エンパイアウォー①~ぶんちょうさまばくだん
●殿、隕石でござる!
鳥見源之丞は、手勢を率いて東海道の宿場に本陣を張っていた。
軍勢と共に本陣となる屋敷にたどり着いても、若き将たる源之丞は具足を外すことはなかった。陣幕を張った庭で床几に腰掛け、扇子でパチリパチリと腿を打つ彼の心はもはや戦場にあるのだ。
まさに天下の急、今こそ存分に働き、君恩に報じねばならない。
「なんだあれは……何か降ってくるぞ!」
と、徒士頭の侍が叫び、馬廻衆の田中権左衛門という者が転ぶように走り来て、
「殿、そ、空から……空から何かが」
「なんじゃと! なっ……なんじゃありゃぁーーーー!?」
それは何とも不可思議な飛翔体だった。
見た目は隕石っぽい。ぽいのだが、
ぴぃーーーーーーーー!!
鳴き声みたいな奇妙な音をたてて本陣に突っ込んだそれらが盛大に爆発を起こし、惨憺たる地獄絵図を描き出した。
●グリモアベースにて
「ぶんちょうさまの隕石が降り注ごうとしています」
猟兵達を迎えた化野・那由他が、真剣な面持ちで語り始めた。
暑さでおかしくなったのではない。
「これは風魔忍軍による攻撃で、狙われているのは、鳥見源之丞という武将がいる宿場の本陣です。本陣と言っても大きなお屋敷という感じで、そこに降り注ごうとしているのが――」
那由他は真剣な声で繰り返した。
「ぶんちょうさまの隕石なのです」
知っている人もいるかと思うが、ぶんちょうさまは、こう、丸くてつぶらな瞳をしている大福みたいなオブリビオンである。であるのだが、
「ぶんちょうさまは、恐るべき風魔忍法によって隕石型の爆弾と化しています。着弾と同時に爆発してしまうため、その前に迎撃することが最優先となります」
詳しい数は把握できていないが、どうやら3~10個くらい降ってくるらしい。もしかするとそれより多いかも知れない。
「隕石化したぶんちょうさまは、着弾前に迎撃されたり予想外の衝撃を受けると元の姿に戻ります。なので、迎撃の方法は工夫次第かと」
着弾ポイントを見極めた上での長距離砲撃はもとより、着弾寸前に拳でぶん殴ったりがっしり捕まえたりして阻止することも猟兵であれば可能だろう。猟兵であれば。たぶん。
迎撃に成功すれば、ぶんちょうさまは普段通りの姿に戻って戦闘を行うため、サクッと各個撃破すればよい。
「これも幕府軍の兵力を保つ大事な戦い。いくら可愛いぶんちょうさまとは言え、お帰り頂かねばなりません。どうか皆様の力で凶行を止めて下さい」
ぐっと拳に力を込めると那由他はグリモアを輝かせた。
相馬燈
※このシナリオは、「戦争シナリオ」です。1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
皆さん、戦がはじまりました。
今回は風魔忍法隕石落としの標的となった味方を救い、被害を防ぐというシナリオになります。あっちこっちから降ってくるぶんちょうさま隕石を迎撃し、隕石から元の姿に戻ったぶんちょうさまを撃破しましょう。
●戦場
東海道にある宿場の、お屋敷のような本陣です(お屋敷が幕府軍に貸し出されている状況)。大きな庭で戦ったり、屋根に登ったりすることもできます。本陣には鳥見・源之丞という将が手勢と共におり、もし彼等が殺害されれば幕府軍にとって痛手となってしまいます。
●今回の戦い方について
風魔忍法隕石落としにより降り注ぐぶんちょうさま隕石は、着弾すると盛大に爆発します。但し着弾前に迎撃されたり予想外の衝撃が加わると、元の姿に戻ってしまいます。
降り注ぐぶんちょうさま隕石を迎撃し、元の姿に戻してから撃破する、というのが本シナリオの流れになるかと思われます。
以上です。
皆様のご参加をお待ちしております!
