エンパイアウォー③~剣林弾雨の山岳戦
「さて、さて。前々から予兆はあったけれども、ようやく事態が決定的になったね。第六天魔王・織田信長が動き出したよ」
俄かに慌ただしさを増すグリモアベース、その一角でユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)が集った猟兵たちを前に説明の口火を切っていた。
「徳川幕府はこれに対抗すべく、首塚の一族と軍勢十万を率いて討伐の為に出陣した……のだけれども、当然相手も座してみているほど甘くはないようだ」
信長旗下の諸将もこれに反応、決戦の舞台となる関ヶ原へと向かう徳川軍を削り取るべく手を打ってきていた。このままでは天下分け目の大戦を前にして戦力を大幅に失ってしまうだろう。猟兵たちに求められるのは、敵の企みを打ち破り徳川軍を可能な限り無傷で戦場へと送り届ける事である。
「今回、君達に対処して欲しいのは、信州が上田城に集結した軍神『上杉謙信』配下の軍勢だ」
江戸五街道の一つ、中山道。その要衝に位置する信州の上田城は軍神『上杉謙信』によって制圧され、今では敵軍の拠点と化している。彼らはそこへと軍勢を集結させ、中山道を進行してくる徳川軍の殲滅を狙っているのだ。しかし、如何な軍神であろうともどうにもならぬことは存在する。
「幸いなことに、上田城は防衛力こそ強固ではあるものの、城としての規模はそこまで大きくない。上杉謙信が引き連れてきた手勢も当然城内には収まり切らず、三々五々に周辺へと散っているようだ。であれば、勝機はある」
山城故に周囲には鬱蒼と森が広がり、崖や険しい斜面など地形も入り組んでいる。つまり迎撃には不利で、奇襲にはうってつけのシチュエーションだ。大部隊と真正面からぶつかり合うならばいざ知らず、互いの連携も取りにくい状況であれば確固撃破も容易であろう。一度に討ち果たせる敵数も多くはないが、それでも数を重ねれば相当な痛手になるはずだ。
「上杉謙信の軍勢を減らせば、それだけ中山道方面軍への損害も抑えられるだろう。幾ら軍神と名高い大名とは言え、戦争はやはり数だからね。それを削られるのは中々に堪えるはずだ。十分な数を削り取れれば、彼らも撤退を選ぶ可能性だってあるだろうね」
本番は関ヶ原の決戦ではあるが、その前哨戦の結果によってどのような状態で戦いに挑めるかが変わってくる。可能な限り万全の状態で関ヶ原へ辿りつけるよう、今は死力を尽くすべきだろう。
「上様指揮の下で行われる一大決戦……錦の御旗に傷がついてしまっては、申し訳が立たないからね」
くれぐれもよろしく頼むよ? そう話を締めくくると、ユエインは猟兵たちを順次転送するのであった。
月見月
どうも皆様、月見月でございます。
今回は集結しつつある敵軍を迎撃していただきます。
それでは以下補足です。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●成功条件
敵戦力の殲滅。
●プレイング採用について
参加頂ける人数にもよりますが今回は戦争シナリオの為、成功数に達した場合プレイングを流す場合がございます。
御了承の程、よろしくお願い致します。
●戦場
江戸五街道の一つ、中山道が要衝『信州上田城』の周辺。強固ではあるものの手狭な城の為、収容しきれなかった敵軍が周囲へと散り各々が迎撃態勢を整えています。
各部隊の人数は10~20個体程度。互いに距離が離れている為、次々と敵が集まって囲まれる等の心配はありません。
周辺は山岳地帯で険しい傾斜や鬱蒼とした木々が広がっている為、身を隠したり利用できる地形には事欠かないでしょう。
●敵
集団敵『兵器百般』。怨念を吸って独りでに動く、多種多様な武器の群れです。
知覚能力や範囲は通常の人間と変わりませんが、気配や殺気などには敏感なようです。比較的好戦的な傾向にある為、余程の事が無い限り逃走を考えることはないでしょう。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『兵器百般』
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POW : 騒霊カミヤドリ
【纏っている妖気の色が血のような赤】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : ひとりでに動く武器
【念動力で浮遊すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【自身が持つ武器としての機能】で攻撃する。
WIZ : 武器の知恵
技能名「【武器攻撃】【武器受け】【戦闘知識】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
イラスト:童夢
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シャルロット・クリスティア
戦いとは、正面からのぶつかり合いの前に八割がた決まる……なんて話もよく聞きますが。
籠城戦ならいざ知らず、こんな地形で兵力を散らすなど、軍神の名が泣くというものです……!
森の中であれば、身を隠す場所には事欠かない。
【地形を利用】し、【目立たない】ように身を潜めながら接近。
物陰からの【スナイプ】で一体ずつ仕留めます。
本能のままに動くなら、目立たぬ相手を追うのは難しいでしょうし、居場所を取られないよう、こまめに位置は移動しつつ。
気取られると厄介です。
基本的にはしっかり狙っての一発必中、一撃必殺を心がけましょう。
確実に一体ずつ数を減らしていきます。
ファン・ティンタン
【SPD】能力が似ていても
…さて
敵がまばらに散開しているとは言え、一まとめに相手するのは面倒だね
ここは久し振りのUC慣らしも含めて、奇襲狙撃、やってみようか
【白刃の矢】の現最大射程は約2.4Km
離れすぎると視認精度が落ちそうだから、1kmくらいにしておこうか
一方的に視通を通せるような、【地形の利用】が可能な高所の岩場に陣取ろう
今回は、【歓喜の細剣】に活躍してもらおうかな
細剣に魔【力溜め】を実施、雷の【属性攻撃】用に魔力の質を変換
…っと、直接忍び寄って奇襲する勢もいるね、留意しておこう
十分溜めが出来たら敵群へ【投擲】
着弾威力による【範囲攻撃】と大放電の【2回攻撃】
金物に電気は、良く通りそうだね?
