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エンパイアウォー⑤~神君との知恵比べ

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●謎解きは珈琲と共に

「よく集まってくれたな。この珈琲は俺の奢りだ。飲みながらでいいから聞いてくれ」
 そう言うと、枯井戸・マックス(強欲な喫茶店主・f03382)は集まった猟兵達に香り高い湯気を立ち昇らせるカップを差し出した。
「今日集まってもらったのは他でもない、エンパイアウォーで発生したとある問題に対処してほしいからなんだが……おっと荒事じゃないから気を走らせるなよ」
 マックス曰く、それはある意味では戦場よりも切迫した現実問題。江戸幕府の金銭問題の解決策を模索してほしいのだという。
「家光公と江戸幕府の面目の為に言っておくが、なにも幕府に蓄えが無かったってわけじゃない。これもオブリビオンの策略のせいなのさ」
 この一計を案じたのは第六天魔王・織田信長に仕える『第六天魔軍将』が1人、大悪災『日野富子』。
 個人資産が徳川幕府の全資産を凌駕すると言われるほどの巨悪がサムライエンパイア中の物資を買い漁ったため、全国で物価が大高騰しているのだ。
 このままでは幕府は十分な量の兵糧を確保することが出来ず、招集された10万の兵達が飢えと治療難に苦しむ事となる。
「兵糧攻めってのは地味に見えて、その実兵士一人一人に確実に被害を与えることが出来る最も効果的な策略の一つだ。このままでは士気はガタ落ち。下手したら進軍は儘ならず幕府軍は空中分解だ。だが、まだ頼みの綱は残っている」
 マックスがこれを見てくれと背後の巨大ディスプレイを操作すると、そこには古びた地図が表示された。
「この地図に示されているのは、かの神君家康公が残した徳川埋蔵金・そのうちの一つの隠し場所らしい。ここまで聞いたらもう依頼内容は分かったよな?」
 ニヤリと笑ってマックスは猟兵達に向き直った。
「諸君らには至急この地図の場所に向かい、徳川埋蔵金を探し出して来てもらいたい。だが、ただ見つけるだけじゃあない。どうやら家康公は埋蔵金の盗掘を防ぐために、強力な『謎解きの封印』を施したようなんだ。だが、体力のみならず知力にも秀でた猟兵諸君ならきっとその宝を見つけ出してくれると信じてるぜ」
 そう言うとマックスは徐に青い磁器製の仮面を顔に被る。
 そして仮面に瞳が緑色に輝いたかと思えば、彼の真横にはサムライエンパイアへと続くワームホールが口を開いていた。
「さあ行ってこい! いい知らせを期待してるぜ?」

●徳川埋蔵金の『謎』

 地図に示された場所。そこはとある寺の蔵であった。
 猟兵達が寺の住職に許可を貰って蔵を物色していると、ある者が一抱え程もある箱の中から不思議な魔力が漏れ出しているのを感じ取る。
 よく見ると、その箱には円形のつまみが設えられており、つまみを囲むように数字を割り振られた12個の刻みが均等に彫り込まれていた。どうやら南蛮渡来製のダイヤルロック式金庫のようだ。
 力づくで開けようと試みたが、しかし金庫は斬っても叩いてもびくともしない。
 強力な魔術的封印。この金庫こそが徳川埋蔵金が眠っている違いない。
 とその時、金庫から蔵を揺さぶるような重々しい声が響き渡った。

『祖霊の助力を得たくば、正しき礼節でもって臨むべし。
 一つは御迎。飾り立てのみでは及ばず。速き脚を用意せよ。
 一つは歓待。吉方の二つ脚が鳴く時、香を焚くことを忘れる勿れ。
 一つは歓送。祖霊の名残惜しむ心を慮れば、舎を引く脚も遅くなる。
 礼節の意味を解する者が三度我に触れし時、祖霊はその者に褒美を与えるであろう』

 この声が金庫のダイヤルの回し方のヒントなのだろう。
 果たして猟兵達はこの謎を解き、徳川埋蔵金の封印を解くことが出来るだろうか。


Naranji
 イェーガー 華麗に舞う♪
 レッツアンロック 奪い返す♪
 幕府軍ー救い出すためー ダイヤル回せー♪

 ……はい。
 こんにちは、初挑戦の戦争シナリオ、初挑戦の謎解きシナリオにドキドキしているMSのNaranjiです。
 初めましての方は初めまして。
 以前も参加して頂いた方はまた覗いてくださり本当にありがとうございます。

