エンパイアウォー⑳~悪華絢爛
●
ぎりりと爪を噛む音がする。
鬼と見紛う形相の女は、ひどく苛立たしげに息を吐いた。双眸が虚空を睨む。周囲に渦巻く紫の炎は、苛烈さを増すばかりだ。
「あああムカつく、どいつもこいつもアタシのジャマばっかりしやがって――!」
豪奢な広間に、人影は彼女ただ一人。呟く声は低く、ひどく乱れた音で反響する。
いつだってそうだった。誰も彼もに邪魔されて、彼女は悪の名で語られ続けた。金に執心することの何が悪いのだ。成り上がれなかった者たちが、彼女を前に何を言う権利があろう――。
――だというのに。
「ああ、もう良い。どーでも良い」
血が滲むほど噛み締めた爪が、たちまち元の長さに戻っていく。睨み遣る襖の先に、彼女は数多の怨敵の姿を幻視した。
「全員ぶっ殺す」
京都、花の御所――。
存在し得ないはずの過去の遺物は、骸の海より這い出た女の手で、今ここに顕現している。
●
「場所が割れた」
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)が端的に告げる。吐いた息は、珍しく深刻な色を孕んだ。
「大悪災『日野富子』。とんだ守銭奴で天下の悪妻――だそうだな。京都の花の御所で、我々を待ち構えている」
花の御所は、本来ならばこの時代には存在しない。しかし有り余る富を用いるかの悪女は、室町時代の建造物をすっかり新築してしまったらしい。
戦場自体は十分な広さだ。絢爛な御所にあって、戦いに支障が出ることはないだろう。
――しかし。
予知した当人もこの世界には詳しくない。故に大したことは言えないのだが、ただ一つ分かっていることがある。
「強敵だ。純粋にな」
ニルズヘッグの表情が優れないのはそのせいだ。
猟兵の使用するユーベルコードに対して、先制攻撃を仕掛けてくる。威力もスピードも桁違いのこれを凌ぐ術がなければ、自身の攻撃を届かせるどころではないだろう。
当人はただ、化け物めいた執着を拠り所に、怒りと憎悪に任せて力を振るう悪霊である。だが、極めて単純な原動力であるが故に――強い。
「三途の河を渡るのには、金が必要なんだっけか。そっちも惜しんで何度でも蘇りそうな奴ではあるが、力尽くで叩き帰してやってくれ」
大男は軽口めいて笑う。時間が来たようだ。
グリモアが瞬く。その一瞬、ニルズヘッグはひどく真剣な表情を見せた。
「――武運を祈る」
しばざめ
しばざめと申します。
気の強い悪女が大変好きです。可愛い。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●
大悪災『日野富子』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
シナリオの性質上、厳しめの判定となります。ご容赦ください。
どうぞよろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
|
POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
唐草・魅華音
【○】
目標、大悪災日野富子の討伐。任務了解だよ。
あの怒りは脅威……だけどその感情はつけ込める隙。その隙をつけ込めるまでに耐えられるかどうかが勝負だね。
敵のUCを凌ぎながら動きの流れを読み、それを元に反撃を行うのを試みるよ。
敵から目線を離さず、爪の連撃を敵の挙動から【戦闘知識】で予測、刀で受け流して【武器受け】したり、近くの柱などを利用して伸縮する豆の木を絡めつけ【ロープワーク】で攻撃範囲から大きく逃れたりなどして、致命的な一撃を受けないように心がけてしのぐよ。
先制を凌いだら敵の動きを【情報収集】、【戦闘知識】を照らし合わせて行動パターンをインプットしたら『UC』発動、反撃の連撃を打ち込むよ。
●
豪奢な装飾が施された襖を破り、先陣を切って飛び込む桃色がある。
い草の香りが立ち込める広間に立った唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)へ、憤怒を湛えた双眸が向けられる。青々と光るそれに動じることもなく、魅華音の菫色の瞳はまっすぐに富子を射抜いた。
――目標、大悪災『日野富子』の討伐。
任務の対象を目の前にして、戦場傭兵たる魅華音に容赦の色はない。その静謐さすらも気に入らないとばかり、富子は吼えた。
「ああ、来やがったな、猟兵どもめ――!」
言うや否や、その爪がぎらりと輝いた。
――飛び掛かる女の伸びた爪の先に、彼女のものと思しき血の名残があることまでも、魅華音の冷徹な瞳は捉えている。
「ぶっ殺す!」
咆哮と金属音は同時。無骨な野戦刀は一閃目を受け止めた。続く二撃目は体を掠める。三打目は――。
飛び上がって避ける。
手甲より伸びた豆の蔓が、柱に巻き付いて魅華音の体を支えた。ロープを扱うが如く、縦横無尽に動き回る彼女に、富子は長く伸びた爪をぎりりと噛み締める。
「小賢しいマネしやがって――!」
憎悪と共に膨れ上がる紫の炎の奥、その十二単から目を離さぬまま、魅華音の指先はドローンを呼び出している。
此度は戦闘補助のために。上質な畳の上を飛び回るそれは、魅華音への殺意に溢れかえった富子の目には入っていない。
その――怒りこそが。
脅威であり隙でもある。
強すぎる感情が招く視野狭窄こそが魅華音の狙いだ。攻撃が苛烈さを増そうとも、紫の瞳は意志の炎を絶やさない。幼い頃から駆け回った戦場で積んだ経験は、瞬時に最適解を叩き出す。
或いは刃による受け流し。或いは蔓による撹乱。或いは反射的な回避。掠める傷は蓄積しても、致命的な一打は通さない。そうする間にも富子の苛立ちが募るのが、菫色にありありと映り込む。
そうして――。
鬼の形相で、女は遂に叫んだ。
「忌々しい、徳川の犬どもがァッ!」
「そういうわけではないけど――」
傭兵として叩き込んできた知識と観察眼を用い、ドローンにインプットされた行動パターンは、平時に比べれば極めて少ない。それでも。
――今は充分。
「お前の負けだよ」
これより魅せるは、殺伐した戦場に咲き響く華の唄。
我はこの戦場で塵と斥け舞い踊る――。
怒りに我を忘れた怨霊の前、薄桃の華が咲き踊る。単純な軌道の爪は弾かれ、その端から防御に回らざるを得なくなる。
ドローンに自身を操らせることでこそ成せる連撃は、次第に富子の余裕を奪う。その十本の指先が、とうとう防衛の姿勢さえも崩された直後――。
――紫の炎の向こう、脇腹に深々と突き立った刀の先を、女の目が驚愕に見開かれるのを、魅華音は確かに見た。
「ふ、ざけんじゃねえ――!」
憎悪に燃える炎に、魅華音は荒い息を吐き出して刃を構え直す。
畳に浸み込む血のにおい。戦の始まりを告げる剣戟の音が、絢爛なる御所に鳴り響く。
成功
🔵🔵🔴
御鏡・十兵衛
連携・アドリブ歓迎
某知ってるよ?これジャマされなくても自発的にイライラして結局暴れるパターンでござろう?
…さて、殺されては某も困ってしまうのでな。すまぬが、我ら猟兵全員で貴殿を逆にぶっ殺させて貰う。
それで、如何にして視線を防ぎ、攻撃に繋げるかでござるが
…飛び掛かりながら、大きめの外套を広げて視線を遮ぎりつつ距離を詰める。
すぐに燃やされてしまうでござろうが、一度防げればそれで構わぬ。
そのまま着地と同時に【属性攻撃】で素早く水を操り即席の壁、水の鏡を形成。
咄嗟に発動して自爆してくれれば御の字。そうでなくとも、多少威力は落ちるがそのまま壁の裏から水破を放っても良い。
と、こんな物でどうでござるかな?
