エンパイアウォー㉓~屍人の牙は同胞求めて
「あああ、俺たちの家が! 村が! くそっ、くそっ!」
「落ち着け、今すぐどうにかしたいのは同じだ。だがな」
ここは奥羽、無人となった村。
それは我が物顔で闊歩する、統制失った数多の水晶屍人が現れたに他ならない。
通常の戦ならば統制を失った集団を屠るは容易いが、この敵は噛み付けば相手を同胞、水晶屍人へと変えてしまう能力を持つ。
「弓兵、準備は良いな! 報告が来るまで射続けよ! 鉄砲隊も同じく、輜重は矢と弾、火縄と火薬を切らすな!」
故に取られた作戦は距離を置いての遠距離攻撃。
上空に弧を描き数多の矢が風切り音と共に降り注げば、射抜かれた屍人がバタバタと倒れていき、矢が外れた者に狙いを定めて火縄銃の集中砲火。
大まかな狙いから広範囲に降り注ぐ矢の雨、生き残りへの銃火と確実に屍人の数を減らす攻撃を続けるがその数は膨大。
そして何より接近戦を避けるため、相手が集団で近づいてくれば戦線を下げざるをえず、掃討は中々進まない。
多くの兵士がもどかしさを感じつつ、かといって無理な突撃を行うわけにもいかず。
並び立つ弓兵、鉄砲兵、そしてそれらに物資を届ける輜重の列が続き、少しずつ皮を剥くように、徐々に屍人の数を削り取っていくのであった。
●
「サムライエンパイアでの事件はご存知デスネ? 新たな動きがありましたのでその連絡デス」
集まった猟兵達にクラルス・フォルトゥナ(強化人間のスピリットヒーロー・f17761)が説明を開始する。
今回はサムライエンパイアの一地域、奥羽の村に出現した多量の水晶屍人を駆逐するのが目的となっている。
「事前の作戦が奏功、指揮官を失って混乱状態のようデス。ただ噛み付いた相手を同じ水晶屍人にする能力が厄介で切り込めず。
チマチマ、遠距離から攻めるしか出来ないのデス。時間をかければ問題なく駆逐できますガ、どれだけかかるやら。
手早くすれば幕府軍の応援に回れる戦力、ここで遊ばせるのは無駄デショウ?」
水晶屍人をイメージしたのか、手元に作った浮かぶ氷塊ころころと弄び。
「手助け無ければ、この通りデス」
そっと地面に氷を置けば、気温によって徐々に溶け始めていく氷。
「デスガ、皆さんが参戦してこうすれば」
もう一つ、手にした氷を地面に置いた氷へ叩きつけ、一気に砕くクラルス。
バラバラに砕け散り、細かくなった氷はすぐに溶けて水へとなって、そのまま地面に染み込んでいく。
「すぐに終わって、姿を消して。兵士が増援に加わりマス」
撒き散らされた氷の破片、衣服についたそれをパパッと払い、クラルスが説明を終了する。
自分たちが手を出さずとも武士たちで対処は可能、しかし救援に向かえばそれだけ土地、家屋への被害も少なくなり、なにより武士が幕府軍の増援に加わるのも大きい。
となれば、手早く始末し別方向から戦に貢献するのも悪くは無いという事である。
「情報はこんなトコロでショウカ。それほど苦戦する相手でもありまセン。
一つ、ハデに暴れるのも悪く無いと思いマスヨ?」
そこまで言うとクラルスは数多の氷塊と共にグリモアを起動。
水晶屍人との戦いへ一同を転送する準備に取り掛かっていた。
紅葉茉莉
こんにちは、紅葉茉莉です。
今回はサムライエンパイアの戦争シナリオ、数多の屍人の集団を駆逐するシナリオをお届けします。
敵の数は膨大、しかしながら猟兵の敵ではありません。
統制もなく、好き勝手標的を定め、集団で襲い掛かり仲間を増やし、貪り食おうとする集団を蹴散らしてください。
相手の力量が低いのと数が多いので、ド派手にで大暴れも良いでしょう。
ピンポイントで怪しい動き、ふらふらと逃げようとしたり武士を狙って遊撃している相手を打ち抜いても良し。
ユーベルコードや仲間との協力で、大規模な罠で一網打尽も良いかもしれません。
各々、お好きに戦っていただければと思います。
