エンパイアウォー③~稜線へ奔る
山城を囲う山岳地帯。
その中の切り立った断崖に、或いは木立の群の中に、悪鬼達はいた。
血肉に飢えた瞳で、戦いに飢えた相貌で。
吹き下ろす風にただ鋭い殺気だけを漂わせて、戦いの時を待っている。
世界が自分達のものになる日は近い。
その希望を、野望を。何よりも深い戦意を、心に湛えながら。
「お集まり頂き有難うございます。本日はサムライエンパイアで進行中の大規模な戦いの一端を担う作戦となります」
千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は猟兵達を見回しつつ頭を下げる。
徳川幕府軍が総力を上げて挑む、大規模な闘争の開始より数日──未だ激しい戦争は続いている。
猟兵の力もあって、各地で着実な戦果を上げつつあるが……。
「中山道は信州上田城。この要衝は軍神『上杉謙信』による制圧が続いており、今尚数多のオブリビオンが擁されています」
上杉軍の狙いは、中山道方面軍の殲滅。
それを許してしまえば、この地より敵が勢いづく可能性は高い。
「皆様には、この周囲の山岳地帯にいる敵を撃破し、上杉軍の力を削いで頂きたく思います」
レオンは地図を用意しつつ説明する。
「信州上田城は小さな山城です。オブリビオンの軍勢全てを収容する事は出来ないため──周囲の山岳地帯に複数の部隊が集まっている状況です」
こちらはその山岳へと攻め入り、敵の主力部隊を相手取ることになるだろう。
「数はおおよそ十数体、敵は『禍鬼』です」
性質は冷徹非道。
血肉を貪り、人の絶望顔と断末魔を好むという、文字通りの悪鬼だという。
「こちらが攻め入れば無論、殺すつもりでかかってきます。一切の容赦も与えてこないはずですから──皆様も全霊を以て当たってくださればと思います」
現場は高低差のある山岳地帯。
こちらは低い場所から登りつつ敵と衝突する形となる。
切り立った岩場や、木立。自然の要害とも言える環境を警戒、或いは利用することで敵に後れを取らず済むはずだ。
この部隊を撃破できれば、戦力を大幅に削ぐ一助となるだろう。
「この戦乱に、少しでも良い決着が訪れますように」
その願いを現実のものと成すために。
参りましょう、とレオンはグリモアを輝かせた。
崎田航輝
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●現場状況
山城の周囲に広がる山岳地帯。
●リプレイ
集団戦で、敵は『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』となります。
第1章 集団戦
『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』
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POW : 伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(毒属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 欲欲欲
【血肉を求める渇望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ : 鳴神一閃
【全身から生じる紫色に光る霆(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:ヤマモハンペン
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
灰神楽・綾
殺すつもりでかかってくる、か
いいねぇ、最高に楽しい殺し合いが出来そうだね
木立の中にいる禍鬼を相手取る
まずナイフで己の左腕を斬りつける
流れる血を見せつけるように腕を高く上げ
さぁ、お前が求めているのはこれだろう?
禍鬼の身体の巨大化を誘発
木立の戦場でその巨体は邪魔でしか無いだろうからね
己の血をEmperorに付着させ【ヴァーミリオン・トリガー】発動
増大させたスピードを活かして木々の間を素早く移動
木を盾にしつつナイフを投げ攻撃
更に、戦闘で薙ぎ倒された木々の欠片を
[念動力]で動かし禍鬼に向け一斉に飛ばす
致命傷にはならないだろうけど動きを妨害できれば十分
一気に間合いを詰めEmperorで斬りかかる
深い翠に、視界を隠す歪な幹の群。
触れるだけで傷つきそうな程鋭く切り立った岩場。
がさりがさりと木々が揺れる山岳地帯は、どこか風にまで砂目が付いているかのようなざらついた感触を思わせる。
何より肌を粟立たせるのは、傾斜を一歩登っただけでも色濃く香る、敵の殺意。
「殺すつもりでかかってくる、か」
故にこそ、呟く灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は柔い笑みの中に──刃先のような鋭いものを浮かべていた。
