エンパイアウォー⑳~財貨と等しき正義
●サムライエンパイア
金、金、金だ。
金があれば女の身であろうと関白に講義をさせられるし、権力を握ることもできる。金とはすなわち力で正義だ。証拠に、魂になってまで尻尾を振る犬のなんと多いことか。
アタシのもとに金を集めれば、つまりアタシが正義だろうが。
「それを、どいつもこいつも逆らいやがって……!」
夫も。息子も。身の程を弁えないクズ共も。
アタシの金を素知らぬ顔で奪った徳川も、猟兵も。
「ああムカツク! ああああムカツク!」
どいつもコイツも、アタシが殺してやる!
徳川を殺して、猟兵を殺して、もちろん信長の野郎も、ぶっ殺す!!!
●グリモアベース
「日野富子の居場所がわかったぞ!」
叫んだのはシェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)だ。
日野富子。生前は室町幕府8代将軍、足利義政の正室にして、9代将軍の母親でもあった女傑だ。戦乱の最中に金の貸付や米の投機、戦後には税の横領などで巨万の富を築き、けれどもその行動によって、庶民からは天下の悪妻と蔑まれた女である。
「かの大悪災は京都、『花の御所』を我が物顔で占領している」
花の御所は元々、足利将軍家の邸宅だった場所だ。富子が地の利を得るために拠点としていてもおかしなことではない。
現在では別の建物に代わっていたはずだが、富子が有り余る私財を投入し、豪華絢爛な御所に様変わりしているようだ。
「日野富子は魔軍将の1人だ。加えて地の利は向こうにあり、苦戦は必至だろう」
それでも、とシェーラは言葉を継いだ。
「諸君ならば、必ずやオブリビオンを打ち倒してくれると信じている。頼んだぞ」
志崎キザシ
こんにちは、志崎キザシと申します。
日野富子が好みだったので、急遽OPを書きました。
心情寄りのリプレイになるかと思います。
此方のシナリオは難易度が高めとなっております。
参加をご検討の際はお気を付けください。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
大悪災『日野富子』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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此方の都合で申し訳ないのですが、プレイングの募集は8月10日の朝8時半~とさせていただきます。期日以前に届いたプレイングは受理できかねますので、予めご了承ください。
それでは、皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
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POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シャノン・ヴァールハイト
一人称:当方
アドリブや連携等おまかせ
なお、金銭に興味が無いキャラです
真の姿で、参加
心情:自身の有利な地形か。だが…その都は、応仁の乱で多くの者達が死した地だ。戦時中や戦後に、戦争を長引いた理由を知った者達、愛する者達を失った人々の怨念が、まだ残っているとは思わないのか
『POW』
普段から来ている外套を着て参加し、UCを使用されたら外套を脱ぎ、外套で身を隠します。その後、技能値430を突破している怪力で地面を蹴るか殴るかして可能なら砂埃で姿を隠す。無理なら砂利や砂を飛ばして意識を反らす。
この時に、炎から身を守れていればUCを発動し攻撃する。
ですがこの時に、燃えていた場合は消してから、戦う。
●シャノン・ヴァールハイト(死者の声を聞き、招く者・f10610)
広大な敷地に建てられた邸宅は、事前に聞いていたように豪華絢爛なものだ。
川の水が引かれた庭園にはたくさんの花が植えられ、花の御所と呼ばれる由来がうかがえる。季節によって移り変わる花を愛でるためか、屋敷の中からでも庭を見渡せるような造りになっていた。
この考え抜かれた配置を実現するために、機械技術の発展していないサムライエンパイアでは、職人の熟練した技術が必要だ。
人足を集め、広々とした庭や建物を造るだけで、いったいどれだけの時間や金がかかっているのだろう。
しかし、金銭的な値打ちは、シャノンにとって興味のないものだ。
代わりに、戦奴として生きてきた彼の経験が、戦闘での利用価値を見極める。注視するように庭園を見回して──見えたのは、戦術的な意義だけではなかった。
シャノンの知識が、花の咲き誇る光景の意味を変える。
「自身の有利な地形か。だが……ここは、応仁の乱で多くの者達が死した地だ」
シャノンが戦奴として剣を振るった戦場はどれも陰鬱で、救いなどなかった。過去が重なり、幾多の悲しみに思いを馳せる。
戦時中や戦後に、戦が長引いた理由を知った者たち。
戦で愛する者を失った人々。
その嘆き。
「──彼らの怨念が、まだ残っているとは思わないのか?」
挑むように問いかけた先にいたのは女だ。
射干玉の髪。意志の強さを示す瞳。贅を凝らした女房装束。
大悪災、日野富子。
「だから何だってんだ?」
富子はシャノンの言葉をつまらなそうに一蹴した。
「使い潰してやったんだから、感謝されこそすれ恨まれる筋合いはねぇよ」
それよりも今のお前だ。
「アタシの庭に土足で踏み込んで、グダグダ講釈垂れてんじゃねぇよ鬱陶しい!」
死ね!
