エンパイアウォー③~くまー!~
●くまー!
城がある。大きくはない城が。
それを見上げながら、大きくて茶色い毛玉のようなそれは、びちびちと跳ねる鮭を鷲掴みにする。
もぐ、もぐ、もぐ。食べれば力が漲って。やる気も満ち溢れてくる。
「くまー!」
戦う。それが、課せられた命である。
中山道を通る徳川幕府軍を殲滅するのが仕事であるくまさん集団は大層張り切った様子で雄叫びを上げた。
●VSもりのくまさん
「やぁ、火急の案件だ」
端的に行こう、とグリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)は語る。
サムライエンパイアにて勃発した戦争。その助力へ向かって欲しいと。
猟兵達の目的地は徳川幕府軍が進行する別動隊の通り道。
中山道の要衝である『信州上田城』周辺に蔓延るオブリビオンの討伐が助力の内容だ。
「現在その道は魔軍将の一人である軍神上杉謙信の軍勢に制圧されている。このままでは中山道方面軍は殲滅されてしまう」
それを阻止するため、上杉軍の戦力を削がねばならない。
「今回君達に処理をして欲しいのは、くまだ」
勿論、ただのくまではない。オブリビオンである。
可愛らしい顔で鮭を食い散らかしては戦闘力を強化してみたり、その顔に似合わぬほどの鋭い斬撃を放って技を封じてきたり、同じような可愛いくまの霊を召喚してきたりする、くまの群れだ。
「数は、そうだね、多くても20程度だ」
可愛らしい顔をしているが強力なオブリビオンであることには変わりがない、と念を押すように言って、ぺらり、メモをめくる。
戦闘場所は城の周辺、山岳地帯。地形を見越した戦闘の組み立てや、待ち伏せしようとする相手への奇襲なども、有効な手段となる場合があるだろう。
「我々が相手をするのは、あくまで城の周辺に陣取る戦力だ」
城を攻め落とすわけではないので安心して欲しい、と告げて。
けれどこの城から溢れた戦力を削ぎ落とす事で、上杉軍に『不利』を思わせることが肝要だとも告げる。
「最終的に上杉軍を撤退させることができれば、中山道方面軍は守られる。彼らの命がけの行軍を、どうか助けてあげておくれ」
徳川幕府が総力を上げて挑む大戦。その一助を。
願う言葉と共に、武運を祈る声を添えて。エンティはサムライエンパイアへの道を開いた。
里音
戦争です。張り切ってまいりましょう。
OP内で山岳地帯への対処や奇襲などの提案がされておりますが、「あればいいがなくても問題はない」ものですので、普通に純戦として挑んで頂いて大丈夫です。
ちなみにくまさんの好物は鮭とおにぎりだそうです。
※このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『もりのくまさん』
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POW : もぐもぐたいむ
戦闘中に食べた【鮭 】の量と質に応じて【全身の細胞が活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : たべちゃうぞ!
【ある日、森から 】【現れた熊が】【かわいい顔に似合わぬ鋭い爪の斬擊】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : みんなあつまれー!
【くま 】の霊を召喚する。これは【くまぱんち】や【くまかみつき】で攻撃する能力を持つ。
👑11
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シエル・マリアージュ
倒す。オブリビオンを討つのは、猟兵の定め。それが、思わずもふもふしたくなる可愛いくまーだとしても。
くまーに気づかれぬように【Garb of Mirage】の光学【迷彩】で【目立たない】ように【忍び足】で、くまーを視認できる距離まで接近。
くまーを見つけたら、蜘蛛型ドローンの【アラクネの紅玉】を鮭おにぎりをころころと転がしながらくまーの方に向かわせくまーの注意を引きつけ、くまーがおにぎりに気を取られて油断したところで【死は闇より来たれり】の不意打ちによる【暗殺】の一撃をくまーの厚い皮を貫けるように【鎧無視攻撃】で仕掛ける。
榎・うさみっち
まずは【すごうでのうさみっちディーアイワイ】で
あるものを【早業】で作り出す
それは『鮭を模した精巧な偽物』だ!!
何とビチビチ動くし磯の香りもする!製造工程は企業秘密だ
これをくま共に向かって投げ込むという奇襲!
やたらと食欲旺盛そうなくまさんだ
騙されて食らいつきに行けば大成功
少しでも気を引かせて隙が出来れば御の字!
鮭に気を取られたくまに向かってうさみっちばずーかを撃ち込む!
