エンパイアウォー⑱~龍吼怨歌
●軍神『上杉謙信』
「幕府軍との決戦より前に、居所を暴かれるとはな。
グリモアの予知は躱せたと思っていたが、流石は信玄を阻んだ者達だ」
その目に映るは賢しくも侮れない影。
「彼らは、私が食い止めるのが最良だろう」
そして振うは、十二本の毘沙門刀。
「私の名は上杉謙信。
私の得手は『人軍一体』。車懸かりの陣にて、お相手致そう」
その凛呼たる宣言に、甲高い吶喊が上がる。
「ゆけ! 怨霊女武者ども!
我が常勝不敗の陣となりて、生ある者――猟兵どもを喰らい尽くせ!」
●グリモアベース
三本角の羅刹は、折れた一本の角を紫のグリモアで補完し、グリモアベースとサムライエンパイアは関ヶ原へと繋げる。
『第六天魔軍将図』に名を連ねる、軍神『上杉謙信』の居場所が判明したことを、言葉少なに労った。
「先に判明した風魔小太郎や日野富子と違って、必ず先手を打ってくることはないけど、」
羅刹は言い淀む。
長い睫毛が縁取る猫目は伏せられ、白い頬に影を落とした。
「強い。ただただ強い」
必ず先手を取られるという先の武将どもよりも、その力は格段に上だ。
十二本の毘沙門刀を操る鬼神だ。
「水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇」の刀を従え、《アンヘルブラック》と《ディアブロホワイト》の二刀を振う。
相手によって刀を使い分け、自然現象すら操り猟兵を追い詰めるだろう。
「気を抜くなよ。申し訳ないけど、もう、そう言うしかない……」
羅刹は口惜しそうに呟く。
そのすべてを託すよう、角の紫の欠片も、すべて輝き出した。
繋がった。
志崎・輝(紫怨の拳・f17340)は、強く一度頷いて、猟兵たちの顔を見る。
「アンタらを信じてる」
●吼える
眼前に展開している怨霊どもを掻い潜り、猟兵どもは姿を現した。
「ほう! 来たか、猟兵よ――仕合うか、私と」
静かに、それでも熱く、苛烈に咆哮した。
藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
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このシナリオはごはMSの「エンパイアウォー⑦~祈恋怨歌(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=12802)」と同じ戦場です。
片方のシナリオのみの参戦でも問題ありません。
敵味方入り乱れての戦場で、「怨霊女武者」の軍勢を掻い潜って、「軍神『上杉謙信』」まで到達した場面からスタートします。
なお、藤野は、ごはMS側のプレイングは確認できません。シナリオ間の連携はできかねます。ご了承ください。
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毎日暑いですね。
藤野キワミです。
当シナリオは、難易度相当の判定になります。その覚悟でいてください。
戦いっぱなしですね!熱いですね!燃え尽きないよういきましょう。
当方執筆スケジュールにより、【8/12(月)8:31~】プレイング受付を開始します。
それではカッコいいプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『軍神『上杉謙信』』
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POW : 毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
イラスト:色
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
宇冠・龍
由(f01211)と連携
なるほど、未来と過去をも司る武将……その刀の出所が気になりますが、今は迎え撃つのに集中しましょう
まずは私から。由が火力を高める間、時間を稼ぎます
【竜吟虎嘯】による植物を軍神周囲に展開し、再生成長する自然の檻による拘束を試みます。過去の亡霊たるオブリビオンであれば、逃れる術はありません
切っても再生し、その剣気すら喰らい糧とする植物は物理的な攻撃ではなかなか解けません
(手を打つとすれば、冷気または火炎による根元からの断絶。冷気なら植物が凝固しより軍神の動きを阻害するでしょうから、来るなら炎による燃焼)
燃やしてくれれば、由がその炎を取り込み強化できます
存分に炎を放ってください
宇冠・由
お母様(f00173)と連携
【七草仏ノ座】で大鬼に変身し、一撃をお見舞いしますわ
この姿は時間経過と共に火力を増します
お母様が時間を稼いでいる間、妨害用の炎塊を散布しながら力を蓄えます
とはいえ相手は軍神。一枚も二枚も上手でしょう
