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エンパイアウォー⑳～元支配者

作者：龍真　神

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●大悪災
「なんだよ……なんだよぉ！」
　豪華絢爛な花の御殿から、華やかさとはかけ離れた低く醜い声が響いた。
「徳川だけでも厄介なによぉ！」
　女の名は日野富子、８代足利将軍の正室であるが故に黒く艶やかな髪を持ち、市民には一生着られる事はないであろう美しい着物を身に纏っていた。
　しかし、それを全て台無しにする程に彼女の顔は怒りで歪んでいた。
「猟兵というヤツも出てきて！　クソッ！　何所が正義なんだ！　金を持っているアタシの方が正義だろうが！」
　威嚇して吼える獣の様に日野富子は叫んだ。

●グリモアベース
「皆さん、日々サムライエンパイアでの戦いお疲れ様です。さて、喜ばしいという……べきなのでしょうか？　百面鬼『風魔小太郎』に続き、大悪災『日野富子』の居場所が判明致しました。そう、彼女は足利義政の正室で9代将軍の母親である人物です」
　藤色の髪飾りを揺らしながら神山・琥珀（白銀の妖狐・f01799）は、目の前に居る猟兵達に向かって静かに言った。
「相まみえた事もある方もいらっしゃるかと思いますが、徳川家に対してかなりの恨みを……いえ、金さえあれば正義であり、誰もが彼女に従うと思いこんでおられます。その為なのかは不明ですが」
　琥珀は現在のサムライエンパイアの地図を出すと、大悪災『日野富子』が見つかった場所を指した。
「そう、京都の本来ならば足利将軍の邸宅である場所は、日野富子が財産をつぎ込んで作った『花の御所』――そこに彼女は居ます」
　紅玉の様に赤い瞳で琥珀は、じっと猟兵達に視線を向ける。
「戦いの場はその、新築された豪華絢爛な花の御所となります。まだまだ、見つかっていない魔軍将や苦難が待ち構えているでしょうが、今は目の前の脅威を排除してください。皆さん、よろしくお願いします」
　と、言って琥珀は、猟兵をサムライエンパイアの京都『花の御殿』へ転移させた。

第1章 ボス戦 『大悪災『日野富子』』

POW   :    アタシの前に立つんじゃねぇ！ 【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。 SPD   :    アタシのジャマをするな！ 自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。 WIZ   :    誰かアイツをぶっ殺せよ！ 自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●“炎”
「お金持ってても人望が無いんじゃ……あ”」
　花の御所に転移されると、ジャージ姿で気だるそうな表情で日上・文女（アイムノットヒーロー・f16173）が欠伸しながら言うと、視界にはその言葉を真に受けた日野富子がギリィと親指の爪を噛んだ。

　気付いた頃には時すでに遅し――

「くふふ、金が正義アルカ。燃やしたくば燃やすと良いアル」
　眼帯で覆われてない紅玉の様に赤い瞳で見据えながら黒白・鈴凛（白黒娘々・f01262）は、仁王立ちのまま自信満々に声を上げる。
「うわ何コレ趣味悪……」
　そんな事よりも『花の御所』の装飾品やらを眺めていた佐倉・理仁（死霊使い・f14517）が、おどろおどろしいソレを見て目を丸くしながら呟いた。
「誰かアイツ等をぶっ殺せよ！」
　人を小馬鹿にした様な猟兵の態度が苛立ちを増幅させたのだろう、応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊が召喚されると猟兵に向けて放たれた。
「と、突げーー」
　思わず本音を言って苛立たせた文女は、ユーベールコード『鬼火特攻愚連隊（バッドボーイズファイアワークス）』を発動させる、が――
「ヒャッハー！」
「ツッコムゾー！」
「ブチカマスゼー！」
　召喚された鬼火型特攻兵器達は、世紀末間丸出しにしてイカスモヒカンの様な火を揺らし、ナイスなサングラスでお洒落した鬼火野郎どもは好き勝手に駈け出した。
「言う事聞いてよぉ！？」
　と、わたわたしつつ文女が、鬼火型特攻兵器達に言うも彼らは知らんぷりで火矢にただ突っ込んで行く。
「し、仕方がない……これで、落とせると思いたい、ね」
　背中に携えていた『通販した合金バット』を引き抜き、文女は自身の方へ飛んで来る火矢を打ち落とす。
「ネェサン、マダデスカ？」
　元々従順な個体だけは文女の後ろでじっと指示を待つ。

