エンパイアウォー㉖~お縄につきませ、悪商人
●悪徳商人、追い詰められる
夜。
徳川幕府の役人達が、とある屋敷を取り囲んでいた。
上役である皆本(みなもと)の無言の合図により、一斉に屋敷に突入する。
屋敷内は明かりもなく、静まり返っている。だが、ここにまだ主人がいる事は調べがついている。皆本の指示の元、迅速に屋敷内の捜索が進んでいく。
「皆本さん!」
同僚に呼ばれ、皆本が部屋に踏み込むと、押し入れの中から小男が引きずりだされるところであった。
「大人しくしてもらおうか、梅島屋(うめしまや)さんよ」
観念するよう皆本に迫られた小男こそ、屋敷の主にして悪徳商人オブリビオンであった。
猟兵が徳川埋蔵金を迅速に探索した事により、悪徳商人オブリビオンが逃走する前に、こうして尻尾をつかむことが出来たのである。
皆本達の目的は、梅島屋の捕縛と、資産の没収。
「調べはついとるんだ。とっととお縄についちまいな」
「げはは! 追いつめられたのはそちらの方でございますよ!」
梅島屋が、突然笑い始めた。
進退窮まり、錯乱したか。しかし皆本は、とっさにその場を退く。そしてその判断は正しかった。
ばきばきばきっ!
床が突然盛り上がったかと思うと、人ならざる異形が姿を現したのである。一体、二体、ぞろぞろ、と。
「用心棒か。悪人だけあって一筋縄ではいかねぇか」
「げはは、何とでもおっしゃい。お願いしますよ先生方!」
悪鬼どもに役人を任せ、身をひるがえす梅島屋。ちぃっと舌打ちし、それを追いかけようとする皆本だが、
「グゥゥゥ……!」
その行く手を、悪鬼どもが阻んだ。このままでは、先に待つのは黄泉路のみ……!
●グリモア猟兵、導く
エンパイアウォーの続く中、ヴェルタール・バトラー(ウォーマシンの鎧装騎兵・f05099)が新たな予知を猟兵達へと報せた。
「皆様のご活躍により集まった徳川埋蔵金を使い、幕府軍は補給物資を無事に集める事が出来た様子。何よりでございます」
更には、買い占めを行っていた商人の中に、かの大悪災『日野富子』が放った『悪徳商人オブリビオン』がいることが判明したのである。
「このオブリビオンの逃走を阻止し、資産を没収出来れば、徳川幕府の財源は更に潤沢となり、補給不足などの事態を防ぐ事ができましょう」
その為に、幕府の役人が屋敷に向かったのだが、商人は呼び寄せておいた用心棒オブリビオンに返り討ちにさせ、逃走を図るつもりだという。
「戦闘力のない商人だけなら役人様でも対処できたでしょうが、用心棒の方はそうはいきません。役人に協力して用心棒を討伐、商人をビシッ、とひっとらえてくださいませ」
ヴェルタールの決めの擬音は、エンパイアウォーでも健在であった。
七尾マサムネ
悪徳商人現る。そして逃げる。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
今回の内容は純戦です。
猟兵は、オープニング冒頭の予知シーンの直後、役人達の味方として乱入します。
●用心棒
禍鬼(マガツミ)の集団です。人語を介しますが、喋る事まではできません。
●悪徳商人・梅島屋
本人に戦闘能力は一切ないので、用心棒を撃破すればあっさり捕まります。
それでは、力と技を存分に振るい、用心棒を蹴散らしてくださいませ。
第1章 集団戦
『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』
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POW : 伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(毒属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 欲欲欲
【血肉を求める渇望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ : 鳴神一閃
【全身から生じる紫色に光る霆(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:ヤマモハンペン
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ソフィア・リューカン
つまり、この人たちを倒して、逃げ出した悪い人を捕まえればいいのね!
まず先制行動として、ジェファーソンとレイニーに、生命をプレゼント!効果は硬度上昇よ!
