エンパイアウォー④~絶やさねばならぬ火
●儀
竜の子どもが首を裂かれて、か細く鳴いて動かなくなった。
溢るる血は杯へ注がれ、富士の山を起こす力と成る。
目覚めよ、目覚めよ。目覚めて祓え。
其の火を持って、浄き世と成せ。
それは、届いてはいけない祈り。
数多の命を散らすための――。
●義
「サムライエンパイアでの開戦の報せは受けているな? 戦に至るまでを、ざっと振り返っておこうか」
故郷の大事に眉間の皺を深くしながらも、グリモア猟兵の火神・五劫(f14941)は仲間たちへと言葉を紡ぐ。
寛永三方ヶ原の戦いにて勝利した猟兵たちは、武田信玄を討ち、『第六天魔軍将図』を手に入れた。
この図に記された名は8つ。
そのうち信玄以外のオブリビオンが、サムライエンパイアを征服するために動き出したのだ。
当代の徳川幕府将軍・家光はこの国難に立ち向かうために挙兵、敵将・織田信長を討つべく進軍中である。
「幕府軍の存在は、織田信長撃破に不可欠だ。ゆえに、敵も様々な策を講じて数を減らそうとしてくる。皆にはその策の一つ――霊峰・富士山の噴火阻止に向かって欲しい」
富士山噴火を目論んでいるのは、魔軍将の一人である侵略渡来人・コルテスだ。
コルテスは富士の樹海に配下のオブリビオンを潜ませ、富士山を噴火させる為の太陽神の儀式を行わせているという。
「富士の樹海を探索し、儀式場を発見。太陽神の儀式を執り行うオブリビオンを撃破。以上が、今回の作戦の一連の流れだ」
儀式を行っているのは“緋天”と呼ばれる赤い鳥の姿をしたオブリビオンだ。
ケガレを引き受け死した瑞鳥が蘇った存在であり、炎の力を宿しているという。
「儀式場は結界で覆われて見えなくなっているようだが、ケガレや高温といった敵の持つ性質までは隠しきれん。何かしらの方法で感知を試みれば、きっと迅速に辿り着けるだろう」
また、太陽神の儀式は、ケツァルコアトルの子たる子竜を殺し、その血を聖杯に注ぎ、祈るという血生臭いものであるという。
血の臭いも探索の手掛かりと成り得るだろう。
「富士山噴火が実現してしまえば、その被害は東海・甲信越・関東と広くに及ぶ。どれだけの犠牲が生まれるか……どうか、どうか止めてくれ」
五劫は仲間たちへと頭を下げる。
グリモア猟兵としてだけでなく、サムライエンパイアに生まれた一人として。
藤影有
お世話になっております。藤影有です。
サムライエンパイアに生きるものを守るべく、猟兵の皆様の力をお貸しいただけますと幸いです。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
章構成は一章のみ【ボス戦】となります。
●プレイングについて
富士の樹海に隠れて儀式を執り行うボスを発見し、撃破していただきます。
儀式場を迅速に発見する為の探索の工夫や、敵へうまく奇襲を掛けるための作戦などがあれば、より事がスムーズに運ぶかもしれません。
それでは、皆様のプレイング楽しみにお待ちしております。
第1章 ボス戦
『緋天』
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POW : 穢焔
【嘴から焔】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 斬翼
単純で重い【翼】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ : 絶啼
【咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:龍烏こう
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鈴・月華」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
セプテンバー・トリル
生贄の儀式も大災害も許すわけにはいきませんわね。
【WIZ】連携・アドリブ歓迎
