エンパイアウォー⑳「悪女、守銭奴、天下の悪妻」
●京の御所
『金』とはいつの時代にもそれ相応の価値を持つものだ。
時に権力として誇示され、数多の文明を支えてきた象徴とされている。
平時ならば叶わぬ願いですら、引き寄せる事ができる力そのものである。
「金、金、アタシの金……!!」
日野富子は美しく整えられた爪を畳の目に突き立てた。
見目からは想像できぬほど力強く、畳はブチブチと音を立て引き裂かれていく。
「徳川の財の大半は、元々アタシの集めた金なんだ……!!」
それを素知らぬ顔をして奪うなど言語道断、逆らうなど愚行も良いところだ。
「アタシが金を吸い上げたから国が乱れた?」
悪女、守銭奴、天下の悪妻。
彼女は民草より唾棄すべき二つ名を与えられている。
称されている通り、この混乱は彼女の行いから発展したものだ。
「――乱れたんなら、金を持ってるアタシが正義だろうが!! 黙ってヘイコラ従えよ!!」
搾取された側が何を偉そうな評価をしてくれるものだ。
日野富子は濡れ羽色の髪を靡かせ、立ち上がる。瞳に宿るのは怨嗟の色だ。
「ああムカツク!!あああああムカツク!!」
吠え立てる彼女を止めるものなどいない。
その身を包み込むようにして炎が生まれ、ぱちぱちと音を立て火の粉が爆ぜる。
「どいつもコイツも、アタシが殺してやる! 徳川を殺して、猟兵を殺して、もちろん信長の野郎も、ぶっ殺す!!!」
●グリモアベースにて
「まあ、そんな感じのアレをキャッチしましてねえ」
グリモア猟兵であるメイドが予知の内容をあなたに教えてくれた。
「今ってほら、色々忙しいじゃないですか。そんな中、あなたをとっ捕まえてしまって悪いのですが……しゅばばっと解決してもらえませんか?」
グリモア猟兵から依頼を持ち込まれることは早々珍しいことではない。
そもそもこの空間に訪れるということは、何かしらの事件を背負うということである。
「場所は京の御所、なんだかえっらーい人がすっごーいお金をかけて建てた豪邸らしいですね。日野富子って人物もやっばーいくらい強いらしいので、必ず先制攻撃を仕掛けてくると思います。頑張ってバビューンっと戦ってドッカーンと撃破していただけませんか?」
あなたはこの事件を受けても良いし、受けなくとも構わない。
だが、もし受けてくれるというのならば――。
「えっへん、この自慢のパイを差し上げますよ!!」
彼女の左手のパイ(?)が誇張無しに眩く輝いた。
ゴリラ
初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは!!
今回は大悪災『日野富子』と戦っていただきます。
彼女は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
尚、このシナリオは「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
メイドのパイに関しては触れても触れなくとも構いません。触れないのであればそのまま、触れるのであればパイに関してちょっとだけプラスしてリプレイを執筆させていただきます。
第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
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POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夕闇霧・空音
【アドリブOK】
こんな金ピカのお城なんて落ち着かないじゃない?
