エンパイアウォー⑦~一字違いの最前線
●
関ヶ原で幕府軍を待ちうけていたのは、嵐だった。
「――!」
回りながら前進していき、全てを寄せ付けない。そんな現象が彼方に有るのだ。
「あれが上杉謙信の“車懸かりの陣”……!」
軍勢の中、一人の兵士が声を挙げる。
接敵はすでに行われ、各所で戦闘が始まっている。その中には猟兵達が存在している事も知っているが、それと同時に、またあることも兵士達の耳に入っていた。
「生半可な攻撃は通じず……」
そして、
「あれが自動回復か……!」
前方、そこでの光景を兵士は見た。
攻撃を受けたはずの敵が、その傷を癒していくのだ。
「あれを何とかしないと謙信には辿りつけないぞ……!」
●
猟兵たちの拠点、グリモアベースに一つの声が聞こえる。
「皆さん、戦争ですわっ」
ベースに響くのは、グリモア猟兵であるフォルティナ・シエロによるものだ。
「現場である世界は、サムライエンパイア。そこの関ヶ原で、“魔軍将”の一人である上杉謙信が“車懸かりの陣”を敷いてますの!」
苦々しく言葉を吐き出した自分に気付いたのか、はっとし、表情を硬くする。
「この“車懸かりの陣”は、上杉謙信を中心に、オブリビオンが円陣を組んで敵陣に突入し、まるで全軍が風車の如く回転しながら、最前線の兵士を目まぐるしく交代させるという陣形ですの」
「上杉謙信のずば抜けた統率力が可能にした、“超防御型攻撃陣形”ですわね。こちらは常に万全の上杉軍と戦わねばならないにも関わらず、上杉軍側は充分な回復と自己強化の時間を得ることができますわ」
そして、
「そして、何より重要な事は、上杉謙信は自身の復活時間を稼ぐ為にもこの陣形を使っているんですの」
これはすなわちどういうことか。
「これら上杉軍も倒さなければ、謙信を倒すことはできませんわ……!」
そう言い終えると、手を上げ、光を生み出す。
オレンジ色の光はグリモアだ。
「皆さんが相対することになる上杉軍の相手は六体。少ないと、そう思うかもしれませんけれど、相手の能力は『防御力アップ』と『自動回復(特大)』ですわ」
猟兵たち一人ひとりの顔を確認しながら、フォルティナは言葉を続ける。
「並大抵の攻撃は防がれ、そうでなくとも一撃で仕留め切れなければ、その傷が癒されますわね……」
全員の顔を見渡すと、フォルティナは眉を立て、口角を上げた。
「でもまあ、皆さんなら出来ると、私はそう信じていますわ! ――それじゃあ、転移行きますわよー?」
シミレ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
今OPで18作目です。サムライエンパイアは4回目です。
不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。
●目的
・上杉謙信へ辿りつくために、外周にいる上杉軍を撃破する。
●説明
一章のみの集団敵フラグメントです。
オブリビオンの数は六体。『防御力アップ』と『自動回復(特大)』の能力を有しています。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これ言ってますが、私からは相談見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 集団戦
『もりのくまさん』
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POW : もぐもぐたいむ
戦闘中に食べた【鮭 】の量と質に応じて【全身の細胞が活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : たべちゃうぞ!
【ある日、森から 】【現れた熊が】【かわいい顔に似合わぬ鋭い爪の斬擊】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : みんなあつまれー!
【くま 】の霊を召喚する。これは【くまぱんち】や【くまかみつき】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:笹にゃ うらら
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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転移が済んだ猟兵達の視界に入ったのは、やはり大きなうねりを持つオブリビオンの波だった。
「――!」
猟兵の存在に気付いたオブリビオン達が叫びを挙げ、前進してくるが、うねりは巡り、前線は入れ替わっていく。
すると、猟兵達との最前線に立ったのは、数メートルを超す体高を持つ獣の姿だった。
数は六。彼らは爪を振り上げると、猟兵へ向けて突進していった。
「――これぞ“くま懸かりの陣”くま……!」
ノエル・マレット
上杉謙信を討つには配下の軍も叩かなければならない……強敵ですね。
ですがこれを阻止できなければ大勢の命が失われる。誰かを護る騎士として看過できません。
敵に生半可な攻撃は通らず多少の傷はすぐに癒えるというのなら――
「存在感」で敵の攻撃を誘い『魔盾アルケー』を「オーラ防御」で強化し「盾受け」します。
敵の攻撃を防いだらその際に生じた隙を狙って【トリニティ・エンハンス】で攻撃力を強化し「全力魔法」を乗せた『魔法剣ルケイオス』をもって「カウンター」で反撃します。
チャンスは一瞬。狙うは首。一閃で片を付けます!
