エンパイアウォー⑳~絢爛の花の御所にて討ちたもう
ニイニイニイ。
ジリジリジリ。
絶え間なく続く蝉時雨が響きわたる。盆地にある京の都の夏はうだるように暑い。
そんな都のかつて足利将軍家の邸宅であった場所に、今は輝くばかりに美しく新築された『花の御所』があった。
広大な庭には松並木がならび、巨岩に囲まれた泉には蓮の葉が浮かび、山里風に植えられた広葉の木々や柳の葉が影を落とす。
涼やかな池にはいまだに残る杜若が咲き乱れ、泉と池をつなぐせせらぎには蜻蛉が連れ立って飛ぶ姿が見える。竹垣に絡みつくように咲いた朝顔の濃い藍色は風に揺れて、何とも涼やかであった。
「金、金、アタシの金……!」
夏の風情を眼前にして、心安らぐこともなく縁側で憎悪の炎を燃やす者がいた。
日野富子――この豪奢な『花の御所』を有り余る富によって造らせた主であり、サムライエンパイアの掌握を企むオブリビオンが一人である。
「あいつら、アタシの集めた金を我が物顔で……!」
富子の足元から、流れ出るように葡萄色の炎が噴く。
流れ落ちたた炎は、庭に綺麗に敷き詰められた真白な玉砂利を焦がす。
「徳川も、猟兵も……絶対に皆殺しにしてやるッ!!」
贅を凝らした庭が汚れるのも厭わず、さらに延びる炎が丹念に剪定された松を焼く。だが、それを咎める者も惜しがる者もここにはいない。壊したものは、また新しいもので賄えば良いのだ。財はいくらでもあるのだから。
焼け焦げて地に落ちた油蝉がジジ、と最期の声をあげた。
●
「徳川埋蔵金探索行に、悪徳商人捕縛指令。いずれも順調に進んでいるようだな」
ミロ・バンドール(ダンピールの咎人殺し・f10015)がグリモアベースに集まった猟兵達へと呼びかける。
「このたび、大災厄『日野富子』への道が拓かれた。それも、皆のおかげだ」
作戦の地図に目をやると、進軍すべき道のりは半分ほど進んでいるようにも見える。今ならまだ、十万の軍勢を十全の状態で魔空安土城まで運べる希望は残っているのだ。
「日野富子は、京都の『花の御所』にいる。豪奢な邸宅を新たに建てた資金は阿漕な商売によるものだな。今から、テレポートでその『花の御所』へ向かってもらいたい」
大悪災の二つ名に恥じぬ実力を持ち、日野富子は猟兵たちのユーベルコードに対して先制攻撃を行う。
その対策を十分に練ったうえで戦わなければ、何の有効打も与えることが出来ない可能性もあるだろう。
「絶対先制の能力を持つ厄介な相手だ。油断しないでかかって欲しい。俺からは以上だ」
そう言うとミロはグリモアの炎を灯し、テレポートの準備に入るのだった。
みづかぜ
みなさんこんにちは、みづかぜです。初めましての方は初めまして。オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。
こちらは【⑳決戦日野富子】該当シナリオでございます。
和風庭園で大乱闘、という雰囲気でお楽しみいただけますよう尽力する所存でございます。
今回はプレイングに何の不備がなくとも、不採用が発生する可能性がございます(詳しくは雑記にて説明をしておりますが、参加にあたって必ずしもそちらをお読みいただく必要はありません)。
ご承知おきいただければ幸いです。
微力ではありますが全力で猟兵の皆様の冒険をお手伝いする所存でございますので、宜しくお願い致します。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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大悪災『日野富子』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
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POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
龍泉寺・雷華
いよいよ世紀の大悪党と決戦の刻が訪れたようですね……!
我が力を前にどれ程耐えられるか、楽しみですよ
敵の攻撃の起点はあの痛そうな爪
ならば、爪に意識を集中しておけば攻撃のタイミング、軌道共に計れるというもの!
