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エンパイアウォー②~屍人の群れ率いるはまつろわぬ怨霊

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●屍人の行軍
 奥羽の幽玄たる山々を抜け町と町を繋ぐ街道を、無数の人影が埋め尽くしていた。
 そのいずれもが生気がなく、動きも緩慢だ。そして奇怪なことにその人影は、いずれもが肩から奇妙な水晶を生やしていた。
「晴明も面白き趣向を考えたもの。命無き屍人の軍勢がこの国を飲み込むというのであれば、それを見届けるのが『まつろわぬもの』たる我が役目」
 その屍人の軍勢の中心に位置するのは、華やかな着物を纏った赤毛の女性だった。その美しい相貌にはしかし、この世の全てを恨み呪う暗い笑みが浮かんでいた。

●陰陽師の奸計
「第六天魔王『織田信長』が、ついに動き出しました」
 エルシー・ナイン(微笑の破壊兵器・f04299)は、緊迫した声で集まった猟兵達にそう告げた。
「三方ヶ原の戦いで手に入れた『第六天魔軍将図』に記された『第六天魔軍将』達が、サムライエンパイアを征服せんと、一大攻勢をかけてきたんです」
 これに対し徳川幕府軍は、諸藩からの援軍もあわせ10万の幕府軍を招集し、総力をあげて織田信長を撃破すべく動き出した。
「ですがここで『第六天魔軍将』が一人、陰陽師『安倍晴明』が奥羽地方で動きを見せました。大量の『水晶屍人』を生み出し、進軍を始めたんです」
 『水晶屍人』とは、安倍晴明が屍に術をかけて造り出した、肩から奇妙な水晶を生やした動く屍のことだという。
「『水晶屍人』は戦闘能力自体は高くありませんが、『水晶屍人』に噛まれた人間も新たな『水晶屍人』となってしまうんです。その為、その数が雪だるま式に数が増え続けています」
 『水晶屍人』の軍勢は、『安倍晴明』配下のオブリビオンが指揮しており、各地の砦や町、城を落としながら江戸に向かって南下している。このまま『水晶屍人』の軍勢が江戸に迫れば、徳川幕府軍は全軍の2割以上の軍勢を江戸の防衛の為に残さなければならなくなるだろう。
「もしそうなれば、織田信長との決戦に十分な軍勢を差し向ける事ができなってしまいます。そこでみなさんには至急奥羽地方に向かい、『水晶屍人』を率いるオブリビオンを討ち取ってもらいたいのです」
 そのオブリビオンは、名を『依媛』という。
「『依媛』は、神話の時代に東征で討たれた最強の土蜘蛛とも土蜘蛛の神ともされる羅刹の豪族の媛です。まつろわぬ民として討たれた彼女は今や、サムライエンパイアそのものを呪う荒ぶる怨霊と化しています。かなりの強敵ですが、彼女を倒さないことには『水晶屍人』の進軍を止めることはできません」
 もっとも、『依媛』は『水晶屍人』の軍勢の中心部にいるため、彼女と戦うためにはまずは『水晶屍人』を蹴散らさなければならない。
「幸いなことに猟兵は噛まれても『水晶屍人』にはならないようです。もっとも、攻撃自体は普通に受けますので、闇雲に突っ込んでいては無駄な消耗を強いられたり、思わぬ怪我を負うことになるので気を付けて下さい」
 指揮官たる『依媛』さえ討伐すれば、残った『水晶屍人』は奥羽諸藩の武士達でも駆除は可能だ。猟兵が独力で屍人達を全滅させる必要はない。
「無限に増殖する『水晶屍人』を放置していては、信長軍の存在に関係なく国の存亡に関わります。困難な任務ですが、なんとしても『依媛』を撃破して下さい。皆さんなら必ずやってくれると、ワタシは信じています」
 エルシーは祈るようにそう言って、猟兵達を送り出したのだった。


J九郎
 こんにちは、J九郎です。
 新しい戦争の始まりです。屍人使い、恐いですねえ。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 戦場となる街道はかなりの広さはありますが、両側は鬱蒼と木々の茂る崖になっています。そこに『水晶屍人』がひしめき合って進軍しています。