●
戦場への転移が済んだノエルが最初に見たものは、自分に向け接近してくる巨大な影の群れだった。
あれが……。
目を細め、土煙を挙げて接近してくる相手を見据える。
敵だ。
上杉謙信が率いる、“車懸かりの陣”。今、自分が見ているのは、その内のごく一部なのだろうが、
「上杉謙信を討つには、配下の軍も叩かなければなりません……」
強敵だと、純粋にそう思う。
将単体の能力もさることながら、多数の配下、それも超強化された者達を引き連れての攻勢なのだ。
ここを突破するのは生半可なことではなく、中心にいる謙信との相対は、それ以上に困難を極めるだろう。
だが、
「これを阻止できなければ、大勢の命が失われます……」
その数、五万人。
「誰かを護る騎士として看過できません……!」
己はそう叫ぶと、腕を頭上に掲げた。
「――!」
魔法剣“ルケイオス”。自分の手に持つその武装は、魔力を送り込むことでその姿を変えていく。
くびれを持つ白い柄から、突き出るように伸びたのは青の光だ。それはやがて収斂していくと、一本の線となっていく。
「くまー!」
光剣。魔力で出来たその刃は遠目からでも分かるのか、前方にいたオブリビオン達がこちらへ向け、前進を速める。
来る……!
敵のシルエットは胴が長く、脚が短いが、そもそもが数メートルを超す巨体だ。接敵は一瞬で果たされ、
「――猟兵死ねくまー!」
攻撃がやって来る。
丸太のような腕から送られてくる一撃は重く、まともに食らえば無事では済まない。が、
チャンスは一瞬です……!
自身はその場から動かず、剣とは逆の手を前に突き出した。
「――アルケーよ!」
「――――」
瞬間、突き出した掌から莫大な光と、激音が周囲に広がった。
「く、くま!?」
光は“ルケイオス”と同じく青の色で、音は、その青光とオブリビオンの前腕が衝突したことによって生まれた激突音だ。
「――障壁……! 否、盾くまね……!?」
衝突の反動でかち上がった腕、その部位が得た手応えと、目の前に生じた壁のような光を見ることで、オブリビオンは自分の攻撃を防いだ物の正体を見切った。
しかし、
「もう遅いです……!」
「……!!」
直後。己の身体を三種の魔力流が包んだ。
身体の表面を駆ける魔力の流れは、それぞれ赤と青、そして緑の色を持った、大きなうねりだった。
「――“ルケイオス”!!」
それら全てを、自身が持つ魔法剣に送り込めばどうなるか。
「――!!」
一層増大した刀身の輝きがその結果だ。
「ぁああ……!!」
三種の奔流で出力を増大させた魔法剣が、空中を突き進んでいく。
「!? く、くま……!」
眼前のオブリビオンが慌てた動きで、跳ね上がった腕を降ろし、剣閃を防ごうとするが、
「くまァ――!?」
その腕ごと“ルケイオス”が両断する。
そして、刀身は勢いを落とすことなく宙を進み、やがて敵の首へ辿りつくと、
「貰った……!」
叫びと共に、己は“ルケイオス”を全身で振り抜いた。
「――!!」
毛皮を削り、肉を切り、骨を断つ。先ほどの前腕のものと同じだが、しかしそれよりも大規模な音が、高速で空気を震わせ、
「――――」
やがて、地響きによって終止符を打たれた。
頭と胴体を別たれたオブリビオンが、地に伏したのだ。
成功
🔵🔵🔴
才堂・紅葉
これは手強い布陣ね。
一息で仕留めていかないと詰まされるわ。
「なるほど。くるま懸かりとくまをかけているんですね」
【優しさ、礼儀作法】でネタに乗ってあげる。
お見事ですねと笑顔で間合いを【忍び足、盗み攻撃】し【手をつなぐ】。
さりげなさが重要だ。
後の戦闘手順は、位置取りでくまを他からの盾にしつつ、【グラップル、部位破壊、二回攻撃、吹き飛ばし】で関節技からその場で空中に縦回転する合気投げの連携を狙い。
「獅子噛っ!!」
すかさずUCの二撃目で紋章の力を乗せた重力属性のローキック。
受身の取れない空中で、鉈のように延髄に叩き込みくまを沈黙させたい。
ローの極意は重さではなく斬撃の如き鋭さだ。
【連携・改変歓迎】
紅葉は前方にいる敵を見た。
数は五……。
普段の戦闘に比べれば少ない数だが、普段とは状況が違う。
「防御力の強化に、自動回復能力……」
今回の敵はそれらを有した存在なのだ。それらを踏まえて五体という数字を考えると、
「一息で仕留めていかないと詰まされるわね」
一体に手こずっていると、他の四体がこちらを仕留めにかかってくるのは想像に難くない。手強い布陣だと、そう思っていると、
「……!」
