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エンパイアウォー⑳～対決、天下の悪妻

作者：丹藤武敏

●天下の御台
「金、金金、金金金よ！　この世は金よ！　誰がなんといおうと金よ！」

　京の都、花の御所。
　代々の足利将軍が邸宅としたこの館を、八代将軍佳正の正室であった日野富子が豪華絢爛なる御所に作り変えた。
　大名への多額の貸付、米の投機などで蓄財したという歴史の記録がある。

「徳川とか、アタシの代には聞いたことがない者が将軍職にあって天下を牛耳っているとかありえねえ……。我が子や甥を将軍職に就かせるために、どれだけ金を使ったと思っていやがる……！」

　この徳川の世に、怒り心頭の様子である。
　日野富子といえば、東軍側でありながら西軍側にも金を貸し付けて利子を取り、代理の修繕の名目に関所で徴収した税を懐に入れたとも言われている。

「まあいい、金の力というものを思い知らせてやる。金を笑う者は、金に泣くことになるんだ。戦が起これば、アタシがまた儲ける機会だってやってくる」

　花の御所には、ごっそりと積まれた銭がある。
　その銭の山には、亡霊たちがまとわりついている。
　富子に財を吸い上げられた者たちの成れの果てだ。
　それを、富子は必死に追い払う。

「クズどもがァ、触んじゃねえ！　アタシの金だァ！　猟兵とかいう連中も、どうせアタシの金が目当てなんだろうが、そうはいかねえ。金の代わりに、命を吸い上げてやる」

●いざ、京へ
「日野富子の居場所がわかったぜ」

　堂崎・獣明（整備係・f15021）が、集まった猟兵たちにその予兆をグリモアで投影してみせた。
　場所は、京の都、花の御所――。
　かつては、足利将軍家の邸宅であった。

「天下の悪妻と知られる人物だが、金への執着はなかなかのもんだ。一説では、夫に代わって蓄財しようとしたって話もあるんだが」

　日野富子にまつわる逸話は、色々とある。
　息子や甥を将軍にしようとする根回しのために蓄財が必要だったというが、将軍に就いた肝心の息子とも甥とも仲は良くなかったのだ。
　オブリビオンとして躯の海より湧き出たのは、その負の一面が強調されてのことだろう。

「向こうさん、ずいぶんと気が立っている。放してわかるような気配はねえし、一発食らうくらいは覚悟したほうがいいかもしれんな」

　予兆では、徳川はおろか信長にも牙を向きそうな気配を満たしている。
　攻撃的なオブリビオンであることは間違いないだろう。

「転送の用意はできたぜ。それじゃあ、よろしくな」

第1章 ボス戦 『大悪災『日野富子』』

POW   :    アタシの前に立つんじゃねぇ！ 【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。 SPD   :    アタシのジャマをするな！ 自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。 WIZ   :    誰かアイツをぶっ殺せよ！ 自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。 イラスト：みそじ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　京都、花の御所の日野富子を討つべく転送されたのは、八人の猟兵たちである。

　まずは、マリベル・ゴルド（ミレナリィドールの人形遣い・f03359）。内気そうなミレナリィドールの少年だ。

「ボクを作ったご主人様も“お金”がなくて苦心しましたので気持ちは分かりますが……」

　金の亡者と予兆のあった日野富子の人柄について一言述べた。
　確かに、金で苦労することもあろう。それと金に執着するのは別のことのはずだ。

「……なんだかキラキラした場所にやってきたけど……なんかすごく怒ってる人いるね～あの人、大丈夫かな？」

　陰白・幽（無限の可能性を持つ永眠龍・f00662）は、豪華さを倍に増した花の御所に感心しつつ呟いた。

「でも、日本家屋って盾にできるものたくさんあっていいよね」

　そんな幽に赤星・緋色（サンプルキャラクター・f03675）はちょっと別の視点からの感想を述べる。たしかに、言われてみると柱や畳はそういう形で盾にできる。特に戦国時代のものは、そうした構造も多い。

「聞くところによると日野富子の財は数十億にも及ぶとか。いやー、ありがたいことですよね。だって我々に奪われるためにそんなに貯めこんでくださってたんですから。ありがたく頂戴しましょうそうしましょう」

　幽と緋色に付け足すように言うのは、エミリィ・ジゼル（かじできないさん・f01678）だ。
　犯罪的なほどに前向きな思考である。
　その蓄財をどうするかについては、猟兵たちの間でも取り決めはなかったりする。

