エンパイアウォー④~樹海咆哮
●森を守りし神の成れ果て
富士山。この徳川天下の象徴、不動の霊峰、白き冠を頂く雄大な蒼き山。その裾野に広がる樹海で今、この富士を文字通り揺るがす邪悪な企みが進まんとしていた。
その儀式場は、樹海の木々に埋もれるようにしてあった。中央が浅く窪んだ円形の広場。掘り返された土が円の端に添って寄せられ、その上に転がされた倒木は周囲から広場を隔絶する壁になる。窪みの底は平らに均されており、その儀式場そのものがまるで平たい盃のような形をしていた。だが、その儀式場のどこにも人影は無い。
否。人では無いが、居るは、居た。
儀式場の中央。土の上で転がるものと、立つものと。
それはただ、一匹の子竜。
それはただ、一頭の白狼。
樹海の奥にいるのは、ただ、その二頭のみだった。
「愚かなり、人間よ」
狼は鳴く。神の子を殺し神を怒らせる。人と人の争いに神の怒りを利用するなど、あまりに神をも畏れぬ仕業、神の血筋への冒涜。自身もかつて神と呼ばれた彼女から見れば、あまりに許し難いことだ。
「愚かなり、吾よ」
狼は唸る。コルテスと名乗る人間風情の配下に成り下がった己に。
神と呼ばれたも今は昔。彼女の森は失われ、吾の足に纏わりついた子も、背に負うた森の生き物たちも、最早どこにもいない。甦った体の内から膨れ上がる、すべてへの憎悪が声高に、彼女を破壊へ駆り立てる。
「愚か、愚か、なんと愚かな……!」
誰ぞ。我が怨みを向けるべきは、誰ぞ。憎らしい、悍ましい、恨めしい、痛ましい。腹の底から、ぶつぶつと沸騰する憎悪。彼女の白き毛並みがぶわり、文字通りに膨れ上がって、その体躯を細い一匹の狼から巨大な岩の如き大きさの狼へと変えてしまう。
「ああ、幼き子よ、太陽神の子よ。吾はお前をも怨んでいる。そうだ、お前がここにいなければ、吾も、お前も、決してこうはならなかったろうに!」
狼は咆哮する。ぐったりと横たわる竜の子に顔を向け、その首元へ牙を宛がう。ふ、と、その目が細まったのはほんの一瞬。瞬きの速さで、その剣程もあろう牙を引けば、ピュッと間欠泉の様に竜の首から赤が吹き出し、傍らに転がされた聖杯へと流れていく。なみなみと注がれた血は彼女が杯をくわえても、一滴も零れ落ちることは無かった。
──そして白き狼は、祈りの為に目を閉じる。
●
織田信長打倒を掲げ、関ケ原へ向かう徳川幕府軍の行軍が始まった。しかしその行軍は決して順調な道行ではない。案の定、行軍を邪魔しようとする魔軍将の一人、侵略渡来人『コルテス』の策略がグリモア猟兵たちによって予知された。その内のひとり、甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)が神妙な面持ちで語るには、コルテスは太陽神ケツァルコアトルの力を使って富士山を噴火させようとしているのだという。
「富士の樹海に隠された儀式場でな、コルテス配下のオブリビオンが、富士山を噴火させる為の『太陽神の儀式』を行っているようだ。つまり、儀式を阻止せねば、あの富士がどかんと噴火してしまうのである!」
火山の噴火、それもあの富士山がとなればその被害は甚大だ。特に東海・甲信越・関東地域は壊滅的な混乱状態となり、徳川幕府軍は全軍の2割以上の軍勢を、災害救助や復興支援の為に残さなければならなくなってしまう。
「更にその儀式の内容というのがまた、太陽神の子である小さな竜の命を奪い、その血を聖杯へ注ぎ祈るというなんとも痛ましいものなのだ。何の罪咎の無い竜の命をだぞ!」
カーッ、と憤りを隠さない様子で両目をぎゅうと瞑り、クヌギは尻尾を左右にピシピシ振る。自分の見てしまった予知ゆえに動けないのが歯がゆいのだろう。自身の前に集まってくれた猟兵たちを前にしてパッと見開かれたその金瞳は爛々と光っていた。
「儀式を行おうとしているオブリビオンは、一頭の白い狼だ。名は『ホロケウカムイ・オーロ』、かつては森の母、森の神とも畏れられた、高い知性を持ち、人語を解する狼である。彼女は仔狼や小動物を守護するものだが、それだけに、森を害してきた人間をひどく憎んでもいた。恐らくは、甦った今もであろうな」
人を憎んできた狼だ。戦闘は苛烈なものとなるだろう。加えて、森という戦場は彼女にとって庭も同然。隠れ潜むやり方もいくらだって知っている。だがその性質をあえて逆手に取って、自分を囮にすることも、彼女を罠にはめることも出来るかもしれない。方法は決して一つではないのだ。
自分に出来ることを、全力で。それがクヌギが君たちに託した己の信念だ。
だから、どうか君たちの全力を、あの森の奥にいる狼に見せつけてくれ。