またこのシナリオに成功する事で、1000名の奥羽武士が幕府軍に合流して戦力が増加します。
微々たる戦力増加かも知れませんが、それでも世界を守るために戦う人々に違いはありません。
では、ここまで長文を読んでいただき、ありがとうございました。
ご縁がありましたら、よろしくお願いします。
第1章 冒険
『水晶屍人掃討戦』
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POW : 多数の水晶屍人の群れに飛び込み、体力の続く限り暴れまくる
SPD : 群れから逃げ出そうとする水晶屍人を発見し、逃がさないように掃討する
WIZ : 策略を駆使して、多くの水晶屍人を逃がさずに殲滅できる状況を作り出す
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鈴木・志乃
※人格名『鈴木・志乃』で参加
……起こしてくれてありがとうね、昨夜
正直体がまだ本調子じゃないけれど、関係ない
屍人は皆骸の海に還す
それが私という生命体の埒外の役目でもある
UC発動
祈り、破魔を籠めた全力魔法の衝撃波で邪の全てをなぎ払うよ
……安倍晴明が組んだ術式、その一切合切を祓おう
これでも私、神の娘ですから
誰一人逃しはしない
その悪法から解き放つ
第六感で屍人を探知
群れから離れているなら念動力で拾い上げる
まだ生きられた意志達
これからの未来があった生命
大切なものをこれ以上呪うことがないようせめて優しく速やかに、葬る
さようなら
どうか安らかに眠れますように
アレックス・アレクサンドリアス
【POW】
「ちっ、気味の悪い連中だな!しかも、戦う意志のねぇ民を狙うなんざ戦士の俺が許さねぇ!まとめて吹き飛ばしてやるよ!」
宇宙バイクにまたがって出来るだけ敵を多くまとめて吹っ飛ばせる位置へ。そこから【ヴァリアブル・ウェポン】使用。右腕に内蔵されたビームキャノンをぶっ放すぜ。手数重視で、とにかく面単位での殲滅を意識だ。
「おらおら!マケドニア戦士の実力、思い知ったか!」
おんなじように、空から砲撃しようとする奴がいたら一緒にバイクにのっけてやるのもいいな。
連携・アドリブ歓迎
空葉・千種
アドリブ絡み歓迎
(輜重の列から登場)
あ、私小荷駄(補給部隊)じゃなくて猟兵です。
江戸で準備をしていたら人の流れに呑み込まれちゃって、気がついたら東海道方面軍の皆さんと行軍してて、そこからも色々あって…。
とりあえず!早く戦争を終わらせてみんなでお家に帰ったりお家を立て直したりしましょう!
戦線から少し離れたところで巨大化装置でおっきくなって突撃。
ダッシュで武士さん近くの屍人を踏み潰したあと
駄目になった家屋の瓦礫を投げつけてみんな【吹き飛ばし】ちゃうんだから!
トドメに持ってきた電柱を思いっきり叩きつけ…きゃっ!
…違うの、今のはランニング・ボディ・プレスじゃなくて転んだだけ…だから、褒めないでっ…!
四季乃・瑠璃
緋瑪「特に強敵でも無いし、つまんない相手みたいだねー」
瑠璃「でも普通の人には厄介な相手だしね…一つ派手にやろうか」
【破壊の姫君】で分身
接敵前に二人で1000個程【範囲攻撃】時限式ジェノサイドボムを精製。兵士の人達に一個ずつ渡して、合図と同時に一斉に全力で敵の方に投げる様に通達。
自分達はUCで可能になった飛行能力を使い、手分けして水晶屍人を誘導。【範囲攻撃、早業】接触式ボムで空爆を掛けたり、敵の攻撃が届かないギリギリを飛行して挑発する等してバラバラの水晶屍人をできる限り一か所に集め、後は信号弾で合図して自分達二人と1000人によるボムの一斉爆破で殲滅するよ。
漏らしたのは順次私達で空爆して殲滅だね
ラザロ・マリーノ
【POW】
烏合の衆を蹴散らすなら騎馬突撃が一番だろ。
もっとも俺のは馬じゃなくて竜だがな!
