●悪妻=悪災
花弁が、炎のように舞い散った。
そこはかつて足利将軍家の邸宅であった『花の御所』。其処は既に、豪華絢爛なる庭園へと変貌しており、元の様相はほとんどない。
建築物は歪なる至極色に塗り替えられ、大地に咲くのは紫の飛燕草。
「あぁ、あぁ、あぁ……! 気に食わねぇ!」
その中心に立つは、情念の業火をあげる一人の女。
「アタシの金はアタシのモンだ! 悪女? 守銭奴? ハ! ほざけよ貧民。テメェらがどれほど喚いて囀ろうが、アタシの七万貫は誰にも渡さねぇ」
『大悪災』――日野富子。
女は天空を睨み、何れ来るであろう己を屠るもの達に向け吼える。
「ムカつくんだよ。目が覚めてからムカついて仕方がねぇ! どいつもこいつもみんな殺して、黙らせねぇと気がすまねぇ!」
そう、気に食わない。なにもかもが気に食わない。
徳川の世も、己に牙を向ける猟兵達も、そしてかの第六天魔王も。
ならば殺してしまえばいい。屠り倒してしまえばいい。邪魔なものは壊して退かせる、不要なものは捨てて廃する。単純明快、至極当然の理だ。
「――アタシに逆らうならば、死ね」
此処に、災いが君臨する。
●
「はじめまして、猟兵の皆様」
恭しく頭を垂れて、その少女は貴方達に向けて言葉を紡いだ。
「わたしは三千院溟。今回あなた達へと依頼を渡す案内者」
詠うように続ければ、溟の手にしたグリモアを介してそ光景が広がった。
そう。日野富子によって異界と化した、『花の御所』が。
「はじめての予知がこんなにも強烈なものとは思っていなかったわ。……けれど、視てしまったのだから仕方がないわね」
淀み、濁り、紫の一色に塗りつぶされた強欲の園。
空は重く暗く垂れ込み、日の光さえをも遮る暗黒。
その中心に立つ、一人の女。
「彼女は『日野富子』。知っているひともいるでしょうけれど、第六天魔軍将の一人よ」
溟は淡々と続ける。今回の依頼の内容を。
「――あなた達には、彼女を討伐してほしいの」
舞台はオブリビオンの手中となった『花の御所』。すべてすべてが富子の思うがままに作用する庭園にて、災いとなった過去を殺して欲しいと。
「けれど彼女は強敵だわ。絶対的に絶望的に『強い』。災いとなってしまうほどなのだから、きっと神様にだって匹敵する」
故に、対策は必須。
下手に慢心したり奢ったりすれば、大きく足を掬われるだろう。
「富子はあなた達が使用する力と同じ部類で『必ず先制攻撃をしてくる』。だから彼女に攻撃を届かせるためには、その『先制攻撃をどうやって防いで、反撃に繋げるか』を考えないといけないわ。でないと、あなた達は災いに触れることもできない」
女の情というものは恐ろしいものだ。
時に鬼にもなり、時に災厄にもなる。
肉体の裡に三体の狂女(オウガ)を宿す溟はそれをよく知っている。
「だから頑張りなさい。あなた達は過去を殺し、未来を生かす者たち。世界に選ばれたのだから、神様だって斃せるはず」
けれど同時に、目前の貴方達がそれを凌ぐ可能性を有していることも知っている。
こうして予知を伝えたのも、貴方達猟兵の力を信じたゆえ。
「さぁ、行きなさい。豪華絢爛の悪辣園へ」
少女の手に浮かぶ時計のグリモアの針が十二時を指し示したと同時、貴方達の視界を眩い光が覆った。
どこかで鐘の鳴る音が聞こえ、目前に『大悪災』が姿を見せる。
ヒガキ ミョウリ
おひさしぶりです。ヒガキミョウリです。
今更な感じが否めませんが日野富子戦です。わぁ。
皆さんの熱いプレイングお待ちしております。
以下はプレイング送信に関する注意になります。ご熟読ください。
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大悪災『日野富子』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
====================
第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
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POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ルード・シリウス