ゲートの向こう、富士の樹海の奥。狼の声が、聞こえてくる。
本居凪
ついにエンパイアでも戦争です。
舞台は霊峰富士の山。そこにて待つは憎悪に満ちた白き女神。
人への憎悪に満ちた狼の牙は容赦なく、あなたの命を狙うでしょう。
ですがきっと、あなたたちなら倒せる筈です。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
目的は一つ、樹海に潜伏し太陽神の儀式を行おうとするオブリビオンを倒すこと。
OPでも言及している通り、儀式場の位置は不明です。なので流れとしては「儀式場捜索・発見したボスを奇襲」ということになると思われます。プレイングの字数もありますのでどちらかに寄ったプレイングもいいですが、どちらも重要ということはお忘れなく。
合わせ・旅団参加の際はお名前、ID、【団体名】を忘れずに。樹海で迷子にならないように、お気をつけください。
夏の太陽にも負けない、あなたの熱いプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ホロケウカムイ・オーロ』
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POW : 汝らを生かしてはおかぬ
【怒り 】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : 森の嘆きと苦悶を知れ
自身に【 森の生物たちの怨念】をまとい、高速移動と【負の感情による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 黄泉の国より甦れ戦士たち
レベル×5体の、小型の戦闘用【 白狼の亡霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
イラスト:星野はるく
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「マリス・ステラ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携可
UC空翔で樹海の上をかけ、儀式場を探す。
埋もれるようにとあっても場を作る以上、不自然な地形・倒れた木があるだろう。
方向は【第六感】【野生の勘】頼りになるが急ぐ以上仕方ない。
戦闘になったら右手に胡、左手に黒鵺。
【存在感】を消し【目立たない】ように移動、【先制攻撃】による【奇襲】をかけて【暗殺】の一撃。
初太刀の後は小竜を【かばう】様に動く。
さらに動きの制限【マヒ攻撃】かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
相手の攻撃は【第六感】【見切り】で回避。
回避しきれなものは黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】を叩き込む。
喰らったら【呪詛耐性】【激痛耐性】でこらえる。
茜谷・ひびき
アドリブ連携歓迎
……気に食わねぇ儀式だな
内容も、利用してる相手も
だから絶対にぶっ潰す
まずは儀式場探しか
それなら【忍び足】【迷彩】を使って目立たないように樹海を進む
あとは【情報収集】や【野生の勘】で居所を探るぞ
敵や小竜の気配を辿れるといいんだが
見つかってしまったらそこからは囮になるぜ
どうせ最後は正面突破の殴り合いになるからな
奇襲するにしても囮になるにしても【ブラッド・ガイスト】で殴りに行く
右手を殺戮捕食態に変えたならそれで攻撃していこう
出来れば怒る隙も与えないくらい【2回攻撃】のような連撃で攻撃していきたいが難しいかもな
兎に角相手の毛皮を【鎧砕き】したり【傷口をえぐる】攻撃をしていこう
●樹海疾駆
森の奥から響く唸り声に気付いたのは、どちらが先だったのか。互いに手を伸ばし、その枝を絡ませ合う木々の合間を白い影が走り抜ける。薄暗い樹海の中、暗色の緑に隠れるその白き尾を追いかけるのは、茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)だ。
──時、やや遡り。
(……気に食わねぇ儀式だな、内容も、利用してる相手も。……だから、絶対に、ぶっ潰す)
ぱきり、足の下で小枝が折れる音を耳に、ひびきはこの閑寂な地のどこかにいる小さな竜を思う。命を守り続けた過去に反し、命を奪うことを定められた、白き狼を思う。失っては、失わせてはならないものを、思う。ひびきは暗がりにその身を潜め、狼の白い毛並みを緑の向こうに探していた。慎重に進むひびきが周囲の様子を伺えば、ざわざわとした気配が首の後ろをチリチリと焼く。重苦しい気配のする方向へ進むほどに強くなっていく予感。危険を知らせるようなそれに、ひびきは息を詰める。