こちらの存在に気付いた敵が、両腕を振り上げ突進してきた。
「喰らえー! “くま懸かりの陣”くま――!!」
突進しながらのそんな口上に対して、己は一度頷きながら言葉を返す。
「なるほど。くるま懸かりとくまをかけているんですね」
すると、
「! つ、通じたくま! 通じたくま!」
「くーまっまっまっ! 猟兵にも話が出来る奴がいるくま!」
オブリビオン達が走りながら互いに顔を見合わせ、きゃっきゃっと喜び、
「気に入ったくまー! 丁寧に殺してやるくまー!」
一層速度を上げて来た。
そんな敵に対し、こちらが取る行動は一つだ。
「――――」
一歩を踏み込む。それだけだ。
しかし、
「く、くま?」
「きゅ、急に止まるなくまー!」
たったそれだけで相手はたたらを踏み、突進の勢いを緩めてしまう。
相手の歩幅を読み、“調子”を外したのだ。
このオブリビオン達の相手をするのも、二回目だものね……。
そして、熟知しているのは歩幅だけではない。
「“くま懸かりの陣”……。お見事ですね」
「く、く、くま? くまま?」
正面、そこにいながら、懐まで気取られずに接近してきたこちらに対し、敵が驚愕というよりは疑念の表情を見せる。
呼吸や鼓動、そういった相手の動作や知覚を瞬時に読み取って利用し、逆にこちらの動作や知覚を悟らせない技法だ。
その状態で笑顔で手を差し出せば、
「く、くま? 握手くま……?」
不意を突かれた敵が、思わずといった様子で手を差し出してくる。
「……。あっ! お、お前なにやってるくま! 攻撃! 攻撃す――」
懐に潜り込まれながら、五体いる誰もが猟兵を攻撃してない異常に気付いた一体が声を挙げるが、
「――もう遅いですよ」
「くま? くままま? か、身体が……!」
掴んだ手からオブリビオンの重心を掌握しているこちらが、手を引いたり、僅かにステップを踏んで立ち位置を変えたりして、相手の初動を潰していく。
「ほら、一、二、三……。一、二、三……」
「くま!? くまままままグワァーー!! い、痛いくま! 何するくまー!?」
「ち、違っ……くま、そんなつもりじゃ……」
六歩のステップを使って互いの身体を回す。ナチュラルスピンターンだ。先ほどまでこちらがいた場所を狙った攻撃は、一転して味方を攻撃するものとなる。
そんな回転する身体全体の流れを利用し、
「えい」
「くまままままままままーー!! くまままままままままーー!!」
相手の関節を固めた。
そうして、痛みでオブリビオンが上半身を屈めたところに、こちらは腰を差し込むように入れ、
「やっ……!」
「くまー!?」
身体の“起こし”と、掴んだ手の引き寄せを同時に行い、相手を投げ飛ばした。
宙を回る身体は縦回転だ。
「くーーまぁーー!?」
天地逆転。頭を下にしながら落下していく目の前のオブリビオンに向け、己は構えを取る。
「“獅子噛”っ……!!」
叫びと、手の甲の紋章の輝き、そして、
「――――」
切り裂くような高速のローキックは、ほぼ同時のタイミングだった。
「……!」
その軌道上にあったオブリビオンは、地面に衝突する寸前にその首から低い鈍音を響かせると、
「――!」
地面に墜落した。
「…………? ……くま?」
六歩のステップから一転。何もかもが高速で実行され、事態の把握が出来ていなかったオブリビオン達は、首があらぬ方向に曲がった沈黙する仲間を見つけると、そこでやっと状況を理解した。
「く、く、くまァ――!?」
「残り四体、ですね……」
狂乱するオブリビオン達を尻目に、己はそう呟いた。
成功
🔵🔵🔴
奈々詩・空
車懸かりの陣…くるまかかりのじん…く(る)まかかりのじん……
なるほどそういうことかいや違うか
防御も厄介だけど一番ヤバいのは倒しきれないと回復するって部分か
なら全力で味方と協力しつつぶっ潰すしかあるめえ
とにかく1体1体を確実に倒さなければなるまい多分
まずは味方の攻撃に合わせて回復する間も与えずに1番ダメージを負っている相手に対して対生物炸薬切断刀で【鎧無視攻撃】鎧かどうかはしらないけど毛皮と脂肪の鎧ってことで
それでも火力が足りなそうな場合は【超巨大機械城ダモクレス】を呼び出し、足を上げて全体重をかけて踏みつぶす。これも逃さないように
1体1体確実に狙っていく。味方の攻撃の邪魔にならないように注意。
●
「“車懸かりの陣”と“くま懸かりの陣”……」
関ヶ原、そこに転移した空は、キャンディの棒を持ちながら思案していた。
敵が用いる兵法のことだ。
「似ている……」