「いいねぇ、最高に楽しい殺し合いが出来そうだね」
曰く敵は冷徹非道だという。
曰く敵は血を求めるという。
──望むところだよ。
一歩一歩と木々を縫う度、張り詰めていく空気。それにどこか楽しみな色すら滲ませながら、綾は既に敵の気配を感じ取っていた。
場所は木立の中。遠目に程なく敵影の姿も見つける。
だが此方からかからずとも、向こうから来てもらえばいい話とばかり、綾はすらりと小型のナイフを手元で抜いていた。
紅色の雫が零れる。
そっと刃を己の左腕に滑らせて、綾はまず自らの鮮血を流していた。
そうしてその腕を高く、高く上げてみせる。
「──さぁ、お前が求めているのはこれだろう?」
啜りに来るが良いと、貪りに来るが良いと、綾は敢えてそれを掲げて誇示していた。
すると地面を踏む音と、獣が如き獰猛な唸りが響く。
匂いに誘われて顕れた悪鬼──禍鬼が体を震わせ、感情の爆発に伴ってその体を巨大化させていた。
仰ぐ程の巨体と成った殺意の塊。
けれど綾はそれを冷静に、そして愉快げに見つめる。
禍鬼は確かに膂力も速度も上がったことだろう。だがここは木立が無数にそびえる幹の監獄。自由に動ける空間が少ないだけ、巨体そのものが行動の邪魔になるのだ。
事実、綾を追おうとした禍鬼は、数歩ごとに木々をなぎ倒さねば直進もできなかった。
その隙があれば、綾がEmperorを血で化粧し、ヴァーミリオン・トリガーを発動させるのにも苦労はしない。
愛用のハルバードがまるで風のような軽さになったところで、綾は疾駆し始めた。
素早く間合いを詰めていくと禍鬼は無論、近づいてくる綾を殴り潰そうとしてくるが──綾はその瞬間に木を盾にするように動線をずらす。
敵の打撃が阻まれて遅れたのを確認すると、綾はそこでナイフを投擲。禍鬼の腕を正確に穿って濁った血潮を零させた。
咆哮を上げて綾へ向き直る禍鬼。だがその頃には綾は次手へ。強力な念動力を働かせ、なぎ倒された木々の破片を飛翔。敵の体へ一斉に飛ばして礫の雨としている。
木の欠片程度では致命傷にはならぬだろうが──。
「動きを妨害できれば十分だよ」
刹那、地を蹴った綾は一息に肉迫。下段に構えたEmperorを大ぶりに掬い上げ、その巨体を一撃で両断してみせた。
「──おっと」
と、素早くそこから飛び退いたのは、左右に別の禍鬼の姿が近づいてきていたからだ。
血を見せるのは巨大化を誘発して動きを鈍らせる効果もあるが、その分敵を惹き寄せすぎてしまう部分もあった。
「人気者になるのも困りものだね」
それでも、速度で勝っている以上後れは取らない。
倒されていく木々の間を跳び、駆けてナイフを放ち、自然の弾丸を見舞い──接近して斬撃。流れるような動きを繰り返すことでその場の敵を一掃していった。
大成功
🔵🔵🔵
ボアネル・ゼブダイ
人の血肉を啜り、その恐怖と絶望を何よりも好むか
なるほど、確かに悪鬼だな
であれば、これ以上奴らを人里に近づけるわけにはいかん
断崖や木立の上で気配を消し目立たぬように敵を観察
敵が集団になっている場所を確認したらUCを発動
腐蝕、麻痺、昏睡の毒ガスを伴った黒い霧となって敵を襲撃する
視界の効きにくい森の中であれば霧となった私を見つけるのも容易ではあるまい
とはいえ、こちらもあまり持たんか…
敵陣に被害を与えたらUCを解除
黒剣グルーラングの生命力吸収を乗せた斬撃で体力を回復しつつ戦う
敵が紫色に光り出したらダッシュで距離を取るかUCを発動して毒ガスで敵を無力化
敵のUCは常に警戒して行動する
アドリブ連携OK
上野・修介
※アドリブ、連携OK
もとより常在戦場。
戦であろうと、やることは変わらない。
【覚悟】を決め、腹を据えて【勇気+激痛耐性】推して参る。
呼吸を整え、無駄な力を抜き、戦場を観【視力+第六感+情報収集】据える。
目付は広く、敵の総数と配置、周囲の地形・遮蔽物を把握。
まず敵軍を迂回するように、斜面を登り【クライミング】相手の頭上を取る。
UCを用いて岩雪崩を起こして、その雪崩と共に敵陣に突っ込む。
得物は素手格闘【グラップル】
【フェイント】を掛けながら狙いを付けらないよう常に動き回る【ダッシュ】か、近くの敵か周囲の遮蔽物を盾【地形の利用】にして出来る限り被弾を減らしつつ、相手の懐に肉薄し一体ずつ確実に倒す。
キリカ・リクサール
アドリブ連携◎
籠城する敵の殲滅戦か
こういう作戦はシンプルで良いな
まずは木の上や崖のような見晴らしのいい場所を探し
戦闘知識で狙撃に最も適した場所に行く
なるべく太い枝の上や足場のしっかりした岩場などだな
場所を確保したらシルコン・シジョンで狙撃
常に場所を移動し、敵を撹乱しつつ仕留めていく
敵が私に気付き襲って来たらUCを使用
歓喜の哄笑をあげるデゼス・ポアを操り
森の木々の合間に操り糸を張り巡らし敵を切り刻んでいく
恐怖と絶望が好きなんだろう?
