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エンパイアウォー②~砂塵に潜む悪意

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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 ざっざっと地を踏みしめ、兵は往く。
 徳川幕府の要請に応え、ひいては、かの織田信長を討たんとするために。
 集められた兵の数は多く、まるで道の果てまでもと列が続いているかのよう。
 それだけでも、此度の挙兵が本気なのだ、と兵達自身にも理解させられるものであった。

 ――その隊列を撫でる様に、呑み込むかのように、からりからりと乾いた風が吹き抜けた。

 行軍の起こす砂塵だろうか。
「なんだ、この風は……」
「妙に乾いて……なんとも不吉な」
 ――いや、違う。それはまるで意思あるかのように砂煙の中へ兵達を呑み込み、その視界を塞ぐのだ。
 規則正しき足音は乱れ、俄かに騒然とした雰囲気が場を包み出す。
「落ち着け、落ち着くのだ!」
「ただの砂煙だ。少しもすれば落ち着く!」
「――そんな訳ないでしょ」
「なにや――ァ、ガァ!?」
 混乱を収めんとする将の声。しかし、その声は突如として悲鳴に変わったのだ。
 何事かと周囲の者が砂煙のカーテン越しにと目を向ければ、そこには突如として現れた童女が如き姿。そして、武将の姿はなく、そこにあったのは。
「ば、化け物!」
「酷いわね。さっきまで、あんた達を落ち着かせようとしてくれてたのに」
 ――水晶の如きを宿す屍の姿。その傍らで、童女は兵達の動揺を嗤う。
 ころりころりと嗤う姿は愛らしいそれであるのに、どうして虫の知らせが奔るのであろうか。
「あんなに酷いことを言うんだから、仕返しされたって仕方ないわ。行きなさい」
 そして、その虫の知らせが正しかったのだと、彼らは理解をさせられる。
 童女の言葉に解き放たれたは水晶屍人。それは動揺に身動き取れなかった者を、勇敢にも立ち向かわんとした者を、次々と噛み、己と同じへと変じさせていくのだ。
 砂塵の中で響き渡り続ける悲鳴。それは犠牲の連鎖が止まらぬことを示すもの。
「な、なんたる! 退け、退けぇー! 退いて、まずは砂塵より抜け、態勢を整えるのだ!」
「あははは! 大丈夫よ、逃げなくても。あんた達もすぐにこの一部になるんだからさ!」
 まだ姿変じぬ者を辛うじてと纏め上げ、残る将兵は退くを選ぶ。
 それを嘲笑うかのように、砂塵の向こうでころりころりと鈴の声が響いていた。

「みなさぁ~ん、大変ですよぉ~」
 間延びした声はどこか緊張感に欠けるような。
 ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)がゆらりゆらりと揺れる兎耳と共に、猟兵達の前へと姿を現したのだ。
「皆さんはもうご存知かもですがぁ、遂に対織田信長への挙兵が行わる運びとなりましたぁ」
 それは多くの猟兵の知る所であろう。頷きを返す者、既に幾つかの戦場に参じた経験を語る者など、反応は様々。
 その反応を目に留めつつ、ハーバニーは説明を続ける。
「それでですねぇ、各地から兵隊さんが集められているのですけれどぉ、困ったこと起こっているのですよぉ」
 それが本題なのだろう。ハーバニーはびしりと人差し指を示すように立てた。
 彼女に曰く、その挙兵のためにと奥羽にも檄文が飛び、それに呼応せんとした者達が居たのだ。だが、それを壊滅させた者達が居るのだと言う。
「水晶屍人……詳しい原理は不明ですがぁ、他の世界で言う所のぉ、ゾンビみたいなのですねぇ」
 それの厄介な所は、噛まれただけでその対象を水晶屍人と同じ存在へと変えることだ。
 1体が2体に、2体が4体に……と鼠算式にその数を膨れ上がらせることも不可能ではない。
 そして、実際に今もって、奥羽の兵を襲ったそれは数を増しながら南下し、江戸へとその歩みを進めているらしい。
「詳しい数は不明ですがぁ、数百……下手をすると四桁の数に達しているかもなのですぅ」
 今現在、それは壊滅から逃げ延び、態勢をどうにかと整えた奥羽の兵達と激突の真っ最中にある。
 だが、奥羽側の旗色は悪く、戦えば戦う程に犠牲は増える一方であり、相手の戦力は増す一方。
 しかし、それを放置することは、つまるところ江戸の危機を招くことであり、絶望の中でも戦い続けねばならないのが実情なのだ。
「そこでぇ、皆さんの御力が必要なのですよぉ」
 幸いと言うべきか、水晶屍人の力は猟兵と比べても低く、その能力は通じない。そして、知能が低いゆえに、指揮官たる存在が居なくなれば木偶の坊にも等しくとなる。
 だからこそ、猟兵達に求められるのは敵陣を切り裂き、核を穿つ鏃の役割だ。
 水晶屍人の群れを蹴散らし、突破し、その奥に居るであろう指揮官を討つ。それは猟兵達にしか出来ない事なのだから。
「敵の本丸へと至るためにも、今は一戦一戦を積み上げていきましょう。どうか、お気をつけて」
 カチリと錠の開く音。
 そして、世界が切り替わる。


