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エンパイアウォー④~霊峰を侵す鳥の儀を断て

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●燃やすのは魂だけでいい
「愛すべき猟兵の皆、戦争の時間だ。いっちょ気張って行こうぜ」
 がつんと拳を打ち合わせ、聖者の衣服を纏うたテレビウム、エクスデス・エクソシズム(死者還し・f15183)は集まった猟兵達にそう声を掛けた。
 サムライエンパイアを侵略せんとついに動き出した織田信長。三方ヶ原で討たれた武田信玄を除く『第六天魔軍将』と銘打たれた強力なオブリビオン達が、各地で様々な悪事を働いている。その中の一人、侵略渡来人『コルテス』と呼ばれた人物が、エンパイアにとって異邦の神である太陽神・ケツァルコアトルなる存在を復活させようとしている。
「コルテスとかいう野郎、トリ野郎の力でマウント・フジを噴火させるつもりらしい」
 マウント・フジ。すなわち富士山。
 エンパイアの中でも特に象徴的な意味を持つ、この世界における現状最高峰の山。ここが噴火すれば、東海・甲信越・関東地域周辺に住む人々には甚大な被害が及ぶろう。それだけではなく徳川軍も住民の救助や復興を支援する為多数の兵をその場に残さざるをえなくなるだろう。

「つーわけでオレ達の出番ってわけだ。speedyに、儀式をブッ潰さなくちゃならねェってわけよ」
 曰く、富士の樹海に隠された儀式場にて、コルテス配下のオブリビオンが富士山を噴火させる為の『太陽神の儀式』を行っているのだという。樹海へ転送された猟兵達は速やかに儀式場を発見、そして儀式を仕切るオブリビオンを撃破してもらうことになる。
 儀式の内容は、口にすることを躊躇う残虐なモノだ。だが、それ故に儀式場の周辺には血の臭いや、それに伴う禍々しい気配などが漂う。広大な樹海の中でも、手掛かりはゼロではない。如何にそれを手繰り寄せるかが鍵となる。
「それと、今回皆が戦ってもらうオブリビオンの事も伝えとくぜ」
 そう言うと、エクスデスは背後の大型モニターの電源を着ける。そこに映し出されたのは、髭を蓄えた和服の老人。しかしその腕は木製でありながら精密な、絡繰仕掛けの義手となっている。
 名を、『伊原幻塔斎』。絡繰技術を極めたと自称する男であり、そのために非道な実験にも手を染め、更に呪術的な分野にも手を広げている。恐らくそれをコルテスに買われたのだろうか。だが、この人選は実に的確であり、厄介だとエクスデスは語った。
「相手は絡繰仕掛けのトラップや何やらを用意しているだろう、相手は時間さえ稼げば儀式を完成させちまうからな。speedyかつsmartに事を運ぶなら、少しこっちも頭を使うといいかもしれねえ――ま、パワーで粉砕するのも立派なプランさ!」
 真剣に言いながら、結局最後は笑い飛ばすエクスデス。世界の命運を左右する戦いもこれで三回目。とはいえ、責任の重さに変わりはない。重苦しい空気をなりがちな空気と緊張を少しでもほぐす為なのか、芝居がかった大げさな笑い方だが……すぐに息を吐いて猟兵達へ真っすぐに画面が向けられる。

「なに、心配するこたぁねえさ。皆ならバッチリ片付けて、無事に帰ってきてくれるって信じてるからよ。全部終わったら、ショーグン様に頼んで大宴会とか開こうぜ!」
 そう言って、テレビ頭はグリモアを操り転送を開始した。今三度、世界を救う為の戦いが始まる。


佐渡
 今日からお前は富士山だ、佐渡と申します。
 三度目の戦争の舞台はサムライエンパイア。禍々しい儀式によって神を降ろし、富士山を噴火させようとするオブリビオンを撃破する任務となっています。
 また、シナリオは、

「儀式場を発見するため樹海を捜索する」→「儀式場にいるオブリビオンを撃破する」
 という二つの手順が必要となりますので、ご注意ください。

 皆様がどのような手段で敵の居場所を探り当て、そしてどのような手を使い敵を打ち倒すのか、皆様のご活躍を全力で描写させて頂きたいと思います。何卒宜しくお願い致します。

●※おねがい※●
 迷子を避けるため、ご同行の猟兵の方がいらっしゃる場合には同行者名、あるいはチーム名等目印をお忘れないようにして頂けると幸いです。
 またマスタープロフィールに御座います【シナリオ傾向】については是非一度目を通して頂くよう強くお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『伊原幻塔斎』