相手からの霆に対しては、大きな針である『星縫い』を持たせたジェファーソンを避雷針にして回避するわ!最悪私に来ても、ちゃんと服に【電撃耐性】の術を付けたからへいきびびびび!?
……ふん、これで麻痺するなんて大間違いよ!そうして私とジェファーソンで囮をして、その隙に自立して動くレイニ―による【だまし討ち】を仕掛けるわ!相手の足の甲に『星縫い』を勢いよく突き刺して、地面に【串刺し】にしちゃうわ!そして行動不能になった所を、他の猟兵さんにお願いするわね!
杼糸・絡新婦
乱入失礼、オブリビオンを狩るは猟兵の勤めてな。
この捕物、加勢させてもらいましょか。
錬成・カミヤドリで鋼糸・絡新婦を作成。
【フェイント】を入れ相手の動きの翻弄を狙いつつ、
【罠使い】で蜘蛛の巣のように張り巡らせ、
絡みつくようにして攻撃していく。
敵の攻撃は【見切り】で回避したり、
絡め取った【敵を盾にする】ことで
他の敵の攻撃から防せがせてもらう。
清川・シャル
ええー…折角埋蔵金ゲットして皆で補給物資をって話してたんです
横からかっさらう様な真似は許しません!おこぷん!
悪徳商人なんて、この鬼子シャルちゃんがぶっとばーす!
ところでシャル、昔は用心棒の先生って呼ばれてたんですよねぇ
どちらが強いか試してみます?
敵UCに対しそーちゃんで武器受けをしながら、櫻鬼でダッシュをかけて接近
鎧砕きとなぎ払い、衝撃波と範囲攻撃を使いUC発動
からの、櫻鬼で蹴り上げてジャンプ技能を使い、傷口を抉りながらムーンサルトを試み
決まったらSoulVANISHで恐怖を与えつつ殺気と串刺しを共に放ちます
敵攻撃には見切り、カウンターで対応
あとは第六感と野生の勘で対処ですっ
絶対逃がさない!
フィロメーラ・アステール
「なんだか見るからに危なそうな敵だなー!」
あまり近づきたくない感じがするぞ!
近づかないように攻めよう!
【煌天つまびく無窮の星琴】を使うぜ!
【電撃耐性】を加えた【オーラ防御】で補強した、長い糸を放つ!
【念動力】で操作し、敵を【グラップル】して捕縛だ!
糸から【破魔】の力を流し込み弱体化させ、大人しくさせる!
まあ向こうから抵抗の電撃が伝わってくる可能性もあるけど!
耐性付与しておいたので、接近しなければ平気なはず!
もしもの時は【気合い】で耐える!
うまく敵を捕まえられたら、操って【空中浮遊】させてやるー!
他の攻撃に対して【敵を盾にする】形でサポートをしたり!
他の敵に向けて【投擲】して攻撃したりするぞ!
甚五郎・クヌギ
悪徳商人許すまじ!であるな!
ぐるぐる薙刀をぶん回し
切っ先を敵へビシッと突き付ける
こういう時はやる気を出す為の勢いが大切なのだ!
屋敷の内で戦うならばあちらの動きにも制限はかかるはず
動きを見切り、薙刀で敵の足元をなぎ払い、フェイント入れて撹乱しよう
それさえ無視して破壊の限りを尽くすというなら
我輩の【猫の行く道】にて壁を駆け登り、その頭上を取る!
巨体にも怯まず行くぞ
勇気を持って立ち向かうのだ!
仲間に危険及びそうなら庇いに走る
この程度で!倒れはせぬ!
倒せたならばあとは悪代官の確保だな!縄でぐるぐる巻いてやろう
我輩の目が金色に光る限り、悪は決して見逃さぬぞ!
・連携、アドリブ歓迎
赤星・緋色
げはははー、出たな鬼どもめー私が蹴散らしてくれるわー!(悪役風)
さあ役人さん、ここは私たちに任せて逃げた奴を捕まえちゃって
まずは挑発で敵の注目を役人さんから離してこっちに向けさせよう
ケガとかさせちゃったらあれだし
能力で体が大きくなるってことは、より当てやすい的になるってことだね
どんどん大きくなあれ!