クロト・ラトキエ
○◇
『アタシの前に』と言うからには、攻撃発動後即、側方へ跳ぶ…
くらいじゃ、まー甘いですよね…。
トリニティ・エンハンスは初手より全力全開、水の魔力を防御力に極振って。
炎の威力、損耗を減じられれば上々。
炎と水の相乗効果で、陽炎でも生めばなお重畳。
防御に徹し堪えるを炎に屈したと思われるか、
或いは陽炎に紛れられたなら…
『どーでも良い』は、良くないですよ?
狙うは、虚。
お得意らしい手、鋼糸にて絡め引いての2回攻撃、
動きを封じ、他の方が攻める隙に変えられれば。
貴女が天下の金の支配者ならば、
僕は僕の命の支配者。
飄々とみせても猟兵で、傭兵。
どーでもだなんて投げ出しちゃあ…
そんなの付け入るに決まっているでしょう?
●
「某知ってるでござるよ? ジャマされなくても自発的にイライラして結局暴れるパターンでござろう?」
「僕もそう思いますよ」
困ったように笑う御鏡・十兵衛(流れ者・f18659)の声に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が似たような笑みで応じる。
そのやり取りこそ和ましいが、常より戦場に在る二人は既に臨戦態勢を整えている。十兵衛の手にはいかなるときも手放さない愛刀――止水が、クロトの手にはちらりと光を反射する四本の鋼糸が、出番を待って冴え冴えと光る。
故に二人は、ほぼ同時に歩を進めた。
「さて、殺されては某らも困ってしまうのでな」
言葉とは裏腹に、全くもってそんなつもりはないとばかり、金色の眼が瞬く。
「すまぬが、我ら猟兵全員で貴殿を逆にぶっ殺させて貰う」
「あ?」
眼前に立つ二人分の影に――。
煩わしいとばかり、富子の眉間の皺が深くなる。そこに浮かんだ怪訝の色が、みるみるうちに憤怒のそれへ変わるのを、クロトの青い瞳が捉えた。
――刹那。
「ナメたこと言ってんじゃねえぞ、クソガキ!」
吼える怨霊の周囲に炎が躍る。紫焔に穿たれる瞬間、二人は同時に跳躍した。
側面に回ったクロトの体を、憎悪の視線が射抜く。まともに目が合ったことに、男の表情が苦々しい色を孕んだ。
「まー、甘いですよね……!」
――しかし。
身を焼く熱は織り込み済みだ。即座に発動した三属性、全てを防御のための壁に転じて、クロトはその身を憎悪の炎の中へ隠す。
炎の魔力、水の力、苛む焔の爆発で生まれた陽炎に、富子は彼から視線を外した。次いで睨む先は――。
「そんでどうにかする気か? 甘ェよ」
外套に身を隠した十兵衛だった。
爆炎が弾ける。清らなる水の力をもってして、穢れた感情の塊を防ぎきるにはなお足りない。その身を穿つ焔に、彼女は歯を食い縛る。
「ぐ――」
「ガキどもに構ってる時間はねえんだよ」
態勢を崩しながらも、未だ剣を手放さない十兵衛に、十二単はゆっくりと歩み寄る。青々と濁る瞳にひどく歪んだ怒りと怨嗟を映し出し、富子は低く、這いずるように声を上げた。
「死ね」
持ち上げた腕が――。
振り下ろせないことに気付いたのは、どちらが先だったか。
晴れた爆炎の先、十兵衛は細い糸が煌めいているのに気付いた。富子の腕を絡め取るそれを視認した刹那、虚を狙うもう一本が、大悪災の胴を引き寄せる。
女の睨む先。飛び散るい草の合間より。
血に塗れた黒装束が――ゆったりと笑う。
「『どーでも良い』は、良くないですよ?」
「テメエ!」
咆哮に意味はない。ひどく細く――それでいてひどく丈夫な糸の刃が絡まった体は動くことなく、充分に高められた水の魔力が焔を弱める。
戦局は猟兵へ傾いた。およそ女のそれとは思えぬ力で抗う富子に、クロトは力を込めて、なおも笑う。
「貴女が天下の金の支配者ならば、僕は僕の命の支配者」
どれだけ飄々としていても、その本質は猟兵であり、戦場を馳せる歴戦の傭兵だ。
生き残ったなら即ち勝利、勝ち戦だろうと死ねば無意味。生き残ることこそを磨き上げた彼に、憎悪如きが敵うはずがない。
「どーでも、なんて投げ出しちゃあ……そんなの付け入るに決まっているでしょう?」
「ふッざけんな――!」
がむしゃらに抗い続ける富子を前に、一度引いた十兵衛の唇にも笑みがある。まっすぐに見据える標的はただ一つ、故に二人が交わす言葉もごく僅か。
「行けますか」
「勿論でござる」
刹那に走り出す剣豪が、血に濡れた手で刀を握り直す。
常人とは思えぬ鍛錬に耐えてきた。ただ剣の果てを目指して走ってきた。この先もそうして走っていく。
ならば勝つための条件は。
この体が未だ動く。
――それだけで良い。
「とは言ったものの。流石にキツいでござるね」
「そう思うなら死んでろ、クソガキ!」
「嫌でござるよ!」
ヒステリックな声に鷹揚な笑みを返し、刀を構える十兵衛が地を蹴った。大上段に振り上げた刃の矛先を見るや、クロトの手の内で鋼糸が翻る。
「先刻の言葉、そっくりそのまま返す」
「な――」
飛び散る血の隙間に、煌々と光を反する刀の軌道。降りかかるそれを防ぐための腕は、クロトの糸に邪魔されて動かない。
故に。
粋を極めた剣豪の刃を防ぐ術など――。
「――生半な防御は悪手と心得よ」
漆黒の髪から覗く金の隻眼は、正しく人斬りのそれ。
白刃より放たれる水流が、その腹を破るのを視界に捉える。十兵衛とクロトの血に濡れた唇に、会心の笑みが浮かんだ。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
ジョン・グッドマン
金は手段であり目的ではない
【POW】使用
先制対策
醜いな、いくら針があった所で花が汚ければ意味がないだろう!と言い挑発する
事前に[A-01]に騎乗し【騎乗】【運転】を使用し突撃する、相手の視線がこちらに向いたらスライドブレーキをかけ【怪力】でバイクの慣性と共に日野に向かって蹴りつける。目的は視線をバイクで防ぎバイクだけを炎上させる事だ
紫炎がついてもつかなくとも【戦闘知識】【クイックドロウ】【第六感】を使用し射撃でバイクの燃料タンクに穴をあけ炎上させる。
射撃と同時に【トライ・バル】を使用しつつ【ダッシュ】で相手に近づき【怪力】【捨て身の一撃】【二回攻撃】でバイクごと攻撃し離脱する
アドリブ、連携歓迎
ゼイル・パックルード
あーあー荒れちまって、いい女なのに勿体ない
度のすぎた富にしろ、美貌にしろ、まさしく宝の持ち腐れって感じだな。
どのくらい正確に狙いつけてくるかわからないが……
初撃は鉄塊剣で武器受け。爆発込みで一撃は耐えてくれればいい、というか最悪動ければいい
爆発の炎や煙が上がったところで、鉄塊剣の腹の部分で扇ぐように煙を吹き飛ばして相手に浴びせる。
その後、ナイフを投擲して牽制し、ダッシュで残像を発生させつつ、ところどころ囮に地面に刀を刺す。
それでヒートアップして、炎を乱発するならこっちは落ち着いてそれを更に利用して近づき、
落ち着く頭があるようなら、腹くくって一気に近づいていき、ユーベルコードの一撃をお見舞いする