第1章 集団戦
『ぶんちょうさま』
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POW : 文鳥三種目白押し
【白文鳥】【桜文鳥】【シナモン文鳥】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 文鳥の海
【沢山の文鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 魅惑の視線
【つぶらな瞳】を向けた対象に、【嘴】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:橡こりす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「如何なる艱難辛苦が待ち受けようと、この鳥見源之丞、必ずや死力を尽くして兵たちの魁ならん」
床几に座った若き将が具足を身に着けたまま何やら大仰に呟いている。
ぶんちょうさま隕石が降り注ぐまさにその直前である。
これから一大事が発生するなど、本陣の誰に予想できよう。
全ては転移する猟兵達にかかっているのだ。
クロエ・ウィンタース
ぶんちょうは隕石ではない(まずツッコミを入れた)
とはいえ一見アホな忍法だが
爆弾と化したオブリビオンを直接落として襲わせるのは
凶行と言えば凶行だ。止めねばなるまい
【SPD】アレンジ共闘歓迎
>行動
家屋の屋根の上で迎撃開始。
UC【無銘・壱ノ追】を使用
斬撃を飛ばし落下してくるもののうち
被害が大きそうな所に落ちそうなものをひとつかふたつ中空で叩く
あとは屋根の上から【ジャンプ】し落ちてくるひとつを直接叩く
その後、空中で袖口から「藍凪」を取り出しもう一匹に投擲
ぶんちょうは落ちた衝撃で動けてないものは素早くとどめ。どっす。
動いてくるものは【フェイント】と【2回攻撃】で攻撃
敵の攻撃は【見切り】【カウンター】。
三上・チモシー
アドリブ連携歓迎
えっ、ぶんちょうさま爆発しちゃうの?
ひどくない?
忍者ひどくない!?
隕石の下に到着したら、【熱湯注意】を上空に向かって放ち、射程範囲内の隕石全てを攻撃
熱湯でうまく迎撃できなかった、またはうち漏らしがいた場合は、地面に着弾前に接近して【怪力】を込めておもいっきり殴るよ!
隕石だから熱いかもしれないけど、その時は【火炎耐性】で耐える
大丈夫大丈夫、自分鉄瓶だから
ぶんちょうさまが放つ文鳥はできるだけ【見切り】でかわしたり、【地形の利用】で物陰に隠れたりして回避しつつ、熱湯で攻撃
やだー、何あれかわいい
ごめんねー、熱いよ!
マクベス・メインクーン
なんでぶんちょうさまを隕石にした!?
風魔何考えてんだ…おもしろ要素いらねぇだろ…
とりあえず思いっきり撃ち落とすぜ
魔装銃に炎の精霊を宿して【全力魔法】でUC使用する
炎【属性攻撃】【範囲攻撃】で落ちてくる隕石を可能な限りの数を
粉々にする勢いで撃ち落とすぜ
足りないなら【2回攻撃】でもう一度撃つ
迎撃出来たら、後はぶんちょうさまか
ぶんちょうさまの目は極力見ない方向で
小刀2本に持ち替えて雷【属性攻撃】で斬り裂きにいく
敵からの攻撃は【フェイント】で回避しつつ
当たるようなら風の【オーラ防御】で防ぐ
シャルロット・クリスティア
なんて……なんて非道な!!
あんな……あんな……あんな愛らしいぶんちょうさまをあまつさえ弾頭として扱うなどと!
その所業、許してはおけません!
必ずや、私が阻止してみせましょう!!
とは言え、やることは単純です。空へ目掛けての狙撃。これに尽きる。
私も【スナイパー】の端くれ。こっちに向かってくる目標を撃ち落とすことなど、造作もありません。
単発式の銃ですが、【早業】で即座にリロード。どんどんおとしていきますよ。
……ふぅ。ぶんちょうさまも元に戻ったことですし、これで一件落ちゃ……。
……あ、倒さなきゃダメ?
