エンパイアウォー⑯~不忍の首
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「諸君、活動お疲れ様。――風魔小太郎が現れた。」
ひりりとしたグリモアベースは、すっかりサムライエンパイアにて現れた脅威に緊張仕切りである。
その空気に飲まれているのか、そうでいないのか。
ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)の人格がうち一人「マダム」は手にしたタブレットからホログラムを展開する。
彼女専用であるAIは、彼女の欲しい図形と図面を仲間たちに見せてやるのだ。
「君は、風魔小太郎を知っている?私が知っているのは、UDCアースの彼だったけれど。」
――それはそれは、姿かたちも違うもので。
UDCアースのそれは、「そうであった立場の人物」であろうものである。
なにせ、忍者なのだ。
「参考になるような文献は少ないが――『予知』は君たちの味方になるだろう。」
時として。
知識よりも経験のほうがものを言うこともある。
知識があっても知恵がなければ狩られてしまうように、この猟兵たちにだって今までの経験と、世界からの恩恵があるはずなのだ。
――負けるはずが、あるまい。
「信じている。」
珍しく、――悪徳教授の視線が、少し憂いを帯びるのは。仕方がないことだったのかもしれない。
彼女を中心に広い円形となった猟兵たちに告げる。
「戦いは、忍者屋敷で行われる。確実に向こうのほうがその仕組みを理解しているだろう。君たちに飛び道具や罠が用意されている。脅威になるよ、戦闘の邪魔になるからね。」
そういうところを、忍者というのは突いてくるぞと。
トントン、と二度ほど己の頸を指でたたいてやりながら最悪を示した。
「だから、対抗策を考えておくといい。向こうだってそれには自信があるはずだ。攻略してやったなら意表もつけるだろう。飛び出す手裏剣、ひっくり返る扉、上から降ってくる剣山――とか。いかにも、躱すのが大変そうだ。」
だけれど、猟兵たちならばやって見せるはずである。
「むしろ、そういうのが不安だという人ほど仲間と一緒に行ったほうがいいかもしれないね。トラップに詳しい相手には、同じく詳しい仲間がいてもいいかもしれない。」
教授がここまではまあ、愉しんでくれるだろうと言いながら。
「問題は。」
すう、と目を閉じてからゆっくり瞼を開いた。
細長い黒いまつげが震えていて――緊張をあらわす。
「百鬼面だとバカにしていた。私――四つの人格がある、私の二五倍なのだよなぁ、彼。はは。笑えない。」
肩をすくめて、あきれたようにして。
「必ず、先制攻撃を行ってくる。充分に準備をしてくれ。」
死ぬな。死んでくれるな――。と銀色の目が訴えていた。
怪我など少ないほうが良いに決まっているのだ。
まだ、戦争は始まったばかりであるから。
悪徳教授にとってもこのような場所で未来に終わられるのはたまったものではない。
「負けないでくれ、友よ。勝つために戦おう。」
だから彼らが勝つことを、願う。
ともに未来を守るために集まった、この同胞たちに。
託すしかあるまい――あの百面鬼の討伐を!
長く息をすって、それから吐いてから。教授はゆったりと赤黒い蜘蛛の巣を広げていく。
グリモア――禍々しいかたちをしたそれが、猟兵たちを歓迎した。
「勝ってくれ。――猟兵(わが友)よ。」
悪徳教授の、絞るような声とともに猟兵たちは魔屋敷に連れていかれる!
さあ、いざ。
いざいざ、一世一代の勝負時!
呪われし悪しき不忍の魔を、未来のあぎとで食いちぎれ――!
さもえど
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好きな忍術は隠れ身です。
九度目まして、さもえどと申します。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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百鬼面・風魔小太郎は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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今回は厳しめの判定となってしまいますが、皆さまのきらりと冴えわたるプレイングの数々をよくよく噛みしめながら執筆させていただければと存じます。
また、プレイングを流してしまうこともございます。ご容赦くださいませ。
タイトな執筆スケジュールとなります。成功度達成次第でプレイングを締め切ってしまいますので、ご容赦くださいませ。
それでは、ご活躍のほどよろしくお願いいたします!
第1章 ボス戦
『百面鬼『風魔小太郎』』
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POW : 風魔忍法『風魔頭領面』
自身の【身に着けた『面』】を代償に、【召喚した風魔忍者の軍勢】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【忍者刀と手裏剣】で戦う。
SPD : 風魔忍法『六道阿修羅面』
自身の【髑髏の面の瞳】が輝く間、【六本の腕で繰り出す忍具や格闘】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 風魔忍法『死鬼封神面』
【歴代風魔小太郎たち】の霊を召喚する。これは【極めて優れた身体能力を持ち、手裏剣】や【鎖鎌】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ジャック・スペード
◎★△
隕石落としの首謀者か
無闇にヒトを傷つけるその姿勢、気に入らんな
忍者屋敷には絡繰のギミックも有るだろうか
ならばトランプ兵達の出番だな
メカニックで仕掛を解除させよう
先制攻撃は動きを観察し見切りたい
手裏剣はオーラ防御で防ぎ、鎖鎌は怪力とグラップルで受け止めよう
序でに其の得物をへし折ってやる
盾を必要とする仲間がいれば此の身で庇う
無事に防げたら、鬼退治の時間だな
マヒの弾丸を広範囲にばら撒き霊達を足止め
その間を縫いながら目立たぬよう本体へ接近
勇気を胸に捨て身の一撃、呪殺弾を零距離射撃
当機の性能ではお前一人に肉薄するのが精一杯だ
然し後を託せる仲間が居る
せめて其の礎に成ってみせると、負けず嫌いを発揮して
●
敵の素性も、――ひともしれぬ。
この中で己以外の猟兵に、特攻をしかけさせては『スペード』の名も泣くというものだ。
「隕石落としの首謀者か――無闇にヒトを傷つけるその姿勢、気に入らんな。」
機械の音声から抑揚を交えて、唸るようにして忍者屋敷に入り込んだ彼はジャック・スペード(J♠️・f16475)。
ジャックは、まず相手の手札を一枚捲ることだけを考えていた。
己で、とどめを刺そうなどは思っていない。
後続の猟兵のために、何か一つでもヒントを得れればよいではないかと、その機械の体で歩んでいた。
自暴自棄でも、自傷願望でもない。
必要犠牲だ、と踏んでいたのだ。
「――『出番だぞ、お前たち』」
コートを翻して、もう一度高性能なスキャニングをモニター越しに行う彼である。
その影から、わらわらとトランプ兵たちが湧き出てきた。
【Kitty Kitty Kitty!(パレードオブキティー)】だ!
「少しでも解除できるものは解除しておけ。戦いの邪魔になる玩具は片付けねばな。」
子供に言い聞かせるように、優しい声色で告げてやれば。働き者であるトランプ兵たちは喜んで業務にあたる。
天井を見上げてはるか上階から起動するはずだった『大岩転がし』をサーチ結果から見つけたときには、ジャックもため息を吐いたものだった。
「やはり、先立ってよかったか。」
機械に呼吸が必要ではないけれど、これは「にんげんらしい」こころの処理方法だ。
彼でなければ、もしこれが発動していたとしたら。
ソウゾウ
――よろしい演算結果にはならない。
その絡繰りを破壊してやろうと、彼の兵士たちが天井へと昇り始めたのを見送って――。
体 が 、 横 に 吹 っ 飛 ん だ 。
「ぬゥ、―――ッ!?」
めしゃり、と壁にジャックの体がめり込む。
この壁の絡繰り「ひっくり返る扉」はもう破壊済みだ!だから、今はただの緩衝材にしかならない。
真っ黒な機械が己の損傷部位からダメージを計算する。右半身に猛烈な衝撃、ダメージソース20%。
攻撃手段は――。
「はは――一匹だけか。猟兵。」
「ああ、今はな。鬼退治の視察に来てる。」
極彩色の衣装に身を包んだ、脅威の反応をモニター越しに悟らされる。
にんげんの、一撃だったのだ。己の体にいつの間にか巻かれていた鎖を見やる。
このありさまに事前の情報を重ね合わせるジャックである――手裏剣と鎖鎌については力技でやろうと思っていたが、まさかここまで隠密に長けているとは。
「そうか、ならば。」
ぱ、と黄金の扇子を開いた脅威である。
ああ、百面の鬼を顔にした、彼の名は。
その派手な衣装に身を包んでいても、決して正体も悟られず、存在したかどうかもわからぬと――どこかの世界では言われていた。
隠密の化身、もはや――悪鬼!
「疾く、死ね。」
百面鬼【風魔小太郎】が登場と相成った!
次の一撃を休まずに送るだろう!すでに【風魔忍法『死鬼封神面』】は完成しているのだ!
百人。
百人の敵性反応が――ジャックの視界に映る。すべてが、等しく脅威だった。
【風魔小太郎】を代々引き継いできた彼らがある。ならばそれを、この黒の悪英雄は一つでも多く暴かねばならない。
この状況を客観的にジャックが顧みても勝てるとは、思っていない。
「――当機の性能ではお前一人に肉薄するのが精一杯だ」
だけれど、此処で止まってはならないのだ。
「然し後を託せる仲間が居る。お前の手札を一枚――捲らせろ!」
なぜならば、彼こそ――反英雄のジャック・スペードである!
鎖鎌の捕縛を引きちぎり、得物を構えた彼である。後続の猟兵たちの何かになるために、目的を以て飛び出した!
「熱い絡繰りよ。暑い夜にはよく似合う。」
迎え撃つ風魔は一切の動揺がない。開いた扇子を突っ込んでくる黒に向ければ、百人の風魔が飛び出すのだ!
打ち出された手裏剣をオーラで防ぐ!
破損、または破壊はできぬから――せめて起動をそらしてボディのうち、傷つけてもいい端々に傷跡を残させてやった。
手裏剣を放った魔に向けて、麻痺属性の籠った弾丸を送る!
獣よりも劈く吠えを上げて、火薬が閃光すれば――霊どもの多くは動くことすら許されなかった。
人間の的を貫くのは少しばかり、「こころ」を焼かれそうになる。
しかし、まだジャックの猛追は終わらない!
右膝を、鎖鎌が貫いた。
がくんとバランスを崩すが――膝裏から突き刺された鎖を握りしめて、霊を引きずり出す!
「ぉおお、おおおお、お――――ッッッ!!!!!」
ごしゃ、と酷い破砕音とともに、先ほどのジャックと同じように壁にたたきつけてやった。
止めてはならない。
止まらない。
この破損状況、ダメージソースから――この悪鬼の首は討ち取れぬ。
ああ、それでも!彼は止まらない!
そのまま!鎖鎌を利用して風魔の頭領が持つ自己主張の激しい真っ黒な腕に絡みつかせてやる!
「ほう。」
感心、だったのだろうか。骸骨の向こうの赤がいびつに笑んだのを、金色の瞳で見た。
それから、――まるで墨でも引いたかのように。
ジャックは風魔に急接近を果たせた。その手にしかと握った彼の一撃は、捨て身のそれである。
ほかの腕が持つ刀が、ぞぶりと機械の腹を刺す。
「もう動けんだろう。死ね、猟兵。信長様の手を煩わせる前にな」
血は出ない。
だけれど、ジャックの視界がエラーのために真っ赤に染まる。しかし、――!
「覚えておけ、風魔小太郎」
軋むパーツを限界まで動かせた彼の体は、よくよく見れば破損状況がひどい。誰もが、この場にもしほかの猟兵を許していたら。
彼は、ここまで戦いに身を投じなかったに違いない。だけれど、彼は――未来の、仲間たちの!
「――俺は、ジャック・スペード。お前に一泡吹かせた、ダークヒーローだ」
限界のはずであった、火花を放った右腕パーツから。握られていた銃が吠えた。
ア タ ッ ク ・ オ ブ ・ ゼ ロ
零 距 離 射 撃 !
「――ぬ!?」
風魔とジャックを繋ぐ鎖ではなく――ジャックの体を貫いていた刀ごと。それを握っていた風魔の手が砕け散る。
自由になったジャックの体は、もう動けない。そのまま、風魔に食らいついた高さから自由落下を始める。
そら、魅せてやった。と負けず嫌いの彼が満足そうにした。
「ざまあみろ。」
己のシステムが、強制再起動の文字を並べるのをモニターで確認する。
それに笑ってから地面に落ちるまえに――真っ赤な蜘蛛の巣が、彼を未来へ迎え入れたのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
アルミィ・キングフィッシャー
ツラがいくつ並んでようがそれが関係あるのかね
ああ、頭が多いのはちょいと便利そうだが
さあて、トラップハウスか
こういうのこそアタシの出番だね
大体こういうのは「意識の外側になりやすい」ところから来るもんさ
扉近くとか天井とかね、あとは目立つものを置いといてその反対側からとかね
ちゃちな手品だけど余力を削るように仕込んでるはずさ
さあて、アタシは戦闘はからきしだからね
遭遇したら逃げる、屋敷内の罠に誘い込むようにね
知ってるから通じない?
そうだね、だから「アンタの仕込んでいないところに罠を用意しておいた」
事前にレプリカクラフトで毒矢の罠を作っておいた
後はそこに誘い込んで、ついでに自分の作った罠も味わってもらおう
ゼイル・パックルード
◎★△
真打登場か、侍も面白いが忍者というのも面白……見た目あんまり忍んでねぇな、こいつ。なるほど、忍というよりまさしく鬼か
ただでさえ強敵、更に地の利もあっち。ってことは、対面する前にトラップの下調べくらいして地形の利用をできるようにしておく
あまり時間かけられないし、向かう最中に壁を叩きながら【聞き耳】をたて、回転扉や落とし穴の場所を把握しておく
対面時、さすがにあの腕の数の連撃に手数で対抗はできないので、鉄塊剣を盾に武器受けし、罠の方へと退いていく。追い込まれる演出の意味もある
罠の近くになったら思い切り退いて、距離をとりつつ罠にかかる
相手が追撃をかけようとしたところで、壁越しや罠越しに【風斬り】
非在・究子
お、オブリビオンを、隕石に、してた、汚い忍者か。
せ、戦場も、自分有利の、忍者屋敷とは、また、汚い。
……こ、この種の、アクションゲーは、『死に覚え』に、尽きる。
ゆ、UCの力で、『セーブ』して、シニオボエアクションゲーの、はじまり、だ。
『セーブ』、する前に、やられたら、元も子も、無いから、な。『ボム(アイテム)』の、無敵時間を、合わせて、回避、だ。
や、屋敷の、トラップや、相手の、攻撃の、癖を、覚えきったら、や、屋敷のトラップに、【ハッキング】して、活用、させて、貰いつつ、『ゲームウェポン』の手裏剣ショットで、反撃だ。
ぐ、ぐひひっ。そ、そのパターンは、も、もう、見た、ぞ。当たっては、やれない、な。
●
――黒剣の彼がどの色よりも強い黒で、その刀を折った知らせを聞く。
「やるな。負けてられねぇ。」
にやりと炎のように揺らめくあくどい笑みを浮かべながら、屋敷へと突入するのはゼイル・パックルード(火裂・f02162)だ。
真打登場、と聞いてはいた。
しかしまぁ、忍んでいるそれではない。資料で見ても随分と派手な手合いではあった。忍びというにはまさしく鬼であるほうに納得俳句。
「素っ頓狂な見た目をしてやがるが――ただでさえ強敵、しかもこっちはアウェー。油断ならねぇもんだね」
あの脅威と面と向かって立ち会う気はない。
ゼイルは――戦うことには懸命であるが、どうせ生き延びるのならこざかしくやっていきたいたちである。
歩き続ける限り、彼の脚は刻一刻と風魔に近づいていく。
壁に耳を当てたり、たたいたりしながら――先ほどの彼が壊した罠を確認したりしてみているときだった。
「お、オブリビオンを、隕石に、してた、汚い忍者か。せ、戦場も、自分有利の、忍者屋敷とは、また、汚い。」
きたないな、さすがにんじゃ、きたない。
なんて――独り言に納得しながらやってきたのは非在・究子(非実在少女Q・f14901)だ。
やっぱり現実なんて「クソゲー」なのだが、そのジャンルがたくさんあるように。
「こ、これは、アクションゲー、だな」
ゼイルのすぐ後ろまでやってきて、挙動不審になりながらもあたりをじっくり観察する究子である。
ゼイルは――挙動は不審であるのに、その視線の奥がやたらと冷静であることに興味がわいた。
おそらく、彼と同じように。この究子もまた、「ゲーム」を極めしものである。
ならばきっと価値観のすり合わせも必要あるまい。とくにこの――生死の局面では。
「へえ、攻略法は?」
こつんこつんともう一度、拳骨で何度か扉や壁を叩いてみてやりながら。
ゼイルは肩を震わせて少し足先を跳ねさせた彼女に問うてみる。応えるべきか、どうすべきかを前髪で隠したオレンジをぐるぐるとせわしなく動かして。
「こ、こ、こういう、のは――。」
「こういうのこそアタシの出番だね。」
死んで覚える、と言い出しそうだった究子が意気揚々とした己の口を、我に返って塞ぐと同時に現れる打開策である。
アルミィ・キングフィッシャー(「ネフライト」・f02059)。
年齢不詳――もとい、見かけよりも確かな経験を持つ彼女が二人の間に割るように立ち入る。
「トラップハウスは得意さ。いいかい、こういうのは。」
アルミィは、探索者である。
数々の冒険と事件と難題に直面し、その正気を削りながらもなお今こうして未来のために生きる彼女なのだ。
あらかた壊された後の罠を、ゼイルとともに眺めてみる。――いいや、ゼイルに絡繰りの知恵はない。
だから、きっと「見た」のはアルミィだけなのだ。
「「意識の外側になりやすい」ところから来るもんさ。扉近くとか天井とかね、あとは目立つものを置いといてその反対側からとか。」
「なるほどな。ん、待てよ――つまり。」
「え、えと、えっと、?お、おいてかない、でくれ、よっ。わ、わか、わかるように、言ってくれ」
納得して天井を見上げたアルミィとゼイルの足元で、ぴょんぴょんと小さな体とその肉が揺れる。だけれど、精一杯の究子なりの自己主張なのだ。
「置いてってねぇよ。今、思いついたんだ。」
やはり――この男は暗く笑うのだ。
ゼイルの悪い顔を見た究子が、「ぴい」と悲鳴を上げたのをアルミィが苦笑い越しに励ましていた。
大丈夫だよ、と肩を叩いて。
風魔は。
「――ぬう、小癪。」
己の壊された腕を一本、眺めていた。
忍びにとって負傷は重荷でしかない。痛みは判断力を鈍らせ、そして「痕」を残してしまう。
おのれ、猟兵ども。と無数の顔が怒り色に染まって――。
「次は、二匹か?」
ぶちり、と――砕けた腕を一本、引き抜いた。
「サイコだな。ほっといても死にそうだぜ」
ため息を交えつつ、ゼイルは鉄塊剣を握る。
自傷するような手合いは、病んでいるか――だいたい、病んでいる。まともでないのを知っているゼイルであった。
ゼイルともう一人。ともに並んだ究子を見る真紅の光のすべてが過去に侵されひとのそれでないあたり。
「死んでも治らねぇだろうな。」
は、と鼻で嗤ってやるのが救いだとも思えた彼がいた。
「――し、しん、でも。」
そうだ、と思い出したのが究子である。
脅威を前にしていよいよかと身構えていた。震えるのではないかとゼイルは思っていたのだが。
やはり、彼女だって勝負師である。しかも、とびきりのそれなのだ。
「こ、ここ、こ、攻略法、を、お、おしえて、やるぞ」
にやりと――先ほどのゼイルのように悪い笑みを浮かべる究子を、ゼイルが視線に入れたとき。
「あ、ぶね――ッ」
まるまるとした、究子の柔らかな体が――血煙をあげて吹き飛ばされていった。
いいや、正確には 薙 が れ た の だ !
「 こ の 風 魔 の 前 で 、 歓 談 が 過 ぎ た ぞ 」
真っ黒な太い腕で、その横っ腹を殴られて腰の骨もあばら骨も内臓も破裂させられて――吹っ飛ぶ彼女を救う余裕などない!
「クソッ――!!」
ゼイルももちろん、この技のことは知っていたのだ。
【風魔忍法『六道阿修羅面』】髑髏の緋が輝く間。六本――いいや、五本の腕が9回にわたる連続攻撃を繰り返してくるのである。
すなわち――今は。
「四十五回滅多打ちってか!!」
鉄塊剣を盾にして、一撃を受け止めるゼイルだ!
そのまま。――吹っ飛ぶ!壁一直線に受け身を取る暇もない速さで吹き飛ばされて、めり込む彼だ。
「がッ、」
わかっていたが。
やはり、やはり強敵!