(お母様は炎と氷狙いですけど、毒や薬による絡め手も十分に考えられます。時間を巻き戻すことも出来るかもしれません)
毒薬で植物を枯らすのなら、炎のオーラを散布し炎の檻へと変化
氷も同様、溶かして差し上げます
巨大化した二振りの火炎剣を投擲し牽制、続けて炎塊を四方から放射
さて、どれほど剣を使わせたでしょうか
後はこの燃える両拳を全力で届かせるだけです
炎全てが貰い火、頂きますわ
●
怨霊どもの群れを掻い潜ってきたその姿を睨み据え、美貌といって差し支えない白磁のごとき面は、強く華麗に引き締まる。
「凄まじい炎だ」
尖る冷酷な双眸は、【七草仏ノ座】で大鬼に変身し、力を蓄え始めた宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)を見、ひとつ頷いた。
「されど、がら空きぞ」
十本の《毘沙門刀》が先行して解き放たれる。目にも止まらぬ速度だ。それを追う形で疾駆する上杉は、銀刀と黒刀をも振り抜く。
確実に由を斬りつけんと、十本の切っ先のすべてが由を向いている――しかし。
「由には触れさせません」
宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)は、時計の文字盤にも似た陣を上杉の足元へと展開させる。爆発的に生長を始める植物霊は、上杉の【敵意】に激しく反応し、枝葉を一斉に男へと伸ばす。
軽い身のこなしで上体を反転させた上杉は、枝葉を斬って捨てる。それでも執拗に彼を追い伸びてくるのは、いまだ四十を超える霊木だ。
「過去の亡霊たるオブリビオンであれば、逃れる術はありません」
「舐められたものだ!」
一喝。
足を踏み鳴らした上杉は、冷気を噴き上げた。一瞬にして極寒の関ヶ原へと変じさせた氷雪は、びょうびょうと吹き荒び、龍の【竜吟虎嘯】を凍てつかせてゆく。
「私を捕えるつもりであったか、女」
猛吹雪の中、それでも龍は根を枯らすまいと、霊木に力を与える。
「氷から、雪から、滲み出るあなたの、その剣気すら喰らい糧とします――まだ終わっていません」
「笑わせてくれる」
言うもひとつも笑うことなく冷酷に吐き捨て、樹氷と化した霊木を、容赦なく振られた二刀が斬り砕き、龍との距離を詰める。
冷気を操り、龍の【竜吟虎嘯】を食い止め凍りつかせるだろうことは予想ができていた。しかし、拘束前にこうなろうとは――植物を根絶やしにするには、炎が手っ取り早いだろう、ならば由の糧となり彼女の時間稼ぎとしての、任を全うできると考えた。
「心配いりませんわ、お母様」
背後から由の声。
その身に纏う炎の切れ端が、軍神と母との間に割って入る。
「手加減は致しませんよ」
龍が、上杉を引きつけた時間は、微々たるものだったが、それでも由の力は増した。
炎とともに激しく燃え上がる闘志は、冷静さを欠くことなく吹雪を融かす炎熱となる。
上杉の一手は龍の読み通り、氷を吹き荒れさせるものだった――ならば。
「あれこれと考えを巡らせましたが、氷雪なら私の火炎で融かして差し上げましょう」
読みは当たった。それでも軍神の力は思っていた以上だった。
(「さすがは軍神といったところでしょうか。一枚上手でしたわ」)
由はオーラを巡らせそこに炎を纏繞させる。猛吹雪を巻き起こす上杉を捕え、火焔の牢へと投獄する。
「まだぬるいぞ」
上杉の厳酷な声音。
振われる黒刃と白刃は由の編み上げた炎の檻を容易く斬り壊し、紫電一閃、十本の《毘沙門刀》が飛来する。
由の【七草仏ノ座】による強化の獄炎に煽られて、巨大に膨れ上がった二振りの《火炎剣》も時を同じくして、上杉へと擲たれていた。
「――っ!」
その投擲された剣は、上杉の十本の刀のうち半数を減らし打ち落され、由が炎塊を放射させる前に、由の額目がけて一本の、煌然たる一振りの刀が奔る!
「炎を噴くだけか、落ちろ」
容赦ない刺突を躱す――否、由の体は瞬時に動く、燃え盛る拳で刀剣を弾き飛ばす。次いで二撃目。猛然と迫りくる禍々しい一振りが目の端を掠めていく。
衝撃に落下。立ち消えた増した分の炎。唐突な落下感。
「由!」
龍の声。大切な母の声。その声に、はっとする。
由の炎は、心は燃え盛る。
落ちる中、見つけるのは心配げに見上げる龍の顔、黒と白の刀を手に向かい来る上杉の、白の尖影。
展開されたのは、時計盤のごとき陣――龍の【竜吟虎嘯】によって喚び出された植物霊が、上杉の背へと肉薄、その足を絡め取り、転倒させた。
「由には触れさせないと言ったはずです――さあ由、存分に燃やしなさい」
「はい、お母様」
体勢を立て直した由は、体内を巡る重苦しいナニかに耐え、握りしめた拳を、猛然と燃え上がらせて、上杉へと振り下ろす!
「遅い!」
烈声が噴き上がる。殺気が膨れ上がる。解き放たれた凍気は、龍に霜を下ろさせ、由の火炎を鈍らせる――が、彼女の拳は止まらない。
負けじとさらに燃え上がらせる。凍りつく植物を、刀を振って砕き割り、返す刃で由の拳を受ける!