セルマ・エンフィールド
大規模な戦いでの戦略などは分かりませんが、敵の数が減ればそのぶん楽になる、というのは分かりやすいですね。
崖などの高所の『地形を利用』し、茂みや木などで身を隠して『目立たない』ようにしつつ『視力』で索敵を。
敵を見つけ次第【氷の狙撃手】で狙い氷結させて『暗殺』していきましょう。
全て遠距離で仕留めることができればそれが最善ですが、敵は殺気や気配に敏感とのこと。察知され仕留めきれない場合もあるでしょうし、遠距離攻撃が厄介な弓や銃を優先的に狙います。
剣や槍などが飛来してくるようならフィンブルヴェトでの『武器受け』からの『クイックドロウ』したデリンジャーの『零距離射撃』で『カウンター』を。
●開戦:刃鳴り散らすは銃弾の調べ
うっそうと木々が茂る山岳地帯。その中を、無数の武器が音も無く徘徊していた。使い手の姿はない。当然だ、それらは怨念を吸い上げ、独りでに動くようになった兵器の群れなのである。
『……周囲、敵影無し。異常を認めず』
『善き哉。嗚呼、だが。血が、肉が。物足りぬ』
軍神上杉謙信配下のそれらは山中を巡回し、敵の侵入に備えていた。攻撃が無い事は喜ばしい一方、武器の性分として血肉を切り裂くことを求めているようである。無機質ながらも、それらはどこか苛立ったような雰囲気を帯びていた。
『山野の獣は、既に悉くを斬り捨てた。嗚呼、待ち惜しや徳が……!?』
パァン、と。ぶんぶんと切っ先を弄んでいた太刀が、根元より砕け散った。瞬間、他の兵器群は取り乱すことなくピタリと動きを止め、索敵と警戒の為に沈黙し始める。
彼らは即座に理解していた。山間へ鳴り響きし炸裂音は、紛れもなく銃声。つまりそれは、狙撃手による攻撃に他ならないのだと。
「戦いとは、正面からのぶつかり合いの前に八割がた決まる……なんて話もよく聞きますが」
鼻孔をくすぐる硝煙の香りを感じながら、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は己の狙撃結果を照星越しに確認していた。あの様子では最早戦えまい。戦果に一を加えつつ彼女は愛銃より頬を離し、木の幹の裏側へと身を滑り込ませる。
彼女は兵器群から百五十メートルほど離れた、茂みに囲まれた大木を狙撃地点としていた。
「籠城戦ならいざ知らず、こんな地形で兵力を散らすなど、軍神の名が泣くというものです……!」
群れよりはぐれた獲物を刈り取るは狙撃手の本領。相手が人間並みの知覚を持っているという事は、逆説的に人間相手の技術も通じるという事でもある。音も無く忍び寄り、身を隠し、狙い撃つこと自体はそう難しくは無かった。
「とは言え、それに胡坐を掻いて同じ場所に留まり続けるのも下策。一射毎に場所を変えるくらい、臆病なほうが丁度良いでしょうか……っ、と」
玉薬と鉛玉を流し込みながら、シャルロットが居場所を変えようとしたその時。纏った妖気を鮮血の如き紅に染め上げながら、兵器群が次々と彼女の居る方面へと攻撃を仕掛けて来た。
『望んダ敵ぞ! 敵ガ、生きタ血肉ぞォッ!』
銃弾が来たであろう方向へ斧や棍棒が扇状に散開しつつ殺到し、その背後から弓矢や弩の敵が射撃を行っている。それによって木々がなぎ倒され、木端の粉塵が舞い散ってゆく。
無論、シャルロットの居場所を完全に把握した上での行動ではない。敵が潜んでいそうな居場所へ牽制を放ち、反射的に反応を誘発させ炙り出すという戦術だ。
「打つ手としては単純ですが、それ故に少しばかり厄介ですね」
当然ながら、彼女もそんな浅い手に乗るつもりはない。だがこのまま動かなければ確実に発見される一方、捕捉されぬ程度の速度で移動しても索敵から逃げ切れるかは微妙な所だ。人の手に握られた武器ならいざ知らず、相手は浮遊し独りでに動いている。足元の良し悪しなど関係ない。
「誰か、相手の気を逸らしてくれると助かるのですが……」
そう一人ごちたところで、周囲に耳を傾けてくれる仲間の姿は無い。狙撃手とは孤独な存在だ。しかしだからこそ、分かる事もまた存在する。彼女はそっと、自分から見て二時の方向へと視線を向ける。
「もし、私だったら……相手の意識が他方に向いているこの機会を、見逃しませんけどね」
それは先と同様、独り言だ。己以外に聞こえる者などいない。だが、果たして。
――タァン。
発砲音の残響と共に敵後方の弩を撃ち抜いた第二の銃弾は、彼女が向けていた視線の先より放たれたのであった。
「大規模な戦いでの戦略などは分かりませんが、敵の数が減ればそのぶん楽になる、というのは分かりやすいですね」
第二射を放ちし狙撃手、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は弾丸に射抜かれた弩が氷に包まれてゆく様子を、スコープを通して視界に捉えていた。
「そしてそれ以上に……同じ狙撃手の習性も」
彼女もまたスコープより視線を外しつつ、十時の方向へ視線を向ける。無論、そちらに居るシャルロットの姿は見えないながらも、同じ狙撃手が居るであろうことを確信していた。