まずはUC【追跡測量班・招集】を使い【サーベイヤー】を召喚し、現場周辺を観測させますわ。
敵が高熱を発しているのなら、センサーによる【情報収集】で場所の特定は容易いでしょう。
そのままサーベイヤーの隠密機能で儀式場の上空まで移動し、そこから飛び降りて奇襲をかけます。
【螺旋剣】に氷の【全力魔法】による【属性攻撃】を乗せて戦いましょう。
敵からの攻撃は【オーラ防御】で対処しますが、出来れば攻撃をさせずに【吹き飛ばし】てしまいたいですわ。
こんな穢れた儀式場など、後で更地にしてあげますわ。
バルディート・ラーガ
ヒッヒッヒ。ソレで隠れてるおつもりですかい。
あっしの「第六感」。五感たアまた別の、熱を視る器官をもってすりゃ
森の中で燃え盛るトリなんざ、スケスケの丸見えにございやすぜ。
ヒトを呼びつつ、結界に向かいやす。
オット。火イ吹きやすかい?あっしにも痛手ですが、ソッチも困るンじゃねエのかなア。
テメエらの大将の目的は、イケニエの血を捧げる儀式だそうじゃねエですか。
その遂行前に、周囲を無差別に……
儀式場ごと、供物ごと燃やしちまうつーのは、最悪手でしょうぜ。
さアて。【咎めの一手】!そのクチバシ、しばし封じさして頂きやしょ。
後はすかさず頭狙いの尻尾ビンタでも、一発お見舞いしてやりやしょうかねエ。
コルチェ・ウーパニャン
コルチェには熱さもジュソも、耐性、無いし、よくわかんないけど、
着いたら周りをよーく観察するね。
お花はどっちに向いて倒れてるか、
動物さん達は、どっちから逃げてくるか。(コトバはわかんないけど、キモチで通じ合えると思うの)
熱い風が吹いてくる方へ。
髪が融けちゃう前に、行かなくちゃ!
トリさんの敵とは前も戦ったけど……同じ戦い方が通用するカンジ、しない!
うーっ、勝負だよ、緋天さん!
『キケン』のシールをピカリブラスターに貼り付けて、パワーをチャージ!
最大出力で、ガオーーーン!!!
コルチェと緋天さん、どっちが強いかは分かってる、けど、
猟兵みーんなのパワーを合わせたら、どんな敵にだって勝てちゃう、と、思うよ!
ウィルバー・グリーズマン
ほう、儀式ですか。それは面白い……と言ってられる状況ではなさそうですね
上手い具合に見付け出すとしましょう
樹海ですか……最初に、魔術『エアウォーク』で空を飛びます
次に、魔本アルゴ・スタリオンに紐を括り付けて、【魔本を振り回す】事にします
その前に、全力魔法の魔術『ブラスト』で、魔本に水と風の属性を限界まで補助で込めて置きましょう
頭上で思い切り振り回しながら、空を飛んで移動します
強烈な風で大量の水が撒き散らされて、木を濡らしていく事でしょう
空中で水の勢いが弱まったり、蒸発したらそこが儀式場だと分かります
緋天を見付けたら、水を得た魔本でひたすらぶん殴りましょう
嘴の炎もカウンターの水魔術で逆に消化します
ローズ・ベルシュタイン
【薔薇園の古城】メンバーで参加
アドリブや他猟兵との共闘歓迎
WIZ判定
■心情
富士山噴火ですか、噴火してしまえば大惨事になりますわね
それだけは必ず阻止しましょう
■行動
【第六感】や【野生の勘】でケガレや高温を察知し儀式場を探してみますわ
クラウンのユーベルコードに合わせ私も【情報収集】する
戦闘では、夕暮れ時に薔薇は踊り咲くを使用して戦いますわね
【範囲攻撃】で広範囲を攻撃し避け辛い攻撃を行い
【マヒ攻撃】や【気絶攻撃】で敵の動きを止めつつ攻撃しますわ
【鎧無視攻撃】や【2回攻撃】で大ダメージも狙う
絶啼に対しては、敵の攻撃範囲外に【ダッシュ】や【逃げ足】で退避
避けきれない時は【オーラ防御】で咆哮を相殺する
クラウン・アンダーウッド
【薔薇園の古城】
アドリブ歓迎
さてさて、さっさとボスを見つけて撃破しようか。指定UCで懐中時計を量産して広範囲に展開していき周囲の【情報収集】を行おう。物量に物言わせた索敵で早く見つかることだろう。
見つけてからが本番だ。盛り上がっていこうじゃないか!