ゆうそう
 オープニングに目を通して頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 ボス戦のみとなりますが、その周囲には数百~数千の『水晶屍人』の軍勢が存在します。
 そのため、それらを蹴散らしながら指揮官であるオブリビオンを探し出し、撃破する必要があります。
 それらは当然の様に猟兵達も狙ってきますので、それらへの対処もある程度考えていた方が良いかもしれませんね。
 如何に『水晶屍人』の攻撃や妨害を防ぐか、如何に強行突破するか、『水晶屍人』の中から指揮官を見つけ出す方策を打ち出せるかなどが大事になってくるでしょうか。
 皆さんのプレイング・活躍をお待ちしております。

 補足として、戦場は拓けた平地。
 砂塵が舞っており、視界はやや不良。敵陣へ進めば進む程に砂塵は濃くなっていくようです。
 激突している奥羽兵と水晶屍人の数の差は、開始時には奥羽兵4:水晶屍人6ぐらいと思って頂けたら。時間経過で変動する可能性も十二分にあります。
 なお、指揮官撃破後であれば奥羽兵でも水晶屍人の掃討は可能です。
 撃破前での掃討は困難ですが、奥羽兵を指揮する者があれば犠牲の軽減や戦況を押し留めることなどは可能になり得ます。
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第1章 ボス戦 『砂塵のあやかし』

POW   :    砂塵
【激しい砂嵐】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    目潰し
【自身の足元】から【対象の目に向かって蹴りあげるようにして砂】を放ち、【目潰し】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    砂の侵食
【着物の袖から放った砂】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を砂で覆い】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は世良柄野・奈琴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

花宵・稀星
むむ……砂埃が目に入って痛いのです(目を擦りながら)。
まずは、敵の指揮官の雲隠れならぬ砂隠れを防ぐためにも、この視界を塞ぐ砂煙をなんとかしなければならないですね。

そこで、私の持ち込むユーベルコードは<エレメンタルファンタジア>なのです。そう、相手が砂嵐なら、こちらは「水属性」の「嵐」、水嵐で対抗するです。「属性攻撃」の技能を高める<アクアマリン>の宝石を触媒に、難しい制御も安定させるです。
乾いた砂なら空気中に舞い上がることができても、湿気ってしまえば地に落ちるはずです。
私の魔法で乾ききった戦場に潤いをもたらし、砂の幕に隠された指揮官の姿、露わにしてみせるのです。


フィーナ・ステラガーデン
戦争って感じね!ってあたり一面人だらけで正直どうなってるかよくわかんないわ!
どこか高い場所があればそこに移動したいわねえ。
無いなら適当にがたいの良い兵士に肩車をお願いするわ!
すちゃっとアイテム【魔法的メガネ】を着けて【視力】アップよ!
遠距離攻撃に徹するわ!

むふーーっ!これだけいるならどこ撃っても良いわね!
どんどん爆破させていくわよ!連打よ連打!【範囲攻撃、属性攻撃】
ボスと屍人も全部巻き込んでちゅどーんちゅどーん!
砂塵がひどいようならUCで纏めて消し飛ばすわ!
邪魔な埃は掃いてしまえばいいわよ!

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


サギリ・スズノネ
砂塵で視界が悪いのですよー
水晶屍人達はー普通に見えてるんですかね?
サギリも砂塵を利用して【目立たない】ように進んでみるのです!

水晶屍人に見つかった時は【火ノ神楽】や『小鈴鳴丸』で応戦しつつ進みます
とりあえずー砂が多い方へ行くのですよ
目指せ本丸!なのです!

砂があんまり顔に当たる時や、敵の攻撃はー『鉄鍋』で【盾受け】して防ぐのです
どちらから攻撃が来るかはー、サギリの【第六感】も働かせるですよ!

指揮官を見つけたらー【火ノ神楽】をぶつけるのです!
とにかく砂が厄介なのでー、何とか止めたいのですよ
近づくと餌食になりそうなのでー適度に距離を取って戦うですよ!
サギリの故郷のエンパイアで、悪さすんじゃねーです!