俺はばずーかで遠距離から攻撃し
更に【念動力】でうさみっちゆたんぽ達を操作し近接攻撃もするぜ
小さな身体で皆でちょこまか動いて撹乱!
くまの攻撃はゆたんぽ達を盾にしたり
【逃げ足】で素早く避けたり【残像】発生させてかわしたりする!
ウィルバー・グリーズマン
くまですか。昔に戦いましたが、中々獰猛でしてねぇ
しかし今回は随分とファンシーな……
まあ、オブリビオンなら仕方がありません。潔く散って下さいませ
山岳地帯ですか……で、森から現れるんですね
それなら魔術『シャドウプラン』で木の影の中に隠れて、【オーバーリミット】で巨大な影の鮭を作り出しましょう
さあ影の鮭よ、逆にくまをパクっと食べてしまいなさい。……影で鮭なんて分からないでしょうけど、魚っぽいんで釣られると思います、多分
基本的に影の中に潜んで攻撃しますが、場所がバレて鋭い爪を振るってきたら、カウンターで影の針を大量に作り出して刺し貫きましょう
攻撃したらもっと酷い目に遭いますよ。大人しく倒されて下さい
●
倒す。オブリビオンを討つのは、猟兵の定め。
シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)は自身が纏う光学迷彩のケープコートの合わせをそっと握り、きりと表情を引き締める。
改まったように、己の役目を胸中で唱える。
(それが、思わずもふもふしたくなる可愛いくまーだとしても)
言い聞かせているだけ、かも知れない。
ぺらりと小気味の良い音を立てる魔術書の一頁をなぞり、ウィルバー・グリーズマン(入れ替わった者・f18719)もまた、木の陰ひ潜み、敵の姿を観察した。
くま、とは。昔に戦った記憶を遡れば獰猛な出で立ちをしていたように思ったものだが。
(今回は随分とファンシーな……)
オブリビオンであるがゆえ、だろうか。あの気の抜けるような容姿も、敵の油断を誘うためとか、そう言う。
考えても仕方がない。いまは、潔く散ってもらうまで、だ。
遠距離から様子を伺う二人よりも更に少しだけ離れた位置では、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)が何やら工作ごとをしている。
作業工程が全く分からない程に手早く組み上がっていくそれは――。
「ちゃららっちゃら~♪ 便利なアレー!」
まさに、今、この状況で最も適切な物体と言えよう便利道具。
ずばり、『鮭を模した精巧な偽物』であった。
「まぁ、本物そっくりね」
「ふふーん、そうだろそうだろ」
得意げに胸を張ったうさみっちの足元で、リアルサイズの鮭模型がびちびち跳ねている。何故か磯の香りまでしてくるようだ。ちょっとやそっとでは、これを偽物と判別できはすまい。
製造工程? 勿論、企業秘密である!
「後はこれを奴らの中に投げ込めば……」
びちびちびちびち。
うさみっちが抱えるにはやや大きい上に跳ねまくる鮭模型。投げ込むと言うより、最早蹴り入れる方が良いかも知れない。
なんて思案をしていると、ひょい、と鮭模型を持ち上げる手が。
「投げ入れるのは任せてください」
木の陰から一時的に離脱し、ウィルバーは自らが行使する影の魔術を駆使し、その場に巨大な鮭の影を作り出す。
その上に、鮭模型を乗せて。
「さあ、いきますかねぇ」
「わたしのドローンもお供するわ」
ころころころ。言うが早いか持参した鮭おにぎりを転がして進むシエルの蜘蛛型ドローンを追うように、ウィルバーは敵陣へと、影を打ち出した。
「くまー!」
突如現れた鮭の影。そこからぽろりと落ちてびちびち跳ねる鮭(模型)。
更にはどこからともなくおむすびがころりんころりんしてくるときた。
くま達がどよめくのは、最早必然。
「ちょっと気を引ければ御の字ってとこだったけど、思った以上に食いついたな!」
腹を空かせていたのか、ただ単に食い意地が張っているのか。我先にと鮭模型に群がったくま達へ、うさみっちは構えたバズーカーを打ち込む。
同時に、念動力で可愛らしいゆたんぽ達を操り、わらわら、くまの足元へと群がらせた。
「くまー!」
じたじたと地団駄を踏むようにしてゆたんぽ達を踏み潰そうとするくまへ、しゅるり、中空を泳ぐように忍び寄った巨大な鮭の影が、迫る。