……わかりました。わかりましたよぅ……。(名残惜しそうにしながら結局ぶんちょうさまも撃つ)
シエナ・リーレイ
■アドリブ・絡み可
可愛い鳥さんが降ってきているよ!とシエナは歓喜します。
慌てた様子で何処かへ向かう猟兵を追いかける事にしたシエナ
辿り着いた先は沢山の可愛い鳥さんが降って来る素敵な光景でした
忍術により地面につくと鳥さんが爆発する事を知ったシエナ
これはいけないとスカートの中から蜜蜂竜娘の『姉さん』達を呼び出すと行動を始めます
これで爆発しないね。とシエナは安堵します。
『姉さん』達は鳥さんが着地する前に集団で集り[捕縛攻撃]で捕まえると[毒使い]の毒混じりな[マヒ攻撃]を素早く打ち込み二度と動けない位に無力化します
そして、シエナは無力化した鳥さん達を『お友達』に迎える為に何処かへと[運搬]するのでした
真幌・縫
ぶんちょうさまが隕石になって落ちてくると聞いて…!
一応宿場の人たちには避難してもらって!【コミュ力】【優しさ】
それから隕石になって突撃してくるぶんちょうさまをぶんちょうさまに戻すところから始めないとね!
UC【蛹から蝶へ】でメタモルフォーゼ…!
うん、これで空も飛べるようになったから高いところからでも迎撃できるよ!
【高速詠唱・全力魔法】【属性攻撃】虹でどーんと!!
隕石がぶんちょうさまにもどったら再度攻撃!
ぶんちょうさまの攻撃は【野生の勘】でよけちゃうよー。
アドリブ連携歓迎。
ベイメリア・ミハイロフ
※お仲間さまとの共闘の際には連携を意識いたします
まあっ、もふもふのぶんちょうさまが
隕石にされてしまうだなんて…!
これは、ある意味許しがたい事でございます
絶対に、防がなければなりませんね
第六感も働かせつつ、絶望の福音にて着弾場所を予見し
Red typhoonにて多くの対象を巻き込める場所へ位置取り
着弾前にダメージを与え、ぶんちょうさまに戻すようにいたします
どなたの攻撃も当たらない箇所への着弾を予見いたしますれば
そちらへ向かいオーラ防御にて着弾を防ぎます
あとは撃破可能な対象から
ジャッジメント・クルセイドにて攻撃を
お相手の攻撃は武器受けで捌くか回避
不可であればオーラ防御にてダメージ軽減を図りますね
●守る者の戦い
「ぶんちょうさまが隕石になって落ちてくるなんて……!」
言葉にするとなんだか頭が混乱してきそうな非常事態である。
転移を果たした真幌・縫は、本陣屋敷に詰めていた人々に大急ぎで避難を呼びかけ、それから庭に出た。見上げれば赤熱する隕石がまさにこの本陣めがけて落下しようとしている。
それも、四方八方からだ。
ぴぃーーーーーー!
「急いで逃げて下さい! あれ、爆発するんです!」
「なっ、なんとーーーー!?」
「殿、お逃げ下さい!」
縫の言葉を聞いた馬廻りの田中権左衛門が、即座に将である鳥見源之丞に避難を促す。
「ええと、ぶんちょうさま隕石をぶんちょうさまに戻してぶんちょうさまを倒す、だよね」
指折り手順を確認する縫が舌を噛みそうな台詞をさらっと言ってのけ、
「誰も傷つけさせないよ――メタモルフォーゼ!」
眩い光と数多の花弁に囲まれた縫が瞬く間に変身を遂げる。
渦を巻く花欠の中心に立ち、桃色を基調にした戦闘用の衣装をふわりとなびかせる縫。
舞い踊る花弁の力を得たキマイラの少女は花咲く杖を握り込んで勢いよく飛翔した。
その鏡の様に美しい銀の瞳が、瓦屋根の上に立つ猟兵を捉える。
「ぶんちょうは隕石ではない」
