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エンパイアウォー③~炎天撃滅戦:信州上田城の戦い

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●――山岳への布陣
 徳川幕府軍は東海道へ八万、中山道へ二万を差し向けた。
 目指すは畿内への玄関口である関ヶ原。
 その中山道の要衝である『信州上田城』周辺は、魔軍将の一人である軍神『上杉謙信』の軍勢が既に制圧している。
 上杉軍は鼠一匹漏らさぬ構えで中山道を封鎖中だ。
 中山道方面軍の壊滅を阻止する為には、猟兵の力で『信州上田城』の上杉軍の力を削ぐ必要がある。
 早い話、徳川軍が到着する前に我等猟兵が先触れとして奴等を蹴散らしてしまえば良い。

●――煮え滾る戦場で
「今回は千曲川周辺地域であぶれたオブリビオンを退治してもらいたいと思います!」
 果汁入り氷をバリボリと噛み砕きながら、望月・鼎が説明する。
 ホワイトボードには簡単な周辺図とオブリビオンを表す角の生えた棒人間が書かれており、平仮名で『あたっく!』と添えられている。
「信州上田城が手狭なので、集まりすぎたオブリビオンは城外で待機、って事らしいですね。この外に居る連中を蹴散らすのが作戦目標なんですが……」
 そこまで言って、鼎は言葉を切る。
 滲み出る面倒臭そうな雰囲気を、何人かの猟兵は察した様だ。
「今回の相手が問題でして……この中には別個体と戦った人も居るかもしれませんね。相手は【大火蜂】です」
 それを聞いて、何人かからうへぇと嫌そうな声が上がる。
「この暑い中、火を撒き散らす相手との戦いは堪えますよねぇ……あ、そうそう。この大火蜂、撒き散らした炎をそのまま延焼させる攻撃も使ってきます。山火事となったらえらいこっちゃなので、大変だとは思いますけどその辺の対処もお願いしますね?」
 言うは易し、とばかりに告げる鼎。
 暑さに熱さが加わるこの戦い。
 クールに進めたい所である。


一ノ瀬崇
 夜は少し涼しい……いや涼しくない!
 こんばんは、一ノ瀬崇です。
 暑いですね、皆さんも熱中症や脱水症状にはお気を付けください。
 そしてこの暑い最中に大火蜂が相手です。
 延焼対策や耐熱装備等、取り揃えておくと戦いやすいかもしれませんね。
 皆様のクールなプレイング、お待ちしています!

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 集団戦 『大火蜂』

POW   :    種火
【自身の身体】が命中した対象を爆破し、更に互いを【火事の炎】で繋ぐ。
SPD   :    延焼
【周囲の炎が燃え広がること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【火事】で攻撃する。
WIZ   :    不審火
自身が戦闘で瀕死になると【炎】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:白狼印けい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アレク・アドレーヌ
…この戦争気兼ねなくぶっ潰せばいいから容赦しなくていいがなんというか戦力が、種類が豊富すぎるのはまるで猟兵側のようだ

まぁそれ全部叩き伏せる方も十分に異常だとは思うが戦争だから仕方ない
とは言え相手が炎で虫だから二次災害で火災も考えないといけないが
後の事は後で考えるとして虫には虫をぶつけるという単純な回答を出すことにしよう。

その虫=俺の蹴りだが…やるからには徹底的にやる。


神宮寺・絵里香
【心情】
・信州上田城か。真田の城に上杉が陣取るとはな。まあ…島原行くのにわざわざ越後なんて通らないから、ここらに居てもおかしくはないか。
・で、今回の敵は炎の化生か。相性は悪くないな。というか水使いのオレは天敵か。ま、何だ運が悪かったな。
【戦闘】
・高速詠唱からの範囲攻撃UCで戦場に雨を降らせる。
「これで天はオレ達に味方した。後は弱ったこいつらを狩るだけだ」
・武器は傘と黒剣。破魔と水属性の力を纏わせる。
・戦闘知識を基に戦術を構築して危険な攻撃は見切り、傘で武器受けで対処する。
・蜂の群れを蛇腹剣のように伸ばした黒剣で薙ぎ払い数を減らす。
「数だけは多いが、相性差を覆せるほどじゃねえ」


ニレッド・アロウン
あっつ!?暑すぎませんか!?