狙撃手は戦闘に当たって、大抵予め狙撃に適した場所に目星をつけておく。卑怯な死神は身を晒すことを何より恐れ、一所に留まる事を嫌うからだ。攻撃を受けた兵器群ならいざ知らず、セルマ程の技量を持つ者であればたった一射からでも居場所の割り出しは容易だった。
「まぁ、こうまで似通うとなると、もう一人も私と同じマスケット銃の使い手でしょうかね。ある意味、やりやすいとも言えますが」
奇しくも現状、兵器群に対して十字砲火が形成されている。一方からの攻撃を避ければ、もう一方の射線へ身を晒してしまう、強力な陣形。同じ得物を手にする者同士、戦術や思考も相通ずるものだ。もう一人の狙撃手が移動するにしても、わざわざこの利点を捨てはしないだろうとセルマは半ば確信する。それを裏付けるように、続く第三射はきっちりと彼女の射線と直角で交わる場所から放たれていた。
(さて、と。こちらは大凡予想通りですが……相手はどう出るでしょうか)
彼女も小刻みに場所を変えて射撃を行いながら、相手の動きを観察する。現状、兵器群は対処を決めかねているようだった。こうなってしまえば、相手は敵が何人居て何処に潜んでいるのか、判断が容易でなくなる。暗中模索、疑心暗鬼。そうした心理戦に引きずり込むのも、狙撃手が得意とする駆け引きの一手だ。
『これは察するに火縄の類、か……であれば、連続しての射撃は不得手なはず。然らば、片方は捨て置け。残る一方を各個に数で押し潰してしまえい!』
だが相手も決して馬鹿ではない。彼ら自身が武器であるが為に、それらに対する観察眼や知識自体は相応に高い。相手の得物が火縄銃に似た物であると見るや、兵器群は戦力を集中しての一点突破を選択する。実際、それは正解だ。マスケット銃は単発式、個を狙うのは得意だが群を相手にするとなると、手数がどうしても足りなくなりがちだ。
「こちらに狙いを絞って来ましたか……ですが、得物がマスケット銃だけだと侮らないでほしいですね」
無数の武器が雪崩を打って迫る様子に、セルマはそっと得物をデリンジャーへと持ち替えた。瞬間的な手数であれば、愛銃よりもこの小型拳銃に軍配が上がる。彼女はジリジリとした緊張の中、充分な距離に近づくまで攻撃の機会を伺い……そして。
ドッッッッ、と。突如として飛来した何かによって、敵群が纏めて吹き飛ばされた。濛々と上がる土煙の中を、幾条もの雷光が迸ってゆく。
『何だ、稲妻が……! 入道雲が地に墜ちたとでも言うのかッ!?』
狼狽える相手とは対照的に、セルマの瞳と鼓膜は何が起こったのかをしっかりと捉えていた。遠方より飛翔してきた細剣と、着弾から一拍の間を置いて聞こえてきた風切り音。そこから導き出される答えは。
「……刀剣を弾丸に見立てた長距離狙撃、ですか」
中々派手な手を取る方が居たようですね。セルマはその場から離脱しつつ、感心とも苦笑とも取れる感想を漏らすのであった。
時は細剣が着弾した時より暫し遡る。他の狙撃手たちが敵陣へと忍び寄り、最適な位置を調整していた……その遥か後方。ざっと一キロは離れた山の尾根、草木も疎らな岩石地帯にその白い少女は陣取っていた。
「……さて。敵がまばらに散開しているとは言え、一まとめに相手するのは面倒だね。ここは久し振りの慣らしも含めて……奇襲狙撃、やってみようか」
開かれた紅の左瞳を細めながら、小手をかざすのはファン・ティンタン(天津華・f07547)。彼女の視線の先には、ゴマ粒ほどの点が纏まって動き回っているのが見て取れた。只でさえ表面積の少ない兵器群、よくよく目を凝らさねば気を抜いた拍子に見失いそうである。
「この技の射程距離は現状2.4キロメートル。威力も込めれば籠めた分だけ上がるから心配はないけれど……問題は中るかどうか。それを考えると、ここら辺が有効射程ギリギリだろうね」
風、重力、障害物、射撃時の姿勢や力み。様々な要因で射撃の軌道は容易く変動してしまう。尤も、ファンの放とうとしている一撃の威力であれば、多少狙いが外れても痛打は与えられると踏んでの選択でもある。
「……おっと、あちらも始まったようだね」
彼女の視界の先では、無数の点が慌ただしく動き始めている。距離が距離故に詳細こそ把握できないけれども、それはシャルロットが攻撃を開始したタイミングであった。
「それじゃあ、こちらも下準備を進めるとしようか」
すらりと抜き放ったのは自身たる白刀、ではなく精緻な意匠の施された細剣。これであれば空気抵抗も少ないだろう。ファンはそれを構えると、視線を戦場へと向けたまま得物へ魔力を注ぎ込み始める。十分な威力を発揮するにはそれ相応の溜めが必要だが、それ以上にタイミングが重要となる。
「距離が大分遠いからね。着弾までに時間もかかるだろうし、相手の動きを先読みしなければ掠らせるのも難しそうだ」
幸いにも、複数の仲間が敵集団と相対しているようである。その上、距離を取ったおかげかこちらの存在を感づかれている様子もない。ファンはゆるりと柄を握り、適度な緊張を保ちながら好機を待つ。
