エンパイアウォー⑱~アナザー剣神・タイム
●天使と悪魔
関ケ原、あちこちで火の手が上がり合戦は一進一退の攻防を続けている。
『――流石は信玄を阻んだ者達だ』
人軍一体の車懸かりの陣、この堅牢な陣容を持ってすら猟兵は決死の覚悟で乗り越えて来る。相手に不足なし、ぎらりと煌めく十二振りの刃が己が身を護る様に舞う。
『ここまで辿り着いたか。ならばお相手致そう』
この軍神『上杉謙信』自ら、全身全霊を以て。
白と黒の二振りを手に、軍神は一歩前へと出た。
「……これまでの戦い、本当にお疲れ様です」
グリモアベース、青光りするスクリーンを背景にユーノ・ディエール(アレキサンドライト・f06261)がぺこりと頭を下げる。
「皆さんのお力添えもあって、ようやく魔軍将の一角『上杉謙信』の喉元へ迫る事が出来ました。ですが――」
その表情は暗い。折角の大一番だ、ここまで攻めきれたというのに何を躊躇する必要があるのだと、集められた猟兵達がいぶかしんだ。
「――この謙信、他の魔軍将とは違い絶対先制の超常を持つわけではありませんが……最強の一角を名乗るに相応しい、恐るべき戦術を駆使してきます」
大抵の幹部級オブリビオンは猟兵の行動速度を上回って先制攻撃を実施してくるという恐るべき能力を持っていた。それが無いのであれば、ある意味御しやすい相手ではないのだろうかと思うのだが……。実態はそんな生易しいモノでは無かった。
「その戦術とは自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいるのです。これにより戦線の突破には時間が掛かり、その間に斃されたとしても必ず立ち上がり、再び刃を向けてきます。つまり」
ユーノが息をのむ。これまでも矢鱈に頑丈な敵を相手にした事はあるだろう。だが、今回の敵はそんな分かり易いモノでは無かった。
「この『車懸かりの陣』を確実に突破した上で『上杉謙信』の蘇生時間を上回り、且つ一定回数の殲滅を達成しなければ、謙信単体を葬る事は適いません」
つまり、この戦はオブリビオン『上杉軍』との総力戦という事だ。
「この戦場は『上杉謙信』との戦いです。絶対先制は無いとはいえかなりの強敵。先ず謙信は十二振りの毘沙門刀をもって立ち向かってきます」
十二振り、その数でも尋常ならざる相手だと理解出来るが、それだけではない。
「これらは単純な戦闘力もさることながら、相手の弱点を確実について反撃をするという特性がありまして――」
つまり、後の先を取ってくる相手という訳だ。今までとは逆、敵がこちらの攻撃に対してのカウンターを仕掛けてくるという訳か。
「読み取れた情報からは水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇といった属性に対応する刀と……」
また随分と分かり易い。いわゆる猟兵の属性や戦術にそれぞれ対応した手段という事だろうか。だが謙信の武器はそれだけではない。残る二振り、それが問題だ。
「その手に持った黒と白の二振り。それぞれが『アンヘルブラック』と『ディアブロホワイト』という名を冠しているのです」
周囲が騒めく。何故サムライエンパイアでこの名前を聞く事になるのだろうか。その動揺を受けて、ユーノも淡々と予知の説明を続ける。
「気を付けて下さい。その名は恐らく、皆さんもご存じでしょうが……かつて戦った銀河帝国最強の黒騎士と白騎士の事。過去と未来を自在に操ったあの強敵です」
忘れる訳が無い。ほんの半年ほど前の事……猟兵が初めて経験した大規模な戦争。銀河皇帝に次ぐ恐るべきオブリビオンとして、その名は深く刻まれている。
「その名がどう関係しているかは分かりませんが……この敵は恐らく『ただ絶対先制をしてくる敵』より余程苛烈です。どうかご無事で、皆さん」
ぺこりとユーノがお辞儀をして、グリモアが青いゲートを開く。
関ケ原決戦、最大の敵との戦いが始まる。
ブラツ
ブラツです。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。1フラグメントで完結し、
「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●特殊ルール
軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、
自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、
『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の、
両方の戦場を制圧しない限り、倒すことはできません。
以上です。本戦場は『⑱決戦上杉謙信』にあたり、
『上杉謙信』一体との決戦シナリオとなります。
配下の軍を突破し謙信と対面するシーンから始まる為、
配下との戦闘描写はありません。
●判定について
難易度が高い戦場につき、プレイングボーナスの判定が厳しくなります。
以下、会戦状況についてご確認ください。
・車懸かりの陣を突破してきた所です。
・敵が既に猟兵の存在を認識しています。
・地形は開けた平地の為、現在近場に身を隠す場所はありません。
プレイング募集は8/17(土)8:30以降です。今回は戦争シナリオの都合上、
達成判定を確実にする為、採用をお見送りさせてもらう場合があります。
連携アドリブ希望の方は文頭に●を、
同時参加を希望の方は識別子の記載をお願いします。
それではご武運を。よろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『軍神『上杉謙信』』
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POW : 毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
イラスト:色
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
水元・芙実
…なんだか面倒そうな相手ね
でも一つ一つカウンターにカウンターをかけていけば潰せるかな
わたしは他の人が戦いやすくするために、刀の対処をするとしましょう
全て幻炎合成法で対処していくわ
水にはナトリウムに反応させて、光はベンタブラックで吸収、土はそのまま空気に変換、火は窒素で満たして消火、樹は鉄塊で止めて、薬と毒は…同じだから水の膜で食い止める、風は気体の動きの変化だから適当な固体の物質に置き換え、氷は塩化カルシウムで溶かして、闇はマグネシウム燃焼で追い払うわ
残る2つの剣はCNCと金属の複合素材の盾で防御
う…集中力すごく使うわね。一体上杉謙信って何者?
天変地異は狙い目、バランスを崩して暴走させるわ
アリシア・マクリントック
マリア、シュンバー、ここまでありがとう。後ろは任せます。大将の相手は私が。
12刀流?ですか……ならばこちらも変幻自在に戦うしかありません。
まずはこれです!フェンリルアーマー!嵐の如く空気を切り裂く狼の爪、防ぎきれますか?
