！？
　その時だった！
「諦めないでっ！　これでどうかな！？」
　偃月刀が黒焔となって燃え上がったかと思えば、瞬時に無骨な大剣型の黒焔竜剣壱式「禍焔の大剣」を黒龍焔の呪印の力で具現化！
　そのまま背中の黒焔の炎の翼をジェット噴射の如く噴き上げて突撃！
「私の黒焔で焼き斬るっ！　うりゃーッ！！」
　コルテスを袈裟斬りする龍ヶ崎！
「どう、少しは“戦いの勘”とやらを思い出した？　ただし、二度と思い出させないけどね！！」
　黒焔の刃が敵の身体を言葉通り焼き斬り、火傷で蝕んでゆく！
　そして龍ヶ崎はルクへ向き直って叫んだ！
「そこのあなた！　大丈夫！　勇気を振り絞って！！」
　クトゥルティアも声援を送る！
「そうだよ、フッシー君！　負けないでっ！」
　そして、ルクが両手を繋いでくれた友達……レパルの叫びが厳島神社に轟く！
「――ルクちゃああああああああああああああああああああああああんっ！！」
　ルクの双眸に、……光が宿った！
「……コルテス！　ボクは……あなたを、……倒しますっっ！！！」
　絵筆を水平に構えると、その先端が煌々と輝きだすッ！
　駆け寄ったルクはコルテスに飛び掛かると、絵筆を迷いなく前方へ振り抜いた。
「これが……ボクのッ！」
　渾身のワンドロウ！
　空間に描かれた絵の具の軌跡が、斬撃となってコルテスの身体を切り裂いた！
「ボクの勇気です……ッ！！　仲間を信じた……チカラなんです……！」
「な、んだと……！？　絵が、私を斬ったのか……！？」
　コルテス、喀血！！
　怒涛の猟兵たちの攻撃に、いよいよコルテスも認識を改め始めてきた。
　決着の時は近い……！！

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　叩き付けられ、斬り刻まれ、貫かれ、撃ち抜かれてもなお、コルテスは言い放つ。
「……いいか？　私に傷を負わせたからと言って調子に乗るな。この程度の傷、致命傷にもならない」
　だが、言っている内容とは反して、コルテスは肩で息を整え、その目は猟兵たちへの怒りで充満していた。
　コルテスは気付いているのだ。
　――自分が、どうやって反撃を仕掛ければいいのか、忘れてしまっている事を。
「……まだ来るか、鬱陶しい」
　新手の猟兵たちの出現に、思わずコルテスは舌打ちしてしまう。
　もはや当初の余裕は彼にはなく、この場をどうやり過ごすか、必死に思い出そうとしていた。
　だが、猟兵たちの快進撃は止まらなかった。
「フハハハ！　我が名は世界征服を企む秘密結社オリュンポスが大総統！！」
　大総・統（秘密結社オリュンポス大総統・f16446）が高笑いとともにコルテスへ名乗りを上げた。
「侵略者か……我が世界征服事業の妨げになりかねんな！　だが、混沌の神である我が前では、侵略者もどこぞの神も塵芥に過ぎん！」
　彼は狂ってなんていなかった。大真面目に、彼は神の一柱なのだ。
　秘密結社オリュンポスの大総統の正体は……『グランドフォース』等々の渾名を持つ元は普通の人の身として地上に降臨した始原の神が一柱。
　その名も『混沌（カオス）』。
　故に彼は名乗るのだ、混沌の神の名を。
　真の大総統の影武者という噂もあるが、真偽は定かではない。
「ケツァルコアトルを隷属せし欺瞞に満ちた侵略者よ！　予告しておこう！　『お前は、岩を喰らって死ぬ』！！　フハハハ、怖いか？」
　大総統の衣を無駄にカッコよく無駄のない動きで翻して身を守るような素振りを見せる神様。
「おっと……危うく我が左手の封印が解けるところであった。命拾いしたな、侵略者？　不意にこの左手の血布封帯が全て剥がれ落ちていたらと思うと、私もどうなっていたか想定できないのでな？　フハハハ！」