最後まで好きなだけ味わえ
追撃でオーヴァル・レイで張り巡らせた糸の合間を縫うように粒子ビームを発射
敵陣の被害を更に増やす
どうやら、食われるのはお前達の方だったようだな
砂混じりの風が吹き下ろし、夏の暑さの中に重みを含ませる。
地を踏むと土が傾斜に沿って転がり滑り、まるで山が来るものを拒んでいるかのようだ。
けれどそこから漂う殺気は寧ろ──人が踏み入るのを待ちわびているようにも感じられる。
「人の血肉を啜り、その恐怖と絶望を何よりも好む、か」
ボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)はその気配の一端を肌に感じ取り、麓から山を仰いでいた。
姿をはっきりとは確認できない。
けれどそれは確かに、遠くない木立の中にいて、獲物を待っている。
「確かに悪鬼といって間違いないな。であれば──これ以上奴らを人里に近づけるわけにはいかん」
「ああ。ここで確実に、討つ」
小さく言って頷くのはキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)。愛用の自動小銃を握り、その瞳は既に戦場の分析を始めている。
「とは言え、籠城する敵の殲滅戦。──こういう作戦はシンプルで良いな」
「そうだな。敵を見つけ、斃す。それだけだ」
荒れる風にも、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)の心は静まっている。
元より常在戦場なれば、それが戦であろうとも、やることは変わらないといってみせるように。
覚悟を決めて腹を据えると、ふっ、と呼吸を整えて無駄な力を抜いて。
戦場を仰いで五感、否、第六感までもを駆使して情報を集め始めていた。
目付は広く、耳は澄ませて。
「……敵も奥深くに隠れる真似はしていないらしい」
すぐにそれを察知して修介は呟いた。
微かに揺れる高所の葉や、木漏れ日の合間に動く影に似たもの。それを見取っておおよその位置を推測すると──敵は木立や岩場の陰にはいるものの、すぐに戦いに飛び出せるような位置も保っている。
すなわち隠れ潜むのではく、戦いに備えた位置取りをしているようで──それはこちらが先んじて見つけ、先手を取ることが十分に可能であることを意味してもいた。
それだけ判れば戦うに不足はない、と。
三人は頷き合い、坂を蹴って上へ昇りゆく。
(あれが禍鬼、か)
ボアネルは断崖の縁から木立の上へと移動。気配を消しながら敵を捜索していた。
そして視線を奔らせて短時間。最初の一体目を見つけるに至っている。
木々の間を闊歩する、禍鬼。
昏さを帯びた肉体に、獲物を求める獰猛さを宿した異形。
ボアネルはその一体の行く先を追う形で、集団が集まっている場所も発見した。此方には未だ気づいておらず、下方ばかりを警戒している様子だ。
ならばここで叩かぬ理由はない。
ボアネルは紅玉の瞳を一度閉じると、深く呼吸をする。
──我が身から抜け出る闇よ。
瞬間、己が内奥に眠る力に呼びかけることで、自身の存在を薄めてゆき、黒い霧へとその身を変貌させていた。
嘆きの霧(ネーベル・クラーゲン)。
無数の木陰が揺れる中では、ボアネルの身もその影の中の一つに紛れてしまう。
故に風の合間を縫うように、揺蕩うように。ボアネルは静かに敵の集団に接近。その全体へ襲いかかって躰へ霧を侵食させた。
腐食、麻痺、昏睡。凡そ毒と言えるあらゆる効能を併せ持つそれは膚を朽ちさせ、神経を侵し、意識を蝕んでいく。
呪いのように、或いは祝福のように。邪の存在を苦しみの坩堝に堕としていた。
(とはいえ、こちらもあまり持たんか……)
刻一刻と命を削るその能力は、自己にも深いリスクを伴う。
戦果と反動を天秤に掛け、初撃には十分と判断したボアネルは霧化を解除。銀の髪を揺らしてすたりと地に足をつき、黒剣グルーラングを構えていた。
「あとは、この刃をもって戦わせてもらおう」
流麗な剣閃を奔らせて、まずは眼前の一体を両断してみせる。
毒に苦悶する禍鬼達は、それでもようやく殺意を向けるべき矛先を見つけて猛った。そのまま先頭の数体がボアネルへと踊りかかってくる、が。
その一体が彼方からの弾丸に貫かれた。
複雑な地形にかき混ぜられた風が、深い紫の髪を絶え間なく揺らす。
キリカは崖を素早く登り、周囲を観察。狙撃に適した位置を探すことにしていた。
そうして飛び石のように岩場を伝って僅かの距離の先。複数の敵を見下ろす木立の、太い枝の上に位置取っている。
そこは敵が見えやすく、同時に敵からは見えにくい状態。
「ここらにしておくか」
一つ呟くとキリカはそこで銃を握った。
シルコン・シジョン。乱戦でも、逆に今のような狙撃を必要とする場面でもしかと応えてくれるその神聖式自動小銃を、葉の間から禍鬼に向ける。