必殺の一撃にはこれです、スカディーアーマー!どんな攻撃も耐え抜いて必殺の一撃を当てて見せましょう。
足を止めたのならばこれです!ティターニアアーマー!この拳は星をも砕く!
様々な状況に対応する手札はあります。あとはお互いの戦術と読みの勝負……!こうも多くを使い分けるのは初めてですが、乗り切って見せましょう!
ここぞという時にはアーマー解除、セイバーフィニッシュで勝負を仕掛けます!
●秘伝・時流剣逆戻し
「マリア、シュンバー、ここまでありがとう」
車懸かりの陣を抜けて、辛くも謙信の前へと進み出たアリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)は、道中を共に駆け抜けた相棒達へ労いの言葉を掛ける。
「――後ろは任せます。大将の相手は私が」
シュンバーの鞍を降りて大地へ立つ。度重なる猛威を抜けて、マリアもシュンバーも鋒鋩の体だ。だからこそ後ろを預けて、アリシアは成すべきを成し遂げる為、白銀のドライバー――セイバーギアをその手に取る。
『小娘、貴様が先陣か』
「ええ……御託はいいでしょう、越後の龍」
屹然と謙信を睨み返すアリシア。その勇ましい姿に微笑する謙信。
『御託、フム……ならば』
眼前で両腕を組み、巌の様に対峙する謙信。その周囲には十二振りの太刀がその威容を宙に現して――。
『この先は刃にて返礼致そう……!』
「望む所、参ります!」
腰にかざしたドライバーからベルトが伸びる。
『いざ、往かん!』
「変身!」
Change Fenrir......Rise Up! 閃光がアリシアを包み、白銀の狼を模したアーマーが姿を現す。同時に放たれた十二振りの太刀が、変身したアリシアを包囲する様に旋回し、一気呵成に切っ先を飛ばした。
「! 流石の速さです……しかし!」
アリシアの二振りの爪牙が眼前で太刀を払う。しかし弾き飛ばされた太刀は尚もその刃をアリシアに向けて、今度はタイミングをずらして不規則に攻め入った。
「攻めるにも……手数が!」
前後左右上下、あらゆる包囲を殺意が包む。謙信は黙して語らず、腕を組んだまま静かにアリシアを眺めていた。
「このままでは埒があきません……ならば」
Change Skadi......Rise Up! 再びの閃光がアリシアを包んで――放たれた切先がその影を穿つ。だが新たに顕現した漆黒の鎧は傷一つ付けられる事無く、十二振りの猛攻を受け止めた。それでも。
『成程、受ける事も耐える事も成したか。では』
進む事は出来るかな? 十二振りが包囲陣を変えて、正面よりアリシアへ殺到する。まるで回転鋸の様に次々と打ち込む太刀を変えていくその様は――車懸かりの陣。あらゆる属性が交互に止まる事無く、そして全ての属性が被された必殺の一撃は、最早単純な威力だけでは防ぐ事もままならない。
『我が軍とは比べるまでも無いが、本質は同じだ』
どこまで受けて、耐えて――進む事が出来るかな? 竜巻の様に迫り来る猛攻を前に、アリシアは唇を食んだ。
「流石です、これが魔軍将……」
「本当……なんだか面倒そうな相手ね」
ふらりとアリシアの傍らに現れたのは水元・芙実(スーパーケミカリスト・ヨーコ・f18176)。小柄な妖狐はひらひらと白衣を風に棚引かせ、回転する脅威を一瞥する。
「でも、一つ一つカウンターにカウンターをかけていけば……潰せるかな」
ふう、と溜息をついて右手を前に――燐光が集まって、竜巻の様な十二振りに放たれた。その光は、炎。しかしそれは化学物質で構成された、未知と既知の合わさった超常の炎だ。
『ほう、我が太刀を焼き焦がそうというのか……愚昧な』
「いーや、愚かなのはあなたよ。例え力が無くてもね」
それが何か分かれば、御するのは容易い。それが化学、万物を構成する始原に至る魔術的な何とかじゃない、極単純な世界の法則そのもの。
「鉄は錆びる、刃は朽ちる、火も水も……ええと、大体消えるわ」
そう、化学式を当てはめればね。どんな属性だろうと、全てが無に還る。後は狙いを外さなければよい……!
「水にはナトリウム反応、光にはベンタブラック」
飛沫を上げる太刀が急に真っ白な蒸気を立てて、化学の幻炎が勢いを増す。漆黒の幻が煌く刀身を闇色の帳に包み込んで。
「土は分解し空気に変換、火は窒素で満たして消火」
大地の如き剛剣は空虚な一振りとなり、荒ぶる真紅が幻の緑に飲み込まれる。
「樹は鉄塊で呼吸を殺して、薬と毒は……全て溶かすわ」
漲る深緑は鋼鉄の匣に潰されて、万物を溶かす無色の液体――純水が癒しと蝕みを無為へと帰す。力を失った太刀は宙を舞いながらも、既にただの鈍らと化した。
「風は気圧の変化……吸熱反応で相を変えれば、台風も所詮低気圧よ」
そして車懸かりの主体であった暴風は、乱された大気圧がその威力を毟り取る。最早ただの微風、暴風の如き化学の前に陣は崩され、あとは風車の様に回るだけ。
「氷は塩化カルシウムで溶かして、闇はマグネシウム燃焼で追い払う、と」
詰めの一手――凍てつく刀身は融雪剤の純然たる反応がそれをただの水と変えて、視界を晦ます暗い闇は、化学の光に照らされて、真の姿を露わにした。
「さあ、後はその二振り……白と黒はカーボンナノチューブに金属の複合素材を……」
ぐらりと芙実が体勢を崩して、額を押さえる。十二振りの属性を封じる為に極限まで集中した結果、最早それ以外の事を思考する余力は無きに等しい。
「だ、大丈夫ですか」
「平気よ今の所……何なのアイツ」
ホント集中力すごく使うわね。一体上杉謙信って何者? 最後の二振り、過去と未来を司るであろうこれだけは――純然たる力以外に防ぐ術が分からない。咄嗟に構成された特殊軽合金の盾が炎より出でて、その二振りを挟み込む。
『ほう、それで……封じたつもりか』
しかし一手及ばず、白と黒の奇怪な太刀は再び謙信の手元へと戻った。組んだ腕を解いて二刀を手に、零時の方角――頭上へと掲げて呪文を唱える。
『ならば私も、天の力を借りるとしよう』
天網恢恢――稲妻が二刀に落ちる。
『疎にして漏らさず――天誅!』
瞬間、バチリと雷光が戦場を覆った。天変地異の超常、自然にはより強大な自然をぶつける。そうすれば淘汰された環境は姿を消す……極当たり前の法則だ。
「チャンスよ、アレのバランスを崩して」
しかしその力は諸刃の剣、制御を失えば、荒ぶる自然の猛威は掛け手にもその牙を剥くだろう。朦朧とする意識の中、必死の形相で十の属性を司る芙実を支えて、アリシアは目前の軍神に踵を返した。
「……後は、任せてください」
一歩前へ。十二振りの車懸かりはもう怖くない。後はこの雷鳴轟く戦場を――駆け抜けるだけ!