お金より大事なものがこの世にあるわ。例えば可愛い妹とか…
【戦闘】
火炎耐性である程度防げるとはいえ、視線で燃やされたら流石にきついわね。
まずは忍び足と暗殺スキルの併用、第六感での予測を駆使して
自分の持つ十字架で視線をガードするわ。
どうにかそこから飛び出してユーベルコードで頭を冷やさせてあげる。
最も部屋ごと冷えることになりそうだけどね。ついでに部屋も消火してやるわ。
二回攻撃でなんとか仕留められれば良いのだけれどね。
それと、私のかわいい妹の天音を馬鹿にしたりしたら
日野富子のブチギレに負けないぐらいにキレる自身があるわ。
●京の御所
辺りに人影は無く、魑魅魍魎に全てを喰らい尽くされてしまったが如く、不気味な静寂が辺りを支配していた。
だが、その静けさに紛れて火の粉の爆ぜる音が屋敷の奥から鳴り響く。
「こんな金ピカのお城なんて落ち着かないじゃない?」
夕闇霧は御所を眺め、ため息と共に呟いた。
京の御所、オブリビオンの日野富子が根城としている屋敷は絢爛豪華なものであった。
正門の精巧な飾りからしてかなりの血税が注ぎ込まれていると推察ができる。入り口でこれなばら中は一体どのようになっていることやら。ただただ呆れるばかりである。
「お金より大事なものがこの世にあるわ。例えばかわいい妹とか……」
自らの愛らしい妹・天音に比べれば、それに勝る財宝など有り得はしない。そう断言できるほど夕闇霧は妹を溺愛していた。
「可愛い妹のため……ここはさっさと終わらせるわよ」
己への鼓舞激励、夕闇霧は不気味な御所へと足を踏み入れた。
●夕闇霧空音と日野富子
中はだだっ広く、多数の部屋があった。
金箔のあしらわれた障子に、生き物の剥製、値打ち物の茶器や陶磁器などありとあらゆる富が並べられている。
一部屋で一体どれほどの価値となるだろうか、あまりの浪費振りに夕闇霧はこめかみを押さえたくなるほどだ。
「…………この先ね」
夕闇霧は御所の奥地へと辿り着いた。
襖を数枚挟んだ向こう側に、禍々しい気配を感じ取る事ができる。間違いない、件の日野富子はこの先だ。
「……火炎耐性である程度防げるとはいえ、視線で燃やされたら流石にきついわね」
まずは忍び近づき、炎をガードしつつ立ち向かうべきだろうか。
夕闇霧は気配を消して天井裏に身体を潜り込ませた。音を立てぬよう、オブリビオンの居る部屋へ近づき天井の板を外して様子を窺う。
眼下には紫紺の炎を燃やす女性が一人、火の粉を身に纏い鎮座している。確認するまでもない。彼女こそ今回の総大将たる『日野富子』だ。
夕闇霧は天井裏から静かに降り立った。わざと極小の音を立ててやれば、オブリビオンは気配に気が付き振り返る。
「――猟兵!! アタシの屋敷にまできたか、 ぶっ殺してやる!!」
オブリビオンは怨嗟に塗れた瞳を夕闇霧へと向けた。
「アタシの前に立つんじゃねぇ!!」
「言われなくとも」 夕闇霧は第六感でそれを察知し、予め用意しておいた十字架で視線を遮った。
オブリビオンの炎によって熱されていた室内に霜が宿り始める。火の粉の爆ぜる音は弱まり、代わりに生まれたのは氷の育つ音だ。
「八寒地獄を今この両腕に……封印開放!! ――フリーズゼロ、発射!!」 両腕がオブリビオンに向けられた。
パキパキと音を立てて畳が凍る、炎は鳴りを潜め氷によって鎮火されていった。それは夕闇霧を中心に加速していく。
口から吐き出される吐息は白く、震えるような寒さに肌が粟立つ。オブリビオンの瞳に僅かな焦りが生まれた。
「全ては可愛い妹のためよ」 このまま攻撃に移ろう、夕闇霧はサイボーグ腕から爪を展開してオブリビオンに向けた。だが、オブリビオンの呟きにより、その動きが止まる。
「妹……、そんなものの為にお前は戦っているのか?」
「そんなもの、だ?」
「自分以外の者などただの踏み台にすぎない、特に血を分けたものなど邪魔にしかならない!!」
時代により肉親は敵にも味方にも成り得る。不安定な要素として、忌むべき者として扱うこともしばしばあるものだ。
特に戦乱の世ともなればそれは顕著であろう。血を分けたものが殺し殺され奪い合う。別段珍しいことでもない。
だが、オブリビオンは言うべき相手を違えてしまった。
「どいつもこいつも敵だ、時が来れば容易く裏切るような者の為になんて――」
「黙れ」
梁が寒さに耐え切れず、バキリと大きな音を立てて割れた。辺り一面を支配するのは凍てつくような寒さだ。
「お前のようなやつに何が分かるんだ」
夕闇霧が大事にしている妹はオブリビオンが掻き集めた金よりも、いや比べることすらおこがましいほどに大事な財宝だ。
