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エンパイアウォー⑤～十二支が導く埋蔵金の在処

作者：八ツ足皇子

●窮余の一策
「さてはて…、どうも困ったものです。」
　エンパイア・ウォーが開戦してはや数刻、集まった猟兵たちを前に、ネヴィーテ・ノス（霧氷の女皇・f01738）はこめかみをコツコツと指で叩きながら、何かを悩んでいる様子であった。
　何か心配事でもおありで？と猟兵の一人が尋ねると、ネヴィーテは正直にその悩みを打ち明ける。
「幕府軍10万の島原到達に向けて、我々猟兵が続々と『第六天魔軍将』の攻勢に立ち向かっていることは御存知の通りです。…が、問題は兵糧や補給物資が圧倒的に足りないことでして。」
　軽くどよめく猟兵。兵站の確保は戦における基本中の基本…これを損なうことは絶対に避けねばならない事案である。
　もちろん、兵站が確保ができなかったことには大きな理由がある。魔軍将の一人、大悪災『日野富子』が幕府すら凌駕する資産を以って物資の買い占めを行っており、その結果物資の値段が天井知らずに高騰したため、満足な量を揃えることができなかったのだ。
「こんな出鱈目な戦術を取るとは、さすがに予想できなかったのでしょう。…とはいえ、このままでは敗北は必至。早急に物資購入のための資金を集める必要があります。」
　キラリとネヴィーテの眼鏡が光ると、猟兵たちは思わず後ずさる。
　いやいや、まさかまさか、自分たちの懐をアテにしているのはないですよね？
「そこはご心配なく。皆様には資金ではなく知恵を貸してもらい、神君家康公が有事の為にと遺した『徳川埋蔵金』を探し当てていただければと。」
　埋蔵金なんて本当にあるのか？などと無粋な質問をする猟兵は一人もいない。猟兵が動く以上、それは必ず「在る」のだ。そして同時に、入手が極めて困難であることも容易に想像できた。
「埋蔵金は複数の場所に分けて隠されています。皆様方にも隠し場所の一つへと向かっていただき、早急に目標の確保をお願いします。」
　ただし、と地図を手渡ししながら、彼女は慎重に言葉を区切る。
　地図の場所へはたどり着けるだろうが、埋蔵金は魔術的な仕掛けが施されたポイントに隠されており、神君家康公が埋蔵金の盗掘を防ぐために残したという『謎』を解かなければ手に入れることはできないらしい。
「まぁ、所謂謎解きですね。皆様方の頭脳の冴え、期待させていただきましょう。」
　かくして猟兵たちは地図の場所へと足を運ぶ。片手に希望を示す地図を握りしめながら。

●十二支
　地図が示す場所に在るは、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二支の像。
　地図の裏側には、次のような文章が厳かに書かれてある。

「我等十二支、宝の守護者。
　されど在処は誰ぞ知る。
　一周りして欠けたる者らに聞くがよし。
　隠した彼らに聞くがよし。」

　それぞれの像の下には大きな石造りのボタンがある。
　宝…つまりは埋蔵金の在処を知る十二支のボタンを押せば、謎解き成功…ということなのだろう。

　正しい正解を導き出せるか、それは謎へと挑む貴方次第。

第1章 冒険 『神君家康公の謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、埋蔵金を手に入れます。 SPD   :    素早く謎の答えを導き出し、埋蔵金を手に入れます。 WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、埋蔵金を手に入れます。 👑3 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

【ヒントその２】
・宝を隠した干支は全部で４匹。
・ひとまわりすると消えてしまう干支を探して下さい。








●４人＋１人寄らば
　徳川埋蔵金の在処を示すとされる十二支の像を前に、４名の猟兵がうんうんと唸りを上げている。
　目的の埋蔵金はこの十二支の像の謎を解いて始めて手に入るものだ。
　だが…なかなかどうして、この謎解きは難しい。
「一周りして欠けたる者…、欠けたる者、ねぇ…。」
　亜儀流野・珠（狐の恩返し・f01686）はおでこに指を当てながら、くるくるとその場を回っていた。
　よほど考えに集中しているのか、妖狐の証の一つたる尻尾がもっふもっふと大きく揺れている。
（…大丈夫かな、目を回したりしないかな…）
　ヴィオラ・アップルトン（星の娘・f20323）はその様子を見て、ちょっぴり心配になってしまったようだ。
「欠けたる者ら、とあるから…、とりあえず複数のボタンを押す必要があるのは把握しましたけど、1周したら消えるってどういうことなのかしら…？」
　頬に象牙のような指を当てて、リコリス・シュピーゲル（月華の誓い・f01271）は小首を傾げた。
「十二支…一回り…もしかして還暦…でも、干支は関係なさそうだし…。」
　口に拳を当てて、秋月・信子（魔弾の射手・f00732）は地図の裏の文面をじっと睨んでいる。
　特待生として勉学にはそれなりに自信のあった彼女だが、こういった謎解きに関してはいまいちピンと来るものがないようだ。