　彼は重篤な中二病患者だった。
　左腕に巻かれた“単なる包帯”を丁寧に直し始める神様であった。
　そんな一人勝手に盛り上がる混沌の神に、コルテスは怪訝な目付きを向けていた。
「……隙だらけだな。そして、この私が岩を喰らって死ぬだと？　妄言も大概にし……」
　台詞の途中、遠方からの発砲音によるインターセプト！
　ケツァルコアトルの額から、突如、大量の鮮血がほとばしった！
　そのダメージは、隷属の呪詛で一心同体と化しているコルテスへ同期！
　コルテスの額が割れて血が噴き出した！
「ぐぬ……っ！　何をした、お前……！」
　問い詰められた大総統は、突然の出来事に呆気にとられていた。
「は……はは、フハハハハ！　さぁな！？　何のことだ？」
　いや、本当に何のことだよ、と彼自身も狼狽するが、それを表立って見せはなしない。
　慢心しているように演技する中二病患者の神様は、いつだって計算高く行動していた。
　しかし、これは完全に聞いてない！
　同行していた御形・菘（邪神様のお通りだ・f12350）へ大総統は振り向くと、無言でメッセージを送った。
（え、なんかやった？　スゴくね？？）
　だが御形はそんなメッセージを完全に無視していた。
「角のフォルムがカッコ良いな！　お主のようなイケメンとバトれて嬉しいぞ！　妾は真の蛇神にて世界を手中に収める邪神！　妾の動画チャンネルの撮影ついでにボコッてくれるわ！」
　この発言で、大総統は彼女の仕業ではないと確信する。
　なお、御形は神を自称しているが、種族的にはキマイラで、オブリビオンとの戦闘シーンをネットに配信する有名動画配信者である。
　では、一体、コルテスに何が起きたのだろうか？
　……その原因の正体は、厳島神社の赤鳥居から、960ｍほど離れた場所、本殿の屋根に潜む人影の仕業であった。
　その名をヒューベリオン・アルカトラズ（贖罪者・f18986）という。
　彼はまごうことなくイケおじだった。
　人間離れした美貌から垂れ流される妖しげな魅力は、ご婦人やイケおじ好きの少女をメロメロにする。
　そして、復讐を司る女神と人間の間に生まれた半神半人の子であり、彼もまた神の血を引く者である。
「コンキスタドールのオブリビオンか。その傲慢さ、不愉快の極みだな。特に神を軽んじている辺りが実に腹立たしい。貴様には我が魔弾をくれてやる。先程のの一撃、神を侮った代償と思え」
　ヒューベリオンは大口径・長銃身の自動拳銃『災禍（カタストロフ）』に魔弾を籠め直す。
　彼の弾丸は、自身の右腕から吹き出す殺意の黒炎そのものだ。
「慢心しているとはいえ、奴の警戒度が上がっているな。だが丁度いい。ならば乗騎する側を撃ち殺すまでだ。ダメージは連動するようだからな」
　狙撃ポイントを移動しつつ再び愛銃を構えると、ヒューベリオンは赤鳥居に居座るコルテスを凝視。
「神が奴にこき使われている姿は見るに忍びない。こうなったら、乗騎のみならず、その眉間と心臓に直接魔弾を撃ち込んでやる。我が極大の呪い、受けてみよ！」
　ユーベルコード『魔弾の射手（デアフ・ライシャッツ）』！
　素早く連射された呪いの魔弾は、螺旋回転しながら高速でコルテスへ放たれた。
　そして、３発の魔弾は寸分の狂いもなく、ケツァルコアトルの額とコルテスの眉間と心臓を穿ち抜く！
「……がはっ！？」
　コルテスが血を吐いて仰け反る！
　しかし、すかさず何かを思い出すかのようにマスケット銃に弾を込め始めるコルテス。
　自身のユーベルコードと同系であるがゆえ、確信は持てずとも無意識に体が動いているのだろう。
「なんだ……？　もう少しで思い出せそうなのだが……！」
　だが、それは叶わぬ結果となった。
