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エンパイアウォー㉖～悪徳商人の黄昏（たそがれ）

作者：ザムザム

●サムライエンパイヤ某所
「逃げるな！　追え！」
　幕府によって追われの身となっているのは、とある豪商。
　身なりは悪くはない。　人相はそれにそぐうものかは、さておいて。
　ところが、その着物は所々土や泥に汚れていた。

　買い占めが判明し、「闘所（財産没収の刑）」に処すために徳川幕府の役人が突入したそのときに、間一髪、買い占めの証拠書類である大福帳や手形を持って逃走中の身、と、なったのであった。。

「これに乗じて、兵器や弾薬を買い占めて、ぼろもうけするはずが……猟兵どもめ！」
　いざとなったら、雇った用心棒もいるし、せめて幕府の役人さえ撒（ま）けばこの大福帳や手形で再起は図れる。そう思いながら山道を駆けていた。

●グリモアベース
「みんな、集まってください！　悪徳商人を確保してください！」
　グリモアベースの一角に集まった猟兵達に声をかけるは、パティ・チャン（月下の妖精騎士・f12424）。大声を張り上げ、身振り手振りで語りかける。

　物資買い占めを行っていた商人の中に、大悪災『日野富子』が放った『悪徳商人オブリビオン』がいることが判明。
「そしてその「悪徳商人オブリビオン」は街道を逃亡中です。目的地はここです！」
　パティの靴の先には「塔ノ沢」と書いてある。
　これがUDCアースの日本ならば、真っ先に箱根の温泉街を連想するところだが、山地ということ以外、全く同じ場所ではない、と付け加える。
「そして戦っていただく相手は、その用心棒です」
　追い詰めたが最後。その用心棒の出番となり、決戦は避けられない。
「何卒（なにとぞ）、用心棒を撃退し、悪徳商人の捕縛をよろしくお願いいたします！」
　猟兵達に深々と頭を下げる、パティであった。

第1章 集団戦 『切支丹女武者』

POW   :    鉄砲三段 【鉄砲の一斉発射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。 SPD   :    部位狙撃 【鉄砲】から【トリモチ弾】を放ち、【手や足を狙う事】により対象の動きを一時的に封じる。 WIZ   :    聖母の慈悲 【聖母に捧げる祈り】を聞いて共感した対象全てを治療する。 イラスト：森乃ゴリラ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「お金というものは、人を生かしも殺しもします。　たかがお金　されどお金」
　穏やかな冷静な口調で、まるで諭すかのごとく語る、アカネ・リアーブル（とびはねうさぎ・f05355）。旅芸人をしていたという過去があるだけに、お金の有り難さは身に染みているつもりだ。

　ここで悪徳商人を生かしておけば、殺すお金をたくさん作ることになる。舞薙刀の柄を握る手に力を込め、敵前にその姿を現させる！
「ここでお縄におつきくださいな。　邪魔立ては許しません」

　しかし悪徳商人は、ユーベルコードと言うには余りにも情けない、しかしこの場を逃れるに実に効果的な言葉を口にする。
「やってしまってください！」
　その声を合図、とばかりに、笠（かさ）と上っ張りを取って、空に放り投げた旅人（たびにん）は、女武者……しかも、道外れの林の上や低木の中から、まるで湧いてくるように一団となって現れたではないか。
　これは分が悪い。
　アカネが僅かに焦りの色を顔に浮かべたちょうどそのとき、また別の人物の気配。
「日野富子の差し金かは知らんが粗末なことだ。　いっそ斬った張ったの方が分かりやすいが……まぁいい」
　花盛・乙女（羅刹女・f00399）が、アカネと切支丹女武者達の間に、降り立ったのだ。
　女武者のオブリビオンを一べつし、街道の様子を今一度確認するように眺めた、そののち。
「花盛乙女、推して参る！」
　この声が街道に響いたそのとき。戦闘が始まった。