トリテレイア・ゼロナイン
大きな戦……徳川軍や地域住民の被害は抑えねばなりません
そして万単位で死者が出る中、一つでも多くの命を救う
この行動が多くの命を救うことに繋がるならば、騎士として全力を尽くしましょう

奥羽兵の指揮を取れるほど集団戦の指揮の心得は無し
一気に将を狙います

●防具改造で防塵処理を身体に施し
UCの機動装甲を纏い、低空飛行にて格納銃器での●なぎ払い掃射と追加装甲での●盾受けを用い体当たり攻撃で水晶屍人を排除しつつ敵陣に突入

センサーでの●情報収集で「屍人」よりも体温の高い目標=将を捜索

砂嵐の風の動きを●見切り●操縦技能で機動制御
風に負けぬ重量の大盾をワイヤーアンカーでの●怪力●ロープワークで鉄球宜しく叩きつけます


ナミル・タグイール
蹴散らして倒すだけなら得意にゃ!ナミルに任せろデスにゃー!
キラキラゾンビいっぱいにゃ。水晶じゃなくて金ぴかなら天国だったのににゃー。

戦法は突撃、ボスはきっと奥で待ってるにゃ!な考えでひたすら直進
【呪詛】ましましのパワーアップ斧で突き進むにゃ!
襲われても無視にゃ【捨て身】にゃ!水晶はいらないにゃー!
グラウンドクラッシャーでゾンビを周りの地形ごとふっ飛ばして直進
うざったい砂嵐も衝撃で消したり相殺できないかにゃー

やっと見つけたにゃ!見つけたからには逃さないにゃー!
砂嵐出される前に先手必勝で捨て身で飛びついてザックリしたいにゃ。
当たれば呪詛で動きしばれるはずにゃ。
あとはみんなでどっかーんにゃ!


オリヴィア・ローゼンタール
死者を兵として活用する……どの世界にも、そういう手合いはいるのですね

【転身・炎冠宰相】で白き翼の真の姿へ変身
羽撃くことで風の【オーラ防御】を作り出し、奥羽の兵たちに加護を与える(鼓舞)
これで少しはマシになるでしょう

【属性攻撃】【破魔】で聖槍に聖なる炎の魔力を纏う
【怪力】を以って聖槍を縦横無尽に【なぎ払い】、水晶屍人も砂塵もまとめて【吹き飛ばす】
いったいどれだけの骸を貶めて……!

指揮官を発見したら【ダッシュ】
砂嵐に向かって聖槍を振るい炎の竜巻(属性攻撃・衝撃波)を起こして対抗
【オーラ防御】を纏って減速せずに吶喊し、炎と砂嵐を突破
【全力魔法】で聖槍に纏った炎を最大強化して叩き斬る


エーカ・ライスフェルト
古のニンジャはこう言ったそうよ。最終的に全員殺せばGOODなのだ、と
「私が炎の矢を230本同時に撃ち込むわ。敵部隊全てを倒すのには全然足りないでしょうけど、突入するために隙を作るのには十分だと思うの」
という感じで奥羽兵の指揮官に協力を持ちかけるわ
「突入には拘らないわ。一旦後退するために230本撃ち込むというのもありだと思うし」

要するに私を目立たせて『砂塵のあやかし』を誘き寄せたい
来ないなら延々230本を撃ち込んで水晶屍人を減らすだけね

『砂塵のあやかし』が襲って来たら【念動力】で殴って交戦する
水晶屍人は奥羽兵に任せ味方猟兵が来るまで時間稼ぎをしたいわね
「時間経過で強くなる、か。そろそろ拙いわね」


御堂・茜
奥羽の皆様!ご安心下さい!
御堂茜、御堂家より援軍として推参致しました!

御堂はこれより敵将を討ち取りに参りますが
奥羽兵の方々には護りの盾を託します
このウキヨエにはわたくしの【気合い】と信念が宿っております!
翳せば邪を退け【拠点防御】の要となりましょう

それでは【暴れん坊プリンセス】で突撃です!
【気合い】を纏った体当たりで屍人を【吹き飛ばし】、
ミドウ・アイによる【情報収集】で
悪の気配が濃い場所へ一直線に駆けます!

一早く敵将の元へ駆けつけたなら
刀を振るい気合の【衝撃波】で大爆発を起こします!
視界不良の戦場で
敵の居場所を味方に伝えるなら音かと!
その後も爆風で砂を散らし敵の戦法を乱して
皆様を援護致します!


萬場・了
チッ、この砂じゃあカメラは使い物にならねえ
撮影の前に指揮官を見つけなきゃいけねえな!

ふひひ……
さあて、これだけ広い戦場で使うのは初めてだが、上手くいくか。
【鬼隠し】を発動。フィールドと共有した五感で水晶屍人を避けつつ指揮官を探すぜ
早く見つけられればそれだけ兵も助かるはずだ……

おっと、先に【安定錠剤】も飲んでおく。
向こうも土地自体が敵だとは思わねえだろうが
念のため攻撃に対する激痛耐性を備えておくぜ
視界を悪くしている砂で逆に気が付かれなきゃラッキーってな!

ボスは砂が厚く積もる中心だろ?位置を見つけられたら他猟兵へ伝達
砂で見えてなくとも場所は分かってんだ
俺の【フック付きワイヤー】で捕まえられるか?


