エンパイアウォー④~きゃっと大火遁の術
……コーン……コーン……。
昼でも鬱蒼とした草木が光を遮る、蒸し暑く暗い森の奥。
杭を生木に打ち付ける、鈍い槌の音がする。
丑の刻参りを思わせるが、貫かれているのは藁人形ではない。血だらけの竜だ。
張り付けられたるは大きなクチバシと膜構造のツバサを持つ、何とも奇妙で小さな竜。
致命傷ではない傷を延々と穿たれ、悲鳴はとうに枯れ果てた。
今はただ、振われる槌に合わせ、僅かに息が乱れるのみ。
もはや閉じることも忘れた小さな両目に、光は無い。
『美味しそうな鳥さん。キミを頭からバリバリ食べることが出来なくて、ミーはとっても残念なんだニャン。でもこれだって、キミのマミーの為なんだニャンよ?』
優しく語り掛けるのは、長い髪を持つ着物の女。
その顔には三毛猫の半面を着け、足元で揺れるは同じ柄の尻尾……それが二本。
滴りだした鮮血の下にそっと銀色の杯を差し出すのは、金瞳に真っ黒な毛の子猫。
一滴もこぼすまいと、よたよたと聖杯を支えながら健気に頑張る。
ネズミ、ムカデ、スズメ……。
おびただしい小動物の躯を運び輪を作るのは、同じく様々な模様の子猫達。
おぼつかない可愛らしい足取りながら、獲物を次々と積み上げてゆく。
着物の猫は一際大きな杭の先を、おごそかに小竜の胸へ当てる。
『さあ! 地の底に眠る太陽神様! 尊き仔の犠牲と共に、どうぞその姿を現して下さいニャン!!』
子猫達が一斉に鳴き声を上げる。
振り下ろされる最後の槌の音。
女でも猫でもない断末魔が、暗い森にコダマする。
●
「さーて、もうちょっと手助けが必要そうな幕府軍の脅威排除に向かう人はいるかな?」
仲佐・衣吹(多重人格者のマジックナイト・f02831)が軽い口調ながら、しっかりと注目を集めるように周囲を見渡し声を掛ける。
「第六天魔軍将の一人、侵略渡来人コルテスによる妨害策のひとつを捉えたよ。今回はその配下による、霊峰富士の噴火阻止に向かって欲しい」
織田信長を撃破する為に江戸幕府軍は島原の魔空安土城へと向かう。その城に施された無敵の防護を唯一破れるユーベルコードを受け継ぐ首塚の一族と、それを守り運び術に必要な随伴者、徳川幕府及び諸藩からの援軍は合わせて十万。猟兵は彼らを信長軍の第六天魔軍将達の妨害から守り戦うことになる。
●霊峰富士鳴動
「コルテスは、太陽神ケツァルコアトルの力を用いて富士山を噴火させようとしているんだ。裾野に広がる樹海に隠れながら配下が行っている『太陽神の儀式』を止めるよ」
富士山が噴火すれば、東海・甲信越・関東地域は壊滅的な混乱状態となる。徳川幕府軍は災害救助や復興支援の為に、全軍の二割以上の軍勢を残さなければならなくなる。
「戦の後まで残る民への甚大な被害だね。無視なんて出来ないよ。この卑劣な策略、成功させるわけにはいかないね」
「儀式を行っているオブリビオンの名前は『戸沢・三毛猫斎』。猫にまつわる術を得意とする忍者なんだ。まずはその儀式場所を探し出そう」
予知した儀式の様子からすると、三毛猫斎は子猫の配下を召喚し絶えず狩りを行わせている。子猫を見つけて追跡することになるだろう。
「子猫の通った跡を探して追う、得物になりそうな小動物を仕掛けて捕らえる、猫の鳴き声で話しかける……いっそ猫だから、美味しい餌や猫じゃらしにマタタビを用意して、狩り以上の遊びで誘い出しちゃうのもいいかもね」
猫に儀式場まで案内させたら、三毛猫斎との戦闘だ。
「太陽神の儀式は、築かれた儀式場の中心で小さな竜……ケツァルコアトルの子供を殺してその血を聖杯に注ぎ祈る、という血生臭い手順で行われているよ。うっかり達成されないように、躯の輪も聖杯も全部台無しにしながら戦おう」
三毛猫斎は猫にからめた変な忍術の使い手だ。可愛い猫を放って士気を挫いたり、己も山猫になって戦ったり。いいように料理されないよう、対策が必要だろう。
「三毛猫斎本人も、なんだか猫っぽいんだよね。ユーベルコードとはいえ、猫の性質を受け継いでいるかもしれないよ。当たれば儲けもの、猫にするような対応を戦術に組み込んでみるのはどうかな」