回避困難な時は不壊なる障壁(オーラ防御)を展開して防御態勢です!
敵の凶刃を凌ぎきったら、今度はこちらの番です
我が究極魔術の一つ、三属性の同時行使を見せてあげましょう!
原初の炎で創りだした大火球、破滅の雷で形成した雷槍により逃げ場ごと全て破壊してやります!
傷ついた仲間がいるなら、生命の水で傷を覆って回復です
我ながら自分の有能さが恐ろしい……
くくく……はっはっはっごほっ、げほっ!(代償により吐血)
ジュリア・ホワイト
成程、聞いたことがある
お金に執着する者は恐ろしいし、大人の女性は怒らせるととんでもなく怖いと
「つまり、両方合わさってる彼女は極めて危険なわけだ。そうでなくても信長軍の将だし」
だがまぁ、負けるわけには行かないさ
・先制対策
敵の攻撃は炎
ならボクにも勝算がある
睨むとしたら顔が狙いの確率が高い
即座に火炎耐性を持つ黒のスコップで顔をガード
これで直接顔を燃やされることはない
そして高圧放水銃を上に向けて撃って火ダメージの軽減を図ろう
・反撃
顔を隠してる間にこっそり口に含んだ石炭で
【圧力上げろ!機関出力、最大開放!】による自己強化を発動して殴りかかるよ
「観念して大人しくして欲しいな、覚悟!」
【アドリブ歓迎】
涼やかな一陣の風が御所を吹き抜ける。
風に乗るように飛び石を踏み、御所の縁側へと近づく人影があった。
「いよいよ世紀の大悪党と決戦の刻が訪れたようですね……!」
ぶかっとしたコートにアバンギャルドな服、禍々しいアクセサリ――一言でいえば厨二ファッションに身を包んだ龍泉寺・雷華(覇天超級の究極魔術師・f21050)は、自信ありげに宣う。
究極魔術師(自称)たるもの、『大悪災』が相手ともなればきっと互角(戦力的な意味とは限らない)の戦いを繰り広げるのだ。
「我が力を前にどれ程耐えられるか、楽しみですよ」
逸る心を今は抑えて目標を視認する。暑さの元はここではないかと疑うぐらいに、紫にゆらぐ炎が広大な書院造の一角に見えた。
「来たか、賊め!」
将軍正室に相応しい嫋やかな外見からは信じられないようなドスの効いた声で、日野富子が雷華を出迎えた。
「アタシのジャマをするな!」
いくさの経験などないのであろう白魚のような指の先が輝く。
「民草の生活を邪魔してるのはあなたですよね?」
「知るか! アタシが正義だ!」
雷華は、富子の長く伸びる強固な爪に意識を集中する。九重に枝分かれするそれは投網のように雷華の逃げ場を奪おうとしていた。
「顕現せよ、『不壊なる障壁』ッ!」
何のことは無いオーラ防御(技能)ではあるが、爪の軌道へと的確に展開することで雷華は何とか身を護る。踏みしめた玉砂利に足が沈むほどの衝撃を耐えて反撃の機を窺うと、富子は一旦爪を引かせて構えなおしていた。
「ウロチョロと逃げやがって!」
今度は真っ直ぐに、最短距離で突くように爪が伸びる。
「我が究極魔術の一つ、三属性の同時行使を見せてあげましょう!」
究極魔術・三天魔(アルティメイトスペル・デルタマジック)により創成した原初の大火球を盾とし、威力を殺した爪に正面から破滅の雷槍をぶつける。
「ぐううアア!」
見た目にはそれほどの損壊はないが、富子は指先を強く握り悔しがる。どこか爪が剥がれたのだろう。
「っざけんなムカツク殺してやる!」
ほとんど噛むようにして爪をくっつけて、再び伸ばさんとする。
究極魔術の代償でふらついた今の雷華には、守りを固める余裕もない。
脚を切り刻んで逃げ道を奪い、どのようにいたぶり殺してやろうかと富子が思案した隙をついて、爽やかに声を掛ける者があった。