草野・千秋
アドリブ連携歓迎

水晶屍人、侮れませんね
数で攻めて来るとは恐ろしいのです
(武者震いするもすぐに取り直し)
僕達猟兵の出番だ
皆さんで迎撃していきますよーっ!
変身!断罪戦士ダムナーティオー推参!

戦闘は2回攻撃とスナイパーと範囲攻撃を主軸に戦う
アサルトウエポンでよく狙って
着実にダメージを与えていく
敵体力が削れて弱ってきたら
接近戦に切り替え怪力パンチをお見舞いする
正義の鉄槌を食らうといいのです!
敵からの攻撃は激痛耐性、盾受け、武器受けで耐え凌ぎ
仲間が攻撃されそうならかばう
これしきの傷……ッ!

決め場となればUC
喜びの島ではない……骸の海へッ!



 風がうねり、砂が舞い、轟く戦の音は地の彼方までと響き渡る。
 それは生者達のによる抗いの証明であり、死者達による冥府への手招き。
 だが、荒れ狂う砂の舞は死者達の味方。1つとうねる度、生者は死者へと堕ちていく。
 最早、絶望しかないのか?
「死者を兵として活用する……どの世界にも、そういう手合いはいるものですね」
「奥羽の皆様! ご安心下さい! 御堂茜、御堂家より援軍として推参致しました!」
 ――否である。その絶望を否定するために、猟兵達がこの場にはせ参じたのだから!
 輝く白き翼は遍くを照らし出す光。それは絶望に眩みつつあった者達に未来の灯火を与えるもの。その名をオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。
 砂塵舞う中でも彩褪せぬ春の色。それは絶望に染められつつあった者達に生命の息吹与えるもの。その名を御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)。
 これより集う猟兵達の先駆けとして、2人はその姿を戦場へと、抗い続ける兵達へと見せつけるのだ。
 そして、それへと呼応するかのように1人、また1人と猟兵達が戦場の地を踏みしめる。
「むむ、砂埃が目に入って痛いのです」
「砂塵で視界が悪いのですよー」
「チッ、この砂じゃあカメラは使い物にならねぇ」
 それは白金の輝きを纏い、まだ見ぬ未来を歩き続ける人形の少女――花宵・稀星(置き去り人形・f07013)。
 それは砂塵奏でる悪意の音をかき消すような、澄んだ音色を響かせる少女――サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう。・f14676)。
 それは己が追う真実を捉えんとするように、砂塵の向こうへと隠された悪意を見抜かんとする青年――萬場・了(トラッカーズハイ・f00664)。
 勿論、先駆けへと続くようにとこの地へ足を踏み入れたのは彼ら彼女らだけではない。
 金色がふわり宙を踏みしめ舞い降りれば、白銀なる輝きが砂塵圧するようにと存在感を放つ。そして、金色彩る宵闇が音もなくと地にその影を落とし、艶やかなる桃の花は砂塵舞う中であってもその姿を鈍らせはしない。
 集いたる猟兵は10人。
「砂塵だけではなく、それに潜む水晶屍人達もまた侮れませんね。数で攻めて来るとは恐ろしいものです」
 9人が立ち並ぶ中、ふるりとその身を震わせながら最後の1人――亜麻色の青年は姿を見せた。
 だが、そのふるえは怯えに非ず。これより待ち構える難事に立ち向かう英雄の武者震いと知るがいい。
「――だからこそ、僕達猟兵の出番だ。皆さん、行きましょう!」
 ――変身!
 雷光の輝きが中より響く声は力強く、暗雲晴らすかのように。それに応える者達の声もまた同じく。
 草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)――否、断罪戦士ダムナーティオーは、猟兵達は、この絶望たるを打開せんと、それぞれがそれぞれに行動を開始させていくのであった。


 戦端拓くようにと、炎の矢が降り注ぐ。
「戦争って感じね! って、あたり一面が人だらけでどうなってるかよくわかんないわ!」
「大きな戦……既に失われてしまった命もあるでしょうが、それでも、一つでも多くの命を救うために全力を尽くしましょう」
「そのためにも、目指せ本丸! なのです!」
 本来であれば闇夜見通す眼鏡。しかし、今ばかりは視力補強のためと眼鏡本来の使い方。それをスチャリと付けたはフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)。
 よいしょの掛け声と共に、高所――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の肩より飛び降りたのだ。
 その動きに、砂塵の悪戯に、フィーナの纏う夜色が広がり、揺れた。
 彼女が降りやすいようにと合わせて屈んでいた彼は、フィーナが無事に降り立つを見届け、すくりと立ち上がる。
 傍より聞こえたは、ありがとね! の明るい声。それへ応えるように緑が兜の奥で瞬いた。
 そして、そんなトリテレイアの姿は白銀なれども、常よりも多くと装甲を纏うもの。傍にある2人の少女が姿故に、それは余計に際立って大きく見えていた。
「――それに、サギリの故郷のエンパイアで、これ以上悪さなんてさせねーです!」
「そうですね。徳川軍や地域住民の被害を抑えるだけではなく、根本を断ちましょう」
「大本叩けば全部解決! 分かりやすくていいわね!」
 憤懣やるかたなしと言わんばかりのサギリではあるが、それを体で表し動く度にところりころり鈴が鳴る。
 それは主と同じく抗議をあげているようにも、落ち着けと言っているようにも聞こえる不思議な音色。
 心の澱を洗い流すようなそれは思考を清明とさせ、今、何をすべきかを明確に浮き上がらせていくのだ。