神埜・常盤
◯◇
御機嫌よう、麗しい御婦人よ
機嫌直しに僕と死の舞踏でも如何かな
憎悪の視線に焼かれる訳にはいかないなァ
第六感を活かして躱すか、其れが無理なら
オーラを纏う破魔の護符で防御陣を展開
激痛耐性も意識して何とか武器受けを
影縫に己の血を捧げて強化すれば
――さァ、我等が晩餐会を始めようか
僕の得物は今宵も血に飢えて居る
展開していた破魔の護符をばら撒き目眩し
その隙に目立たぬよう暗殺技能を活かして接近
影縫で其の身を串刺しにして呉れよう
戦闘で喪った血は得物を通じて生命力吸収するか
影縫を染めた赫を吸血して取り戻そうか
絢爛の夢に縋り、怒りに身を焦がすだけの生に
何の意味があるというのかね
君も疲れたろう、骸の海で静かに睡れ
●
血飛沫を散らす富子の体が、糸の檻より逃れ出る。肩をいからせ焔を纏い、悪鬼と見紛う形相で、女は天に向けて咆哮した。
「クソが――クソが、クソが、クソがァッ! テメエらもアタシの金が目的か! アタシのジャマばっかりしやがって! ぶっ殺してやる、ぶっ殺して――!」
「金は手段であり目的ではない」
冷静に声を上げたのはジョン・グッドマン(人間のグールドライバー・f00131)だ。怨霊の青い瞳が爛々と輝く中、相対する同じ色の目は怜悧な色すら孕む。
騎乗するバイクのエンジンは温まっている。愛機の準備は万端だ――無論、ジョンも。
「ッざけんな! 金の価値も分からねえ奴らが、アタシのジャマをするんじゃねえ!」
――吼える富子の視界に、後方に立つ二人は映っていない。
「あーあー荒れちまって、いい女なのに勿体ない……」
「君、良い趣味してるねェ」
「美人は美人だろ。度が過ぎた富といい、まさしく宝の持ち腐れって感じだけどな」
それは違いない――ゼイル・パックルード(火裂・f02162)の至極尤もな言に、鷹揚に笑った神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は、ジョンに気を取られる富子の前へ躍り出る。
そのまま恭しく一礼。眦を吊り上げる女の眼を覗き込み、宵を映す赤茶の三白眼がゆるりと閃く。
「御機嫌よう、麗しい御婦人よ。機嫌直しに僕と死の舞踏でも如何かな」
「ふざけてんのか、テメエ!」
「そんなつもりは無いのだけれどね」
あくまでも飄々と声を交わす常盤の眼差しさえ煩わしいのか、長い髪が逆立たんばかりに揺らめくのを、ゼイルはまっすぐに見る。相手の狙いの正確性が分からない以上、まして共闘相手が揃って注意を引きつけてくれているのならば、ゼイルのやるべきことは一つだ。
冷静に。冷然と。或いは――。
その唇を彩る、昏く深い悪人の笑み。声の一つすら漏らさずに、焔の盗人は巨大な剣の柄を握る。
「アタシの前に――立つんじゃねえ!」
獣じみた富子の声が響くと同時、ジョンのバイクが唸る。しかし狙いはほぼ同時に飛びのいた常盤の方だ。
――まともに目が合うのは想定してある。故に。
常盤の手から飛び立つ宵闇の符が、赤々と五芒星を輝かせる。謡うように紡がれるのは祝詞――銀の軌跡が描く玄武が、堅牢なる武神の加護で使い手に守護をもたらす。
爆炎を遮る術式が展開しきるのを見とめるや――。
地を蹴ったゼイルの気配に、富子が気付く。
射抜かれたとて怯みやしない。元より負傷は覚悟の上だ。翳した鉄塊剣の上で紫の炎が躍ったとて、地獄よりの炎を以て鍛えたそれがそうそう燃え尽きようはずがない。
それでも、その攻撃の重みに歯を食い縛った。そのまま唇が弧を描く。いついかなるときでも、そうあるように。
逆境にこそ――ゼイルは嗤う。
「甘ェ!」
思い切り振り切った剣が煙を押し返す。熱を孕む灰をまともに喰らった富子に駄目押しのナイフが突き刺さった。
彼女が思わず体勢を崩すと同時。
「――さァ、我等が晩餐会を始めようか」
煙の向こうより、半魔の吸血鬼が現れる。
展開した護符が放つ輝きが、煙の中に拡散されて不規則に煌めく。富子の目を眩ませるには充分すぎるそれの中――。
暗殺の刃が混じることに、女が気付けようはずもない。
背中に深々と突き刺さったクロックハンド。女の吐き出す赤の一滴さえも、代償として支払った常盤の命を満たしていく。
オブリビオンの血は、元よりあまり口に合わないのだが――芯のない者はいっとう不味い。
三白眼をゆらりと細める常盤の眼前で、女に肉薄する銀が見えた。
赤々と輝く地獄が、紫焔を破って現れる。富子が顔を向けたときにはもう遅い。振り下ろされたゼイルの拳が、頭を割らんばかりの衝撃で叩き込まれる。
「ち――くしょう、全部全部アタシの金だ、アタシの権威だ、アタシが、アタシのために集めたモンだ! ビタ一文くれてやらねえ!」
「絢爛の夢に縋り、怒りに身を焦がすだけの生に、何の意味があるというのかね」
眼前へ降り立つ琥珀の髪が、青々と輝く瞳を覗き込む。閃く刃は己と同じく、未だ満ちずに飢えている。
「君も疲れたろう、骸の海で静かに睡れ」
翻るクロックハンドは、埋めた生命力の分だけ冴え冴えと瞬く。地獄の炎を纏うゼイルもまた同じ――強敵を前にして、彼が笑わぬことなどありはしない。
たとえいかなる窮地であれど。
たとえいかなる優勢であれど。
ゼイルは嗤って、拳を相手の胴へ叩き込む。
「そういうわけだ――一足先に地獄を味わいな!」
「ふざけんなァッ!」
なおも叫ぶ女に――。
「醜いな」
静謐な声は、ひどく凛と響いた。
視線を遣った先に、金色の髪をした男が立っている。バイクのアクセルを握り込んだジョンが、徐に目を細めた。
しかしそれで――富子の前に立つ二人にとっては充分だった。
「いくら針があった所で花が汚ければ意味がないだろう!」
いっとう高らかな声で発される言葉は、いっそ分かりやすい程の挑発だ。
しかし怒りに呑まれ憎悪に燃える怨霊にとってみれば、それこそが最も効果的でもある。
「蛆虫の分際で、アタシをバカにするんじゃねえ!」
――いともたやすく吼える富子の眼が、ジョンを睨んだ刹那。
示し合わせたように二人の姿が掻き消える。横っ飛びに避けたのだ。
――何を。
視野狭窄に陥った女がその解に至るよりも先に、彼女の放った紫焔を纏うバイクが眼前を埋め尽くす。
「テメ――」
「終わりにしよう」
自身の刻印に叩き込むのは特殊薬剤。体に載せるは超常存在。体を保つ『還る者』、心を繋ぐ『羽搏く者』――ジョンの命の全てを司るそれらとの融合が、その拳に力を宿す。
狙うは怨霊――この体が朽ちようが関係はない。持てる全ての力を込めて、男は歯を食い縛る。
「……トライバルッ!」
己がバイクごと叩き潰せば。
絢爛なる広間の中心を、爆炎が包み込む。怨みの紫焔さえも呑み込む業火の中より、三つの影が歩み出る――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
須藤・莉亜
「普通に美人なのになぁ。もったいない感じ?」
さて、血の味はどうなのかな?