降り注がんとする奇天烈な物体を涼やかな碧眼に映しながら、クロエ・ウィンタースは開口一番に突っ込みを入れた。本陣屋敷の瓦屋根に軽々と上った彼女は、目測した落下地点に立つと抜刀の構えを取る。
「一件アホな忍法だが、凶行は凶行だ。止めねばなるまい」
ここは宿場だ。本陣屋敷の周囲にも建物がある。
捨て置けば甚大な被害が出よう。
「あの者は……ま、まさか刀で迎え撃とうとでも言うのか……!?」
避難しながらも、鳥見源之丞が瞠目する。
クロエは愛刀の黒柄に手を添え、抜刀の姿勢を取った。接近する獲物に狙いを定め、暫しその姿勢のまま静止する。
「――――!」
波静まった水面の如き姿から一転。
黒鞘から奔った妖刀、その弧を描く剣閃が三日月の如き波動となり、飛び来る二ツの隕石を転瞬の間に仕留めていた。
「後ろか……!」
振り向いたクロエが傾斜する瓦屋根を平地のように疾駆する。知人のエルフに勧められた黒の編み上げブーツがここでも役立っているのだ。
「三つ目――!」
屋根を蹴って跳躍すると、空中で回転するように横一閃。
斬撃の波動が隕石に直撃し、元に戻ったぶんちょうさまが悲鳴をあげて落下する。
クロエは土蔵の上に着地して、
「思いのほか数が多いようだ。だが」
黒鞘に刀を納めたクロエが、再び柄に手を当てて抜刀の姿勢を取る。横目に見るのは庭で戦う猟兵達の姿であり、彼等の働きも勿論計算に入れて立ち回っていた。
「間に合えーー!」
庭に落ちようとしていた赤熱する隕石が、横合いから殴られて転がりながらぶんちょうさまに戻る。
「あっちち……!」
阻止したのはパステルカラーの可愛らしい数珠を握り込んだ三上・チモシーだ。
「大丈夫か」
「平気平気、自分鉄瓶だから!」
クロエの問いに拳をぶんぶん振りながら応えるチモシー。南部鉄器のヤドリガミたるもの、このくらいの熱さは平気の平左だ。
それはそれとして、
「ぶんちょうさま爆発させるなんてひどくない? 忍者ひどくない……!?」
改めて風魔忍者の非道に憤るチモシー。自身の本体、即ち南部鉄器の平丸型鉄瓶を掲げて近くに落ちてきたぶんちょうさまに熱湯を注ぎかけた。
「ごめんねー、熱いよ!」
ぎゅぴーー!? とか言いながら消えていくぶんちょうさま。
……悪いのは風魔忍者である。
「そーれ、熱湯ざばー!」
そのまま半円を描くようにして勢いをつけると近づいてきた隕石に向けて勢いよく熱湯を迸らせた。容量1.6Lの鉄瓶だが放出される熱湯はユーベルコード。小規模な間欠泉めいたお湯が直撃して、隕石が空中でぶんちょうさまに戻り、ぼてんと地面に転がった。
「やだー、何あれかわいい!」
目を✕印にしたぶんちょうさまに思わずもだもだするチモシー。
その上空で、白い羽根を羽ばたかせた縫がロッドを構えていた。
「おいたはさせないよ! 虹色の魔法……プリズムファンタジア!」
光り輝く七色の矢が縫の左右に一斉展開。
振るわれたロッドを合図に、矢が四方から飛来する隕石に殺到する。
誘導弾さながらの矢は鮮やかな軌跡を描いて突き刺さり、何羽ものぶんちょうさまが鳴き声をたてて庭に降り注ぐ。
「そーれ、こっちにもざぱー!」
チモシーの平丸型鉄瓶はもはや熱湯の放水機だった。
「熱っ! 熱っつ!?」
「井上ーー!?」
「わ、ごめんね!」
縫の呼びかけを無駄にしまいと避難を促していた侍が熱湯の飛沫を浴びて手ではたく。無論チモシーのせいではない。風魔忍者のせいである。
「しかし、なんという剣だ……」
徒士頭の侍が瓦屋根を駆け巡るクロエの働きに思わず言葉を失う。
弧を描く剣閃は信じがたいことに十町先まで安々と斬撃できそうだ