転移してすぐに氷の魔力全開にし、翼全体に宿して空を飛びましょう。こんな暑いところ居られますか、私は空に逃げます!

ある程度まで浮き上がったら、翼に宿した魔力を羽全体に染み渡る様にし、氷【属性攻撃】の羽根を勢いよく飛ばしていきます。更に【全力魔法】で再度翼に魔力を宿し、【二回攻撃】も仕掛けていきます。
どーせ他の方が攻撃してくれるでしょうし、私は周辺の炎全体を消化するのも兼ねて、広範囲に羽根をばらまくように行動しましょうかー。

え、相手の目線がこっちを見た?まー、上空だと目立ちますからねー……ふっ、こっちまで飛んで来いやぁ!とその場のノリで【挑発】します。

あっついいいいい!


月隠・望月
この戦争には勝たなければならない。わたしたちの故郷を守る、ために
このままでは、中山道を行く幕府軍は全滅……早く上杉軍の力を削いでおかなければ、ならない

炎の蜂……山火事まで起こしかねないとは厄介な相手。辺りを燃やされる前に倒したい
陰陽呪符を用いて刀に水の属性を付与、水気を纏った刀身で敵を斬りつけよう(【属性攻撃】)。火を使う敵ならば、水には弱いのではないか、と推測する
敵の攻撃への対策として、陰陽呪符で霊力の障壁を張り(【オーラ防御】)、更に障壁に【火炎耐性】を付与。これである程度は敵の炎を防げる、はず

敵のユーベルコードは【反術相殺】で可能な限り打ち消したい。周囲への延焼被害は防がなくては、ね


ステラ・テルキーネス
【心境】
「気のせいでしょうか?虫/炎なオブビリオンが多いような…」
気のせいですよねー。
今年も夏は熱いですから…。でも厚くはない…

【行動】
ふう、熱いです。
暑いじゃなくて熱いです。

多分元凶はアレですねー。みなさん即斬と行きましょう。
低レベルですが『火炎耐性』で頑張って耐えつつ、戦闘開始です。
熱さには冷気。
UC:冷凍凍結波で凍らせた後。≪ステラ・テルキーネスの右前脚≫で『串刺し』した後≪ステラ・テルキーネスの左前脚≫で『吹き飛ばし』という『2回攻撃』ですね。
これ以上炎出されて熱くされたくないです(注:切実)