問答無用で富子はシャノンを睨みつける。苛立ちと増悪が綯い交ぜになったような、殺意の篭った視線が猟兵に向けて牙を剝く!
だが、シャノンが慌てることはなかった。大悪災が強敵なのは知らされていたことだ。
普段から羽織っているロングコートを素早く脱いでかざし、直視されるのを避ける。外套が富子の視線に晒され、紫の炎に包まれるが構わない。爆発する前に投げ捨て、力強く踏み出した。
隕石でも墜ちたのかというほどの衝撃。
必要以上の怪力で踏みつけられた一歩は、轟音を立てて土煙を巻き上げる。砂利や花が空を舞い、辺り一面を覆い隠した。
シャノンは視界が塞がる直前、富子が砂埃を嫌い、目を庇ったのを確認する。手が無意識に堕銀の剣の柄を握った。
「無念の下に死した非業の魂よ、七星の下に集まり集いて我が敵を塵殺せよ!」
この地に澱む者たちに訴えかける。今こそ恨みを晴らす時だ。
声に招かれ、現れたのは雲を衝くような巨体だった。土地柄故か明王のようにも見える神魔が、シャノンの動きと呼応して右手で剣を掲げると、大悪災に降伏の一撃を放つ!
振り下ろされた巨大な剣は土煙にかすむ地上を切り裂き、未だ状況を把握できていない富子を砂埃ごと吹き飛ばした。
富子の背中が壁に叩きつけられ、肺から空気が押し出される。
「くッ、の! たかが、猟兵がッ!」
「当方の力ではない。死者たちの念だ」
左腕から流れる血で包帯を赤く染めながら、シャノンは無感動にも聞こえる言葉の中に激しい感情を潜ませて言った。
成功
🔵🔵🔴
シノギ・リンダリンダリンダ
金とは力であり正義
その力を奪って正義と変えさせていただきます
日野富子。金に踊らされた人生もここまでです
貴女の金。私が代わりに貰っていきますので
安心してください。貴女よりはうまく扱えます
これでも、海賊なので
挑発しつつ、怒りで単調になるであろう攻撃を見切りで避ける
火矢はできるだけ壁や床など屋敷が燃えるように避けます
当たった際は激痛耐性と覚悟で耐えましょう
できれば屋敷が燃え上がるように攻撃は避け続けます
先制を避けたら宝箱から出した這い寄る金貨で足止め
あぁ嬉しそうですね。金に溺れて。嬉しいでしょう?