「竜の再興」で召喚したトリケラトプスを並べて、敵が密集している場所に突っ込むぜ。
体重も皮膚の厚さも馬の比じゃねえ。
いくら数が多くても、統率を失った奴らじゃコイツらは止められねえ。
デカけりゃ強いってのを思い知らせてやるぜ!
※アドリブ・連携・ギャグ・負傷描写歓迎
霧島・絶奈
◆心情
屍の敵に、屍の手勢…
傍から見れば何方が敵か分からないかもしれませんね
尤も私にとっては、ある意味懐かしいとも言える光景ですが…
とまれ、敵性存在の殲滅を始めましょう
◆行動
『暗キ獣』を使用
軍勢には軍勢を…
また、正面からぶつかるばかりでは無く、囲う様に布陣
乱戦に紛れた敵の遁走を防止するだけでなく、奥羽武士達への助力も兼ねます
我が軍勢が敵の足を止めます
貴方方も持てる遠距離攻撃による射撃を開始して下さい
多少の誤射は気にせずにどうぞ
私は【目立たない】事を活かし軍勢に紛れて侵攻
【二回攻撃】する【範囲攻撃】で【マヒ攻撃】【精神攻撃】を行い敵に【恐怖を与える】
負傷は【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復
ヘンペル・トリックボックス
さて。将の首は獲ったものの、食べ残しとは如何にも紳士らしくない。生まれ出でた経緯には同情を禁じ得ませんが──で、あればこそ、一刻も早い救済を。出番ですよ、小鬼たち。静かにいってらっしゃい。
UCを発動、召喚した小鬼たちに火行符、及び木行符を持たせ、それぞれ戦場に散ってもらいます。いつもは騒がしいので極力【目立たない】ように動いてもらいましょう。
形作るのは広範囲殲滅用の五行符陣。指定の位置に配置が完了したら、できるだけ多くの水晶屍人が陣の内部にいるタイミングを見計らい霊符を一斉起動。木行との相乗効果で【範囲攻撃】化した炎【属性攻撃】による【破壊工作】で、荼毘に臥すといたしましょう。
アドリブ連携歓迎
表皮より水晶生やした屍人の群れ、それを遠方から討つ武士たち。
照りつく暑さの中、時間をかけての戦を終わらせる変化があったのは太陽が南天に輝くそのときであった。
「お、おい、何だ、新手の屍人か!?」
驚き慌てふためく奥羽武士たちの目に飛び込んできたのは、水晶屍人の周囲に展開する腐臭漂わせた屍獣の群れと槍を携えた屍人の群れ。
ただでさえ手をこまねいているのにこれ以上の数を相手取るのは厳しいと顔をしかめる武士たちだったが、新手の屍たちは武士たちに背を向け水晶屍人を取り囲むように動く不自然な配置。
いぶかしげに武士たちが成り行きを見守れば、青白き燐光を纏った霧島・絶奈(暗き獣・f20096)が屍達の間から姿を見せその身を異形へと変貌させつつ、武士へ声をかけていた。
「我が軍勢が敵の足を止めます、貴方方も持てる遠距離攻撃による射撃を開始して下さい。
多少の誤射は気にせずにどうぞ」
小さく会釈、その絶奈の動きを合図とし水晶屍人を包囲するよう展開していた屍獣と屍人は行軍開始。
軍勢と軍勢、数の上では劣る物の広く薄く展開した絶奈の軍勢は密集していた水晶屍人に比べ攻撃に回れる要員が多く、またあくまで足止め、逃走防止、奥羽武士への援護目的であり水晶屍人の動きを抑制できればそれで十分。
生じた時間、自在に動けぬ状況こそが重要。この時間を利用して他の猟兵達の作戦が一気に進む。
「はーい、今から配るこれ、合図を送るからその時投げてね」
「そうそう、先走って投げちゃダメだよ♪ 結構派手に爆発するから」
包囲網を敷いていた武士達に手投げ式の爆弾、ジェノサイド・ボムを手渡しして分配していたのは四季乃・瑠璃("2人で1人"の殺人姫・f09675)と彼女が分身したもう一つの人格、緋瑪。
複製して分配するがために少々時間がかかり、変化激しき戦場ならば好機を失いかねない行動であるがそれを可能としたのが先に召喚された絶奈の軍勢、その包囲。