体がぴったり入る箱を用意してみたり、真後ろにキュウリをそっと置いてみたり、けたたましく犬の鳴き声を真似てみたり……戦わないグリモア猟兵は楽しそうに案を出す。
「正面切っての戦闘でない分やることが多いけれど、探索や奇襲が上手くいけば想定以上の戦果を得られる可能性だってあるんだ。そしたら格好良いよね」
衣装を正し、まるで友人と遊びに行くような気軽さを湛え、ゲートを開き衣吹は笑う。
「それじゃあ、サムライエンパイアの未来をよろしくね」
小風
小風(こかぜ)です。
十作目はサムライエンパイアにて富士山の噴火阻止です。
よろしくお願いします。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 ボス戦
『戸沢・三毛猫斎』
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POW : きゃっ遁・大山猫変化の術
【巨大な山猫】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : きゃっ遁・猫津波の術
戦闘力のない、レベル×1体の【かわいい子猫】を召喚する。応援や助言、技能「【誘惑】」を使った支援をしてくれる。
WIZ : ぐらび遁・でっぷり落としの術
【怪しい印を結んで重力装置を起動すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【でっぷりした猫を上空から落下させること】で攻撃する。
イラスト:華月拓
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠グァンデ・アォ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
三上・チモシー
アドリブ連携歓迎
まずは【聞き耳】をたてて、子猫の鳴き声がしないか探りながら進んでいくよ
【猫行進曲】で呼び出したるーさんたちにも手伝ってもらおう
野生動物がいたら【動物と話す】で聞いてみるのもいいかも
子猫を見つけたら、一旦るーさんを一匹にしてこっそり追跡
もし見つかったら、とりあえずるーさんに挨拶させておこう
儀式場に着いたら、増やしたるーさんたちと一緒に突撃
儀式場を荒らしつつ、竜を保護するよ
竜はるーさんに守らせて、自分はボスへ突撃
なんらかの攻撃があれば【見切り】でかわして、【怪力】を目一杯込めた拳でボスを殴り飛ばすよ!
子猫の誘惑は近くのるーさんをもふって耐える
うちのるーさんの方がかわいいし!
ティモシー・レンツ
くっ、猫になったり猫を呼んだりなんて、卑怯なオブリビオンめ……(記憶の蓋が緩みかけ)
山猫に変身させて、ユーベルコードでじゃらして疲れ果てたタイミングでざっくり……と行きたいけど、
相性的に……もしくはなんやかんやで、猫变化は誘発できないみたいだし、
動きが封じられても攻撃できる、『たまたま持ってたカード』を操って攻撃しようかな。
なんやかんやで切断属性付きだし、指か手首か、どこかしら切り落として印の妨害ができればいいんだけど。
印の妨害が無理でも、せめて切り傷多数で出血に持ち込めないかな?
……ところで、このでっぷり猫はオブリビオンかな、それとも太った野良猫?
(触診ついでにダイエットメニューを考えてる)
ヨナルデ・パズトーリ
『動物使い』で呼んだ『動物と話す』事で狩りをしている猫の多い所の情報を集め敵の痕跡を『野生の勘』により『見切り』『追跡』
敵発見後は樹海という『地形の利用』
ジャガーであるテペヨロトルの支援を『動物使い』で受けつつ猫も来ない高さの樹上で『暗殺』技能を活かし『目立たない』様に『迷彩』で気配を消し潜み隙を伺う
UC発動後すぐ『怪力』の『なぎ払い』で敵に『先制攻撃』
子竜と分断し『救助活動』
『高速詠唱』での『呪詛』のこもった『全力魔法』をぶち込みつつ更に『怪力』の『鎧無視攻撃』
振り掛かる猫は『怪力』による斧の『なぎ払い』で対処
猫が怒れるジャガーに叶うと思うたか!