 ――爆音が響いた。

「むふーーっ! これだけいるなら、どこに撃ってもいいわね!」
「味方を避け、敵ある場所のみをとはお見事です」
 その下手人はフィーナ。爆炎繰り、広範囲を薙ぎ払うは彼女の得手とするところ。
 だが、広範囲を纏めてと薙ぎ払うが故に、それは仲間を、奥羽の兵を巻き込む可能性を孕んでいるもの。
 しかし、一瞬と晴れた砂塵の向こう、燃え、倒れるは水晶屍人の姿のみ。
 先頃にトリテレイアの肩を借りたは敵味方の把握のため。脳裏に描いた地図の中、彼女はそれを見事と活かし、彼女は次々と爆炎を暴れさせるのだ。
「どんどん爆破させていくわよ! 連打よ連打!」
 ――いや、その思い切りの良さは、実は何も考えていなかったからなのかもしれない。
 とは言えだ、実際に敵だけを巻き込んだ結果がそこにあるが故に、誰も何も言いはしない。
 天才肌の少女、ここにあり。
 そして、彼女の開いた穴を更にと切り開くかのように、砂塵切り裂くは流れ星。
 それは装甲の頑丈さを、スラスター出力を前面に押し出した吶喊。
「流石の良い仕事ぶりですね」
 考えてほしい。大質量の物体が、ともすれば音すらをも置き去りとする速度で迫ってくるのだ。
 水晶屍人に止めろということが土台無理な話であった。
 だからこそ。

「煩わしいったらないわね、猟兵達」

 ――砂塵が渦巻き、爆炎が拓いた空間を再びと飲み込み、トリテレイアの軌道を乱したのだ。
 突如として発生したそれがただの自然現象のはずがない。
 トリテレイアは地へと一筋の痕を残しながら、着地に揺れる視界の向こうへ屍にはない熱源を視た。
 下手人は言うまでもない。この砂塵に隠れ潜む悪意たる存在。
 不時着と至らなかったのはひとえにトリテレイアの技術が賜物。
 だが、それでも立て直しの時間は必要で、それを許さないとでもいうかのように、屍達が砂塵の向こうから迫りくる。
 フィーナも援護をと試みるが、荒れ狂う砂粒が体を叩き、その集中をかき乱すのだ。

 ――悪意をかき消すように、しゃらりと鈴の音1つ。

 それは砂の嵐が音の中にあって、目立つことなき小さな小さな音であった。
 だが、そこから引き起こされた現象は決して無視など出来ないもの。
 神楽鈴の鈴緒も優雅にたなびかせ、砂塵の中でサギリは舞い踊る。それへと呼応するように現れ出でたは鈴鳴る焔。しゃらりしゃらりと鳴り響きながら、それはフィーナを、トリテレイアを守るようにとその周囲に浮かび上がるのだ。
「誰も傷つけさせたりなんて、させねーのです!」
 その決意を強く強くと示すように、りんと響くはサギリが声。2人に近づいた屍が、鈴の音を、焔を厭うように後ずさり、距離をとる。
 その姿は砂吹き付ける中にあっても、堂々と、まるで影響を受けていないかのよう。
 それは戦う2人の影が如くと目立たずいたが故に、敵の攻撃をやり過ごしたからか。
 それとも、サギリ――漢字数多ある中で、砂霧、砂の霧とも、当てることの出来る名前が加護となったのか。
 どうにしても、彼女は吹き付ける砂塵の中にあっても影響を受けず、2人を守る一手を打てたのだ。
 そして、その稼いだ時間が彼らに再起の機会を与えていく。


 3人の猟兵達が突入を開始すると時を同じく、破竹の勢いを見せる者達の姿もあった。
「蹴散らして倒すだけなら得意にゃ! ナミルに任せろデスにゃー!」
 振るう戦斧の妖しき煌めき。ナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)が一閃は、屍の群れを一撃でもって水晶欠へと変えていく。
 その煌めきはナミルの嗜好を擽るものではあったが、黄金でない以上は射止めるまでには至らない。
「キラキラゾンビいっぱいにゃ。水晶じゃなくて、金ぴかなら天国たったのにゃー」
 残念無念。だからこそ、彼女のその手は手加減を知りはしない。
 再びと振るった一撃が、砂塵ごとと水晶を割り砕いた。
 獅子奮迅たる勲。しかし、それは防御を考えず、攻撃一辺倒へと思考を偏らせているからこそ。
 だが、彼女はそれでいいのだ。なぜなら。