水晶屍人の軍勢との凄絶な消耗戦、噛み付き食いちぎられる獣、その獣ごと槍で水晶屍人を刺し貫く屍者という阿鼻叫喚の地獄絵図。
だがそれこそが勝利への布石、時間をかければかけるほど水晶屍人を駆逐すべく展開した猟兵の策は進み、包囲を抜け出し同胞増やす事は困難となっていく。
「さて。将の首は獲ったものの、食べ残しとは如何にも紳士らしくない」
軍勢同士のぶつかり合い、その最外郭をヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)がゆるりと歩み戦況確認。
地形を把握し目を見開けば小鬼の姿をした多くの式神が彼の求めに応じ出現、騒々しく各々が好き勝手動こうとするのを前にしてヘンペルは片手を翳して制していく。
「出番は出番ですが、小鬼たち。これを持って静かにいってらっしゃい」
40を超える小鬼は彼の言葉に従い為り潜め、手渡された五行の中で火と木を意味する符を携えて。
無言で手首を動かして、指の形であちらへ、こちらへと指示するヘンペルの命に従い、各地へ散らばり主人からの合図を待つ。
「生まれ出でた経緯には同情を禁じ得ませんが……で、あればこそ、一刻も早い救済を。
さて、他の皆様のお手並み拝見といきましょうか」
不敵に笑ったヘンペルの呟きが屍同士の戦い、その喧騒にかき消され。
暫しの膠着状態、それを破る叫びは人でも獣でもない、この世界に本来存在しえない恐竜の雄叫びであった。
「やっぱり戦いは数だよな、そんな烏合の衆を蹴散らすなら騎馬突撃が一番だろ」
これまでに聞いたこともない、地を震わすような雄叫びと地響きに武士達の視線が向けば、そこに居たのは三本の角が特徴的な、巨体を持った恐竜、トリケラトプスの群れ。
その中の一頭に騎乗、統率するは恐竜が人になったのではと錯覚させる、鱗を持った表皮のラザロ・マリーノ(竜派ドラゴニアンのバーバリアン・f10809)であった。
「もっとも俺のは馬じゃなくて竜だがな! デカけりゃ強いってのを思い知らせてやるぜ!」
騎乗したトリケラトプス、そのわき腹を左足にて軽く打てば衝撃を合図とし彼を乗せたトリケラトプスは足を速めて疾走を。
その動きに呼応、残る数多のトリケラトプスも遅れてなるものかと一気に加速、重心落とし角を突き出し、その質量と速度を乗せた突撃体勢へ移行。
地響きと共に繰り出される衝撃力は凄まじく、激しい衝突を繰り広げていた屍同士の戦線に雪崩れ込みあるものはその角に突き刺され、あるものはその衝撃にて吹き飛ばされ。
またあるものは倒れた所を後続に踏み潰されてと散々に蹴散らされ、統率なき集団は更なる混乱に苛まれる。
「ハハハッ、どうだ、体重も皮膚の厚さも馬の比じゃねえぜ! 数が多くてもこいつらは止められ……っておい、乗ってくるな、降りろや、オラァ!?」
初撃は成功、そのまま一気に蹂躙をと考えたラザロ。
良いペースで蹴散らすつもりであったがやはり相手の数は膨大、仲間の死体を踏み台に無理矢理飛びつき、トリケラトプスの上に乗り噛み付こうとする水晶屍人や騎乗したラザロを狙う者もいた。
指揮系統を失って混乱している水晶屍人ではあったが一度死んで思考能力が無いが為、恐怖もないのか巨体へ躊躇無く飛び掛る面々を手にしたハルバードで打ち払い、再突撃を行う道を作ろうと奮戦するラザロ。
そんな膨大な相手に手こずる彼を助ける一撃は、上空よりもたらされていた。
「ちっ、気味の悪い連中だな! しかも、戦う意志のねぇ民を狙うなんざ戦士の俺が許さねぇ! まとめて吹き飛ばしてやるよ!」
叫びと共に上空から降り注ぐ数多のビーム。
それは宇宙バイクを駆り、ラザロの突撃に続き突っ込んでいたアレックス・アレクサンドリアス(帰ってきたマケドニア・f16560)のもの。