戦場ではシャルロットの狙撃に敵軍が反応し、それに対しセルマが横やりを入れ出鼻を挫いている。そのまま十字砲火へと持ち込み、着実に敵の数を削り取ってゆき、そして。
「……動きが変わった、ね」
一点突破を狙った敵集団が一つの塊となる。それがシャルロットとセルマ、どちらの方向へと向かうのか。その兆候を見逃さぬよう、瞬きすら惜しいと敵を睨み……。
「――いまっ!」
敵群がほんの僅かにセルマの居る方向へと揺れた瞬間、彼女は手にした細剣を投擲する。ファンの手から離れた刃は大気を切り裂き、一直線に飛翔してゆく。そしてそれは狙い違わず、敵集団の先頭へと着弾した。
「ほんの僅かに早かった、かな? まぁ、この距離にしては上々だろうね」
距離と土煙により、ファンの場所からは正確な戦果の把握は難しかった。だがそれよりも近くにいた狙撃手たちは、その一撃が見るからに堅牢そうな鉄槌と金棍棒を打ち砕いたのを認めるだろう。
斯くして、信州が上田城における山岳戦は三人の狙撃者の手によって、その火ぶたを切られるのであった。
成功
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落浜・語
奇襲ねぇ
さて、どうしようかな。
『人形行列』を使用。
【存在感】を消し、【第六感】にも頼りつつ、見つかり辛い場所を選んで敵の方へ接近。
敵の中飛び込んで、人形を展開。最近数も増えたし、騎竜さえも吹っ飛ばした、安定と信頼の威力なんで。
周囲の味方には巻き込まれないように注意を促したうえで、一気に爆破して吹っ飛ばす。
物を壊すのはちょっと気が引けるけれども、そうも言ってられないし、早いとこお引き取り願いたいからな。さくさくやって行こうか。
アドリブ、連携可
エメラ・アーヴェスピア
様に戦争、と言った感じね
城に収まりきらない程の軍勢…本当にこれは仕方なく、なのかしら
まぁ、考えるのは後にしましょう、今は撃滅するのみよ
気配や殺気に敏感…ね
まずはドローンを射出、様々な観測方法を使い相手の位置を【情報収集】、把握してからの…
『この場は既に我が陣地』、250台の砲台による奇襲の【一斉発射】、先制砲撃よ
全て機械越しに行うから気配は兎も角、殺気は感知できないでしょう
その後は突撃する同僚さん達の為に【援護射撃】(砲撃)よ
後方支援は任せなさい、一部隊とはいえ手早く行きましょう
※アドリブ・絡み歓迎
●蹂躙:列為す人形、咆哮するは戦場の神
「奇襲と言われて、さて、どうしようかなと思案していたが……こりゃあまた派手にやったもんだな。ありゃ、ティンタンさんかな?」
「様に戦争、と言った感じね。城に収まりきらない程の軍勢に、狙撃の応酬……でも、本当にこれは仕方なく、なのかしら」
山間に残響が広がってゆく中、狙撃手たちとは別方向。茂みに身を隠し様子を伺っていた落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)は眼前の光景に舌を巻き、その横ではエメラが冷静に戦況を見つめている。
丁度彼らの前では、先陣を切った猟兵たちによる狙撃戦が繰り広げられており、その締めを飾った一撃によって濛々と土煙が立ち込めていた。中々の威力ではあったが、濁った白の中で未だ幾つもの影が蠢いているのを認めると、エメラは思考を観察から戦闘へと切り替える。
「っと。まぁ、考えるのは後にしましょう、今は撃滅するのみよ。こんな状況じゃ気配の察知も何もないでしょうけど、警戒するに越したことは無いわよね?」
彼女は魔導蒸気動力で駆動するドローンを取り出すと、煙に紛れこませてそっと戦場上空へと飛ばしてゆく。気付かれる危険性も無い訳では無いが、気配や殺気という点では人間と比べものにならないほど静かだ。
それを横目で見ていた語は数瞬思案した後、人形のような仲間へと提案を持ちかける。
「成程、そいつで敵の動きはこっちに筒抜けって訳か。となると、物は相談なんだが……」
「勿論、同僚さんにも情報を共有させて貰うわよ。支援は慣れているもの」
「有難い。それを踏まえた上で、この後の動きなんだけどな?」
土煙が視界を遮ってくれる時間は、そう長くはない。二人は手短にお互いの動きについて打ちあわせると、時間を無駄にせぬようそれぞれ行動を開始する。
『鉄槌、金棍棒、共に崩壊。重藤弓、弦切れ。他の物は細かな罅、傷無数なれども戦闘に支障は無し』
『この身は堅木、鉄と鋼にて成る物なれば、この程度で折れはせぬ。索敵を密に、奴らを狩り立てるべし』
徐々に土煙が晴れ、兵器群が統制を取り戻し始める。戦力を削られたものの、それでもまだそれなりの数は揃っている。それに、と兵器たちは一様に同じ考えを抱く。
初戦は後塵を拝したとはいえ、猟兵は遠距離戦に徹していた。それは裏を返せば、白兵戦が不得手だと白状しているも同然。距離さえつめれば自らの有利、戦術自体は間違っていない。今度はこちらの番だ……そう意気込んだ矢先に。
「普段は騙りが多くて、こうやって自分から近づくこともそう無いんだが……数も増えたし、遠隔操作も中々に骨が折れるもんなんでな!」