相手には鬼だし、属性弾はどうしよう
鬼にはやっぱり、豆?
範囲攻撃技能と誘導弾技能を組み合わせて広範囲に回避しにくい攻撃を仕掛ける感じ
距離と取って射撃するけど
接近されたら見切り回避、からの攻撃モーションの隙をついてのダッシュで距離を取って再度攻撃かな
はーい、これにていっけんらくちゃーく!
バンリ・ガリャンテ
悪徳あきんどめお前らヤッチマイナってかそうはいかんぜ。役人さん猟兵さん懲らしめてやりましょう。
なるべく1体っつ相手をする様心構えて陣取るよ。
尾っぽの毒攻撃を【見切り】で補足。回避もしくは【武器受け】し、【怪力】をのせた【鎧砕き】【部位破壊】を喰らわせる。多少喰らっても【毒耐性】と【生命力吸収】で何とかやりすごせっかしら。
欲欲欲を複数体が使用し危うくなったらばしゃあねえ。【REMEMBER ME】唱え回転蹴りでの【なぎ払い】や地獄炎の【属性攻撃】【範囲攻撃】で応戦よ。
纏めて怯ませることが出来りゃいい。
役人さんらは可能な限り【かばう】ぜ。
【アドリブ・他参加者様との連係・絡みなど大歓迎です】
用心棒の役目を果たすべく。
そしてそれ以上に、殺戮衝動を満たすべく。
役人・皆本らに引導を渡さんとした禍鬼達が、不意に、目を細めた。
差し込む月光……杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)が、襖を大きく開け放ったのだ。
月を背に、立つ影七つ。いずれも猟兵、救いの士。
「何者です!」
「乱入失礼、オブリビオンを狩るは猟兵の勤めてな。この捕物、加勢させてもらいましょか」
おののく梅島屋に、絡新婦が言葉を返した。
絡新婦に続いて乗り込んで来た猟兵達。その中には、バンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)の姿もある。
「悪徳あきんどめお前らヤッチマイナってかそうはいかんぜ。役人さん猟兵さん懲らしめてやりましょう」
バンリの背に庇われた役人達は、心強い援軍に、一度はひるんだ表情を引き締め直した。
「ご助力感謝する、猟兵さん。構わん、やっちまってくれ」
皆本の感謝を受けつつ、バンリは抜剣した。
猟兵の1人、清川・シャル(ピュアアイビー・f01440)は、禍鬼の背後で縮こまっている梅島屋を睨んだ。
「折角埋蔵金ゲットして皆で補給物資をって話してたんです。横からかっさらう様な真似は許しません! おこぷん!」
既に、皆本の許しは出ている。幕府公認で暴れていいという事か。
「悪徳商人なんて、この鬼子シャルちゃんがぶっとばーす!」
シャルに武具を突きつけられた禍鬼は、グゥゥ、と低く唸る。
「げはは、まだまた先生方はおりますぞ!」
梅島屋が手を打ち鳴らすと、新たな禍鬼達が、天井を突き破って襲来した。
「げはははー、また出たな鬼どもめー私が蹴散らしてくれるわー!」
赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)が、禍鬼に威勢のいい声をぶつけた。どこか悪役風の口上なのは気のせいだろうかいや気のせいではない。
「さあお役人さん、ここは私たちに任せて逃げた奴を捕まえちゃって」
「ありがてえこって。待て悪徳商人め!」
脱兎の如く逃げ出す梅島屋を追う皆本らを見送り、緋色は構えを取った。
「グゥゥ!」
「つまり、私たちはこの人たちを倒して、逃げ出した悪い人を捕まえればいいのね!」
そうとわかれば話は早い。ソフィア・リューカン(ダメダメ見習い人形遣い・f09410)が、人形であるジェファーソン卿とレイニー嬢に、生命を授けた。
じぃっ。フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)は、自分達を囲んでくる敵を、注意深く見つめた。
「なんだか見るからに危なそうな敵だなー!」
蠍の尾に、鎖付きの金棒。近距離、中距離……あるいは遠距離も……対応できそうだ。
あまり近づきたくない感じが、する。研ぎ澄まされた第六感が、そう告げている。
ゆえにフィロメーラは、あえて接近は避け、距離をとりつつ戦闘を開始した。
屋内、そして廊下に屋外。屋敷じゅうが戦場になるのに、さほど時間はかからなかった。
寝所で大立ち回りを演じるのは、猫の剣士、甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)であった。
「悪徳商人許すまじ! であるな!」
ぐるぐると薙刀をぶん回し、切っ先を禍鬼どもへ、ビシッと突き付けるクヌギ。こういう大立ち回りを演じる時は、やる気を出す為の勢いが大切なのだ!