樹海の中を進むひびきと反対に、樹海の上を駆けるのは、黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)である。
「よっ、と!」
【空翔】で風を蹴りつけて、瑞樹は変化の乏しい緑の波間へ目を凝らす。いくら樹海の中に隠されていようと、儀式場は元からそこにあった訳ではない。だから、上から見れば樹下に隠されている不自然も目につくだろうと、彼は空からの捜索を行っていたのだ。
ひびきも瑞樹も、この自分の居場所さえも見失いそうな樹海の中、勘だけを頼りとして儀式場を探していた。実際、勘頼りと言えども、二人の猟兵は自分が感じた「何かある」方向へと、手探りで、自然に歩を進めていく。
──だが、獣の鼻は、そんな存在を決して見逃しはしない。
オゥ、と唸る声がした。ひびきの後方から、追いかけてくるような声だった。瑞樹は上空から、緑の中をすり抜ける白を見た。ジグザグと、しかし真っ直ぐに、何かを目指すような動きだった。がさがさと枝の茂りを掻き分けて、嵐の様に現れたのは、神と呼ばれた、金の眼の、白き狼。
「ホロケウカムイ・オーロ……」
つぶやくひびきの声を捉えた彼女は、ガリ、と、爪で地を掻いた。その目は爛々と憎悪に燃え盛っている。
「くそ、どうせ最後は正面突破の殴り合いだと思っていたが、……思ったよりも、ひどいな」
己の血を代償に、右手を殺戮捕食形態へと変化させたひびきの目に映る彼女は、確かにかつて神と呼ばれた存在だったのだろう。だがその巨体から迸る気配は、嫌悪、憎悪。神と畏怖された高潔さは牙を剥き出しに、射ぬかんばかりに睨みつける視線からは、見つけることは難しかった。
今にも襲いかかろうと低く姿勢を保つ彼女に、ひびきも右手を構えて対峙する。じりじりと張り詰めていく空気に、ヒュウと、風が通り過ぎていく。
──だが。ギャン!、と。先に声を上げたのは、彼女の方だった。
ひびきの横を過ぎていく突風。意識は前に、視線をやや上へとあげれば、右手に打刀、左手に大振りな黒いナイフを──胡と黒鵺を抜き放った瑞樹が地へと降り立つところであった。
「空から見えてたぜ。あんなに急いでこいつを襲おうとしてたってことは、儀式場は近いってことだな?」
瑞樹は人差し指で上を示し、自身の奇襲によって後脚に傷を負った彼女へと、その金瞳を見つめながら問う。
「……これが、これが吾の役目だ! 近付けさせるものか! 止めさせるものか!」
問いには答えず、カッと目を見開いて、彼女は叫ぶ。人如きが邪魔をするなと、吠え猛る。奇襲の際に受けた後ろ脚の傷が痺れを訴えるのも無視をして、猟兵たちに構える間も与えぬと、人の頭など一息で飲み込めそうなほどに大きく開かれた彼女の口が。二人へと向けて噛み付かんと迫り来る。
「「させるか!」」
受け止めたのは、黒鵺。瑞樹の刃が牙を止める。怨念纏った一噛みはその刃を砕こうとするが、瑞樹は滲む呪詛の怨念をなんとか振り払い、噛み付いたまま動けぬ彼女へ胡で斬りかかる。同時にひびきも、彼女の毛皮ごと削りとろうと捕食形態の右手を振るう。風になびいていた毛並みが乱れ、赤色混じりの白い獣毛が千切れ飛ぶ。
「あぁ、アァ、憎い、憎い、人間どもめ!」
巨体を振るわせて、彼女は怒りの声を上げる。ぐるりとその場で体を回し、二人の猟兵を振り払うと、彼女は苛立たしそうに高く吼え。
──ウゥーーーーーーゥーーーーー!!!!
──遠吠えは衝撃波となり、彼女の周囲から二人を弾き飛ばす。その白い毛並みに赤い斑点を散らしながら、彼女は風となって、森の奥へとまた消えたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヨナルデ・パズトーリ
『動物使い』で呼んだ『動物と話す』事で情報を集め敵の痕跡を『野生の勘』に
より『見切り』『追跡』
敵発見後は樹海という地理を活かし樹上を得意とするジャガーのテペヨロトルに
よる援護を『動物使い』で引き出し『暗殺』技能を活かし『目立たない』様に
気配を消し樹上に潜み隙を伺う
UC発動後すぐ『怪力』の『鎧無視攻撃』で『先制攻撃』
間髪入れず『高速詠唱』での『呪詛』のこもった『全力魔法』をぶち込み
『怪力』の『なぎ払い』
亡霊は『呪詛』を込めた斧の『なぎ払い』
貴様の嘆き等妾は知らん
妾の様に民を守れん自分を怒るなら兎も角、幼子に八つ当たりする様な輩の嘆き等、な!