先ほどからそれについて思考していた己の脳は、やがて、ひとつの答えに辿り着いた。
「――く(る)まがかりのじん……! なるほどそういうことか……」
いや違うか……、どうでもいいか……、と呟きながら、
「――ともあれ戦場だぜ」
持っていたキャンディを口に含むことで気を取り直し、見る。
前方、そこにいるオブリビオン達を、だ。
「防御も厄介だけど、一番ヤバいのは倒しきれないと回復するって部分だな……」
生半可な攻撃は通じず、それどころか回復してしまうのだ。
ならばこちらが取る戦法は何か。
「とにかく一体一体を確実に倒さなければなるまい。……多分」
ぶっちゃけやってみないと解らん部分あるわなと、そう呟きながら、自分の武装である“対生物炸薬切断刀”を手に持つと、
「――!」
大地を蹴って、駆けた。というより跳ねるようにして、身を前に運んでいった。
そんな走りでオブリビオンの元へ向かえば、
「!? て、敵襲くまぁ――!!」
接近に気付いた一体が声を張り上げる。
事前情報では六体いたはず……。
それがいまや四体まで減少している。これはすなわち、他の猟兵によって撃破されたということで、残存している四体も負傷が残っている可能性がある。
「つまりは速攻……!」
そうでなくとも、この短時間で仲間を二体を撃破され、残された者達は焦燥と混乱を抱いているだろう。
敵に余裕を与えない、その一念で一気に距離を詰め、身の丈の半分ほどの長さを持つ鞘から刀を引き抜いた。
「……!!」
瞬間。鞘から、周囲の大気を震わせるほどの爆音が聞こえた。
鞘の中に仕込まれた火薬の炸裂音だ。
その衝撃を浴びた刀身が、文字通り鞘から弾き飛ばされ、
「はぁあっ……!」
「くまァ――!?」
斜め下からかち上げるような軌道で、オブリビオンの胴体を断った。
が、
「まだ足りないか……!」
「く――……まァ――……」
毛皮を切り裂き、脂肪を抉り飛ばし、骨肉に至る攻撃だったはずだが、その傷跡が見る間に回復していく。
「痛ぇくまぁー……。――でも、皆、今くまァー!」
「くーまっまっまっ! 飛び込んできたのが運の尽きくまよ猟兵……!」
「ちっ……!」
こちらの周囲を取り囲んだオブリビオン達が、一斉の動きで攻撃を送ってきた。
数メートルを越す体高を利用した、斜め打ち下ろし気味の一発が、全方位からやってくる。
「ぐっ……!」
剛腕による爪撃が身体を切り裂いていくが、しかし己は構わず、
「――なら、これでどうかしら!」
言葉を告げた。
その直後だった。
「――!!」
己の周囲にある何もかもが、等しく打撃された。
●
……どういうことくま!?
猟兵から斬撃を受けた一体の“もりのくまさん”は、それを見ていた。否、
「――――」
視覚だけではなく、聴覚や触覚をはじめ、感覚全てでそれを知覚していた。
「――!!」
大地をも揺らすほどの爆音と共に、壁のように重厚に形成された大気の圧が、全方位へ吹き荒れることで何もかもを吹き飛ばし、そうでなくても大地に押さえつけているのだ。
さっきまではこっちが優勢だったはずくま……!
自分は攻撃を受けたが、その隙に仲間が猟兵を囲み、攻撃を与えていたはずだった。
しかし、その直後に“これ”だ。
攻撃を受けた自分は、地面に伏していたことでこの嵐に飛ばされなかったが、他の皆は違うだろう。しかしそれを確認しようにも、地面に押さえつけられた自分の視界は大地一色だ。
「く……!」
顔を上げ、周囲を確認しようとするが、上にのしかかる大気がそれを許さない。
だが、
「…………」
やがて大気の鳴動は収まり、いくらかの自由が効くようになった。
「――――」
そこで己は見た。この嵐を引き起こした正体を、だ。
「――――」
城だと、最初は思った。
大きさがあまりに巨大すぎて、全容が一見しては解らなかったのだ。
しかしよく見れば、そのシルエットは確かに城の意匠を感じさせるが、全体としては人型であり、全高が百メートルを越していた。
今までこんなの無かったはずくまよ……!?
つまりは、これが突如召喚されたことで周囲の大気が押しのけられ、先ほどの暴風となったのだ。
「…………」
唖然。自身の感情を埋め尽くすのはその一語だった。
「――!」
今、目の前で“城”が足と、そう呼べる部位を振り上げていき、こちらの身体の上に座標を変えていく。
それを見ていても、己を埋め尽くす感情は変わらなかった。
苦戦
🔵🔴🔴
バルドヴィーノ・バティスタ
【芋煮艇】で出撃
熊じゃねーか。…熊じゃねーかよォ!?