「いったい、どれだけの骸を貶めて……!」
「益荒男が如き武者っぷり! 御堂も負けてはいられませんね!」
「やらせはしない!」

 ――なぜなら、彼女は1人ではないのだから。
 オリヴィアが持つ聖槍に、黄金の穂先に、邪なるを滅する炎が宿る。
 茜が愛馬に気力が満ち満ち、ナミルに負けじとばかりにその横を駆ける。
 千秋の放つ銃弾が、屍達の秩序だった行動を崩壊させ、突き進む彼女らの道行を盤石なものとする。
 心配など無用であった。
「にゃ! その穂先、いいデスにゃー!」
「あ、え? 流石にこれは……」
 だが、ここで問題が1つ。
 オリヴィアが黄金の穂先の輝きは哀れなる骸を天へと召すに留まらず、金ぴか好きなナミルの目にも留まってしまったのである。
 きらきらと輝く視線は釘付けで、まるで猫じゃらしを振られた猫のように、穂先の動きを追って視線も右左。まだ手が出ないのが幸いか。
「むむ、なんだかあまり正義量が高くない気配が?」
 正義量と書いて、ジャスティスエナジーと読む。そんな茜が持つ独自の気配察知機能が、何やら引っ掛かりを見せたような。
 しかも、それは仲間であるはずの――ナミルの方角から。
 ちらり向けた視線の先で、黒い猫さんは口笛1つ。理性が勝ったか。それとも、打算が勝ったか。
「気のせい……だったのでしょうか」
「にゃー」
「……駄目ですからね」
「にゃー」
 残念無念。
「皆さん、案外に余裕がありそうですね」
 放つ銃弾の手は緩めず。必要とあらば介入もと様子を窺っていた千秋であるが、問題はなさそうだと己が役割を果たし続ける。
 それもその筈、じゃれる様にしながらも、3人の手はひと時とて休まずに、屍達を砕き、穿ち、薙ぎ払い続けていたのだから。
 勿論、そこには千秋が援護射撃による敵の連携阻害があったからこそでもあるが。
 だからこそ。

「煩わしいったらないわね、猟兵達」

 ――その余裕を奪い去らんと、砂塵が渦巻き、力でもって突き進む4人の障害となり立ちふさがるのだ。
 如何な力があろうとも、それは形あるものを打倒するためのもの。
 千変万化たる砂の1粒1粒を、それ運ぶ風の流れを、断ち切るは容易ではない。
 視界を奪い、身を叩き、足を縛る超常のそれ。
 だが。
「うざったい、にゃー!」
「万魔穿つ炎の槍、不滅の聖鎧、そして天翔ける翼を与え賜え――!」
「ここで御堂の足が止まらば、民の嘆きを誰が止めようと言うのでございましょうか!」
「これしきの悪意……ッ! それで止まる僕達ではない!」
 ――それで諦める猟兵ではない。諦めるような者達であるならば、ここに立っている筈もなかったのだ。
 砂の1粒1粒が断てない? 風の流れが断てない? だからどうした。それならば、世界ごと捻じ伏せるまで。

 ――黄金の戦斧が砂塵の世界を割った。
 ――破邪なる輝きが砂塵の世界に混じった悪意を燃やした。
 ――己が正義貫く裂帛の気合が砂塵の世界を衝撃と共に断ち祓った。
 ――正義宿す鉄槌が砂塵の世界の悪意を穿った。

 迫る力をより強い力が捻じ伏せ、そして、彼らは再起の時を得る。


 しとしとと暖かな雨が降る。砂塵吹き抜け、乾いた平地を潤すように優しく、優しく。
「これは……なんだってのさ!?」
 水を吸った砂は重い。塊となり、泥となり、砂を扱うに特化した彼女――砂塵のあやかしには上手くと動かせはしない。
 いや、特化はしていても、それでも多少なりとは動かせるはずなのだ。なのに、それなのに。
 砂塵が、彼女の世界消えていく。まるで、違う誰かの世界になってしまったかのように。
「ふひひ……もう既に、てめえは鬼の腹ん中だぜ」
 響いた笑い声はまるで嗤うよう。それは砂塵消え去り、その姿をついにと捉えた了の声。
 その手には砂塵ある間はと動かせなかったビデオカメラの姿。
 まるで、いや、まさにと言うべきか。これから起こることを1つとして逃さず、克明に記録せんと。
「鬼の腹? ――まさか、この雨も、何もかもも、あんたの仕業!?」
「いいや、違うね。それは買い被りってもんさ」
「なら、だれが!」
「それを答えちゃ、面白みってもんがないだろ。それにほら、言ったろ? ――ここは鬼の腹ん中だって」
 響く、響く、世界揺るがす鬨の声。
 それは視界遮るものなくなった奥羽兵達の声数多。
 1人1人の声は小さくとも、数合わされば、それは確かに世界揺るがす声となるのだ。
 慈雨の中でも消えぬ炎の矢へ導かれるように、彼らは駆ける。かつての輩を眠りにつかせんと。
 その勢いに、水晶屍人達がその動きを抑え込まれていく。
 そして、同時に。