「さあ影の鮭よ、逆にくまをパクっと食べてしまいなさい」
ウィルバーの声に応じるように、がぱりと大口を開けた鮭の影が、くまを丸ごと飲み込んでいく。
仲間達への攻撃で、ようやく敵襲に気が付いたくま達。黙ってやられるわけには行かないと、巨体に似合わぬ素早さで駆け、鮭の影が現れた方角を探るように見渡した。
可愛らしい顔に似合わぬ、ぐるると低い唸り声。
しかし、その視界が敵の姿を捕らえるより先に、するりとその影に忍び込んでいたシエルの刃が閃いた。
「……鮭おにぎり、お気に召したようね」
剥き出した牙の端、茶色のふわふわした毛皮に、鮭おにぎりだったものの一部がくっついているのを見つけて、くすり、シエルは微笑む。
くまの毛皮が厚かろうが、的確に急所を捉える一撃の前には、意味を成さない。ずしりと重い音を立て、その場に沈み込むくまへ、ゆたんぽ達が群がっては念入りなとどめを刺して、次の標的へと移っていった。
小さな戦士達を見送り、シエルはまた影に潜み、忍ぶ足運びでくまの死角へと滑り込んでいく。
ウィルバーも同様に影から影へ、潜みながらの攻撃。そんな彼らと対照的に、ちょこまかと攻撃を加えつつ動き回るうさみっちウィズゆたんぽチーム。
「捕まったらまずいぞ、上手く避けろー!」
撹乱するような彼らのお陰で動きやすいものだ、と、鮭の影を操りながら思案していたウィルバーの近くへ、斬撃を受けて、ぴょあー、と吹っ飛ぶゆたんぽがぽてりと落下する。
ゆたんぽへの追撃を狙ってか、振りかざした爪が迫るのを見止め、ウィルバーは影の中から鋭い針を伸ばした。
爪を振りかざした姿勢のまま、幾つもの針に貫かれ、その動きを止めたくまの足元を、ゆたんぽが転がるように駆けていく。
「攻撃したらもっと酷い目に遭いますよ。大人しく倒されて下さい」
ずるりと針を影へ戻し、崩れ落ちる姿を一瞥して。
聞こえては、いないようですねと、ウィルバーは小さく笑んでいた。
大成功
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ウォーヘッド・ラムダ
赭嶺・澪(ID:f03071)と一緒に参戦。
本機は小細工とかは得意ではないのでな。
力押しでいかせてもらおう。
本機は前衛にして敵の注意を引きつつ、排除を行う。
敵への接近、または敵からの攻撃回避は装備『フライトブースター』『ダッシュブースター』を使用。
攻撃はUC『対重装甲用サブマシンガン』で敵を排除。
防御に関しては装備『アサルトヴェール』『重厚シールド』『超重装甲』で防御。
攻撃に関しては『ASMー7』『LLS-3』をメインにしつつ、他装備も使用。
余り前に出過ぎてはさすがに装甲が持たないのでな、澪の援護が届く程度の範囲での戦闘だ。
可能な限り澪側に敵が行かぬよう、こちらで排除。
※アドリブ歓迎
赭嶺・澪
ウォーヘッド・ラムダ(ID:f18372)と一緒に参戦。
カワイイ顔してるけど、始末させてもらうわ。
ラムダに前衛で敵を引き付けてもらってる間に、あたしは後衛で技能『スナイパー』『暗殺』『援護射撃』、UC『スナイプソルジャー』での援護射撃して確実に敵の数を減らしていきましょう。
特にラムダの方でカバーしきれない敵を優先的に排除し、後は倒せそうな敵を狙撃で潰してく。
敵がこちらの位置に気づく前に、何発か撃ったら草陰等で身を隠して移動し、再び援護射撃。
こちらに近接してきた場合には武器『Mvf20』『アサルトナイフ』での対処。
※アドリブ歓迎
●
小細工は得意ではない。そんな己の性能を、理解している。
そして、そんな力押しの作戦において優秀な援護を得ていることも、よく理解している。
だからこそ、ウォーヘッド・ラムダ(強襲用試作実験機・f18372)は躊躇いなく前へ出るのだ。
瞬発力を高める脚部のブースターを展開させ、素早くくま達との距離を詰める。
掲げられた腕に己の腕を組み合わせれば、ぎりり、その腕力が伊達ではないことが伺えて。なるほど、と胸中で呟いたのは、ウォーヘッドの援護を担う、赭嶺・澪(バレットレイヴン・f03071)。
あまり長く組合をさせるべきではない。ウォーヘッドの装甲は強靭ではあるが、万能ではないのだということを、お互いが、認識しているのだから。
「スナイパー、レディ――」