其の童の世界の妾に代わって云おう
其の童を放せ下郎が!
●樹海母情
傷を負いながら、彼女は走る。鼠は一匹ではないと、彼女の野生の勘が告げていた。あの場所を発見されてしまう前に、すべてを終わらせなくてはならない。だが、樹海の枝を避けながら走る彼女が、不意に足を止めた。……視線だ。どこからか、自分を刺すような。
「ほう、足を止めるか。このまま儀式場まで妾を案内してくれるかと思ったのであるが……そう上手くはいかぬな」
眼光鋭く、強い意思を秘めた緑の瞳で彼女を見るのは、ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)だ。だがその瞳はいつになく、煌々と燃えていた。
ケツァルペトラトル、あるいは、ケツァルコアトル。太陽神の反面と、夜に斧鳴らす死の化身としての面とを持つ神たるヨナルデには、彼女を見過ごせなどいられなかった。動物使いの力で呼び寄せ、言葉を交わした栗鼠や鳥を腕に乗せて、太い枝の上でヨナルデは、告げる。
「貴様の嘆き等妾は知らん。妾の様に民を守れん自分を怒るなら兎も角、幼子に八つ当たりする様な輩の嘆き等、な!」
「人の形をした存在が、人に組する存在が、何を言う!」
「死を冒涜するお主らに、何が言えるか!」
噴出する怒りの声にも、ヨナルデはたじろがない。不自然に距離を取ろうとする彼女の後ろへ目を向ける。
──幹から折られ、薙ぎ倒された木が見えた。根元からばっきりと、人為的どころかどんな力自慢だって、ああは折れないだろうという位に、力任せにぶち折られたような痛々しい姿だ。そしてそれを行ったのは、恐らく目の前にいる白狼。
ドシン、ぐらぐらと、ヨナルデの足場にしていた枝が揺れる。一斉に飛び立つ小鳥たちの羽音が騒がしい。
見れば彼女が幹に身体を押し当てて、その牙で噛み付いて、ぼっきりとへし折ろうとしていた。下手な大岩よりも巨大な体で力の限りに寄りかかれば、この日も差さない樹海の奥に生える木では、耐えきれず折れもしよう、とヨナルデは揺れる枝から足を離してそう思う。
「例え神であろうとも。吾の邪魔はさせぬ!」
「そうか、ならば妾がお主を止めてやろう」
それが妾のすべきことであろうからな、ヨナルデは彼女の足元に伸びる影から浸みだす小さな白狼の亡霊を見てそう呟く。枝から飛んだ彼女の体を、ジャガーを模した黒曜石の鎧が包んでいく。
「我、ジャガーにして煙吐く鏡、テスカトリポカにしてケツァルペトラトルたる者!民と共に在った嘗ての妾の猛き力、目に焼き付けるが良い!」
黒曜石の斧が、その黒い輝きを増して光る、嘗てヨナルデに捧げられた血と骨で構成された翼が彼女の背で、大きく広がって、その神たる威容を見せつける。
金色の瞳に映る神が、その黒曜石の斧を振り被り、──亡霊で満ちた大地へと、振り下ろす。
「アグ、ウウウゥゥウゥ!!!!!!」
「まだ終わりではないぞ!」
間髪入れず、高速詠唱で発動させる闇の呪詛魔法。そして斧にも纏わせた呪いが白狼の亡霊たちを根こそぎなぎ払い、ヨナルデの視界から、周囲の木ごと一掃する。
切り開かれた視界に映ったのは、広く浅い……盃の、儀式場。
何も無い円形の広場の中央でぐったりとして横たわる小竜を目にしたヨナルデの中で、燃え上がる感情は、己と同じ名を持つこの世界の存在も感じているだろう、それ。庇護すべき存在への、想い。
ハ、と飛び退るように高速移動で竜の元へ辿り着く白狼へ、ヨナルデは斧を振るい、消えゆく亡霊の怨嗟の声に負けないほどの声量で叫ぶ。
「其の童の世界の妾に代わって云おう──其の童を放せ、下郎が!」
白狼は金色の目を細め、唸っている。
これ以上の猶予は無い。儀式を邪魔させはしない。
神より堕した白狼は、憎悪に眼を曇らせ、荒れ狂ったように咆えた。
成功
🔵🔵🔴
久篠・リジェリ
【星導】で参加
マリスに協力に来たわ
噴火なんて穏やかじゃないわね
儀式なんてさせない、竜の子も解放してもらうわ
見つけた仲間がいたら駆け付ける構えよ
恨みがあっても噴火なんて被害は人だけに留まらないわよ
白狼は自分のことしか考えていないのね
自分勝手な怒りをぶつけないでくれる?