空は飛べぬが跳躍は可能、その機能を最大限に生かしトリケラトプスの突進で出来た空白地帯をフルスロットルで加速、十分に速度が乗った所でジャンプ機構を作動、そのまま上空高く飛び上がり慣性の法則で弧を描きながら空を舞う。
そのまま右腕に仕込んだ内臓ビームキャノンを起動、威力や命中精度は度外視し、とにかく連射速度を重視して雨のように赤き光線を戦場へと振りまけばやがてバイクは重力に引かれ地面に近づく。
「まだまだ、もう一丁いくぜ!」
だがそのまま自由落下、敵の群れへと落ちる事を良しとしないアレックス。
両手を挙げて迫るバイクに組み付こうとする水晶屍人が触れるかどうかのタイミングで再度アクセルを一気に吹かし、タイヤを回せば接触した水晶屍人の皮膚が抉り取られて飛び散って。
さらに跳躍機構を再稼働、常人ならば意識が遠のくほどに強烈な反動を全身に受けながらバイクは再び空へと飛んで、屍人の群れを飛び越えながらアレックスの放つビームが降り注ぐ。
「かーっ、今のは効いたが……追い討ちは頼んだぜ!」
二度目の跳躍からの銃撃、そして着地と共にアレックスの声が響けば、その声に呼応したのか再び響いた地響きが。
何だ何だと武士達が再び顔を向けた先、そこには既に10mほどの巨体へ変化を遂げた空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)が駆け出す姿が映っていた。
あれ、あんな巨人いつの間に!? と困惑する武士達、その中であっ、見た事あるぞと声がしたのはその直後。
どこで見たんだと聞かれればその武士曰く、荷駄隊に居たのだと。
「あ、私小荷駄じゃなくて猟兵です。江戸で準備をしていたら人の流れに呑み込まれちゃって」
「人の流れ、そんなに激しかったのか」
「はい、気がついたら東海道方面軍の皆さんと行軍してて、そこからも色々あって……
いえ、そんなことよりとりあえず! 早く戦争を終わらせてみんなでお家に帰ったりお家を立て直したりしましょう!」
なんて会話をしていたとその武士は証言、でもその時はあんな巨人じゃなかったと力説してたがそんな事はお構いなしに千種は水晶屍人目掛け突撃する。
「武士さんに近づけさせないんだから! 邪魔しないでっ!」
叫びながら接近、最外に位置した水晶屍人を巨躯を生かして踏み潰せば、そのまま次なる標的を蹴り飛ばし、更には水晶屍人の出現と狼藉によって破損した家々の瓦礫を確認。
とりあえず拾い上げ、取り囲まれて苦戦しつつもアレックスの援護で道が開きかけたラザロ周囲へ投げつければその衝撃で包囲していた屍人の一角が崩れ、突破の為の足がかりが開き始める。
そのまま一気に道を作ろうと千種は持参した電柱を鈍器として振り上げて前進、叩き付けにて終わらせようと仕掛けるが。
「今から退路を作ります、さあ、これでトドメ……きゃっ!?」
何故か障害物もない場所で躓いてしまった、そして手を突くことも間に合わず巨体がふわりと宙に浮き、抵抗できずに大地に落ちれば轟音と共に哀れ、下敷きになった水晶屍人の多くが質量に負け潰されていた。
それはまさに巨体と重量を生かしたボディプレス、千種が巨体を起こし出来た隙間をトリケラトプスに乗って駆け抜け包囲を抜けたラザロが片手を挙げて礼を言う。
「すげえな、嬢ちゃん。やっぱデカイのは強いってことだな!」
「……違うの、今のはランニング・ボディ・プレスじゃなくて転んだだけ……だから、褒めないでっ……!」
巨体を生かした一撃を褒めつつ離脱するラザロ、その言葉を受けつつ千種は赤面し必死で言い訳。
猛烈に恥ずかしかったのか、何とか平常心を取り戻そうと手近な水晶屍人を掴んでは投げ、また掴んでは投げてと照れ隠しの行為がやたらとバイオレンスであるが、それも乙女ゆえに致し方ないことだろう。
こうして激しい衝突の末、突っ込んだ猟兵は暴れまわる一人を残し離脱を完了、更には包囲と殲滅の準備が整えば、壊乱した水晶屍人の群れに残された結末は殲滅される事だけである。