身を焼く程の狂気、憎悪、執念…実に最高だよお前
さぁ、お前の狂気と俺の狂気、どっちが先に焼き尽くすか喰らい尽くすか、存分に殺り合おうぜ…っ
◆行動
視線を向けられる瞬間を見切り、残像を自身が立っていた場所に置きながら視線を切る様に回避
同時に、視線を切れなかった場合は暴食剣と呪詛剣を盾代わりに構えて、被弾による負傷を少しでも抑える
回避ないし防御出来たら爆発に紛れて迷彩と忍び足を駆使し、気配と音を殺して死角となる位置を取る様に接近
接近出来たら【鮮血暴君の魔剣】を発動して武器強化。二刀による連撃と捕食能力(生命力吸収&吸血)による継戦能力を活かした斬り合い持ち込む
俺が欲しいのは、お前の財より命だ…大悪災
●貪欲者
「――来たのか」
ルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)が花の御所に降り立って、すぐに鼓膜に届いたのはそんな言葉だった。
低く気怠げな女の声、しかしその奥底には火よりも苛烈な悪性が炎上している。
『視られた』。
ルードがそう理解すると同時、彼の肉体が紫に燃え上がる。
それは富子によって放たれた憎悪の業火。視認したと同時に一切の暇無く繰り出されるその咒法は必中にして必滅。
「消えろよ、猟兵」
視えるとは、即ちアタシの前に立っているということ。
であれば燃えても、灰になっても仕方がない。
だって、なぁ、そうだろう? アタシの邪魔をするやつは、誰一人だって生かしちゃおけない。どいつもこいつもアタシに楯突くっていうのなら、どいつもこいつも燃やしてしまえばいい。
ヒトの形を持った災いが猛る。無尽の憎悪に灼かれたルードに向けて、さらなる死滅を齎すべく爆炎が迸った。
「燃えろ、燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ!! 肉も骨も魂も、全部まとめて灰になれよォォオオ――!!」
火の灯った花弁が中空を舞い、爆音が空気を揺らす。
されど、
「ク……実に最高だよお前」
ルード・シリウスは死んでいない。
富子が燃やしたのはルードが発生させた残像であり、ルード本人ではなかった。
爆発の衝撃と爆音に紛れ疾駆した彼が今どこにいるか。
それは――。
「俺が欲しいのは、お前の財より命だ……大悪災」
富子の背後。
ちょうど死角となる位置にて、ルードはその身に流れる埒外の力を解放する。
刃を己が血液で濡らし、携える二剣の封印を解除する業。一度鞘から抜いてしまえば、虐殺を為すまで決して鞘には戻らない剣の名を冠する――。
「『鮮血暴君の魔剣(ダインスレイフ)』ッ!!」
神を喰らう暴食の剣が、悪を無恥とする呪詛の剣が、夥しい血を纏った大剣へと姿を変えた。それは通常のヒトであれば持つことも触れることも敵わないそれらを、ルードは片手で振るう。
「テメェッ!!」
走るのは紅の剣戟と紫の火炎。
至近距離で弾ける二つの狂気が、彼らの異常性を何よりも語っている。
富子は咄嗟に火炎の障壁によって刃を防ぐも、ルードの刃が有する力によって力を吸われているのを理解して。
「なァんだ。テメェ、アタシと同じだな? 腹ン中で渦巻いてるモノがよォく視えるよ。憎くて憎くて仕方がねぇ。殺したい、奪いたい、咒いたい。滑稽だねぇ」
「だからどうした。悪いけど、俺は今腹が減ってるんだ。飢えて飢えて仕方がない」
「ハ――そうかよ、気に食わねぇな。アタシのモンは誰にも渡さねぇ。金も! 命も! なにもかも! 来いよ同族、焼いてやる」
「言われなくても。さぁ、お前の狂気と俺の狂気、どっちが先に焼き尽くすか喰らい尽くすか、存分に殺り合おうぜ……っ!!」
――再度、二つの憎悪が衝突する。
成功
🔵🔵🔴
ステラ・アルゲン
★▲
あの女の金への拘り……凄まじい執着か
いいやなんでもない、ソル。あれを倒しに行こう
【太陽剣】のソルを手にわざと視線に晒すように【勇気】を持って敵の前へ
先制攻撃が来ると分かっているならばこちらも覚悟ができる
【オーラ防御】を展開しつつ【激痛耐性】【火炎耐性】で耐え紫の炎を太陽剣で【生命力吸収】で魔力に
耐えたら【黒陽の星】を発動(瞳が緋色へ。大剣が呪いの黒炎を纏う)
寿命など物にないが仮初の体は代償の呪いに蝕まれる
敵から受けた傷もあるゆえ速攻で一撃だけでも食らわせてやる!