だがオブリビオンは一歩も引かない。口角を上げ、これ幸いにと夕闇霧を挑発していく。
「――お前の妹も、お前をただの便利道具だとしか思ってないのに、良いように操られて可哀想なやつだ。それが妹とやらの手中だろうに、良いように転がされて阿呆なやつめよ」
その言葉を受け、夕闇霧は自慢の爪をオブリビオンに向けた。
「お前に天音の何が分かる。好き勝手を言うな!!」
底冷えのするような視線がオブリビオンに向けられる。
怨嗟を孕んだ紫紺の目と、軽視が込められた藍色の眼。
両者の感情を表した瞳が鮮やかに煌き、交差する。
「「ぶっ殺す!!」」
焼け付くような業火、全てを飲み込む蒸気霧。
地を揺るがすような轟音が京の御所を包み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
星群・ヒカル
「てめーのシマを盛大に荒らしに来たぜ!」
宇宙バイク銀翼号に『騎乗』し敵の御殿に突撃だ
突入時の調度品の被害は大きければ大きいほどいい
冷静さを失わせるのが作戦の肝だからな
敵の先制攻撃は『早業・逃げ足・地形の利用』で回避
ウィリーの要領で畳のヘリを引っ掛け、弾き返せば爪が刺さって一手稼げるって寸法だ
その一瞬の隙で加速し狙うは、部屋の奥に置いてる豪華そうな物
「大事な物は日に当たらないように扱うもんだろ?」
必死で追ってくるだろう敵の攻撃は『ロープワーク』で
超宇宙牽引ワイヤーのフックを天井に刺し、敵の頭上を通って回避
そのまま入り口付近へ全力でバイクを加速させ戻り
遠くから『超宇宙・強襲流星撃』で攻撃するぞ!
●星群ヒカル
宇宙バイク銀翼号に搭乗していた星群ヒカルは爆音と共に京の町を走っていた。
「おっと、先に誰か戦ってるのか!!」
御所から煙が上がっているのが見える。あれは炎の煙だろうか、あるいは氷の靄だろうか。ゆらゆらと立ち込める煙は夜空に吸い込まれ、消えていく。
先に乗り込んだ猟兵との戦闘は続いているらしい。
ならば自分の役目は決まったようなものだ。
星群は石階段をバイクで昇りきり、勢いを殺さぬまま正門から突撃していく。
バイクの轟音、飛び散る砂利、間髪要れずに玄関の戸をバイクで破る。
派手な音を立てて入り口は開かれた。中から人が出てくる気配は無く、奥のほうで禍々しい気配が僅かに揺らいだ。
――標的をこちらに変えたか。
先に戦っていた猟兵には悪いが少しばかりの休憩だと思って欲しい。
「てめーのシマを盛大に荒らしに来たぜ!!」
星群は大声で吼える。
だだっ広い廊下に己の声が反響したのを確認し、迎撃するために廊下へとバイクごと乗り上げた。
「追加で二、三枚倒しておくか」
被害は大きければ大きいほどいい、冷静さを失わせるのが作戦の肝だ。
近くの襖を倒壊させながら大広間らしき室内へと愛車を走らせれば、オブリビオンの気配が近づいてくるのが分かった。どうやら上手い具合におびき出せたらしい。
星群は室内に飾られた調度品を眺めながらオブリビオンの到着を静かに待った。
「アタシの御所が!!」
暫くしてオブリビオン『日野富子』は姿を見せた。
長い髪を揺らしながら進入の痕跡を追いかけて星群の元へとやってきた。
壊れた襖を横目で見やり、星群へと吠え立てる。
「アタシのジャマをするな!!」
オブリビオンの爪が煌き、星群を捉えようと触覚のように伸ばされる。
「よしきたッ!!」
星群はウィリーの要領で畳のヘリを引っ掛け、オブリビオンとの間に簡易の壁を作った。
突然の畳返しに反応したオブリビオンであったが、急な旋回ができるはずもない。長く伸びた爪は畳に深く突き刺さり、オブリビオンは体勢を崩す事となる。
得た隙を使い、星群は大広間の奥にある絢爛豪華な飾り棚に目を向けた。棚には掛け軸や骨董品、名刀などが飾られている。
「大事な物は日に当たらないように扱うもんだろ?」
視線でそれらを示せば、オブリビオンは焦りの色を見せた。
「それは全部アタシのものだ!!」
盗られる、或いは壊されるのだけは阻止したい。オブリビオンは紫紺色の瞳を輝かせ、畳に突き刺さっていた爪を引き抜いた。
今度は畳ごと燃やし尽くしてやると、オブリビオンは炎を身に纏い星群へと飛び掛かる。
「来たなッ!!」
星群は超宇宙牽引ワイヤーを天井に向かって投げた。フックが刺さったのを確認し、そのままバイクごと敵の頭上を飛び越え突進を回避する。
「なっ!!」
「超宇宙望遠鏡ガントバス、融ッ合!」
入り口付近へとバイクを加速させ、宙を切り裂いたオブリビオンへと向き直った。
「もう遅い――蜂の巣にしてやるよッ!!」
バイクに搭載されたガトリングガンが唸りを上げ、無数の火花を咲かせた。
成功
🔵🔵🔴
水元・芙実
…火矢?