複数の応援特化型人形の人形楽団による【楽器演奏】で味方を【鼓舞】しよう。
キミの全てはボクに筒抜けさ♪引き続き懐中時計による【第六感】【情報収集】で敵の動き、弱点を掌握して行動する。
10体ものからくり人形と共に空中を踊るように移動しながら投げナイフとガントレットで攻撃する。
多少の傷はヤドリガミの特性で癒し、それでも足りなければ地獄の炎で補う。
シン・ドレッドノート
【薔薇園の古城】で参加。アドリブ連携OK。
【SPD】
さすがにこの霊峰を噴火させるようなことになれば、大惨事となることは容易に想像がつきます。無辜の民に被害が及ばないよう、絶対阻止してみせましょう。
「来たれ、氷狼『ヴィンラン』!」
【精霊たちの行進曲】を発動、精霊石の銃に宿りし精霊の一体・氷狼を召喚します。熱に敏感な氷狼に緋天の場所を探らせ、儀式場を突き止めるとしましょう。仲間と情報交換しながら探索を進めますね。
緋天を見つけたら、そのまま樹上を飛び移って氷狼に攻撃させます。
同時に距離を取り、精霊石の銃及びライフルビットから氷の銃弾(氷の属性攻撃)で緋天を狙い撃ち。敵の攻撃は閃光の魔盾で防御します。
神元・眞白
【WIZ/割と自由に】
山が爆発するなんて。この世界は凄い世界。
関心してもいられないしなんとかしないと。
とは言っても簡単に見つからない……みたい?なんだか大変そう。
広い森のなかだし、協力するといっても時間がかかりそう。
それなら数で探して回ろう。皆お願いね。
暑くなってきたり、少し入れない様なところが怪しいみたいだから。
急ぎとはいっても見つけてもすぐには仕掛けない様。
皆を集めて準備を整えたら三陣に分けて攻撃開始。
第一陣目は奇襲兼陽動。第二陣は本隊。第三陣は本隊の援護と後詰に。
飛威、先陣はお願い。私も少し後から行くけど余り無理はせずに。
草野・姫子
※アドリブ・連携歓迎
なんということじゃ……あれは瑞兆を知らせるはずのモノだというに……
倒すにしても――その穢れ、必ず祓う。
WIZで判定
探索
【動物と話す】で樹海の動物達から、また【産土の着物】でこの地の生気を反映させて異常を感じることで、儀式の場を【情報収集】する
結界を見つけたら【注連縄】を伸ばして囲み、他の猟兵の奇襲に合わせて神域を張って結界の破壊と敵の穢れを削ぐ準備をしておく
迷う仲間がいれば、動物たちに案内を頼んでおこう
戦闘
敵UC絶啼が放たれそうになったら、UC【山神の一喝】で打ち消しを試みる
覚醒の一打には簡単には燃えぬ【鎮守の帯】を使い更に巻きつけて鎮めさせる
清き風。命の輝き。思い出せ――
富士の樹海に雨が降る。
強烈な風に乗って吹き付ける水は、破壊の火種を絶やさんとする9人の猟兵の意志を乗せたかのように。
●Meeting
もうもうと立ち昇る白い蒸気は、樹海の外の高台からでもよく見える。
「これで目指すべき場所を見失うことはないでしょう」
雨を降らせた張本人、ウィルバー・グリーズマン(f18719)がシルクハットのつばをくいと上げる。
「ええ。では、儀式場の構造について説明しますわ」
セプテンバー・トリル(f16535)が測量支援ヘリより収集した情報を仲間たちへと伝え始める。
熱センサーが捉えたところによると、儀式場はぐるりと円形状になっている。
雨を受けて外周に近づく程に温度は下がっているが、中心部は変わらず高温のままだったという。
そこに“緋天”がいることは明白であろう。
「こちらは数で勝るわ。班を分けて事に当たりましょうか」
淡々とした口調で戦術の提案を行うは、神元・眞白(f00949)だ。
第一班目は奇襲兼陽動、第二班は本隊、第三班は本隊の援護と後詰に。
手短でありながら具体的に示された案に、猟兵たちは賛同の意を示して後、迅速に班分けを終え散開していく。
生贄の儀式も大災害も、けして許容してはならぬもの。
何としてもここで食い止めるべく、9人は行動を開始した。
●Sneaking