「ティターニアッ!」
アリシアが右腕を天に掲げ、稲妻が落ちる――否、アリシアの巨兵が、ティターニア・アーマーが戦場に召喚されたのだ。鈍色の装甲が稲光を反射して、純然たる力の化身が大地に聳え立つ。
『ほう、絡繰り巨兵か!』
「真っ向勝負です!」
すかさずティターニアに乗り込んで緊急発進。目視で計器を確認しながら、アラートをマニュアル操作で封じ込む。幾度となく稲妻が巨体を揺らすが、動じずにあくまでも前へ、前へとアリシアは進む。
『遅いな! 、それに届かん!』
「いいえ、これだけ進めば……十分!」
襟の様にそそり立ったセンサを稲妻が直撃した。暗転するモニタ、煙を吹いて駆動系にロックが掛かる。コクピットまで侵食した紫電が爆発を――その前に、装甲板を開放したティターニアから、生身のアリシアが躍り出た。
「アーマーパージ! セイバーホールド!」
その手には幅広の魔法剣――必殺の刃を謙信に向けて、アリシアは光を放つ。
『それを想像出来ないとでも……何!?』
白き刃で光を払った謙信――しかしそれは絶対拘束の超常。左手を奪われた謙信は、咄嗟に右手の黒き刃で己が身を守る。
「見えた……フィニッシュ!」
打ち込みの速さで負けるか、いや――相手は守りに入った。ここが攻め時。怯むな、前へ! 斬れ、この瞬間を! 例え諸共に倒れようと……私は一人じゃないのだから!
『成程、それが本命か。見事なり……』
だが、ここまでだ。脇腹から真っ赤な液体を流す謙信は、解放された白き刃を天に、黒き刃を地に向けて……ぐるりと反時計回りにその刀身を回す。
『時流剣逆戻し――黒き死の使いよ、赤を以て青を覆せ』
刹那、空間から色が消える。そして封じられた十振りが再び力を戻し――否、力を失う前に戻って、車懸かりの刃が息を吹き返す。更に謙信の傷もそれ以前――無傷と化した。色が戻ると同時に、全ては振出しに戻ったかの様に。
「何なの、一体!?」
生身で魔法剣を構えるアリシア、ふらふらとその横へ並んだ芙実が、眼鏡を上げて絶望的な観測結果を伝える。その表情は意外なまでに険しい。
「あいつ――自分の状態だけ過去に戻したわ」
それが黒き刃、アンヘルブラックの超常か。見ればその刀身は真紅に染まっている。かつて猟兵に立ち塞がった、黒騎士の剣の様に。
「でも――恐らくは」
そう何度も使えない。むしろ、この戦いでアレの力を封じる事が出来た。
「だったら、もう」
アリシアが呟く。これ以上、謙信は己を過去の状態に戻す事は適わないだろう。それだけでも大殊勲。白の力は不明だが、少なくとも一度は倒したも同然だ。
「――引きましょう。こちらも」
ティターニアは大破、幻の炎は使い果たした、それでも。
「ええ、ここから先は……私達の車懸かりよ」
覚悟なさい――芙実がそう言い残し、二人の猟兵が宙に消える。
『いいだろう。その刃、何度でも砕いてくれる』
虚空に笑みを浮かべて、謙信が嗤う。
猟兵の車懸かり、それもまた一興。
軍神は十二振りの刀身を侍らせて、次の懸かり手の姿を待った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
樫倉・巽
相手にとって不足はないとはこの事だな
ならば相応の覚悟を持って相手をしよう
お主が過去から着たものと言うことなど関係ない
命を賭けて戦えることを嬉しく思う
できることがあるとするなら
自分の最も得意なことをする
磨き上げた技を
信じ切って使う
それだけだ
まずは名乗り
礼を尽くして相手と向き合う
「樫倉巽、ただの蜥蜴だ
相手になろう」
刀を抜いたら一気に駆け寄り
初手に全てを賭け命懸けの一撃を見舞う
右足を踏み込むと同時に沈み込み
その反動で地の一撃を放つ
斬られることを考えなければ当てることくらいはできるだろう
たとえ傷を負っても歯を食いしばって耐え
命の全てを賭けて二撃目の天の一撃を空から大地に墓標を突き立てるように振り下ろす
ミハエラ・ジェシンスカ
●
奴と戦うのはこれで2度目
尤もこれで底が見える程度の相手なら初めから苦労はすまいが