先制攻撃は敵さんの殺気を【第六感】で感じ取り、動きを【見切り】回避。後は自分で持った血飲み子と、悪魔の見えざる手に持たせた奇剣と深紅での【武器受け】で防御。
悪魔の見えざる手には頑張って僕を守ってもらおうかな。
攻撃を凌げたら竜血摂取のUCを使って反撃開始。
傷を回復させながら敵さんに突っ込み、どこでも良いから噛み付いて全力【吸血】。
「ちっとは僕に血の気を分けてくれても良いんだよ?」
リア・ファル
SPD
○◇
知る限りUDCアースの歴史書じゃあ、見るべき所もあった人物のようだけど、
見る影もない、まさに憎悪の怨念か。挑ませてもらうよ
「行くよ、イルダーナ!」
行動のモーションを「情報収集」
まずは距離を取りつつ凌ぐ事を念頭に
「破魔」を付与した『セブンカラーズ』の射撃で牽制しつつ
「逃げ足」「地形の利用」で御所内の器物を盾にしつつ逃げ撃とう
お金への執着で一瞬でも惑いがあれば儲けものだけど…
接近されれば「武器受け」「盾受け」「カウンター」「オーラ防御」で
仕切り直し、反撃へ転ずる
UC【召喚詠唱・流星戦隊】使用して全機発進
敢えて9撃全てに複製機体を割り込ませて、怯ませる
成功したら、全方位から一気に攻め立てる
●
「クソが、クソどもがァッ! アタシからまだ掠め取ろうってか――許さねえ!」
爆炎と業炎の彼方で、それでもなお叫びを上げる女の声を耳にして、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が眠たげな瞳を更に細める。
「普通に美人なのになぁ。もったいない感じ?」
漏れ出たのはごく率直な感想だ。浅く頷いて応じるリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)の方は、いつもの笑みを真剣な表情に転じて、じっと眼前の敵を睨む。
「知る限りUDCアースの歴史書じゃあ、見るべき所もあった人物のようだけど」
――憎悪に呑まれ、喚き続ける獣となった今となっては、見る影もない。
目の前にいるのは大悪災。より悪しく、より恐ろしく捻じ曲げられた天下の悪妻は、ただ悪意をばらまき続けるだけの、過去の遺物に過ぎない。
ならば。
「挑ませてもらうよ」
弾けるように飛び出す小さな電子の体を目で追って、莉亜が瞬いた。
「――元気だね」
呟くなり、彼もまた戦闘準備を整える。手にした鎌の白い刃先が煌めいた。屠る獲物の命の味を、主に伝える血狩りの刃だ。
さて――その血の味は如何ほどか。
「ちっとは僕に血の気を分けてくれても良いんだよ?」
「ふざけるんじゃねえ! これ以上、奪われてたまるかよ!」
怒りと憎悪で煌めく青い瞳が莉亜を捉えた。振り下ろされる爪が紫焔に煌めく。直感的に攻撃を見切った莉亜に向け、二打目が振り下ろされ――しかし。
空間に弾き返される。
「な、テメエ、何を」
「何だと思う?」
悪魔の見えざる腕――不可視の守護者が持つ無色透明の剣が、ほんの僅かに光を反射して、その存在を主張する。
次いで腕が扱うのは紅い鎖だ。自在に動くそれに阻まれ、或いは莉亜自身に躱されて、届かぬ致命の一打。富子の瞳の奥に苛立ちが募る。
そうしている間にも――。
「こっちだよ!」
富子の体を貫く銃撃がある。
リアが構えるのはセブンカラーズ。此度は破魔の力を乗せた、マグナム弾を放つリボルバー銃だ。憎悪をこそ糧とする呪詛めいた体に、その威力は覿面だった。
「コソコソしてんじゃねえぞ、クソガキ!」
柱の影に、調度品の裏に、リアの小さな体が縦横無尽に駆け回る。その間にも射撃音は止まない。莉亜が凌ぎ続けた攻撃によって既に解析された行動モーションは、電子の海より生まれた彼女の力で的確な牽制へと昇華される。
「そう思うなら、捕まえてみなよ」
宙域をも駆けるユニットが、捕まえられるものならば。
装填。射撃。再装填。魔力によって無限に供給される弾は、富子の接近を決して許さない。
――十二単の怨霊が不毛な追いかけっこに興じている間にも、莉亜は反撃の準備を整えている。
喚び出すのは腐蝕竜。崩れかけた体に迷いなく牙を立て、彼は呻いた。
「クソまずい……」
無表情の中にも思わず不快が混じる。腐蝕竜の血の不味さは格別だ。ほんの少しえずくように舌を出して、しかしその体に確かに力が駆け巡るのをありありと感じている。
――次に地を蹴ったとき、莉亜の姿は掻き消えるように見えた。
凄まじい速度で目標の背に肉薄し、牙を突き立てるのはその首筋。死角よりの攻撃にひどく驚いた顔をした富子が、即座に怒りの色を取り戻す。
「こンの野郎――!」
頭を晒す莉亜に向け、返す爪が輝く。振り下ろされる腕の最中――。
――亜音速で突っ込む機械音。
「は――?」
「おお、壮観」
牙を離して瞬く藤紫の瞳が捉えるのは、至近で小規模な爆発を起こす二輪の艦載機だった。
制宙高速戦闘機『イルダーナ』――リアが中央制御を務める機動戦艦、ティル・ナ・ノーグの艦載機を基にして、リアのために機構を追加されたワンオフ機、その複製だ。
先に爆発した一を含めれば、その数、四十八にも上る。指揮者が如く手を振り上げたリアの、煌めく心色の瞳が、強い確信をもって笑みを描く。
――これで準備は整った。
「行くよ、イルダーナ! 稼働全機、発艦、始めて!」
中央制御ユニットの周囲で、四十七のエンジンが唸りを上げる。纏わりつくそれらに振り下ろされる爪の軌道は読めていた。機体を敢えて割り込ませれば、爆発に怯む富子の体。
その隙に――。
「終わりだ!」
「何て言われても、もらってくから」
二人分の声が重なる。
その腹を深々と穿つ白鎌の刃。富子が血を吐くより早く、全方位よりイルダーナが突撃する。
凄まじい速度を得た莉亜が、起こる爆発に巻き込まれるはずもない。飛んできた破片が作る傷口を、見る間に血の力が塞いでいくのを感じながら、彼はぐるりと大鎌を転じた。その眉根が微かに寄ったのは、誰の目にも映らなかったろう。
「――あんまり美味しくなかったなあ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ネフラ・ノーヴァ
【SPD】アドリブ、共闘OK。
悪女か、フフ、私も死を撒き散らして来た悪だ、さほど変わらんものさ。
違うのは、相対する敵というだけだ。
名乗り頭を下げ開戦礼を示してみるが、怒り狂ったままかな。
爪の連続攻撃が来るだろうが、こちとら刺剣一本、退きながら何とか弾いて防戦してみるものの血は流れ、他の猟兵が流した血と混ざるだろう。
だが窮地こそ好機。
「血は存分に満ちた。さあ、紅い海に沈むがいい。」
ユーベルコード Kai'ura(カイウラ)で血溜まりから肉食魚を呼び出し襲わせる。
奴にも血を流してもらおうじゃないか。
鷲生・嵯泉
全く……其の執着の醜さが姿に迄現れているという所だな
しかもお前に居られては邪魔ときている
疾く在るべき場所へと還るがいい
初撃を避ける事は叶わんのならば、先ずは耐える事に重点を置き
見切りに第六感、戦闘知識を駆使して致命傷だけは避ける様に図る
刃を振るう腕さえ残れば構わん、血反吐吐こうが膝は付かんぞ
後に剣怒重来を使用
怨霊を討つ事で生命力吸収をしつつ
激痛耐性にて攻撃に耐え攻撃力の増強をし
カウンターでのなぎ払いを使った攪乱からフェイントで接近