僅かばかりに残った煙幕に乗じ、敵中へと身を躍らせるのは語だ。エメラによる情報支援を受け、敵の間隙を掻い潜りながら集団中央へと辿りゆくや、緋色も眩い文楽人形を複製し一気に展開する。その数、都合二百と五十五体。
『待ち侘し人間かッ! ……うむ? これは些か我らと近しき匂い?』
『構わぬ。大同小異、斬り突き抉れればそれで良し。華奢な人形如き何するものぞ!』
突然現れた語に一瞬鼻白むものの、兵器群はすわ獲物が飛び込んできたと俄かに喜色ばむ。血気に逸った大鎌や肉切り包丁が、堪えきれぬとばかりに手近な人形へと自身を振り降し……。
「おいおい、そんな不用意に手を出していいのか。強靭な騎竜だって木端微塵に吹き飛ばしたしな、威力は安定と信頼の折り紙つきだぜ?」
『っ、待て!? 見た目に騙されるな、それは炮烙玉の類ぞ!』
語の言葉からその正体を察した個体が待ったを掛けるも、時すでに遅し。攻撃を仕掛けた武器たちの刃が人形へ食い込んだ瞬間、それらは内側から爆ぜてゆく。威力は元より周囲の人形も連鎖的に爆発、迂闊な武器たちは粉微塵になっていった。
「物を壊すのはちょっと気が引けるけれども、そうも言ってられないし……早いとこお引き取り願いたいからな。ここは心を鬼にして、さくさくやって行こうか」
『愚かな。確かにこちらも手出しは難しけれど、これでは貴様も諸共燃え尽きるのが関の山よ!』
「そう思うかい? ただまぁ、何事にもやりようってものがあってな」
そろそろ頃合いだぜ。嘲る兵器群へ、語が肩を竦めながらそう呟く。その瞬間、兵器群の外周に変化が起こる。
「ええ、ありがとう同僚さん。やはり、こちらも少し数がネックだったから、注意を惹いて貰えて助かったわ」
茂みや木立、物陰から姿を見せたのは二百五十にも及ぶ、重砲の群れ。それがぐるっと兵器群を取り囲む。エメラの呼び出せし、蒸気駆動する簡易砲台。敵の優に十倍は超える数のそれらは整然と並び立ち、水も漏らさぬ布陣を一瞬にして整えた。
『こ、これは、大筒か……!』
「近現代の戦争に置いて、砲兵が戦場の神とはよく言ったものね……ここは既に、私の砲撃陣地よ」
弓馬が戦場の華となる世界とは言え、戦闘知識に長けた兵器群はこの状況の不味さを否応にも理解していた。だが逃れようにも前門の爆弾人形、後方の砲兵陣地。抜け出す隙などなく、そして包囲の後に何が待っているかなど問うまでも無い。
『いや、だが! このままでは、お主の仲間も巻き添えに……!?』
「その程度、考えていないと思って? さぁ、蹂躙の時間といきましょうか!」
最早、問答無用。エメラの号令一下、砲台はその役目を果たすべく一斉に砲撃を開始する。降り注ぐ砲弾の嵐に、兵器群は各々の能力を生かし迎撃を行うより他に術は無い。だが相手が指摘したように、どうしても流れ弾が語を巻き込んでしまう……が。
「おっとと! 少しばかりひやっとするが、何とかうまくいったみたいだな」
「似たようなものを見たことが無い訳ではないし、これはその応用ね」
人形が砲撃から繰主を庇い、自らの爆風で攻撃を防いでいたのだ。現代兵器における爆発反応装甲といったところか。砲撃に圧され後退してきた個体も巻き込める為、一石二鳥である。
そうして、人形と砲弾が戦場を一通り舐めつくし終えた時。そこには千々に砕け散った兵器の残骸が、耕された土へ半ば埋もれるように散らばっているのであった。
大成功
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アレク・アドレーヌ
ヤドリガミのオブリビオンというかヤドリガミになる一歩手前で散ったものと言うべきか。なんか似たような表現があった気がするがまぁいい
相手が生物ではないなら容赦をする必要性が全くないから消滅させるとしよう。
相手が武器である以上大体が何かしらの方法で移動手段を得てるはずなので大方念動力を思われるのでこっちも【念動力】を用いて対抗。
あとは思いっきりぶっ壊す
ペイン・フィン
奇襲了解。
範囲攻撃、なぎ払い、残像、フェイント、目立たない、武器落とし、迷彩、暗殺、物を隠す、破壊工作、先制攻撃、だまし討ち、
隠密系を中心に、使えそうな技能を使用。
同時に、コードを使用。
瞬間移動を使いながら、ヒットアンドアウェイで奇襲していこうか。
使用武器は、猫鞭“キャット・バロニス”と毒湯“煉獄夜叉”の2つ。
猫鞭で動きを制限しながら、毒湯で腐食させて破壊していくよ。
……それにしても、
怨念で動く武器、か……。
自分も、或いは、ああなったかもしれないと思うと、
なんとも言えない気持ちになるよ。
……きっと、あなた方には、どうでも良いことだろうけども、ね。
●掃討:疾き者、仮面纏う物、器物を討つモノたち。
『総数の半減を認むる。このまま固まっていれば、一網打尽に押し切られるやもしれぬ!』
『集団による衝撃力よりも、散兵による遊撃の方がまだ目はあるか。散れ、散れっ!』