じゃあインナーにボディアーマーとアウターに難燃性の素材を着ておけば十分かしら。運動エネルギーは、その、気合で?
追ってくるのならギリギリで避けて壁にぶつけて止められないかな。
とは言うものの物理的存在って感じもしないから過信は禁物ね。
燃焼自体は耐えられるかもしれないけど、矢自体を止められそうな感じじゃないし。
…というかこの人正しく悪霊よね、色んな意味で。
空気を金塊に変えて押しつぶすわ(超重い★)
この人そういうの好きそうだし。
今の私のレベルならそれくらいの重さは作れる、はず。
もし堪えたら、形を変化させて相手の頭を叩いちゃおう。
あ、勿論この金は元の空気に戻しておくわ。市場価値おかしくなるし。
●京の御所
「火矢……? ……いえ、あれは重火器かしら」
水元芙実は京の御所から上がる火の手を確認し、呟いた。
ただの火事と済ませてしまうにはあまりにも炎の広がり方が違っていた。加え、時代に似合わぬ連射力を持つ重火器の音である。
それを扱える者となればオブリビオンか、あるいは猟兵のどちらかだろう。
「じゃあインナーにボディーアーマーと、アウターに難燃性の素材を着ておけば十分かしら」
運動エネルギーは、その、気合で? なんとかするしかない。
もしも追尾してくるタイプならばギリギリで避けて壁にぶつけて止められないかな。そう零し、水元は意を決して頷いた。
●水元芙実と日野富子
足を踏み入れた御所はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
手入れする者が居なかったせいか至るところに埃が積もっている、その上数名の猟兵が踏み込んだともなれば柱の一本や二本折れていても納得がいくというものだ。
水元は壊されていた襖を跨ぎ室内を探索していく。どのようにしてオブリビオンをおびき出そうか悩みあぐねたが、ふと妙案が過ぎった。
「……こういうの好きそうよね」
幻炎合成法で空気を金塊に変え、足元に数個放り投げた。
ゴトンと鈍い音を立てて畳に落ち、提灯から漏れる淡い光を受けて偽の金塊が煌く。
「アタシの――」 室内に水元ではない声が響く。
別の猟兵、そう断言するには声が禍々しさを帯びていた。
数秒遅れて姿を現したのは紫紺色の炎に身を包んだ女性が一人、狂気に満ちた目で水元の足元に転がっている金塊を眺めていた。
「金、金、アタシの金……!!」
――オブリビオン・日野富子が現れた。水元が先手を取るよりも早く、オブリビオンは火矢を召喚する。
紫紺色の炎を宿した矢が向かうのは金塊の傍らに佇んでいた水元だ。
「賊如きが!!」
「――っ!!」
水元は手はず通りに着弾直前まで火矢を引きつけ、偽者の金塊から離れた。
避け損なった火矢が掠ったが、幸いにも大事には至らず服の一部を焦がすだけに留まった。
行き場を失くした火矢が畳や壁に突き刺さり、新たな火の手を生み出していく。音を立て、燃え始める炎の勢いは未だ弱い。だが放っておくのもまずいだろう。早いところオブリビオンを何とかして消化しなければならない。目指すは短期決戦だ。
「そんなに金塊が好きなら、お望みどおりあげるわ――」
水元は再び幻炎合成法で空気を金塊へと変えた。
「金が――」
始めは変化させた金塊を掻き集めていたオブリビオンであったが、徐々に増えていく金塊に纏っていた炎が揺らぐ。
拾えども拾えども金塊は増えていき、やがて両の手から零れ落ちていく。
そればかりか畳を覆い、あっと言う間に積もっていった。
着物の裾、足袋、膝下。金塊は徐々にせり上がり、オブリビオンの動きを封じた。
「――ていっ!!」
水元は仕上げとばかりに、金塊を一つ拾ってオブリビオンの頭を叩いた。
おおよそ人から聞こえるべきではない打撲音が鳴り、オブリビオンはがくりと項垂れる。
「よし、これで片付いたかな……」
水元は一息付き、変化させていた金塊を全て空気に戻した。