怪力を乗せた斬撃を死角から叩き込む
愚かな、金は身を守ってなぞくれんぞ
お前の望みは叶いはしない
所詮過去の残滓に過ぎん其の手には
金は元より掴めるもの等何も無いと知るがいい
芥辺・有
人間、何か一つくらい執着するものがあったって悪くないだろうさ
まあ、だからといって見逃す訳じゃないけど。これも仕事だからね
先制してくるとは、どうも面倒だが。……都合よくもあるか
手や爪の動きをよく観察して攻撃を見切るように。避けきれなければ杭で狙いを逸らして
遠くかあるいは手元か、女の攻撃のしにくそうな位置を見極める。遠くなら離れて、手元ならば一息に懐へ
怪我はどうでもいい。急所は守って、動けさえすればいい
避けきれなかった攻撃はきっと血を流させるだろうけど
手間が省けるじゃないか
こぼれる血を代償に、無数の赤い杭を創り出す
視線は真っ直ぐ、女から離さずに、穿ち続ける
悪いが、私がくれてやれるのは鉄錆くらいだ
●
「全く……其の執着の醜さが姿に迄現れているという所だな」
「流石にこれはどうかと思うけど、人間、何か一つくらい執着するものがあったって悪くないだろうさ」
まあ、だからといって見逃す訳じゃないけど――。
誰にともなく吐いた鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の嘆息には、芥辺・有(ストレイキャット・f00133)が気だるげに応じる。煙草でも吹かすかのように吐き出した息で、彼女は上背のある男をちらと見上げた。
柘榴の色と満月の色が交錯するのは一瞬。互いにさして何かへの執着のある方ではなさそうだな――と、僅かに浮かぶ感想もそこそこに、二人は己が為すべきことに意識を向ける。
「悪女か、フフ、私も死を撒き散らして来た悪だ、さほど変わらんものさ」
各々の得物を抜き放つ二人を一瞥し、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)の唇は笑みを描いた。余裕さえもひらめくそれは、彼女もまた異端であるが故だ。富子のそれと違うのは、世界の敵であるか味方であるか――或いは。
「相対する敵というだけだ」
冴え冴えと輝く軟玉色の瞳。同じ色をした髪もまた、混沌とした戦場に凛と翻る。
徐に歩み出る先は富子の眼前だ。恭しい一礼がその目にどう映るのか、ネフラは試すように瞬く。
「我が名はネフラ。ネフラ・ノーヴァ。貴殿にお相手願いたい」
「アタシに命令してんじゃねえぞ――ああ、でも、テメエは良いな」
燃え盛る怒りの焔の奥で、狂気に取りつかれた青い眼がひどく冷静な色を湛えたのを見る。クリスタリアンの中でも希少なネフラの色に、値踏みでもするかの如く、富子の瞳が歪む。
「――高く売れそうだ」
言うなり飛び掛かる彼女の爪を、白い刺突剣が弾いた。皮膚を掠めるそれに僅かに眉根を寄せて、しかしネフラは次の攻撃へと意識を集中する。
防戦に徹するのは想定通り。その刃にも似た爪が体を走り、引き裂くのもまた作戦のうち。しかしその手にある細剣は、目にも止まらぬ斬撃を受け続けるには僅かに足りない。
その手に入る富をひどく楽しげに、心臓に向けて振り下ろされるそれを――。
阻む白刃。琥珀の色。
「愚かな、金は身を守ってなぞくれんぞ」
嵯泉の隻眼が剣呑な色を湛える。助かった――目だけで告げるネフラを一瞥し、男は刃を翻す。
「疾く在るべき場所へと還るがいい」
「アタシの金稼ぎ、ジャマしてんじゃねえ!」
吼える女の背後――無数の火矢が展開したのを見るや、嵯泉は即座に後方へ飛びのいた。入れ替わるように懐へ飛び込む有の繊手が、無骨な杭を握って女を捉えんとする。
「これも仕事だからね」
「こンの、クソアマァ――!」
歯ぎしりの間から零れる悪態は、果たしてネフラと有のどちらに向けられたものか。
二人分を相手取って、伸縮する爪が空をよぎる。白い細剣が鋼めいたそれを防ぎ、折れた端から再生する。息を詰めてやり過ごし、乳白色の肌を赤く染めるネフラと同じく、有の夜色の杭もまた迸る。
攻撃の隙間に身をかがめ、或いは狙いを逸らして致命打を防ぐ。零れ落ちる体液と痛みなど慣れたものだ。元より、有の杭が糧とするのは己が血でもある。鉄剤を持ち歩く意味を考えれば――この程度はどうということでもない。
ネフラの剣が幾度目かの再生を行う。有の杭が己の血を浴び、点々と赤く染まる。
その間を飛び交う火矢が狙うのは嵯泉だ。愛刀秋水を構え直して、男は隻眼を細める。
避けることが叶わぬならば――凌ぐのみ。
襲い掛かる矢が穿つ体を、ざわりと不可視の氣が覆う。肉を抉る激痛さえ、卓越した意志は凌駕する。常在戦場、その在り方が故。
――白刃一閃、万象を断つ。
過去の怨みに何が出来よう。呪縛めいた生に縛られる嵯泉を止めるには、戦乱の大火は温すぎる。
こんなものより遥かに苦しい炎を――識っている。
だから。
この程度で、潰えはしない。
過去の残滓より奪い取った生命力でもって地を蹴った。先に在るのは十二単の女の姿。一気に懐に入り込めば、鬼の形相は至近で歪む。振り上げられた腕の先に――。
嵯泉の姿はない。
振り抜くと思わせた刃はそこにない。度重なる負傷を力へと変え、神速を得た男は富子の目には映らない。その視線が巡る間に。
「傷をくれるとは、手間が省けるじゃないか」
――耳を打つ気だるげな声と共に、無数の杭が女へ向かう。
空より零れ落ちる赤は、髪に飾った椿の如く。並ぶ首切り花の杭が、同じ色に塗れる女を貫いた。
視線は離さない。離しはしない。穿ち杭打ち貫き破り――瞬きすらもせぬ満月色は、解けた黒髪を揺らして杭を生む。
「畜生、畜生が――!」
悪態と共に赤黒い体液を吐き戻す女に、有が容赦をするはずはない。見開いた瞳にただ黒髪を映し出し、その手が血に塗れるのを見続ける。
――逃がさない。
杭打たれた体に迸る白刃。嵯泉の柘榴に、最早誰のものかも分からぬ血飛沫が映り込んだ。
負傷を糧とするが故、二人の傷口は鮮血を吐き続ける。焦げた畳が赤黒く濡れ、誰のものともつかぬ血だまりが広がっていく。
それが蠢いたのを――。
嵯泉と有は確かに捉えた。
「血は存分に満ちた」
愉悦に満ちる声が静謐に響く。ネフラの白肌から滑り落ちる赤がまた一つ、血肉を屠る魚を呼び起こす。
闘争こそが彼女の享楽で、零れる血こそが彼女の糧だ。羊脂玉の柔肌を赤に染める刹那は、ネフラにとって最も喜ぶべき瞬間である。しかし己を飾る赤は、返り血であらねば興が乗らない。
故に。
――奴にも血を流してもらおうじゃないか。
――存分に血の花を咲かせるがいい。
「さあ、紅い海に沈むがいい」
無数の牙が猛り狂う。剣戟の隙間を潜り抜け、降り注ぐ緋色の杭の最中に飛び込んで、肉食魚のあぎとが怨霊に食らいつく。
絶叫、或いは咆哮――。
響く憎悪の獣の声が、血のにおいの染みつく戦場を震わせた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
霧島・クロト
……ったく、守銭奴此処に極まれりってか。
先制攻撃は【視力】で爪の輝いてる時間を確認しつつ
【属性攻撃】【オーラ防御】を併用しながらの氷の盾で攻撃を【見切り】ながら捌くなァ。
返しは【高速詠唱】【七天の氷製】から『凍滅の顎』を増やす。
そっちの攻撃回数が物理的に多いんならこっちは手数を増やす。