「成程、聞いたことがある……お金に執着する者は恐ろしいし、大人の女性は怒らせるととんでもなく怖いと」
「あァ?」
冷静に自らの様子を指摘された富子が声の主へ視線を向ける。
庭園を散策するように颯爽と歩むジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)の様子は、ともすれば京都観光PRの撮影にも見えたかもしれない。もっとも、富子にそのような予備知識はないのだが。
「つまり、両方合わさってる貴女は極めて危険なわけだ。そうでなくても信長軍の将だし」
年若いジュリアから朗らかに事実を言われると、富子の気持ちも燻る。
「信長の野郎もいずれぶっ殺す! アタシの前に立つヤツは皆殺しだ!」
雷華のことなど忘れて、富子はジュリアへと標的を変える。
憎悪を込めた視線は、目が合った瞬間にジュリアを紫色に爆発炎上させた。
「そこで蚊遣り火にでもなってろ!」
池の杜若よりもやや赤みの強い紫が派手に燃える。
炎はそのまま勢いを増すかと思いきや、燃えているはずのジュリアが放水を始める。蘇鉄状の噴水が延焼をも消していった。
「やはり顔狙いだったね」
決め打ちによる賭けではあったが、黒のスコップで防御したジュリアは見事直接の炎上を免れていた。
とはいえ、炎に対して無敵というわけでもない。迅速に反撃すべく口に含んでいた石炭を飲み下すと【圧力上げろ!機関出力、最大開放!(バーニング・ハート)】によって己を奮い立たせる。良質な石炭がボイラーで燃え、出力の向上を感じる。
憎悪の炎を突っ切るように、蒸気機関は加速する。
「クソッ、こっちへ来るな!」
富子もさらに紫の炎を焚く。ジュリアを外側から焦がす憎悪の炎が身を焼くのが先か、内に宿る炎がオーバーヒートするのが先か。
真白な玉砂利には枕木もレールもないが、線路を進むようにジュリアは疾走する。
「観念して大人しくして欲しいな、覚悟!」
防御に使っていた黒のスコップで、そのまま富子に殴りかかる。生前は怪我などしたこともなさそうな室町美人の頭に、鈍い音を立てて熱々のスコップが命中した。
「クソがぁ!!」
怒り狂う富子が滅茶苦茶に憎悪の炎を噴く。だが、ジュリアを覆った多量の生命の水が火傷を癒す。今の間に持ち直した雷華の三天魔(デルタマジック)の三属性目であった。
「我ながら自分の有能さが恐ろしい……」
「そこまでかな? いや、でも、ありがとう」
ジュリアは思わずツッコんでしまうが、仕事を果たした機関を冷却する慣れた感覚はとても心地よい。
「くくく……はっはっはっごほっ、げほっ!」
究極魔術の代償によって吐血が止まらない雷華であったが、やれることをやった充足感に包まれていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ステラ・アルゲン
ルパート殿(f10937)と
(アドリブOK)
お金、お金とそればかりですね
確かに生きていく為にはお金は必要でしょう
ですが過去の存在たるオブリビオンには必要ない物と思いますよ
ではルパート殿、頼みました
ルパート殿の背に隠れて相手の視線から隠れて攻撃をやり過ごします
ルパート殿の変化した鎧、嘗ての主が着ていた鎧を着込む
剣の腕は未だあの人が上
こうして姿が近いとそれだけ当時の記憶が甦る
記憶から主の【戦闘知識】を思い出しながら剣を振るおう
ルパート殿と動きを合わせて【ダッシュ】して接敵し【流星一閃】
避けようものなら動きを【情報収集】して予測し攻撃する
金への執着、お前の願いごと、我らが斬り捨ててくれる!