照星で捉えた最初のその一体こそが、丁度ボアネルへと襲いかかろうとしていた個体だった。
短い距離では、マズルフラッシュと着弾はほぼ同時。セミオートで放った弾丸は、狙いのままに悪鬼の脳天を貫き絶命させた。
禍鬼達は、ボアネルの他に敵が居ると気づいて周囲を見回し始める。
だがまだまだ、キリカには気づかず──故に更に銃弾は踊る。
惑う一体へ狙いを定めると、キリカは二射目。禍鬼の足を撃ち抜いて体勢を崩させると、その個体が横倒れになった瞬間に次弾を放ち胸を貫通。続けざまに数弾叩き込んでその一体の命も奪ってみせた。
その頃には敵群も、こちらの姿を見つけ始める。
だがキリカは置き土産とばかりにフルオートで弾丸をばら撒きながら、同時に人形を手にとっていた。
──狂え、デゼス・ポア。
無垢にして奇怪な印象を与えるそれを解き放てば──響くのは歓喜の哄笑。人形はキリカが操るに従って、戯れるように、游ぶように木々の間に糸を張り巡らせていく。
それは全方向より襲う壁にして刃。取り巻かれた禍鬼は抜け出そうと奔るも、伸ばした手を寸断され、半身を切り裂かれ、臓物までもを刻まれていった。
「恐怖と絶望が好きなんだろう? 最後まで好きなだけ味わえ」
既に木立は糸の牢獄。
慟哭を上げながら、啼声を響かせながら、四肢を裂かれた悪鬼達は朽ちていく。
「──まだ隠れていた個体が居たか」
と、キリカが目を向けるのは幾分離れた木々の間。離れていた別の集団が合流するよう、此方へ向かってきていた。
「数は始めより多い、か。だが──」
とキリカは視線を上げる。木立を見下ろす急斜面。その上方がまるで地震のように揺れていた。
砂が崩れるより疾く跳ぶ。
岩を台にして更に上方へ移動する。
修介はまず敵軍との正面衝突をする前に、迂回する形で斜面を登攀していた。
岩場の出っ張りを掴み、腕力で自身の体を引き上げて、さらにそこからまた上へと登っていく。
それが肉体を使う作業なら、修介に苦労はない。クライミングの技術も兼ね備えていれば、高所へ辿り着くまでに止まることはなかった。
そこは丁度敵陣の上。斜面の下方に交戦場所を見下ろす形で──丁度、ボアネルやキリカが戦っているのも垣間見える位置だ。
足場はほぼ岩で、無数の岩石が積み重なって出来た場所。
敵にとっては、これほど頼りになる壁はないだろう。山城自体は小さくとも、こういった自然が城壁の役割を果たしてくれるのだから。
しかし強大な盾は、時に自身を蝕む鉾になり得る。
修介は今一度呼吸を深くすると、体に巡る力の流れを足元に集中。微かな吐息を零しながら、震脚の応用による踏み付けでその岩場を打ち据えた。
重力と勢いの伝搬、単純な膂力、その全てが噛み合った一撃は──岩に巨大な亀裂を奔らせて、瓦解させる。
直後に、木立の敵を襲ったのは崩れた岩の雪崩だった。
轟音を響かせて、巨大な重量が木々を潰しながら鬼に襲いかかってゆく。
──推して参る。
修介はそこで地を蹴って、崩れた斜面を駆け下りるように敵陣に突っ込んでいった。
数体が既に岩に潰されて息絶える中、敵は突如の強襲に惑いを見せている。
「──遅い」
その一瞬に、修介は踏み込んで一撃。裂帛の拳を叩き込んで息の根を止めてみせた。
ここまでくれば、あとは素手格闘の実力が物を言うのみ。だからこそ、修介にとってはここからが本番だった。
奔りかかってくる禍鬼が、その毒の尾を振るってくる。だが修介はすんでで体をずらして、木を遮蔽に回避。直後に懐へ入り込んで膝蹴りし、衝撃で臓物を潰して斃してみせた。
その頃にはボアネルも合流し、互いの死角を補うように位置する。
「まだ来るようだ」
ボアネルが見つめると、更に木々の間から後続の個体が現れていた。
挟み込むつもりらしいが、こちらからすれば罠にかかったも同然。
ボアネルが素早く斬撃を放ち生命力を吸収すれば、敵の攻撃を少々掠めたところで痛手ですら無い。
修介もまた、正面に跳ぶと見せかけて幹を蹴り軌道を変更。フェイントに敵が反応できないでいるうちに──首元を打突で砕いて素早く撃破した。
敵が霆を放とうと光を収束させても、先んじてボアネルが霧化。その光ごと包み込んでしまうように蝕んで、攻撃行動を許さない。
更に纏まって進軍してくる敵がいれば──二人はキリカを仰ぎ、頷いて退避。敵を糸の巡る地点へと招き込み、無数の斬撃で蝕ませた。
悪鬼達が苦悶に喘ぐその地獄を、キリカは上方から見つめながら意識を集中し、卵型浮遊砲台──オーヴァル・レイを操って粒子ビームを発射。
糸の合間を縫い、的確に悪鬼だけを貫く光の舞いで、その命を穿ち貫いていった。
断末魔の声が響き、怨嗟の中で鬼が朽ちていく。
気づけば、木立の敵影は全滅していた。