金に溺れて死ねるなんて、日野富子。貴女は幸運です
動けなくなった所を【力いっぱい殴るだけ】です
●シノギ・リンダリンダリンダ(ロイヤルドレッドノート船長・f03214)
土煙が晴れればそこには、荒れた庭園があった。
「クソがッ、幾らかけたと思ってんだ!」
砂に塗れた日野富子の叫びが戦場に響く。辺りを見回し、忌々しそうに舌打ちまでして見せた。癇癪を堪えようともしておらず、貴人にあるまじき粗雑さだ。
感情のままに乱れた悪妻の姿を、シノギは憐れんだ目で見ていた。
「貴女の言う通り、金とは力であり正義なのでしょう」
だがそれは、あまりにも移ろいやすい力だ。
人の間を絶えず流れ、時には理不尽に散っていく。
それは例えば市場の変化や災害や、詐欺や搾取や、暴力だ。
「その力を奪って、私の正義と変えさせていただきます」
日野富子。金に踊らされた人生もここまでです。
貴女の金。私が代わりに貰っていきますので。
安心してください。貴女よりはうまく扱えます。
「これでも、海賊なので」
口の端が少しだけ持ちあがった、薄い笑みを顔に張り付けてシノギが言う。
言葉の数々は自信の表れだ。金の扱いで、海賊が公家のお姫様ごときに負けるとは思えない。
明らかな挑発に、しかし大悪災は乗った。
「たかだか船と、国の運営を同列に語ってんじゃねぇッ!」
誰かアイツをぶっ殺せよ!
富子の命に従って、応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊が召喚される。空間を埋め尽くすように呼び出された悪霊の群れが、主を怒らせたシノギの命を奪わんと、縦横無尽に疾駆する!
富子本人が我を忘れていようと、矢はそれぞれ別の怨霊だ。
怒らせることにより単調になった火矢の動きを見切って避けようとしていたシノギだったが、波濤のように襲い掛かってくる悪霊を捌き切れず、幾本かの矢を受けてしまう。
機械人形の表面が裂け、パーツの内部が熱に晒されて独特の異臭を放つ。痛みに耐性はあるし覚悟はしていたから苦鳴を漏らすことはないが、それでも先ほどまで余裕を見せていた表情が歪んだ。
しかし、足を止めてしまえばいい的だ。
動き続け、紙一重で身を翻し、火矢が屋敷に当たるよう誘導する。邸宅が燃え上がればそれは、金の力を奪ったのと同じことだ。
益々苛立ち、勢いを増す火矢の数々。このままでは圧し負けてしまうと、シノギは手にした宝箱から中身を振りまいた。輝く滝のように溢れ出た金貨は、虫のような脚部で大悪災に這い寄る。
炎に照らされ鈍く光を反射する金貨に、富子は目を奪われたようだ。視線を逸らさず、押し寄せる不気味な硬貨を自分から迎え入れる。
「これは金か、金だな? アタシに献上しようってーのは見上げた心掛けじゃねぇか!」
金の海を纏うように、富子は群がる金貨に溺れた。然したる抵抗も見せず、抜け出すことすら思いつかないようだ。
喜悦に染まった主の声に、怨霊が力を失った。
シノギは攻勢を緩めた矢を払いのけ、富子との距離を詰める。
「あぁ嬉しそうですね。金に溺れて。嬉しいでしょう?」
日野富子。貴女は幸運です。
動けずにいる大悪災を力いっぱい殴りつけ、シノギはすっきりしたように笑った。
溺れる悪女は、金貨の中から逃げ出せない。
苦戦
🔵🔴🔴
フェルト・ユメノアール
まずは防御優先、敵の攻撃を飛び退き回避しつつミラクルシルクハットから宝石や金を取り出し『投擲』
手品用の模造品だけどあれだけお金に執着してるなら一瞬でも気を逸らせるかもしれない
さらに投擲物にワンダースモークも混ぜ、煙で敵の視界を塞ぎ、隙を作った所でUCを発動
混沌を纏いし勝利の化身よ!数多の想いを胸に、煌めく舞台へ駆け上がれ!
これがボクの新たな切り札!カモン!【SPクラウンジョーカー】!
このカードは攻撃時、キミが傷付けてきた人たちの怒りを戦闘力に変換し、自分の戦闘力に加える事ができる!