砲撃と爆薬による火力投射は相手の戦力を削り取ったものの、相手もさる物でそれら凌ぎ切った個体も一定程度存在していた。砲弾を切り裂き、爆炎を躱した手合いだけあって、取り乱すことなく素早く状況判断を下す。
彼らは互いに距離を取りながら、再度行動を開始する。遅巧よりも拙速、狙撃で狙われる前に、砲撃準備を整えられる前に。素早く動き先に発見、斬り突き抉らんことを目論む。
「……尤も、其処まで含めてこちらの読み通りなのだがな」
『っ、敵襲! 此度こそ姿を捉え……ぬぅ、早い!?』
だがそんな兵器群に追従、否、機動性と運動性という点では凌駕する存在が戦場へと突入してくる。木々に紛れるような暗緑の外骨格に、たなびく薄紅色の飾り帯。そして何よりも目を引く、凹凸の無い滑らかな白面。それは太い幹を蹴って枝葉を揺らしながら、地に足着けることなく飛び回るアレク・アドレーヌ(出来損ない・f17347)の姿であった。
彼は縦横無尽に動きながら、手近に居た十文字槍の敵へとすれ違い様に拳打を放つ。
「さて、と。まずは小手調べといこうか」
『ほう、先ほどの連中と違い、矛を交えんとする気概は良し! いざ、いざいざ尋常にっ!』
交差は一瞬。拳を繰り出したアレクの手甲に傷が刻まれたのに対し、一方の十文字槍は僅かに脇の刃が零れたのみ。
「思ったより、攻撃に重みがあるな。察するに移動手段は念動力……ヤドリガミのオブリビオンというか、ヤドリガミになる一歩手前で散ったものと言うべきか」
なんか似たような表現があった気がするが、まぁいいか。先の交戦を分析しつつ、無感動に首を捻るアレク。一方、十文字槍だけで対処は可能と見た兵器群は先ほどの様に殺到するような真似はせず、依然距離を空けながら展開していた。
『無為無策に踏み込めば先の二の舞。敵も単独という事もあるまいて、我らはこのままの距離を維持するぞ。この範囲であれば、まだこちらが見つける方が先よ』
「……果たして、そう、上手くいくかな……?」
音も気配も、風の揺らぎすらなく。索敵を行っていた鉄鞭の背後から、無機質な声が上がる。そこに佇んでいたのは赤毛の青年、ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)であった。
鉄鞭が落ち度はなかった。先のアレクの様に、知覚できれども対応が間に合わなかった訳でも無い。正しく無から現れたかの如く、一切の前兆が存在しなかったのである。
『な、んだとぉっ!? だが、飛んで火に入る夏の虫とはこの事よっ!』
しかし先の砲撃を潜り抜けた個体である。咄嗟に己を振るい、攻撃を実行に移せたのは十分に優秀だと言えるだろう。尤も、それに結果が伴うかはまた別であるが。
「鞭、か……名前は同じようでも、実際は全然別物、みたいだ。勿論、自分は姉さんの方が好きだけれど、ね……?」
『速さ、幻術……否、縮地に類するもの! おのれ、これでは影すら踏めぬではないかっ!』
横薙ぎに振るわれた鉄鞭がペインの顔面を捉える寸前、その姿が幻の如く掻き消えた。そのまま空を切る鉄塊だったが、がくんと突然その動きがつんのめる。見れば九条もの縄鞭が絡みつき、先端の鉤爪でがっちりと動きを封じていた。無論、抵抗は可能であるが、戦場においてその一瞬の停止は致命的と言える。
「硫酸や王水とはまた違うけれども……威力で劣るつもりは、ないよ」
もう一方の手に握られた竹筒。その栓を抜くや、ペインは中に詰まった毒湯を鉄鞭へと浴びせかける。生物が一滴でも浴びれば死へ至る猛毒、その効能は無機物とて逃れることは叶わない。
『ぐ、があ、鋼鉄で出来た我が身が、こうも容易くっ、ぬぅうがあああっ!?』
錆び、腐食し、溶け落ちるかのように鉄の塊はボロボロと崩れてゆく。内部に籠められた怨念を絞り出すが如き断末魔を上げながら、鉄鞭は無数の残滓と化して消えていった。
「……それにしても。ヤドリガミになる前に散った、怨念で動く武器、か……」
その末路を見届けながら、ペインは仲間の零した呟きを心の中で反芻する。それが闘争を求めるのであれ、終わらぬ苦痛を悼むのであれ、器物より成った存在としては感じ入るところも当然あるだろう。
「自分も、或いは、ああなったかもしれないと思うと……なんとも言えない気持ちになるよ……」
いまのペインがこうで『在る』のは、彼自身の意思の賜物であり、そして何よりも人としての意味を与えてくれた同胞のお蔭でもある。この戦場の様に、例え離れていてもそれが揺らぐことは決してなかった。
「こんな感傷も……きっと、あなた方には、どうでも良いことだろうけども、ね」
「こうして世に這い出てきている以上、これらは者ではなく物で居る事を選んだんだろう。であれば容赦する必要もない、さっさと消滅させるとしようか」
手を止める事無く十文字槍と拳を交えながら、アレクはペインの言葉に相槌を打つ。そんな彼の態度と言動に怒りを覚えたのか、十文字槍は攻撃の速度を一段上げながら怒声を放つ。
『死合いの最中に余所見とは随分余裕だな! 我が一撃を凌ぐが手一杯の力量で、大言壮語を吐くでないわっ!』