　ワタシの歩みはその汚れた炎程度では止まりはしない

　焼け爛れた程度でワタシの美は損なわれはしない

　だから、その怨霊の火矢は――
「甘んじて受けるアルヨ」
　ウェーブかかった透き通るような白い髪を火矢が放つ風で靡かせ鈴凛は、急所に当たらぬように火炎耐性で熱さに耐える。
「戦闘力関係ナシに、アレはコワイね」
　と、日野富子を尻目に飛んで来る火矢を理仁は、そこらへんに飾ってあった壺等の装飾品や柱を盾にしつつ『骸の香』から放たれる呪詛が、火矢を蝕んで消す。
（頭さえ残っていれば、あとは同居人がどうにかしてくれる……）
　次々と飛んで来る火矢を眼前にすると、理仁は瞳を細めると覚悟を決めた様子で動きを止めた。
「手足はくれてやるよ」
　口の中から嫌なモノを吐き捨てる様に言う、が――
「そんな事を簡単に言うでないアルヨ」
　鈴凛が理仁を庇い、無数の火矢が背中に刺さるが彼女は顔色を変えずに不敵に微笑みながら言う。
「それじゃ、なんか……ダサイな」
「ははっ！　ワタシのユーベルコードに傷は必須アルネ」
　恥ずかしそうに理仁が視線を逸らすと、鈴凛は手を握り締めたり開いたりを繰り返しながら日野富子へ視線を向けた。
「黒の気は全ての味を知る鬼の気。この痛み、お前を喰らうことで癒やさせてもらうアル」
　ユーベルコード『黒喰イ鬼ノ顎（クログイオニノアギト）』を発動させると、全身は触れたものを食らう黒の気に覆われると地面を蹴って日野富子に急接近した。
　受けてきた痛みが力となり、鈴凛の重たい拳の一撃は日野富子を吹き飛ばし壁に叩きつけられ豪華絢爛な室内をボロボロにする程であった。
「今なら……！」
　間髪入れずに文女は、鬼火型特攻兵器達を突撃させた。
「お金あるのは凄いけど、それで偉ぶるのは違うと思……なんでもないです！？」
　鬼火で燃える日野富子を見て思わず口元を緩めてしまい、本音が漏れてしまい慌てて口を塞ぐも日野富子はそれどころじゃないのに気が付いた。
「死が、お前を攫いに来る。そいつが奴らと、お前の最期の光景だ」
　そう、理仁のユーベルコード『死霊召喚・災厄の日』により、日野富子は死者の濁流に飲み込まれていたからだ。
「水害で死んだ者達と共に、お前も全てを流されて失え――今日がお前の【災厄の日】だ！」
　と、声を上げる理仁だが。
「無駄、無駄だぁ！」
　濡れた髪がベッタリと顔に付いていようが、美しい着物がコゲてしまおうが、大悪災『日野富子』はまだその怨みは消えない。

　まだ、彼女の瞳はぎらぎらと光っているからだ――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●“失墜”
「アタシのジャマをするな！」
　新たに転移されて来た黒狼である大神・零児（人狼の妖剣士・f01283）を見て、日野富子の爪が光ると急激に伸びたソレをクローの如く振り下ろす。
「なんだ、攻撃回数が9倍になるだけか」
　その攻撃方法を見て、どんなユーベルコードかを理解した零児は、少々残念そうに呟いた。
「第六感の、その、先へ！」
　ユーベルコード『無双の意識』を発動させ、日野富子の攻撃を零児は自身の鋭い全ての感覚を使って素早くムダの無い動きで避ける。
　どんなに彼女が素早く、先を読んでいても零児に傷を与える事は叶わなかった。
「そんなに大事なモノなら、俺からのプレゼントだ」
　ニィと口元を吊り上げると零児は、マズルから覗く犬歯でマルチグレネードのピンを外すと、攻撃するタイミングに合わせて放り投げた。
　小さな発破と共にベチャリ、と黒い塗料が日野富子の両手をべっとりと塗られていた。
「それじゃ、自慢の爪はもうつかえねぇだろう？」
　塗料を取ろうと必死になっている日野富子を零児はただ、倒さなければならない“敵”としてしか見てない。

　“哀れ”なんて言葉は出ずに、他の猟兵と同じように“これは彼女が過去の栄光にすがった結果の自業自得”と――

「いやよ！　まだ、徳川も信長も倒してないのに！」
　頬を伝う涙は己の為の涙。
「……過去は、大人しく過去のままでいろ！」
　黒剣「黒鞘」からスラリ、と妖刀「魂喰」の刀身を引き抜くと、零児は眼前で所々黒く塗られた女“大悪災『日野富子』”の首を横一閃で斬る。
　ぼとり、と地面に頭部が落ちると涙を流しながら大悪災『日野富子』は、灰の様になりさらさらと音を立てながら消えた。
「やったアル！」
　見守っていた鈴凛が歓声を上げ、零児に向かって手を差し出すと握手をする。
「……ど、どうにか……なった」
　緊張の糸が斬れたのだろう、文女はその場に座り込んで安堵のため息を吐いた。
「でも、まだまだ同じような依頼は沢山あるんだよな？」
「あぁ、休んでいる暇はないだろうな」
　理仁の言葉に零児は頷くと、彼らは豪華絢爛とは言い難い『花の御殿』を後にしたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月10日