クソッふざけたガワして力はガチとかますますふざけてやがる…!
こうなりゃこっちも策とチームでやってやらァ!
一体に攻撃を集中して確実に狩りに行くぜ、
囮の兵庫に熊の注意が向いてる間に<目立たない>ように影勝のウサギ穴で熊の後ろに転移し<だまし討ち>にUC発動、
手に纏わせて爪形にした『ブラッディヴァルチャー』でシュバルツを一発攻撃…対価だからな。
付着した血と<呪詛>でさらに爪を強化したら熊を切り裂くぜ!
<傷口をえぐる>ように一度つけた傷を繰り返し攻撃して防御と回復がおっつかねェくらい削ってやる、
UCと<早業>で削り続けゃ熊が動く隙も潰せるハズだ!
黒影・兵庫
【芋煮艇】で参戦します!謙信を討ち果たすためにもこの陣、崩しましょう!せんせー!
(【蟷螂の鋸】発動)
俺は【誘煌塗料】を体に塗って【誘惑】し敵が孤立するように引き付けます!
他の敵は【皇糸虫】と粘着性の【蠢く水】を使って【念動力】【ロープワーク】【罠使い】で行動を阻害して
伐採兵の皆さんに敵の数に合わせて合体してもらい、敵の足にめがけて鋸を投げ続けて近寄れないようにしてもらいます!
孤立した敵の攻撃を影勝さんと共に【第六感】【見切り】【武器受け】で回避または防御しつつ、ウサギ穴からシュバルツさんと
バルドヴィーノさんが奇襲をしかけたら【衝撃波】で攻撃し1体ずつ確実に潰していきます!
月・影勝
【芋煮艇】の皆と共闘じゃ!
確かに厄介な陣じゃな…しかし、それを破る策が儂らにはある
それをとくと見せつけてやろうでないか!
兵庫殿の背を櫂を振るい守りつつ、突撃すると見せかけ…熊に近づいたら【ウサギ穴】を召喚
入り口は「シュバルツ殿とバルドヴィーノ殿の目の前」、出口は「熊の背後」に出現させるのじゃ
そして兵庫殿と、不意打ちの二人による挟み撃ちを成立させるのが儂の仕事
時計うさぎの本領発揮じゃな!
3人共儂以上のツワモノ、間違いなく仕留めてくれる筈じゃ
…不意打ちを警戒すれば良い?
ご尤もじゃが、その都度何処に穴が現れるか…熊らに見切れるかのう?
なにせ不思議の国の出入口じゃからな
位置も場所も自由自在じゃよ!
シュバルツ・ウルリヒ
【芋煮艇】で出陣だ。 …成る程、確かにこれは…くまった事態だな。…彼等では荷が重い。……僕達の出番だ。
敵は防御と再生に優れているなら確実に一体ずつ倒す。…その為に…黒影に前を任せ囮になって貰う。
その隙に僕とバルドヴィーノと月で奇襲を仕掛ける。月のUCで後ろに回ったらUCを発動、デメリットは毒だ。
そしてバルドヴィーノのデメリットも僕が受ける(激痛耐性)そして敵に魔ックスに渾身の一撃を加える(咄嗟の一撃、力溜め、鎧砕き)そして食らわせたら地縛鎖で敵の動きを止め、黒影と月の一撃を確実に食らわせるように相手の動きを止める。
……まさかりを担いだダンピ郎……いや、何でもない。
●
風を感じるな……。
兵庫らと共に転移を完了させたバルドヴィーノが、まず抱いた感想はそれだった。
押し寄せる風の源は、前方、そこにいるオブリビオンの集団からだ。
「……!」
大きな渦のようなうねりの集団、それを見て、己は言う。
「めちゃくちゃいるなオイ……」
「アレが全部、上杉謙信の軍勢なんですね……」
「しかもあの渦全部が、件の特殊能力持ちとか、何ともまあ厄介な陣じゃな……」
「幕府軍では荷が重いだろうな」
皆の感想は大体のところで同じだ。そしてそんな渦の最前線と相対するのが、自分達の今回の役割でもある。
「…………」
なので、己は確認のためにも皆に問うてみる。視線は前方に向けたままだ。
「――あそこにいるの、熊じゃねーか?」
「はい! 熊ですね!」
兵庫の溌剌な返事を聞き、そうかァー、と己は頷き、次は指を指し、声を大にして言う。
「――熊じゃねーかよォ!?」
「だからそう言っとるじゃろ……。しかし大きいのー……四メートルくらいかの?」
「……!」
すると、こちらの声が聞こえたのか、件のオブリビオン達が腕を振り上げ、叫びながらこちらへ突進してきた。
「あっ。こっち来おった」
「くまった事態だな……。――どうしたバルドヴィーノ。頭を抱えて」
「クソッ! クソッ! いや、事前情報で解っていたことだけどよ!」
ともあれ接敵は必至だ。巨体が駆けることによって生まれる地響きが、もうこちらまで伝わってくる。
「ふざけたガワして力はガチとか、ますますふざけてやがる……」
防御力アップと特大の自動回復。まるで物語の英雄のような能力だ。
「だとすりゃ、こっちは策とチームワークで、だな……!」
その言葉を合図に、自分達四人も大地を蹴って前進していった。
行くのだ。
●
四人の内、先頭を走るのは兵庫だった。
敵の数が減ってますね……。
正面、そこに見える敵の数は三。事前に得た情報の半分だ。
でもまだ半分です……!