他猟兵との連携とアドリブ:OKです。



 信州上田城周辺、千曲川上流域。
 木立が並ぶ原風景の中を忙しなく飛び回る赤い影。
 オブリビオン【大火蜂】は特に目的も無く周囲を巡行していた。
 全身を燃え上がらせ周囲の気温を徒に上昇させているが、まだその炎は他へと燃え移っていない。
 時折別個体と戯れながら飛び回る姿が見受けられる。
 警戒らしい警戒もせず、本能の赴くまま自由に過ごしている様だ。
「って事は、仕掛けるタイミングはこっちで決められるか」
 様々な陰陽術が籠められた御札『陰陽呪符』から水を孕むものを抜き出して揃えながら、月隠・望月は木陰に映る焦熱の揺らめきを眺めていた。
 五行に於いても水は火に剋する。
 単純と言えば単純な発想かもしれないが、物事はいつだってシンプルなものだ。
 愛用している『無銘刀』に水の気を這わせれば、刀身は青白く薄い輝きを返す。
「で、今回の敵は炎の化生か。相性は悪くないな。というか水使いのオレは天敵か。ま、何だ運が悪かったな」
 軽く手首や足首を回して準備運動をしているのは神宮寺・絵里香。
 水に深い関わりを持つ彼女は此度の戦場には打って付けだろう。
 強ければ文字通り焼け石に水として抗う事も出来るだろうが、流石に大火蜂達だけでは火力が足りなさそうだ。
 仕込傘の『擬槍 蛇乃目』と黒剣『黒蛇剣 ウルミ』は既に破魔と水の力を纏っており、その柄を僅かに湿らせている。
「気のせいでしょうか?虫/炎なオブビリオンが多いような……」
 ステラ・テルキーネスは戦場を見渡しながらぽつりと呟く。
 正確な数は分からないが、遠目に見ても十以上の赤が鮮やかな緑の中に垣間見える。
 名の通りテルキーネス型のバイオモンスターである彼女は熱や熱さは好みでは無い。
 夏と言う季節を楽しむ以上の熱量は御免被りたい、と言うのが彼女の切実な本音である。
「この戦争、気兼ねなくぶっ潰せばいいから容赦しなくていいが……なんというか戦力が、種類が豊富すぎるのはまるで猟兵側のようだ」
 オブリビオン達の面構えを眺めながら、アレク・アドレーヌは思考を巡らせる。
 我等猟兵達も千差万別、それこそ適当に思い付いた特性やら見た目やらを列挙すれば誰かしら該当者が見付かる程度には層が厚い。
 対するオブリビオンも、よくもまぁこれだけのバリエーションがと思うくらい様々な姿形をしている。
 雑多極まる争いの、最も有効な解決法が気にせず全て叩き伏せる、に集約されている辺り業が深いと言うか何と言うか。
 そんな取り止めの無い事を考えながら、アレクは木陰から漂ってくる冷気に思わず身を震わせる。
「幾らなんでもやりすぎじゃないか?」
「あっついから仕方無いんですー」
 アレクの声にやる気無さげな返答をするのはニレッド・アロウンだ。
 転移するなり「あっつ!? 暑すぎませんか!?」と言って氷の魔力を全開にし、飛び上がった。
 空高く飛ぶと見付かるから仕掛けるまではやめろ、と絵里香に言われたので渋々大きな木の陰に隠れて日差しを遮りながら涼み続けている。
 夏の暑さ自体には適応しつつあるが、相手が大火蜂と言う見るのも戦うのも暑苦しいオブリビオンなので嫌悪感と倦怠感が一遍に着ているらしい。
「見てるのも暑いですし、とっとと倒しちゃいましょうよー」
「あはは……まぁ、そろそろ仕掛けるってのはボクも賛成かな」
 氷の魔力で作った膜に寝そべってごろごろしているニレッドに苦笑いを向けつつ、ステラも声を上げる。
 好い加減、じりじりと照り付ける太陽を背負うのにも飽きてきた所だ。
 それじゃあ行くか、と皆が視線を交し合う。
 太陽はそろそろ中天へと差し掛かろうとしていた。

 理由も目的も無く無為に過ごす大火蜂達。
 彼等の頭上を、不意に影が遮った。
 見上げれば先程まで雲一つ無かった筈の快晴が、今や黒い雨雲に覆い隠されている。
 何事かと思う暇も無く、突如空が泣き始める。
 ぽつり、ぽつり。
 数秒そんな音を聞いたと思った途端、周囲を雨粒が打ち鳴らした。
 葉を揺らし、幹を伝い、地で弾け、根に染み入る。
 普通の生き物には恵みの雨となるそれも、大火蜂達には濃硫酸の刺突と大差無い。
 堪らず木陰へと飛び向かっていく大火蜂達であったが、一匹の行く手に一瞬、銀色の輝きが揺らめいた。
 ぱちゅり、と水気を多く含んだ破裂音が鳴る。
 首と胸を切り離され炎の残滓へと姿を変える大火蜂の向こうに、刀を構える望月の姿が有った。
 力無く羽ばたく胸の隣に揺らめく炎が生まれるが、頭が地に落ち水飛沫を散らすのと同時に炎も勢いを失う。
 その炎も両断せしめて、彼女は小さく呟いた。
「先ず一匹……」
 刀身に纏わり付く炎の残滓を払い捨て、望月は間髪入れず次の大火蜂へと襲い掛かる。
『――――!!』
 此処に至り、漸く猟兵の襲撃と気付く大火蜂達。
 顎をカチカチと打ち鳴らして近くの木々へと炎を燃え移らせて行くが、その炎は直ぐに雨で消し止められる。
 ならばと一匹が望月を狙って飛び向かう。
 狙うは【種火】による爆破。
 着火させても【延焼】同様、降り注ぐ雨がその炎を消してしまうだろうが、爆破の熱と衝撃までは防げまい。
 そう考えての捨て身攻撃を行う。
 しかし、大火蜂の身体は突如中空で止まり爆発を起こした。
「張って置いて正解」
 望月の周囲には陰陽呪符を用いて張り巡らされた障壁が有る。
 ご丁寧に火炎耐性まで付与されたそれは大火蜂の攻撃を完全に受け止めていた。
 予想だにしない箇所で攻撃を止められた大火蜂に、露の太刀が迫る。
 受け止める事も回避する事も出来ずに切り捨てられる。
「おっと、そうはさせない」
 大火蜂が瀕死になった事で生まれる【不審火】による炎。
 それをユーベルコード【反術相殺】で打ち消す。
 先に一度目にしていたので、対処は容易だ。
 燃え上がる事も許されずに消えていく炎を見送りながら、望月は次の大火蜂を見定める。
「この戦争には勝たなければならない。わたしたちの故郷を守る、ために」
 炎を消し止める戦いをしながら、されども内には大火蜂よりも熱い決意を。
 カチリと鍔を鳴らして、彼女は次の獲物へと向かって行った。