ルパート・ブラックスミス
ステラ殿(f04503)と共闘。
まずはステラ殿を背にしながら接敵。
敵の視線から【物を隠す】要領で、この身でステラ殿を、己自身は急所部分をありったけの燃える流動鉛で大型化(【武器改造】)した大剣と鉛の翼による【武器受け】で【かばう】。
それでも命中する分は【覚悟】して【火炎耐性】で耐える。
凌いだら本番だ。
UC【信ずる者に殉ずる為の鋼姿】でステラ殿の真の姿、彼女の主の鎧の姿に似せた強化鎧に変形、ステラ殿が装着。
能力統合と先のダメージにより増強された戦闘力と飛翔能力で【ダッシュ】。
敵の炎をも【吹き飛ばし】一気に決着をつける。
独りで喚く金の亡者よ。
お前の願い、我らが斬り捨ててくれる!
【アドリブ歓迎】
紫紺の炎渦巻く庭園がまた、風に吹かれて木々の葉を揺らす。
ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)の歩みは穏やかで、機能美に満ちた無機的な武具のヤドリガミとしての精巧なうつくしさがあった。
「渡来人? ……敵か!」
和風庭園には異質な漆黒の西洋甲冑そのものであるルパートの姿を遠目に認めた富子が、先んじて憎悪の視線を送る。
ルパートも地獄たる流動鉛を燃やす。蒼炎は紫に爆ぜる炎に飲まれぬよう、青白い翼の羽ばたきとなって紫紺の憎悪を受け流す。
「そのまま屑金のように溶けろ!」
「いいえ、そうはいかない。なぜなら――『我が身は人に非ず。我が身は尊き魂を護る鎧也!』」
纏わりつく紫炎を吹き飛ばす様に、ルパートの全身甲冑が部位毎に分かれて宙へと散らばる。
形状を変えて組み替えられた鎧は煤けた黒から煌めく白銀となって、『ルパートの陰』に隠れていた人影へと装着された。
そこに居たのは、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。富子の視線から逃れるために、身を縮ませ機を窺い、巧みに位置取りを工夫していた。
「お金、お金とそればかりですね。確かに生きていく為にはお金は必要でしょう」
かつてステラの主が着ていたものと同一の白銀鎧に変じたルパートと、それを纏うステラは今や在りし日の英雄のようだ。己の本体である流星剣を握り締めて、主の振るった昔日の剣の腕を想起する。
「そうだ、金は国というカラダを巡る血だ。アタシはそれを統べる心臓だ!」
末端は心臓の願うままに従い動けば良いのだといって、富子は乱れた黒髪をかきあげる。
「ですが過去の存在たるオブリビオンには必要ない物と思いますよ」
いまを生きる民草には、いまの心臓が必要だ。それは富子ではなく、徳川幕府であるはずだ。ステラは富子のもとへと青い外套を翻して飛翔する。
今はまだ、ステラはかつての主に剣の腕では及ばない。記憶にある主は己をもっと扱えていたように思う。だが、ルパートが再現した主の鎧は富子より受けた紫炎をも取り込み、潜在能力の昂りは人の域を超える。
庭園に遊ぶ蜻蛉の何倍も疾く、白く煌めく流星が貴人へ向かう。
「独りで喚く金の亡者よ。お前の願い、我らが斬り捨ててくれる!」
白銀の騎士がルパートの声で号ぶと、構えた流星剣は蒼炎をまとっていっそう煌めく。
「亡者じゃない、アタシは、まだ……!」
執念に満ちた富子の瞳もまた仄青く光るが、憎悪の視線は変幻自在に軌道を変え飛翔する騎士を捉えることができない。
「金への執着、お前の願いごと、我らが斬り捨ててくれる!」
白銀の流星が煌めき、真横に振るわれた剣が富子を薙ぐ。
衝突によって速度を落とした騎士を捉えた視線は今度こそ紫の爆炎を熾す。
「違う、アタシに任せれば、国が滅びることなんてないんだ!」
絢爛たる絵巻刺繍の唐衣を焦がし、庭木を焼き、石灯篭を倒し、富子は憤りを振りまく。翻る威風の青と蒼炎の翼を追い、爆炎が周囲を地獄へ変える。
「アタシの願いは……!」
紡がれる言葉より早く、紫炎渦巻く地獄より白銀の騎士が消える。
流星が富子の願いを聞き届けることはなかった。
大成功
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萬場・了
この度は是非一目、その麗しいお姿を撮影させていただきたく
こうしてお邪魔させていただきましたよ、っと
こんなに美しい庭もアンタの前では身を焦がす、ってか
向こうからの攻撃は急所へ受けぬよう【見切り】痛みは【激痛耐性】で耐える
ふひひ、派手に見えるだろ、演出……だぜ?