前回の軍神及びかつての白騎士との戦いを参考に立ち回る
私も手数は多いが奴はその上を行く
6刀を6刀で絡め取られ、残る刀で攻撃されてしまえばそれで終わりだ
故に【武器受け】は受け流しに徹して鍔迫り合いは避け
いざとなれば【念動力】で弾き飛ばして体勢を立て直す
攻防の中で一瞬の隙を【見切り】
【悪心回路】を起動【捨て身の一撃】を叩き込む
同時に【催眠術】で僅かに奴の判断を狂わせ
次に振るうべき刀を「薬」のそれと誘導する
マシンの身にそれが効くのかは賭けだが
そうして「迎撃が成功した未来」を見せ【だまし討ち】
できた隙に追撃の【2回攻撃】
●魔剣時飛ばし
『しかし、初手にてここまでやられるとはな』
手にした真紅の太刀は黒に戻る事は無く、異界の力の一端はここに消えた。
「初手だけとは、思わない事だ」
不意に風が吹く――再び車懸かりを抜けた猟兵だろう。浪人風情か――否、その眼光は武士そのもの。緑の肌を藍染の着流しで覆うその者は竜。成程、私に歯向かうに相応しい相手だ。
「樫倉巽、ただの蜥蜴だ――相手になろう」
静かに名乗りを上げた樫倉・巽(雪下の志・f04347)はスラリと愛刀を抜くと、半身の平正眼に構える。
『フム。上杉謙信――今は国も無い、一介の武将に過ぎん』
微動だにせず言葉を返す謙信。その手には二振り、宙には十振りの太刀が回り、巽に切っ先を向けその血を啜らんと鈍く煌く。
「……相手にとって不足はないとはこの事だな」
それを一顧にせず、ギラリと双眸が謙信を捉える。敵は太刀ではない、あの男だ。
「お主が過去から来たモノと言う事など関係ない。命を賭けて戦えることを嬉しく思う」
その名を歴史に残す偉大なる武将と手合せ出来るというのだ。些事にかまけている場合ではない。横から何が飛んで来ようと、一刀を以て斬り伏せるのみ。
『――束になって掛かってくるかと思えば、貴様の様な者もいるのだな』
苦笑を浮かべ、そっと白き刃を手放す謙信。
『たとえ冥府魔導に堕ちようと、武士の魂を全て失くした訳ではない』
そして宙を浮かぶ十一振りの魔剣が二人を円陣で囲み、まるで闘技場の様に地に刺さる。これでは宙を舞う十二振りの連撃は使えない。だが、この陣から逃れる事も叶わない。
『さあ来い、懸かり稽古がお望みか? それとも』
両の腕に力を込めて真紅の刃を正眼に構える謙信。一分の隙も無い王者の風格。
「この立ち会いは死合いのみ、参る」
僅かばかり、この立ち会いを純然たる一対一にあつらえた謙信に感謝し、恐怖した巽。その一言を最後に、地を這う様な姿勢で疾駆――風の様に謙信へ迫った。
一対一の立ち会いにおいて初太刀ほど重要なものは無い。全てはそこから始まる。戦術の起点、あるいは全てが決まる必殺の位置……故に全霊を賭して挑むのは必定。相手の構えを崩し、空いた一点に全てを懸ける。謙信の正眼は崩れない、正に越後山脈の不動の要。そこに仕掛ける――仕掛けさせるのが肝要。
「……この、月を」
ぐらりと姿勢を更に深く、下段にも迫る勢いで沈み込んだ巽。謙信の切先がわずかに下がれば、その頭上を一撃の元に断ち切れるだろう。
『月は天に、登るものだ』
ゆらりと謙信が半歩下がる。太刀は脇構えに、刀身を隠し間合いを悟らせない必殺の返しの機会を伺う。
「月は……ここに……!」
一閃。右脚の踏み込みが巽の膂力を切先に込めて、必殺の一太刀が放たれる。音よりも早く風を切り、大地を揺らす強靭な一歩はそのまま、伸びた腕が斜め上に跳ね上がり、微かに切先が謙信の鎧を掠める。
『……成程、だが浅い!』
返す刃を、そのまま振り上げた真紅の刃が巽を襲う。だが僅かに前に出た一歩を、巽は見逃さない
「否――ここからだ」
踏み込んだ右脚が、全体重を掛けた大地を再び同等の力で蹴り上げる。尋常ではない痛みだ――それに、ほんの僅か沈み込んだ姿勢が、謙信の切先を微妙に揺らす。
『そうか、ここから――』
双方が一足一刀を僅かに踏み越えた、文字通り絶死の間合い。刹那の迷いが死に直結する修羅の領域。振り下ろされた真紅の刃を表鎬から払い上げ、その勢いを利用して必殺の太刀を頭上より――振り下ろす!