 それでは、皆さんの渾身のプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『まつろわぬ土蜘蛛『依媛』』

POW   :    我はまつろわぬ神、天津神に仇なす荒ぶる神なり
【人としての豪族の媛から神話での土蜘蛛の神】に覚醒して【神話で記された異形のまつろわぬ女神】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    我は鎚曇(つちぐもり)、強き製鉄の一族の媛なり
【この国への憎しみの念】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    この国に恨みもつ者達よ、黄泉より還り望みを果たせ
【朝敵や謀反人など悪と歴史上に記された者達】の霊を召喚する。これは【生前に使用していた武具と鍛え上げた技術】や【生前に従え率いていた配下や軍勢】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:馬路

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は加賀・依です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

煌天宮・サリエス
敵が中心部にいる。なら、話は早い。嵐を呼びましょう。
それに、街道なら町の被害を考えなくても大丈夫そうです。

ユーベルコードを発動。
嵐と共に仮初の神は君臨する。
強烈な風と雷が水晶屍人と依媛に対して、吹き荒れ降り注ぐ。
そして、私は聖者の光が変じたモノである雷を周囲に放ちながら中心部に向かいます。

中心部につき、依媛を発見した後は戦闘を開始します。
攻撃は、雷は目の前を埋め尽くすように放ち、【呪いの武器袋】から取り出し変形させた大剣で叩き切る戦法を取ります。
【時天使の秘盾】で攻撃の威力を和らげ、大剣で受けます。


加賀・琴
晴明、水晶屍人……なんでしょうか、この既視感というか不思議な感覚は
それに依媛、ご先祖様まで加わって……前世の因縁での因縁と言いますか、いえ、セイメイとの決戦時は私は依でしたけど
前世?私がご先祖様?一体なにを言ってるのでしょうか、私は

まずはご先祖様への道を切り開かなければですね
『援護射撃、スナイパー、範囲攻撃』の『早業、2回攻撃』【破魔幻想の矢】で水晶屍人もご先祖様の蘇らせる霊も纏めて射貫きます
2連射で合計350を数える破魔の矢で屍人も霊も射貫き祓い浄化します
それでご先祖様への道を作って、そのまま『スナイパー』【凶祓いの矢】でご先祖様の召霊を止めてみせます
屍人も霊も無尽蔵に増やさせはしません


紫谷・康行
正義である必要はない
悪とする必要もない
ただ静かで明るい未来を願い戦う
その手は血に濡れるだろう
多くは傷つき
倒れる者もいるだろう

大義のために死んでいい者も
正義のために死んでいい者もないだろう

ならば今を生きる者を救うために戦おう

【イーゴーの見えざる刃】を使い戦う
崖に挟まれているなら気を見計らって両側より風を吹かせて敵軍をなぎ払おうとする
まずは露払い

その後は後方に位置しつつ動きを止めるために足を狙って攻撃をしながら
蜘蛛が糸を飛ばすなら仲間を助けるためその糸を断ち切る

あらかじめ地面が冷えるように風を舞わせておき
ここというタイミングで蜘蛛の腹の下に風を吹かせ陰圧状態を作り
かまいたちで腹を裂こうとする


彩瑠・理恵
何故でしょうか、リエが妙に張り切ってますね
まぁそう怒鳴らずともリエに任せますよ
ダークネスカードを翳し【闇堕ち】で攻撃力重視でリエに変わります

ハハハッ!
白の王セイメイに、これは生殖型ゾンビかしら?
それに刺青羅刹の依!
セイメイは此処にいなくても、これは殺りがいがあるわね!
六六六人集番外位・リエ、存分に暴れさせてもらうわ!
鮮血槍と鮮血の影業を使って屍人を殺して殺して殺しまくって中心の依媛に向かって突っ込むわ!武器の血は屍人から補充しながらね!