このまま放置すれば市場価値は崩れる恐れがある。混乱を治めにきた己が乱すわけにもいかない。治安維持も立派な仕事である。
水元は辺りで燻る火種に幻炎合成法で生み出した水を注いだ。撃たれた火矢の数が多かったため、完全に消火するには少々時間が掛かるだろう。
「さて、本格的な消火の前にオブリビオンを――」
振り向けばそこは蛻の殻。
「……この人正しく悪霊よね、色んな意味で」
オブリビオンの居た畳だけが一際大きく焦がされていた。
成功
🔵🔵🔴
メグレス・ラットマリッジ
女の形こそしていますが執着を剥き出しに爪を立てる様はまさしく獣
お金は世を巡ってこそ健全、血と同じです。死人が持ち合わせてよい物ではない。
事前準備として屋敷内の広く戦い易い場所と価値の高い物品が集められた部屋を把握しておきます
UC対策
・絶望の福音で得た予測力で回避難度を下げる
・拷問具の発光・電気ショックで行動妨害(マヒ攻撃など)
・屋敷の高級品に対して攻撃の躊躇があればそちらに誘導し動き辛くする
UCのデメリットと素人の引き出しの少ない体術、時間は私に味方してくれる。ひたすらに耐えるとしましょう。
パイは……パイは今回は遠慮しておきます、遠慮させてくださいお願いします。
龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎
【POW】
「…あなたを見ていると、"あの者は倒さなければならない"っと思って私もいらいらしてくるよね」
まずは、徳川軍から借りてきたけむり玉を物陰から投げて富子の足元で発煙させて相手の"視覚"を奪うよ
その後、奇襲をかけるために黒焔竜剣壱式を持って急接近
より近づくために、私とは逆の方向からホムラを奇襲させるよ
しかし、至近距離ならば富子にまともに見られ、私は火だるまになるね…。
でも…いやだからこそ、【火炎耐性】や【気合い】、そして富子の憎悪を恐れない【勇気】で、【力溜め】から【怪力】任せの焔【属性攻撃】、憎悪の炎をも焼き尽くすUC、『煉獄黒焔斬』で【なぎ払】ってあげるよ!!
●京の御所
「パイは……パイは今回は遠慮しておきます、遠慮させて下さいお願いします」
メグレスはうわ言を漏らしながら京の御所に忍び込んでいた。オブリビオンと戦うための事前準備として屋敷内の偵察を行うためである。
広くて戦いやすい場所、価値の高い物品が集められた部屋。それらを把握し、場所にあたりをつけていく。
戦いやすい場所は言わずもがな、金品に関してはいざというときの人質候補だ。
幸いなことに別の猟兵がオブリビオンと応戦しているためそれは容易く行う事ができた。
「ではここでお待ちしましょう」
メグレスが戦う場所として選んだのは大広間だ。
既に誰かが戦闘した形跡はあるものの、動き回りやすく外からの加勢も見込める。置かれている物品も中々に値打ちがありそうであった。
「しかし、どうやってオブリビオンを……」
「アンタもアタシの金を――!!」
メグレスが如何様にして誘き寄せるか、その算段をしようとすれば大広間に一人の女性が現れた。
紫紺色の炎を纏ったのは今回のオブリビオン・日野富子である。メグレスは手間が省けたと内心ほくそ笑んだ。
大まかな見目はメイドから受け取った情報そのままではあるが、濡れ羽色の美しい黒髪は乱れ、衣服には銃弾が貫通した痕が見て取れた。猟兵との決着をつけてからこちらに来た、というよりは逃げ回っていると言った方がしっくりとくる。他の猟兵達の活躍により、かなり体力を削り取られているのだろう。上下する肩がオブリビオンの劣勢を如実に表していた。
「ぶっ殺す!!」
オブリビオンの美しく整えられている爪は瞬く間に変形し、鋭く尖った剣先をメグレスに突きたてようとする。
「――絶望の福音」
オブリビオンの爪がメグレスの胸を抉ろうとしたその瞬間、メグレスは水流のように滑らかに身をかわし、最低限の動きで追撃をいなしていく。