【属性攻撃】【マヒ攻撃】【鎧砕き】【呪殺弾】を込めた
氷の魔弾の弾幕で包囲しながら【フェイント】混ぜて動きを封じつつ、
行けそうならその魔弾で【全力魔法】。
常時爪の輝きは注視しながら、なるべく腕の動きを鈍らせる方向で。
「――お会計の時間ですよ、お客様」
「ただ此処にある金全部テメェのじゃねェがなァ」
※アドリブ連携可
●
飛び散った血飛沫は未だ止まず、富子の体より流れ落ちる。紅の狭間から覗く青い瞳は、しかしなおも光を失わず、爛々と猟兵たちを睥睨した。
「許さねえ、許さねえ、アタシからまだ金を奪おうってか? どっちが金の亡者だ、この蛆虫どもがァッ!」
「……ったく、守銭奴此処に極まれりってか」
霧島・クロト(機巧魔術の凍滅機人・f02330)の溜息も尤もだ。バイザーの下の瞳がちらと瞬いて、すぐに唇が不敵な笑みを描く。
とまれ、やることは決まっている。冥途の渡し賃すら惜しんで縋る魍魎を、地獄の底へ叩き返してやれば良い。
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえぞ!」
伸びる爪が己へ向かうのを、クロトの瞳は冷静に捉えた。卓越した視力がその輝きを視認するや、渦巻く冷気が形を成す。
機械魔術によって行使するのは氷の魔術。放つオーラと混じり合い、それは堅牢な氷の盾となる。爪を弾き、炎に融ける盾を前に、しかしクロトの瞳は揺るがない。
敵わぬならば――出力を上げる。
それだけだ。
自身の目に映る爪の輝きが止むまで持てばいい。受け流した爪が体を走ろうが関係はない。融け落ちる氷を展開しなおす刹那に差し込まれる斬撃を、バイザー越しに視認する端から見切っていく。
彼の視界にあるのは振り下ろされる爪。その輝きが掻き消えた一瞬に。
クロトの手が――撃鉄を起こす。
「――お会計の時間ですよ、お客様」
富子の周囲に展開するのは無数の銃口。四十六にも及ぶ、冷気を宿した巨大な拳銃が、紫焔の中央に立つ女を捉えた。
――北天に座す七天より、冷たき加護は舞い降りた。手にした凍滅の顎――そのオリジナルの照準を見開かれた目に合わせ、クロトの唇が吊り上がる。
六華を咲かせ滅する者が彼ならば、徒花を散らすのもまた仕事のうちだ。
「ただ此処にある金全部テメェのじゃねェがなァ」
既に死し、雲より軽い悪女の命であっても――支払いには足りるか。
嗤う男の指先が、オリジナルの引鉄を引く。氷を宿す無数のあぎとが、執着の焔を食い破った。
「クソがッ、ワケのわからねえ術を使いやがって――!」
悪態に滲む焦りを、男の瞳は見逃さない。あらゆる力を込めた弾丸は、掠るだけでも相当の痛みを伴うはずだ。
或いは身を蝕む氷。或いは麻痺毒。或いは呪殺の魔力。或いは富子を守る十二単の鎧を砕く力――四十六の銃口が撃ち出す全てに晒されて、がむしゃらに振り上げた腕をこそ、クロトの持った氷のあぎとは狙っている。
「そんなに金が惜しいなら――地獄の底で稼いでろ」
閃く会心の笑み。猛り狂う怨霊の絶叫に掻き消される声に、男は勝利を確信した。
成功
🔵🔵🔴
レイニィ・レッド
〇
強い感情は判断を鈍らせる
ならば利用しましょう
この世界は名乗りが重要と聞きました
ガラでも無ェが名乗っておきましょ
自分は赤ずきん――雨の赤ずきん
自分が「赤ずきん」であると印象付けつつ
奴さんの爪の連撃を見切り
鋏で受け流したり飛び回って回避
全て凌げるのが理想ですが
普通に無理でしょう
最悪致命傷だけは避けます
先制を凌いだら即座に『クロックアップスピード』
レインコートを脱ぎ去り
素早くからくり人形と入れ替って囮にし
鋏をお見舞いしてやります
テメェを相手に
無傷で帰ろうなんざ思って無ェ
…自分は弱っちィですから
気の強い女は嫌いじゃねェですが
アンタはいけない
思考を放棄してヤケになったテメェは
どう足掻いたって勝てねェよ
●
冷気と焔の熱の合間に、赤い影が割って入る。
その瞳もまた紅く、名もまた朱い。レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)は、被ったフードの端をほんの少し引いた。
――強い感情が判断を鈍らせることを、青年はよく知っている。
ならば利用しない手はない。
躍り出る先は女の眼前。ひらりと揺らす赤いレインコートの裾に、青い視線が突き刺さる。
それでも――レイニィの在り方は変わらない。
「どうも、天下の悪妻殿。自分は赤ずきん――雨の赤ずきん」
この世界では名乗りが重要だと聞いたから、普段は名乗りを上げることなどしやしないが、作法には則ろう。
しかしそれすらも、富子の機嫌を逆撫でしたようだった。睨む視線が突き刺さる。
「次から次へと――! 赤ずきんだァ?」
「ええ、赤ずきんっすよ。どうぞお見知りおきを」
「ワケがわからねえことを――ふざけた格好しやがって!」
言うなり伸びる爪の刃。手にした鋏を咄嗟に翳し、一撃目の軌道を逸らす。次いだ二打目がまともに突き刺さるが、そんなことは関係ない。
――この大悪災を前に、元より無傷で帰ろうとは思っていない。
「……自分は弱っちィですから」
口を衝いて溢れる自嘲と共に、レイニィはせり上がる真紅を吐き出した。傷口は血を噴くが、動けぬほどの一撃は避けている。
ならばまだ――断ち切れる。
跳躍した直後、女の爪が畳を穿つ。既に焦げたそれにい草の芳香はなく、代わりに焦げたにおいが鼻を衝く。
――既に富子にも限界が近いと見えた。速度は上がれど体力の消費が抑えられるわけではない。肩で息をする彼女が荒い息を吐き出し、その双眸がレイニィを睨み遣る直後。
一瞬の隙に――。
「気の強い女は嫌いじゃねェですが、アンタはいけない」
フードを脱いで、指を――鳴らせば。
音が閉じる。雨が降る。見る影もない豪奢な広間に、泥濘のにおいが満ちる。俄雨の孤影、鮮紅のレインコートを赤黒く染め、ずぶ濡れの雨男は――問う。
――さあ、アンタは『正しい』か?
富子は応じない。応じられない。雨に鎖された赤い瞳に、女の声は届かない。
「思考を放棄してヤケになったテメェは、どう足掻いたって勝てねェよ」
「ッざけたこと言ってんじゃねえ!」
爪が捉えるのはからくり人形だ。瓦解するそれに富子の目が見開かれる。入れ替わりに背後へ回る男の気配に、振り向いたときにはもう遅い。数多の肉を断ち穿つ、鉄錆を纏った鈍銀が、音を立てて開かれる。
――ジョギリ。
迸る朱い影。悪を鏖す鋏が、絶叫する女の妄執の糸を断ち切った。
苦戦
🔵🔴🔴
アルバート・クィリスハール
へーぇ? アンタが噂の大悪災かあ。
聞いた以上のクソババアだな。
アンタみたいなの娶るなんて、お相手も見る目が無いんだねえ!
でもムカつく相手は大歓迎さ。
なけなしの良心が痛まなくてすむからよお!
テメエがくたばれ。
先制の爪攻撃は『靴』で重力操って回避!
出来れば蹴っ飛ばして相手にかかる重力を倍増させる
そのまま【空中戦】に移行して、コードで御所ごと腐食崩壊攻撃
全方位攻撃だ、避けさせてたまるかクソアマめ
防御しやがったらそこ向けて『羽根』の【呪殺弾】を【スナイパー】
あとは相手の反撃にあわせて『傘』を開いて防御
そのまま逃げると思わせて『傘』から魔力砲で【だまし討ち】
今度こそ【ダッシュ】で撤退!
あばよババア!