巨体の持ち主である禍鬼に対し、クヌギは小柄。体格差はあれども、気迫では両者一歩も譲らぬ。しかし、屋内での、しかも集団戦とあれば、クヌギに利がある。
「グゥゥ!」
ばぎん! ソフィアがかわした金棒が、柱にめり込む。その隙に、2体の人形を伴い、禍鬼に反撃するソフィア。
その直後だった。
「グゥアッ!」
禍鬼達の体から、紫電がほとばしった。猟兵達をまとめて焼き払う算段であろう。
だが、そうは問屋が……いや、ソフィアが卸さない。
荒れ狂う激しい雷霆は、途中で方向を変え、ある一か所に引き寄せられていく。ジェファーソンの……正確には、ジェファーソンの持つ大きな針『星縫い』へと。避雷針の役割というわけだ。
無論、その身を打たれたジェファーソンもただではすまぬ。しかしながら、ソフィアによって硬さを与えられている上、このような盾役、日常茶飯事、これも務め……!
「……ふん、これで麻痺するなんて大間違いよ!」
かくして、頭髪をちりちりにされる事を避けたソフィアが、勝ち誇ってみせる。自分の元に雷霆が来ず、内心安堵しているが、そのような裏事情、敵に暴露する義理はない。
手狭であろうとまるで構わず、所狭しと暴れ回る禍鬼。バンリは、手堅く1体ずつ相手をしていく構え。
背面より伸びた尾は、こけおどしではない。紫の光をまといつつ、バンリ達を狙って、禍鬼の毒針が来る。
尾自体が打撃武器のようなもの、加えて刺されば毒の餌食。
バンリは、たたんと後退しつつ、針を回避。あるいは、剣で受け、弾く。
「今度はこっちの番だ。よろしくやられてくれよ」
バンリが前へと踏み込んだ。怪力にてバスタードソードを振るうと、蠍の尾を辿るようにして本体に接敵、破壊力を叩き込んだ。
「グオオッ!?」
尾が、根元から千切れ飛ぶ。溢れた毒の飛沫が、床を濡らす。そのまま、剣で胴を薙ぎ、とどめを刺した。
バンリの剣さばきは1つの戦果では止まらず、2体3体と続く。
猟兵の優勢を悟った絡新婦は、己が本体でもある鋼糸を複製した。それらは差し込む月光を受け、赤、緑、黄、黒と、色を変えて輝く。
「グォオオッ!!」
輝く糸に引かれるように、絡新婦にも禍鬼達が殺到する。しかし慌てず騒がず。
フェイントを交え、敵の金棒をかわし、相手を手玉にとる絡新婦。その身を捉えることはあたわず、禍鬼達の焦燥感が膨れ上がっていくばかりだ。
「ところでシャル、昔は用心棒の先生って呼ばれてたんですよねぇ。どちらが強いか試してみます?」
「グゥゥ……」
シャルは、迫りくる禍鬼達に、自信たっぷりの笑みを向けた。
さすがに、そのまま飛び込む愚を犯す禍鬼ではない。
ぐわっ、と蠍の尾でもって、シャルを襲う。小柄など、貫かれたらひとたまりもあるまい。
だがシャルは、鬼の金棒でそれらを受け流しつつ、敵へと疾走。
「えーい!」
「グォッ!?」
渾身の力をこめて金棒を一振りすれば、禍鬼どもは一気に吹き飛ばされ、宙を舞う。
恐るべきは羅刹のりょ力。
畳がめくれ上がり、柱や調度品も砕け散る。だがまあ、悪徳商人の屋敷ならばお目こぼしいただけよう。
落下してくる一体に目をつけると、シャルはそれを高下駄で蹴り上げ、追撃。先ほどつけてやった傷口をえぐりつつ、ムーンサルトを決める。
宙を舞うシャル、その袖の下に仕込んだ杭打ち器が、すっ、と顔をのぞかせる。
「絶対逃がさない!」
禍鬼の顔が恐怖に歪んだ瞬間、その身が串刺しにされた。
ズン!