POW   :    茶運び人形
【絡繰人形が運んできた茶を飲む】事で【黒い瘴気で全身を包んだ姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    弓曳童子
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【長弓を持つ絡繰人形】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    文字書き人形
【絡繰人形が『縛』や『毒』等の文字を書く事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【その文字に応じた効果の呪詛】で攻撃する。

イラスト:鋼鉄ヤロウ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠上崎・真鶴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジャン・ストレイン
血と死の匂いには敏感なんだ。
だから匂いを追跡して儀式場を探す。
夜目も利くので暗い森の中でも罠とかいち早く気付けるよう注意して駆けていこう。
まぁ罠があればそっちが正解ルートってことか。

目標を見つけたら気の弱そうな怯えた子どもの演技をして油断を誘う。

「あ、あの、僕、何も見てませんから……」

嬲り殺しっていうのは無駄や隙が大きいもんだぜ?
童子たちが弓をひきはじめたら着ていた上着を素早く脱ぎ捨て、僅かでも目くらましに。
矢が上着を貫く間に身軽になった体で一気に幻塔斎との距離を詰め、白霧を義手の継ぎ目に突き立て動きを鈍らせ、黒霧で喉笛を掻っ切るようにシーブズ・ギャンビット。

「その腐った命、盗らせて貰うぜ」


ルルティア・サーゲイト
 手っ取り早く行かせてもらおうかのう。こういう時は空から捜索するに限るのじゃよ。大鴉の怪異の翼で空から儀式場を探すぞ。まあ、それだけでは手こずるかもしれん。そこでこの魂狩りの怪異のランタンの出番じゃ。このランタンの炎は呪術的な物に引き寄せられる性質がある。炎の示す方向に向かえばいい訳じゃな。
 さて、悠々と空を飛べば当然弓で射てくるじゃろう。ここは縮地法の出番である。射撃の先を読み、瞬時に肉薄し両断してくれよう。
「ふん。貴様らも妾に狩られた怪異の一つとなるが良い」
 踏み越えた屍の数が違うのじゃよ。それに、
「罠があるなら正面から踏み抜きブチ壊すのがリアルマンの矜持なり!」


七瀬・麗治
『太陽神の儀式』か。その手の連中を探し出すのなら
オレの得意分野だ。たとえそれが樹海の中だろうとな。

猟犬型UDC【カルマハウンド】を召喚し、邪悪な儀式によって
発生した「業の匂い」を〈追跡〉させて儀式場を捜す。
道中で他の猟兵と遭遇したならば共闘。

vs伊原
「絡繰師・伊原幻塔斎は貴様だな」
銃による〈援護射撃〉で味方をアシスト。ハウンドも
〈グラップル〉で敵に飛びかかって戦闘に参加。
連携して敵を追い詰めよう。ハウンドは危なくなったら
影に潜らせ退散、そこからは黒剣で近距離戦を挑む。
人形を〈鎧砕き〉で斬りつけつつ、伊原本体へ〈零距離射撃〉
敵のユーベルコードは〈呪詛耐性〉のついたスーツで気合いで耐える。


龍泉寺・雷華
※キャラ崩壊、アドリブ、連携歓迎

ほう……儀式魔術ですか
中々面白い事をしてるじゃないですかー!
ここは我も混ぜてもらいますよー!

富士山クラスの力場に影響を及ぼす為には、火口に通じる地脈の上で儀式を行う事が最良
現場で魔力の流れを探り、地脈の流れが最も強い所から探して見るとしましょう!
……どうしても見つからなかったら、音とか臭いとかで探す事にしますぅー

戦闘では我が究極魔術を存分に披露してあげますよ!
敵が絡繰人形を操るならば、全員纏めて爆炎魔術で焼却処分です!
ド派手にバーンと!……行きたいですが、山火事にならない程度に力を抑えておきましょう
一流の魔術師たる者、力の制御も完璧でなくてはね!