「振り上げ、振り下ろした刃が三日月を描く――これが三日月二連」
『……フフフ、フハハハ!』
これが死合いでなければ一杯やりたい気分だ。昂る。尋常ではない猟兵と尋常ではない立ち会い! やるべき成すべきは一緒だというのに、これ程の濃密な戦いとなるとは。
「――それがお主の超常か」
謙信は真紅の刃を手放した。その瞬間に刃は巽の喉元へと飛んだのだ。咄嗟の振り下ろしが再び刃を払いのけるが、その一瞬で謙信は、修羅の領域から逃れたのだ。そして手放した刃はまるで意志を持つ様に、謙信の手を離れて切先を巽に向ける。
『人であれば、死んでいただろうよ』
宙を舞う真紅の刃は、まるで誰かが手にしているかの様な正眼で巽と対峙する。
『そして私は、終わるわけにはいかない』
「いいや、ここで終わりだ」
赤い閃光が、謙信の首を襲った。
『そういう手合いが出てくる、誠に戦とは面白い』
「卑狂とは言うまいな、これでも待ってやったのだぞ」
ミハエラ・ジェシンスカ(邪道の剣・f13828)は四振りの光剣を展開して背後から謙信を奇襲する。しかしその一撃は宙を舞う倍の八振りが尽くを払い除けた。
「貴様とは二度目だ。その手口も手数もよく知っている」
それに、その白い刃の事も……。一旦間を切り、正面から対峙するミハエラ。
『ほう、ならば見せてみよ――この白刃を避けきれるというのならば!』
謙信が片手を上げる。それに従う様にふわりと、十一振りの刃が再び宙を舞う。
「…………」
私も手数は多いが奴はその上を行く。フォースレーダーで走査しても、全てを詳らかという訳にはいかない。最初から全開――四振りの赤黒い光剣と二基のセイバードローンを最大展開し、迎撃を試みる。
『――些か数が心許無い様だが?』
「戦いは数だけではない。分からせてやろう」
返す刃で二の太刀を、などと悠長な事はやっていられない。一つを防げば続いて二つ目を放つのは奴の方だ。炎を纏った太刀の一閃を防げば氷の刃が、大地の如き超重の一撃を躱せば大木の様な豪快な一撃が。その全てを一刀、あるいは二刀で躱しながら、徐々に謙信との距離を詰めるミハエラ。
「どうした? 貴様の車懸かり、随分と冴えていないようだが」
『何、先程の続きをだな』
考えていたのだよ。謙信が動く、風の様に。否――これは。
「――ディアブロかッ!」
『左様、しかしその力を僅かに使ったに過ぎんッ!』
明らかに九歩は離れていた。それが一瞬で――謙信はミハエラの眼前に迫っていた。
「未来を、私の位置を予測して」
『そう。威力は先方が備えていれば良い!』
相手が攻め入る場所が正確に分かれば、その枕を押さえるなど熟練にしてみれば容易い事。一閃、真紅の太刀が痩躯のウォーマシンを襲う。間一髪割って入ったセイバードローンがその身を犠牲にして猛襲を防ぐが、これでミハエラは二本の剣を失ったに等しい。
『さあどうする、こちらはまだ十二振り』
「言っただろう、数では無いと!」
念動の津波が周囲の地形を揺るがす。僅かな隙――制御を失った十一振りがふらりと切先を逸らす姿を感知して、ミハエラは続けて一歩踏み込む。
「これで終い――」
『貴様がだ、猟兵』
ミハエラが捨て身で光剣を振るえば、その軌道を先回りして、返す刃がミハエラの背後を両断する。ぼとりと落ちる一対の隠し腕――そこまでは、謙信に視えた未来の通り。
「……言ったはずだ」
セイバードローンが、ミハエラの僚機たる二本の刃が宙に浮く白き刃を挟み込む様に圧し折ったのだ。何故だ、あの絡繰りは既に破壊した筈!
「これで終いだとな――!」
続けて放たれるは巽の決死の一撃。上空へ飛びあがり、天より振り下ろされた月を描く太刀を、ミハエラに狂わされた感覚がそれを察知させなかった。その刃は謙信の鎧を砕き、深々と亀裂を走らせる。
ディアブロを、白き刃の超常を使った時点でミハエラの術は既に発動していたのだ。その僅かな変化を巽は見逃さなかっただけ。墓標を突き立てるように振り下ろされた一撃は、軍神に致命の一撃を喰らわせたのだ。
「気付けなかったか? 既に貴様は邪剣の術中に嵌っていたのさ」
悪心に身を委ねたミハエラの気配を読み違えた。故に容易く念動の囮に掛かり、念動の催眠で自身が斬った物を認識し損ねた。
『既に貴様の腕は、あの時――』
そういう事だ。背中よりバチバチと火花を散らし、尚も光剣を構えるミハエラ。
「言ったはずだ、貴様とは二度目だと」
なあ、ディアブロ――まさかこんな形で、文字通り再び刃を交える事になろうとはな。そしてミハエラは、為すべきを為したウォーマシンは、正面から膝をつき、力無くその場に崩れ落ちた。
『フフ、フハハハ……まさか私が相手では無かったと、そういう事か!』
「お主も、そうか……邪剣などと自嘲してはいるが、俺と同じ」
自分の最も得意な事をする。磨き上げた技を、信じ切って使う――熟練の執念が想いを果たすまで、最後までその身を立たせて。
「これで、白き刃は断たれた。そしてお主も無事ではあるまい」
ちゃきと切先を謙信にむけながら、じりじりとミハエラに近寄る巽。
『笑止、たかが異界の刃が二振り、その力を失った程度で……』
そう言いかけ咳込む謙信。巽の超常の一撃が決まったのだ。幾ら歴戦の武将、魔将軍たるオブリビオンとて無事では済まない。
『……だが、どうする? 手負いを抱えて私と再び刃を交えるか?』
鮮血が白銀の鎧を、吐血が大地を真っ赤に染める。されど十一振りの太刀は健在、黒と白の超常は無くとも、それ以外の力は十分に威力を発揮する。
「……ここは、引かせてもらう。何」
車懸かりは我等だけではない。それにあの立ち会いをこれ以上、血で汚す事もあるまい――その言葉を最後に、ミハエラを抱えた巽は虚空に姿を消した。
『フン……だが此度の戦い、誠に楽しめた』
それだけは揺ぎ無い事実。故に次を所望する。いつの間にか手にした薬の太刀を、深々と自らの首に中て――あろうことか自らの傷を消し去った。