加え、カウンターとして放たれたメグレスの電気ショック。それらの連撃はオブリビオンの動きをけん制するのに十分であった。
だが牽制するだけではこの戦いは終わらない。傷を負っているとはいえ相手は強大な力を持つオブリビオンだ。
「ちっ、厄介な電撃……でも、アンタの攻撃は決定打にはならない。いつまで耐えられる?」
女の形こそしているが、執着を剥き出しに爪を立てる様はまさしく獣だ。卑しい笑い声はこの世の全てを見下し、絶望を振りまくことにより己を確立しているかのようだ。
「お金は世を巡ってこそ健全、血と同じ。死人が持ち合わせてよい物ではありません」メグレスは諭したが、オブリビオンは歯牙にもかけない。
「戯け、鼠め駆除してくれる!!」
再開された猛攻にメグレスは眉を寄せた。
確かにこのままでは有利な展開には持ち込めない。
「でも……時間は私に味方してくれる」
今はひたすらに耐えるより他無いのだ。
●メグレス・ラットマリッジと龍ヶ崎紅音
オブリビオンの容赦無き猛打、それをかわし続けるメグレス。
終わりの見えぬ戦いに終止符が打たれたのは、交戦を始めて暫くの事であった。
「……あなたを見ていると、"あの者は倒さなければならない"っと思って私もいらいらしてくるよね」
それは前口上というよりは確かな 憤懣を孕んでいた。
声の主はオブリビオンでも、メグレスでもない。
姿は無く、その場に現れたのは一つのけむり玉であった。ころころと転がり、オブリビオンの足元で発煙し瞬く間に辺りを覆った。
第三者の来訪を予知していたメグレスは巻き込まれることなく煙から逃れ距離を取る事ができた。対してオブリビオンは逃げ遅れ、煙により視界を奪われる。
「むかつく、むかつく、小賢しい鼠め!! アタシの前に立つんじゃねえ!!」
オブリビオンは紫紺色の炎で煙を払おうと憎悪の篭った視線で炎を爆発させた。
爆風により、煙がなぎ払われ視界がクリアになった。その瞬間、オブリビオンはこれが奇襲であるということを思い知らされる。
「――この呪われた焔の斬撃を受けられるかな!!」
オブリビオンの背後を取り、刀を振り被っているのは龍ヶ崎紅音だ。
真っ直ぐとオブリビオンを見据え、狙いを定める。
紫紺色の炎とは違い、煌々と美しい煉獄の炎を纏った刀はオブリビオンに確かな一太刀を浴びせた。傷口から炎が侵食し、オブリビオンの肌を焦がしていく。やや遅れ、オブリビオンの飛び散った血が畳を汚していく。
「……待った甲斐がありました」
メグレスは安堵の表情を浮かべ、加勢してくれた猟兵・龍ヶ崎紅音に笑みを送った。
「引きつけてくれてありがとう」
龍ヶ崎は先に潜入していたメグレスの気配を察知し、決定打を打ち込むために潜んでいた。また、メグレスも同じくして龍ヶ崎の気配を感じ取り、乱入のタイミングを見計らっていたのだ。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。私はメグレス、予知が得意です」
「龍ヶ崎紅音、炎相手なら任せて」
視線を交差させ、頷く。
「あああ!! 鼠め、徒党を組みおって鬱陶しい!!」
太刀傷から血を流し、オブリビオンは吼えた。
「行くよメグレス!!」
「はい、龍ヶ崎さん!!」
予知にも近い予測からくる撹乱、そして怪力任せの重い斬撃。言葉が無くとも互いをフォローできる能力は確かな脅威としてオブリビオンの前に立ちはだかる。
連携の取れた二人の猛攻にオブリビオンは成す術も無くそれらを受けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
郁芽・瑞莉
ご自慢のパイを食べて腹ごしらえ。
ご馳走様と笑顔で戦場へ。
お金=正義とか力とか思っている人は面倒この上ないですね。
人間、お金以外の力そしてお金ではどうにもならない事もある事を、
日野富子に教えてあげましょう!!