ゼット・ドラグ
「義手のトラップ使いか、面白そうな相手だな」
竜以外で戦いたくなるような相手は中々巡り合えんからな。楽しませてもらおう。
敵のトラップは、樹の上に登って回避。樹海だけに木の上にもなんかありそうだが、地面よりも複雑なトラップは無さそうだし【怪力】で何とかなるだろう。
後は、竜を連れてるなら匂いで分かるかもしれない。目と耳を頼りに探索をするぜ。
戦闘になったら【竜を殺す百の刃】を攻撃力重視の鉈に変えて戦う。
「木製と金属製の義手、どちらが強いか勝負と行こうか」
戦闘中にお茶を飲むという行為は隙が出るだろうが、敢えて見逃す。
「茶でも絡繰り人形でも好きなものを好きなだけ使え。だが、俺と戦う以上、貴様の死は絶対だ」


蔵方・ラック
《索敵》
昔「儀式」の生贄を経験していた事から来る【第六感】で禍々しい気配の元を探れないか試してみる

《戦闘》
バラックスクラップで矢をいなし、見切り、躱し、出来うる限り疾く、近く、伊原幻塔斎に対して間合いを詰め【捨て身の一撃】でUCを放つ
弓曳童子が周りに居れば諸共に
降らせる大量の屑鉄は細かい物を召喚し
絡繰の隙間に入り込ませ、不具合を起こさせる事を狙う


自分は、自分の過去について知ってるけど、覚えてる訳じゃなくて、
……でも此処は妙に気持ちがザワついて、それが、もう、無性に腹立たしいのであります!!
何が「儀式」!!その絡繰も全部全部気に入らない!!
お前の思い通りにだけは、絶ッ対にさせないであります!!



●絡繰は富士の海に沈むか
 富士の樹海。一度迷えば出られないと噂される広大な自然が残るその場所は、サムライエンパイアの中で最も高い霊山のいわばお膝元であるこの地で、オブリビオンによる邪悪な儀式は続いている。
「……臭うな」
「ああ、酷い臭いだ」
 夜闇の黒々とした木々の影、そこで二人の猟兵が互いの顔さえ見ずにそう言葉を交わす。機械の身体を持ちながら、手にした武器の中に生物的な造形を持つ者があるその猟兵は、青い瞳で一点を睨む。ゼット・ドラグ(竜殺し・f03370)の嗅覚は、復活の贄として捧げられるいきものの臭いを、この湿った森の空気の中で的確に嗅ぎ分けていた。
 同じくその隣にいた猟兵は闇に紛れる黒髪を撫で付けながら、幼い顔立ちに見合わない冷たい輝きで周囲を警戒する。ジャン・ストレイン(クロネコ・f20038)もまた、生き抜くために身に着けた鋭い五感を発揮し、儀式場への目星を付ける。夜目が効く事や小柄な体格は、夜の森に紛れるのにはうってつけでもある。
 二人が真っ先に感じ取ったのは、夏の熱気によってより鼻先にこびり付く生臭い臭い、そしてそれは人間のものではないことがわかるだろう。
 儀式に人間が使われていない事に安堵しつつも、二人は速やかに樹海を駆ける。木々の上に張られた金属の糸や毒を塗した針といったブービートラップを、尽く力任せに破壊しながら進むゼット。そもそも毒は機械化の恩恵を受ける彼には効果が薄い。逆に地上を行くジャンは、様々な罠を回避しながらより罠の多い方へと突っ込んでいく。罠が多いという事は、その先に進んでほしくないという意図があると見抜いていたからだ。

 逆に、五感ではない感覚を以て敵の位置を探り当てんとする猟兵もいた。
「ぬっふっふ、魔術師の位置を掴むなどこの我にとってはお茶の子さいさいですとも……」
 怪しい笑みを浮かべながら、龍泉寺・雷華(覇天超級の究極魔術師・f21050)は電脳ゴーグルの奥で金色の瞳をきらりと輝かせる驕った称号を名乗っている彼女だが、決して名前負けするような未熟者ではない。火山の噴火を引き起こす魔術をより効果的に行うには、その土地の地脈を利用するのが最上だという知識を得、同時に魔術を行使するために力を回収する事で生まれる「歪み」のようなものを察知し、彼女は既に粗方の敵の位置を探り当てていた。
 あまりのスマートさに誰も見ていないのをいいことに高笑いする雷華だが、その彼女の眼前をものすごい勢いで一人の猟兵が走っていった。
 彼女を置き去りにしたその猟兵は、敵の位置を第六感、もとい本能のまま感じ取っると、義足型のガジェットを自壊ぎりぎりまで酷使しながら駆けている。蔵方・ラック(欠落の半人半機・f03721)。彼は今回の事件の中心的役割を担うオブリビオンに対し平時以上の敵意を抱いていた。
 自分の過去にあった「それ」を、彼自身は詳しくは覚えていない。ついでに今回の事件ではまだ人間が犠牲になっていないことも彼はまだ知らない。しかし、彼を突き動かすのは紛れもない激情。
「ざわざわして、むかむかするっす……でも」
 言語化できない感情の揺らぎ。それでも、あの敵は必ず倒す、と。