レイジングチャージ!
ボクは遠距離から『トリックスター投擲』で援護
動きを鈍らせた所でジョーカーの強力な一撃を叩き込む
●フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)
やがて金貨が偽物だと気付いた富子が、纏わりつくそれらを払って立ち上がる。屋敷に付いた炎の中に金貨のような虫を放り投げれば、あっけなく灰となって散っていった。
「こんなもんに騙されちまうたぁな……!」
自嘲したように笑って、殺意を増した眼差しで猟兵たちを睥睨してくる。両手の爪が伸びて輝き、研がれた刃のような様相を見せた。髪を振り乱し、手近な猟兵に向かって駆け出す姿はまさに鬼女だ。
狙われたのはフェルトだった。
フェルトは閃く凶刃を飛び退いて回避し、奇術師が手品で使うようなシルクハットから宝石や硬貨を取り出してばら撒いた。模造品だが、一瞬でも気を逸らせるかもしれない。
だが、富子は先ほどと同じ愚を犯さなかった。
「うざってぇんだよッ!」
フェルトが投げつけたものを作り物だと看破したようだ。煩わしそうに片手で跳ね除けると、空いた方の五指を大きく開き、閃光のように斬りつけた!
道化師の少女は咄嗟に、手にしていた帽子で受ける。布地が裂けてトランプや旗、手品の小道具が零れ落ち、辺りに散らばった。
小道具の中には、ステージの演出に使うためのものもある。ワンダースモークという、着色された煙を瞬時に発生させる球体だ。
地に落ち、衝撃を受けたワンダースモークが割れた。人工的な虹色の煙が勢いよく吹き出し、周囲の空間を色付ける。
煙に阻まれ、視界の効かない中。
敵の戸惑う気配を感じ取り、フェルトが動いた。腕に装着したデバイスにカードをセットすると、旋風が巻き起こる。
「混沌を纏いし勝利の化身よ! 数多の想いを胸に、煌めく舞台へ駆け上がれ!」
朗々と詠唱が紡がれ、まるでステージのような光の乱舞と共に極彩色の煙が晴れた。
「これがボクの新たな切り札! カモン! 【SPクラウンジョーカー】!」
現れたのは黒衣の道化だ。
フェルトの宣誓が合図だったかのように、黒衣の道化が見得を切る。そのまま、旋風から顔を庇った富子のもとへ素早く踏み込み、大鎌での一撃を放つ!
「このカードは攻撃時、キミが傷付けてきた人たちの怒りを戦闘力に変換し、自分の戦闘力に加える事ができる!」
恨み。悲しみ。嘆き。
様々な感情に付随する怒りを昇華し、力へと変える。
目の前の大悪災にはうってつけの能力だ。
黒衣の道化を援護して、フェルトがダガーを投擲する。派手な装飾が施された刃に、一瞬、富子の視線が吸い寄せられた。悪女が気付いたときには手遅れだ。
大鎌の一閃が富子の女房装束を切り裂いた。悪女の肌に、赤い線が走る。
「ふざけんなよ……ッ!」
大悪災が、吠えた。
成功
🔵🔵🔴
喜羽・紗羅
(京都で前の戦争と言えば応仁の乱らしいわね)
まだそんな事言ってんのか……マジか
先制攻撃、勇気出して受けてやる
只管に爪をこの太刀で打ち落とす
趣味悪い攻撃だぜ、“ねいるあーと”でもする気かババァ!
こちらから攻撃は仕掛けない
仕掛けずに挑発を繰り返して意識を俺に向けさせる
大振りになった所で地形を利用し一旦離れ
紗羅をその場に出して隠し、再び前へ
引き続き防御と挑発を繰り返す
おうおう随分と汚え爪が伸びてんな
手入れ手伝ってやろうか?
受けに徹し狙いはただ一つ
頭に血を登らせ更に攻撃が雑になった所
その隙を偽装バッグの擲弾銃――散弾を喰らわせてあげる!