巨体が床にたたきつけられる音と衝撃に鼓膜を震わせつつ、フィロメーラは細い光を操る。オーラでコーティングされた糸は、月光を浴びて煌めく。
フィロメーラによって巧みに操作された糸は、禍鬼を翻弄する。振り回された金棒をくぐり抜けると、あれよと言う間にその体を縛り上げた。
「!?」
鬼の力でも、束縛は解けぬ。もがく禍鬼にフィロメーラの力がそそがれた。糸を通じて、破魔の力を叩き込んだのだ。
だが、禍鬼の体が雷光を帯びた。糸を反対に利用し、離れた場所のフィロメーラに逆襲するつもりなのだ。
しかし、破魔の力に敗れた禍鬼は、力を放出する直前、意識を手放し、その場にくずおれた。
「セーフ! セーフだな!!」
フィロメーラは幸運であった。
味方の優勢を確かめ、戦いを続けるクヌギ。
紫の眼光が闇を走るのが見えた。鬼の金棒が、来る。クヌギは、ひらり、攻撃をかわすと、薙刀で敵の足元を薙ぎ払った。
フェイントを交え、次々と敵の態勢を崩していくクヌギ。
巨体や殺気にも怯む事はない。クヌギの胸にたぎる勇気が、敵の威圧すら跳ね除ける。
「グオオォッ!」
禍鬼が吠えた。迸る紫の光。鳴神一閃!
だがクヌギは、恐れる事なく、床を肉球で叩いた。ぽむっ。力を注がれ、木製の柱がそそり立つ。それを身軽に駆けのぼり、クヌギは敵の頭上を取った。
虚空にて猫の身は踊り、抜刀するは妖刀野辺送り。
「悪鬼悪漢、成敗仕る!」
斬。
着地し納刀するクヌギ。その背後で、三体の禍鬼が、同時に倒れ伏した。見事。
一方、庭では、絡新婦と禍鬼の鬼ごっこが繰り広げられていた。
「ほぅら、鬼さんこちら」
「ゥグアア!」
ぶぐん! 感情が炸裂したかように、禍鬼の肉体が一回り巨大化した。
寄越せ、血を。肉を。殺戮衝動に身を任せ、力と変えたのだ。
敵が一斉に仕掛けた時、絡新婦の口元に笑みが浮かんだ。
「!?」
禍鬼が違和感に気付いた時には、もう遅く。その強靭な体には、鋼糸が絡みついていた。絡新婦の仕掛けた、蜘蛛の巣の如き罠にとらわれたのだ。
文様を描く糸は、全身を切り刻むばかりか、束縛により自由を奪う。
「グォォッ」
その時、絡新婦の背後より迫りくる禍鬼、一体。
だが絡新婦は振り返りざま、糸を繰る。驚く禍鬼。絡めとられた同朋が、盾として立ちはだかったがゆえに。
一撃は止められず。同朋をほふる結果となる。不本意な形で血にまみれた禍鬼が、絡新婦を睨んだが後の祭りであった。
「へいへーい! お前の母ちゃん鬼ババア!」
同じく庭では、緋色が手を叩いて、強化された鬼を招いていた。
人語は離せなくても理解は出来る。親はいるかどうかわからないが、それが自分達をののしる言葉である事も。
まんまと緋色の挑発に乗った禍鬼達が、殺到する。
緋色への恨みを募らせた禍鬼の体は、更に一回りは大きく見える。
ただし、体が大きくなると言う事は、より当てやすい的になるという事でもある。緋色はそう解釈した。
「いいよいいよ、どんどん大きくなあれ!」
増力する禍鬼達を煽る緋色。
ガトリングガンの魔導蒸気機関を駆動させつつ、装填すべき弾の属性を思案する。