「……起こしてくれてありがとうね、昨夜」
水晶屍人のうめき声が響き、混乱した集団が走り回るその中を一人似つかわしくない存在、鈴木・志乃(オレンジ・f12101)がゆらりゆらりと進んでいた。
体は本調子でないと語る彼女は多重人格者、別人格に起こされた寝起きであるが関係ない。
敵陣真っ只中、だが今は他の猟兵の突撃により混乱し、彼女を狙うか逃げるか、それとも強大な力を発揮する猟兵へ数を持って立ち向かうかと判断できず右往左往する状況。
その混乱を利用して、彼女は一体残らず敵を始末するために敵中深くへ入り込んでいたのだから。
「屍人は皆骸の海に還す。それが私という生命体の埒外の役目でもある」
祈りを込めて言葉を紡ぎ、右手を翳せば生み出されるは強大な魔力とそれに伴う衝撃波。
魔を打ち払う力を宿したその衝撃は水晶屍人の合間を縫って駆け抜けて、一拍遅れて放たれた衝撃が多くの屍人を吹き飛ばし、そしてその体に宿る魔性を粉砕、水晶が砕け散り動きを止める。
「……安倍晴明が組んだ術式、その一切合切を祓おう。これでも私、神の娘ですから」
そう呟きながら歩を進め、集団目掛け魔力を放てば直撃受けた水晶屍人の水晶が粉々に、隣に立った屍人は吹き飛ばされて倒れ伏し、その動きを止めていた。
「よーし、やっと準備できたね。でも特に強敵でも無いし、つまんない相手みたいだねー」
「でも普通の人には厄介な相手だしね……一つ派手にやろうか」
志乃が敵中にて吹き飛ばす最中、やっと準備が整ったとやる気に満ちたのは緋瑪と瑠璃。
武士達に手投げ爆弾が行き渡ったことを確認し、ようやく彼女達も派手にやれるというものである。
「爆弾で一掃するよ、上手く誘導してね!」
「出来れば武士の人が投げやすい、ちょっと低い場所がいいな♪」
仲間の猟兵に声をかけつつ瑠璃と緋瑪は飛翔、手にした爆弾を外周に投げ込んで水晶屍人を蹴散らして、その集団を出来る限り引き寄せるべく動き始めた。
「なるほど、爆破ですね。では、少々強引ではありますが包囲を狭めましょう」
「よっしゃ、マケドニア戦士の実力、見せてやるぜ!」
その言葉に呼応、まずは絶奈が自身の軍勢に指示を出し被害も省みず包囲を狭める様に命令すれば、その包囲を援護すべくアレックスがバイクを飛ばし外周を回りつつ、ビームキャノンを連射。
援護射撃を受けた屍獣と屍者の槍に加えて上空からの爆撃、それらを受けて水晶屍人の群れは徐々に中央、村の中で最も低い場所へ追いやられ始めていく。
「一気に始末するようですね。では此方も追い立てましょう」
その様子を認めた志乃も行動を変更、多くを蹴散らす方針から集団からはぐれようとした者を索敵し、的確に仕留めるスタイルへ。
屍獣や屍者による包囲、その薄い場所を見つけた水晶屍人が駆け出した瞬間、その体は彼女が発した念動力によりその場へと縛り付けられ、続いた水晶屍人が突如立ち止まった仲間にぶつかり転倒する。
「誰一人逃しはしない。その悪法から解き放つ」
まだ生きられた意志、これからの未来があった生命。
それがこれ以上、大切なものを呪ってしまう事のないように、と願いを込めて放たれた魔力の奔流。
飲み込まれた水晶屍人たちは一瞬で動きを止め、これ以上の呪いを振りまく力を失っていくのであった。
「よっしゃ、遅れるな、俺達も再突撃だ!」
「あまり無理をしないように、爆発に巻き込まれたらひとたまりも無いですよ?」
包囲が狭まる中、援護をしようと気炎を吐いたラザロ、その陰に隠れ更には屍獣の集団に囲まれ目立たなかった絶奈が言葉を交わす。
「なーに、多少の怪我には慣れてるぜ、こういうのは勢いが大事だ!」
「ふふ、それでは私は目立たぬように手助けさせて頂きましょう」
トリケラトプスの上で叫ぶラザロ、微笑を浮かべその様子を眺めた絶奈。