果たして、由の肩まで伝わる衝撃は、刀では受け切れずとも、上杉の甲冑に止められた衝撃だった。
「もう少し、力比べといくか」
軍神は刀を構え直し、母娘を睨み据えた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
御剣・刀也
さて、越後の龍
噂に違わぬ立派な大将で武士だ
こんな相手と闘える幸運を感謝しよう
連斬は十二本の刃が連続で襲い掛かってきて、一撃も重いので、できるだけ受け止めず、第六感、見切り、残像で避ける、受け流すなどしてカウンターで斬り捨てる
車懸かりは第六感で高速移動の先を予想し、高速回転する刀は日本刀で受け止めるのではなく、回転に任せて体を流し、そこから滑り込むように掻い潜って斬り捨てる
天変地異は制御が難しいが、自滅など待たず、相手が倒れる前に斬り捨てに行く
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。さぁ、軍神よ、もっともっと斬り合いを楽しもうぜ!!」
「さて、越後の龍」
二人の猟兵と向き合う上杉の背後に立つのは、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)だ。
「戦場では俺は死人だ」
「ならばそこで死んでおれ――死人は、徘徊なんぞせん」
冷やかに吐き捨てる上杉の、冷たく燃える双眸が刀也を射抜く。
振り返る所作ひとつ、刀を構え直す所作ひとつ――その一挙手一投足に、烈気は漲り、体勢を整える摺り足、瞬間解き放たれた十本の刀の切っ先は、刀也の首を、心臓を、腹を、脚を狙い正確無比に奔る。
「死人は死を恐れない」
「真なる武人もまた、死を受け入れる」
刀也の言葉に端的に返しながら、それでも《毘沙門刀》は、寸分違わず、正確無比に、そうして無慈悲に、刀也へと襲い来る。
水に濡れる刃を見切り、躱した先へ突き込まれる凍てつく刃、それは勘が冴えわたり上体を捻り、跳び退って躱し、斬り下ろされる深闇から削り出した刃は、刀也の残像を引き裂いた――が、逃げた先に隙なく迫りくるは、眩く輝く光刃。一切の容赦なく振り下ろされる、回避は間に合わない、刀也はその一刀を《獅子吼》の峰で受ける。
凄まじい金属音と、腕を駆け上る痺れ、刀也は青瞳を眇め、歯を食いしばる。
今、何撃目だ。
鍔迫り合い、逡巡は負けだ、否、刃は眼前のこれだけでない。
重く圧し掛かってくる光刃を、引いて打ち落とし、次いで煽られる暴風に巻き上げられた焔刃は、目にも止まらぬ速さで刀也の腹を刺し貫いた。
「がっ!」
喉の潰れたような声。
「どうやら私は、死者ではなく、生ける者を相手にしていたようだ」
上杉は連撃の手を緩めることはない。
岩土を司る刀は刀也の脚を貫き、土へと姿を変じ、傷口を抉るように樹木の刃が突き込まれる。焼き締められた傷口に毒が染み込んだ刃が、そうして強烈な眠りを誘う斬撃をその身に受ける。
「ずいぶんと浮かれておったな。私とまみえたことが、よほど嬉しかったか」
朦朧とする意識の中、刀也の青瞳が光り輝く。
「ああ、ああ! 当たり前だ! 噂に違わぬ、立派な大将で……武士だ! こんな相手と、闘えている幸運……歓喜しないで、いつ、昂ぶればいい!」
「気概は十分――ならば、示してみせよ。仕合うのだろう、私と」
《獅子吼》を正眼に構える。受けた傷からは、とめどなく血が溢れてくる。止まらない。
「上等……! なら軍神よ、その胸借りるぜ!」
烈声を迸らせる。
一足のうちに上杉との間合いをつめ、今刀也の持てるすべてのちからを振り絞って、《獅子吼》を上段から高速で上杉目がけて振り下ろす!