戦闘
UCは神火業火を使用
来なさい!私が相手をしてあげるわ!
挑発して惹きつけるわ、けど怒らせすぎてもまずいと思うのよね…ほどほどに…
恨みがあるのはわかるわ、ごめんなさいね
向かってきた敵を燃やすわ
この炎がどこまで効くのか分からないけれど
無銘・サカガミ
【星導】
話はマリスから聞いたが…そうか、お前もまた、「神」を名乗るか。ならば、「逆神」の名において、お前を殺そう。
マリスが敵を見つけてから奇襲をかける。その身に森の生き物たちの怨念を込めるなら、俺は俺自身から全てを奪った「神」の呪いをもって対抗しよう。
「嘆きも苦悶も、俺には日常茶飯事だよ!」
可能な限りオーロに被害を。出来なくとも足止めぐらいは果たそう。
「成る程、これが数の力、ね…」
小さくぼやく。こういった集団戦は慣れてないものでな。
その瞳は美しいらしい…だが、呪怨に染まった眼は、俺と同じ、醜い眼に見えるよ。
「……マリス。」
戦いが終わった後、静かに佇む彼女を…友達を、そっと見守ろう。
タンケイ・オスマンサス
【星導】で参加 アド可
相棒がぴくり何かを感じ取る
……ひどい憎悪の感情。ダイア、あなたも感じるのね
ダイアと第六感を駆使し森奥より響く狼の声に聞き耳を立て
樹海を進む
共に森へ入った仲間が迷うようであれば先導
ダイアの追跡能力はどこか自分と近しいとも思われるその存在により一層精度を増すはず
幼い竜の命を奪うだなんて、彼女の歪みはもう……
同じく森を、生物を愛する
そんな気持ちを持つ身としては言葉に出来ないもどかしさを感じながらも
彼女を見つけ出し、攻撃
森は私のホームでもありますので
樹海の木々の根を利用し亡霊を撃退しつつ彼女の動きを封じて仲間のサポートを
ダイアは1匹、同情の念を堪えきれずに彼女の喉元を狙い飛びつく
リーゼ・レイトフレーズ
【星導】
マリスの頼みだ、気合を入れていくとしようか
なんて言いつついつも通りの調子で飴を咥え
探索はマリスや仲間達に任せつつ
樹海の違和感を探すように周囲に意識を割く
オーロを発見後は狙撃場所へと素早く移動
STARRY SKYを構えスコープ越しにオーロと
その周囲にいる仲間の配置を伺う
本来は守護するモノだというが今はその面影もない
内心でオーロとマリスにごめんねと謝ってから思考を切り替える
開戦はタイミングを合わせて狙撃
以降は味方に迫る攻撃に対して援護射撃
高速移動を開始したらその動きを牽制して
動きに制限をかけるように狙撃
「いっておいで、マリス」
その背を押すようにCassiopeiaをオーロに放ち
友を送り出す
マリス・ステラ
【星導】
「主よ、憐れみたまえ」
祈りを捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光はオーラ防御の星の輝きと星が煌めくカウンター
光が星枢に宿るとペンデュラムが揺れ始める
ダウジングで探査
「こんな形で再会したくなかった」
仔狼と守護すべき動物達がいない
彼女の狂乱の理由に私は胸を押さえる
「それでもあなたの瞳は美しい」
オーロとは金色を意味する言葉
あなたに与え、その存在を赦した時、私の片目は星の加護を失った
それを後悔した事はありません
でも、
「あなたを骸の海に還します」
一人では無理でも今の私には仲間がいる
【神に愛されし者】を使用
愛の属性攻撃で体当たり
そのまま天高く舞い上がりオーロを浄化
さようなら、美しい瞳のあなた
●樹海追憶
白き狼との因縁あるマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)を中心に集まった【星導】の面々は、それぞれのやり方でもってホロケウカムイ・オーロと儀式場の場所を追い求めていた。
「主よ、憐れみたまえ」
マリスが両手を組んで祈りを捧げれば、星辰の片目に光が灯る。付近一帯の魔力と情報を吸い上げた星枢に光が宿り、鎖の先でペンデュラムが揺れ。しばらくふらふらと円を描いたペンデュラムの先端がある一点で、すっと持ち上がり森の奥を指し示す。星辰の輝く青い瞳が示された方角に向けられた。
「目指す場所はこちらですね。参りましょう」
「でも、軍勢を止めるために富士山を噴火なんて穏やかじゃないわね。あの狼には儀式なんてさせないし、竜の子も解放してもらうわ」