 謎解きって作者の知能レベルより高い物は作ることが出来ないんですって!!
 精一杯考えたつもりですが、簡単すぎor説明が分かり辛くて解読不能なんてことになっていないか私とっても不安です!
 ですが優しく聡明な皆様ならきっと解決に導いてくれるはず!
 どうかお付き合いくださいませ。

(以下、注意事項)
 =============================)
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 =============================)

 プレイングで必須なのは『謎の答え』です。
 他には『謎を推理するシーン』や『正解を思いつくシーン』、『開錠に成功した際のリアクション』などがあると、リプレイの方も描写が盛り上がると思われます。
 上記以外にも、皆様の個性が出るようなバリエーションに富んだプレイングをお待ちしております。
 また挑戦していただいたにも関わらず正答が出ないまま数日が経過した場合は、ヒント開示の為のリプレイ、もしくは間章を投稿する予定です。

 そして最後にヒント。
 ネクストNaranji'sヒーント(プーウィ―ン♪プーウィ―ン♪)『8月』
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第1章 冒険 『神君家康公の謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、埋蔵金を手に入れます。

SPD   :    素早く謎の答えを導き出し、埋蔵金を手に入れます。

WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、埋蔵金を手に入れます。

👑3
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

亜儀流野・珠
ふむ、俺はあまり飲まんがコーヒーなかなか良いな!頭もスッキリした気がするぞ!

…さて金庫か。刻みは十二。
十二と言うと星座、十二支…方角も表すとなると十二支か!

速き脚…馬、鳴く二つ脚…鶏、遅き脚………牛?
はは。自信は無いが…午、酉、丑…7、10、2でどうだ!
開いたなら他の者と協力し、もしくは「千珠魂」にて分身を呼び人手を増やし急ぎ持ち出そう!急がんと更に物価が上がるからな!
開かなかったら…任せたぞ他の者!


リステル・クローズエデン
答え【7、10、2】

【SPD】
つまりは祖霊を迎え、もてなし、そして見送る心。
お盆と十二支のくみあわせがカギですね。

歓迎するは精霊馬の馬。午すなわち7。
歓待するはおそらくは鶏あるいは鳥?、酉すなわち10。
そして歓送するは精霊馬の牛。丑すなわち2。
よって、7、10、2で。どうです?


私利私欲の為でなく、今この場に生きる人々の為。
過去から今を壊そうとする者から、今と未来を守るため。
過去に積み立てられし力。つかわせていただきます。


満月・双葉
謎解き…苦手なんですよね。
しかし、兵糧は戦の要。これがなければ戦えず。
であれば頑張るしかないでしょう。
ユーベルコードをで底上げした野生の勘で答えを引き当てられるでしょうか。
ふむ…
速き脚…この世界で歩く走るより速いものと言えば馬
鳴く二つ脚は鶏…鳥
舎を引く脚…牛でしょうか
12個の数字…
ねうしとらうーたつみー…の十二支に当てはめ、それを時刻に変換。該当する数字を入れてみてはどうでしょう。
3度というのは…それを言われた順番に入れてみるのか、その数字の組み合わせを3回入れるのか…兎に角やってみますか?
始終無表情ながらも、声の抑揚とアホ毛の動きが感情を表します。


黒鵺・瑞樹
祖霊っていってるし、最初と最後の文章はそれぞれ「馬」と「牛」だろうな。
迎える時は足の速い馬で、送る時はゆっくりと足の遅い牛でって話だし。
吉方の二本足は「鶏」かな。吉方の意味はよく分からんけど、鶏は古事記や日本書紀では、天岩戸に閉じこもった天照大神神を誘い出したのに一役買ったと聞いてる。
神社の鳥居は止まり木だって話も聞くから縁起がいいのは確かだろう。

三つの動物で数字が絡みそうなのは十二支だし、順番に数字振れば
7、10、2かな。
これでどうだろう?