妾、テスカトリポカが託宣じゃ!
疾く滅びよ外道!
シン・ドレッドノート
アドリブ連携OK
【SPD】
オブリビオンに容赦する必要もありませんし、さっさと退治して儀式を潰すとしましょう。
まずは子猫を探すために、猫缶を用意。
「UDCアース産、極上まぐろの猫缶ですよ」
エンパイアにはこんな贅沢なものはないでしょう。猫の通りそうな細い道に置いておき、食べに来た猫の後を追跡します。
儀式場にたどり着いたら、残った猫缶をばらまいて注意をそらします。
「さぁ、遠慮なく食べなさい!」
良い香りと味に猫まっしぐらしている間に聖杯をスナイパー技能で狙撃、同時にライフルビットを乱れ撃ちして躯の輪も破壊。
残った猫忍と猫の攻撃は魔盾で防御しつつ、一斉射撃で一掃しましょう。
「私、猫より狐のが好きなので」
落浜・語
サクサク探して、目論見潰していきますかね
…どうしてこう、悪趣味なことばっかりするかな。
ったく。胸糞悪い
【存在感】消しつつ、【第六感】、【失せ物探し】、【情報収集】で痕跡を探す。見つけたならば、存在感は消したまま、その痕跡をたどり、途中子猫見かけたら、マタタビ撒いて無力化を。
儀式場に着いたら物陰に隠れたまま、とりあえずはカラスをけしかける。無理のない範囲で攪乱してもらって、その隙をついて奇襲。
一撃入れつつマタタビ撒いて距離を取れたら、仔竜の【救助活動】を。
召喚される猫にも、マタタビで気を引ければいいが。
普段なら猫とか好きだけどな。今回は他に優先する事があるんで?
悪いが邪魔するな。
アドリブ、連携可
平良・荒野
子猫探しには、煮干、干物、匂いの強い猫の好む餌に細い糸をつけ。
草むらに忍ばせて、自分は木の上から見張ります。
儀式場を突き止めたら、聖杯だのを「吹き飛ばし」
三毛猫斎に向かいます。
大山猫と化した三毛猫に狙われにくいよう、動きは控えめに。逸ることなく構えながら、猫津波の術には
「無力な猫の子に見せて、あなたの振る舞いはけだもののものでしょう!」
「恫喝」で打ち破れるか、試みます。
仕掛ける前には、UDCアースから持ち込んだ手持ち掃除機を動かし威嚇します。尻尾ぼうぼうになると良い。
怯んだ所にジャッジメントクルセイドの光で視力を焼きながら、攻撃を。
ヒトでなくとも、親が為に子を殺める、そんなことは許せません…!
●子猫探し・壱
カンカン照りの町中よりは、幾分過ごし易いのだろうか。猟兵達は広葉樹と針葉樹の生い茂る薄暗い森の中へと突き進んで行く。ゴツゴツとした溶岩に足をとられ、似たような木々ばかりでどのくらい進んでいるのか分かり難い。けれど目的地はそんな木々の迷路の更に奥だ。迷い出られぬよりも、辿り着き止められないことの方が、今は恐ろしい。
「にゃーん☆」
今のは猫の鳴き声ではなく、三上・チモシー(カラフル鉄瓶・f07057)のユーベルコード猫行進曲(ニャンコマーチ)の詠唱である。34匹の灰色猫『るーさん』と聞き耳による探索だ。途中出会うコウモリやタヌキなど野生動物と会話し進路を変えながら、愉快な隊列は続いて行く。
「あっ! 見つかったの?」
一匹のるーさんが見つけたのはキジトラの子猫。その体より明らかに大きな烏の死体を運ぼうと悪戦苦闘しているのを手伝ってやると、見知らぬ猫ながらその厚意に甘えて道案内を始めた。子猫の為か、どうやら警戒心は薄いようだ。
「よーし、頼んだよ、るーさん」
大きな獲物を持ち帰れて嬉しいのか足取りの軽い子猫の後を、チモシーとるーさんは、こっそり追跡する。
見事三毛猫斎の子猫を捉えたチモシー一行だったが、実はもう一匹(?)釣っていた。
「くっ、猫になったり猫を呼んだりなんて、卑怯なオブリビオンだと思ったら……まさか味方にも猫使いがいたなんて……」
ティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)である。どうやら己は大層な猫好きだったらしいと、湧き上がる猫愛のままに追いかけた一匹が、仲間のユーベルコード召喚猫『るーさん』であった。味方の技に掛かってどうする。
少々情けない気もするが、チモシーとるーさんの邪魔をしないよう、更に後ろからこっそり付いて行くことにしたティモシーであった。
●子猫探し・弐
「ふむ、このあたりをうろちょろしているとな」
ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)が動物使いで呼び寄せたイノシシとキツネから子猫の通り道の情報を得る。人では見落としてしまいそうなほど細い獣道だ。やはり子猫も移動には歩き易い場所を選ぶようだ。
「ではこちらに仕掛けさせていただきましょう」
協力してくれた二匹、特にキツネを笑顔で見送り、UDCアース産、極上まぐろの猫缶を開封して置くのはシン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)。サムライエンパイアには無さそうな、舌の肥えた猫の為に贅沢の限りを尽くした品だ。
猫缶と獣道が見える位置で、気配を消し静かに待つ両名。そして掛かったのはハチワレの子猫。獲物を運んでいないところを見ると、これから狩りに行くところだろうか。行く手に置かれた猫缶を興味深そうに観察した後、ひとくち、もうひとくち。ついにはなかなかの食いっぷりを見せ始めた。そして一缶平らげたところで道を逸れると、ぐるぐると下草を踏み整えて丸くなり――。
「――寝た!?」
「さすがは自由気まま、なんでしょうか……」
お腹いっぱいで寝息を立て始めた子猫。このまま起きるのを待ち、狩りの完了と帰りまで待つとなると時間がかかりそうだが。
「仕方がないのう、ここはジャガーが一肌脱ぐか。行くぞ、テペヨロトル!」
シンに見張りを任せ、ヨナルデがバディペットと共に獲物を獲って来ることにした。神の力を持ち技能に長けた一柱と一匹だ。子猫の夢よりも早く戻ってくることだろう。
●子猫探し・参
「サクサク探して、目論見潰していきますかね」
コケやシダ植物の目立つ地面を慎重に観察しながら進むのは落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)。今回は戦闘が控えているので着流しではなく、深緑のベストと焦げ茶のパンツにブーツという洋装だ。
つと指でなぞるのは規則的に乱れたコケのへこみ。辿れば現れるは僅かなぬかるみに残る小さな足跡。自らも原生林の一部となったかのようにその存在感を薄れさせ、痕跡が示す子猫の姿を静かに追いかける。
対してこちらは木の上から。仕掛けた罠の一つに変化があったのを見つけ、向かうのは平良・荒野(羅刹の修験者・f09467)。香りの強い干物が一つ無くなり、端に結んでいた細い糸がどこまでも伸びている。犯人はサビ模様の子猫。その場で食べなかったということは、これも儀式の獲物と見なされたのか。引っ張らないよう気を付けながら糸を拾い上げると、慎重に子猫の後を追いかける。
途中何度か木々に引っ掛かりながらも、真っ直ぐ一方向を目指し進んでいた糸が、突然ぴたりとその歩みを止めた。何か起きたかと身を低くしてその先を窺う荒野。居たのは寝転がる子猫に囲まれた、同じく猟兵の語であった。
「おや、猫の散歩とは珍しい。……悪趣味で胸糞悪い儀式、これで少しは止まるかね」
糸を片手に現れた荒野に会釈するヤドリガミ。どうやら周りの子猫は彼の撒いたマタタビに酔っているらしい。
「これだけの数がこの場に集まっているということは」