「大火蜂。燃え盛る火炎であり、オブリビオンだ。しかし蜂の姿を取ると言うのなら、扱いは虫で良いだろう」
 静かに染み渡る声を掻き消す様に、飛翔音と激突音、そして爆発音が枝葉を揺らしていく。
 哀れにも攻撃に巻き込まれた草木は地にその身体を横たえているが、悼む余裕は何処にも無い。
「とは言え相手が炎で虫だから、二次災害で火災も考えないといけないが」
 零れ落ちる声とは裏腹に、周囲には雨粒が止め処なく注がれている。
 爆発の余波が葉筋を煽るも、発火には至らない。
「後の事は後で考えるとして、虫には虫をぶつけるという単純な回答を出すことにしよう」
 声の主、アレクはユーベルコード【フォームチェンジ・ローカストペスト】を駆使して大火蜂と渡り合っていた。
 凄まじい数の飛蝗の群れを従えて、真の姿へとその身を移す。
 変化するのは生体外骨格。
 依り代となる人体への影響は最小限に、目まぐるしい程の変化が起きる。
 四肢は長く伸び節くれ立ったものへと変わり、頭部は上へと迫り出しより広い視点を得る。
 昆虫とエイリアンの中間の様な節が、妖しい光沢を湛えた外骨格が、大火蜂の炎に煽られ鈍く光る。
「そのぶつける虫と言うのは、俺の蹴りだが……やるからには徹底的にやる」
 アレクは変化した己の体の調子を確かめる様に二、三度軽く跳ねる動作をした。
 その着地の瞬間、地面が爆ぜる。
 大火蜂がそれに気付いた時には既に眼前へとしなやかに伸びる脚が迫っていた。
 ぷぅん、と力を失っていく羽音と共に、蹴り倒された大火蜂の胴体が後ろ向きに倒れていく。
 水溜まりを羽で叩きながら【不審火】を生み出していく。
 だがその炎も、たっぷりと雨を浴びた飛蝗の群れが喰らい尽くしていく。
 身を焦がす熱でさえ、飛蝗に取っては効率の良いエネルギーの摂取対象でしかない。
 体当たりによる【種火】も飛蝗の群れに阻まれてアレクには届かない。
「普段は味方を含む周囲への被害が増えるばかりだから使わずに居るが」
 一歩踏み出すと、水を含んだ砂利が擦れて悲鳴を上げる。
 足元を流れ行く雫の川よりも更に深い飛蝗の海が、じわりとその身を前に進ませる。
「虫が相手なら遠慮は要らんよな」
 もう一歩前へと踏み出す。
 感情等持たぬ筈の大火蜂が、僅かに下がる。
 その所為で葉の天蓋から身がはみ出し、容赦無く体の熱を奪っていくのにも気を留めず。
「嘗ては天災とまで呼ばれたその意味、身を以って味わうと良い」
 ぞぶり、と飛蝗の群れが波打つ。
 周囲に炎を撒き散らしながら飛び惑う大火蜂達だったが、次々と飛蝗の海に飲み込まれていく。
 数瞬後には、雨に塗れた地面が表面を水に浚われていくばかり。
 中には気炎を上げてアレクへと突撃を仕掛けてくる個体も居るが。
「数を生かせない以上、勝ち目は無いな」
 単騎では話にならない。
 翅を使っての飛翔で躱され、通り抜けた所へ踵落としを喰らう。
 あっさりと首を刎ね飛ばされ地に墜ち、飛蝗の海へ沈む。
 周囲の気配を探れば、最早動き回るのは飛蝗だけ。
「…………これ、呼び戻すのが面倒なんだよな」
 大火蜂を喰らい尽し暇潰しにとその辺の草木を噛み始めた飛蝗達を一纏めにするのに、アレクは少しばかりの労力を使う事となった。