がくんと一度意識を一瞬のみ手放して頭を垂れてから、すぐに頭を振る。
耳元で――風圧を感じてほぼ反射的に!左を向くようにして頭をどければ、先ほどまで右ほほの在った場所に深々と風魔の拳が突き刺さっていた。
顔面どころか、頭まで持っていかれるほどの勢いである。
たまらず悪態どころか息も吐かないまま、ゼイルは横に飛ぶようにして風魔の追撃から逃れようとした!
左足をもう一歩前に出して、態勢を低くしてから、滑りこむように屋敷の継ぎ目の良い廊下を滑ってやる!
――どうする、どうする!?
先 ほ ど 仲 間 を 一 人 喪 っ た !
後続に控える「彼女」もあるが、ゼイル一人でこの風魔をこうして連れていくのは難題だろう。
そんなことは分かっているのだ――鉄塊剣で受け止めるのはよそうと判断し、逃げる彼の背に放たれた鉄扇での叱咤は剣先で軌道を逸らす!
はじいて、また逃げる!
「が、はははははははっっ!!逃げてばかりか――猟兵ッッ!!!」
――うるせぇ。
逃げる、というのも作戦である。これは、演出なのだ。
――仲間という手数が一つ減ってしまったから。
ちょっとばかし演出が派手なだけであるというのに、この鬼は嗤う。未来を堕として笑う!
「クソ野郎――!!」
侮辱だ。これは、戦士であるゼイルへの侮辱である!ごう、と身に宿る炎を渦巻かせて体の端々から地獄のそれを纏う彼が、作戦の中止を訴えようとしたとき。
「この種の、アクションゲーは、『死に覚え』に、尽きる。」
ひょこり、と姿を現せたのは。
ゼイルも呆けた。風魔も、攻撃の手を思わず止めた。
そこに居たのは――先ほど、確実に殺したはずの――究子だった!
「『セーブ』して、シニオボエアクションゲーの、はじまり、だ。」
ぺろ、と舌を出して見せる彼女が手に握っていたのは「ボム」。彼女専用のトリックボックスで在り――STGにおいては、周囲の雑魚敵すべての一時的殲滅、ボスへの大ダメージ。
そして、なにより。
「『やられボム』、な、なんちって。ぐふ、ぐひひひひひひっっっ!!」
――ダメージの無効化!
【トライ&エラー(シニオボエ)】。
究子がセーブしておいたのは、この戦況に臨む前の己である。
やられボム、で攻撃を喰らって「覚えた」のと同時にそれを「無効化」してみせた!
これは――日頃ゲームで鍛えた反射神経と、およびその勘が創った代物である。
「おのれ――おのれ、この風魔を化かしたか!」
「化かされてんじゃねぇよ」
激昂、そして感心。
敵ながら天晴れであると鳴くその無数の仮面のひとつに――ゼイルが鉄塊剣を叩き込んだ!
「まだ終わってねぇ。こっち見てろ!」
冷静さを取り戻しながら、己たちのペースを確信した彼である!
究子に目線で合図を送れば、彼女もまた頷いた。
前髪に隠された瞳が――ひびの入った右一番端の仮面を覚えている。
「ぐ、ぐひひっ。そ、そのパターンは、も、もう、見た、ぞ。当たっては、やれない、な!」
相手の癖、相手の攻撃、その威力、そして軌道を覚える。振り下ろされる拳にもボムでたえ、ひらりと交わして飛び越える。
ゼイルが走った方向に合わせて走っていく。その軌道上に設置された様々な罠を解析して――後続に送った。
「た、頼むぞ。アタシは、そっちの動きに合わせる。」
前線二人が予定通り、悪鬼を後ろにしたまま走ってくる。
「おのれちょこざい!貴様ら――風魔が逃しはせぬ!」
「逃しちまったら、もう忍びの大将じゃなくなるよなぁっ!」
ヘイトを稼ぎながら、そして己らの命をかけながら走ってくるゼイルと、究子などは顔を汗でびっしょりにしながらも諦めた様子がない。
――ここでやらねば。
「アタシは戦闘はからきしだからね――ここで魅せるよ。」
待ち構えていたのは。
無 数 の 、 毒 矢 の 罠 で あ る !
「――ぬ!?」
ずらりと広い屋敷の廊下一面に並べられた、それを見た風魔の思考が止まった。
アルミィは。
戦闘には向いていないのだ。
一人でこの作戦に参加しようと思っていた時は、トラップで自滅させるのと。己はこの攻撃から逃げ続けようと思っていた。
傷だらけの服と、すすけたそれと、攻撃を受けながらも戦った彼らの――傷痕は。
アルミィに、その作戦を選択しなくて良かったと語り掛けているようでもあった。
戦闘に秀でた前線の彼と彼女が傷だらけ、文字通り、死に覚えながらやってきたのである。
鎖鎌を投げられてもゼイルは剣で弾き飛ばすし、その流れに乗じて究子は振ってきた鎖を投げつけるなどしてやっていた。
すべて――このアルミィが仕掛けた大きな罠に連れるためである!
「罠は、アンタだけのものじゃないよ。」
コード名を、【レプリカクラフト】――。
「 ア ン タ の 仕 込 ん で い な い と こ ろ に 罠 を 用 意 し て お い た の さ ! ! 」
一斉に――放たれる毒矢である!
「ぬお、おおおおッッッ!!!」
驚嘆、そして攻撃!
たまらず声に出して恐れ戦いてみせた風魔に、慈悲なく矢が降り注ぐ!
強大な髪束を振るように、首を大きく動かそうとしたならば。
手裏剣が――その毛束の先ひとふさを貫いていた。
「ぐ――!?」
ぎし、と首筋が痛む風魔が、己の毛先を見たのに合わせて、気味の悪い笑い声が響く。
どすどすと矢が刺さっていく風魔を嗤ったのではない。
この――クソゲー攻略に笑ったのだ!
「そ、そっちのトラップは全部アタシのものになったよ。手裏剣ショットで、反撃だ。――き、きたないか!?さすが、忍者、き、きたない!」
からからと笑った究子に一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、冷静さを囚われたのである。
ずん、と踏み出した前足が明らかに怒りに満ちていた。毒矢から主をかばおうとした黒の腕などは、無数の矢に貫かれて今や――腐り始めている。
だから。
「『―――遅い』!!!」
この一瞬が、遅すぎた!
ゼイルが風を纏って、その懐に入り込むのに――十分すぎる時間があったのだ!
「ぉ――」
また、猟兵たちに驚かされる。
この猟兵たちは、すべての動きが派手過ぎなかったのだ。
一人一人が隠密に長けた彼を、数の隠密で越えてみせたのである。
それが――【百面鬼:風魔小太郎】と名付けられたかの過去の、この戦況での弱みであった。
百人の集合体であろうと、しょせん過去である。常に一歩一歩前に前にと生き続ける猟兵たちには届かない一歩があった!
ゼイルの体も、毒矢が貫く。
それは、――わかっていたアルミィだ。
だけれどそれは。彼が。
彼だから、やらせてくれといったのだ。
「――い、ッッッけええええェエエエエエエッッッ!!!!」
背中に希望いっぱいの、仲間の咆哮を受けて!
少年兵は今、己の風を纏ったまま――嵐を巻き起こす!!!
【 風 斬 り ( カ ザ キ リ ) 】。
どう、と舞い上がった風は、彼が鉄塊剣ではなく、ナイフを抜き放った――真空である。
そのさま、まさに神風――!
風圧に押されて魔が吹き飛ばされる!その瞬間、巨体を空に浮かせたのならばゼイルの抜いたナイフが。
ひ び 割 れ た 、 仮 面 を 一 枚 割 っ た の だ っ た 。
「煽られすぎだろ、――忍べよ。」
血痰を吐きながら、皮肉に笑ってやったが彼が地面に膝をついたのを。
アルミィと、究子が急いで手を伸ばして二人で担いでやる。吹き飛ばされていった魔はまだ追っては来まい。
女二人に世話になるのは、少しむずがゆい。だけれど、――今日は仕方ないだろう。
ふ、と笑って電池を切らしたようにゼイルが眠るのを、せめて起こしてやらないようにとアルミィがウィンクで合図をすれば。
びくりと体を跳ねさせた究子が、――ちょっと遅れて、今度はすべてを悟ったのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
逢坂・理彦
先制攻撃かぁ…風魔小太郎の館の前から対峙する部屋の前にUC【狐火・乱れ緋牡丹】を発動できれば先制攻撃を受けたとしてもある程度は対処できるかな…痛みは【激痛耐性】で耐えよう返り血がほら綺麗な牡丹を咲かせてくれる。
これやると着物が痛むから怪我しちゃったのばれるんだけど戦争。だからね。
【戦闘知識】【見切り】【武器落とし】なんかで仕掛け罠や敵攻撃に対処。
【早業・なぎ払い】【部位破壊】で大事そうな仮面をどんどん壊していこう。
アドリブ連携歓迎
ジャハル・アルムリフ
ひとつ悩めば手一杯というに
忙しなかろうな、もの思う魂が多いというのは
だが
斃すべき身体は一つだろう
細かなことは不得手と割り切り
怪しい床は飛翔で
時に壁を蹴り疾く方向を変え
飛び来る罠は怪力と自前の防御で
叩き落とし、ただ耐え凌ぐ
そら、どの「顔」が相手だ
所詮己は此れしか持たぬ故
ひた真直ぐに鬼面らを見据え
意識だけは保てるよう見切り、耐え切る
そして血霧の先に百面鬼が見えたなら
深く黒剣を突き立て
首を、或いは腕の一本でも捕らえた状態で【星守】を発動
同時に生命力吸収にて
刻まれた分を喰らい返しながら、動きを封じる
は、これではどちらが鬼とも知れぬな
騒がしいのはどの面か、知らぬが
同志たる猟兵が首ごと狩ってくれよう
鈴木・志乃
第二人格に入れ替わり中
私と志乃の技がどこまで通用するか
……参ります
一か八か!
彼女の体は光そのもの
その体は物質ではない
【オーラ防御】しながら可能な限りの【早業】でUC発動
【第六感】で敵攻撃軌道を【見切る】
【念動力】で武器の軌道を逸らし周囲の器物を壁にする
UCで少しでも物理攻撃を透過出来ると良いんだけどっ……!
思念体になるから物理攻撃は使えない
【早業念動力】で周囲の器物、敵の忍具、あれば砂利も巻き上げ
嵐と化しぶつけよう
【武器落とし】たらそれも回収して嵐に転用
【精神を揺さぶる念を含めた全力魔法】も籠め、意識を【マヒさせながら】【衝撃波】で【なぎ払う】
力技なのは重々承知
それでも……やるしかない!!
コノハ・ライゼ
先んじての罠解除とかは出来ねぇケド、先読み位なら役に立てるかしらネ
張るなら二重、三重でしょと警戒
例えば落とし穴を回避した場所、直後を狙っての手裏剣とか
飛来物なら「柘榴」を範囲攻撃で一閃、斬り落としましょ
対風魔では
忍者刀で近付くヤツへは柘榴の斬撃にマヒ攻撃乗せ応戦、足止めも狙い
手裏剣はその軌道読み見切り、躱しきれぬ分はオーラ防御で弾くネ
傷は激痛耐性足しに凌ぐケド、唱える頭と片腕残れば十分とばかり
むしろ手間が省けたと、受けた傷の血より【黒涌】で影狐生んで
敵勢の影縫い命中率重視で嗾けるヨ
更に攻撃重視の2回攻撃で刻んだ傷口をえぐるよう喰らいつかせよう
まだ終われないからネ
喰らえるだけ、喰らっておいで
◎
●
吹っ飛ばされて、そのあと忍びの代表ともいえる過去は。
「おお、おおおお――。」
己の割れた一つの仮面に一つの手で触れてやりながら、うめくのだ。
使い物にならぬ手、壊れた面。なんと、なんと度し難いことかと怒りで己の体が震えていた。
このような――このようなことが。
「信長様に、進言せねば」
猟兵たちは、侮れぬと!この戦の確実な脅威であることを、伝えねばと咆哮した。
轟く獣性、もしくは鬼の悲鳴に、屋敷全体がわななく。彼によって仕組まれた部隊がきりきりとわなないて――再び、罠をそろえはじめた。
壊された分だけを修復することはかなわずとも。
「滅ぼさねば。」
この脅威だけは、逃がしてはおけぬ――!
「ひとつ悩めば手一杯というに。忙しなかろうな、もの思う魂が多いというのは」
それを、ぴたりと止めさせたのは凛とした彼の声であった。
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)――星守の竜人である、彼である。
此度、彼は己の戦い方をわきまえている。
細かいことは、できないだろうと踏んである。その点に踏まえるならこの手合いは彼と相性が悪い。
攻撃力が高いジャハルと、細やかな攻撃で確実に首を堕とす忍びである。
――どう動こうか、なども考えないジャハルではあった。彼はどこまでも、どこまでも真っすぐな存在である。
「いざ――。」
漆黒の竜が。
己の黒を携えたまま――身体をたわめて、吹き飛ぶように前へ出た!
「この風魔に真正面から!はは――ッッ笑止!!」
やはりどこまでも猟兵たちというのは!
愚かでありながら、前へ前へと進むことしか知らぬのだと風魔も思わず失笑する。
しかし、その笑いひとつでジャハルの動きが変わるはずもない。漆黒のたてがみを舞わせながら、突っ込んでいく彼である。
彼 は 、 そ れ し か 知 ら な い の だ !
「愚かというのは、――時に、命をも奪うぞ。よく覚えておけ!」
【風魔忍法『風魔頭領面』】!!
破砕された一枚の『面』を投げ捨てることによって、発動されたコードである!
召喚されし圧倒的な質量が――この場の空気を変えた。無数の風魔の忍びどもが顕現する!
ジャハルが跳躍の勢いを衰えさせぬというのならば!
「――、増えたな」
胴体を貫かんとした刀を、彼の籠手が受け止める!
ひとつ、ふたつ、みっつ――数を数えるのもこのジャハルにとっては得意でない。
しかし、「無数」にころすべき相手が増えたのは竜であってもわかるのだ。
「やることは、変わらない。」
ただ、この竜は。
この漆黒は!
「 喰 ら う 」
それしか――出来ぬのだ!
ぐしゃりと手で刀を折ってやったのなら、握っていた主の顔を文字通り破砕する!
遠心力のまま、頭を失って倒れる体を見送ってやりつつ再び宙に浮いた彼の瞬間を好機として。
緋が、黒の視界を埋め尽くしたのだった。
「『綺麗な牡丹が咲いたねぇ』って――あいや、血を出しすぎちゃったかな。」
己の真紅で真っ赤に染まる着物を見ながら。
一人の男は「これは後で大目玉だよ」なんてもう一人に笑いかけている。
腕から滴る赤はまだ少量ではあるが――炎の導火線となってジャハルの足元にいた軍勢を少しばかり、焼き払って見せたのだ。
【狐火・乱れ緋牡丹(キツネビ・ミダレヒボタン)】
腕に傷をつけた後で、ぶん、と肩から降ってやる。そしてそれが、たった一滴でも悪しきへ触れたのならば。
彼の望んだ範囲で『牡丹』を咲かせることができる。
――そのコードの主は。
「まぁいいか。――戦争。だからね」
長物。彼の薙刀を手にして、戦闘態勢を取って見せるのは逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)である!
「そーそ、先んじての罠解除とかは出来ねぇケド、オレらなら先読み位なら役に立てるかしらネ」
その隣で、へらりと笑って見せながら。
コノハ・ライゼ(空々・f03130)は多数の軍勢を視界に収めながら、今この場を見た。
先ほど派手に暴れまわった彼らの爪痕は残っている、しかし相手はこの風魔である。
――張るなら二重、三重でしょ。
化かしあいにおいて。
このライゼの右に出るものはそう、居てはならないのだ。
ぎらりと蒼の瞳が周囲を警戒するのは紛れもなく、正解だった。
「着地、気をつけて!そこ――あるヨ。何かある!」
仲間の到来によって状況の整理で頭がいっぱいであったジャハルが、空中に浮いた彼の体を一度降ろそうと重力に従っていた時である。
先ほどの風魔の肉体を反射的に、「盾」にしたのは彼がやはり、竜の世界で生きてきたからだろうかためらいはなかった。
それで、床にそれを置いてみてやれば――ばづん!と床から異音がしていた。
びくり、と跳ねた死骸を蹴って、降りてみて初めて分かったのが――。
「とらばさみ、ってやつだね。床と色を一緒にしてある。」
じわりと広がった真紅が、その脅威を物語る。
ジャハルの足元を穢すそれを見下ろしながら。
「感謝する」
淡々とした口調で在りながらも、ライゼを見る彼である。
「いいや――でも気をつけてネ。こういう手合いは、ズルくてしょうがないやつばっかだヨ」
それは、ライゼも同じことではあるのだが。
対になるつるぎで戦場へ出る彼である。存在すら嘘で塗り固めた彼が――この化かし合いにおいて、油断するはずもない。
そして。
「私と志乃の技がどこまで通用するか……。」
鈴木・志乃(生命と意志の守護者達・f12101)いいや、正しくは――彼女の親友『■■■』。昨夜、と仮名で呼ばれるそれがこの戦況で張り詰めた空気を隠せなかった。
相手は、やはり依然脅威である。
この猟兵たちに囲まれていたとしても、彼の軍勢は勢いを衰えさせてはいないのだ。
毎日を過労で多忙に過ごす志乃に、この場を任せていなくて良かったと思う彼女である。
真っ白な体を髪をたなびかせて――標的を、見据えた。
「 参 り ま す ! 」
――、一か八か!
起動されたコードは【本当の姿(ツインクル)】!
神の創り出したる彼女らの姿――世界の希望である光の粒子で体を再構築する!
肉体の限界を削りながら、それでもなお守るもののためにこの威光はジャハルと同じく勇猛果敢に突っ込んでいったのだ!
ありとあらゆる手段を用いて、この戦場を駆けて――勝つ!
「はああああああああああああ、あああああああああああ!!!!」
乱れて咲いた牡丹どもを超えて、昨夜は!
まず、壁めがけて突撃してから。そこを足場にしてやって――軌道を逸らしてから敵陣へ突っ込む!
振るわれる刀は光の彼女をとらえられない!振るわれたところで体を透かしていくばかりであるのを――。
「なんと、面妖な!」
「あなたに言われたくないですね!」
そのまま!
昨夜が手を差し伸べるようにして向けた先――天井の面がいくつも剥がれ落ちていく。
「落ちろ――!!」
勢いよく、振り下ろした腕とともに!彼女の前方にいた多くの忍たちを屋敷のそれが襲う!!
「おおおおおっっっ!!?」
派手な手品――いいや、これもまた業である。
この程度で死にはしないと昨夜も思ってはいるのだ。
天井を堕としたごときで風魔の忍びたちが潰えるわけがない。しかし、今この場にあるのは、威光一人ではない!
「せぇ、の!」
振り下ろされる薙刀が、動きを阻害されて停止した忍者どもを襲う。――理彦である!
空気を薙いでやりながら、その胴体を切り裂いて。血が噴き出るのを少し安心した金の目で見た。
――血が出るのなら殺せる。
彼の背に、ぞぶりと痛みが走った。
背骨は避けたか――なんて思いながら、背に広がる赤を感じて痛みの出どころを探る。
「ははあ、手裏剣だね?いけないなぁ、ずるいじゃないか。」
けらけらと笑って見せる妖狐の顔の、なんと――ああ、なんとあくどいことか。
真っ赤な口内に血が滲んでいるのは、前面から腹に刺された忍者刀のせいである。
ぎりりと怨念が理彦をにらみ上げながら、突き刺したそれに。
「ふは、ははッ、――いいねぇ」
やはり、嗤う妖狐があったのだ。
「ねえ、いいかい?そろそろやらないと死んじゃう。」
「――いいよ!やっちゃって。」
理彦は――死ぬのだけは、困るのだ。家で理彦を待つ彼がある。
善しの号令を出したのは、ライゼであった。たちまち、背後で盛大に牡丹が咲き誇ったのを視界の端に収めてから――彼もまた、前へ出る!
たちまち彼らの視界を柘榴のすべてが覆った!
刀傷やら手裏剣の傷やらで斬られた体を確認しながら、ライゼはこの炎獄の先を見る。
「ぬるいかい?現世の地獄は、サ」
にやりと笑ってやる。
もし、この戦いにおいて彼がひとりであった場合は。
――唱える頭と片腕さえ残れば十分というほどに、攻め入る予定だったのである。
血まみれになった今の体が、喚いているように、彼が握った武器が少し欠けてしまっているように。
この脅威の苛烈さを物語っていたそれらが、訴えるのだ。
――もし実行していれば、失敗したに違いない。
しかし、今この場にはやはり仲間が多いのだ。
「一人パレード。ご苦労サマ。そろそろ終焉にしては如何?」
嘲笑めいて風魔を見る。
風魔もまた、この炎獄を見て慄いていたのだ。
「おお、おお――なんと!なんたる、ことか。」
彼は、火を扱えない。
忍術というのは魔法ではない、それこそ手品の応用なのだ。
しかし、このライゼや理彦が使うのは――紛れもなく、妖術である。
己の体からどんどん血液とともに「いのち」が消えていくのを感じながら、風魔の様子にまんぞくそうにしたライゼが。
「まだ終われないからネ」
すう、と腕を一本前へ突き出した。
震えている。指先も、腕も、肘からよく見ればがくがくと。
――危なかった。
目を一度閉じてから、再び開いて告げる妖狐の彼である。
「喰らえるだけ、喰らっておいで。」
【黒涌(コクヨウ)】!