 ――見つけた。

 首魁討たんとする猟兵達が、機を逃さずと一斉に動き出した瞬間。
 反撃の狼煙はあがり、地獄の沙汰を言い渡す鬼の声は確かに響いた。


 時間は少し遡る。それは猟兵達が突入を行う直前だ。
「あの砂塵、あれが厄介よね」
 語るはエーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)。静かに、気だるげに、核心を穿つ。
 あの砂塵をどうにかしなければ、敵の利を覆せないと。
 だからこそ、彼女は独り言を零すかのように問うたのだ。恐らく、打開の術を持つであろう者達に。
「ええ、砂塵に対抗する術はここに」
「俺のほうは、これだけ広い戦場で使うのは初めてなんで、上手くいくかは五分五分ってところだ」
 応える稀星の手の中で光を放つは蒼き輝き。その輝きは小さなものであったが、確かな希望の輝き。
 そして、了は確約を口にはせず、代わりにと口にするのは薬の1粒。それは痛みを抑えるためのもの。口には出さない覚悟がそこにはあった。
「あるのね?」
「はい、ですが……」
「時間稼ぎが必要。それも、あなた達に危機を及ぼさないように」
「その通りです」
「いいわ。そちらは私で対応しましょう」
 どこまでも静かに、淡々と、気だるげに。
 エーカがちらりと向けた視線の先、茜とオリヴィアに力分け与えられる奥羽兵達の姿があった。

 猟兵達の突入が始まるその横で、また1つの戦いの幕があがる。
「この状況を打開するために、貴方達の力が必要なの」
「ほう?」
 単刀直入。まだるっこしさを抜きにして、エーカは結論から語った。
 それに訝し気な視線を向けるは今まで軍を纏めていた将の姿。
「私の仲間が砂塵を晴らす術を持っているわ。だけれど、それを行使するまでの時間が欲しいの」
「それは……私たちに捨て駒になれと言っているのですかな?」
 既に部隊の摩耗は激しい。身体的な疲労だけでなく、先刻まで轡を並べていたはずの輩が次の瞬間には屍となり襲ってくるという精神的疲労もまた蓄積しているのだから。
 だが、エーカはそれに同情をするでもなく、気遣うでもなく、ただ真実のみを告げるのだ。
「あの子達から力を分けて貰っていたでしょう」
 それは信仰の齎す護りの力であり、暴れん坊プリンセス印の護りの力。
 その二重の加護があれば、被害の軽減はできるだろう、と。
 そして、なにより。
「力がなくても、最後まで戦っていたでしょう? それなら――」
「よい。皆まで言われなさるな」
 ――力なくとも、彼らは今までずっと戦い続けてきたのだ。背後にある無辜の命を守るために。
 訝し気な将の顔に力が戻る。演技だったのだろう。
「――この命、好きに使いなされ」
「貴方達の命なんていらないわ。自分でちゃんと持って帰りなさいね」
「ハハハッ、そうですな!」
 呵々大笑。対面していたその将だけでない、周囲の者たちまで笑いを上げる。
 だが、それに頓着とせず、エーカは話を続けるのだ。
「それじゃあ、私が炎の矢を230本同時に撃ち込むわ。敵部隊を全てを倒すのには全然足りないでしょうけれど――」
「――気を引き付けるには十分というわけですな」
「そういうこと」
 そして、戦は幕を上げる。総数230本にも上る炎の矢を鏑矢として。

 着弾して、着弾して、着弾して。それでも、水晶屍人の数は減りはしない。
 だが、その進行方向は確かにエーカの方へと流れ繰るもの。
「そ、本体のお出ましとまではいかないわけね」
 なら、出てきたくなるまで燻り続けるのみ。
 幾たびも、幾たびもと矢が砂塵の中を行き、突き刺さり、飲み込まれ、時にかき消される。
 見据える先で1人が砂塵隠れ蓑とした奇襲に守りを突破され、その姿を屍と変じる。
 傷口が広がるよりと早く、その頭を炎が消し飛ばした。
 また、見据える先で――。
「時間は稼ぐけれど、時間自体はまだ相手の味方よ。早めにね」
 一瞬だけ離した視線の先は戦況覆すを託された2人の姿。