「雨で幾らかマシとは言え、やはり近付くと暑いし熱いです!」
「あっついいいいい!」
 一方熱に参っているのはステラとニレッドのコンビ。
 ステラはユーベルコード【冷凍凍結波】を、ニレッドはユーベルコード【彩翼矢砲】を主軸に戦っている。
 冷凍ビームに羽根の弾幕とどちらもアウトレンジでの戦いな筈だが、攻撃の余波で届く熱波に辟易している様だ。
 対する大火蜂は冷気に晒されて動きを大きく鈍らせながらも、生み出した【不審火】を駆使して如何にか耐え凌いでいる。
 凍り付いてしまった個体はステラの右前脚の串刺しと左前脚の吹き飛ばしを受けて、粉々に吹き飛ばされていく。
 その隙を狙う大火蜂はニレッドの羽根による射撃で足止めを喰らい、時には氷の魔力に身を包んだ特攻紛いの体当たりで牽制されている。
 二人に被弾らしい被弾は無いのだが、それでも熱さには参っているらしい。
「あーつーいー! 雨降ってて氷撒かれてるんだからもっと冷えててもバチは当たらないと思うんですけどぉぉ!!」
「ボクなんか表面は凍ってるとは言えあの燃えてる身体に直接グサってやってますからね!?」
 互いに熱い熱いと愚痴を言い合いながら手当たり次第に大火蜂を蹴散らしていく。
 直接止めを刺しに来るステラへ向かっていた大火蜂達だったが、その内の数体が投げ付けられる羽根に業を煮やしてかニレッドへと突っ込んでいった。
「おっ、やる気ですか? やんやん? ……ふっ、こっちまで飛んで来いやぁ!」
 湿度も相俟って鬱蒼しい暑さと熱さに辟易していたニレッドは挑発しつつ更に高く飛び上がる。
 それを追って大火蜂達もまた空へ。
 遮蔽物の無い空は燃え盛るその身へと容赦無く雨粒を降らせて行くが、大火蜂は全身から水蒸気を巻き上げながらも飛ぶ速度を緩めない。
 投げ付けられる羽根の回避も最小限に、真っ直ぐニレッドへと向かう。
「その根性は認めましょう! しかし一人で戦っていると勘違いしている様では勝てませんよ!」
「ニレッドさん、今っ!」
 地表から発せられた声に従い急制動を掛けて、真下へ進路を変える。
 それを追って自身も落下しようと動きの止まった瞬間、一筋の青い光が天上へと延びる。
 全てを凍らせる輝き。
 貫かれた体躯は一瞬にして凍り付いていく。
 羽ばたく事さえ侭ならずに大火蜂達の氷像はその力を失い、地面へと叩き付けられていった。
 砕け散ったその欠片も、流れる水に溶けて行く。
「よっし、大成功!」
「やしましたね!」
 ステラとニレッドは手を取り合って作戦の成功を喜ぶ。
 ニレッドが飛び上がって行った際にばら撒いた羽根を受けて、ステラを注視していた地表付近の大火蜂は全滅。
 逆にニレッドを追って行った大火蜂達を、ステラが纏めて撃ち抜いたのだった。
 事前の打ち合わせも無しにこの連携を決める辺り、二人の錬度の高さが窺える。
「はー……帰ったら取り敢えず扇風機に当たりながらアイス食べたいですね」
「さんせーい」
 戦いの気配が去って、残るのは脱力した女性が二人。
 迎えが来るまで、暫し歓談して休息を取る事にした。