衝撃音、崩れるバランス、込めた力は大海の中の木葉のごとくいなされ、《アンヘルブラック》に絡め取られる。
霞む視界の中で、彼の引き締まった顔が見える。なにかを言った。口が動いた。しかし聞こえない。
銀閃。
刀也は意識を手放した。
「ああ、やはりな。貴様は死人ではない」
苦戦
🔵🔴🔴
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
【携帯食料】を食みUC対象を謙信へ
細胞を通して流れてくる刀圧のような威圧に驚きつつも、呼応するように細胞を活性化する
戦場に降り立ちすぐに【学習力】で謙信の観察を始める
12本の刀を操るようだが、その情報量を制御するのは酷だろう
ましてや自身で二刀操るのなら尚更
多数の攻撃を受ける【覚悟】を決める
謙信のテンションから攻撃する部分を先読み
【残像】と【ダッシュ】混乱させるように動き隙を見て斬る
上半身を狙うように斬るがこれは囮
本命は移動を制限させるための足
上半身に意識を向けさせ【鎧無視攻撃】を足へ
狙いは【目立たない】よう注意する
「私も味方を信じてるのでね。囮の意地をお目にかけよう」
ナターシャ・フォーサイス
WIZ
貴方が将、軍神なのですね。
しかし実態は我々が導くべき哀れな魂でもある、と。
属性と自然現象の複合ですか。
刀あればこそなのでしょうが…でしたら、まずは刀を封じましょう。
天使たちを呼び、各々の刀を光と帰すのです。
軍神たる貴方もまた、この光を以て罪を祓い、道行きへと導きましょう。
仮に術を使われても、この結界が、天使たちが守護してくれるでしょう。
強いのかもしれませんが、それは個で、あるいは群であるならば。
この場合において貴方は個、天使率いる我々に導かれることが道理でしょう。
刀を兵として陣を組むのなら、我々もまた集団として導くまで。
貴方が道行きに加わるか、我々が折れるか。
ひとつ、手合わせ願います。
「貴様は死人ではない」
上杉の放った言葉を口の中で繰り返して、仁科・恭介(観察する人・f14065)は、ブラウンの瞳で上杉がいかに動くかじっと見、携帯食料を食おうと口を開けた瞬間、轟然と燃え上がる刀が飛来した。
「敵前で、実に面白い――それほど死にたいか」
炯々と細められた紺碧の双眼は、鋭く恭介の携帯食料を燃やし尽くした。
「食べさせてもくれないか!」
《毘沙門刀》による情け容赦ない連撃が襲う。
恭介の腹を貫かんと闇の刀――恭介の残像を刺し貫く。ポケットから携帯食を一つ取り出す。
恭介の目を抉り出さんと毒の仕込まれた刀――わずかに屈み剣閃の下を擦れ違うよう疾駆。乱暴に口に放り込む。
恭介の心臓を凍てつかせんと氷の刀――体を翻し《サムライブレイド》で斬り上げ弾き飛ばす。咀嚼もそこそこに嚥下。
まだ足りんが、それどころはない。【共鳴】する上杉の刀圧のような威圧感に、ぞわりと怖気が駆け上る。
それでも、恭介はここへ来た。
多数の攻撃を受ける覚悟はある。腹を決めてきた。上杉に一太刀でもいれんと不退転の決意で来た。
「囮の意地をお目にかけよう」
恭介の信じるべき仲間に繋がる一撃を。
しかし、その言葉を斬り捨てんと、上杉の《毘沙門刀》が奔る。
「受けてみよ、囮の意地とやらで」
(「言われなくとも!」)
先の三撃はたまたま躱せた――今は先よりも感覚が研ぎ澄まされている。全身を巡る血は沸騰しそうに熱く、細胞は活性され、迫り来る《毘沙門刀》の動きはよく見える。
燦然と輝く刀刃が正面から、それを囮にして背に迫るは清冽なる刃――それを《サムライブレイド》でなんとか弾き、駆け逃げ――た先に振り下ろされるのは、颶風を巻き起こす凄惨に光る刀――息をつめ、無理やりにステップを踏み、素早く躱せば、それは恭介の残像を真っ二つにした。
十二本の刀を操る――その情報量を制御するのはひどく神経を使うだろう。まして、上杉自身も二刀を振るうのならば尚のこと――集中を切らすな。【共鳴】し続けろ。樹木と土流の刃が迫り、一刀は恭介の残像を斬るが、二刀目にいよいよ捕えられた。二の腕を深々と斬られ、傷は植物の蔓にまみれる。
ぞわりとする。血が流れてこない。
「私を失念するなよ」
一瞬その傷に気を取られた。たったの一呼吸分だ。その間に一足一刀の間合いにまで詰め寄られていた上杉の凄まじい斬撃に、息を飲んだ――覚悟をした。
「貴方こそ、我々をお忘れではありませんか?」
唐突に現れたのは、天使の集団。それらは恭介と上杉の間に滑り込んでくる。
さすがに驚き、跳び退り恭介との距離をとった上杉は、その声――澄んだ女の、それでも芯の強い声音がした方を見やる。
戦場に吹きこんできた熱風になびく銀髪は長く、しかと上杉を見据える藍瞳を、ちらと恭介へと向ける。
ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)だ。
凛然と彼女は、上杉へ向き直り、顎を上げる。
「貴方が将、軍神ですか――聞きしに勝る強さ、しかしそれは個であるがゆえのこと」
一対一、少対一であるなら、その力差を覆すのは骨が折れるだろう。
それでは、多対一であれば。
「この場合において貴方は個、天使率いる我々に導かれることが道理でしょう。刀を兵として陣を組むのなら、我々もまた集団として導くまで」
弁舌を振いながら、一歩一歩と歩み出て、その背で負傷した恭介を隠す。
【楽園の結界】を展開させたナターシャは、己の身をも大天使へと変じさせて、《シャングリラ》で虚空を切って構える。
奪うためのものではない。罪を祓い楽園へ導くための存在する聖祓鎌だ。そして、罪を祓うのは鎌だけではない。
ぽやり、きらり。
ナターシャが輝き出す。
「軍神たる貴方もまた、この光を以て罪を祓い、道行きへと導きましょう」
「おしゃべりは終わったか、女」
上杉の体を取り巻く十本の《毘沙門刀》――それらをも照らし出すように、ナターシャの纏う聖性を帯びた光は強くなる。
清浄なる光帯に導かれるように、天使たちが《毘沙門刀》の回りを飛翔し始めた。
「――私の刀に触るな」
俄かに上杉の足元から颶風が生まれる。強烈な呪術が、氷雪の姿を得て噴き上がる。
「好き勝手なことを吐かしておったな、女」
ナターシャの光は、猛吹雪に邪魔をされ上杉に届かない――しかし、こちら側に展開した結界に影響はない。
傷を癒す力はない。しかし、彼の治癒力を強化してやることはできる。
凍える。強烈な寒さだ。手足の熱は急速に奪われて、感覚は麻痺していく。それでも、体は動く。十本の刀を無力化はできなかったが、否、この風雪を呼び出せた。
二人は短く言葉を交わす。
腕にはびこる蔓はそのままに、全力を賭して駆ける。猛吹雪が彼の体を隠すだろう。ナターシャが上杉を十分に引き付ける。
「好き勝手ではありません。貴方の罪深き哀れな魂を楽園へと誘い、救うための準備――といったところです」
ナターシャの頬に霜がおりる。指先が凍りつく。
「ひとつ、手合わせ願います」
白い頬に綺麗な笑みを浮かべて、吹雪の奥の上杉に手を差し出す。
冷酷にナターシャを見返す上杉の紺碧が瞠られた。
「貴様ッ!」
背後まで差し迫った恭介の一閃――痛烈に胸を狙う一閃は、しかしフェイクだ。十分に意識をさせるために烈気を噴く。
《ディアブロホワイト》の峰に打ち据えた衝撃を、体を反転させることに利用し、軸足を踏みしめる。
「――っ!」
鋭く息を吐き、上杉の甲冑を粉砕するほどの鮮烈な斬撃を放つ!
機動力を奪うために、上杉の脚を狙った剣撃だ。
血が噴き出す。痛みに上杉の上体が傾いだ――氷雪が唐突に熄んで、恭介の姿が上杉の前に鮮明に現れる。
「私も、味方を信じてるのでね」
恭介に気を取られたこの瞬間を、ナターシャは見逃すことなく、清浄の光を溢れさせた。
上杉の背に突き刺さるのは、罪祓う光の矢。
「行きましょう、我々が案内します」
笑むナターシャの背後で、聖なる光が溢れ、天使が清らかに微笑んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
才堂・紅葉
【芋煮艇】
「さって。直球勝負が一番みたいね」
【蒸気王】を召還し肩に乗る。
巨大な蒸気ゴーレムから謙信公をロックオンし、腕部自動小銃及び榴弾で【援護射撃、誘導弾、一斉射撃】で弾幕を貼り、同時に蒸気ブースト点火。
分厚い腕部装甲で身を守り、最大出力で【操縦】で肉薄し右ストレート狙い。
「打ち砕きなさい、蒸気王!!」
問題は敵の属性剣。 射撃での牽制と分厚い装甲を活かして【野生の勘、見切り、オーラ防御】でダメージの軽減をはかり、蒸気機関の大敵の雷と氷属性を最大に警戒する。 相手は軍神。全ては防ぎきれないが、例え大破しても【気合、グラップル】で鋼の拳を届けたい。
なお本命は【迷彩】で潜ませた仲間だ。
春日・釉乃
【芋煮艇】
相手は謙信公の上に十二刀流っ!?
けど扱う刀の数ならあたしだって負けないんだから!
紅葉(f08859)の呼び出した蒸気王に乗り込んで接近して…間合いに相手を収めたら早業の【Танец с саблями】を一斉発射
185本の幻影剣で謙信公の刀との空中戦を制するように第六感で先制攻撃を仕掛ける
残像を発生させるようなこの剣の舞で謙信公の剣を牽制をする……と見せかけて騙し討ちで鎧無視攻撃の『白雲去来』による抜刀術で謙信公本体を攻撃
あとは蒸気王を盾にするようにしてそのまま最前線から撤退をするよ
もちろん、『シールドスレイヴ』を蒸気王の全身に取り付けるようにして盾受けの守りも厚くするけどね
黒影・兵庫
【芋煮艇】で参戦します!