油断を自分に許さず、役割を果たす。その意識で、まず懐から取り出したのは小瓶だ。
「――――」
その中身を自分の胸にぶち撒ければ、粘性のある液体が肌を彩る。
塗料だ。
「おぉー! アレ、なんかきらきらしてるくまー!」
光に反射する塗料に、正面に立つオブリビオン達が興味を引かれ、こちらに突進してきた。だが、
「用が有るのは一体だけです!」
「くまー!?」
腕を振るい、手に持っていたロープ状の武器を他の二体に投げつける。“皇糸虫”と粘着の性質を高めた“蠢く水”を合成したものだ。
相手は数メートルを越す巨体が複数だ。“皇糸虫”だけでは耐荷重の問題があるが、“蠢く水”で補強すれば、いける。流石に完全に静止させられるほどではないが、一瞬でも動きを止めればいい。
「――伐採兵の皆さん! 一切合切、刈り取っちゃってください!」
叫びが響いた直後、己の周囲に姿が現れる。
「――!」
蟷螂だ。その数、四二。一体残らず、本来であれば両腕の鎌に当たる部位が、回転する丸鋸に変わっている。
「二体を抑えました! 皆さんも相手と同じ数に!」
「……!」
すると四二体が二組に別れ、その各グループの中で基準となった一体に向けて、皆がぶつかるように向かっていく。
しかし結果は衝突ではなかった。
「――――」
融合だ。基準となった個体に近づいた他の蟷螂が、溶けるように姿を消失する度、二体の丸鋸に書かれていた数字が増えていく。
「…………」
そうして生まれるのは、丸鋸に二四と書かれた二体の蟷螂だ。
「……!」
他の個体の戦闘力を吸収した彼らは、節足を地面に突き刺して身体を安定させると、両腕の丸鋸を順次投擲していった。
「く、くままー!?」
狙いはロープで押さえつけたオブリビオンの足だ。回転する丸鋸が宙を突っ走り、相手の足を削っていく。
それに、
「れ、連射くま!?」
丸鋸が途切れない。再生可能なそれは、投擲するごとに蟷螂達の身体から生じ、連続する。
「く、くまに任せるくまー!」
残った一体。今、自分の目の前にいるオブリビオンが、先ほどから術者であるこちらを攻撃して来ているが、
「甘いですっ……!」
己はそれらを時に回避し、時に“警棒”で受け止め、凌いでいたが、やがて敵の動きが変わった。
「――くまぁーー……!」
オブリビオンが両腕を振り上げて叫んだ次の瞬間だった。
「――――」
平原だった筈の自分の周囲が、森に変わった。
●
突然だった。
「――くまぁー!」
「!!」
オブリビオンの雄叫びだ。
しかしその声は兵庫の正面にいる相手からでも、足止めした二体からのどちらからでもなかった。
「後ろですね……!」
「猟兵死ねくまぁ――!」
突如周囲に現れた森。そこから、爪による一撃を浴びせかけようと、オブリビオンが飛び出してきたのだ。
新手だ。
だが、
「――わしもおるよのう」
「くまぁー!?」
こちらの背後をついてきていた影勝が、迎撃を果たした。
●
コレ、地形ごと召喚したんじゃのう……。
影勝は櫂を敵に向けながら、己の周囲を見て、状況を理解する。
環境は激変したが、兵庫が手繰るロープと、生み出した蟷螂達は健在だ。一気に環境を変化させられるほどの技であるのに、それをしない。
つまりは、それらをすることよりも優先する何かがある一発ということじゃな……。
現在進行形で効果を発動しているこのユーベルコードはそういったものなのだと、そこまで思考が至れば後は簡単だ。
「木陰に紛れて不意打ちとか、定番すぎるよなァ」
「手伝うか?」
「んー……? そうじゃのおー……」
共に兵庫の後ろをついてきた二人の言葉に、自分は少し唸り、周囲を見る。
「まぁー、わし一人で十分じゃろ。――兵庫殿、ちょっと時間貰えるかの」
「解りました! 大丈夫です!」
兵庫殿は頼もしいのう、と一瞬思ってしまったが、年齢的には向こうのほうが上なのだ。
「それじゃまあ、胸を借りるつもりで行くかの!」
そう言って、櫂を構え直せば、
「くまぁ――!」
来た。
不意打ちは通用しないと理解したのか、森の中には戻らず、正面切っての衝突だ。