「信州上田城か。真田の城に上杉が陣取るとはな。まあ……島原行くのにわざわざ越後なんて通らないから、ここらに居てもおかしくはないか」
 戦いが繰り広げられる最中、絵里香はこの戦いの後の事に思考を巡らせていた。
 敵の陣容、打ってくる策、対応すべき事柄、早めに潰しておきたい敵の情報。
 それらを頭の中で纏めながら、ぞんざいに両手の得物を振るう。
 攻め寄せる大火蜂とそれが生み出す炎は傘が全て容易く受け止める。
 破魔と水の気を纏った傘を突破出来ぬ以上、大火蜂に何一つ有効な攻撃手段は無い。
 戦場が乾燥している状態なら幾らでもやりようは有っただろう。
 木々への【延焼】による熱波と、炎を燃え広がらせる事による酸欠。
 どちらも人の身には脅威だ。
 しかし周囲を埋め尽くすのは雨雲から降り注ぐ大粒の雨。
 それらは大火蜂達の力を奪い、絵里香の力を強化していた。
 絵里香が強化されれば、当然降り注ぐ雨の量も質も比例していく。
 これが他の猟兵相手であれば、少なくとも手傷を負わせる事くらいは難しくない筈だ。
 それが、今や手も足も出ず蹴散らされるのを待つばかり。
 大火蜂に取って唯一の幸運と言えば、現状を悲観して心が押し潰されると言う心配が要らない事くらいだろう。
 それでも眼前の猟兵を排除すべく、大火蜂達は知恵を絞る。
「……ん、集まり始めたか」
 大火蜂達が選んだのが群れを成す事。
 一体一体の火力は低くとも集団となり一体の巨大な大火蜂と化す事で立ち向かおうとしている。
 鰯が群れを成し一つの巨大な魚影を装う事で、捕食者たる他の魚から逃れる様に。
「数だけは多いが、相性差を覆せるほどじゃねえ」
 通常の相手で有ればそれも有効な手段であっただろう。
 だが、余りにも相手が悪い。
 絵里香は黒剣を巧みに操り、群れの外側から丁寧に一体ずつ葬り去って行く。
 見る間に戦力を削られていく大火蜂達は慌てて隊列を組み直そうとするが、それ以上に黒剣が薙ぐ速度の方が速い。
 ならばと一丸になって突撃してみても、傘に防がれ攻撃は届かない。
 あんな小さな傘の直径が、越えられない。
 大人が両手を伸ばせば軽々とはみ出してしまう程度の大きさの傘が、大火蜂達には地平線の先まで伸びる巨大な岸壁に見えていた。
「そろそろ他の奴等も戦い終わった頃だろ」
 ぱさり、と傘を畳む絵里香。
 防ぐ壁が無くなった筈の猟兵に、大火蜂は殺到する所か怯える様な仕草を見せる。
 感じ取ったのは全く逆。
 此方が自由に攻撃出来ると言う勝利への想像ではなく、檻に繋がれ如何にか暴れ回るのを凌げていた猛獣が全身の枷を外した様な、破滅への想像。
 オブリビオンと猟兵、そんな対等な相手としてではない。
 自分達が無力な獲物となり逃げ惑う、一方的な狩り。
 その予感。
「お前らは此処で終わりだ」
 ひゅいんひゅいん、と独特の風切り音が鳴る。
 蛇腹剣の様に自由自在に太刀筋を変える刃は、しかし一切の無駄な軌道を描かず大火蜂の身体を両断していく。
 自棄を起こして飛び込む事も、恐れ戦き逃げ惑う事も許されぬまま、大火蜂達はその炎を消し飛ばされていく。
 最早身に纏わり付く水を蒸気に変える事すら叶わない。
 最後の一体が消え失せるまで、数秒と掛からなかった。
「良し」
 黒剣を戻し、雨雲を止める。
 周囲に大火蜂の気配は一つも残っていない。
 他の皆も戦闘に勝利した様だ。
 水を操り濡れた服を一瞬で乾かし、絵里香は空を見上げる。
 眩い太陽の下に、二つ、虹の橋が架かっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月08日


挿絵イラスト