ぞわりと湧いた影狐どもである!
主であるライゼの血肉を代償に、湧き出たそれらが腹を空かせて――生命力を奪わんと風魔を拘束した!
「ぬ、ぉお、お――!?」
驚くにはまだ早い!
ライゼの隣を駆け抜けながら、――黒竜の彼がやはり、その牙を隠せないままでいた。
刻まれた肉体から噴き出る血潮にわき目もくれず。
ジャハルは、ただただ走っていた。己の命を削りながら、ひた走る彼であったのだ。
「止めよ、止めよ――!」
「小太郎さまに近づけるでない!」
放たれる手裏剣も、忍者刀ですらも黒竜をひるませはしない。
「独り占めはよくないなぁ。」
叫んだ忍者どもの――視界をぬらりと覆うように。
両腕ぶんで忍者どもの顔を、真っ赤な掌で這ってやればたちまち悪しきを牡丹に変えた。
「活躍どころを作っておかないと、帰ったら余計に大目玉だ」
けらけらと笑いつつも、口の端々から血を噴く理彦がますますしわを深めて笑ってやれば、黒竜も彼に構わず前へと進める。
そこのけ、そこのけ――。
凶 星 が 通 る ! !
「――がんばれ」
そうはさせぬと飛び出そうとした忍びどもの胴を、柘榴と銘打たれた対のそれでたたき伏せながら。
つぶやくような、ライゼのささやきがあったのを彼は聞いただろうか。
「そら、どの「顔」が相手だ――喧しいのは、どの顔だ。」
黒い眼が星を宿して!
一目散にかけた先に見た百面鬼が、先ほどの毒で腐り始めた大きな腕で己の顔をかばう。
構わないといわんばかりの勢いでジャハルは深々と黒のつるぎを突き刺した!
「おおおおのれ!!おのれッッ!!!」
振り回す巨体が、戦慄く!
援護せよと忍びたちが手裏剣を放ったところで、今のジャハルの皮膚には傷一つ残せなかった。
「 『触 れ る な 』 」
ぎらり、と黒の目が狭まったところで。
呪詛にまみれたこの凶星が、いかに――いかにけだものらしい脅威があるのかを思い知らせる!
【星守(ホシモリ)】。
星を、護ることしか。
ジャハルに知恵はない。それしか、知らない。この戦いが結果的に星を守るものであるというのならば。
彼の意志に応じて体はより強度を増す。絶対に動けぬ代わりに、突き刺した黒剣から生命力を吸い上げて己の傷をいやしてまで見せる。
「貴様――この、悪竜よ!よう、やってくれたものだ!」
「安心しろ。貴様の首は俺では狩らぬ。」
――この状態では、もはやどちらが鬼とも知れぬ。
切迫した二人の距離が依然離れない。右腕をこそげ堕とすのが先か、ジャハルの守りを風魔どもが打ち破るのが先か――。
その時であった。
「そら、来たぞ。」
凶星の顔を、濃い影が覆う。
逆光だ。あまりにも強すぎる光が、彼らの後ろに在った。
「ぐ――。」
まばゆい。
赤の光を細くして、突如として現れた威光に違和感を感じた風魔である。
風の流れが、一瞬で変わったのだ。
突如として猛烈な風圧が、風魔とジャハルを襲う!ジャハルは全く微動だにして見せないが、風魔はたまらずのけぞった!
「お――ッ!!?」
巻き上げられるものどもがあるのを、見逃さないのは忍びならではの直感か。
手裏剣、苦無、破損した罠の歯車もすべて――吸い上げるのは!
「力技だとは思っています。でも――」
ごうごう、と風圧が彼女の耳を撫でたって、このつぶやきは誰に聞こえなくてもいい。
今の彼女は、光の粒子であるから。
物質からの直接干渉を受けない昨夜ができる行動は限られていた。
周囲の器物、敵の忍具、戦いで発生した残骸たちを吸い上げてみせるのは彼女の念動力だ。
渦巻く力に、熱を感じるのは。
牡丹の赤を吸い上げて、彼女の作る嵐が燃え盛る。
――いい火種になったかい。と、風に乗って聞こえてきた声に笑って見せた。
「いいネ。夏らしくて、いいんじゃない?ド派手に――いってみヨ」
貧血気味のかすれる視界であっても、ライゼはまだこの儀式を邪魔する忍者たちを仕留めにかかる。
武器も何も持てぬ彼らには肉弾戦で挑むしかないがこのライゼにその心得は在りすぎるのだ!
首を狩って、昨夜の遂行を守る彼である。
そして――その彼の影と、凶星が――風魔を、固定していたのだ。
真っ黒な竜の背が、「やってくれ」と言っていたようで。
「 や る し か な い ッ ッ ッ ! ! 」
大旋風が!
「おおおおおおおおおお―――ッッッ!!!!?」
風魔を、巻き上げる!!
巨体を巻き上げられた風魔だけがそれにさらわれて、ほどなくして姿を消した。
壊れた天井から逃げおおせたようであるが――ジャハルの剣の先には、ずたずたとかまいたちで割かれた強大な腕がある。
「腕、だけ――!」
昨夜が悔しそうに、己の戦果を嘆いて地面に降りたがすかさずそこに、ライゼが微笑みかける。
「いいや。すンごい成果ヨ。後続のみんなに任せよ。命を削るのは惜しくないけど、捨てるのは今じゃない。デショ?」
彼女がこの戦に懸命であったのも、わかるのだ。
だからこそ彼は傷だらけの体で笑って見せる。ジャハルが持ち寄ってきたその肉塊がゆるりと――黒煙に変わっていく。
「勝つよねぇ。勝ってもらわないと、困るよ。」
はぁ、と己の腹部を押さえて嘆く理彦が苦笑いひとつして、じくじくと痛む感覚を思い出すころに。
「勝つ。勝つだろう。」
――予言して見せる、凶星があった。
この竜には、戦うことしかわからぬ。だからこそ、戦いの流れには敏感であった。
この戦いはきっと、未来が勝つと――信じて、疑わない。
四人の一撃を受けた百面の鬼が、天で嘆く方向が響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ステラ・アルゲン
有名な忍びと聞いているがあれがそうなのか
なんであれ敵ならば撃ち倒すのみ
そうだろう、ソル?
【太陽剣】のソルを手に戦場へ
周囲に炎【属性攻撃】と【オーラ防御】の炎の壁を展開し先制攻撃を防御
【武器受け】でも流すがそれでも防げないと思う
だが傷は仮初の体ゆえ【激痛耐性】で痛みを無視
剣を持てさえすればどんな傷でも構わない
防御したらソルの【封印を解く】(瞳が赤色に変化)
【影炎】を用い敵の技を使い、黒炎の霊を呼び出し反撃と行こう
呪いの大剣ゆえ【呪詛】で魔力を大幅に消費し体が蝕まれるが力を引き出すためだ、もっていけ【全力魔法】
……私の精神まで持っていくのはやめてほしいがな
霑国・永一
罠だらけの忍者屋敷でお出迎えとは、エンターテインメントってやつを分かってるじゃあないか。頑張って作ってくれた仕掛けなんだろうし、余すところなく愉しまなきゃ損というものだ
忍者屋敷の仕掛け対策:狂気の分身を発動し、分身たちに先行させたり壁とか調べさせつつ進む。引っ掛かっても分身たちが爆散するだけ。見てて面白い
先制攻撃対策:確かUCで対策は間に合わないはずだしなぁ。近接は厳しいから可能な限り罠の無い位置に飛び退いて、自分へ飛んできた忍具を盗み取ったり屋敷の陰に飛び込んで回避したりしなきゃだ
諸々終わったら狂気の分身を通路埋め尽くすほどに呼び出して銃撃や自爆特攻させまくろう。9倍だろうと此方は無尽蔵さぁ
薬師神・悟郎
罠使いの知識で罠の位置を特定、その都度適切な対応を行う
他の猟兵がいれば協力して進もう
第六感、野生の勘で強敵の存在感を察すれば苦無を複製
人の形に操作し、変装、迷彩、武器改造、防具改造で外套を被せて人の姿に擬態させる
正体がバレる前に早業で操作、殺気を強く込めた存在感で先制攻撃を誘導、おびき寄せ
その隙に目立たない、ダッシュで近づき
破魔、だまし討ち、暗殺で髑髏の面の瞳の部位破壊
「俺が此処にいるという事は…先程のモノはどうなってると思う?」
俺に注意を引き付け再び苦無を操作、武器落とし
同時に見切り、逃げ足で適切な距離を保ち毒使い、マヒ攻撃、生命力吸収
敵の攻撃が回避不可なら激痛耐性、医術で損傷軽減の為かばう
●
「おのれ――おのれェッ。」
ああ、憎らしい。
猟兵どもにもがれた腕の痛みを引きずりながら、百面の鬼が天井を這う。
物音ひとつ立ててみせないのは、彼が「忍び」であるからだ。隠密に長けた彼が四つん這いになって進んでみても、この忍者屋敷は彼の「工房」である。
彼だからこそ、猟兵たちに編み出されていないはずの場所を確保できているはずなのだ。
生き血もあふれぬ己の痛みに苦悶を無数に浮かべながら、闇が這う。
その、少し前で。
「罠だらけの忍者屋敷でお出迎えとは、エンターテインメントってやつを分かってるじゃあないか!」
だからこそ、ならばこそ。徹底的に愉しんでやらねば!と笑うのが霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)である。
ウキウキとしながら黒フードの彼が、所かまわず探しまわそうとするのを。
「……おい、危ないぞ。」
薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)が後ろから声をかける。
困り眉にした顔は、明らかに仲間を心配するそれでもあるし、かの脅威の腕前を警戒してのことだった。
――あの、風魔小太郎だ。
何をしでかすやらわからない。罠の知識がある悟郎だからこそ、慎重にかつ丁寧にここを攻略していくべきだとする。
「有名な忍びと聞いています。警戒に越したことはない。」
凛としたいでたちで、彼らの隣にあるのはステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)である。
冷静な蒼で彼らを見てから、そしてやはりこの屋敷を見た。
あの主を仕舞っているそれが、規格外に広いことを確認して己の剣を握りなおす。
――どれほど強大であれ敵ならば撃ち倒すのみ。そうだろう、ソル?
ソ ル
【太陽剣】。
ステラのあるじと共に戦い続けた剣である。もはやそれは、ステラにとっても「仕事仲間」だ。
大事そうに感触を確かめて「仲間」の心地を見てやる。それから、目の前の「仲間」をも見た。
「大丈夫だって――!『さぁ、俺の為に散ってくれ。』」
けらりと笑ってやってから、悟郎の心配を一掃した永一である。
己のズボンにしまっていた手を、外気にさらしてやって上へ振り上げてやれば。
『俺様の扱いひでぇなクソッタレ!!』
「おお」
「む、」
無数に湧き出たのはもう一人の『永一たち』だ!
いささか「彼」に比べてはぎらりとした目つきで仲間たちを見る。
『どうにか言ってくれやァ!コイツ、いつも俺様にこういうコトばっか――』
「はいはい、仕事仕事。先行をお願いね。」
舌打ちが無数に聞こえる同一人物の様々な凶暴というのも、また中々に他二人にはないことである。
多重人格者。
永一は――彼の狂気性に潜ませたもう一人の「わかりやすい」狂気を抱えてある。
【盗み散る狂気の分身(スチールオルタナティブ)】。
永一の代わりに呼び出された永一らは、主人格の命令どうりに動き回る傀儡と化す。
悲鳴と共に爆発が響いたり、それから血まみれでどこかで倒れても爆発する仕組みであるのを、二人もまざまざと見せられることになるのだが。
「いいのか、あれ。」
手の込んだ自傷行為めいている。
思わず、悟郎が周囲の惨劇を指摘してやっても特に気にする様子のない永一である。
「いいのいいの。見てて面白い。」
ぎゃあとか、わあとか。
響き渡る断末魔がいっそ哀れである。ステラが眉をひそめて、少し肩を落とした。
「それで――何か、盗めそう?」
永一に、まるでこころでも読まれたような気がして。
深くかぶったフードの向こうで、悟郎の金が見開いた。
「あ、ああ。一応は。」
「ほう!それは、どういう。」
戦いに少しでも有利な状況であるならば、護るために剣を振るうステラも知っておきたい。
わらわらと集いだした仲間たちに、まあ、とか、うん、とか歯切れ悪くも説明する悟郎には――この絡繰り屋敷の罠の位置を多く理解できていた。
爆発した永一たちの位置、その際に使われた罠の数。おおよそ仕組みになっただろう絡繰りとゼンマイひとつですら、――忍びである悟郎にはわかりやすい。
所詮、この百面鬼は過去なのだ。
――未来に生きる忍びである、悟郎の先へは至れまい。
「作戦通りに、動いてみてほしい。」
今度は、失敗しないから。悟郎が少し、フードをずらして彼らの顔を見てやれば。
意地悪に笑って見せる金も、素直な蒼も呼応して頷くばかりなのだった。
「どう、――なっている」
さきほど緑の勝負師である彼女と、蒼の彼女に砕かれた罠たちは一度捨てて。
この忍者屋敷の罠は「第二段階」のものへと切り替わったのである。
風魔が驚いていたのは、その罠たちが起動しないことについてだ。
――彼を天井に追いやった猟兵たちに、実はさほど罠を使用していない。
漸く忍ばざるを得ない状況になって、この風魔が身を潜めて猟兵たちの数を減らしてやろうと罠に手をかけていたのだ。
鋼糸を繰り、ボタンを押して、それから木製のレバーを引き倒したって屋敷はうんともすんとも主に応えてはやらない。
「壊した。」
体を丸めながら、己の絡繰りを触るその背に声をかけたのは悟郎だった。
同じくその場に、ステラと永一も臨戦態勢で身構える。
声が――震えていないだろうか。
一度、己の喉仏を右手で緩くおさえてやりながら、絞り出すような声で悟郎は言う。
「全部、壊してある。」
先発の猟兵たちが活躍するそのときで。
罠への理解が深い――そして、忍者の思想に通ずる悟郎だからこそできた対策である。
「 詰 み 、 だ 。 」
ぎらり――彼らに、その一言で風魔が振り向いた。
「ならぬ。」
ずうん、と重たいからだが天井を這う。
「そのようなことは、あってはならぬ。」
抗う。この過去は、この状況でもなお未来を嫌い、未来をねたみ――。
ケ イ カ ク
「ならば貴様らで我 が 罠 の完成としよう!!」
襲い掛かる!
まず、最初の一手は三人のうち二人が扱う技に呼応してのものだった。
【風魔忍法『六道阿修羅面』】!!
ぎらりと紅の眼光が無数に光ったものの、最初の時よりは数が減らされている。
ならばまだ、この空間であっても勝機があるかと――永一が判断した。
「油断するな!!」
「――わかってる。」
悟郎の切羽詰まった号令と共に、永一は悟郎から盗んだ一部を手にしている。
いつのまに手中に――とは思ったものの、とがめている暇もない。
永一が握っていたのは、【召喚【弐】(ショウカン・ニ)】で複製された悟郎の苦無だ!
永一の余裕は油断からのものではなかったのだが。その彼にまばたきひとつさせる暇もない早さでこぶしを放った風魔である!
「早っ」
思わず、口から感想をこぼしてから。
苦無を拳に突き刺しやったとしても、近接に弱い永一がその拳を避け切るのは難しい!
「――っと」
受け身。基、体を然りと「攻撃を受ける」緊張状態で保ったまま大きな拳を一度、受け入れた!
拳でなければ死に物狂いで避けただろうが。この一撃においては致命傷にはならない!
「ォ――アッ」
やはり高い威力ではあったのだが。
骨の三本は持って行かれたやもしれないが、内臓の破裂はまだないのを鉄臭くなった口内の味を確かめて永一が一度、吹っ飛ぶ!
地面に転がるだけで済んだ彼が、げふげふと噎せながら笑っていたところに影を落としたのは。
百 面 鬼 で あ る 。
「こっちだ!」
かばうように大声を張り上げた悟郎があった。
百面鬼がかばい出たそれを悟郎と認識して――刀を振りおろす!
薄皮一枚ぎりぎりで!
「あっぶないなぁ」
右ほほから薄く赤を滴らせるに済んだ永一である。その彼の前には「悟郎」であるはずのものがきれいに両断されていた。
「おのれ、変わり身か。」
「そうだよ――基本中の、基本だ。」
百面鬼が砕いたのは――悟郎があらかじめ脅威の罠を解除しながら作り上げた「変わり身」の人形である。
では、今。
百――いくつかは砕かれてもう機能していないが――の面に肉薄する悟郎は本物に違いなかった!
たちまち駆け出した彼が、後続の星にすべてを託して作戦の成功と己の過去の失敗を天秤にかけた走りであったのだ。
「俺が此処にいるという事は――先程のモノはどうなってると思う?」
嗚 呼 、 見 事 な だ ま し 討 ち !
「おおおおおおお゛ぉおおおッッッ!!!?」
もんどりうった小太郎の真ん中。その面の両瞳が打ち砕かれていた!
それと同時に無数の暗器がこの風魔を四方八方から貫くのである!
手にした苦無に塗られた麻痺毒が確実に彼を削るはずである。深追いするまいと悟郎が床に転がって、永一のそばへとやってきた。
「立てるか。」
「もちろん。ああそうだ――ちょっと、時間稼いでおいてほしいな。」
へらりと笑う彼の唇から零れる赤に、――ぞくり、と己の背筋が疼いた悟郎である。
いけない。ああ、戦場はこれだから。
――理性的な彼がそれに頷いて。後続の星に視線で合図を送れば。
星
彼女は、それを叶えねばならない。
炎を纏う彼女の光を、つぶれた目以外の目で魔は見たのだ。
太陽からの恩恵を授かった、隕石の――災厄の、彼女の雄姿を見てしまった。
「おのれ――ここで潰えよ!!」
風魔が吠える。もはや、感情すら忍べないらしいそれがいっそ哀れでもあった。
「――いざ。」
剣を構えて。
吠えとともに発動した歴代風魔の悪霊どもに宣言するステラは。
「 推 し て 参 る ! 」
正 義 な ど の た め に 剣 を 振 る う 、 美 し き つ る ぎ で あ る !
歴代の風魔がやはり飛び道具を中心で攻撃を仕掛けてくる。
ステラの足元をつかんで引き倒そうとする鎖鎌には、太陽の剣で逆に燃やしてやった。
導火線のようにしてたちまち渡った炎が彼を燃やす!
飛んでくる手裏剣には炎で対抗するものの、やはり次なる忍者刀には彼女もたまらず腕で受けた!
「――刀、とは不思議なものだ。」
当てれば砕ける剣と違って。
刀というのは「ひかねば」切れない代物である。さぞかし、素早く動く忍びには適した武器であるのだろうと腕をきらせてやりながら見据えるステラだ。
真っ赤な血が舞う。しかし、ステラは――剣なのだ。
ヤドリガミたる彼女がこの程度をダメージにいれない。彼女は、本体である星の剣が無事であれば全くもって痛みにもなりえない。
剣を持てさえすればいいのだ、切り落とされたりしなければよい。
骨まで見える深さで刀で傷つけられても、真っ赤にその装束が染まったところで。
「なんだ、どうした。この程度か――!!」
黒炎が勢いを増すばかりなのだ!
【影炎(カゲロウ)】。
ありとあらゆる風魔の攻撃は、彼女の服を真っ赤にさせるほどの手数で防いでみせたのである!
発動されたコードが彼女を守るようにもう一つの太陽剣を呼び出した!
二刀流。
鬼気迫る顔で見開いたステラの瞳を、太陽のごとく赤が燃やす!
「 反 撃 と 行 く ぞ 、 風 魔 よ ! !」
二本の剣が――放つプレッシャーは。
風魔の仮面をこわばらせるに至った。
主に使っていた仮面の視界は奪われども、彼のほかの面が神々しいまでの脅威に震える。
「猟兵、――猟兵ィイイイイアアアア!!!!!!!!!」
麻痺毒によって暴れもんどりうてぬ本体のように。
勢いを増してステラに襲い掛かる霊たちもまた動きが多少遅い。
呪詛で――体力を犠牲にしながら。呪われし黒炎と共に、ステラは力を振るう!
「もっていけ――わが力!!!」
どう!と黒炎が振り下ろされて。
すべての悪霊をいったん――黒煙に変えた。
「おお、おお!なんと!なんと――おのれッッッ!!!!」
それでもなお、この風魔は!