フフッ、セイメイ配下とか、一度は羅刹勢力の頂点に立った刺青羅刹落ちたものだわ
あぁ、言っても分からないかしら?
まぁ、これから串刺しになる奴に説明する義理はないわね



●嵐の強行突破
 山間の街道を埋め尽くす、肩から水晶を生やした動く屍の群れ。
 その姿は加賀・琴(羅刹の戦巫女・f02819)に、あるはずのない記憶を想起させていた。
「晴明、水晶屍人……なんでしょうか、この既視感というか不思議な感覚は」
 その上、この水晶屍人を指揮しているという依媛は、琴の遠い祖先がオブリビオンとして蘇ったものなのだ。そこに偶然では済ませられない運命的なものを感じるのは、決して考え過ぎではないだろう。
「……前世の因縁と言いますか、いえ、セイメイとの決戦時は私は依でしたけど」
 無意識にそう呟いて、琴ははっと自らの口元に手を当てて言葉を切る。
「前世? 私がご先祖様? 一体なにを言ってるのでしょうか、私は」
 その琴の呟きを、隣にいた彩瑠・理恵(灼滅者とダークネス・f11313)は聞くとはなしに聞いていたが、
「何故でしょうか、リエが妙に張り切ってますね」
 セイメイ、そして依という名を耳にした途端、理恵のもう一つの人格であるリエが、彼女の中で急に騒ぎ出した。
「まぁそう怒鳴らずともリエに任せますよ」
 理恵は懐から1枚の黒いカードを取り出すと、さっと眼前にかざした。そのカードに描かれているのは、『六六六人集番外位リエ』。理恵の、もう一つの姿だ。
 次の瞬間、理恵とリエの人格が入れ替わり、同時にリエが狂ったように笑い出す。
「ハハハッ! 白の王セイメイに、これは生殖型ゾンビかしら? それに刺青羅刹の依! セイメイは此処にいなくても、これは殺りがいがあるわね!」
 リエにしか分からないだろう言葉を吐き出して。彼女は自らの手首をおもむろに切り付けた。たちまち噴き出した血飛沫はしかし、飛び散ることはなく寄り集まり、槍の形を作り出していく。
 そのまま『水晶屍人』の群れに飛び込もうとしたリエを、煌天宮・サリエス(光と闇の狭間で揺蕩う天使・f00836)が片手を挙げて制した。
「何? ボクの邪魔をするの? それとも依よりも先に死にたいのかしら?」
 勢いを削がれ不機嫌になるリエに、サリエスは前方を指さして見せる。
「敵が中心部にいる。なら、話は早い。嵐を呼びましょう」
 サリエスは一歩前に踏み出すと、おもむろに歌うように声を張り上げた。
『今宵語るは星の伝説。天を仰げば牡牛の座、金牛の宮はそこに在り。我が纏うは偉大なる主神の雷であると知れ』
 朗々と語られる物語に、当然のように屍人達がサリエスの存在に気付く。たちまちのうちに屍人達はサリエスに群がり、彼の周囲を埋め尽くした。
 その時、突如サリエスを中心に巻き起こった突風が、サリエスを取り囲んでいた屍人達を吹き飛ばしていく。
 空の彼方にあるという金牛の宮。そこに坐する天空神の力の一部をその身に宿し、言わば仮初の神と化したサリエスの力が嵐となり、解き放たれたのだ。
 その極小の嵐はサリエスの歩みと共に、水晶屍人の群れを薙ぎ払うように吹き荒れる。
「街道なら町の被害を考えなくても大丈夫そうですね」
 さらにサリエスが手をかざせば、聖者の光が変じた雷が、水晶屍人達に襲い掛かっていった。
「なるほど、風を武器に使うのか。ならば俺も、協力させてもらうとしようか」
 そう言って紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)が紡ぐのは、嘘を真実へと変える魔法の呪文。
『星空も見えぬ世界の果て、辿り着くこと叶わぬイーゴーに吹く無慈悲な風よ。全ての因果を絶つ決別の刃よ。我が言葉に導かれ今ここに吹け』
 呪文が完成した時、街道にサリエスの起こした嵐とは別の風が吹き抜けた。崖となっている街道の左右から吹き付けるのは、刃の如き鋭い烈風だ。
「まずは露払いさせてもらうよ」
 康行の巻き起こした風が、街道にひしめく水晶屍人達を次々と切り裂いていく。
「ちょっと、ボクの獲物も取っておいて欲しいわね。六六六人集番外位・リエ、存分に暴れさせてもらうわ!」
 吹き荒れる風と荒れ狂う雷に大混乱に陥った水晶屍人達の群れに、血液で出来た槍を構えたリエが飛び込んでいった。リエが槍を振るうたび、水晶屍人の身体が切り裂かれ、或いは刺し貫かれて、今度こそ確実に物言わぬ骸と化していく。
「私も、ただ見ているわけにはいきませんね。まずはご先祖様への道を切り開かなければ」
 琴は『和弓・蒼月』に矢をつがえると、目にも止まらぬ早業で次々と破魔の矢を番え、そして撃ち放っていった。破魔の矢が放たれるたびに、水晶屍人が一体、また一体と地に倒れ伏す。
 総崩れとなった水晶屍人達の向こう側に、艶やかな着物姿の羅刹の女性の姿が垣間見えた。
「所詮は命持たぬ屍人の群れね。猟兵達相手には足止めにもなりはしない。晴明も、もう少し優秀な駒を生み出せばよかったものを」
 迫りくる猟兵達の姿を冷然と見据え、依媛はそう言い放ったのだった。