瓦屋根の上で更に数個を仕留めると、クロエは高らかに跳んだ。
手を伸ばした先の隕石に湾曲した短刀が突き刺さる。
羽織の袖口に仕込んでいた奇剣――藍凪だ。
「止めだ」
太刀を納刀したクロエが脇差の刃を下に構え、地面のぶんちょうさまを串刺しにした。
「きゅ、きゅるるるる! きゅぴ、ぴぃーーー!!」
隕石から元に戻ったぶんちょうさまの群れが、両目を直角三角形のようにして憤る。
「可愛い……」
おしくらまんじゅうみたいに集まってぴょんぴょんと跳ねながら抗議するその姿を見て、ぬいぐるみのようだと縫は吐息する。サジ太と並べたらどんな風だろう。今すぐ近づいて抱きしめたいくらいだったが、思う間にも無数の文鳥が召喚され、けたたましい鳴き声を響かせながら追いかけてきた。
「と、と……油断しちゃいけないね」
自由自在に飛翔する縫を文鳥達はとても追随しきれず、逆に虹の矢に追い回される。
滑るように着地した縫に灯籠の影で待ち構えていたぶんちょうさまが飛びかかるが、
「ぴぎゅ!?」
「あっ……」
野生の勘で避けた拍子にロッドが当たり、転がりながら消えるぶんちょうさま。
「ここまでだ。骸の海に還ってもらうぞ」
妖刀と脇差を構えたクロエが襲い来る文鳥の群れを剣舞するように切り捨てる。もはや燕を斬るなどという話でさえない。
踏み込まれ一閃されたぶんちょうさまが纏めて消滅した。
「後ろに回り込めば……」
チモシーはと言えば、庭園の灯籠や見事な曲がり幹のクロマツに身を隠しながらぶんちょうさまの背後を取ることに成功していた。
「みんなまとめて、ざっぱーん!」
熱湯が見事な虹を描き出し、ぶんちょうさまの群れが鳴き声をあげて消え去った。
●ぶんちょうさまパニック
「可愛い鳥さんが降ってきているよ! とシエナは歓喜します」
小さな羽根を羽ばたかせて降ってくるぶんちょうさまを見上げながら、シエナ・リーレイは硝子のような赤い瞳を輝かせた。他の猟兵達に続いて辿り着いたのは広い和風庭園だ。
――そこには沢山の可愛い鳥が降り注ぐ、素敵な光景が広がっていました。
「で、なんでぶんちょうさまを隕石にした!?」
夢見るようなシエナの眼前で二丁の銃を空に構えたマクベス・メインクーンが引き金を引く。魔装銃ファフニールとリンドブルム――名高く強大な竜を冠する二丁が射出する弾丸は、立て続けに飛来する隕石に着弾すると竜の吐息にも似た豪炎で包み込んだ。
「ぴぎーーーー!?」
炎の精霊を宿した銃弾により爆炎に包まれた隕石がぶんちょうさまに変わると空中で焼き鳥になり、地面に落ちる頃には両目が✕になって消えていった。あわれ、ぶんちょうさま。
「ったく、風魔何考えてんだ……こんなおもしろ要素いらねぇだろ……」
「ぴぎゅーー!?」
屋根から転がってきたぶんちょうさまを竜の尻尾で叩き飛ばしながら、次の隕石に狙いを定めるマクベス。
別の方角から一斉に襲来する隕石群が、今度は舞い散る薔薇の花弁に包まれ阻止された。
「爆発すれば被害は甚大……絶対に防がねばなりませんね」
真っ白でふくふくした鳥が次々に落ちていくのを見て、瓦屋根の上に乗ったベイメリア・ミハイロフは胸元に手を当てる。一瞬先の未来を見通す絶望の福音が、絶好の迎撃地点を彼女に教えていた。
「これは、ある意味許しがたい事でございます。もふもふのぶんちょうさまが隕石にされてしまうだなんて……!」
薔薇を思わせる真紅のシスター服をなびかせて次の着弾地点へと駆けるベイメリア。
「全くです! その所業、許してはおけません! 必ずや阻止してみせましょう!!」