「近いな。気を付けて」
首周りの白いカラスを肩に乗せ、その先を睨む語。
今は無力な子猫達を見て、荒野も力を籠める。彼らの親の振る舞いは、けだものに他ならないのだから。
●
いわば大自然に囲まれた森の中。しかしその一角だけは禍々しい。積み上げられた小動物から立ち上る臭気、張り付けられた小竜から滴る血の香り。そこで踊るは裸足の猫又女性。その儀式も大詰めを迎えようとしていた。
『さあ! 尊き仔の犠牲と共に――』
オブリビオン『戸沢・三毛猫斎』が最後の槌を振り上げる。
「させないよ! るーさん!!」
チモシーの声と共に雪崩れ込んで来るは灰色の猫『るーさん』の群れ。小竜を仕留めようとする三毛猫斎へ向かって大突進してまとわりついた。
『ニャニャ!? ミーの猫じゃないだと!? でもこの三毛猫斎、猫の扱いは得意――』
「それならこれはどうだ!」
続け様に語がけしかけたのは首が白い彼のカラス。その爪で三毛猫斎の顔をバリバリと引っ掻くと、更に半面の目の穴をクチバシで猛烈につつき出した。
『ギニャー!!??』
動物達による奇襲により混乱する三毛猫斎のもとへ、猟兵は一斉に飛び出した。
●でっぷり猫戦
「『たまたま持ってたカード』でお相手するよ!」
ティモシーが放つはユーベルコード魔法のカード。切断属性の込められた占いカードが三毛猫斎へ迫る。
『そうは問屋が卸さニャイ! でっぷり行くニャン!』
なんとかカラスを払い除けた三毛猫斎が印を結び重力操作。途端、重たくなったように動きを止めた占いカードの上へ、まるまるもっちりとした巨大猫が落ちて下敷きにした。
「……ところで、このでっぷり猫はオブリビオンかな、それとも太った野良猫?」
でっぷりもっちり。毛並みも肉感も心地よい猫を撫でながら、暢気な感想を言う彼。
「それと、カードは下敷きにしても、まだ出てくるよ?」
すいと指先を滑らせれば、再び飛び出すは大猫の下にあるはずの魔法のカード。再び技を発動したのではない。170枚ものカード、一度に全部出しているはずも無いのだ。
不意を突かれた猫又は、鈴なり猫を払い落としながら、鋭いカードの間を踊ることになった。
そしてでっぷりを越えて、飛び出したのはヨナルデ。隙の出来る相手の技発動直後を狙って、樹上から飛び降りたのだ。
「我ジャガーにして煙吐く鏡、テスカトリポカにしてケツァルペトラトルたる者! 民と共に在った嘗ての妾の猛き力、目に焼き付けるが良い!」
発動するはユーベルコード第一之太陽再臨(ナウイオセロトル)。
落下した影は黒曜石の輝きを帯びてジャガーの鎧となり、贄の翼がその体を猫又のもとへと素早く飛翔させる。速度と重量の乗った同じく黒曜石の戦斧を振り被ると、超威力で薙ぎ払った。
薙ぎ払いに止まらず、勢いを受け止めきれなかった三木猫斎の体がすっ飛び遠くの木へと打ち付けられる。
『ギニャホッ!! おのれ調子に乗るニャ!』
よろける体のまま睨みつけると印を結び、再び現れるは二体目のでっぷり猫。
「猫が怒れるジャガーに叶うと思うたか! 妾、テスカトリポカが託宣じゃ! 疾く滅びよ外道!」
ヨナルデの勢いは止まらない。戦斧を今度は頭上へ振り被ると、重力など無いように飛び上がり、でっぷり猫へ一撃。打ち返された大猫は地上へ降りることなく、生い茂る樹海の天井を突き抜け、空の彼方へと消えていった。
儀式場の破壊へ回っていた荒野が、三毛猫斎へ迫る。よろける猫又が気付いた時には、もう目の前に迫っていて。小癪なと力んで印を結ぶ三毛猫斎へ向けて、荒野は手にした棒状のそれを――スイッチオン!
ブオォォォン!!
『ニャニャニャ!!?』
彼が手にしていたのは武器――ではなくUDCアースから持ち込んだ手持ち掃除機!