【ダッシュ】で近づき【怪力】の【鎧砕き】の重い一撃を敵に与えようか!
●天照
紫炎が、庭園を覆い尽くしている。
咲き乱れる飛燕草は炎に舐められ空へと散り、そこに降り立つ騎士が一人。
「あの女の金への拘り……凄まじい執着か」
ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。
彼女は、その蒼き双眸に悪災を捉え零した。
「いいやなんでもない、ソル。あれを倒しに行こう」
握りしめるのは漆黒の太陽剣。身に纏うのは優雅の白。
それまで富子と切り結んでいた猟兵と交代するように、しっかりとした足取りで前へと歩む。
大丈夫。負けたりしない。私は一人ではないのだから。
――日野富子、彼女の願いはあまりにも先がない。財を欲し、富を求め、数多の民草から収奪をする彼女は、他者を食い潰す災いだ。
故にここで討ち取らなければならない。でなければ、未来を生きるもの達にとっての害となるだろう。
何よりすべてを殺そうとしているのだ。そんなもの、看過できるはずがない。
恐ろしくないと言えば嘘になる。先程からこの肌が感じているのは紛れもない強者の威圧。神に等しいかと思うほどの膨大な力。勝てるのかと不安になる。けれど――。
(「退くわけには、いかないな」)
主のような騎士になるために。
英雄ではなく、誰かを守れる騎士になるために。
星の剣は、大悪災と再び相対する。
「――消えろ」
富子の攻撃が放たれたのは一瞬だった。
ステラが裡に勇気を抱いたとほぼ同時。踏み出した足が地面に降りた刹那に、富子の瞳がステラを『視た』。
「ク、ぅぅッ!!」
灼熱が全身を撫でて、業炎が立ち昇る。
焦熱が身を縛り、爆炎に魂を焦がされそうになる。
禍々しき炎が全身を灼こうとするのは分かっていた。だから腹を決めたのだ。
煌めく星々の障壁がステラの全身を覆い富子の攻撃を防ぐも、完全に遮断できているわけではない。瀑布のような憎悪は、闘気の壁を貫いて少しずつ肉体へたどりつこうとしている。
「ソルッッ!!」
呼ぶのは太陽剣。かつて嫉妬の闇に包まれた男が愛用していた剣が目覚める。
――あぁ、妬ましい。嫉ましい。
これほどの力があれば、俺は――。
「ア……?」
次の瞬間、ステラの身を包んでいた紫の炎が太陽剣に吸収されていく。まるで渇いたスポンジに水が染み込んでいくように、ステラの周囲の憎悪の炎がなくなっていき。
「『黒陽の星』」
ステラの瞳が真紅に輝く。
煌めく星の魔力が渇望する太陽の魔力と混ざり合い、意識が呪いに澱んでいく。
剣が紫よりも強い黒の炎を灯し、肉体が穢れに染まっていく。
物に寿命など存在しない。幾ら代償があろうと、『流星剣』が壊れることはない。
「……なんだよソレ。クソが、アタシの炎よりも強いってかァ!? ふざけんじゃねぇぞ、この△※★○!!!」
その様相は正しく『流星』。黒き尾を引いて富子の元へとステラは駆け寄り。
「くらえェェッ!!」
黒を纏う白の剣が、紫の災禍を薙いだ。
成功
🔵🔵🔴
天秤棒・玄鉄
★▲
清々しい程に猛々しいな、姉ちゃん。
は、そんなに嫌うんじゃねえよ。
【先制攻撃】も【だまし討ち】も心得はある。
最初の火矢は、【見切り】振るう天秤棒で【武器受け】し、弾きながら影を飛び立たせる【早業】を見せてやらあ。
『野狗仙術、鴉』
火矢を相殺しながら、飛び交うそれを【踏みつけ】【空中戦】さながらに肉薄。