　アカネは舞を舞うがごとく舞薙刀を操り、女武者との間合いを確実に詰めていく。
　その薙刀を避ける女騎士の前につきつけられる、花盛の鬨（とき）の声と二刀！
　　数の差は歴然とはしているが、その差を感じさせない。
　
「……ッ！！」
　花盛の姿が捕らえられなくなった、と次の瞬間、荒い息とともに現れ、女武者何人かが糸の切れた操り人形のごとく、気を失って倒れる。
　目にもとまらぬ移動速度とともに、素速い手刀の一撃を、女武者に浴びせたのだ。僅かに急所を逃がすことに成功した、女武者は銃を構え、撃つ！
　しかしその弾は、アカネの差し出した舞薙刀によって、防がれる。その弾は。薙刀を傷つけることはなかったが、その代わり、どろりとしたトリモチを中から染み出させる。
「この薙刀を汚（けが）した代償は、高くつきますわね」
　先ほどよりもやや高揚した声で、女武者を凝視しつつ歌を詠む……
　そのとき。舞薙刀は無数の花びらと化したではないか！　その花びらは女武者の鎧の弱点……脇の下や胸元を破壊し切り裂いてゆくではないか。
　
　もちろん女武者も、このまま手をこまねいてやられる一方ではない。何やら祈りを捧げ自らのみならず、仲間達をも治癒させようとしている。
　しかし祈りの声は上げられることはなかった。アカネの放った花びらが、女武者の口を塞ぎ、切りつけ、声を上げることを許さない！

　およそ半数の女武者が、その身を大地に横たえたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　悪徳商人を追う役人たちの中から一人の猟兵が、二歩三歩悪徳商人と女武者の方向へ歩み出る。
「用心棒？　――はっ、女の子の背中にこそこそ隠れるとか恥ずかしくねぇの？」
　侮辱の表情を浮かべた、雨音・玲（路地裏のカラス・f16697）が、豪商をまるで汚いものでも見るかのような目でにらみ付ける。
　しかし、腰が完全に引けている悪徳商人は、逃亡できそうな道を目で探っている。そして女武者を盾に逃げようとする悪徳商人の目の前に、弦月・宵（マヨイゴ・f05409）が姿を現した。目的地が分かっているなら待ち伏せておこう、という策が当たった。
「普通の商人なら、利益を求めて、あくせくするのはいい、と思うんだけど」
　笑みを逃亡しようとしている商人に向ける。しかし、その目は全然笑ってはいない。

　少なくともこの状況では、逃亡は不可能とはなったが、しかし用心棒の存在がある以上、悪徳商人を捕縛できない。
　そして、逃げられない！　と悟った悪徳商人は、女武者の陰に隠れる。いわば人垣の中に、埋もれる格好になってしまった。
「オブリビオンの用心棒をどうにかしないと……」

「それが悪事の隠蔽と保身なら、バレないようにしないと」
　そう。目的はオブリビオンの討伐だけではない。悪徳商人の身柄を確保し、裏金の動きを摑み、その資金をサムライエンパイヤの安寧（あんねい）に使うこと。

　女武者を挟んで反対側……弦月が立ち塞がって逃亡を阻止した様を目にした雨音が
「男なら自分の身は自分で守れよ！！」
　女武者の肩越しに隠れた格好になっている悪徳商人に届くよう、大声を張り上げる！

　すると、まるで呼応するかのように、弦月の側（がわ）から炎があがり、剣げきの音が響く！
　弦月の腕から発せられた炎が、太刀にも及んでいる。まるで炎に包まれた腕が、長く伸びているかのよう。
　女武者は鉄砲の一斉発射で対抗しようと弾丸を放つ！　が、元より肉を切らせて骨を断つ接近戦で迫ってくる弦月には、かえって弾丸が当たらない。同士討ちを誘う位置取りをされては、引き金も引きにくい。焦って撃ってもフェイントでかわされているし、流れ弾が当たろうがその痛みなど、ものともせずに、強力な太刀の一撃を女武者にたたきつける！