 そして、また別のアプローチで敵の位置を補足する猟兵もいた。
 樹海の上空、夜の星々に紛れて飛ぶ翼。鴉羽は強く羽搏き天を薙ぐが、ばたばたとした不格好さよりもむしろ優雅さを感じさせる。和装を纏いしキマイラの剣豪、ルルティア・サーゲイト(はかなき凶殲姫・f03155)は、腰に付けたランタンの光の揺らぎを見、腕を組んだ。
「ふむ、ここのようじゃな」
 呪術の気配に引かれる炎を持つこのランタンの光を頼りに、彼女は儀式場を探っていた。とはいえ樹海の中に目的地が隠れてしまい、視認するのが難しい可能性もある……彼女はそう見越して、もう一人の猟兵に合図を出す。響く指笛は、決して人には聞こえぬ音域。怪異を狩る彼女が得た一つの技術。
 そしてそれを耳にした猟犬が、主へとそれを伝えた。
「あちらは既に目星をつけたか、早いな」
 眼鏡を持ち上げ、樹海というロケーションとは相反するかっちりとしたスーツに身を包んだその猟兵は、短く使役する犬の形をしたモノたちに命令を下し、自らも移動を開始する。
 七瀬・麗治(悪魔騎士・f12192)は、猟犬型のUDCを操り、儀式の中で生まれる悪しき気配を包括した……「業」の気配とも呼ぶべきものを嗅ぎ取らせ、目的地を探っていた。だが鋭敏すぎる獣の感覚は周囲に満ちる富士の霊力に当てられたせいか機能が鈍っていた。しかし、途中で合流したルルティアとの共闘により、大まかな方向を先に発見してもらい、後に詳しい地点を自分が知らせるという分担を行い、今眷属たる猟犬は確かに敵の位置を掴んだ。
 悪しき神を敵に回すのは、彼にとっては得意分野と言っていい。再び眼鏡を押し上げ、彼は歩幅を大きくした。始まる戦いの予感に、剣を一層強く握りしめて。