「どうやら、食われるのはお前達の方だったようだな」
キリカはただ静かに、そうとだけ言葉を響かせていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鎹・たから
思い出は朧気でも
この世界は
たからのふるさとです
ここで生きるこども達を、すくいます
岩場や木立の影に潜み索敵
しっかりと敵の立ち位置を把握
【情報収集、世界知識】
居場所を悟られぬよう意識しつつ掌を敵影へ
終雪で広範囲の敵を纏めて攻撃
都度【ダッシュ】で、次の岩場や木立まで駆けていきましょう
撃ち漏らしのないよう他の猟兵ともしっかり協力
接近する敵にはフォースセイバーで素早く応戦
【念動力、暗殺、2回攻撃、範囲攻撃】
あなた達は
人の痛みを知ることができないのですね
それは、悲しいことです
これ以上誰かのいのちは奪わせません
ここで、ほろびなさい
敵の麻痺を受けた者には沫雪で回復
大丈夫、たからが支えます
【医術、救助活動】
木々を撫ぜることで翠の香りを含んだ風。
そこに肌をちくりと刺すようなものが含まれているのは、きっと自然を抱くこの世界を壊そうとするものが、そこに居るからなのかも知れない。
空気の色。風の匂い。
ここに漂っているそれが、本来のものと違うと感覚的に判るのは、多分。
(思い出は朧気でも──)
きっとここが自分の生まれた場所だから。
鎹・たから(雪氣硝・f01148)は稜線を昇り、緑深いその木立の間へと踏み込んでいる。
木々に分け入る内に、岳の内部へ入り込む内に。色濃い程の自然の大気の中に、確かに暴力的で乱暴な何かが潜んでいるのが感じられていた。
一歩ごとにその感覚は強くなる。
そうして幹の陰に隠れ、林の中を窺って──たからはその正体を目にした。
闇色の膚を持つ悪鬼達。
葉を瘴気で揺らし、風を微かに濁らせて。衝動を向ける的を、今かと待っている抜身の殺意の塊。
きっとあれは、あらゆるものを傷つけてしまうものなのだろう。
故に、雪空抱く色硝子の瞳はそれを真っ直ぐに見つめて逸らさない。
夏空の炎天でも、悪意の牙城でも、深い林の中でも。たからは生まれたばかりの六花のような澄んだ心で怯まず戦いに向かう。
全てを覚えてはいなくとも、ここはふるさとだから。
「ここで生きるこども達を、すくいます」
とん、と。
一歩だけ木の陰から出たたからは、細指をのばした掌を禍鬼達へ向けていた。
それに気づいた鬼達は、たからに敵意を向けようとする。だがそれよりも先に、肌に触れる不思議な感触を意識した。
それは冬の匂い。
何処からか吹いてきた冷たい風が、季節にそぐわぬ温度を運ぶ。さわさわと木々が鳴って、自然の景色がその変化にいち早く反応する。
──天から、雪と霰が降り注いでいた。
青空から舞う銀白の奔流は、まるで嵐のように吹き荒び林の間を駆け抜ける。鮮烈な零下の冷たさが、澄明な清廉さで魔の存在を灼いてしまうほどの衝撃を生んでいた。
終雪(シマイユキ)。
美しい雪天を世に顕すたからのその力が、悪鬼の足元を払い、体を穿ち、命を貫く。
彼らが倒れる間、たからは止まらずに奔り抜けて対面の木立へ。残る敵にも狙いを定めさせぬよう、冬風に紛れて新たな木陰に隠れた。
そうして機を見てまた雪を喚び、霰を降ろす。その度に舞い散る氷晶が悪鬼の命を砕いて、木々を美しくつゆ濡れさせた。
攻撃を繰り返す内、生き残った鬼達もたからの位置を捉えて追いすがろうとしてくる。
そうなればたからは逃げず、硝子の刃を携えた。
鬼の一体がばちりと雷霆を瞬かせ、それを撃ち出してきても──その澄んだ刀身で受け止めて紫の光を霧散させる。
逆に素早く踏み込んで一閃、冷気を纏った斬線を描いて敵の命を寸断した。
それを目にした鬼達が返すのは、ただの殺意の呻き。
仲間が斃れても。そして誰かを斃すときも。きっとこの悪鬼達は最後まで変わらないのだろうとたからは思った。
「あなた達は、人の痛みを知ることができないのですね」
小さくかける声。
それにも悪鬼は毒牙を以て応えようとするから、たからは目を伏せる。
「それは、悲しいことです。──これ以上誰かのいのちは奪わせません」
だから、ここで、ほろびなさい。
雪化粧が山肌を撫でて、一瞬の銀世界を形作る。
細かく砕けて燦めく玉の塵。悪意を浚う雪煙。夏の陽に反射する結晶は、眩いほどに輝いて昏き存在を過去の海に押し流した。
ひんやりとした残り香に、琥珀の髪がふわふわ揺れる。
周囲の敵がいなくなったことを見て取ったたからは、ほんの短い時間、その跡を見つめていた。
それからすぐに踵を返し、仲間が戦う場所を探して奔り出す。
木々の間に吹く風が、ほんの少しだけ心に馴染みのある匂いに変わっていた。
大成功
🔵🔵🔵
バル・マスケレード
一対多の戦いはちィっとばかし苦手なんでなァ?