　そんな中、ヴィオラは立ち上がり、とある像の前へと歩く。像が示す干支は―「巳（み）」。
「ボク、『ジュウニシ』ってはじめて聞いたんだ。ちょっと調べて、絵を書いてみたよ。」
　彼女が手にした紙には、自作と思しきへたくそ…、否、先鋭的なデザインの蛇が描かれている。
「ひとまわりして欠けたる者…なにかがない動物が隠したものだって推理したんだ。」
　なるほど、とリコリスは頷き、ヴィオラの考えを察した。
「ヴィオラさんは、足が欠けたる者、つまりは巳が宝を隠したと思うわけですわね。」
「うん。龍（辰）は一応手があるからね。」
「ただ…そのお考えですと、宝を隠した干支が巳一匹だけになってしまいますわね。
　文面が示す干支の数は明らかに２匹以上ですから、ちょっと違うように思いますが。」
「あ…そうだった…。」
　しょんぼりとうなだれるヴィオラ。大丈夫、その努力は皆が認めている…はずだ！

　その時、くるくると歩き回っていた珠が、その動きをぴたりと止める。
「ひとまわり…普通に12年経つってことか？」
「そうね、ひとまわりする、というのはその解釈で大丈夫だと思うけど。」
　側に座っていた信子は、珠を見上げながら頷いた。
「そうか。…すると『欠けたる』ってのは寿命のことじゃないか？
　…つまり、12年経つ間に寿命が尽きてしまう干支、鼠、兎、羊、鶏…子、卯、未、酉…ってとこだと思うんだが。」
「…どうかなぁ…。20年以上長生きする鶏もいるらしいわよ。」
　信子の何気ない知識に、珠はぐぬぬぬと歯噛みをする。
「やっぱりダメか。種類や個体差もあるから違うかもとしれんとは思ったが！…あぁ、もう、解らん！あとは任せたぞ、信子！」
「え？任せた…って、ちょっと？」
　仰向けになって降参のポーズを取る珠。ここはやはり自分の力で解き直すしかないようだと、信子は思い直した。

（…もしかして読み方がヒントなのかしら？）
　何かしら思いついたらしいリコリスは、地面にがりがりと文字を刻んでいく。
（それぞれ読み方は「ね、うし、とら、う、たつ、み、うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、い」ですわよね。
　…1音で呼び終えてしまう干支は4匹。一周りで欠けるとは、読みを一つ消すといなくなってしまうってことではなくて？）
「つまり、答えは『子・卯・巳・亥』…ってことかしら。」
　リコリスはそう結論付けて、該当する像のボタンを順々に押していく…が、四つ目のボタンを押したところで、全てのボタンが強制的に定位置へと戻った。反応は、無し。
（…さすがにドン詰まり、ですわね。）
　軽くため息をついて頭を振ると、美しい金髪がふわりと揺れた。

　最後の砦、信子は今なお考える。だが、ドン詰まりなのは彼女とて同じ。
「ひとまわり…普通に考えられるのは十二年周期…なんだけど、もしかして別の概念があるとか…うーん…。」
『なーにぶつくさ言ってるのよ？』
　頭の中から彼女自身の声が響く。無論、信子はその正体を知っている。
　性格も考えも真逆の影…双子の姉妹のようで姉と呼ぶ信子の二重身(ドッペルゲンガー)。
「影の助言者（シャドウ・アドバイザー）」と称される固有のユーベルコードを展開すれば、名の通りアドバイスに沿って動くことで道を拓いてくれる、彼女にとって心強き存在であった。
　事情を聞くと、影はこれみよがしに大きくため息をつく。
『…は、相変わらず頭がお堅い優等生ね。単なるなぞなぞ、とんちじゃない、これ。』
（えっ？もう謎が解けたの？）
『当然よ。よく聞いて皆に伝えなさい、優等生。答え合わせの時間よ。』

●解
『まず干支をひらがなで書くわよ。漢字は重要じゃないから省略！』

　ね、うし、とら、う、たつ、み、うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、い。

『こう読むでしょ？で、あんたが悩んでいた【ひとまわり】ね。これ十二年周期じゃないから。
　ひらがなに直せば何とか気づくんじゃない？わり、というのは割りとも読めるわけよ。
　ひとま割りして欠けたる者ってのはね、つまりはひ、と、まが付いた動物を割り出せってこと。』

ね
うし
とらｘ
う
たつ
み
うまｘ
ひつじｘ
さる
とりｘ
いぬ
い

『というわけで、寅、馬、未、酉…この4匹が正解よ。』

●一つの勝利
　果たして４名は凱旋する。珠が夢笛で呼び寄せた、幾頭もの巨牛に数多の葛籠を背負わせながら。
「頑張れよー。後でちゃんと報酬（食べ物）もあるからな、頼んだぞ！」
　珠がばしばしと背を叩いて叱咤すると、巨牛は軽く一鳴きして応えた。
　葛籠の中身にはいずれも千両箱やら貴重な遺物がぎゅうぎゅうに詰まっている。
　全てをお金に変えれば、補給物資購入の大いなる一助になるに違いない。
（ふふっ、徳川さま、ありがとう。ボクたち、頑張るね。）
　負けられない理由が一つ増えたかな、とヴィオラは気持ちを新たに歩みを進めていた。
「ところで信子さん、…先程は全く迷いなく謎を解いてましたけど…、何か急に閃くものがありまして？」
　リコリスは同じように悩んでいた信子が、あっという間に解決してしまったことに違和感を感じているらしい。
　どう答えたものかと一瞬考えていた信子は、すぐに明るい笑顔で応える。
「ええ、…私には頼りになる姉（ひと）がいるから、ね。」

　朗らかな陽光が一行の道行きを照らす。
　エンパイア・ウォーの行く先も、願わくば明るい未来が訪れますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月02日