踏み出しちまえば止まる道理はねえ。ヤドリガミの体だ。手足削られようと、突貫あるのみ。【激痛耐性】被弾も【覚悟】の上、【捨て身の一撃】仕掛けるぜ。
そら、楽しめねえかい、姉ちゃん
巫代居・門
★▲
良いなあ。俺もそんなに怒りを誰かにぶつけれりゃあなあ……
まあ、いいか
UCを発動して、火矢の直撃を受ける【激痛耐性】
不器用で悪いな、気を保てよ俺
身の焦げる痛みも、鏃が裂く傷も【呪詛】に転じて回復しながら【目立たない】よう【情報収集】して隙を窺う
まあ、俺より強い奴もそりゃいるんだろ
隙を見せれば【呪詛】も【破魔】も合わせて【暗殺】でお返し【カウンター】だ
……熱も痛みも、結構堪えるもんだったぞ、ちくしょうめ
手傷は無理でも、ほんの隙一つ作れ【激痛耐性】【呪詛耐性】りゃ十二分だろ
しかしまあ、なんだ、俺でも隙が作れるんなら不安はねえな
●炎雨
「クソ野郎どもが……次から次へと虫みてぇに湧きやがる!! 邪魔だ、邪魔だ、邪魔なんだよ! アタシの前から消え失せろ! アァァァアアアア――誰か!! アイツらをブッ殺せよォォオオッッ!!」
天秤棒・玄鉄(喧嘩魂・f13679)と巫代居・門(ふとっちょ根暗マンサー・f20963)の耳に富子の咆哮が聞こえたと同時、百の火矢が虚空より生じた。
「うぉッ……?!」
「こいつァ……」
それらはかつて応仁の乱にて飛び交った亡霊。富子が苛立ちを感じた対象を無限遠まで追跡し、追走し、そうしてかならず燃やし尽くす。それらは富子の手足も同然。彼女が怒りを抱く限り、どこまで逃げても逃げ切ることなどできはしない。
「清々しい程に猛々しいな、姉ちゃん。――は、そんなに嫌うんじゃねえ、よっと!」
先に火矢に対応したのは玄鉄だった。
敵が自分たちよりも先に攻撃してくることは知り得ている。加えてこのような不意の攻撃には己とて心得がある。であれば、『逃走』はできなくとも『迎撃』はできる。
「ふッ――」
第一波として自分の方へとやってきた矢を天秤棒で薙ぎ払うようにして受け、
「『野狗仙術、鴉』ッ!!」
埒外の域にまで到達したその術が発動される。
自我の境を曖昧にぼかし、己の影を肉体の一部を定義づけることによって操作を可能とする戦場掌握の業。天狗の術にあらずして、されど天狗の如き魔性を持つ業。
現象の言葉が紡がれたと同時、玄鉄の影から現れたのは二百を超える鳥。――否、正確には鳥ではない。真っ黒に染め上げられた姿は、影。
一体一体は微弱な戦闘能力しか持たないそれらが火矢を相殺し、在るものは玄鉄の足場となっていく。
軽々しく火矢の雨を回避していく玄鉄だが、それでもまだ『足りない』。火矢の勢いが玄鉄の進もうとする道を阻む。一匹の鳥影では相殺できなくなり、二匹の鳥影を用いるようになっていく。粉砕覚悟で突き進もうにも、富子へと至る道が矢の豪雨によって塞がれている。
「ちぃっ……」
――このままでは負ける。
目前の状況を直観するにその結論以外は思い浮かばない。
さてどうするかとそう考えた時、もうひとりの男の声が聞こえた。
「ぐ、うぅぅぅぅぅっ……!!」
それは絶叫を押し殺した唸り声。
尾てい骨から半透明の蜥蜴の尻尾を生やした門が、一身に火矢の攻撃を受けていた。
「く、ぁ、クソッ……治っても、痛てえんだよ……っ!」
皮膚が焼けて、血管が切れて、そうして身体に激痛がはしる。
咄嗟に発動したユーベルコード『兜陰衣』によって受けた傷は即座に回復するも、痛みがなかったことにはならない。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