小狡く立ち回るとしようじゃあねェか。
山ン中とくりゃあ木枝に岩場……いくらでも取っ掛かりがある。
伸縮自在のイバラ、『久遠の《棘》』を用いた【ロープワーク】からなる
縦横無尽の立体機動で敵を引っ掻き回してやらァ。
一度にまとめて相手する必要はねェ。
UCで気配を殺し、機動で死角へ回り込み、
最後にゃ敵自身に棘を伸ばしての【暗殺】。
縊るもよし、一挙に接近して刃で掻っ切るもよし、だ。
巨大化強化大いに結構。
隠れる場所の多い地形、的がデカくなりゃあいっそう翻弄しやすくならァ。
絶望顔が好きならさせてみろよ。
もっとも、〝コイツ〟の顔をテメエらなぞに拝ませる気はねェがな……!
峻厳さが美しいというのならこの景色は美観に違いない。
だがそれは確かに自然の要害であり、隆起した大地と木々が作り出した壁であり、堀であり、死地だった。
「中々、いい所に潜んでるじゃねェか」
黒の衣を山風になびかせて、バル・マスケレード(エンドブリンガー・f10010)はその山を仰ぐ。
一見して、まともに戦えるような場所すら無いと思えるほどの山岳地帯だ。
無論、だからこそ幾らでもやりようがあると、バルは知っている。
「ま、一対多の戦いはちィっとばかし苦手なんでなァ? ──小狡く立ち回るとしようじゃあねェか」
呟くと魔力を揺蕩わせ、凶々しき茨を顕現していた。
久遠の《棘》。まるでバルの意思そのものを形にするように、それは自在に伸縮し、動いてくれる。
それを上方へ放ったバルは──張力を存分に生かして弾かれるように跳躍。
同時に忍の極意【霧影】。風の流れに乗り、体と影の動きを自然に同化させることで、その姿が透明になったかと空目させるほど、自身の存在を世界から目立たなくさせた。
「こんなモンでいいだろ」
高速度での移動を続けたままの隠密。それによって素早く、且つ何者にも気づかれずに山中へ侵入していく。
まばらに位置する禍鬼の姿を見つけたのはすぐのことだった。
「都合よく背ェ向けてやがる」
ならばまずは挨拶代わり、と。
振り子のように加速して跳んだバルは──敵へ棘を伸ばし、突き刺したまま急接近。刃を抜いて通り過ぎざまに首元を掻っ切り、こちらの存在を知らせることもなく絶命させた。
そこで初めて、他の悪鬼は強襲に遭ったと気づく。
けれどその頃にはバルは木に茨を飛ばし旋回。別の一体の背を取って、縊るように命を奪ってみせた。
悪鬼は尾や雷霆で攻撃しようにも、バルの立体機動に翻弄され、狙いを定めきれない。そうして隙が生まれれば、バルは弧を描くように最接近して斬撃で数体を屠っていった。
「ン?」
と、バルが目をやったのは、数体が殺意を高めて、黒い靄で自身を覆っていたからだ。
その鬼達は靄を自身の体にするように巨大化。木立にも劣らぬ肉体となっていた。
しかしバルは惑わない。
「大いに結構。的がデカくなりゃあいっそう翻弄しやすくならァ」
元より身を潜める場所に事欠かない地形。棘を伸ばして高度を下げると、岩場の陰に自身を隠す形で移動をし始めた。
目で追うことすら容易でない速度に、隠密とその行動が重なれば、悪鬼がバルを見つけるのはほぼ不可能に近い。
直前に姿の見えた岩場に攻め入ろうとも、既にそこにバルはいない。木立でも同じ。気付けば、大きく迂回して上方へ移動したバルが──悪鬼を見下ろしている。
そのまま棘を放ち、悪鬼の首を貫通した。
「絶望顔が好きならさせてみろよ。もっとも──〝コイツ〟の顔をテメエらなぞに拝ませる気はねェがな……!」
衣とマスクに隠れた奥の奥。それを誰にも、僅かにすら覗かせぬまま。バルは敵を括り、抉り、刺し貫いていく。
ひらりと廻って岩場の先端に着地する頃には、その場の鬼は絶えていた。
それきりバルはそこに目もくれず、次の戦場へと跳んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
アンテロ・ヴィルスカ
大規模な戦いにはあまり気乗りがしないのだけど…これも仕事、致し方ないね。
しかし良心を傷めずに済みそうなルックスだ、遠慮なくやってしまおう。
先ずは木立から敵の数や戦況を把握
鎧と外套に【迷彩】を施し、静かに岩の隙間を縫って集団の中へ
極力、猟兵達がいない場所がいい。
姿を表せば近場の敵を斬りつけ挑発
間近に迫ったところでUCを使用、徹底した守りに入る
敵の自滅を誘えれば万々歳だね。
身動きが取れぬうちは【力溜め】
周囲の敵が疲弊すればUCを解き【武器改造】で黒剣を戦斧に変化
溜めた力の全てを乗せ、一気に薙ぎ払ってしまおう。
…一つ訂正しておこう、俺に良心など無かったね?