『さあ来い猟兵、我はまだ健在ぞ!』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
揺歌語・なびき
たかだか人間が
それも骸の海から這いでた奴が
神様を名乗るなんて、おこがましい
しかと敵の動きを観察
「咎力封じ」で手足や刀を次々拘束
邪魔なんだよ、その浮いてる得物全部
【情報収集、罠使い】
拘束で少しでも動きを封じて隙をつくる
目立たず移動して「終の道化」
攻撃が当たらないとしても
軍神がおれに構ってる間に味方が攻撃できる
【傷口をえぐる、串刺し、鎧無視攻撃、目立たない、だまし討ち】
軍神からの攻撃は自分の勘でなるべく避け
それでも躱しきれぬダメージは耐える
【野生の勘、第六感、見切り、激痛耐性】
これくらい、なんてことない
あの子の生まれたふるさとだ
あの子が愛する世界だ
おれが何もしないなんて、おかしいだろ
●咎祓い
ゆらりと影が、灰緑の男が現れた。
「たかだか人間が――」
その瞳は怒りに燃え、震える拳が心を表す。
「それも、骸の海から這いでた奴が」
一歩一歩大地を踏みしめ、その意志を強く示す。
「神様を名乗るなんて――おこがましい」
だから罰を、与えに来た。揺歌語・なびき(春怨・f02050)は花霞の棘鞭を振るい、軍神と対峙する。
『次は貴様か、その痩躯で――私にどんな罰を与えると言うのだ?』
瞬間、宙を舞う一刀が円盤の様に回りながらなびきに迫る。尋常ならざる軌道と超常の悪意を秘めたそれは、毒。触れれば死と腐敗を撒き散らす猛獣は、風を裂いてなびきの鼻先を斬り落とさんとその回転を止めない。
「罰……そうだな」
びゅんと振るった棘鞭が毒の刃を絡め取る。鎬からするりと這い出る様にしなった鞭先が僅かでも遅れれば、その超常は瞬く間になびきの命を奪っていただろう。
「それはこいつに、決めてもらおうか」
呪いが――徒花が漆黒の花弁を散らして、なびきの姿を包み込む。現れたのはなびきの姿をした、何か。その表情は暗い影に覆われて窺い知れない。
『ほう、物の怪でも降ろしたか』
だがそれで、何が出来る? 火が、氷が、風が、光が――四振りの太刀が四方からなびきを襲う。放つ光が姿を晦まし、風の速さで火を噴いて――その足元を氷が封じる、筈だった。
「――降ろす? 殺すのよ」
あなたを。この世ならざる声色で宣告したそれは、毒を絡めた棘鞭を振り回して、いとも容易く飛び回る太刀を大地へと叩き落す。そしてそのまま地を這う影が――漆黒の縄が取り付いて、猛犬を押さえる鎖の様に跳ねる太刀を封じ込めた。
「これで五つ。さあ、残りを出しなさい」
私が代わりに殺してあげる。ひたりと一歩前に出たなびきの姿をしたモノは、力を失った毘沙門刀など興味が無いという風に棘鞭を投げ捨てて、右手に枷を、左手に轡を携えて謙信の元へと進む。
『――人外の境地か。それで我が力を封じると』
面白い――残る六振りの太刀を宙に浮かべ、再びそれを放つ。そして謙信は地を駆けた。
「直接来る、そうね」
ならあなたの動きを止めてあげる。猿轡がなびきの手を離れ、風より早く謙信の顔面を覆う。
『!』
「意外と間抜けなの、あなた?」
嘲笑う様に、続いて掲げた手枷を投げ――しかしその投擲は五振りの太刀に妨害されて、その刀身と引き換えに謙信の身を護った。
『――!』
瞬間、軍神の握り締めた拳が、いつの間にか間合いを詰めた一撃がなびきの身体を襲う。しかし人ならざるそれにとっては、まるで児戯の如し。寸での所で受け止められた渾身の殴打を制し、返す拳で亀裂交じりの白銀の鎧を砕いた。
「形無しだわ、こんな脆いんじゃ神どころか、紙ね」
吹けば飛んでしまう様な儚い歴史の痕。だがその慢心が、超常の驕りが本命の奇襲を許してしまう。
『で、これを飛ばして――まさか』
その太刀は薬。病を飛ばす快気の怪奇、肌を掠めた切先だけで威力は十分――降ろされたナニモノかは本来の主にその肉体を戻さざるを得ない。
『まさかも何も病は気から、悪しきを飛ばして正気に戻した、それだけの事よ!』
外した猿轡を投げ捨てた手で太刀を握り、そのまま手枷の拘束を切り裂いて、解放された五振りの太刀は再び宙を舞う。
『では続きと行こうか猟兵、まだ半分は残っているぞ?』
宙を舞う赤き刃を手にして、謙信は再びなびきと対峙した。
「それが、どうした」
あの怪異は戻らない。だが戦いは終わってはいない。その手には愛らしい手鞠飾り――仕込んだ暗器は姿を隠して、謙信の目を見据える。
「これくらい、なんてことない」
『玩具を手にして何を言うか、貴様の牙はとうに地に落ちた』
見よ、と棘鞭を指差して謙信が宣う。だがなびきの目は変わらない。深く昏く熱い、闘争の炎は消えてはいない。
「ここは、あの子の生まれたふるさとだ」
あの子が愛する世界だ。手鞠を弾ませ調子を取る。まるで戯れの様にも見える――だがそれこそが、なびきの狙い。
「おれが何もしないなんて、おかしいだろ」
『おかしなことをして、その物言い……もう良い、ここで終わりにする』
調子を崩された謙信が三度、宙を舞う太刀をなびきへと向かわせた。枷も轡も無い、最早この斬撃の応酬を止める事は敵わない――筈だった。
「その手品は見飽きたよ。それに」
蝕刃の刹那、くるりと身をかわしたなびきは身を低く――狼の様に地を駆ける。大地を疾駆する猛獣の俊敏さを、毘沙門刀が柵の様に立ち塞がってその道を遮る。そしてそれこそが、なびきの目的。
「この位耐えるのは、容易い」
立ち並ぶ太刀の最も切れる物打ちを避けて、それでもあえて身を晒すなびき。衣服の端々が裂けて、血が滲む。
『そうか。だがここまで耐えて――まさか!』