たとえどんな強敵だろうとせんせーに敵うやつなんていやしません!
なんでお願いしますね!せんせー!
(【教導姫の再動】を発動)
せんせーは蒸気王さんと一緒に謙信に【衝撃波】で攻撃を仕掛けてください!
謙信本体の攻撃は【第六感】【見切り】【武器受け】で回避または防御しつつ
周りの刀が攻撃をしてきたら、せんせーの体で受け止めてください!
刺さった刀は【皇糸虫】と粘着性の【蠢く水】を【ロープワーク】【念動力】
で抜けないように縛り上げます!
俺はラーガさんの攻撃に巻き込まれないように、せんせーか蒸気王さんの陰に隠れてやり過ごします!
バルディート・ラーガ
【芋煮艇】
あっしの狙いは【九つ頭の貪欲者】で変身、大火力を叩き込むコト。
狙いはシンプルとはいえ、この技にゃ明確な弱点がありやす。
全身が炎なモンで、やっこサンの水属性に滅法弱エ事。
ターゲット以外に素早く動かれて、目線を取られちまうとキツイ事。
明確であるからこそ、他のお方にカバーして頂きやしょう。
初手は蒸気王サンの中に隠れたまま、戦場の様子を伺うことに徹しやす。
飛び回る十本の刀を攻撃で叩き潰し、抑えて頂いたトコロで
外へ飛び出しての変身!本体で攻撃しに追っかけてくる、すなわち
「離脱する方々よりもスピードを出さなきゃならねえ」謙信を
超耐久力で迎撃、超攻撃力で一気に押し込ンでしまいやしょう。
明石・真多子
【芋煮艇】の皆で行くよ!
(【軟体忍法混合流派の術】でマイカちゃんに来てもらう)
全部で12本!?アタシの腕は6本だから一人じゃ足りないよ~…。
「イカにも。だが私の腕を合わせれば14本になるじゃなイカ。」
なるほど!これならいけそうだよ!
ありがとうマイカちゃん!
じゃぁアタシ達は『タコ(イカ)の保護色能力』で迷彩しながら吸盤で蒸気王に張り付いて隠れようね!
皆が謙信の剣を撃ち落としたら隠れたまま二人で拾って抑えようようよ!
「イカんせん同時に12本の相手はキツいからな、賢明だろう。」
全部拾ったら、空いた手を使って二人のイカタコ混合墨手裏剣を放って謙信に攻撃だ!
「いイカ、協力するのは今回が最後だぞマダコ!」
●
戦況は目まぐるしく変わる。
車懸かりの一端を担う怨霊の非業の声が耳朶を滑る。
上杉の目の端で、陣に亀裂が入っていくのだ。
舌を巻く。
猟兵どもの多彩な策に、素直に感心するほかない。
しかし――
いくら、戦場を凍りつかせようと、炎を噴き上げようと、力でもってひっかきまわそうと、それは、上杉の《毘沙門刀》の前に無に帰す、陣の前に崩れるだろう。
「その執拗さ、力強さ、なるほど――」
白磁のごとき面が、ふわりと綻び、一瞬後には凄絶な笑みに変わった。
突如として現れた巨大な装甲を見上げる。
●
その肩から上杉を見下ろす女がひとり――才堂・紅葉(お嬢・f08859)だ。
「さって。直球勝負が一番みたいね」
巨大な蒸気ゴーレムたる【蒸気王】だ。その分厚く堅牢な装甲の中に素早く乗り込み身を隠したのは、ともに戦う仲間。
スチームジャイアントの全身を覆うように取り付けられたのは、春日・釉乃(蒼薔薇のPrince・f00006)の《シールドスレイヴ》だ。
計九基ある遠隔操作が可能な盾は、スチームジャイアントの防御を高める。乗り込む――とは言ったが、上杉の様子を観察できるよう、そしてすぐさま攻勢に転じられるように、釉乃を守る盾が一基そこにある。
そして、もう一人――戦場の様子を伺い、機を待つバルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)は、今か今かと己の出番を待ちわびていた。
「お願いしますね! せんせー!」
言って【教導姫】を召喚したのは、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)だ。
彼女はふわりと笑んで、スチームジャイアントの隣に立つ。
「せんせーは、そのまま蒸気王さんと一緒に、衝撃波で攻撃をしかけてください!」
兵庫は言いながら、《誘導灯型合金破砕警棒》をびっと上杉に向ける。
「たとえどんな強敵だろうとせんせーに敵うやつなんていやしません!」
【教導姫】は、兵庫の動きをトレースして巨大な警棒を振ってみせる――その衝撃波は上杉の振う二刀の剣閃によって挫かれ、彼は無言のまま《毘沙門刀》を解き放つ。
その瞬間、紅葉は【蒸気王】の上から迫りくる上杉をロックオン、それ以上近づかせぬよう、強烈な弾丸の嵐を見舞う。弾幕をはると同時に、背にある蒸気ブーストを点火させて、最大出力で上杉に肉薄――
「打ち砕きなさい、蒸気王!」
紅葉の声に呼応。分厚い腕部装甲で身を守りながら、叩きつけるように右拳を振り下ろす!