どこか遥か遠くからも剣戟の音が聞こえる。
戦乱の世は今も争いが続き、過去から蘇った存在と現世の者との戦争の体を成しているようだ。
この山岳も例に漏れず、人を喰らおうとする鬼に満ちているという。
アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)は甲冑の中から視線を上げて、深い緑の木々とむき出しの岩肌を仰ぐ。
「大規模な戦いにはあまり気乗りがしないのだけど……ね」
これも仕事ならば、致し方ない。
敵がいるというのなら討ってから帰ればいいだけのことだと。
アンテロは木々の間に侵入。素早く坂を駆け上がり、そのまま低い木立から高い木の上へ上がり、敵の気配のある場所へ潜む形で陣取った。
果たしてそれは、すぐに見つかる。
「あれが禍鬼、か」
複数体が、岩場付近の地面を闊歩している。
浅い息を零して武器を軽く振るう様は、まるで戦意を溜め込んでいるよう。血肉を早く喰らいたくて仕方ないという、その感情に溢れていた。
くすんだ肌は血で穢れたが故か。
形こそ人に似ている、しかし確かに歪な化生。
ふむ、とアンテロは見下ろして呟いた。
「何とも──良心を傷めずに済みそうなルックスだ」
ならば遠慮なくやってしまおう。
鎧と外套に迷彩を施したアンテロは、姿を隠したままに岩の隙間を縫い、単身で集団の渦中へ。黒剣を振るい、まずは手近な一体を斬りつけてみせた。
そこで初めて、悪鬼達は此方に気づく。
「来たいなら、来るがいいさ」
すると獰猛な殺意を見せてきた鬼へ、アンテロは挑発の声を投げて一歩後退した。
当然、敵はその誘い水に喰らいつくように全員でかかってくる──が。
それがアンテロの狙いだ。
「その威勢を保っていられるならば、だがね」
瞬間、その体を包む鎧が、金属音を鳴らしながら無数の鋭利な棘を生やし始めた。
musta linna(ムスタ・リンナ)。
足元、膝、大腿。腕、首に至るまで。
全てを突き通すほどの超硬度なそれは、まるで全方向に伸びる短い槍に似て。迫っていた鬼の攻撃を全て弾き返し、アンテロに傷一つ与えなかった。
アンテロはそのまま、徹底した守りの姿勢に入る。
悪鬼達は武器で打ち据え、雷霆を飛ばし、その鎧を打ち砕こうとする。
だが武器は棘に寄って砕かれ、逆に礫となって敵自身を襲う。反射された雷もまた敵の自滅を誘うばかりだった。
いくらかの思慮深い個体は、多少の距離を置いて攻撃をしようとしてくる。けれど衝撃が通らないことに変わりはなく、最後にはただ疲労を得るばかりだった。
攻撃が緩まれば、アンテロはそこで防御を解除。黒剣を明滅させて戦斧へと形状を変えると、止まっていた間に溜め込んでいた力の全てを注いだ。
鬼達がはっとするも、既に遅い。アンテロは苛烈に過ぎる程の薙ぎ払いで、残る鬼達の全てを切り払い、消し飛ばしていった。
「……一つ訂正しておこう、俺に良心など無かったね?」
その言葉に応えられる鬼は、既になく。
殲滅の済んだ戦場から、アンテロはただ静かに去っていった。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
単騎・アドリブ◎
嘗て俺の杜を襲撃した時も同じ眸をしてやがったなァ
テメェらが啜った血だけ散った華(命)を
忘れたコトはなかった
苦い過去
だが決して止まない雨など無く
歩んだ道程を照らす陽は翳ず
身に刻んだ誓いの為に
目を閉じ開く
敵見据え強く拳握り
本気でかかってこいや(挑発・恫喝
今、無性に虫の居所が悪ィンだわ
黒外套が靡く
口笛吹き【杜の使い魔】召喚
空中から一気に降下し迎撃
竜巻の如き魔風の素を玄夜叉に宿し木立を切り分ける(属性攻撃
八咫烏の翼で横薙ぎ
敵が怯んだら剣で叩く(2回攻撃・部位破壊
敵の攻撃は八咫烏で回避(見切り・第六感
テメェらを倒しても未だ戦いは終わらないし敵は相次ぐ