全力を放ってすべてを打ち消したステラが、疲れた顔で微笑んでいるのを見たとたんにとびかかる。
死ねよ、逝ねよと――喚き散らしながらの一撃は、大きな死神の鎌のようだった。
痛みの覚悟はあったが、ステラがいささか体をこわばらせたときに。
「よくやってくれた!」
悟郎が!
ステラの胴に余った鎖鎌を巻き付けていたのだ!
「あの時に盗んどいてよかった。こういう時に役に立つよね、うんうん、計画性って大事」
狂気にとりつかれし盗人は。
いつだって――盗むチャンスをうかがっていた。
あの巨体の武器を取り上げるのは、人間の体しかもたない静かなる永一では難しいだろうと思ってはいたのだ。
だから、呼び出された無数の風魔の一人から「拝借しておいた」。
盗まれたことにも気づいていなかっただろう、目の前まで連れ戻された星の彼女が派手に暴れていてくれたおかげである。
「ようし、じゃあ――スリーカウントで逃げるよ。」
深追いは、禁物である。
確実に戦意を削げたことを確認して、三人が頷いた。
第二段階の罠もすべて壊し、二つの目を奪って――それから。
「おのれ、おのれおのれおのれおのれ――――ッッッ!!!」
赤っ恥をかかせてやったのだ。
「3,2,1――『さぁ、俺たちの為に散ってくれ。』」
永一が貧血で震えた指先と共に、ぱちんと指を鋭く鳴らしてやれば。
無数に生まれた粗暴な永一たちが、仕方あるまいと無尽蔵に小太郎に襲い掛かる!
そして、次々と爆発、爆発、さらに爆発――!
巻きあがった爆炎と風に乗って、三人の体はいともたやすく吹き飛ばされる!
「猟兵どもぉおおおおおッッッ!!!」
ああ!憎たらしい!
未来に向かって遠吠えた負け犬の彼に、永一が笑ってやって。
ステラがぐったりとしながらもあきれたように仲間と共に笑って。
悟郎が作戦の成功に安堵して――三人で、天井の小窓から突き破って脱出をしたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
御鏡・十兵衛
諸々OK
百の人格、六の腕に九倍の速さとは、無茶苦茶でござるなー
しかし、それでこそ。身を焦がす程の死線の中でなくば、剣は磨かれず。果てになど至れよう筈もない。
ま、某は人の身。単身で勝とうなどとあまあまな事は申さぬ。
狙うは一傷よ。
先んじて来る六腕に合わせ、水手裏剣を放つ
全てを迎撃できずとも、六腕の来る方向を【見切り】攻撃で誘導できれば回避の目は出来る
後退はしない。六腕を防ぐ上で、予測出来ない感知式の罠は最大の敵故に
向かうは前方。敵の踏みしめた場所と重ねる様に
宙は忍の領域、左右共に面と六腕が待ち受けるが、あの図体ならば股下は死角となる。
滑り抜け振り向き様に、ゆーべるこーどではない。ただの、一閃にて。
●
「いやはや、無茶苦茶にござるな――。」
天井から轟音が響いたと思いきや、どう、と目の前に落ちてきたのは風魔小太郎がそれなのである。
ぎらぎらとした戦意は最初よりも苛烈を増しているが、手負いである。
それを凌駕しようと――この御鏡・十兵衛(流れ者・f18659)もへらりと笑ってやりながらこの場にやってきたのだ。
幸い、危惧していた罠はすべて止められているようである。
三段階目とやらがあるのであれば、それが起こるまえに飛び出してしまおうとやってきた彼女は。
「生きておるか?風魔の」
ふ、と鼻でその有様を嗤ってやったのだ。
「おお、おおおお、おお。猟兵、か」
「応、猟兵よ。貴様の首と死線を超えるそれがしは、そうだ」
――ぎしりと肉塊めいたその体がきしんだのを見て、喜悦の笑みを浮かべた十兵衛であった!
「どうした?殺したくはないか。そのように、座っておってよいのか?」
煽る。煽る。
これは、目的あって――十兵衛が煽っているのだ。
彼女は天才ともいわれる剣豪である。羅刹の身で刀の道を究める武の女だ。
身を焦がすほどの死線で初めて生きている意味を味わい、己の剣を磨く彼女である。
至るのは果て。未来に在るのはそれ。
隻眼をゆがめてけらけらりと笑ってやるこの脅威だって――彼女にとっては、足場に過ぎない存在でいてもらわねばならぬ。
「それがし、死体を蹴る趣味はないでござるよ」
その一言で!
赤の瞳がぎらりときらめいて、失った瞳を持った正面の顔を己の手で破砕した。
「ぬ。」
飛びのいたのはほぼ反射である。
十兵衛がぎろりと闘志を宿し、それから刀に手を添えた。
――来る。
多数の風魔どもの腕が、やってくる!
「――、滅 ぼ せ ェ い ! ! 」
もはや、腕の力のみで振るわれた怒りの連撃だった!
「良い、善い――すべて、相手になるでござるよ。」
もとより十兵衛は。
この単身で挑んだ時点で、勝とうなどと思っていなかったのだ。目的が、別にある。
【彗連(スイレン)】。
水鬼である彼女が使える「水鏡の剣術」ならではの御業である!
わずか齢二〇にして、十兵衛はこれを得意にしている。
放たれた無数の水手裏剣が、残った腕に乗った武器をすべて撃ち落とさんとする!
一撃、命中。
二撃、不発。
――やはり。
そう、うまくはいかないであろうと踏んでいた彼女の頭は、どこまでも冷静なのだ。
へらりと笑う顔も、こうして戦場での彼女の顔と見比べれみれば「仮面」であることはよくわかるだろう。
体を撓めて、それから駆け出すようにして地面接地すれすれで大きな体のまたぐらを滑っていく!
「――ぬぅ!!」
「大きいというのも、不便なものよなぁ!」
かはは、と派手に笑ってやりつつも小細工はない。
十兵衛に、後退の二文字はないのだ。そのまま剣で、振り下ろされる鎖鎌を受け止める!
ぎゃりりりと命を削り合う音に心地の良い顔をしてから、にいいと凶暴な牙を見せて十兵衛がまた、弾いてみせた!
「どうした、どうした。」
そして、相手がまた無数の手で攻撃を仕掛けてくるのならば。
まったく逆の踏み込みですべてを鏡のように返してやる。
逸らしきれずに彼女の体を、たとえ刀が貫いたとしても。
内臓がまろび出てしまいそうなことすら、差し置いて以前金の瞳がぎらぎらと輝いているのを風魔も見たのだ。
――ああ、この猟兵は。
「 修 羅 め !」
ほかの、猟兵と目的が違うのである!
「もっと、死合おうではないか――!」
さらなる高みに至るため。
彼女こそが最強であるために!
斬る、斬り合う、斬って斬られてまた斬る!
血潮が飛び散っても、己の内臓に傷さえなければ構わない。
踏み込んだ脚の交互はきっとどの舞よりも美しいそれであったのである!
ならばならばとお互いに手を出し合ううちに、十兵衛がやはり、と笑ったのだった。
「風魔よ、――やはり。どこまでも、忍びでござるなぁ」
間抜けた、声だった。
ずっと十兵衛が地に足つけて戦っていたのは理由がある。
宙というのは、忍びの領域である。刀を振るう十兵衛の居場所でない。だから――ずっと、四角である足元をとっておいたのだ。
舞の一歩が、安定していたそれが崩れる。
「く、ぉ」
風魔がバランスを崩して、やや前のめりになったところを。
髪の毛先一、二本を斬らせてやりながら鎖鎌を躱してまたぐらを滑ってやった十兵衛である。
「気づいておらなんだか。」
そのまま。
抜けたからだを素早く起こして――忍びが振り向く前に!
一閃だった。
ただの、――一閃を放っていた十兵衛だったのだ。
その一閃が、四本あったうちの右、一番手前の腕を切り落とした。
「おおお、おおおおッッッ!!なんと、なんと――!!」
やはり血は溢れぬのだな、とその点だけ羨んでやって。
十兵衛が――ゆったりと意識を落として地面に転がる前に。
赤い蜘蛛糸が彼女を未来へと導いていったのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
パウル・ブラフマン
◎★△
▼探索
【パフォーマンス】好きの血が騒いじゃうなぁ♪
トリッキーな動きなら任せて!
【野生の勘】と触手を使いながら
パルクールの要領で突破していくね。
▼先制攻撃対策
9回先制攻撃!?なにそれ超ヤベー!
愛機Glanzに【騎乗】したら
日頃鍛えた【運転】テクを駆使して避けまくるよ♪
※他猟兵さんの同乗歓迎!
▼反撃
行くよGlanz、UC発動!
屋内を逆手にとって
壁面走行や【ダッシュ】で翻弄したいな。
敵軍が多ければ【スライディング】からの【なぎ払い】で対抗。
風魔小太郎を射程に納めたら
Krakeを展開し一斉発射!
動く標的相手に顔が一杯あるのも大変だね☆
オレは隻眼だけど
味方を殴るテメェよりは周りが見えてると想うぜ。
ヌル・リリファ
◎★△
わたし、めはいいから【視力】
わなの場所とかはみえるし、場所がわかっていればシールドとかで対処できる。
最高傑作だからね
先制攻撃には、シールドを展開。
【見切り】【盾受け】や、サイキックエナジーの【衝撃波】でふきとばして対処しつつ、UCを起動
だれかがいれば【かばう】けど、わたしだけならまきこまれてもかまわない。
大量の魔力をくわせて、軍勢ごと風魔小太郎をふきとばすつもりで爆破させる
そうなれば混乱するだろうし。
そのすきに風魔小太郎へ肉薄、ルーンソードで【捨て身の一撃】をしかけるよ
ここで殺すつもりでいくけど
もしできなくても、その爆発でのこったわなをこわせるだろうからつづくひとのちからになれるとおもう
緋翠・華乃音
優れた聴覚・視覚・直感及び戦闘経験を生かして屋敷を踏破。
常に警戒を怠らず罠の形跡と発動予兆を見切り、知覚する事に専念。
死してなお忠義を貫くその姿勢……ああ、俺には真似出来ない。
――真似したいとも、思わないが。
必ず先手を取られるというのなら、最初から後の先を狙えば良い。
このUCは最初から敵の先制攻撃を受けるという前提のものだ。
確かにその多腕、更に9倍の攻撃回数というのは恐ろしい。
だが絶対に見切れないという訳でもないだろう。
俺の戦闘能力は"見切る"、"読む"、"分析する"事に特化している。
そして多腕だろうが攻撃方法が無限にある訳でない。
見切った上での一撃を決めさせて貰おう。
◎★
●
壁を蹴って、天井を蹴って、それから床を転がって。
「よいしょっと――楽ちんだね!」
こんな障害、彼にとっては足止めにもならない!
その足取りはヒップホップさながら、かかとを地面につける暇なく前へ前へと躊躇いなく。
軽々とうごめく障害を、その触手を――今回は少女がいるために――最小限で躱していくのがパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)だ。
トリッキーかつ軽快に。本来軟体動物のそれを身に宿す彼は、衝撃にも強い。
「おっと!」
飛んでくる手裏剣は柔らかなそれで包んでやりながら。パウルが体を折りたたんで仕掛けの上を転がって見せたのを。
「パルクール、だったか。」
だいじな記憶は、灰となって毎日消えていくというのに。
彼が仕入れた最新の知識は、消えやしないのだ。
緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は己らの真上でひょいひょいと身軽に動くパウルを見上げて、少しだけ羨んだ。
華乃音が得意とするのは、見切ることと読むこと、それから分析すること、である。
それに伴う知識、もしくは戦闘知識がある彼だからこそできるそれなのだけれど。
ぴしり、と床が蚊の鳴くような声で悲鳴をあげても立ち止まるように。
彼は、耳もよいし、はるか上でアトラクションのごとく愉しんでいるパウルを目で捕捉できるほど目もよい。
それから、――直感にもすぐれている。屋敷を踏破するに、彼は冷静な存在として秀でていた。
「こっちで行こう」
――存外、ぶっきらぼうな声掛けになってしまった。
少し、冷静な紫が銀髪を震わせている。
反応を紫で追いながら、その視線はヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)に向けられていた。
うん、と頷いて見せたヌルは特に気分を害した様子はない。
――傷だらけの蝶が内心のどこかで、安堵する。
「わたし、めはいいから。わなの場所はみえるよ」
「ああ――それは。」
余計な心配をしただろうか、と華乃音が口元に手を当ててやりながら考える。
彼女もまた、洞察力に優れているドールであるように、華乃音もまた同じように洞察力に優れている。
実際、ヌルもまた「視覚的」にも目がいいのだ。それでいて、「感覚的」にも優れている。
いいや、優れているものであり続けねばなるまい。彼女は――最高傑作、なのだから。
己を鼓舞するのか、はたまた暗示か。頭の中で唱えながらヌルはシールドを展開し続けていた。
華乃音とパウルがともにあるとはいえ、彼女が自衛をしない理由にはならない。
ヌルには、ヌルの作戦が成功する必要があるのだ。――この中で随一に、彼女は利己的であった。
「怪我しないでね」
「だーいじょうぶッ!」
そして、「目の良い」ヌルたちの見た方向を対処するのが、パウルである!
ひらりと空から現れて、ヌルたちが懸念する場所を触手で突き破ってみる。
蛸足が――ぬめりとともに罠をからめとっていた。
「とらばさみだったよ!うひゃあ、痛そー」
実質、まあ痛いのだけれど。
触手を平げてそれを絡めとったパウルが、床からずるりと功績を持ち出してみて。
うんうんと頷いたヌルである。華乃音もまた、彼の能力の便利さには素直に感心した。
――これがあれば。
少女に見せるにはグロテスクすぎるだろう、とパウルが急いで己のズボンに触手を仕舞う。
凶悪な顔つきであるのに、愛嬌のあるしぐさだなと――冷静に考えながら、声をかけた。
「なあ、それ。いいかも、しれない。」
自信はあったが、確信はない。なぜならば、実証はないからだ。
今から彼らが挑むのは――先行した猟兵たちによって削がれたとはいえ、依然脅威である彼である。
百面鬼、風魔小太郎。
扱う飛び道具にも、それから呼び出される集団にも。
軟体である、パウルのそれは――。ふと、ヌルのほうを見てみるとヌルもまた、華乃音を見ていた。
「きっと、うまくいくよ。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って?オーケー。オレにも聞かせてくれない!?」
頭の良い存在が二人で、言葉少なに意思疎通をしてしまえるものだから。
パウルもパウルで「あたまがよい」のだけれど、この二人とは少し違うものである。
論理的と、感覚的。ある種、噛み合うような集団が罠を破壊しながら作戦を共有し始めていたのだった。
――そして。
「ぐくうう、ううう―――!!」
腕も、それから面もいくつか取られて。
それでもなお風魔はこの場から逃げようとはしなかった。
実際、彼を倒そうと戦場に猟兵たちは無数に散らばっている。少しでも、――時間稼ぎになってやろうではないか。
そう考えて、彼が喪われた部位の痛みをこらえていたころである。
ぎゃぅうん、と蒼の光が唸って――無数の赤を焼いた。
「ぬ――!?新手か!」
「HEY!スネてんのかいビッグ・ダディ!」
陽気な声でびし、と三本の指を立ててやりながら唸る忍びを指す。
「明るくいこうよ、パーティの始まりなんだ!」
ぎらり、と凶悪な牙を見せながら――ここに開戦をパウルが宣言した。
これは作戦である。
まず、目立つパウルが注目を集める。エンジンのかかった彼の愛機であるGlanzに同乗するのは、ヌルだ!
ヌルが嘶いた鉄の馬に揺らされながら、パウルの服をきゅっと握ればより、パウルがどんどん「守ってやらねば」と力強くなる。
そこを見抜いていたのが――華乃音である。
パウルは、華乃音にとっては凶暴な顔つきではあるが愛嬌の良い存在でありつつも女子供に厚くあれる義勇であると見た。
そして、誰よりもおそらく目立つし機動力もある。
――デコイには、うってつけなのだ。少なくとも、ヌルと華乃音よりは。
実際この作戦を伝えたときにも、一番肉薄する回数が多く負担が大きいことは、前もって伝えてある。
やれるか、どうか。
半ば――華乃音も、言いたくはなかった選択肢である。
それに対し。
「いいよ!任せといて!いやぁ、頼られると頑張っちゃうなぁ!」
なんて――陽気に返して見せる彼ならば。きっと、華乃音の心配を杞憂で終わらせてくれるだろうと踏んでいて。
その背にヌルを――庇護対象でありつつも、冷静である彼女を置いた。
きっと、パウルは激情にも駆られやすいだろうと考える華乃音だったのだ。
同じリスクをヌルにも背負わせてしまうが、ヌルは「完璧主義」のきらいがある。
「こわくないよ。」
――最高傑作だから。
呪いのようだ、とも思わされる。決まったフレーズのそれを聞いて、華乃音もまた利用してしまったような気になるが。
それでも、彼女がやれるというのならやらせてやったほうが、能力を発揮しやすいと見た。
華乃音の――分析結果である。この布陣こそ、絶対成功の確率が高い!
「おのれ。」
ああ、憎らしい。
この己のを前にしても、臆した様子がないのだ。
「おのれ、おのれ。おのれ!」
猟兵どもは!
なおのこと腹ただしい風魔である。ぱ、と勢いよく開いた鉄扇が無数の手下をよびつけた!
――来る。
身構える三人を見据えてから。風魔がためらいなく手下の一人の頭を「握りつぶした」。
「――は?」
そのさまに声をあげたのは、パウルだ。
「やりやがった、こいつ」
その声から陽気さが薄れて、ひり、と焼けるような声色になる。
ヌルが、きゅうとパウルの服を握る。それがなければ、パウルは飛び込んでいたかもしれなかった。
・・・・・・・
「やりやがったな、てめぇ――ッッッ!!」
敵とはいえ。
仲間を、忠義にあふれた存在をいとも簡単に壊して見せる頭領なのだ。
真っ赤な花を咲かせて体を倒した同胞を踏み破いていくそれを見ながら、手下たちは何も言わない。
「なお忠義を貫くその姿勢……ああ、俺には真似出来ない。」
――真似したいとも、思わないが。
華乃音がこれから行われる連撃に備える。放たれるコードのことは分かっていたのだ。
ヌルに対しては、質量で。そして華乃音とパウルには、手数で挑んでくる。
「下らぬ、忠義に生きて、忠義に死に続けるのが――忍びよ」
「じゃあ死んどけッッッ!!」
とびかかりそうになったパウルが、やはりヌルの質量で踏みとどまるのだ。
「いけない。駄目だよ、タイミングをみよう。」
前に、ずうん、とやはり一歩頭領たる小太郎が踏み出せば。
それを合図として、忍びたちが駆ける!
――今!
ヌルが一度軽く、パウルの背を押してやれば――たちまち、彼は蒼の閃光を連れてともに駆け出した!
「行くよ、Glanz!!」
ぎり、と歯を噛みしめさせながら――!
ぎゃうぎゃうと喚いた二輪を加速させ、日ごろの運転テクニックにてその軌道を錯綜させる!
鉄の馬でありながら、最新のテクノロジーのこれを。このローテク・ハイファンタジーの忍びどもに追いつかせない!
【ゴッドスピードライド】!!
高速とその脅威を手に入れたパウルと、それに乗せられるヌルである!
二輪が、壁を駆ける。そして、跳躍!落下地点にあった忍びたちが彼らを避けるのならば、逃がしはしないとヌルのエネルギーが沸き立つ。
「逃がさないよ」
吹き飛ばされる忍軍どもがあった!
サイキックエナジーによる衝撃波を放出するヌルは、振り落とされまいとパウルの服を強く握る。
遠心力と共に――籠められる力が、パウルを冷静に引き戻していた!
「行くよ、行くよ!どんどん行くよぉ!」
ぎゃるると冷静ながらのドライブテクニックが冴えわたる!ノる、だけじゃない。
ヌルの機動力という点をすべてパウルが補って見せた!
――そして!
「俺、狙いか。」
風魔が二人の様子に安心した華乃音の前に瞬時、姿を現せた!
ト
「貴様は、殺りやすそうでな――」
「へえ。」
間違いない、だろうなと思う。
自嘲めいた微笑みをわずかに浮かべてから、華乃音は己の観察眼で瞬時に判断することにした。
即席の対応であるが――致し方あるまい。
彼が狙っているのは、先制攻撃の九倍であるそれではない。
放たれる一撃があれば、十分なのだ。ダガーナイフを両手でくるんと回してから、構えて見やる。
たった一撃、それさえしのげればいい。
今更――この壊れ切った身体に余計な傷が増えては困るのだ。
衝撃波と共に振り下ろされた一撃を、ナイフをあてがいながら肉薄し、ぎりぎりのところで転身させてやって――見切る!
「『――こ れ が 俺 の 武 器 だ 。 』」
そ の 観 察 眼 こ そ 、 彼 の 武 器 だ !