ヴェル・ラルフ
謎解きか…終わったら、珈琲飲みたくなるような仕事だね

SPD
おや、箱から声がする

祖霊の助力、礼節…礼儀正しく先祖の霊を迎えるってことかなぁ
家康公のお化けでも出てくるんだろか
お化けはやだな

迎えに速い脚、お香を焚いてお出迎え、そしてお見送り…
そういえば、エンパイアには死んだ人が帰ってくる日があるんだっけ
確か、オボン…8月15日だったかな

三度触れるってことは、1から12の中の、3つの数字

8、1、5を回してみよう

宝箱の中はお金が入ってるのかな
僕のものじゃないのは分かってるけど、シーフとしてはつい手が伸びそうだね
いや、お殿様の霊が見てそうだから、勿論止めるけどね
呪われそうだもん

★アドリブ歓迎


支倉・新兵
ん…ぁーこれって(デバイスを弄り何やら検索始め)

多分、だけど『七、十、二』
この数字に刻みを合わせる、んだと思う

『祖霊の助力』『正しい礼節』ってのはお盆…日本の夏の行事
まず『御迎』『歓送』は精霊馬…行きは脚の速い馬、帰りは脚の遅い牛を作るらしいから『馬』と『牛』
『歓待』は…多分『鶏』…該当する動物で二脚で鳴くのってこれだけだよね…
ここは少し自信ない…違ってたら他の人の訂正やツッコミ甘んじて受けるよ

という訳で『馬』『鶏』『牛』…つまり『午』『酉』『丑』
これらは干支、順番を数字に変換して七、十、二…ってね


…日本人だけど傭兵やってるとこういうの疎いなぁ我ながら
俺だと弔いなんて精々弔砲が関の山、だろうね



 埋蔵金の地図に従い寺の蔵に足を踏み入れた猟兵達。
 彼らは待ち受けていたダイヤル式金庫を前に頭をひねっていた。
「ふむ、俺は普段はあまり飲まんが、コーヒーなかなか良いな! 頭もスッキリして、いつもより思考も回っている気がするぞ!」
 美しい銀色の髪に朱色のリボンを結んだ少女―亜儀流野・珠(狐の恩返し・f01686)は両のこめかみに人差し指を当て、グルグルと回しながら考えを巡らせる。
 そんな珠と並んで頭を唸っているのは、虹色の翼と理知的なメガネが魅力的な満月・双葉(神出鬼没な星のカケラ・f01681)だ。
「謎解き……苦手なんですよね。しかし、兵糧は戦の要。これがなければ戦えず。であれば頑張るしかないでしょう」
 そう言うと双葉は肩にひょいと乗せたカエル型マスコットにも同じような思案のポーズをとらせる。
 それにどんな効果があるのかは彼女にしか分からない。しかし双葉の言う通り、今も魔空安土城に向けて進軍を続けている幕府軍を救う為に、家康公の遺産はなんとしても手に入れたい。
「祖霊の助力、礼節……礼儀正しく先祖の霊を迎えるってことかなぁ。家康公のお化けでも出てくるんだろうか……お化けはやだな」
 自分でつぶやいたお化けという言葉に、ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)軽く肩を震わせる。
 箱から声が響いた時は素っ気ない態度をとっていた彼であったが、どうやら幽霊や呪いといった目に見えない『何か』は恐れる性分のようだ。
「礼儀正しく……つまりは祖霊を迎え、もてなし、そして見送る心。この3つがヒントになっているのですよね? でしたら、僕に心当たりがあります」
 ヴェルのつぶやきを聞いていたリステル・クローズエデン(なんか青いの・f06520)は何かに気づいたようにハッと顔を上げる。
「あ、実は僕もなんだよね。聞いた話だけど、エンパイアには死んだ人が帰ってくる日があるんだっけ?」
 同じく何かに気が付いたヴェルはリステルに向けて微笑みかけ、一足お先にと金庫の前に立った。