その隙に背後へ回り、俺は後ろから斬り掛る!
ちったあ頭使え、ババァ!
●喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)
京都で前の戦争と言えば、応仁の乱らしいわね。
そういえば、と。頭の中で紗羅が言う。
「まだそんな事言ってんのか……マジか」
答えたのは、身体の主導権を握っている娑羅だった。気迫を増した大悪災を前に、余裕を感じさせるやりとりだ。
娑羅は強敵を前に知らず強張っていた力を緩める。緊張をほぐしてくれた紗羅に感謝しながら太刀を構えた。抜き身の刃が、邸宅を燃やす炎を反射して染まる。
ふいに、目の前で吠えていた富子が、煮えたぎる怒りのままに突貫した。
切り裂かれた装束を気にする素振りもない。一気に手近な娑羅に駆け寄ると、勢いを乗せて爪を振り下ろす!
この攻撃を、娑羅は受けた。
重い一撃だ。相手は片手だというのに、此方は両手を使ってなお押し負けそうなほど。それでもなんとか押し返し、娑羅は内心を隠してにやりと笑う。
「来いよ、ババァ」
富子もまた、鬼のように笑った。求められるままに爪刃を振るう。
娑羅は爪が閃くたびに太刀を打ち付け、火花を散らし、打ち落としていった。嵐の如き剣戟が交わされ、鉄のぶつかり合うような甲高い音が辺りに響く。
「趣味の悪ぃ攻撃だぜ、“ねいるあーと”でもする気かババァ!」
自分からは攻撃を仕掛けず、安い挑発を繰り返して大振りを誘う娑羅だったが、富子は中々隙を見せない。それどころか、段々と攻勢が激しさを増してくる気さえする。
娑羅の額に汗が浮かんだ。
火災の熱と敵の猛攻。娑羅の体力が、亀の歩みのように少しずつ、しかし確実に削れていく。遅々としたものではあるが──その速度は、敵が焦れるよりも早かった。
富子が振るった横薙ぎの爪が、握りの甘くなった娑羅の太刀を弾き飛ばした。
地に落ちた太刀が硬質な音を立てる。
娑羅が反射的に飛び退けたのは、これまでの経験がなせる業か。傷を負うことこそなかったものの、愛用の武器もなく大悪災を相手取るのは難しい。太刀を拾うにしても、運悪く敵の背後に落ちていて回収は困難だ。
娑羅の脳が目まぐるしく回転する。紗羅の助言もあったが、気が急いて考えがまとまらない。どうすれば──!
注意力が散漫になった猟兵を、オブリビオンが見逃すはずもない。
一呼吸の間に距離が消える。
十指が稲妻のように振るわれる。
強固な爪が娑羅の戦闘用セーラー服を紙きれのように切り裂き、その下の肉を抉って鮮血が飛び散った。地面がぼたりと、絵の具を落としたように赤く色付く。
気付けば、娑羅は戦場に倒れていた。
「アタシは文机に向かう方が得意なんだが……アタシよりヤワだとはなぁ。アンタの方がババァじゃねぇか!」
げらげらと。
大悪災が笑う。
失敗
🔴🔴🔴
神元・眞白
【SPD/割と自由に】
面白い人。それだけ何かに反応する傾向なら、違う事に熱中すればいいのに。
でも欲望のままに生きる、というのも1つ参考になるのかも。
集められるだけの要素をちょっと聞いてみよう。お願いします?
符雨、ペイント弾の準備を。最初は受ける様に動くからぶつける様に。
1回当たれば隙もできるかもしれないし、何発かは用意しておいて。
……あ、こんな綺麗な場所にインクが飛び散るのも……いっか。うん。
飛威は少し待ってて。準備ができるまで少し時間がかかると思うし。
お土産の準備はしなくていいから。武器を1つ貸して。
…?人形遣いが人形を使わなくちゃダメっていうわけでもないでしょう?