歯を噛み締めても拳を握っても痛いものは痛い。よしんば気絶もできない分だけタチが悪い。あぁ、まったく不器用で悪いな、気を保てよ俺。
痛みに耐えて、火矢に紛れて、そうして目立たないように周囲を見れば、なるほど俺より強そうなやつがいるものだ。
気の強そうな目つきに眉に、鍛え上げられた肉体。はじめて出会った他人で悪いが、あいつに一撃を託すことにしよう。
「ふっ、は……」
――はじめてあの悪女を視た時、羨ましいと思った。
もしも、俺もあんなふうに怒りを誰かにぶつけることができたのならば。
もしも、俺もあんなふうに感情を発露することができたのならば。
もしも、もっと器用に生きられたのならば。
だが、そんなことを考えてもどうしようもないしどうにもならない。今は唯、目前の災厄を退けることに意識を集中させる。
隙を、空白を、己の一撃が届くにたる瞬間を――伺え。
「ちょこまかと動くんじゃねぇ!! みんなそうだ、昔からァ!! 揃いも揃ってアタシに楯突きやがる! 冗談じゃねぇ……アタシは七万貫を築いた女だ! 黄金の女なんだよ! 山荘を造る? 民が苦しんでる? ハ! 知ったこっちゃねぇなァ! いいから……黙って、アタシに、従えェェェェエエエッッ!!」
再びあげられた呪詛の咆哮とともに、富子がその身を大きく振りかぶる。
第二波の火矢を射出しようとしているのだろう。もしもそれが為されたら大打撃は避けられない。
「ッ―――!!」
玄鉄はそれを瞬時に理解するが火矢の勢いの前に動けず、
「……は」
門がそれを好機とばかりに薄く笑い。
「お断りだ。……熱も痛みも、結構堪えるもんだったぞ、ちくしょうめ」
破魔と呪詛の入り混じる光の礫が、蜥蜴の尾より放たれた。
「ガッ――?!」
礫は富子の腹へとめり込み、彼女の肉体をくの字に折り曲げさせる。
その瞬間、わずかではあるものの火矢が静止して――。
「オォォォッ!」
玄鉄が、渾身の力を以て疾走する。
風の如く疾く、火の如く侵さんとする勢いのままに富子のもとへと肉薄。
「ク、ソがァァァッ!!!」
灰に還さんと富子が巻き上げる業火さえも、再び動き出した火矢でさえも、玄鉄の動きを害することはもうできない。道はもう門によって繋げられたのだ。既に至るべき場所へと到達しているのだから、邪魔(そんなもの)に意味はない。
そうして――、
「そら、楽しめねえかい、姉ちゃん」
玄鉄の天秤棒が、富子の身骨に叩き込まれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
彩波・いちご
すさまじい執念、そして憎悪ですよね
オブリビオンだからなんでしょうけど、人ってここまで憎悪を燃やすことできるんですね……
いえ、飲まれてはいけません
ここで終わらせてあげないと、です
【異界の侵食】のスライムを召喚
攻撃ではなく、私の代わりに視線を受けるデコイとして、視線を遮る盾として、私に擬態させて、私の眼前に召喚しておきます
「残念ですがそれは私でなく、擬態したスライムですっ」
視線を受けたスライムはそのまま燃えてしまうでしょうけど、召喚自体はそのままし続けて
大量に召喚したスライムで富子を飲み込み溶かし食らわせます
「貴女自身も、貴女の財も、すべてすべて飲み込み喰らって終わらせてあげます!」
●魔眼
彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)の肌がぞわりと総毛立つ。