「今日の晩ご飯はウサギくまァ――!!」
「わし最近、鰐鮫に喰われかけたばっかりなんじゃけど……」
人気者は辛いのうと、敵の爪を櫂で受け止め、
「よっ……」
「くまま!?」
櫂を傾けることで、爪撃を逸していく。
「こ、小癪な真似をするなくまぁー!」
すると怒った敵が、連撃を加えてくるが、
「よっ、ほっ、やっ……。お、おぬし解りやすいのう……」
「くままー!?」
己はそれの全てを見切り、躱し、受け流していく。
怒ってさらなる攻撃、という思考は解りやすいが、別に珍しいことではない。己が言っているのはそこではなく、
「そもそもの攻撃が単純すぎるの」
これはつまり、
「超防御や自動回復頼りの戦法ですね!」
「じゃのう」
兵庫の言うとおりだ。敵の攻撃にはフェイントも何も無く、
「死ねくまぁー! ――ぐえー! ――回復……!」
負傷上等の攻め一辺倒。自分達が相対している相手はそのような存在だ。
「楽じゃのー……」
楽を感じるのは敵の戦法だけではない。背中合わせの状態で兵庫と共に戦っているが、これも“良い”。互いに武器が長物であり、間合いや位置取り、体捌きが共通している部分があるのだ。
互いに半円を描くようにし、その中央にバルドヴィーノとシュバルツを置けば、現場の流れは安泰だ。
つまり、
「これなら大丈夫そうじゃの。――突撃……!」
「くま!?」
相手の意表を突くタイミングで踏み込んだ。
かと思えば、
「――嘘じゃ!」
「くまま!?」
また後退。
フェイントにもよく引っかかるのー……。
そんな風にも思いながら、しかし、その頃にはもう既に目的は完了している。
●
仲間に召喚された“もりのくまさん”は思っていた。
この戦い、勝てるくま……!
現状戦況は膠着状態だが、このまま続けていけばこちらが勝てる。なぜなら、
こっちは疲労も回復するくま……!
このまま戦闘を続けていれば敵はやがて疲弊し、そこを叩けばこちらの勝利。そうではなく、たとえ敵が耐えたとしても、あと数日もすれば自分達と幕府軍が衝突し、敵は大損害を被る。
つまりはどちらに転んでも、自分達の勝利に違いないのだ。
くまってばクレバーくまねー……!
そんなこちらに対して、先ほど目の前の晩御飯が突撃してきたかと思えば、やっぱりやーめた! とか、そんな茶番でこちらを愚弄してきたが、くま的にああいうのは良くないと思うくま。
なので今すぐディナータイムを始めてやろうと、腕を振りかぶった瞬間、
「……!?」
己は気付いた。
「い、いつの間にか晩御飯三号と四号が消えてるくま……!?」
一号と二号が囲むようにして守っていたその二体が、消えているのだ。
そのとき。
「くまァァ――!?」
「!?」
自分を召喚した仲間の絶叫が、森の中に響き渡った。
●
速攻。
シュバルツの思考は、その一語でバルドヴィーノと共通していた。
「――――」
景勝のフェイントを合図に、突如、自分達の目の前に生まれた“穴”。それに対して迷わず自分達は飛び込むと、次の瞬間には、前方にオブリビオンの背中があった。
兵庫と戦っていた一体だ。
「……!」
その背中を見た瞬間、己は自分の持つ力の全てを開放した。
一つは、腰に下げた魔剣の力。
一つは、手に持った魔斧、“魔ックス”と自身に宿る“神殺し”の力。
そして最後の一つは、己の血統である吸血鬼の力だ。
三種の力全てが、自分の身体の中に十全に満ちる感覚がする。そして、それと同時、
「……!」
そのような力の代償として、身体の中に別のものが満ちるのも解った。
身体を蝕み、否応なしに嫌悪と拒絶の感情を走らせるものは何か。
毒だ……。
頭は割れるように痛み、筋肉や関節は焼けるような熱さを持っていて、内臓は全てがひっくり返ったような不快感がある。
そして視界は明滅と霞み、目眩を得ていたが、それを見た。
「――――」
自身に迫る、高速で、鋭利な暗い色。
それが自身に達した瞬間、
「――!」
己の身体を切り裂いた。
●
めっちゃ顔色悪いなオイ……!?
隣に立つシュバルツを見てバルドヴィーノは一瞬、逡巡したが、
対価だからな……!