覗き込んだスコープ越しに、真っ直ぐ捉えたくまの頭部。澪が引き金を引くまでは一瞬だ。
その一瞬で、ウォーヘッドの腕に掛かっていた重さが途絶える。
そうして自由になった身は、援護射撃を担う澪への索敵を阻むべく、対重装甲用サブマシンガンを展開した。
――セーフティ解除。
淡々と、粛々と。目の前の敵へ目掛けて、幾重にも張り巡らされる弾幕。
くまが重厚な毛皮を持とうとも、その弾は次々と貫いていく。
その攻撃で全てが倒れる必要はない。隙を作れば澪が狙いやすくなる。澪が敵の数を減らせばウォーヘッドが動きやすくなる。
基本に忠実な連携。それを持たないオブリビオンが、彼らを打倒できるはずも、なかった。
「カワイイ顔してるけど、始末させてもらうわ」
スコープ越しのファンシーなくまが、また一体地に伏す。
それを確かめて、澪は身を低くして草の陰から陰へと位置を移した。
既に数発を撃ち込んでいる。いくら野性的なオブリビオンだとて、こちらの位置に勘付かないはずもないのだから。
(ラムダの装甲は……まだ大きく損傷していないわね)
次弾を装填しながら的確に状況を把握する。ウォーヘッドのお陰で、腰に帯びた武器で近接戦をする必要は、なさそうだ。
その分、前線で一身に攻撃を受ける立場にあるウォーヘッドの負担が大きくなるのも、必然と言えよう。
無傷であってくれとは願わない。損耗が激しくなることのないように、手数を減らすのが、澪の役目だ。
――出過ぎないでね。
――心得ているとも。
ウォーヘッドもまた、度々変わる澪の弾道によってその位置を振り返ることなく把握しながら、彼女の元へ敵が行かぬよう、銃弾を逃れて襲いかかってくるくまの斬撃に真正面から対峙する。
エネルギーフィールドによるヴェール、超重の合金による装甲、特殊金属を重ね合わせたシールド。力押しで行くための、厳重な防御で以て、ウォーヘッドは戦場に雄々しく立ち続けた。
「その爪もなかなか強靭だが……本機を貫くほどではないようだな」
零れた台詞は、侮りではなく、冷静な分析。少しの傷はつけられども、その爪がウォーヘッド自身に届くことは、なかったのだ。
オブリビオンであり野生動物にしか見えないくまがその言葉を理解したかはわからない。
ただ、悔しげに振るった爪が、ウォーヘッドに届く前に、その手に握られたレーザーソードによって落とされる。
「くまー!」
雄叫びに呼応して、仲間たちの声が幾つも上がる。
びりり、と空気の震えを感じながら、それでも彼らは臆することなく、敵を排除していくだけ。
再び展開される弾幕が、にわかに森の中を騒がせた。
成功
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英・明夜
すごい…!
くまさん、て感じの熊だ…。ぬいぐるみみたい!
UDCアースのお歌みたいだけど、油断は禁物だね。
倒木とか、敵が転がって来た時の為に、戦う時は、相手のくまより
なるべく高い位置を取るようにするね。
山の中で、くまは探し難いけど、鮭の食い散らかした部分が在るなら、
少し追い易いね(&第六感、視力)。
戦いでは、霊符を投げ付けて攻撃したり、樹が邪魔にならなければ
薙刀で突いたり、払ったり。
威力や、こちらの手が足りないなと思ったら、フォックスファイア。
どの場合でも、まず最初に狙うのは、鮭!
ぱわーあっぷされる前に、弾き飛ばしたり燃やしちゃったりしたいな。
徳川の行軍が見られたら、神様に彼らの無事をお祈り。
クロト・ラトキエ
熊って元来、会ったら逃げろって類なんですが…
可愛い。あれが。
おじさんにはちょっと難しいですねぇ。
なぁんて分からないフリしつつ。
命脅かす者には単に遠慮が無いだけの僕なのでしたー。
食に意識が向いているなら。
丘陵、森林、岩場…高所もまた目晦ましとなるでしょう。
何も無い方へ小石を投げ、或いは他の方の戦闘音に紛らせ、
檻の様に巣の様に、予め張るは極細の鋼糸。
下地が整ったなら、短矢で頭を狙い撃ち。
くまさんこちら、手の鳴る方へ。
反撃あらば見切りを試みつつ、より多くを範囲攻撃の内へと誘い込み…
トリニティ・エンハンス起動、炎の魔力で攻撃力強化。
鮭も飯もイイですけれど。
火を通せば熊だって、案外イケるんじゃないです?