　マスケット銃が突然、とんでもない重さになって海面にずり落ちたのだ。
　銃だけではない。コルテスの全身が重いのだ。
「フハハハ！　岩場は無機物！　その場は今、重力の特異点と化したのだ！」
　大総統のユーベルコード『永遠なる始原の混沌（エターナルフォースワイルドケイオス）』発動！
「始原より出ずる我が内なる混沌よ！　今こそ其の力を示せ！！　エターナルフォースワイルドケイオス！！！！」
　無機物を重力の特異点とすることで、森羅万象の重さを変化・操作させることが可能になる！
「これでも食らうがいい！」
　大総統は足元にあった手頃な岩でケツァルコアトルの頭へ投擲。
　ケツァルコアトルは噛み付いて受け止めようとするも、岩は重力となって消失。
　噛み付きが不発に終わったかと思った、次の瞬間！
「あがッ！？　うごごごっ！？」
　突如、コルテスの口に大量の岩が詰め込まれているではないか！
　これに大総統がほくそ笑んだ。
「かかったな！？　そのケツァルコアトルは噛み付いた対象のユーベルコードを無効化するそうだが、それが仇になったのだ！　先程投げた岩は重力エネルギーとなって一度は消失したが、噛み付きによって再び岩となった！　そしてそのダメージはコルテス、お前に連動して、お前の口を岩石で塞いだのだ！　さぁ！　内より、飲み込まれよ！」
　これはまさに『岩を喰らって死ぬ』宣言の内容そのもの！
　そこへ、ようやく満を持して御形が前に進み出る。
「はーっはっはっは！　妾の統べる世界へようこそ！」
　目の前をコンコンコンとすると、厳島神社の景色、いや世界が一変する。
　舞い散る花々が咲き乱れるエモい空間に、きっと猟兵たちは見覚えがあるだろう。
「力を借りるぞ、システム・フラワーズ？　さて、コルテス。お主は花は好きかのう？　是非とも堪能してくれ！　花吹雪で視界が悪いのは許せよ！」
　そう告げると真正面から殴りかかった！
　これにコルテスがほくそ笑んだ。
「単純な力押しの攻撃への対処は、既に思い出している！」
　満身創痍のケツァルコアトルの手綱を握ると、コルテスは御形へ突撃してゆく。
「轢殺してやる。死ね」
「死ぬのはそっちじゃあああぁぁぁーっ！」
　御形は真正面からケツァルコアトルの顔面に左ストレートをぶちかます！
　その衝撃はなんと、ケツァルコアトルの突撃を跳ね返し、コルテスごと遠浅の海岸に叩き付けた！
「い、一体、何が起きた！？」
　困惑するコルテスに、御形は容赦なく殴る、殴る、殴るまくる！
「花畑に特殊な効果など無い！　シブオジとバトれて、妾は普段以上にエモくて最高の気分だ！　エモさは妾のパワー！　動画視聴者も急上昇、ランキング入りだ！　感謝するぞ、コルテス！！」
　彼女のユーベルコード『落花狼藉・散華世界（イキナリクライマックスバトル）』は、キマイラフューチャーのシステム・フラワーズの力を一時的に借りて、とにかくエモいことをすると、なんやかんやで御形が調子に乗ってパワーアップするのだ！
　理不尽！！！
　コルテスが叫んだ。
「こ、こんなことが、あって堪るか……！」
「いいのだ！　何故なら、妾は神だからな！」
　御形の全身のバネを使った重い左のアッパーがコルテスの顎を捉えた！
「砕　け　散　れ　！」
「――ッ！？」
　コルテスの全身に衝撃が行き渡ると、ガラス細工のように木っ端微塵に砕け散った。
　生命力を連動している竜の神も、ほぼ同時に連動して爆発四散！
　見事、猟兵たちは傲慢なる侵略者をほぼ一方的に撃破。
　これでまたひとつ、魔軍将攻略実現に近付いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月15日