「ふうむ。思ったより時間がかかる。贄の質が悪いのか?」
 富士の樹海、その一角。禍々しい血の陣が敷かれたその中心に築かれた石造りの祭壇の上で、翼を持つ歪な蛇の赤子が堆く積まれている。その全ては既に無残に殺され、とめどなくどろりとした血を地面へと流し続けている。
 その様子を見ながら蓄えた髭を撫で付け、首を傾げる老人。その手は、絡繰によって動いていた。
 オブリビオン・伊原幻塔斎。絡繰との共生という命題に溺れ非人道的な実験や呪術にさえ手を出した男。今、織田信長の配下であるコルテスに協力し、富士山を噴火させるべく悍ましき神を復活させるための儀式を続けていたが――どうにも進展がない。はてさてどうしたものかと思ったその時、彼の傍の茂みが揺れた。
 すぐさまそちらに視線を向ければ、傍に控える絡繰人形による矢が素早く放たれた。茂みの木々を千々に裂いた先にいたのは、年端も行かぬ、子供。
「ひっ――ぼ、僕、何もっ、何も見てませんから……」
 怯えきった表情で首を振り、言外に殺さないでくれと懇願する。そんな少年の様子を見て幻塔斎は好々爺の表情を作り近づいていく。
「いや何、私は怪しい者じゃあない。一人で帰るのも危なかろう、君、折角だから私の手伝いをしてくれないかね、人手が足りなくて困っていたんだよ」
 その目的は単純。贄を増やす事。子供の生き血を好まぬ邪神はいない、人身供物を是とする神ならば尚の事。これで儀式が進めば、自身の求道の糧になる良い刺激が得られるだろうと、笑みを零す幻塔斎――の、その背後。
「――! ヌゥッ!?」
 寸手の所で気付いた幻塔斎が振り向き義手で防いだのは、微光を放つ細かな部品によって形作られた大鉈。そしてそれを振るう青い瞳の青年は、ニヤリと獰猛に笑う。
「お前の自慢の絡繰の腕と、俺の刃――どっちが頑丈か、勝負と行こうか」
 敵の油断と背後を衝いたのは、ゼット・ドラグ。怒涛の連続攻撃を繰り出すその様は、正に暴風と言ったところ。遠方から放たれる長弓の攻撃を払い落とし、ただ近距離攻撃の応酬によって幻塔斎の反撃さえ許さない。振るう瞬間は速度、当たるインパクトの瞬間に力へ、それぞれに振り分けられたユーベルコードの配分は、必ず敵を砕くために彼が練り上げてきた技術の賜物。
 未知の技術によって構成された彼の武器や彼自身に留まる事を知らぬ知的好奇心が沸き起こるのを抑えながら、しかし幻塔斎は目的を忘れない。背後にいるはずの子供へと声を上げた。
「逃げなさい君!」
 自分は味方だという印象を付けることで、この先信用を得て効率的に生贄として活用しようという悪意を下敷きにした善意。しかし、それは、裏切られることになる。
「……芝居が嘘くさいんだよ」
 僅かに逸らした上体、その脇腹に突き刺さる黒の短剣。それを手にするのは、先程の少年――その表情は先程とは違う、冷え切った暗殺者のもの。ジャン・ストレイン、そもそもこの作戦は彼の発案だった。
 そもそも長弓を持つ絡繰人形の攻撃が茂みのみを貫いたのは偶然ではない。彼はその時既にもう一つの得物である白の短剣を用い自身を傷付ける矢のみを切り落とし、それ以外を残していた。掠ったように見せかけるため、自身の上着を傷付け、身体を軽くすることも忘れずに。演技で相手を油断させ、生まれる隙をゼットに譲り、更にその背後を自分が突く。効率を重視し、卑怯とも言えるその作戦を、齢がようやく十に届いた少年が発案するとは、到底思うまい。
「余所見をしている場合か?」
 そして、防御が緩んだその隙を見計らい、ゼットの横薙ぎの鉈が敵の身体を吹き飛ばした。連続攻撃を繰り出してなお疲労の色など微塵もない脂ののった一撃、鈍いが重い塊によって打ち付けられ、それでもなお幻塔斎は立ち上がる。
「ふ、ふふ――猟兵か。だが丁度いい。長ったらしい儀式にも飽きてきた所なんでねえ!」
 部下ではなく、協力者という立ち位置でしかない幻塔斎は、立ちはだかる猟兵に嬉々として挑みかかる。自身の作り上げた技術が、敵を殺す事で成功であったと感じられる、そんな意味の分からない事を叫びながら。
 距離を置いたことで人形へ指示を与える「間」が生まれた。二人の猟兵へと、無数の人形が矢を向ける。回避や防御も、全方位からの絶え間ない連射を前にしては完全とはいかない。
 放て――そう幻塔斎が口にしたのと、ほぼ同時。

 衝撃にも似た風が舞い、同時に全ての人形が蹴り砕かれ、微塵の瓦礫へと姿を変えた。
 呆気にとられるその顔面に、深々と突き刺さる機械の足。自身の組み上げたスクラップの脚によってここまで止まることなく走り抜け、そして敵を粉砕したその青年は、肩で息をしながら鋭い目を敵へと向ける。蔵方・ラック。彼の中にあった形容できない感情は、儀式場の凄惨な姿と敵の様子についに爆発する。
「お前の思い通りにだけは、絶ッ対にさせないであります!!」
 そして、同時に到着した龍泉寺・雷華も、神を呼ぶ儀式というものに興味を持っていたが、その血腥さと非効率さに嘲りにも似た落胆を示しつつ、先程自分を追い抜いて行った猟兵の尋常ならざる様子を理解し、二振りの魔剣を掲げながら、尊大に敵へと挑発をぶつけた。
「あんな低劣な魔術しか使えないあなたに、我が究極魔術を披露してあげます!」
 自身の作品である絡繰人形を砕かれ、そして計画の要であるところの儀式を愚弄された幻塔斎は歯軋りを隠さず、次なる絡繰の人形を繰り出した。手に筆を持った人形たちの書き出す悪意を持った文章が生み出す呪詛が、巨大な渦を生み飲み込みにかかる……のだが。
『灰は灰に、塵は塵に。されど我が前に於いて万物は流転し、理は只綴り唱える言葉のままに――』
 禍々しい気配は、それを超える巨大な炎によって飛散する。樹海という場所で躊躇い無く用いられた炎という属性、しかし寸分の狂いの無い威力の調整によって、周辺の木々どころか地面の草一本にさえ焦げ跡さえ残さない。覇天超級の究極魔術師、その技は決して単純な威力ばかりではない。完全なる制御、無比の正確さを兼ね備えてこそ、覇天超級の究極魔術師を名乗るに足る。
 ――そう、仲間への足掛かりを作ることも、お手の物ということだ。
『塵は積もり、重く、強くなるのであります――!』
 砕いた敵の破片を身に纏い、鈍重な鎧の如く生まれ変わったその足。外法を用い生み出されたその技術にも、ここまでしてもまだ自分の戦い方への興味深い目を止めない狂った男も、苛立ちが、怒りが、止まらない。
 火が付いた心のエンジンは止まらない。相手へと放つドロップキック、同時に寄せ集めの様な脚の鎧が剥がれ、鈍重な枷、重り、そんな具体的な形さえ持たない屑鉄の瓦礫となって敵を拘束する。防御も、妨害も許さないまま……迸る思いは、そのまま威力となって再びその顔面へと炸裂したのであった。