俺はこの戦いの果てに何を見るか
答えは、
鬼の放つ殺意は澱に似ている。
清廉な風も穢して、涜して、空気を淀ませる。沈殿したそれは山肌を這って降りるように、下方にまで伝わってくるのだ。
その中を、避けず杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は真っ直ぐに昇る。
革靴で地面を踏みしめて、濁った空気の中を迂回せずに一歩一歩と進んで。
不意を打つでなく。
奇を衒った策を弄するでなく。
上方にいる鬼達を、クロウは仰いで視線で射抜いていた。
「よォ」
軽くかけるような声は、しかし刃先のように鋭い。陽炎を生むほどの陽光よりも、もっと滾った想いが胸中にはあるからだ。
禍鬼達は眼下にクロウの姿を見つけて、俄に戦意を滲ませる。獲物がやってきたことに、闘争の刻がやってきたことに喜色を交えてみせるように。
その顔を見据え、クロウは夕赤と青浅葱の瞳を細めた。
「嘗て俺の杜を襲撃した時も同じ眸をしてやがったなァ」
渦巻き、明滅し、去来するのは苦い過去だった。
決して消えぬ事実。
巻き戻せはしない時間の彼方。
「テメェらが啜った血だけ散った華を、忘れたコトはなかった」
命は花のように儚いものなのだと、苦渋の中で識った記憶は今尚鮮烈に蘇って止まない。
嗚呼、確かに眼前の敵を討っても取り返せないものはある。
だから心には長らく暗雲だって垂れ込めた。
だが決して止まない雨など無く。
歩んだ道程を照らす陽は翳らず。
──身に刻んだ誓いの為に。
(今だから振るえる刃ってモンも、あるんだよ)
目を閉じて、開く。
一歩登って敵を見据え、強く拳を握り。
「今、無性に虫の居所が悪ィンだわ。──本気でかかってこいや」
迷わず躊躇わず、真っ直ぐに投げてみせた声が紛うことなき宣戦だった。
禍鬼達はそれに衣着せぬ殺意を返すように、吼え声を上げて奔りかかってくる。
クロウは見上げながら、澄んだ口笛を吹いていた。
すると黒外套が靡き、風が踊る。
一瞬後にそこに舞い降りてきたのは杜の使い魔(モリノシキガミ)──濡羽色の八咫烏。大の大人を乗せて尚余裕のある体躯で、しかとクロウをその背に抱くと、艶めく羽を羽ばたかせて大空に飛翔していた。
そのまま山肌へ取って返すように、八咫烏は廻って降下。高速で敵へと迫りゆく。
クロウは同時に黒魔剣・玄夜叉へ魔風の素を宿し、一閃。竜巻のごとき風の刃を顕現し、進路にある木立を切り分けていた。
そこへ高速で滑空すると、八咫烏の翼で横薙ぎ。鋭い衝撃で傷を刻んでいく。
敵陣が怯めば、クロウがそこへ斬閃を滑らせ一撃。更に返す刀で逆方向の斬撃を見舞って鬼を断ち切っていった。
慟哭を上げて苦悶する禍鬼。射干玉の黒髪を風に踊らせて、クロウはそこに一切の手加減を加えず刃を叩き込んでいく。
別の鬼達が後方から追いすがろうとしても、八咫烏を大きく翻させて回避。同時に回転力を活かすように剣を奔らせ、斬り返して命を両断した。
八咫烏から跳び、狙いを定めて見下ろす先は最後の鬼達。
「テメェらを倒しても未だ戦いは終わらないし、敵は相次ぐだろう」
それでも剣を収めない。
戦わねばならないと思ったからこそ、その刃は一層鋭く。袈裟に振るった一刀が、たがわず鬼達を斬り伏せ消滅させた。
地に降り立ち、刃を下げる。
この戦いの果てに何を見るだろうかと、そう思っていた。
(答えは、──)
そっと足を踏み出し、山を降りる方向へ進む。
感じたのは静けさだった。けれどこの先も戦いが続くなら、その静謐は長くは続かないだろう。
斬るべき敵が居るのなら、しじまに浸るには早すぎる。
少しだけそう思って、クロウは歩み出す。
髪を、外套を、風が撫でる。
そこに澱はなかった。
大成功
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