●神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)
荒ぶる富子の哄笑が戦場に木霊する。
「面白い人。それだけ何かに反応する傾向なら、違う事に熱中すればいいのに」
静かな声音で、傍観者のように言ったのは眞白だった。首を傾げ、感情の読めない瞳で敵を見ている。
「でも欲望のままに生きる、というのも1つ参考になるのかも」
集められるだけの要素を、ちょっと聞いてみよう。
口の中で音を転がすと、富子から視線を逸らさぬまま、連れてきた配下の2体に指示を出した。メイド服を着た人形たちが、主の意のままに動き出す。
ひとしきり笑って満足したのか、富子が大きく息を吐いた。それから見られていることに気付き、訝しげに表情を歪めて眞白を見返す。
「……おい、なに見てんだよ」
上機嫌だった先ほどとは一転して、不機嫌も露わに眞白を睨んだ。言葉を発するのと同時に駆け出し、眞白との距離を縮めてくる。
指から伸びる、鋭利な爪がギラリと光った。
両手のそれぞれから伸びた凶器が、無礼な女を誅殺せんと恐ろしい速度で振るわれる!
「少し、気になって」
涼しい顔のまま、眞白は敵の斬撃を軽々と受けた。攻撃を受ける直前、完全に身体から力を抜くと、爪が眞白の肉体をすり抜ける。
富子が驚きに目を見張った。勢いあまってたたらを踏んだが、直ぐに立て直す。
眞白が、何事もなかったかのように尋ねた。
「なぜ、そんなにお金に執着するの?」
「はぁ? バカかお前。金がありゃ好きにできるだろ!」
心底呆れたように富子が答える。ついでとばかりに斬り込んでくるのを、符雨の呪符が受け止めた。富子の口から舌打ちが漏れる。
「この屋敷も、庭も! 金がなきゃ作れねぇ、アタシの金で作ったアタシのもんだ。結局人なんて、金でどうにかできんだよ。そして人を動かしゃ権力だって握れる」
つまり。
「金さえありゃあ、女のアタシでも天下を獲れる──!」
実際、一度は獲ったも同然なのだ。
ならば、蘇った今世でだって出来ない道理はない。
猟兵を殺し。
徳川を殺し。
そして信長を殺せば、晴れてこの世はアタシのもんだ。
しかし、たかる羽虫の多いこと。
「ウザいんだよいい加減死ね!!!」
恨み言とともに放たれる、頭上からの大振りの一撃。
「──そう。ご意見、どうもありがとう」
焦りも見せずに眞白が言った。
富子の頭上から、手が振り下ろされることはなかった。
符雨が撃ったペイント弾の雨が、敵を押し戻していた。豪雨のように降りしきる弾が、破裂して中身をまき散らす。富子の全身がまだらに染まる。
「……あ、こんな綺麗な場所にインクが飛び散るのも……いっか。うん。」
すでに庭園も屋敷も、壊滅的な状態だ。気にするだけ無駄だと悟って、眞白は様子をうかがっていた飛威に合図を出した。
瞬間、ふらついていた富子に飛威が躍りかかる。
富子は苦々しい顔で後退り──だが、逃げきれない。
飛威から投げ渡された短刀を手に、眞白が突撃していた。
戦闘人形を隠れ蓑にした奇襲は、見事に大悪災の腹に突き刺さる!
「人形遣いが、人形を使わなくちゃダメっていうわけでもないでしょう?」
薄っすらと。
それまで感情を見せなかった眞白の顔が、悪戯が成功した子供のように綻んだ。
成功
🔵🔵🔴
マリス・ステラ
藤原・祐菜(f18628)と共闘
【WIZ】富子に魂の救済を
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと星が煌めく『カウンター』
「援護は任せます」
居合わせた祐菜に声をかけて前へ
『第六感』を働かせて回避しつつ間合いに入れば、
【神に愛されし者】を使用
飛翔能力を駆使して三次元的な戦闘をします
「光あれ」
放たれた光は弧を描いて流星のように
『破魔』宿る力は彼女の怨讐を相殺する
「あなたは金銭の使い方を知っていた。それは力であり、正義でしょう」
しかし、それでは"愛"は得られない
「あなたに魂の救済を」
高高度からの体当たりは、愛の『属性攻撃』
富子を浄化します
藤原・祐菜
マリス・ステラ(f03202)と行動するで!