きらりと陽光を反射した鋼糸が煌めく。血で隠されていたその光が、謙信を一手遅らせる。それこそが手鞠に仕込んだなびきの秘策。身を晒し、太刀の根元を押さえる様に張り巡らされた鋼鉄の糸が、繰り人形の様に地に刺さる太刀を引き抜いた。
「威力は先方が備えていれば良い。喰らいな」
よく見ていたんだよ、おれは。梃子の原理でなびきを中心に、五つの刃が謙信の下へ振り下ろされた。
『実に、実に面白い事をしてくれる――だが』
「だが? まだあるよ、おれの武器はね」
頭上より降りかかる五つの太刀の直撃をかろうじで避け、真紅の刃を正眼に構える謙信。血に染まった鎧下が満身創痍の姿を曝け出し、されど闘志は衰えず、しっかりとなびきを見据える。
「これはね、過去を消すんだ。つまりオブリビオン――お前を消す事が出来る」
かもしれない。あくまで記憶を消去する異界の銃。既に拘束は成った。あとはこの身をぶつけるだけ。双方、血に染まった身体を立たせて、一瞬の機先を伺う。
『過去を消す、か。だが歴史は消せまい』
幾ら私を消そうとも、私という事実はこの国に刻まれているのだから。
「だったらさ、試そうか」
来いよ。銃口を上げて謙信の顔を照準に納めながら、なびきが呟く。
『無論……そんな珍銃、音よりも早く斬り伏せてくれる』
ふわりとその身がなびきに近付く。間合いを悟らせぬ歩法、軍神ならばこそ、その程度の技は心得ていて当然。
「……それじゃあ、さようなら」
刹那、光が戦場を包んだ。もう二度と、二人が遭う事が無いように。
最初から違和感は感じていた。これまでの猟兵、そのどれもが世界の為、己の為に戦っていた。だが眼前のあの男はどうだ――ここは、あの子の生まれたふるさとだ。あの男はその為に戦っていたというのか。ならば過去に、民草の為に命を賭した私も、あるいは……。
光が過去を覆い尽くした。過去が現在を形作る。軍神は、謙信は歪な己の記憶に頭を振るって、これまでを思い出そうとした。血が己を染めている。敵は、いない。
『……そうだ、私は』
あの存在、異界を渡りし猟兵という存在を倒す為にここへ来たのだ。
その時、大地が鳴動した。いつの間にか拘束された太刀は動かせない。
恐らく最後の戦いの時だ。いいだろう、我が一刀未だ潰えず。
真紅の太刀を静かに肩口へ引き寄せて、車懸かりを抜けて来る敵を待つ。
記憶など、後から幾らでもついてくる。今は本能に従うのみ。
成功
🔵🔵🔴
ステラ・アルゲン
朔殿(f01179)と
アンヘルブラックとディアブロホワイト
とても聞き覚えのある名だな
軍神の刀術
その力は侮れないだろうが我が剣にかけて負けるわけにはいかない!
霧に紛れ迷宮の木立や岩石で身を隠しながら敵に近づく
隙を狙って【ダッシュ】で近づき攻撃
危なくなったらまたすぐに離れて岩陰に身を隠す
あくまで敵の攻撃は私に行くよう朔殿が狙われないよう【存在感】は出しておく
攻撃は【武器受け】で流す
そうやってヒットアンドアウェイで敵の刀の数を減らしつつ、ここぞという時に【流星一閃】
星【属性攻撃】は封じられていなかったな?
【全力魔法】を込めた一撃を与える
属性を操り過去と未来の刀を持つ者に、我が星の剣を届かせようか!
雛月・朔
【WIZ】
ステラさん(f04503)と共闘。
武器:ヤドリガミの念動力、翡翠
全部で12本の刀の持ち主ですか、私の投剣の倍の数な上に色々な属性まで…。単純に見て格上ですね、良い参考になりそうです。
会敵時にUC『夏霞』を唱え、戦場全体を迷宮に変えます。その際発生する、内部での属性攻撃を封じる呪詛の霧は上杉の扱う『水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇』を設定。
こちらも同様の属性は使えなくなりますがそこは人数差で押し切ります。
UCの展開に注力するので防御・回避よりな立ち回りになるでしょうが【念動力】で『翡翠』を飛ばして攻撃しつつ、木立を盾に立ち回り、最悪の場合は【オーラ防御】で凌ぎます。
鳴動する戦場に突如、大地より木立と岩石が湧き出る。鬱蒼と茂る広葉樹が、見るからに頑丈な巨岩が、今まで何も無かった所を覆い尽くして、それはまるで迷宮の様な威容を形作った。更に妖しげな霧が周囲を覆う。その霧は全ての隙間を覆い隠し、自然の迷宮を更に踏破させざるものとして、その威力を十全に発揮した。
『これも……猟兵の、力だと』
まさかこの戦場そのものを作り替えるとは、なんと恐ろしい。だが私にはまだ十一振りの太刀がある。四方を塞がれようと、視界を遮られようと、この様に周囲が塞がれていれば攻めの枕を押さえる事は容易いだろう。
空いた手を頭上に掲げる謙信――だが、何も起こらない。先の戦いで封じられた力も、今や解かれている筈。つまり、私の力は……。
『……フフ、フハハハ! いいだろう。この一刀と森羅万象の力を用いて、相対しようぞ! さあどこからでも掛かってこい!』
軍神が吼える。最後の戦いが始まった。
●アナザー剣神・タイム
「……さて、ここまでは何とか上手くいきましたね」
雛月・朔(たんすのおばけ・f01179)は車懸かりの陣を出ると同時に、己の超常を直ちに発揮――謙信が座する決戦場を、朔が支配する自然の迷宮に変えたのだ。
「幸い先の戦闘で、既に十振りの太刀は謙信の手元を離れていたみたいですし」
被せる様に放った迷宮の呪いが、そのまま毘沙門刀の力を封じ込めたのだ。これでもう、刀剣が乱舞して戦場を蹂躙する事は適わない。
「――しかし各属性に合わせて呪詛を放つというのは、中々難儀なもの」
元はと言えば自身が所持する刀剣の倍の数を誇り、且つ様々な属性を扱うという謙信の戦いぶりに興味があったが、のんびりと見取り稽古をしている余裕など無い。考えうる限り最大の封印を直ちに行い、後は迷宮の維持に注力するだけだ。しかし。
「――矢張り、そう簡単に事は進みませんか」
はぁ、とため息を吐いた朔。耳をすませばびゅうと風の様な音が――否、恐るべき暴風が、朔の形作った迷宮を破壊せんと、その威力を迷宮中に放っていたのだ。