【不死鳥の尾】で流れ出る血を戻し、傷口を塞ぐ
可能なら初撃を受けた段階でヤツの爪そのものを絡め取り縛るぜ
悪いな。俺も結構粘着質でさ、諦めがわりいんだ
そっちは血の気が多そうだな
愛用のカメラで撮影しながら【生命力吸収】させてもらうぜ
せっかく蘇ったんだ、その姿をしっかり俺の目とカメラに焼き付けさせてもらうぜ!
先程までの紫炎地獄が夢まぼろしであったかのごとく、延焼の消えた庭園に静寂が訪れる。周囲は焦げて川面を撫でていた蜻蛉たちの姿も失せ、蝉の声もいつしか遠くなっていた。
「この度は是非一目、その麗しいお姿を撮影させていただきたく。こうしてお邪魔させていただきましたよ、っと」
カメラを携えた萬場・了(トラッカーズハイ・f00664)が呆然と庭に立ち尽くす富子の姿を収める。焼け跡となった庭園を背にファインダー越しに切り取られた見目形は深い喪失と燻る憎しみに満ちていて、一種のドキュメンタリーとして成立しそうだ。
「こんなに美しい庭もアンタの前では身を焦がす、ってか」
演者として言い終えたセリフに撮影者としての語尾を付け加え、了は続く富子の台詞を促す。
「黙れ、猟兵……」
花の御所の有様をそのまま捉えようとする了の収録を咎めるように、富子の爪は逆光に輝いて歪に伸びる。
「オマエに何が分かる、クソッ!」
富子は紫炎に耐えられず炭化した庭木さえも憎むように、了ごと爪で斬りかかる。
「ヒュゥ! いい画だが、光りすぎ!」
絞りが間に合わないぜ、と焦ってみせるが――これは了の演技だ。動向を注視し身を抉ろうとする富子の爪から急所を外し、肉を裂く痛みに耐える。
業物刀で斬ったような激しい血しぶきが飛び、朱をぶちまけて庭が汚れる。
もともとの負傷に加えてさらに多量の返り血を浴び、着物を真紅に染めた富子は了を絶命させんと、より一層腕を振りかぶる。
「消えろ!」
「ふひひ、派手に見えるだろ、演出……だぜ?」
散ったはずの了の血液が糊のような粘性を帯び、不死鳥の尾(アンビリカルコード)によって、傷口へと血が戻ってゆく。
富子の爪を汚す朱殷は、今や蔓のように絡み付いて富子の手を離さない。
「悪いな。俺も結構粘着質でさ、諦めがわりいんだ」
仕舞ったように見せかけたカメラを懐から取り出して、了は富子の顔を接写する。
ひどく眉間に皺を寄せるさまは大和撫子を台無しにしていたが、憤怒の形相は迫真にせまっていて激情的な良い画になる。
「そっちは血の気が多そうだな」
「どの口が……ほざけぇッ!」
了の血による捕縛を無理やり振り払った富子の手から、何本かの長い爪が折れる。
「せっかく蘇ったんだ、その姿をしっかり俺の目とカメラに焼き付けさせてもらうぜ!」
呪具でもある了愛用のビデオカメラが写した富子から生気を奪う。この先に待ち受けるのは消耗戦だ。けれど、幾人もの猟兵との戦いを経ていま武器を封じられた富子にもはや先は無く。
――陽が傾きかけたころ、遠くに聞こえる蜩の音に送られるように消えてゆく和服美人の画が撮れたのだとか。
成功
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