突撃するなら道が必要だろうと先ずは絶奈が獣の中に紛れて前進、槍と剣を携えて一気に切り込み、突き刺し、切り崩すその姿はまるで血に飢えた狂戦士にも見えていた。
水晶屍人にとってはほぼ互角の相手、その群れの中から突如現れた異形の恐怖。
その圧倒的な力に押され道が開けばすかさず突っ込む数多の恐竜、それはラザロの行う重騎兵の突撃を上回る一撃。
多くの屍人が巻き上げられ、追い立てられるその最中、空中に打ち上げられた小さな火の玉。
それがパッと開いて輝けば、次々に空へと放たれた数多の爆弾。
地面を揺るがし、思わず耳を塞ぎたくなるような轟音がとどろいて、それと同時に多量の閃光、巻き上がる爆風が全てを覆い隠していく。
もうもうと立ち込めていた煙が風に流され薄れていけば、そこに残るは仲間が盾になり何とか耐え切れた少数の水晶屍人、トリケラトプスに騎乗していたが為にその身を晒してしまっていたラザロが煤だらけになっていたり。
爆破はほぼ大成功、戦力の殆どを失って後は掃討戦に近い水晶屍人ではあるが、更に殲滅の手は迫っていた。
「派手にいきましたな。では、残る面々も先に倒れた面々も、纏めて荼毘に臥すといたしましょう」
その声の主はヘンペル、既に展開していた小鬼達は水晶屍人やその死体を取り囲むように布陣を完了。
これで仕上げとばかりに彼が指をパチン、と鳴らせば小鬼が手にした木と火の護符、それが纏めて魔力を持って燃え上がり、包囲された水晶屍人達を焼き尽くす業火が広がって。
水晶屍人を取り囲み、その包囲を徐々に狭めて外周の者から焼き始める。
生き残りの屍人が苦しみ、うめき、叫びを上げるが炎の勢いは止まらず。
「大人しく、出てこないでくださいっ!」
なんとか炎の包囲を破り、逃げ出そうと燃えながら飛び出した水晶屍人を見つけた千種がその膂力を持って炎の中へと蹴り飛ばし、更に他の場所でも猟兵達の、そして奥羽武士の目が光り脱出を許さない。
やがて炎が消え去れば、そこに動く者の影はなく。
全ての水晶屍人は猟兵の手によって駆逐され、奥羽の一地域における戦いは終わりを告げていたのである。
「さようなら。どうか安らかに眠れますように」
全てが終わった後、戦場に散らばった多くの水晶屍人の亡骸を前にして志乃が祈りの言葉を紡いでいた。
望まぬままに命を与えられ、これから先の未来を絶たれ、そしてまたその道へ生ける者を引きずり込むしか出来なくなった屍人達。
その不憫な生い立ち、安倍晴明による数多の犠牲者を偲んでのものであった。
「さ、流石にあれだけの爆発は予想してなかったぜ……」
「それでも煤まみれですむなんてすごーい♪」
「うんうん、これならまた同じ手で一掃できるんじゃない?」
「そ、それはちょっと……きゃっ!?」
祈りの場とは別の場所、爆破に巻き込まれたラザロが生きた心地がしなかったと感想言えば、爆破を仕掛けた張本人、緋瑪と瑠璃が同じ手が使えるなんて笑いつつ。
流石に巻き込みを何度もするのは、と言いかけた千種がまた何も無い場所で躓いていたりする光景。
「よっしゃ、これでこっちの兵士は全員援軍に行けそうだな」
「そうですな、後は指揮官殿に話を通せば」
「ええ、もっとも皆さん、既にやる気に満ちているようですけどね」
4人のやり取りを背にしてアレックスとヘンペル、絶奈が言葉を交わしつつ、奥羽武士達を見れば皆、国の危機に対して思う所があるのか行く気満々といった雰囲気。
猟兵達が打診をすれば二つ返事で幕府軍への合流を了解し、早速荷造りに掛かっていた。
こうして水晶屍人との戦いは終わりを迎えた。
幕府軍に加わる兵力は全体から見ればごく小数、されど救国の意志に突き動かされた戦士は強き意志にて苦難に立ち向かうだろう。
彼らが戦線に加われるのまた、猟兵の活躍あってのもの。
小さな戦果であっても、胸を張っていいのだから。
大成功
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