戦場に一歩足を踏み入れたと同時に全身を包み込む激しい憎悪とおぞましい執念は、これまで土地神の化身として大切に育てられてきたいちごにとっては濃厚な汚濁の如く不快であり、恐ろしいものだった。
(「オブリビオンだからなんでしょうけど、人ってここまで憎悪を燃やすことできるんですね……」)
あまりの質量と密度に気が引ける。
この情念は瀑布だ。大渦の如く花の御所に渦巻き、一度巻き込まれたらそのすべてを破壊しつくされる正真正銘の『災害』。
――けれど、飲まれてはいけない。
「ここで終わらせてあげないと、です」
そう、鮮烈すぎる情念はときに身を焼く。
かつて誰かへと向けた悪念は、いずれ己を苛む業火となって彼女の身を焼くだろう。或いはもうすでにそうなのかもしれない。
此処でこうして在り続ける限り、彼女はいつまでの『災害』のままだ。
他者を憎み、その衝動のままに動き続けるタタリ神にも等しい。
「なんだ、テメェ――」
そして、災いの瞳がいちごへと向けられる。
底なしの憎悪によって対象を灰燼に帰す、燃焼の魔眼。
「アタシの前に立つんじゃねぇ!!」
此処に、情念の瀑布の一端が牙を剥く。
魔眼の視線がいちごに収束したと同時、轟ッ!!とすさまじい音を立てて立ち上った炎がいちごの肉体を焼け焦がす。
燃えて、燃えて、燃えて――そうして、『溶けた』。
「残念ですがそれは私でなく、擬態したスライムですっ」
『異界の侵食(スライム・オペレーション)』。
異形の祝詞によって招来されたスライムは使役主であるいちごの姿かたちを精巧に写し取り、富子の視線を防ぐデコイの役割を果たす。
しかし、侵食はまだ終わらない。
「ふんぐるい、ふんぐるい……全てを喰らう形なき我が眷属よ!」
いちごの声に応えるように虚空から、大地から数多の不定形が溢れ出す。
それは富子の元へと津波のように襲いかかる!
「貴女自身も、貴女の財も、すべてすべて飲み込み喰らって終わらせてあげます!」
「ガァァッ!! 図に乗ってんじゃねぇぞド畜生が! テメェに渡す金なんざッ! 鐚一文たりともッ! ありはしねぇんだよォォォォオオッッ!!」
不定形達の緑が揺らめき、大悪災の紫が煌めく。
富子がいちごの召喚した従僕に飲み込まれたと、同時――。
「狐撃ちだ」
いちごの耳にはしっかりと、吐き捨てるような声が聞こえて。
「ッ!!」
『視られた』。
いちごがそう実感するよりも疾く、彼の全身が紫の業火に包まれる。
先程の一撃はデコイによって躱したものの、此度の炎は躱しきれない。
「かっ、ひゅっ……!!」
恨み、怒り、殺意、悔しさ、憎しみ。悪災の内側に渦巻く大いなる闇が、いちごの内側を焦がすかの如き熱に、思わず声が漏れる。
――狂気が、内側に注がれたような気がした。
――熱い、熱い、熱い。『私』がなくなってしまいそうだ。
――でも、だけど。
「負け、ません……ッ!」
自身に不定形をまとわせることで炎の勢いを削り、狐は災いを睨んだ。
苦戦
🔵🔴🔴
天春御・優桃
★▲
悪いな、お前の前に立って。
【礼儀作法】に則ったように、慇懃無礼に構える。
てめえはこういうのが好きなんだろ?と挑発しながら、駆ける。
転地鉄塵、戴天空刃を展開し、【ダッシュ】【ジャンプ】【ダンス】、視線の【誘惑】、目で追おうとしてしまう【存在感】で惹き付けながら【第六感】を合わせて、炎に揺らいだ空気空中すら足場に【地形の利用】【空中戦】視線をかわしていく。
回避に専念。直情的な相手だ。隙はいずれ出来るだろ?