シャルロット・クリスティアも憤慨して首を振った。瓦屋根の上で、銃身にルーンを刻み込んだエンハンスドライフルの銃口を目標に向けながら、である。
「それにしても、なんて……なんて非道な! あんな……あんな……あんな愛らしいぶんちょうさまをあまつさえ弾頭として扱うなどと!!」
クレー射撃を思わせる正確無比な狙撃で、赤熱しながら飛んでくる隕石が次から次へと迎撃される。気の抜けた鳴き声を響かせて降ってくるぶんちょうさまが、ぼてんぼてんと屋根をバウンド。ぴぃーーとか鳴きながらころころ転がっていった。
「…………。ハッ、目を奪われている場合では!」
集中力を高めて狙いを定め、トリガーを引く。
「素晴らしい腕前ですね……!」
優れた技量を賛嘆するベイメリア。
「私もスナイパーの端くれ。こっちに向かってくる目標を撃ち落とすことなど、造作もありません」
高速で落下する隕石を空中で撃ち落とす――それはまさにスナイパーたるシャルロットの面目躍如だった。エンハンスドライフルは単発式だが、熟練の早業で次弾を装填、正確無比な連射を実現している。
素早く狙いを定め、引き金を引き、次の瞬間にはもう別の目標に狙いを定める。
「鳥さんの隕石は爆発するんだね……。とシエナは悲しげに言いました」
隕石の位置を把握したシエナがカテーシーのようにスカートの両端を摘み上げた。
羽音を響かせて出てきたのは小さな蜜蜂竜娘パックと蜜蜂竜アピスドラゴン人形達だ。
「お願い、手伝って! とシエナは『姉妹』に助けを求めます」
蜜蜂竜と蜜蜂竜娘の亡骸を素材にしたと云う2体1組の人形群が、両手を掲げたシエナの仕草を合図に、隕石めがけて急上昇し始めた。
「ぴ、ぴぃーー!?」
纏わりつかれて蜂球のようになった隕石が空中でぶんちょうさまに変化し、そのまま力を失って落下する。蜜蜂竜と蜜蜂竜娘の流し込んだ麻痺毒が抵抗する力を奪っているのだ。
同様の光景が庭園のあちこちで見られた。
「これで爆発はしないね。とシエナは安堵します」
樹木や灯籠がある庭園内では死角も生じ得る。シエナが操り自在に飛翔する小型の蜜蜂竜と蜜蜂竜娘は猟兵達にとって適切な支援となり、
「あちらの隕石はわたくしにお任せを。全て止めてみせますから!」
シスター服を翻しながら瓦屋根を駆けるベイメリアが着弾地点に滑り込むとオーラを纏わせてクロスガード。赤熱する隕石を防ぎ切った。
「ぴゃーーーー!?」
衝撃で弾かれ、瓦屋根からぽてんぽてんと転がり落ちるぶんちょうさま。
そうしている間にも、マクベスの構えた魔装銃が左右の空に向けて火を噴いていた。
思いのほか数が多い。
「こうなったら全力で撃ち落とすまでだ」
前方後方から来る隕石にも即座に狙いを定めて弾丸を送り込む。
炎を宿した銃弾に穿たれた隕石が凄まじい爆炎に包まれた。
「やることは単純ですからね! 全弾命中させますよ!」
排莢、装填、照準、射撃――高水準の技術により繰り返される射撃動作によって迎撃されたぶんちょうさまが、シエナやマクベスのいる庭園に降ってくる。
「可愛い鳥さんたち、お友達になりましょう。とシエナは誘います」
パックとアピスドラゴンが、動こうとするぶんちょうさまに麻痺毒を注入して。
「蜂の、絡繰り……?」
「二丁を同時に……あのような鉄砲の扱いが可能なのか……」
目を奪われていた侍が猟兵達の技量に言葉を失っていた。
「一発も外していないぞ……なんという正確さだ……」
「練習あるのみですよ! 全ては日々の積み重ねです!」
シャルロットの技能も、弛まぬ修練により獲得されたもの。