「確か、オボン……8月15日だったかな。試しに8、1、5……っと」
 周囲に12個の刻みが彫り込まれたダイヤルを8、1、5の印に合うように右、左、右と回していく。シーフである彼にとって金庫の扱いなど手慣れたもので、その指の動きには淀みがない。
 しかし……。
『ならぬ!』
 再び金庫から響いた重々しい声と共に生じた衝撃波によってヴェルの体は後方に吹き飛ばされてしまった。
「おっと! 痛たた……ええ、違うの?」
「おっと、大丈夫か?」
 吹き飛ばされてしまったヴェルを受けとめたのは黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)だ。
「お盆に気付いたのはいい線いっていたが、少し惜しかったな」
 エンパイア育ちの彼にはどうやら思い当たる節があるようだ。
「祖霊って言ってるし……」
「お盆には祖霊を迎える時と見送る時に、それぞれ野菜を動物に象った置物を備える習わしがあるんです。きっと、そのことを言っているのではないでしょうか?」
「俺の台詞を取るなよ……」
 瑞樹が解説を始める前に、リステルが横から解説する。推理の過程を解説したいという欲求は人でもサイボーグでも変わりはないようだ。
「ん……ぁーこれって」
手に持ったデバイスを弄ってなにやら検索をしていた支倉・新兵(狙撃猟兵・f14461)もそのヒントの気が付いた。
「うん、リステルさんが言う置物、つまりは精霊馬。行きは脚の速い馬、帰りは脚の遅い牛を作るらしいね。……俺も日本人だけど傭兵やってるからか、こういうのは疎いなぁ。俺だと弔いなんて精々弔砲が関の山、だろうね」
 念のためと担いできた相棒のライフルを見やりながら、新兵は自嘲気味にため息をついた。ライフルとは彼にとって、祖霊や仏への信仰心のような、ある意味での精神安定をもたらしてくれる存在なのかもしれない。
 一方、円形のつまみを観察していた珠と双葉はある事に気が付いていた。
「刻みは十二。十二と言うと時計や星座、もしくは十二支……吉方って言ってたから方角も表すとなると十二支か!」
 珠が耳をピンと立たせて嬉しそうに声を跳ねさせる。
 その横では双葉が指を折り曲げながら、ねうしとらうーたつみー……と十二支を数えていけば。
「精霊馬は牛と馬、『午』と『丑』ですから、数字に当てはめれば7と2ですね」
「『歓待』の文言が指しているのは……多分、鶏。十二支の中で二脚で鳴く動物ってこれだけだよね?」
新兵が自身なさげに皆に問いかけながら、この謎の核心に迫ろうとしていた。
「酉は十二支の10番目だから……この謎の答えは『7・10・2』の順番にダイヤルを回すのが正解……のはず。でも何で歓待が鶏なんだろう?」
「えーっと、ですね。それは……えっと」
 新兵が先ほどお盆について解説していたリステルに視線を投げかける。しかし当のリステルはというと、言葉を濁しながら新兵から投げかけられた視線を明後日の方向に逃がすのみ。
 と、ここで歩み出たのは先ほど解説の場を奪われた瑞樹だ。
「ふふふ、鶏は古事記や日本書紀では、天岩戸に閉じこもった天照大神神を誘い出したのに一役買ったと聞いてる。神社の鳥居は止まり木だって話も聞くから縁起がいいのは確かだろう。ふむ、それにしても今この時に吉方とは、殊更に縁起がいいな」
 人差し指を立てて淀みなく語るその表情はなんとも気持ちよさげだ。
「とにかく、もう一度回してみてよ。『7・10・2』で良いんだよね? また間違ったりしたら今度こそ呪われたりしそうだから僕はやらないけど」
 先程から金庫から距離をとっていたヴェルが早口気味に急かせば、瑞樹はやれやれと笑いながら、つまみにその細く白い指をかける。