音に敏感な猫が苦手とする家電の一つだが、なんと三毛猫斎にも効いた。サムライエンパイアには無い物だ。驚いた猫又は轟音と共に印を組んだ手を吸うそれに、尻尾の毛を逆立てながら戸惑っている。
印には両手が必要なようだが、ジャッジメント・クルセイドは指先だけで十分だ。
「ヒトでなくとも、親が為に子を殺める、そんなことは許せません……!」
薄暗い樹海に昼間の太陽を落としたようだ。目を焼く天からの光が三毛猫斎を貫いた。
●猫津波戦
獲物の輪を壊し、聖杯を破壊し、小竜の杭を抜いて保護。すっかり儀式の体を成さなくなったその場所で、残す脅威は三毛猫斎だけとなった。
『ニャッ……ミーをただの忍術使いだと思うニャよ? きゃっ遁の真の恐ろしさ、その身で味わうがいいニャ!!』
「るーさんは竜を守ってね!」
飛び出したるは破戒僧チモシー。パステルカラーの可愛い数珠を握り三毛猫斎へ向かうも……その足元へすりつけられる柔らかな毛並みの感触に視線を落とす。
まだ小さくも茶トラにサバトラ、グレーにトビ柄に薄模様。愛嬌たっぷりの模様をその身にうつす子猫達。うるんだ大きな目だって色とりどりだ。遊んでとねだる子にそっぽを向いてつれない子。まさに"カワイイ"の洪水である。
思わずその中に身を埋めたくなってしまう衝動に駆られるが、耳元でひと鳴きする声がそれを止めた。心配して一匹くっついてきたチモシーの灰色猫るーさんである。頬を寄せてもふるとるーさん成分補給、気合を入れ直す。
「うちのるーさんの方がかわいいし! よその子の誘惑になんか負けないよ!」
子猫を蹴り飛ばしてしまわないようにその動きを見切りながら三毛猫斎へ迫ると、るーさん愛たっぷりの怪力拳を打ち込んだ。可愛いとかわいいが合わされば、その威力は最強なのだ!
『ニャンとこれだけの数を揃えているのに!? もっとよく見るニャ! 一匹ぐらい好みの子猫がいるはずだニャ!』
脳みそを盛大に揺らされながら、それでも術に自信があるのか子猫の波を止めない三毛猫斎。シンはそんな子猫達をぐるりと見渡した後、手持ちの猫缶を次々に開封するとばらまき置いて行った。
「さぁ、遠慮なく食べなさい! 猫まっしぐらな逸品ですよ」
子猫といえど、美味いものは分かる! 次々に誘惑を止めて猫缶に群がってゆく子猫に、逆に飲まれる三毛猫斎。
『ニャンだとぉ!? キミには可愛いという感性がニャイのか!!?』
「ありますよ。――ビット展開、目標を切り裂く!」
短い応えの後に展開するはユーベルコード紺青の剣劇(ダンス・オブ・ブルーサファイア)。猫缶によって開かれた猫の波間の一本道。蒼く透き通る刃のソードビット、蒼い宝玉がはめ込まれたライフルビット、合わせて50機がただ一人立つ猫又を捉える。
「私、猫より狐のが好きなので」
青い光が一斉に三毛猫斎を焼いた。
「普段なら猫とか好きだけどな。今回は他に優先する事があるんで?」
語がちらりと見やるは手当てを施した小竜。るーさん達が守っているが息も絶え絶えだ。それもそのはず、三毛猫斎が最後に打とうとした杭の他に、何本もの杭がその身を貫いていたのだから。……この猫又、儀式が整うまでの間、小竜を不要にいたぶってたのだ。
残る子猫も全て無力化した。若干酔っ払い同士でマタタビの取り合いが発生しているようだが、こちらの戦闘に加わることは無いだろう。
小竜と同じくらいかそれ以上の満身創痍で、最早立ち上がれない三毛猫斎。それでも命乞いには走らない。自分の未来が確定してなお口が減らないのは僅かばかり残る矜持か。
『数ある子の、どうせ一匹ニャ……こんな面倒な仕事、ミーに押し付けて……遊んでないと、やってられないニャ……』
「許されるかね……『この外道畜生』」
ユーベルコード、怪談語り(コワイモノミタサ)。
樹海の影を押し固めたよりも深い闇が語に下りる。真黒いそれは彼の輪郭を覆い、その姿を伝承にある鬼のように変える。睨む目と口だけが、闇の中で輝いているようで一層不気味さを増す。一歩進むごとに残るは足跡の血溜まり。だが歩みは止まらない。
猫又がその最期に見たのは、小竜の亡骸でも太陽神でもなく、形容し難い恐怖だった。
……屍の海に帰ったその光景を誰が伝えたかって?
彼女には、きっとそれが相応しい。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
最終結果:成功
完成日:2019年08月10日
宿敵
『戸沢・三毛猫斎』
を撃破!
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