衝撃は、地にいる兵庫と、明石・真多子(軟体魔忍マダコ・f00079)にも響く。
慌てずせんせーの足を掴み、事なきをえた兵庫は、その凄まじい威力に目を丸める。
「わあ……すごいよ……」
思わず声に出た真多子は、蒸気王の拳打を避け、刀を構え直したのを見た。
そして、彼の周りに十本の《毘沙門刀》が揺らめくのも確認。
「……全部で、十二本!? アタシの腕は六本だから、一人じゃ足りないよ~……だから! ネ、マイカちゃん!」
事前に、仲間内で話し決めてあったのだ。
上杉の《毘沙門刀》を落としたら、真多子が拾って封じる――と。
この作戦が決まってから、やや面倒な約束を取り付けた、自称ライバルのマイカを呼んでいたのだ。
「イカにも。だから、私の腕を合わせる算段だったんじゃなイカ」
「うんうん! これならいけそうだよ! ありがとうマイカちゃん!」
にこにこと、真多子は【軟体忍法混合流派の術】にて呼び出したマイカと頷き合う。
紅葉の弾幕を受け継ぐように、次に降り注ぐのは、釉乃の【Танец с саблями】を一斉に射出した。
上杉が《毘沙門刀》を解き放つよりも前に撃ち出したものだ。
「扱う刀の数ならあたしだって負けてないんだから!」
相手は聞きしに勝る上杉謙信――その名だけで心はひりつくが。その上操る刀の数が尋常ではなかった。
しかして、それは釉乃も同じこと。一八〇余の幻影刀を虚空にびっしりと展開させて、彼の刀を撃ち落とす!
蒸気王に迫った刀が、一本、また一本と落ちる。光り輝く刀と闇に溶けてゆきそうな刀だ。そうして、釉乃の額目がけて飛来する土色の刀ががらんと落ちた。
それでも、上杉の猛攻は止まらない。
「せんせー!」
兵庫の声。
躍り出るのは、【教導姫】の巨大な肢体。彼女の身に二振りの刀が深々と突き刺さる。
「さすがです、せんせー!」
兵庫は鼓舞して《皇糸虫》で絡め取り、《蠢く水》の粘着性とを組み合わせて、せんせーの体に固定した。
「がんばってください、せんせー!」
蜂の触角をもつ金髪の彼女は、兵庫の顔を見つめ返してこくりと頷いた。
光、闇、土、そして残る《毘沙門刀》から推測するに、薬と毒が封じられた。
(「でも厄介な、氷の刀が残ってる……」)
紅葉は、蒸気機関の大敵である氷属性の刀に最大の警戒を示した。
蒸気で動くのだ、水と火にはそこそこ耐性はあれど、それを凍らされてしまっては、動くに動けない。
まして相手は軍神だ。すべての刃を防ぎ切れるとは思えないが、それでもやれるだけのことはやる。
もう一発、拳を固める。
オーラを纏い、飛来する刀を見極め、一撃でできれば多くの刀を沈める――紅葉は集中力を高め、烈声とともに拳を放つ!
さすれば、分厚い装甲に守られ攻撃力すら高まる【蒸気王】の、右ストレートは火と、風と、樹の刀を落とした。
すかさず真多子がそれを拾いあげ、タコのキマイラたる利点を最大に生かし《タコの保護色能力》で迷彩しながら、吸盤で【蒸気王】に張り付き隠れていく。
「(イカんせん同時に十二本の相手は、きつイカらな、賢明だろう)」
ぽそぽそ呟くマイカの手にもすでに、剣が三本握られている。
残る刀は、紅葉が危惧した氷と水の刀と、上杉自身の持つ、白亜と漆黒の刀。
上杉の双眸はぎらぎらと燃え上がる。
己の刀を奪われていくのだ、怒りは想像に難くない。
「さあ、もう一度よ、蒸気王!」
しかし、それを許す上杉ではない。袈裟に斬り下ろされる鋭い剣閃、清冽な水が噴き上がる――瞬間、厳寒を齎す凍結の刀が【蒸気王】へと突き込まれる。
一気に、またたく間に凍りついてゆく。
内部に隠れていたバルディートも、装甲にくっつき身を隠していた真多子とマイカも、危うく凍りつくところだった。
その傷から一気に崩れ去っていくが、最後にもう一度拳を叩き込みたい一心で、【蒸気王】を操れども、その拳は上杉に届く前に、二振りの刀を内包したまま瓦解した。
「――ち」
しかし、本命はそれの中に隠してあった、仲間だ――紅葉は、頬に笑みを刻んだ。
バルディートだ。
【九つ頭の貪欲者】を発動すれば、その身は巨大な黒蛇へと変化していく。
「……グ、……シュウルルル…………」
喉の奥で鳴る音は、危機感をあおり立てる警告音。