「ヒッヒッヒ。コレで隠れてるつもりたぁねエ……」
バルディート・ラーガ(f06338)は声を殺しながらも、呆れを交えながらに呟く。
蛇の如き器官を備えているという彼には、緋天の放つ熱がありありと読み取れるらしい。
儀式場程近くのここからでは、敵が身を隠しているという事実すら疑問に思える程なのだろう。
「注連縄の用意も恙なく。後は奇襲班次第じゃのう」
そこに、神域を張り巡らせに向かっていた草野・姫子(f16541)が戻ってくる。
結界の破壊と敵の穢れを削ぐ準備も、これで整った。
道案内を終え、姫子の肩に乗っていたリスが「ちぃ」と鳴いて去っていく。
「動物さんやお花さん、木さんのためにもがんばらないとね!」
どきどきする胸を押さえつつ、コルチェ・ウーパニャン(f00698)が手元を覗き込む。
彼女の手には、別班の仲間から託された懐中時計のレプリカが乗っている。
未だそれに動きは無いが、コルチェにはわかる。
開戦の時は、もうすぐだ。
●Beginning
「富士山噴火ですか、噴火してしまえば大惨事になりますわね」
それだけは必ず阻止せねばならないと、ローズ・ベルシュタイン(f04715)は茜色の瞳で儀式場の方を見据える。
と、結界内に満ちていたケガレが薄らぐのが分かった。
他班の者の試みが功を奏した証左であろう。
「ええ。無辜の民に被害が及ばないよう、絶対阻止してみせましょう」
常の紳士的な態度を崩さぬままに、シン・ドレッドノート(f05130)が答える。
しかし、心の内では警戒を崩さぬままに。
傍らの氷狼・ヴィンランの鋭い視線から察するに、内部にいる緋天の熱量までもが弱まったわけではないようだから。
「ああ、さっさとボスを撃破しようか」
クラウン・アンダーウッド(f19033)が飄々としていられるのは、道化師としての性だろうか。
それとも、ローズとシン――【薔薇園の古城】に集う仲間と共にいるゆえだろうか。
「ここからが本番だ……さあ、盛り上がっていこうじゃないか!」
道化師の掌で、彼の本体たる懐中時計がぴょいと跳ねる。
同時刻、他班に渡されたレプリカの時計もおんなじ動きでぴょぴょいと跳ねた。
奇襲、開始!
*****
かつての瑞鳥の爪に捕らわれ、竜の子どもがばたばたと暴れる。
生まれたばかりの無垢な命に、罪などありはしないけれど。
仕方のないことなのだ。
太平の世を齎すため――穢土を浄土へ導くために。
竜の子どもが首を裂かれて、か細く鳴いて動かなくなった。
じわりと血が溢れたその時。
鳥籠は、破られた。
*****
●犠
硝子が割れるような音を響かせ、三人の猟兵が儀式場内へと降下する。
重力の助けも借りて落ちてくる氷の刃に驚いて、悲鳴の如き咆哮を上げ、緋天は大きく飛びのいた。
セプテンバーの全力の魔力を乗せた氷の斬撃と、緋天自身の放った絶啼。
双方の勢いに耐え切れず、場内に整然と並べられていた儀礼の道具があちらこちらへ転がり、散らばっていく。
「ほう、興味深い……ですが、調査を行うにしても討伐の後ですね」
すたりと着地したウィルバーは、魔本アルゴ・スタリオンに宿した魔術を解き放つ。
すると、破られた結界上部を通って、内部にまで風雨が満ちる。
忌々し気に嘴を鳴らして穢焔を繰り出す緋天だが、その勢いは雨に殺され、燃え広がった先から消えていく。
「ええ。山が爆発するなんてすごいけれど、今は関心してる場合じゃないものね――飛威、お願い。余り無理はせずにね」
その間を縫うように、眞白の命を受けた戦闘人形・飛威が敵へと切りかかる。
がちりとそれを受け止めた鳥の爪には、赤い液体――竜の子どもの血がこびり付いている。
セプテンバーの胸に、苦いものがこみ上げた。
「こんな穢れた儀式場など」
戦闘人形と迫り合う緋天目掛けて、今いちど螺旋剣を強く握り。
「後で更地にしてあげますわ!」
ばっさりと袈裟に斬れば、剣からぶわりと氷の魔力が溢れ出て――。