●
ぐしゃぐしゃに濡れた畳を踏みしめ、黒鷹の翼が翻る。
「へーぇ? アンタが噂の大悪災かあ」
嘲笑を隠そうともしないアルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)の瞳に、普段の温厚な色はない。狂犬めいた光を閃かせ、彼は値踏みでもするかの如く、血だるまになった女をじろじろと見た。
「聞いた以上のクソババアだな」
「あ――?」
疲弊を孕んだ胡乱な瞳がアルバートを睨む。なおも燻る怒りの焔をその目に見て取り、男はひどく楽しげに唇を吊り上げた。
腹の立つ相手でこそあるが、そういう手合いは大歓迎だ。
――なけなしの良心が痛まずに済む。
「アンタみたいなの娶るなんて、お相手も見る目が無いんだねえ!」
「テメエ、誰に口利いてやがる――くたばりやがれェッ!」
揚々と続く言葉が孕む軽蔑の意に、富子の焔は易々と燃え上がる。禍々しい紫のそれを従えて、爪を携え飛び込む彼女を前にして、アルバートは低く、這いずるように吐き捨てた。
「テメエがくたばれ」
刹那に迸る長い足。重力と大気の力が編みこまれた靴が、飛び掛かる爪の動きを鈍らせる。
果たして体を掠めるだけにとどまったそれに、富子の顔が歪んだのが見えた。会心の笑みも束の間、再び襲い来るそれを躱し切る。
着地と同時――飛び上がった黒鷹の傷口を隠すように、焔百合が咲き誇る。頭に咲くのと同じそれを一瞥し、思わず舌打ちを一つ繰り出して、青年は徐に黒羽を広げた。
「くたばってしまえ」
――撃ち出すのは怨憎。或いは呪詛とすらいえる強い失望。黒白の球状波が向かうのは、強欲に取りつかれた女だけではない。
彼女が築き上げたこの御所――そのものだ。
「アタシのモンに何を――!」
吐き出そうとした怒りが口を衝くより先、アルバートの放つ衝撃波が到達する。反射的に体を庇った腕に、突き刺さるのは黒々とした羽だ。
呪殺の力に焼かれる絶叫が、心地良く青年の耳を打つ。思わず唇に描いた弧は獰猛だ。飛んでくる爪の一撃に対する対処も――。
もう決めてある。
魔力によって隠された蝙蝠傘を、即座に手元に呼び出した。術式が編みこまれたそれを広げれば、薄い布すら鉄壁の盾となる。
そのまま後方に下がった彼は、怒りに燃える怨霊を前に、撤退を決めたように見えるだろうが。
――その前に。
閉じた傘から撃ち出す魔術の砲弾。不意打ちに射貫かれ、体勢を崩した女の視線が己を睨むより先に、アルバートは高らかに笑う。
「あばよ、ババア!」
「待ちやがれクソガキ!」
伸ばした爪が届く刹那――。
黒鷹と焔百合の青年の姿は、転移の術式に掻き消えた。
成功
🔵🔵🔴
穂結・神楽耶
【魂刈】
鳴宮様/f01612、ウィンターミュート様/f01172、ヘイゼル様/f07026
見目麗しくもなくて何が華ですか。
せいぜい見合った容貌にして差し上げてください。
【神遊銀朱】《武器受け》《破魔》
魔には聖を。怨霊を片端から受け止め消滅させます。
軌道はウィンターミュート様が計算してくださっていますからね。
太刀の複製は必要数より多めに。
逸れて地面に突き立つものは自由にご利用ください。
ヘイゼル様が日野様に接近次第《援護射撃》に移行。
「あえて攻撃を受けさせるように」とは難しいオーダーですが…
やれないことはありません。
慣れないことさせたんですから。
ちゃんと勝ってきてくださいよ?
ヘンリエッタ・モリアーティ
【魂刈】◎♢
なァにチャラチャラペラペラキーキーしてンだこのアバズレ
あー?てめェのことだよこの破門三昧ババア
金に飢えて我欲に飢えてかわいそうなこったァ
あるべく姿に戻してやンよ
さて、先制対策ネ
俺様はチョー口が悪いので
ヘイトを集める感じで煽ってく
コース作りはアサルト達に任せる。信頼してンだ
――腕のいい奴らだよ。
俺様は奴らの合図で、命を賭けるぜ。大博打だ
うまいこといきゃあ【赤の舞踏】でカウンターだ
ホムスビ!!お前の――フェイク、借りてくぜ
ここまで上げ膳据え膳してもらっておいて
俺様が立ち止まるわけにゃァいかねェよ
悪魔の理髪師ここに顕現だ
お客様ァ?仏門でいらっしゃるでショ
皮ごと頭を丸く致しましょうねェ!!
ヴィクティム・ウィンターミュート
【魂刈】◎◇
華はいつか散るってな──行こうぜ
初撃の要はヘイゼルだ
全力でサポートしてやる
まずは先制攻撃の対処
全サイバネを【ハッキング】、性能をオーバーロード
【ドーピング】でドラッグ摂取、極限まで強化する
怨霊や攻撃の余波が当たらないように高速機動
走りながら攻撃を分析して動きの癖、怨霊の軌道を見切り3人に共有
怨霊には戦場のオブジェクトを投擲する等でインターセプトも行う
ヘイゼルが止めに行くタイミングで【ハッキング】
電気信号改変でほんの一瞬でも止まれば──UCが間に合う
さぁここからだ
奴の攻撃回数強化UCを発動予知
ナイフを投擲──影矢のようにプログラム射出
本命は『反転』さ
攻撃回数九分の一
随分とトロイなァ?
鳴宮・匡
【魂刈】○◇
何とかは世に憚るとは言うが
とっくに終わったやつが執着するのは見苦しいぜ
ともあれ初手を凌ぎ切るところからだ
動きを注視し、相手の狙いを見切り
攻撃の軌道を制限するように牽制射撃
同時、物音、魔力や呪詛の気配、炎の発する熱などから
怨霊の動きを感知・予測
こちらへ届く順に撃ち落としていく
長く時を稼ぐ必要はない
穂結のUCが起動するまで凌げればいい
相手がヘイゼルを捉えたら
横合いから狙撃して相手の攻撃を逸らす
「うまく」受けてくれよ?