●まつろわぬ怨霊
(「正義である必要はない。悪とする必要もない。ただ静かで明るい未来を願って」)
 康行は先を行く仲間達を援護すべく、ある時は風を操り、ある時は魔法の力で、依媛の足止めに専念する。猟兵達が蹴散らしているのは、あくまで前方の水晶屍人のみだ。依媛が後退して、未だ健在の後方に布陣する水晶屍人の軍勢の中に隠れられては、きりがない。
「さすがに猟兵相手に水晶屍人だけでは力不足だったようね」
 自らの周囲の水晶屍人がことごとく打ち倒されたのを確認し、依媛は溜息を一つ吐いた。
「ならばもう少し役に立つ者共を呼び寄せましょうか。さあ、この国に恨みもつ者達よ、黄泉より還り望みを果たせ!」
 依媛がそう号令をかけると、彼女の周囲に複数の火の玉が浮かび上がった。その火の玉は、次第に人の形へと変じていく。
 毛皮を体に巻き付けた髭面の大男。
 衣冠を纏った貴族風の青年。
 貧しいボロボロの衣服を着た農民風の男女。
 甲冑に身を固めた勇ましい面構えの武将。
 いずれも、時の中央政府への謀反人や朝敵として、悪と断じられた者達の亡霊だ。
 そうして呼び出された亡霊達の軍勢が、水晶屍人に代わって依媛の守りに付く。
「今度の相手は亡霊? てんで歯応えのない屍人達よりは楽しめそうね」
 その亡霊の群れに、リエは嬉々として飛び込んでいった。幸いこの戦場は屍人達の血で溢れかえっている。血液を武器として使う彼女にとって、血液の補充に困ることはない。
「ご先祖様、このようなことは止めてください!!」
 亡霊達を破魔の矢で再び黄泉の国へと送り返しながら、琴が叫ぶ。
「我が一族の末裔が、なぜ私の邪魔をするの? そなたの立つべき場所はこちら側のはずでしょう?」
 依媛の言葉に、琴は苦しそうに顔を歪めた。どんなに言葉を尽くしたところで、オブリビオンと化してしまった今の彼女には届かないだろうと、そう理解できてしまうから。
「亡霊達は、私が何とかしましょう」
 サリエスが、雷を亡霊達の前を埋め尽くすように同時に放った。そして、亡霊達が思わず動きを止めた隙を逃さず、『呪いの武器袋』から取り出した大剣で、亡霊達を叩き切っていく。
「君達のように、大義のために死んでいい者も、正義のために死んでいい者もないだろう。ならば俺は、今を生きる者を救うために戦おう」
 残された亡霊も、康行の浄化の魔法により、その姿を消していった。
「お前達がいかに理を超えた力を振るおうと、私の恨みの力は超えられない」
 召喚した亡霊達を祓われて、しかし依媛は動じることなく、傲然と迫る猟兵達を見据える。
「刮目せよ、我はまつろわぬ神、天津神に仇なす荒ぶる神なり」
 それまで人の姿を保っていた依媛の姿が、歪んだ。
 下半身が大きく膨れ上がり、巨大な蜘蛛の姿へと変じていく。上半身は未だ美しき豪族の媛の姿のまま、半人半妖の異様な姿と化した依媛はもはや、まつろわぬ亡霊ではなく、神話に語られる異形の女神と化していた。
「ご先祖様! 人としての姿まで捨てて、そこまでこの国が憎いのですか!」
 琴の呼びかけに、依媛の顔が歪む。
「一族の恨みも忘れ、反逆の気概も失い、のうのうと生きるそなたに、我が一族の名を名乗る資格はない。せめて私の手で殺してあげるわ!」