切り込めるチャンスにUC「羽斫」で一気攻勢に転じてやる。
一分足らずの全力戦闘だ。そら、うまいこと見逃してくれな。
自由に動かしてください。
●風塵
『神』に連なるオブリビオンというものはどうも厄介なものだと、天春御・優桃(天地霞む・f16718)は改めて想う。
先日の安息の神といい、此度の大悪災といい、振り切れているものだから厄介だ。
加えて今回の相手は第六天魔王軍の将ときたのだから手に負えない。
しかし己とてちっぽけではあるが神の一柱だ。災い(かみ)の相手をするのであれば、自分(かみ)ほど適役はいないだろう。
「お初におめにかかります、日野富子様。……は、てめえはこういうのが好きなんだろ?」
ざり。
灰燼となった飛燕草と焦げた大地を踏みしめ、わざとらしい慇懃無礼な様相で優桃は『花の御所』へと降り立つ。『日野富子』という災いの閉じた世界に満ちる憎悪と憤怒は、彼の全身を包み込み、今にも握りつぶさんと蠢動しはじめる。
「まだ、いるのかよ」
無限にも等しい情念をいだき、現在に復讐するべく浮上した富子であれ猟兵との連戦は応えるものがあった。
目前に現れた優桃に忌々しげに声を零しながら幽鬼の如き瞳を向けて、
「邪魔するんじゃねぇ……邪魔するんじゃねぇよ!! アタシに逆らうな、アタシのものを欲するな、アタシの前に、他人は要らねぇんだよオオォォッ!!」
その狂気を、爆発させる。
「ッ、とぉ!」
『視られた』。
それを理解したと同時に優桃の身が宙空へと跳ね上がる。次の瞬間、それまで彼が立っていた場所に激しい炎の爆発が発生する。
「ひゅぅ、危ねぇなぁ」
そして、そのまま優桃が纏うのは烈風と塵鉄。嫌でも目で追おうとしてしまうほどの存在感を携えて、彼は空を駆ける。
「そら、うまいこと見逃してくれな」
「――見逃す?」
ニィ、と富子の口角が上がる。
まるで肉食獣の如きそれに、優桃はぞくりと悪寒を覚え。
「馬鹿かテメェ、アタシの庭に入ったんだ。逃げられると思ってんじゃねぇぞォッ!」
加速するも――遅い。
『視られている』。再び理解して回避しようとするも、身を動かした次の瞬間には肉体を業火が焼く。
「ぐ、ぁぁぁっ!!」
思わず激痛に喘ぐ。
肌が燃え、肉が焦げる匂いがする。
傷を通して、無量の憎悪と憤怒が伝わってくる。
徳川が憎い、猟兵が憎い、第六天魔王が憎い。嗚呼、この世の総てが恨めしい。憎くて嫌いで仕方がない。だから殺す。すべてを殺す。一切合切、塵芥さえ残さず燃やし尽くそう――。
「はははははは!! いいザマだなァ猟兵!! そのまま、落ちやがれェッ!」
そして、再び富子の魔炎の瞳が光る。
けれど。
「させるかよ……大盤振る舞いだ」
優桃は直観する。
己を炎に捉え、彼女が狂気に笑う今この時こそが格好の『隙』なのだと。
ならばやることは唯一つ。全力を以て、一撃を叩き込むのみ!