「金銭への執着も成る程、此処まで極まれば、いっそ見事と称賛したくなる程ですね。歴史に刻まれたものが悪評、悪名の類であるにしても堂上家の貴人に相違ありません」

　貯め込んだ財による虚飾とその悪評。比良坂・逢瀬（濡羽色の令嬢・f18129）も聞き及んでいる。
　悪名であれ、歴史に名を残したことには違いはない。

「敵の攻撃は自身の装備で相殺すれば、反撃を叩き込むチャンスがありそうです」

　一方、フィーア・ストリッツ（サキエルの眼差し・f05578）はすでに戦闘への準備に余念がなかった。
　サイボーグの彼女は、冷静だが好戦的ではある。

「美人の顔を歪ませるようなら、お金も考えものっすねー」

　宇宙バイクの上にちょこんと乗せられた狐のお面がしゃべった。
　ヒーローマスクのリカルド・マスケラス（ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160）である。
　こっちが本体なのだ。

「たんまり金を抱え込んでると聞きゃア、狙わねェ手はないよなァ？」

　バルドヴィーノ・バティスタ（脱獄狼・f05898）は景気の良さそうなこの依頼に最初から乗り気であった。
　溜め込んだ銭なら、かっさらい、ぱーっと使ったほうが経済も回るというものである。
　以上、八名が花の御所に乗り込んだ。

「なんだお前らァ、アタシの金を奪いに来たか！　だったら、一人残らずブチ殺してくれる！」

　日野富子は有無を言わさなかった。

「うぇーい、ヤバそうなおばさん出てきた！　危険人物は退治だよ」

　まるっと本音を漏らしてしまう緋色である。

「ほらそこォ！　アタシの前に立つんじゃねえ！」

　憎悪のこもった視線が向けられた。
　なんという理不尽だろうか。
　リカルドは宇宙バイクの影に隠れて視線をやり過ごす。

「そこのバイク、持ち主はどこのどいつた！　畳敷きの大広間に乗り込むなんざ非常識だろうがァ」

　その怒りはもっともだが、まさか本体が狐のお面だとは思ってもいない日野富子であった。

「どうせ戦闘になったら燃えちゃうんすから気にしない方向で」

　ぼそりと、リカルドは聞こえないように呟いた。

「此れが後の世に天下の悪妻とまで謳われた女人ですか。新陰流剣士、比良坂逢瀬。敬意と礼節を持って当たらせて頂きます」

　構えて一礼、刀礼にて敬意を示す。

「何が礼儀だ！　金だろ金、そこのバイクが汚した畳の分、お前が弁償しろォ！」

　理不尽極まる憎悪の視線に、明鏡止水の心でもって受け止める。
　一瞬、恨みの熱で身体が燃え上がりそうになるほどものを感じる。
　しかし、その憎しみのままに振るわれる力は、精緻さからは程遠いものだ。
　逢瀬は、足を止めずユーベルコード【影ヲ斬ル】にて炎に照らされて膨れ上がった影を斬った。
　いつかぬ動きで、その狙いを絞らせない。

「うぐぅ……何をしたァ!?」
「斬れるものを斬ったまでです」

　簡潔に答える。同時に、斬った影と同じ箇所に傷が生まれる。

「そうそう、憎悪ってのは、自分に返ってくるもんすよ」
「そこにいたかァ！　う――」

　ユーベルコード【忍法・鏡魔眼の術】。
　狐のお面の瞳に、富子の姿が浮かぶ。敵意を反射し、自滅に導く視線である。
　その憎悪は、富子自身を燃やした。

「うああああああ、よくもよくもッ！」

　炎に包まれながら、怨嗟の声を上げる。
　しかし、爪を伸ばし、幽やエミリィ、緋色とフィーアを切り裂こうと振り立てる。

「お任せを」

　フィーアがその爪の前に正面に立つ。
　九倍にされた攻撃に対して、それぞれに対抗する。
　一撃は、インパルスキャリバーを身代わりに。
　二撃は、アームマシンガンの全弾連射で相殺。
　三撃も、ハルバードで弾かれて相殺した。

「きいいいいっ！　死ね死ね死ね死ね！」

　半狂乱になって攻め立てる大災悪。
　一方的な防戦となっても、フィーアは耐える。
　四撃を氷結光線銃を盾に、五撃をピッキングトゥースパイクで、六撃はドラゴンランスを投げつけて相殺した。
　七撃は、ドラゴンスキンで持ちこたえ、八撃は両腕をクロスして防御したせいで、壊れかける。
　最後の九撃目は、サイバーレッグの犠牲を覚悟した。
　そして耐えきった、満身創痍である。