「それにマリスの頼みだ、気合を入れていくとしようか」
なんて、久篠・リジェリ(終わりの始まり・f03984)の言葉に重ねて言いつつ、リーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)はいつも通りの調子で飴を咥えていた。探索はすっかり周りの仲間へ任せる気のようだがこれも適材適所、と口内で飴を転がして、銀糸を揺らしてリーゼは笑う。しかしその意識はしっかりと、不自然を察知しようと周囲に向けられているのをみんなも分かっている。
リジェリはこちらの様子を伺う森の小動物たちに目を留めて、驚かせないように微笑みかけながら、獣奏器をすいと吹く。るくくと鳴る音に気を引かれ、チチ、と鳴きながら近寄ってくる彼らに対してリジェリは会話を試みようと話しかけた。
「ねえ、あなたたち、この辺りに広い場所か、白い狼を見なかった?」
草むらから顔を突き出した小さな獣たちはお互いの鼻がくっつきそうな距離で顔を見合わせて、くるくると丸く黒いつぶらな瞳でリジェリを見る。リジェリが指でちょんとその立った耳を撫でてあげると彼らはどことなく嬉しそうにして、リジェリへとある方向を教えたいとでも言う様に彼女の足元をぐるぐる回った。
「あっち?」
確認するリジェリに、そうそう、と頷く獣たち。案内のつもりらしい、彼女たちの前にするりと駆けだして、先導するようにこちらの様子を伺っている。
マリスの導いた方角へ、動物たちの後をついていくリジェリたち。
──よりも遥か前を行く、一人と一匹。タンケイ・オスマンサス(魅惑のシンフォニア・f08051)の相棒、ダイアウルフがぴくりと、何かを感じ取ったように耳を動かした。風に流れる緑髪に咲く金木犀を揺らして、タンケイは相棒へと視線を向ける。森の奥から響いてくる狼の声は、今もはっきりと彼女たちの耳に届いていた。
「……ひどい憎悪の感情。ダイア、あなたも感じるのね」
「ウ、ワゥ」
短く返る声。ダイアウルフも感じているのだろう。己に近い存在を追う彼の目は、鋭く氷のようだ。
「幼い竜の命を奪うだなんて、彼女の歪みはもう……」
森を、生物を愛する。タンケイもまたかつての彼女と同じく、そんな気持ちを持っている。だからこそ言葉に出来ないもどかしさをも彼女は感じてしまうのだ。オブリビオンとして甦った存在は、かつて感じた心でさえも失ってしまうのだろうか。
突風が吹いて、タンケイは風の強さに思わず髪を押さえる。吹き付ける風に閉じた瞼を彼女が開けば、ぐるる、ダイアウルフが警戒の声を発していた。風の中に混じる血の匂いを嗅ぎ取ったのだ。ハッとタンケイが顔を上げれば、ダイアウルフの威嚇する方向、開けた広場が見える。
傷を負いながらも己の周囲に亡霊を呼び寄せる白狼は、こちらにはまだ気付いていない。
「皆!」
タンケイの声に、後方にいたマリスたちも急ぎ足で駆けつける。無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)は刀を鞘より抜き放ち、対物ライフル、STARRY SKYを抱えたリーゼと視線を交わす。リーゼは広場からは見えず、しかし広場を一望できる──倒れて組み合わさった木の影を狙撃場所と定めて陣取ると、ライフルのスコープを覗き込む。広場にいる白狼へ近付くマリスたち。本来は守護するモノだと聞いていたが、スコープ越しに見る白狼は、今やその面影もない。
(……ごめんね)
オブリビオンは倒さなければならないものだ。例えそれが、過去の縁の糸が結び付いた相手だとしても。リーゼは心の内でオーロとマリスに謝り、目を軽く瞑る。
瞑った目を開けば。リーゼの思考が戦闘へと切り替わっていた。
ホロケウカムイ・オーロが彼女たちへ気付く前に、奇襲をかけたのはサカガミだ。神の呪いを刻み込まれた小さな体で、呪いを纏わせた刃で瞬時に亡霊を薙ぎ払う。
「話はマリスから聞いたが……そうか、お前もまた、「神」を名乗るか。ならば、「逆神」の名において、お前を殺そう」
「吾の戦士たちに手を出すなど、許さぬ、許さぬ……!」
「その程度の嘆きも苦悶も、俺には日常茶飯事だよ!」