無効化されたUCを再発動するタイミングで
ヴィクティムの『反転』が刺さるはずだ
タイミングを合わせて膝関節・腹部を狙撃し動きを止める
――さ、あとは好きに刈り取ってやんな
任せたぜ
矢来・夕立
○
怒りに任せた暴力は精度が低い。宜なるかな、武人なり人殺しなりでなければ知らないことですね。
『幸守』と『禍喰』をいるだけ嗾けて行動を妨害。
炎を払い除けながら《忍び足》で死角へ退避。
遮蔽物があるならそこへ、なければ他の猟兵の影へ。
一瞬あれば十分です。伏式起動。【紙技・禍喰鳥】
コイツらとは五感を共有しています。
戦場を俯瞰して、色んな好機を向かい風から《かばう》のが今回の仕事。
と抽象的な物言いですけど、死角からの攻撃をかばったり、間接的に反撃の機会を作ったり、そういうコトです。
勿論、機があれば《暗殺》も狙いますよ。
金はイイですよね。オレも好きです。
…もう死んでる身で囀ってるのはかなり意味不明ですが。
●
「なァにチャラチャラペラペラキーキーしてンだこのアバズレ」
開口一番、大声で捲し立てるのはヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)――その中に在る一人、ヘイゼルである。既に己の血に塗れる富子の剣呑な眼差しを、敢えて受け止めてやるとばかりに悪人めいた笑みを閃かせ、彼女――否、『彼』は並ぶ歯を見せた。
その仕草が気に食わないのは富子の方だ。血の流れる眉間に皺を寄せ、憎悪の獣はなおも吼える。
「テメエ、誰のこと言ってやがる?」
「あー? てめェのことだよこの破門三昧ババア」
ぴ、と立ったのは親指。首を切るように動かしたそれを下に向けるジェスチャーは、富子の知るものではない。
――が、銀月の瞳が湛える侮蔑の色は、その意を伝えるに充分だ。
「金に飢えて我欲に飢えてかわいそうなこったァ。あるべき姿に戻してやンよ」
地を蹴る男の挑発が上手くいっていることは、鳴宮・匡(凪の海・f01612)の黒い瞳がしっかりと捉えている。構える銃口の向こうに展開する無数の火矢の気配を察知する。
「華はいつか散るってな──行こうぜ」
その前方に立つヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は振り返らない。既に作戦内容は脳裏に書き込んである。しくじるような面子ではない。
要となるのはヘイゼルの一打だ。その一撃に届かせるための道のりを、切り拓くためにある。
穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)が構える刀は己そのものだ。ちりりと舞い散る焔は、かの怨念のそれとは違い、清浄なる赤を孕んで周囲を照らす。引き結んだ口許に強い意志を乗せて、彼女もまた顕現する火矢を見据えた。
まず動いたのはヴィクティムだ。ハッキングの対象は己。駄目押しのドラッグによるドーピングと合わせて、極限まで身体能力を高める。そのまま蹴った地から神速で発つ姿を前に、匡もまた慣れた調子で照準を合わせる。
狙う先は火矢。まずはその軌道を固定する。牽制射撃に阻まれて、向かうルートを阻害されたそれを、卓越した機動力で駆けるヴィクティムの視覚が捉えた。
即座に起動するヒラドリウスが、その演算能力を更に補助する。明確になった視界の脇で、既定のルートを外れる怨霊を叩き落しながら、彼は次の一手への準備を整える。
――後方に向かい来るそれらに弾丸の牙を突き立てるのは、匡の仕事だ。
稼ぐべき時間は多くない。暴虐の黒が富子へと肉薄し、女神の残滓が準備を整えるまでで良い。ならば。
この戦場の全てを――味方とする。
物音。気配。纏う炎の発する熱。全てが匡にその位置を伝え来る。到達する順番がわかるなら、やるのは端から撃ち落とすことだけだ。
怨霊の咆哮、銃撃の音、叩き落される矢――。
腐蝕した柱の影より、黒い影がそれを見る。矢来・夕立(影・f14904)だ。
夕立は己の気配が捕捉されていることを解している。流石は魔軍将――と言うべきか。呼び出された火矢のうち幾らかが、こちらを狙っている。
その手より飛び立つのは、幸を守り禍を喰らう式神の群れ。彼が得意とする紙技の一だ。無数の蝙蝠が焔を防いで燃える間に、彼はするりとその場を離れる。
隠れるのは別の柱の裏だ。追いかける怨みの火が、無数の式に阻まれ弾ける刹那。
――伏式起動。
飛び立たせたのは同じく蝙蝠の式――禍喰鳥。数は五十二、夕立はその全てと五感を共有している。
この戦場に在るあらゆる存在の情報が、夕立の視覚に潜り込んだ。無数の目が捉える戦局を、彼は冷静に推察する。桃色の傭兵、二つの黒。入り乱れる金銀琥珀に、腐蝕の竜と電子存在。羊脂玉の宝石、琥珀の剣豪と黒のオラトリオ。バイザーのサイボーグに真っ赤な雨と、あれは転移する黒鷹か。
――此度の仕事は、あらゆる好機を向かい風から庇うこと。
ならば今、それを最も要しているのは。
ゆらりと式を向かわせる先、開けた視界の向こうで、知った顔が笑みを閃かせるのを見る。
ヴィクティムの頭が叩き出した計算式は、共に戦う三人に共有された。匡の射撃で限定された軌道の中での推測だ。ヴィクティムの処理速度と併せれば、この程度は造作もない。
火矢の軌道は完全に読めた。その刹那。
「見目麗しくもなくて何が華ですか」
――神楽耶の刃が迸る。
魔には聖を。邪には正を。破魔の力を乗せた無数の複製が、向かい来る矢を弾き返す。冴え冴えとした白刃は、清澄なる神の残滓の気配を以て、過去に縋る怨霊の怨嗟を断ち切っていく。
呼び出す己の複製は、送られてきたルートと本数よりもより多く。たとえ逸れたとて無駄ではない。
彼女もまた――今は補助であるのだから。
地に突き立つ太刀を確認するや、匡とヴィクティムの瞳が交錯した。
火矢を掻い潜るヘイゼルに対する合図は、それで充分。
刹那に全ての動きが変わる。倒れ伏すように力を抜いたヘイゼルに、全ての怨嗟が集中するように――太刀が、銃弾が、焔の雨に向けて降り注ぐ。
硝煙の向こうに消える体を見るや、血だるまの富子は哄笑した。
「何だァ、仲間割れかよ!」
「――そう見えますか?」
閃く笑みは勇ましく、瞳に宿る闘志の焔はまさしく戦女神のそれ。刀たる神楽耶にとって、戦いとは本義でもある。
故に。
「せいぜい見合った容貌にして差し上げてください。ヘイゼル様!」
「あいよォ、ホムスビ! お前の――フェイク、借りてくぜ!」
煙の彼方より飛び出す黒い獣の手に、己の複製があることを、喜ばずしておれようか。
同時に動く匡の瞳は、凪いだ海が如くに静謐だ。怜悧な眼差しが撃ち抜くのは、腹と――その膝。
「何とかは世に憚るとは言うが、とっくに終わったやつが執着するのは見苦しいぜ」
「こンの――!」
――富子の怨嗟は、怨霊の領域さえも凌駕する。
灯る蝋燭の最期が輝くかの如く。その爪は予測よりも遥かに速く振り上げられて――。
ひらりと。
舞い降りる式が、女の注意を引いた。
その一瞬の隙、ヴィクティムのプログラムが起動する。投擲されたナイフの後方、隠れるように射出されたそれこそが本命。
Attack Program『Reverse』――運命の逆転。その効果は。
「九分の一か。随分とトロいなァ?」
――ユーベルコードの反転。
強い重力が女を縛る。発動したそれを止める術などどこにもない。それだけでも充分だが、しかし。
――これが誰の手によってもたらされた好機か、彼らは一様に知っている。
だから。
「金はイイですよね。オレも好きです。気持ちは分かりますよ」
突き立つ脇差に。
女を『まっすぐに』見据える、赤い瞳に。
「ウソですけど」
――四人は、似通った表情を浮かべたのだ。
虚言嘘吐き暗殺奇襲、ダメ押し一手のだまし討ち。最早動くことさえ叶わぬその体に、飛び掛かる影はひとつだけ。
「お客様ァ?仏門でいらっしゃるでショ」
無数の矢を無効化しきった捕食者が――。
「皮ごと頭を丸く致しましょうねェ!!」
宣言通り。
頭に、顔に、刀を叩き込む。
神楽耶が突き立てた刃――結ノ太刀。終を示す彼女自身の複製を手に、ヘイゼルの銀月は蜘蛛の如くに引き絞られる。
――紅いドレスで、死ぬまで踊れ。
断末魔の絶叫が、柱を割って地響きを起こす。腐蝕の限界を迎えた
「殺してやる、殺してやる――ぶっ殺す――アタシの金、全部奪ってく連中なんざ――!」
「まァだ言ってっけど、どーする?」
何でオレに振ったんですか――ヘイゼルをはじめ、誰からも視線を逸らしたまま立つ夕立が、そう声を上げる。ゆるりと口許を覆う手袋は、最早その目に富子を映してはいない。
「いいんじゃないですか。もう死にますよ」
その言葉通り。
燃え盛る己の焔に呑まれ、限界を迎えた広間の中央で、女は声すら失おうとしていた。故に、猟兵たちは踵を返すのだ。
「ッあ、アタシの――アタシの金――なのに――」
崩落する広間の中、這いずる女の悲痛な声に、ふと振り返ったのはヴィクティムだ。その瞳にひどく冷徹な色を浮かべて、彼は小さく呟いた。
「悪華、刈り取ったり――ってな」
過去は過去へと帰り逝く。斯くて悪意の徒花は、蕾を開かず地に墜ちる――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