「相手が砂嵐なら、こちらは水属性の嵐、水嵐で対抗するです」
「へえ、属性魔法的な? それはまた画面映えしそうだ。この砂さえなけりゃあな」
「あなたの方は大丈夫なのです?」
「手応えはあるが、何か意思みたいなのが邪魔して、完全には難しそうだ」
 了が僅かと眉しかめたは広げた五感が地を削る痛みを拾ったからか。それとも、なしきれぬことへの苛立ちか。はたまた、両方か。
 それを見つめた稀星は意を決したかの如くと、瞳を閉じ、己が内に埋没する。
 それは1つの儀式だ。
 彼女が行使せんとするのは属性と自然現象とを合成し、この世へと現象として顕現させるもの。
 僅かな範囲だけであるのなら、彼女の力をもってすればそれはさして難しいものではないのだろう。だが、戦場である平地全体という広範に及ぶ自然現象レベルともなると、その難易度は属性魔法の屈指の使い手たる稀星をもってしても跳ね上がる。
 だからこそ、彼女は己の討ちに眠る魔力を、手綱を離さぬようにと握りしめるのだ。
 それはまさしく大きな隙であり、致命。故に、エーカが、奥羽の兵達は稼ぐ。

 ――ドクン、と、心臓が跳ねた。

 スッと開いた瞳に宿るは凪。
 さざ波1つとして立たぬ瞳は、この世の万象を読み解き、稀星へと伝え来る。
 それは稀星にしか理解しえぬ世界であり、そこには様々な彩があった。
 一番多いのは、土に混じる黒――ダレカの悪意。
 だから彼女は。

「降り注いで欲しいのです」

 ――それを洗い流そうと決めた。
 しとしとと暖かな雨が降る。まるで、地に恵みをもたらすかのように。
 砂塵を濡らし、落とし、清浄なる空気を世界に満たしながら。
「! 来た来たぁ! 掴んだぜ!」
 それと共に響き渡るは了が喝采の声。
 そして、綺麗さっぱりと洗い流された世界が変わる。
 了の望むように。整えたいように。まるで、映画のセットを組み立てる様に。
 それが了の解き放った力の正体。
 子供の時分に迷い込んだ知らない土地のように、取り込んだ者を迷わせ、世界から孤立させるのだ。
 そして、時計の針は現在へと追いつき、その時を前へと進み始める。
 了もまた、これからの時を一刻も見逃すまいとその手にビデオカメラを収めて。


 ――見つけた。
 零した言葉は各々違う。だが、その内容はいずれも同じ。
 砂塵を隠れ蓑とし、潜んでいた悪意は白日の下に晒されたのだ。

「糞ッ、糞ッ、どうして! 上手くいってたってのに!」

 ならば、最早するべきは1つだけ。

「邪魔な土埃は掃いて捨てられるものよ! つまり――消し飛べえええええええええ!!」
「随分と好き勝手してくれやがりましたね! もう、これ以上はさせねーです」
「多対1というのは騎士道らしからぬのかもしれませんが、実際の戦場の騎士ならば手段を選ばないものでしてね」
「やっと見つけたにゃ! 見つけたからには逃がさないにゃー!」
「砂塵がお好きなのであれば、同じくとしてあげましょう。塵と消え去りなさい!」
「この一刀にて断たせて頂きます! そして、この一刀は貴女に死を辱められた方達の遺志と心得てくださいませ!」

 爆炎が妖の身を包み、鈴の音は鎮魂の音を響かせる。
 遠心の勢いと怪力の合わさった大楯の一撃が熱した体に突き刺されば、呪いと破邪という対極とも言える双つの刃が重く、鋭くと駆ける勢いのままにその身を抉るのだ。
 そして、熱過ぎ去りし後の煙は解き放たれた者たちが昇る天への架け橋か。それを纏う風に巻き込む大太刀が一閃は、滑らかに妖の体をすり抜けていった。
「既にフィニッシュブローは決まっている」
 それは砂塵の世界が悪意を穿った時に。
 だからこそ、これが当たるは当然の帰結。

「お前が逝くのは喜びの島ではない……骸の海へッ!」
 放たれるは、今、必殺の――!
 断罪の刃たる蹴撃は吸い込まれるようにと妖の身体へ突き刺さり、その身はほろりほろりと崩れ、地へと――骸の海へと還っていく。
 最後に、その口が僅かと動くを猟兵達は見る。

「――もうし……あり……ん」

 彼女が今際の際に遺した謝罪は誰へのものか。
 己が上に立つものか。それとも、更にその上にある者へか。
 いつしか雨は止んでいた。
 ここにサムライエンパイアを脅かす脅威の1つは猟兵達により暴かれ、消え去ったのだ。
 砂塵消え、雨の止んだ空は快晴。
 それはまるで死者達の安寧を約束するかのように、猟兵達の先行きを示すかのように青々と晴れ渡っていた

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月04日


挿絵イラスト