 次の瞬間、振り上げられた巨大な蜘蛛の足が鉄槌のように振るわれて、先端の鋭い爪が琴を切り裂いた。この国への憎しみの念を込めたその一撃に耐えきれず、血を吹き出しながら琴が膝をつく。
「さすがは私の一族の末裔。今の一撃でも息絶えないとは。しかし、一族の汚点は今ここで消し去るのみ!」
 振り上げられた蜘蛛の足が、再び琴目掛けて振り下ろされる。その一撃を、しかし割って入ったサリエスが、聖なるオーラを込めた『時天使の秘盾』で受け止めていた。
「国への復讐ですか。あなたの気持ちは分からないでもないですが、私があなたにできる救済は、あなたを骸の海に返すことだけです」
「できるものなら、やってみなさい!」
 蜘蛛の足に更なる力が加わり、『時天使の秘盾』が弾かれる。サリエスは咄嗟に大剣を構え、今度は大剣で蜘蛛の足を受け止めた。
 力が拮抗し、依媛の動きが止まる。その瞬間を、康行は見逃さなかった。
「戦になれば、その手は血に濡れるだろう。多くは傷つき、倒れる者もいるだろう。それでも」
 康行がユーベルコードで吹かせていた風は、いまだ街道を舞っている。それは、依媛のいる場所も例外ではない。康行は蜘蛛と化した依媛の下腹部に風を集中させ陰圧状態を作り出した。するとたちまち発生したかまいたちが、蜘蛛の腹を切り裂いていく。
「グウッ!!」
 依媛が呻き、足の力が弱まる。サリエスはその機を逃さず、大剣に力を込め、蜘蛛の足を跳ね上げた。依媛が大きくバランスを崩し、よろめく。
「フフッ、セイメイ配下とか、一度は羅刹勢力の頂点に立った刺青羅刹も落ちたものだわ」
 そこに、リエが笑いながら踏み込んだ。血液製の槍を構え、狙うは蜘蛛の胴体。
「何を言っているの? あなたは!!」
「あぁ、言っても分からないかしら? まぁ、これから串刺しになる奴に説明する義理はないわね」
 リエの槍が、言葉通り蜘蛛の胴体を刺し貫く。噴き出した血液が街道を濡らし、大きな血溜まりを作り出した。
「おのれぇ! だが、この程度で私の憎しみを消せるなどとは!」
 その美しい相貌を夜叉の如く歪めて叫ぶ依媛。その周囲には、再び亡霊を呼ぶ火の玉が浮かび上がっていた。
 その依媛の眉間に、しっかりと狙いを定めて。
「ご先祖様。これで終わりにしましょう。屍人も霊も無尽蔵に増やさせはしません」
 傷の痛みを堪えて立ち上がっていた琴が、弓につがえた破魔の矢を、放った。矢は吸い込まれるように、狙い違わず依媛の眉間を射抜く。
 依媛の絶叫と共に浮かび上がっていた火の玉が消えていき、異形の蜘蛛と化していた依媛の姿が、次第に元の人の姿に戻っていった。
「まさか、自らの末裔に討たれようとは。だが、我は鎚曇(つちぐもり)、強き製鉄の一族の媛なり。いずれ再び蘇り、この国に災厄をもたらさん。……だから」
 額に矢を突き立てたまま、依媛は琴へと顔を向ける。
「その時は、またそなたが止めに来なさい」
 そう、言い残すと同時に。
 依媛の姿は土くれと化し、そのままさらさらと崩れ去っていったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月04日


挿絵イラスト