がらがらと建物が崩れるのに似た音と共に、結界は破られ、儀式場は完全に露わになったのだった。
「さアて、いっちょ暴れてやりまさァ!」
真っ先に飛び込んできたのはバルディートであった。
新手の接近を許すまじと、緋天は蛇人へ向けて穢焔を吹き付ける。
「……オット。火イ吹きやすかい?」
間一髪躱したバルディートのいた場所を、じゅうっと音を立てて炎が舐める。
その炎が危うく焦がすところだった“それ”の存在に気づき、バルディートはにやりと嗤う。
「あっしにも痛手ですが、ソッチも困るンじゃねエのかなア」
瞠目する緋天。
彼の言葉通りだ。雨が降り注いでいるとはいえ、万が一にも燃え広がってしまったら。
「“供物”ごと燃やしちまうつーのは、最悪手でしょうぜ!」
べしりと尻尾で横っ面を張った蛇人に、鳥は吐き捨てるように囀って飛び上がる。
大きく広げた翼にて、打ち据える算段のようだが。
「清き風。命の輝き。思い出せ――」
朗々と響くは、姫子の言霊。
その声に含まれるは、瑞兆を知らせるはずだったモノに対する憂い。
「――世が夢ならば、起きねばならぬ。その穢れ、必ず祓う」
ケガレを引き受け世を去った瑞鳥は、今や世を乱し、未来を食らう存在。
現の夢は、外ならぬ緋天の方でしかない。
流るる黒髪の戦巫女に魅入られるように、動きを止める緋天。
絵になる光景ともいえるが、同時に猟兵にとってはこの上ない好機。
「最大出力で、行くよ!」
警告色の爆弾マークのシールを愛銃にぺたりと貼り付けて、限界までパワーをチャージして。
思い切り解き放ったらどうなるか、コルチェにも分からない。それでも。
「うーっ、勝負だよ、緋天さん! お願い、ピカリブラスター!!」
獣の咆哮に似た轟音とともに、全力全開で放たれる光線。
緋天が我に返った時には、最早逃げ場はない。
対するは、絶啼にて。
守護と浄化の意志がぶつかり合う――。
光が晴れていく中で。
力を失った羽ばたきの音に乗せて、赤い羽毛が風に攫われ飛んで行く。
大きな影が落ちる。
それは、二度目の死を悟った緋天の最期の足掻き。
命を絞るような叫びが、空から猟兵たちを襲う。
対するは、賑やかで華やかな楽器の音。
まだ戦いは終わっていないのだと。
皆の背を押すそのメロディは、クラウン操る人形楽団によるものだ。
そして。
「さぁ、数多に咲き誇りなさい!」
ローズが命ずる声に応え、夕暮れ色の薔薇の花びらが戦場に舞う。
仲間たちを護るように満ちた花びらは、緋天の命を狩り取る刃ともなる。
突き刺さった花びらはまるで、失った羽毛に代わってその身体を飾るように。
「骸の海に還る貴方への、せめてもの手向けですわ」
薔薇の娘は願う。
太陽の如く沈んだその後は、せめてどうか良い夢を、と。
ひゅうと飛び交う投げナイフに射抜かれ、緋天は遂に地に落ちた。
幾多のからくり人形を下がらせ、敵の様子を確かめるクラウン。
急所を突いてなお、未だに息があるようで。
「……お願いしていいでしょうか?」
「お任せを――ヴィンラン」
苦しまぬように、一思いにと。
仲間に託されたシンが命ずれば、氷狼はがぶりと緋天の喉笛に食らいつく。
さらに鳥の脳天目掛けて。
「どうか、安らかな眠りを」
狐の紳士が氷の銃弾を撃ち込むと、ようやく緋天の瞳から光が消え始める。
最期に緋天は小さく鳴いて、ぴくりとも動かなくなった。
竜の子どもとよく似た最期を迎えたオブリビオンは、やがて灰となって――風に攫われ、骸の海へと還っていった。
*****
富士の樹海にて企てられた儀式のひとつは、猟兵たちの活躍により阻止された。
骸の海へと還ったかつての瑞鳥の祈りは、もう届かない。
浄化という名目の災厄の火種は、此処で潰えたのだ。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月04日
宿敵
『緋天』
を撃破!
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