 もらった渾身の一発の威力は、拘束を破壊しながら幻塔斎を吹き飛ばした。それでいてなお、その効力は続いている。遠隔の人形へと指示を出す事は叶わず、万事休す。そんな中で、ざっと藪を踏み越え現れる、洋装の男。
「絡繰師・伊原幻塔斎は貴様だな」
 威嚇し、呻く黒い猟犬を控えさせ、拳銃を構えるのは七瀬・麗治。確認など取れなくても攻撃を行うつもりであったが、しかし。敵は彼の問いに対し、不敵に笑った。
「ああ、その通りだとも。この私こそが――究極にして完全なる絡繰との共生者、伊原幻塔斎である!」
 どこからともなく傍に控えていた茶汲み人形が手にしていたドス黒に僅かに緑のかかる茶らしきものを一気に煽ると、その体は黒い瘴気に包まれ、二倍ほどの背丈へと膨らんだ。
 舌打ちをすると、麗治は猟犬を影の中へと退避させ黒剣を構える。直後、幻塔斎の乱打が彼へ襲い掛かった。爆発的に増強されたスピード、それに対し同じく剣の防御に加え反撃、更には銃の零距離射撃も織り交ぜた闘技で対応する。強化された相手に対応する実力は彼の日々の鍛錬に元づく結果だ。
 しかし、それでも寿命を代価にしたユーベルコードを相手にするとやや分が悪い。数度目の零距離射撃は躱され、幻塔斎の背後で爆発が起こる……弾薬が、特殊なモノだと咄嗟に判断したのだ。
「甘カッタナ、猟兵!」
 自分が回避できたのは疲弊の証、そうとった幻塔斎は黒い靄の中で勝ち誇ったような笑みを浮かべた。しかし、それを受けて麗治もまた笑う。
「……全く、学習しないな」
 ただ闇雲に鍛えても意味がない。学習、それこそが確かな実力と結果に結びつく。スポーツマンとしての経験を持つ彼にとっては常識。だがそれを理解しないというのに、大仰な肩書で驕る相手に、ただただ麗治は呆れていた。
 ――猟兵は、一人ではない。協力、共闘。道を切り開く輩は、どんな可能性さえ掴みえる。
 天上から飛来する黒色の翼。絢爛たる和装に洋の要素を取り入れた一張羅。そして、手にした大鎌は数多の怪異を断ち切った大業物。
 ルルティア・サーゲイト。黙っていれば背後を取れたのだろうが、しかし彼女は叫ぶ。
「はっはっは、これが妾の裏技じゃ! そして……」
 気付いた幻塔斎は纏う靄の一部を矢のように放って迎撃しようと試みるが、中途半端な技では彼女を止める事など叶わない。矢の射線を読み切り、舞うような回避を見せながら――彼女は、豪胆に笑う。
「罠があるなら正面から踏み抜きブチ壊すのがリアルマンの矜持――そして、仲間と共に勝利を掴む事こそ、妾たちの本懐よ!」
 ずざん。勢いを殺さぬまま流星の如くに落下した彼女は、靄も、絡繰の腕も、そしてその下にあった歪な信念も、纏めて一刀の元に両断した。
 悪しき求道者は討たれ、富士の樹海で行われた儀式は失敗する。魔軍将の企ての一端が、ここで潰えたのだ。

 様々な戦いの手段を持ち、信念を抱き、戦う猟兵。時にそれが全く相反する者同士であろうとも協力し合い、そして勝利を、平和を勝ち取る。
 猟兵達の活躍、そして共闘は続く。この世界を脅かす、かの魔王を討つために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月06日


挿絵イラスト