「成程、天変地異ですか。それでも」
この風が何処から来ているのか、それが分かれば後は彼女の仕事だろう。自身はそれを最大限サポートする。ここから先は術者同士の我慢比べだ。
「十振りは封印しました。術の中心さえ特定出来れば、そこにいるでしょう」
恐らく、謙信が。ならば自身がするべき事は、そこまでの道筋を作る事だ。
『……ふむ、呪詛で封じたか。流石だな、猟兵』
幸い見つける事が出来た一振りの太刀を取ってみれば、どうやら相反する属性の呪詛が毘沙門刀の超常を封印しているらしい。その根源は視界を覆うこの霧。つまり迷宮の何処に太刀があろうと、その力は必ず封じられるという事だ。
『恐るべき術者がいるようだが――はて』
同じ様な目に遭った記憶が、あるような。先の戦い、朧気に思い出せるのは謎の光を見た前後、毘沙門刀を封じられ手元の真紅の刃で斬り掛かった所まで。それ以前の記憶は――無い。
『まあいい。ただの太刀ならば既に十分』
手元の真紅があれば事足りる。ならば先ずは、この迷宮を破壊する事が先決だ。
『天網恢恢――疎にして漏らさず!』
刹那、真紅の太刀を中心に突風が巻き起こって――それらが重なり、特大の暴風を形成した。進路上の木々を薙ぎ倒し、岩を飛ばして、荒れ狂う風は道を切り拓く。
『前進あるのみだ。先ずはこの迷宮の術者を見つけ出し、殺す』
させない――不意に謙信の背後から、六振りの刃が迫る。空を舞う投剣は朔が念を飛ばして、己が身を護る為に。その奇襲を太刀の一振りで叩き落す。
『ほう、こんな所から。であれば――』
再び謙信が片手を迷宮にかざす。今度は剣が飛んで来た方角へ……どこから来たのかさえ分かれば、後は己の暴風で巻き込んで、この迷宮ごと破壊してやればいい。
『さて、逃げなければ巻き込まれるぞ――猟兵よ!』
「それはお前がだ――上杉謙信!」
瞬間、木々の間から一筋の光が、もう一人の猟兵が謙信へと飛び掛かった。
『おのれ、まだ居たか……猟兵』
「我が剣にかけて負けるわけにはいかない。覚悟してもらおうか」
抜き放たれたステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)の流星剣を、間際の所で受け止める謙信。
「その太刀、アンヘルブラックか……」
それにここには無いディアブロホワイト――どちらも共に聞き覚えのある名だ。
『そうだとしたら、何だというのだ!』
「いいや、軍神の刀術は侮れんと思ったまで。ただ――」
ぎり、と手元に力が籠る。一進一退の攻防。僅かな隙が命を奪う――故に、もう暴風を呼び出す事は適わない。ステラの奇襲はその点で確実に、謙信の技を上回ったと言えよう。そして込めた力が二人を弾き飛ばして、霧を挟んで双方、一足一刀の間で対峙する。
「私の一振りも決して、負けはしない!」
その刃、流星剣こそ星を鍛えし業物。星海の騎士の名を冠した魔剣にも、決して引けを取らない。
「どうやら、私の属性は封じられてはいないらしいからな」
『……そういう事か、貴様が』
貴様が私を狙う最後の刺客。その一言と共に謙信が真紅の太刀を上段に構える。
『ならば貴様を倒して、術者の命を頂くとしよう』
「負ける訳にはいかぬと、言ったはずだ」
相対して上段霞のステラ。僅かに手元を前に出し、必殺の切先を謙信に向ける。
静寂が二人を包んで、不可視の霧が永遠にも等しい間を感じさせる。
僅かな木々のざわめき、岩肌が欠ける音。違う、どれも奴では無い。
惑わされるな、火の様に攻め入るには山の如き不動の心を。
ためらうな、林の静けさ、風を切って奴の懐へ……。
不意に霧が晴れる。二人の間を遮る様に陽光が差した――刹那。
血塗れの軍神が跳ぶ。烈火の如く。
星明りの麗人が舞う、流星の如く。
さあ、属性を操り過去と未来の刀を持つ者に、我が星の剣を届かせようか!
血塗れの鎧下を貫いて、流星剣が謙信の心臓を捉えた。突き出された左腕が僅かばかり、謙信の速さを上回ったのだ。倒れた謙信を支える様に、ステラが膝をつく。
「――あと半歩、入ってなければ」
死んでいたかもしれない。僅かに逸れた剣先を辿れば、謙信の一撃は物打ちを捉えていた。真っ青な外套に掛かった血が赤黒い跡となって、ステラの接戦を物語る。
『見事、だ』
ごぷりと血を吐いて、そして真紅の太刀を地面に落とす謙信。流れ星の一閃は確実に、謙信の命を奪っていたのだ。
『猟兵、我が技の尽くを、封じて』
辺りを見れば、既に迷宮は無く――傍らには朔もその姿を現していた。
『死力を、尽くした、一刀……満足だ』
「こちらこそ、勉強になりました」
属性を付与した十振りの太刀、本領を発揮していたら朔の六振りでは止められなかったかもしれない。これまでの戦いの積み重ねが紡いだ、最後の一撃だからこそ止められた。そう思わざるを得なかった。
「それにこの太刀は……」
『これは、過去』
この真紅は過去を司るアンヘルブラックだった、という事だろうか。
『もう、戻れない』
その力は失われ、ただの一振りの刃と化していた。だが刃は刃、触れれば切れる業物に変わりはない。
「そうさ、過去だからな」
過去には戻れない、とステラが加える。
『そう、だな』
ふと口元を歪ませて、遂に謙信が消えた。車懸かり最後の猟兵は見事、その役目を果たしたのだ。
「これで、何度目なのでしょう」
朔がひょいと立ち上がって、戦場を眺める。よく見れば自分達以外の猟兵が残した爪跡も、そこかしこに。
「……何度蘇っても、倒すだけだ」
流星剣を納めてステラも立ち上がる。
墓標の様に数々の刃が刺さる戦場を見て、二人の猟兵はそっと瞳を閉じた。
いつかこの戦が終わりますように、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