隕石は軒並み落とされ、庭園では元に戻ったぶんちょうさまが目を直角三角形にして跳ねていた。シャルロットは額を拭って、
「……ふぅ。ぶんちょうさまも元に戻ったことですし、これで一件落ちゃ……」
「ぴぃーーーー!!」
「うわ、危ねえっ……!」
突っ込んできた怒れるぶんちょうさまを風のオーラで偏向するマクベス。
「ぷいーー!?」
ぽーんと跳ねたぶんちょうさまが侍の集団に飛んでいった。慌てふためく侍達の眼前に空から光が降り注ぎ、照らされたぶんちょうさまが跡形もなく消滅する。ベイメリアのジャッジメント・クルセイドだ。
「まあ! まだこんなに!」
「……あー、これやっぱり倒さなきゃダメなやつ……です、よね?」
シャルロットが言い、瓦屋根から塀を伝って飛び降りたベイメリアが祈るように目を閉じた。
「ええ、ここはせめて、ひと思いに仕留めて差し上げるのが慈悲というもの」
固唾を呑んで見守っていた侍達が、訴えるような目をしてぶんぶん頷いた。
「……わかりました。わかりましたよぅ……」
戦場では努めて冷静沈着に振る舞うシャルロットも、この状況はちょっとやり難い。というか何だか勿体ない気がしてしまう。
「可愛い鳥さんたちに囲まれて楽しい気分だね。とシエナは言っています」
「つーか軽く包囲されてんじゃねぇか、これは」
仕方ねぇ、と二丁の魔装銃を仕舞い、マクベスは二振りの小刀を抜いた。
「きゅうきゅう~~!」
「きゅぴ、ぴぃーー!」
「おいやめろ、そんな目で見るんじゃねぇ」
責めるような瞳を向けられ目をそらすマクベス。何処からともなく羽ばたいてきた文鳥の群れが左右から襲ってきたが、それらを舞うような刀捌きによって斬り捨てる。
「おお、二刀流……!」
「なんと見事な」
それも一羽ずつではない。
纏めて数羽が電撃に弾かれでもしたかのように吹き飛んでいるのだ。
「きゅっ、ぴーー!」
「もふもふで可愛らしくとも、防がねばならないのです。ご容赦を」
ベイメリアが切っ先のないメイスでぶんちょうさまの突撃を防ぎ、毛鞠でも打ち返すように空へと跳ね上げる。
「ぎゅぴーー!」
「ぴぃーー!」
ぽーん、ぽーんと宙を飛ぶ数羽のぶんちょうさまが聖なる光に包まれて消えていった。
「なんだかとっても楽しそう。と、シエナは言いました」
蜜蜂竜と蜜蜂竜娘も残るぶんちょうさまに群がって麻痺毒を注入、抵抗する力を奪う。
「むぅ……こうなったら仕方ありません。風魔忍者、許しませんからね……!」
残存する個体を、シャルロットが狙い撃つ。結局、迎撃戦から此処に至るまで弾丸が外れることは一度としてなく――丸くて白い襲撃者は苦しむ間もなく消えていった。
「さあ一緒に行きましょう。とシエナは鳥さんを抱きしめました」
目を✕にしたぶんちょうさまの柔らかな体を抱いたのだが、
「ああ……お友達に迎えたかったのだけど……。とシエナは肩を落とします」
折角のお友達候補はしかし、腕の中で消滅し、骸の海へと沈んでいく。
煌めく光の粒子が空へと舞い上がって溶けるのを、シエナは見送っていた。
●防衛完了、そして戦は続く
「助太刀、謹んで感謝申し上げる」
鳥見源之丞が近侍の者と共に駆けつけるなり、猟兵達に深々と頭を垂れた。
一人ひとりの八面六臂の戦いにより、兵の損耗は皆無。
風魔忍軍の目論見がここでも打ち砕かれ、源之丞の率いる軍勢は士気も高く東海道を進軍をすることとなる。
大成功
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