【lazuli eyes.(ラズリアイズ)】。
ぎらついた紫の目は、まだ追撃に放たれたそれらすら凌駕するほどの勢いで未来を視る!
飛んで、跳ねて、それからすさまじい角度に体を曲げてでも避ける、避ける、避けて――!
「猟兵、猪口才ことを――!」
「当たり前だ。」
生き汚いのは、彼もすでに知っているのである。
風魔に舌があったなら、間違いなく舌打ちをしていただろうなという憎悪を感じて笑ってやる華乃音なのだ。
傷だらけの蝶が、ひらりひらりと猛追を躱し続ける。徘徊する蜘蛛のようなそれが、いらだって余計に動きが読みやすい。
さあ、今か。今か――と蝶が握ったダガーナイフを意識しながらいた時だった。
爆炎。
風魔と――それから皆を揺るがせるほどのそれだった。
「な――」
何が起こった、と風魔が攻撃の手を止めるよりも、早く。
彼の軍勢がすべて黒の塵芥となっていったではないか!
消滅する、炎に焼かれて、すべてが――彼のすべてが消されていった!
爆炎の主は、ヌルだ。
正しく言えば――【虚水鏡(ウツロミカガミ)】を、パウルの鉄馬に乗りながら放ったのである。
ヌルの姿をした人形を、パウルは気の毒そうに見たがヌルは気にしなかった。
「混乱するだろうし。」
だから、だいじょうぶだよ。なんて――彼女が笑ったものだったから。
義に厚いパウルが、作戦の遂行に付き合った結果の功績である!
大量の魔力を食わせていた分だけ、発火と攻撃力は優れすぎているほどであったが、ヌルにとっては満足のいくそれであった。
マスター
――製作者の最高傑作たる、彼女が成した、功績である!
狙い通り慄いた風魔の感触があった。炎にまみれながら蒼の閃光が宙を浮く。
見下ろす。見下ろす三つの目があったのだ――。
「動く標的相手に顔が一杯あるのも大変だね!――オレは隻眼だけどさ」
ゆらりと。
この場を包んだ爆炎とは違う炎が、彼にも宿っているのである。
パウルが、宙をとった。忍びの世界である宙をとって見せたのだ――。
ぎゃるぎゃると宙で停滞できる二輪がまるで、彼に肯定をするようにも聞こえていた。それは、きっとヌルにも。
確かに、パウルは激情にかられやすいかもしれない。
この場の誰よりも、お人よしにはなるかもしれない。しかし。
「 味 方 を 殴 る テ メ ェ よ り は 周 り が 見 え て る と 想 う ぜ 」
だからこそ、彼に見える――世界がある!
風魔が彼の射程内に入ったのだ!Krakeと銘打たれた固定砲台を付けた無数の触手たちが――現れる!
大きく広がって、その脚に無数の砲を付けたのは彼のアイデアと、彼らの考えの一致が結果だった。
「なんと」
誠に、面妖であった。
海魔の脚をもつ彼が、その八本を大きく広げて主張するさま。
銃殺刑のごとく――すべての砲台が風魔を見た。
そのすきに、ぞぶりと腹にダガーを突き刺してやった華乃音があった。
「よそ見はよくないな」
彼が笑えば、また――その追撃に背中に一閃立ち入らせるヌルがいる!
「ォ、」
「ここで殺すつもりだったけど、――むりはしないよ。」
続く仲間たちの力になれないほうが、ヌルにとっては最悪の結末だ。
余計なダメージの心配なく、そして皆が万事無事で帰るのが――彼女の打ち出した、「完璧」である。
血しぶきを浴びながら展開されたオーラの盾が!
「こっちへ!」
ヌルと、それと手を繋いだ華乃音を守るのを合図とした!
「――Fire!!」
無数の、弾道が。
風魔めがけて――放たれる!
もはや、いっそ神々しいまでの弾幕にヌルも華乃音もやや疲れた顔で微笑んでやったのだ。
仲間たちに充てるような真似は一切してやらないパウルである。しかし、爆炎からは身を守ってもらってちょうどよい。
「おお、おおお、ぐぉおおおおお――――ッッッ!!!!」
爆炎!猛追!さらに――爆炎!
どう、どう、どうと轟いた音を置き去りに。
蒼の閃光が――黒煙をかきわけて、三人を乗せて勝利を連れて未来へと進んだのだった!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
喜羽・紗羅
ハ、人格の数で強さが決まるかい
(そうよね。私も2倍強いとか無いし)
面を代償に軍勢を呼び出し先制攻撃か
それに忍者屋敷ね――罠は奴等の物
その配置を利用してやる
地形を利用し目と耳を凝らして罠の情報を収集する
それの躱し方は……走ったり飛んだり、自分を頼るしかねえな
そしたら何処かの辻に――罠の無い所に偽装バッグを置いて銃身を展開
ここまで、奴に見つからずに出来るものか
後は敵の先手、勇気出してひたすら逃げるしかねえ
その前にブッ壊すお面を写真で取ってな
罠を避けこっちが仕掛けた場所まで誘い込む
雑魚の攻撃は武器で受けて躱しつつ
ボスがこっちの罠の前に来たらスマホの顔認証で
面ごと壊し、その隙に間合いを詰めて一閃だ!
千桜・エリシャ
◎★
強敵と戦えるならばどこへなりと
まずはこの忍者屋敷で遊んでみようかしら?
常夜蝶を先行させて偵察
罠を一つずつ確実に対処しながら参りましょう
不意打ちは見切りで回避
飛び道具は花時雨を開いてオーラ防御
足場がない場所は空中戦で跳躍するか
花時雨で飛行
ごきげんよう、百面鬼さん
忍というには些か目立ちすぎではなくて?
先制攻撃は先程の罠と同じく見切りとオーラ防御で凌いで
今度は私の番
あなた、味方に裏切られた経験はお有り?
傾世桜花で歴代の風魔たちを魅了して私の手駒に
ねぇ、あなた達
あれが当代の風魔でしてよ
試しに実力を見るのは如何?
可愛がり稽古というやつですわね
混戦の隙に百面鬼へ肉薄
呪詛載せた刃で御首をいただきますわね
●
ごつん、と飛び散った木片を蹴り飛ばして。
「ハ、人格の数で強さが決まるかい」
そんな理論通用してたまるか、とため息交じりにあきれたような顔をして見せたのが。
喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)――もとい、今日は鬼婆娑羅を前面に出したふたりである。
(そうよね。私も2倍強いとか無いし)
頭の中で呼応した声に、「彼」が頷いた。
彼女と彼は、『多重人格者』だ。普段は至って普通に超常へ振り回されつつも果敢に挑む紗羅が、いつも通りの日常とちょっぴりの非日常を乗り越えて。
もう片方の鬼婆娑羅はそんな彼女の先祖だとかなんだとか。いわくつき――というよりもう少し身近な存在なのである。
蹴り飛ばした木片の行く先を、じい、と赤の視線が見てやれば。たちまち、それに小気味のいい音を立てて苦無が複数突き刺さっていた。
「どこに何があるやらわかりゃァしねえ」
その仕打ちの過剰すぎること。
二度、罠屋敷を破壊された風魔がいらだっているのは空気からもわかる。
もう――忍べていないのがいっそ哀れにも思えた鬼婆娑羅だ。
「同乗してやる余地はねえけどな。」
頭の中で、ひぃいとかきゃああとか喚く子孫にもあきれ顔だが――今の彼女を守るのは、体の主導権を握る彼である。
さあて、どう確実に攻略してやろうかと目と耳に意識を集中し始めたときである。
「ん――。」
やってくる、脅威でないながらも生きる――鬼に、出会ったのだった。
「まずは――この忍者屋敷で遊んでみようかしら?」
告げる声は、たおやかだ。
甘ったるいながらに演技がかったわけでない、まるで恋する乙女のため息のようなそれで鬼婆娑羅の鼓膜をふるわせたのである。
千桜・エリシャ(春宵・f02565)。
首狩りの、鬼である彼女である。ゆったりと歩く彼女の煌めく豪奢な着物に乗って、蝶たちはまるで演出の紙吹雪のように舞いはじめた。
強敵の首であるならば、その首は欲しい。そして数があるのならばもっと欲しい。
殺戮と、それから因縁への愛憎に狂う彼女が従える『常夜蝶』どもは――鬼婆娑羅の頬を翅で撫でてから。
ふわり、と舞って先行を始めたのだった。
「悪い、助かった。」
「いいえ――お気になさらず。」
罠への対処法がもっぱら勘に近いそれであったのはわずかな懸念材料でもあったのだ。
鬼婆娑羅の体でもあるが、彼だけの体ではない。エリシャは、そのようなことは気にしていないのだが。
ただただ、気まぐれにやってみたことが「大当たり」だっただけですの、と笑っている彼女のことが、どうにもこうにもうまく掴めないが憎めない。
――鬼じゃあなくて、狐じゃあねえのか。
なんて、思いながら。それを悟らぬままのエリシャは、殺意を悟るに長けている。
「ああ、大雨にご注意。」
ぱ、とたまたま隣にいた鬼婆娑羅にも大きな花時雨という名の傘でその恩恵を授けた。
「大雨?」
雨なんて、水の罠でもあるのかい。なんて軽口でこたえようとしつつ、役得に肖った彼が傘に守られたところで。
「うぉわッ――!?」
どう、と地面に着弾しては転がって散らばっていく無数の苦無どもである!
きんきん、と互いをぶつけ合いながら地面をはねて、それから無数の蝶を穿ちながらも局地的に降り注いだそれに思わず乾いた笑みがでた。
「げ、ゲリラ豪雨かよ。」
「――ごりら?」
いまいち、このエリシャとはうまくかみ合わないようで、そうでもない。
たおやかな彼女のペースに巻き込まれながらも、まぁしょうがないかと鬼婆娑羅もともに歩いていくのはきっと――普段、「女の子」である紗羅と生きていた経験からに違いなかった。
「ぬうう、ぬううう……!」
背からも、そして無数の腕を焼かれても。
なお、黒煙を体から放ちながらもこの風魔はまだ倒れておらず。
ひゅう、ひゅうと無数の首から吐息が漏れていても、気にしてやる暇もないようだった。
――計算外の、脅威ばかりがあったのだ。
どいつも、こいつも――と怒りが出るよりも先に猟兵たちの与えた痛みが冷静さを失わせていく。
怒り狂い、はらわたが煮え切ったところが「鬼」にとっては襲いどきであった。
「ごきげんよう、百面鬼さん。」
――忍というには些か目立ちすぎではなくて?
耳障りな、そしてなおかつ――希望にみちて、余裕のある女のなまめかしい声がした方向に!
「死ねェエエエイ!!!!」
余興など必要あらず、と放たれた複数の「風魔小太郎」どもである!
「あら、あら――。」
押しかける風魔どもについては悟っていたが。
脅威を前にして微笑んでいたエリシャが、驚いて少し――目を見開いた。
風魔どもの後ろから、多数の忍者が現れる!
こちらに向かって走ってくる目の色には、紛れもなく狂信が宿っていた。
「――悪いね。ありゃあ、俺らの獲物だ」
「本体」である風魔が一枚面を割っていたのを確認して、鬼婆娑羅が攻撃を見る。
必ず先制攻撃で仕掛けてくるとは聞いていたものの、発動するのがあまりにも早すぎるのを挑戦的に迎え入れる彼であった!
「やるぜ。」
内なる彼女は、それに応じて頷いたのだろうか。
首飾りが風圧と脅威に煽られて、ふわりと浮いたのに運命を感じた彼である。
この勝負、――確実に、勝たねば。
独鈷杵のそれがきらりときらめいて――なりふり構わず走る!
腰に携えた『奇一文字改』に触れてやれば生体認証システムが起動し、その抜刀を許した!
とはいえ。
「 正 々 堂 々 は 行 く か よ ッ ッ ッ ! ! 」
時代は――UDCアースで言えば暦も元号も変わったころである!
今どきな戦い方を学んで実用できる鬼婆娑羅に、この程度のローテクノロジーなど脅威にもならないのだ!
駆けだした文明の利器装置である奇のそれで一閃してやれば、見事に兵が一つ黒煙へと消滅した!
さあ、次!
取り押さえようとしたのか、それとも焦って大降りになったのか。
とびかかるようにして鎖鎌で襲い掛かってくるのなら。あえて刀身に巻いて――。
「せぇ―――のッッッッ!!!」
まるで、ハンマー投げでもしてやるかのように!
ぶんぶんと鎖鎌の持ち主ごと振り回してから、極限まで高めた遠心力で風魔小太郎にたたきつけてやるのである!
「ッぐ!!?」
「よおし、いい顔だ」
部下の体をすさまじい質量と運動エネルギーを乗せられたまま、無数の顔面を血でべったりとさせた鬼婆娑羅である。
しかし、とどめの一手への伏線も忘れはしないのだ。
「ぶち壊す」予定であるその被写体をぱしゃりと、音を立てる四角い箱に閉じ込めたならば。
その視界を、一瞬奪う程度でよかった。たちまち投げ終わった後の無防備な鬼婆娑羅に向けられる無数の刀を次はどうしようかと考えている間に。
「あなた、味方に裏切られた経験はお有り?」
まるで、内側から染みわたるような毒素をはらんで。
ゆっくりと、そしてじんわりと戦場の空気を「彼女のもの」にしてしまう声色である。
――こうでなくっちゃあ、と鬼婆娑羅が同じく「鬼」に微笑んでやった。
「――何?」
すべての、小太郎が。
正しく言うのならば、「直近」の小太郎以外がすべてエリシャに傅いていたのだ。
瞳を薄くひらいて、長い黒のまつげを震わせながらいろっぽい唇の動きでささやくのである。
まるで、それは夜伽にいざなう遊女のように。
「ねぇ、あなた達――あれが当代の風魔でしてよ。」
あそびましょう、と囁く淫らなおんなのように。
「試しに実力を見るのは如何?可愛がり稽古というやつですわね」
【傾世桜花(コノハナ・メロウ)】。
リップノイズを交えながら、己の指先どもに口づけるエリシャである。
――手ごまにしたのだ。
「おお、怖い。怖いねえ風魔。女の色香っつうのには気を付けねぇとな!」
主どもを奪われた手下たちが、一瞬呆けたのを駆け抜けていく鬼婆娑羅である!
「なんと、なんたる!ええい、女などに騙されるな。話を聞いてくれ、己れどもよ――!」
今や、風魔対風魔!
「こりゃあ、地獄だぜ」
「あら、じゃあきっと心地いいわ」
入り乱れる怒号と血しぶきとそれから絶叫が、この悲劇を物語っていた。
同士討ちのむごさの極みたるや、鬼婆娑羅も思わず「おっかねえ」と口から漏らして。
傾国の美女よろしく内乱を起こすに成功したエリシャなどは、あいかわらず二人を包むほどの大きな傘をくるくる、手で弄んでから飛んでくる暗器をはじいていた。
「でも。見てばかりもすぐに空いてしまうの。――よろしいかしら」
そろそろ、この鬼も戦に交じってよいだろうか。
待ちきれないのと火照る身体をはやく動かしてやりたいエリシャの口ぶりは艶っぽいのに、顔は獰猛な獣のそれである。
「応よ。――任せな。」
スマートフォンを握ったままの鬼婆娑羅である。
相変わらず、その画面は先ほどとらえた風魔の顔どものままだ。
つい、と慣れた手つきで指を触れてやれば、――『顔認証』が始まる。
そして!
「――がァァ!!?」
どう、どどう!と花火のような音が響く!
たちまち、呪い道具のスマートフォンで起動された爆炎が小太郎の面を多数爆破した!
何が起きているやら、彼にはとんと見当がつかぬ!
ほかの風魔を薙ぎ終わったあとであっても、続けざまの連撃には――太刀打ちができないまま足元がおぼつかない。
そこを。
「 御 首 を 、 ち ょ う だ い 。 」
こ の エ リ シ ャ が 見 逃 す は ず も な い !
切りかかった彼女と、それから同じタイミングで刀を抜いた鬼婆娑羅である!
【剣刃一閃】。今までの経験と彼のがむしゃらな生き方で手に入れた、真っすぐな剣技が煌めいて――。
「頭。軽くしてやるよ――感謝しな。」
二人の一閃が十字に重なって、無数の首を斬り落としてやったのだった。
爆炎のまだ上がる小太郎の体には目もくれず。転がり落ちた五つばかりの首を獲て彼らの成功は、相成った!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リア・ファル
WIZ
アドリブ共闘歓迎
風魔小太郎、いざ勝負!
忍者屋敷の絡繰りも、できるだけ把握しておこうか
『デュープアイズ』起動、
音紋・動体・X線、サーモ…各センサーで
屋敷の「情報収集」を入念に
先制の『死鬼封神面』には、
「破魔」「呪詛」を付与した『グラビティアンカー』や
『セブンカラーズ』の「呪殺弾」で応戦、
「時間稼ぎ」して引きつける
他の猟兵が居たらアシスト、ソロでも手傷を負わせるつもりで、
UC【空間掌握・電影牢】を使用
「全員まとめて、ボクと踊ってもらおうか!
屋敷の仕掛けは、全てボクの制御下だけどね!」
「罠使い」「破壊工作」「拠点防御」も交えて、仕返し!
昏倒させられたら、イルダーナで「操縦」「逃げ足」で離脱
ティオレンシア・シーディア
◎★△
あのノーリスク無限カミカゼの主犯のお出ましねぇ。
アレ射ち落とすの、そこそこ大変だったのよぉ?
一言でトラップって言っても色々あるわよねぇ。
手傷・バステ付与・移動妨害思考誘導etc。
あとは…仕切り直しのための隠し通路、とかねぇ?
いくらカラクリまみれの忍者屋敷でも、そういうトコにトラップは仕掛けないわよねぇ?
技能フル活用で先回りしておけば、横槍は気にしなくていいかしらぁ?
さすがに9倍の連撃とか、まともに相手したくないわねぇ。
…だから、マトモには相手しないわぁ。
●的殺で攻撃の起こりを潰してくわよぉ。
動きがヒトと同じなら、なんとか相手できる…かしらねぇ?
最悪、味方の〇援護射撃くらいにはなるでしょ。
トルメンタ・アンゲルス
◎★
※『』はベルトの音声
汚いなさすが忍者きたない。
まあいいでしょう。
罠も何もかも纏めてひっくるめて、真っ向から叩き潰すまで!
行くぞ相棒!
変身!アクセルユニゾン!
『MaximumEngine――Mode:HotHatch』
防御力重視の装甲を纏い、始動!
物理法則を無視した超スピードのダッシュで駆け抜けます!
普通の罠なんて、置き去りにしますよ!
先制攻撃されようと、こっちがより速く動けば良いまでの事!
見切り、第六感で感知しダッシュと残像で翻弄し、咄嗟の一撃の早業で、武器に格闘全て動員し捌ききる!
さあ、こちらの番だ!
あんたも時間も、置き去りにする速さを!
――OverClock!
回避も攻撃も、させません!
●
「あのノーリスク無限カミカゼの主犯のお出ましねぇ。」
といっても、すでに猟兵たちにひどく削られたようではあるのだけれど。
隕石をこれ見よがしに無数に降らせてくれたものだから、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)もその点については手を焼かされた。
どうやらこの屋敷のように、人を手を煩わせるのが好きらしい彼である。
嗚呼、面倒くさいなぁと――一度屋敷を見回す。
「トラップって言っても色々あるわよねぇ。手傷・バステ付与・移動妨害思考誘導……。」
それから。
ティオレンシアが想像するのは、「自分が同じ立場になってみて、在ったら嬉しい」ものだ。
それはほぼ謎解きのようなものに近かったかもしれない。そして、無いはずがないだろうと踏んで――とん、とん、と壁を叩き始めてみる彼女である。
ごごん、と音を立てて動いたのが――何番目のそれだったか。思い出せないほど試してみたのだけれど、きっと思い出さないほどだからどうということのない数だったのである。
だいたい、欲しい場所に欲しいものを誰もが隠しているように。
「わぁお」
口笛を吹きながら、それの出現を歓迎したティオレンシアだった。
――隠し通路である。
此処にさすがに罠などしかけまい。中に立ち入ってみれば、広がるのは風が吹くばかりの打ちっぱなしの石道なのだ。
「素敵なつくりね」
初めて、いい趣味をしてると褒めてやれた彼女である。
その背からひょっこりと身軽に、それからいつの間にかそこにあった存在が――ティオレンシアと同じく吹き抜けの通路を見たのだ。
「汚いなさすが忍者きたない。」
ぐぬぬ、とうなりながら。きらめく遮光の派手めなゴーグルが彼女の表情を隠せないほどに悔しがらせていた。
トルメンタ・アンゲルス(流星ライダー・f02253)。
罠も何もかもをまとめて吹っ飛んでやろうとしていた彼女である。こんな近道を見つけてしまっては、ここを往くしかないではないか。
「期待させておいて――まあいいでしょう。」
しかし、幸運である。
誰よりも早く、次の一撃を喰らわせてやりたい彼女なのだ。何もかも、「早すぎる」彼女なのである。
ふふふ、と微笑むトルメンタにティオレンシアがちょいちょいと肩をつついてやった。
「もしかして、先回りする予定?あたしも連れてってほしいわぁ」
ご存知の通り、今回の予定もこの通りガンナーでスナイパーなのよね。
なんて肩をすくめているティオレンシアを見てみるトルメンタである。
ちょっと吟味するそぶりをしてみた。
顎に手を当てて、トルメンタがふむふむ、だとか。なるほど、だとか――ちょっと微笑んでから。
「わかりました!任せてください!」
どん、と胸を叩いて見せた彼女が明るい声で己のベルトに手を当てる。
――きゅい、と軌道音がした。
「行くぞ相棒!変身!――ア ク セ ル ユ ニ ゾ ン ! 」
『MaximumEngine――Mode:HotHatch』
たちまち――体を蒼の装甲が包んで彩った!