緑の炎を吐き出す蛇頭、そのうちに紛れこんだもっとも獰猛な竜頭――明確な弱点を持つがゆえに、仲間が《毘沙門刀》を叩き潰し、抑えたところで満を持しての登場だ。
前半、彼女らの世話になった手前、上杉の腕の一本でも食いちぎってこなければ、顔向けできん。
「あっしの狙いは、アンタに大火力を叩き込むコト」
緑の炎を噴きながらバルディートは、上杉に肉薄。
「いきやすぜ、みなさん、お気をつけを!」
バルディートの言下、蒸気王のスクラップを残してあった紅葉を筆頭に、釉乃と真多子はその影に隠れる。
兵庫は、すぐ近くにいた【教導姫】の背を撫でながら、それでも彼女の後ろに身を隠す。
「弱点があれば補いあえばいい――明確だからこそ、カバーしてもらえ、こうしてアタッカーを任せられる」
「一人では戦えんのか、難儀だな」
「伝わりませんか、確かにアンタは強えんでしょう、けど、それをも凌ぐ力がありやす――お見せしやしょう」
轟然と猛然とバルディートは、上杉との距離を詰める。皮膚は堅く、爪も牙も堅く、緑炎は轟々と燃え盛り、上杉に迫りゆく。
閃いたのは、漆黒の刀。横薙ぎに払われた一閃は、しかしバルディートの装甲をわずかに斬りつけ、次いで斬りつけられた白の剣閃――竜頭の強烈なアギトがその剣を食い、砕いた。
「なっ!?」
乳白色の双眸が、熾烈に上杉を睨みつける。
「逃げても追いかけやすがね、どうしやしょう、鬼ごっこしやすか?」
「戯言を……!」
バルディートの言葉に上杉は、残ったたった一振りの《アンヘルブラック》を正眼に構え、隙なく対峙する。
「なら、そこで消炭になってくんなあ!」
猛火を噴き上げる。
緑の火焔は上杉を飲み込んだ――それを見届けて、バルディートは変身を解く。
その瞬間跳び出すのは、真多子だ。
彼女を追ってマイカも続く。
「いくよ、マイカちゃん!」
「いイカ、協力するのは今回が最後だぞ、マダコ!」
「うんうん! ありがとう、マイカちゃん!」
「ホントにわかってるか!?」
「うんうん! さあ、攻撃するよ! せーの!」
真多子は《タコ墨》(マイカはイカ墨)で作り上げた手裏剣を、正確無比に擲つ。息の合った、怒涛の手裏剣の嵐は、炎撃でよろめく上杉の肢体を斬りつけていく。
「せんせーの分は、俺が攻撃します」
言った兵庫の手にあるのは、《警棒》だ。打ち据えるだけでない、振えば衝撃波を生み出し、敵を容赦なく沈めてしまうものだ。
「討ち果たします!」
酷くダメージを受けている上杉だが、油断はならない。兵庫はそれでも彼の間合いへ一足のうちに入り込み、振り下ろされる剣閃を、第六感を閃かせ躱して、《警棒》を打ち据える!
直後、解き放たれた力の奔流は、上杉の体をなお傷つけ、鮮血を流させた。
「どう。侮っていた猟兵に、ここまでこてんぱんにされる気分は?」
釉乃が訊く。しかし、上杉は咳き込むだけで答えない――否、答えられない。
「骸の海に帰ってもらうね」
《白雲去来》の鯉口を切る。
息荒く、上杉もまた黒刀を構えるが、その筋はもはや見る影もない。
釉乃の剣は、抜刀一閃、振り下ろされた上杉の剣を跳ね上げ、返す刃で、もはや意味を成さなくなった甲冑ごと斬りはなった。
白く美しかった上杉の様相はもうない。
「――、――」
唇がわずかに動く。
声はない。
上杉の体は傾いで、その場にどうっと斃れた。
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紅葉は、大きく息をついて空を見上げる――瓦解してなお紅葉らを守り続けた蒸気王を撫でる。
最後まで兵庫を守ったせんせーももういない。彼女の身に封じ込めた刀も消えていた。
マイカは、真多子に口うるさいほどに約束を確認して帰っていく。
「いやぁ、……なかなか」
バルディートの言いかけてやめた言葉は、風にのって消えていった。
「帰ろうか」
紅葉の声に四人は頷く。
まだ、真なる意味での終幕ではないが、眼前の戦いは終わったのだ。
心はすり減った――癒しに戻ろう。仲間の待つ温かな場所へ。
大成功
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