そう自分に言い聞かせ、ユーベルコードを発動。
「――――」
服の中、腕に描かれた入れ墨が光るのと同時、外套、“ブラッディヴァルチャー”を手に巻きつけ、爪状に変化。
自身の爪の上から重なるように乗った、硬質で鋭利なそれをシュバルツに向けると、
「――!」
一気に振るった。
シュバルツの皮膚を切り裂いた“爪”が、そこに包まれていた血液を浴びると、
「……!」
その長さを伸ばし、硬度と、そして鋭さを増した。
“ブラッディヴァルチャー”がシュバルツの血を、それもタイミング的には、吸血鬼の血統を全開にしていたところだ。その血を吸って、己を強化したのだ。
準備は万端だぜ……!
シュバルツを切り裂いた勢いをそのままに身を回し、己は、オブリビオンの背中に向けて爪を振り上げると、
「おぉぉおおっ……!」
哮声を挙げ、強化された“爪”による攻撃を繰り出していった
「!? くまァァ――!?」
その時になってやっと、オブリビオンはこちらの存在に気付いたが、
「遅ェよ……!」
己は止まらない。
腕を振り上げ、爪を振り下ろせば、その厚い毛皮と脂肪を切り裂き、肉を断って、周囲に血が吹き出る。
それらの傷は、敵が持つ自動回復の能力によって急ぎ修復されていくが、
「く、くま! くまー!?」
間に合わない。
爪を一振りすれば、次の瞬間には九つの傷が走り、重なっていくのだ。そのような高速で多重の攻撃をすれば、
「……!」
“爪”が加速度的にその大きさを増大させ、結果として、オブリビオンの背中を走る“爪痕”がその範囲と深さを広げる。
噴水のように湧き出ていた血は、“爪”の動きに掻き乱され、もはや血煙のような様相を呈していた。
そして、そんな血煙の中を吹き飛ばす、否、
「――!」
切り飛ばす動きがあった。
「貰った……!」
シュバルツだ。
こちらの連撃によって抉れた傷跡に目掛けて、“魔ックス”の刃が横薙ぎに叩き込まれた。
●
「…………」
シュバルツは霞む視界の中、それを見た。
たった今、己の手によって宙に切り飛ばされた、オブリビオンの上半身だ。
「クソが! もう再生し始めてるぜ……!」
よく視えないこちらに代わり、バルドヴィーノが言葉で状況を知らせてくれる。
「なら、速く倒さないとな……!」
そう言って己は、“魔ックス”を握る手とは別の手から“地縛鎖”を放ち、敵を拘束し、
「はぁっ……!」
「くまままぁ――!?」
大地に叩きつけた。
「――!!」
森の中、湿った大地は土煙を立てず、代わりに頭上から木の葉が散って、落ちてくる。
「――そんな木の葉に紛れて行きます……!」
「不思議の国の出入口は、位置も場所も自由自在じゃよ!」
頭上。そこからの叫びは、“穴”を利用して樹上に上がっていた、兵庫と景勝だ。
「喰らえ……!!」
まず先に落ちてきたのは兵庫だった。位置エネルギーそのままに、深い緑色の“破砕警棒”を大地に伏したオブリビオンの身体へ突き立てると、その頂点に目掛けて、
「でぇりゃあっ……!!」
影勝が櫂を振り下ろした。
「……!!」
合金で出来た“破砕警棒”特大の櫂で打撃され、周囲の大気を震わせるほどの衝撃が走るが、
「おぉおおおっ……!」
“破砕警棒”を握った兵庫が、その衝撃波をコントロールし、オブリビオンの身体に流し込んだ。
「――!!」
莫大なエネルギーはオブリビオンの自動回復を上回り、その身体を粉砕していった。
「く、くまー!?」
兵庫が召喚した蟷螂達に未だ足を削られ、身動きの取れない残った二体のオブリビオン達が、驚愕の声を挙げる。
「このまま一体ずつ確実に倒していきましょう!」
「そうだな……」
もはや敵は総崩れだ。撃滅は近い。そう思い、残りのオブリビオンに近づこうとすれば、バルドヴィーノから声が挙がった。
「それはいいけどよォ、シュバルツ、お前まだ行けるか?」
こちらの体調を懸念しているのだろう。
「ああ、僕は大丈夫だ……。ほら」
皆の心配を払拭せねばと、そう思い、己は一つ頷くと、
「…………」
残るオブリビオンを指差し、
「…………」
“魔ックス”を肩に担ぐ自分を指差す。
「――まさかり担いだダンピ郎。……いや、何でも――」
流石にこれはどうかと思い、皆に顔を向き直したら、バルドヴィーノが他の二人に向けて宙に円を描くように手を高速で回していたが、あれはどういう意味だろうか。
大成功
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