重厚ながら無駄が一切ない鎧である!彼女こそ、宇宙を駆ける流星すら追い付けぬ速さを誇るライダーなのだ!
「わぁお。相変わらず。」
二回目。
この感嘆は、本当に感動だったティオレンシアである。
日曜日の朝にたまたま酒が抜けないまま起きてぼんやりつけたテレビから元気よく愛と正義を謳うそれにそっくりな勢いが。
確かに、――この戦場では必要だとも思えた。
底抜けに明るい調子で、トルメンタがティオレンシアに手を差し伸べる!
「さあ、握って下さい!」
仮面の向こうで破顔したのがわかるほど。そして、安心できる自信に満ちた声である。
なるほど、なるほど。これが――。
「ええ、正義のヒーロー!」
裏街のフィクサーが躊躇いなく――蒼の流星と手を取った!
「わ、わー!?とんでもなく速い人がいるね!?」
『デュープアイズ』――。
それは、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)が装備している不可視の皮膜片だ。
ARディスプレイであるそれは、リアのオーダー通りに無数のレイヤーを展開する。
絡繰りばかりだと聞いたから、ならばとリアが考えた対策方法は情報収集に長けた彼女らしい選択であった。
音紋・動体・X線、サーモグラフィー。ありとあらゆるセンサーを使用しながら、もはや情報の女王となってこの戦場を分析しながら進んでいたのである。
おかげで罠の位置も発動タイミングも読めていたのだけれど、あまりにも猛烈な速さで過ぎ去っていく星たちをみたものだから。
――ここって宇宙空間だっけ。
なんて。
もう一度思ってから、「いやいや」と首を振る。
おそらく、あの速さは彼女の出である銀河世界の仕業だろうなとは情報収集の結果を見るよりも明らかであった。
物理法則も罠も何もかもを無視した挙動には追いつけないが、リアはリアで確実な動きを繰り返していた。
フットワークは軽く。しかしリスクは最低限に。合理的かつ慎重に、ただ勢いは忘れずに。
恐れはあってもひるみはしないのだ。彼女が口元に浮かべた笑みを絶やさぬまま、ひょいひょいと絡繰り屋敷を進んでいく!
「こんにちは!風魔小太郎ッッッ!!」
爆速、そして爆風!
床にひざまづいて、ぐううと唸る小太郎めがけて蒼の彼女がやってきた!
「猟兵――まだ来るか!!」
「あなたが死ぬまでやってきますよ!俺たちはねッ!!」
砕け散った面と、奪われた首を砕きながら――ほぼ、がむしゃらに己の暗器を振るわんとする小太郎である!
それを蒼が、予想はしていた。
九連続!九倍の攻撃!――それがなんだというのか!
「おおおおおおおおおおおおおおおおお゛ぉおおお!!!」
咆哮がびりびりと響き、まず一撃目が振るわれた!蒼めがけて苦無を握る巨大な拳が降る!
いくら強大で、いくら果敢であっても――こ の 蒼 に は 、 遅 す ぎ た !
『TurboBoost Over――Acceleration――【OverClock】!!』
無機質な機械音声が!
彼女の――蒼の光が更に加速するのを告げる!
「遅すぎますよ、風魔の忍者さん!」
残像!
押しつぶした幻影に無数の頭蓋が赤の瞳を細くしたのを、躱した蒼が嗤った!
「おのれ、おのれぇ!」
まだ振るわれる!四本まで減らされた腕がめちゃくちゃに振るわれようと、それはすべて蒼よりも遅いのだ!
軽いステップで後退、そして右ターン!まるで踊るように攻撃を避けてやりながら、隙あらば掌を蹴って殴ってその獲物をはたき落としてやる!
攻撃を――すべて捌く気でいるのだ!この、目の前の蒼は!
「ううう、ぅ、おおおあ――!!」
しかし依然、まだこの脅威はあきらめきらない!
それどころか勢いを増したのはやはり、戦場にいる猟兵に本能的な察知を覚えたオブリビオンであるからだろう。
――この場に、蒼だけでいないことをわかっているのだ!
「あは、気づかれた――?」
目を細めて、ライフルを構えていたティオレンシアである。
先ほどの隠し通路の出口で、息をひそめていた彼女なのだ。
とんでもない速さに身を包み、体を改造してあるトルメンタとはわけが違うのである。ティオレンシアは、あくまで人の体だ!
――だから。まともに相手をしてやるつもりがない。
無数の目がティオレンシアをみて走り出そうとするのなら!
「させません!」
どう、とその腹を疾駆が蹴る!
「ォ――」
嗚 咽 す ら 許 さ ぬ 。
照準に冷静に、そして的確に。あれの命を奪うような一撃にはならないだろう。しかし――あれが、人の形をしている限りは。
「潰すわよぉ」
ティオレンシアの攻撃対象になりえるのだ!
ずがん、ずがん、と吠えた鉛玉どもがすべて――蒼に胴をとらえられた一瞬のうちに、鬼に命中!
「がァ!!!」
血すら吐けぬ。無数の髑髏から代わりに黒煙を吐き出しているさまはいっそ哀れでありながら。
ティオレンシアのぶんまで放とうとした彼の技は不発に終わる!
そのまま――蒼がとどめといわんばかりにかかとを振り上げたのを。
「――む!」
止めて!
踵をつかまれたのを察知したのだ。
「調 子 に 、 乗 る な よ ―― ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」
剛腕で、投げ飛ばされた蒼である!
しかし受け身の態勢も取れていた!壁に衝突するよりも早くに、其処を蹴って地面に着地する!
追いついたのではない、読んだのだ。
あの忍びは――トルメンタの動きを読んだのである!
「しぶといですね」
マスク越しに、蒸れる息を吐きながら。
やはりトルメンタも先ほどから動きっぱなしなのだ。急に止まっては汗も呼吸も乱れるばかりであるから、つま先でトントトンとステップを踏んでやりながら絶えず体を動かす。
持久戦か、それとも一気にカタをつけるか!
相手も歴戦の忍びである。同じくティオレンシアも緊張が抜けない中で――鬼面どもは後者を選んだのだ。
ぞわ、と湧いた歴代の小太郎どもである!
先ほどは魅了されて当代に切りかかっていた者どもは、今や狂気に満ちて小太郎に縛られるかのように。全身を鎖で巻かれてつながれていた。
鎖の先が、すべて小太郎へとつながっているのが――引きちぎられる勢いで!
「おっと――誰宛てですかね、このプレゼントは!」
トルメンタが爆速、そして跳躍で躱す!向かってきたコードの化身どもを撃ち抜いてやろうとティオレンシアが放った銃弾を、それらが苦無で弾き落とした!
「ち――。」
舌打ちひとつ、くれてやる。
ティオレンシアが万事休すかと思われたときに――冴えわたる電子の女王がやってくる!
「 全 員 ま と め て 、 ボ ク と 踊 っ て も ら お う か ! 」
放たれる、雷鳴!そしてそれが――この戦場空間を檻にしたのである!
【空間掌握・電影牢(イミュア・サイバースペース)】。今ここは、彼女の独壇場となる。
リア・ファルが到着したのだ!
ありとあらゆる多彩を持つ彼女が――イルダーナで降り立つ!
愛機であるそれから降りてはやらぬまま、超低空飛行をして――ひき殺さん勢いで小太郎たちに突っ込んでいった!
「遅い、遅いよ!それでもシノビなのかな!?」
動きが――独特である。
まるで、何か誘っているような気もして――ティオレンシアが試しに、ハンドガンに持ち替えて走り出た!
「こっち!」
どう、どう、どう!
リアに注意をむけれず、ティオレンシアへと向かってきた風魔に鉛球をはたき落とされながらも!
その撃鉄の音で、リアは『グラヴィティ・アンカー』を手にした左手でその風魔どもをとらえた!
そして鎖を巻き付けた左手を、横に薙ぎ払う!
抵抗を許さぬまま、器用に右手は『セブンカラーズ』で呪殺をこめた弾で飛び道具をすべて撃ち落としていた!
そのさまをみて――安心したのか、蒼はまた小太郎めがけて飛び出していくのを視界の端に収めたティオレンシアが声をかける。
「いいよ――やっちゃって!」
報告を聞いて、にやりと笑ったリアがいた。
とっておきを――準備していたのである。この二人に後れを取りながら、彼女は「仕返し」をしてやろうとずっと探していたのだ。
お誂え向きの、それを。
「屋敷の仕掛けは、全てボクの制御下だ――受け取ってね!」
一網打尽であった。
たちまち、電気の牢屋が狭まって――ティオレンシアも蒼もすりぬけて、小太郎どもを封印するかのように収縮する!
鎖で巻かれた凶悪な彼らの上に『落ちた』のが。
大岩である!
黒の彼が見つけた仕掛けの第三弾。綺麗に残っていた隕石のそれをリアが「仕返して」やった!
「――すっきりぃ。」
隕石に手こずったティオレンシアが指笛を吹いて、笑うのをリアがハンドサインで返す。
「なんと、なんとこれが――ははは!やりおる、やりおるのう!」
「笑っている場合ですかね!」
やはり――蒼が!
真っ赤で派手な不忍の腹を、貫かんと足をくし刺していたのだ!
「ぉ――ッ」
地面に伏すのも許さない。くの字に体を折り曲げたのを、かかと落として待ち構えていたのだ。
「よくよく、覚えておくことですね――未来を!あんたも時間も、置き去りにする速さを!」
その太い延髄めがけて、振り下ろす!!
ごしゃりと酷い音を立てて地面に埋まった頭を置き去りに。
深追いはしない。――いいや、できない。
速さの限界を、常に超え続けていたトルメンタであったのだ。
今にも、緊張を解いてしまえば気を失ってしまいそうな鎧の中で、仲間たちを振り返る。
ティオレンシアがリアのイルダーナに一緒になって跨っているのが見えた。
「離脱するよ!――急いで!」
まだ、息があるのに。
ここでとどめをさしては、トルメンタの未来は此処までとなってしまうだろうから――。
蒼が、見下ろした。
この忍びの首を狩り取れなかったのは、無念であれど――その無数の貌を蹴破ってやったのである。
それでは、あとはもうひとっ走り。
皆と共に、歩む未来へと――蒼の閃光と、それから二人の女たちがひた走っていくのだった!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
叢雲・源次
【鏡刄】
忍者屋敷に篭城か…下策だったな…篭城というのは十分な補給線を確保した上で篭城している砦が十二分な防衛力を持っている事で成立する
乗り込むぞクロウ…何時も通りだ、俺たちならば何も問題はあるまい
インターセプター、サーチ開始(失せ物探し、暗視、遠見で罠を把握)
ウォールデバイス、アクティブ(斥力場発生。罠に備える)
貴様が風魔小太郎か…ここまでの道中さほど苦労はしていない…そして貴様の相手も同様だろうよ
【蒼炎結界】(範囲攻撃・なぎ払い)で殺到する忍軍と屋敷そのものへ火を放ち延焼操作で炎の壁を形成、風魔とこちらのみが存在できる場を作り
抜刀し斬りかかる、止めは相棒に任せ
「前座は済んだ…やれ、クロウ。」
杜鬼・クロウ
【鏡刄】
◎
忍者屋敷かワクワクするぜ
手厚い歓迎ご苦労サン(第六感で罠踏まぬ様に
ハ、言うねェ源次
これで自覚ねェとか怖
…当然(軽く拳当て不敵の笑み
先制と墓場への片道切符両方くれてヤんよ!
黒外套を羽織り直し
罠破壊は源次頼り
銀の対ピアス代償に【無彩録の奔流】使用
剣を分解し二刀流
二つの黒剣(コピス)に魔焔宿し前へ
灼熱地獄と化した戦況と熱風で忍軍撃退(属性攻撃・2回攻撃
手裏剣は剣で弾く(武器受け・カウンター
機動力活かした剣捌きで忍者と相対
混乱に乗じ一回転し薙ぎ倒す
滴る汗
酸素が薄い
不利益?違うな
これで五分五分だ
テメェの首は俺が貰う
好機を活かす
跳躍し本体の首を二刀で斬る(部位破壊
バーカ
お前が俺の路を作ったンだよ
●
「やってんねェ、忍者屋敷か。ワクワクするぜ!」
「忍者屋敷に篭城か――下策だったな。」
男二人。
武器を携える片方と、武器を携えど、まだ抜かぬ片方があった。
叢雲・源次(攻殻猟兵・f14403)と杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
沈黙の絡繰り仕掛けと破天荒のヤドリガミは、この屋敷に立ち入った時から冷静であった。
源次がただ、あるがままにここを評価するのを。
「ハ、言うねェ源次。まァ確かに、これで自覚ねェとか怖」
息をかみ殺した笑いが響く。クロウの唇からゆれるピアスとキーチェーンもそれにあわせてちゃらちゃらと鳴いた。
――籠城、というのは。
備蓄が多ければ完成するものではない。このサムライエンパイアにとってはそうだったのかもしれないが。
源次の時代は、此処よりはもうすこし発展した文明である。
よって――考え方も、少し先を行って「正解」を見てあったのだ。
十分な補給線を確保した上で、篭城している砦が十二分な防衛力を持っている事で成立するのが正しい籠城である。
この場、果たしてどうだろうか?
三度の変化を果たして、なおもまだ完膚なきまで猟兵たちに罠を砕かれ続ける哀れな屋敷にしか思えぬのだ。
源次が無機質な瞳を細めて、天井を見る。
先の猟兵たちが響かせた攻撃が余震となって、彼らの天を揺らしていた。
「乗り込むぞクロウ……何時も通りだ、俺たちならば何も問題はあるまい」
それから、その目は――『お決まり』のように相棒へと向けられる。
だから、相棒は源次と対照的に。いいや、きっと源次のぶんまで鼻で嗤ってやったのだ。
「……当然!」
――この隕石降らしの主犯に。
拳を突き出したクロウに、やはり源次も拳を突き出す。当たり前のように、それが軽くぶつかって。
不敵に微笑んだクロウの顔に、確信が宿るのだ。
――絶対負けねェ。
「インターセプター、サーチ開始。――ウォールデバイス、アクティブ。」
それはきっと、彼らを邪魔する罠すら飛び越えさせる『まじない』だった。
床から。
ようやく、顔を抜け出していた小太郎である。
蹴られた太すぎる首に、大きなあざができているのは無数の面からも理解が出来た。
「――許さぬ。」
もとより、先ほどから許してやる気もないのだが。
純粋な殺意がひどく燃え上がっていた。隠せていない殺気など、通常であれば恐れるに足らないのだが、なにせ彼は風魔小太郎なのである。
周囲一帯の空気が、まるで突き刺すような張り詰めを覚えていた。
――しかし、この彼の前では無意味な威嚇である。
「貴様が風魔小太郎か。」
平坦な声である。
抑揚もさほどなく、そして覇気があるかどうかというとそうでない。
ただ、冷淡に。そして、冷徹な問であった。
顔を見上げた先に、二人の男がいたのである。――己を見る紅い瞳の男と、色違いの男がいる。
「ならば、何か。」
肩で息を上げている様子もなければ。
実際、此処にたどり着くに源次は苦労していない。
二人に降りかかるものがあれば、事前に彼へ施された機械のすべてで予測し続けていた。
それが、源次だからできることである。――だから、何も言わないでクロウは相棒をただ見守っていたのだ。
クロウが出張ったところで邪魔になるのはわかっているし、しゃしゃり出ようとも思わない。
それくらい――信用していた。
数多の戦場を超えてきた、相棒はそのまま忍びの頭領に向かって告げる。
「ここまでの道中さほど苦労はしていない――そして、貴様の相手も同様だろうよ。」
「ほざけッッッ――!!」
開幕!
現れたのは風魔の忍軍どもである!
「殺せ、殺せッ――皆 殺 せ ッ ッ ッ ! ! ! 」
殺す程度で!
この二人が止まってやれるはずもない!
「来るぞ」
「わァッてる!先制と墓場への片道切符両方くれてヤんよ!」
クロウが絶えず、不敵なまま笑う。
豪奢な黒外套を羽織り直し――己のピアスをふたつ、はずした。
それを代償にして、詠唱が始まる。
「『神羅万象の根源たる玄冬に集う呪いよ。秘められし力を分け与え給え。術式解放(オプティカル・オムニス)──我が剣の礎となれ!』」
銀 が 、 溶 け た !
二人分だ。この軍勢は二人分だったのだ――!
ならばこの軍勢をクロウもいなしてやらねばならぬ。愛用する剣を二つに分解し、二刀流の構えを取った!
真っ黒な刀身は、魔の焔を宿して敵を見据える。
雄たけびを上げて、地鳴りを鳴らして。いざやいざ、皆殺しじゃと駆けてくる影どもがあった!
それを!
「ッらァ゛!!!」
力を込めて、手裏剣を弾いた剣で突き刺す!黒が黒を燃やして、灰に還すのを待たずに、次は一回転!
無茶苦茶に振っているのではない。
彼は――宝物であった存在である。
暴れ狂う彼だって、もとの出自はそうでない。
だから、天下布武のそれではないのだ。この動きはすべて、彼の経験とまけん気と、傲慢な己を貫き通す熱血が織りなすわざである!
「『寄らば燃やす…覚悟はいいか。』」
相棒が創った、時間があった。
熱伝導を、己の地獄から感じる源次である。
それが――あたり一帯の空気を焦がしはじめていた。
分別の在る、地獄なのだ。燃やすものだけを燃やす、蒼の炎は――相棒と彼を守るように発動された!
【 蒼 炎 結 界 ( ブ レ イ ズ ・ ブ ル ー )】!!
ごう、と燃え盛った勢いで、ただただ周囲は焼き尽くされる!
「なに――!?」
またもや、炎である!
戦場でこの忍びが扱えぬのは、妖なる魔術であるのだ。
「魔術でも、奇術でも、忍術でもないぞ。」
――訂正しよう。これは。
「化学だ。」
彼の心を――具現化した炎たちは!
源次の機械仕掛けのこころからの地獄を燃え盛らせ、それを数式とリスク、すべてを承知させて燃やしたのだ!
燃え続ける蒼に、忍軍どもは成すすべなく燃えていく!延焼操作で、――邪魔をすべて排除する。
大きな、蒼の炎が壁を作ったのだ。
――しかし。
「ははッ。いー暑さだ。」
滴る汗は、クロウのものである。
いかに、燃やす範囲を決められるといえど、フォーマルな服装をしながら汗一つかかぬ源次とは違うのだ。
クロウの体力も、確かにこの灼熱地獄は奪っていく。
「――狂ったか?」
酸素が薄い。
クロウが息を吸ってやろうとするたびに――ひとのガワが、肺を熱くされる。
「狂ったか、だとォ?違うな。」
け、っと息で嗤ってから、敵を見る。
小太郎はいっそ、この彼らに怯えているように見えた。
「――これで五分五分だ。テメェの首は俺が貰う」
笑みが、消えた。
小太郎がクロウばかりを見ていたから、この一瞬だけは逃せなかったのだ!
どう、と巨体を横から貫く彼があった。
「が――!?」
源次!
小太郎が無数の頭で見下ろした先にいた、彼が。深々と己の得物をわき腹から突き刺していたのだ。
「前座は済んだ……やれ、クロウ。」
相変わらず――相棒の御業は、本当に無駄がないのである。
この敵は、強敵と聞いていた。
実際、強敵なのだ。ここまで、相棒の熱でクロウを追い詰めてやらねばならぬほどの労力をかけた。
機械仕掛けの相棒も、熱には弱いようにみえて――静かに燃える男であるから。
クロウは、やはり躊躇う必要もなく、走っていた。
――なあ、おい。
――わかってンのか、バーカ。
駆けだす黒が、二つの剣を握りしめている。
そのまま、勢いに任せて跳躍した!
――お 前 が 、 俺 の 路 を 作 っ た ン だ よ !