相手の先制攻撃には第六感と見切り、
ダッシュにジャンプ、スライディングの身体能力、
空中浮遊に残像と迷彩のフェイント能力で相手の攻撃を回避。
回避不能なものは薙刀で受けて、オーラ防御や神霊体の防御力と
激痛、火炎耐性で耐えつつ前進。
間合いに入ったらカウンターで、
早業のランスチャージで串刺して相手の炎の防御を砕いて。
ドーピングで身体の素早い2撃目でなぎ払い、
砕いた防御のダメージを抉った鎧無視攻撃を
●郁芽瑞莉
腹ごしらえを終えた郁芽は京に訪れていた。
至福とも言える満腹感に笑みを携え、足を踏み入れたのはオブリビオン・日野富子が住まう御所である。
先に潜入していた猟兵との戦闘の痕は苛烈さを物語っていた。御所の至る所で火種が燻っているのが良い証拠だ。
「お金=正義とか力とか思っている人は面倒この上ないですね」
今は見る影も無くなってしまっているが、絢爛豪華であっただろう室内の装飾を見て、郁芽は呟く。いつの時代も欲に溺れた人間の末路など決まっているようなものだ。
郁芽はオブリビオンの逃げ回る痕跡を辿り、潜んでいると思わしき部屋の襖を勢いよく開いた。
「誰がアイツをぶっ殺せよ!!」
待ち伏せていた。そう言わんばかりの笑みを浮かべ、オブリビオンは怨嗟の言葉と共に数多の火矢が郁芽に向かって射出する。
「お金ではどうにもなら無い事もある事を、教えてあげましょう!!」
それは凄惨な末路を辿る者への餞別なのやもしれない。
郁芽は雨のように襲い来る火矢を第六感で見切り、狙いから外れるように走りこみ、スライディングでそれを避ける。
いくつかの火矢は郁芽に当たることなく畳へ突き刺さり、薄暗い室内に明かりを点した。
「まだ来ますね」
操られているのだろうか、あるいは自我を持っているのだろうか。
火矢は緩やかに軌道を変え、空中に逃げた郁芽を追いかける。
落ちるまでは獲物を追い続けるようになっているのかもしれない。軌道上に残像を残せば、火矢の殆どは本体を追う事無く奥にあった襖を貫いた。
「ちょろちょろと鬱陶しい!!」
猛り狂うオブリビオンの身体にはいくつもの傷跡がある。猟兵との戦闘で体力をかなり消耗しているのだろう。
「……近づかれたくないですよね」 ならば近寄るのが最も有効な手段だろう。
郁芽は火矢をよけつつ、相手の懐へ潜ろうと試みる。
避け損ねた火矢は肌を掠り、身を焦がしていく。激痛に眉を寄せたが、今はそれよりもとにかく前進するのみだ。
「近寄るな鼠風情が!!」
「お断り致します」
火矢の雨を潜り、郁芽は相手の間合いへと入り込んだ。
鋭く変形したオブリビオンの爪が郁芽を貫こうとするが、それをいなし郁芽は飛苦無で掌を打ち抜く。
オブリビオンは吼え、痛みに悶え炎を呼び出そうとした。だが、その隙に郁芽は巫覡載霊 薙ノ舞で身体能力を上げた。
先ほどよりも勝る速さに対応できるわけもなく、オブリビオンは禍ノ生七祇の一撃をその身に喰らった。
纏う炎を消し、骨肉を断つ。
禍ノ生七祇により放たれた衝撃波により深手を負い、オブリビオンは苦痛に顔を歪める。
「巫覡なるこの身に神祇を宿し、禍を薙ぎ清めましょう!」
郁芽の高らかな声が炎に包まれた室内に木霊した。
成功
🔵🔵🔴
ユウキ・スズキ
「つい最近、欲望塗れで滅んだ人間を見たような気がするが、ところ変わっても人は変わらず…か。世知辛いねぇ…なかなか美人なだけにもったいない」
見切り、情報収集、第六感、戦闘知識、視力、暗視、世界知識、学習力、地形利用に空中戦
全ての装備、技能と己のSPDで回避に徹する。
ブラフで気を散らしてもいいな。