「『羽斫(ハバキリ)』ッ!!」
口ずさむのは解放の言霊。埒外を齎す猟兵の業。
優桃の足より生じるのは双翼の大刃。己の体格ほどもある巨大なそれを携え、彼は一直線に富子へと疾走する。
「なッ……?!」
疾く、疾く、なによりも疾く――!!
「切り、裂けぇっ!!」
閃ッ!!
富子の肉体に一筋の線がはしり、
「がはッ……!」
鮮血が、噴き出した。
苦戦
🔵🔴🔴
アノルルイ・ブラエニオン
馬鹿な! 死ね、と言われて死ぬものがいるものか!
傍迷惑もいいところだ
飛道具による攻撃だな!
可能な限り【見切り】【ダッシュ】【ジャンプ】を使って避ける!
だが最低一射は防御するか
無理なら受ける
立っていられれば反撃できる
語れるならこれ以上のことはない
「これより語るは……怒りに駆られし悪女とそれに従う怨霊の物語……」
たった今食らった攻撃を
物語によって再現する
この戦争はお前が起こしたものらしいな!
ならば戦火で焼かれるのはお似合いの最期だな
●幕引
「クソッ! クソが!! どいつもこいつも、雁首揃えてアタシに楯突きやがる! 邪魔なんだよ、目障りなんだよ! だから潰そうとしてるのに! まとめて灰にしてやりたいのに! どうして、どうしてお前らは死なねぇ!」
悪災が吠える。
深い怨恨、濃い憤怒、それらを以てしても排除することのできない猟兵(しょうがい)へと、とびきりの憎悪を向けて。
燃えろ燃えろ燃えろ、燃えてしまえと極大の呪詛を紡げば庭園は紫炎に包まれた。
既に彼女も満身創痍。残る体力は決して多くはなく、されど内側には消えぬ情念が燃えたぎっている。
ならば。
「ふざけんじゃねぇ……ふざけんじゃねぇぞ、クソどもがァァァァッ!!! 死ねッ!! 死ね、死ね、死ね、死ねッッ!! 骨も残さずに死に絶えろよォォォォッッ!!!」
全身全霊、この身さえをも憎悪の獄炎と化してすべてを葬り去るのみ。
彼女の絶叫、それこそが最終戦争の合図。己の肉体を薪とし、己の精神を油として、呼び起こしたるは数多幾多の火矢の怨霊。
それは先程別の猟兵に使用した時とは格が違う。鏃が纏う火炎はまさしく地獄の業火。もしも身を貫かれれば魂さえをも焼却し、生きた痕跡さえ残さない。
津波の如く襲いくる恨みの炎、それが向かう先は――。
「馬鹿な! 死ね、と言われて死ぬものがいるものか!」
壮麗な金髪を揺らす長耳の男、アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)。
全くもって傍迷惑もいいところだ。己の目的のためにその他すべてを灰燼に帰すなど、あぁ、本当に迷惑きわまりない。
(「問題ない、私ならばいけるさ」)
確かに目前に飛来する火矢は驚異だろう。当たれば必滅、その程度猟兵として活動してきたアノルルイには理解できる。
であれば、『当たらなければいい』のだ。
火矢の密度はたしかに高いが、避けられないほどではない。速度も疾くなければ、ただ炎が灯っているというだけのもの。
「はっ――!」
軌道を見極め、身を翻して回避。肌を炎の熱がかすめるがこの程度はどうということはない。そのままアノルルイは次々と火矢を回避し、最後の一発を『敢えて』防御する形でその身に受ける。
「がっ――ぐ、ううッ!」
焦熱が走る。全身を火炙りにされているかのような痛みが意識を揺らす。
大成功
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