鮮血。
切り離すには至らなかったが、吹き出した血しぶきが――彼らを浸した。
深追いはできまいと後続の猟兵に譲ることになってしまうが。彼らの実害は何もないのである。
オール・グリーン
完全、勝利!
「出るぞ、遅れるな。」
「――おうよ。」
唯我独尊である彼が、機械仕掛けの彼についていく。
その首に名残惜しさはあるまい。殺しきらずとも、いずれ朽ちるだろう。
「おお、おおおおおッ……」
震える手で、彼ら二人の背に手を差し出す小太郎である。
「待て――待て、猟兵よ」
ここまで、来て。
「待てェエエエエエエエッッッッ!!!!!!!!」
死なせてもやらぬ。
振り返らない二人が、すべてを物語っていた。
この戦いは――絶対に、未来ある二人が勝つのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花剣・耀子
◎★△
行動を阻害する。殺す。
そういう仕掛けであれば、狙いは侵入者。
影響範囲の見当をつけ、できるだけ仕掛けそのものを破壊するよう、身に届く前に斬り捨てましょう。
初動が速い。重い。多い。
確かにおまえは、頭領の器だわ。
――でもね、あたしたちにだって“未来”が付いているのよ。
何手あるかは知っているの。
攻撃は咄嗟に剣で払い、即死だけは防ぐように。
目標に自身の保全は含まない。
何が来るかは不明でも、何度来るかが判るなら、からだを残す配分はできるわ。
憶えたなら、いきましょう。
――機械剣《クサナギ》、全機能制限解除
憶えた分、全部お返ししてあげる。
首を落とせたら上々。
無理でも、この一刀が次の誰かへ繋がるように。
霧島・クロト
俺らにとって邪魔な物なら
――『お前ら』にとっても邪魔なんだよ
攻撃や罠は【見切り】したり【視力】で注視しながら
【オーラ防御】を生かした氷の盾とかで防ぐしかねーな。だが。
【罠使い】【地形の利用】と氷の【属性攻撃】で
即興で敵の罠をアレンジして歴代風魔を逆に嵌める。
それでも罠が面倒なのは変わりねェ。
【高速詠唱】から【氷戒装法『天駆ける貪狼』】で、
部屋の中を素早く【空中戦】のノリで駆け抜けながら
近場なら格闘、遠距離なら銃と使い分けて
【フェイント】かけながら
氷の【属性攻撃】と【呪殺弾】【マヒ攻撃】【鎧砕き】【部位破壊】で
相手の機動力をそぎ取りながら、
距離に合わせて【全力魔法】をぶっ放す。
※アドリブ・連携可
●
床面が、砕かれる。
――行動を阻害するための罠であり、死に至らしめたいというのなら。
侵入者が立ち入りそうな範囲に向かって放たれるはずの武器どもである。
では、その仕掛けの起点はどこかといえば。
「――よし。」
ばきゃり、と醜い音を立てて哀れにも歯車は終焉を知るのだ。
花剣・耀子(Tempest・f12822)の機械剣は、命をたいらげるそれである。この通り――歯車などどうということもあるまい。
あたりの罠一面を食ってやろうと唸る蛇の目どもは、愉し気に爛々としはじめていて。
耀子が手を放してしまえば、たちまちにあたりを切り刻んでしまいそうだった。
同時に。
「こういうのはなァ――。凍らせちまったほうが早い。」
彼の邪魔をするのならば。
たとえそれが、空気であっても何であっても、――忍者の頂であろうとも。
凍てつかせるのが霧島・クロト(機巧魔術の凍滅機人・f02330)の十八番であるのだ。
ぱきき、と床が氷を張って凍てついていけば内部の歯車たちは動きを止める。
異変を察知して彼に向かう手裏剣あらば。彼はそれを「視ず」に氷の障壁で防いでみせていた。
いろいろと、忍者屋敷の仕組みを冷静に見ているゴーグルなのである。
余計なノイズになりえる飛び道具たちは、哀れにも彼の足元に凍り付いて落ちるばかりだ。
近くでチェーンソーを振るう彼女だって、まったく頼りになりそうであるし。
――どう動くかね。
彼女が、己にどう合わせてくるのか。たなびく涼し気で高貴な黒と蒼を躍らせる耀子に挑戦的に微笑んでやれば。
耀子もまた、――敵意のない笑みには無表情ながらに会釈した。
「クールだ。いいね。」
口数の少ない、相手はいい。
「あなたも。」
ステキね――なんて深海のような瞳を彼の足元へ向ければ一面が凍りだしていたのだ。
この技は、いいかもしれない。
お互いに、合理的なのだ。戦いにおいては熱意よりもなによりも、冷静であることを良しとする二人である。
ならば、いざ往かんと。どちらも言葉少なに歩き出したのである。凍てつく氷の世界と、破滅の音を連れて――。
風魔がいたのだ。
ゆらりと起き上がったあとであるそれが、ずっと黒くなっているのを耀子はいぶかしんだ。
――何かがおかしい。
赤の瞳が、こちらを見ていない。
死んでいるのか?いいや、首は大きく刻まれて、左半分の骸骨の群れなどほとんどなくなっている。
虫の息には一歩及ばずか。とクロトも同じく己の顎を掌で撫でながら、ゴーグルに彼を映していた。
ぎらり。
赤の瞳が!
「――ッッ!!」
耀子と目が合って!
その眼前に、あったのは風魔の巨体であった。
「死ね」
クロトも反応に遅れた。耀子の風魔の手と比べれば小さい頭をつかまれて――地面にたたきつけられる!
「か、っ――!?」
割れた。
耀子の後頭部からも血が噴き出たが、何よりも床が割れたのだ。
眼鏡が吹き飛んで――ひしゃげたフレームが地面に転がっていったのを、少々遅れて認識してから!
たまらず、耀子が己の頭を掴んでいた腕にけたぐりをいれてやる!
弾かれるようにして退いたそれに追撃はしない!ごろごろと激しく転がって、ようやく膝を立てた。
思ったよりも、初動が早い。
額を、頭を割って。黒の髪の毛に血が滲み始めていたのである。
死んではならぬとほぼ本能で抗って受け身を取ったから首が無事だったものの、痛む筋が「ぎりぎり」だったことを耀子に伝える。
――速い。重い。多い!
どう、と走る巨体に!
「て、めェエエッッッ!!!!」
黙っていられるクロトではないのだ!
氷の彼が技を発動して見せようというのならば、取り押さえようとして無数の質量がとびかかっていた!
「がぁ――ッ!?」
引き倒される!そのまま、氷の追撃を許さぬと口に向かって忍び刀が振り下ろされていた!
たまらず、それを「噛む」ことによって防いだクロトである。
――これが、歴代風魔ってか。
ぞろり、ぞわり。影という影からあふれ出てきた彼らである。
当主が黙々と、ただ殺すためだけに動いているのを見て昂っていた興奮がいっそ落ち着いたのか。
亡霊どもはクロトの周りに集まって――それぞれの得物を構えていた。
「ハ、」
思わず。
日本刀を噛んだ歯から漏れる音を使ってまで笑ってやる。
――おいおい、こんな目立つように集まっちまって。
クロトに必要なのは、詠唱でない。
確かに詠唱があれば魔導式などは「より正確に」軌道を果たすだろう。だが、この彼は――無意識で障壁を作ってしまえるような男である。
氷のちからをやどしていても。心は――静かにも燃える彼のものだから。
――、 舐 め て ん じ ゃ ね ぇ ぞ !
・・・・・・
クロトを囲む忍びたちの、さらに上から!
氷の矢が、そして苦無が――正しくは、コーティングされてクロトに操られるそれらがあったのだ!
「やっちまえ。」
ばきゃりと顎の力だけで忍者の刀をかみ砕いてやる狼が告げれば!
空気を裂いて悲鳴をとどろかせながら。降る暗器どもは風魔の命を確実に射止めていくのである!
「俺らにとって邪魔な物なら――『お前ら』にとっても邪魔なんだよ」
所詮、人の形におさまる霊であるならば。
罠返しが刺さるだろうと彼の解析結果が及んだのだ!
「さて――嬢ちゃん。」
クロトが、己のボディの傷跡を確認する。
血煙をあげて、顔を真っ赤に濡らして汗も呼吸も置き去りに戦う――耀子を視界に収めたのだ。
「ちょっと動きやすくするぜ。」
起動されるのは氷の大魔術である。
呼気を白く凍てつかせて、クロトは目を見開いて己の限界値まで魔術をため込んで――。
「 『 我 が 身 に 北 天 に 座 す 『 貪 狼 』 の 加 護 を 』 ! ! 」
【氷戒装法『天駆ける貪狼』(ヒョウカイソウホウアマカケルドンロウ)】!!
氷の恩恵を授かった彼が、魔力を纏い狼となる!
どう、と力強く床を『貪狼の腕』たる武器で殴ってやれば――あたりを一面氷の世界とした。
「はは――はははッッッ!!炎の次は、氷かァ!」
「風邪ひきそうね。」
まだ、軽口を叩けるだけの余裕は耀子にあったのだ。
地面が凍って、耀子は彼に感じた期待を信じることにする。
ローファーが、その摩擦で削った靴底で――氷の面を滑ってみせるのだ!
スケートなど見たことは在れど興じたことは数少ないし、もしかしたらなかったやもしれない。
「確かにおまえは、頭領の器だわ。」
ぎろりと、見上げる――血まみれの鬼が。
小太郎の一撃を躱す!
まぐれでは、ない!滑りながら、いつもよりも早く動ける地面をとらえて学習して――試す。
何度でも失敗して、何でもチャレンジし続ける。誰よりもトライアンドエラーを繰り返すのは彼女が不器用なほど――まっすぐだからだ!
この戦場においてその癖は生きるための一歩となる!
ぎゃうううと唸る蛇どもの声を感じて、己の武器が十分「あたたまった」ことを知った。
「憶えたなら、いきましょう。」
――耀子には。
『未来』がついているのである。それは、猟兵であれば皆がそうだ。
皆が『未来』に愛されている。皆が未来を疑わない。皆が未来を愛して手を伸ばす。
そんな未来に――愛されているのだから!
九回の攻撃が九倍の強さでやってくることはわかっていた。
振るわれる苦無を受けて、腕などは深手を負っているし肩に入る力もやや鈍い。
しかし――それでも致命傷だけは避け続けていたのを、クロトは知っていたのだ。
「やるじゃあ、ねえか!」
氷の一閃である――!!
アームドパーツから蒼白い冷気を放ちながら、ジェットのごとく突っ込んだ彼なのだ!
その攻撃を、小太郎が受け止めてはたき落とそうとする前に!
「――機 械 剣 《 ク サ ナ ギ 》 、 全 機 能 制 限 解 除 。 」
音波認証。
指紋照合。
危険度測定――極高。
コードネーム照合――『Tempest』。
【《八雲》(リミットリリース)】!!
先ほど、この小太郎の凶悪を受け止めていたのは耀子だけではない。この機械剣もなのだ!
何度も腹ただしそうにチェーンソーのかみ合わせを悪くしながらも、この「オロチ」であった彼はずっと煮えたぎっていたのを耀子だってわかっている。
だから――おまえを今は許すわ。
蛇の執念がごとく!
「お――!?」
ぽん、と呆気なく。太い小太郎の腕が一つ、飛んだのだった。
今から耀子が織りなすのは、一つ、一挙一同たがわず。
シ カ エ シ
連 続 攻 撃 ! !
「が、ぁあああッ!!?」
たまらずこれには痛みで叫ぶ小太郎なのだ。
全身を八つ裂きにされながら――凍てつく世界に内側も凍らされつつある。
馬鹿な、馬鹿な!?
「この、風魔が――」
このような、猟兵どもに。
一人一人の力で己に敵わずとも、束になって未来の使者どもは今もこれからも進化を続ける!
休む暇なく耀子の連撃を叩きつけられたからだが――ぐらりとゆれて。
首は落とせまいと思っていた燿子なのだ。だから、『後続がいる』状況を狙った。
「――行って!」
振り向かないまま!
彼女の直ぐ横を、冷気を纏いし餓狼が走っていったのである。
「 ぶ っ 放 す 。 も っ て け ――、 風 魔 ァ ! ! 」
突き出された右腕から。
た ち ま ち 最 大 威 力 で 魔 術 が 放 た れ て !
すべてが、凍てついてしまったような沈黙である。
黒の髪を冷気に撫でられながら、耀子がようやく結果を視界に収めて肩の力を抜いた。
氷の大氷壁。
あまりにも分厚く、大きな山となったそこに風魔を閉じ込めていたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鎧坂・灯理
【砕面】
承知しました。微力を尽くします。
罠への対処は我々が
Arsene殿から送られた情報を元に、片端から念動力で破壊します
周囲の空間ごと圧縮し、徹底的に破砕します
並行思考、高速思考、個人転移、全てを駆使し、並べて行う
一つも残さない、一つもミスらない
任されたのだ、死んでも全うする
それが私のプライドだ
全て破壊し終えれば、皆さんの援護に回ります
UCを使用し、敵の脳を一瞬だけハッキングし攻撃を逸らさせる
一瞬でいいんだ、一刹那でも構わない
弾道さえ通れば、我々の勝ちは揺るがない
――任せましたよ、ミスタ・鳴宮
鳴宮・匡
【砕面】◎★△
罠への対処は信じて任せ
相手の動きを注視し初撃の【見切り】に集中
――よく視ろ
相手の呼吸を聴き、腕の動きを目で捉え
身体の傾斜、踏み切る足の動き
周囲へ向ける視線、武具が風を切る音
……肌に感じる殺気
受容しうる全感覚から
相手の攻撃手段、狙い、その放たれる順番を分析
ヴィクティムから受けた演算支援もある
読み切ってみせるさ
手裏剣等の飛び道具は拳銃で軌道を逸らし
格闘は近接距離に入られる前にアサルトライフルの掃射で牽制
避けきれなくとも右腕と眼だけは外して受け
ヴィクティムの『反転』が成るまで凌ぎ切る
反転が成ったら反攻へ
動きは散々視た、今更【千篇万禍】の狙いは違わない
――さて、幾つ頭を潰せば死ぬんだ?
ヴィクティム・ウィンターミュート
【砕面】◎★△
──各自、用意はいいか?
いつも通り全力で…勝つぞ
まずは先制攻撃の対処からだ
全サイバネをハックしオーバロード、神経速度向上
知覚向上、身体能力向上。駄目押しにコンバット・ドラッグ
匡にブレインハック、演算能力同期、向上
ネグルと鎧坂に思考送信ライン接続
匡と共に小太郎の9回攻撃の見切りを行う
射程、攻撃方向を瞬時分析、3人に送信、共有
ネグルから送られる罠の位置を追記
俺が総指揮の頭脳となり、回避を的確に指示
罠、攻撃共に捌いたら──
UCスタンバイ、奴のUCの発動の仕方はさっき見た。予知は余裕だ
無造作にクイックドロウ、プログラム射出
攻撃回数9倍?そうかい
じゃあ反転したら?
ハハッ──九分の一ってね
ネグル・ギュネス
【砕面】◎★△
我が黄金は悪意の流れを視る
【勝利導く黄金の眼】、起動
サイバーネットワーク重ねて起動
───任せろ、全ての未来を見抜いて見せる
先制攻撃は【迷彩】と【残像】、そして眼でいなす
振動、熱源、僅かな建物の歪みに切れ間も感知
罠の場所を全員に送信、更新、送信
繰り返し伝達し、回避や破壊のルートを送り続ける
目が焼き切れそうなぐらい熱くとも、繋げる
全て罠を破壊すれば、匡のカバーリングに回る
【武器受け】や【衝撃波】を放ち、敵の攻撃を引き受ける
多少の傷は、機械の身体で庇うて粘ってやる
専守防戦、反撃に転じようとしても回避されよう
私では、きっと勝てぬ
だが時間は十二分に稼げた
生憎私は個ではなく、チームなのだよ。
●
「──各自、用意はいいか?」
屋敷の攻略など、軽く済ませた彼らである。
「いつも通り全力で、勝つぞ」
微笑みには程遠い、きっと勝利を確信した顔で彼は仲間たちに宣言したのだ。
ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。
――彼は。
情報世界の王であり、そしてそのすべてを使って英雄たちを「活躍させる」端役である。
縁の下の、力持ちすぎるのだ。ありとあらゆる方法を使って彼は「勝利しか」認めない。
――身体は、サイバネと呼ばれる機械であった。
とうに、栄光など捨てて。人間としての尊厳すらかなぐり捨ててみせた彼である。
だから「少々使いすぎる」ことをよく仲間たちには指摘されるのだけれど。しかし、それもまた――この強敵相手ならば出し惜しみもできまい。
――知覚向上、身体能力向上。
己のスーパーコンピューターになりえる脳を、すべての頂目指して高めていく。
――駄目押しにコンバット・ドラッグ。匡にブレインハック、演算能力同期、向上。
仲間たちに恩恵を与えられるのは。
――ネグルと鎧坂に思考送信ライン接続。
彼の、彼だけの、端役ならではの専売特許であらねばらない!
「クリア。どうだい?」
そんな彼の恩恵に、一番早く反応を返したのは。
「微力を尽くします。――Arsene殿、罠の位置探索ご苦労様でした。」
たとえば。
ヴィクティムが情報と電子の王であるといえるのならば。
この電脳探偵は――いわば、反逆者なのだ。
鎧坂・灯理(不退転・f14037)。こうして人のために力を尽くすヴィクティムと正反対な位置にいる彼女である。
ハッキング サイキック
彼女が得意とするのは、電脳世界での「反逆行為」と「念動力」。
そして。
彼女の脳は、自他ともに認めざるを得ないほど「出来が良すぎて」しょうがない。
周囲の空間を送り込まれたのならば、たちまちにそれを理解して徹底的なまでに!
念動力の鞭が、的確に、そして派手に振るわれていった!
風魔が座す空間である。とうに屋敷内部も同じように、二度と使えぬようにしてやりながら。
――ダメージソースが多い。
哀れなものだ、とその肉塊を見る。
血まみれで、首などいくつなくしたのだろうか。まるで生えそろいの悪いキノコのようだな――なんて思ってしまう灯理である。
こうして彼の忍術工房も目の前で破壊してやっているというのに、この風魔はとびかかりもできない。
氷に閉じ込められたそれが――やはり、光を失っていないから「やりきる」必要があるのだ。
「オーケー、次のステージに行こう」
「承知しました。」
Arsene――もとい。
ヴィクティムから送られた合図に合わせて、並列思考に集中する。
仲間の転移、高速となる思考回路のやりとり、脳への負担は大きい。
プライド
それでも――それを超えるのが彼女の覚 悟だ。
一つも残さない、一つもミスらない。なぜならば、それが「依頼」である。
――死んでも全うする。
紫の瞳がギラリと光るのは、彼女のプライドが彼女を許さぬものであったから――。
ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)は。
まるで、善人と悪人のように分かれた二人で在りながら、お互いの腕を信頼し合う仲である。
電脳探偵からの援助を受けて、人間である匡は――無傷で氷の前に出す必要があった。
そしてネグルは、その補助をする――この作戦の完全成功のために彼を助ける必要があった。
助けてくれ、など匡は死んでも言わないだろう。だから、「究極の善意」で助けたがるネグルと相性が良いのだ。
おたがいに、やりたいことだけをやっているだけ。
「――来るぞ。」
いつもの穏やかな甘いマスクに、今はその面影はない。
張り詰めた空気と共に、視線を集中させるネグルだ。
彼の予感通りに、今にも先ほどの餓狼が植えた氷の柱は砕け散らんとしていた。
――過去の未練というのは、恐ろしい。匡にそのような執念はない。
「わかってる。」
ない、はずだ。
「ぉおおおおおお゛ぉおおオオオオッッッッ!!!」
派 手 に 、 氷 を ぶ ち 破 っ て !
飛び出してきた風魔が勢い余って拳を振り下ろす!
その狙いは――当然のごとく、ネグルと匡であったのだ!
だから。
「――よく視ろ。」
「ハ、───任せろ、全ての未来を見抜いて見せる。」
彼ら二人、色相の真逆にある瞳たちをきらめかせてみせた。
決 し て そ こ に 、 絶 望 は な い !
【 勝 利 導 く 黄 金 の 眼 】!
サイバーネットワークへと接続されたギュネスの視神経が、その紫を黄金がごとくの色へうつらせる。
振動、熱源、わずかな建物の軋みと――Arseneに送り込まれたこの場の地図すべてが――彼の武器となるのだ。
同時に。
匡だって、自分に言い聞かせていたのだ。
思考が許されるのはこの一瞬のみである。だから、チームメイトに「頭をよくして」もらっておいた。
風魔の。
呼吸を耳で拾った。それから、腕の動きを予測した。可動域はせいぜい狭い。傷が多いのだ。
体の傾斜、踏み切る脚の動きでだいたい蹴りは予測できる。
周囲へ向ける視線は今のところ二人のみをみていて、武具などはところどころ破砕していて捨ててしまったほうが身軽であろう。
――そして。
絶対に、未来を堕とすという殺気を感じて!