●
「熊って元来、会ったら逃げろって類なんですが……」
「すごい……! くまさん、て感じの熊だ……。ぬいぐるみみたい!」
居並ぶ二人の温度差が凄まじかった。
どこかはしゃいだような顔で背伸びをしてくまを眺める英・明夜(啓明・f03393)の傍ら、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は「可愛い。あれが」としきりに首を傾げていた。
「おじさんにはちょっと難しいですねぇ」
なんて肩を竦めるクロトの本心がどこにあるかなんて、知らずとも済むことで。
可愛らしい童謡を思い起こすような雰囲気にも油断は禁物だと意気込む明夜の言葉通り、あれが敵であることを認識し、命を脅かす存在であるならば遠慮はしない。
ただ、それだけだった。
勾配の急な部分も少なくはない山岳地帯。居並ぶ木々にするりと指を滑らせて、選び。
幾つかに、クロトは鋼の糸を張り巡らせる。
そうして下準備を整える間、明夜はたたん、と身軽に坂の上へと向かい、くま達より高い位置へと陣取った。
木の根をひょいと飛び越えて、くま達の視界に入り込みながら、構えた霊符を投げつける。
そのファンシーな装飾を伴った霊符は、ファンシーな装いのくまにぺたりと張り付くや、可愛くない攻撃を加えた。
霊気に射抜かれ焼けただれるような心地の頭をぐりぐりと押さえつけ、くまは明夜へとくまの霊を差し向けた。
「む、増えたね」
さっ、と霊符をしまい込み、代わりにくるりと回した薙刀を構え、迎え撃つ。
少々木が並んでいるが、一度回して確かめた。障害にはならない。くまぱんちを放とうとぶんぶん腕を回している霊へと、気迫の一閃。
その隙に本体が迫ってきていたが、その巨体は明夜に届く前に、ずしりと音を立てて沈み込んだ。
見れば、その頭部には短矢が突き刺さっていて。
ぱっと顔を上げた先で、クロトが小さく手を打ち鳴らしていた。
「くまさんこちら、手の鳴る方へ」
にこりと微笑みかけるようにしてはさっと身を翻したクロトを、一部のくまが追いかける。
倒れ伏したくまを踏み越えて、残ったくまへと対峙しながら、明夜は素早く視線を巡らせ、辺りに放置されていた鮭をぺいっと払いのける。
「くまー!」
大事な鮭が! と言わんばかりにぺいっとされた鮭へと意識が向いた所へ、薙刀の一閃、加えて、狐火を放つ。
炎によって鮭と共にこんがり焼けたくまが、思いがけず香ばしい匂いを放っているのを、クロトはかすかに感じ取った。
身を翻してみせた姿勢からちらりと振り返れば、丁度、己が張った鋼糸の元へと、くまが差し掛かり。
その鋼の糸に引っかかって、くん、と足を取られた瞬間。
「やっぱり、案外イケるんじゃないです?」
糸を這うように立ち上る炎が、くまを燃え上がらせた。
明夜が交戦している音に紛れて、木々に、岩陰に、巧みに姿を潜めながら密やかに張り巡らせた糸は、檻のように、あるいは巣のように、くま達の逃げ場を奪い、燃え上がる。
炎の向こうで、食べ散らかされた鮭の残骸を足元に見下ろしたクロトは、また、ゆるりと笑んで。
「鮭も飯もイイですけれど。火を通せば熊だって……ねぇ」
食べませんけどね。なんてけろりと笑う彼の前で、糸に絡め取られたくまが炭と化して崩れた。
炎の檻の中で蠢く影が一つになったところで、炎の魔力を収めたクロトは、明夜の足元で倒れ伏すくまの姿を確かめ、それから、周囲を見渡した。
「この辺りのくまさん達は、倒せたかな」
「そのようですね」
鋼糸を回収するクロトを横目に、明夜は、未だ到達には至らない徳川軍へと思いを馳せる。
命がけの行軍をしている彼らが、どうか無事にこの道を進めますように。
切り開くのが自分達の務めだとしても、見守る神が居てくれることを、願って。
大成功
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