この鬼に、もっとも効率的にダメージを与えられる属性とは……。
「……豆?」
緋色を取り囲む禍鬼の集団を、豆属性の弾丸が撃ち抜いていく。雨あられとばら撒かれた弾のほぼすべてが、敵に命中、蜂の巣を作っていく。
「グォゥ!」
あろうことか味方を盾に飛び込んできた禍鬼が、緋色に接近してきた。だが緋色は 軽妙な動きで敵を飛び越えると、前につんのめった敵めがけ、弾丸をお見舞いした。
廊下では、人形のジェファーソンが、禍鬼と戦いを繰り広げている。
調子に乗るなよ、とばかり、禍鬼達が、こぞってソフィアへと殴り掛かる。
だが、ソフィアは逃げも隠れもせぬ。かと思えば、禍鬼の背後に、1つの影が忍び寄っていた。レイニーだ。
飛び出した白髪の令嬢は、禍鬼の足の甲めがけ、『星縫い』を勢いよく突き刺した。
「グゥゥ!」
何するものぞ、とばかり禍鬼は痛覚を殺し、金棒を振りかぶる。
だが、足を貫き通した針は、畳に禍鬼を縫い止めていた。
自由を奪われ、動きを止めざるをえない禍鬼。
「今のうち! お願いね!」
「了解」
ソフィアに応えて、バンリが刃をかざす。記憶を呼び覚まし、力を解放する。
縫い止められた鬼、そして周囲にいた鬼に至るまで、まとめてバンリの地獄炎が薙ぎ払った。
「こんな雑兵相手、寿命を削るまでもねぇぜ」
覚醒は、一瞬。バンリは、刀身から炎の残滓を振り払った。
残るは、もはや数体。敵を追いつめるフィロメーラに、別の禍鬼が接近していた。
高々と振り上げられた金棒が、影を落とす。
ぐしゃりと潰される。……フィロメーラではなく、禍鬼が。
フィロメーラが、糸で縛り上げていた鬼を自らの元に手繰り寄せ、盾としたのだ。
更には、その肉体を武器として、敵陣に叩きこむ。
「自分の最大の敵は! 自分!」
浮足立つ禍鬼に、禍鬼が突撃した。よもや、味方が敵の武器になろうとは。富子様でもわかるめぇ。
そしてそれが、最後の戦力であった。
「はーい、これにていっけんらくちゃーく!」
「グゥゥゥ……」
山と積み上げられた禍鬼どもに腰かけ、緋色が勝ち誇った。
猟兵は庭にて合流すると、勝ち鬨をあげた。
「よっ、見事な手並み」
戻って来た皆本達は、捕縛した梅島屋を連れていた。
「我輩の目が金色に光る限り、悪は決して見逃さぬぞ!」
「ひぃぃ、堪忍しておくんなせえ~!」
「堪忍など……むっ」
クヌギが、くわっ、と目を見開いた。梅島屋が平伏するなり、塵と化したからである。
「骸の海へと還ったか。人の法では裁けぬ相手ゆえ、この結末も致し方なしか」
刃を収めるクヌギ。
梅島屋が消えた後には、持ち出そうとしていた資産の一部であろう、千両箱が残されていた。シャルが大変喜んだのは、言うまでもない。
「後始末は任せてもらおう。猟兵さん達には、まだまだ踏ん張ってもらわんといかんからなぁ」
そう告げる皆本に事後を任せると、猟兵達は向かう。
次なる戦場(いくさば)へと。
大成功
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