頭を引いて、襲い来る亡霊の爪を避ける。森の生物の怨念をまとうホロケウカムイに対し、サカガミも己の村を滅ぼした「神」が残した、【八百万の呪い・感覚過敏】で力を引き出す。朦朧とする意識、全身を引き裂く痛みが彼の心臓を引き絞るように痛めつけ、ずくずくと赤い角の付け根が疼いて堪らない。
「全身が軋む…騒音が止まない…血の臭いが消えない…世界が、止まって見える…!」
「さぁ、黄泉の国より甦れ、戦士たち! 敵は吾らの前にいる!」
「その瞳は美しいらしい……だが、呪怨に染まった眼は、俺と同じ、醜い眼に見えるよ」
白狼の黄金色の瞳が輝く。サカガミの眼前を埋め尽くしていく亡霊に少年は緑色の瞳を見開く。まだ戦える、だがこの数となれば、己の寿命と痛む体を引き換えに、どれだけ送ってやれるものか。
しかし、自分の前へと壁のように突き出した木の根を見て、自分の横すれすれを通って亡霊の群れを燃やす炎を見て、最後に、並び立つ緑色と青色を目にして、サカガミは短く息を吐く。
「来なさい!私が相手をしてあげるわ!」
「成る程、これが数の力、ね……」
小さくぼやいたのは、まだ彼が誰かと共に立つ戦場に慣れていないからだろうか。サカガミの声は燃える炎の音に掻き消える。
「森は私のホームでもあります」
渦巻く炎を纏うリジェリの横で、タンケイは土の上に眠る仔竜をまっすぐに見つめる。わずかに上下する小さな体。あのこはまだ生きている!
あの小さな命を失わせてはいけない。タンケイは相棒へと目配せし、ダイアは意を得たと頷いた。
「悪いことばかりするあなたは串刺しです!」
ダイアが吠え、樹海に蔓延る木の根が蠢く。タンケイの【大樹の怒り】は鋭い槍となって、彼女の足元を崩そうと捩じれながら突き刺さる。白狼が回避の為に身を翻せば、その隙をつくようにダイアが根の上を走り、弱々しく転がる仔竜の首をくわえてタンケイの元へ戻っていく。
生贄を奪取された白狼は木の根の上へと勢い良く着地し、鋭い先端を木っ端微塵と破砕した。パラパラと散らばる木片の中、黄金の瞳は敵意にひどく歪んでいる。
「ホロケウカムイ・オーロ」
宿敵と対峙したマリスの声音に震えは無い。だが、星辰の目には、うっすらと陰りが見える。
「汝、ああ、その気配。覚えている、星の瞳を持つ娘」
「こんな形で再会したくはなかった」
「これを再会と、そう、言ってくれるのだな」
こうではない形の再会を、想ったことがあったのか。思っても、白き狼の口から、その言葉は出ない。彼女の足元で影として揺らぐ、仔狼と動物たちの亡霊にマリスは痛ましさを感じて胸を押さえた。
「恨みがあっても噴火なんて、被害は人だけに留まらないわよ、あなたは自分のことしか考えていないのね」
自分へ引き付けようと挑発するリジェリの声に金色の瞳が再び怒りの熱を帯びる。
「最早吾の守る森は無い、ならばすべて、あの火に流されてしまえば良い!」
「そんな風に自分勝手な怒りを、ぶつけないでくれる?」
「吾に残されたのは、この怒りだけだ。……ぶつけられずに、いられようか」
「……恨みがあるのはわかるわ、ごめんなさいね」
「愚かな。我らの間には共感も謝罪も不要。吾にとってお前たちは、ただ憎むべき敵だ!」
吐き出されたその言葉は、ふと零れ落ちてしまったような響きだった。だからリジェリも一滴、共感の思いを溢してしまう。身内を失うことの辛さはまだ経験してはいないけれど、不安に思う気持ちは彼女にも分かるものだったから。だがその一滴の感傷も、炎の熱ですぐ消え去る。再び牙も露わに怨みの篭った眼を向ける白狼へと、リジェリは掌を広げる。渦巻く炎がいっそう大きく、赤く燃える。
「焼き尽くし飲み込め、全て消し去る業火をここに!」
リジェリの周囲で渦巻く【神火業火】が赤々と白狼を照らし、ごうごうと燃え盛りながら飛ぶ。白狼が首を振るえば、唸りと共に放出された衝撃波によって神なる性質を持つ炎は散らされてしまう。だが、散りゆく炎の中、輪となった火焔を潜り抜けて走る白い影があった。彼女と比べれば小さな体躯で、彼女と比べれば短い牙で、それでも。ダイアは一匹、同情の念を堪えきれずに彼女の喉元を狙って飛びつく。大きな体がぶるぶると震えすぐさまダイアは弾き飛ばされたが、その牙は確かに傷を与えていた。
「ァ、あぐ、ウ、ガァ……! 駄目だ、させぬ、あの子を、汝らを生かしては、おかぬッ……!!」