「おっと、俺を殺したいのは分かるが、そんなに慌てないでくれ。俺の心臓が止まるか、俺がスイッチを入れれば、あらかじめ仕掛けておいた爆弾がここを吹き飛ばす事になるぞ…?」
先制攻撃の終了後は俺の戦場に御招待しよう
「数千発の銃弾、爆薬、砲弾。贅の限りを尽くしたフルコースを御賞味あれってな。彼岸に眠れ…死に損ない」
●ユウキ・スズキ
ユウキは戦禍を被り、荒れた御所を見てため息を吐いた。
「つい最近、欲望塗れで滅んだ人間を見たような気がするが、ところ変わっても人は変わらず……か」
時代が変わろうとも、世界が変わろうとも、欲に身を滅ぼされる者は後を絶たない。
それもそうだ。誰もが同じ轍を踏んでいる自覚など持っては居ないのだ。
己の思い描く何かのために行動をする。
それは人間の性であり、皮肉なことに時代を動かす転機でもあるのだ。
「世知辛いねぇ…なかなか美人なだけにもったいない。そうだろう?」
ユウキは目の前に現れた女性を見て小さく笑った。
「アンタに何がわかる、何が分かるっていうんだ……」
オブリビオン・日野富子は口端から血を流し、ユウキを睨めつける。猟兵との戦いにより得た傷口は火傷によって変形している、止血の為に己の身を焼いたのだろう。
「……アタシのジャマをするな!」
何がそこまで彼女を奮い立たせるのだろうか。
オブリビオンは満身創痍の身で爪を変形させ、鋭い切っ先をユウキに突き立てようとする。
だがそれをむざむざ喰らうほどユウキも呆けてもいない。
薄暗がりの中、オブリビオンの炎に照らし出されぬように闇に紛れた。
壊れた調度品を飛び越え、飾り棚を盾にし、相手の攻撃パターンを見定める。
「おっと、俺を殺したいのは分かるが、そんなに慌てないでくれ」
嘲笑うような言動にオブリビオンは吼える。
「俺の心臓が止まるか、俺がスイッチを入れれば、あらかじめ仕掛けておいた爆弾がここを吹き飛ばす事になるぞ……?」
それはただのブラフだ。
だが彼女には効いたようで、形振りの構わぬ攻撃はピタリと止む。
鳴りを潜め、暗がりに眼を向けるその仕草は確かな一撃を喰らわせるチャンスを窺っていた。
獣のような女だ、そんな言葉が浮かんでは消えた。
「……俺の戦場に御招待しよう」
ユウキはユーベルコードを展開する。
サムライエンパイア様式の建物は瞬く間に消え失せ、そこに在るのはただの平原だ。
果ての見えぬ空が広がり、そして雲と見紛うのは数多の煙。
炎が生み出す煙とも、大気中の水蒸気が凝結してできた靄とも違う、硫黄が混じった香りは一度嗅げば忘れらないだろう。
「数千発の銃弾、爆薬、砲弾。贅の限りを尽くしたフルコースを御賞味あれってな」
風が吹き、煙が霧散する。現れたのは全てを蹂躙する戦の化身だ。
爆撃機、戦車隊、歩兵中隊、列車砲たち。サムライエンパイアのオブリビオンには馴染みの無い、現代を象徴する機械が歪な音を立てオブリビオンを威嚇する。
「彼岸に眠れ…死に損ない」
ユウキの言葉を皮切りに、恐るべき機械は底冷えのするような唸りを上げた。
●日野富子の最後
「アタシ、は……」
いまや風前の灯となった日野富子。
怨嗟に塗れた瞳は変わる事無く世を憎んでいる。
その眼から輝きが失われ始めようとも、彼女の眼が変わることはなかった。
世を憎み、蔑み、奪い取ったもの。
または悪女、守銭奴、天下の悪妻。
「アタシの――」
悪しき者として名を残す彼女は今ここに討たれた。
彼女が最期に何を思ったのかは、誰も知る由も無い。
大成功
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