「はぁ、はぁ……。もう武器はないぞ、人形……！」
「いいえ、残っていますよ」

　わずか43分の１秒で、ブラスターを発射する。
　
「ＴＬＳ起動。光の刃をどうぞ」
「ああああああああああ～!?」

　フィーアからの反撃を受け、滅多矢鱈に爪を振り立てる。

「怒れば怒るほど人の動きって単調になっちゃうよね～」

　幽は、我を忘れて怒り狂う富子の攻撃を避けつつ、鉄球を用意して高く積まれた銭の山に向かってぶつけた。
　じゃらじゃらと派手な音を立てて銭が撒き散らされる。

「ぎゃあああああ、なんてことしやがるこのクソガキァ！　アタシの銭だ！　拾うんじゃねえぞ！」

　飛び散った銭を必死で集めようとする富子である。

「あっ、これは今のうちですね」

　オペラグローブのビームシールドで爪の攻撃から身を守っていたエミリィが、徳川埋蔵金（偽）を盛大にばらまいた。

「か、金!?　金だァァァァッ!!」

　這いつくばって必死で集めようとする。
　将軍の御台、しかも逢瀬が触れたように藤原北家真夏流日野家といえば堂上家、名家の家格である。
　金の力をよく知るとはいえ、形振り構わない姿であった。

「に、偽物!?」

　気づいたときには、遅かった。

「ターイム！」

　エミリィのユーベルコード【時を止めるメイドの術】によって時間が停止する。
　ピタリと動きを止めた富子に、聖剣めいどかりばーが振り下ろされた。

「ぎゃああああっ!?」

　悲鳴が上がったが、それだけでは終わらない。
　一瞬、富子の身体が消えたかと思うと、離れていた幽が踵落としをちょうど落とす場所へと転移させられた。
　
「ごっ――!?」

　ユーベルコード【永眠龍の夢現（スリーピングドラゴン）】の効果である。
　脳天にもろに食らった富子が、頭を押さえてのたうち回る。

「お宝を貯めたい気持ちは龍のボクにもわかるけど……せっかく貯めてもあんなに怒ってたら意味ないよね～はぁ～眠い～」

　力を込めたぶんだけ、眠くなる。疲れたら寝る、道理である。

「あっ、決まった？」

　銭の山から、ひょいっと顔を出したのは緋色だ。
　爪を避けるため、銭の山を盾にしたのである。

「てめ、それアタシの銭だるォ！」

　あまりのことに巻き舌で怒りを待ち切らす。

「おっと、危ない。こっちこっち」

　柱や、壁、畳返しを駆使して逃げ回る。
　そのたびに、金をかけた御所が切り裂かれている。
　それが止んだ瞬間――。

「ひっさーつ！」

　【セミオートバースト】でガトリングが連射される。

「くっ、この……！」
「あー、大変！　攻撃よけるとお金とかお高いものとか壊れちゃうよ」
「やめろォ！　やるなら銀閣寺にしろォ！」

　損害を防ぐためにも、全弾その身で耐えきる富子である。
　それにつけても、可愛い顔をした少年のわりに緋色は結構やることがえげつなかった。

「誰かアイツらをぶっ殺せよ！」

　怨念じみた声が響くと、火矢を構えた亡霊武者たちが召喚される。
　応仁の乱で倒れた者たちだ。
　よっぴいてひょうと放たれた火矢は、猟兵たちを追尾する。

「それだけあれば十分でしょう。貴方に足りないのはお金ではなく“心”でしょうね」

　マリベルが【ミレナリオ・リフレクション】を発動することで火矢を再現し、同じ軌道を辿って全弾相殺した。

「テメェがチマチマ蓄えた銭、横からかっさらいに来たぜ大悪災！」
「んだとコラァ！　亡霊ども、あいつから焼き殺せ！」

　バルドヴィーノの挑発に、日野富子も怒髪天である。
　亡霊たちが火矢をつがえて狙うが、これも彼の思惑通りであった。

「べらぼうに当たり散らされるよりゃア、狙いと感情がハッキリしてる方がかえって攻撃が読みやすくなるってな！」

　自慢の逃げ足を活かし、御所の中を駆け回って散らばった銭を素早く拾い集める。
　それがますます日野富子を逆上させた。

「何してんだ、さっさと射殺せよ！」
「――へっ、かかった！　隠し通したその牙、大悪災に突き立ててやれ！」

　この時点で、まんまとバルドヴィーノの策に乗せられてしまったのだ。
　自身を囮にして放つ、ユーベルコード【虚にして実なる共犯者（モンストロ・シン・フォルマ）】が発動する。
　実体可能な霊体が、日野富子に大きな口を上げて噛み付いていく。

「くそぉ、こんなもの……」

　しかし、彼女の身体は自由には動かない。

「ボクも、仕掛けさせてもらいました」

　マリベルのピアノ線が、いつの間にか富子の身に絡みついていたのだ。
　暗殺術の応用である。

「あああああああああっ！　アタシの金ェ……」

　それでも、必死でもがき金をかき集めようとする。
　一代の悪女の執念と執着は凄まじい。
　しかし、集結した八人の猟兵によって、ここに大災悪日野富子は斃れたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月10日