「ぉおおおおおお――ッッッ!!!!」
・・・・・
咆哮と共に放たれたふたりぶんの連撃があった!
すべての攻撃は一瞬だ。そして、――考える時間も一瞬だ。だからこそ読み切って動かねばならない!
拳銃で飛んでくる手裏剣の数枚を撃ち落としてから、近接を挑もうとぼろぼろの鉄扇て薙ぐ腕をアサルトライフルで撃ち抜いた匡である。
体が、反動で宙に浮いたのを!
「――危なかったな!」
「いいや、計算してたよ。」
受け止めたのはネグルだ。そのまま、二人で弾きあうようにして両側へと跳んだ!
ネグルは――網膜が焼き切れそうな痛みを覚えながらも、瞼を閉じることだけはやめなかった。
――ミスタ・ギュネス。もう少しです。
どうやら、この声の主も焦ってはいたらしい。
――はは、テレパシーでも感情というのは伝わるものだな。
通信相手は、灯理だ。
ギュネスはずっと、灯理に信号を送り続けていた。彼の役目はこの戦場に仕掛けられた罠をすべて発見し続けることである。
サイボーグである彼であるから――喜んで、やってみせようと意気込んでできたことでもあった。
もし、人間の器のまま目だけサイバネ化していたとしたらきっと今頃は二度と光を見ることもかなわなかっただろう。
念動力の鞭がいたるところでしなるのを確認しながら!
「――っと」
ネグルが間一髪のところで攻撃を避ける。
ひらり、体をひねってから――まだ彼らは明確に「殺しに来ていない」。
それを悟れぬ、風魔ではないのだ。
――さて、なぜだ?
匡よりも動きを機敏にさせて、風魔の視線を奪ったのはネグルである!
作戦の順調な進行に、ほくそ笑むのは――今この場で、まだ風魔に認知をされていないヴィクティムだ。
前衛二人が派手に動き回ってくれているのである。
匡や他二人に攻撃方向を瞬時の解析と分析を行ったものを脳に直接「送信」してから。
ネグルから送られる罠の位置を追記して、誰もそれを踏まないように誘導している。
灯理がたとえば、とらばさみや地雷なんかを念動力で封じてしまえばよいのだ。
では、ヴィクティムはずっと――後衛で何をしているのか。
サーバー
彼は、指揮官である。
送受信、更新、再接続。
演算、マッピング、予測解析、分析、また送受信。
せわしなく情報が頭の中を行きかうのを、汗を垂らしつつも愉しんでいる彼なのだ。
仲間の一人とて欠けさせてはならぬこの緊張感で!
あえて、彼は嗤って見せた。――『切り札』のプログラムはもはやセットできている。
「灯理、頼むぜ。」
――プログラムの射出が、行われる。
この瞬間!!
「――っぐ、ぅ」
顔を両手で右手で抑えながら、灯理は己の使命を果たしていた。
「ォ――お、ッ」
唸る、小太郎がある。
違和感を感じ始めたのだろう。彼の思考は先ほどからジャミングがひどいに違いない。
相手どる二人のひとがたがどんな顔であったかすら、今は判別できていないのだ。
「時間は十二分に稼げたようだな。」
ネグルが、フと鼻で嗤ってやって。
彼の思考を侵しているだろう、友の所業に確信があったのだ。
――一人では、きっと誰も勝てなかった。
「生憎私は個ではなく、チームなのだよ。」
だから。きっと――この勝負には完全勝利で果たせるはずである!
ただ、がむしゃらに。そして――過去の直感に任せて。
オブリビオンたる彼の思考を乗っ取る、反逆者の無謀になど気づけていなかった!
「――はは、ははははッ」
顔面を押さえていた手袋から。
真っ赤が見えた。どろりとしたそれだ。滴って、指の間から落ちていく粘液は――紛れもなく、鼻血である。
灯理の脳を酷使しすぎていた。いくつものマルチタスクと常に更新される情報量に、「ただのにんげん」である彼女は必死にくらいついていたのだ。
いや、しかし。
――何が限界か。
灯理が嗤う。
彼女の目的は、まだ成し遂げられてはいないのである。
Arseneから指示が出た。ならばそれに応えてやらねばならない。人間の脳だけで、戦い続ける彼女が――!
一瞬だけ、それでいい。
それでいいのだと念じて【BPハック(ブレインサイコハック)】を成就させる!
静止した。
一瞬、それはとても長い――時間のように感じられた四人である。
跳ねた暗器に身を削られても、気にしないように戦い続けた匡がすべてを悟ったのだ。
「――【Attack Program『Reverse』(ウンメイヲヒックリカエセ)】」
電 脳 の 王 の 鉄 槌 が 下 る !
「が、ッ――なん、だ、これはッ。なんだこれは――なんだというのかッッッ!!!?」
たちまち小太郎の意識が及ばぬところで。
その体を、そして能力の何もかもを「書き換える」動きが行われていたのだ。
この場にいた4人分。つまり、三六回の超攻撃を携えていた彼の動きなど許されない。
許されたのは、とうに過ぎ去ったものだけである。
「ハハッ──九分の一ってね」
・・・・・・・・・・・
――すべて、反転してみせた!
許される攻撃回数は、当に過ぎ去った――ネグルと匡が引き出し続けた過去にある!
もう、動けないのだ。
「術か!?なんだ――なんだというのかッッッ!!」
どうにもこうにも体をゆすっても、攻撃という行為を小太郎は許されない!
「教えてやるよ。その前に、一つ教えてくれ。」
匡の体は。
灯理と同じく、人間のそれだ。
走り回った、汗だくになった。
肩は上がりっぱなしで、口の中は肺の毛細血管がちぎれて鉄っぽい。
脇腹はすっかり痛くなって、今にも刺激物があれば吐き戻してしまえそうだった。
跳ねた暗器が彼の脚を裂いても、気にしていない。興奮しきった脳でそれを打ち消していた。
構えたライフルを、視る。この一撃を放つだけでも。
――情けないことに、精一杯だな。
しかし、そんな己を嗤わない。まだ、――それには早すぎる。
「――さて、幾つ頭を潰せば死ぬんだ?」
ネグルが誘導した。彼だってもう動けやしない。
視神経を酷使しすぎて、薄目を開くのがせいぜいだった。
灯理だってもう動けない。しかし、戦う意志だけは潰えていない。
ぎらぎらとした瞳の下は、鼻からの流血で真っ赤だった。
ヴィクティムも、後ろで電脳モニターで囲われているが。
わかっている――汗だくになって、もうこれ以上の動きは許してならない。
だから。
匡が、ここで折れるわけにいかなかったのである!
【 千 篇 万 禍 ( ゼ ロ ・ ミ リ オ ン )】!!
・
放たれたそれが――すべての頭を撃ち抜かんと吠えて。
「あとは、『若い』のに任せよう。」
目を、ようやく休ませられる。
ネグルが顔を押さえてその場にしゃがみ込んでみせたが、表情は穏やかに微笑んでいたのだ。
任せていい、存在らが来ていた。
――唯一残された一枚の仮面が、彼らの後ろに控えた最後の牙たちを見たのである。
大成功
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水衛・巽
【刃心】◎△
矢来さん(f14904)
穂結さん(f15297)
ある程度の被弾は前提で
先制攻撃は第六感と戦闘知識で回避し致命傷のみ極力避ける
その後高速詠唱で【天空魔境】を展開
忍者屋敷を改竄しこちらの任意の場所へ罠や嫌がらせを山盛りに仕込む
畳返しの要領で使い捨ての盾にできる床とか
奴らが聴いたことのない電子音が鳴る鴨居とかも
現れた霊は穂結さんと共に迎撃しましょう
さあ、どうです
ご自慢の城をあっけなく無力化された気分は?
噂の風魔一族とやらも大したことありませんね(と挑発
おや
まさか我々がただの物見遊山客とお思いで
忍ならば足元の影の恐ろしさを知っているはずでは
そう、貴方の影とか――背後とか
穂結・神楽耶
【刃心】◎△
夕立さん/f14904、水衛様/f01428
へぇ。
最強の忍者って数が多いからって事なんですか?
全く忍んでいらっしゃいませんね。
【朱殷再燃】《オーラ防御》《激痛耐性》
召喚UCなら攻撃まで一手開くはず。
《挑発》と燃える炎の《存在感》で気を引いて、攻撃は全部寄越してもらいます。
水衛様のことも《かばう》ように。
罠の排除にはあなたが不可欠ですから。
わたくしはあくまで捨て札。
大事に守る水衛様を見せ札に。
そして切り札は影の内に。
ごめんあそばせ。
わたくしにとって最強の忍者は、この、死んでも殺しにかかる友達なもので。
特大の《だまし討ち》──どうぞ、受け取ってくださいませ。
矢来・夕立
【刃心】◎★△
穂結さん/陰陽師さん
屋敷の罠や伏兵も含めた、あらゆる“殺し方”を考慮する。
それに対抗する形で式紙を展開、相殺。
致命傷だけ避けられればいい。
凌いだら《忍び足》でお二人の視界から外れます。
友達と同僚に見せるには、刺激が強いので。あと、怒られそうだし。
では、
暫し現世へ暇乞い――【神業・影暗衣】
自刃、
…から、《だまし討ち》。ウソですよ。
風魔は親喰らいの血統と聞きました。
“呪いを継承する忍び”だとも。
そんなのに怨まれたらどうなるのか、気になったので。
あなたに怨まれそうな、
ひどい“殺し方”を考えて――オレなりに、“考慮して”きたので。
怨んでくれるまで殺します。
ご指導の程。
●
最後の牙たちは、皆がみな、無事で終わろうなどとは思っていなかったのである。
「いや、ほぼ死に体ですよ。」
「うーんまさか、ここまでやられているとは思っていなくてですね。」
「油断大敵――まあ、気負わない程度で行きましょう。」
いつも通りの、テンションで。
この強敵相手に油断をしているわけではないのだけれど、それが彼らのペースであるから。
水衛・巽(鬼祓・f01428)は己の青を嘆きに染めて、覚悟が無駄になりそうなことを嘆いて。
穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)はそんな巽に同情しつつも目の前の脅威に冷静な批評をしつつ。
矢来・夕立(影・f14904)が最後にひとまとめ。そんな――三人の構図でやってきたのだ。
唯一、凶弾をかいくぐった頭があったのである。
中心の頭などはもう形すら残っていないのだが、その頭はまだ光を宿していた。
「――ならば。」
ならば、死ぬまで踊ろうではないかと。
いっそ忍ぶ必要などなくなった彼は、本来の意味で不忍を選ぶ。
嗚呼、こうなっては忍びとしては終わりだな――と。夕立が赤い瞳を細めて眺めてやった。
ここにたどり着くまでに、皆でこの不忍の頭領を嗤ってやったところである。
ただ、夕立だけは「嗤い」はしなかった。
派手な服に身を包みながらも、――生前はこうでなかったかもしれないが。
この「風魔小太郎」も「風魔小太郎」であるというのならば。
忍びとして。「矢来夕立」という忍びとして、彼は――絶対の象徴ともいえる。
ぱ、とボロになった鉄扇が開かれた。
「ははあ、信長の真似ですか?歌ったり、します?」
巽が指摘してやる。
「謡いはできぬ。――忍びゆえな。」
そうだ。
忍びであるから、辞世の句なども残さないだろう。
ではどうするか、くらいはこの三人もわかっている。
「 死 ぬ ま で ―― 殺 す ま で よ 、 猟 兵 ど も ! 」
戦うことしか、もう残っていないのだ!
ぶわりと小太郎の大きな体から――床面一体に落ちる影より這い出たのは風魔どもである!
歴代の風魔が並び、己ら子孫の最期の仕事とあらば彼らもより沸き立ったのだろうか。
小太郎が号令をかけると同時に――三人にとびかかっていた!
「そうくると思ってましたよ!」
忍びの領域とは、空である。
ある程度の攻撃は予想できていた巽である。なにより彼らには――予知があった。
未来に授けられた事前知識を活かさんと彼が用意したのは!
手を、ひとつ大きく拍手させてやる。
空気を破裂させたような音を立てて、彼の悪しき詞は――素早く成就された!
「『埋め尽くせ、天空』」
【 天 空 魔 境 ( テ ン ク ウ マ キ ョ ウ ) 】 ! !
「な――、」
これには風魔も愕然とした。
この罠だらけであった彼の忍術工房が、一気に漆黒に染め上げられていく。
「おや、まさか我々がただの物見遊山客とお思いで?」
ふ、と笑った巽が術の中心である!ならばならばと巽に狙いを定めた苦無は、たちまち神楽耶が斬り払った!
「へぇ。最強の忍者って数が多いからって事なんですか?」
たいしたこと、ありませんね。
――まるで。いつのまにやら己らと離れていた彼のような軽口でこの非女神は嗤うのだ。
神楽耶の一撃で多少ひるみを見せた霊どもに安堵もする神楽耶である。ならば、挑発もきくはずであった。
巽が見せ札である。
この空間を塗り替えてみせる彼が――一番の脅威に見えるだろう。
風魔どもは己らの領域であったそこを走ろうとすれば、畳がひっくり返ってくし刺しになったりしている。
巽に降りかかる苦無どもは、巽も畳を足で叩いてやれば真っ黒なそれが立ち上がってすべてを凌いでいた。
鴨居からは不規則に奇妙な電子音が流れ出して、忍ぶ彼らにそれを許さない!
――忍べない忍びなど、本当に最強と程遠い。
神楽耶が微笑んでみせるように、巽もまた笑った。
「さあ、どうです!ご自慢の城をあっけなく無力化された気分は?」
合わせた両手は離せない巽である。
彼の命令に従う凶将を――その手で押しつぶしているのだ。
悪しきを放ってしまうようなことが在っては、この作戦は瓦解されてしまう。
緊張が常に彼の体を駆け巡るのを、神楽耶もわかっていた。
挑発の一言は必須である。だって――ここからは、神楽耶が代わりに「捨て札」となってやる番なのだ。
「お城だなんて、いいように言いすぎですよ。巽さん。」
ごう、とあたりの床を。
炎たちが――這い出していた。
「 我 楽 多 屋 敷 で す 、 こ こ は ! 」
【朱殷再燃(シュアンサイネン)】!!
燃え盛る神楽耶のからだである!畳がい草である限り、どれほど黒くても凶に侵されども――この神性が連れる悔悟の炎には善い薪でしかない。
燃えろ、――燃えろよ。燃えてしまえ!
挑発めいたこの炎は、風魔たちに恐怖の対象と刷り込むには十分な燃え上がりを見せたのだ!
ああ、これからなんとかせねばならぬ。
これをはやく止めねば。
――忍べない彼らが、炎の中にいる神楽耶と巽を狙う。
巽は人間であるから。ヤドリガミであり、ひとびとを愛する神楽耶が――その攻撃をすべて請け負う!
「は――ァアアアあああっ!!」
怒気。
それから、炎を乗せた「己」での剣劇である!
何度か派手に剣を重ねてやれば、火花が散り余計に火種を増やすのだ。
火の粉となって燃えたそれを恐れる忍びの顔に「にんげん」を見た女神にあらずである。
――そうでしょうね。恐ろしいでしょう。
炎はすべてを奪うから。
それを知っているからこそ、有効活用してやるのだ!
この炎の明かりが捨て札で、後ろで守られてくれる巽を見せ札に。
巽がある限り彼らがこの迷宮から出れることはあるまい!
――そして、切り札は。
きっと、この漆黒のどこかで戦っている。
影は。
矢来・夕立は。
――あらゆる“殺し方”を考慮する。
それは彼が今までに数多の命を殺してきたからだ。
その罪からも悪行からも、逃れる気はない。逃れられはしないのだし、それも自分の決めたことである。
風魔ならではの本格忍術など見せられたところで、的確に打ち返すだけを考えていた。
「風魔は親喰らいの血統と聞きました。」
本当ですか?
と、首をかしげながら、細くて長身の体を揺らす彼である。
「“呪いを継承する忍び”だとも。」
――おとぎ話のように。
きっと、うわさが尾びれ背びれをつけて伝説と相成ったのだろうか。
ひとごろしの集団である。
サムライエンパイアでは――それらが存在を求められていたのだ。
そして、ようやく彼が頭領の前に立つのである。
風魔は、凪いでいた。
己よりも小さき命である、未来に生きる忍びである夕立のまなこを見た。
「そんなのに怨まれたらどうなるのか、気になったので。」
「それが、戦う理由か。――忍びよ」
「はい。」
嘘でない。
――声に惑いはなかったのである。
殺し続けてきた、葬り続けてきた。夕立は――『虚言嘘吐き暗殺奇襲、ダメ押し一手のだまし討ち』。
悪辣に、そして生きることに効率よく生きていて自他ともに認める悪党なのである。
散った折り紙たちは彼の所業が今を生きるものであるから、過去である風魔どもを葬っていくように。
きっと最後のともしびが消えてしまうまで、誰かに呪われて力を獲て生きていく。
影の終末を心得ていたから。
ちり、と喉に痛みが走った気がして首に手を触れる。
スーツの下が汗ばんでいたのは、きっと友たる女神の火力のせいだ。
「あなたに怨まれそうな、ひどい“殺し方”を考えて――オレなりに、“考慮して”きたので。」
――怨んでくれるまで殺します。
礼儀正しく。過去に生きて「死んだ」彼に。暗殺者たる夕立は、己の折り紙と共に一礼したのだ。
「ご指導の程。」
すらりと。
己の「災厄」と呼ばれるナイフを握った。斬ることしか出来ない道具である。しかし、それが今この場には一番適していた。
「――応。」
やはり。
この時代の忍びとは――同じ陰に生きるものだとわかれば、態度も変わるものだなと微笑んで。
「では、暫し現世へ暇乞い。」
赤い花が、夕立の首から咲いた。
「――っ、」
彼岸花とも牡丹とも言い難いなと、揺らいだ視界と慄く小太郎をぼんやりとさせて赤にピントを当てたのである。
自刃だったのだ。――しいて言うなら、咲いた花は椿だったのだろうか。
彼の首が地面に落ちる。
ようなことは、無いのだけれど。
「――ウソですよ。」
本気にしないでくださいね。とあふれる口元から血泡になった言葉である。
【 神 業 ・ 影 暗 衣 ( カ ミ ワ ザ ・ カ ゲ グ ラ イ ) 】 ! !
発動されたその技の代償のうち「流血」を選んだのだ。得られるのは肉体の超強化である。
――だから今の夕立はかまいたちよりも早い!
風を切って風魔の背後を取って見せた影があった。
風魔が、己の残像にまだ視線を向けていた。
大きな頭だな、とぼんやり思う。どうやって切り落としたものかも悩む。しかし――この場に、彼だけでないのは分かっていた。
己の耳元でささやく怨念どもがある。己の悪事の数だけ殺された誰かがいる。
――この群れに、この風魔も宿るのだと思うと。
微笑みが増す、夕立なのだ!
ばづんばづんと膝二本を切断された風魔が浮いた。
「が――、」
ごろんと派手に転がった彼の体を見た巽が。
「おや、大きなだるまだ。これは、演技がよいですね。」
――黒い冗句である。しかし、その顔はやはりさわやかなままで。
この空間を維持する必要もあるまいと――ゆったり、手を放した。手からは汗が滴り落ちて、震えてばかりであったが。
凶将の空間でそれにささげた霊魂に満足しただろうか。なんてもう後のことを考える彼である。
「わたくしにとって最強の忍者は、この、死んでも殺しにかかる友達なもので。」
炎を絶えず燃やしていた、神楽耶が渦をかきわけて現れた。
お疲れ様です、と首から血を垂らす夕立を見る。
夕立は、己の傷跡を押さえて頷いた。――あまり友達に見せるようなものでない。そして、今は声も出ない。
彼なりの配慮に、神楽耶がまた微笑みを深くしてから大きなだるまとなったその過去に笑う。
「燃やして差し上げましょうか。」
せめて、人間らしく弔おうかと。
――非・女神が笑うのだ。
「――此度の戦場は、己らの負けのようだ。」
燃やせ。と乞うた百面鬼があった。
「ええ。と言ってあげたいのですけれど。」
だるま、一閃。
「うん、縁起の良い墨入れです」
真っ二つに割れた過去が、驚いた顔をしているのだ。
さらさらと黒煙が撒きあがっていく。それに聞こえているかわからないが。
「ごめんあそばせ。どうも、女神でないもので。」
いたずらっぽく。
赤い着物を翻して彼女が、人らしく葬ってやらなかったのを見て夕立も目を伏せる。
――それでいい。
巽が彼に視線を向けて、帰りましょうかと声をかけた。
いつも通りに、いつもの調子で。
・・・
また――猟兵たちのいつもが、進んでいく。
明日もまだまだ戦火の中であれど此処に集まった猟兵たちが、互いの未来を信じて守り合わんことを。
――願っている世界が、あっただろう。
大成功
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