【POW】しばいたるねんで!!
金っちゅーのは経済を回すためにあるんや!貯めといたところで何の意味はないで!ナニワ商人の教えやで!!だから関所関連で馬借に反乱されるんとちゃう?
援護するで!と居合わせたマリスを援護。
スペルカードシールドで防御し、さらに残像、武器受け、オーラ防御を使い、質量のある残像を生み出します。それも!これも!あれも!残像や!!
ユーべルコードには風水観測で未来を予測し、回避行動。同時に予測した結果をマリスに伝え、行動を支援。
接近すれば囮にもなれるやろ!飫肥守とフォースカトラスで接近戦を挑むで。ダメージは小さくとも重ねれば大ダメージや!
●マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)、藤原・祐菜(黒狐修業中・f18628)
腹部を刺し抜かれた富子が、力尽くで猟兵を振り離した。刃が抜け落ち、腹の中から赤黒い液体が溢れだす。苦痛に歪んだ顔が般若のようにも見えた。
「──主よ、憐れみたまえ」
戦いの最中であるにもかかわらず、マリスは手を組み、祈りを捧げる。
例え悪妻と蔑まれ、罪を犯したものだとしても。
敵であっても。オブリビオンでも。
マリスが見放す理由にはならない。
──彼女の魂に救済を。
「見下してんじゃねぇ!!」
マリスに気付いた富子が、憐れみを受けた屈辱に叫んだ。
瞳に増悪が宿り、殺意の籠った視線がマリスに向けられる。恨みは紫炎に変じ、空間を熱で侵しながら猟兵に迫った!
祈りを終えた聖者の片目の聖痕、夜空に輝く星辰に光が灯る。全身が輝く。
纏ったオーラが炎をかき消し……けれど、爆発を相殺しきれない。衝撃に身体を揺さぶられ、マリスは小さく呻いた。
それでも、臆さず前へ。
マリスを覆う星の輝きが一層激しさを増し、彼女を空へと誘う。
「援護するで!」
「任せます」
マリスを護るように、飛び出したのは祐菜だ。
「金っちゅーのは経済を回すためにあるんや! 貯めといたところで何の意味もないで! そんなことしとるから馬借なんかに反乱されるんや!」
早口でまくしたて、敵の視線を遮るように腕に装着した盾をかざす。呪札が展開し、物理的な強度を持った結界が爆ぜる炎を防いだ。
ついで、祐菜は周囲に残像を複数作り出す。質量すら持つ残像を囮に、敵の視線を惑わせる算段だ。
しかし、富子は増えた猟兵にも怯まず間合いを詰めてくる。
「うじゃうじゃ増えやがって、鼠かよ!」
アタシのジャマをするな!
大悪災の爪が伸び、残像を薙ぐ。胴を両断された祐菜の像が空中に溶け、滲むように消えていった。同じように、富子は残像を次々と切り捨てていく。
残像とはいえ自身の姿が切り裂かれるのは、見ていて気分の良いものではない。
祐菜は苦しげな顔で、役割を果たすべく詠唱する。
「気は風に乗って散じ、水によって止まる──」
「見ぃつけたッ!」
祐菜の詠唱が終わるのと、声を聞きつけた富子に発見されたのはほぼ同時だった。
富子の口が弧を描く。凶悪に光を反射する爪が振るわれ、祐菜を襲う!