　一方雨音の方はどうか？
「銃の攻撃は直線的だから――。死地を抜ける恐怖に打ち勝てりゃ、そんなに怖くねぇよっと！！」
　恐れを抱くのは当然だけれど、それで動けなくなっては余計「的」と化すだけだ。
　一歩を、より敵弾に向けて進める。ただし、その一歩はあり得ない速度だ。銃弾をまるで子供の投げてくるボールのごとくかわしていく。
　女武者の流れ弾が二つ三つ足元に当たり、そのたびに接近速度が落ちてくるようにも見えるが、そのようなことは些末（さまつ）なところと、とより近づいてくるではないか。
「火薬を使ってんだろ？　銃を手放すことをお奨めするぜ」
　狙いは女武者が腰に持つ、火薬つぼ。ここに炎の属性攻撃を浴びせれば……その刹那。爆発が発生！　爆風の巻き添えになった女武者は、吹き飛ばされた。その行く末は、地べた経由骸の海。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「……お金とか、戦争とか、難しいことは分かんないんだけどね。　悪いことはしちゃだめだよ？　だから、お仕置きが必要だね」

　アウル・トールフォレスト（高き森の怪物・f16860）の無邪気な声が、いよいよ残り少なくなった用心棒の女武者たちに響く。しかし人間ではあり得ない、かなり高い位置からの声は、少なくとも女武者に守られている、悪徳商人達には恐怖をさそうものだった。
　加えて、アウルの角は、この世界で「強大な力」の権化たる「鬼」をイヤでも連想させるに十分過ぎた。

「オニごっこしましょう？」

　その彼女から「鬼」という言葉が出たものだから、もう悪徳商人達は、恐慌状態に陥る。慌てふためき、恥も外聞も、大福帳も手形も、すべてをかなぐり捨てて逃げようとするが、そこにあるのは「高き森」の壁。
　あるものは壁をたたき、またあるものはよじ登ろうとし、更にまたあるものは、種火つぼのフタを開けてその中の炭火から、火を放つことで「迷路」からの脱出を図ろうとするが、その全ての試みは徒労、でしかなかった。

「……あなたもダメよ、商人さん。だって、あなたは悪い人で、オブリビオンだもの。それじゃあ……ね。わかるでしょう？」

　両脇を「高き森」の壁に固められた通路の端から、のそり、と姿を現したのは大きな体……アウルの姿だ！　大慌てで今来た道を引き返すが、そこにもまたアウルが現れた者だから、悪徳商人達は、すっかり腰を抜かしてしまい、ある者は放心、またある者は気絶、ともう正常な判断力はなくしている。

　というわけでこの後の迷宮で起きたことは、同じく迷宮に閉じ込められた、女武者しか知り得ないことであった。

　森の外から響く、アウルの声
「森に徘徊するのは『怪物』の影。わたしと同じ考えを持って、わたしと同じ爪を持っている」
　女武者も、ただ倒される訳にはいかない、とばかりに必死で抵抗するが、怪力を伴った爪の威力にかなうべくもない。ある武者は傷を癒やそうと祈りを捧げるが、迷宮で分断されている以上その効果は自らのみ。残る全ての女武者は、討ち取られ骸の海へと帰っていったのであった。

　後に残るは悪徳商人達だけ。
「迷路の出口で待っていたけれど、誰もたどり着けなかったね」
　アウルの声で正気を取り戻した商人は、自らの状況を理解するのに、若干の時間を要した。
　既に役人の用意した唐丸籠……罪人護送用の籠の中に押し込められて、手かせ足かせで厳重に拘束されている。
　先刻、放り投げた大福帳や証文は、しっかと猟兵達に握られている。
　こうなっては、もはや言い逃れもできない。さらし者として、今まで逃げてきた街道を逆戻り、という自らの運命を悟り、籠の中でガックリと頭を垂れる、悪徳商人達。

　護衛の役人は猟兵達に、
「ありがとうございました。それではこれから急いで護送して、お金の流れをしっかと解明させていただきます！」
　と、言い残し悪徳役人達を乗せた籠の列とともに、江戸へ向かっていった。

　このお金が、この世界の庶民達のために生きることを、猟兵達は祈らずにはいられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月13日