ふらふらとよろめく彼女は、怒りに身をふるわせて、その駿足で猟兵たちの間を駆け抜けようとする。だがそうはさせないと、リーゼの照準が、ぴたり、白狼と合わさって、ライフルの引き金を引く音が樹海の奥まで響き渡った。
──堕ちることのない輝きとなれ―――Cassiopeia(カシオペア)。
火花と共に撃ち出すのは、火精霊を込めた弾丸にして友の背を押すための一撃だ。
足を貫かれ膝をついた白狼をスコープの向こうに見ながら、リーゼは呟いた。
「いっておいで、マリス」
「オーロ」
マリスは彼女の名を呼ぶ。オーロ、それは金色を意味する言葉。
マリスは彼女へ手を差し伸べる。黄金の瞳持つ、狼の神よ。
「あなたに与え、その存在を赦した時、私の片目は星の加護を失った。それを後悔した事はありません」
だが、骸の海より甦った彼女は世界に赦されない存在になってしまった。マリスはそっと片目に手をやる。一人では無理でも、今の私には仲間がいる。背を押してくれる皆の想いを受け取って、傷だらけの体を引き摺り、なおも戦おうと立ち上がった白狼へとマリスは両手を広げる。もう一度、彼女を赦すために。
「あなたを骸の海に還します」
ぶつかる、脚の動かない狼の体は軽く、マリスの力でも簡単に転がった。天高く舞い上がったマリスの全身を包むのは【神に愛されし者】の光、星の輝き。骸の海へと堕ちた魂を浄化する清らかな、マリスの愛に満ちた赦しの星光。
オーロラの様に広がった帯状の光が、ホロケウカムイ・オーロの胸の奥に宿る憎悪を包み込み、昇華する。マリスに押され倒れたホロケウカムイ・オーロは天を見上げて、空に輝く星を見上げて、ただ、目を細めて。
憎悪に燃えたつ黄金の瞳の中にきらきらと瞬くは、星。
「あなたが感じなくとも、神はあなたを見ています」
空よりマリスが語りかける。
黄金の瞳の白狼は、樹海の底より見あげた空に。
枝に覆われた、薄暗い日の中に。
──懐かしき、陽だまりを。はらはらと散る、薄紅色の花を見る。
●星は導き、海を照らす
マリスの光に照らされたホロケウカムイ・オーロは、光の粒子となって消えていく。憎悪を宿していたその黄金が歪むことはもう二度と無いだろう。彼女を照らす光は徐々に細く、細く、解けていって──やがて、樹海に再び陰りが戻る。
タンケイの腕の中で眠っていた仔竜が身じろいで、ゆるゆると瞼を持ち上げた。太陽神の子は不思議そうに自らを抱くタンケイを見つめていたが、もう大丈夫ですよと笑いかける彼女へ、くくるぅ、と仔竜も高く声をあげて笑う。それは先ほどまでとても生贄にされかけていたとは思えないほどに、元気で朗らかな声だった。
その声に戦闘の痕跡がまだ残る張り詰めた場の空気も緩み、猟兵たちもほっとした笑みを浮かべる。
儀式を止めた、命を救えた。そして敵の目論見も、ひとつ潰えた。猟兵たちのこの戦果はエンパイアウォーの戦況にまたひとつ影響を与えることだろう。戦闘の疲労を感じながらも、彼らの顔はどこか晴れやかなものだった。
「……マリス。」
帰還の用意が完了したゲートを背に、サカガミはそっと、マリスに声を掛けようとして、止めた。白狼の消えた場所を見つめる彼女がどんな顔をしているのか、後ろ姿からは分からなかったが、静かに佇む友は遠き過去を偲んでいるようにも見えたから。だから彼は、その背中を静かに見守ることにした。
マリスは白狼の消えた場所を、そして空を見上げる。薄暗がりの樹海では木々と生い茂る葉に阻まれ、空の青は遠い。だが、決して見えないわけではない。
昼中の白い月が、樹海から垣間見える青空に浮かんでいる。それは、満月に近い小望月だ。幾望の名を持つ、丸みを帯びた白い月だ。まるであの狼の瞳のような──というには、少し白過ぎるかもしれないけれど。優しく見守るような月の眼差しに向けて、その手が組むのは祈りの形。どうかあなたが、安らかに眠れますように。
マリスは空に光る月に、星辰の瞳を和らげて懐かしそうに微笑んだ。
「あぁ、やはり──あなたの瞳は、美しい」
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月07日
宿敵
『ホロケウカムイ・オーロ』
を撃破!
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