あらん限りの殺意を込めた刺突が、アレクの喉元を狙う。速さ、鋭さ共に当たれば必殺となる一撃。穂先と喉元の距離は一瞬にしてゼロへと近づき。
「ああ、いや。あちらの戦闘で大よその絡繰りも分かった……つまり、これが効くという訳だな」
ビタリと、薄紙一枚ほどの距離で停止した。先ほどの鞭のように、目に見える物理的な拘束ではない。意志の力、不可視の楔、詰まる所はアレクの放った念動力がその動きを封じていた。
『馬鹿、な……ビクともせぬ、とはッ!?』
「どの程度の力で止められるかは、あちらの攻防で把握済みだ。どう足掻いても動けんよ……さて」
あとは思い切り、ぶっ壊すだけだ。こうなってしまえば、如何な武器とは言え文字通り置物でしかなく……そう時間も経たずに、断末魔と破砕音が山間に響き渡るのであった。
成功
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勘解由小路・津雲
アドリブ等歓迎、一応個別参加です
ふむ、奇襲をかけるのにはちょうどよい地形か。それならば……。
【戦闘】
【式神召喚】を使用。本人(津雲)は「地形の利用」「迷彩」などで姿を隠し、式神を相手に近づけさせ、不意を打つ。
「破魔」で怨念を浄化するか、「属性攻撃」の氷結属性で武器そのものを劣化させ、個々に暗殺を試みる。
また、あるいは「罠使い」で罠を用意しておき、見つかった場合はそちらに誘導、地形を利用した落石や倒木などの罠で動きを封じ、式神か本体(津雲)で止めを刺す。
「大勢は相手にできぬが、少しでも数を減らせれば……」
フィーナ・ステラガーデン
敵の軍って、あれ?ここの世界の武器はろくでもないわね!
道具は道具らしく使われてなさいよ!
(出来るかぎり高い位置にて【地形を利用】にて身を隠しつつ
【アイテム魔法的メガネ】で視力をアップし遠目で観察)
私のやることはシンプルよ!
高い位置で隠れながらUCの魔法を詠唱準備
仲間達が戦ってるその横から隙を見て
UCを【全力魔法、範囲攻撃】でぶちあてるだけよ!
仲間を巻き込まないように
一応事前にやることを伝えておくか、もしくは撃つ前に何かしら叫ぶわ!
(アレンジアドリブ連携大歓迎!)
●決着:氷焔の術士が上げるは、勝利の狼煙。
仮面を纏った猟兵たちによる掃討戦が繰り広げられる中、木々に紛れる様にして数体の武器が戦場から距離を取りつつあった。最早勝ち目無しと逃げを打っている……訳では無い。
『如何な強者であろうとも所詮は人間よ。大名であろうと乞食であろうと、指先程度の鏃で等しく命を落とすもの』
これらはいわば別働隊だ。大多数で気を引いている間に、少数が必殺の一撃を打ち込まんとしているのである。五人張りの大弓に人の身の丈もあろう斬馬刀、長尺の片鎌槍。どれもが一撃の威力に長けた武器たち。それらはぐるっと戦場を回り込み死角を取ると、まずは射程に長けた大弓が先駆けとなるべく弦を引き絞り始める。
『好機は一度きり、努々外さぬようにな』
『無論、先刻承知』
ピンと弦が張り、ギリギリと軋みを上げ、破壊力が徐々に高まってゆく。そうして遠くの猟兵が無防備な背を晒すのと、威力が極限まで高まった瞬間が重なるや、大弓は抑え込まれた力を解放する。
『この一矢、例え軍船すらも耐え切れまい!』
人の腕程もある矢が解き放たれ、大気を穿ち飛び、哀れな猟兵をモズの早贄の如く串刺しに……。
『…………なん、だと?』
しなかった。矢は無様にも目の前の地面へと墜ちる。呆然と呟く大弓は、一拍の間を置いてその姿をただの棒切れへと変じさせた。それは弓をしならせていた弦が『砕け散った』のだと、遅れて斬馬刀と片鎌槍は理解する。
『な、何が起こった! 切れるのであればまだ分かる、だが砕け散るとはなんだ!』
理解の及ばぬ事象に、慌てふためく武器たち。だがその答えはすぐさま齎された。
「ふむ、奇襲をかけるのにはちょうどよい地形を探していたのだが……これはある意味、僥倖とも言えるやもしれんな」
水を打ったような、とは正にこの事か。深い森の奥より、シャンという涼やかな音が鳴り響く。暗がりから姿を現したのは、錫杖と幾枚かの符を手にした勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)であった。
『貴様、陰陽師か! 一体何をしたっ!?』
「なに、ちょっとした手妻を掛けあわせたにすぎんよ」
斬馬刀の問いかけに、津雲は言葉だけではなく身振りで応ずる。錫杖を揺らすとそこから冷気の如き呪力が流れだし、呪符へと注ぎ込まれてゆく。すると呪符は独りでにヤモリの姿へと変じて地面を這いずりまわるや、棒切れと化した大弓へと張り付いた。途端に霜を浮かばせ、みるみる凍結していったと思うと、大弓は脆くも砕け散って消え果てる。
「破魔の祝詞を記した呪符を形代に、氷の呪力を注いで隠形に長けた式神を呼び出した。種明かしとしてはこんなところだな。結果もまた御覧の通り」
最初に弦が砕け散ったのも、この式神の凍結に寄るものだ。言葉を失う武器たちに、津雲は皮肉気な笑みと共に挑発の言葉を吐く。