『7』『10』『2』

 キリリ、キリキリ、キリリ……。
 微かな音を立ててつまみを三度回されたその箱は、暫しの間静寂を保ち、
『正しき礼節は今、示された。祖霊からの褒美を受け取るがいい!』
 威厳と僅かな優しさを感じさせる声と共に、金庫の箱は自ら開きその中身を顕わにするのであった。
「こ、これは慶長小判か!」
「うわー! 俺、こんなにたくさんの小判初めて見た!」
 金庫の中に封印されていたもの。それは溢れんばかりの大量の小判であった。
 これにはさしもの瑞樹も目を見開き、珠に至っては我先にと駆け寄り大量の黄金色を両手で掬い上げる。
「こ、これは……僕のものじゃないのは分かってるけど、シーフとしてはつい手が伸びそうだね。いや、お殿様の霊が見てそうだから、勿論止めるけどね。呪われそうだもん」
 離れて見ていたヴェルも思わず身を乗り出すが、寸での所で手を伸ばすのを堪えたようだ。謎を解いてから霊的トラップでお陀仏など、シーフとしては死んでも死にきれない。
「慶長小判、確か徳川家康公が江戸幕府を立ち上げた最初期に作らせた物ですよね。天下統一を世に知らしめるためだったとか」
 双葉は小判を両手に掬い上げて興味深げに観察する。
 表情にはあまり変化は見られないが、金髪から飛び出たアホ毛がピコピコとせわしなく動いていることから、内心ではだいぶ興奮しているようだ。
「それだけじゃない。この慶長小判は質が良く作りも均一で、当時は国ごとにバラバラだった貨幣価値を整えることに一役買ったのさ。これのお蔭で民がより国の境なく商いをしやすくなった」
「この小判はまさに戦国の世の終わり、そして市井の平和な暮らしの象徴なのですね。なればこそ大事に使わなくては」
 先程に引き続き説明役を買って出る瑞樹に並び、リステルも金庫に向けて一礼する。
「私利私欲の為でなく、今この場に生きる人々の為。過去から今を壊そうとする者から、今と未来を守るため。過去に積み立てられし力。つかわせていただきます……あら?」
 そして金庫から零れ落ちてしまった小判を再び収め直して、金庫ごと運び出そうとしたところであることに気が付いた。
「あの、金庫の中の小判、増えていませんか?」
本来ならば珠と双葉が取り出した分と、その時に少し零れ落ちた分で、金庫の中の小判はある程度減っているはずだ。
 それなのに、金庫の中は未だに小判がみっちりと敷き詰められている。いやそれだけではない。
少しずつ、しかし加速度的に金庫の中から小判が溢れ出してきているのだ。
「ちょっ、いったいどうやって入っていたんですか。このままじゃ持って帰るのも一苦労ですよ」
 あれよあれよという間に蔵の床を侵食していく小金色に、新兵も流石に焦りの色を見せ始める。今回ここに出向いた猟兵は6人。全員で手分けしてもこの量の小判を運び出して持ち帰るには途方もない時間がかかってしまうだろう。
「ふふーん、そういう時の為に俺がいるのだ! 急がんと更に物価が上がるからな!」
 両手に小判を握り締めた珠が自慢げに胸を張ると、その身体の輪郭がぼやけて霧のように足元に広がっていく。
 そして次の瞬間には200体を超える小さな珠が蔵の中を所狭しと埋め尽くしていた。
「さあ頼んだぞ俺たち!」」
「「「おーー!!」」」
「狭い狭いー!」
「わーい!小判なのにおっきいぞー!」
「運べ運べー!」
「わーい大金持ちだー!」
「こらー! ネコババするなー!」
 ただでさえ声が元気がいい珠が増えたのだから、当然の事ながら蔵の中は大喧騒だ。
 しかしその手際は流石のもので、見る見るうちに小判は外へと運び出され、寺の者に用意してもらっていた荷車に次々と積み上げられていく。
「ふう、この調子なら日が暮れる前には仕事が終わりそうだね。帰ったら報告がてらもう一杯珈琲をご馳走になろうかな」
 ヴェルもその騒がしさにだいぶ心が和らいだのか、小判運びを手伝おうと金庫に近づいていく。そんな彼に倣うように、他の4人の猟兵達も足元の小判を拾い集めるのだった。
「ところで瑞樹さん。先程、吉方が今は殊更縁起がいいと言っていましたけど、あれってどういう意味なんですか?」
「あ、実は俺もそれ気になっていました」
 リステルと新兵は手近な袋に小判を詰めながら、瑞樹に問いかける。
「ああ、そのことか。吉方とは鬼門と呼ばれる丑寅の方角の逆側、裏鬼門のことを指す言葉でもあるんだ。そして今、幕府軍が進軍している方角は?」
「江戸から島原……つまりは南西の方角!」
「なるほど、幕府軍は今まさに吉方に向けて進んでいるという事なんですね」
 得心を得たといった表情でリステルと新兵が顔を見合わせる。
 それを聞いていた双葉も、ほう、と感嘆の息をもらし、
「そして私たちは吉方に向かう皆さんに吉報を届けに行くのですね」
 眼鏡を輝かせ、今日一番にアホ毛をピコンと跳ねさせた。
「……お、おう。そうだな」
「……ええ、面白いですね!」
「……俺は嫌いじゃないよ?」
『ならぬ!』
「え、あ、駄洒落じゃないですよ。というか金庫さんはまだ喋れたんですね?」

 そうして蔵から運び出された徳川の遺産は、無事に幕府に託されることとなった。
 後は家光を始めとする、今を生きる侍たちが効果的に活用してくれるだろう。
 だが吉方の先に待ちうける終の戦場、島原までの道のりはまだまだ遠い。
 過去から受け継がれたこの平和への祈り無駄にしないためにも更に粉骨砕身しなければ、そう心に決める猟兵達であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月04日


挿絵イラスト