10秒先の未来を予知していた祐菜が、爪を躱そうとステップを踏む。流れるような動きだった……が、それよりも更に敵は速い。
富子が1度片手を振るう。その動作だけで放たれる斬撃の数は45。
それが両手分、合わせて90。
くるとわかっていても、回避できるかどうかは別の問題だ。
始めはなんとか避けられていた攻撃も、続けていけば無理が出てくる。体勢を崩した祐菜に爪が躱せないのは順当な結果だった。避けられない爪を刀や盾でどうにか受けて、凌ぐのがやっとだ。次第に細かな傷が増え、血とともに体力が流れ出る。
しかし窮地にあっても、祐菜は不敵に笑う。笑える。
ウチの役目はこれでえぇ。
本命は、空の彼女──
──戦場の上空。大悪災の感知し得ない高高度。
マリスが、星の転がる声で言う。
「あなたは金銭の使い方を知っていた。それは力であり、正義でしょう」
しかし、それでは"愛"は得られない。
「あなたに魂の救済を」
短い祈りとともに身を投じる。煌めきながら墜ちる姿はさながら流星だ。
愛を宿した星の一撃が、富子目掛けて突き進む──!
祐菜を相手に攻め続けていた大悪災は反応が遅れた。
頭上からの光量が増え、空を裂く音が近付いてきたことにようやく気付いた時にはもはや手遅れだ。富子にマリスの光を放つ身体が直撃し、地面を抉り、土煙を上げながら吹き飛んだ。女房装束が泥や炭に塗れ、黒く染まっていく。
「愛で、あなたを浄化します」
マリスがふわりと降り立って、富子に告げた。
あれだけの体当たりを敢行した後だ。マリス自身も傷付き、身に纏う輝きは弱々しく瞬いている。それでもマリスは毅然とした態度を崩さず敵に臨んだ。
「アタシに、愛がないってか……?」
倒れ伏していた富子が、口の中の土を吐き捨てながらゆっくりと立ち上がった。
「まぁ、ねぇな。ねぇよ。金で買えないし」
装束に付いた汚れを叩き落としながら、富子はマリスの言葉を否定せず、むしろ肯定してみせる。おかしな話を聞いたとでもいうように朗らかに笑った。
不審な大悪災の態度に、猟兵たちが身構える。
マリスと祐菜も、油断なく富子を見据えた。
「だがよぉ──愛が金よりイイもんだって、誰が保証できんだ? 少なくともアタシは金の方がいいね。愛は裏切るが金は裏切らない」
夫でも。息子でも。
身内ですら裏切る。
身内だから裏切る。
切り捨てれば裏切られることはない。
金は従順で、ただ力だ。ただ正義だ。
裏切られることはなく──だから、アタシのものとするのに躊躇なんてない。
それを奪うもの、奪おうとするものは敵だ。
日野富子の瞳が猟兵たちを睨む。射抜く。
薄汚れ、傷だらけになり、血を流しながらも凄みを増した大悪災に、猟兵たちは気圧されてしまう。静まり返った戦場に、残り火の爆ぜる音だけが響く。
「──撤退すんで!」
沈黙を破ったのは祐菜だった。
「ですが」
「ですがやない! 敵はさっきのん食らってもまだ動けんねんで! こっちの余力があとどれだけある思てるん!?」
反論しようとするマリスの言葉に被せるように、苦々しい顔で祐菜が言う。
退却を提案していても、口惜しいのは祐菜も同じだ。
察したマリスが不承不承頷くと、他の猟兵たちもそれに倣う。
大悪災を警戒しながら、猟兵は素早く退却していく。
富子も彼ら追うことはなかった。
負ける気はしないが、楽に済む相手でもない。今は休むべきだろう。
「愛、ねぇ……?」
すでに地獄にいるものに、星の祈りは遠すぎる。
ただただ、降り積もる金子だけが安らぎだ。
燃え落ちた邸宅に、ひとり。汚れも気にせず女は座す。嗤う。
アタシの金は、もう、誰にも奪わせねぇ──
苦戦
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