「しかしそちらも皮肉だな、不意を突くつもりが突かれるとは。奇襲することは考えられても、されることにまでは頭が巡らなかったとは、哀しきは武器の性と言ったところか」
「いやいや、それでも厄介な事には変わらないわよ? にしてもこんなのが敵の軍って、ここの世界の武器はろくでもないわね!」
落ち着いた印象の津雲とは対照的に、活発そうな声が上がる。上背のある陰陽師の背後から現れたのは、真紅の衣装を身に纏った小柄な少女。くるくると先端に宝石のついた杖を回すのは、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)だ。彼女は無骨な武器を恐れる事も無く、ビシリと杖の先端を突きつける。
「道具は道具らしく、大人しく使われてなさいよ! こう、あれね。使い手を軽んじる武器とか見ると、何だか無性に腹が立つのよね!」
『訳の分からんことを並べ立てよって……っ! 今は時間が惜しいのだ。術士風情がのこのこ我らの前に現れたこと、後悔するがいい!』
湧き上がる怒気と比例し、武器たちの纏う妖気がみるみる真っ赤に染まってゆく。理性と引き換えに驚異的な攻撃力と耐久力を発揮する、無差別攻撃状態。白兵戦に長けている訳でない津雲とフィーナでは、これらを真正面から相手取るのは些か以上に骨が折れるだろう。
「う~ん。わたしの出来ることというか、やれることって割りかしシンプルなのよね。だから……」
「相分かった。全く知らぬ仲でもないしな、そちらの手の内も把握している。時間はこちらが稼ごう」
交わす言葉は短いけれど、それで十二分。詠唱と共に魔力を溜め始めたフィーナを援護すべく、津雲が一歩前に出る。
「理性が無いことが幸いしたな。大勢の相手は不得手であれど、少数であれば話は別だ」
彼は再び式神を召還し、迫る敵へと突撃させる。此度は鳥の姿をとったそれは素早く動き回り、本能のままに猛り狂う武器を翻弄してゆく。先ほどとは違い式神自体に戦闘力はないものの、本命は式神を誘導した先に在った。
「ま、ここまでそれなりに時間はあったからな。急ごしらえだが、ある程度の準備はしているさ」
傾いだ倒木、不安定な岩、垂れ下がった蔓草。それらを利用した即席の罠が斬馬刀と片鎌槍を待ち受けていたのだ。無論、強化された武器に対するダメージは微々たるものだが、ここは山岳地帯。使える素材には事欠かない。
その上、合間を縫って津雲の攻撃を浴びせかけられれば、無機物であろうとも疲弊は避けられぬ。果たして、十数度目の罠に掛かった時に兵器群はとうとうその動きを止めた。
『ぜぇ、はっ……おのれ、おのれおのれっ! 貴様らを切り捨てて再度伏撃を行えば、他の物らと共に巻き返す目もまだあるというのに!』
頑丈な蔦と氷の呪力によって雁字搦めになった片鎌槍が、そう口惜しげに呻く。だがその内容に対し、フィーナは詠唱を続けながらきっぱりと否定した。
「お生憎様! 残念だけど、それはどうやら無理そうよ!」
『なに……?』
スチャリと伊達眼鏡を装着しながら、彼女は遠くの戦場を指差す。眼鏡の視力補正術式を受けたフィーナには詳細に、理性を取り戻した武器もまたはっきりと主戦場の様子が確認できた。
他の猟兵の注意を惹いている『はず』の兵器群。先ほどまではまだ数を残していたそれらは、今この瞬間には一つたりとも残ってはいなかった。立っているのは、猟兵たちのみ。
『そん、な……全滅、だと……』
「さっきと良い、今回と良い。つくづく視野が狭いわね、アンタたちは! どうあがこうと、もう勝ち目なんてないわよ!」
諦めなさい! そう勝利宣言するフィーナだが、そこではいそうですかと頷く手合いではない事も重々承知していた。相手は武器そのものなのだ。その執念深さは良く知っている。
『それが、どうしたぁあああああっ!』
「飽く迄も諦めないわけね。良いわ、それじゃあ……耐えれるもんなら、耐えてみなさいよおおお!!」
怒りによって残り少ない力を振り絞り、最後の突撃を敢行する武器たち。フィーナもまた裂帛の雄叫びと共に、詠唱によって形成し続けてきた太陽の如き炎塊を解き放った。極高温の焔は斬馬の刀身を、片鎌の穂先を蕩けさせ、跡形もなく昇華させてゆく。
天高く立ち昇る炎の柱は、遠目からでも視認することはできるだろう。それが掻き消えた時、後にはもう何物も残っては居なかった。
「うんうん、これで良し!」
「相も変わらず、凄まじい威力だな……さて、どうやら他に別働隊も居ない様子。今度こそ本当に終わりか」
「ま、私にかかればざっとこんなものね!」
フィーナの放った一撃に舌を巻きながら、津雲が周囲に視線を走らせる。改めて遣わせた式神からも異常が報告されぬ以上、打ち漏らしもまずないだろう。
此度の戦いは、大戦前の前哨戦。未だ敵将たる上杉謙信の姿も掴めてはいない。だが猟兵たちはここに、確かな勝利を一つ積み上げる事に成功したのであった。
大成功
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